説明

極微量水分計測素子および該計測素子を用いた防湿封止性能評価方法

【課題】単独で自立して存在するのが不可能な防湿目的の薄膜状封止膜の水分透過率の計測や、防湿封止が必要な電子素子の防湿封止層に関して、厚さ方向のみではなく、封止層と基板との界面から浸入する水分に対しても封止性能の評価を可能にする計測手段を提供する。
【解決手段】基板上に形成した対向電極上に水分を高効率、かつ不可逆に吸収する吸水性材料を薄膜状に形成した吸水層を設けた構造の素子に対して、防湿封止を講じる必要のある電子素子と同様の封止を行い、封止層、ないしは封止層と基板との界面から浸入する水分を吸水層に吸収させ、それを対電極間に電圧を印加して電気分解することでその電気量から浸入した水分を定量する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間に含まれる極微量水分量を短時間で高感度に計測する計測技術、ならびに高分子材料や無機酸化物などの膜の透過水分を短時間に高精度・高感度に計測し、該膜の防湿封止性能を評価する防湿封止評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
活性層に有機材料の薄膜を用いた電界発光素子(有機EL素子)は、発光の視認性の高さや素子を極薄設計できることなどの理由から、液晶やプラズマ方式に替わるフラットパネルディスプレイへの画素応用が期待されている。わずかな水分に対しても不安定な有機EL素子を用いたディスプレイの実現には、極微量の水分がディスプレイ内部に浸入することを防止する封止材料や封止方法の開発が重要な課題の一つとなっている。防湿性の高い封止法として、金属缶で吸湿材ごと封入する方法や、高分子とシリカ類を多層に積層した水分バリア性多層膜フィルムを適当な接着剤を用いて基板に貼り合わせて封止層を形成する方法などが試みられているが、ディスプレイパネル作製プロセスの一貫性や、光の取り出し効率、パネルの更なる軽量薄型化の観点から、スパッタリングやCVD法などの蒸着堆積法により、水分に対する封止層を薄膜として直接有機EL素子上に形成する封止方法の開発も検討されている。
【0003】
一方、封止された素子内部に侵入する極微量水分の定量的な計測法の開発が立ち遅れている。JIS K7129法、ないしはASTM F1249−90に示された測定方法や、それらに準じたモコン社の水蒸気透過度測定装置等により、前述した水分バリア性のフィルム材料などの厚み方向の水分透過率が計測されており、10−5グラム/平方メートル・日程度の計測感度が達成されているが、これらの方法ではフィルムや膜として自立して存在できる部材でのみしか精度のよい計測ができないため、前記の蒸着等により有機EL素子上に直接形成される封止層の薄膜など、自立した膜として取り扱うことが難しい材料に対しては有効な水分透過率計測方法が存在しないのが現状である。また貼り合わせによる場合でも、直接製膜の封止でも、水分の浸入は封止層の厚さ方向のみならず、封止層と有機EL素子基板との界面からも起こりうることが指摘されている。従って封止材の膜厚方向の水分透過率計測のみでは、素子に対して講じた封止策の実効的な防湿封止性能を十分に評価できていないのが現状である。
【0004】
従来の水分検出素子としては、例えば、半導体プロセスに用いるガス流中の水分濃度検出用の電解湿度計であって、中空のガラス管の内面にスパイラル状に形成された第1および第2の薄膜電極と、ガラス管の内面全体に堆積された吸水性膜等からなるもの(特許文献1参照)や、大気中の水分をppmレベルから高湿度のレベルまで検出可能な水分検出器であって、多孔性の陽極、多孔性の陰極、両極間に設けられた電解質層等からなるもの(特許文献2参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平11−510605号公報
