構造体および構造体の製造方法
樹脂の原料となるモノマーおよび/またはオリゴマーに、ナノ微粒子の前駆体となる物質を混合し、二光子光重合法により上記モノマーおよび/またはオリゴマーを重合させて樹脂を得る。その後、上記物質を反応物として用いた酸化反応、還元反応、水酸化反応、脱水反応、硫化反応、酸化還元反応等の化学反応によりナノ微粒子を生成させる。これにより、樹脂および樹脂の中に分散したナノ微粒子からなる構造体、およびこのような構造体の製造方法を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体および構造体の製造方法に関し、特に、樹脂および該樹脂の中に分散したナノ微粒子からなる構造体、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ微粒子などのナノ機能性材料を含む高分子マイクロ・ナノ三次元構造は、MENS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)及びNEMS(Nano Electro Mechanical Systems:ナノ電気機械システム)をはじめとする各種マイクロ・ナノデバイスに新たな特性を与えるものである。このため、上記の高分子マイクロ・ナノ三次元構造は、様々な用途への応用が期待されている。
【0003】
高分子の中に粒子を含んでなる構造体を製造する方法は、例えば非特許文献1や特許文献1などに記載されている。非特許文献1には先行技術として、光硬化性樹脂の中に二酸化チタンを含む構造体を製造する方法が開示されている。この方法は、チタン(IV)エトキシド、光硬化性樹脂としてのメタクリル酸、エチレングリコールジメタクリレート、および重合開始剤としての2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンを含む溶液を、フォトリソグラフィー技術を用いて紫外光(波長355nm)により硬化させるものである。
【0004】
また、特許文献1には、光硬化性樹脂の中に蛍光色素を含む構造体を製造する方法が開示されている。この方法は、蛍光色素を光硬化性樹脂に混合し、二光子吸収により光硬化性樹脂を光重合させて硬化させるものである。また、二光子吸収を用いたマイクロ・ナノデバイスの製造方法については、例えば非特許文献2〜3に開示されている。
【0005】
[非特許文献1] Atsushi Shishido,Ivan B.Diviliansky,I.C.Khoo,Theresa S.Mayer,Suzushi Nishimura,Gina L.Egan,and Thomas E.Mallouk,APPLIED PHYSICS LETTERS 79巻、20号(2001年11月12日発行)
[非特許文献2] Satoshi Kawata,Hong−Bo Sun,Tomokazu Tanaka,Kenji Takada,Nature,Vol.412,No.6848,pp.697−698(2001年8月16日発行)
[非特許文献3] EUROPEAN MATERIALS RESEARCH SOCIETY 2003 SPRING MEETING(6月10日−13日,2003予稿集)
[特許文献1] 特開2003−1599号公報(公開日:平成15年1月8日)
[発明が解決しようとする課題]
しかしながら、上記非特許文献1の方法では、チタン(IV)エトキシドと光硬化性樹脂とを混合することが困難であり、そのうえに、光硬化性樹脂の中に含まれる二酸化チタンが凝集してしまうという問題がある。また、この方法によれば、光硬化性樹脂の中に含まれる二酸化チタンの粒子径を1μm程度にしかすることができない。さらに、この方法において使用されるチタン(IV)エトキシドは、空気中の水蒸気と容易に反応してしまう。このために、非特許文献1に開示されている方法は、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行わなければならないという問題もある。
【0006】
また、上記特許文献1に記載の方法は、蛍光色素そのものを光硬化性樹脂に混合する方法であるため、光硬化性樹脂を重合する紫外光との関係で、蛍光色素の機能が制限されてしまうという問題点がある。また、上記非特許文献2には、光硬化性樹脂の中に粒子を含ませる方法については、何ら開示されていない。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、微粒子の機能を制限することなく、樹脂の中に微粒子を分散させる方法、およびこの方法により製造される、ナノ微粒子を含む樹脂からなる構造体、並びにこの構造体を利用したマイクロ・ナノデバイスを提供することにある。
[発明の開示]
【0008】
本発明の構造体の製造方法は、上記の課題を解決するために、樹脂および該樹脂の中に分散したナノ微粒子からなる構造体の製造方法であって、上記樹脂の原料となるモノマーおよび/またはオリゴマーに、上記ナノ微粒子の前駆体となる物質を混合し、二光子光重合法により上記モノマーおよび/またはオリゴマーを硬化させた後、上記物質を反応物として用いる化学反応により上記ナノ微粒子を生成させることを特徴としている。
【0009】
また本発明の構造体の製造方法は、上記物質として、イオンまたは該イオンを含む化合物を用いることを特徴としている。
【0010】
本発明において、「ナノ微粒子」とは、本発明の方法によって生成される微粒子であり、本発明の方法によれば、平均粒子径が1μm未満のナノ微粒子を容易に生成することができ、例えば、その平均粒子径が、500nm以下、300nm以下、100nm以下のものを容易に生成することができる。また、「ナノ微粒子の前駆体となる物質」とは、イオンや該イオンを含む化合物などのナノ微粒子を生成できる物質を意味している。また、「二光子光重合法」とは、二光子吸収によって重合を開始する光重合を意味している。なお、二光子吸収とは、三次の非線形光学効果の一種であり、2個の光子を同時に吸収した分子が励起する過程である。二光子吸収においては、光子2個で励起を行うため、光子1個あたりのエネルギーが通常の一光子吸収の場合と比べて半分となる。
【0011】
すなわち、二光子吸収では、その振動数が一光子吸収の半分となり、その波長は一光子吸収の倍になる。また、通常の一光子吸収の発生確率は入射光強度に比例するが、二光子吸収においては入射光強度の2乗に比例する。このため、二光子吸収によれば、空間的に微小な領域の分子を励起することができる。
【0012】
さらに、二光子吸収においては、用いられる波長が一光子吸収の場合の倍であり、長い波長で分子の励起を行うから、(1)物質に対する光の透過率が良くなって、より深い位置の分子を励起することができる、(2)光子により励起、重合される分子が、試料中における光の散乱、屈折の影響を受け難くなる、という利点がある。
【0013】
したがって上記の構成によれば、樹脂の原料となるモノマーおよび/またはオリゴマーを二光子光重合法により硬化させることで、樹脂よりなる微細構造を得ることができる。また、これによれば、ナノ微粒子の前駆体となる物質を、上記樹脂よりなる微細構造中に保持させることができる。このように樹脂の微細構造中に保持された物質を反応物として用いて、化学反応を行うことでナノ微粒子を生成させれば、樹脂の微細な構造中に粒子径の極めて小さいナノ微粒子を生成させることができる。
【0014】
さらに、これによれば、二光子光重合法を行うときの光の照射時間やエネルギー、照射方向等を調節することで、樹脂に保持される、ナノ微粒子の前駆体となる物質の分布を2次元および/または3次元的に自由に操作することができる。すなわち、前駆体を上記樹脂中の所望の位置に配置することができるから、ナノ微粒子の前駆体となる物質が、平面的に規則的に配置された構造、立体的に規則的に配置された構造、または、平面的配置と立体的配置とが組み合わさった構造を容易に作製することができる。
【0015】
また、上記の構成によれば、樹脂の原料となるモノマーおよび/またはオリゴマーに、ナノ微粒子そのものを混合するのではなく、ナノ微粒子の前駆体となる物質を混合して、二光子光重合法により原料を重合して樹脂を形成した後にナノ微粒子を生成する。このため、本発明の製造方法によれば、モノマーおよび/またはオリゴマーに混合するという条件によって、ナノ微粒子の機能が制限されることはない。また、樹脂の原料となるモノマーおよび/またはオリゴマー中に混合されるのは、ナノ微粒子そのものではなくナノ微粒子の前駆体となる物質であるから、製造される樹脂の粘度に関係なく、原料中に満遍なく混合することができる。
