説明

植物種識別方法

【課題】従来の光学的なリモートセンシング測定において、測定領域の植物の植物種の特定は容易ではなく、例えば、正規化植生指数(NDVI)を用いた方法でも困難であった。
【解決手段】一時節でのハイパースペクトル画像撮影によって対象植物種がある画像ピクセルのスペクトル強度グラフを得、同グラフで、各種植物種において特定波長バンドに共通出現する、複数(例えば5つ)の極大・極小を示す値を用い、それらの演算処理によって複数の指数(例えば4つ)を取得する。この植物種特定指数群をDB化し、更に異なる時節での植物種特定指数群も得てDB化する。未知の植物の一時節の植物種特定指数群を求め、DB中の植物種特定指数群と比較して合致するものをもって植物種を特定し、見出されなかった場合は、他の異なる時節での植物種特定指数群と同時節のDBを比較し、植物種の特定をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リモートセンシングを用いた植生状況調査における、とくに植物種を特定・識別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
森林・山野・里山・田畑・市街地の公園などを含め、樹木など植物が存在する地域における植生調査の方法には、従来から、現地を踏破して目視で判別する方法以外に、衛星や航空機等から植生物からの反射情報を用いて判別する方法(リモートセンシング)の方法があり、それぞれ単独で、あるいは組み合わせて行われている。
【0003】
衛星や航空機などを利用したリモートセンシングには、大別して、電波放射を行って植生からの反射波強度を検知する方法と、太陽光など、照射光による植生からの反射光強度を光学的の検知する方法とがある。後者の反射光を用いる方法は、比較的広い観測範囲から狭い範囲までの種々の植生調査に広く利用されている。
【0004】
光学的な検知によるリモートセンシングに用いるセンシング手法は、パンクロマチック(白黒で検知)手法からマルチスペクトル(数バンド、例えば2〜4バンドの色スペクトルで検知)手法に移ってきており、こうした光学検知によって撮影された太陽光の反射強度の写真を、パンクロマチック手法では白黒の強度差を用い、またマルチスペクトル手法ではスペクトル強度差などを用いて、専門家が判読して植生識別などを行い、さらに、この写真による植生識別と地理情報システムGIS(Geographic Infometion System)とから、広範囲の植生図の作製などが行われている。
【0005】
近年、マルチスペクトルの10倍以上のバンド数による計測が可能で、得られる情報量が飛躍的に増大したハイパースペクトルセンサが実用化され、これを航空機などに搭載しての植生状態の計測や、さらに、このハイパースペクトルセンサを搭載した地球環境衛星(衛星名EQ−1;搭載センサ名Hypersion、衛星名PROBA;搭載センサ名CHRIS)が打ち上げられるなどして、より広範囲かつ精緻な植生状態の計測が行われるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−357380号公報
【特許文献2】特開2005−189099号公報
【特許文献3】特開2006−250827号公報
【特許文献4】特開2006−314215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近頃、外来植物によってその土地固有の植物が駆逐されているという報告を耳にする。このような報告があった場合、その土地の植生状況を、植生植物の種類を含め、より詳しく調査する必要がある。従来のリモートセンシングによって植生植物の種類を調査する場合、その種類判定には、センシング性能を含む関連知識を持つ熟練した専門家の判断が必要であり、さらに判定者やセンシング時期などによって植生植物の種類の判断が異なるケースがあったりなどして、種類判定は必ずしも容易では無い。またリモートセンシングからは植生の種類判定が困難とされた個所については、その都度、現地調査で確認する必要がある。このように、植生調査とそれに基づく観測地域における植生図の作成には、多大の時間を必要としている。この結果、外来植物の繁茂のスピードに追いつかず、植生図が完成したときは、既に現状と乖離が生じている可能性さえあった。
