説明

構造光照明を用いる光学撮像システム

【課題】非コヒーレント構造光照明を形成するための光学システム及び非コヒーレント構造光照明を用いる光学撮像システムを提供する。
【解決手段】光学系30は、少なくとも1つのコヒーレント光源31、空間光変調器32、複数の光学レンズL",L",L"、構造光照明パターンのコヒーレンスを崩すための回転ディフューザー33、対物光学系L対物"及び試料を載せるステージ35を備える。非コヒーレント構造光照明を用いる光学撮像システムは、対物光学系、ビームスプリッター、試料の一連の像を記録するための電荷結合素子カメラ及び、試料を載せ、移動させるためのステージを有する光学顕微鏡、コヒーレント光源、空間光変調器、1/4波長板、複数の光学レンズ及びミラー及び、光路を軸にして連続的に、360°回転するかまたは急速に振動するディフューザーを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非コヒーレント構造光照明を用いる光学撮像システムに関し、さらに詳しくは、非コヒーレント構造光照明を用いる亜回折限界散乱光撮像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光顕微鏡検査法(FM)は、高感度、高い分子識別能力及び同時多色像形成能力のために知られており、したがって蛍光標識による細胞及び器官の微細構造の研究に不可欠なツールである。しかし、FMには、蛍光染料の光退色及び回折限界による蛍光像の不十分な空間解像度の、2つの主要な弱点がある。従来の大視野FMは、220〜300nmの横方向解像度及び800〜1000nmの軸方向解像度を提供する。共焦点レーザ走査型蛍光顕微鏡検査法は、軸方向解像度を400〜500nmに高め、三次元(3D)分解像を提供するが、横方向解像度の向上は制限される。近年、構造化光照明顕微鏡検査法(SIM)は、回折限界を突破し、蛍光像において2倍の解像度を達成するため、構造光パターンを用いて試料を照明する。
【0003】
一応用として、三次元構造化光照明蛍光顕微鏡検査法(3D-SIM)は3本の回折レーザビームを用いて試料照明のための3D干渉パターンを生成し、したがって、大視野顕微鏡の光学的伝達関数(OTF)の範囲によってカバーされるべき高空間周波数画像データを転送する。様々なパターン方位における照射下の高空間周波数画像データは、グスタフソン(Gustafsson)等による、高解像度蛍光像を再生するための画像再構成アルゴリズムにより収集及び処理される。今では、3D-SIMは、大視野蛍光顕微鏡検査法に比較して、真の光学的分解により、横方向及び軸方向のいずれにおいても2倍もの高さの解像度を提供することができる。
【0004】
SIMベースの技法は蛍光の測定に広く適用できるが、試料からの散乱光の測定に用いられることは多くはない。散乱光像形成はそれぞれの本来の環境において強い散乱を示す透明で無標識の試料の像を形成することができる。さらに、生物学的応用及び生物医学的応用における貴金属ナノ粒子の重要性の高まりが、散乱光像形成を亜細胞レベルにおける挙動及び相互作用を調べるための魅力的な様式にしている。優れた生体適合性及び安定性に加えて、貴金属ナノ粒子は、光を強く散乱させることができ、光退色に強く抗することができる、能力を備える。
【0005】
散乱光像形成への3D-SIMの適合は複雑である。3D-SIFMにおいては、変調コントラストが高い3D干渉パターンを生成するために、コヒーレントであるかまたはある程度コヒーレントである光源が用いられる。試料から放射される蛍光は非コヒーレントであるから、高解像度像を再生するため、非コヒーレント像形成に対する方程式及び手順が研究されることになり得る。対照的に、試料から散乱される光はコヒーレント過程である。コヒーレント光源を用いる場合、蛍光像再構成のための既知の数学的様式は適していない。新しい像再生手順が必要であるが、数学的誘導の複雑さが技術上の前進を阻んでいる。さらに、散乱光像形成には、入射光を遮るための蛍光フィルタがないことから、異なる材料の界面において発生される反射光の干渉の問題がある。暗視野法では反射光を遮るためのマスクが付加されるが、この構成では不可避的に散乱光強度が減じ、像解像度が低下する。
【0006】
図1は3D構造光照明のための従来の光学系10を示す。コヒーレント光ビームがコヒーレント光源11から出力され、コヒーレント光源によってつくられる光路上に配置された空間光変調器(SLM)12に受け取られる。次いで、SLM12が1本の入力光ビームを回折して複数本の高次ビーム、例えば、図1に示されるように、0次、+1次及び−1次の回折ビームにする。平行回折ビームを集束させるため、凸レンズLがSLM12から距離fに配置される。ここでfは凸レンズLの焦点距離である。
【0007】
