説明

検査対象受体

【課題】精度の高い検体の検査、測定を行うことができる検査対象受体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の検査対象受体である検査チップ40は、検体案内部46と、定量部50の第二壁部右方壁面52A前端部と第一壁部左方壁面51Aの前端部を含んで構成される平面である定量部出入口面57とを検査チップ40後方に投影して重ね合わせた際に検体案内部46が定量部出入口面57に内接するような構成であることにより、検体案内部46から定量部50へ流入する検体は、定量部出入口面57に形成される検体の液面端部近傍に流入するため、検体の液面が乱れることがない。よって、定量部50における検体の定量誤差が生じることがなく、精度よく検体の検査を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的、医学的、生物学的な検査を行うための検査対象受体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体物質及び化学物質等を検査するために使用されるマイクロチップ又は検査チップと呼ばれる検査対象受体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような検査対象受体を使用することで、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)、酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルス、細胞などを検知したり、定量したりすることができる。
【0003】
図21に示されるように、特許文献1に記載の検査チップ100では、検査対象の試料(血液等)が開口101から内部に注入され、遠心装置にて回転される。開口101から注入された血液は、遠心装置により付与される遠心力によって出口毛管102を通過し、分離室103に投入される。分離室103では、投入された血液を付与される遠心力にて遠心分離を行い、上澄み液を得る。その後、上澄み液は試料計量室105にて計量される。一方、上澄み液と混合、反応させることで血液の検査を行うに際し必要な光学特性を発現させるための反応試剤、及びその希釈剤は、別途あらかじめ反応試剤室107及び希釈剤室108に封入されており、遠心装置により付与される遠心力により、制限開口109を通過して反応試剤計量室110に流入する。反応試剤計量室110では、反応試剤及び希釈剤が混合され混合液となった上で所定量計量される。得られた上澄み液、及び混合液は、検査チップ100の、遠心装置における保持角度を変更することによって得られる遠心力方向の変化により、チップ表面に形成された溝を所定の順序で流通し、混合されてキュベット室111に至る。キュベット室111に光を照射することで、上澄み液と混合液とが混合された液体の光学特性を計測し、試料の検査を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−238760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で示される検査チップ100では、試料から上澄み液を分離する分離室103にて分離された上澄み液を、試料計量室105にて計量する。この際、試料計量室105に対して、上澄み液は出入口部106を通過して投入されるが、出入口部106の出口の位置は、試料計量室105に対して特に規定はされてはおらず、図21の例では、試料計量室105の開口部に対し、中央から左に位置している。また、反応試剤と希釈剤の混合液を計量する反応試剤計量室110に対し、制限開口109の出口は、反応試剤計量室110の開口部の左方(図21の左方)端よりやや内側に位置している。
【0006】
試料計量室105や反応試剤計量室110が血液や混合液にて満たされている場合、それらの開口部には血液や混合液の液面が形成される。しかし、上述したような位置に出入口部106や制限開口109の出口が位置している場合、試料計量室105や反応試剤計量室110に対してさらに血液や混合液が流入してくる際に、形成されている液面に対し血液や混合液が直接流入して液面が乱れてしまい、その結果計量誤差が発生し、ひいては検査の精度に影響を及ぼしてしまう、という問題があった。