説明

極細同軸ケーブルおよびその製造方法

【課題】本発明の目的は、前記した従来技術の欠点を解消し、非常に簡便で環境負荷の少ない方法で絶縁被覆層と薄膜シールド層の密着性を改善し、優れた耐屈曲性を有する極細同軸線を製造することにある。
【解決手段】本発明は、酸化銀微粒子分散ペーストを加熱・焼成することで銀膜化し、同時に絶縁被覆層の表面を粗化することにある。中心導体の外周に絶縁被覆層と銀シールド層を有する極細同軸ケーブルにおいて、極細同軸ケーブル断面における前記絶縁被覆層表面の十点平均粗さRzが0.1μm以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属微粒子焼結体によるシールド層を有する極細同軸ケーブルに関するものである。特に酸化銀微粒子分散ペーストを加熱・焼成して銀膜化し、同時に絶縁被覆層の表面を粗化した極細同軸ケーブルとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療機器や携帯電話用として極細同軸ケーブルが広く用いられている。既存の極細同軸ケーブルの構造を図1に示す。金属細線を撚り合わせた中心導体1の外周にフッ素系樹脂押出しによる絶縁被覆層2,金属細線横巻きによるシールド層3,フッ素系樹脂押出しによるジャケット層4が形成されている。医療機器用プローブは極細同軸ケーブルが数10〜数100本束ねられた構造をしており、次世代製品ではケーブル取扱性や伝送特性向上のニーズがある。ケーブル取扱性の改善方法としてプローブケーブルの細径軽量化が求められるが、そのためには極細同軸ケーブルの細径化、特にシールド層の薄肉化が有効である。しかしながら、一般的に用いられる金属細線横巻きによるシールド層形成方法では細線径が細くなるほど伸線加工が難しく、シールド層横巻き時に細線が破断しやすくなるという問題がある。
【0003】
そこで、シールド層の薄肉化を進めるために、図2に示す薄膜シールド層を有する極細同軸ケーブルが検討されている。例えば、特許文献1ではめっき法を用いた薄膜シールド層形成方法が提案されており、絶縁被覆層2の表面に無電解めっき層5を、さらにその表面に電解めっき層6を形成している。また、特許文献2では金属微粒子を用いた薄膜シールド層形成方法を提案しており、ここでは170〜230℃という非常に低温で焼結する金属ナノ粒子の特性を活用している。他にもスパッタによるシールド層形成方法なども提案されているが、これらの薄膜シールド層を有する極細同軸線を製造する上では、特に絶縁被覆層と薄膜シールド層の密着性改善が重要になる。これはフッ素系樹脂絶縁被覆層と薄膜シールド層の密着が悪く、極細同軸ケーブルの耐屈曲性が小さくなるためである。
【0004】
密着性改善方法としては絶縁被覆層の表面処理が効果的であり、特許文献1では金属ナトリウム−ナフタレン錯体溶液浸漬処理やプラズマ処理を用いてフッ素系樹脂の表面を活性化する方法が提案されている。しかしながら、環境性や処理条件の最適化に課題があり、さらにいずれの方法を導入したとしても、シールド層形成の事前工程として絶縁被覆層の表面処理を行う必要があるため、製造工程や段取り作業が増加することで高コスト化の要因となる。
【0005】
そこで、本発明では非常に簡便で環境負荷が少なく、さらにフッ素系樹脂被覆層と高密着が得られるシールド層の製造方法を見出した。具体的には、還元剤を含有した酸化銀微粒子分散ペーストを用いることで、銀シールド層を形成すると同時に、フッ素系樹脂被覆層の表面を粗化する。
【0006】
還元剤を含有した金属酸化物微粒子分散ペーストについては特許文献3や特許文献4で開示されている。特に酸化銀は200℃以下の低温加熱でも大きな発熱反応を伴いながら還元され、この発熱が銀微粒子の融着を促進することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−187847号公報
【特許文献2】特開2006−294528号公報
【特許文献3】特開昭59−173206号公報
