説明

検出回路、物理量測定装置

【課題】 回路規模の増加を抑えつつ不要信号をキャンセルし、出力信号の低ノイズ化を実現する。
【解決手段】 センサー素子からの差動入力信号290、292に基づいてセンサー素子に印加される物理量を検出する検出回路10。差動入力信号の差分を増幅して第1の信号として出力する差動増幅回路30と、第1の信号の高周波成分を透過させて第2の信号として出力するハイパスフィルター40と、第2の信号を増幅して第3の信号として出力するACアンプ50と、を含み、ハイパスフィルターは、第1の信号が入力される第1の端子と、第2の信号を出力する第2の端子とを備えるキャパシタと、第2の端子と接続される第3の端子と、キャンセル信号が入力される第4の端子とを備える抵抗器と、を含み、キャンセル信号を90度位相シフトして第1の信号と合成し、差動入力信号に含まれている不要信号の少なくとも一部を相殺する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出回路、物理量測定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
物理量測定装置からの出力信号には、測定対象である物理量を検出した検出信号に加えて、測定には不必要な不要信号の成分が含まれることがある。物理量測定装置では、例えば検出したアナログ信号に対してフィルター処理や増幅を行い、同期検波後の信号を平滑化して直流電圧に変換して増幅した信号を出力する。ここで、同期検波より前の処理ブロックをAC段、同期検波以降の処理ブロックをDC段と呼ぶ。AC段においては、検出信号と位相が同じである平行成分の不要信号と、検出信号と90度位相がずれた直交成分の不要信号が存在する。
【0003】
平行成分の不要信号は、DC段においても検出信号に対して直接の影響を及ぼす。また、同期検波によって直交成分の不要信号は除去されるが、例えば特許文献1にあるように直交成分の不要信号がAC段において不要な電荷を生じることで検出信号に対して影響を及ぼす場合がある。そこで、特許文献1の発明では、加減算増幅回路にて不要信号を相殺することにより、不要信号の影響を除いた信号を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−071909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の発明では、直交成分の不要信号をキャンセルする信号を生成するために物理量測定装置の検出回路に90度位相シフト回路を追加する必要がある。そのため、回路規模が増大してしまう。
【0006】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものである。本発明のいくつかの態様によれば、回路規模の増加を抑えつつ不要信号をキャンセルして、出力信号の低ノイズ化を実現する検出回路等を提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、センサー素子からの差動入力信号に基づいて前記センサー素子に印加される物理量を検出する検出回路であって、前記差動入力信号の差分を増幅して、第1の信号として出力する差動増幅回路と、前記第1の信号の高周波成分を透過させて、第2の信号として出力するハイパスフィルターと、前記第2の信号を増幅して、第3の信号として出力するACアンプと、を含み、前記ハイパスフィルターは、前記第1の信号が入力される第1の端子と、前記第2の信号を出力する第2の端子とを備えるキャパシタと、前記第2の端子と接続される第3の端子と、キャンセル信号が入力される第4の端子とを備える抵抗器と、を含み、前記キャンセル信号を90度位相シフトして前記第1の信号と合成し、前記差動入力信号に含まれている前記物理量の検出に不要な信号である不要信号の少なくとも一部を相殺する。
【0008】
本発明によれば、通常の処理で高周波成分を透過させるために用いられるハイパスフィルターを、不要信号のキャンセル回路として利用するので回路規模の増加を抑えつつ不要信号をキャンセルして、出力信号の低ノイズ化を実現できる。ハイパスフィルターは抵抗器とキャパシタで構成されており、キャンセル信号が入力される第4の端子側からの見るとローパスフィルターとして機能する。そして、キャンセル信号は位相が90度遅れるため、例えばキャンセル信号として第1の信号(差動増幅回路の出力)を反転させた位相をもつ信号を選択すれば、第1の信号と直交する不要信号をキャンセル(相殺)することが可能になる。
【0009】
