説明

検知装置及び観測対象の光学的特性の変化を検知する方法

【課題】ダブルパス配置のATR装置において、共鳴幅が広がるのを抑えて、高精度の検知を可能とする。
【解決手段】
検知装置は、光源400と、観測対象が隣接して保持される金属膜407aと、プリズムと、反射部材である凹面鏡408と、検出器413と、を備えている。凹面鏡408は、光源400より出射され金属膜407aによって反射された光を反射させ、当該光を再び金属膜407aに入射させる。プリズムは、金属膜407aが設けられる平面と、金属膜407aに入射する光を平行化させる曲面と、を有している。検出器413は、金属膜407aにより再び反射された光を検出し、金属膜407aに生ずる表面プラズモンを用いて観測対象の光学的特性の変化を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率、温度などの表面状態の変化、特に反応などによる表面状態の変化を検知するのに用いられるプラズモン共鳴を利用した検知装置及び観測対象の光学的特性の変化を検知する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズモン共鳴を利用したセンサーとして、金属と誘電体との界面に存在する表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)を利用したものがある。平面界面におけるプラズモンは、表面近傍の数百nm以内の空間に電界分布をもつため、このようなセンサーは、表面近傍に敏感な屈折率センサーとして応用されている。
【0003】
プラズモン共鳴では、表面状態の変化に伴って共鳴角、共鳴波長がシフトする。特にSPRを利用したSPRセンサーにおいては、プリズムを介した全反射配置(一般にKretchman配置(configuration)という。)を用いて、反射率の入射角依存性、またはある入射角度における反射率の変化がセンサーの応答として検出される。これをATR(Attenuated Total Reflection)装置と言い、非特許文献1に示されているようなシンプルな構成の装置も提案されている(図8参照)。
【0004】
図8に示したATR装置において、光源501からの光(ビーム)は偏光子502を通して光の偏光を調整された後、ビームスプリッタ503を透過する。この光は、金属薄膜505を平面上に有した半球プリズム504に入射し、金属薄膜505と半球プリズム504とで形成される界面において反射される。
【0005】
金属薄膜505には、観測対象となる検査用サンプルが配置され、金属薄膜505と検査用サンプルとの界面におけるプラズモン相互作用によって、反射光の強度変化が起こる。
【0006】
反射光は、半球プリズム504の曲面上の一部にコーティングされた反射膜506に直入射し、反射され、再び半球プリズム504と金属薄膜505との平面界面において反射される。そして最終的に、ビームスプリッタ503で反射された光が、レンズ507を用いて検出器508に集光される。一般に、このような装置をダブルパス配置のSPRセンサーと呼ぶ。
【0007】
このようなSPRセンサーでは、通常、金属薄膜505に入射する光の入射角を変化させるように角度走査行い、検出器において角度スペクトルを検出する。図8に示したダブルパス配置のSPRセンサーでは、この角度走査は、半球プリズム504を、その反射点を中心にして回転させる回転機構によって行われる。
【0008】
図8に示したダブルパス配置のATR装置は、コンパクトで稼動部品が少なく、かつ従来のシングルパス配置に比べてより高い信号変調度(2乗)を得ることができるという利点がある。
【非特許文献1】Review of Scientific Instruments, Vol.60, p.1201 (1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図8に示したダブルパス配置のATR装置においては、半球プリズム504への入射の際に生じる球面収差や、ビーム波面の曲率半径が小さくなってしまうことによって、プラズモン共鳴のスペクトルにおける共鳴ピークの幅(以下、共鳴幅とも呼ぶ。)が広がってしまいがちである。
【0010】
