説明

植物栽培具

【課題】栽培管理が容易な植物用栽培培地を提供する。
【解決手段】植物栽培具10を、底部に排水孔を有する袋体12と、この袋体12に収容された栽培用培土14とから構成する。前記栽培用培土14は、保肥性及び保水性を有しており、窒素、リン酸、カリウムを含む有機質資材から構成されている。前記有機質資材は、天然有機物及び天然系肥料から構成されており、例えば湖沼内に堆積したヨシ類やスゲ類が長期間熟成した泥炭及び樹皮の完熟堆肥を主体に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栽培用培土を用いた植物栽培具に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜や花の栽培には、露地栽培や養液栽培等、種々の栽培方法が用いられている(例えば特許文献1及び2)。これらの栽培方法のうち、養液栽培は連作障害の回避、省力化を図ることができることから、広く利用されている。養液栽培は、水耕、噴霧耕、固形培地耕に大別される。これらの養液栽培では、一般的に、無機質肥料を水に溶かした培養液が灌水を兼ねて供給される。
【特許文献1】特開平9-60号公報
【特許文献2】特開2004-194556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、養液栽培は、初期の設備投資が高額であると共に設備の保守管理や養液の成分調整に手間がかかる。また、食品の安全性や環境保全に対する消費者の関心の高まりから、有機質資材からなる肥料を用いて栽培された野菜や果実の需要が広がっている。
本発明が解決しようとする課題は、安価で且つ保守管理が容易な植物栽培具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために成された本発明に係る植物栽培具は、
a)底部に排水孔を有する袋体と、
b)この袋体に収容された栽培用培土とを備え、
前記栽培用培土は、保肥性及び保水性を有する有機質資材から構成されていることを特徴とする。
【0005】
前記有機質資材は、天然有機物及び天然系肥料から構成すると良く、更には、湖沼内に堆積したヨシ類やスゲ類が長期間熟成した泥炭及び樹皮の完熟堆肥を主体に構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の植物栽培具は、保肥性、保水性を有する栽培用培土を袋体に収容して構成されているため、栽培用培土に含まれる栄養素を長期間保持することができる。このため、長期間栽培する場合でも、灌水するだけで済み、栽培管理が容易となる。また、袋体に栽培用培土を収容しただけの構成であるため、高額な設備を不要とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の植物栽培具について、トマトを栽培する場合を例に挙げて説明する。
まず、植物栽培具の構成を図1を参照しながら説明する。
本実施例の植物栽培具10は、袋体12に栽培用培土14を収容して構成されている。前記袋体12は、一般的な肥料用袋である内面が黒色のビニル製の袋から構成されている。前記袋体12の底部には複数の排水孔(図示せず)が形成されている。前記袋体12の上部は、使用時に鋏やカッターナイフ等で開封され、この開封部から苗Pが植え付けられる。袋体12の大きさ或いは袋体12に収容される培土14の量に応じて1ないし複数本の苗Pを植え付けることができる。植え付けられた後の苗Pの管理、果実の収穫等の作業性を考慮すると、1個の植物栽培具10に対して2ないし4本の苗Pを植え付けることが好ましい。トマトの苗Pを1本植え付けるのに必要な培土14の量は約6〜10Lである。
尚、前記袋体12は、ビニル製に限らず、例えば麻や綿等の布製としても良い。
【0008】
袋体12に収容される培土14は、化学性、微生物性、物理性、機能性の4つの要素をバランスよく備えた機能性土から構成されている。特に、栽培用培土14としては、天然有機物起源の肥料や土壌改良剤等を含み、保肥性及び保水性を有する機能性土を用いた。具体的には、栽培用培土14には次のa)〜e)に示す資材が含まれている。
【0009】
a)バーク堆肥及び/又は高位泥炭/低位泥炭を主体とする資材。これは、栽培用培土14のベースとなるもので、例えばミズゴケ、ヨシ、スギ等が長期間堆積し熟成したもの、樹木の皮、幹、枝、ワラ類、竹類が放線菌や担子菌類などによって発酵されたものが含まれる。腐植酸やミネラルを多く含み、排水性、保水性に富んでいる。