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、液体の計量誤差が少なく、精度よく検査を行うことができる検査対象受体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明の検査対象受体は、公転により生じる遠心力の方向に対して自転により所定の回転角度に保持することにより前記遠心力の作用によって検査対象の液体を内部で移動させて検査する用途に用いられる検査対象受体であって、第一の回転角度に保持されることにより前記遠心力が第一の方向に生じている場合に、液体を前記第一の方向に向けて案内する第一案内部と、前記第一案内部を案内された前記液体を受けて、所定量の前記液体を貯留可能である定量部と、前記定量部で前記所定量の前記液体が貯留されている場合であって、且つ、前記遠心力が第一の方向に生じている場合に、前記定量部から流出する余剰分の前記液体を案内する第二案内部と、前記第二案内部によって案内された前記余剰分の前記液体が貯留される余剰部と、前記第一の回転角度とは異なる第二の回転角度に保持されることにより前記遠心力が第二の方向に生じている場合に、前記定量部に貯留された前記液体が流出する方向に設けられている第三案内部とを備え、前記第一案内部の前記定量部側の出口部と、前記定量部の第二案内部側の端部と第三案内部側の端部を含んで構成される平面である定量部出入口断面とを前記第一の方向に投影して重ね合わせた際に、前記第一案内部出口部の外周と、前記定量部出入口断面の外周とが、接しているか、あるいは交差していることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2に係る発明の検査対象受体は、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記第一案内部出口部と前記定量部出入口部とを前記第一の方向に投影して重ね合わせた際に、前記第一案内部出口部の外周と、前記定量部出入口部の外周とが、それぞれの前記第三案内部側の端部にて内接していることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3に係る発明の検査対象受体は、請求項2に記載の発明の構成に加え、前記第一案内部、前記定量部、前記第二案内部、及び前記第三案内部は、その一面が同一方向に開放され窪んで形成され、その開放面はカバー材にて覆われており、前記第一案内部出口部と前記定量部出入口部とを前記第一方向に投影して重ね合わせた際に、前記第一案内部出口部の外周と、前記定量部出入口部の外周とが、前記開放された面及びそれぞれの前記第三案内部側の端部にて内接していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項4に係る発明の検査対象受体は、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記第一案内部出口部と前記定量部出入口部とを前記第一の方向に投影して重ね合わせた際に、前記第一案内部出口部の外周と、前記定量部出入口部の外周とが、それぞれの前記第二案内部側の端部にて内接していることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項5に係る発明の検査対象受体は、請求項4に記載の発明の構成に加え、前記第一案内部、前記定量部、前記第二案内部、及び前記第三案内部は、その一面が同一方向に開放され窪んで形成され、その開放面はカバー材にて覆われており、前記第一案内部出口部と前記定量部出入口部とを前記第一方向に投影して重ね合わせた際に、前記第一案内部出口部の外周と、前記定量部出入口部の外周とが、前記開放された面及びそれぞれの前記第二案内部側の端部にて内接していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明の検査対象受体は、前記第一案内部の前記定量部側の出口部と、前記定量部の第二案内部側の端部と第三案内部側の端部を含んで構成される平面である定量部出入口断面とを前記第一の方向に投影して重ね合わせた際に、前記第一案内部出口部の外周と、前記定量部出入口断面の外周とが、接しているか、あるいは交差していることにより、前記第一案内部から流入する前記液体は、前記定量部出入口に形成される前記液体の液面の端部近傍に流入するため、前記液体の液面が乱れることがなく、そのことにより前記定量部における前記液体の定量誤差が生じることがなく、精度よく液体の検査を行うことができる。
【0014】
請求項2に係る発明の検査対象受体は、請求項1に記載の発明の効果に加え、前記第一案内部出口部と前記定量部出入口部とを前記第一の方向に投影して重ね合わせた際に、前記第一案内部出口部の外周と、前記定量部出入口部の外周とが、それぞれの前記第三案内部側の端部にて内接していることにより、前記第一案内部から流入する前記液体は、前記定量部出入口に形成される前記液体の液面の、より端部に近い位置に流入するため、前記液体の液面が乱れることがより少なくなり、そのことにより前記定量部における前記液体の定量精度がより高くなり、よってより精度よく液体の検査を行うことができる。
【0015】