【0016】
それゆえ、本発明の製造方法によれば、樹脂の微細な構造の中にナノ微粒子を分散させることができる。よって、粒子径の極めて小さいナノ微粒子が分散した樹脂の構造体を製造することができる。また、このような構造体においては、ナノ微粒子が備える機能が十分に発揮される。そして、粘度の高い樹脂の中にもナノ微粒子を効率よく分散させることができる。
【0017】
本発明の構造体の製造方法は、上記の課題を解決するために、上記化学反応が、酸化反応、還元反応、水酸化反応、脱水反応、硫化反応、および酸化還元反応からなる群から選ばれる少なくとも1種類の化学反応であることを特徴としている。
【0018】
上記の構成によれば、簡単な操作によりナノ微粒子を生成することができる。
【0019】
また本発明の構造体は、上記の課題を解決するために、樹脂および該樹脂の中に分散した平均粒子径が300nm以下のナノ微粒子からなることを特徴としている。
【0020】
上記の構成によれば、光学的性質が制御された構造体を提供することができる。すなわち、樹脂中に分散されている平均粒子径300nm以下のナノ微粒子の分布を制御することによって、ナノ微粒子が分散されている樹脂の光学的な性質を任意に調整できる。したがって、目的、用途に応じて、好適な光学的性質を備えた構造体を提供することができる。
【0021】
本発明の構造体は、上記の課題を解決するために、上記樹脂が光硬化性樹脂であることが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、構造体の機械特性を向上させることができる。すなわち、光硬化性樹脂によれば、光の照射により樹脂を硬化させて高強度の構造体を形成することができるから、光硬化性樹脂を用いることにより構造体の機械特性を向上させることができる。
【0023】
本発明の構造体は、上記の課題を解決するために、上記ナノ微粒子が、金属、半導体、および酸化物から選ばれる少なくとも1種類からなるものであることが好ましい。
【0024】
上記の構成によれば、本発明の構造体に様々な機能を付与することができる。すなわち、金属、半導体、および酸化物のナノ微粒子は、導電性や発光特性等、様々な機能を有しているから、これらを樹脂中に分散させることによって、様々な機能を備えた構造体とすることができる。
【0025】
また本発明の構造体は、上記ナノ微粒子を含む微粒子含有部の伸長方向に対して垂直方向に切断した断面の外形上の最も遠い2点間の距離が、10μm以下である構成である。
【0026】
上記の構成によれば、本発明にかかる構造体からフォトニック結晶を構成することができる。
【0027】
本発明のフォトニック結晶は、上述した構造体から構成されており、格子定数が20μm以下であることを特徴としている。
【0028】
本発明のマイクロ・ナノデバイスは、上記構造体から構成されている、光導波路、光スイッチ、または光集積回路を備えている。
【0029】
上記の構成によれば、本発明の構造体の光学的性質を利用することで、従来にはない、新しい機能を備えたマイクロ・ナノデバイスを提供することができる。
【0030】
本発明の製造方法により製造される構造体及びフォトニック結晶は、新しい機能を備えたマイクロ・ナノデバイスとして利用することができる。マイクロ・ナノデバイスは、微細加工技術である「マイクロマシニング」と、原子分子レベルの極微細構造を形成する「ナノマシニング」とを組み合わせた「ナノ加工」により製造されるものであるが、本発明の製造方法により、新たな構造体及びフォトニック結晶を製造することができるから、これらを利用することにより新しい機能を備えたマイクロ・ナノデバイスが実現できる。
【0031】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって充分判るであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1(a)】本実施の形態にかかる構造体を概略的に示す図であり、斜線で示す部分が、ナノ微粒子を含んでいる微粒子含有部ある。
【図1(b)】本実施の形態にかかる構造体を概略的に示す図であり、微粒子を含有する樹脂部の伸長方向に対して垂直方向に切断したときの、矢視断面図を示している。
【図2】チタン(IV)エトキシドとアクリル酸との混合比を変化させた場合における、チタン(IV)アクリレートの吸光度を示す吸光度曲線である。
【図3】チタン(IV)含有樹脂中のチタン(IV)アクリレートの割合を変化させた場合における、チタン(IV)含有樹脂の吸光度を示す吸光度曲線である。
【図4】実施例において、二光子光重合法による、レーザー照射時間と樹脂の大きさとの関係を示す図である。
【図5】実施例において、レーザーの照射時間と、樹脂の大きさとの関係を示す図である。
【図6】実施例において、電子顕微鏡で観察した、加熱処理前および加熱処理後それぞれの水和チタン(IV)含有樹脂の様子を示す図である。
【図7(a)】電子顕微鏡で観察した図6の樹脂の構造を示す図である。
【図7(b)】図6の電子顕微鏡で観察した加熱処理前の水和チタン(IV)含有樹脂の様子を示す図である。
【図7(c)】図6の電子顕微鏡で観察した加熱処理後の水和チタン(IV)含有樹脂(実施例の構造体)の様子を示す図である。
【図8】本発明の実施例において、ウレタンアクリレート系の光硬化性樹脂SCR500のモノマー、水和チタン(IV)含有樹脂、および本実施例の構造体の光の透過率を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
〔実施の形態〕
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下の通りである。
【0034】
本実施の形態にかかる構造体は、樹脂および該樹脂の中に分散したナノ微粒子からなる構成である。まず、本発明にかかる構造体の製造方法について、以下に説明する。
【0035】
本実施の形態にかかる製造方法では、はじめに、樹脂の原料となるモノマーおよび/またはオリゴマー(以下、適宜「モノマー等」という)に、ナノ微粒子の前駆体となる物質を混合する。
【0036】
ここで、ナノ微粒子の前駆体となる物質とは、上述したように、イオンや該イオンを含む化合物などのナノ微粒子を生成できる物質であり、具体的には、例えば、生成すべきナノ微粒子が酸化チタン(TiO2)であれば、上記前駆体となる物質としては、チタンイオ/(Ti3+(IV))が挙げられる。
【0037】
本実施の形態において、ナノ微粒子の前駆体となる物質としてイオンを用いる場合には、該イオンの種類は特に限定されるものではなく、樹脂の中に分散させるナノ微粒子の種類に応じて適宜設定すればよい。また、上記イオンは、1種類を用いてもよく、必要に応じて2種類以上用いてもよい。
【0038】
本実施の形態では、ナノ微粒子の前駆体となる物質として、イオンそのものや、該イオンを含む化合物を用いることができるが、これらは、モノマー等に混合することができるものである。上記化合物としては、具体的には、例えば、チタニウムエトキシド(Ti(OCH2CH3)4)等の金属錯体;塩化金酸等の金属塩;あるいは酸化カドミウム(CdO)等の金属酸化物等が挙げられ、これらは、上記モノマー等に溶解する化合物である。
【0039】
また、上記モノマー等としては、具体的には、樹脂の原料となり、二光子吸収により光重合を開始するモノマー等であればよく、特に限定されるものではない。なお、上記オリゴマーの重合度は2〜20程度であればよく、特に限定されるものではない。
【0040】
本実施の形態では、上記モノマー等としては、紫外光を照射することで硬化して光硬化性樹脂となるものを用いることが好ましい。熱硬化性樹脂は、モノマー等を硬化させるときの体積収縮を小さくまた機械的強度も大きいから、構造体の機械特性を向上させることができる。
【0041】
したがって、本実施の形態では、アクリル酸(CH2=CHCOOH)、メタアクリル酸(CH2C(CH3)COOH)、アクリル酸エステル(MMAなど)、アクリル類モノマー、ウレタンアクリレート、スチレン、エポキシモノマー等のモノマーおよび/またはそれらのオリゴマーを用いることが好ましい。本実施の形態では、これらモノマー等を、1種類用いてもよく、必要に応じて2種類以上用いてもよい。
【0042】
