説明

検体検査用キット

【課題】外部からの異物混入を回避して、ATPを電気化学的に正確に測定できる検体検査用キットを提供する。
【解決手段】拭き取り器具(2)を筒状のキット本体(3)に差し込むと、検体の付着している拭き取り部(9)がキット本体(3)の内部の抽出試薬部(5)に差し込まれて抽出試薬と接触し、さらに拭き取り部(9)を差し込むと、抽出試薬部(5)を貫通してキット本体(3)の内部の電気化学検出部(6)に達して検出対象物が電気化学的に検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象物を拭き取って検査する検体検査用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
アデノシン三リン酸(ATP)は、多くの生物体のエネルギー代謝に関与している。生体内で起こる種々の化学反応には、ATPが加水分解されてアデノシン二リン酸(ADP)またはアデノシン一リン酸(AMP)となる際に放出されるエネルギーを利用して行われるものが多い。また、ATPは、生体内においてリボ核酸(RNA)の前駆体、生体内リン酸化反応におけるリン酸供与体などとしても利用される。
【0003】
このようにATPは、生体において極めて重要な役割を果たす化合物であることから、ATPの測定は様々な分野において重要な役割を担っている。
食品衛生分野においては、細菌などの微生物や、微生物による汚染の温床となる食物残渣など、汚染の指標として利用される。例えば、食品製造や加工工場で使用される機械や、あるいは外食産業の厨房で使用される包丁やまな板のような調理器具、更には従業員の手指等を拭って、食品残渣や微生物をATP量として総合的に把握することで、衛生の指標としている。
【0004】
ATP量を把握する方法として、蛍の発光原理でもあるルシフェリン−ルシフェラーゼ反応を利用した生物発光法が主流であり、市販されているATP検査装置は全てこの方法をとっている。この方法は、二価の金属イオン存在下、試料から抽出したATPにルシフェリンおよびルシフェラーゼを作用させることで発光させる。この発光は、1分子あたり1個のフォトンが放出されるので、発光時間に対する値を積分することによってATPを定量的に検出できる。
【0005】
また、ATPの測定は、拭き取り・抽出・検出という3つの工程で実施している。拭き取りとは、綿棒で検体を拭き取るあるいは拭う、あるいは吸収材にて検体を吸収する。例えば、包丁やまな板・従業員の手指を水等で湿らせた綿棒等でぬぐい、検体である食品残渣や微生物を捕捉するという工程である。抽出とは、抽出試薬によって検体から検出対象物を抽出する工程である。つまり、拭き取った食品残渣や微生物から、界面活性剤を主成分とする抽出液によって細胞を破壊し、ATPを抽出する。検出は、検出対象物を生化学反応を用いて定量する工程である。つまり、抽出したATPの量を、生物発光法によって、相当量の発光量に置き換え、定量化している。これら一連の手順が容易に実行できることも重要であり、生物発光法に適した拭き取り検査用器具が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかし、生物発光法を利用したATP検出は、光学経路や集光部、受光部等光学系を必要とし、装置の構成がも複雑になり、小型化にも限界がある。また、発光法による分析方法は、濁りある試料にはそのまま適用できない。例えば、牛乳や血液のような濁度の高い試料は、濁りの要因となっている物質を測定前に除去処理あるいは試料を希釈する必要がある。
【0007】
近年、ATPを高感度に電気化学的に測定することが可能になっている。試料中のATPに、AMPとミオキナーゼとを反応させて、二分子のADPに変換させるATP増幅反応と、リン酸供与体の存在下で、ADPとリン酸化酵素とを反応させて、ATPと脱リン酸化されたリン酸供与体に変換させるATP再生反応とを、一対の反応系とし、その反応回数に応じて2のべき乗でATPを増幅させ、反応の過程で発生する脱リン酸化されたリン酸供与体をATP量として換算し、酸化還元酵素を使用して、該脱リン酸化されたリン酸供与体の酸化還元反応を電気化学的に検出することを特徴とするアデニンヌクレオチドの測定方法であり、検出対象物の濃度として10−7Mから10−9Mの高感度の検出技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−146957号公報