【特許文献2】特開2004−77301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、単独で自立存在可能な封止層の厚み方向の水分透過率計測では、有機ELのディスプレイの実用化に有効な封止材料や封止方法の評価には不十分である。また、従来の水分検出素子としての特許文献1に記載の電解湿度計は、EL素子の封止層の評価に用い得るようなコンパクトなものではないし、吸水性膜は、ガラス管内面に塗布等により形成された数ミクロン以上の厚い膜であって、短時間での精度の高い水分計測は困難である。特許文献2に記載の水分検出器は、計測限界が数ppmであって、本願発明が対象とするような1ppbレベル台の高感度の水分検出には用いることができない。
従来技術にはこのような問題点が存在することから、封止策を講じた後の有機EL素子等の湿分を嫌う各種嫌湿物体、ないしは類似の封止構造を形成した後に、想定される様々な経路から浸入する極微量水分を捕らえて、短時間に高精度・高感度に定量計測する新たな計測手法の開発が望まれている。
【0007】
以上のような従来技術を背景とし、本発明の目的は、有機EL素子をはじめ、極微量な水分の浸入に対する封止が必要な電子素子等の嫌湿物体に対して、その水分封止性能の評価に十分な感度を有し、短時間で精度よく水分を検出することのできる新たな水分の検出原理、及び封止策の防湿性能を定量的に評価可能にする新たな計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明において、極微量水分の検出は、基板上に形成した一対、ないしは複数対の対向電極上に水分を高効率、かつ不可逆に吸収する適切な吸水性材料を薄膜状に形成した吸水層を設けた構造の素子を用いて行なわれる。本発明者は、吸水層を10〜600ナノメートルの範囲に薄膜化することにより、吸水層が極微量の水分子を効率よく吸収すること、さらにこの状態で、対電極に電圧を印加することにより吸水層内の極微量の水が高効率に電気分解され、その際に流れる電流量から算出される電荷量によって、極微量の水分子の物質量を精度よく定量できること、吸水層を酸化リン(V)の蒸着薄膜とすることにより計測精度がさらに向上すること等を見出した。
すなわち、本発明は、上記のような知見に基づくものであり、以下の事項を特徴としている。
(1)基板上に形成した一対又は複数対の対電極と、前記対電極に接触して形成された吸水性物質の吸水層とを含む極微量水分検出素子であって、前記吸水層は、厚さが10〜600ナノメートルの薄膜状であり、前記対電極間には、前記吸水層に吸収された極微量水分を電気分解する電圧が印加されるように構成されたことを特徴とする極微量水分検出素子。
(2)前記吸水層が酸化リン(V)の蒸着薄膜であることを特徴とする上記(1)に記載の極微量水分検出素子。
(3)基板上に形成した一対又は複数対の対電極と、前記対電極に接触して形成された吸水性物質の吸水層とを含む極微量水分検出装置であって、前記吸水層は、厚さが10〜600ナノメートルの薄膜状であり、吸水層の周囲に存在する極微量水分を吸水層で吸収し、それを対電極間に電圧を印加して電気分解することにより、極微量水分を検出、定量するよう構成されたことを特徴とする極微量水分検出装置。
(4)上記(1)又は(2)に記載の極微量水分検出素子上に、吸水層を覆う防湿性材料からなる封止層を形成し、前記極微量水分検出素子により極微量水分を検出、定量することによって、前記封止層の防湿封止性能を評価する防湿封止性能評価方法。
(5)上記(1)又は(2)に記載の極微量水分検出素子と、防湿封止が必要な電子素子とを共に封止する防湿封止層を形成し、前記極微量水分検出素子により極微量水分を検出、定量することによって、前記防湿封止層の防湿封止性能を評価する防湿封止性能評価方法。
(6)上記(1)又は(2)に記載の極微量水分検出素子の基板に前記吸水層を囲むシール剤を塗布し、シール剤で囲まれた空間を水分バリア性材料のシートでキャップして前記吸水層を封止し、前記極微量水分検出素子により極微量水分を検出、定量することによって、前記シール剤の防湿封止性能を評価する防湿封止性能評価方法。
(7)極微量水分検出装置の対電極を複数対とし、対電極の分布に応じた防湿封止性能分布を評価する上記(4)〜(6)のいずれかに記載の防湿封止性能評価方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の極微量水分計測素子は、吸水層の厚さを10〜600ナノメートルの範囲内の薄膜としたため、周囲の極微量水分を短時間で高感度に計測することができる。また、吸水層を酸化リン(V)の蒸着薄膜とすることにより、膜厚が均一で表面が平滑なものとなり、さらに高感度でばらつきの少ない高精度に計測することができる。
