説明

植物病害防除剤

【課題】高温や直射日光など生存に不適な環境条件下では比較的短時間のうちに活性を失い死滅するバーティシリウム・レカニの中で、死菌体となっても植物病害抑制効果を有する菌株からなる植物病害防除剤、及び、当該植物病害防除剤を用いた植物病害の防除方法を提供すること。
【解決手段】加熱処理後の死胞子が植物病害抑制能力を有するバーティシリウム・レカニの生菌体、生菌体濾液、死菌体、死菌体濾液、又は培養濾液成分を、植物病害防除剤として使用する。加熱処理後の死胞子が植物病害抑制能力を有するバーティシリウム・レカニとして、MG−VL−45株(NITE P−493)又はMG−VL−101株(NITE P−494)を挙げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫防除効果を有する昆虫病原糸状菌バーティシリウム・レカニ(Verticillium lecanii)のうち、菌の生死に関わらず失活後でも高い植物病害抑制効果を有する菌株、当該菌株を含有する植物病害防除剤、及び、それを用いた植物病害防除方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の植物の病害虫防除には、化学物質を用いた化学殺虫剤及び化学殺菌剤によるものが主流を占めている。これら化学農薬は、効果が優れているものが多く、現在の農業生産に多大な貢献をしてきた。しかしその反面、化学農薬による環境汚染、人畜ヘの安全性、更には抵抗性害虫や耐性菌の出現による効力の低下なども顕在化してきている。
【0003】
このような背景のもと、化学農薬のみに頼らない総合的病害虫管理技術(IPM)に対する取組みが活発化してきている。その一つの取組みとして、環境負荷が化学農薬よりも小さく、対象病害虫のみに特異的に作用する微生物を用いた植物病害虫防除方法がある。
【0004】
微生物を利用した害虫防除方法としては、昆虫病原糸状菌のボーベリア(Beauveria)属菌、メタリジウム(Metarhizium)属菌、ノムラエア(Nomuraea)属菌、及びバーティシリウム(Verticillium)属菌等を利用する方法が知られている。一方、微生物を利用した病害防除方法としては、フザリウム(Fusarium)属菌、トリコデルマ(Trichoderma)属菌等の糸状菌を用いる方法やバチルス(Bacillus)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌やエルビニア(Erwinia)属細菌などの細菌を利用する方法が知られている。
【0005】
これらのうち、バーティシリウム・レカニについては、菌の系統によって害虫に対する病原力や駆除可能な害虫種などの特徴が異なることが知られている。発明者らの保有菌株のうち、害虫に高い病原性を持つ菌株としては、MG−VL−18やMG−VL−45があり、このうちMG−VL−18は特にコナジラミ類に高い病原性を示し、MG−VL−45は特にアブラムシ類に高い病原性を示すことが知られている(例えば、非特許文献1)。
【0006】
さらに、バーティシリウム・レカニについては、実際に農薬登録され、上市されている。かかるバーティシリウム・レカニを有効成分とする微生物農薬としては、「バータレック(登録商標)」及び「マイコタール(登録商標)」があり、バータレックはアブラムシ類に対して高い病原性を持ち、マイコタールはコナジラミ類に対して病原性が強い系統である。バーティシリウム・レカニの系統の中にはカイガラムシ類、アザミウマ類等の昆虫、ダニ類に対して病原性を示すものも知られている。さらには、シストセンチュウやネコブセンチュウ、植物病原糸状菌のさび病菌やうどんこ病菌等に対しても寄生したり、桔抗作用を示す系統も存在することが知られている(例えば、非特許文献2)。
【0007】
その他、葉面等の植物体表面で、高い定着能力を持ち、かつ害虫に対する病原性の能力においては、従来のバーティシリウム・レカニの菌株を、害虫寄生菌として含有することを特徴とする植物体表面定着性微生物農薬(例えば、特許文献1)や、害虫防除と植物病害防除の能力を有するバーティシリウム・レカニの菌株を有効菌として含有することを特徴とする病害虫防除微生物農薬(例えば、特許文献2)が提案されている。
【0008】