請求項3に係る発明の検査対象受体は、請求項2に記載の発明の効果に加え、前記第一案内部出口部と前記定量部出入口部とを前記第一方向に投影して重ね合わせた際に、前記第一案内部出口部の外周と、前記定量部出入口部の外周とが、前記開放された面及びそれぞれの前記第三案内部側の端部にて内接していることにより、前記第一案内部から流入する前記液体は、前記定量部出入口に形成される前記液体の液面の、より端部に近い位置に流入するため、前記液体の液面が乱れることがより少なくなり、そのことにより前記定量部における前記液体の定量精度がより高くなり、よってより精度よく液体の検査を行うことができる。また、前記第一案内部、前記定量部、前記第二案内部、及び前記第三案内部は、その一面が同一方向に開放され窪んで形成されていることにより、検査対象受体を製造する際に、より簡便にこれらを形成することが可能となり、ひいてはより簡単な設備で検査対象受体を製造することが可能となる。
【0016】
請求項4に係る発明の検査対象受体は、請求項1に記載の発明の効果に加え、前記第一案内部出口部と前記定量部出入口部とを前記第一の方向に投影して重ね合わせた際に、前記第一案内部出口部の外周と、前記定量部出入口部の外周とが、それぞれの前記第二案内部側の端部にて内接していることにより、前記第一案内部から流入する前記液体は、前記定量部出入口に形成される前記液体の液面の、より端部に近い位置に流入するため、前記液体の液面が乱れることがより少なくなり、そのことにより前記定量部における前記液体の定量精度がより高くなり、よってより精度よく液体の検査を行うことができる。
【0017】
請求項5に係る発明の検査対象受体は、請求項4に記載の発明の効果に加え、前記第一案内部出口部と前記定量部出入口部とを前記第一方向に投影して重ね合わせた際に、前記第一案内部出口部の外周と、前記定量部出入口部の外周とが、前記開放された面及びそれぞれの前記第二案内部側の端部にて内接していることにより、前記第一案内部から流入する前記液体は、前記定量部出入口に形成される前記液体の液面の、より端部に近い位置に流入するため、前記液体の液面が乱れることがより少なくなり、そのことにより前記定量部における前記液体の定量精度がより高くなり、よってより精度よく液体の検査を行うことができる。また、前記第一案内部、前記定量部、前記第二案内部、及び前記第三案内部は、その一面が同一方向に開放され窪んで形成されていることにより、検査対象受体を製造する際に、より簡便にこれらを形成することが可能となり、ひいてはより簡単な設備で検査対象受体を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】検査装置1の平面図である。
【図2】検査装置1の左側面図である。
【図3】本発明の実施形態である検査チップ40の平面図である。
【図4】検査チップ40の定量部50前端部近傍の拡大平面図である。
【図5】検査チップ40の斜視図である。
【図6】検体案内部46及び定量部出入口面57を検査チップ40前方から同一平面へ投影した場合の投影図である。
【図7】検査装置1で実行される検査処理のフローチャートである。
【図8】検体、試薬を充填した状態の検査チップ40の平面図である。
【図9】遠心力方向の角度「0°」の状態を示す検査チップ40の平面図である。
【図10】遠心力方向の角度「80°」の状態を示す検査チップ40の平面図である。
【図11】遠心力方向の角度「0°」の状態を示す検査チップ40の他の平面図である。
【図12】別実施形態の検査チップ140の定量部50前端部近傍の拡大平面図である。
【図13】検体案内部146及び定量部出入口面57を検査チップ140前方から同一平面へ投影した場合の投影図である。
【図14】別実施形態の検査チップ240の定量部50前端部近傍の拡大平面図である。
【図15】検体案内部246及び定量部出入口面57を検査チップ240前方から同一平面へ投影した場合の投影図である。
【図16】別実施形態の検査チップ340の定量部50前端部近傍の拡大平面図である。
【図17】検体案内部346及び定量部出入口面57の検査チップ340前方からの投影図である。
【図18】別実施形態の検査チップ440の平面図である。
【図19】別実施形態の検査チップ440の定量部50前端部近傍の拡大平面図である。
【図20】検体案内部446及び定量部出入口面57を検査チップ440前方から同一平面へ投影した場合の投影図である。
【図21】従来の検査チップ100の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態では、検査対象である液体(以下、検体と呼ぶ。)及び検体に混合される液体(以下、試薬と呼ぶ。)を収容可能な検査チップ40を用いて、検査装置1で検査が行われる場合を例示する。検査装置1は、検査チップ40を高速で回転させることにより、遠心力を付与することが可能であり、その際に、検査チップ40の回転角度を変化させることによって、検査チップ40に付与される遠心力の方向(以下、遠心力方向と呼ぶ。)を切り替えることが可能である。
【0020】
図1〜図2を参照して、検査装置1の概略構造について説明する。以下の説明では、図1の上方、下方、右方、左方を、それぞれ、検査装置1の右方、左方、前方、後方とする。図2の上方、下方、右方、左方を、それぞれ、検査装置1の上方、下方、前方、後方とする。また、理解を容易にするために、図2では、外壁部2を図1に示すX−X線における矢視方向の断面図で示している。