この対電極と薄膜吸水層からなる素子を、防湿封止策が必要な電子素子に用いた基板と同種の基板上、あるいは実際の電子素子上に形成し、それに対して電子素子と同様の封止策を行なうことによって、封止層が自立した膜として存在できるか如何にかかわらず、また封止層の厚さ方向のみならず封止層−基板界面から浸入する水分に関しても計測することができ、講じた封止策の実効的な封止性能が評価可能となる。
また、水分を嫌う各種の嫌湿性物体をその周囲のシール剤と水分バリア性シートのキャップで封止する場合についても、その封止法の実効的な封止性能が評価可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】極微量の水分を吸水層に吸収させ、電気分解の電気量により計測定量する本発明の極微量水分計測素子の概略を示す図である。
【図2】図1で概略を示した極微量水分計測素子を用いて有機EL素子などの電子素子の封止層の防湿封止性能評価を行なう方法の概略を示す図である。
【図3】図1で概略を示した極微量水分計測素子を有機EL素子上に積層し封止層の防湿封止性能評価を行なう方法の概略を示す図である。
【図4】図1で概略を示した極微量水分計測素子を用いて、シール剤とガラス板のキャップとによる封止法の防湿封止性能評価を行なう方法の概略を示す図である。
【図5】実施例1で作製した極微量水分計測素子1を密閉容器中に設置し、電極に5ボルト電圧を印加した状態で容器内部の圧力を1×10−4パスカル未満から、段階的に上昇させたときの極微量水分計測素子1の出力電流値の変化を示す図である。
【図6】図4で示した出力電流値の変化の経過時間5分から35分までの部分を拡大表示した図である。
【図7】実施例1で作製した極微量水分計測素子1を密閉容器中に設置し、1×10−4パスカル以下の圧力下で電極に10ボルトの電圧を印加し、吸水層があらかじめ吸収した水分を十分に電解し脱水を行った後、電圧印加を停止し、直後に容器内圧力を2×10−3パスカルまで急増させ、一定時間素子を暴露し、再び容器内圧力を1×10−4パスカル以下まで急減したのち、電極に10ボルトの電圧を印加し計測した出力電流量の時間減衰の暴露時間依存性を示した図である。
【図8】図7で示した極微量水分計測素子1の出力電流を時間で積分し、水の電解に要した電荷量とした場合の暴露時間依存性を示した図である。
【図9】参照例1で作製した水分計測素子1を密閉容器中に設置し、電極に5ボルト電圧を印加した状態で容器内部の圧力を段階的に上昇させたときの水分計測素子1の出力電流値の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明の実施形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、本発明の極微量水分検出素子の基本形態例であり、基板(110)、基板に支持された対電極(120)、および、対電極に接触するように形成された吸水層(130)を含む。
【0012】
基板(110)は、対電極(120)や吸水層(130)を支持する面が電気的絶縁性であれば、どのような材料から形成してもよく、そのような例としては、ガラス板、プラスチックフィルム、セラミックスシート、半導体ウエハ等が挙げられる。また、極微量水分検出素子専用の基板を用いずに、実際に封止策を施すEL素子等の素子用基板を極微量水分検出素子用の基板として用いることもできる。その場合には、封止性能評価の精度を向上させることができる。
【0013】