【特許文献4】特許第3949658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の酸化銀微粒子分散ペーストは低温で還元され、さらに焼結できる特徴を活かし、耐熱温度の低いプラスチックフィルム等に高伝導性の導電膜を形成する目的で開発された。より低温で高い導電性を得るため、そしてペースト塗布性を改善するためにペースト組成の最適化が行われたが、基材との密着性を向上する方法としては、基板の表面処理やプライマ層の形成、ペーストへのバインダ添加など旧来の対策が用いられている。
【0009】
すなわち、基材との密着性向上のために酸化銀還元時の発熱を積極的に使用した事例は数少ない。したがって、ペーストの酸化銀還元時の発熱反応により、フッ素系樹脂被覆層の表面を粗化する条件を明らかにする必要がある。
【0010】
本発明の目的は、前記した従来技術の欠点を解消し、非常に簡便で環境負荷の少ない方法で絶縁被覆層と薄膜シールド層の密着性を改善し、優れた耐屈曲性を有する極細同軸線を製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は、酸化銀微粒子分散ペーストを加熱・焼成することで銀膜化し、同時に絶縁被覆層の表面を粗化することにある。
【0012】
本発明の極細同軸ケーブルは、中心導体の外周に絶縁被覆層と銀シールド層を有し、極細同軸ケーブル断面における前記絶縁被覆層表面の十点平均粗さRzを0.1μm以上、好ましくは0.3μm以上としたものである。
【0013】
シールド層の膜厚は3μm以上とすることが好ましい。また、シールド層は、絶縁被覆線の表面に酸化銀微粒子分散ペーストを塗布・加熱し、銀膜化して形成されていることが好ましい。
【0014】
本発明の極細同軸ケーブルの製造方法は、酸化銀微粒子分散ペーストをダイスに満たし、前記中心導体の外周に前記絶縁被覆層が形成された絶縁被覆線を通過させた後に管状加熱炉によって加熱してシールド層を形成する工程を備え、前記管状加熱炉が酸化銀微粒子の還元温度より10℃以上低温に温度設定されたプリベーク炉と、酸化銀微粒子の還元温度より高温に温度設定された焼成炉の2種類からなることを特徴とする。
【0015】
酸化銀微粒子分散ペーストは、酸化銀微粒子,還元剤および分散媒から構成されることが好ましい。また、酸化銀微粒子分散ペーストには還元性分散媒,有機銀化合物を含有してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果は、銀微粒子焼結体によるシールド層を形成すると同時に、絶縁被覆層の表面を粗化することで、非常に簡便な方法でシールド層と絶縁被覆層に高い密着性を有する極細同軸ケーブルを製造することにある。
【0017】
また、本発明を用いれば、一次被覆線の絶縁被覆層形成から、シールド層形成,ジャケット層形成までの製造工程を1ライン化することができるため、高効率で低コストな製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来の極細同軸ケーブルの構造を示す断面図である。
【図2】金属微粒子を焼結してシールド層を形成した極細同軸ケーブルの構造を示す断面図である。
【図3】第一の実施例におけるシールド層形成ラインの概略図である。
【図4】第一の実施例におけるシールド層形成後のケーブル断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の極細同軸ケーブルは、図3の銀シールド層被覆線断面に示すように、中心導体105の外周に絶縁被覆層106と銀シールド層107で構成されており、極細同軸ケーブル断面における前記絶縁被覆層表面の十点平均粗さRzを0.1μm以上、好ましくは0.3μm以上としたものである。
【0020】
極細同軸ケーブルの銀シールド層107は絶縁被覆層106の表面に還元剤を含む酸化銀微粒子分散ペーストを塗布し、加熱・焼成することにより得られる。酸化銀粒子は還元剤の存在下では200℃以下の低温で還元反応が起こり、銀微粒子が生成され、銀微粒子同士の焼結により焼結層が形成される。本発明はこの現象を利用して銀シールド層を形成するものである。