【0021】
検査装置1は、円筒形の筺体である外壁部2を備える。外壁部2の内部には、外壁部2よりも小径の円盤体であるターンテーブル3が回転自在に設けられている。ターンテーブル3の直径方向の両端部、すなわちターンテーブル3の円周近傍には、一対のチップホルダ4が各々設けられている。
【0022】
外壁部2の内面には、外壁部2内の空間を二分するように内壁21が設けられている。内壁21の中心付近には、孔23が設けられている。内壁21の中心付近下面には、モータ5が設けられている。モータ5は、モータ5から孔23を通じて上方に延びる軸6を備える。
【0023】
軸6の上端部には、ターンテーブル3が接続されている。軸6はターンテーブル3の平面中心に接続されている。モータ5が軸6を回転させるのに伴って、ターンテーブル3も軸6を中心として回転する。
【0024】
ターンテーブル3の回転中心(軸6の接続されている位置)から外周方向に離間した位置において、軸18がターンテーブル3の上下方向に、孔24を通じて延設されている。軸18の上端部にはチップホルダ4が、回転自在に軸支されている。チップホルダ4は、一例として、底板と上板と側壁とで外形が形成された箱状体である。詳細には、チップホルダ4は、上方側から見て長方形に形成された検査チップ40を内部に収納、保持できるように、検査チップ40より一回り大きい上方側から見て長方形に形成された箱状の部材である。
【0025】
ターンテーブル3の回転中心から外周方向に離間した位置の下面には、角度変更機構19が設けられている。角度変更機構19はその動作によって軸18を回転させ、チップホルダ4が所定角度回転するものであれば、任意の構成を有することができる。
【0026】
本実施形態では、ターンテーブル3がモータ5によって回転駆動されると、チップホルダ4に保持された検査チップ40も軸6を回転中心として回転する。軸6を回転中心とした検査チップ40の回転を、検査チップ40の「公転」と呼ぶ。一方、チップホルダ4が角度変更機構19によって所定角度回転されると、チップホルダ4に保持された検査チップ40も軸18を回転中心として所定角度回転する。軸18を回転中心とした検査チップ40の回転を、検査チップ40の「自転」と呼ぶ。
【0027】
検査装置1は、外壁部2の外部に設けられた制御装置70に接続されている。制御装置70は、図示外のCPU、RAM、ROM等を内蔵して、検査装置1の各種動作(例えば、ターンテーブル3の回転や、チップホルダ4の回転など)を制御する。制御装置70には、検査者が検査装置1の各種動作を指示するための操作部(図示外)が設けられている。
【0028】
検査装置1の前方(図1、図2では右方)には、外壁延出部22がターンテーブル3の上方に延びて設けられ、外壁延出部22の先端部の下面には、ターンテーブル3上面に設けられているチップホルダ4に対し、光源7及び検出器8により構成されている光学検査部9が設けられている。光源7は、チップホルダ4に保持された検査チップ40内で生成された試薬と検体との混合物に光を照射し、検出器8は、反応生成物にて反射された光を、検査チップ40の上方で検出する。制御装置70は、検出器8で検出された受光量に基づいて、各種測定を実行できる。
【0029】
次に、図3〜5を参照して、検査チップ40の概略構造について説明する。図3は検査チップ40の平面図であり、図4は検査チップ40の定量部50前端部付近の拡大図であり、図5は検査チップ40の斜視図である。以下では、図3の上方、下方、右方、左方を、それぞれ、検査チップ40の前方、後方、右方、左方として説明する。また、図3の紙面手前側及び紙面奥側を、それぞれ、検査チップ40の上方及び下方として説明する。
【0030】
本実施形態では、検査装置1で検査チップ40を使用する場合、検査チップ40の上下方向が検査装置1の上下方向と一致するように、検査者が検査チップ40を水平にチップホルダ4に装着する。このとき、検査者は、検査チップ40の後方側側面が放射方向(つまり、矢印Aに示す方向)に向くように、検査チップ40をチップホルダ4に装着する(図1参照)。
【0031】
検査チップ40は、前後方向を長手方向とする、上方側から見て長方形状をなす薄手の箱状体であり、板材43とカバー材71とにより構成される。板材43は、上方側から見て長方形で、所定の厚みを有する板材であり、その材質は熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の有機材料や、シリコン、ガラス、石英などの無機材料など特に制限されない。
【0032】
板材43には、検体を注入する検体注入口41及び試薬を投入する試薬注入口42が上方から見て円形の窪みとして上方が開放され形成されている。検体注入口41、試薬注入口42は、板材43の上面に右側から左側に向けて並んで形成されている(図3参照)。
