説明

構造物表面の塩分測定装置

【課題】 迅速且つ高精度に被検出面に付着する塩分濃度を測定することが可能なシンプルで頑丈な構造の塩分測定装置を提供する。
【解決手段】 装置本体2と、装置本体2に接続された検出部1とからなる塩分測定装置であって、検出部1は、一端に開口部11cを有し且つ塩分測定の際に塩分抽出用の純水を受入れて保持する液保持室11と、純水を液保持室11に供給する液供給流路12と、純水の供給時に液保持室11内の空気を排気するエア抜き流路13と、液保持室11内の液を撹拌する撹拌子14と、液保持室11内に検出端を露出させた塩分測定用センサー15とを備えており、撹拌子14はその攪拌軸方向に液保持室11内の液を流動させることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種構造物の表面に付着した塩分を抽出採取すると同時に、その塩分測定を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道用や道路用の橋梁、船舶、プラントの大型タンク等のような鋼を用いた構造物は、腐蝕を防止するため、新しく建造する時あるいはメンテナンス時に表面塗装を行う必要がある。
【0003】
しかし、これら鋼構造物の表面に海塩粒子等の塩分が付着したまま表面塗装を行うと、塗膜に膨れや層間剥離が生じたり、鋼構造物の素地表面に錆が発生したりして防食効果が得られなくなる。そのため、表面塗装を行う前に、鋼構造物表面の塩分濃度を測定し、鋼構造物表面の清浄度を管理することが従来から行われている。
【0004】
鋼構造物表面に付着する塩分濃度は、鋼構造物の種類や環境等により異なるが、海岸付近では1000mg/mを超えることがある。この塩分を洗浄やサンドブラスト等によって取り除き、表面塗装を行う前の段階で、通常50〜300mg/m程度に設定される管理濃度以下にする必要がある。
【0005】
このような場合に、鋼構造物表面の塩分濃度を測定する装置として、特許文献1〜3に示されるように、液保持室を有する検出部を鋼構造物の被検出面に当接させ、該液保持室に塩分抽出用の純水を供給し、該液保持室に設けられた撹拌子を用いて純水を撹拌して被検出面から塩分を溶解抽出した後、その液の電気伝導率を測定することにより、鋼構造物表面の塩分濃度を測定する装置が知られている。
【0006】
【特許文献1】特許第3912776号公報
【特許文献2】実公平4−5003号公報
【特許文献3】米国特許第6946844号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来の鋼構造物表面の塩分測定装置に設けられている攪拌子は、液保持室内の液体を単に撹拌することを目的としたものであるため、正確に測定するため被検出面に付着している塩分を十分に溶解抽出させるには長い時間が必要であった。とりわけ鋼構造物が塩分で激しく腐食した状態の腐食鋼板では、塩分が腐食孔の奥にもぐり込んだ状態にあるため、10分程度又はそれ以上の長い時間が必要であった。
【0008】
これに加えて、鋼構造物の天井面部分を塩分測定装置で測定する場合は、液保持室に純水を供給する際に排気されなかった少量の残留空気が、天井面と攪拌子の攪拌軸とが交差する部分に集まり、被検出面と純水との接触を阻害して測定値に誤差を生じさせる原因となっていた。
【0009】
本発明は、かかる従来の事情に鑑みてなされたものであり、鋼等の構造物表面の向きや腐食状況に起因して、被検出面に付着している塩分濃度を正確に測定することが困難な状態にあっても、迅速且つ高精度に塩分を溶解抽出することが可能なシンプル且つ頑丈な構造の塩分測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明が提供する構造物表面の塩分測定装置は、演算処理装置と共に操作パネル及び表示部を備えた装置本体と、該装置本体に接続された検出部とからなり、該検出部は、一端に開口部を有し且つ塩分測定の際に塩分抽出用の純水を受入れて保持する液保持室と、純水を液保持室に供給する液供給流路と、純水の供給時に液保持室内の空気を排気するエア抜き流路と、液保持室内の液を撹拌する撹拌子と、液保持室内に検出端を露出させた塩分測定用センサーとを備えており、該撹拌子はその攪拌軸方向に液保持室内の液を流動させることを特徴とする。