レンズLを通過する光は集束され、次いで発散されて凸レンズLに入る。レンズLは集束点から距離fに配置され、相互に交差する平行ビームをつくる。ここで、fはレンズLの焦点距離である。構造光パターンがレンズLから先の距離fにある共役像平面16,すなわちフーリエ面に形成される。凸レンズLが共役像平面16から先の距離fに配置され、平行ビームを受け取って、対物レンズL対物に向かう3本の集束ビームをつくる。図1の対物レンズL対物の描写はかなり集約した表現であり、実際にはレンズセットが対物光学系17として配置される。対物レンズL対物とレンズLの間隔はfとf対物の和である。ここで、fはレンズLの焦点距離であり、f対物は対物レンズL対物の焦点距離である。詳しくは、fはレンズLと対物レンズL対物の後方焦点面16'の間隔であり、f対物は対物レンズL対物と後方焦点面16'の間隔である。レンズセットが対物光学系17として配置される場合、f対物はレンズセットの実効焦点距離である。対物レンズL対物を通過する3本のビームは次いで、試料を載せているステージ15が配置されている別の像平面において相互に交差する。3本のコヒーレントビームがステージ15において3D構造光パターンをつくり、見かけ厚を有する試料の像を分解態様で形成して3D像を再構成する。
【0008】
図2は3D構造化光照明のための光学結像系20を示す。コヒーレント光源21,SLM22,対物光学系27及びレンズセット(L',L',L',L',L',L対物')は図1に示される光学系と実質的に同等であり、実験上の簡便性のためにレンズ配置が若干変更されているだけである。回折ビームを選択的に遮断するために調節可能なマスク23が光路上にまたは光路の外に配置される。マスク23の使用により、構造化光照明光学系に、光学系が(0次回折ビームだけを維持する)大視野モードまたは(+1次及び−1次の回折ビームだけを維持する)2D構造光パターン照明モードで動作するための、多用途性も付加される。図2においてマスク23は光路の外に配置されており、したがって遮断されている回折ビームはない。電荷結合素子(CCD)カメラ24が試料から放射される蛍光の受取りに適する位置に配置され、CCDカメラ24で受け取られる信号に基づいて実空間像が再構成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、3D-SIMと散乱光像形成を組み合わせて、スペックル散乱及び複雑なコヒーレント像再生を回避するための3D非コヒーレント構造光照明を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、3D-SIMと散乱光像形成を組み合わせて、スペックル散乱及び複雑なコヒーレント像再生を回避するための3D非コヒーレント構造光照明を成功裏に形成した最初のものである。3D構造化光照明を用いる反射光散乱顕微鏡(SI-RLSLM)が本発明で開示され、120nm/430nmの横方向/軸方向解像度が100nm貴金属ナノ粒子の高解像度SI-RLS像に基づいて実証される。本発明は、生物学的試料内の貴金属ナノ粒子または強い散乱を検出して高解像度及び高コントラストの3D散乱構造を提供するために適用することができる。
【0011】
本発明の一態様は、非コヒーレント構造化光照明を形成する、
光路を形成するコヒーレント光を出力するコヒーレント光源、
光路上に配置され、コヒーレント光を受け取る空間光変調器であって、そのパターンが、選ばれた位相及び方位にある複数本の回折コヒーレント光ビームを発生するように構成される空間光変調器、
光路上に配置され、複数本の回折コヒーレント光ビームが交差して構造光パターンを形成する、少なくとも1つの像面を形成する複数枚の光学レンズ、
回折コヒーレント光ビームのコヒーレンス性を崩すように構成された、共役像平面の1つに配置された回転または振動するディフューザー、
コヒーレンスが崩された複数本の回折光ビームを受け取る対物光学系、及び
試料を載せる、対物光学系の前方焦平面近傍に配置された、対物光学系近傍にあるステージ、
を備える光学系を開示する。
【0012】
本発明の別の態様は、
試料に近い第1の側及び試料から遠い第2の側を有する対物光学系、
対物光学系の第1の側に配置されたステージであって、対物光学系に向かう方向及び対物光学系から離れる方向に移動するように、またステージの対物レンズに近い側の表面上に試料を載せるように構成された、ステージ、
対物光学系の面上に入射光ビームを反射するため及び像記録デバイスに試料からの散乱光を送るための、光路上に配置された50/50ビームスプリッター、
対物光学系を通過する光路を形成するコヒーレント光を放射するコヒーレント光源、
光路上に配置され、対物光学系の焦平面にコヒーレント光の構造光パターンを発生するように構成された、空間光変調器、