【0033】
検体注入口41は、検査チップ40内に検体を供給するために、検査者が検体を注入する部位である。検体注入口41には検体供給路44が接続されている。検体供給路44は、板材43の上面に、上方が開放された四角形状の断面を有する溝状に形成されており、検体注入口41の後方側に前後方向に延びて設けられている。検体供給路44の後端部には検体案内部46が、幅が狭くなった出口として後方域に前後方向に延びて設けられている。
【0034】
試薬注入口42は、検査チップ40内に試薬を供給するために、検査者が試薬を注入する部位である。試薬注入口42には試薬供給路45が接続されている。試薬供給路45は、板材43の上面に、上方が開放された四角形状の断面を有する溝状に形成されており、試薬注入口42の後方側に前後方向に延びて設けられている。試薬供給路45の後端部には試薬案内部47が、幅が狭くなった出口として後方域に前後方向に延びて設けられている。
【0035】
検査チップ40においては、試薬注入口42は一つだけ設けられており、検査者は検査チップ40内に一つの検体に対し一つの試薬を注入して、これらの検体及び試薬を混合させることができる。また、検体供給路44及び試薬供給路45は、検査チップ40の前後方向に互いに平行に延設されている。
【0036】
検体供給路44の後方側(図4における下方側)には、検体供給路44から供給される検体を所定量計量するための定量部50が形成されている。定量部50は、第一壁部51と第二壁部52との間に形成された右後方に延びて設けられている、検体を溜めることができる部位である。第二壁部52は、検体供給路44の出口である検体案内部46と間隔をおいて前後方向に対向する、第二壁部52の右側の壁面である第二壁部右方壁面52Aと、前側の壁面である第二壁部前方壁面52Bとを有する。第一壁部51は、その左側の壁面である第一壁部左方壁面51Aと、前側の壁面である第一壁部前方壁面51Bとを有する。定量部50は、第一壁部左方壁面51Aと第二壁部右方壁面52Aとで区画形成されている。また、定量部50は、板材43の上面から下方に向かって窪んでいる窪みとして形成され、板材43の上面に開放している。
【0037】
第一壁部51を形成する第一壁部左方壁面51Aと第一壁部前方壁面51Bとは、その接点51Cで角度を有して接している。第一壁部前方壁面51Bの、接点51Cと反対側の先端部は、接点51Cより右側に位置している。
【0038】
図3に示すように、第二壁部右方壁面52Aの延設方向と検査チップ40の左右方向、即ち、検体供給路44及び試薬供給路45が延びる方向と直交する方向とのなす角度が、第一角度θ1である。より詳細には、第一角度θ1は、第二壁部右方壁面52Aの延設方向に延びる線と検査チップ40の左右方向に延びる線との交点を回転中心として、第二壁部右方壁面52Aを左右方向と平行になるまで時計回り方向に回転させた場合の角度である。本実施形態では、第一角度θ1が少なくとも鋭角(一例として、70°)となるように、第二壁部52が形成されている。第二壁部前方壁面52Bは、第二壁部右方壁面52Aとの接点52Cで第二壁部右方壁面52Aと角度を有して接している。第二壁部前方壁面52Bの延設方向と検査チップ40の左右方向とのなす角度が、第二角度θ2である。より詳細には、第二角度θ2は、第二壁部前方壁面52Bの延設方向に延びる線と検査チップ40の左右方向に延びる線との交点を回転中心として、第二壁部前方壁面52Bを左右方向と平行になるまで時計回り方向に回転させた場合の角度である。本実施形態では、第二角度θ2は、第一角度θ1よりも小さい角度(一例として、10°)となるように、第二壁部52が形成されている。このように形成されることにより、第二壁部右方壁面52Aと第二壁部前方壁面52Bは接点52Cにて角度を有して接している。
【0039】
接点52Cは、図4にも示す通り、検体案内部46の左側の側面46Aから、後方に延長した直線56上に位置するように設けられている。図6は、接点51Cと接点52Cを含んで形成される定量部出入口面57と、検体案内部46とを重ねて、前方から同一平面に投影した投影図である。なお、図6の下方が検査チップ40の上方(図3では紙面手前方向)であり、紙面奥方向が後方(図3では下方)である。図6に示す通り、接点52Cは、検体案内部46の左側の側面46Aと重なり、検体案内部46は定量部出入口面57に内接するような位置に設けられている。
【0040】
第二壁部52と第二壁部52の左方に対向して設けられている第四壁部59とによって、流路61が溝状に形成されている。流路61は、定量部50で計量された検体を、後述の混合槽55へ案内する流路である。一方、第一壁部51と第一壁部51の右方に対向して設けられている第三壁部58とにより形成される流路60により、余分な検体は余剰槽54へ案内される。余剰槽54は、第一壁部51の後方に設けられた、後方に矩形状をなしている部位であって、定量部50から流れ出た検体が貯留される。流路61、流路60及び余剰槽54は、それぞれ板材43の上面から下方に向かって窪んでいる溝及び窪みとして形成され、板材43の上面に開放している。