【0008】
植生調査においては、正規化植生指数(NDVI;Normarized Differential Vegetation Index)が、広範囲な調査領域中の植生の被覆面積が占める程度を表す指数等に広く用いられている。NDVIは、植物の緑葉は青領域と赤領域の波長を吸収し、近赤外線領域の波長を強く反射する性質を利用しており、次の式(式1)で表される。
【0009】
NDVI=(IR−R)/(IR+R) ・・・・(式1)
ここで、Rは、可視領域赤の反射率、IRは近赤外領域の反射率である。
【0010】
NDVIは、−1から+1の間に正規化した数値を示し、正の大きい数字ほど、例えば、植生が濃いことを表している。
【0011】
この式1からも解るように、このNDVIなる指数は、可視領域赤および近赤外領域の、2つのスペクトル帯での反射率を夫々用いる、いわばマルチスペクトル手法でのセンシング結果を適用することが可能な指数でもある。
【0012】
このNDVIは、河川、道路、建造物といった非植物と植物の識別には効果的であるが、植物の種類の明確な識別ができないのが現状である。上述の外来植物の植生状況の判定の必要例に限らず、植生領域内での植物種の特定やそれに基づく植生図の作成は、対象面積の広狭に係わらず非常に重要となっている。
【0013】
そこで、本発明の課題は、リモートセンシングにおいても、比較的容易に高い確度で植生領域での植物種の特定を行える方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の植物種識別方法は、
測定対象植物種が植生する撮影領域を、所定の観測波長域を少なくとも数十の波長バンド数でスペクトル強度を観測可能な光学センサ装置を用いて、所定の時節を含む他の時節における夫々のスペクトル画像を撮影するステップと、
前記スペクトル画像中の、前記測定対象植物種が撮影されているピクセル位置での反射スペクトルにおいて、スペクトル強度の極大値または極少値であるスペクトル強度極値を示す複数のスペクトル強度極値バンドを取得するステップと、
前記スペクトル強度極値バンドのうち、複数の特異スペクトル強度極値バンドにおける夫々の特異スペクトル強度極値を抽出するステップと、
前記特異スペクトル強度極値のうちの、複数の所定の特異スペクトル強度極値を用いた演算処理によって算出する、前記測定対象植物種の、複数の植物種指数からなる植物種特定指数群を取得するステップと、
未知の測定対象植物種の前記所定の時節の前記植物種特定指数群を取得し、既知の植物種から取得した前記植物種特定指数群と比較して、前記未知の測定対象植物種の植物種特定するステップと、
前記植物種特定が不可能であった場合、前記所定の時節と異なる前記他の時節のスペクトル画像の撮影するステップ以降の前記各ステップによって前記未知の測定対象植物種の植物種特定をするステップと
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法は、測定範囲に対してハイパースペクトル画像撮影を行って、各ピクセル毎のスペクトル強度測定を実施することと、複数時節での撮影結果をさらに用いることから、比較的容易に、高い確度で、撮影ピクセルでの植物種の特定を行うことができるといった効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】リモートセンシングを説明する図
【図2】植物毎のスペクトル強度グラフの例を説明する図
【図3】スペクトル強度グラフ中の特異点の例を説明する図
【図4】植物種ごとの複数指数の値の例を説明する図
【図5】各指数例をグラフ化した図
【図6】5種の植物種の指数を抽出したときのグラフ図
【図7】異なる時節の5種の植物種の指数のグラフ図
【図8】マッピングの例
【図9】マッピングの例
【図10】植物種特定のフローを説明する図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態を、添付図を参照しつつ説明する。
【0018】
