説明

極細繊維及び該極細繊維を含むワイピングクロス

【課題】ワイピングクロスの構成成分として使用された際に、拭き取り性、高吸収性等の極細繊維特有の高性能を維持しつつ、摩擦による単糸切れを防ぐことで自己発塵性の抑制に優れた極細繊維を提供する。
【解決手段】海島型複合繊維の海成分を溶出処理することによって得られる、平均単糸繊径が1000nmを越え、2500nm以下、平均単糸繊径のばらつきCV%が0〜25%、単糸強力が0.04cN以上である極細繊維。極細繊維を構成する主成分がポリエステルであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、充分な単糸強力を有し、自己発塵性の抑制に優れていて、拭き取り性および捕塵性に極めて優れたワイピングクロスが製造可能な極細繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、衣料用布帛やワイピングクロス、研磨布、フィルター、人工皮革などの産業用資材には、高摩擦、高表面積、高密度、柔軟性を発現させる為に極細繊維が用いられてきた。
極細繊維の素材としては、汎用的にはナイロン6やナイロン66などのポリアミドや、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルが用いられている。しかし、衣料用、産業用共に、極細繊維ゆえに摩擦等により外部から力が加わることで、単糸切れが発生し、自己発塵性が高いという欠点がある。
【0003】
今日、極細繊維は、ICや半導体の製造工場やクリーンルームなどの産業分野用のワイピング製品で用いられているが、近年の精密性の高度化により、より微小な塵、埃、油などの拭き取り性および捕塵性が要求されている。
しかし、従来の極細繊維を使用した布帛では、近年要求されているレベルに対して性能不足であることが否めない。
【0004】
例えば、特許文献1には、ポリエステル極細繊維を得る方法として海島繊維1フィラメント当たり100島以上の島数を有する海島複合繊維とすることが提案されている。本方法により得られたポリエチレンテレフタレート極細繊維は、摩擦により糸切れが発生し、ワイピングクロス等のクリーン度が求められる用途では展開が困難である。この問題は、単糸繊径が10〜1000nmと細く、単糸強力が弱いことに起因している。
【0005】
特許文献2には、ナノファイバーを得る方法としてポリマーアロイ繊維とすることが提案されている。本方法により得られたポリフェニレンスルフィド・ナノファイバーは、平均繊維径が1500nm以下だが、繊維径にばらつきがあり、100nm以下のナノファイバーもあるため、糸切れやナノファイバー自体の脱落がおこる。
【0006】
特許文献3には、分割型の複合繊維を割繊することにより得られた極細繊維が提案されている。得られた極細繊維は、充分な強度を有しているため、単糸切れや繊維の脱落による自己発塵性が抑制される。しかし、単糸繊度が0.02〜0.5dtexで、単糸繊度や形状が不均一であり、近年要求されるレベルが高くなったことで、更なる性能向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2005/095686号パンフレット
【特許文献2】特開2006−265770号公報
【特許文献3】特開2006−322131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ワイピングクロスの構成成分として使用された際に、拭き取り性、高吸収性等の極細繊維特有の高性能を維持しつつ、摩擦による単糸切れを防ぐことで自己発塵性の抑制に優れた極細繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、このような問題を解決するため検討した結果、海島型複合繊維において、海ポリマー減量後に得られる極細繊維の単糸繊径、繊維径のばらつきを制御し、極細繊維の単糸強力を高めることにより上記目的が達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明によれば、
海島型複合繊維の海成分を溶出処理することによって得られる、平均単糸繊径が1000nmを越え、2500nm以下、平均単糸繊径のばらつきCV%が0〜25%、単糸強力が0.04cN以上であることを特徴とする極細繊維、
及び、
上記、極細繊維を含むことを特徴とするワイピングクロスが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ワイピングクロスの構成成分として使用された際に、拭き取り性、高吸収性といった極細繊維特有の性能を維持しつつ、摩擦による単糸切れを防ぐことで、自己発塵性の抑制に優れた極細繊維を提供できる。
該極細繊維は、特に、ピリング特性が要求されるインナー、アウター、スポーツをはじめとする衣料、および、クリーン度が要求されるワイピングクロスをはじめとする産業資材などの多くの用途に利用可能である。特に、産業用途での精密性の高度化により、より微小な塵、埃、油などの拭き取り性および捕塵性が要求される、ICや半導体の製造工場やクリーンルームなどのワイピング製品に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の極細繊維について詳述する。