本発明の目的は、ダブルパス配置のATR装置において、共鳴幅の広がりを抑えて、より高精度の検知を可能とするATR装置(プラズモンセンサー)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、光源と、曲面と平面とを備えたプリズムと、該プリズムの前記平面に設けられ、観測対象が隣接して保持される金属膜と、前記光源より出射され前記金属膜によって反射された光を反射し、該光を再び前記金属膜に入射させる反射部材と、前記金属膜により再び反射された光を検出する検出器と、を有し、前記金属膜に生ずる表面プラズモンを用いて前記観測対象の光学的特性の変化を検知する検知装置において、前記プリズムは、前記光源からの光が発散光として前記曲面から入射し該曲面で前記発散光が平行化する位置に配置されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の観測対象の光学的特性の変化を検知する方法は、金属膜に生ずる表面プラズモンを用いて観測対象の光学的特性の変化を検知する方法であって、光源と、観測対象が隣接して保持される金属膜と、反射部材と、光を検出する検出器と、前記金属膜が設けられる平面と前記金属膜に入射する光を平行化させる曲面とを有するプリズムと、を備えた検知装置の前記金属膜に前記観測対象を接触させる工程と、前記光源より光を出射し、当該光を発散光として前記プリズムの前記曲面より入射させ、前記プリズムの曲面で平行化して前記金属膜で反射させた後、前記反射部材で反射させて再び前記金属膜で反射させた後に、前記検出器に入射させる工程と、前記観測対象の光学的特性の変化に応じて、前記金属膜に生ずる表面プラズモンの共鳴条件の変化を検知する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、観測対象の光学的特性の変化の検知を高精度に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本実施形態の検知装置においては、平面と曲面を有するプリズムの平面に金属膜を接触させ、この金属膜に観測対象となる検査用サンプルを接触させ、この金属膜へ光を入射させて、その反射光を検出する。
【0015】
検査用サンプルに変化が生じる時に、金属膜に表面プラズモンが生じる条件が変化する。このため、検出される光信号(例えば、光量。)に変化が生じるので、それをモニターするによって、検査用サンプルの光学的特性の変化をモニターすることができる。ここで、金属膜は、検知装置のプリズムに設けられていてもよいし、検査用サンプルを備えた素子側に設けられていてもよい。
【0016】
本実施形態で検知される光信号の変化としては、例えば、検査用サンプルに含有される抗原を検知するために、この抗原と特異的に反応する抗体を予め金属膜の表面に固定し、両者の反応前後の共鳴ピーク位置(角度)の変化を例示することができる。光信号の変化としては、この他にも、金属膜表面の誘電率変化に起因する共鳴条件の変化の検知を行うことができるが、以下の説明では、最も一般的な、ATR(Attenuated Total Reflection:全反射減衰)の信号を例に説明する。
【0017】
ATRスペクトルはフレネルの反射を考えることで理論的に表現できる。図1はBK7基板上にAu(金)の50nmの薄膜を有する系に対してATRスペクトルを計算した例である。実際の測定において、ATRの検出は反射率変化ΔRとして観測されるが、これは被検出物質量をΔsとして、
【0018】
【数2】

【0019】
と書ける。第1項は角度スペクトルの勾配、第2項は摂動に対するシフト量を示している。式(1)から、角度スペクトルの最大勾配を与える角度でビーム強度の変化量を計測することによって最大感度を達成できることが分かる。そのため、この勾配値を大きくすることは、感度向上を鑑みたときに重要なファクターとなる。
【0020】
しかし、実際の系では入射ビームの角度スペクトルが重畳される。ATRの角度依存性をR'(θ)、入射ビームの角度スペクトルをS(θ)とすると、実際に観測されるATRスペクトルは、
【0021】
【数3】

【0022】
で与えられる。すなわち、ある入射角度での反射率を観測しているつもりであっても、実際には、ビームの角度スペクトルに含まれる成分からの寄与の総和が信号として検出されてしまう。
【0023】
図2は、R'(θ)に対して様々な半値幅をもつS(θ)を導入することにより、どのようにR(θ)が変化するかを示している。図2より、ビームの広がり角S(θ)が大きいとATR信号となるR(θ)におけるピーク幅が広がる様子がわかる。
【0024】
図2に示す例では、S(θ)の幅が0.1°程度であれば、R(θ)のピークの広がり、すなわち、測定値の劣化はほとんど見られない。理想的には、S(θ)の半値幅、すなわち金属膜上の入射光の角度スペクトルの半値幅を、R(θ)のそれ、すなわち共鳴スペクトルの半値幅に比べて1/10以下とするのが望ましい。ダブルパス配置の検知装置の場合、これは、光源側から金属膜への往路と、反射部材側から金属膜への復路との両方において実現されるのが好ましい。
