説明

検量線作成方法およびその装置、並びに目的成分検量装置

【課題】1つの観測データから高精度な検量を可能とする。
【解決手段】 検量線作成方法であって、被検体の複数のサンプルについての観測データを取得することと、前記各サンプルについての目的成分の含有量を取得することと、前記サンプル毎の観測データを複数の独立成分に分離したときの複数の独立成分を推定し、前記複数の独立成分に基づいて、前記サンプル毎に前記目的成分に対応する混合係数を求めることと、前記複数のサンプルの前記目的成分の含有量と、前記サンプル毎の前記混合係数とに基づいて、前記検量線の回帰式を求めることとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の観測データから、前記被検体についての目的成分の含有量を導くことに用いる検量線を作成する技術と、被検体についての目的成分の含有量を求める技術とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検体の複数の異なる位置で観測された観測データについて独立成分分析を行い、その独立成分分析により算出された独立成分を基本関数とし、観測データを基本関数の線形和で表すことで、目的成分の濃度などを解析する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−44104号公報
【0004】
しかしながら、前記従来の技術では、被検体についての目的成分の検量を行う度に、その被検体について複数の異なる観測データが必要であり、1つの観測データから検量を高精度に行うことができないという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたものであり、被検体についての目的成分の検量を行う際に、その被検体に関する1つの観測データから高精度な検量を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1] 被検体の観測データから、前記被検体についての目的成分の含有量を導くことに用いる検量線を作成する検量線作成方法であって、
コンピューターが、前記被検体の複数のサンプルについての前記観測データを取得することと、
前記コンピューターが、前記各サンプルについての前記目的成分の含有量を取得することと、
前記コンピューターが、前記サンプル毎の観測データを複数の独立成分に分離したときの複数の独立成分を推定し、前記複数の独立成分に基づいて、前記サンプル毎に前記目的成分に対応する混合係数を求めることと、
前記コンピューターが、前記複数のサンプルの前記目的成分の含有量と、前記サンプル毎の前記混合係数とに基づいて、前記検量線の回帰式を求めることと、
を含む検量線作成方法。
【0008】
前記構成の検量線作成方法によれば、被検体の複数のサンプルについて、各サンプルから取得した観測データと目的成分の含有量から、被検体の観測データから被検体に含まれる目的成分量を導くための検量線が作成される。このため、この検量線を用いれば、被検体の観測データが一つであっても、目的成分の含有量を精度良く求めることができる。したがって、適用例1の検量線作成方法によって予め検量線を作成しておけば、検量に際して、被検体について一の観測データを取得するだけで済む。この結果、実測値である一の観測データから目的成分量を高精度に求めることができる。
【0009】
[適用例2] 適用例1に記載の検量線作成方法であって、
前記混合係数を求めることは、
前記コンピューターが、前記各サンプルの前記独立成分を含む独立成分行列を求めることと、
前記コンピューターが、前記独立成分行列から、前記各サンプルにおける前記独立成分毎の独立成分要素の比率を規定するベクトルの集合を示す推定混合行列を求めることと、
前記コンピューターが、前記推定混合行列に含まれる前記ベクトル毎に、前記複数のサンプルの前記目的成分の含有量に対する相関を求め、前記相関が最も高いと判定される前記ベクトルを、前記目的成分に対応する混合係数として選択することと、
を含む、検量線作成方法。
【0010】
適用例2の検量線作成方法によれば、独立成分行列が求められ、推定混合行列が求められ、推定混合行列のうちでサンプルの目的成分の含有量に対する相関の強いベクトルが抜き出されることから、推定精度の高い混合係数を得ることができる。
【0011】
[適用例3] 被検体の観測データから、前記被検体についての目的成分の含有量を導くことに用いる検量線を作成する検量線作成装置であって、
前記被検体の複数のサンプルについての前記観測データを取得するサンプル観測データ取得部と、
前記各サンプルについての前記目的成分の含有量を取得するサンプル目的成分量取得部と、
前記サンプル毎の観測データを複数の独立成分に分離したときの複数の独立成分を推定し、前記複数の独立成分に基づいて、前記サンプル毎に前記目的成分に対応する混合係数を求める混合係数推定部と、
前記複数のサンプルの前記目的成分の含有量と、前記サンプル毎の前記混合係数とに基づいて、前記検量線の回帰式を求める回帰式算出部と、
を含む検量線作成装置。
【0012】
前記構成の検量線作成装置によって予め検量線を作成しておけば、適用例1に記載の検量線作成方法と同様に、検量に際して、被検体について一の観測データを取得するだけで済む。したがって、実測値である一の観測データから目的成分量を高精度に求めることができるという効果を奏する。
【0013】
[適用例4] 適用例3に記載の検量線作成装置であって、
前記混合係数推定部は、
前記各サンプルの前記各独立成分を含む独立成分行列を求める独立成分行列算出部と、
前記独立成分行列から、前記各サンプルにおける前記独立成分毎の独立成分要素の比率を規定するベクトルの集合を示す推定混合行列を求める推定混合行列算出部と、
前記推定混合行列に含まれる前記ベクトル毎に、前記複数のサンプルの前記目的成分の含有量に対する相関を求め、前記相関が最も高いと判定される前記ベクトルを、前記目的成分に対応する混合係数として選択する混合係数選択部と、
を含む、検量線作成装置。
【0014】
この構成によれば、適用例2の検量線作成装置と同様に、推定精度の高い混合係数を得ることができる。
【0015】
[適用例5] 適用例4に記載の検量線作成装置であって、
適用例4に記載の検量線作成装置であって、
前記独立成分行列算出部によって算出された前記独立成分行列と、前記混合係数選択部によって選択された混合係数が前記推定混合行列のいずれの位置にあるかを示す目的成分順位と、前記回帰式算出部によって算出された回帰式とを記憶する記憶部