本発明の極細繊維は、海島型複合繊維の海成分を溶出処理することによって得られる。
その際の海成分ポリマーとしては、島成分ポリマーよりも溶解性が高い組合せである限り、適宜選定できるが、特に溶解速度比(海/島)が200以上であることが好ましい。この溶解速度比が200未満の場合には、繊維断面中央部の海成分を溶解させている間に繊維断面表層部の島成分の一部も溶解されるため、海成分を完全に溶解除去するためには、島成分も減量されてしまうことになり、島成分の太さ斑や溶剤浸食による強度劣化が発生して、発塵の原因となり好ましくない。
【0013】
上記溶解速度比は、海成分及び島成分のポリマーを単独で製糸し、海成分を溶解減量可能な溶剤を用いて、それぞれの溶解減量速度を算出することにより求めることができる。例えば、海成分、島成分を各々、溶融し孔径0.3mm、長さ0.6mmの吐出孔を36個有する口金から吐出し、所定の紡糸速度で引き取り、この糸を、海ポリマーを溶解減量可能な所定の溶剤及び温度で浴比100として溶解し、その際の溶解時間と溶解量から溶解速度を算出する。
【0014】
海成分を構成するポリマーとしては、特に繊維形成性の良いポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンを好ましい例としてあげることができる。ポリアミド類は脂肪族ポリアミド類が好ましい。更に具体例を挙げれば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとして、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリオキシアルキレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合ポリエステルが最適である。
しかし、共重合成分はこれらのみに限定されるわけではなく、これらを共重合した上で更に別の共重合成分が存在していても構わない。
【0015】
ここでアルカリ水溶液とは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム水溶液などを言う。これ以外にも、海成分を構成するポリマーとそれを溶解する溶剤あるいは分解性薬剤の組み合わせとして、ナイロン6やナイロン66等の脂肪族ポリアミドに対するギ酸、ポリスチレンに対するトリクロロエチレン等やポリエチレン(特に高圧法低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレン)に対する熱トルエンやキシレン等の炭化水素系溶剤、ポリビニルアルコールやエチレン変性ビニルアルコール系ポリマーに対する熱水を例として挙げることができる。
【0016】
共重合ポリエステル系ポリマーの中でも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸をポリエステル全酸成分に対して5〜12モル%と、数平均分子量4000〜12000のポリエチレングリコールをポリエステル全重量に対して3〜12重量%共重合させた、固有粘度が0.3〜0.6dL/gのポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。
【0017】
ここで、5−ナトリウムスルホイソフタル酸は、得られる共重合体の親水性と溶融粘度向上に寄与し、ポリエチレングリコール(以下、PEGと表記する場合がある)は得られる共重合体の親水性を向上させる。また、PEGは分子量が大きいほど、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加作用があるが、反応性が悪くなりブレンド系になるため、耐熱性や紡糸安定性の面で問題が生じる可能性がある。また、共重合量が12重量%以上になると、溶融粘度低下作用があるので、好ましくない。以上のことから上記の範囲が適切であると考えられる。
【0018】
島成分となる極細繊維を構成するポリマーは、前述のような海成分との間に、溶解速度の差があればいかなるポリマーであってもよいが、特に繊維形成性に優れた、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどが好適な例として挙げられる。なかでも、ポリエステルの場合、製糸性、極細繊維の物性の観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどが好ましい。
【0019】