ナノ微粒子の前駆体となる物質と、モノマー等との混合比率(前駆体となる物質/モノマー等)は、0.1重量%以上60重量%以下の範囲内であることが好ましく、1重量%以上20重量%以下の範囲内であることがより好ましい。前駆体となる物質とモノマー等との混合比率を上記好ましい範囲の下限値以上とすることにより、樹脂の中に分散されるナノ微粒子の量が少なくなりすぎて、ナノ微粒子の特性を利用した構造体ではなくなることを防ぐことができる。また、前駆体となる物質とモノマー等との混合比率を上記好ましい範囲の上限値以下とすることにより、樹脂の中に含まれるナノ微粒子の量が多すぎることにより、ナノ微粒子を用いて構造体の光学的性質を制御できなくなることを抑制できる。
【0043】
上記前駆体となる物質として、チタンイオン(Ti3+(IV))を用いる場合、チタンイオンとモノマー等との比率(チタンイオン/モノマー等)を、1重量%以上15重量%以下の範囲内とすることがより好ましく、2重量%以上10重量%以下の範囲内とすることがさらに好ましい。
【0044】
また、上記前駆体となる物質として、金イオン(Au3+)を用いる場合、金イオンと、上記モノマー等との混合比率(金イオン/モノマー等)を、1重量%以上30重量%以下の範囲内とすることがより好ましく、5重量%以上20重量%以下の範囲内とすることがさらに好ましい。
【0045】
また、上記前駆体となる物質として、カドミウムイオン(Cd2+)を用いる場合、カドミウムイオンと上記モノマー等との混合比率(カドミウムイオン/モノマー等)は、1重量%以上10重量%以下の範囲内とすることがより好ましく、0.5重量%以上5重量%以下とすることがさらに好ましい。
【0046】
次に、二光子光重合法により、上記モノマー等を硬化させる。本実施の形態では、モノマー等にレーザー光を照射することで、モノマー等に二光子吸収を行わせる。そして重合開始剤を用いて二光子光重合を開始させる。なお、上記重合開始剤の種類は特に限定されるものでははく、必要に応じて適宜設定すればよい。
【0047】
このときの上記レーザー光の出力(レーザー光のエネルギー)は、0.1mW以上100mW以下の範囲内程度とすればよい。本実施の形態では、上記出力を1mW以上200mW以下の範囲内とすることが好ましく、3mW以上50mW以下の範囲内とすることがより好ましい。レーザー光の出力を、上記好ましい範囲の下限値以上とすることにより、光重合を好適に行うことができ。また、レーザー光の出力を、上記好ましい範囲の上限値以下とすることにより、レーザー光の熱によって、モノマー等が変性してしまうことを防止できる。レーザー光が照射されることによって、二光子吸収をしたモノマー等が光重合をして樹脂になる。
【0048】
本実施の形態の製造方法は、モノマー等を二光子光重合法により硬化させるものであるため、微細な構造樹脂を得ることができる。そしてこれにより、ナノ微粒子の前駆体となる物質は、微細な樹脂の中に保持される。また、二光子光重合法を行うときのレーザー光の照射時間やエネルギー、照射方向等を調節することで、樹脂に保持される前駆体となる物質の分布を2次元および/または3次元的に自由に操作することができる。すなわち、二光子重合の条件を調整することにより、2次元および/または3次元方向に、樹脂による任意構造を作製できるから、当該樹脂に含まれている前駆体となる物質の分布を自由に操作することが可能になる。
【0049】
そして、ナノ微粒子の前駆体となる物質を保持した微細な構造の樹脂を作製した後に、該物質を反応物とした化学反応を行い、樹脂中でナノ微粒子を生成させる。上記化学反応は、ナノ微粒子の前駆体となる物質からナノ微粒子を生成する反応であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、酸化反応;光還元反応、化学還元反応等の還元反応;水酸化反応;加熱等による脱水反応;硫化反応、および酸化還元反応を挙げることができる。これらの反応から選ばれる少なくとも1種類の化学反応によってナノ微粒子を生成することにより、簡単な操作でナノ微粒子を生成させることができる。なお、上記した反応を複数組み合わせてナノ微粒子を生成することとしてもよい。
【0050】
上記前駆体となる物質が、カドミウムイオン(Cd2+)であれば、例えば硫化反応により、ナノ微粒子を生成させることができる。ここで、前駆体となる物質が、Cd2+であるときの硫化反応を示せば、下記の式(1)の通りである。
Cd2++S2−→CdS………(1)
あるいはまた、下記の式(2)に示す酸化還元反応により、カドミウムイオンからナノ微粒子を生成させてもよい。
Cd2++Se2−→CdSe………(2)
このように、本実施の形態によれば、異なる化学反応を行うことにより、同じ種類のナノ微粒子の前駆体となる物質から、異なる種類のナノ微粒子を生成することができる。
【0051】
なお、上記前駆体となる物質がチタンイオン(Ti3+(IV))であれば、二光子光重合法を行った後に、前駆体となる物質、すなわちチタンイオンを保持した樹脂を空気中に放置しておくだけで、チタンイオンが空気中の水蒸気(H2O)と反応し、これにより二酸化チタン(TiO2)からなるナノ微粒子が生成される。
【0052】
本実施の形態によれば、ナノ微粒子そのものを樹脂の原料となるモノマー等に混合させるのではなく、ナノ微粒子の前駆体となる物質を樹脂の原料となるモノマー等に混合させて、二光子光重合法により樹脂を形成してからナノ微粒子を生成するので、ナノ微粒子の機能が制限されることはない。それゆえ、ナノ微粒子が備える機能が十分に発揮される構造体を製造することができる。また、本実施の形態の製造方法によれば、モノマー等の中にナノ微粒子の前駆体となる物質を満遍なく混合することができるから、モノマー等の重合によって作製する樹脂の粘度に関係なく、当該前駆体を均一に分散させることができる。それゆえ、粘度の高い樹脂の中にもナノ微粒子を効率よく分散させることができる。
【0053】
本実施の形態にかかる方法によって得られる構造体は、微細な樹脂の中に、ナノ微粒子が分散してなるものである。上述した方法によれば、ナノ微粒子を生成するための化学反応を適宜調節することで、ナノ微粒子の平均粒子径を300nm以下にすることができる。本実施の形態では、ナノ微粒子の平均粒子径を100nm以下にすることが好ましく、50nm以下にすることがより好ましい。ナノ微粒子の平均粒子径が小さくなるほど、ナノ微粒子を用いて構造体の光学的性質を好適に制御することができる。
【0054】
また、特に限定されるものではないが、上述した化学反応により、樹脂の中に金属、半導体、酸化物、または顔料等からなる物質が含まれるように、ナノ微粒子の前駆体となる物質の種類を選択することが好ましい。構造体が、金属、半導体、酸化物、および顔料からなる1種類または2種類以上の物質をナノ微粒子として含んでいれば、ナノ微粒子の特性を利用して、様々な機能を有する構造体を提供することができる。例えば、硫化カドミウム(CdS)からなるナノ微粒子とすれば、発光特性を備える構造体を提供することができる。
【0055】
ここで、本実施の形態にかかる構造体において、ナノ微粒子を含む空間領域を微粒子含有部と称する。図1(a)〜(b)は、本発明にかかる構造体を概略的に示すものである。図1(a)において、斜線で示す部分が、微粒子含有部である。また、図1(b)は、微粒子含有部の伸長方向(図1(a)中、矢印Dで示す方向)に対して垂直方向(A−A’方向)に切断したときの、矢視断面図を示している。
【0056】
本実施の形態にかかる構造体は、微粒子含有部の伸長方向に対して垂直方向に切断した断面の外形上の最も遠い2点間の距離、すなわち、図1(b)に示す点B−B’間の距離を500nm以下にすることができる。また、B−B’間の距離を、200nm以下としたり、10μm以下としたりすることも可能である。
なお、上記「外形上の最も遠い2点間の距離」とは、例えば、断面が円形であれば円の直径である、断面が楕円形であれば楕円形の長軸である。
【0057】
また、本実施の形態によれば、微粒子含有部に含まれるナノ微粒子の周期を、光の波長程度とすることができることから、本実施の形態にかかる構造体を用いて、格子定数が20μm以下、750nm以下のフォトニック結晶を構成することができる。また、例えば、樹脂の中に分散するナノ微粒子の分布を2次元および/または3次元的に制御することで点欠陥や線欠陥を有する構造体を形成すれば、本発明にかかる構造体を、光導波路、光スイッチ、光集積回路、発光素子、マイクロレーザー、マイクロレーザーアレー、面発光レーザー等に利用することができる。すなわち、本発明にかかる構造体の光学的性質を利用することにより、従来にはない、新しい機能を備えたマイクロ・ナノデバイスを構成することができる。