を含む検量線作成装置。
【0016】
この構成によれば、検量線作成装置は、独立成分行列、目的成分順位、および回帰式を記憶部に記憶しておくことができる。
【0017】
[適用例6] 被検体についての目的成分の含有量を求める目的成分検量装置であって、
前記被検体についての観測データを取得する被検体観測データ取得部と、
前記目的成分に対応する独立成分を少なくとも含む検量用データを取得する検量用データ取得部と、
前記被検体についての観測データと前記検量用データとに基づいて、前記被検体についての前記目的成分に対する混合係数を求める混合係数算出部と、
予め用意した、前記目的成分に対応する混合係数と含有量との関係を示す回帰式の定数と、前記混合係数算出部によって求められた混合係数に基づいて、前記目的成分の含有量を算出する目的成分量算出部と、
を含む目的成分検量装置。
【0018】
前記構成の目的成分検量装置によれば、被検体について一の観測データを取得するだけでも、被検体についての目的成分の含有量を高精度に求めることができる。
【0019】
[適用例7] 適用例6に記載の目的成分検量装置であって、
前記検量用データ取得部は、
前記目的成分に対応するものとして予め求められている独立成分を、前記検量用データとして取得し、
前記混合係数算出部は、
前記独立成分と前記被検体についての観測データとの内積を求め、該内積値を前記混合係数とする、目的成分検量装置。
【0020】
前記構成の目的成分検量装置によれば、被検体についての目的成分と相関の高い混合係数を高精度かつ容易に求めることができる。
【0021】
[適用例8] 適用例6に記載の目的成分検量装置であって、
前記検量用データ取得部は、
複数のサンプルについての各観測データを複数の独立成分に分離したときの複数の独立成分を、前記検量用データとして取得し、
前記混合係数推定部は、
前記被検体についての観測データと前記複数の独立成分とに基づいて前記被検体についての推定混合行列を算出し、前記算出した推定混合行列から前記目的成分に対応する混合係数を抽出する、目的成分検量装置。
【0022】
前記構成の目的成分検量装置によれば、被検体についての目的成分と相関の高い混合係数を高精度に求めることができる。
【0023】
[適用例9] 被検体の観測データから、前記被検体についての目的成分の含有量を導くことに用いる検量線を作成するためのコンピュータープログラムであって、
前記被検体の複数のサンプルについての前記観測データを取得する機能と、
前記各サンプルについての前記目的成分の含有量を取得する機能と、
前記サンプル毎の観測データを複数の独立成分に分離したときの複数の独立成分を推定し、前記複数の独立成分に基づいて、前記サンプル毎に前記目的成分に対応する混合係数を求める機能と、
前記複数のサンプルの前記目的成分の含有量と、前記サンプル毎の前記混合係数とに基づいて、前記検量線の回帰式を求める機能と、
をコンピューターに実現させるコンピュータープログラム。
【0024】
適用例9のコンピュータープログラムは、適用例1の検量線作成方法と同様に、取得された被検体についての観測データが一つであってもから目的成分の含有量を高精度に求めることができるという効果を奏する。
【0025】
さらに、本発明は、前記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、検量線作成方法で求められた回帰線をメモリーに記憶する目的成分検量装置としての形態、目的成分検量装置に含まれる各部の構成を機能として実現するコンピュータープログラムとしての形態、このコンピュータープログラムやこのコンピュータープログラムを記録した記録媒体(non-transitory storage medium)等の形態等で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施例としての検量線作成方法を示すフローチャートである。
【図2】鮮度が相違する緑色野菜についての光の波長と分光反射率との関係を示すグラフである。
【図3A】工程4及び工程5で用いられるパーソナルコンピューター100とその周辺装置を示す説明図である。
【図3B】工程4及び工程5で用いられる装置400の機能ブロック図である。
【図4】ハードディスクドライブ30に保存された測定データセットDS1を模式的に示す説明図である。
【図5】CPU10で実行される混合係数推定処理を示すフローチャートである。
【図6】推定混合行列Aを説明するための説明図である。
【図7】相関が高い散布図の一例を示す説明図である。
【図8】相関が低い散布図の一例を示す説明図である。
【図9】コンピューター100のCPU10で実行される回帰式の算出処理を示すフローチャートである。
【図10】目的成分の検量を行う際に使用する装置500の機能ブロック図である。
【図11】コンピューター100のCPU10で実行する目的成分検量処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。本発明の一実施例は、観測データとして緑色野菜の分光反射率のスペクトルから前記緑色野菜に含まれるクロロフィル量を導くための検量線を作成する方法に関するものである。緑色野菜は、例えば、ほうれん草、こまつな、ピーマン等である。
【0028】
A.検量線作成方法:
図1は、本発明の一実施例としての検量線作成方法を示すフローチャートである。図示するように、この検量線作成方法は、工程1から工程5までの5つの工程によって構成される。各工程1〜5はこの順に実行される。各工程1〜5について、順に説明する。
【0029】
[工程1]
工程1は、準備工程であり、作業者により行なわれるものである。作業者は、鮮度が相違する同一種類の複数の緑色野菜(例えば、ほうれん草)を、それぞれサンプルとして用意(準備)する。本実施例ではn個(nは2以上の整数)のサンプルを使用する。
【0030】
[工程2]
工程2は、スペクトルの測定工程であり、作業者により分光計測器を用いて行なわれるものである。作業者は、工程1で用意した複数のサンプルのそれぞれを分光計測器で撮影することにより、各サンプルについての分光反射率のスペクトルを測定する。分光計測器は、被計測体からの光を分光器に通し、分光器から出力されるスペクトルを撮像素子の撮像面で受けることにより、前記スペクトルを測定する周知の機器である。分光反射率のスペクトルと吸光度のスペクトルとの間には、次式(1)で表される関係が成り立つ。
【0031】
【数1】