【特許文献2】特開2007−155713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記従来の構成では、拭き取り検査用器具に電気化学的手法を組み合わせれば、ATPの検出感度は10−6Mから10−11Mまでの濃度の測定が可能である。しかしながら、検出対象物を拭き取る際に、空気中に浮遊している粉塵・花粉・微生物の屍骸あるいは水滴等、更には電極の装置への装着に際して発生する手指の直接接触あるいは手袋等による間接接触等による汚れや微生物の混入によって、10−7Mから10−12M程度の濃度の異物が検体に混入する。この混入により、電気化学的手法で測定できる範囲である10−7Mから10−11Mまでの濃度のATPを正確に測れないという課題を有している。
【0009】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、検体を拭き取る際の取り扱いで、検体に異物が混入することを防止して、ATPなどの特定成分を正確に測定できる検体検査キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1記載の検体検査用キットは、検体を拭き取る拭き取り部が先端に形成された拭き取り器具と、前記拭き取り器具の前記先端が差し込まれる筒状のキット本体とを設け、前記キット本体には、抽出試薬を保持するとともに差し込まれた前記拭き取り器具の拭き取り部が前記抽出試薬と接触して貫通する抽出試薬部と、検出対象物を電気化学的に検出する電極及び検出試薬で構成され検体取り込み口が前記抽出試薬部を貫通した拭き取り器具の前記先端から抽出液の添加を受けることができる位置に設けられた電気化学検出部とを設けたことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項2記載の検体検査用キットは、請求項1において、前記電気化学検出部が、ATPを検出するセンサチップを備えたことを特徴とする。
本発明の請求項3記載の検体検査用キットは、請求項1において、前記キット本体の前記筒状の内周部分と前記拭き取り器具とのうちの一方が他方に形成されたガイド通路に係合し、前記拭き取り器具の拭き取り部が抽出試薬部に到達した位置で拭き取り部の差し込みを停止させ、前記キット本体と前記拭き取り器具との相対位置を変更することで前記停止が解除され拭き取り部が前記電気化学検出部に到達するよう前記ガイド通路を構成したことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項4記載の検体検査用キットは、請求項1において、前記キット本体の前記筒状の内周部分に、前記拭き取り器具の挿入方向の2本の溝と前記2本の溝の間をつなぐ1本の連結溝で構成された階段状溝を設け、前記拭き取り器具には、前記階段状溝に係合する突部を設け、キット本体における前記連結溝を、差し込まれた前記拭き取り器具の拭き取り部が前記抽出試薬部に位置する状態で前記突部が係合する位置に形成したことを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項5記載の検体検査用キットは、検体を拭き取る拭き取り部が先端に形成された拭き取り器具と、前記拭き取り器具の前記先端が差し込まれる筒状のキット本体とを設け、前記キット本体には、抽出試薬を保持するとともに差し込まれた前記拭き取り器具の拭き取り部が前記抽出試薬と接触して貫通する抽出試薬部と、検出試薬を保持するとともに前記抽出試薬部を貫通した前記拭き取り器具の拭き取り部が貫通する検出試薬部と、前記検出試薬部を貫通した前記拭き取り器具の拭き取り部から混合液が供給され前記検出試薬で検出される特定成分を電気化学的に検出する電極部とを設けたことを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項6記載の検体検査用キットは、請求項5において、前記キット本体の前記筒状の内周部分と前記拭き取り器具とのうちの一方が他方に形成されたガイド通路に係合し、前記拭き取り器具の拭き取り部が抽出試薬部または