b)動物質、植物質、鉱物質由来の物質を乾燥し、粉砕又は成型した資材。
c)動物質、植物質、鉱物質由来の物質を発酵し、粉砕又は成型した資材。
d)動物質、植物質、鉱物質由来の物質を化学反応させ、粉砕又は成型した資材。
e)動物質、植物質、鉱物質由来の物質を焼成し、粉砕又は成型した資材。
b)〜e)の資材はいずれも植物の肥料・養分となるもので、窒素、リン酸、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の肥料成分を少なくとも一種含んでいる。
動物質由来の物質としては、例えば牛、豚、馬等の家畜類、鶏や鶉等の家禽類、魚介類、甲殻類、蚕等の生体や加工物残渣、加工糞が挙げられる。
植物質由来の物質としては、例えば、植物油粕類(菜種粕、胡麻粕、綿実粕、落花生粕、椿の実粕)茶の実粕、トウモロコシ、たばこ、米糠、大豆等が挙げられる。
鉱物質由来の物質としては、例えば、貝化石、ブルーサイト、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、加里鉱石、リン鉱石等が挙げられる。
【0010】
次に、図1ないし図8を参照しながら、上記植物栽培具10を用いて植物を栽培する手順をトマトを例に挙げて説明する。
(1)トマトの苗Pを植物栽培具10の栽培用培土14に植え付ける(図1)。
トマトの苗Pは、植え付けの40日±5日前に播種して生長させたものを用いる。
【0011】
(2)栽培用培土14に植え付けた苗Pを育成し、その本茎16に発生する脇芽を取り除いて本茎16のみを伸長させると共に、本茎16の伸長の過程で得られる果実Fを収穫する(図2)。
本茎16は、図示しない支柱、紐等から成る支持部材で支持することにより、上方に向かってほぼ垂直に伸長する。本茎16が伸長する過程で当該本茎16に葉や花房が発生し、各花房に果実Fができる。各花房にできた果実Fを適宜収穫すると共に、果実Fの収穫が終わるまで、或いは収穫間近まで本茎16の葉のつけ根に発生する脇芽を全て大きくなる前に摘み取る。これにより本茎16のみが伸長する。
【0012】
(3)果実Fの収穫が終わった本茎16を株元付近で切断する(図3)。切断箇所は、切断後の本茎16に少なくとも1個の葉や節が残る箇所であれば良く、図3では、根元から3番目の葉の直ぐ上で切断した例を示している。このように、複数の葉や節を残して本茎を切断した場合は、各葉の付け根や節からそれぞれ脇芽が発生する。
(4)切断後の本茎16の株元に発生している脇芽のうち最も勢いが良いものを残し、第1側茎18として育成する。これ以外の脇芽は全て摘み取る(図4)。
尚、「切断後の本茎16の株元に発生している脇芽」とは、本茎16を切断した後に発生した脇芽及び切断前から本茎16の株元に発生していた脇芽の両方を含むものとする。
(5)第1側茎18を、本茎16と同様に脇芽を取り除きつつ上方に向かって伸長させると共に、伸長の過程で得られる果実を収穫する(図5)。
これにより第1側茎18のみが伸長し、伸長する過程で第1側茎18にできた果実Fを収穫することができる。
【0013】
(6)果実Fの収穫が終わった第1側茎18を株元付近で切断する(図6)。図6では、第1側茎18のつけ根から2番目の葉(葉柄)の直ぐ上で切断した例を示している。尚、「第1側茎18の株元付近」とは、本茎16からの分岐部付近を意味する。
(7)切断後の第1側茎18の株元付近に発生する脇芽のうち最も勢いが良いものを残し、第2側茎20として育成する。これ以外の脇芽は全て摘み取る(図7)。
(8)第2側茎20を、本茎16及び第1側茎18と同様に脇芽を取り除きつつ上方に向かって伸長させると共に、伸長の過程で得られる果実を収穫する(図8)。
【0014】
これにより、第2側茎20のみが伸長し、伸長する過程で第2側茎20にできた果実Fを収穫することができる。
これ以降、果実Fの収穫が終わった古い側茎を株元付近で切断し、新しい脇芽を育成して次の側茎として伸長させ、果実Fを収穫するという工程((6)ないし(8)の工程)を繰り返す。
【0015】
上記栽培方法は、1個の苗から複数の茎を順次伸長させてトマトの果実を繰り返し収穫する方法であるため、いったん栽培培地に定植された苗が、その栽培を終了して廃棄されるまでの期間が長い。このため、保肥性に優れた栽培用培土14を用いた場合でも、主茎切断後の栽培では繰り返し追肥を行って不足する栄養分を補う必要がある。しかし、袋体12に栽培用培土14を収容したため、栽培用培土14中の保水量を容易に調節できると共に栽培用培土14に含まれる栄養素が消失し難いというメリットを有する。