【0021】
極細同軸ケーブルの製造方法の具体例としては、酸化銀微粒子分散ペーストをダイスに満たし、中心導体の外周に絶縁被覆層が形成された絶縁被覆線を通過させた後に管状加熱炉によって加熱して銀シールド層を形成する。ここで、管状加熱炉は酸化銀微粒子の還元温度より10℃以上低温に温度設定されたプリベーク炉と、酸化銀微粒子の還元温度より高温に温度設定された焼成炉の2種類を備えることが好ましい。
【0022】
酸化銀微粒子分散ペーストは、酸化銀微粒子,還元剤および分散媒から構成される。酸化銀微粒子の平均粒子径は1nmから50μmとすることが好ましい。平均粒子径が50μmよりも大きくなると加熱時に銀微粒子が作製されにくくなり、緻密な焼結層を得ることが困難となる。また、平均粒子径が1nmよりも小さい酸化銀粒子を作製することは困難であり、平均粒子径は1nm以上とする。なお、酸化銀粒子の作製,取扱い性,長期保存性の観点からは平均粒子径が1から50μmのものを使用することが好ましい。
【0023】
還元剤としては、アルコール類,カルボン酸類,アミン類から選ばれる1種以上の混合物を用いることができる。
【0024】
利用可能なアルコール基を含む化合物としては、アルキルアルコールが挙げられ、例えば、エタノール,プロパノール,ブチルアルコール,ペンチルアルコール,ヘキシルアルコール,ヘプチルアルコール,オクチルアルコール,ノニルアルコール,デシルルコール,ウンデシルアルコール,ドデシルアルコール,トリデシルアルコール,テトラデシルアルコール,ペンタデシルアルコール,ヘキサデシルアルコール,ヘプタデシルアルコール,オクタデシルアルコール,ノナデシルアルコール,イコシルアルコール、がある。さらには1級アルコール型に限らず、2級アルコール型,3級アルコール型、及びアルカンジオール,環状型の構造を有するアルコール化合物を用いることが可能である。それ以外にも、エチレングリコール,トリエチレングリコールなど多数のアルコール基を有する化合物を用いてもよく、また、クエン酸,アスコルビン酸,グルコースなどの化合物を用いてもよい。
【0025】
また、利用可能なカルボン酸を含む化合物としてアルキルカルボン酸がある。具体例と
しては、ブタン酸,ペンタン酸,ヘキサン酸,ヘプタン酸,オクタン酸,ノナン酸,デカ
ン酸,ウンデカン酸,ドデカン酸,トリデカン酸,テトラデカン酸,ペンタデカン酸,ヘ
キサデカン酸,ヘプタデカン酸,オクタデカン酸,ノナデカン酸,イコサン酸が挙げられ
る。また、上記アミノ基と同様に1級カルボン酸型に限らず、2級カルボン酸型,3級カ
ルボン酸型、及びジカルボン酸,環状型の構造を有するカルボキシル化合物を用いること
が可能である。
【0026】
また、利用可能なアミノ基を含む化合物としてアルキルアミンを挙げることができる。例えば、ブチルアミン,ペンチルアミン,ヘキシルアミン,ヘプチルアミン,オクチルアミン,ノニルアミン,デシルアミン,ウンデシルアミン,ドデシルアミン,トリデシルアミン,テトラデシルアミン,ペンタデシルアミン,ヘキサデシルアミン,ヘプタデシルアミン,オクタデシルアミン,ノナデシルアミン,イコデシルアミンがある。また、アミノ基を有する化合物としては分岐構造を有していてもよく、そのような例としては、2−エチルヘキシルアミン,1,5ジメチルヘキシルアミンなどがある。また、1級アミン型に限らず、2級アミン型,3級アミン型を用いることも可能である。さらにこのような有機物としては環状の形状を有していてもよい。
【0027】
また、還元剤は上記アルコール,カルボン酸,アミンを含む有機物に限らず、アルデヒド基やエステル基,スルファニル基,ケトン基などを含む有機物、あるいはカルボン酸金属塩などの有機物を含有する化合物を用いても良い。
【0028】
