説明

植物栽培方法および植物自動栽培制御装置

【課題】隔離培地、コンテナ栽培培地あるいは袋培地等の栽培において、昼間は昼間の好適条件で施肥・潅水し、夜間は夜間の好適潅水条件で、潅水することを可能とする。
【解決手段】明るさセンサーで日の出を感知し、昼間は昼間の好適潅水点で潅水し、明るさセンサーで日暮れ感知後の夜間は、昼間とは異なる潅水条件で水分センサーの判定結果に基づいて自動的に潅水することにより、植物の徒長を招いたり、湿度を高めて病気や根腐れをおこすことなく、健全に、高付加価値の農産物を省力的に高収量で生産する植物栽培方法、植物自動栽培制御装置を構築し、提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜、花卉、果樹等の品質、収量を向上させる植物栽培方法および植物自動栽培制御装置に関するものである。本発明は、明るさセンサー、土壌水分センサー、タイマー、時刻を計時する時計、コンピューターで植物栽培環境条件を判定し、明るさセンサーで昼間と夜間を自動的に認識して、昼間は植物の生育ステージ毎に1日当たり必要とする栄養成分を積極的に投与し、その後は目的とする高品質の収穫物を多量に得るための最適水分を制御して供給し、夜間は極端な生育低下、品質低下を招いたり、植物の枯死に至るような過度の水不足を来たさないよう必要最小限の水分を自動的に供給する植物栽培方法および植物自動栽培制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
潅水管理は野菜、花卉、果樹等の収量、品質に著しく影響する重要な栽培管理技術である。栽培する植物の種類により水分要求量や適潅水点(pF値)は異なっているが、従来の潅水の常識は、日中、しかも一日の早い時間帯にたっぷり潅水して、表土が十分乾くまで潅水は控えるという「一度にたっぷりかけて回数は少なくする」という方式であった。午後遅くからの潅水は病気、根腐れ、植物の徒長等を誘発すると考えられ望ましくない管理方法と位置づけられてきた。
【0003】
近年、養液土耕という新しい植物栽培方法が開発され、「日中、しかも早い時間帯に、一度にたっぷりかけて回数は少なくする」という方式よりは、「日中、少量ずつ回数多く潅水する」という方式の方が、植物に対する極端な乾湿のストレスが軽減され、野菜や花卉の生産量が上がり、品質が向上することが明らかにされ、急速に普及しつつある。
【0004】
養液土耕は、施設内の地床をそのまま利用して栽培されるのが一般的であるが、なお一層栽培土壌環境を精密に管理し、より高品質の農作物を高収量で得る目的のために、地床とは分離し隔離された場所での隔離培地栽培、あるいは少量土壌を用いて栽培する方法等が開発されている。栽培は地床で行われるのではなく、地床上に置かれた栽培枠コンテナ、あるいは栽培袋に培地(土壌等)、しかもそれぞれの植物の栽培に適合する培地を用いて栽培することにより、高品質、たとえは高糖度、高栄養、良食味、目的とする成分をより多く含む収穫物が、驚くほど高収量で収穫できるという大きな特徴がある。
【0005】
最近では、適正培地量の検討も進み、30リットル程度の袋培地等少量の培地での栽培により果菜類や花卉が、驚くほど高収量で得られることが実証され、注目を浴びている。
【0006】
しかし、隔離培地栽培技術には上記のように画期的なメリットがある半面、克服しなければならない大きな問題点もある。用いられる培地量が地床栽培より極端に少ないため、より精密な施肥・潅水制御技術が要求されることである。施設内では、植物による培地からの水分吸収と同時に、培地表面からの水分の蒸発量も多い。このため、夜間における潅水も必要で、とくに加温している施設では夜間の潅水は必須である。
【0007】
これまで常識的に、夕方から夜間にかけての潅水はよくないとされてきた。植物の徒長を招き、空中湿度を高めて病害の被害を助長する等の理由からである。地床栽培で過剰に潅水した場合においては、このような現象をしばしば招いてきた。
【0008】
これまで報告されている公知技術には、夜間潅水に対応できる装置は見当たらない。潅水方法に関する公知技術の中で、特許文献1の少量高頻度潅水法を特徴とする施設園芸用潅水制御器は、一日の潅水時間帯、1回の潅水時間、潅水休止時間を設定し、土壌水分センサーにより潅水点(pF値)をマニュアルで設定し、土壌水分を制御するものであるが、潅水時間帯は昼間に限られており、夜間の潅水は行われるようにはなっていない。施肥を対象とした作業は含まれていない。
【0009】
特許文献2では、自動的に潅水と施肥を別個に実行する制御方法において、日射量を測定するセンサーと水分値を測定するセンサーが利用されている。しかし、前者は日射量が少ないと潅水を実行させない手段として、後者はタイマー制御されている潅水を日射量が少ないと実行させない手段として用いられており、夜間の潅水の認識は全くない。本文献では、潅水と施肥の制御は独立的で、日射量が少ないと潅水も施肥も行われず、日射のない夜間に潅水されることはない。
