説明

検査用電極付きウエハ及びその電極の屈折率測定方法

【課題】
進行波型光変調器の製造工程において、電極の屈折率を簡便且つ正確に測定することが可能であり、検査に必要な検査用電極もより小さな電極パターンとすることが可能な検査用電極付きウエハ及びその電極の屈折率測定方法を提供すること。
【解決手段】
電気光学効果を有するウエハ1に、複数の光導波路2と、該光導波路に沿って信号電極及び接地電極が配置されてなる、該電極間に電気信号を進行させて該光導波路を伝搬する光を制御するための複数の進行波型制御電極と、該ウエハの一部に形成された検査用電極(3,31)とを有する検査用電極付きウエハにおいて、該検査用電極は、該信号電極と同一延伸方向に延びる共振型電極(3,31)を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査用電極付きウエハ及びその電極の屈折率測定方法に関し、特に、広帯域光変調器など光導波路と電極が形成された光導波路素子の製造工程において、電極の屈折率を正確にかつ簡易に測定する技術に関するものであり、光変調器を形成するウエハに検査用電極を設けた検査用電極付きウエハと、該ウエハの電極の屈折率測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信や光計測の分野において、電気光学効果を有する強誘電体基板にマッハツェンダー型光導波路と進行波型電極を形成した光変調器が開発され、利用されている(例えば、特許文献1参照)。特に、長距離光通信においては、ベースバンド伝送方式が主流であり、光変調器には広帯域動作が要求されている。現在は、ニオブ酸リチウム(LiNbO)基板上に、光を閉じ込めて制御するための光導波路と、駆動変調信号(電気信号)を印加するための進行波型電極を用いた進行波型光変調器を用いることが主流であり、広く用いられている。
【0003】
この構成の光変調器を広帯域で動作可能とするためには、光導波路を伝搬する光信号と電極を進行するマイクロ波との速度整合をとる必要があり、そのために、光変調器の製造時において、電極のマイクロ波に対する屈折率を測定し、管理することが重要である。
【0004】
進行波型電極を用いて広帯域光変調器を製造する工程は、一般的には次のようになる。まず、1枚のウエハ上に、薄膜形成工程及びフォトリソグラフィ工程を用いて光導波路パターンと電極パターンを多数形成する。次に、このウエハ内の電極パターンの電気特性を検査する。例えば、この検査工程では、特許文献2に示すように、製品となる素子の電極の一部を延伸して電極間の絶縁検査を行ったり、または特許文献3に示すように、検査用の電極パターンにマイクロ波を入力して、電極のマイクロ波に対する屈折率を測定し、得られた屈折率の値によって、ウエハ全体の、あるいは素子個別の良否判定を行う。次に、ウエハを個々の光変調器の形状に切断して光変調器1つ1つをチップ化する。次に、チップ化前の電気特性の検査結果と、チップ化後に行う光導波路の光学特性の検査結果とに基づいて、チップ化されたそれぞれの光変調器の良品と不良品を選別する。
【0005】
このように、電極の屈折率を測定することは、製造工程上重要である。特に、電極が形成する電界が光導波路に印加される部分(作用部)における電極の屈折率を測定する必要がある。特許文献2のように電極の引き回し配線が長く形成された電極パターンでは、引き回し配線部分が屈折率の測定に影響を及ぼし、電極の作用部の屈折率を正確に測定することが難しかった。また、通常、引き回し配線は作用部の電極と延伸方向が異なるため、ウエハの結晶異方性により、引き回し配線の屈折率は作用部の電極の屈折率とは異なる値を示す。このため、作用部での電極の屈折率を正確に測定することが、さらに難しくなっていた。
【0006】
ここで、電極のマイクロ波に対する屈折率は、ウエハを作成する際の電極工程でほぼ決定されるため、電極の形成工程の後、電極の特定検査を行う。次世代光通信システムでは、40Gbpsを超える極めて高速度で動作する光変調器が要求されるが、このような用途向けの光変調器では、電極の屈折率の管理は特に重要である。そのような電極形成工程の管理方法として、特許文献3では、ウエハ上の電極のマイクロ波に対する屈折率を評価管理する方法として、別途、検査用電極を形成しており、その有効性も認められている。
【0007】
しかしながら、特許文献3の方法では、電極の屈折率の正確な測定には、長さが異なった電極が複数必要であり、ウエハ上に占める面積が増大し、コスト上無視できないといった問題がある。また、測定の回数も多く、検査工程が煩雑化するなどの課題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−288518号公報
【特許文献2】特開平5−333297号公報
【特許文献3】特開2010−256541号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Mark Yu and AnandGopinath, “VelocityMatched Resonant Slow-Wave Structure for Optical Modulator”,Proceedings of Integrated Photonics Research(IPR), ITuH7-1, pp.365-369, PalmSprings, California, March 22, 1993
【非特許文献2】G. K. Gopalakrishman, W. K. Burns,W. Wang and C. H. Bulmer, "Electrical loss mechanism in traveling wave LiNbO3 optical modulators", Electron. Lett., vol.28, 207-208, 1992.