一般に、バーティシリウム・レカニの殺虫効果は、その胞子が害虫に接触することにより、胞子が発芽して害虫に寄生し、その後菌糸が害虫体内で生長、充満して、害虫を死に至らしめるものである。胞子の発芽から寄生は速やかに行われるため、害虫に対しては、菌を処理後速やかに害虫への感染が起こり、菌体は害虫体内で生長して殺虫効果を発揮する。一方、植物病害抑制効果の発現には、ある程度長い時間、植物上で菌体が生存していることが必要である。しかし、バーティシリウム・レカニは、高温や直射日光など生存に不適な環境条件下では比較的短時間のうちに活性を失い死滅してしまう。そして、バーティシリウム・レカニのうち、死菌体となっても植物病害抑制効果を有する菌株の存在については知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−335612号公報
【特許文献2】特開2006−169115号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日本応用動物昆虫学会誌 第36巻、p239−245
【非特許文献2】今月の農業 2001年9月号、p72−77
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、高温や直射日光など生存に不適な環境条件下では比較的短時間のうちに活性を失い死滅するバーティシリウム・レカニの中で、死菌体となっても植物病害抑制効果を有する菌株からなる植物病害防除剤、及び、当該植物病害防除剤を用いた植物病害の防除方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく害虫に対して高い防除効果を示すことが知られている昆虫病原糸状菌バーティシリウム・レカニ菌株について、鋭意検討した結果、バーティシリウム・レカニ MG−VL−45株(NITE P−493)、及びバーティシリウム・レカニ MG−VL−101株(NITE P−494)は、活性を失った死菌体でも広範な植物病害に対して、その発生を抑制できることを見い出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち本発明は、(1)加熱処理後の死胞子が植物病害抑制能力を有するバーティシリウム・レカニの生菌体、生菌体濾液、死菌体、死菌体濾液、及び培養濾液の少なくともいずれかを含有することを特徴とする植物病害防除剤や、(2)バーティシリウム・レカニが、MG−VL−45株(NITE P−493)又はMG−VL−101株(NITE P−494)であることを特徴とする上記(1)記載の植物病害防除剤に関する。
【0014】
また本発明は、(3)加熱処理後の死胞子が植物病害抑制能力を有するバーティシリウム・レカニの生菌体、生菌体濾液、死菌体、死菌体濾液、及び培養濾液の少なくともいずれかを植物病害防除剤として使用する方法や、(4)加熱処理後の死胞子が植物病害抑制能力を有するバーティシリウム・レカニの生菌体、生菌体濾液、死菌体、死菌体濾液、及び培養濾液の少なくともいずれかを植物病害防除剤の調製のために使用する方法に関する。
【0015】
さらに本発明は、(5)上記(1)又は(2)記載の植物病害抑制剤を、植物地上部及び植物根圏を含む土壌部の少なくともいずれかに用いることを特徴とする植物病害の防除方法や、(6)加熱処理後の死胞子が植物病害抑制能力を有するバーティシリウム・レカニ MG−VL−101株(NITE P−494)に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の植物病害防除剤において用いられる、加熱処理後の死胞子が植物病害抑制能力を有するバーティシリウム・レカニは、広範な植物害虫と植物病害に対して防除効果を有し、植物に散布した場合、害虫に付着した生胞子は速やかに害虫に感染し、最終的には死に至らしめるが、他方、害虫に付着しなかった生胞子は植物体に付着し、病害抑制効果を示すことになる。しかし、本バーティシリウム・レカニの生菌は環境条件により植物体上では長期間の生存はできず死に至るが、本菌は死菌体でも生菌体と同等もしくはそれ以上の植物病害抑制効果を有することから、高温雰囲気下の日中や、直射日光など生存に不適な環境条件下において散布して比較的短時間で死滅したとしても植物病害抑制活性を示す。このことから、従来の微生物農薬のような散布時間帯や施設内の環境条件に対する制約が解消される。また、本発明の植物病害防除剤は害虫と病害の両方を同時に防除でき、さらに、散布液が直接かからない部分などの処理した部分以外の病害抑制効果もあるため農薬節減や省力化、コストの削減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の植物病害防除剤としては、加熱処理後の死胞子が植物病害抑制能力を有するバーティシリウム・レカニの生菌体、生菌体濾液、死菌体、死菌体濾液、及び培養濾液の少なくともいずれかを含有するものであれば特に制限されず、加熱処理後の死胞子が植物病害抑制能力を有するバーティシリウム・レカニは例えば以下のようにしてスクリーニングすることができる。