【0041】
第一壁部51において第一壁部前方壁面51Bの右端部(つまり、余剰槽54側の端部)から後方に連続して延びる壁面は、案内面53である。案内面53は、流路60に流れ出た検体を余剰槽54に向けて案内する。
【0042】
試薬供給路45の後方側(図3における下方側)には、混合槽55が形成されている。混合槽55は、試薬供給路45(試薬案内部47)と流路61の後方側に形成された、矩形状をなしている部位である。混合槽55では、流路61を経由して流れ出た検体と、試薬供給路45から試薬案内部47を経て供給された試薬とが混合されて、混合液が生成される。なお、混合槽55は、板材43の上面から下方に向かって窪んでいる窪みとして形成され、板材43の上面に開放している。
【0043】
板材43の上面には、図5に示すように、板材43の上面側が開放されて設けられている各供給路44、45、定量部50、余剰部54、混合槽55、及びそれらを結ぶ流路等をカバーするようにカバー材71が設けられている。カバー材71は、板材43の上面に貼付されて設けられている。なお、図3ではカバー材71が透明である場合の状態を示している。
【0044】
カバー材71の材質としては、一部透明で、板材43と接着できれば熱可塑性樹脂等、材質を問わない。カバー材71の、検体注入口41及び試薬注入口42の上面には、孔41A、42Aが、検体注入口41及び試薬注入口42よりも小さく形成されている。各注入口41、42から検体や試薬を注入する場合には、これらの孔41A、42Aを通じて注入される。
【0045】
また、カバー材71の混合槽55の上面を覆う部分については、光学測定窓72として、光を透過する材料によって透明に構成される。もちろん、図5に示すように、カバー材71全体が透明であってもよい。カバー材71の板材43への貼り付けは、熱溶着、UV光やレーザー光による接着、ホットメルト接着等の接合方法を用いることができる。
【0046】
次に、図7〜11を参照して、検査装置1及び検査チップ40を用いた検査方法について説明する。以下の説明では、図7を参照して検査者の動作及び検査装置1の動作を説明しつつ、図8〜11を適宜参照して検査チップ40の状態変化を説明する。なお、図8〜11ではカバー材71が透明である場合の状態を示している。
【0047】
まず、検査者は、検査チップ40を、各注入口41、42が上側になるように設置した後、検査チップ40の検体注入口41に検体を注入する。同様に、検査者は、試薬注入口42に試薬を注入する(S11)。これにより、検体及び試薬が、検査チップ40内に供給され、各供給路44、45に滞留する(図8参照)。
【0048】
S11の実行後、検査者は、制御装置70の操作部(図示外)を操作して、検査装置1の電源をONする(S12)。次に検査者は、検査チップ40の後方側側面が放射方向(つまり、図1の矢印Aに示す方向)に向くように、検査チップ40をチップホルダ4に装着する(図1参照)。(S13)。そして検査者が、制御装置70の操作部を操作することにより、制御装置70のCPU(図示外)は、ROM(図示外)に記憶されている制御プログラムに基づいて、検査チップ40の遠心処理を実行する(S14)。
【0049】
検査チップ40の遠心処理(S14)では、まず検査チップ40の前後方向(検体供給路44、試薬供給路45の延設方向)と遠心力方向とのなす角度が「0°」の状態で、200Gの遠心力が付与される公転が10秒間行われる。このとき、検査チップ40の後方側側面が、遠心力方向を向いている。これにより、図9に示すように、検体注入口41から注入され検体供給路44に滞留している検体は、遠心力によって検体案内部46を経て定量部50に流出する。定量部50では、先述したように、所定量の検体が貯留され、且つ、余剰分の検体が余剰槽54に流出して貯留される。
【0050】
この際、遠心力方向は検査チップ40の前方から後方に向かう方向となる。そのため、検体案内部46の左側側面46Aを遠心力方向に延出した直線56上に、第二壁部52の接点52Cが位置している。
【0051】
同時に、試薬注入口42から注入され試薬供給路45に滞留している試薬は、遠心力により試薬案内部47を経て混合槽55に流出する。この試薬は、遠心力の作用によって混合槽55に貯留される。
【0052】
次に、チップホルダ4が所定角度自転される。具体的には、図10に示すように、遠心力方向の角度が「80°」となるまで、チップホルダ4が反時計回りに自転される。この状態で、200Gの遠心力が付与される公転が10秒間行われる。このとき、遠心力方向は、図9に示す例と比較して時計回りに80°傾斜する。付与される遠心力方向と第二壁部右方壁面52Aの延設方向とのなす角のうち、定量部50側の角度θ11は鈍角になるため、定量部50で計り取られた検体は第二壁部右方壁面52Aに沿って先端側に移動する。さらに、付与される遠心力方向と第二壁部前方壁面52Bの延設方向とのなす角のうち、流路61側の角度θ12も角度θ11と同様に鈍角になるため、検体は、流路61内を移動して混合槽55に流れ込み、検体と試薬とで構成される混合液が生成及び貯留される。
