検体収容容器
【課題】血液などの検体を好適に密閉しつつ、蓋体が誤って外れてしまうことを防止することが可能な検体収容容器を提供すること。
【解決手段】血液Sを収容しうる有底筒部1と、有底筒部1を密閉する蓋体2と、を備える検体収容容器A1であって、蓋体2の有底筒部1への挿入においては、蓋体2と有底筒部1とのすき間3から有底筒部1内の気体を放出しうる非密閉期間と、この非密閉期間の後に蓋体2が有底筒部1を密閉する密閉期間と、が存在する。
【解決手段】血液Sを収容しうる有底筒部1と、有底筒部1を密閉する蓋体2と、を備える検体収容容器A1であって、蓋体2の有底筒部1への挿入においては、蓋体2と有底筒部1とのすき間3から有底筒部1内の気体を放出しうる非密閉期間と、この非密閉期間の後に蓋体2が有底筒部1を密閉する密閉期間と、が存在する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば遠心分離装置用容器に使うことのできる検体収容容器に関する。
【背景技術】
【0002】
血液中には、赤血球や白血球のほか、グルコース、アルブミン、カルシウムなどの種々の成分が含まれている。血球成分以外の成分(血漿)の濃度測定を行なう場合には、それら検体を収容するための容器が利用される。また、それら血漿成分を含む検体を測定する際の測定誤差を回避するために、前もって血漿成分と血球成分とを分離しておくことが望ましい。
【0003】
従来より、血液中の成分濃度を測定するために、検体を収容するための容器が提案および市販されている。それら容器は、内部に収容された検体、例えば血液を、血漿成分と血球成分に分離するために、遠心分離装置へ掛けられたり、静置される。測定者は、血液中の成分濃度を測定するために、血球成分とは分離された血漿成分を、当該検体収容容器内部からピペット等を用いて取り出し、測定に供するものである。測定は手技の他、これら血液中の成分濃度を効率的に測定すべく、卓上の小型遠心分離装置と自動分析装置との組み合わせ、または、小型遠心分離装置機構を内蔵した種々の分析装置が提案されており(たとえば特許文献1)、図14は、そのような遠心分離装置に好ましく用いられる検体収容容器の一例を示している。同図に示された容器Xは、有底筒部91および蓋体92からなる。有底筒部91には、血液Sを収容可能である。蓋体92は、有底筒部91の内面に嵌合する先端板部92aを有している。たとえば血液Sを抗凝固薬とともに有底筒部91に注入した後に、先端板部92aを有底筒部91に押し込むことにより有底筒部91を密閉する。この状態で、容器Xを上下逆さまにしながら軽く振ることにより、血液Sを上記抗凝固薬と混合する。この転倒混和と呼ばれる作業を施した後には、蓋体92が取り除かれ、有底筒部91が上記遠心分離装置に装填される。そして、上記遠心分離装置による遠心分離、検体採取、および成分濃度の測定作業が、上記分析装置によって自動的に行われる。
【0004】
しかしながら、転倒混和を適切に行える程度に有底筒部91を密閉するためには、先端板部92aと有底筒部91の内面とは、全周にわたって密着状態であることが必要である。また、転倒混和などの作業において蓋体92aが外力によって誤って有底筒部91から外れてしまうことを防ぐためには、先端板部92aを有底筒部91に対して比較的深い位置まで挿入することが好ましい。蓋体92を有底筒部91に挿入すると、有底筒部91に収容された空気が、顕著に圧縮される。特に、上記分析装置および上記遠心分離装置の省スペース化のために容器Xが小型とされるほど、蓋体92による圧縮率が大となる。この結果、有底筒部91の内圧によって、蓋体92が有底筒部91から弾き飛ばされるという不具合を生じていた。
【特許文献1】再表WO02/016043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、血液などの検体を好適に密閉しつつ、蓋体が誤って外れてしまうことを防止することが可能な検体収容容器を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によって提供される検体収容容器は、液体を収容しうる有底筒部と、上記有底筒部を密閉する蓋体と、を備える検体収容容器であって、上記蓋体の上記有底筒部への挿入においては、上記蓋体と上記有底筒部とのすき間から上記有底筒部内の気体を放出しうる非密閉期間と、この非密閉期間の後に上記蓋体が上記有底筒部を密閉する密閉期間と、が存在することを特徴としている。
【0007】
