説明

構造物の吊上げ用治具及びこれを用いた構造物の吊上げ方法

【課題】 構造物に設けた障害物にワイヤロープが干渉することがなく、構造物の吊上げ、回転、起立等の作業工数を低減することができ、その上安全な構造物の吊上げ用治具及びこれを用いた構造物の吊上げ方法を提供する。
【解決手段】 頂部吊り環4a及び下部吊り環4bが設けられた胴体部3と、この胴体部3の両側に固定され、先端部にヒンジ部8を介して傾動可能に受け枠6a,6bが設けられた天秤5a,5bとにより吊上げ用治具1を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物を吊上げる際に使用する吊上げ用治具及びこれを用いた構造物の吊上げ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図11(a)は従来の構造物の吊上げ方法の一例を示す説明図である。図において、30は吊上げる側面ほぼ凹状の構造物で、図には船体を分割した重量の大きい船体ブロックが示してある。
この構造物30の前部側31(上甲板)には、例えば配管群からなる障害物34が設けられているため、吊上げに際してワイヤロープが干渉すると、障害物34を損傷したり破壊したりするおそれがある。そのため保護部材により障害物34を保護するようにしていたが、その装着、取外しがきわめて面倒である。このようなことから、障害物34にワイヤロープが干渉しないようにした吊上げ方法が行われている。以下にこのような従来の構造物の吊上げ方法について説明する。
【0003】
図11(a)において、前部側31の下部の幅方向(図面の垂直方向)には所定の間隔で設けた複数の前部吊り環33aが設けられており、また障害物34の上方には幅方向に所定の間隔で複数の上部吊り環33c,33dがそれぞれ設けられている。また、後部側32(船底)の上部の幅方向には所定の間隔で複数の後部吊り環33bが設けられている。35は前部側31と後部側32との間に設けられた補強材、36は構造物30の重心位置を示す。なお、40は地上に設けられて構造物30が載置される盤木である。
【0004】
上記のような構造物30を吊上げるには、先ず、図11(a)に示すように、上部がイコライザー天秤を介してクレーンに設けた第1のウインチのドラム(いずれも図示せず)に巻かれたワイヤロープ37aの下端部を上部吊り環33c,33dにそれぞれ掛け、また、前部吊り環33aに一端がフリー状態にあるワイヤロープ37bの他端を掛ける。さらに、後部吊り環33bに、上部がイコライザー天秤を介してクレーンに設けた第2のウインチのドラムに巻かれたワイヤロープ37cの下端部を掛ける。
そして、第1、第2のウインチによりワイヤロープ37a,37cを若干巻上げて、構造物30を盤木40から浮かせて、ワイヤロープ37cを固定する。
【0005】
次に、第1のウインチによりワイヤロープ37aを巻上げて、図11(b)に示すように構造物30の前部側31を引き上げ、構造物30を回転させて傾斜させ、ワイヤロープ37aを固定する。そして、構造物30の下に高所作業車38を移動し、ワイヤロープ37bの下端部を保持させる。
ついで、ワイヤロープ37cを後部吊り環33bから外してこれが巻かれたウインチを図の左方に移動させ、ワイヤロープ37cをワイヤロープ37bと接続して、高所作業車38を移動させる。
【0006】
そして、第2のウインチによりワイヤロープ37cを巻上げると共に、第1のウインチによりワイヤロープ37aを若干巻戻すことにより、図11(c)に示すように、構造物30を90°回転させて起立させる。これにより、構造物30の吊上げ、回転作業が終了する。なお、必要に応じてクレーンやウインチを操作して吊上げられた構造物30を所定の場所へ移動する(上記の構造物の吊上げ方法を従来技術という。なお、この従来技術が記載された刊行物はなかった)。
【0007】
また、マスブロックの4か所にワイヤロープを掛けてクレーンで吊上げる際に、マスブロックとワイヤロープとの間に磁石を有するプロテクタを配置して、マスブロックとワイヤロープを保護するようにした技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】実願昭58−51002号(実開昭59−156078号)のマイクロフイルム
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術においては、構造物30を吊上げる際に、保護部材で障害物34を保護する必要はないが、構造物30の吊上げ作業の途中でワイヤロープ37cを後部吊り環33bから外して、高所作業車38により前部吊り環33aに掛けたワイヤロープ37bと接続しなければならないため、きわめて面倒で作業工数が増加するばかりでなく、作業中に作業者が傾斜して吊上げた構造物30からワイヤロープ37cを外し、このワイヤロープ37cを高所作業車38上でワイヤロープ37bに接続しなければならないため、危険であった。