光路上に配置された複数枚の光学レンズ及びミラーであって、構造光パターンの少なくとも1つの共役像平面がそれによって光路上に形成される複数枚の光学レンズ及びミラー、
及び
コヒーレント光のコヒーレンスを崩すように構成され、少なくとも1つの共役像平面に配置された、回転ディフューザー、
を有する光学顕微鏡を備える、非コヒーレント構造光照明を用いる光学撮像システムを開示する。
【0013】
上記は、以下の本発明の詳細な説明をより良く理解できるようにするための、本発明の特徴及び技術的利点のかなり広汎な概要である。本発明のさらなる利点及び特徴は以下に説明され、本発明の特許請求項の主題を形成するであろう。本発明の概念及び開示される特定の実施形態が本発明の同じ目的を実施するための別の構造またはプロセスに改変するためまたはそのような構造またはプロセスを考案するための基礎として容易に利用され得ることが当業者には理解されるはずである。そのような等価な構成が添付される特許請求の範囲に述べられるような本発明の精神及び範囲を逸脱しないことも当業者には認識されるはずである。
【0014】
本発明の目的及び利点は、添付図面を参照して、以下の記述により説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は構造光照明のための光学系を示す。
【図2】図2は構造光照明のための光学撮像システムを示す。
【図3】図3は、本発明の一実施形態にしたがう、光コヒーレンスを有効に崩すための光学系を示す。
【図4】図4は、本発明の一実施形態にしたがう、光コヒーレンスを有効に崩すための光学撮像システムを示す。
【図5】図5は、本発明の一実施形態にしたがう、光コヒーレンスを有効に崩すための光学撮像システムを示す。
【図6】図6は、本発明の一実施形態にしたがう、空間光変調器パターンの一設計カテゴリー(0°,5相)及び、選ばれたz高さにおける、それぞれに対応する照明パターンを示す。
【図7】図7は、本発明の別の実施形態にしたがう、空間光変調器パターンの別の設計カテゴリー(45°,5相)及び、選ばれたz高さにおける、それぞれに対応する照明パターンを示す。
【図8】図8は、回転ディフューザーを(a)S1及び(b)S2に配置したときの、及び(c)ディフューザー無しのハロゲン光照明時の、0次回折光の照明による100nm金ナノ粒子の大視野像の投影図を示し、上段の像は横方向(xy)投影図であり、下段の像は軸方向(xz)投影図である。
【図9】図9はxy平面上の0°−3D構造光照明パターンの理論的シミュレーション及び相異なるz高さにしたがう対応する3枚の透視平面を示す。
【図10】図10は、回転ディフューザーを(a)S1及び(b)S2に配置したときの、3D構造光パターンの軸方向拡がりを示す。
【図11】図11は100nm金ナノ粒子の(a)大視野(WT)像及び(b)SI-RLS像の投影図、及び(c)1個の金ナノ粒子のガウス曲線フィッティングした横方向及び軸方向のプロファイルを示し、(a)及び(b)の上段の像は横方向(xy)投影図であり、下段の像は軸方向(xz)投影図である。
【図12】図12は、(a)100nm金ナノ粒子が取り込まれているHeLa細胞の2D微分干渉コントラスト像並びに、(a)の囲み内の100nm金ナノ粒子の、(b)大視野像及び(c)SI-RLS像の3D図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明で開示される構造光照明反射光散乱顕微鏡(SI-RLSM)は構造光パターンの方位、コントラスト及び位相を迅速かつ正確に変えるためにSLMを利用し、回転ディフューザーが正確にフーリエ面に、試料がおかれる下流の別のフーリエ面における構造光の光コヒーレンスを崩すために、配置される。本開示は、SI-RLS像を再構成するためにエム・ジー・エル・グスタフソン(M.G.L. Gustafsson)等によって提案された、非コヒーレント像再構成のための数学的アルゴリズムを利用する。フーリエ面に配置された回転ディフューザーが位相分布を平均化して消し、像再構成アルゴリズムを複雑なコヒーレント過程から単純な非コヒーレント過程に変える。本発明におけるSI-RLSMのシミュレートされた3D光学的伝達関数(OTF)の適切な適用によって、解像度がさらに改善される。
【0017】