このような構成によれば、上記非密閉期間においては、上記蓋体の挿入により上記有底筒部の内部空間が縮小されても、縮小分に相当する空気が上記すき間から放出される。このため、上記非密閉期間中は、上記有底筒部の内圧はほとんど上昇しない。そして、上記蓋体の挿入が進行し上記密閉期間に移行すると、上記有底筒部は上記蓋体によって適切に密閉される。これにより、上記蓋体の挿入深さを深くしつつ、上記有底筒部の内圧が不当に高くなってしまうことを適切に防止することが可能である。上記蓋体の挿入深さが深いほど、モーメントなどの外力によって上記蓋体が外れてしまうことを防止するのに好ましい。また、上記有底筒部の内圧の過度な上昇を防ぐことにより、上記蓋体が弾け飛ぶように有底筒部から抜けてしまうことを回避することができる。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記有底筒部には、開口端から深さ方向に延びる溝が形成されており、少なくとも上記蓋体の挿入方向先端が上記溝の先端を通過するまでの期間が、上記非密閉期間とされている。このような構成によれば、上記非密閉期間において上記蓋体が過度に変形することが強いられない。これは、上記蓋体の耐久性を高めるのに有利である。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記有底筒部には、開口端から深さ方向に延び、かつ上記蓋体を局所的に変形させることにより上記すき間を生じうる凸部が形成されており、少なくとも上記蓋体の挿入方向先端が上記凸部の先端を通過するまでの期間が、上記非密閉期間とされている。このような構成によれば、上記蓋体が完全に挿入された状態から上記蓋体を引き抜くときには、上記凸部が引抜に対する抗力を生じる。これにより、上記蓋体の意図しない抜け落ちを防止することができる。
【0010】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0012】
図1〜図3は、本発明に係る検体収容容器の第1実施形態を示している。本実施形態の容器A1は、有底筒部1および蓋体2からなり、たとえば血液に含まれる血球成分以外の成分(血漿)の濃度測定を行うために、前もって血球成分と血漿とを分離するための遠心分離に用いられる。遠心分離装置に用いられる態様は、本発明に係る検体収容容器の理解を深めるための一態様であり、もちろん上記検体収容容器の用途はこれに限定されない。
【0013】
有底筒部1は、透明または半透明の材質からなる。この材質の一例としては、たとえばポリプロピレンなどの樹脂、またはガラスが挙げられる。透明または半透明の材質を用いれば、血液などの液体の注入作業を容易に行うことが可能であるが、不透明な材質によって形成してもよい。図1〜図3および図5に示すように、有底筒部1は、開口11、溝12、1対の軸部14、および1対の把持部15を有しており、断面楕円形状の筒状である。本実施形態においては、有底筒部1は、長さ方向において断面形状がほぼ一定のサイズとされている。
【0014】
開口11は、有底筒部1に血液Sなどの液体を注入する部分である。また、開口11から蓋体2が挿入される。溝12は、図5によくあらわれているように、開口11から深さ方向に延びており、たとえば断面半円状である。図3に示すように、蓋体2が有底筒部1に完全に挿入された状態においては、溝12の深さ方向先端は、蓋体2の深さ方向先端よりも浅い位置にある。
【0015】
1対の軸部14は、互いに反対方向に突出する円柱状であり、遠心分離装置に対して有底筒部1を枢動可能に吊持するのに用いられる。1対の把持部15は、開口11両側から延びる舌状部である。1対の把持部15は、使用者が容器A1または有底筒部1を持ち運びするのに用いられる。
【0016】
図6に示すように、本実施形態の容器A1は、有底筒部1が単体で遠心分離装置Bに装填される。遠心分離装置Bは、モータ41およびロータ42を備えており、検体である血液を血球成分と血漿とに分離するための装置である。モータ41は、ロータ42の直下に配置されており、駆動軸(図示略)を介してロータ42に直結されている。ロータ42は、たとえば樹脂製であり、厚肉円筒状とされている。
【0017】
ロータ42には、1対の係止部42aが形成されている。各係止部42aは、たとえば半円形溝として形成されている。1対の係止部42aには、1対の軸部14が係止される。これにより、有底筒部1は、ロータ42に対して枢動可能に吊持される。モータ41の駆動力によってロータ42が回転すると、有底筒部1が遠心力により深さ方向が回転径方向に一致するようにスイングする。この回転状態を継続することにより、血液の分離がなされる。
【0018】