【0025】
図3に示した検知装置は、本発明の実施形態の一例を示すものである。実施形態では、往路と復路におけるビームが、それぞれ平行化されて金属膜に入射する。つまり、プリズムの曲面側から金属膜に向けて入射する光として発散光を用いて、プリズムの曲面で当該発散光を平行化する。このように、プリズム中では、平行化された光を伝搬させる。
【0026】
図3に示す検知装置は、光源400と、発散光発生ユニット450と、上述のプリズムとしての半球形状の半球プリズム406と、反射部材である凹面鏡408と、検出器413とを有している。
【0027】
発散光発生ユニット450は、光源400から出射された光を、発散光として、半球プリズム406の曲面へ入射させる。発散光発生ユニット450は、どのような形態のユニットであっても良い。
【0028】
凹面鏡408は、半球プリズム406から離間して配されている。凹面鏡408は、発散光発生ユニット450より出射され金属膜407aによって反射された光を反射させ、当該光を再び金属膜407aに入射させる。
【0029】
ここに示した検知装置では、発散光が半球プリズム406の曲面で平行化され、半球プリズム406中では平行光線として直進し、金属膜407aに入射する。金属膜407aで反射した光は、半球プリズム406から出射され、発散光として凹面鏡408に入射する。凹面鏡408で反射した発散光は、再び半球プリズム406の曲面から発散光として入射し、該曲面で平行化されて、半球プリズム406中を進む。
【0030】
図3に示す検知装置において、光源400のファイバー出射端からの光は、単一偏波として、発散光発生ユニット450に入射する。単一偏波は、発散光発生ユニット450内のコリメートレンズ401を通過させられることによってコリメートされる。その後、変調器402、半波長板403を通して所望の偏光状態とされたビームは、ビームスプリッタ404を通って、集光レンズ405によって集光される。
【0031】
発散光発生ユニット450内でコリメートされた状態のビームに対して、任意の場所に例えばビームエクスパンダーのような、ビーム径を調整するビーム径調整機構を設けても良い。
【0032】
半球プリズム406の平面には、金属膜407aが配置され、サンプル保持機構407bによって、検査用サンプル407cが金属膜407aに隣接して保持されている。サンプル保持機構407bは、検査用サンプル407cだけでなく、金属膜407aと共に検査用サンプル407cを保持するものであってもよい。
【0033】
集光レンズ405で集光されたビームは、半球プリズム406に入射する前で焦光し、半球プリズム406の曲面からその内部へ入射する。具体的には、半球プリズム406の焦点に集光させることが好ましい。
【0034】
半球プリズム406は、光源からの光が発散光として曲面から入射し当該曲面で発散光が平行化する位置に配置されている。
【0035】
半球プリズム406に入射する直前のビームは発散光となっており、ビームは半球プリズム406の曲面で平行化され(ほぼコリメートされた状態)、金属膜407aに照射される。
【0036】
金属膜407aで反射されたビームは、半球プリズム406外で集光された後に、発散光となり、凹面鏡408である凹面鏡にほぼ直入射する。凹面鏡で反射されたビームは、入射光と同様の光線束として、半球プリズム406に再入射される。
【0037】
つまり、凹面鏡は、当該凹面鏡に入射された発散光を、発散光の発散角と等しい収束角を有する収束光として反射する。凹面鏡の曲率半径は、集光点と凹面鏡の光学的距離にほぼ等しくすることが好ましい。
【0038】
凹面鏡で反射されたビーム(戻り光)は入射光と同様のほぼ平行な光線束として金属膜407aで反射され、集光レンズ405を通った後、ビームスプリッタ404によって反射されて、検出器413に入射する。
【0039】
本発明の検知装置においては、発散光をプリズムにより平行化させる。これにより、プリズムの曲面より入射した光は、プリズムにより平行化された状態で、プリズムの平面に設けられた金属膜407aに入射する。
【0040】
そして、金属膜407aに入射した光は、金属膜407aで反射し、プリズムの曲面、凹面鏡408を介して再度プリズムに入射する。再度プリズムに入射する光(発散光)は、プリズムの曲面により、再度平行化された状態で金属膜407aに入射する。