ここで、キャンセル信号は差動入力信号に基づいた信号を検出回路の内外から適宜選択して使用してもよい。後述するように、AC段で位相が90度遅れた不要信号をキャンセルすることで、アナログゲインの設定上限値に影響を及ぼすAC段における信号の合成振幅を小さくすることができる。
【0010】
(2)この検出回路において、前記ACアンプは、前記不要信号の少なくとも一部が相殺された前記第2の信号の信号レベルに基づいて増幅率の上限が設定されてもよい。
【0011】
本発明によれば、不要信号の少なくとも一部が相殺された第2の信号(ハイパスフィルターの出力)の信号レベルに基づいてACアンプの増幅率の上限を設定できる。測定対象である物理量を検出した検出信号と、測定には不必要な不要信号とを合成した信号の信号レベルに基づいて増幅率の上限を設定する場合に比べて、前記上限を大きくとることが可能である。すると、AC段で検出信号を大きくとることが可能になるため、S/N比が向上しセンサー素子に印加される物理量を精度よく検出できる。
【0012】
(3)この検出回路において、前記センサー素子は振動子であって、前記振動子の励振電流に基づく信号である基準位相信号を受け取り、前記ハイパスフィルターは、不揮発性のメモリーである記憶部と、前記記憶部からの設定信号に応じて増幅率を変更できるプログラマブルゲインアンプと、を含み、前記プログラマブルゲインアンプによって前記基準位相信号を増幅してキャンセル信号としてもよい。
【0013】
(4)この検出回路において、前記ハイパスフィルターは、前記プログラマブルゲインアンプの増幅率を0と設定することが可能であってもよい。
【0014】
これらの発明によれば、プログラマブルゲインアンプによってキャンセル信号のゲインを選択できるので、不要信号を確実にキャンセルすることが可能になる。そして、キャンセルすべき不要信号が存在しない場合には、プログラマブルゲインアンプの増幅率を0にできることが好ましい。増幅率を0にするとは、具体的にはキャンセル信号を入力することに代えてアナログ接地電位と接続することであってもよい。
【0015】
(5)この検出回路において、前記ACアンプは、反転増幅回路を含み、前記反転増幅回路の反転入力端子に接続された抵抗器の他方の端には前記キャンセル信号が入力され、前記差動入力信号に含まれている前記物理量の検出に不要な信号である不要信号の少なくとも一部を相殺してもよい。
【0016】
(6)本発明は、センサー素子からの差動入力信号に基づいて前記センサー素子に印加される物理量を検出する検出回路であって、前記差動入力信号の差分を増幅して、第1の信号として出力する差動増幅回路と、前記第1の信号の高周波成分を透過させて、第2の信号として出力するハイパスフィルターと、前記第2の信号を増幅して、第3の信号として出力するACアンプと、を含み、前記ACアンプは、反転増幅回路を含み、前記反転増幅回路の反転入力端子に接続された抵抗器の他方の端には前記キャンセル信号が入力され、前記差動入力信号に含まれている前記物理量の検出に不要な信号である不要信号の少なくとも一部を相殺する。
【0017】
これらの発明によれば、通常の処理で信号の増幅に用いられるACアンプを、不要信号のキャンセル回路として利用するので回路規模の増加を抑えつつ不要信号をキャンセルして、出力信号の低ノイズ化を実現できる。ACアンプは反転増幅回路を含むが、反転入力端子に接続された抵抗器の他方の端は接地されるのではなく、前記キャンセル信号が入力される。そして、例えばキャンセル信号として第2の信号(ハイパスフィルターの出力)を反転させた位相をもつ信号を選択すれば、平行成分である不要信号をキャンセルすることが可能になる。
【0018】
(7)この検出回路において、前記ACアンプは、前記不要信号の少なくとも一部が相殺された前記第3の信号の信号レベルに基づいて増幅率の上限が設定される。
【0019】
本発明によれば、不要信号の少なくとも一部が相殺された第3の信号(ACアンプの出力)の信号レベルに基づいてACアンプの増幅率の上限を設定できる。測定対象である物理量を検出した検出信号と、測定には不必要な不要信号とを合成した信号の信号レベルに基づいて増幅率の上限を設定する場合に比べて、前記上限を大きくとることが可能である。すると、AC段で検出信号を大きくとることが可能になるため、S/N比が向上しセンサー素子に印加される物理量を精度よく検出できる。
【0020】
(8)この検出回路において、前記センサー素子は振動子であって、前記振動子の励振電流に基づく信号である基準位相信号を受け取り、前記ACアンプは、不揮発性のメモリーである記憶部と、前記記憶部からの設定信号に応じて増幅率を変更できるプログラマブルゲインアンプと、を含み、前記プログラマブルゲインアンプによって前記基準位相信号を増幅してキャンセル信号としてもよい。