図1は、リモートセンシングにおける撮影の概略を示す模式図である。
【0019】
図1に示すように、リモートセンシングは、図示しないセンサを搭載した航空機1や人口衛星2から測定対象植物などが植生する森などの領域である対象物3を撮影し、対象物3の電磁波(光など)の反射、放射などを観測するというものである。光学的な検知によるリモートセンシングにおいては、センサは太陽光4から受けた地表や樹木などからの反射や散乱、あるいは放射を検知する。上記の例は、上空からのリモートセンシングであるが、例えば、地上遠方に設置したセンサ搭載のカメラ5で、森や公園の樹木などの地上の対象物3を撮影し、その植生を観測するといった場合もある。
【0020】
こうしたリモートセンシングに用いるセンサとして、対象物の撮影画像の各ピクセル(画素)単位ごとのスペクトル特性を高い空間・波長分解能で計測可能な分光イメージセンサを用いるが多い。例えば、計測波長範囲350nm〜1050nmにおいて、波長バンド5nm刻みで141バンドといった多バンドによるハイパースペクトル計測が可能なものを適用する。
【0021】
図2は、こうしたハイパースペクトル計測が可能なセンサ(ハイパースペクトルセンサ)によって、ある時節における、所定日中時間における、多様な種類の植物種の反射スペクトル強度を計測し、それを重ねて表示したときのグラフである。横軸は波長(nm)、縦軸はスペクトル強度(任意単位)であって、この図2の場合、オニグルミ、ハリエンジュ、シラカシ、イチョウ、ヒマラヤスギ、ケヤキ、モッコク、そしてソメイヨシノの計8種の各樹木について測定したものを、重畳して示している。
【0022】
図2の測定結果は、いずれの種類の樹木の反射スペクトル強度においても、極大値、極小値といった極値である特異点が現れる波長域は、いずれも共通して、同じ波長バンドにおいて観測されることが解る。
【0023】
図3に、こうした特異点位置を模式的なスペクトル強度グラフにおいて示したものである。図3において、極大値の特異点Aは、可視光領域の550±5nmの位置に、極小値の特異点Bは、レッドエッジ近辺の680±10nmに、極大値の特異点Cは、近赤外領域の750±5nmの位置に、極小値の特異点Dは、近赤外領域の760±5nmの位置に、極大値の特異点Eは、近赤外領域の770±5nmの位置に、夫々出現することが解った。この極値の出現は、他の種類の樹木においても、共通して得られる特性であった。
【0024】
即ち、
(1)極大値特異点Aの出現(強度A)の波長バンドBW:550±5nm
(2)極小値特異点Bの出現(強度B)の波長バンドBW:680±10nm
(3)極大値特異点Cの出現(強度C)の波長バンドBW:750±5nm
(4)極小値特異点Dの出現(強度D)の波長バンドBW:760±5nm
(5)極大値特異点Eの出現(強度E)の波長バンドBW:770±5nm
である。
【0025】
次に、各種の樹木の反射スペクトルのグラフ特性を、上記の5種の極値が現れる各波長バンドにおける各(ピーク)強度を用い、以下に示す演算処理によって4種類の指数に表現することとした。即ち、
(1)指数1;強度Cと強度Aの比
即ち:C/A
(2)指数2;[強度Cと強度Bの差分]と[強度Aと強度Bの差分]の比
即ち:(C−B)/(A−B)
上記表現を簡略して、CB/ABとも表現することとする。
【0026】
(3)指数3;[強度Aと強度Bの比]と[強度Aと強度Cの比]の比
即ち:(A/B)/(A/C)
(4)指数4[[強度Cと強度Bの差分]と[強度Cと強度Dの差分]の比]と[[強度
Cと強度Dの差分]と[強度Cと強度Eの差分]の比]の比
即ち:((C−B)/(C−D))/((C−D)/(C−E))
上記表現を簡略して、(CB/CD)/(CD/CE)とも表現することとする。
で、ある。
【0027】
上記各4指数を、後述するように、植物種を特定する作業の中で、ある植物種の一反射スペクトル特性を表現するための指数の一つとする意味で、植物種指数と呼び、上記全4指数によって他種の植物種から区別するとの意味から、全4指数の集合を植物種特定指数群と呼ぶこととする。
【0028】