【0041】
したがって、金属膜407aに2度入射する光は平行化され波面が揃ったものとなり、光ビームにおける波面の曲率半径を縮小することができる。これにより、金属膜に生ずるプラズモン共鳴の共鳴ピークの共鳴幅を狭くすることができ、検査用サンプルの光学的特性の変化の検知を高精度に行うことができる。
【0042】
本実施形態の検出装置では、図3に矢印によって模式的に示すように、半球プリズム406には、それを、半球プリズム406の平面における中心部を中心として回転させる回転機構420が付属している。この回転機構420によって、金属膜407aへの入射角を変化させて測定を行い、すなわち角度走査を行うことができる。
【0043】
また、コリメートレンズ401および集光レンズ405には、位置調整機構431,432が付属している。それによって、図3に矢印によって模式的に示すように、これらの位置を光軸方向に移動させて位置を調整可能となっている。これらの位置調整は、後述するように、共鳴幅を抑えるために行われ、これらの位置調整機構431,432は、角度走査には用いられない。
【0044】
すなわち、角度走査を行うための走査制御部(不図示)は、回転機構420のみを動作させ、角度走査中に位置調整機構431,432を動作させることはない。なお、走査制御部は独立した装置であってもよいが、各部の動作を制御する、検知装置全体の制御装置の一部であってもよい。
【0045】
また、必要に応じて、凹面鏡408にも、位置調整機構441を付属させてもよい。しかし、この位置調整機構441も、角度走査中に動作させられることはない。
【0046】
ここで、例えば検出手法として偏光多重検出を用いるのであれば、半波長板414、偏光ビームスプリッタ415、および2台の検出器413a,413bを用いて偏光成分ごとに検出してもよい。
【0047】
さらに、同期検出を行うのであれば、変調器402において、ひとつの偏光成分を強度変調してもよいし、またはふたつの直交する偏光成分をそれぞれ別の周波数で強度変調してもよい。迷光成分を除去するために、ビームスプリッタ404からの出射光を、アパーチャ409を介して検出するようにしてもよい。
【0048】
また、ビームスプリッタ404を、ファラデーローテーター410と偏光ビームスプリッタ411で置き換えることにより、系の光損失を小さくできる。この場合、ファラデーローテーター410と半球プリズム406の間に入射偏光を調整するための半波長板412を挿入する必要がある。
【0049】
出射角の変化に対応して凹面鏡408の光軸平面に平行な方向へのアオリ機構をつけることもできる。しかし、凹面鏡408の曲率中心と半球プリズム406の中心が一致するように配置して、どの出射角に対しても反射光がもとの方向へ戻るように配置することで、稼動機構をひとつ減らすことができる。従来技術においては、この時、入射光と戻り光の焦点面をそろえることが実質的に難しかった。
【0050】
図3に示したダブルパス配置の検出装置において、検出される反射率に対しては、行きと戻りの2回の反射分が寄与分となるので、
【0051】
【数4】

【0052】
となる。ここでサブスクリプトのfは往路、rは復路を意味する。つまり、検出される反射率への寄与は、往路と復路のATRスペクトルの積となるので、それぞれのパスにおいて、S(θ)が十分に狭くなっている必要がある。この理由により、従来技術では共鳴曲線の広がりが大きくなりがちである。
【0053】
金属膜407a上での角度スペクトルは、ガウスビームの伝搬を光線追跡することによって近似的に与えられる。ガウス型の強度分布I(r)を仮定すれば、これは所定の位置においてビームの曲率半径Rと幅wで特徴づけられる。ことのき、光軸から距離rだけ離れた位置における波面と光軸の角度は、
【0054】
【数5】

【0055】
であるので、S(θ)はI(r)の媒介変数表示を用いてS(θ)=I(Rsinθ)として表現できる。従って、ガウスビームの伝搬を計算することによって、サンプル面上でのwとRからS(θ)を求め、実際のATRスペクトルを(3)式から近似的に計算することが可能である。以上から、ATRスペクトルの広がりを抑制するには、サンプル面上においてビーム径wが小さく、また曲率半径Rが大きければよいことがわかる。
【0056】
図2から、θFWHM<0.1°となれば共鳴信号の広がりをほぼ抑制できることがわかっているので、以下、そのような配置を計算によって求める。パラメータとしては、波長800nmのシングルモードファイバ光源を想定して、光源400のファイバー出射端からのコリメートレンズ401の位置x、集光レンズ405と半球プリズム406の距離yをパラメータとする。評価関数として、