【0058】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態中に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られるものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明にかかる構造体の製造方法の実施例を、図2〜図8に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0060】
〔(A)チタン(IV)アクリレートの合成〕
樹脂の原料としての、構造式(1)
【化1】
で表されるアクリル酸、および、チタン(IV)エトキシド(以下、「TE」という)および、ナノ微粒子の前駆体としての、
構造式(2)
【化2】
で表される、チタン(IV)エトキシド(以下、「TE」という)を混合して、
構造式(3)
Ti(OCH2CH3)m(OOCCH−CH2)n ・・・(3)
(式中、m,nはそれぞれ整数を示し、m+n=4である)
で表されるチタン(IV)アクリレートを得た。
【0061】
図2に、TEとアクリル酸との混合比を変化させた場合における、チタン(IV)アクリレートの吸光度を示す。なお、図2の横軸λは、チタン(IV)アクリレートに入射する光の波長を示している。
図2中では、TEとアクリル酸との混合比として、TE:アクリル酸=1:1とした場合の吸光度を実線で、TE:アクリル酸=1:2の場合の球高度を破線で、TE:アクリル酸=1:4とした場合の吸光度を一点破線で、それぞれ示している。
【0062】
図2の吸光度曲線から、アクリル酸の割合を大きくすることに伴って、換言すればTEの割合を小さくすることに伴って、吸光度が小さくなることが示されている。
【0063】
〔(B)二光子光重合法によるチタン(IV)含有樹脂の合成〕
上記チタン(IV)アクリレートに、構造式(4)
【化3】
(式中、Rは炭化水素基を示す)
で表されるウレタンアクリレート系の光硬化性樹脂SCR500(日本合成ゴム株式会社)のモノマー、および重合開始剤を混合した後、レーザー光を照射して二光子光重合法により、
構造式(5)
【化4】
で表されるチタン(IV)含有樹脂を得た。
【0064】
図3に、チタン(IV)含有樹脂中のチタン(IV)アクリレートの割合を変化させた場合における、チタン(IV)含有樹脂の吸光度を示す吸光度曲線を示す。図3では、チタン(IV)含有樹脂に含まれるチタン(IV)アクリレートの割合が、32.86重量%(チタン(IV)アクリレート:光硬化性樹脂SCR500モノマー=1:2)のものの結果を実線で、30.79重量%(チタン(IV)アクリレート:光硬化性樹脂SCR500=1:3)のものの結果を破線で、28.65重量%(チタン(IV)アクリレート:光硬化性樹脂SCR500=1:4)のものの結果を一点鎖線で、それぞれ示している。
【0065】
〔(C)二光子光重合法により合成したチタン(IV)含有樹脂の解像度〕
上記チタン(IV)アクリレート、上記ウレタンアクリレート系の光硬化性樹脂SCR500ノモノマー、および重合開始剤を混合させた後、レーザー光を照射して二光子光重合法を行った場合における、レーザー照射時間(1/秒(s))と、当該レーザー照射時間によって得られる樹脂の大きさとの関係を調べた結果を図4に示す。同図から、レーザー照射時間が長くなるほど、得られる樹脂のサイズが大きくなることがわかる。
【0066】
図5に、レーザー光の出力を、300mW、400mW、500mWとしたときの、レーザー照射時間(1/秒(s))と、当該照射によって硬化した樹脂の大きさ(これを、「ポイントサイズ」という)との関係を調べた結果を示す。同図より、レーザー照射時間を長くするほど、当該照射により得られる樹脂のサイズが大きくなることがわかる。
【0067】
〔(D)構造体の製造〕
上記チタン(IV)含有樹脂を大気中に放置し、チタン(IV)含有樹脂に含まれるチタン(IV)イオンと大気中の水蒸気(H2O)とを反応させることで、一般式(6)
【化5】
(式中、nは整数を示す)
で表される水和チタン(IV)含有樹脂を得た。
【0068】
さらに、水和チタン(IV)含有樹脂を、大気中、250℃で2時間加熱処理することで、構造式(7)
【化6】
で表される構造体を得た。図6は、電子顕微鏡で観察した、加熱処理前(図左側)および加熱処理後(図右側)それぞれの水和チタン(IV)含有樹脂の様子を示す。
【0069】
図7(a)に、図6の樹脂を電子顕微鏡で観察した様子を示す。同図に示すように、上記構造体の<100>面は、8×8×2構造を有し、そのときの格子定数は2.5μmであった。
【0070】
図7(b)は、電子顕微鏡で観察した上述した加熱処理前の水和チタン(IV)含有樹脂の様子を示し、図7(c)は、上記加熱処理後の水和チタン(IV)含有樹脂(すなわち本発明の構造体の一実施例)の様子を示している。加熱処理前の水和チタン(IV)含有樹脂には、図7(b)中、丸印で示すように直径が580nmの球構造、およびこの球と球との間にあり延伸方向の長さが500nmのロッド(図中、四角印で示す)構造の2つの3次元構造が形成されていた。
【0071】
〔(E)フォトニックバンドギャップ測定〕
上記ウレタンアクリレート系の光硬化性樹脂SCR500のモノマー、水和チタン(IV)含有樹脂、および本実施例の構造体について、光の透過率を調べた結果を図8に示す。同図中、「基準線」はバックグラウンド、「樹脂」はウレタンアクリレート系の光硬化性樹脂SCR500のモノマーの透過率、「樹脂+Ti4++熱処理前」は水和チタン(IV)含有樹脂の透過率、「樹脂+Ti4++熱処理後」は構造体の透過率を示している。図8に示す結果より、本実施例により得られる構造体では、熱処理前の水和チタン(IV)含有樹脂に比べて、バンドギャップが高波数領域に遷移することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上のように、本発明の構造体およびその製造方法は、樹脂および樹脂の中にナノ微粒子の分散を制御したものであるから、各種マイクロ・ナノデバイスに新たな特性を与えるためのものとして有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体および構造体の製造方法に関し、特に、樹脂および該樹脂の中に分散したナノ微粒子からなる構造体、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ微粒子などのナノ機能性材料を含む高分子マイクロ・ナノ三次元構造は、MENS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)及びNEMS(Nano Electro Mechanical Systems:ナノ電気機械システム)をはじめとする各種マイクロ・ナノデバイスに新たな特性を与えるものである。このため、上記の高分子マイクロ・ナノ三次元構造は、様々な用途への応用が期待されている。
【0003】
高分子の中に粒子を含んでなる構造体を製造する方法は、例えば非特許文献1や特許文献1などに記載されている。非特許文献1には先行技術として、光硬化性樹脂の中に二酸化チタンを含む構造体を製造する方法が開示されている。この方法は、チタン(IV)エトキシド、光硬化性樹脂としてのメタクリル酸、エチレングリコールジメタクリレート、および重合開始剤としての2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンを含む溶液を、フォトリソグラフィー技術を用いて紫外光(波長355nm)により硬化させるものである。
【0004】
また、特許文献1には、光硬化性樹脂の中に蛍光色素を含む構造体を製造する方法が開示されている。この方法は、蛍光色素を光硬化性樹脂に混合し、二光子吸収により光硬化性樹脂を光重合させて硬化させるものである。また、二光子吸収を用いたマイクロ・ナノデバイスの製造方法については、例えば非特許文献2〜3に開示されている。
【0005】
[非特許文献1] Atsushi Shishido,Ivan B.Diviliansky,I.C.Khoo,Theresa S.Mayer,Suzushi Nishimura,Gina L.Egan,and Thomas E.Mallouk,APPLIED PHYSICS LETTERS 79巻、20号(2001年11月12日発行)