その他の特許文献および非特許文献1においても、夜間の潅水は全く考慮されていない。
【特許文献1】特開2002-281842号公報
【特許文献2】特開2000-186824号公報
【特許文献3】特開2003-092924号公報
【非特許文献1】六本木和夫・加藤俊博著「野菜・花卉の養液土耕」農文協発行 2000年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする問題点は、いずれの公知技術も、上述の最新栽培技術である隔離培地栽培あるいは袋培地栽培およびポット栽培に必須の夜間潅水に対応できていない点、および施肥と潅水作業が組織的につながりを持って制御されていないため、最新栽培技術であるコンテナ栽培等隔離培地栽培あるいは袋培地栽培およびポット栽培における正常な植物の生育およびその栽培技術に必須の夜間潅水に対応できなかったことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、明るさセンサー、土壌水分センサー、タイマー、時刻を計時する時計、コンピューターで構成される植物栽培制御装置において、隔離培地、袋培地等少量培地を用いて栽培する場合、明るさセンサーで夜明けを感知して自動的に施肥前の湿潤潅水を行い、その後数時間以内の設定した時刻に、植物が1日に必要とする肥料成分量を数回に分けて投与し、投与後点滴ノズル、点滴チューブおよび潅水パイプの洗浄を行った後、日暮れまでは設定された昼間の好適潅水点に基づいて、土壌水分センサーにより自動潅水し、明るさセンサーで日暮れを感知すると、日暮れ後夜明けまでは、昼間の潅水条件とは異なる夜間の潅水条件を設定し、それに基づいて土壌水分センサーにより自動潅水することを最も主要な特徴とする。
【0012】
本発明は、明るさセンサーで日暮れを感知し、夜間に昼間とは異なる潅水条件で水分センサーにより設定された潅水条件で潅水すること、すなわち光合成の行われない夜間の潅水を、光合成の行われる昼間の潅水とは全くことなるパターンで対応するようにしたことを最も主要な特徴とする。
【0013】
上述のような隔離培地栽培では、使用する土壌のほとんどは土壌滅菌処理されているため土壌病害や連作障害を回避でき、また必要最小限に制御されて点滴潅水される上述の技術では、徒長を招いたり、病害の被害を助長するほど空中湿度の上昇は起こらず、むしろ、夜間の暖房により培地の過乾燥を招くのが問題で、本発明は、夜間の過乾燥に対処する適切な夜間潅水法を提供することを主要な特徴とする。
【0014】
潅水後は施肥が開始され、植物によって、また生育ステージによって1日に必要とされる量を設定時間間隔で適度に分割して投与するが、施肥と潅水が重なる時は優先回路を設けて対応することを主要な特徴とする。
【0015】
パイプ・ノズルの洗浄後日暮れまでは、昼間の好適潅水点を設定し、土壌水分センサーの判定結果に基づいて自動潅水が行われるが、植物によって、また生育ステージによって最適な潅水点を入力することにより、最適な栽培が行われるように、また過剰な潅水が回避できるよう別に設けた電気抵抗方式の土壌水分センサーの信号で給液停止も可能な自動潅水機能を持つことを主要な特徴とする。
【0016】
本発明は、施肥前の湿潤潅水、施肥後の点滴ノズル等の洗浄は絶対時刻に従って強制的に行うこともできるほか、タイマー制御によって潅水、施肥も絶対時刻に従って開始、停止を行うことができ、また、これら施肥、潅水の作動が流量計でも制御できることも主要な特徴である。
【0017】
広域の潅水による末端での水圧の低下を避けるため、タイマー制御によって潅水、施肥を絶対時刻に従って開始、停止を行う場合、このタイマー制御ルートを用いて、潅水系列を順繰りにシーケンサーで制御して潅水・施肥を行わせることができることも主要な特徴である。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、明るさセンサー、土壌水分センサー、タイマー、時刻を計時する時計、コンピューターで植物栽培環境条件を判定し、明るさセンサーで昼間と夜間を自動的に認識して、昼間は植物の生育ステージ毎に1日当たり必要とする栄養成分を積極的に投与し、その後は最適水分を制御して供給し、夜間は植物の枯死に至るような過度の水不足を来たさないよう必要最小限の水分を自動的に供給することにより、高品質の収穫物を多量に得ることが可能になるという大きな利点がある。
【0019】
本発明は、地床とは分離し隔離された場所での隔離培地栽培、あるいは少量土壌を用いて栽培する方法等に利用できるため、所望する品質、たとえは高糖度、高栄養、良食味、目的とする栄養成分をより多く含む収穫物が、得られるという大きな利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