【0057】
【数6】

【0058】
を定義すると、これを最小化すれば、(3)式で与えられる実際のATRスペクトルの幅が十分に狭くなる領域を特定できる。
【0059】
図4にその例を示す。図4は、横軸にx、縦軸にyをとって、log(C)の値の分布を示したものである。図4から、C<0.1(=log(C)<-1)となっている領域が存在していることがわかる。この領域では、コリメートレンズ401を起点とし、一連の光学系を透過した後に再びコリメートレンズ401に戻ってくるガウスビームの伝搬を考えたとき、そのABCD行列(光線行列)は、ほぼ自己再現条件
【0060】
【数7】

【0061】
を満たしている。
【0062】
また、ビームの集光点が半球プリズム406の近傍にきて、かつ、半球プリズム406内でのビーム半径の変化が少ないという特徴がある。結果的にビーム径はサンプル面上で100ミクロン以下のオーダーであり、半球プリズム406のサイズが1cm程度であっても球面収差の影響をほとんど無視できる。
【0063】
図8に示した従来型のATR装置では、半球プリズム504への入射ビームはコリメート光であったので、半球プリズム504の大きさを大きくする必要があった。
【0064】
一方、図8に示した従来型のATR装置において、同様の評価関数を設定し、コリメータの位置を変化させたとしても、図5に例を示すようにC〜1程度より大きくなる。なお、従来型では、発散光ではなくコリメート光をプリズムに入射しているため、調整パラメータはコリメータの位置のみである。言い換えると、従来型のATR装置では、集光レンズを用いていない。
【0065】
このように、Cが1程度より大きくなってしまうことから、図2を参照すると、従来型では、共鳴幅が広がってしまうことは明らかである。
【0066】
以上のように、図3のような本実施形態の検出装置によって、角度走査に必要な稼動機構を1つに抑え、かつ共鳴幅の広がりを抑える構成が可能である。
【0067】
すなわち、半球プリズム406に入射させるビームの径を集光レンズによって絞っており、半球プリズム406への入射面上でビーム径が十分に小さくなるため、球面収差を低減できる。この際、半球プリズム406の半径を大きくすることによっても、球面収差は低減されるが、ここでは集光レンズ405を用いることによって、半球プリズム406を小さく抑え、したがって、装置の大型化を抑制しながら、球面収差の低減を図ることができる。
【0068】
さらに、コリメートレンズ401および集光レンズ405を、位置調整機構431,432を用いて位置調整することも可能である。これによって、半球プリズム406反射面上におけるビームの曲率半径を往復で最適化することができる。それによって、検査用サンプル407cの変化に対する光信号の角度依存性を示すピークが広がるのを抑制することができる。
【0069】
このようにして、本実施形態によれば、小型で、シンプルな装置構成という、ダブルパス配置が従来からもつメリットを継承しながら、従来に比べてより高精度な光信号のモニターを実現することができる。
【0070】
(実施例1)
図3に示す検知装置において、f=150mmの集光レンズ405、R=5mmの半球プリズム406、R=50mmの凹面鏡408を用い、ATR信号を測定する。830nmの偏波保持型シングルモードファイバ結合型LD光源を使用し、コリメートされたビーム径は集光レンズ上で1mm程度以下である。
【0071】
角度走査で戻り光の位置が変わらないように凹面鏡408の位置を設定し、ATR信号を測定しながら共鳴幅が狭くなるように集光レンズ405の位置を調整する。これによって、(1)式における勾配部分の最大値を、図1のプロファイルから与えられるその値の1/3倍程度まで大きくすることができる。さらに、コリメートレンズ401を、100nmオーダーの位置精度(所望の位置xを達成する精度)でアライメントすることによって、(1)式における勾配部分を、ほぼ理想的な最大値に等しい値とすることができる。なお、この位置精度を緩和したい場合、例えばテレスコープをコリメートレンズ401と偏光子402との間に挿入し、その倍率を調整することによって上述のパラメータxの調整機構の代替とすることができる。
【0072】