図4に、図2に示した、ある時節における樹木での反射スペクトル強度測定値、および、同一時節で、更に、アオギリ、クスノキ、ユズリハ、キンモクセイ、シダレザクラの、合計13種の樹木の反射スペクトル強度測定値から得た、上記植物種特定指数群(即ち4つの植物種指数)の値を纏めたものを示す。ここにおいて、縦欄は植物種名、横欄は、各植物種指数、即ち、C/A、CB/AB、(A/B)/(A/C)、(CB/CD)/(CD/CE)の値である。
【0029】
図5に、図4の植物種指数毎に、4つのグラフにしたものを示す。いずれも、横軸が各植物種名、縦軸は、各植物種指数を表す。
【0030】
図4および図5を用い、各植物種の各植物種指数を比較する。
【0031】
先ず、オニグルミの4指数と他のそれを比較すると、特に、ヒマラヤスギの4指数のうち2指数がそれぞれ比較的近い数値を有していることが解る。しかし、オニグルミは、C/A指数、CB/AB指数の2指数において、ともに大きい数値を有するといった特徴を有していることが解る。このことから、予め同一時節に取得された、オニグルミを含む各種多様な樹木等の植物種特定指数群を蓄積したデータベース(DB)を作成しておき、未知の植物の植物種特定指数群を取得して、このDBにおけるデータと比較することで、それがオニグルミであると特定することは容易である。
【0032】
同様に、ハリエンジュの4指数と他のそれを比較すると、特に、同様にヒマラヤスギの4指数のうち3指数がそれぞれ比較的近い数値を有していることが解る。しかし(CB/CD)/(CD/CE)指数の値が大きくかけ離れおり、この指数傾向からハリエンジュのDBからの特定は容易といえる。上記2種の特定から、ヒマラヤスギの植物種特定指数群と他の植物、特にオニグルミ・ハリエンジュの植物種特定指数群との差別化が可能であり、ヒマラヤスギの特定も可能である。
【0033】
次に、シラカシの植物種特定指数群と他の植物の植物種特定指数群を比較すると、キンモクセイ及びモッコクのそれと比較的類似傾向があるといえる。しかし、そのうち、シラカシの(A/B)/(A/C)は他の全ての植物において最も大きいという顕著な特徴を有している。一方、モッコクは、C/A、CB/AB値が他の2種に比べ大きい値を共に有している。またキンモクセイの(A/B)/(A/C)は全ての植物において最も小さい。このような類似2種についても、これら植物種特定指数群の相互比較で、シラカシ・キンモクセイ・モッコクを分けて特定することも含め他種の植物種との分別が可能であることを示す。
【0034】
イチョウの植物種特定指数群4指数について調べると、特に、シダレザクラのそれと類似部分が多いとも見られるが、しかしイチョウは、特に(A/B)/(A/C)指数の大きさで、他の植物種に対して特異性を示しており、またシダレザクラはイチョウに比べ、(CB/CD)/(CD/CE)指数で、格段に大きな値を有していることから、両種の植物種は明快に区別可能である。
【0035】
こうして、ある特定の時節で得られた、これら植物種特定指数群の例を相互に比較して、オニグルミ、ハリエンジュ、シラカシ、イチョウ、ヒマラヤスギ、キンモクセイ、シダレザクラ、モッコクの8種については、夫々区別して、少なくとも測定した全13種中からその種類を特定可能であった。
【0036】
図6は、残るアオギリ、クスノキ、ユズリハ、ケヤキ、ソメイヨシノの5種について、C/A、CB/AB、(A/B)/(A/C)、(CB/CD)/(CD/CE)の植物種特定指数群4指数の比較グラフを抽出して、改めて示したものである。この図から、各植物種の各指数値を互いに比べ、上記のような植物種特定を行おうとしても、数値の傾向が互いに類似していて、明確な植物種の相互の分別が困難である。
【0037】
図7は、図6を得た時節と異なる時節で得られたアオギリ、クスノキ、ユズリハ、ケヤキ、ソメイヨシノ5種の植物の植物種特定指数群の例である。異なる時節に植物種特定指数群を取得することにより、例えば、C/A指数やCB/AB指数では、アオギリやケヤキも値が他者と大きく異なって小さな数値を示し、また(A/B)/(A/C)指数ではクスノキとソメイヨシノの値が小さくなるが、アオギリが大きな数値を示すがソメイヨシノは最も小さな値を示し、(CB/CD)/(CD/CE)指数では、ユズリハ、ソメイヨシノが、次いでケヤキが大きな値で、アオギリ、クスノキは小さな値となっている。これらの組み合わせ比較から、5種の植物種を特定することが可能となる。