蓋体2は、有底筒部1を密閉するためのものであり、たとえばポリエチレンなどの比較的軟質な樹脂からなる。図4に示すように、蓋体2は、フランジ21、リブ22、先端板部23、および把持部24を有している。フランジ21は、楕円板状であり、有底筒部1の開口11よりも大である。フランジ21は、有底筒部1に対する蓋体2の挿入深さを規定するためのものである。リブ22は、フランジ21から深さ方向に延びており、本実施形態においては断面十字状である。先端板部23は、リブ22の先端に設けられており、楕円板状である。先端板部23は、有底筒部1の内面に密着状態で嵌合するサイズとされている。把持部24は、フランジ21から延びるL字状部分であり、使用者が蓋体2を保持するために用いられる。
【0019】
図7は、有底筒部1に血液Sを注入した状態を示している。有底筒部1には、ヘパリンなどの抗凝固薬があらかじめ収容されている。上述した遠心分離装置Bによる遠心分離に先立ち、血液Sと抗凝固薬とを十分に混合させておく必要がある。この混合は、いわゆる転倒混和によってなされる。この作業を行うために、蓋体2によって有底筒部1を密閉する。
【0020】
図8は、有底筒部1に蓋体2を挿入する過程を示している。同図に示された状態は、本発明で言う非密閉期間である。非密閉期間とは、蓋体2の先端板部23の下端(先端)が有底筒部1の開口11と溝12の下端との間に位置している状態をいう。この状態においては、先端板部23が有底筒部1の内面に対して、溝12が形成された部分を除き密着している。溝12は、先端板部23によっては埋められない。これにより、蓋体2と有底筒部1との間にすき間3が形成される。このすき間3からは、有底筒部1内の空気が容易に放出されうる。
【0021】
さらに蓋体2を挿入すると、図3に示すように、蓋体2のフランジ21が有底筒部1に当接する。これにより蓋体2の挿入が完了し、有底筒部1が密閉される。先端板部23の下端が溝12の下端を過ぎてから蓋体2の挿入が完了するまでの状態を、密閉期間という。この密閉期間においては、先端板部23の少なくとも一部が全周にわたって有底筒部1の内面と密着する。これにより、有底筒部1は蓋体2によって密閉される。
【0022】
次に、容器A1の作用について説明する。
【0023】
本実施形態によれば、上記非密閉期間においては、蓋体2の挿入により有底筒部1の内部空間が縮小されても、縮小分に相当する空気がすき間3から放出される。このため、上記非密閉期間中は、有底筒部1の内圧はほとんど上昇しない。そして、蓋体2の挿入が進行し上記密閉期間に移行すると、有底筒部1は蓋体2によって適切に密閉される。これにより、先端板部23の挿入深さを深くしつつ、有底筒部1の内圧が不当に高くなってしまうことを適切に防止することが可能である。先端板部23の挿入深さが深いほど、モーメントなどの外力によって蓋体2が外れてしまうことを防止するのに好ましい。また、有底筒部1の内圧の過度な上昇を防ぐことにより、蓋体2が弾け飛ぶように有底筒部1から抜けてしまうことを回避することができる。
【0024】
溝12によってすき間3を形成する構成であれば、上記非密閉期間において蓋体2が過度に変形することが強いられない。これは、蓋体2の耐久性を高めるのに有利である。
【0025】
図9〜図13は、本発明の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
【0026】
図9〜図12は、本発明に係る検体収容容器の第2実施形態を示している。本実施形態の容器A2は、有底筒部1の構成が上述した実施形態と異なっている。本実施形態においては、有底筒部1には、リブ13が形成されている。リブ13は、開口11から深さ方向に延びており、その長さはたとえば上述した実施形態における溝12の長さと同等である。図9に示す蓋体2の挿入完了状態においては、蓋体2の先端板部23は、リブ13を超えた位置にある。リブ13は、本発明でいう凸部の一例である。
【0027】
図10に示すように、血液Sを有底筒部1に注入した後に、蓋体2の挿入を開始する。このときは、当然に先端板部23は歪みのない楕円形を呈している。図11および図12は、非密閉期間における容器A2を示している。非密閉期間においては、先端板部23がリブ13に当接する。このため、先端板部23がリブ13によって局所的に変形される。これにより、蓋体2と有底筒部1との間にすき間3が生じる。このすき間3からは、有底筒部1内の空気が放出されうる。
【0028】
このような実施形態によっても、上記非密閉期間における有底筒部1内の過度な内圧上昇の防止と、上記密閉期間における蓋体2による有底筒部1の密閉とを実現できる。さらに、図9によく表れているように、蓋体2が完全に挿入された状態から蓋体2を引き抜くときには、リブ13が引抜に対する抗力を生じる。これにより、蓋体2の意図しない抜け落ちを防止することができる。