前記検出試薬部に到達した位置で拭き取り部の差し込みを停止させ、前記キット本体と前記拭き取り器具との相対位置を変更することで前記停止が解除され拭き取り部が前記検出試薬部または前記電極部に到達するよう前記ガイド通路を構成したことを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項7記載の検体検査用キットは、請求項5において、前記キット本体の前記筒状の内周部分に、前記拭き取り器具の挿入方向の複数本の溝と前記複数の溝の間をつなぐ複数の連結溝で構成された階段状溝を設け、前記拭き取り器具には、前記階段状溝に係合する突部を設け、複数の連結溝の位置を、前記拭き取り器具の拭き取り部が前記抽出試薬部に到着する位置と前記拭き取り器具の拭き取り部が前記検出試薬部に到着する位置とに設定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
この構成によれば、拭き取った検体から検出対象物を抽出し電気化学的に検出する一連の流れを密封されたキット内で実現ることができ、異物の混入を抑えることができ、ATPなどの特定成分を正確に測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の各実施の形態を図1〜図9に基づいて説明する。
(実施の形態1)
図1と図2は本発明の実施の形態1を示す。
【0018】
図1は検体検査キットの構造を示す正面および側面図、図2(a)〜(c)は検体検査キットの取り扱い手順を示す。
検体検査キット1は、検体の拭き取りを実施する拭き取り器具2と、筒状で拭き取り器具2の先端部が差し込まれるキット本体3から構成されている。
【0019】
キット本体3の筒部3aには、使用前の拭き取り器具2を格納する拭き取り器具格納部4と、拭き取り器具2に付着した拭き取り検体より検出対象物を抽出する液状の試薬が格納されている抽出試薬部5と、検出対象物を電気化学的に検査する電極や試薬が格納されている電気化学検出部6が設けられている。
【0020】
拭き取り器具格納部4と抽出試薬部5および電気化学検出部6の3つの格納部は、隔壁としての第1,第2の仕切り7,8で区切られている。これは、拭き取り検査前には、各格納部が独立して混ざらないように区切っており、検体を検査する際には、格納部毎に順次反応を進めるよう、拭き取り器具2で各仕切りを突き破れる素材でできている。例えば、アルミ箔やビニル、プラスチックで構成した膜等の仕切りで構成可能である。
【0021】
拭き取り器具2の先端には、検体を拭き取る拭き取り部としての綿棒9が装備されている。
抽出試薬部5に充填されている抽出試薬とは、例えば、塩化ベンザルコニウム等の界面活性剤や、トリクロロ酢酸、メタノール等が選択可能である。検出対象物を電気化学的に検出する電極及び検出試薬で構成されている電気化学検出部6は、この実施の形態1では、検出試薬を全て電極上に固定したセンサチップ10で構成している。
【0022】
検出試薬を全て電極上に固定化したセンサチップ10は、絶縁基板部11に、検出対象物を取り込む検体取り込み口12、検体を毛細管現象で取り込むための空気口13、取り込み口から空気口までの検体流路14、また検体流路14中に配置されている検出電極15と、検出電極上に試薬を固定化している反応層16、および分析装置(ATP測定装置、図示せず)との電気的接続部であるコネクタ部17とで構成されている。
【0023】
この図1のセンサチップ10では、三電極、すなわち作用極、参照極、対極による構成を記載している。これは、食品衛生分野では検査対象が様々でpH等にばらつきがあり、より安定した測定を実施するのに有効である。もちろん血糖値センサのような二電極構成、すなわち作用極と対極のみでの構成も可能である。
【0024】
このセンサチップ10は、キット本体内で鉛直に配置されており、第1,第2の仕切り7,8を突き破って出てきた綿棒9が、検体取り込み口12に直接に接触して停止するような構成されている。つまり、拭き取り器具2をキット本体3の限界まで挿入した際の綿棒9の位置に、センサチップ10の検体取り込み口12が配置されている。第2の仕切り8の下方には、第2の仕切り8を突き破って出てきた綿棒9が、できるかぎりキット本体3の円周の中心に位置するよう、導入路規制部材18が設けられている。