【0038】
こうした、異なる時節での植物種特定指数群を用いることで、先ず特定時節での比較(DB中のデータとの比較)で、そこで特定可能な未知植物種を分別し、そこでは特定困難であった残りの未知植物種に対して、更に異なる時節での比較で特定するといった手段をとることで、植物種特定の確度が非常に向上することが解る。
【0039】
次に、撮影領域の植生マッピングの例を示す。これは、ある時節における、樹木などの植栽地を観測対象地として、その測定対象植物種をマッピングする例である。予め、図2に示したような植物種ごとの反射スペクトルとそれから導出した、図4(および図5)に示したような植物種特定指数群を得てDB化しておく。
【0040】
植生マッピングを作成するためには、上述の方法に従って、ハイパースペクトルセンサを有するカメラでスペクトル強度を撮影し、撮影画像中の各ピクセル毎に植物種特定指数群を得、その値と植物種特定指数群DBを参照して、そのピクセルで撮影された植物の植物種を特定する。例えば、植物種毎に表示色を変え、ピクセル毎に、特定された植物種の色を与えて表示することにより、撮影範囲における植物種の植生状況がマッピングできることとなる。
【0041】
図8は、植物種毎にマッピングする簡単な例を模式的に示した図であって、この場合、2種類の樹木が立ち木の状態で重なり合っている状況であって、植物種Aと植物種Bが、カラー差(あるいは白黒差)で、図8(a)あるいは、図8(b)のように、区別して表示可能であり、各樹木の特定と夫々の繁茂をマッピングできる。
【0042】
図9(a)は実際の公園において撮影された、通常のカラー写真をモノクロ化した画像の図であり、複数の樹木が密集して繁茂していることがわかる。図9(b)および(c)は、同一観測領域を、ハイパースペクトルセンサを有するカメラで得た画像を用いて、上述の方法と同様に各ピクセル毎に植物種を特定し、その結果を植物種ごとのカラー表示を行って示したものである。この例においては、シラカシとイチョウが隣り合って植生していることが解り、図9(b)には、シラカシと判定されたピクセルの明度を大に、イチョウ部分を小にして表示した例であり、図9(c)は、逆に、イチョウと判定されたピクセルの明度を大に、シラカシ部分を小にして表示した例である。このように、撮影領域の植物種毎のマッピングにも、本発明の植物種の識別方法を容易に適用することができる。
【0043】
以上述べたような植物種の特定の実施例は、以下のような、リモートセンシングによる植物種の特定が可能であることを示している。
【0044】
即ち、予め既知の植物種に関し、ハイパースペクトルカメラなどのハイパースペクトル計測が可能なセンサを用いたリモートセンシングによってその植物種の反射スペクトル強度を高波長分解能で測定し、なおかつ、それを時節毎に行い、こうして得られたスペクトルから、測定波長範囲において、各植物種に共通して同一波長バンド帯に現出する反射強度の極大値、および極小値を取得し、各極値を用いて演算導出する複数種類の指数を植物種特定指数群として、植物種毎・時節毎にデータベース化しておき、未知の植物種の反射スペクトル強度を、ある時節において、同様に測定して植物種特定指数群を得、これを同一時節の植物種特定指数群データベースと比較して、それと合致したものをもってその植物種とする。このとき、明確な特定が困難で、複数の植物種の特定可能性がある場合などは、別の時節における、その未知の植物種の反射スペクトル強度を測定して、別時節の植物種特定指数群を求め、その特定可能性のある複数の植物種の、別時節の植物種特定指数群データベースと比較して植物種間の差異を得て、未知の植物種の特定を行うことができる。そして、さらに、これらの結果を用いて、測定領域(撮影領域)の植物種のマッピングへ適用することも可能となる。
【0045】