図3は、本発明の一実施形態にしたがう、光コヒーレンスを有効に崩す光学系30を示す。コヒーレント光源31,SLM32,試料を保持するステージ35,対物光学系37,及び光学レンズセット(L",L",L",L対物")が図1に示される従来の光学系10と同様の態様で配置される。図3に示される光学系の特徴は、光学系の共役像平面36,すなわちフーリエ面における回転ホログラフディフューザー33の配置である。本発明の所望の効果は、試料搭載ステージ35がおかれる下流の像平面において3D構造光パターンを形成し、同時に試料への構造光照明のコヒーレンスを減じることであるから、図示される位置に配置された回転ホログラフディフューザー33は見たところでは両立しない2つの目標を同時に満たすことができる。図3の光学系30において、光学レンズセットは、空間光変調器からの+1次及び−1次の回折ビームが対物レンズL対物"の縁端近くにあり、回折ビームが対物レンズL対物"の後方焦平面36'上に集束されるような、特定の位置に配置される。
【0018】
図3は、上述した光学系と同様であるが、大視野または2D構造光照明パターンを発生させるためのマスク34が追加されている光学系を備える、本発明の別の実施形態を示す。マスク34は、大視野像が像平面に表されるであろうように、+1次及び−1次の回折ビームを遮断するために調節することができる。マスクは、試料がおかれる像平面に形成される構造光パターンが2Dパターンである、すなわちステージ35の表面に平行な平面上だけのパターンであるように、0次回折ビームを遮断するために調節することもできる。
【0019】
図4は本発明の一実施形態にしたがう光学撮像システム40を示す。システム40は、SI-RLS像形成のために調製され、以下に説明される光学装置を備える。コヒーレント光源、例えば543nmで動作するHe-Neレーザ41が光路を形成するコヒーレント光を放射する。コヒーレント光は10Xビームエキスパンダー42を通されることで拡大され、位相限定SLM44によって回折されて0次、+1次及び−1次のレーザビームにされる。レーザビームは次いでセットになっている5枚のレンズ(45a,45b,45c,45d,45e)によって対物光学系47の後方焦平面48上に、50/50ビームスプリッター411を通して集束される。ここでレンズ45eは光学顕微鏡414の内部に配置される。
【0020】
図4の光学撮像システム40において、光学レンズセットは、空間光変調器からの+1次及び−1次の回折ビームが対物光学系47の縁端近くにあり、回折ビームが対物光学系47の後方焦平面48上に集束されるような、特定の位置に配置される。ステージ43上に置かれた試料から散乱された光は対物レンジ系47で集光され、次いで50/50ビームスプリッター411,チューブレンズ412及び2Xリレーレンズ413を通過して、電子増倍型CCDカメラ49によって検出される。本発明の一実施形態において、縦型光学顕微鏡414は、レンズ45e,ビームスプリッター411,チューブレンズ412,2Xリレーレンズ413,対物光学系417,ステージ43及びCCDカメラ49を備える。ステージ43は、z方向に沿う分解像を得るため、対物光学系47に向かう方向または離れる方向に試料をステップ移動させるための圧電変換器(PZT)により制御される。
【0021】
図4において、光路上の3つの位置S1,S2及びS3が示される。本実施形態の回転ホログラフディフューザー46は以下の理由によってS1の代わりにS2に配置される。ディフューザー46がS1に配置されていると、光コヒーレンスはコヒーレントHe-Neレーザ41を出た直後にある程度崩されてしまう。ある程度コヒーレントな光はいくらかのコヒーレンス度を保持しているから、ある程度コヒーレントな3本の回折光ビームは試料が置かれている焦平面において交差して構造光照明パターンを発生することができる。他方で、3本の非コヒーレント回折ビームの内の1本のそれぞれの点は他の2本の非コヒーレント回折ビームの対応する点とともに、コヒーレントであると見なされ、したがって、コヒーレント3重点が形成される。コヒーレント3重点の非コヒーレントな重畳によっても構造光照明パターンが形成され得る。まとめると、S1に配置されたディフューザーによって発生される構造光パターンは、3本の回折光ビームの非コヒーレント部分とコヒーレント部分の重畳である。
【0022】
ディフューザーが図4に示されるS2に配置されていれば、光コヒーレンスが有効に崩されて、ほぼ完全な非コヒーレント照明が得られる。S2は、3本の回折ビームが交差して構造光照明パターンを形成する、共役像平面にある。したがって、構造光パターンのコヒーレンスが大きく減じられるだけでなく、非コヒーレントな構造光照明パターンを試料が置かれている像平面に結像させることができる。
【0023】
ディフューザーが図4のS3に配置されていれば、ディフューザーがS2に配置された場合と同様の構造光照明パターンを見ることができる。本発明の別の実施形態において、1つより多くのディフューザーが光学系に装備される。例えば、2つのディフューザーをもつ光学系において、一方のディフューザーはS2に配置され、他方のディフューザーはS3に配置されて、それでも同様の構造光照明パターンが形成され得るであろうが、強度はかなり弱くなっているであろう。
【0024】