角度走査によって共鳴幅が最小となることを確認した後、サンプル407への入射角を、(1)式における勾配部分の最大値を得られる角度θに固定し、検出を行う。それによって、検査用サンプル407c上で生じるダイナミクスを、検出器413によって検出される光信号の変化として、高感度に追跡することが可能となる。偏光多重検出を行う場合には、半波長板403を回転して、偏光ビームスプリッタ415によって分波される2光波のパワーがバランスされるようにすればよい。
【0073】
ここで、偏光ビームスプリッタ415は、ファイバ出射端の偏光軸にアライメントされている。その上で変調器402において強度変調を施し、同期検出を行うと、より高感度な検出ができる。当然のことながら、変調器402を用いずに光源400を直接変調してもよい。
【0074】
(実施例2)
図6は本実施例に係る検知装置の概念図である。本実施例に係る検知装置は、光源と、観測対象である検査用サンプル707が隣接して保持される金属膜と、プリズムと、反射部材708と、検出器709と、を備えている。
【0075】
プリズムは、金属膜が設けられる平面と、金属膜に入射する光を平行化させる曲面と、を有している。プリズムとしては、円柱をその中心軸を含む面で切断した形状である半円柱プリズム706を用いる。
【0076】
光源としては、レーザダイオード701を用いる。レーザダイオード701から出射されるビームは、進行方向(図6中のz軸方向)に直交し、互いに直交する2つの軸方向(図6中のx軸方向及びy軸方向)において、異なった発散角を有している。
【0077】
従って、ビーム形状は楕円形であり、x軸方向及びy軸方向に対して、それぞれ独立に平行化される。つまり、検知装置は、ビームを平行化する手段として、2つのシリンドリカルレンズ702,703を備えている。ビームはビームスプリッタ704を通過した後、集光レンズ705及び半円柱プリズム706を通って、検査用サンプル707に照射される。
【0078】
ビームの発散角が大きい方向をx軸方向とすると、x軸方向に対してのみビーム径を収束させる集光レンズ705を用いる。そして、集光レンズ705を通過したビームの焦光点を半円柱プリズム706の焦点に合わせる。これにより、x軸方向に対して発散する光線束が、半円柱プリズム706の曲面で平行化される。
【0079】
一方、y軸方向に対しては光線束が平行化されたままの状態で、半円柱プリズム706に入射する。このようにして、ビームは、半円柱プリズム706の内部では、平行化された状態で直進し、金属膜に接触して設けられた検査用サンプル707に照射される。
【0080】
金属膜で反射したビームは、半円柱プリズム706の曲面から外部に出射されるが、このとき出射されたビームは一方向に対してのみ収束角を有する収束光となる。
【0081】
この収束光は半円柱プリズム706の外部で集光した後、発散光となり、反射部材708に入射する。反射部材708で反射されたビームは、それまでの光路(往路)と同様の軌跡を辿って、ビームスプリッタ704まで戻る。そして、ビームスプリッタ704で反射したビームは、検出器709で受光される。
【0082】
反射部材708は、当該反射部材708に入射された発散光を、発散光の発散角と等しい収束角を有する収束光として反射するように構成されている。
【0083】
上述ように、ビーム形状が楕円形であっても、半円柱プリズム706を用いることで、平行化されたビームを検査用サンプル707に容易に照射することができる。このようにして、高性能な検知装置を提供することができる。
【0084】
y軸方向におけるビームの幅は、シリンドリカルレンズ702とレーザダイオード701との距離に依存する。したがって、当該距離を調整する距離調整手段(不図示)を設けることによって、y軸方向におけるビームの幅を調整することができる。距離調整手段は、y軸方向におけるビームの幅のみを調整する。
【0085】
金属膜に2度入射するビームは平行化されて波面が揃ったものとなるため、ビームにおける波面の曲率半径が縮小されている。これにより、金属膜に生ずるプラズモン共鳴の共鳴ピークの共鳴幅を狭くすることができ、検査用サンプル707の光学的特性の変化の検知を高精度に行うことができる。
【0086】
また、同期検出及び偏光多重検出を行う場合には、実施例1(図3参照。)で述べた構成と同様な構成を設ければ良い。
【0087】
(実施例3)
図7を参照して、本実施例に係る検知装置を説明する。本実施例の検知装置は、実施例2の検知装置から、2つのシリンドリカル703,705を取り除いた構成である。これにより、光学部品の数が減り、よりコンパクトな構成の検知装置を提供することができる。
【0088】