【0021】
本発明によれば、プログラマブルゲインアンプによってキャンセル信号のゲインを選択できるので、不要信号を確実にキャンセルすることが可能になる。このとき、キャンセルすべき不要信号が存在しない場合には、プログラマブルゲインアンプの増幅率を0としてもよい。増幅率を0にするとは、具体的にはキャンセル信号を入力することに代えてアナログ接地電位と接続することであってもよい。
【0022】
(9)本発明は、前記のいずれかに記載の検出回路を含む物理量測定装置である。
【0023】
本発明によれば、回路規模の増加を抑えつつ不要信号をキャンセルして、出力信号の低ノイズ化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態の検出回路のブロック図。
【図2】第1実施形態の検出回路を含む物理量測定装置の図。
【図3】駆動回路のブロック図。
【図4】図4(A)は不要信号の影響を示す図。図4(B)は不要信号の除去の流れを示す図。
【図5】第1実施形態の検出回路のAC段における回路の例を示す図。
【図6】第1実施形態のキャンセル信号生成部における回路の例を示す図。
【図7】第1実施形態の検出回路のDC段における回路の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.第1実施形態
本発明の第1実施形態について図1〜図7を参照して説明する。
1.1.本実施形態の検出回路の構成
図1は本実施形態の検出回路10のブロック図である。検出回路10は、センサー素子からの差動入力信号290、292をそれぞれ入力端子(S1)104、入力端子(S2)106で受け取る。本実施形態ではノイズ耐性のある差動入力を行うが、シングルエンド入力であってもよい。差動入力信号290、292には測定対象である物理量を検出した検出信号と、測定には不必要な不要信号が含まれている。検出回路10は、差動入力信号290、292に基づくアナログ信号に対してAC段12で必要な処理を行い、同期検波回路60を含むDC段14で直流電圧に変換して必要な処理を行う。そして、最終的な出力信号294を出力端子(VO1)108から出力する。
【0026】
検出回路10のAC段12は、チャージアンプ20−1、20−2、差動増幅回路(差動アンプ)30、ハイパスフィルター(HPF)40、ACアンプ50を含む。検出回路10のDC段14は、同期検波回路60、検出信号出力部70を含む。
【0027】
チャージアンプ20−1、20−2は、それぞれ差動入力信号290、292を増幅する。チャージアンプ20−1とチャージアンプ20−2とは同一の構成であり、差動入力信号290、292をそれぞれ同じように位相シフトする。なお、チャージアンプ20−1、20−2は省略されてもよい。
【0028】
差動増幅回路30は、チャージアンプ20−1、20−2から出力される信号110、112の両方を受け取り、これらの信号の差分を増幅して第1の信号114として出力する。ハイパスフィルター40は、第1の信号114の高周波成分を透過させて、第2の信号116として出力する。そして、ACアンプ50は、第2の信号116を増幅して第3の信号118をDC段14に出力する。
【0029】
同期検波回路60は、第3の信号118を受け取り同期検波を行う。検出信号出力部70は、同期検波回路60から出力される信号120を受け取り、例えばローパスフィルター等の平滑処理により直流電圧に変換された信号を生成したり、得られた直流電圧を増幅したりする。そして得られた信号を出力信号294として出力する。
【0030】
ここで、本実施形態の検出回路10は、基準位相信号202を受け取る。そして、通常の処理で用いられるハイパスフィルター40とACアンプ50を利用して、回路規模の増加を抑えながら不要信号を除去する。ハイパスフィルター40、ACアンプ50は、基準位相信号202に基づいて不要信号をキャンセルするキャンセル信号を生成して、第1の信号114、又は第2の信号116と合成する。ここで、基準位相信号202は、例えばセンサー素子が振動子である場合に、その振動子の励振電流に基づく信号であってもよい。本実施形態の検出回路10は、ハイパスフィルター40やACアンプ50を、不要信号のキャンセル回路として利用するので回路規模の増加を抑えつつ不要信号をキャンセルして、出力信号の低ノイズ化を実現できる。
【0031】
1.2.本実施形態の検出回路を含む物理量測定装置
図2は本実施形態の検出回路10を含む物理量測定装置1の構成例である。本実施形態の検出回路10は、物理量測定装置1の検出部分として機能する。なお、図1と同じ要素には同じ番号を付しており説明は省略する。