【0011】
上記本発明の構造物表面の塩分測定装置においては、前記撹拌子に、軸流タービン翼又は傾斜パドル翼を用いることが好ましく、この軸流タービン翼又は傾斜パドル翼は、翼が30〜60°の角度で傾斜しているのがより好ましい。
【0012】
また、上記本発明の構造物表面の塩分測定装置においては、前記撹拌子が、樹脂又は耐食性を有する金属から形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被検出面が天井面にあったり激しく腐食していたりして、容易に塩分濃度を測定することができないような構造物表面の塩分濃度を、シンプル且つ頑丈な構造の測定装置で迅速且つ高精度に測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1を参照しながら本発明に係る構造物表面の塩分測定装置の一実施例を説明する。この塩分測定装置は、図示しない演算処理装置と共に操作パネル2a及び表示部2bなどを備えた装置本体2と、装置本体2にコードを介して接続された検出部1とからなり、軽量小型で持ち運びできる簡易な装置である。
【0015】
検出部1は、塩分抽出用の純水を受入れて保持する2〜20ml程度の容量の液保持室11を有している。液保持室11は、好適にはABS、PVC(ポリ塩化ビニル)、PMMA(アクリル)、PA(ポリアミド)、PTFE(フッ素樹脂)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、エポキシ等の樹脂からなる上底面11aと側面11bによって画定されている。上底面11aに対向する下端側には、液保持室11内に受入れられた純水が鋼構造物表面Sの被検出面に接してそこに付着している塩分を抽出採取できるように、所定の開口面積を有する好適には円形の開口部11cが設けられている。
【0016】
上記塩分を抽出採取する純水は、図1に例示するシリンジ3や軟質プラスチック容器等の純水供給源から液供給流路12を介して液保持室11に供給される。液供給流路12の一端部には、かかる純水供給源が着脱自在に取り付けられるように接続部が設けられている。液保持室11には、更に外部に連通するエア抜き流路13が設けられており、純水を受入れる際は、ここから液保持室11内の空気が抜出される。エア抜き流路13は液供給流路12に対向する位置に設けられるのが好ましい。エア抜き流路13の出口部には、開閉可能なエア抜き栓13aが設けられている。
【0017】
液保持室11の形状は特に限定するものではないが、図1に示すように、上底面11aが、その中央部に向かうに従って開口部11c側に徐々に隆起するような逆錐状に形成されているのが好ましい。これにより、液保持室11に純水を供給する際、純水の流入に伴って、液保持室11内の空気は上底面11aのテーパー面に沿って上底面11aの周縁部に向けてスムースに移動し、そこに位置するエア抜き流路13から外部に完全に排気される。このように、純水の受入れ時に液保持室11内に空気がほとんど残留しなくなるので、液保持室11内には常に一定量の純水を受入れることができる。その結果、液量の相違による塩分濃度の測定誤差をなくすことができ、高精度な測定が可能となる。
【0018】
エア抜き流路13の数は、図1に示す1本に限定されるものではなく、複数本設けても良い。これにより、鋼構造物表面が様々な方向を向いていても、液保持室11内に純水を供給する際に良好に空気を抜出すことが可能となり、常に高精度な測定を行うことが可能となる。
【0019】
例えば、液保持室11の上底面11a側と開口部11c側にそれぞれエア抜き流路を設けることによって、図2に示すように、鋼構造物表面が水平上向き面S1や斜め上を向く傾斜面S2の場合は、上底面11a側に設けられたエア抜き流路から空気を抜き、鋼構造物表面が天井面S5や斜め下を向く傾斜面S4の場合は、開口部側に設けられたエア抜き流路から空気を抜きを行うことが可能となる。尚、鋼構造物表面が垂直面S3の場合は、いずれのエア抜き流路から空気を抜いてもよい。
【0020】