【0025】
キット本体3の最下部には、センサチップ固定用蓋19が配置されている。これは、センサチップ10をキット本体3内に固定し、かつセンサチップ10のコネクタ部17を検体検査キット1の外側に出して前記分析装置との接続を可能にする機能に加えて、万が一、抽出試薬部5から過剰の抽出液が滴下しても、検体検査キット1外に液が流出しない液漏れ防止の機能を持っている。
【0026】
センサチップ10は、キット本体3の円周の中心に検体取り込み口12が位置するようにセンサチップ固定用蓋19の中央に固定されている。固定用フック20は前記分析装置とのキット本体3との接続を安定させるために設置されている。
【0027】
図2(a)〜(c)に基づいて検体検査キットの取り扱い手順を詳しく説明する。
最初の拭き取り検査前段階、すなわち購入直後の一例を図2(a)図に示す。すなわち、綿棒9が拭き取り器具格納部4に留まっており、第1の仕切り7に到達していない状態である。
【0028】
拭き取り検査を実施する際、拭き取り器具2をキット本体3より取り出し、拭き取り器具2の先端の綿棒9で検体を拭き取る。その際、必要に応じて綿棒9を水等で湿らせる。拭き取った後、図2(b)のように、キット本体3に綿棒9から挿入するが、その際に、まず第1の仕切り7を突き破り、抽出試薬部5の抽出液と反応させる。抽出液と反応することにより、検出対象物であるATPが抽出され、抽出溶液中に拡散する。その際、検体検査キットを前後に振ることで、より拡散を促進できる。ATPが抽出された時点で、検体検査キットを、コネクタ17が噛み合うように前記分析装置に取り付ける。
【0029】
その後、図2(c)のように、拭き取り器具2をキット本体3の限界まで更に挿入すると、第2の仕切り8が綿棒9によって突き破られ、導入路規制部材18の導きもあって、センサチップ10の取り込み口12と接触する。
【0030】
綿棒9に含んでいるATPを含んだ抽出液は、綿棒9が取り込み口12と接触する圧力によって滲み出し、毛細管現象によって検体流路14を介して反応層16に移動する。反応層16では酵素や試薬による生化学反応が起こり、電気化学的に検出可能となる。
【0031】
ATPを電気化学的に検出する試薬(酵素も含む)は、具体例としては、下記の(イ)〜(ヌ)で構成されている。これら全ての検出試薬を反応層に固定することで、試薬量は非常に少なくてすむというメリットがある。
【0032】
(イ)塩化マグネシウム六水和物
(ロ)塩化チアミンピロリン酸
(ハ)フラビンアデニンジヌクレオチドニナトリウムN水和物
(ニ)アデノシン一リン酸
(ホ)ホスホエノールピルビン酸
(ヘ)ミオキナーゼ
(ト)ピルビン酸キナーゼ
(チ)ピルビン酸デヒドロゲナーゼ
(リ)1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェイト
(ヌ)リン酸(緩衝用)
電極上の反応層16と検体が接触した後、検体検査用キットをコネクタ部17を通してATP測定装置に接続し、ATP量の測定を行う。ATP測定装置とは、コネクタ部17を通してセンサチップ10の電極間に電位電圧をかけた際に、ATPの濃度に応じて発生する電流値を測定し表示するよう構成されており、人手を介さずにATPを定量測定するよう構成されている。
【0033】
なお、上記はATP検査用試薬構成の一例であり、特に限定するものではない。また、ATP以外を検出する際の酵素反応を使用した電気化学的検出を実施する場合も、同様な考え方が可能である。
【0034】
なお、綿棒9の材料は、綿以外にもガーゼやスポンジ等の吸収材や多孔質材料を選択可能である。
なお、導入路規制部材18の入口より出口の径を小さくし、なおかつ出口の径を綿の径とほぼ同等にしておくことで、過剰な液が電気化学検出部に滴下しないようにすることも可能である。
【0035】
このように構成したため、検体の拭き取った後から、検出対象物を抽出し、電気化学的に検出するまでの一連の流れを密封された検査キットとして提供することによって、外部からの異物混入を回避して検出対象物を正確に測定できる機能を有し、拭き取り検査を実施するためのキットとして有用であり、特にATP検査のような衛生状態や微生物を定量するに適している。
【0036】
(実施の形態2)
図3は本発明の実施の形態2を示す。