ここで、エチレングリコール,トリエチレングリコール等の20〜30℃において液体である還元剤は、酸化銀(Ag2O)などと混ぜて放置すると一日後には銀に還元されてしまうため、混合後はすぐに用いる必要がある。一方、20〜30℃の温度範囲において固体であるミリスチルアルコール,ラウリルアミン,アスコルビン酸等は金属酸化物等と1ヵ月ほど放置しておいても大きくは反応が進まないため、保存性に優れており、混合後に長期間保管する場合にはこれらを用いることが好ましい。また、用いる還元剤は金属酸化物等を還元させた後には、精製された100nm以下の粒子径を有する金属粒子の保護膜として働くために、ある程度の炭素数があることが望ましい。
【0029】
分散媒としては、水,ヘキサン,テトラヒドロフラン,トルエン,シクロヘキサンなどを用いることができる。また、酸化銀の還元作用を有するメタノール,エタノール,プロパノール,エチレングリコール,トリエチレングリコール,テルピネオールのアルコール類等の還元性分散媒を用いてもよい。還元性分散媒を用いることで還元温度の低温化や還元時間の短縮化を図ることができる。強い還元作用を持つ還元性分散媒を使用する場合には上述した還元剤を省略することも可能である。なお、還元性分散媒を用いる場合には使用直前に混合することが好ましい。
【0030】
また、酸化銀微粒子分散ペーストには有機銀化合物を添加してもよい。有機銀化合物により、酸化銀の還元時の体積収縮に起因する焼結層の隙間を埋めることができ、より緻密な焼結層を得ることができる。このような有機銀化合物としては、酢酸銀や炭酸銀など挙げられる。また、酢酸銀や炭酸銀の他、表面をカルボン酸類,アルコール類,アミン類などの有機分で被覆した銀微粒子を用いることでも同様の効果を期待できる。
【0031】
以下、本発明の実施形態を実施例により説明する。
【0032】
(実施例1)
本発明のシールド層形成方法を図3に示す。送出機101から送り出された絶縁被覆線は酸化銀微粒子,還元剤および分散媒からなる酸化銀微粒子分散ペーストで満たされたダイス102を通過し、絶縁被覆層表面に酸化銀微粒子分散ペーストが塗布される。絶縁被覆線は外径約120μmであり、外径φ16μmの銀めっき銅芯線を7本撚り合わせた中心導体105の外周にテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)からなるPFA絶縁被覆層106が被覆されている。PFA絶縁被覆層106の表面は非常に平滑であり、PFA絶縁被覆層106表面の十点平均粗さRzは0.1μm未満であった。
【0033】
本実施例で使用した酸化銀微粒子分散ペーストの粘度は1Pa・sであり、酸化銀微粒子の平均粒子径は1μmである。還元剤にはミリスチルアルコールを使用し、分散媒にはジエチレングリコールモノブチルエーテルを使用した。熱重量/示差熱分析による酸化銀微粒子の還元温度(酸化銀微粒子還元時の発熱ピーク温度)は180℃であった。
【0034】
ダイス直後には管状電気炉103が設置されており、酸化銀微粒子分散ペーストを焼成する。本管状電気炉は長さ9mで1m毎に温度を設定でき、電気炉温度として管状電気炉の中心軸から1cm離れた位置の大気雰囲気温度を、入り口部から0.5m〜8.5mまで1m毎に9ヶ所測定している。本実施例では最初の4mを酸化銀の還元温度よりも低温の150℃に設定し、残り5mを280℃に設定した。始めの4mは溶媒を飛ばすためのプリベーク工程であり、この工程を通過した後の分散媒残留量は被覆の2wt%であった。後の5mは焼成工程であり、高温で加熱することで酸化銀が還元され、銀微粒子が焼結する。この焼結により、PFA絶縁被覆層106の表面に銀薄膜シールド層107が形成される。ライン最終部には引取機および巻取機104が設置され、引取速度の制御とボビン巻取りが行われる。本実施例では引取速度を20m/minとした。
【0035】
本実施例により得られた銀薄膜シールド層は膜厚10μm,比抵抗5μΩ・cmであり、PFA絶縁被覆層と銀薄膜シールド層の間には高い密着性が得られた。製造した極細同軸ケーブル断面を観察したところ、図4に示すようにPFA絶縁被覆層表面が粗化されていた。銀薄膜シールド層を除去後に測定したPFA絶縁被覆層表面の十点平均粗さRzは1μmであった。