本実施例の検知装置では、実施例2と同様に、光源であるレーザダイオード701からのビームは発散光であり、ビームはシリンドリカルレンズ702で、y軸方向(図7参照。)に対して平行化される。つまり、シリンドリカルレンズ702を通過したビームは、x軸方向(図7参照。)に対しては、光束が発散する発散光の状態である。
【0089】
シリンドリカルレンズ702を通過したビームは、ビームスプリッタ704を通って、半円柱プリズム706に入射する。本実施例では、半円柱プリズム706の焦点をレーザダイオード701のエミッタ部の位置に合わせて配置することが好ましい。
【0090】
これにより、x軸方向(図7参照。)に対して発散している光束は、半円柱プリズム706の曲面で平行化される。これにより、レーザダイオード701から出射されたビームは、半円柱プリズム706内を平行光として伝播する。
【0091】
実施例2と同様に、平行化されたビームは、金属膜に設けられた検査用サンプル707に照射される。金属膜で反射した反射光は、実施例2と同様に、反射部材708で反射した後、ビームスプリッタ704で反射して、検出器709に向かう。
【0092】
本実施例では、検出器709に向かうビームは、発散光となっている。そのため、ビームスプリッタ704と検出器709との間に、集光レンズ801を配置しても良い。これにより、検出器709に向けてビームを集光することができ、高効率な検出を行うことができる。
【0093】
本実施例において、ビームスプリッタ704は角度依存性の小さいものが好ましい。
【0094】
上述の実施例2,3では、光源としてレーザダイオード701を用いた検知装置について例示したが、光源は平行化された光を出射するものであっても良い。この場合、光源から出射された光を平行化するための光学部品を設置する必要がないため、より簡易な構成の検知装置を提供することができる。
【0095】
本発明に係る観測対象の光学的特性の変化を検知する方法は、上記の説明により明らかであるが、以下簡単にまとめておく。
【0096】
まず、上述した実施形態及び実施例の検知装置を用意し、検知装置の金属膜に観測対象を接触させる工程を実施する。
【0097】
次に、光源より光を出射し、当該光を、発散光としてプリズムの曲面より入射させ、プリズムの曲面で平行化して金属膜で反射させた後、反射部材で反射させて再び当該金属膜で反射させた後に、検出器に入射させる工程を実施する。
【0098】
次に、観測対象の光学的特性の変化に応じて、金属膜に生ずる表面プラズモンの共鳴条件の変化を検知する工程を実施する。以上の工程により、観測対象の光学的特性の変化を検知することができる。
【0099】
上記の光学的特性の変化は、金属膜表面の誘電率変化であって良い。また、観測対象の一例として、抗原を挙げることが出来る。この場合、金属膜は抗原と特異的に反応する抗体を保持している。これにより、抗原と抗体との特異的な反応に起因する金属膜表面の誘電率変化を検知することができる。
【0100】
以上、本発明の望ましい実施形態及び実施例について提示し、詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない限り、さまざまな変更及び修正が可能であることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】理論的なSPR信号R'(θ)を示すグラフ。
【図2】ビームの角度スペクトルが様々な幅であるときに実際に得られるATR信号を示すグラフ。
【図3】本発明の一実施形態による検出装置の構成を示す模式図。
【図4】ファイバー出射端からのコリメートレンズの位置x、および、集光レンズと半球プリズムの距離yを変化させたときの、評価関数Cの変化を示す図。
【図5】図4と同様の評価関数Cの、従来技術においてコリメータの位置を変化させたときの変化を示すグラフ。
【図6】本発明の検知装置の別の形態を示す模式図。
【図7】本発明の検知装置の更に別の形態を示す模式図。
【図8】従来例の検出装置の構成を示す模式図。
【符号の説明】
【0102】
400 光源
401 コリメートレンズ
405,705 集光レンズ
406 半球プリズム
407a 金属膜
407b サンプル保持機構
407c 検査用サンプル
408,708 反射部材(凹面鏡)
413,709 検出器
701 レーザダイオード
702,703 シリンドリカルレンズ
706 半円柱プリズム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
曲面と平面とを備えたプリズムと、
該プリズムの前記平面に設けられ、観測対象が隣接して保持される金属膜と、