【0029】
図13は、本発明に係る検体収容容器の第3実施形態に用いられる蓋体を示している。本実施形態の蓋体2は、胴部25および溝26を有している点が、上述した実施形態の蓋体2と異なっている。胴部25は、フランジ21から延びており、断面が一様な楕円形状とされている。溝26は、胴部25の先端から延びている。胴部25の長さは、たとえば上述した実施形態の蓋体2のフランジ21下面から先端板部23下面までの距離とほぼ同じである。また、溝26の長さは、上述した実施形態における溝12またはリブ13の長さとほぼ同じである。本実施形態に用いられる有底筒部1は、上述した実施形態の有底筒部1から溝12またはリブ13を除いたものである。すなわち、本実施形態の有底筒部1は、内面が平滑とされており、断面が一様な楕円形状とされている。
【0030】
このような実施形態によっても、蓋体2の挿入において、胴部25の先端が開口11を通過してから、溝26の上端が開口11を通過するまでの間が、本発明でいう非密閉期間となる。そして、溝26の上端が開口11を通過した以降は、本発明で言う密閉期間となる。したがって、上記非密閉期間における有底筒部1内の過度な内圧上昇の防止と、上記密閉期間における蓋体2による有底筒部1の密閉とを実現できる。
【0031】
本発明に係る検体収容容器は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る検体収容容器の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0032】
上述した実施形態は、本発明に係る検体収容容器の一態様として、遠心分離装置に用いられる形態を例に説明したが、本発明に係る検体収容容器の用途はこれに限定されない。検体を一時的に密閉状態で収容し、その後の検査工程に移る際に再び開放されることが必要とされる用途であれば、本発明に係る検体収容容器を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る検体収容容器の第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す検体収容容器を示す正面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図である(密閉期間)。
【図4】図1に示す検体収容容器に用いられる蓋体を示す斜視図である。
【図5】図1に示す検体収容容器に用いられる有底筒部を示す斜視図である。
【図6】図1に示す検体収容容器の使用状態を示す斜視図である。
【図7】図1に示す検体収容容器に血液を注入した状態を示す断面図である。
【図8】図1に示す検体収容容器の非密閉期間における状態を示す断面図である。
【図9】本発明に係る検体収容容器の第2実施形態を示す断面図である。
【図10】図9に示す検体収容容器に血液を注入した状態を示す断面図である。
【図11】図9に示す検体収容容器の非密閉期間における状態を示す断面図である。
【図12】図11のXII−XII線に沿う断面図である。
【図13】本発明に係る検体収容容器の第3実施形態に用いられる蓋体を示す斜視図である。
【図14】従来の検体収容容器の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
A1,A2 (検体収容)容器
B 遠心分離装置
1 有底筒部
2 蓋体
3 すき間
11 開口
12 溝
13 リブ
14 軸部
15 把持部
21 フランジ
22 リブ
23 先端板部
24 把持部
25 胴部
26 溝
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば遠心分離装置用容器に使うことのできる検体収容容器に関する。
【背景技術】
【0002】
血液中には、赤血球や白血球のほか、グルコース、アルブミン、カルシウムなどの種々の成分が含まれている。血球成分以外の成分(血漿)の濃度測定を行なう場合には、それら検体を収容するための容器が利用される。また、それら血漿成分を含む検体を測定する際の測定誤差を回避するために、前もって血漿成分と血球成分とを分離しておくことが望ましい。
【0003】