検出部1は、更に液保持室11内の液体の電気伝導率を測定する塩分測定用センサー15を有している。この塩分測定用センサー15は、上底面11a又は側面11bから露出するように設けるのが望ましい。また、検出部1は、液体の温度変化による電気伝導率の変動を補償するための温度センサー(図示せず)を有しても良い。これら塩分測定用センサー15や温度センサーは、リード線によって装置本体2の演算処理装置に接続されている。検出部1には、更に後述する撹拌子14用のモーター16、モーター16を駆動させるスイッチ17、モーター16の電源となる電池18等が収納されている。
【0021】
液保持室11の開口部11cの周囲にはシリコーンゴム等からなるO−リング等のシール部材19が設けられており、更にシール部材19の外側には永久磁石20が配置されている。これにより、検出部1を鋼構造物の被検出面に当接させた時、永久磁石20によって検出部1が鋼構造物に固定される。また、この時、シール部材19によって液保持室11は液密状態が保たれる。
【0022】
液保持室11内には、液保持室11内の液を撹拌する撹拌子14が設けられている。この撹拌子14は、500〜3000rpmの回転数で液体を攪拌した時、その攪拌軸方向に液保持室11内の液体を流動させることを特徴としている。これは、撹拌子14にシンプル且つ頑丈な構造の軸流タービン翼又は傾斜パドル翼を用いることで可能となる。このように、攪拌軸方向に液体を流動させることにより、より効率よく被検出面に付着している塩分を溶解抽出させることが可能となる。
【0023】
即ち、一般的な丸棒状やパドル状の攪拌子24で攪拌した場合は、液保持室11内の液体は、図3(a)の矢印R1に示すように、主に攪拌軸Oを中心として鋼構造物表面Sに沿って単に回転する流れを形成するだけであるため、被検出面に付着している塩分を十分に溶解抽出させるには長時間を要していたが、本発明の攪拌子14では、図3(b)の矢印R2に示すように、鋼構造物表面Sに向かって撹拌子14から直接液体が噴射されるような流れが形成されるため、より効率よく被検出面に付着している塩分を溶解抽出することが可能となる。
【0024】
更に、一般的な丸棒状やパドル状の攪拌子24で攪拌した場合は、天井面にある鋼構造物表面Sの塩分濃度を検出する際、図4(a)に示すように、鋼構造物表面Sと攪拌軸Oとの交差部分に気泡が集まって空気溜まりAを形成し、被検出面と純水との接触の障害となっていたが、本発明の攪拌子14では、図4(b)に示すように、鋼構造物表面Sに向かって撹拌子14から直接液体が噴射されるため、上記のような空気溜まりが形成されず、被検出面と純水とを良好に接触させることが可能となる。尚、攪拌子14を上記とは逆方向に回転させて、被検出面の周縁部から中心部に巻き込むような流れを形成させてもよい。
【0025】
攪拌子14に軸流タービン翼又は傾斜パドル翼を用いる場合は、翼が30〜60°の角度で傾斜していることが好ましい。30°未満では、攪拌軸方向の吐出量が少なくなり、溶解抽出の効果が低下するからであり、一方、60°を超えると翼の単位重量当たりの攪拌軸方向の吐出量が減少し、溶解抽出の効果が低下するからである。軸流タービン翼又は傾斜パドル翼の枚数は特に限定するものではないが、2〜4枚が好ましく、2枚がより好ましい。
【0026】
撹拌子14の材質は、特に限定するものではないが、POM(ポリアセタール)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、ABS、PVC(ポリ塩化ビニル)、PMMA(アクリル)、PC(ポリカーボネート)等の樹脂、又はSUS、チタン等の耐食性を有する金属が好ましい。尚、上記したように、撹拌子14は構造がシンプルであるため頑丈である上、成型や削り出しによって簡易に作製することができる。
【0027】
上記した塩分測定装置を使用して鋼構造物表面の塩分を測定する場合は、先ず、検出部1の開口部11c側を鋼構造物表面Sの被検出面に当接し、永久磁石20の磁力により鋼構造物表面Sに密着固定させる。エア抜き流路13のエア抜き栓13aを緩め、シリンジ3から液供給流路12を介して所定量の純水を液保持室11に注入する。このとき、純水が注入されていくに従って、液保持室11内の空気はエア抜き流路13から外部に排気される。
【0028】