まず、バーティシリウム・レカニの保存株や分離株を酵母エキス入りサブロー寒天培地やポテトデキストロース寒天培地(PDA)上で27℃、7日間静置培養した後、滅菌水を加えて分生胞子(コニディア)を掻きとり、菌糸体をガーゼで濾して、滅菌水中に懸濁して1mlあたり1×10の胞子数の濃度に調整した分生胞子懸濁液(生胞子懸濁液)を作製する。次いで、この生胞子懸濁液を加熱滅菌処理、例えば60℃で2時間や80℃で10分間加熱滅菌処理した死胞子懸濁液を作製する。そして、この死胞子懸濁液を葉面散布し、無処理の場合に比べて、うどんこ病等の植物病害が統計学上有意(P<0.05)に抑制されたとき、かかるバーティシリウム・レカニ株は加熱処理後の死胞子が植物病害抑制能力を有すると判定される。
【0018】
本発明にはまた、加熱処理後の死胞子が植物病害抑制能力を有するバーティシリウム・レカニの生菌体、生菌体濾液、死菌体、死菌体濾液、培養濾液の少なくともいずれかを、植物病害防除剤として使用する方法や、植物病害防除剤の調製のために使用する方法も含まれる。
【0019】
上記バーティシリウム・レカニの生菌体としては、バーティシリウム・レカニの生菌糸体や生胞子(コニディア、ブラストスポア)を挙げることができ、前記生胞子懸濁液を好適に例示することができる。上記バーティシリウム・レカニの生菌体濾液としては、例えば、前記生胞子懸濁液を濾過分離・遠心分離して生胞子懸濁液から生胞子を除去した液体を挙げることができる。上記バーティシリウム・レカニの死菌体としては加熱滅菌後の死菌糸体や死胞子を挙げることができ、前記加熱滅菌処理した死胞子懸濁液を好適に例示することができる。上記バーティシリウム・レカニの死菌体濾液としては、例えば、前記死胞子懸濁液を濾過分離・遠心分離して死胞子懸濁液から死胞子を除去した液体を挙げることができる。上記バーティシリウム・レカニの培養濾液としては酵母エキス入りサブロー液体培地やポテトデキストロース液体培地(PDB)等における培養濾液を挙げることができる。また、虫害を防除するには生胞子が必要とされることから、虫害防除効果と植物病害防除(抑制)効果とが共に要求される微生物農薬の場合には、生胞子を含んだ培養液や生胞子の縣濁液や縣濁用生胞子含有粉末剤が好適に用いられ、これらの中でも、保存性に優れた縣濁用生胞子含有粉末剤が特に好適に用いられるが、うどんこ病等の植物病害の抑制・防除のみを目的とする植物病害抑制目的の植物病害防除剤の場合は、加熱処理後の死胞子が植物病害抑制能力を有するバーティシリウム・レカニの培養液の他、培養濾液や生菌体濾液、死菌体(例えば、死胞子縣濁液)、死菌体濾液を有利に用いることができる。
【0020】
上記の加熱処理後の死胞子が植物病害抑制能力を有するバーティシリウム・レカニとして、具体的に、バーティシリウム・レカニMG−VL−45株(NITE P−493)や、バーティシリウム・レカニMG−VL−101株(NITE P−494)や、加熱処理後の死胞子が植物病害抑制能力を有するこれらの変異株を挙げることができる。バーティシリウム・レカニMG−VL−45株は、宮城県名取市の露地圃場においてワタアブラムシから単離された菌株である。当該菌株は、平成20年2月21日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターにNITE P−493の番号で寄託されている。また、バーティシリウム・レカニMG−VL−101株は、宮城県古川市の露地圃場においてジャガイモヒゲナガアブラムシから単離された新規菌株である。当該菌株は、平成20年2月21日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターにNITE P−494の番号で寄託されている。なお、MG−VL−45株は保存菌株であるが、新たに単離したMG−VL−101株は、無色の分生子柄の中間部及び先端部において、突きぎり型(太い基部から先端まで均一に次第に細くなる)のフィアライドが2〜3本輪生分岐し、フィアライドの各先端には球状の胞子塊を形成し、分生子は無色、楕円形から円筒形で両端は丸く、単胞であることから、バーティシリウム・レカニの新規菌株と同定した。
【0021】