実施の形態1ではキット本体3の円周の中心に検体取り込み口12が位置するようにセンサチップ10がセンサチップ固定用蓋19の中央に固定されていたが、この実施の形態2では、センサチップ10の検体取り込み口12がキット本体の円周の中心からずらした位置になるよう、センサチップ固定用蓋19に固定されている点だけが異なっている。
【0037】
つまり、ほぼ円周の中心から挿入される綿棒9とセンサチップ10の検体取り込み口12が直接に接触しない構成にしている。
電気化学検出部6の側面には、キット本体3の筒部3aよりも径方向に変形しやすい軟質材料部21が設けられている。軟質材料部21を介してキット本体3の側面より圧力を加えることによって、図3(b)に仮想線で示す位置にまで差し込まれた綿棒9を横から押さえてセンサチップ10に接触させることができるように構成されている。このときセンサチップ10が過剰に歪曲しないよう、軟質材料部21から見てセンサチップ10の背面にセンサチップ設置台22が配置されている。
【0038】
キット本体3の筒部3aの材質がポリプロピレン等の硬質材料で成形した場合、軟質材料部21をポリスチレン等の軟質材料で構成する。
このように構成したため、拭き取り器具2をキット本体3の限界まで挿入すると、第2の仕切り8がATPを含んだ抽出液を保持する綿棒9によって突き破られ、更に軟質材料部21に圧力をかけた時点で、センサチップ10の検体取り込み口12と綿棒9が接触し、その圧力で綿棒9に含んでいるATPを含んだ抽出液が滲出し、毛細管現象によって検体流路14を通って反応層16に移動する。
【0039】
実施の形態1と比較すると、綿棒9で抽出試薬部5を突き破る処理と、抽出液をセンサチップ10に添加する処理を、独立して実施できるため、例えばATP測定装置に装着する前に抽出試薬部5を突き破り、ATP測定装置に取り付けた後でセンサチップ10にATPを含んだ抽出液を無理なく添加できる。
【0040】
(実施の形態3)
図4〜図6は本発明の実施の形態3を示す。
図4は検体検査キットの構造を示す正面および側面図、図5はキット本体3の内周面に形成されたガイド通路としての階段状の溝を示す斜視図、図6(a)〜(c)は検体検査キットの取り扱い手順を示す。
【0041】
実施の形態2と異なる点は、キット本体3の内側に階段状溝23を形成し、拭き取り器具2の側面に突部24を設け、拭き取り器具2の突部24がキット本体3の階段状溝23に沿って進入していくことで、検体を拭い取った綿棒9が抽出試薬部5で一度停止し、検出対象物の抽出の機会を確実に得られる点である。つまり、拭き取り器具の先端に配置している綿棒9が抽出試薬部5で一度停止するよう、第1の仕切り7を突き破っても一気に第2の仕切り8まで到達しない機能を付加している。ここで階段状溝23は、拭き取り器具2の挿入方向の2本の縦溝23a,23bとこの縦溝23a,23bの間をつなぐ1本の連結溝23cで構成されている。
【0042】
図6はこの検体検査キットの取り扱い手順を示す。
図6(a)では、最初の拭き取り検査前段階、すなわち購入直後の一例で、拭き取り器具2の突部24が、キット本体3の外で留まっている状態である。すなわち綿棒9が拭き取り器具格納部4に留まっており、第1の仕切り7に到達していない状態である。
【0043】
拭き取り検査を実施する際、図6(b)のように拭き取り器具2の突部24をキット本体3の縦溝23aに合わせて内部方向に挿入すると、綿棒9が第1の仕切り7を突き破って抽出試薬部5に到達した段階で、突部24が階段状溝23の縦溝23aの下端に当接して拭き取り器具2を内部方向への挿入ができなくなる。これによって、次の第2の仕切り8を突き破る前に綿棒9が停止する。この時点で、抽出試薬とよく混合する。検体検査キットを良く振ることも攪拌を促進するので有効である。
【0044】
抽出が十分に行われた後、キット本体3と拭き取り器具2との相対位置を変更する。具体的には、例えばキット本体3に対して拭き取り器具2を円周方向の連結溝23cに沿って回す。これによって、拭き取り器具2の突部24が縦溝23bに達して内部方向への挿入が可能になった時点で、拭き取り器具2を更に内部方向への挿入を実施すれば、図6(c)のように、綿棒9が第2の仕切り8を突き破り、センサチップ10の存在する電気化学検出部6に到達する。