【0032】
測定された分光反射率のスペクトルは、式(1)を用いて吸光度スペクトルに変換される。吸光度に変換するのは、後述する独立成分分析において分析される混合信号には線形結合が成立する必要があり、ランベルト・ベールの法則から、吸光度について線形結合が成立するためである。したがって、工程2においては、分光反射率スペクトルの代わりに吸光度スペクトルを測定してもよい。測定結果としては、被計測体の波長に対する特性を示す吸光度分布のデータが出力される。この吸光度分布のデータは、スペクトルデータとも呼ぶ。
【0033】
工程2は、詳しくは、作業者は、サンプル毎に所定部位を撮影して、その所定部位のスペクトルを測定する。ここで、所定部位とは、各サンプル内の部位であればいずれの部位でもよいが、サンプル全体の鮮度と鮮度が大きく異ならない部位が好ましい。例えば、一のサンプルにおいて、ある部分が極端に鮮度が劣っている場合には、その劣った鮮度の部分を避けた部位を前記測定する所定部位とする。
【0034】
図2は、鮮度が相違する緑色野菜についての光の波長と分光反射率との関係を示すグラフである。図示するように、新鮮な野菜、やや萎びた野菜、萎びた野菜によって、スペクトル波形が相違する。新鮮な野菜、あるいはやや萎びた野菜は、約700nm辺りを境界にそれ以下の波長範囲で反射率が急減している。この理由は、700nm以下の波長でクロロフィルによる光の吸収が起こるためである。一方、萎びた野菜では、クロロフィルが減少しているので、特に700nm以下の波長領域で反射率が大幅に上昇している。このように、緑色野菜の鮮度はスペクトル波形を変化させることから、工程2によって、各サンプルについてのスペクトルを測定するようにしている。
【0035】
なお、分光反射率スペクトルや吸光度スペクトルを分光器で測定する代わりに、これらのスペクトルを他の測定値から推定するようにしてもよい。例えば、サンプルをマルチバンドカメラで測定し、得られたマルチバンド画像から分光反射率や吸光度スペクトルを推定するようにしてもよい。このような推定方法としては、例えば、特開2001−99710号公報に記載された方法などを利用することができる。
【0036】
[工程3]
工程3は、クロロフィル量の測定工程であり、作業者により行なわれるものである。作業者は、工程1で用意した複数のサンプルのそれぞれを化学分析して、各サンプルについての目的成分の含有量であるクロロフィル量を測定する。詳しくは、各サンプルから所定部位を抽出して、その所定部位から目的成分であるクロロフィルを抽出し、その量を測定する。ここで、「所定部位」はサンプルのいずれの部分でもよいが、工程2でスペクトルを測定した部位と一致するのが好ましい。
【0037】
[工程4]
工程4は、混合係数の推定工程であり、パーソナルコンピューターを用いて行なわれるものである。図3Aは、工程4および後述する工程5で用いられるパーソナルコンピューター100とその周辺装置を示す説明図である。図示するように、パーソナルコンピューター(以下、単に「コンピューター」と呼ぶ)100は、分光計測器200とキーボード300に電気的に接続されている。
【0038】
コンピューター100は、コンピュータープログラム(以下、単に「プログラム」と呼ぶ)を実行することにより種々の処理や制御を行うCPU10と、データの退避場所であるメモリー20(記憶部)と、プログラムやデータ・情報を保存するハードディスクドライブ30と、入力インターフェース(I/F)50と、出力インターフェース(I/F)60とを備えた周知な装置である。
【0039】
図3Bは、工程4及び工程5で使用する装置の機能ブロック図である。この装置400は、サンプル観測データ取得部410と、サンプル目的成分量取得部420と、混合係数推定部430と、回帰式算出部440とを有する。混合係数推定部432は、独立成分行列算出部432、推定混合行列算出部434、および混合係数選択部436を含んでいる。なお、サンプル観測データ取得部410およびサンプル目的成分量取得部420は、例えば図3AのCPU10が入力I/F50とメモリー20と協働して実現される。混合係数推定部430、独立成分行列算出部432、推定混合行列算出部434、および混合係数選択部436は、例えば図3AのCPU10がメモリー20と協働して実現される。また、回帰式算出部440は、例えば図3AのCPU10がメモリー20と協働して実現される。なお、これらの各部は、図3Aに示したパーソナルコンピューター以外の他の具体的な装置やハードウェア回路によっても実現可能である。
【0040】
図3Aに示した分光計測器200は、工程2で使用されたものである。コンピューター100は、工程2で分光計測器200により測定された分光分布から得られた吸光度スペクトルを、スペクトルデータとして入力I/F50を介して取得する(図3Bのサンプル観測データ取得部410に対応)。また、コンピューター100は、工程3で測定されたクロロフィル量を、作業者によるキーボード300の操作を受けて入力I/F50を介して取得する(図3Bのサンプル目的成分量取得部420に対応)。なお、工程3で測定されたクロロフィル量は、クロロフィルを測定した所定部位の単位質量当たり(例えば100グラム当たり)のクロロフィルの質量として、コンピューター100に入力するようにしてもよい。或いは、クロロフィル量を、質量の絶対値として入力するようにしてもよい。
【0041】
上記のスペクトルデータとクロロフィル量の取得の結果、コンピューター100のハードディスクドライブ30には、スペクトルデータとクロロフィル量とを含むデータセット(以下、「測定データセット」と呼ぶ)DS1が保存される。
【0042】
図4は、ハードディスクドライブ30に保存された測定データセットDS1を模式的に示す説明図である。図示するように、測定データセットDS1は、工程1で用意した複数のサンプルを識別するためのサンプル番号B1,B2,…,Bnと、各サンプルについてのクロロフィル量C1,C2,…,Cnと、各サンプルについてスペクトルデータX1,X2,…,Xnとを含むデータ構造である。測定データセットDS1において、各クロロフィル量C1,C2,…,Cnおよび各スペクトルデータX1,X2,…,Xnは、いずれのサンプルについてのものであるかが判るように、各サンプル番号B1,B2,…,Bnと対応づけがなされている。
【0043】
CPU10は、ハードディスクドライブ30に格納された所定のプログラムをメモリー20にロードし、そのプログラムを実行することで、工程4の作業である、混合係数を推定する処理を行う。ここで、前記所定のプログラムは、外部からインターネット等のネットワークを用いてダウンロードする構成とすることもできる。工程4において、CPU10は図3Bの混合係数推定部430として機能する。
【0044】
図5は、CPU10で実行される混合係数推定処理を示すフローチャートである。処理が開始されると、CPU10は、まず、独立成分分析を行う(ステップS110)。
【0045】
独立成分分析(Independent Component Analysis, ICA) は、多次元信号解析法の1つであり、独立な信号が重なり合った混合信号をいくつかの異なる条件で観測し、それを基に独立な原信号を分離する技術である。独立成分分析を用いれば、工程2により得られたスペクトルデータを、クロロフィルを始めとするm個の独立成分(未知)が混合されたものと捕らえることで、工程2により得られたスペクトルデータ(観測データ)から独立成分のスペクトルを推定することが可能となる。
【0046】
独立成分分析について、次に詳しく説明する。m個の未知成分(ソース)のスペクトルS(以下、このスペクトルを単に「未知成分」と呼ぶこともある)が下記の式(2)のベクトルで与えられたとし、工程2により得られたn個のスペクトルデータXが下記の式(3)のベクトルで与えられたとする。なお、式(2)に含まれる各要素(S1、S2、・・・Sm)は、それぞれがベクトル(スペクトル)となっている。すなわち、例えば要素S1は式(4)のように表される。式(3)に含まれる要素(X1、X2、・・・、Xn)もベクトルであり、例えば要素X1は式(5)のように表される。添え字のl(エル)はスペクトルを測定した波長帯の数である。なお、未知成分のスペクトルSの要素数mは、1以上の整数であり、サンプルの種類(ここでは、ほうれん草)に応じて予め経験的又は実験的に決められている。
【0047】
【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