本発明の植物病害抑制剤において、加熱処理後の死胞子が植物病害抑制能力を有するバーティシリウム・レカニの生菌体、生菌体濾液、死菌体、死菌体濾液、培養濾液等をそれぞれ単独で、あるいは組み合わせて用いることができるが、不活性な液体又は固体の担体で希釈し、必要に応じて界面活性剤、その他の補助剤を加えた製剤として用いることもできる。具体的な製剤例としては、粒剤、粉剤、水和剤、懸濁製剤、乳剤等の剤型等があげられる。上記担体としては、例えばハイドロタルサイト、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、クレー、珪藻土、ベントナイト、ホワイトカーボン、カオリン、バーミキュライト、炭酸カルシウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸アンモニウム、デンプン、ショ糖、ブドウ糖等の固体担体、水、イソプロピルアルコール、キシレン、シクロヘキサノン、メチルナフタレン、アルキレングリコールなどの液体担体等を挙げることができる。また、上記界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、リグニンスルホン酸塩等を挙げることができる。
【0022】
本発明のバーティシリウム・レカニの生菌体、生菌体濾液、死菌体、死菌体濾液及び培養濾液の少なくともいずれかを含有する植物病害抑制剤の適用病害としては、本発明のバーティシリウム・レカニが殺菌効果を示す病害であれば特に制限はないが、例えば、ウイルス病、細菌病、糸状菌病等を挙げることができ、具体的には、トマトのうどんこ病菌(Oidium lycopersici)、ナスのうどんこ病菌(Erysiphe polygoni)、キュウリのうどんこ病菌(Sphaerotheca cucurbitae)、イチゴのうどんこ病菌(Sphaerotheca humuli)、トマト葉かび病菌(Fulvia fulva)、ナスすすかび病菌(Mycovellosiella nattrassii)の防除に著効が期待できる。
【0023】
本発明のバーティシリウム・レカニの生菌体を含有する植物病害防除剤は、生菌(生胞子)を用いる場合には、害虫の防除剤として使用することもできる。適用害虫としては、例えば、コナジラミ類、アブラムシ類、アザミウマ類等を挙げることができ、具体的には、コナジラミ類としては、オンシツコナジラミ、タバココナジラミ、シルバーリーフコナジラミ、ミカントゲコナジラミ、マーラットコナジラミ、ブドウコナジラミ、ツバキコナジラミ、アオキコナジラミ、ヒメコナジラミ、シナノコナジラミ、ミカンコナジラミ、ツツジコナジラミモドキ、ヤマモモコナジラミ、ツツジコナジラミ、イチゴコナジラミ等を例示することができ、アブラムシ類としては、ワタアブラムシ、モモアカアブラムシ、ジャガイモヒゲナガアブラムシ等を例示することができ、アザミウマ類としては、ミカンキイロアザミウマ、ミナミキイロアザミウマ、チャノキイロアザミウマ、ネギアザミウマ等を例示することができる。
【0024】
本発明の植物病害の防除方法としては、上記本発明の植物病害防除剤を、植物地上部及び植物根圏を含む土壌部の少なくともいずれかに用いる方法であれば特に制限されるものではなく、通常の化学農薬を用いる場合と同様に、害虫及び植物の病害の種類や適用植物の種類等によって適宜選択することができる。例えば、本発明の植物病害防除剤を、植物に直接塗布又は散布してもよいし、植物根圏を含む土壌(植物の栽培土壌)に混和、散布又は潅注等することもできる。例えば、本発明の植物病害防除剤を用いて植物の栽培土壌を処理する場合、本発明の植物病害防除剤により土壌を処理してから植物を植えてもよく、また、植物を土壌に植えた後でその土壌を本発明の植物病害防除剤で処理してもよい。
【0025】
本発明の植物病害抑制剤を用いて、植物地上部及び植物根圏を含む土壌部の少なくともいずれかを処理する際には、培養液や培養濾液を希釈せずに使用してもよく、適当量の水等で希釈して使用してもよい。本発明の植物病害抑制剤の有効成分として生胞子又は死胞子を用いる場合、その含有量としては、処理方法や、害虫及び/又は植物病害の種類、適用植物の種類等によって異なるため一概には規定できないが、例えば、生胞子又は死胞子を含有する剤を植物地上部に散布処理をする場合には、処理剤1mLあたりの胞子数を、1×10〜1×1012個、好ましくは1×10〜1×10個とすることができ、土壌に潅注処理する場合は、胞子数が、1×10〜1×1011個、好ましくは1×10〜1×10個の範囲とすることができる。また、散布量や散布回数は、植物の病害の種類や適用植物の種類、病害の程度等によって適宜選択することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0027】