【0053】
最後に、チップホルダ4が元の状態に戻るように自転される。具体的には、図11に示すように、遠心力方向の角度が「0°」となるまで、チップホルダ4が時計回りに自転される。この状態で、200Gの遠心力が付与される公転が10秒間行われる。このとき、図8に示す例と同様に、検査チップ40の後方側側面が遠心力方向を向いている。そのことにより、遠心力の作用によって、混合液が混合槽55の下部に溜まる。
【0054】
その後、ターンテーブル3の回転(つまり、チップホルダ4の公転)が停止され、遠心力の付加が終了される。このとき、検査チップ40に設けられている光学検査窓62を光学検査部9直下に位置させるように、ターンテーブル3を所定の回転位置で停止させる(S15)。S16の実行後、光源7から検査チップ40に対して光が照射される。検出器8で検査チップ40中の検体にて反射された光が検出されることによって、検査結果が測定される(S16)。最後に、S16で測定された検査結果が、制御装置70の画面(図示外)に表示される(S17)。
【0055】
本実施形態の検査チップ40は、図3、4、6に示す通り、第二壁部52の第二壁部右方壁面52Aと第二壁部前方壁面52Bとの接点52Cが、検体案内部46の左側の側面46Aから、後方に延長した直線56上に位置するように設けられている。つまり、検査チップ40の後方に向けて検体案内部46と定量部出入口面57を投影した際に、接点52Cは、検体案内部46の左側の側面46Aと重なり、検体案内部46は定量部出入口面57に内接するような位置に設けられている。このことにより、検査チップ40の前方から後方に遠心力が付与される際(つまり、遠心力方向が「0°」の場合)に検体案内部46から流入する検体は、定量部出入口面57に形成される検体の液面の端部近傍に流入するため、定量部50に滞留する検体の液面が乱れることがなく、そのことにより定量部50における検体の定量誤差が生じることがなく、精度よく検体を定量でき、ひいては精度よく検体の検査を行うことができる。
【0056】
本実施形態の検査チップ40では、検査チップ40の後方に向けて検体案内部46と定量部出入口面57を投影した際に接点52Cは、検体案内部46の左側の側面46Aと重なり、検体案内部46は定量部出入口面57に内接するような位置に設けられているものとしたが、本発明の検査チップ40はこれには限定されない。
【0057】
本実施形態の検査チップ40は、検体案内部46を溝状に形成していたが、図12、13に示す検査チップ140のように、検体供給路44から定量部50に向けて導通するような孔状の形状をしている検体案内部146であっても良い。この場合でも、検査チップ140の後方に向けて検体案内部146と定量部出入口面57を投影した際に、接点52Cは、検体案内部146の左側の側面146Aと重なり、検体案内部146は定量部出入口面57に内接するような位置に設けられていることで、検査チップ40と同様の効果を奏することができる。
【0058】
また、検査チップ40、140の後方に向けて検体案内部46、146と定量部出入口面57を投影した際に、接点52Cは、検体案内部46、146の左側の側面46A、146Aと重なって、検体案内部46、146は定量部出入口面57に内接するような位置に設けられていると示したが、これには必ずしも限定されず、図14、15に示すように、定量部出入口面57投影面の外周に対し、検体案内部246投影面の外周が2箇所で交差するような構成の検査チップ240であっても良い。この場合でも、検査チップ40、140と同様の効果を奏することができる。
【0059】
また、図16、17に示すように、第二壁部52の第二壁部右方壁面52Aと第二壁部前方壁面52Bとの接点52Cが、検体案内部346の右側の側面346Bから、後方に延長した直線356上に位置するように設けられている検査チップ340であってもよい。つまり、検査チップ340の後方に向けて検体案内部346と定量部出入口面57を投影した際に、接点52Cは、検体案内部346の右側の側面346Bと重なり、検体案内部346は定量部出入口面57に外接するような位置に設けられるような構成を有する。この場合でも、検査チップ40、140、240と同様の効果を奏することができる。
【0060】