【0016】
更に、袋体12に栽培用培土14を収容した植物栽培具10を用いて植物の苗を育成すると、例えば病気が発生した場合に病気の苗だけを簡単に取り除くことができ、病気の拡大を防止できる。
【実施例】
【0017】
次に、本発明の実施例を説明する。試験品種として大玉トマト2品種、中玉トマト1品種、ミニトマト2品種の計5品種を使用し、温室内にて3月中旬に苗の植え付けを行った。全品種、播種から40日±5日後の苗を用いた。植物栽培具10は上述した袋体12に資材a)〜h)を含む栽培用培土14を収容したものを用い、各植物栽培具10に4個ずつ苗を植え付けた。定植後はタイマ式自動灌水装置を用いて適量の水のみを灌水した。
【0018】
比較例は、実施例と同様の5品種のトマトを地床栽培した。地床栽培は畑土壌に実施例の栽培用培土14と同じものを混ぜ込んで用いた。そして、植え付けから115日後に収穫を開始した。
【0019】
図9は、7月2日の時点で収穫に適した5品種の果実(n=5)を収穫し、これらの重量、糖度(ブリックス糖度)を測定した結果の平均値を示している。図9に示すように、いずれの品種においても、果実重量は低下したが、糖度が高くなった。
【0020】
尚、栽培用培土14に含まれる資材としては、上述した資材の他に次のようなものを用いることができる。
1)コンブ等の海藻類を発酵させ濃縮したもの。
2)珪藻土。各種ミネラル、ビタミン、アミノ酸等、60種以上の微量要素を含んでいる。
3)培養菌体(細菌、放線菌、有用糸状菌)。
4)鶏の卵殻であるクチクラ層(薄皮)を主体に卵黄、卵白を乳酸菌処理したもの。窒素、石灰、リン酸、マグネシウム、タンパク質、ナトリウム、鉄、カリウムを含んでいる。

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の植物栽培具を説明するための図であって、トマトの苗を植え付けた状態を示す図
【図2】トマトの苗の主茎が伸長して果実を付けた状態を示す図
【図3】主茎を株元付近で切断した状態を示す図
【図4】主茎の株元の脇芽から生長した第1側茎を示す図
【図5】第1側茎が伸長して果実を付けた状態を示す図
【図6】第1側茎を株元付近で切断した状態を示す図
【図7】第1側茎の株元の脇芽から生長した第2側茎を示す図
【図8】第2側茎が伸長して果実を付けた状態を示す図
【図9】本発明の栽培具を用いて栽培され収穫されたトマトと地床栽培して収穫されたトマト果実の重量及び糖度を比較した図
【符号の説明】
【0022】
10…植物栽培具
12…袋体
14…植物栽培用培土

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)底部に排水孔を有する袋体と、
b)この袋体に収容された栽培用培土とから構成され、
前記栽培用培土は、保肥性及び保水性を有し窒素、リン酸、カリウムを含む有機質資材から構成されていることを特徴とする植物栽培具。
【請求項2】
前記有機質資材は、天然有機物及び天然系肥料から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の植物栽培具。
【請求項3】
前記有機質資材は、湖沼内に堆積したヨシ類やスゲ類が長期間熟成した泥炭及び樹皮の完熟堆肥を主体に構成されていることを特徴とする請求項2に記載の植物栽培具。
【請求項4】
前記有機質資材は、畜産加工物残渣、家きん加工糞、植物性加工残渣を好気性微生物により分解したものを含むことを特徴とする請求項2に記載の植物栽培具。
【請求項5】
前記有機質資材は、ブルーサイトを含むことを特徴とする請求項2に記載の植物栽培具。
【請求項6】
前記有機質資材は、コンブ類を発酵させたものを含むことを特徴とする請求項2に記載の植物栽培具。
【請求項7】
前記有機質資材は、卵殻及び卵黄並びに卵白を乳酸菌処理したものを含むことを特徴とする請求項2に記載の植物栽培具。
【請求項8】
前記有機質資材は、トウモロコシを乳酸菌処理したものを含むことを特徴とする請求項2に記載の植物栽培具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−131938(P2008−131938A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279509(P2007−279509)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(399109872)川合肥料株式会社 (7)
【Fターム(参考)】