【0009】
また、特許文献1に記載の技術は、マスブロックを吊上げるだけで、吊上げ作業中にマスブロックを傾動させたり回転させたりすることができないので、上記の従来技術のような構造物の吊上げ作業に適用することはできない。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、構造物に設けた障害物にワイヤロープが干渉することがなく、構造物の吊上げ、回転、起立等の作業工数を低減することができ、その上安全な構造物の吊上げ用治具及びこの吊上げ用治具を用いた構造物の吊上げ方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る構造物の吊上げ用治具は、頂部吊り環及び下部吊り環が設けられた胴体部と、該胴体部の一方の側又は両側に固定され、先端部にヒンジ部を介して傾動可能に受け枠が設けられた天秤とを備えたものである。
【0012】
上記の胴体部に固定された天秤を、下方に10〜20°傾斜させた。
また、上記の吊上げ用治具を所定の間隔で2基並設し、これら2基の吊上げ用治具を複数の連結部材により一体に固定した。
【0013】
本発明に係る構造物の吊上げ方法は、上記の吊上げ用治具の胴体部の上部に第1の吊上げワイヤロープを取付けると共に、該胴体部の下部にワイヤロープを取付けて該ワイヤロープの先端部を構造物の前部側下部に掛止させて前記吊上げ用治具の受け枠を前記構造物の前部側に当接させ、また第2の吊上げワイヤロープを前記構造物の後部側上部に掛止させ、前記第1の吊上げワイヤロープを巻上げて前記構造物を起立させるようにしたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、構造物の吊上げにあたって吊上げ用治具を用いることによりワイヤロープが障害物に干渉することがないので、障害物に保護部材を設ける必要がない。また、従来技術のようにワイヤロープの接続替えをする必要がないので、作業工数を大幅に低減することができ、その上吊上げ作業中に作業者が構造物の周辺に立入ることもないので、安全である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[実施の形態1]
図1は本発明の実施の形態1に係る構造物の吊上げ用治具の平面図、図2は図1の正面図、図3は一部の部材を付加した吊上げ用治具の正面図である。
鋼材からなる吊上げ用治具1において、2はほぼやじろべえのような形状の本体部で、胴体部3の上端部には頂部吊り環4aが設けられており、下端部には下部吊り環4bが設けられている。5a,5b(以下、単に5と記すことがある)は頂部吊り環4aの下方において、基部が胴体部3の両側に溶接等により互いに下方にθ1(例えば、θ1=10°〜20°)傾斜して取付けられた左右一対の天秤である。
【0016】
この天秤5a,5bには、ヒンジ腕7を有しヒンジ部8を介して天秤5a,5bと直交して装着された受け枠6a,6b(以下、単に6と記すことがある)が設けられており、この受け枠6a,6bはヒンジ部8により、図3に破線で示すように、所定の角度θ2(例えば、θ2=30°)で上部が内側(胴体部3側)に傾動できるようになっている。なお、胴体部3と受け枠6a,6b間の距離Lは、図11で示した障害物34の前部側31からの高さより長く形成されている。
9は胴体部3と天秤5a,5bとの間に設けられた補強板、10はヒンジ部8の近傍において天秤5a,5bの下面に設けられた補強板、11は受け枠6a,6bとヒンジ腕7との間に設けられた補強板で、補強板10と11との間には、受け枠6a,6bの傾動範囲を規制するストッパ12が設けられている。
【0017】
上記のように構成した2基の本体部2は、図1に示すように、所定の間隔を隔てて複数の連結部材14により一体に固定されており、これにより本実施の形態に係る吊上げ用治具1が構成されている。
【0018】
13aは頂部吊り環4aに回動可能に取付けられた頂部シャックル、13bは下部吊り環4bに回動可能に取付けられた下部シャックルである。
20はワイヤロープで、両端部には上部玉掛けロープ21a、下部玉掛けロープ21bが設けられており、上部玉掛けロープ21aは吊上げ用治具1の下部シャックル13bに着脱可能に取付けられ、下部玉掛けロープ21bには玉掛けシャックル22が取付けられている。23は第1の吊上げワイヤロープで、その一端に設けた頂部玉掛けロープ24(図4参照)が頂部シャックル13aに着脱可能に取付けられ、他端は後述のイコライザー天秤に取付けられている。