上記のリモートセンシングによる植物種の特定においては、多様な種類の植物の反射スペクトル強度を測定するに際し、実施例で行ったような、計測波長範囲350nm〜1050nmにおいて波長バンド5nm刻みで141バンドといった多バンド計測可能なセンサを用いることに限らず、ハイパースペクトル計測、つまり所定の観測波長領域を少なくとも数十の波長バンド数でスペクトル強度を測定可能な光学センサを適用することは可能である。
【0046】
また、本実施例では、測定されたスペクトル強度において、共通して存在する、極大値、極小値の極値出現の波長位置(スペクトル強度極値バンド)のうちの指数化対象波長位置、即ち特異スペクトル強度極値バンドを、前述の5個所のバンド波長帯を選択している。しかし、より測定波長バンド幅を精細化するなどすることなどで、例えば、特定の植物種の分類範囲で出現する特徴ある極値が複数得られる可能性もあり、それらを含めたスペクトル強度極値バンドにおいて、必要に応じて、6個以上の特異スペクトル強度極値バンドを増やすことも可能である。逆に、必要に応じて、4個以下の特異スペクトル強度極値バンドを選択することも可能である。
【0047】
そして、特異スペクトル強度極値バンドにおける各極値から、上記実施例では、4種の指数を選び、これを植物種特定指数群として、植物種特定のキーとなる指数とし、それらの比較を実施している。しかし、植物種特定指数群は、この4種の指数に限る必要は無く、更に、他の新指数を作成し、この新指数を加える、あるいは他の指数と入れ替える、または、4指数のうちのある指数を除外するなどして簡易化し、こうした指数の集合を新たな植物種特定指数群とすることも可能である。
【0048】
また上記実施例では、所定の時節やそれと異なる時節での測定を行った結果の例を用いて説明したが、この時節としては、四季の一つの季節、年間12ヶ月のうちの一つの月、あるいは、植物の、特に、年間を通しての葉の変化状態(例えば、若葉状態・成長した葉状態・紅葉した葉状態・落葉状態など)など、植物種の繁茂状態の変貌に応じた時期・季節・タイミングとすることができる。
【0049】
また実施例では、比較的狭い領域である、例えば公園地区などを、地上で撮影した林などの植物種を特定した例を示したが、この方法は、広範囲な、例えば、航空機からの空撮での測定でも適用可能であることは言うまでも無い。現在実用化されている技術においても、例えば高度1,500mから空撮すると、640×480ピクセルのハイパースペクトル画像の1ピクセルあたりの空間解像度は、約66cm□となり、高精度な植生図作成も可能となる。勿論、1ピクセル中に複数の植物種が存在するようハイパースペクトル画像が捉えられる状況が生じた場合は、植物種の特定が実質不可能となるため、それらを考慮した高度設定が重要であることは言うまでも無い。
【0050】
図10は、これまで詳述した植物種特定のプロセスをフローにして示したものである。
【0051】
図10において、先ず、対象植物種を含む、測定領域のハイパースペクトル画像を撮影する(ステップ1、S1)。次に、対象植物種が撮影されている画像ピクセルにおける反射スペクトル強度をデータ(即ち、波長対スペクトル強度分布図)として取得する(ステップ2、S2)。
【0052】
このデータを用いて、複数のスペクトル強度極大値および極小値を示す複数の波長バンド、即ちスペクトル強度極値バンドを特定して取得し(ステップ3、S3)、そのうち、以降、植物種特定のために必要な、指数とするのに必要な、複数の特異スペクトル強度極値バンドと、夫々のバンドにおける特異スペクトル強度極値を抽出する(ステップ4、S4)。
【0053】
抽出した、複数の特異スペクトル強度極値を、四則演算処理で算出可能な、複数種類の植物種指数を案出して計算し、それら複数の指数を植物種特定指数群として所得する(ステップ5、S5)。この植物種特定指数群をデータベース(DB)に格納してDB化する。
【0054】
または、更に、対象植物種の、ステップ5で得た時節とは異なる時節の植物種特定指数群を取得(ステップ6、S6)し、これもデータベース(DB)に格納してDB化する。
【0055】