純水の注入が完了すると、エア抜き栓13aを締めてエア抜き流路13の流通を封鎖する。その後、スイッチ17をオンにして撹拌子14を回転させて液保持室11内の液体を撹拌し、被検出面に付着している塩分を溶解抽出する。所定時間経過後、スイッチ17をオフにして撹拌子14の回転を停止する。液保持室11内の液体に溶解抽出された塩分濃度は、液保持室11内の塩分測定用センサー15で検出され、電気信号に変換されて装置本体2の演算処理部に送られて処理され、表示部2bに被検出面の単位面積当たりの塩分濃度として表示される。
【実施例】
【0029】
予め塩分を付着して腐食させた鋼板の塩分濃度を、図1に示す塩分測定装置を用いて測定した。具体的には、当該鋼板を水平に固定し、その上方から検出部1を密着固定させた。攪拌子14には、図5に示すような、攪拌子全体の長さ28mm、各翼の長さ11mm、幅5mm、厚み1mm、傾斜角30°の2枚翼からなる傾斜パドル翼を用いた。この攪拌子14を備えた液保持室11に10mlの純水を供給し、3000rpmの回転数で攪拌子14を回転させながら、液保持室11内の液体の電気伝導率を塩分測定用センサー15で測定した。このときの測定結果を図6に示す。
【0030】
比較のため、傾斜パドル翼の代わりに全長28mm、直径5mmの丸棒状の攪拌子を用いた以外は上記と同様にして、液保持室11内の液体の電気伝導率を塩分測定用センサー15で測定した。このときの測定結果を図7に示す。
【0031】
これらの結果より、丸棒状の攪拌子を用いた場合は、電気伝導率が安定するまで10分以上かかったが、傾斜パドル翼を用いた場合は、約8分で電気伝導率が安定しており、傾斜パドル翼の方がより溶解抽出効果が高いことが分った。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明における塩分測定装置の一具体例を一部切欠いて示した概略の側面図である。
【図2】様々な方向を向いている鋼構造物表面に塩分測定装置を固定させたときの様子を示す概要図である。
【図3】丸棒状の攪拌子及び攪拌軸方向の流動を生じる攪拌子を用いて液保持室内の液体を攪拌したときの様子をそれぞれ示す概要図である。
【図4】丸棒状の攪拌子及び攪拌軸方向の流動を生じる攪拌子を用いて液保持室内の液体を攪拌したときの被検出面と流体との接触状態をそれぞれ示す概要図である。
【図5】実施例で用いた傾斜パドル翼の平面図、正面図及び側面図である。
【図6】図5の傾斜パドル翼を用いて液保持室内の液体を攪拌したときの抽出時間と電気伝導率との関係を示すグラフである。
【図7】丸棒状の攪拌子を用いて液保持室内の液体を攪拌したときの抽出時間と電気伝導率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0033】
1 検出部
2 装置本体
3 シリンジ
11 液保持室
12 液供給流路
13 エア抜き流路
14 撹拌子
15 塩分測定用センサー
16 モーター
17 スイッチ
18 電池
19 シール部材
20 永久磁石
S 鋼構造物表面
A 空気溜まり
O 攪拌軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
演算処理装置と共に操作パネル及び表示部を備えた装置本体と、該装置本体に接続された検出部とからなる構造物表面の塩分測定装置であって、該検出部は、一端に開口部を有し且つ塩分測定の際に塩分抽出用の純水を受入れて保持する液保持室と、純水を液保持室に供給する液供給流路と、純水の供給時に液保持室内の空気を排気するエア抜き流路と、液保持室内の液を撹拌する撹拌子と、液保持室内に検出端を露出させた塩分測定用センサーとを備えており、該撹拌子はその攪拌軸方向に液保持室内の液を流動させることを特徴とする構造物表面の塩分測定装置。
【請求項2】
前記撹拌子は、軸流タービン翼又は傾斜パドル翼からなることを特徴とする、請求項1に記載の構造物表面の塩分測定装置。
【請求項3】
前記軸流タービン翼又は傾斜パドル翼は、翼が30〜60°の角度で傾斜していることを特徴とする、請求項2に記載の構造物表面の塩分測定装置。
【請求項4】
前記撹拌子は、樹脂又は耐食性を有する金属から形成されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の構造物表面の塩分測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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