【0048】
各未知成分は統計的に独立であるとする。これら未知成分SとこれらスペクトルデータXとの間に、次式(6)の関係が成立する。
【0049】
【数6】

【0050】
式(6)におけるAは混合行列であり、次式(7)で示すこともできる。なお、ここでも"A"の文字は、式(7)に示すように太字で示す必要があるが、明細書の使用文字の制限からここでは普通文字で表す。以下、行列を表す他の太字について、同様に普通文字で表すものとする。
【0051】
【数7】

【0052】
混合行列Aに含まれる混合係数aijは、未知成分Sj(j=1〜m)が、観測データであるスペクトルデータXi(i=1〜n)へ寄与する度合いを示す。
【0053】
混合行列Aが既知の場合、未知成分Sの最小二乗解は、Aの擬似逆行列A+を用いてA+・Xと簡単に求めることができるが、本実施例の場合、混合行列Aも未知なので、観測データXのみから、未知成分Sと混合行列Aを推定しなければならない。すなわち、次式(8)に示すように、観測データXのみから、mラnの分離行列Wを用いて、独立成分のスペクトルを示す行列(以下、「独立成分行列」と呼ぶ)Yを算出する。次式(8)における分離行列Wを求めるアルゴリズムとしては、Infomax、FastICA (Fast Independent Component Analysis)、JADE (Joint Approximate Diagonalization of Eigenmatrices) など種々のものを採用することが可能である。
【0054】
【数8】

【0055】
独立成分行列Yは未知成分Sの推定値に該当する。よって、下記の式(9)を得ることができ、式(9)を変形して下記の式(10)を得ることができる。
【0056】
【数9】

【数10】

【0057】
式(10)で得られる推定混合行列A(明細書の使用文字の制限からこのように表記しただけで、実際は式(10)の左辺の符号付き文字を意味する。他の文字も同じ)は、次式(11)で示すこともできる。
【0058】
【数11】