【0032】
物理量測定装置1は、検出回路10、駆動回路410、センサー素子である振動子2、3を含む。ここで、振動子2、3は一体であってもよい。例えば、物理量測定装置1がジャイロセンサーである場合、センサー素子に印加される物理量はコリオリ力である。コリオリ力は、振動する物体を回転させた場合に、物体の振動方向と回転軸のそれぞれに直交する方向に作用する力である。このとき、振動子2、3は一体であって、励振電流200や駆動回路410からの駆動信号208を入出力する駆動電極と、差動入力信号290、292を出力する検出電極とを備えていてもよい。また、振動子2、3が一体であるか否かにかかわらず、振動子3は、センサー素子が検出した物理量と振動子2の励振電流200の振幅Idrに比例した差動入力信号290、292を出力する。
【0033】
ここで、検出回路10は基準位相信号202を駆動回路410から受け取ってもよい。基準位相信号202は、具体例として励振電流200を電流電圧変換回路で電圧に変換した信号であってもよい。このとき、差動入力信号290、292と基準位相信号202とは、どちらも励振電流200に基づいて生成される信号であり互いに関連性を有する。そして、差動入力信号290、292に含まれる不要信号についても、同様に基準位相信号202と関連性を有し、例えば後述の回路例では不要信号の位相は基準位相信号202と平行、又は直交している。
【0034】
1.3.駆動回路
図3は、物理量測定装置1に含まれる駆動回路410のブロック図の例である。図1〜図2と同じ要素には同じ番号を付しており説明は省略する。駆動回路410は、電流電圧変換回路420、全波整流回路430、比較調整回路440、駆動信号生成回路450を含む。
【0035】
電流電圧変換回路420は、振動子2からの励振電流200を電圧に変換して出力電圧202を出力する。本実施形態では、この出力電圧202が基準位相信号となる。出力電圧202の振幅は励振電流200の振幅に比例している。全波整流回路430は、電流電圧変換回路420からの出力電圧202を全波整流して直流に近い電圧を得て出力電圧204を出力する。比較調整回路440は、全波整流回路430からの出力電圧204を比較電圧供給回路442からの電圧と比較し、比較結果を反映した信号である出力電圧206を駆動信号生成回路450に出力する。そして、駆動信号生成回路450は、電流電圧変換回路420からの出力電圧202に基づいて駆動信号208を生成するが、出力電圧206に基づいて駆動信号208の振幅を調整する。そして、この振幅の調整機能により振動子2からの励振電流200を安定させ、結果として、物理量測定装置1が測定する物理量の検出信号を安定させる。
【0036】
1.4.不要信号をAC段で除去する理由
ここで、検出回路10において不要信号をAC段で除去する理由について説明する。ここでは、本実施形態の検出回路を含む物理量測定装置がジャイロセンサーであると仮定して具体例を用いて説明する。図4(A)の信号は、ジャイロ信号130、静止時ジャイロ信号132、振動漏れ信号134であり、それぞれの矢印の向きは位相関係を示す。つまり、振動漏れ信号134だけが90度遅れた位相を有する。図4(A)の数値の単位であるppmは、例えばセンサー素子である振動子の励振電流に対する比率である。
【0037】
ジャイロ信号130は測定対象である角速度を検出した検出信号である。そして、静止時ジャイロ信号132は物理量測定装置を静止させた状態で出力される信号であり、オフセット等が含まれるとしてもよい。振動漏れ信号134はセンサー素子である振動子の加工精度やその材料の不均一によってコリオリ力が生じていない場合でも出力される信号である。静止時ジャイロ信号132と振動漏れ信号134とは不要信号である。
【0038】
このうち、振動漏れ信号134は、ジャイロ信号130に対して位相が90度遅れており、例えば図1のDC段に含まれる同期検波回路で除去できる。また、静止時ジャイロ信号132は、例えばDC段に含まれる検出信号出力部において、適当な信号レベルを加減算することで除去できる。したがって、不要信号をAC段で除去する必要はないとも思える。しかし、以下に述べるように回路規模の増加を極力抑えてS/N比の向上を図るには不要信号をAC段で除去する必要が生じる。
【0039】