【0045】
なお、階段状溝23及び突部24は一例であり、綿棒9を一度停止させる他の機構で構成することも可能である。
なお、この実施の形態3では実施の形態2の場合を例に挙げて説明したが、実施の形態1の場合でも同様に実施できる。
【0046】
(実施の形態4)
図7は本発明の実施の形態4を示す。
図7(a)は検体検査キットの構造を示す正面図、図7(b)はその電極−コネクタの電極面を示す。
【0047】
実施の形態1と異なる点は、検体検査キットの検出試薬の一部を電極上に固定化し、残りを液状あるいは粒子状で保持している点である。
液状あるいは粒子状の検出試薬が検査時まで電極と反応しないよう、第3の仕切り26で区切られて検査キット本体3に設けられている。すなわち、第2の仕切り8と第3の仕切り26で区切られている部分に液状あるいは粒子状で保持する検出試薬部27が設けられ、第3の仕切り26より下部に電極部28が構成されている。電極部28の最下部には電極−コネクタ29が配置されている。
【0048】
電極−コネクタ29の電極面には、検出電極15を配置し、更にその表面に検出試薬の一部を固定化した反応層16を配置している。第1の仕切り7、第2の仕切り8および第3の仕切り26を突き破って出てきた綿棒9によって、検体に対して抽出試薬と検出試薬を反応させた混合溶液が電極面に滴下する。
【0049】
検出電極は図7では三電極、すなわち作用極、参照極、対極による構成を記載している。これは、食品衛生分野では、検査対象が様々でpH等にばらつきがあり、より安定した測定を実施するのに有効である。もちろん血糖値センサのような二電極構成、すなわち作用極と対極のみでの構成も可能である。各電極を同心円状の配置で記載しているが、特に限定するものではない。反応層は少なくとも作用極を覆うようにして、一部の固定化する試薬、主に酵素が存在している。また、電極部は裏面に貫通しており、装置との電気的接続部であるコネクタ部で記載しているが、必ずしも貫通している必要はなく、電極−コネクタの側面を通して接続していてもよい。
【0050】
ATPを電気化学的に検出する試薬(酵素も含む)は、実施の形態1でも述べたが、具体例としては、下記の(イ)〜(ヌ)で構成されている。
(イ)塩化マグネシウム六水和物
(ロ)塩化チアミンピロリン酸
(ハ)フラビンアデニンジヌクレオチドニナトリウムN水和物
(ニ)アデノシン一リン酸
(ホ)ホスホエノールピルビン酸
(ヘ)ミオキナーゼ
(ト)ピルビン酸キナーゼ
(チ)ピルビン酸デヒドロゲナーゼ
(リ)1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェイト
(ヌ)リン酸(緩衝用)
これらで、一部固定化する場合には、(チ)のみ、あるいは(チ)と(ト)の組み合わせ、あるいは(へ)から(チ)の組み合わせのように試薬の中でも一部あるいは全ての酵素を層状あるいは混合して固定化することが可能である。
【0051】
上記はATP検査用試薬構成の一例であり、特に限定するものではない。また、ATP以外を検出する際の酵素反応を使用した電気化学的検出を実施する場合も、同様な考え方が可能である。
【0052】
この実施の形態4のように一部の試薬を電極上に固定化し、残りの試薬を溶液として保持する構成の場合、バッチ(溶液)での評価に近い形での実現で、安定した測定が可能になる。
【0053】
実際の使用方法は以下の通りである。
最初の使用前段階すなわち購入直後の段階は、図7で示すように、綿棒9が拭き取り器具格納部4に留まっている状態である。
【0054】
検査時には、拭き取り器具をキット本体より取り出し、綿棒9で検体を拭き取る。拭き取った後、キット本体に綿棒9から挿入するが、その際に、第1の仕切り7を突き破り、抽出試薬部5の抽出液と反応する。抽出液と反応することにより、検出対象物であるATPが抽出され、抽出溶液中に拡散する。その際、試薬を前後に振ることで、より拡散を促進できる。ATPが抽出されて濃度が安定した時点で、検体検査キットをATP測定装置に取り付ける。その後、第2の仕切り8を突き破り、検出試薬部27の検出試薬と反応させる。よく攪拌後、拭き取り器具2をキット本体3の限界まで更に挿入すると、第3の仕切り26が綿棒9によって突き破られ、これら混合溶液が電極−コネクタ29の電極面に滴下する。電極部の反応層16では、混合溶液と電極面に固定化した試薬による反応が起こり、電気化学的に検出可能となる。