従来より、血液中の成分濃度を測定するために、検体を収容するための容器が提案および市販されている。それら容器は、内部に収容された検体、例えば血液を、血漿成分と血球成分に分離するために、遠心分離装置へ掛けられたり、静置される。測定者は、血液中の成分濃度を測定するために、血球成分とは分離された血漿成分を、当該検体収容容器内部からピペット等を用いて取り出し、測定に供するものである。測定は手技の他、これら血液中の成分濃度を効率的に測定すべく、卓上の小型遠心分離装置と自動分析装置との組み合わせ、または、小型遠心分離装置機構を内蔵した種々の分析装置が提案されており(たとえば特許文献1)、図14は、そのような遠心分離装置に好ましく用いられる検体収容容器の一例を示している。同図に示された容器Xは、有底筒部91および蓋体92からなる。有底筒部91には、血液Sを収容可能である。蓋体92は、有底筒部91の内面に嵌合する先端板部92aを有している。たとえば血液Sを抗凝固薬とともに有底筒部91に注入した後に、先端板部92aを有底筒部91に押し込むことにより有底筒部91を密閉する。この状態で、容器Xを上下逆さまにしながら軽く振ることにより、血液Sを上記抗凝固薬と混合する。この転倒混和と呼ばれる作業を施した後には、蓋体92が取り除かれ、有底筒部91が上記遠心分離装置に装填される。そして、上記遠心分離装置による遠心分離、検体採取、および成分濃度の測定作業が、上記分析装置によって自動的に行われる。
【0004】
しかしながら、転倒混和を適切に行える程度に有底筒部91を密閉するためには、先端板部92aと有底筒部91の内面とは、全周にわたって密着状態であることが必要である。また、転倒混和などの作業において蓋体92aが外力によって誤って有底筒部91から外れてしまうことを防ぐためには、先端板部92aを有底筒部91に対して比較的深い位置まで挿入することが好ましい。蓋体92を有底筒部91に挿入すると、有底筒部91に収容された空気が、顕著に圧縮される。特に、上記分析装置および上記遠心分離装置の省スペース化のために容器Xが小型とされるほど、蓋体92による圧縮率が大となる。この結果、有底筒部91の内圧によって、蓋体92が有底筒部91から弾き飛ばされるという不具合を生じていた。
【特許文献1】再表WO02/016043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、血液などの検体を好適に密閉しつつ、蓋体が誤って外れてしまうことを防止することが可能な検体収容容器を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によって提供される検体収容容器は、液体を収容しうる有底筒部と、上記有底筒部を密閉する蓋体と、を備える検体収容容器であって、上記蓋体の上記有底筒部への挿入においては、上記蓋体と上記有底筒部とのすき間から上記有底筒部内の気体を放出しうる非密閉期間と、この非密閉期間の後に上記蓋体が上記有底筒部を密閉する密閉期間と、が存在することを特徴としている。
【0007】
このような構成によれば、上記非密閉期間においては、上記蓋体の挿入により上記有底筒部の内部空間が縮小されても、縮小分に相当する空気が上記すき間から放出される。このため、上記非密閉期間中は、上記有底筒部の内圧はほとんど上昇しない。そして、上記蓋体の挿入が進行し上記密閉期間に移行すると、上記有底筒部は上記蓋体によって適切に密閉される。これにより、上記蓋体の挿入深さを深くしつつ、上記有底筒部の内圧が不当に高くなってしまうことを適切に防止することが可能である。上記蓋体の挿入深さが深いほど、モーメントなどの外力によって上記蓋体が外れてしまうことを防止するのに好ましい。また、上記有底筒部の内圧の過度な上昇を防ぐことにより、上記蓋体が弾け飛ぶように有底筒部から抜けてしまうことを回避することができる。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記有底筒部には、開口端から深さ方向に延びる溝が形成されており、少なくとも上記蓋体の挿入方向先端が上記溝の先端を通過するまでの期間が、上記非密閉期間とされている。このような構成によれば、上記非密閉期間において上記蓋体が過度に変形することが強いられない。これは、上記蓋体の耐久性を高めるのに有利である。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記有底筒部には、開口端から深さ方向に延び、かつ上記蓋体を局所的に変形させることにより上記すき間を生じうる凸部が形成されており、少なくとも上記蓋体の挿入方向先端が上記凸部の先端を通過するまでの期間が、上記非密閉期間とされている。このような構成によれば、上記蓋体が完全に挿入された状態から上記蓋体を引き抜くときには、上記凸部が引抜に対する抗力を生じる。これにより、上記蓋体の意図しない抜け落ちを防止することができる。