【0059】
図5のステップS110では、CPU10は、上述した分離行列Wを求める処理までを行う。詳しくは、工程2で得られハードディスクドライブ30に予め保存したサンプル毎のスペクトルデータXを入力として、この入力に基づいて、前述したInfomax、FastICA、JADE などのいずれかのアルゴリズムを用いて、分離行列Wを求める。なお、独立成分分析で用いるスペクトルデータXは正規化されている必要がある。そのため、工程2または工程3(工程4を行う前まで)において正規化処理を行うことが好ましい。正規化は、例えば、サンプル毎のスペクトルデータX(例えばXi)から、サンプルの集合全体におけるスペクトルデータXの平均値(X1からXnの平均値)を減算し、スペクトルデータXの標準偏差で割ることによって行うことができる。
【0060】
ステップS110の実行後、CPU10は、その分離行列Wと、工程2で得られハードディスクドライブ30に予め保存したサンプル毎のスペクトルデータXとに基づいて、独立成分行列Yを算出する処理を行う(ステップS120)。この算出処理は、前述した式(8)に従う演算を行うものである。ステップS110、S120の処理において、CPU10は図3Bの独立成分行列算出部432として機能する。
【0061】
続いて、CPU10は、前記ハードディスクドライブ30に予め保存したサンプル毎のスペクトルデータXと、ステップS120で算出した独立成分行列Yとに基づいて、推定混合行列Aを算出する処理を行う(ステップS130)。この算出処理は、前述した式(10)に従う演算を行うものである。
【0062】
図6は、推定混合行列Aを説明するための説明図である。図示するよう表TBは、縦方向に各サンプル番号B1,B2,…,Bnをとり、横方向に独立成分行列Yの各要素(以下、「独立成分要素」と呼ぶ)Y1,Y2,…,Ymをとったものである。サンプル番号Bi(i=1〜n)と独立成分要素Yj(j=1〜m)から定まる表TB中の要素は、推定混合行列Aに含まれる係数ij(式(11)参照)と同一である。この表TBからも、推定混合行列Aに含まれる係数ijは、サンプルのそれぞれにおける独立成分要素Y1,Y2,…,Ymの比率を表したものであることがわかる。図6に例示した目的成分順位kについては後述する。ステップS130の処理において、CPU10は図3Bの推定混合行列算出部434として機能する。
【0063】
ステップS130までの処理によって、推定混合行列Aが得られる。すなわち、推定混合行列Aに含まれる係数(推定混合係数)ijが得られる。その後、ステップS140に進む。
【0064】
ステップS140では、CPU10は、工程3で測定されたクロロフィル量C1,C2,…,Cnと、ステップS130で算出された推定混合行列Aに含まれる各列の成分(以下、ベクトルαと呼ぶ)との間の相関(類似性の度合い)を求める。詳しくは、クロロフィル量C(C1,C2,…,Cn)と第1列目のベクトルα11121,…,n1)との相関を求め、次いで、クロロフィル量C(C1,C2,…,Cn)と第2列目のベクトルα21222,…,n2)との相関を求め、こうして順次各列についてクロロフィル量Cに対する相関を求め、最後に、クロロフィル量C(C1,C2,…,Cn)と第m列目のベクトルαm1m2m,…,nm)との相関を求める。
【0065】
上記相関は、次式(12)に従う相関係数Rによって求めることができる。この相関係数Rは、ピアソンの積率相関係数と呼ばれるものである。
【0066】
【数12】

【0067】
図7は、散布図のグラフである。図示の散布図は、縦軸にクロロフィル量Cを、横軸に推定混合行列Aの係数(以下、「推定混合係数」と呼ぶ)aをとり、クロロフィル量Cの各要素C1,C2,…,Cnと、推定混合行列Aの縦方向のベクトルαに含まれる推定混合係数1j2j,…,nj(j=1〜m)とから定まる点をプロットしたものである。図示の例では、プロットした各点は比較的、直線Lの付近に集まっている。こうした場合、クロロフィル量Cと推定混合係数aとの相関が高い。これに対して、クロロフィル量Cと推定混合係数aとの相関が低くなると、図8に示すように、プロットした各点は直線状に並ばず、拡がってしまう。すなわち、クロロフィル量Cと推定混合係数aとの相関が高いほど、プロット点は直線状に集まる傾向が高くなる。式(12)に示した相関係数Rは、プロット点が直線状に集まる傾向の程度を表す。
【0068】
図5のステップS140の結果、独立成分(独立成分スペクトル)Yj毎の相関係数Rj(j=1,2,…,m)が得られる。その後、CPU10は、ステップSS140で得られた相関係数Rjの中から最も相関が高いもの、すなわち値が1に近いものを特定する。前述した散布図で言えば、プロットされた点が最も直線状に集まる相関係数Rjを特定する。そして、最も高い相関係数Rが得られた列ベクトルαを、推定混合行列Aの中から選択する(ステップS150)。
【0069】
ステップS150における選択は、図6の表TBでいえば、複数の列の中から一の列を選択することである。この選択された列の要素が、目的成分であるクロロフィルに対応する独立成分の混合係数である。前記選択の結果、ベクトルαk1k2k,…,nk)が得られる。ここで、kは1〜mのいずれかの整数をとる。なお、このkの値を、何番目の独立成分が目的成分に当たるかを示す目的成分順位としてメモリー20に一時的に保存する。このベクトルαkに含まれる1k2k,…,nkが適用例1における「目的成分に対応する混合係数」に相当する。なお、図6の例では、目的成分順位k=2が、独立成分Y2に対応する列ベクトルα2=(1222,…,n2)を示している。なお、本明細書において、「順位」という語句は、「行列内の位置を示す値」という意味で使用されている。ステップS140、S150の処理において、CPU10は図3Bの推定係数選択部436として機能する。ステップS150の実行後、CPUは、この混合係数の算出処理を終える。この結果、工程4が完了し、その後、工程5に進む。
【0070】
[工程5]
工程5は、回帰式の算出工程であり、工程4を実行した時と同じくコンピューター100を用いて行なわれるものである。工程5では、コンピューター100は、検量線の回帰式を算出する処理を実行する。なお、工程5は、工程4までのデータを別のコンピューターに移して実行してもよい。
【0071】
図9は、コンピューター100のCPU10で実行される回帰式の算出処理を示すフローチャートである。処理が開始されると、CPU10は、まず、工程3で測定されたクロロフィル量C(C1,C2,…,Cn)と、ステップS150で選択されたベクトルαk1k2k,…,nk)とに基づいて、回帰式Fを算出する(ステップS210)。図7に示した散布図が最も相関の高いものである場合には、図中の直線Lが回帰式Fに相当する。回帰式の算出法については、周知であることから、ここでは詳しくは説明しないが、例えば、直線Lから各プロット点までの距離(残差)を0に近づけるように、最小二乗法を用いて直線Lを求める。回帰式Fは、次式(13)にて表すことができる。ステップS210では、式(13)における定数u,vが求められることになる。
【0072】
【数13】