【非特許文献3】kleus Beilenhoff, HaraldKlingbeil, Wolfgang Heinlich and Hans L. hartnagel, "Open and shortCircuits in Coplanar MMIC's", IEEE Transactions on Microwave Theory andTechniques, Vol. 40, No. 9, pp. 1534-1537, (1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、上述の問題を解消することであり、進行波型光変調器の製造工程において、電極の屈折率を簡便且つ正確に測定することが可能であり、検査に必要な検査用電極もより小さな電極パターンとすることが可能な検査用電極付きウエハ及びその電極の屈折率測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、電気光学効果を有するウエハに、複数の光導波路と、該光導波路に沿って信号電極及び接地電極が配置されてなる、該電極間に電気信号を進行させて該光導波路を伝搬する光を制御するための複数の進行波型制御電極と、該ウエハの一部に形成された検査用電極とを有する検査用電極付きウエハにおいて、該検査用電極は、該信号電極と同一延伸方向に延びる共振型電極を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の検査用電極付きウエハにおいて、該共振型電極は、該信号電極と同一断面形状を備えることを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の検査用電極付きウエハにおいて、該信号電極は複数の異なる断面形状を有し、該断面形状の種類毎に該検査用電極が設けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の検査用電極付きウエハにおいて、該信号電極と該光導波路との配置関係と同様に、該共振型電極の近傍にダミーの光導波路が形成されていることを特徴とする。なお、本発明における「ダミーの光導波路」とは、検査用電極のために使用される光導波路を意味し、光変調器に組み込まれる光導波路とは異なる。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の検査用電極付きウエハの電極の屈折率測定方法において、該共振型電極に電気信号を入力して共振周波数を測定し、該共振型電極の長さと前記共振周波数に基づいて、該共振型電極における、該電気信号に対する屈折率を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明により、電気光学効果を有するウエハに、複数の光導波路と、該光導波路に沿って信号電極及び接地電極が配置されてなる、該電極間に電気信号を進行させて該光導波路を伝搬する光を制御するための複数の進行波型制御電極と、該ウエハの一部に形成された検査用電極とを有する検査用電極付きウエハにおいて、該検査用電極は、該信号電極と同一延伸方向に延びる共振型電極を備えるため、共振型電極の共振周波数と、該電極の長さを求めることによって、共振型電極のマイクロ波に対する屈折率を容易に測定することができ、進行波型制御電極における信号電極の屈折率も容易に推定することが可能となる。また、共振型電極は、最低1つあれば良く、しかも共振型電極のサイズは、特許文献3で示した進行波型電極よりも小さいため、ウエハ内で検査用電極パターンが占める面積を非常に小さくすることができる。
【0017】
請求項2に係る発明により、共振型電極は、信号電極と同一断面形状を備えるため、信号電極の各種形状に対応する進行波型制御電極の屈折率を容易に推定することが可能となる。
【0018】
請求項3に係る発明により、信号電極は複数の異なる断面形状を有し、該断面形状の種類毎に検査用電極が設けられているため、1つのウエハ内に複数の断面形状を有する進行波型制御電極が配置されていたとしても、それぞれの屈折率を適切に測定することができる。
【0019】
請求項4に係る発明により、信号電極と光導波路との配置関係と同様に、共振型電極の近傍にダミーの光導波路が形成されているため、光導波路の有無による電極の屈折率に与える影響を排除し、より正確な電極の屈折率を測定することが可能となる。
【0020】