【0010】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0012】
図1〜図3は、本発明に係る検体収容容器の第1実施形態を示している。本実施形態の容器A1は、有底筒部1および蓋体2からなり、たとえば血液に含まれる血球成分以外の成分(血漿)の濃度測定を行うために、前もって血球成分と血漿とを分離するための遠心分離に用いられる。遠心分離装置に用いられる態様は、本発明に係る検体収容容器の理解を深めるための一態様であり、もちろん上記検体収容容器の用途はこれに限定されない。
【0013】
有底筒部1は、透明または半透明の材質からなる。この材質の一例としては、たとえばポリプロピレンなどの樹脂、またはガラスが挙げられる。透明または半透明の材質を用いれば、血液などの液体の注入作業を容易に行うことが可能であるが、不透明な材質によって形成してもよい。図1〜図3および図5に示すように、有底筒部1は、開口11、溝12、1対の軸部14、および1対の把持部15を有しており、断面楕円形状の筒状である。本実施形態においては、有底筒部1は、長さ方向において断面形状がほぼ一定のサイズとされている。
【0014】
開口11は、有底筒部1に血液Sなどの液体を注入する部分である。また、開口11から蓋体2が挿入される。溝12は、図5によくあらわれているように、開口11から深さ方向に延びており、たとえば断面半円状である。図3に示すように、蓋体2が有底筒部1に完全に挿入された状態においては、溝12の深さ方向先端は、蓋体2の深さ方向先端よりも浅い位置にある。
【0015】
1対の軸部14は、互いに反対方向に突出する円柱状であり、遠心分離装置に対して有底筒部1を枢動可能に吊持するのに用いられる。1対の把持部15は、開口11両側から延びる舌状部である。1対の把持部15は、使用者が容器A1または有底筒部1を持ち運びするのに用いられる。
【0016】
図6に示すように、本実施形態の容器A1は、有底筒部1が単体で遠心分離装置Bに装填される。遠心分離装置Bは、モータ41およびロータ42を備えており、検体である血液を血球成分と血漿とに分離するための装置である。モータ41は、ロータ42の直下に配置されており、駆動軸(図示略)を介してロータ42に直結されている。ロータ42は、たとえば樹脂製であり、厚肉円筒状とされている。
【0017】
ロータ42には、1対の係止部42aが形成されている。各係止部42aは、たとえば半円形溝として形成されている。1対の係止部42aには、1対の軸部14が係止される。これにより、有底筒部1は、ロータ42に対して枢動可能に吊持される。モータ41の駆動力によってロータ42が回転すると、有底筒部1が遠心力により深さ方向が回転径方向に一致するようにスイングする。この回転状態を継続することにより、血液の分離がなされる。
【0018】
蓋体2は、有底筒部1を密閉するためのものであり、たとえばポリエチレンなどの比較的軟質な樹脂からなる。図4に示すように、蓋体2は、フランジ21、リブ22、先端板部23、および把持部24を有している。フランジ21は、楕円板状であり、有底筒部1の開口11よりも大である。フランジ21は、有底筒部1に対する蓋体2の挿入深さを規定するためのものである。リブ22は、フランジ21から深さ方向に延びており、本実施形態においては断面十字状である。先端板部23は、リブ22の先端に設けられており、楕円板状である。先端板部23は、有底筒部1の内面に密着状態で嵌合するサイズとされている。把持部24は、フランジ21から延びるL字状部分であり、使用者が蓋体2を保持するために用いられる。
【0019】
図7は、有底筒部1に血液Sを注入した状態を示している。有底筒部1には、ヘパリンなどの抗凝固薬があらかじめ収容されている。上述した遠心分離装置Bによる遠心分離に先立ち、血液Sと抗凝固薬とを十分に混合させておく必要がある。この混合は、いわゆる転倒混和によってなされる。この作業を行うために、蓋体2によって有底筒部1を密閉する。
【0020】
図8は、有底筒部1に蓋体2を挿入する過程を示している。同図に示された状態は、本発明で言う非密閉期間である。非密閉期間とは、蓋体2の先端板部23の下端(先端)が有底筒部1の開口11と溝12の下端との間に位置している状態をいう。この状態においては、先端板部23が有底筒部1の内面に対して、溝12が形成された部分を除き密着している。溝12は、先端板部23によっては埋められない。これにより、蓋体2と有底筒部1との間にすき間3が形成される。このすき間3からは、有底筒部1内の空気が容易に放出されうる。
【0021】