【0073】
ステップS210の実行後、CPU10は、ステップS210で求められた回帰式Fの定数u,vと、ステップS150で得られた目的成分順位k(図6)と、混合係数の算出処理(図5)のステップS120で算出された独立成分行列Yとを、検量用データセットDS2としてハードディスクドライブ30に保存する(ステップS220)。その後、CPU10は、「リターン」に抜けて、この回帰式の算出処理を一旦終了する。この結果、検量線の回帰線を求めることができ、図1に示した検量線作成方法も終了する。ステップS210、S220の処理において、CPU10は図3Bの回帰式算出部440として機能する。
【0074】
B.目的成分の検量方法:
目的成分の検量方法について、次に説明する。被検体は、検量線を作成したときに用いたサンプルと同じ成分で構成されるものとする。具体的には、目的成分の検量方法は、コンピューターを用いて行なわれるものである。なお、ここでのコンピューターは、検量線を作成する際に用いたコンピューター100であってもよいし、他のコンピューターであってもよい。
【0075】
図10は、目的成分の検量を行う際に使用する装置の機能ブロック図である。この装置500は、被検体観測データ取得部510と、検量用データ取得部520と、混合係数算出部530と、目的成分量算出部540とを有する。被検体観測データ取得部510は、例えば図3AのCPU10が入力I/F50とメモリー20と協働して実現される。検量用データ取得部520は、例えば図3AのCPU10がメモリー20とハードディスクドライブ30と協働して実現される。混合係数算出部530、および目的成分量算出部540は、例えば図3AのCPU10がメモリー20と協働して実現される。図10の各機能を実現するコンピューターは、検量線を作成する際に用いたコンピューター100であるとし、ハードディスクドライブ等の記憶部に前述した検量用データセットDS2が保存されている。
【0076】
図11は、コンピューター100のCPU10で実行する目的成分検量処理を示すフローチャートである。この目的成分検量処理は、CPU10がハードディスクドライブ30に格納された所定のプログラムをメモリー20にロードし、そのプログラムを実行することで、実現される。図示するように、処理が開始されると、まず、CPU10は、被検体である緑色野菜を分光計測器で撮影する処理を行う(ステップS310)。ステップS310による撮影は工程2と同様にして行うことができ、この結果、被検体の吸光度スペクトルXpが得られる。検量処理で使用する分光計測器は、誤差を抑制するため検量線の作成に使用した分光計測器と同一機種であることが好ましい。誤差をさらに抑制するためには、同一の機体であることがより好ましい。なお、図1の工程2と同様に、分光反射率スペクトルや吸光度スペクトルを分光器で測定する代わりに、これらのスペクトルを他の測定値から推定するようにしてもよい。一の被検体を一回撮像した場合に得られる被検体の吸光度のスペクトルXpは、次式(14)のようにベクトルで表される。
【0077】
【数14】

【0078】
ステップS310の処理において、CPU10は図10の被検体観測データ取得部510として機能する。次いで、CPU10は、ハードディスクドライブ30から検量用データセットDS2を取得し、メモリー20に格納する(ステップS315)。 ステップS315の処理において、CPU10は図10の検量用データ取得部520として機能する。
【0079】
ステップS315の実行後、ステップS310で得られた被検体の吸光度スペクトルXpを、正規化する(ステップS320)。この正規化は、スペクトル内の個々の値からスペクトル全体の平均値を引いた後に、標準偏差で割ることによって行われる。
【0080】
その後、CPU10は、検量用データセットDS2に含まれる独立成分行列YとステップS320で得られた正規化ずみのスペクトルとに基づいて、被検体についての推定混合行列Aを求める処理を行う(ステップS330)。詳しくは、前述した式(10)に従う演算処理を行うもので、検量用データセットDS2に含まれる独立成分行列Yの逆行列(擬似逆行列)Y+を求め、ステップS320で得られた正規化ずみのスペクトルに前記擬似逆行列Y+を掛けることで、推定混合行列Aを求める。
【0081】
検量処理における推定混合行列Aは、次式(15)に示すように、各独立成分に対応した混合係数からなる行ベクトル(1ラm行列)である。そこで、ステップS330の実行後、CPU10は、ハードディスクドライブ30から検量用データセットDS2に含まれる目的成分順位kを読み出し、ステップS330で求めた推定混合行列Aの中から、目的成分順位kに対応するk番目の成分の混合係数αkを抜き出し、当該混合係数αkを目的成分であるクロロフィルの混合係数として、メモリー20に一旦保存する(ステップS340)。ステップS320ないしS340の処理において、CPU10は図10の混合係数算出部530として機能することになる。
【0082】
【数15】