ここで、AC段における信号の増幅をアナログゲインと呼び、DC段におけるものをデジタルゲインと呼ぶ。アナログゲインは例えば差動アンプやACアンプで行われ、デジタルゲインでは例えば乗算器が用いられたりやビットシフトが行われたりする。ジャイロセンサーが、その後段の装置等に適切な電圧レベルの信号を出力するためには、アナログゲインとデジタルゲインを合わせてGmaxまでのゲイン設定が可能である必要があるとする。つまり、アナログゲインの設定上限値AGmaxとデジタルゲインの設定上限値DGmaxとを用いてGmax=AGmax×DGmaxを満足する必要がある。
【0040】
ここで、アナログゲインの上限設定値AGmaxは検出信号130だけでなく、不要信号との合成信号136の振幅に基づいて定まる。例えば、設計上の制約として増幅後の信号の振幅が500[ppm]以下でなければならない場合、合成信号136の振幅が360[ppm]なので、AGmax=1.4となる。Gmax=10の場合には、DGmax=8となる。つまり、不要信号の除去をDC段で行う場合には、アナログゲインの上限設定値が小さくなるため、デジタルゲインの上限設定値を引き上げる必要がある。すると、DC段におけるデータパスのバス幅、データの一時保存に用いるメモリーや乗算器等のサイズが大きくなり、回路規模が増大することとなる。
【0041】
一方、不要信号の除去をAC段で行う場合には、静止時ジャイロ信号132と振動漏れ信号134とがキャンセルされるため、合成信号136の振幅も検出信号130と同じく200[ppm]となる。このとき、前記の例において、AGmax=2.5であるため、DGmax=4であればよい。すなわち、不要信号の除去をAC段で行う場合には、DC段で回路規模が増大することはない。よって、不要信号をAC段で除去することが望ましい。
【0042】
図4(B)は、AC段で不要信号を除去する流れを示す図である。ここでは、検出信号130をAcos(ωt)、平行成分の不要信号である静止時ジャイロ信号132をBcos(ωt)、直交成分の不要信号である振動漏れ信号134をCsin(ωt)と表している。AC段での入力信号140はこれらの合成信号である。所望の出力信号146は不要信号をキャンセルして検出信号130だけが残った信号である。このような出力信号146を得るためには、直交成分の不要信号をキャンセルするキャンセル信号142(−Bsin(ωt))と、平行成分の不要信号をキャンセルするキャンセル信号144(−Bcos(ωt))を入力信号140に合成するとよい。
【0043】
ここで、2つのキャンセル信号は振幅と90度ずれた位相とが異なるだけであるから、回路規模の増加を極力抑えるためにも、1つの信号から生成することが望ましい。また、入力信号140にキャンセル信号を合成する操作も、通常の処理で用いる既存の回路を利用できれば回路規模の増加を抑えることが可能である。
【0044】
第1実施形態では1つの基準位相信号202に基づいて、通常の処理で用いるハイパスフィルター40とACアンプ50を利用して、直交成分の不要信号と平行成分の不要信号とに対する2つのキャンセル信号を生成するので、回路規模の増加を抑えつつ出力信号294のS/N比を向上させることができる。
【0045】
1.5.本実施形態の検出回路の詳細
1.5.1.AC段
図5は、本実施形態の検出回路のAC段12における回路の例を示す図である。図1〜図4と同じ要素には同じ番号を付しており説明は省略する。
【0046】
チャージアンプ20−1、20−2は同一の構成であり、例えばオペアンプ26、抵抗器(帰還抵抗)24、キャパシタ(帰還容量)22で構成されてもよい。このとき、抵抗器24の抵抗値とキャパシタ22の容量を適当に設定することで例えば90度遅らせるなどの位相調整を行ってもよい。
【0047】
差動増幅回路30は、例えば抵抗器32、33、34、35とオペアンプ36で構成されてもよい。差動増幅回路30から出力される第1の信号114は、図4(B)の入力信号140に対応させることができる。
【0048】
ハイパスフィルター40は、例えばキャパシタ42と抵抗器44とキャンセル信号生成部80−1で構成されてもよい。ハイパスフィルター40のキャンセル信号122−1は、図4(B)の直交成分の不要信号をキャンセルするキャンセル信号142に対応させることができる。キャンセル信号生成部80−1は、キャンセル信号122−1をアナログ接地電位に固定することを可能にするスイッチと、基準位相信号202に基づいてキャンセル信号122−1を生成するキャンセル信号生成回路82−1とで構成されていてもよい。本実施形態のキャンセル信号生成回路82−1の詳細については後述する。
【0049】