【0036】
次に、絶縁被覆層表面の十点平均粗さRzと密着性の関係を評価した結果を説明する。
【0037】
プリベーク炉通過後にペースト分散媒が多く残留していると、焼成工程で酸化銀還元時の発熱が分散媒の蒸発に奪われてしまい、PFA絶縁被覆層の表面が粗化されないことが分かった。そこで平均粒子径1μmの酸化銀微粒子分散ペーストを用いて、分散媒の残留量と密着性の関係を検討した。
【0038】
まず始めにプリベーク炉(長さ4m,設定温度150℃)のみを駆動し、引取速度を10m/min〜40m/minに変えて酸化銀微粒子で被覆されたケーブルを試作した。さらに、この被覆をケーブルから剥がして熱重量分析を行い、分散媒の残留量を測定した。続いて、プリベーク炉と焼成炉の両方を駆動させ、引取速度を10m/min〜40m/min変えて銀被覆されたケーブルを試作し、PFA絶縁被覆層との密着性を評価した。ここではクラックを入れた試作シールド層に対してセロハンテープ(粘着力4N/10mm)で引き剥がし試験を行い、剥離の有無で密着性を判定した。その結果、表1に示すように分散媒残留量が3wt%以下の時、高い密着性が得られることが分かった。
【0039】
そこで、試作した極細同軸ケーブルの銀薄膜シールド層をエッチングで除去し、PFA絶縁被覆層表面の十点平均粗さRzを測定した。その結果、Rzが0.3μm以上のときに高い密着性が得られることが分かった。
【0040】
【表1】

【0041】
次に、プリベーク炉温度と密着性の関係について評価した結果を説明する。平均粒子径1μmの酸化銀微粒子分散ペーストを用い、プリベーク炉温度を変えてシールド層試作を行い、PFA絶縁被覆層との密着性を評価した。その結果、表2に示すようにプリベーク炉温度を酸化銀微粒子の還元温度よりも10℃以上低くすることで密着性が得られた。一方でプリベーク炉温度が還元温度よりも高いと、酸化銀還元時の発熱が溶媒の蒸発に奪われてしまうため、PFA絶縁被覆層の表面を粗化できなかった。
【0042】
【表2】

【0043】
次に、シールド層の膜厚と密着性の関係について評価した結果を説明する。平均粒子径1μmの酸化銀微粒子分散ペーストを用い、ダイス径を変えて厚さの異なるシールド層を試作した。製造条件はプリベーク温度150℃,焼成温度280℃,引取速度20m/minとした。その結果、表3に示すように膜厚が2μm以下の時、PFA絶縁被覆層との密着性が得られなかった。これは膜厚が薄いと放熱による影響が大きくなるためだと考えられる。
【0044】
【表3】

【0045】
(実施例2)
本発明における第2の実施例では、還元性分散媒を含有する酸化銀微粒子分散ペーストを用いてシールド層を形成した。本実施例では酸化銀微粒子分散ペーストとして、平均粒子径1μmの酸化銀粒子、還元剤としてステアリン酸、還元性分散媒としてエチレングリコールを用いた。送出機で送り出されたPFA絶縁被覆線に還元性分散媒を含有する酸化銀微粒子分散ペーストを塗布し、直後の管状電気炉(9m)で焼成した。酸化銀微粒子分散ペーストの粘度は0.5Pa・sである。熱重量/示差熱分析による酸化銀微粒子の還元温度(酸化銀微粒子還元時の発熱ピーク温度)は160℃であった。そこで管状電気炉の最初の4mを酸化銀の還元温度よりも低温の130℃、残り5mを280℃に設定した。また、引取速度を40m/minとした。
【0046】
本実施例により得られた銀薄膜シールド層は膜厚7μm,比抵抗5.5μΩ・cmであった。さらにセロハンテープ(粘着力4N/10mm)による引き剥がし試験で剥離はなかった。この結果から、還元性分散媒を含有することで、酸化銀微粒子をより短時間で還元して引取速度を高速化できるとともに、PFA絶縁被覆層表面の粗化により銀薄膜シールド層との間には高い密着性が得られることが分かった。
【0047】
本実施例の還元性分散媒を含有する酸化銀微粒子分散ペーストを用いることより、酸化銀微粒子をより短時間で還元することができた。