図5は、本発明の一実施形態にしたがう光学撮像システム50を示す。光学撮像システム40と比較すると、光学撮像システム50は、レンズ55aと55bの間に配置された1/4波長板55'をさらに備えている。1/4波長板55'は、異なる方位にコントラストがほぼ同じである照明パターンを発生させるため、円偏光を生じるように構成される。
【0025】
本発明の一実施形態において、回転ホログラフディフューザーが用いられる。本発明の別の実施形態において、粗表面または表面に光学コーティングを有する回転プレートが用いられる。本発明の別の実施形態において、回転する磨りガラスがディフューザーとして用いられる。本発明の別の実施形態において、粗表面または表面に光学コーティングを有する振動プレートが用いられる。上に挙げたディフューザーまたは加工プレートは全て、入射光に対して透明であり、光路を軸にして急速に回転または振動するという、共通の特徴を有する。ディフューザーは入射光にランダムな位相変化を強いるから、結像に対する数式における位相の寄与を平均化して消すために、好ましくは一定速度の下で、回転運動または振動運動が維持される。
【0026】
本発明の一実施形態において、CCD平面上の散乱信号の振幅U(x,y,t)は、
【数1】

【0027】
と表すことができる。ここで、試料平面上の散乱信号の分布がU(x,y,t)で表され、コヒーレント点拡がり関数(PSF)がh(x,y)で表され、貴金属ナノ粒子の像における反射強度がS(x,y)で表され、照明光の振幅がE(x,y)で表され、回転ディフューザーによって誘起される位相分布がφ(t)で表されている。撮像のための露光中にディフューザーは急速に回転しているから、φ(t)の時間平均はゼロである。したがって、検出される信号I(x,y)は散乱信号の強度の時間平均は、
【数2】

【0028】
である。この式は非コヒーレント像に対応し、本実施形態における実験結果と一致する。
【0029】
図4を参照すれば、本実施形態に用いられるSLMは、パターン付物体、光回折格子または液晶SLMのようなパターン付標的44aを有し、液晶SLM(LC-SLM)は構造光照明パターンの方位、位相及びコントラストを急速に変えることができる。LC-SLMは2レベル位相格子としてはたらく。図6に示されるように、白ピクセルは入力グレイレベルにおける液晶の位相変調を表し、黒ピクセルは無位相変調を表す。上段の5つの囲みは、相異なるφ〜φの5つの位相を有し、方位が0°の、LC-SLMにより発生されたピクセルを示し、下段の囲みは、選ばれたz高さで対物光学系のxy焦平面において見られる、対応する照明パターンを示す。ピクセルは長さ7の周期を示し、対応する照明パターンの横方向周期は274mmである。それぞれのSLMパターンについて1ピクセル(1正方形)シフトさせると、対応する照明パターンは位相が横方向に4π/7シフトする。
【0030】
同様に、図7に示されるように、上段の囲みは、相異なるφ〜φの5つの位相を有し、方位が45°の、LC-SLMにより発生されたピクセルを示し、下段の囲みは対物光学系のxy焦平面の対応する照明パターンを示す。ピクセルは対角線で、
【数3】

【0031】
の周期を示し、対応する45°照射パターンの横方向周期は277mmである。それぞれのSLMパターンについて1ピクセル(1正方形)シフトさせると、対応する照明パターンは位相が横方向に4π/5シフトする。
【0032】
SLM上の長さ7及び
【数4】

【0033】
の周期は、対応する照明パターンがほとんど等価な横方向周期を有し、したがって横方向にほとんど等しい解像度増強が得られるように、〜1%の小さな違いがあるように構成される。周期の構造は相異なることができるが、大きな違いは様々な方位において等しくない解像度増強を与えることになるであろう。さらに、白ピクセルと黒ピクセルの数または白ピクセルのグレイレベルは、ゼロ次光と1次光の強度比を制御する。それぞれのSLMパターンにおいて、1つの黒列を1つの白列で置き換え、白ピクセルにおいて0.875πの位相遅延を設定することにより、全方位においてほぼ同じコントラストを有する構造光照明を生成する0次及び1次の光が得られる。
【0034】
構造光照明の横方向周期性を調節するため、光学レンズが光路に配置される。ディフューザーがS2に配置される前に、本発明の一実施形態において、複数の光学レンズの間隔が以下の規準、
(1)構造光パターンの横方向周期性が回折限界に近づき得るように、+1次及び−1次の回折ビームの入射位置は対物光学系の周縁の近くでなければならない、及び
(2)共役像平面に形成される構造光パターンを試料が置かれる像平面において見ることができるように、3本の回折ビームは漸次集中されて、対物光学系の後方焦平面に集束されるべきである、
によって決定される。
【0035】