さらに蓋体2を挿入すると、図3に示すように、蓋体2のフランジ21が有底筒部1に当接する。これにより蓋体2の挿入が完了し、有底筒部1が密閉される。先端板部23の下端が溝12の下端を過ぎてから蓋体2の挿入が完了するまでの状態を、密閉期間という。この密閉期間においては、先端板部23の少なくとも一部が全周にわたって有底筒部1の内面と密着する。これにより、有底筒部1は蓋体2によって密閉される。
【0022】
次に、容器A1の作用について説明する。
【0023】
本実施形態によれば、上記非密閉期間においては、蓋体2の挿入により有底筒部1の内部空間が縮小されても、縮小分に相当する空気がすき間3から放出される。このため、上記非密閉期間中は、有底筒部1の内圧はほとんど上昇しない。そして、蓋体2の挿入が進行し上記密閉期間に移行すると、有底筒部1は蓋体2によって適切に密閉される。これにより、先端板部23の挿入深さを深くしつつ、有底筒部1の内圧が不当に高くなってしまうことを適切に防止することが可能である。先端板部23の挿入深さが深いほど、モーメントなどの外力によって蓋体2が外れてしまうことを防止するのに好ましい。また、有底筒部1の内圧の過度な上昇を防ぐことにより、蓋体2が弾け飛ぶように有底筒部1から抜けてしまうことを回避することができる。
【0024】
溝12によってすき間3を形成する構成であれば、上記非密閉期間において蓋体2が過度に変形することが強いられない。これは、蓋体2の耐久性を高めるのに有利である。
【0025】
図9〜図13は、本発明の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
【0026】
図9〜図12は、本発明に係る検体収容容器の第2実施形態を示している。本実施形態の容器A2は、有底筒部1の構成が上述した実施形態と異なっている。本実施形態においては、有底筒部1には、リブ13が形成されている。リブ13は、開口11から深さ方向に延びており、その長さはたとえば上述した実施形態における溝12の長さと同等である。図9に示す蓋体2の挿入完了状態においては、蓋体2の先端板部23は、リブ13を超えた位置にある。リブ13は、本発明でいう凸部の一例である。
【0027】
図10に示すように、血液Sを有底筒部1に注入した後に、蓋体2の挿入を開始する。このときは、当然に先端板部23は歪みのない楕円形を呈している。図11および図12は、非密閉期間における容器A2を示している。非密閉期間においては、先端板部23がリブ13に当接する。このため、先端板部23がリブ13によって局所的に変形される。これにより、蓋体2と有底筒部1との間にすき間3が生じる。このすき間3からは、有底筒部1内の空気が放出されうる。
【0028】
このような実施形態によっても、上記非密閉期間における有底筒部1内の過度な内圧上昇の防止と、上記密閉期間における蓋体2による有底筒部1の密閉とを実現できる。さらに、図9によく表れているように、蓋体2が完全に挿入された状態から蓋体2を引き抜くときには、リブ13が引抜に対する抗力を生じる。これにより、蓋体2の意図しない抜け落ちを防止することができる。
【0029】
図13は、本発明に係る検体収容容器の第3実施形態に用いられる蓋体を示している。本実施形態の蓋体2は、胴部25および溝26を有している点が、上述した実施形態の蓋体2と異なっている。胴部25は、フランジ21から延びており、断面が一様な楕円形状とされている。溝26は、胴部25の先端から延びている。胴部25の長さは、たとえば上述した実施形態の蓋体2のフランジ21下面から先端板部23下面までの距離とほぼ同じである。また、溝26の長さは、上述した実施形態における溝12またはリブ13の長さとほぼ同じである。本実施形態に用いられる有底筒部1は、上述した実施形態の有底筒部1から溝12またはリブ13を除いたものである。すなわち、本実施形態の有底筒部1は、内面が平滑とされており、断面が一様な楕円形状とされている。
【0030】
このような実施形態によっても、蓋体2の挿入において、胴部25の先端が開口11を通過してから、溝26の上端が開口11を通過するまでの間が、本発明でいう非密閉期間となる。そして、溝26の上端が開口11を通過した以降は、本発明で言う密閉期間となる。したがって、上記非密閉期間における有底筒部1内の過度な内圧上昇の防止と、上記密閉期間における蓋体2による有底筒部1の密閉とを実現できる。
【0031】
本発明に係る検体収容容器は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る検体収容容器の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0032】