ここで、新たに未知の植物種を特定すべく(START)、その植物種の、DB化されたものと同じ植物種特定指数群を取得する(ステップ7、S7)。この際、測定する時節は先にステップ1〜5で得た時節と同じにし、未知の植物種特定指数群と、DB化した既知の植物種特定指数群を比較する(ステップ8、S8)。同じ植物種特定指数群が見出されない場合は、異なる時節の植物種特定指数群を求め、その時節のDB化された植物種特定指数群と比較する。こうすることで、未知の植物種の特定をする(ステップ9、S9)。
【0056】
更に、この結果を用い、撮影された個々のピクセル毎に、その個所の植物種を特定し、この結果を撮影領域全体に反映して、植物種の識別した結果のマッピングを行って(ステップ10、S10)、撮影領域全体における植物種別マップを完成する(END)。
【0057】
以上述べた、本発明の植物種の識別方法は、測定範囲に対してハイパースペクトル画像撮影を行って、各ピクセル毎のスペクトル強度測定を実施することと、複数時節での撮影結果をさらに用いることから、比較的容易に高い確度で、撮影ピクセルでの植物種の特定を行うことができ、さらに、この結果を全撮影ピクセルに実施することで、植生マッピングも高い確度で行うことができることが解る。
【0058】
以上の実施例を含む実施の形態に関し、以下の付記を開示する。
【0059】
(付記1)
測定対象植物種が植生する撮影領域を、所定の観測波長域を少なくとも数十の波長バンド数でスペクトル強度を観測可能な光学センサ装置を用いて、所定の時節を含む他の時節における夫々のスペクトル画像を撮影するステップと、
前記スペクトル画像中の、前記測定対象植物種が撮影されているピクセル位置での反射スペクトルにおいて、スペクトル強度の極大値または極少値であるスペクトル強度極値を示す複数のスペクトル強度極値バンドを取得するステップと、
前記スペクトル強度極値バンドのうち、複数の特異スペクトル強度極値バンドにおける夫々の特異スペクトル強度極値を抽出するステップと、
前記特異スペクトル強度極値のうちの、複数の所定の特異スペクトル強度極値を用いた演算処理によって算出する、前記測定対象植物種の、複数の植物種指数からなる植物種特定指数群を取得するステップと、
未知の測定対象植物種の前記所定の時節の前記植物種特定指数群を取得し、既知の植物種から取得した前記植物種特定指数群と比較して、前記未知の測定対象植物種の植物種特定するステップと、
前記植物種特定が不可能であった場合、前記所定の時節と異なる前記他の時節のスペクトル画像の撮影するステップ以降の前記各ステップによって前記未知の測定対象植物種の植物種特定をするステップと
を有することを特徴とする植物種識別方法。
(付記2)
前記複数の特異スペクトル強度極値バンドは、少なくとも、次の、バンドA、バンドB、バンドC、バンドD、バンドEの5バンド波長帯を含み、バンドA、バンドC、バンドEのスペクトル強度極値は極大値を示し、バンドB、バンドDのスペクトル強度極値は極小値を示すことを特徴とする付記1記載の植物種識別方法。
(1)Aバンド:550±5nm
(2)Bバンド:680±10nm
(3)Cバンド:750±5nm
(4)Dバンド:760±5nm
(5)Eバンド:770±5nm
(付記3)
前記植物種特定指数群は、
前記バンドA、バンドB、バンドC、バンドD、バンドEの各特異スペクトル強度極値バンドの各特異スペクトル強度極値を、夫々強度A、強度B、強度C、強度D、強度Eとしたとき、少なくとも、次の、指数1、指数2、指数3、指数4を含むことを特徴とする付記2記載の植物種識別方法。
(1)指数1;強度Cと強度Aの比
即ち:C/A
(2)指数2;[強度Cと強度Bの差分]と[強度Aと強度Bの差分]の比
即ち:(C−B)/(A−B)
(3)指数3;[強度Aと強度Bの比]と[強度Aと強度Cの比]の比
即ち:(A/B)/(A/C)
(4)指数4[[強度Cと強度Bの差分]と[強度Cと強度Dの差分]の比]と[[強度
Cと強度Dの差分]と[強度Cと強度Eの差分]の比]の比
即ち:((C−B)/(C−D))/((C−D)/(C−E))
(付記4)
前記所定の観測波長域は、350nm〜1050nmであり、前記波長バンド数は141であることを特徴とする付記1ないし3のいずれかに記載の植物種識別方法。
(付記5)
前記時節は、四季または前記測定対象植物種の繁茂状態の変貌後段階時期であることを特徴とする付記1ないし4のいずれかに記載の植物種識別方法。