【0019】
次に、上記のように構成した吊上げ用治具1を用いて構造物1を吊上げる作業の一例を図4〜図6により説明する。なお、図11で説明した従来技術と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、説明を省略する。
本実施の形態においては、図11の構造物30の前部側31に設けた上部吊り環33c,33dは設けられていない。また、図5は構造物30の前部側31の正面図で、吊上げ用治具1に連結された第1の吊上げワイヤロープ23の他端はそれぞれイコライザー天秤25に取付けられており、イコライザー天秤25は、クレーンに設けた第1のウインチのドラムに巻かれたワイヤロープに連結されている。
【0020】
先ず、図4(a)に示すように、第1のウインチにより第1の吊上げワイヤロープ23を巻戻して、これに取付けた吊上げ用治具1を障害物34の下まで下降させる。このとき、ワイヤロープ20に設けた玉掛けシャックル22は、前部吊り環33aの近傍に位置する。そして、図4(b)に示すように、玉掛けシャックル22を前部吊り環33aに掛止させると、吊上げ用治具1の受け枠6bが構造物30の前部側31に当接する。
また、図6(a)に示すように、イコライザー天秤(図示せず)を介して第2のウインチのドラムに巻かれた第2の吊上げワイヤロープ26の下端部を、構造物30の後部側32に設けた後部吊り環33bに掛止させる。
【0021】
このとき、吊上げ用治具1の受け枠6a,6bはヒンジ8により傾動できるようになっているので、構造物30の前部側に確実に当接する。また、吊上げ用治具1の天秤5a,5bと受け枠6a,6bの長さLは、障害物34の高さより長いので、第1の吊上げワイヤロープ23が障害物34に干渉することはない。
【0022】
次に、図6(a)に示すように、第1、第2のウインチにより第1、第2の吊上げワイヤロープ23,26を若干巻上げて、構造物30を盤木40から浮かせる。
ついで、図6(b)に示すように、後部側32の第2の吊上げワイヤロープ26を固定し、前部側31の第1の吊上げワイヤロープ23を第1のウインチで巻上げ、構造物30の前部側31を吊上げて傾斜(回転)させる。
【0023】
吊上げの当初においては、構造物30が傾斜しても、吊上げ用治具1に荷重による負荷が作用するため、受け枠6bの面が構造物30の前部側31にバランスよく均等に当接する。また、天秤5bは下方にθ1°傾斜しているので、天秤5bの基部に作用する玉掛けワイヤロープ24による曲げ応力を低減することができる。
構造物30を吊上げて傾斜すると、吊上げ用治具1は構造物30から徐々に離れ、最終的には、ワイヤロープ20と第2の吊上げワイヤロープ23は一直線になる。
【0024】
引続き第1の吊上げワイヤロープ23を巻上げると、図6(c)に示すように、構造物30は90°回転して起立する。このとき、第2の吊上げワイヤロープ26は構造物30の上端部(図の右側)に摺接する。これにより、構造物30の吊上げ(回転)作業が終了する。なお、必要に応じて、クレーンやウインチを操作することにより、構造物30を所望の位置に移動させることができる。
【0025】
上記のように、本実施の形態によれば、構造物30の吊上げにあたって吊上げ用治具1を用いることにより、ワイヤロープが障害物34に干渉することがないので、障害物34に保護部材を設ける必要がない。また、従来技術のように構造物30に上部吊り環33c,33dを設ける必要がないので、コストを低減できる。
さらに、従来技術のようにワイヤロープの接続替えをする必要がないので作業工数を大幅に低減することができるばかりでなく、吊上げ作業の周辺に作業者が立入ることもないので、きわめて安全である。
【0026】
[実施の形態2]
図7は本発明の実施の形態2に係る構造物の吊上げ用治具の正面図である。なお、実施の形態1と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、説明を省略する。
実施の形態1においては、吊上げ用治具1の本体部2の胴体部3の両側に、先端部に受け枠6a,6bを有する天秤5a,5bを設けた場合を示したが、本実施の形態は、胴体部3の左右いずれか一方の側にのみ、先端部に受け枠6を有する天秤5を設けたものである。
本実施の形態においても、実施の形態1の場合とほぼ同様の作用、効果を得ることができる。
【0027】
[実施の形態3]
実施の形態1においては、2基の本体部2を連結部材14で一体に固定して吊上げ用治具1を構成した場合を示したが、本実施の形態においては、1基の本体部2により吊上げ用治具1を構成したものである。