前記光源より出射され前記金属膜によって反射された光を反射し、該光を再び前記金属膜に入射させる反射部材と、
前記金属膜により再び反射された光を検出する検出器と、を有し、
前記金属膜に生ずる表面プラズモンを用いて前記観測対象の光学的特性の変化を検知する検知装置において、
前記プリズムは、前記光源からの光が発散光として前記曲面から入射し該曲面で前記発散光が平行化する位置に配置されていることを特徴とする、検知装置。
【請求項2】
前記反射部材は、前記プリズムから離間して配されていることを特徴とする、請求項1に記載の検知装置。
【請求項3】
前記金属膜によって反射された光が発散光として前記反射部材に入射される検知装置であって、
前記反射部材は、前記発散光を、該発散光の発散角と等しい収束角を有する収束光として反射するように構成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の検知装置。
【請求項4】
前記反射部材は、反射した光を、前記プリズムの焦点に集光させることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の検知装置。
【請求項5】
前記光源から出射された光を平行化するコリメートレンズと、
前記コリメートレンズによって平行化された光を、前記プリズムの焦点に集光させる集光レンズと、
をさらに備えている、請求項1から4に記載の検知装置。
【請求項6】
前記コリメートレンズと前記集光レンズとの光軸方向の位置を調整する位置調整機構をさらに有していることを特徴とする、請求項5に記載の検知装置。
【請求項7】
前記コリメートレンズと前記集光レンズとを、前記位置調整機構によって移動させることによって、前記光源側から前記金属膜への往路と、前記反射部材側から前記金属膜への復路とのそれぞれで、前記金属膜上での入射光の角度スペクトルの半値幅が、共鳴スペクトルの半値幅に比べて1/10以下となるように調整可能に構成されていることを特徴とする、請求項6に記載の検知装置。
【請求項8】
前記コリメートレンズを起点とし、前記集光レンズ、前記プリズム、前記金属膜、および前記反射部材を含む一連の光学系を通過した後に、再び前記コリメートレンズに戻ってくるガウスビームの伝搬を考えたとき、そのABCD行列が、
【数1】

の条件を満たす、請求項5から7のいずれか1項に記載の検知装置。
【請求項9】
前記プリズムが、半球形状の半球プリズムである、請求項1から8のいずれか1項に記載の検知装置。
【請求項10】
前記プリズムが、円柱を当該円柱の中心軸を含む面で切断した形状の半円柱プリズムである、請求項1から8のいずれか1項に記載の検知装置。
【請求項11】
前記光学的特性の変化は、前記金属膜表面の誘電率変化であることを特徴とする、請求項1から10のいずれか1項に記載の検知装置。
【請求項12】
金属膜に生ずる表面プラズモンを用いて観測対象の光学的特性の変化を検知する方法であって、
光源と、観測対象が隣接して保持される金属膜と、反射部材と、光を検出する検出器と、前記金属膜が設けられる平面と前記金属膜に入射する光を平行化させる曲面とを有するプリズムと、を備えた検知装置の前記金属膜に前記観測対象を接触させる工程と、
前記光源より光を出射し、当該光を発散光として前記プリズムの前記曲面より入射させ、前記プリズムの曲面で平行化して前記金属膜で反射させた後、前記反射部材で反射させて再び前記金属膜で反射させた後に、前記検出器に入射させる工程と、
前記観測対象の光学的特性の変化に応じて、前記金属膜に生ずる表面プラズモンの共鳴条件の変化を検知する工程と、を有する、観測対象の光学的特性の変化を検知する方法。
【請求項13】
前記光学的特性の変化は、前記金属膜表面の誘電率変化であることを特徴とする、請求項12に記載の観測対象の光学的特性の変化を検知する方法。
【請求項14】
前記観測対象は抗原を含んでおり、
前記金属膜は抗体を保持しており、
前記光学的特性の変化は、前記抗原と前記抗原との特異的な反応に起因する前記金属膜表面の誘電率変化であることを特徴とする、請求項12または13に記載の観測対象の光学的特性の変化を検知する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−36759(P2009−36759A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164657(P2008−164657)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】