(付記6)
付記1の植物種識別方法によって、前記撮影領域の全ピクセルにおける植物種を特定することを特徴とする前記撮影領域の植生マップ作成方法。
【符号の説明】
【0060】
1 航空機
2 人工衛星
3 対象物
4 太陽光
5 カメラ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象植物種が植生する撮影領域を、所定の観測波長域を少なくとも数十の波長バンド数でスペクトル強度を観測可能な光学センサ装置を用いて、所定の時節を含む他の時節における夫々のスペクトル画像を撮影するステップと、
前記スペクトル画像中の、前記測定対象植物種が撮影されているピクセル位置での反射スペクトルにおいて、スペクトル強度の極大値または極少値であるスペクトル強度極値を示す複数のスペクトル強度極値バンドを取得するステップと、
前記スペクトル強度極値バンドのうち、複数の特異スペクトル強度極値バンドにおける夫々の特異スペクトル強度極値を抽出するステップと、
前記特異スペクトル強度極値のうちの、複数の所定の特異スペクトル強度極値を用いた演算処理によって算出する、前記測定対象植物種の、複数の植物種指数からなる植物種特定指数群を取得するステップと、
未知の測定対象植物種の前記所定の時節の前記植物種特定指数群を取得し、既知の植物種から取得した前記植物種特定指数群と比較して、前記未知の測定対象植物種の植物種特定するステップと、
前記植物種特定が不可能であった場合、前記所定の時節と異なる前記他の時節のスペクトル画像の撮影するステップ以降の前記各ステップによって前記未知の測定対象植物種の植物種特定をするステップと、
を有することを特徴とする植物種識別方法。
【請求項2】
前記複数の特異スペクトル強度極値バンドは、少なくとも、次の、バンドA、バンドB、バンドC、バンドD、バンドEの5バンド波長帯を含み、バンドA、バンドC、バンドEのスペクトル強度極値は極大値を示し、バンドB、バンドDのスペクトル強度極値は極小値を示すことを特徴とする請求項1記載の植物種識別方法。
(1)Aバンド:550±5nm
(2)Bバンド:680±10nm
(3)Cバンド:750±5nm
(4)Dバンド:760±5nm
(5)Eバンド:770±5nm
【請求項3】
前記植物種特定指数群は、
前記バンドA、バンドB、バンドC、バンドD、バンドEの各特異スペクトル強度極値バンドの各特異スペクトル強度極値を、夫々強度A、強度B、強度C、強度D、強度Eとしたとき、少なくとも、次の、指数1、指数2、指数3、指数4を含むことを特徴とする請求項2記載の植物種識別方法。
(1)指数1;強度Cと強度Aの比
即ち:C/A
(2)指数2;[強度Cと強度Bの差分]と[強度Aと強度Bの差分]の比
即ち:(C−B)/(A−B)
(3)指数3;[強度Aと強度Bの比]と[強度Aと強度Cの比]の比
即ち:(A/B)/(A/C)
(4)指数4[[強度Cと強度Bの差分]と[強度Cと強度Dの差分]の比]と[[強度
Cと強度Dの差分]と[強度Cと強度Eの差分]の比]の比
即ち:((C−B)/(C−D))/((C−D)/(C−E))
【請求項4】
前記所定の観測波長域は、350nm〜1050nmであり、前記波長バンド数は141であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の植物種識別方法。
【請求項5】
前記時節は、四季または前記測定対象植物種の繁茂状態の変貌後段階時期であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の植物種識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−196167(P2012−196167A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61832(P2011−61832)
【出願日】平成23年3月20日(2011.3.20)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】