対電極(120)は、基板上に形成された互いに対向する電極であり、電極リード等を介して、対電極間に電圧が印加し得るように構成されている。対電極を構成する材料としては、低抵抗で、水の電気分解に対して溶出などの化学的な変化が起こりにくい安定性を有するものであれば何でもよく、例えば、金、白金、パラジウム等の貴金属、ガラス状炭素薄膜などが挙げられる。対電極は、正極、負極の一対でもよいが、正極、負極を複数対とすることにより、水の電気分解の効率を上昇させることができる。正極、負極を複数対とする場合、例えば、電極を櫛形として対向させ、それぞれの櫛形の櫛歯が交互となるように配置し、それら櫛歯からなる複数対の電極について、電圧の印加と電気量の計測をまとめて行うこともできる。また、各対電極を互いに独立して配置し、各対電極について、電圧の印加と電気量の計測との一方又は両方を独立して行うようにしてもよく、その場合には、大面積の計測領域において、対電極の分布に応じた水分分布や防湿封止性能分布を計測することが可能となる。各電極の平面形状は、直線状だけでなく、渦巻状、(同心)円弧状等の曲線状など、どのようなものでもよい。対電極(120)の厚さと幅は十分な導電性が担保できる程度であればよく、厚さについては、通常10ナノメートル〜1ミクロン程度で、直上に積層する吸水性材料薄膜の平坦性に影響を及ぼさないように配慮する場合は、10〜100ナノメートル程度、より好ましくは、30〜70ナノメートル程度とするのがよく、幅については、コンパクトとする観点から、5〜200ミクロン程度、好ましくは20〜100ミクロン程度とするのがよい。対電極の長さは、EL素子等の対象物に応じて適宜に設定できるが、コンパクトとする観点から、50ミクロン〜10ミリメートル程度、好ましくは200ミクロン〜5ミリメートル程度とするのがよい。正極、負極間の間隔は印加する電圧によって任意に設定できるが、計測の利便性から、低印加電圧でも電極間に大きな電界がかかるようにするため10〜1000ミクロン程度、より好ましくは、20〜500ミクロン程度の範囲で設定されるのがよい。対電極は、真空蒸着等の公知の方法で形成することができる。
【0014】
吸水層(130)は、周囲に存在する水分を吸収する吸水性物質の薄膜からなり、対電極の正・負極の両方に接触するように形成される。対電極を複数対とする場合は、全ての対電極に接触するように1つの大面積の吸水層を形成してもよいが、防湿封止性能分布を計測する場合は、各対電極に別々の吸水層を形成することが好ましい。吸水性物質としては、水分子と効率よく反応し、かつ圧力や温度の変化によって、吸収した水分子をほとんど再放出しない不可逆吸収する材料を用いるのが好ましい。また水分子が吸収されていない場合には高抵抗の絶縁体として振舞うものが、計測時の水の電解電流に対する暗電流を低減させ、定量精度を高めるうえで都合がよい。こうした性質を満たす吸水性物質の一例として酸化リン(V)が挙げられる。なお、吸水性物質に不可逆的に吸収された水分は、吸水性物質に接触する対電極間に所定の電圧を印加することにより電気分解し、その際の電気量に応じて放出される。吸水層(130)の厚さは、上記対電極との間で間隙が生じない厚さであればいくらでもかまわないが、吸収した水分子が電極に到達するまでの時間をできるだけ短くすることで計測の時間応答性を高めることができるという点、および封止性能評価をする際に、本発明の極微量水分を検出する素子構造が封止層の平滑形成に影響を及ぼさないという点を鑑みると、可能な限り薄くしたほうが好都合であるが、10ナノメートル未満では、均一で表面の平滑な吸水層を形成するのが困難なこともあり、上記電極の厚さに応じて10〜600ナノメートル、好ましくは20〜100ナノメートルの範囲で調整されるのがよい。吸水層の薄膜は、加熱真空蒸着や適当な溶剤に吸水性材料を溶解した溶液を塗布するなどの公知の方法で形成することができるが、均一で表面が平滑な薄膜とする観点からは、真空蒸着が好ましい。
本発明の極微量水分検出素子は、EL素子の封止層の評価等に用いる場合には、コンパクトなものとすることもでき、その場合、個々の検出素子を例えば、10mm2以下や3mm2以下とすることも可能であるし、又は、複数の対電極を含む検出素子の各対電極の領域を例えば、10mm2以下や3mm2以下とすることも可能である。
【0015】