上述した実施形態は、本発明に係る検体収容容器の一態様として、遠心分離装置に用いられる形態を例に説明したが、本発明に係る検体収容容器の用途はこれに限定されない。検体を一時的に密閉状態で収容し、その後の検査工程に移る際に再び開放されることが必要とされる用途であれば、本発明に係る検体収容容器を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る検体収容容器の第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す検体収容容器を示す正面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図である(密閉期間)。
【図4】図1に示す検体収容容器に用いられる蓋体を示す斜視図である。
【図5】図1に示す検体収容容器に用いられる有底筒部を示す斜視図である。
【図6】図1に示す検体収容容器の使用状態を示す斜視図である。
【図7】図1に示す検体収容容器に血液を注入した状態を示す断面図である。
【図8】図1に示す検体収容容器の非密閉期間における状態を示す断面図である。
【図9】本発明に係る検体収容容器の第2実施形態を示す断面図である。
【図10】図9に示す検体収容容器に血液を注入した状態を示す断面図である。
【図11】図9に示す検体収容容器の非密閉期間における状態を示す断面図である。
【図12】図11のXII−XII線に沿う断面図である。
【図13】本発明に係る検体収容容器の第3実施形態に用いられる蓋体を示す斜視図である。
【図14】従来の検体収容容器の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
A1,A2 (検体収容)容器
B 遠心分離装置
1 有底筒部
2 蓋体
3 すき間
11 開口
12 溝
13 リブ
14 軸部
15 把持部
21 フランジ
22 リブ
23 先端板部
24 把持部
25 胴部
26 溝
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容しうる有底筒部と、
上記有底筒部を密閉する蓋体と、
を備える検体収容容器であって、
上記蓋体の上記有底筒部への挿入においては、上記蓋体と上記有底筒部とのすき間から上記有底筒部内の気体を放出しうる非密閉期間と、この非密閉期間の後に上記蓋体が上記有底筒部を密閉する密閉期間と、が存在することを特徴とする、検体収容容器。
【請求項2】
上記有底筒部には、開口端から深さ方向に延びる溝が形成されており、
少なくとも上記蓋体の挿入方向先端が上記溝の先端を通過するまでの期間が、上記非密閉期間とされている、請求項1に記載の検体収容容器。
【請求項3】
上記有底筒部には、開口端から深さ方向に延び、かつ上記蓋体を局所的に変形させることにより上記すき間を生じうる凸部が形成されており、
少なくとも上記蓋体の挿入方向先端が上記凸部の先端を通過するまでの期間が、上記非密閉期間とされている、請求項1に記載の検体収容容器。
【請求項1】
液体を収容しうる有底筒部と、
上記有底筒部を密閉する蓋体と、
を備える検体収容容器であって、
上記蓋体の上記有底筒部への挿入においては、上記蓋体と上記有底筒部とのすき間から上記有底筒部内の気体を放出しうる非密閉期間と、この非密閉期間の後に上記蓋体が上記有底筒部を密閉する密閉期間と、が存在することを特徴とする、検体収容容器。
【請求項2】
上記有底筒部には、開口端から深さ方向に延びる溝が形成されており、
少なくとも上記蓋体の挿入方向先端が上記溝の先端を通過するまでの期間が、上記非密閉期間とされている、請求項1に記載の検体収容容器。
【請求項3】
上記有底筒部には、開口端から深さ方向に延び、かつ上記蓋体を局所的に変形させることにより上記すき間を生じうる凸部が形成されており、
少なくとも上記蓋体の挿入方向先端が上記凸部の先端を通過するまでの期間が、上記非密閉期間とされている、請求項1に記載の検体収容容器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−204552(P2009−204552A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49187(P2008−49187)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】
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