【0083】
続いて、CPU10は、ハードディスクドライブ30から検量用データセットDS2に含まれる回帰式の定数u,vを読み出し、この定数u,vとステップS340で得られた目的成分であるクロロフィルの混合係数αkとを前述した式(13)の右辺に代入することで、クロロフィルの含有量Cを求める(ステップS350)。含有量Cは、被検体の単位質量当たり(例えば100グラム当たり)のクロロフィルの質量として求められる。ステップS350の処理において、CPU10は図10の目的成分量算出部540として機能することになる。その後、「リターン」に抜けて、この目的成分検量処理を終了する。
【0084】
なお、本実施例では、ステップS350によって求められた含有量C(単位質量当たりの質量)を被検体のクロロフィルの含有量としていたが、これに替えて、ステップS350によって求められた含有量Cを、ステップS320による正規化で用いた正規化係数で補正して、この補正後の値を求めるべき含有量としてもよい。具体的には、含有量Cに標準偏差を乗算することによって、含有量の絶対値(グラム)を求めるようにしてもよい。この構成によれば、目的成分の種類によっては、含有量Cをより精度の高いものとすることが可能となる。
【0085】
C.実施例効果:
以上のように構成された実施例の検量線作成方法によれば、被検体である緑色野菜の実測値である一のスペクトルからクロロフィル量を高精度に求めることができる。
【0086】
D.変形例:
この発明は前記実施例やその変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0087】
・変形例1:
前記実施例では、被検体観測データ取得部510(図10)は、検量用データセットDS2をハードディスクドライブ30から取得することで、目的成分に対応する独立成分を含む独立成分行列Yを取得し、混合係数算出部530(図10)は、被検体の吸光度スペクトルと独立成分行列Yとに基づいて被検体についての推定混合行列Aを求め、その推定混合行列Aの中から目的成分順位kに対応するk列目の混合係数αkを抽出することによって、被検体についての目的成分の混合係数を求めていたが、本発明ではこれに限られない。例えば、次の(i)、(ii)を順に行う構成とすることができる。
【0088】
(i)ハードディスクドライブ30に格納された検量用データセットDS2を読み出して、前記検量用データセットDS2に含まれる独立成分行列Yの中から目的成分順位kに対応するk列目の要素(独立成分)Ykを取得する。この独立成分Ykは、クロロフィル量に対して最も相関が強いもので、クロロフィル量に対応したものである。
(ii)次いで、前記抽出した独立成分Ykと、観測データである被検体のスペクトルXp(例えば、ステップS320で得られた正規化ずみのスペクトル)との内積を求め、その内積値を目的成分の混合係数αkとする。すなわち、次式(16)に従う演算を行う。
【0089】
【数16】