請求項5に係る発明により、上述した検査用電極付きウエハの電極の屈折率測定方法において、共振型電極に電気信号を入力して共振周波数を測定し、該共振型電極の長さと前記共振周波数に基づいて、該共振型電極における、該電気信号に対する屈折率を求めるため、電極の屈折率を簡便且つ正確に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例に係る検査用電極付きウエハの全体構成図である。
【図2】本発明に用いる共振型電極の例である。(a)は共振型電極の両端を開放したもの、(b)は共振型電極の両端を接地したもの、(c)は共振型電極をリング状に形成したものを示している。
【図3】共振型電極として両端が開放された共振型電極を用いた場合の、電極長と共振周波数の関係を示した図である。
【図4】本発明に係る共振型電極として両端がショートされた共振型電極を用いた場合の、電極長と共振周波数の関係を示した図である。
【図5】本発明に用いる共振型電極で、ダミーの光導波路を設けた例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について好適例を用いて詳細に説明する。
本発明は、図1に示すように、電気光学効果を有するウエハ1に、複数の光導波路2と、該光導波路に沿って信号電極及び接地電極が配置されてなる、該電極間に電気信号を進行させて該光導波路を伝搬する光を制御するための複数の進行波型制御電極(不図示)と、該ウエハの一部に形成された検査用電極(3,31)とを有する検査用電極付きウエハにおいて、該検査用電極は、該信号電極と同一延伸方向に延びる共振型電極を備え、より好ましくは、該信号電極と同一断面形状を備えた共振型電極(3,31)を備えることを特徴とする。
【0023】
ウエハ1を構成する電気光学効果を有する材料としては、例えば、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)、及び石英系の材料、並びにこれらの材料を組み合わせたものが利用可能である。特に、電気光学効果の高いニオブ酸リチウム(LN)結晶が好適に利用される。
【0024】
ウエハ1の主要エリアには、実際の製品である光導波路素子の光導波路パターン2と電極パターン(不図示)が、行方向又は列方向に複数配列して形成されている。図1では、光導波路パターン2は、平面形状がマッハツェンダー型の光導波路を例示している。
【0025】
ウエハ1に光導波路を形成する方法としては、所定の光導波路パターンに合せて、Tiなどを熱拡散法やプロトン交換法などでウエハ表面に拡散させることにより形成することができる。また、光導波路以外の部分のウエハをエッチングしたり、光導波路の両側に溝を形成するなど、基板に光導波路に対応する部分を凸状としたリッジ形状の光導波路を利用することも可能である。
【0026】
電極パターンは、図示を省略しているが、光導波路2の中で、光導波路を伝搬している光波を変調制御したい場所に、光導波路に沿って、信号電極及び接地電極を配置している。そして、信号電極に変調信号となる電気信号を入力し、電極間に電気信号を進行させるよう構成された進行波型制御電極となっている。図1においては、マッハツェンダー型光導波路2の2つの分岐導波路(アーム)に沿って信号電極や接地電極が配置されている。
【0027】
図1では、1つのマッハツェンダー型光導波路2とそれに対応する進行波型電極によって、1つの光変調器が構成される。ウエハ1から個々の光変調器10に、切断してチップ化する。個々の光変調器10は、進行波型電極にマイクロ波を入力すると電極の作用部から光導波路に電界が印加され、電気光学効果により光導波路の屈折率が変化し、マッハツェンダー型光導波路を伝搬する光に変調が施される。
【0028】
また、電極パターンは、信号電極が単独で配置されたり、信号電極の片側のみに接地電極を配置したり、さらには、信号電極を挟むように接地電極を配置(コプレナ型電極)など、種々の形態を採用することが可能である。しかも信号電極の幅や高さも必要に応じて、各種のサイズを採用することができる。
【0029】
電極パターンは、電極間を進行するマイクロ波によって光導波路に電界が印加される、所謂、電極の作用部と、外部との電気的接続をとるため、作用部と端子との間に配置される引き回し配線部からなっている。また、通常、電極の作用部は、光導波路と平行に配置されている。
【0030】