【0055】
(実施の形態5)
図8と図9は本発明の実施の形態5を示す。
図8は検体検査キットの構造を示し、図9はキット本体3の内周面に形成されたガイド通路を示す斜視図を示す。
【0056】
実施の形態4と異なる点は、キット本体3の内側にガイド通路としての階段状溝23を構成し、また拭き取り器具2の側面に突部24を構成し、拭き取り器具2の突部24が階段状溝23に沿って進入していくことで、検体を拭い取った綿棒9が抽出試薬部5と検出試薬部27の各々で一度停止し、反応させる機会を確実に得られる点である。
【0057】
つまり、拭き取り器具2の先端に配置している綿棒9が抽出試薬部5あるいは検出試薬部27で停止するよう、第1の仕切り7あるいは第2の仕切り8は突き破っても、一気に第2の仕切り8,第3の仕切り26まで到達しないよう構成されている。
【0058】
次にこの検体検査キットの取り扱い手順を示す。
図8は、最初の拭き取り検査前段階、すなわち購入直後の段階に相当する。拭き取り器具2の突部24が、キット本体3の外に留まっている状態である。綿棒9が拭き取り器具格納部4に留まっており、第1の仕切り7に到達していない状態である。
【0059】
拭き取り検査を実施する際、拭き取り器具の突部24をキット本体3の階段状溝23の縦溝23aに位置合わせて内部方向に挿入すると、綿棒9が第1の仕切り7を突き破って抽出試薬部5に到達した段階で、縦溝23aに続いて垂直に折れ曲がった連結溝23cに突起24が衝突してキット本体3の内部方向への挿入ができなくなり、これによって、次の第2の仕切り8を突き破る前に綿棒9が停止する。この時点で、抽出試薬とよく混合する。検体検査キットを良く振ることも攪拌を促進するので有効である。
【0060】
抽出が十分行われた後、キット本体3と拭き取り器具2との相対位置を変更する。具体的には、例えばキット本体3に対して拭き取り器具2を円周方向の連結溝23cに沿って回し、突起24が連結溝23cに続く縦溝23bに衝突して、更に内部方向へ拭き取り器具2の挿入を実施すれば、拭き取り器具2は縦溝23bに沿って内部方向へ移動して、綿棒9が第2の仕切り8を突き破って検出試薬部27に到達した段階で、縦溝23bに続いて垂直に折れ曲がった連結溝23dに突起24が衝突して、拭き取り器具2をキット本体3の内部方向への挿入ができなくなる。すなわち第3の仕切り26を突き破る前に綿棒9が停止する。ここで、検出試薬ともよく混合する。再度、拭き取り器具を円周方向に回して、検出試薬との混合が十分行われた後、拭き取り器具2を円周方向の連結溝23dに沿って回し、突起24が連結溝23dに続く縦溝23eに衝突して、更に内部方向へ拭き取り器具2の挿入を実施すれば、拭き取り器具2は縦溝23eに沿って内部方向へ移動して、綿棒9が第3の仕切り26を突き破って電極部28に到達、電極−コネクタ29の電極表面に反応溶液が滴下する。
【0061】
なお、階段状溝23及び突部24は一例であり、綿棒9を一度停止させる他の機構で構成することも可能である。具体的には、実施の形態3,実施の形態5において、キット本体3にガイド通路としての階段状溝23を設け、拭き取り器具2に突起24を設けたが、拭き取り器具2の側にガイド通路としての階段状溝23を設け、キット本体3の側に突起24を設けて構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は外部からの異物混入を回避して検出対象物を正確に測定できるので、衛生状態や微生物の定量測定などの各種の検査の精度向上に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態1における検体検査キットの一部切り欠き正面図と側面図
【図2】同実施の形態における検体検査キットの取り扱い手順の説明図
【図3】本発明の実施の形態2における検体検査キットの一部切り欠き正面図と側面図
【図4】本発明の実施の形態3における検体検査キットの一部切り欠き正面図と側面図
【図5】同実施の形態の要部の斜視図
【図6】同実施の形態における検体検査キットの取り扱い手順の説明図
【図7】本発明の実施の形態4における検体検査キットの一部切り欠き正面図と電極−コネクタの電極面の平面図