本実施の形態によれば、比較的軽量の構造物の吊上げや回転に実施することができる。
【0028】
図8〜図10は本発明に係る吊上げ用治具の他の使用例を示すものである。
図8は上部に突起部34aを有する構造物30aを、本発明に係る吊上げ用治具1を使用し、吊上げて回転させる場合を示すもので、その手順、効果は実施の形態1の場合とほぼ同様である。
【0029】
図9は浮体構造物45を曳航する場合に、本発明に係る吊上げ用治具1を利用したものである。曳航にあたっては、浮体構造物45の上面に設けた吊り環46に吊上げ用治具1に連結したワイヤロープ20の玉掛けシャックル22を掛止させると共に、吊上げ用治具1の受け枠6を上面に当接し、吊上げ用治具1に連結した第1の吊上げワイヤロープ23を曳船に連結して曳航するようにしたものである。なお、この場合、吊上げ用治具1の受け枠6のヒンジ8を固定しておくことが望ましい。
【0030】
図10はブロック状の構造物47を吊上げる際に、本発明に係る吊上げ用治具1を利用したもので、吊上げ用治具1に連結したワイヤロープ20の玉掛けシャックル22を構造物47の上面に設けた吊り環48に掛止させ、吊上げ用治具1に連結した第1の吊上げワイヤロープ23をウインチにより巻上げて構造物47を吊上げるようにしたものである。このように、本発明に係る吊上げ用治具1は、障害物がない構造物47を単に吊上げるだけの場合にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態1に係る構造物の吊上げ用治具の平面図である。
【図2】図1の正面図である。
【図3】図2の吊上げ用治具に一部の部材を付加した状態を示す正面図である。
【図4】実施の形態1に係る吊上げ用治具を用いた構造物の吊上げ方法の説明図である。
【図5】実施の形態1に係る吊上げ用治具を用いた構造物の吊上げ方法の説明図である。
【図6】実施の形態1に係る吊上げ用治具を用いた構造物の吊上げ方法の説明図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る一部の部材を付加した構造物の吊上げ用治具の正面図である。
【図8】本発明に係る吊上げ用治具の他の使用例の説明図である。
【図9】本発明に係る吊上げ用治具の他の使用例の説明図である。
【図10】本発明に係る吊上げ用治具の他の使用例の説明図である。
【図11】従来の構造物の吊上げ方法の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 吊上げ用治具、2 本体部、3 胴体部、4a 頂部吊り環、4b 下部吊り環、5a,5b 天秤、6a,6b 受け枠、8 ヒンジ部、14 連結部材、20 ワイヤロープ、22 玉掛けシャックル、23 第1の吊上げワイヤロープ、26 第2の吊上げワイヤロープ、30 構造物、33a 前部吊り環、33b 後部吊り環、34 障害物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頂部吊り環及び下部吊り環が設けられた胴体部と、該胴体部の一方の側又は両側に固定され、先端部にヒンジ部を介して傾動可能に受け枠が設けられた天秤とを備えたことを特徴とする構造物の吊上げ用治具。
【請求項2】
前記胴体部に固定された天秤を、下方に10〜20°傾斜させたことを特徴とする請求項1記載の構造物の吊上げ用治具。
【請求項3】
前記吊上げ用治具を所定の間隔で2基並設し、これら2基の吊上げ用治具を複数の連結部材により一体に固定したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の構造物の吊上げ用治具。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの吊上げ用治具の胴体部の上部に第1の吊上げワイヤロープを取付けると共に、該胴体部の下部にワイヤロープを取付けて該ワイヤロープの先端部を構造物の前部側下部に掛止させて前記吊上げ用治具の受け枠を前記構造物の前部側に当接させ、また第2の吊上げワイヤロープを前記構造物の後部側上部に掛止させ、前記第1の吊上げワイヤロープを巻上げて前記構造物を起立させることを特徴とする構造物の吊上げ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−213501(P2006−213501A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30179(P2005−30179)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)
【Fターム(参考)】