明るさセンサー、土壌水分センサー、タイマー、時刻を計時する時計、コンピューターで構成される植物栽培制御装置において、隔離培地、袋培地、ポット栽培等少量培地を用いて栽培する場合、明るさセンサーで夜明けを感知して自動的に施肥前の湿潤潅水を行い、その後数時間以内の設定した時刻に、植物が1日に必要とする肥料成分量を数回に分けて投与し、投与後点滴ノズル、点滴チューブおよび潅水パイプ等の洗浄を行った後、日暮れまでは設定された昼間の好適潅水点に基づいて、土壌水分センサーにより自動潅水し、明るさセンサーで日暮れを感知すると、日暮れ後夜明けまでは、昼間の潅水条件とは異なる夜間の潅水条件を設定し、それに基づいて土壌水分センサーにより自動潅水することにより、施肥管理と潅水管理との一連の作業を一つの装置で実現した。
【0021】
発明を実施するための基本的な最良の形態は、明るさセンサー、土壌水分センサー、夜明け、タイマー、時刻を計時する時計と、諸作業を制御しその内容を記憶するコンピューター、無線送信装置などから構成されるが、施設園芸での植物栽培制御における施肥管理、潅水管理の方式として、以下に実施例を提示する。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明装置の1実施例のフロー図である。
当日の植物自動栽培制御装置の作業は、明るさセンサーのデータを制御部に取り込み、夜明け時刻を決定し、それを起点にスタートする。夜明けを感知すると自動的に施肥前の湿潤潅水を行い、その後数時間以内の設定した時刻、通常は午前中の早い時間に、植物が1日に必要とする肥料成分量を数回に分けて投与する。投与後点滴ノズル、点滴チューブおよび潅水パイプ等の洗浄を行い、その後、日暮れまでは設定された昼間の好適潅水点(設定値X)に基づいて、土壌水分センサーにより自動潅水する。土壌水分センサーは土壌中のpF値およびその相当値を測定し、設定値より乾燥状態にあれば制御部からポンプまたは電磁バルブを駆動させて液肥または水を供給する。給液間隔は、土壌水分センサーで測定する間隔とし任意の時間を設定でき、また1回の給液時間も任意の時間を設定できるが、土壌水分サンサーで過剰な給液が停止できる運転も可能である。
【0023】
明るさセンサーで日暮れを感知すると、日暮れ後夜明けまでは、昼間の潅水条件とは異なる夜間の潅水条件(設定値Y)を設定し、それに基づいて土壌水分センサーにより自動潅水を繰り返すことにより、施肥管理と潅水管理との一連の作業を完結する。
【産業上の利用可能性】
【0024】
野菜、花卉、果樹等の生産における持続的かつ環境保全型の周年供給、高品質、高生産技術の確立が図れる。
【0025】
日々の天候を考慮し前日夕刻または当日早朝温室を訪問し潅水の開始時間、終了時間、その間隔、毎回の潅水時間、湿潤時間等を経験と勘に頼ってマニュアルで設定するのではなく、植物の生長する基本である光合成能力を最大限発揮できるよう、夜明けを感知して施肥と潅水を開始し、日中は水分センサーで土壌中の水分を追跡測定し、リアルタイムに、かつ自動的に潅水管理し、夜間も水分センサーで土壌中の水分を追跡測定し、自動的に必要最小限の潅水を行うことによって、高糖度、高安全(過湿や乾燥による病害虫被害の減少による低農薬化)、高品質(水分、養分の過大・過少による生理障害の減少による品質向上)、良食味等特徴ある、美味しい高付加価値の農産物を、省力的に高収量で生産する技術として適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】植物栽培方法の実施方法を示したフロー図である。(実施例1)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明るさセンサー、土壌水分センサー、タイマー、時刻を計時する時計、コンピューターで構成される植物栽培制御装置において、隔離培地、コンテナ栽培培地あるいは袋培地等の培地を用いて栽培する場合、明るさセンサーで夜明けを感知して自動的に施肥前の湿潤潅水を行い、その後数時間以内の設定した時刻に、植物が1日に必要とする肥料成分量を数回に分けて投与し、投与後点滴ノズル、点滴チューブおよび潅水パイプ等の洗浄を行った後、日暮れまでは設定された昼間の好適潅水点に基づいて、土壌水分センサーにより自動潅水し、明るさセンサーで日暮れを感知すると、日暮れ後夜明けまでは、昼間の潅水条件とは異なる夜間の潅水条件を設定し、それに基づいて土壌水分センサーにより自動潅水することを特徴とする植物栽培方法および植物自動栽培制御装置。

【図1】
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