基板上に形成される、信号電極や接地電極などの制御電極は、Ti・Auの電極パターンの形成及び金メッキ方法などにより形成することが可能である。さらに、必要に応じて光導波路形成後の基板表面に誘電体SiO等のバッファ層を設け、バッファ層の上に制御電極を形成することも可能である。
【0031】
図1に示すように、ウエハ1の端や余白のエリアには、検査用の共振型電極(3,31)が形成されている。ここで、本発明でいう「共振型電極」とは、電極でマイクロ波の定在波が発生する、定在波共振電極のことをいう。
【0032】
図2(a)乃至(c)は、各種の共振型電極の例である。図2(a)又は(b)に示した共振型電極3は、信号電極となる直線電極部4と、直線電極部4への給電配線部5から構成され、必要に応じ、直線電極部4を取り囲むように接地電極6が配置されている。図2(a)は、直線電極部4の両端が接地電極6から開放された両端開放型の共振型電極であり、図2(b)は、直線電極4の両端を接地電極6に接続した両端短絡型の共振型電極である。
【0033】
また、図2(c)に示した共振型電極は、リング状電極部7と給電配線部5から構成されている。リング状電極部7では供給されるマイクロ波によって、リング状電極7の1周分の長さに依存してマイクロ波の定在波が形成される。
【0034】
共振型電極は、光変調器などの製品の電極パターン、特に、作用部における電極の形状と同一の断面形状、即ち、作用部の信号電極と同一の膜厚(電極高さ)及び電極パターンの幅を持つように形成されている。また、同一ウエハ内において、異なる電極パターンを有する複数種の光変調器(光導波路素子)が存在する場合や、一つの光変調器内において電極パターンの複数箇所で形状が異なる場合などでは、各電極パターンの形状に応じた電極の屈折率を測定する必要が生じる。このような場合には、図1に示すように、異なる電極の形状に対応した、共振型電極3及び31を複数種類用意することが好ましい。
【0035】
また、電極とウエハとの間などにバッファ層等の各種の膜を配置する場合には、検査用電極とウエハの間にも、信号電極とウエハの間と同一の膜構成を形成することが好ましい。電極の周囲に配置される基板や膜体などの誘電率は、電極の屈折率に与える影響が大きいため、膜構成の違いによる測定条件の違いを最小限に抑制し、より正確に電極の屈折率を測定することを可能としている。
【0036】
また、図5に示すように、信号電極と光導波路との配置関係と同様に、共振型電極3の近傍にダミーの光導波路20を形成することが好ましい。これは、光導波路の形成箇所とそれ以外の部分で誘電率に差が生じるためである。特に、光導波路をリッジ形状で形成する場合には、基板の凹部で誘電率が全く異なるため、このようなダミーの光導波路を形成することが好ましい。
【0037】
共振型電極への給電配線5の形状や位置は、単純な形状の配線であれば、基本的には、共振周波数への影響は軽微であるため、設計において特に考慮する必要はない。ただし、給電配線5のインピーダンスを調整するため、給電配線にスタブ構造を設けたり、インピーダンス整合回路を組み込む場合などは、共振周波数に影響する。このため、検査用電極における給電配線5は、単純な配線を用いて給電するのが望ましい。直線電極部4などの共振する電極に対する給電位置は、インピーダンスが給電回路と一致する位置としたほうが、ネットワークアナライザを用いての共振周波数の測定上望ましいことは、言うまでもない。
【0038】
なお、図2(a)又は(c)のような定在波共振電極においては、給電位置を選ぶことによって、いかなる給電線ともインピーダンスの整合が可能であることは、非特許文献1によって示されている。例えば、図2(a)の様な両端が開放された共振電極では、給電位置を、共振電極の中心からわずかにずらすことにより、インピーダンス50Ωの給電線とインピーダンス整合し良好な給電効率が得られる。
【0039】
本発明で使用する共振型電極のサイズは、特許文献3に示すような、進行波電極に比べて小さくて済むため、ウエハ上で占める面積が小さく、1枚のウエハから得られる光変調器(光導波路素子)の取れ数を増やすことができる。また、サイズが小さいため、複数個の共振型電極を配置することも可能であり、電極の各種形状(厚さや幅など)に対応して、電極の屈折率を評価し、管理することも可能である。
【0040】
上述した検査用共振電極を用いて、電極のマイクロ波に対する屈折率を測定する方法について、説明する。検査用共振電極における屈折率の測定は、ウエハの状態で行っても良いし、ウエハを切断してチップ化した後に行っても良い。ウエハの状態で検査して、不良電極が発見されても、金メッキの処理時間を調整するなど、電極の形状を調整できる場合があるため、ウエハ状態で行うことが望ましい。