本発明の一実施形態において、大視野散乱構造を形成するため、カバーガラス上で水中に100nm金ナノ粒子が浸漬されている試料に0次回折ビームが照射される。図8は、コヒーレントレーザ光源の下で図5の(a)S1及び(b)S2に回転ホログラフディフューザーが配置されている場合と、(c)ディフューザーはないが非コヒーレント光源の下にある場合の間で、投影大視野像を比較する。上段の像は平面xyの横方向投影であり、下段の像は平面xzの軸方向投影である。軸方向投影は全て、z方向に100nmステップで試料を歩進させることでとられた31枚の像の重ね合わせを有する。像には、(a)様々な界面での多重反射から主に生じる軸方向に周期的な背景の問題があり、したがって照明には(a)の下で若干のコヒーレンス度を保持している。対照的に、(b)における背景は無視でき、像は(c)に示される像と同等である。S2に回転ディフューザーを配置することによる有効なコヒーレンス劣化により準非コヒーレント像が得られる。
【0036】
図9は、xz平面上の0°-3D構造光照明パターン(左列の像)及び相異なるz高さに対する3枚の透視平面(右列の像)を示す。3D構造光パターンは、変調コントラストが最大化されるように、3つのs偏光コヒーレント光源によって形成される。円偏光の使用により、変調コントラストは減じられるが、同じ周期性は維持される。図9は周期性が横方向だけでなくz方向にもあり、よって累積される分解像の重ね合わせが本実施形態において実施され得ることを実証する。試料を載せているPZTステージは3D構造光パターンの厚さにかけてz方向に沿う位置を正確に歩進し、次いで、反射される信号が像再構成のためにCCDによって受け取られる。
【0037】
図10は、回転ディフューザーが図5の(a)S1及び(b)S2に配置された場合の、3D構造光パターンの軸方向(xz平面)拡がりを示す。本実施形態において、重ね合わせの像は、試料ステージ上にシリコンウエハを置いて100nmのz方向ステップでとられ、構造光パターンは0次、+1次及び−1次の回折ビームの交差によって形成されている。光路にディフューザーが全く無いと、3本のコヒーレント回折ビームが試料焦平面近くで交差するから、3D構造光パターンは図9に示されるように無限の軸方向広がりを有する。対照的に、回転ディフューザーの配置により図10において軸方向拡がりが減じられている。図10(a)においては、構造光パターンが試料焦平面近くにおける3本の回折ビームの非コヒーレンス及びコヒーレンスの重畳による無限の軸方向広がりを有している。図10(b)においては、z方向において顕微鏡で観察できる領域と同等の軸方向拡がりを、試料平面に結像される3D構造光パターンが示している。明らかに、S2にディフューザーを配置することでコヒーレントレーザ光のコヒーレンスが最も有効に崩され、したがって、非コヒーレント像過程を用いるSI-RLS像の再構成が可能になる。
【0038】
図11は、カバープレート上で水中に浸漬された100nm金ナノ粒子の(a)大視野像と(b)SI-RLS像、及び(c)1個の金ナノ粒子の横方向と軸方向のプロファイルを示す。SI-RLS像は横方向及び軸方向のいずれにおいても向上した像コントラスト及び優れた解像度を示す。大視野像の横方向及び縦方向における平均半値全幅(FWHM)は、262±6nm及び867±19nmである。SI-RLS像において対応するFWHMはそれぞれ、117±10nm及び428±18nmである。解像度は、横方向で〜2.2倍に、また軸方向で〜2.0倍に、向上している。この向上は3D-SIM蛍光像形成における向上と同等である。
【0039】
図12はHeLa細胞の微分干渉コントラスト像を示す。あらかじめ複数の100nm金ナノ粒子がHeLa細胞に取り込まれている。比較のため、図12(a)に示される囲み内の、ハロゲン光源で照明された大視野像の3D図及びSI-RLS像が図12(b)及び図12(c)に示される。SI-RLS像により、弱められた背景及び隣接ナノ粒子との弁別を可能にする解像度の向上が達成されている。図12は本発明で開示されたSI-RLSシステムの生物学的応用を実証している。
【0040】
本開示及びその利点を詳細に説明したが、添付される特許請求の範囲に定められるような本開示の精神及び範囲を逸脱することなく、本発明に様々な変更、置換及び改変がなされ得ることは当然である。例えば、上で論じたプロセスの多くは、異なる方法で実施することができ、または他のプロセスで置き換えることができ、あるいはこれらの組合せも可能である。
【0041】