また、図18〜20に示す検査チップ440のように、第一壁部51の第一壁部左方壁面51Aと第一壁部前方壁面51Bとの接点51Cが、検体案内部446の右側の側面446Bから、後方に延長した直線456上に位置するように設けられていても良い。この場合、検査チップ440の後方に向けて検体案内部446と定量部出入口面57を投影した際に、接点51Cは、検体案内部446の右側の側面446Bと重なり、検体案内部446は定量部出入口面57に内接するような位置に設けられている。このことにより、検査チップ440の前方から後方に遠心力が付与される際(つまり、遠心力方向が「0°」の場合)に検体案内部446から流入する検体は、定量部出入口面57に形成される検体の液面の端部近傍に流入するため、定量部50に滞留する検体の液面が乱れることがなく、そのことにより定量部50における検体の定量誤差が生じることがなく、精度よく検体を定量でき、ひいては精度よく検体の検査を行うことができる。
【0061】
なお、検体案内部46、146、246、346、446が本発明の「第一案内部」に相当する。第一壁部前方壁面51Bが本発明の「第二案内部」に相当する。第二壁部前方壁面52Bが本発明の「第三案内部」に相当する。また、遠心力方向「0°」が本発明の「第一の方向」に相当し、遠心力方向「80°」が本発明の「第二の方向」に相当する。
【符号の説明】
【0062】
1 検査装置
40 検査チップ
41 検体注入口
42 試薬注入口
43 板材
44 検体供給路
45 試薬供給路
46 検体案内部
46A (検体案内部の)側面
51 第一壁部
51A 第一壁部左方壁面
51B 第一壁部前方壁面
51C 接点
52 第二壁部
52A 第二壁部右方壁面
52B 第二壁部前方壁面
52C 接点
53 案内面
54 余剰槽
55 混合槽
71 カバー材
72 光学測定窓
100 (従来の)検査チップ
140 検査チップ
146 検体案内部
146A (検体案内部の)側面
240 検査チップ
246 検体案内部
340 検査チップ
346 検体案内部
346B (検体案内部の)側面
440 検査チップ
446 検体案内部
446B (検体案内部の)側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
公転により生じる遠心力の方向に対して自転により所定の回転角度に保持することにより前記遠心力の作用によって検査対象の液体を内部で移動させて検査する用途に用いられる検査対象受体であって、
第一の回転角度に保持されることにより前記遠心力が第一の方向に生じている場合に、液体を前記第一の方向に向けて案内する第一案内部と、
前記第一案内部を案内された前記液体を受けて、所定量の前記液体を貯留可能である定量部と、
前記定量部で前記所定量の前記液体が貯留されている場合であって、且つ、前記遠心力が第一の方向に生じている場合に、前記定量部から流出する余剰分の前記液体を案内する第二案内部と、
前記第二案内部によって案内された前記余剰分の前記液体が貯留される余剰部と、
前記第一の回転角度とは異なる第二の回転角度に保持されることにより前記遠心力が第二の方向に生じている場合に、前記定量部に貯留された前記液体が流出する方向に設けられている第三案内部と
を備え、
前記第一案内部の前記定量部側の出口部と、前記定量部の第二案内部側の端部と第三案内部側の端部を含んで構成される平面である定量部出入口断面とを前記第一の方向に投影して重ね合わせた際に、前記第一案内部出口部の外周と、前記定量部出入口断面の外周とが、接しているか、あるいは交差していることを特徴とする検査対象受体。
【請求項2】
前記第一案内部出口部と前記定量部出入口部とを前記第一の方向に投影して重ね合わせた際に、前記第一案内部出口部の外周と、前記定量部出入口部の外周とが、それぞれの前記第三案内部側の端部にて内接していることを特徴とする請求項1に記載の検査対象受体。
【請求項3】
前記第一案内部、前記定量部、前記第二案内部、及び前記第三案内部は、その一面が同一方向に開放され窪んで形成され、その開放面はカバー材にて覆われており、
前記第一案内部出口部と前記定量部出入口部とを前記第一方向に投影して重ね合わせた際に、前記第一案内部出口部の外周と、前記定量部出入口部の外周とが、前記開放された面及びそれぞれの前記第三案内部側の端部にて内接していることを特徴とする請求項2に記載の検査対象受体。
【請求項4】
前記第一案内部出口部と前記定量部出入口部とを前記第一の方向に投影して重ね合わせた際に、前記第一案内部出口部の外周と、前記定量部出入口部の外周とが、それぞれの前記第二案内部側の端部にて内接していることを特徴とする請求項1に記載の検査対象受体。
【請求項5】
前記第一案内部、前記定量部、前記第二案内部、及び前記第三案内部は、その一面が同一方向に開放され窪んで形成され、その開放面はカバー材にて覆われており、
前記第一案内部出口部と前記定量部出入口部とを前記第一方向に投影して重ね合わせた際に、前記第一案内部出口部の外周と、前記定量部出入口部の外周とが、前記開放された面及びそれぞれの前記第二案内部側の端部にて内接していることを特徴とする請求項4に記載の検査対象受体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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