ACアンプ50は、例えば抵抗器54、56とオペアンプ52とキャンセル信号生成部80−2で構成されてもよい。本実施形態では、キャンセル信号生成部80−1とキャンセル信号生成部80−2とは同一の構成であるため、説明は省略する。ACアンプ50のキャンセル信号122−2は、図4(B)の平行成分の不要信号をキャンセルするキャンセル信号144に対応させることができる。また、ACアンプ50が出力する第3の信号118は、図4(B)の出力信号146に対応させることができる。本実施の形態では、AC段の出力信号は不要信号がキャンセルされており検出信号の成分が残っている。
【0050】
1.5.2.ハイパスフィルターのキャンセル信号の位相
本実施形態では、ハイパスフィルター40もACアンプ50も、同じ基準位相信号202を入力信号とする同じ構成のキャンセル信号生成部80−1、80−2を含む。しかし、ハイパスフィルター40のキャンセル信号122−1とACアンプ50のキャンセル信号122−2の位相は不要信号との合成時には90度ずれている必要がある。本実施形態では、ハイパスフィルター40を位相シフト回路として利用することで、特別に回路を追加することなくこれを実現している。
【0051】
キャパシタ42(容量C)と抵抗器44(抵抗値R)とからなるハイパスフィルターを、キャンセル信号122−1を入力として見た場合にはローパスフィルターと定義でき、その伝達関数は数1になる。
【0052】
【数1】

【0053】
動作周波数に対して適当なC、Rを設定することで位相を90度遅らせることができる。例えば、図4(B)の例を用いると、キャンセル信号122−1が−Ccos(ωt)であっても、位相シフト回路を別途設けることなく不要信号との合成時には−Csin(ωt)に変換できる。
【0054】
1.5.3.キャンセル信号生成部
図6は、本実施形態のキャンセル信号生成部80−1における回路の例を示す図である。図1〜図5と同じ要素には同じ番号を付しており説明は省略する。なお、ここではキャンセル信号生成部80−1について説明するが、キャンセル信号生成部80−2も同じ構成である。
【0055】
本実施形態のキャンセル信号生成部80−1は、キャンセル信号122−1をアナログ接地電位に固定することを可能にするスイッチと、基準位相信号202に基づいてキャンセル信号122−1を生成するキャンセル信号生成回路82−1を含む。キャンセル信号生成回路82−1は、正転又は反転した信号を選択できる位相調整部86と、位相調整部86の出力信号の増幅率を変更できるプログラマブルゲインアンプ88と、制御信号124A〜124Cを与える不揮発性のメモリーである記憶部(フラッシュメモリー)84を含む。なお、記憶部84はフラッシュメモリーに限らずマスクROM等でもよい。
【0056】
本実施形態の位相調整部86は、基準位相信号202を受け取り、抵抗器303とキャパシタ305で構成されるローパスフィルターで位相調整を行い、抵抗器302、304とオペアンプ306で構成される非反転増幅回路で増幅する。なお、位相調整が不要な場合にはローパスフィルターを省略してもよい。そして、非反転増幅回路からの出力信号をコンパレーター308によって反転して、排他的にオンになるスイッチ310、311によって正転又は反転した信号を選択する。スイッチ310、311を選択する制御信号124Aは、記憶部84から与えられる。制御信号124Aの値は、差動入力信号290、292(図5参照)と基準位相信号202との位相関係によって定められる。
【0057】
プログラマブルゲインアンプ88は、位相調整部86からの出力信号の振幅を不要信号がキャンセルできるレベルまで増幅する。本実施形態のプログラマブルゲインアンプ88は、抵抗器312、可変抵抗器314、オペアンプ316で構成される反転増幅回路を含む。可変抵抗器314の抵抗値は制御信号124Bによって定められる。不要信号の大きさは個体差があるため、例えば製造時に適切な制御信号124Bの値を選択し、その情報を記憶部84に記録してもよい。
【0058】
キャンセル信号生成部80−1は、その最終段にキャンセル信号122−1をアナログ接地電位に固定することを可能にするスイッチを含むことが望ましい。キャンセルすべき不要信号がない場合に、制御信号124Cによってアナログ接地電位に固定できるようにするためである。
【0059】
このような構成のキャンセル信号生成部80−1、80−2を含むことにより、ハイパスフィルター40、ACアンプ50は不要信号を適切にキャンセルすることが可能になる。そのため、アナログゲインの設定上限値AGmaxを大きくとることが可能になり、検出回路全体として回路規模の増大を抑制しつつS/N比を向上させることができる。
【0060】
1.5.4.DC段
図7は、本実施形態の検出回路のDC段14における回路の例を示す図である。図1〜図6と同じ要素には同じ番号を付しており説明は省略する。