本発明者は、酸化リン(V)が昇華性を有することに着目し、蒸着によって酸化リン(V)を吸水層として基板上に製膜することを試みた。その結果、減圧下にて酸化リン(V)を加熱昇華させ、基板上に蒸着堆積することにより、均一で平滑性に優れ、前記好適膜厚の範囲に制御された酸化リン(V)の薄膜が製膜されることを見出した。この薄膜を吸水層とする前記と類似の素子に対して、対電極間に数ボルトから10ボルト程度の一定電圧を印加した状態で、ppbレベル以下の極低水分環境下に置き、そこからppbレベル、ppmレベルへと水分濃度を上昇させた場合に、水分の濃度上昇に応じた電極間電流の上昇を確認し、これが、吸水層に吸収された水分子の電気分解によることを突き止めた。同様にppbレベル以下の極低水分環境下から、ppbレベル以上の一定濃度の水分環境に一定時間暴露することによって極微量水分を吸水層に吸収させた後、再びppb以下の環境に戻して一定電圧で水の電気分解を行なった結果、電流量は時間とともに減少し、その電気量は暴露時の水分濃度、および暴露時間に応じた値となることを確認した。
【0016】
上記のような特性を示す本発明の極微水分の検出方法を用いることにより、有機EL素子をはじめとし、水分に対する封止が必要な電子素子等の封止策の封止性能評価が可能となる。
図2には、本発明の極微量水分計測素子(200)上に、水分の透過を妨げる水分バリア性膜ないし防湿性膜として封止層(210)を形成した場合の素子構成を示す。水分バリア性膜ないし防湿性膜の形成方法としては、(a)水分バリア性膜ないし防湿性膜の接着層を介した貼着、(b)水分バリア性樹脂ないし防湿性樹脂の皮膜形成、(c)無機酸化物等の水分バリア性材料ないし防湿性材料の物理蒸着等が挙げられる。また、貼着される水分バリア性膜ないし防湿性膜としては、例えば、高分子とシリカ類の多層体等が挙げられる。そのような封止層による封止策を施した極微量水分計測素子は、一定時間恒温恒湿環境に置いた後、対電極間に電圧を印加して吸水層が吸収した水を電気分解し、その電気量から一定時間にどれだけの量の水分子が封止層を介して浸入したかが判定される。
【0017】
図3は有機EL素子(300)上に本発明の極微量水分計測素子を積層して封止性能評価を行う場合の素子構成例である。下部電極(310)、有機EL活性層(320)、上部電極(330)からなる有機EL素子(300)の上部電極(330)上に、電気的絶縁性に優れた薄膜絶縁層(340)を積層し、それを基板とした極微量水分計測素子(200)を形成する。封止性能評価は、図2で例示した場合と同様の方法で封止層(210)を形成した後、封止された極微量水分計測素子を用いることで、前述した方法と同様に行うことができる。
【0018】
また本発明の極微量水分計測素子を用いることによって、液晶ディスプレイなどで一般に行われるような、基板外周部にエポキシ樹脂等のシール剤を塗布し、シール剤で囲まれた空間を水分バリア性材料のシートでキャップする封止法の封止性能評価も可能である。水分バリア性材料のシートとしては、ガラス板、金属板、セラミックシート、高分子とシリカ類の多層体等が挙げられる。
図4は、本発明の極微量水分計測素子(200)の基板上に、吸水層を囲むシール剤を塗布し、シール剤で囲まれた空間をガラス板(420)でキャップをして封止した場合の素子構成例で、これにより、封止剤自身や封止剤と基板、ないしはキャップガラス界面を通して浸入する水分の評価が可能となる。
【実施例】
【0019】
上述の極微量水分の計測、および水分に対する封止性能の評価方法に関して、下記の実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されない。
【0020】
(実施例1)
石英基板上にシャドウマスクを介して厚さ50ナノメートルの金を真空蒸着し、40ミクロン間隔で、線幅100ミクロン、長さ2ミリメートル5対の櫛形対向電極を形成した。この電極付基板を極低水分濃度窒素雰囲気のグローブボックス中に設置した真空蒸着装置に入れ、約1パスカルの圧力下で、厚さ約100ナノメートルの酸化リン(V)の薄膜を電極上に加熱蒸着により形成し、極微量水分計測素子1を作製した。形成された酸化リン(V)の薄膜は、厚みがほぼ均一で表面も平滑なものであった。
【0021】
(実施例2)