該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で、共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物は、酸成分として、例えばイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマー酸、セバシン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸類、グリコール成分としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。
【0020】
かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。
ポリアミドの場合は、溶融紡糸性が良いナイロン6、ナイロン66等の脂肪族ポリアミドが好ましい。
【0021】
一方、微細繊維織物など、産業資材・医療素材・フィルターなどの浄化デバイスに用するためには、水や酸、アルカリに強いポリオレフィンが耐久性の点で好ましい。ポリオレフィンの場合は、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、無水マレイン酸などのビニルモノマーのエチレン共重合体等を好ましい例としてあげることができる。
【0022】
他にはポリスルフォン、ポリイミド、ポリケトン類、ポリアリレートなどを挙げることができる。また、必要に応じて各種の添加剤、例えば、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0023】
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも高いことが好ましい。このような関係がある場合には、海成分の質量比率が40%未満のように低くなっても、島同士が互いに接合したり、或は島成分の大部分が互いに接合した海島型海島型とは異なる断面形状のものを形成することがない。好ましい溶融粘度比(海/島)は、1.1〜2.0であり1.3〜1.5の範囲内にあることがより好ましい。この比が1.1倍未満の場合には、工程の安定性溶融紡糸時に島成分が互いに接合しやすくなり、一方それが2.0倍を越える場合には、粘度差が大きすぎるために紡糸工程の安定性が低下しやすい。
【0024】
さらに、本発明の海島型複合繊維は、その海島複合質量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲内にあることが好ましく、特に30:70〜10:90の範囲内にあることが好ましい。上記範囲内にあれば、島成分間の海成分の厚さを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の極細繊維への転換が容易になる。ここで海成分の割合が40%を越える場合には、海成分の厚さが厚くなりすぎ、一方5%未満の場合には海成分の量が少なくなりすぎて、島間に相互接合が発生しやすくなる。
【0025】
海成分、島成分は別々に溶融し、口金内で海島型に複合し、吐出される。その後、冷却風などによって固化させた後、好ましくは400〜6000m/分の速度、より好ましくは1000〜3000m/分で未延伸繊維として引き取る。紡糸速度は低い方が得られる繊維強度が高くなり好ましいが、400m/分以下では生産性が不十分であり、また、6000m/分以上では紡糸安定性が不良になる。
【0026】
得られた海島型複合繊維の未延伸繊維は、一旦巻き取った後、あるいは、巻き取ることなく引き続いて延伸工程を通した後に巻き取る方法のいずれかの方法で延伸される。延伸温度は60〜90℃、好ましくは70℃〜80℃の予熱ローラー上で予熱し、延伸倍率1.1〜6.0倍、好ましくは1.2〜5.0倍で延伸し、糸温度として120〜180℃、好ましくは130〜160℃で熱セットを実施することが好ましい。スリット型ヒーターであれば180〜220℃が好ましく用いられる。
予熱温度不足の場合には、目的とする高倍率延伸を達成することができなくなり、セット温度が低すぎると、得られる延伸繊維の収縮率が高すぎるため好ましくない。また、セット温度が高すぎると、得られる延伸繊維の物性が著しく低下するため好ましくない。
【0027】
なお、本発明において、特に微細な島成分径を有する海島型複合繊維を高効率で製造するために、通常のいわゆる配向結晶化を伴うネック延伸(配向結晶化延伸)に先立って、繊維構造は変化させないで繊維径のみを微細化する流動延伸工程を採用することも可能である。具体的には、引き取られた複合繊維を60〜100℃、好ましくは60〜80℃の範囲の温水バスに浸漬して均一加熱を施しながら延伸倍率は10〜30倍、供給速度は1〜10m/分、巻取り速度は300m/分以下、特に10〜300m/分の範囲で予備流動延伸を実施することが好ましい。
【0028】
本発明の極細繊維の繊維形態は特に限定されず、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。また、空気混繊または合撚糸または複合仮撚により他のマルチフィラメント糸との複合糸としても良い。