【0061】
検出回路のDC段14は、AC段12からの出力である第3の信号118を受け取って同期検波を行う同期検波回路60と、同期検波回路60からの出力信号を受け取って必要な処理を施した出力信号294を出力する検出信号出力部70を含む。
【0062】
同期検波回路60は、抵抗器62、64、オペアンプ66で構成される反転増幅回路によって第3の信号118の反転信号を生成する。そして、排他的にオンになるスイッチ68、69によって、正転又は反転した信号を選択する。スイッチ68、69の選択信号SDETは、例えば同期検波回路60の外部から与えられるパルス信号であってもよい。
【0063】
検出信号出力部70は、抵抗器71、73とキャパシタ72、74をそれぞれ組み合わせて構成されるローパスフィルターを含んでいてもよい。ローパスフィルターは、同期検波の平滑化処理や後段の処理のプリフィルターとして機能する。検出信号出力部70は、可変抵抗器76、77とオペアンプ75で構成される可変ゲインアンプを含んでいてもよい。例えば、この可変ゲインアンプは本実施形態の検出回路を含む物理量測定装置において使用者が設定可能なデジタルゲインとして使用される。さらに出力信号294は、アンチエイリアシングのためのスイッチトキャパシタフィルター78を経由して出力されてもよい。
【0064】
本実施形態では、検出回路のAC段で不要信号がキャンセルされているために、AC段でのゲイン設定を大きくすることができる。そして、AC段を高ゲインに設定し、かつDC段でのゲインを低く設定することで低ノイズの良好な出力信号294を出力することが可能である。
【0065】
2.変形例
本発明の検出回路は、以下のような変形が可能である。
【0066】
第1実施形態では、直交成分の不要信号と平行成分の不要信号の両方をキャンセルしているが、どちらか一方のみをキャンセルしてもよい。例えば、直交成分の不要信号が微小である場合に、平行成分の不要信号のみをキャンセルする回路を備えることで、不要信号をキャンセルする効果はあまり低下させずに回路規模をさらに抑えることができる。
【0067】
また、第1実施形態では、ハイパスフィルター40とACアンプ50が独立にキャンセル信号生成回路82−1、82−2を有するが、その一部を共有してもよい。具体例としては位相調整部86(図6参照)を共有してもよい。このことで、回路規模をより小さくすることができる。
【0068】
また、第1実施形態では、キャンセル信号生成回路82−1、82−2は共通する1つの基準位相信号202を受け取るが、個別の基準位相信号を受け取ってもよい。また、キャンセル信号生成回路82−1、82−2は位相調整用のローパスフィルター(図6の抵抗器303、キャパシタ305参照)をバイパスする回路を備えていてもよい。これらの変形は、キャンセル信号生成回路の汎用性を高め、様々な不要信号への対応を可能にする。また、基準位相信号202として駆動回路410で生成される信号を用いる場合、キャンセル信号生成回路82−1、82−2は駆動回路410に含まれていてもよい。
【0069】
これらの例示に限らず、本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0070】
1…物理量測定装置、2、3…振動子、10…検出回路、12…AC段、14…DC段、20−1、20−2…チャージアンプ、22、42、72、74、305…キャパシタ、24、32、33、34、35、44、54、56、62、64、71、73、302、303、304、307、309、312…抵抗器、26、36、52、66、75、306、316…オペアンプ、30…差動増幅回路(差動アンプ)、40…ハイパスフィルター(HPF)、50…ACアンプ、60…同期検波回路、68、69、310、311…スイッチ、70…検出信号出力部、76、77、314…可変抵抗器、78…スイッチトキャパシタフィルター、80−1、80−2…キャンセル信号生成部、82−1、82−2…キャンセル信号生成回路、84…記憶部(フラッシュメモリー)、86…位相調整部、88…プログラマブルゲインアンプ、100…入力端子(DG)、102…出力端子(DS)、104…入力端子(S1)、106…入力端子(S2)、108…出力端子(VO1)、110、112、120…信号、114…第1の信号、116…第2の信号、118…第3の信号、122−1、122−2、142、144…キャンセル信号、124A、124B、124C…制御信号、130…検出信号(ジャイロ信号)、132…静止時ジャイロ信号、134…振動漏れ信号、136…合成信号、140…入力信号、146、294…出力信号、200…励振電流、202…基準位相信号(出力電圧)、204、206…出力電圧、208…駆動信号、290、292…差動入力信号、308…コンパレーター、410…駆動回路、420…電流電圧変換回路、430…全波整流回路、440…比較調整回路、442…比較電圧供給回路、450…駆動信号生成回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサー素子からの差動入力信号に基づいて前記センサー素子に印加される物理量を検出する検出回路であって、