[胞子の調製]
バーティシリウム・レカニMG−VL−45株及びMG−VL−101株を、それぞれ酵母エキス入りサブロー平板培地で25℃、7日間静置培養した後、約10mlの滅菌水を加えて、滅菌した筆で分生胞子(コニディア)を掻きとり、菌糸をガーゼで濾して、滅菌水中に懸濁し、1×10/mlの胞子数の分生胞子懸濁液を作製した。次いで、この生胞子懸濁液を60℃で2時間加熱滅菌処理して、1×10/mlの胞子数の死胞子懸濁液を作製した。
【0028】
[キュウリのうどんこ病に対する防除効果試験]
バーティシリウム・レカニMG−VL−45株の生菌体(生胞子)及び死菌体(死胞子)、並びに、MG−VL−101株の生菌体(生胞子)及び死菌体(死胞子)を、それぞれ1mlあたり1×10の胞子数の濃度に調整し、3葉期のキュウリに1回散布した。第1葉〜3葉を対象に散布から7日後にうどんこ病発病葉数並びに病斑数を調査し、発病葉率及び1葉あたりの病斑数を算出した。また、散布時に未展開であった第4葉の調査は、散布から19日後に、同様に調査し、発病葉率及び1葉あたりの病斑数を算出した。また、以下の計算式により防除価も算出した。なお、それぞれの試験は、1株/1反復とし、10〜12反復実施した。結果を表1に示す。表1に示されるように、本発明におけるバーティシリウム・レカニ MG−VL−45株及びMG−VL−101株は生菌体でも死菌体でもキュウリうどんこ病に防除効果を示し、また、それらの散布液が直接かからない部分でも防除効果を示した。
【0029】
防除価={1−(試験区の葉当り病斑数/無処理区の葉当り病斑数)}×100
【0030】
【表1】

【0031】
[イチゴのうどんこ病に対する防除効果試験]
MG−VL−45株の死菌体(死胞子)を1mlあたり2×10の胞子数の濃度に調整し、高設栽培イチゴに約10日間隔で4回散布した。3回目散布6日後と4回目散布7日後に、上位4複葉(12小葉)について、うどんこ病発病小葉数並びに表2の基準に従って調査を行い、発病度と防除価を算出した。また、発病度の算出は、以下の式により求めた。試験は、20株/1反復とし、3反復実施した。結果を表3に示す。表3に示されるように、本発明におけるバーティシリウム・レカニMG−VL−45株の死菌体はイチゴうどんこ病に防除効果を示した。
【0032】
発病度={Σ(程度別発病小葉数×発病指数)×100/(調査小葉数×4)}
の計算式による。
【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
[イチゴの萎黄病に対する防除効果試験]
MG−VL−45株の死胞子を1mlあたり1×10の胞子数の濃度に調整し、ポット植えイチゴに約10日間隔で3回散布した。2回目散布2日後に人工的にイチゴ萎黄病菌(Fusarium oxysporum)を土壌かん注接種した。病原菌接種から19日後に表4の基準に従って調査を行い、発病度を算出した。1株/1反復とし、8反復実施した。結果を表5に示す。表5に示されるように、本発明におけるバーティシリウム・レカニMG−VL−45株の死菌体は、イチゴ地上部への散布で、土壌伝染性病害である萎黄病を抑制することができた。
【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
[トマトの葉かび病、うどんこ病に対する防除効果試験]
MG−VL−45株の生胞子を1mlあたり2×10及び2×10の胞子数の濃度に調整し、施設内で栽培されているトマトに7日間隔で2回散布した。2回目散布7日後に葉かび病及びうどんこ病の発病小葉を調査し、発病小葉率と防除価を算出した。ここでの防除価は以下の計算式により求めた。試験は、8〜10株/1反復とし、3反復実施した。結果を表6に示す。表6に示されるように、本発明におけるバーティシリウム・レカニMG−VL−45株の生菌体はトマト葉かび病及びうどんこ病に防除効果を示した。
【0039】
防除価={1−(処理区の発病小葉率/無処理区の発病小葉率)}×100
の計算式により防除価も算出した。
【0040】
【表6】

【0041】
[トマトのうどんこ病に対するかん注処理での防除効果試験]