合糸に使用するマルチフィラメント糸において、フィラメント数は特に限定されないが、10〜300本(好ましくは30〜150本)の範囲内であることが好ましい。また、かかるマルチフィラメント糸の繊維形態は特に限定されないが、フラットヤーンであることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0029】
前記マルチフィラメント糸を形成するポリマーは、ポリエステル系ポリマーなど、極細繊維と同等の種類であっても良い。その他のポリマーとしてはステレオコンプレックスポリ乳酸、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。
ポリエステル系ポリマーの場合、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0030】
本発明の極細繊維は、前記海島型複合繊維の海成分を、海ポリマーを溶解減量可能な溶剤を用いて溶解除去することにより、単繊維径が1000〜2500nmの極細繊維とすることが肝要である。
海成分を除去するには、例えば、海成分がポリエステル系ポリマーの場合、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのようなアルカリ金属化合物水溶液で処理することが好ましく、なかでも水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが特に好ましく用いられる。アルカリ水溶液の濃度、処理温度、処理時間は、使用するアルカリ化合物の種類により異なるが、濃度は10〜300g/L、温度は40℃〜180℃、処理時間は2分〜20時間の範囲で行うが好ましい。
【0031】
かくして得られた極細繊維の平均直径は、1000nmを越え、2500nm以下であることが必要である。1000nm以下では極細繊維特有の性能である、拭き取り性、高吸収性は良好であるが、繊径が細くなったことで単糸強力が低くなり、摩擦による単糸切れが発生してしまい、自己発塵性が高くなるため、用途が限定され、例えばクリーン度が要求されるワイピングクロスとして使用することは困難である。一方、2500nmを超えると拭き取り性、高吸収性能が低下し、近年要求されているレベルに対して性能は不足する。
【0032】
さらに、極細繊維の平均単糸繊維径のばらつきCV%は、0〜25%である。CV%が25%を超えると、直径ばらつきが大きく自己発塵性が高くなる。より好ましくは0〜20%、さらに好ましくは0〜15%である。本発明の極細繊維はCV%が小さく、直径のばらつきが少ないことから、繊維の表面積の分布も小さくなり、優れた性能を付与することが可能となる。また海島複合繊維の延伸時に極細繊維の断糸が少なく自己発塵性も向上する。
【0033】
極細繊維の強度は、極細繊維を繊維束として測定した際の引張強度として、1.5〜8.0cN/dtexであることが好ましい。引張り時の強度が1.5cN/dtex以下となると摩擦時の発塵の原因となり、実用に供することが困難となる。また、8.0cN/dtexを超える繊維は、生産工程上伸度とのバランスを考慮すると好ましくない。より好ましい範囲は1.8〜5.5cN/dtである。
また、その破断伸度は10〜80%、より好ましい範囲は、10〜40%である。極細繊維の破断伸度が10%未満、あるいは80%を超える場合は、摩擦時の発塵の原因となり、実用に供することが困難となる。また、沸水中における収縮率は5〜20%であることが好ましい。
【0034】
極細繊維の単糸強力は、極細繊維を繊維束として測定した際の破断時の引張強力を減量後の極細繊維の総フィラメント数(極細繊維束の総島数)で割った値とし、0.04cN以上となることが必要である。単糸強力が0.04cN以下では、摩擦により単糸が切れ、発塵の原因となり、ピリング特性やクリーン度が要求される用途に用いることが困難となる。
【0035】
本発明の極細繊維の用途としては、織物、編物、フェルト、不織布、組み紐状糸、短繊維からなる紡績状糸などの中間製品を挙げることができる。また、これらを用いた、ワイピングクロス、研磨布、フィルター、有害物質除去製品、電池用セパレーターなどの環境・産業資材用途、ジャケット、スカート、パンツ、下着などの衣料、スポーツ衣料、衣料資材、カーペット、ソファー、カーテンなどのインテリア製品、カーシートなどの車輌内装品、化粧品、化粧品マスク、健康用品などの生活用途をあげることが出来る。
【0036】
本発明の極細繊維の用いてワイピングクロスを製造する場合、ワイピングクロスは織物、編物いずれの形態でも良い。製造方法は従来の方法を用いればよく、例えば織物の場合、海島型複合繊維を少なくとも一部に用いて所定のカバーファクターおよび厚みを有する織物を織成した後、前記海島型複合繊維の海成分を公知のアルカリ減量装置を用いてアルカリ水溶液で溶解除去することにより、単繊維径が1000nmを越え、2500nm以下の極細繊維を含む該ワイピングクロスを製造することができる。
【0037】