[非特許文献2] Satoshi Kawata,Hong−Bo Sun,Tomokazu Tanaka,Kenji Takada,Nature,Vol.412,No.6848,pp.697−698(2001年8月16日発行)
[非特許文献3] EUROPEAN MATERIALS RESEARCH SOCIETY 2003 SPRING MEETING(6月10日−13日,2003予稿集)
[特許文献1] 特開2003−1599号公報(公開日:平成15年1月8日)
[発明が解決しようとする課題]
しかしながら、上記非特許文献1の方法では、チタン(IV)エトキシドと光硬化性樹脂とを混合することが困難であり、そのうえに、光硬化性樹脂の中に含まれる二酸化チタンが凝集してしまうという問題がある。また、この方法によれば、光硬化性樹脂の中に含まれる二酸化チタンの粒子径を1μm程度にしかすることができない。さらに、この方法において使用されるチタン(IV)エトキシドは、空気中の水蒸気と容易に反応してしまう。このために、非特許文献1に開示されている方法は、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行わなければならないという問題もある。
【0006】
また、上記特許文献1に記載の方法は、蛍光色素そのものを光硬化性樹脂に混合する方法であるため、光硬化性樹脂を重合する紫外光との関係で、蛍光色素の機能が制限されてしまうという問題点がある。また、上記非特許文献2には、光硬化性樹脂の中に粒子を含ませる方法については、何ら開示されていない。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、微粒子の機能を制限することなく、樹脂の中に微粒子を分散させる方法、およびこの方法により製造される、ナノ微粒子を含む樹脂からなる構造体、並びにこの構造体を利用したマイクロ・ナノデバイスを提供することにある。
[発明の開示]
【0008】
本発明の構造体の製造方法は、上記の課題を解決するために、樹脂および該樹脂の中に分散したナノ微粒子からなる構造体の製造方法であって、上記樹脂の原料となるモノマーおよび/またはオリゴマーに、上記ナノ微粒子の前駆体となる物質を混合し、二光子光重合法により上記モノマーおよび/またはオリゴマーを硬化させた後、上記物質を反応物として用いる化学反応により上記ナノ微粒子を生成させることを特徴としている。
【0009】
また本発明の構造体の製造方法は、上記物質として、イオンまたは該イオンを含む化合物を用いることを特徴としている。
【0010】
本発明において、「ナノ微粒子」とは、本発明の方法によって生成される微粒子であり、本発明の方法によれば、平均粒子径が1μm未満のナノ微粒子を容易に生成することができ、例えば、その平均粒子径が、500nm以下、300nm以下、100nm以下のものを容易に生成することができる。また、「ナノ微粒子の前駆体となる物質」とは、イオンや該イオンを含む化合物などのナノ微粒子を生成できる物質を意味している。また、「二光子光重合法」とは、二光子吸収によって重合を開始する光重合を意味している。なお、二光子吸収とは、三次の非線形光学効果の一種であり、2個の光子を同時に吸収した分子が励起する過程である。二光子吸収においては、光子2個で励起を行うため、光子1個あたりのエネルギーが通常の一光子吸収の場合と比べて半分となる。
【0011】
すなわち、二光子吸収では、その振動数が一光子吸収の半分となり、その波長は一光子吸収の倍になる。また、通常の一光子吸収の発生確率は入射光強度に比例するが、二光子吸収においては入射光強度の2乗に比例する。このため、二光子吸収によれば、空間的に微小な領域の分子を励起することができる。
【0012】
さらに、二光子吸収においては、用いられる波長が一光子吸収の場合の倍であり、長い波長で分子の励起を行うから、(1)物質に対する光の透過率が良くなって、より深い位置の分子を励起することができる、(2)光子により励起、重合される分子が、試料中における光の散乱、屈折の影響を受け難くなる、という利点がある。
【0013】
したがって上記の構成によれば、樹脂の原料となるモノマーおよび/またはオリゴマーを二光子光重合法により硬化させることで、樹脂よりなる微細構造を得ることができる。また、これによれば、ナノ微粒子の前駆体となる物質を、上記樹脂よりなる微細構造中に保持させることができる。このように樹脂の微細構造中に保持された物質を反応物として用いて、化学反応を行うことでナノ微粒子を生成させれば、樹脂の微細な構造中に粒子径の極めて小さいナノ微粒子を生成させることができる。
【0014】
さらに、これによれば、二光子光重合法を行うときの光の照射時間やエネルギー、照射方向等を調節することで、樹脂に保持される、ナノ微粒子の前駆体となる物質の分布を2次元および/または3次元的に自由に操作することができる。すなわち、前駆体を上記樹脂中の所望の位置に配置することができるから、ナノ微粒子の前駆体となる物質が、平面的に規則的に配置された構造、立体的に規則的に配置された構造、または、平面的配置と立体的配置とが組み合わさった構造を容易に作製することができる。
【0015】
また、上記の構成によれば、樹脂の原料となるモノマーおよび/またはオリゴマーに、ナノ微粒子そのものを混合するのではなく、ナノ微粒子の前駆体となる物質を混合して、二光子光重合法により原料を重合して樹脂を形成した後にナノ微粒子を生成する。このため、本発明の製造方法によれば、モノマーおよび/またはオリゴマーに混合するという条件によって、ナノ微粒子の機能が制限されることはない。また、樹脂の原料となるモノマーおよび/またはオリゴマー中に混合されるのは、ナノ微粒子そのものではなくナノ微粒子の前駆体となる物質であるから、製造される樹脂の粘度に関係なく、原料中に満遍なく混合することができる。
【0016】
それゆえ、本発明の製造方法によれば、樹脂の微細な構造の中にナノ微粒子を分散させることができる。よって、粒子径の極めて小さいナノ微粒子が分散した樹脂の構造体を製造することができる。また、このような構造体においては、ナノ微粒子が備える機能が十分に発揮される。そして、粘度の高い樹脂の中にもナノ微粒子を効率よく分散させることができる。
【0017】
本発明の構造体の製造方法は、上記の課題を解決するために、上記化学反応が、酸化反応、還元反応、水酸化反応、脱水反応、硫化反応、および酸化還元反応からなる群から選ばれる少なくとも1種類の化学反応であることを特徴としている。
【0018】
上記の構成によれば、簡単な操作によりナノ微粒子を生成することができる。
【0019】
また本発明の構造体は、上記の課題を解決するために、樹脂および該樹脂の中に分散した平均粒子径が300nm以下のナノ微粒子からなることを特徴としている。
【0020】
上記の構成によれば、光学的性質が制御された構造体を提供することができる。すなわち、樹脂中に分散されている平均粒子径300nm以下のナノ微粒子の分布を制御することによって、ナノ微粒子が分散されている樹脂の光学的な性質を任意に調整できる。したがって、目的、用途に応じて、好適な光学的性質を備えた構造体を提供することができる。
【0021】
本発明の構造体は、上記の課題を解決するために、上記樹脂が光硬化性樹脂であることが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、構造体の機械特性を向上させることができる。すなわち、光硬化性樹脂によれば、光の照射により樹脂を硬化させて高強度の構造体を形成することができるから、光硬化性樹脂を用いることにより構造体の機械特性を向上させることができる。
【0023】
本発明の構造体は、上記の課題を解決するために、上記ナノ微粒子が、金属、半導体、および酸化物から選ばれる少なくとも1種類からなるものであることが好ましい。
【0024】
上記の構成によれば、本発明の構造体に様々な機能を付与することができる。すなわち、金属、半導体、および酸化物のナノ微粒子は、導電性や発光特性等、様々な機能を有しているから、これらを樹脂中に分散させることによって、様々な機能を備えた構造体とすることができる。
【0025】
また本発明の構造体は、上記ナノ微粒子を含む微粒子含有部の伸長方向に対して垂直方向に切断した断面の外形上の最も遠い2点間の距離が、10μm以下である構成である。
【0026】
上記の構成によれば、本発明にかかる構造体からフォトニック結晶を構成することができる。
【0027】