さらに、本出願の範囲が、本明細書に説明される、プロセス、機械、製品、物質の組成、手段、方法及び工程の特定の実施形態に限定されるとするようなことはない。当業者であれば、本明細書で説明した対応する実施形態と実質的に同じ機能を果たすかまたは実質的に同じ結果を達成する、現在存在するかまたはこれから開発され得る、プロセス、機械、製品、物質の組成、手段、方法または工程が本開示にしたがって利用され得ることを、本明細書の開示から容易に理解するであろう。したがって、添付される特許請求項は、そのようなプロセス、機械、製品、物質の組成、手段、方法または工程を、それぞれの範囲内に包含するとされる。
【符号の説明】
【0042】
30 光学系
31 コヒーレント光源
32 SLM
33,46 回転ディフューザー
34 マスク
35 ステージ
36 共役像平面
36' 対物レンズの後方焦平面
37,47 対物光学系
40,50 光学撮像システム
41 He-Neレーザ
42 ビームエキスパンダー
43 ステージ
44 位相限定SLM
44a パターン付標的
45a,45b,45c,45d,45e レンズ
47 対物光学系
48 対物光学系の後方焦平面
49 CCDカメラ
55' 1/4波長板
55a,55b,55c,55d レンズ
411 50/50ビームスプリッター
412 チューブレンズ
413 リレーレンズ
414 光学顕微鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非コヒーレント構造光照明を用いる光学撮像システムにおいて、
光学顕微鏡であり、
試料に近い第1の側、試料から遠い第2の側、前方焦平面及び後方焦平面を有する対物光学系であって、前記前方焦平面は前記試料に重なるものである対物光学系と、
前記対物光学系の前記第1の側に配置されたステージであって、前記対物光学系に向かう方向及び前記対物光学系から離れる方向に移動するように、また前記ステージの前記対物光学系に近い側の表面に試料を載せるように構成された、ステージと、
を備えた光学顕微鏡、
前記対物光学系の前記第2の側上に入射光ビームを反射するため及び撮像記録デバイスに前記試料からの散乱光を送るための、光路上に配置された50/50ビームスプリッター、
前記対物光学系を通る光路を形成するコヒーレント光を放射するコヒーレント光源、
前記光路上に配置され、前記対物光学系の前記前方焦平面に前記コヒーレント光からの構造光パターンを形成するように構成された、空間光変調器、
前記光路上に配置された複数枚の光学レンズであって、前記構造光パターンの少なくとも1つの共役像平面がそれによって前記光路上に形成される光学レンズ、
及び
前記コヒーレント光のコヒーレンスを崩すように構成され、前記少なくとも1つの共役像平面に配置された、回転ディフューザー、
を備えることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記光路上に配置された1/4波長板をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記試料から散乱された光を受け取るように構成された、前記対物光学系の前記第2の側に配置された電荷結合素子カメラをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記空間光変調器が、パターン付物体、光回折格子または液晶空間光変調器を含むことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記空間光変調器が複数のピクセルを有し、前記ピクセルの内の一部が入射光ビームの位相をシフトさせるために制御されることを特徴とする請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記光変調器が前記コヒーレント光源から少なくとも、0次、+1次及び−1次の回折ビームを発生するように構成されることを特徴とする請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
前記構造光照明パターンが、複数本の光ビームの交差によるかまたはパターン付物体の前記照明からの投影によって形成されることを特徴とする請求項4に記載のシステム。
【請求項8】
前記空間変調器が前記構造光パターンの位相及び方位を変えることを特徴とする請求項4に記載のシステム。
【請求項9】
方位が相異なる前記構造光パターンが実質的に同等の周期性を有することを特徴とする請求項4に記載のシステム。
【請求項10】