海成分を除去するには、例えば、海成分がポリエステル系ポリマーの場合、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのようなアルカリ金属化合物水溶液で処理することが好ましく、なかでも水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが特に好ましく用いられる。アルカリ水溶液の濃度、処理温度、処理時間は、使用するアルカリ化合物の種類により異なるが、濃度は10〜300g/L、温度は40℃〜180℃、処理時間は1分〜20時間の範囲で行うが好ましい。
【0038】
前記アルカリ水溶液による溶解除去の前および/または後に、あるいは、前記熱セットの前および/または後に該布帛に染色加工を施してもよい。また、カレンダー加工(加熱加圧加工)やエンボス加工を施してもよい。さらに、常法の起毛加工、撥水加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
かくして得られたワイピングクロスは拭き取り性が高いだけでなく、素材発塵の発生が少ないものとなる。
【実施例】
【0039】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0040】
(1)平均単糸繊維径
海成分溶解除去後の極細繊維の30000倍のTEM観察により、繊維径を求めた。ここで繊維径は膠着していない単糸の繊維径を測定した。ランダムに選択した100本の微細繊維の繊維径データにおいて、平均単糸繊維径rを算出した。
【0041】
(2)平均単糸繊維径のばらつきCV%
平均単糸繊維径を求めるに際し、その標準偏差σを算出し、以下で定義する繊維径変動係数CV%を算出した。
CV%=標準偏差σ/平均単糸繊維径r×100 (%)
【0042】
(3)強伸度、単糸強力
海島複合繊維から筒編みを作成し、アルカリ溶液にて海成分を溶出して極細繊維束を作成した。この極細繊維束を20℃、65%RHの雰囲気下で、引張試験機により、試料長20cm、速度20cm/分の条件で破断時の強力、および伸度を測定した。
測定数は10とし、強力の平均値を平均単糸繊維径から求めた繊度を用いて算出し、強度(cN/dtex)とした。破断時の強力を減量後の総フィラメント数(極細繊維束の総島数)で割った値を単糸強力とする。
【0043】
(4)自己発塵性
得られた極細繊維を用いて作成した布帛について、拭き取り試験を実施した。鏡面上に布帛を置き、荷重2kgを載せ、拭き取り時に鏡面に切断し、付着した繊維毛羽を顕微鏡で観察し、毛羽数をカウントした。
【0044】
(5)拭き取り性能
得られたワイピングクロスについて、財団法人 日本化学繊維検査協会の拭き取り性能試験(特開2007−40792参照)を実施した。
【0045】
実施例1
島成分として固有粘度0.64dL/gのポリエチレンテレフタレート、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸9モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール3重量%を共重合した固有粘度0.39dL/gのポリエチレンテレフタレートを用い、別々に溶融後、複合口金内で合流させ、重量比で海:島=30:70、島数=90の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度290℃、紡糸速度1000m/分で溶融紡糸し、巻き取った。
得られた未延伸糸を、延伸温度90℃、延伸倍率4.1倍でローラー延伸し、次いで180℃の非接触型ヒーターで熱セットして巻き取り、海島型複合延伸糸を得た。延伸工程においても毛羽や断糸の発生はなく、全ての未延伸糸は問題なく延伸可能であった。
得られた海島型複合延伸糸は56dtex/27filであり、筒編みを作成し、55℃、2.5g/lのアルカリ溶液中で減量処理したところ、海成分のみが溶出されており、島成分の平均繊維径は1300nm、CV%は12%、強度は4.7cN/dtex、伸度は34%、単糸強力0.08cNであった。
次いで、該海島複合延伸糸と高熱収縮性のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸33dtex/12filとを引き揃えて、インターレース加工により複合糸を得た。
この複合糸を300回/m(Z方向)にて撚糸し、緯糸に全量配し、ポリエステルマルチフィラメント糸84dtex/72filを300回/m(Z方向)にて撚糸し、経糸に全量配し、経密度220本/2.54cm、緯密度150本/2.54cmの織密度にて、通常の製織方法により4/1のサテン組織の織物生機を得た。
次いで、該織物を50℃にて湿熱処理した後、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、55℃にて13.2%減量(アルカリ減量)した。その後、常法の湿熱加工、乾熱加工を行い、布帛を得た。
海島型複合繊維から溶出して得られた極細繊維の物性、および極細繊維を用いた布帛の性能を表1に示す。自己発塵性、拭き取り性能共に、良好であった。
【0046】
実施例2