【0041】
検査用共振電極の給電配線部に検査端(プローブ)を接続し、ネットワークアナライザを用いて共振電極の共振周波数を測定する。また、検査用共振電極の長さLを、顕微鏡下で測定するか、フォトマスクのパタンの長さとフォトリソグラフィの投影率から算出する。そして、これら2つの値(共振周波数と共振電極長)から、共振電極のマイクロ波に対する屈折率を求めることができる。
【0042】
ここでは、説明を簡単にするため、単純な構成の定在波共振電極(図2(a)又は(b)参照)の例について説明する。図2(a)のように、電極端が電気的に開放されている共振型電極の場合には、以下の式1のように、電極長Lが電極上でのマイクロ波の波長Λの1/2×n倍(nは自然数)となる周波数において、定在波が立ち共振状態となる。
L=Λ×n/2 ・・・(式1)
【0043】
一方、図2(b)のように、電極端が電気的に短絡されている共振型電極の場合には、以下の式2のように、電極長Lが電極上でのマイクロ波の波長Λの1/2×n倍(nは自然数)となる周波数において共振状態となる。
L=Λ×1/2・n ・・・(式2)
【0044】
また、共振型電極で定在波を形成するマイクロ波の波長Λは、電極を伝わるマイクロ波の速度をv、周波数をfとすると、以下の式3のような関係がある。
=f×Λ ・・・(式3)
の関係がある。
【0045】
さらに、マイクロ波の速度vは、電極のマイクロ波の屈折率をn、真空中の光速cとすると、以下の式4のような関係がある。
=c/n ・・・(式4)
【0046】
式3及び式4を用いることで、上述の式1及び2は、次式の式5に書き換えられる。
L=c/n/f×n/2 ・・・(式5)
【0047】
式5から分かるように、共振電極の長さLと共振周波数fを測定すれば、共振電極のマイクロ波の屈折率nは自ずと求まる。基本的には、共振次数nがわかってる場合には、一つの検査用電極について測定すれば、その検査用電極の屈折率は求まる。実際は、電極の屈折率nは、大まかに分かっているため、共振次数nの判別、屈折率の算出は容易に行うことができる。なお、ここで求められる電極の屈折率は、特定の共振周波数における屈折率である。
【0048】
本発明の検査用電極付きウエハを用いた電極の屈折率測定を行った場合の測定精度について説明する。ここでは、数ミリから数十ミリの長さの電極を使用し、数十GHzでの共振周波数を用いた場合を想定する。この定在波共振電極の長さLは、顕微鏡下での4桁以上の精度での測定が容易である。また、共振周波数fの測定は、市販のネットワークアナライザによる測定で、5桁以上の精度で測定可能である。従って、電極の屈折率は、4桁以上の精度が得られる。なお、共振条件の基本式(式1,式2)からわかるように、共振次数nが高く、共振周波数が高い測定値を使う方が、より精度が高い屈折率が測定できる。
【0049】
ところで、原理的には、電極の屈折率には、電極やウエハの材料の誘電率の分散や電極構造に起因する、屈折率の分散があり、その結果、マイクロ波の屈折率は周波数によってわずかに異なる。しかしながら、長距離光通信に広く用いられている光変調器は、LiNbOをウエハとし、金(Au)を電極に用いているが、LiNbOや金には、1GHzから数百GHzの範囲、少なくとも100GHzまでは分散が殆どなく、光変調器に使用される電極の屈折率の周波数依存性を考慮する必要性はない。
【0050】
さらに、電極を伝搬するマイクロ波のモードによる分散も考慮する必要があるが、例えばウエハに厚さ0.5mmのLiNbOを用いた場合、70GHz以下では、周波数依存性がほとんど無いことが知られており(非特許文献2参照)、算出した値をそのまま用いても良い。
【0051】
実際の電極の工程管理では、製品用の電極(作用部)の断面構成と検査用の共振型電極の断面構成を同一にし、延伸方向も合わせておくのがよい。この場合、計測した検査用共振電極の屈折率は、製品の電極の屈折率と同じである。特に、LiNbOのように、誘電率の異方性をもつ材料の場合には、電極の方位を製品と検査パターンで合わせておく必要がある。
【0052】