【0048】
還元性分散媒としては還元作用を持つエタノールやエチレングリコール,テルピネオール等のアルコール類やトリエチルアミン,オクチルアミンなどのアミン類を用いることができる。なお、エチレングリコールの様な強い還元作用を持つ分散媒については、常温でも酸化銀の還元が進みやすいため、使用直前に混合することが望ましい。
【0049】
(実施例3)
本発明における第3の実施例では、有機銀化合物を含有する酸化銀微粒子分散ペーストを用いてシールド層を形成した。本実施例では酸化銀微粒子分散ペーストとして、平均粒子径1μmの酸化銀粒子、有機銀化合物として酢酸銀、還元性分散媒としてエチレングリコールを用いた。なお、酢酸銀およびエチレングリコールが還元作用を有しているため、他の還元作用を有する成分(還元剤)は使用していない。送出機で送り出されたPFA絶縁被覆線に還元性分散媒を含有する酸化銀微粒子分散ペーストを塗布し、直後の管状電気炉(9m)で焼成した。酸化銀微粒子分散ペーストの粘度は1.0Pa・sであり、酸化銀微粒子の平均粒子径は1μmである。熱重量/示差熱分析による酸化銀微粒子の還元温度(酸化銀微粒子還元時の発熱ピーク温度)は200℃であった。そこで管状電気炉の最初の4mを酸化銀の還元温度よりも低温の170℃、残り5mを280℃に設定した。また、引取速度を15m/minとした。本実施例により得られた銀薄膜シールド層は膜厚9.5μm,比抵抗4.0μΩ・cmであった。また、PFA絶縁被覆層表面の粗化により銀薄膜シールド層との間に高い密着性が得られ、引き剥がし試験における剥離はなかった。この結果から有機銀化合物を含有することで引取速度を多少低速にする必要があるが、酸化銀微粒子の還元時の発熱によるPFA絶縁被覆層表面の粗化だけでなく、銀薄膜シールド層の緻密下と低比抵抗化が可能となることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体の外周に絶縁被覆層と銀シールド層を有する極細同軸ケーブルにおいて、
極細同軸ケーブル断面における前記絶縁被覆層表面の十点平均粗さRzが0.1μm以上であることを特徴とする極細同軸ケーブル。
【請求項2】
極細同軸ケーブル断面における前記絶縁被覆層表面の十点平均粗さRzが0.3μm以上である請求項1に記載の極細同軸ケーブル。
【請求項3】
前記シールド層の膜厚が3μm以上である請求項1又は2に記載の極細同軸ケーブル。
【請求項4】
前記シールド層が、前記絶縁被覆線の表面に酸化銀微粒子分散ペーストを塗布・加熱し、銀膜化して形成された請求項1〜3のいずれかに記載の極細同軸ケーブル。
【請求項5】
中心導体の外周に絶縁被覆層と銀シールド層を有する極細同軸ケーブルの製造方法において、
酸化銀微粒子分散ペーストをダイスに満たし、前記中心導体の外周に前記絶縁被覆層が形成された絶縁被覆線を通過させた後に管状加熱炉によって加熱してシールド層を形成する工程を備え、
前記管状加熱炉が酸化銀微粒子の還元温度より10℃以上低温に温度設定されたプリベーク炉と、酸化銀微粒子の還元温度より高温に温度設定された焼成炉の2種類からなることを特徴とする極細同軸ケーブルの製造方法。
【請求項6】
前記酸化銀微粒子分散ペーストが酸化銀微粒子,還元剤および分散媒から構成される請求項5に記載の極細同軸ケーブルの製造方法。
【請求項7】
前記酸化銀微粒子分散ペーストが還元性分散媒を含有する請求項5に記載の極細同軸ケーブルの製造方法。
【請求項8】
前記酸化銀微粒子分散ペーストが有機銀化合物を含有する酸化銀微粒子ペーストである請求項5に記載の極細同軸ケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−228146(P2011−228146A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97481(P2010−97481)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】