前記差動入力信号の差分を増幅して、第1の信号として出力する差動増幅回路と、
前記第1の信号の高周波成分を透過させて、第2の信号として出力するハイパスフィルターと、
前記第2の信号を増幅して、第3の信号として出力するACアンプと、を含み、
前記ハイパスフィルターは、
前記第1の信号が入力される第1の端子と、前記第2の信号を出力する第2の端子とを備えるキャパシタと、
前記第2の端子と接続される第3の端子と、キャンセル信号が入力される第4の端子とを備える抵抗器と、を含み、
前記キャンセル信号を90度位相シフトして前記第1の信号と合成し、前記差動入力信号に含まれている前記物理量の検出に不要な信号である不要信号の少なくとも一部を相殺する検出回路。
【請求項2】
請求項1に記載の検出回路において、
前記ACアンプは、
前記不要信号の少なくとも一部が相殺された前記第2の信号の信号レベルに基づいて増幅率の上限が設定される検出回路。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれかに記載の検出回路において、
前記センサー素子は振動子であって、
前記振動子の励振電流に基づく信号である基準位相信号を受け取り、
前記ハイパスフィルターは、
不揮発性のメモリーである記憶部と、
前記記憶部からの設定信号に応じて増幅率を変更できるプログラマブルゲインアンプと、を含み、
前記プログラマブルゲインアンプによって前記基準位相信号を増幅してキャンセル信号とする検出回路。
【請求項4】
請求項3に記載の検出回路において、
前記ハイパスフィルターは、
前記プログラマブルゲインアンプの増幅率を0と設定することが可能である検出回路。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の検出回路において、
前記ACアンプは、
反転増幅回路を含み、
前記反転増幅回路の反転入力端子に接続された抵抗器の他方の端には前記キャンセル信号が入力され、前記差動入力信号に含まれている前記物理量の検出に不要な信号である不要信号の少なくとも一部を相殺する検出回路。
【請求項6】
センサー素子からの差動入力信号に基づいて前記センサー素子に印加される物理量を検出する検出回路であって、
前記差動入力信号の差分を増幅して、第1の信号として出力する差動増幅回路と、
前記第1の信号の高周波成分を透過させて、第2の信号として出力するハイパスフィルターと、
前記第2の信号を増幅して、第3の信号として出力するACアンプと、を含み、
前記ACアンプは、
反転増幅回路を含み、
前記反転増幅回路の反転入力端子に接続された抵抗器の他方の端には前記キャンセル信号が入力され、前記差動入力信号に含まれている前記物理量の検出に不要な信号である不要信号の少なくとも一部を相殺する検出回路。
【請求項7】
請求項6に記載の検出回路において、
前記ACアンプは、
前記不要信号の少なくとも一部が相殺された前記第3の信号の信号レベルに基づいて増幅率の上限が設定される検出回路。
【請求項8】
請求項6乃至7のいずれかに記載の検出回路において、
前記センサー素子は振動子であって、
前記振動子の励振電流に基づく信号である基準位相信号を受け取り、
前記ACアンプは、
不揮発性のメモリーである記憶部と、
前記記憶部からの設定信号に応じて増幅率を変更できるプログラマブルゲインアンプと、を含み、
前記プログラマブルゲインアンプによって前記基準位相信号を増幅してキャンセル信号とする検出回路。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の検出回路を含む物理量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−88121(P2012−88121A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233830(P2010−233830)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】