本発明のフォトニック結晶は、上述した構造体から構成されており、格子定数が20μm以下であることを特徴としている。
【0028】
本発明のマイクロ・ナノデバイスは、上記構造体から構成されている、光導波路、光スイッチ、または光集積回路を備えている。
【0029】
上記の構成によれば、本発明の構造体の光学的性質を利用することで、従来にはない、新しい機能を備えたマイクロ・ナノデバイスを提供することができる。
【0030】
本発明の製造方法により製造される構造体及びフォトニック結晶は、新しい機能を備えたマイクロ・ナノデバイスとして利用することができる。マイクロ・ナノデバイスは、微細加工技術である「マイクロマシニング」と、原子分子レベルの極微細構造を形成する「ナノマシニング」とを組み合わせた「ナノ加工」により製造されるものであるが、本発明の製造方法により、新たな構造体及びフォトニック結晶を製造することができるから、これらを利用することにより新しい機能を備えたマイクロ・ナノデバイスが実現できる。
【0031】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって充分判るであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1(a)】本実施の形態にかかる構造体を概略的に示す図であり、斜線で示す部分が、ナノ微粒子を含んでいる微粒子含有部ある。
【図1(b)】本実施の形態にかかる構造体を概略的に示す図であり、微粒子を含有する樹脂部の伸長方向に対して垂直方向に切断したときの、矢視断面図を示している。
【図2】チタン(IV)エトキシドとアクリル酸との混合比を変化させた場合における、チタン(IV)アクリレートの吸光度を示す吸光度曲線である。
【図3】チタン(IV)含有樹脂中のチタン(IV)アクリレートの割合を変化させた場合における、チタン(IV)含有樹脂の吸光度を示す吸光度曲線である。
【図4】実施例において、二光子光重合法による、レーザー照射時間と樹脂の大きさとの関係を示す図である。
【図5】実施例において、レーザーの照射時間と、樹脂の大きさとの関係を示す図である。
【図6】実施例において、電子顕微鏡で観察した、加熱処理前および加熱処理後それぞれの水和チタン(IV)含有樹脂の様子を示す図である。
【図7(a)】電子顕微鏡で観察した図6の樹脂の構造を示す図である。
【図7(b)】図6の電子顕微鏡で観察した加熱処理前の水和チタン(IV)含有樹脂の様子を示す図である。
【図7(c)】図6の電子顕微鏡で観察した加熱処理後の水和チタン(IV)含有樹脂(実施例の構造体)の様子を示す図である。
【図8】本発明の実施例において、ウレタンアクリレート系の光硬化性樹脂SCR500のモノマー、水和チタン(IV)含有樹脂、および本実施例の構造体の光の透過率を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
〔実施の形態〕
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下の通りである。
【0034】
本実施の形態にかかる構造体は、樹脂および該樹脂の中に分散したナノ微粒子からなる構成である。まず、本発明にかかる構造体の製造方法について、以下に説明する。
【0035】
本実施の形態にかかる製造方法では、はじめに、樹脂の原料となるモノマーおよび/またはオリゴマー(以下、適宜「モノマー等」という)に、ナノ微粒子の前駆体となる物質を混合する。
【0036】
ここで、ナノ微粒子の前駆体となる物質とは、上述したように、イオンや該イオンを含む化合物などのナノ微粒子を生成できる物質であり、具体的には、例えば、生成すべきナノ微粒子が酸化チタン(TiO2)であれば、上記前駆体となる物質としては、チタンイオ/(Ti3+(IV))が挙げられる。
【0037】
本実施の形態において、ナノ微粒子の前駆体となる物質としてイオンを用いる場合には、該イオンの種類は特に限定されるものではなく、樹脂の中に分散させるナノ微粒子の種類に応じて適宜設定すればよい。また、上記イオンは、1種類を用いてもよく、必要に応じて2種類以上用いてもよい。
【0038】
本実施の形態では、ナノ微粒子の前駆体となる物質として、イオンそのものや、該イオンを含む化合物を用いることができるが、これらは、モノマー等に混合することができるものである。上記化合物としては、具体的には、例えば、チタニウムエトキシド(Ti(OCH2CH3)4)等の金属錯体;塩化金酸等の金属塩;あるいは酸化カドミウム(CdO)等の金属酸化物等が挙げられ、これらは、上記モノマー等に溶解する化合物である。
【0039】
また、上記モノマー等としては、具体的には、樹脂の原料となり、二光子吸収により光重合を開始するモノマー等であればよく、特に限定されるものではない。なお、上記オリゴマーの重合度は2〜20程度であればよく、特に限定されるものではない。
【0040】
本実施の形態では、上記モノマー等としては、紫外光を照射することで硬化して光硬化性樹脂となるものを用いることが好ましい。熱硬化性樹脂は、モノマー等を硬化させるときの体積収縮を小さくまた機械的強度も大きいから、構造体の機械特性を向上させることができる。
【0041】
したがって、本実施の形態では、アクリル酸(CH2=CHCOOH)、メタアクリル酸(CH2C(CH3)COOH)、アクリル酸エステル(MMAなど)、アクリル類モノマー、ウレタンアクリレート、スチレン、エポキシモノマー等のモノマーおよび/またはそれらのオリゴマーを用いることが好ましい。本実施の形態では、これらモノマー等を、1種類用いてもよく、必要に応じて2種類以上用いてもよい。
【0042】
ナノ微粒子の前駆体となる物質と、モノマー等との混合比率(前駆体となる物質/モノマー等)は、0.1重量%以上60重量%以下の範囲内であることが好ましく、1重量%以上20重量%以下の範囲内であることがより好ましい。前駆体となる物質とモノマー等との混合比率を上記好ましい範囲の下限値以上とすることにより、樹脂の中に分散されるナノ微粒子の量が少なくなりすぎて、ナノ微粒子の特性を利用した構造体ではなくなることを防ぐことができる。また、前駆体となる物質とモノマー等との混合比率を上記好ましい範囲の上限値以下とすることにより、樹脂の中に含まれるナノ微粒子の量が多すぎることにより、ナノ微粒子を用いて構造体の光学的性質を制御できなくなることを抑制できる。
【0043】
上記前駆体となる物質として、チタンイオン(Ti3+(IV))を用いる場合、チタンイオンとモノマー等との比率(チタンイオン/モノマー等)を、1重量%以上15重量%以下の範囲内とすることがより好ましく、2重量%以上10重量%以下の範囲内とすることがさらに好ましい。
【0044】
また、上記前駆体となる物質として、金イオン(Au3+)を用いる場合、金イオンと、上記モノマー等との混合比率(金イオン/モノマー等)を、1重量%以上30重量%以下の範囲内とすることがより好ましく、5重量%以上20重量%以下の範囲内とすることがさらに好ましい。
【0045】
また、上記前駆体となる物質として、カドミウムイオン(Cd2+)を用いる場合、カドミウムイオンと上記モノマー等との混合比率(カドミウムイオン/モノマー等)は、1重量%以上10重量%以下の範囲内とすることがより好ましく、0.5重量%以上5重量%以下とすることがさらに好ましい。
【0046】
次に、二光子光重合法により、上記モノマー等を硬化させる。本実施の形態では、モノマー等にレーザー光を照射することで、モノマー等に二光子吸収を行わせる。そして重合開始剤を用いて二光子光重合を開始させる。なお、上記重合開始剤の種類は特に限定されるものでははく、必要に応じて適宜設定すればよい。
【0047】
このときの上記レーザー光の出力(レーザー光のエネルギー)は、0.1mW以上100mW以下の範囲内程度とすればよい。本実施の形態では、上記出力を1mW以上200mW以下の範囲内とすることが好ましく、3mW以上50mW以下の範囲内とすることがより好ましい。レーザー光の出力を、上記好ましい範囲の下限値以上とすることにより、光重合を好適に行うことができ。また、レーザー光の出力を、上記好ましい範囲の上限値以下とすることにより、レーザー光の熱によって、モノマー等が変性してしまうことを防止できる。レーザー光が照射されることによって、二光子吸収をしたモノマー等が光重合をして樹脂になる。
【0048】