また、電極の設計形状に応じて、予め、検査用パターンの、屈折率、電極長、共振周波数、電極厚さを試算しておき、管理指標として用いることも可能である。参考までに、LiNbOのZ板をウエハとして用い、図2(a)の両端開放型の共振型電極と、図2(b)の両端短絡型の共振型電極について、マイクロ波の屈折率n=2.20を与える共振電極長Lと共振周波数fとの関係を、図3及び図4に示す。
【0053】
電極の屈折率を求める際に、3桁の精度で良ければ、共振電極の共振条件式(式1,2など)から単純に求めればよい。4桁以上の精度で求める場合には、以下に述べるように、電極の端の位置とマイクロ波が感じる端の位置の差を考慮することで、より精度の高い値を得ることができる。
【0054】
非特許文献3に示されるように、共振電極の両端では、マイクロ波は電極の端の部分で反射しているのではなく、実効的には端部からさらに浸みだして反射していると見なせる。つまり、マイクロ波にとっての実効長は、電極の物理長よりわずかに長いため、マイクロ波にとっての実効長と反射の際の位相の変化は、この浸みだし量の分だけ長くなり、厳密な評価の際には、その差を補正する必要がある。実効的な浸みだし量は、電極の端部の構成に依存し、ニオブ酸リチウムのウエハ上に形成されたコプレナ型電極の場合、5〜20μm程度であるが、3次元の有限要素法解析などで求めることができる。
【0055】
例えば、電極長Lが10mmの共振電極を用いた場合、4桁目の精度に影響する場合があり、検査電極の端部の構造に応じて浸みだし量を補正する必要がある。勿論、3桁の精度の管理で済む場合は、無視しても問題ない。また、両端が短絡の電極パターンを用いた方が、実効的な浸みだし量は小さく、実際の長さとマイクロ波が感じる実効長が近いため、取り扱い上は、簡便である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明によれば、進行波型光変調器の製造工程において、電極の屈折率を簡便且つ正確に測定することが可能であり、検査に必要な検査用電極もより小さな電極パターンとすることが可能な検査用電極付きウエハ及びその電極の屈折率測定方法を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0057】
1 ウエハ
2 光導波路
3,31 検査用共振電極
4 直線状共振電極部
5 給電部
6 接地電極
7 リング状共振電極部
10 チップ(光変調器)
20 ダミー導波路
L 共振電極長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有するウエハに、
複数の光導波路と、
該光導波路に沿って信号電極及び接地電極が配置されてなる、該電極間に電気信号を進行させて該光導波路を伝搬する光を制御するための複数の進行波型制御電極と、
該ウエハの一部に形成された検査用電極とを有する検査用電極付きウエハにおいて、
該検査用電極は、該信号電極と同一延伸方向に延びる共振型電極を備えることを特徴とする検査用電極付きウエハ。
【請求項2】
請求項1に記載の検査用電極付きウエハにおいて、
該共振型電極は、該信号電極と同一断面形状を備えることを特徴とする検査用電極付きウエハ。
【請求項3】
請求項2に記載の検査用電極付きウエハにおいて、
該信号電極は複数の異なる断面形状を有し、
該断面形状の種類毎に該検査用電極が設けられていることを特徴とする検査用電極付きウエハ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の検査用電極付きウエハにおいて、
該信号電極と該光導波路との配置関係と同様に、該共振型電極の近傍にダミーの光導波路が形成されていることを特徴とする検査用電極付きウエハ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の検査用電極付きウエハの電極の屈折率測定方法において、
該共振型電極に電気信号を入力して共振周波数を測定し、該共振型電極の長さと前記共振周波数に基づいて、該共振型電極における、該電気信号に対する屈折率を求めることを特徴とする検査用電極付きウエハの電極の屈折率測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−20029(P2013−20029A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152438(P2011−152438)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】