実施例1で作製した極微量水分計測素子1を極低水分濃度窒素雰囲気のグローブボックス内で排気装置および、電圧印加−電流計測器を外部から接続可能な密閉容器内に封入したのち、グローブボックス外に搬出した。この状態から密閉容器内の圧力を1×10−4パスカル未満の一定値になるまで排気装置により減圧したのち、櫛形対向電極に5ボルトの一定電圧を印加した。真空ポンプの排気能力を調整し、容器内部の圧力を段階的に上昇させたときの極微量水分計測素子1の電流値の変化を図5に示す。密閉容器内の微小圧力がすべて残留する水分による蒸気圧によると仮定したときの密閉容器空間内の水分濃度を図5の圧力軸と並列して記載した。また図6は経過時間が5分から35分までの部分を拡大して示したものである。図5、および図6から明らかなように、電圧を対電極間に印加すると、極微量水分計測素子1は10−4パスカルから10パスカルの容器内圧の上昇に対応して、電極間に流れる電流値が上昇した。この容器内部に発生する微小圧力の要因は一般に容器とポンプとの接続部やサンプルの出し入れ口などから漏洩したり、あるいは容器内壁に吸着した水の蒸気圧と考えられることから、容器内圧力から内部の水分濃度を見積もることが出来る。図5および図6の圧力軸と並列して記載した水分濃度との相関から、極微量水分計測素子1の吸水層の吸水量が1ppbレベル台の水分濃度上昇に対しても変化し、電圧が印加された電極で電気分解される水分子の量として、電界電流に反映されることを確認した。
【0022】
(実施例3)
実施例1で作製した極微量水分計測素子1を実施例2の場合と同様に密閉容器内に封入し、容器内部を1×10−4パスカル以下になるまで排気したのち、その状態で電流値がほぼ一定値に集束するまで、電極に10ボルトの電圧を長時間印加し続け、吸水層があらかじめ吸収した水分を十分に電解し脱水を行った。電圧印加を停止し、直後に容器内圧力を2×10−3パスカルまで急増させ、1分間同圧力下に素子を暴露した。再び容器内圧力を1×10−4パスカル以下まで急減したのち、電極に10ボルトの電圧を印加し電流量の時間減衰を測定した。同様な操作と計測を2×10−3パスカルの圧力下に暴露する時間を2分、5分、10分、20分に変えてそれぞれ行った。図7に電流値の時間減衰の暴露時間依存性を、2×10−3パスカル下で暴露をしなかった場合とともに示す。電流量は暴露時間の増加とともに上昇しており、吸水層に吸収された水分が暴露時間に応じて増えていることを確認した。全く暴露を行なわなかった場合にも電界電流の減衰が観測されるが、これは1×10−4パスカル以下の極低水分環境下においても吸水層への吸水が起こるためである。図8には電界電流を時間積分して得られる電荷量と各計測電解時間との関係を示す。同時間で比較した電荷量が暴露時間の長さに応じて大きくなっていることから、極微小水分計測素子1の素子構成により吸水量の変化を電解に要する電荷量として計測できることを確認した。
【0023】
(参照例1)
実施例1と同様に石英基板上にシャドウマスクを介して厚さ50ナノメートルの金を真空蒸着し、40ミクロン間隔で、線幅100ミクロン、長さ2ミリメートル5対の櫛形対向電極を形成した。この電極付基板を極低水分濃度窒素雰囲気のグローブボックス中に設置した容器に入れ、酸化リン(V)を加熱昇華し、電極上に酸化リン(V)の薄膜を形成し水分検出素子1を作製した。形成された酸化リン(V)の薄膜は、針状結晶が集積した性状を呈し、その表面も針状突起が林立する不均一なもので、正確な厚みは測定不能であった。
【0024】
(参照例2)
参照例1で作製した水分計測素子1を実施例2の場合と同様に極低水分濃度窒素雰囲気のグローブボックス内で排気装置および、電圧印加−電流計測器を外部から接続可能な密閉容器内に封入したのち、グローブボックス外に搬出した。この状態から密閉容器内の圧力を1×10−4パスカル未満の一定値になるまで排気装置により減圧したのち、櫛形対向電極に5ボルトの一定電圧を印加した。真空ポンプの排気能力を調整し、容器内部の圧力を段階的に上昇させたときの水分計測素子1の電流値の変化を図9に示す。図5と同様に密閉容器内の微小圧力がすべて残留する水分による蒸気圧によると仮定したときの密閉容器空間内の水分濃度を図9の圧力軸と並列して記載した。実施例1で作製した、均一で平滑性の高い酸化リン(V)の薄膜を吸水層とする極微量水分検出素子1と比較すると、水分濃度換算でppbレベルに相当する容器内圧の変化では出力電流値の変化は観測されず、ppmレベル以上の水分濃度の変化に対して、10×−13アンペア台の電流値の増加を示すに留まった。この結果から、実施例1のように、酸化リン(V)を減圧下で蒸着し、均一かつ平滑性の高い薄膜として吸水層を形成した場合に、極微量水分に対する感度が向上することを確認した。