本実施の形態の製造方法は、モノマー等を二光子光重合法により硬化させるものであるため、微細な構造樹脂を得ることができる。そしてこれにより、ナノ微粒子の前駆体となる物質は、微細な樹脂の中に保持される。また、二光子光重合法を行うときのレーザー光の照射時間やエネルギー、照射方向等を調節することで、樹脂に保持される前駆体となる物質の分布を2次元および/または3次元的に自由に操作することができる。すなわち、二光子重合の条件を調整することにより、2次元および/または3次元方向に、樹脂による任意構造を作製できるから、当該樹脂に含まれている前駆体となる物質の分布を自由に操作することが可能になる。
【0049】
そして、ナノ微粒子の前駆体となる物質を保持した微細な構造の樹脂を作製した後に、該物質を反応物とした化学反応を行い、樹脂中でナノ微粒子を生成させる。上記化学反応は、ナノ微粒子の前駆体となる物質からナノ微粒子を生成する反応であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、酸化反応;光還元反応、化学還元反応等の還元反応;水酸化反応;加熱等による脱水反応;硫化反応、および酸化還元反応を挙げることができる。これらの反応から選ばれる少なくとも1種類の化学反応によってナノ微粒子を生成することにより、簡単な操作でナノ微粒子を生成させることができる。なお、上記した反応を複数組み合わせてナノ微粒子を生成することとしてもよい。
【0050】
上記前駆体となる物質が、カドミウムイオン(Cd2+)であれば、例えば硫化反応により、ナノ微粒子を生成させることができる。ここで、前駆体となる物質が、Cd2+であるときの硫化反応を示せば、下記の式(1)の通りである。
Cd2++S2−→CdS………(1)
あるいはまた、下記の式(2)に示す酸化還元反応により、カドミウムイオンからナノ微粒子を生成させてもよい。
Cd2++Se2−→CdSe………(2)
このように、本実施の形態によれば、異なる化学反応を行うことにより、同じ種類のナノ微粒子の前駆体となる物質から、異なる種類のナノ微粒子を生成することができる。
【0051】
なお、上記前駆体となる物質がチタンイオン(Ti3+(IV))であれば、二光子光重合法を行った後に、前駆体となる物質、すなわちチタンイオンを保持した樹脂を空気中に放置しておくだけで、チタンイオンが空気中の水蒸気(H2O)と反応し、これにより二酸化チタン(TiO2)からなるナノ微粒子が生成される。
【0052】
本実施の形態によれば、ナノ微粒子そのものを樹脂の原料となるモノマー等に混合させるのではなく、ナノ微粒子の前駆体となる物質を樹脂の原料となるモノマー等に混合させて、二光子光重合法により樹脂を形成してからナノ微粒子を生成するので、ナノ微粒子の機能が制限されることはない。それゆえ、ナノ微粒子が備える機能が十分に発揮される構造体を製造することができる。また、本実施の形態の製造方法によれば、モノマー等の中にナノ微粒子の前駆体となる物質を満遍なく混合することができるから、モノマー等の重合によって作製する樹脂の粘度に関係なく、当該前駆体を均一に分散させることができる。それゆえ、粘度の高い樹脂の中にもナノ微粒子を効率よく分散させることができる。
【0053】
本実施の形態にかかる方法によって得られる構造体は、微細な樹脂の中に、ナノ微粒子が分散してなるものである。上述した方法によれば、ナノ微粒子を生成するための化学反応を適宜調節することで、ナノ微粒子の平均粒子径を300nm以下にすることができる。本実施の形態では、ナノ微粒子の平均粒子径を100nm以下にすることが好ましく、50nm以下にすることがより好ましい。ナノ微粒子の平均粒子径が小さくなるほど、ナノ微粒子を用いて構造体の光学的性質を好適に制御することができる。
【0054】
また、特に限定されるものではないが、上述した化学反応により、樹脂の中に金属、半導体、酸化物、または顔料等からなる物質が含まれるように、ナノ微粒子の前駆体となる物質の種類を選択することが好ましい。構造体が、金属、半導体、酸化物、および顔料からなる1種類または2種類以上の物質をナノ微粒子として含んでいれば、ナノ微粒子の特性を利用して、様々な機能を有する構造体を提供することができる。例えば、硫化カドミウム(CdS)からなるナノ微粒子とすれば、発光特性を備える構造体を提供することができる。
【0055】
ここで、本実施の形態にかかる構造体において、ナノ微粒子を含む空間領域を微粒子含有部と称する。図1(a)〜(b)は、本発明にかかる構造体を概略的に示すものである。図1(a)において、斜線で示す部分が、微粒子含有部である。また、図1(b)は、微粒子含有部の伸長方向(図1(a)中、矢印Dで示す方向)に対して垂直方向(A−A’方向)に切断したときの、矢視断面図を示している。
【0056】
本実施の形態にかかる構造体は、微粒子含有部の伸長方向に対して垂直方向に切断した断面の外形上の最も遠い2点間の距離、すなわち、図1(b)に示す点B−B’間の距離を500nm以下にすることができる。また、B−B’間の距離を、200nm以下としたり、10μm以下としたりすることも可能である。
なお、上記「外形上の最も遠い2点間の距離」とは、例えば、断面が円形であれば円の直径である、断面が楕円形であれば楕円形の長軸である。
【0057】
また、本実施の形態によれば、微粒子含有部に含まれるナノ微粒子の周期を、光の波長程度とすることができることから、本実施の形態にかかる構造体を用いて、格子定数が20μm以下、750nm以下のフォトニック結晶を構成することができる。また、例えば、樹脂の中に分散するナノ微粒子の分布を2次元および/または3次元的に制御することで点欠陥や線欠陥を有する構造体を形成すれば、本発明にかかる構造体を、光導波路、光スイッチ、光集積回路、発光素子、マイクロレーザー、マイクロレーザーアレー、面発光レーザー等に利用することができる。すなわち、本発明にかかる構造体の光学的性質を利用することにより、従来にはない、新しい機能を備えたマイクロ・ナノデバイスを構成することができる。
【0058】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態中に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られるものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明にかかる構造体の製造方法の実施例を、図2〜図8に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0060】
〔(A)チタン(IV)アクリレートの合成〕
樹脂の原料としての、構造式(1)
【化1】
で表されるアクリル酸、および、チタン(IV)エトキシド(以下、「TE」という)および、ナノ微粒子の前駆体としての、
構造式(2)
【化2】
で表される、チタン(IV)エトキシド(以下、「TE」という)を混合して、
構造式(3)
Ti(OCH2CH3)m(OOCCH−CH2)n ・・・(3)
(式中、m,nはそれぞれ整数を示し、m+n=4である)
で表されるチタン(IV)アクリレートを得た。
【0061】
図2に、TEとアクリル酸との混合比を変化させた場合における、チタン(IV)アクリレートの吸光度を示す。なお、図2の横軸λは、チタン(IV)アクリレートに入射する光の波長を示している。
図2中では、TEとアクリル酸との混合比として、TE:アクリル酸=1:1とした場合の吸光度を実線で、TE:アクリル酸=1:2の場合の球高度を破線で、TE:アクリル酸=1:4とした場合の吸光度を一点破線で、それぞれ示している。
【0062】
図2の吸光度曲線から、アクリル酸の割合を大きくすることに伴って、換言すればTEの割合を小さくすることに伴って、吸光度が小さくなることが示されている。
【0063】
〔(B)二光子光重合法によるチタン(IV)含有樹脂の合成〕
上記チタン(IV)アクリレートに、構造式(4)
【化3】
(式中、Rは炭化水素基を示す)
で表されるウレタンアクリレート系の光硬化性樹脂SCR500(日本合成ゴム株式会社)のモノマー、および重合開始剤を混合した後、レーザー光を照射して二光子光重合法により、
構造式(5)
【化4】
で表されるチタン(IV)含有樹脂を得た。
【0064】
図3に、チタン(IV)含有樹脂中のチタン(IV)アクリレートの割合を変化させた場合における、チタン(IV)含有樹脂の吸光度を示す吸光度曲線を示す。図3では、チタン(IV)含有樹脂に含まれるチタン(IV)アクリレートの割合が、32.86重量%(チタン(IV)アクリレート:光硬化性樹脂SCR500モノマー=1:2)のものの結果を実線で、30.79重量%(チタン(IV)アクリレート:光硬化性樹脂SCR500=1:3)のものの結果を破線で、28.65重量%(チタン(IV)アクリレート:光硬化性樹脂SCR500=1:4)のものの結果を一点鎖線で、それぞれ示している。