前記構造光パターンが二次元パターンまたは三次元パターンを含むことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記複数枚のレンズが、3本の回折ビームが交差する少なくとも1つの共役像平面が前記光路上に形成されるような、特定の位置に配置されることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記複数枚のレンズが、前記空間光変調器からの前記+1次回折ビーム及び前記−1次回折ビームが前記対物光学系の縁端に近づくような、特定の位置に配置されることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記複数枚のレンズが、前記空間光変調器の前記回折ビームが前記対物光学系の前記後方焦平面上に集束されるような、特定の位置に配置されることを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記回転ディフューザーが、前記光源に対して透明であり、光コヒーレンスを崩すための、粗表面を有するかまたは光学コーティングを表面に有する、プレートまたは磨りガラスを有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記ディフューザーが前記光路を軸にして連続的に360°回転することを特徴とする請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記ディフューザーが前記光路を軸にして急速にまた連続的に振動することを特徴とする請求項14に記載のシステム。
【請求項17】
前記ステージが、前記対物光学系に向かうかまたは前記対物系から離れる方向に移動するように、圧電変換器によって制御されることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
非コヒーレント構造光照明を発生する光学系において、前記光学系が、
光路を形成するコヒーレント光を出力するコヒーレント光源、
前記光路上に配置され、前記コヒーレント光を受け取る空間光変調器であって、複数本の回折コヒーレント光ビームを発生し、前記光ビームが交差する構造光パターンを形成するように構成される空間光変調器、
前記光路上に配置され、前記複数本の回折コヒーレント光ビームが交差する少なくとも1つの像平面を形成する、複数枚の光学レンズ、
前記共役像平面の1つに配置され、前記回折コヒーレント光ビームのコヒーレンスを有効に崩すように構成された、回転ディフューザー、
コヒーレンスが強度に崩されている前記複数本の回折光ビームを受け取る対物光学系、及び
試料を載せ、前記対物光学系の前方焦平面近傍に配置された、前記対物光学系の近傍にあるステージ、
を備えることを特徴とする光学系。
【請求項19】
前記空間光変調器が、パターン付物体、光回折格子または液晶空間光変調器を含むことを特徴とする請求項18に記載の光学系。
【請求項20】
前記構造光パターンが、複数本の光ビームの交差によるかまたはパターン付物体の照明からの投影によって形成されることを特徴とする請求項19に記載の光学系。
【請求項21】
前記光変調器が前記コヒーレント光源から少なくとも、0次、+1次及び−1次の回折ビームを発生することを特徴とする請求項18に記載の光学系。
【請求項22】
前記回転ディフューザーが、前記光源に対して透明であり、光コヒーレンスを崩すための、粗表面を有するかまたは光学コーティングを表面に有する、プレートまたは磨りガラスを有することを特徴とする請求項18に記載の光学系。
【請求項23】
前記ディフューザーが前記光路を軸にして連続的に360°回転することを特徴とする請求項22に記載の光学系。
【請求項24】
前記ディフューザーが前記光路を軸にして急速にまた連続的に振動することを特徴とする請求項22に記載の光学系。
【請求項25】
前記構造光パターンが二次元パターンまたは三次元パターンを含むことを特徴とする請求項18に記載の光学系。
【請求項26】
前記複数枚の光学レンズが、前記空間光変調器からの前記+1次回折ビーム及び前記−1次回折ビームが前記対物光学系の縁端に近づくような、特定の位置に配置されることを特徴とする請求項18に記載の光学系。
【請求項27】
前記複数枚のレンズが、前記空間光変調器からの前記回折ビームが前記対物光学系の後方焦平面上に集束されるような、特定の位置に配置されることを特徴とする請求項26に記載の光学系。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−88808(P2013−88808A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−222014(P2012−222014)
【出願日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【出願人】(512257299)ナショナル シンクロトロン ラディエイション リサーチ センター (1)
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL SYNCHROTRON RADIATION RESEARCH CENTER
【Fターム(参考)】