【0025】
なお、本発明は、以上の実施例に限定されることなく、本発明の技術範囲にしたがって種々の設計変更をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の極微量水分検出素子は、EL素子等の湿度を嫌う嫌湿性物体の置かれた環境等における極微量水分の計測に利用することができる。また、本発明の極微量水分検出素子は、EL素子等の嫌湿性物体を周囲の湿分から守る封止層、シール層等の防湿封止性能の計測、評価に用いることができる。
【符号の説明】
【0027】
110 基板
120 対電極
130 吸水層
200 極微量水分計測素子
210 封止層
300 有機EL素子
310 下部電極
320 有機EL活性層
330 上部電極
340 薄膜絶縁層
410 シール剤
420 ガラス板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成した一対又は複数対の対電極と、前記対電極に接触して形成された吸水性物質の吸水層とを含む極微量水分検出素子であって、前記吸水層は、厚さが10〜600ナノメートルの薄膜状であり、前記対電極間には、前記吸水層に吸収された極微量水分を電気分解する電圧が印加されるように構成されたことを特徴とする極微量水分検出素子。
【請求項2】
前記吸水層が酸化リン(V)の蒸着薄膜であることを特徴とする請求項1に記載の極微量水分検出素子。
【請求項3】
基板上に形成した一対又は複数対の対電極と、前記対電極に接触して形成された吸水性物質の吸水層とを含む極微量水分検出装置であって、前記吸水層は、厚さが10〜600ナノメートルの薄膜状であり、吸水層の周囲に存在する極微量水分を吸水層で吸収し、それを対電極間に電圧を印加して電気分解することにより、極微量水分を検出、定量するよう構成されたことを特徴とする極微量水分検出装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の極微量水分検出素子上に、吸水層を覆う防湿性材料からなる封止層を形成し、前記極微量水分検出素子により極微量水分を検出、定量することによって、前記封止層の防湿封止性能を評価する防湿封止性能評価方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の極微量水分検出素子の吸水層と、防湿封止が必要な電子素子とを共に封止する防湿封止層を形成し、前記極微量水分検出素子により極微量水分を検出、定量することによって、前記防湿封止層の防湿封止性能を評価する防湿封止性能評価方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の極微量水分検出素子の基板に前記吸水層を囲むシール剤を塗布し、シール剤で囲まれた空間を水分バリア性材料のシートでキャップして前記吸水層を封止し、前記極微量水分検出素子により極微量水分を検出、定量することによって、前記シール剤の防湿封止性能を評価する防湿封止性能評価方法。
【請求項7】
極微量水分検出装置の対電極を複数対とし、対電極の分布に応じた防湿封止性能分布を評価する請求項4〜6のいずれかに記載の防湿封止性能評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−128091(P2011−128091A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288691(P2009−288691)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「次世代大型有機ELディスプレイ基盤技術の開発(グリーンITプロジェクト)」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】