MG−VL−45株の生胞子を1mlあたり2×10の胞子数の濃度に調整し、ポット植のトマトに約7日間隔で4回かん注した。調査は、6〜8複葉の全小葉について表7の基準に従って行い、発病度を算出した。発病度は、以下の計算式により算出した。試験は、1株/1反復とし、6〜9反復実施した。結果を表8に示す。表8に示されるように、土壌へのかん注処理によっても地上部病害のうどんこ病を抑制することが可能であった。
【0042】
発病度={Σ(程度別発病小葉数×発病指数)×100/(調査小葉数×5)}
【0043】
【表7】

【0044】
【表8】

【0045】
[キュウリうどんこ病に対する培養濾液の防除効果試験]
MG−VL−45株の生菌体(生胞子)及び死菌体(死胞子)をそれぞれ1mlあたり2×10の胞子数の濃度に調整した懸濁液、並びに、それらを0.45μmの滅菌フィルターで濾過した生菌体濾液及び死菌体濾液を1葉期のキュウリに5〜6日間隔で3回散布した。1回目散布7日後(2回目散布直前)から2〜6日間隔でうどんこ病発病程度を表9の基準に従って調査した。発病度は、式7により求めた。試験は1株/1反復とし、9〜10反復で実施した。結果を表10に示す。死菌体懸濁液および死菌体濾液散布はうどんこ病に対し,極めて高い発病抑制効果を示した。生菌体濾液の散布も高い発病抑制効果が認められた。生菌体懸濁液は発病抑制効果はあるものの持続性は低かった。濾過や死菌処理により、効果が高まる傾向を示した。
【0046】
発病度={Σ(程度別発病葉数×発病指数)×100/(調査葉数×4)}
の計算式による。
【0047】
【表9】

【0048】
【表10】

【0049】
[水和剤の調製]
上記作製したバーティシリウム・レカニG−VL−101株の1×10/mlの胞子数の生胞子懸濁液を8重量部、珪藻土40重量部、タルク40重量部、ベントナイト10重量部ポリオキシエチレン脂肪酸エステル1重量部及びポリオキシエチレンアルキルエーテル1重量部を混合乾燥後、粉砕して水和剤とする。
【0050】
[粒剤の調製]
上記作製したバーティシリウム・レカニG−VL−101株の1×10/mlの胞子数の生胞子懸濁液を6重量部、ラウリルアルコール硫酸エステルのナトリウム塩1重量部、リグニンスルホン酸ナトリウム1重量部、カルボキシメチルセルロース2重量部、珪藻土40重量部、及びクレー50重量部を均一に混合粉砕し、この混合物を、押出式造粒機を用いて14〜32メッシュの粒状に加工した後、乾燥して粒剤とする。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によると、従来の微生物農薬のような散布時間帯や施設内の環境条件に対する制約がなく、また、害虫と病害の両方を同時に防除でき、さらに、散布液が直接かからない部分などの処理した部分以外の病害抑制効果も期待できる植物病害防除剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱処理後の死胞子が植物病害抑制能力を有するバーティシリウム・レカニの生菌体、生菌体濾液、死菌体、死菌体濾液、及び培養濾液の少なくともいずれかを含有することを特徴とする植物病害防除剤。
【請求項2】
バーティシリウム・レカニが、MG−VL−45株(NITE P−493)又はMG−VL−101株(NITE P−494)であることを特徴とする請求項1記載の植物病害防除剤。
【請求項3】
加熱処理後の死胞子が植物病害抑制能力を有するバーティシリウム・レカニの生菌体、生菌体濾液、死菌体、死菌体濾液、及び培養濾液の少なくともいずれかを植物病害防除剤として使用する方法。
【請求項4】
加熱処理後の死胞子が植物病害抑制能力を有するバーティシリウム・レカニの生菌体、生菌体濾液、死菌体、死菌体濾液、及び培養濾液の少なくともいずれかを植物病害防除剤の調製のために使用する方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の植物病害抑制剤を、植物地上部及び植物根圏を含む土壌部の少なくともいずれかに用いることを特徴とする植物病害の防除方法。
【請求項6】
加熱処理後の死胞子が植物病害抑制能力を有するバーティシリウム・レカニ MG−VL−101株(NITE P−494)。

【公開番号】特開2010−70538(P2010−70538A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176097(P2009−176097)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(591074736)宮城県 (60)
【Fターム(参考)】