【0090】
ここでは、観測データは独立成分の線形和であり、また、独立成分同士の直交性が十分に高いと仮定しているので、観測データであるスペクトルと目的成分の独立成分行列との内積を算出することによりその独立成分についての値だけが残り、他の成分はすべて0になる。これにより目的成分の混合係数αkの算出が容易となる。但し、独立成分同士の直交性が十分に高くない場合には、式(16)の演算を使用せずに、式(15)の推定混合行列Aを求めるようにすることが好ましい。
【0091】
前記(i)の処理において、CPU10は検量用データ取得部として機能する。前記(ii)の処理において、CPU10は混合係数算出部として機能する。なお、検量用データ取得部は、前記(i)の構成に換えて、前記独立成分行列Yの中から目的成分順位kに対応するk列目の要素(独立成分)Ykが予め記憶されているハードディスクドライブ30等の記憶部から、独立成分Ykを取得する構成とすることもできる。内積を用いる場合、必要となるのは目的成分に対応した独立成分のみであるため、ほかの独立成分は必要ないためである。この場合には、独立成分はベクトルとなり、目的成分順位を保存する必要もなくなる。
【0092】
・変形例2:
前記実施例および変形例では、被検体を緑色野菜として、クロロフィル量を検出する構成としたが、緑色野菜のクロロフィル量に換えて、肉におけるオレイン酸、人肌におけるコラーゲン等、種々の被検体および目的成分に対応することができる。要は、被検体と同じ成分で構成されるサンプルを用意して検量線の作成を行うようにすれば、種々の被検体および目的成分に対応することが可能となる。前記実施例および変形例では、吸光度スペクトルを観測データとして検量する構成としたが、観測データを、吸光度スペクトルに換えて、複数の音源から発せられる音声を混合した音声データとしても、同様の構成により、特定音源からの音の大きさを検量できる。要は、信号源についての統計的性質を知るに十分な量の情報を有する信号であれば、本発明は、種々の観測データに適用することが可能である。
【0093】
・変形例3:
前記実施例および変形例では、混合係数推定工程として、独立成分行列を求め、推定混合行列を求め、その推定混合行列から目的成分に対応する混合係数を抜き出す構成としたが、必ずしもこの構成とする必要はない。要は、サンプル毎の観測データに含まれる、当該観測データを複数の独立成分に分離したときの各独立成分を推定し、前記各独立成分に基づいて、前記目的成分に対応する混合係数を前記サンプル毎に求める構成であれば、いずれの構成とすることもできる。
【0094】
・変形例4:
前記実施例および変形例における検量線作成方法では、サンプルについての目的成分の含有量を実測する構成としたが、これに換えて、目的成分の含有量が既知であるサンプルを用意して、その含有量をキーボード等から入力する構成としてもよい。
【0095】
・変形例5:
前記実施例および変形例では、未知成分のスペクトルSの要素数mは予め経験的又は実験的に決められるとしたが、未知成分のスペクトルSの要素数mはMDL(Minimum Description Length)やAIC(Akaike Information Criteria)として知られる情報量基準などによって決定してもよい。MDLなどを用いる場合、未知成分のスペクトルSの要素数mはサンプルの観測データから演算によって自動的に決めることができる。なお、MDLについては、例えば”Independent component analysis for noisy data - MEG data analysis, 2000”に説明されている。
【0096】
・変形例6:
前記実施例および変形例では、検量処理の対象となる被検体は、検量線を作成したときに用いたサンプルと同じ成分で構成されるとしたが、変形例1のように内積を用いて混合係数を求める場合、被検体に検量線を作成したときに用いたサンプルと同じ成分以外の未知成分が含まれる、としてもよい。独立成分同士の内積は0と仮定するため、未知成分に対応する独立成分とも内積0と考えられるためであり、内積で混合係数を求める場合には未知成分の影響は無視できる。
【0097】
・変形例7:
前記実施例および変形例において用いたコンピューターは、パーソナルコンピューターに換えて専用の装置とすることができる。例えば、目的成分の検量方法を実現するパーソナルコンピューターを専用の検量装置とすることができる。
【0098】
・変形例8:
前記実施例では、サンプルや被検体についての分光反射率のスペクトルの入力を、分光計測器により測定されたスペクトルを入力することで行っていたが、本発明はこれに限られない。例えば、波長帯域の相違する複数のバンド画像から分光スペクトルを推定し、この分光スペクトルを入力する構成としてもよい。前記バンド画像は、例えば、透過波長帯域を変更可能なフィルターを備えるマルチバンドカメラによってサンプルや被検体を撮影することで得られる。
【0099】
・変形例9:
前記実施例および各変形例において、ソフトウェアによって実現した機能は、ハードウェアによって実現するものとしてもよい。
【0100】
なお、前述した各実施例および各変形例における構成要素の中の、独立請求項で記載された要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0101】
10…CPU
20…メモリー
30…ハードディスクドライブ
100…パーソナルコンピューター
200…分光計測器
300…キーボード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の観測データから、前記被検体についての目的成分の含有量を導くことに用いる検量線を作成する検量線作成方法であって、
コンピューターが、前記被検体の複数のサンプルについての前記観測データを取得することと、
前記コンピューターが、前記各サンプルについての前記目的成分の含有量を取得することと、
前記コンピューターが、前記サンプル毎の観測データを複数の独立成分に分離したときの複数の独立成分を推定し、前記複数の独立成分に基づいて、前記サンプル毎に前記目的成分に対応する混合係数を求めることと、
前記コンピューターが、前記複数のサンプルの前記目的成分の含有量と、前記サンプル毎の前記混合係数とに基づいて、前記検量線の回帰式を求めることと、
を含む検量線作成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の検量線作成方法であって、
前記混合係数を求めることは、
前記コンピューターが、前記各サンプルの前記独立成分を含む独立成分行列を求めることと、
前記コンピューターが、前記独立成分行列から、前記各サンプルにおける前記独立成分毎の独立成分要素の比率を規定するベクトルの集合を示す推定混合行列を求めることと、
前記コンピューターが、前記推定混合行列に含まれる前記ベクトル毎に、前記複数のサンプルの前記目的成分の含有量に対する相関を求め、前記相関が最も高いと判定される前記ベクトルを、前記目的成分に対応する混合係数として選択することと、
を含む、検量線作成方法。
【請求項3】
被検体の観測データから、前記被検体についての目的成分の含有量を導くことに用いる検量線を作成する検量線作成装置であって、
前記被検体の複数のサンプルについての前記観測データを取得するサンプル観測データ取得部と、
前記各サンプルについての前記目的成分の含有量を取得するサンプル目的成分量取得部と、
前記サンプル毎の観測データを複数の独立成分に分離したときの複数の独立成分を推定し、前記複数の独立成分に基づいて、前記サンプル毎に前記目的成分に対応する混合係数を求める混合係数推定部と、
前記複数のサンプルの前記目的成分の含有量と、前記サンプル毎の前記混合係数とに基づいて、前記検量線の回帰式を求める回帰式算出部と、
を含む検量線作成装置。
【請求項4】
請求項3に記載の検量線作成装置であって、
前記混合係数推定部は、
前記各サンプルの前記各独立成分を含む独立成分行列を求める独立成分行列算出部と、
前記独立成分行列から、前記各サンプルにおける前記独立成分毎の独立成分要素の比率を規定するベクトルの集合を示す推定混合行列を求める推定混合行列算出部と、
前記推定混合行列に含まれる前記ベクトル毎に、前記複数のサンプルの前記目的成分の含有量に対する相関を求め、前記相関が最も高いと判定される前記ベクトルを、前記目的成分に対応する混合係数として選択する混合係数選択部と、
を含む、検量線作成装置。
【請求項5】
請求項4に記載の検量線作成装置であって、
前記独立成分行列算出部によって算出された前記独立成分行列と、前記混合係数選択部によって選択された混合係数が前記推定混合行列のいずれの位置にあるかを示す目的成分順位と、前記回帰式算出部によって算出された回帰式とを記憶する記憶部
を含む検量線作成装置。
【請求項6】
被検体についての目的成分の含有量を求める目的成分検量装置であって、
前記被検体についての観測データを取得する被検体観測データ取得部と、
前記目的成分に対応する独立成分を少なくとも含む検量用データを取得する検量用データ取得部と、
前記被検体についての観測データと前記検量用データとに基づいて、前記被検体についての前記目的成分に対する混合係数を求める混合係数算出部と、
予め用意した、前記目的成分に対応する混合係数と含有量との関係を示す回帰式の定数と、前記混合係数算出部によって求められた混合係数に基づいて、前記目的成分の含有量を算出する目的成分量算出部と、
を含む目的成分検量装置。
【請求項7】
請求項6に記載の目的成分検量装置であって、
前記検量用データ取得部は、
前記目的成分に対応するものとして予め求められている独立成分を、前記検量用データとして取得し、
前記混合係数算出部は、
前記独立成分と前記被検体についての観測データとの内積を求め、該内積値を前記混合係数とする、目的成分検量装置。
【請求項8】
請求項6に記載の目的成分検量装置であって、
前記検量用データ取得部は、
複数のサンプルについての各観測データを複数の独立成分に分離したときの複数の独立成分を、前記検量用データとして取得し、
前記混合係数推定部は、
前記被検体についての観測データと前記複数の独立成分とに基づいて前記被検体についての推定混合行列を算出し、前記算出した推定混合行列から前記目的成分に対応する混合係数を抽出する、目的成分検量装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−36973(P2013−36973A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−16854(P2012−16854)
【出願日】平成24年1月30日(2012.1.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】