【0065】
〔(C)二光子光重合法により合成したチタン(IV)含有樹脂の解像度〕
上記チタン(IV)アクリレート、上記ウレタンアクリレート系の光硬化性樹脂SCR500ノモノマー、および重合開始剤を混合させた後、レーザー光を照射して二光子光重合法を行った場合における、レーザー照射時間(1/秒(s))と、当該レーザー照射時間によって得られる樹脂の大きさとの関係を調べた結果を図4に示す。同図から、レーザー照射時間が長くなるほど、得られる樹脂のサイズが大きくなることがわかる。
【0066】
図5に、レーザー光の出力を、300mW、400mW、500mWとしたときの、レーザー照射時間(1/秒(s))と、当該照射によって硬化した樹脂の大きさ(これを、「ポイントサイズ」という)との関係を調べた結果を示す。同図より、レーザー照射時間を長くするほど、当該照射により得られる樹脂のサイズが大きくなることがわかる。
【0067】
〔(D)構造体の製造〕
上記チタン(IV)含有樹脂を大気中に放置し、チタン(IV)含有樹脂に含まれるチタン(IV)イオンと大気中の水蒸気(H2O)とを反応させることで、一般式(6)
【化5】
(式中、nは整数を示す)
で表される水和チタン(IV)含有樹脂を得た。
【0068】
さらに、水和チタン(IV)含有樹脂を、大気中、250℃で2時間加熱処理することで、構造式(7)
【化6】
で表される構造体を得た。図6は、電子顕微鏡で観察した、加熱処理前(図左側)および加熱処理後(図右側)それぞれの水和チタン(IV)含有樹脂の様子を示す。
【0069】
図7(a)に、図6の樹脂を電子顕微鏡で観察した様子を示す。同図に示すように、上記構造体の<100>面は、8×8×2構造を有し、そのときの格子定数は2.5μmであった。
【0070】
図7(b)は、電子顕微鏡で観察した上述した加熱処理前の水和チタン(IV)含有樹脂の様子を示し、図7(c)は、上記加熱処理後の水和チタン(IV)含有樹脂(すなわち本発明の構造体の一実施例)の様子を示している。加熱処理前の水和チタン(IV)含有樹脂には、図7(b)中、丸印で示すように直径が580nmの球構造、およびこの球と球との間にあり延伸方向の長さが500nmのロッド(図中、四角印で示す)構造の2つの3次元構造が形成されていた。
【0071】
〔(E)フォトニックバンドギャップ測定〕
上記ウレタンアクリレート系の光硬化性樹脂SCR500のモノマー、水和チタン(IV)含有樹脂、および本実施例の構造体について、光の透過率を調べた結果を図8に示す。同図中、「基準線」はバックグラウンド、「樹脂」はウレタンアクリレート系の光硬化性樹脂SCR500のモノマーの透過率、「樹脂+Ti4++熱処理前」は水和チタン(IV)含有樹脂の透過率、「樹脂+Ti4++熱処理後」は構造体の透過率を示している。図8に示す結果より、本実施例により得られる構造体では、熱処理前の水和チタン(IV)含有樹脂に比べて、バンドギャップが高波数領域に遷移することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上のように、本発明の構造体およびその製造方法は、樹脂および樹脂の中にナノ微粒子の分散を制御したものであるから、各種マイクロ・ナノデバイスに新たな特性を与えるためのものとして有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂および該樹脂の中に分散したナノ微粒子からなる構造体の製造方法であって、上記樹脂の原料となるモノマー等に、上記ナノ微粒子の前駆体となる物質を混合し、二光子光重合法により上記モノマー等を硬化させた後、上記物質を反応物として用いる化学反応により上記ナノ微粒子を生成させることを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項2】
上記物質として、イオンまたは該イオンを含む化合物を用いることを特徴とする請求項1に記載の構造体の製造方法。
【請求項3】
上記化学反応が、酸化反応、還元反応、水酸化反応、脱水反応、硫化反応、および酸化還元反応からなる群から選ばれる少なくとも1種類の化学反応であることを特徴とする請求項1に記載の構造体の製造方法。
【請求項4】
樹脂および該樹脂の中に分散した平均粒子径が300nm以下のナノ微粒子からなることを特徴とする構造体。
【請求項5】
上記樹脂が、光硬化性樹脂であることを特徴とする請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
上記ナノ微粒子が、金属、半導体、および酸化物から選ばれる少なくとも1種類からなることを特徴とする請求項4に記載の構造体。
【請求項7】
上記ナノ微粒子を含む微粒子含有部の伸長方向に対して垂直方向に切断した断面の外形上の最も遠い2点間の距離が、10μm以下であることを特徴とする請求項4に記載の構造体。
【請求項8】
請求項7に記載の構造体から構成されており、格子定数が20μm以下であることを特徴とするフォトニック結晶。
【請求項9】
請求項3に記載の構造体から構成されている、光導波路、光スイッチ、または光集積回路を備えていることを特徴とするマイクロ・ナノデバイス。
【請求項1】
樹脂および該樹脂の中に分散したナノ微粒子からなる構造体の製造方法であって、上記樹脂の原料となるモノマー等に、上記ナノ微粒子の前駆体となる物質を混合し、二光子光重合法により上記モノマー等を硬化させた後、上記物質を反応物として用いる化学反応により上記ナノ微粒子を生成させることを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項2】
上記物質として、イオンまたは該イオンを含む化合物を用いることを特徴とする請求項1に記載の構造体の製造方法。
【請求項3】
上記化学反応が、酸化反応、還元反応、水酸化反応、脱水反応、硫化反応、および酸化還元反応からなる群から選ばれる少なくとも1種類の化学反応であることを特徴とする請求項1に記載の構造体の製造方法。
【請求項4】
樹脂および該樹脂の中に分散した平均粒子径が300nm以下のナノ微粒子からなることを特徴とする構造体。
【請求項5】
上記樹脂が、光硬化性樹脂であることを特徴とする請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
上記ナノ微粒子が、金属、半導体、および酸化物から選ばれる少なくとも1種類からなることを特徴とする請求項4に記載の構造体。
【請求項7】
上記ナノ微粒子を含む微粒子含有部の伸長方向に対して垂直方向に切断した断面の外形上の最も遠い2点間の距離が、10μm以下であることを特徴とする請求項4に記載の構造体。
【請求項8】
請求項7に記載の構造体から構成されており、格子定数が20μm以下であることを特徴とするフォトニック結晶。
【請求項9】
請求項3に記載の構造体から構成されている、光導波路、光スイッチ、または光集積回路を備えていることを特徴とするマイクロ・ナノデバイス。
【図1(a)】
【図1(b)】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図7(c)】
【図8】
【図1(b)】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図7(c)】
【図8】
【国際公開番号】WO2005/009891
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【発行日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512001(P2005−512001)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010037
【国際出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【発行日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/010037
【国際出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
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