実施例1と同様のポリマーを用い、別々に溶融後、複合口金内で合流させ、重量比で海:島=30:70、島数=25の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度290℃、紡糸速度1000m/分で溶融紡糸し、巻き取った。
得られた未延伸糸を、延伸温度90℃、延伸倍率4.1倍でローラー延伸し、次いで180℃の非接触型ヒーターで熱セットして巻き取り、海島型複合延伸糸を得た。延伸工程においても毛羽や断糸の発生はなく、全ての未延伸糸は問題なく延伸可能であった。
得られた海島型複合延伸糸は56dtex/36filであり、筒編みを作成し、55℃、2.5g/lのアルカリ溶液中で減量処理したところ、海成分のみが溶出されており、島成分の平均繊維径は2100nm、CV%は15%、強度は5.1cN/dtex、伸度は38%、単糸強力0.23cNであった。
次いで、実施例1と同様の方法で、極細繊維を用いた布帛を得た。海島型複合繊維から溶出して得られた極細繊維の物性、および極細繊維を用いた布帛の性能を合わせて表1に示す。自己発塵性、拭き取り性能共に、良好であった。
【0047】
比較例1
実施例1と同様のポリマーを用い、別々に溶融後、複合口金内で合流させ、重量比で海:島=30:70、島数=900の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度290℃、紡糸速度1000m/分で溶融紡糸し、巻き取った。
得られた未延伸糸を、延伸温度90℃、延伸倍率4.1倍でローラー延伸し、次いで180℃の非接触型ヒーターで熱セットして巻き取り、海島型複合延伸糸を得た。延伸工程においても毛羽や断糸の発生はなく、全ての未延伸糸は問題なく延伸可能であった。
得られた海島型複合延伸糸は56dtex/10filであり、筒編みを作成し、55℃、2.5g/lのアルカリ溶液中で減量処理したところ、海成分のみが溶出されており、島成分の平均繊維径は700nm、CV%は10%、強度は3.9cN/dtex、伸度は28%、単糸強力0.02cNであった。
次いで、実施例1と同様の方法で、極細繊維を用いた布帛を得た。海島型複合繊維から溶出して得られた極細繊維の物性、および極細繊維を用いた布帛の性能を合わせて表1に示す。拭き取り性能は良好であったが、自己発塵性は鏡面上に繊維毛羽の付着が多数見られた。
【0048】
比較例2
放射状のNy6がPETを8分割する割繊性複合繊維である「ベリーマX」(KBセーレン株式会社製割繊性複合繊維の商標)は、割繊して得られたポリエステル極細繊維の断面形状は不均一であるが、平均単糸繊度は0.1dtex(平均繊維径に換算すると、およそ3100nm)、CV%は40%、強度は4.5cN/dtex、伸度は35%、単糸強力0.7cNであった。
ベリーマXを用いたワイピングクロス市販品「ザビーナ」(KBセーレン株式会社製ワイピングクロスの商標)の性能を合わせて表1に示す。自己発塵性は鏡面上に繊維毛羽の付着がほとんど見られず、拭き取り性能は実施例1、2に比べて劣る結果となった。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の極細繊維を用いた布帛は、摩擦による単糸切れを防ぐことで自己発塵性の抑制に優れ、極細繊維特有の性能である、拭き取り性、高吸収性が得られる。
従って、ピリング特性が要求されるインナー、アウター、スポーツをはじめとする衣料、および、クリーン度が要求される産業資材などの多くの用途に利用可能であり、その工業的価値は極めて大である。
特に、産業用途での精密性の高度化により、より微小な塵、埃、油などの拭き取り性および捕塵性が要求される、ICや半導体の製造工場やクリーンルームなどのワイピング製品に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海島型複合繊維の海成分を溶出処理することによって得られる、平均単糸繊径が1000nmを越え、2500nm以下、平均単糸繊径のばらつきCV%が0〜25%、単糸強力が0.04cN以上であることを特徴とする極細繊維。
【請求項2】
極細繊維を構成する主成分がポリエステルである請求項1に記載の極細繊維。
【請求項3】
ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、またはこれらを主たる繰り返し単位とする共重合体である請求項2に記載の極細繊維。
【請求項4】
極細繊維を構成する主成分がポリアミドである請求項1記載の極細繊維。
【請求項5】
極細繊維を構成する主成分がポリオレフィンである請求項1記載の極細繊維。
【請求項6】
請求項1記載の極細繊維を含むことを特徴とするワイピングクロス。

【公開番号】特開2012−207361(P2012−207361A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−57321(P2012−57321)
【出願日】平成24年3月14日(2012.3.14)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】