【図8】本発明の実施の形態5における検体検査キットの一部切り欠き正面図
【図9】同実施の形態の要部の斜視図
【符号の説明】
【0064】
1 検体検査キット
2 拭き取り器具
3 キット本体
3a 筒部
4 拭き取り器具格納部
5 抽出試薬部
6 電気化学検出部
7 第1の仕切り
8 第2の仕切り
9 綿棒(拭き取り部)
10 センサチップ
11 絶縁基板部
12 検体取り込み口
13 空気口
14 検体流路
15 検出電極
16 反応層
17 コネクタ部
18 導入路規制部材
19 センサチップ固定用蓋
20 固定用フック
21 軟質材料部
22 センサチップ設置台
23 階段状溝(ガイド通路)
24 突部
26 第3の仕切り
27 検出試薬部
28 電極部
29 電極−コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を拭き取る拭き取り部が先端に形成された拭き取り器具と、
前記拭き取り器具の前記先端が差し込まれる筒状のキット本体と
を設け、前記キット本体には、
抽出試薬を保持するとともに差し込まれた前記拭き取り器具の拭き取り部が前記抽出試薬と接触して貫通する抽出試薬部と、
検出対象物を電気化学的に検出する電極及び検出試薬で構成され検体取り込み口が前記抽出試薬部を貫通した拭き取り器具の前記先端から抽出液の添加を受けることができる位置に設けられた電気化学検出部と
を設けた
検体検査用キット。
【請求項2】
前記電気化学検出部が、ATPを検出するセンサチップを備えた
請求項1記載の検体検査用キット。
【請求項3】
前記キット本体の前記筒状の内周部分と前記拭き取り器具とのうちの一方が他方に形成されたガイド通路に係合し、前記拭き取り器具の拭き取り部が抽出試薬部に到達した位置で拭き取り部の差し込みを停止させ、前記キット本体と前記拭き取り器具との相対位置を変更することで前記停止が解除され拭き取り部が前記電気化学検出部に到達するよう前記ガイド通路を構成した
請求項1記載の検体検査用キット。
【請求項4】
前記キット本体の前記筒状の内周部分に、
前記拭き取り器具の挿入方向の2本の溝と前記2本の溝の間をつなぐ1本の連結溝で構成された階段状溝を設け、
前記拭き取り器具には、前記階段状溝に係合する突部を設け、
キット本体における前記連結溝を、差し込まれた前記拭き取り器具の拭き取り部が前記抽出試薬部に位置する状態で前記突部が係合する位置に形成した
請求項1記載の検体検査用キット。
【請求項5】
検体を拭き取る拭き取り部が先端に形成された拭き取り器具と、
前記拭き取り器具の前記先端が差し込まれる筒状のキット本体と
を設け、前記キット本体には、
抽出試薬を保持するとともに差し込まれた前記拭き取り器具の拭き取り部が前記抽出試薬と接触して貫通する抽出試薬部と、
検出試薬を保持するとともに前記抽出試薬部を貫通した前記拭き取り器具の拭き取り部が貫通する検出試薬部と、
前記検出試薬部を貫通した前記拭き取り器具の拭き取り部から混合液が供給され前記検出試薬で検出される特定成分を電気化学的に検出する電極部とを設けた
検体検査用キット。
【請求項6】
前記キット本体の前記筒状の内周部分と前記拭き取り器具とのうちの一方が他方に形成されたガイド通路に係合し、前記拭き取り器具の拭き取り部が抽出試薬部または前記検出試薬部に到達した位置で拭き取り部の差し込みを停止させ、前記キット本体と前記拭き取り器具との相対位置を変更することで前記停止が解除され拭き取り部が前記検出試薬部または前記電極部に到達するよう前記ガイド通路を構成した
請求項5記載の検体検査用キット。
【請求項7】
前記キット本体の前記筒状の内周部分に、
前記拭き取り器具の挿入方向の複数本の溝と前記複数の溝の間をつなぐ複数の連結溝で構成された階段状溝を設け、
前記拭き取り器具には、前記階段状溝に係合する突部を設け、
複数の連結溝の位置を、前記拭き取り器具の拭き取り部が前記抽出試薬部に到着する位置と前記拭き取り器具の拭き取り部が前記検出試薬部に到着する位置とに設定した
請求項5記載の検体検査用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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