説明

構造色フレーク顔料および構造色フレーク顔料の製造方法

【課題】既存の塗料組成物中に加えるのみで、見る角度によって色相が変化する意匠性に優れた塗膜を提供することができる、構造色フレーク顔料を提供する。
【解決手段】平均粒子径100〜850nmの単分散の樹脂粒子であるコア部が規則的に配列したコア部配列部、およびこのコア部の規則的な配列を固定する固定相、を含む、構造色フレーク顔料であって、この構造色フレーク顔料は、厚さが1〜30μmであり、アスペクト比が1〜250であり、および、このコア部の屈折率と固定相の屈折率との屈折率差は0.01以上である、構造色フレーク顔料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存の塗料組成物中に加えるのみで、見る角度によって色相が変化する意匠性に優れた塗膜を提供することができる、構造色フレーク顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
蝶の羽や玉虫のきらきらした構造色(「パール色」や「虹色」と記載している文献もある。)の輝きは、屈折率の異なる材料が、光の波長程度の大きさを持つ規則正しい周期的な構造を形成している所へ光が入射することにより観察されることは既に知られている。この構造色は、見る角度によって色相が大きく変化することから、意匠性が非常に高いものである。そしてこの構造色については、例えば目に見える色の範囲であれば、非常に小さな粒子径の樹脂粒子、例えば粒子径が0.15〜0.50μmの範囲にある粒子を規則正しく周期的に並べることによって発現することも知られている。
【0003】
このように粒子径の小さな樹脂粒子を規則的に並べるという簡単な構成で、意匠性に優れた構造色を発現する結晶体が得られることとなるため、理論的には、粒子径の小さな粒子を製造することにより容易にしかも簡単に構造色を発現する結晶体が得られると考えられる。しかしながら実際は、粒子径の小さな樹脂粒子を用いて構造色を発現する結晶体を簡便に得ることは非常に困難である。例えば、粒子径の小さなコロイド粒子を用いた構造色を発現する結晶体の作成においては、コロイド溶液を乾燥させることによって、粒子が規則的に配列し構造色を発現する結晶体を形成することができる。しかしながらこうして得られた構造色を発現する結晶体は、ほんの僅かな力がかかることによって配列が簡単に崩れてしまい、構造色の発現が損なわれてしまう。そのため、樹脂粒子を用いた構造色を発現する結晶体の製造においては、様々な特殊操作が必要とされていた。
【0004】
特開2004−276492号公報(特許文献1)には、有機または無機の球状粒子が、縦および横方向に規則的に整合されて粒子状積層物を形成し、その粒子状積層物は少なくとも樹脂バインダーで係止され、粒子状積層物面は、可視光波長領域光の照射下に視感される垂直反射光色が構造色として有採光色を呈するカラーシートが開示されている。この特許文献1のカラーシートは樹脂粒子である球状粒子を含む構造色塗膜である。そしてこの塗膜は、球状粒子間にバインダー樹脂を塗布または噴霧させることによって、球状粒子を固定化している。
【0005】
特開2005−60654号公報(特許文献2)には、樹脂粒子サスペンジョンからグリーンシートを形成し、それを乾燥して、縦・横方向に規則的に配列する球状微細粒子の3次元粒子整合体を形成させ、次いでその表面および粒子間隙を満たすように重合性有機モノマー液、有機ポリマー液または無機バインダー液のいずれかを塗布または散布させた後、重合または硬化させてなる球状微細粒子の3次元粒子整合体の製造方法が開示されている。
【0006】
また特開2007−126646号公報(特許文献3)には、平均粒子径130nm〜1000nmの有機ポリマー単分散球状粒子(A)、およびアクリル系ポリマーのハイドロゾル型水溶性樹脂液(B)を含む水性サスペンジョン型粒子分散体が開示されている。
【0007】
上記特許文献1〜3はいずれも、粒子結晶構造を形成した後、別途調製した、粒子の配列を固定化する成分であるモノマー液またはポリマー液を、塗布あるいは噴霧する方法を用いている。図9は、特許文献1〜3における積層体形成の概略説明図である。このような形成方法においては、粒子の配列を固定化する成分を塗布または噴霧する際に、粒子の配列が崩れてしまい、粒子の構造色発現配列が壊れることがある。またこのように粒子の配列が崩れやすいため、粒子を配列させる箇所に予め粘着剤を塗布しておく必要もあり、繁雑である(特許文献1〜3の実施例参照)。
【0008】
特開2000−246829号公報(特許文献4)には、屈折率の異なる少なくとも2種類のポリマーを交互に薄膜積層して得られる透明光輝材を含む光輝材層を有する発色構造体について開示されている。この特許文献4で用いられている透明光輝材および発色構造体の概略説明図を図10に示す。ここで用いられている透明光輝材は、屈折率の異なる少なくとも2種のポリマー成分で構成される交互層状の断面構造を有する、光学干渉機能を有する複合繊維であり、そしてこれらのポリマー成分はそれぞれ0.02〜0.3μm程の層として交互積層する必要がある。さらには、繊維状に製造されることから、得られたものを色材として用いるためには、細かく切断する必要がある。上述の通り、この透明光輝材は、その製造方法が非常に煩雑であるという問題がある。
【0009】
特開2005−146023号公報(特許文献5)には、互いに非相溶で屈折率の異なる複数のポリマー鎖が結合したブロックコポリマーから形成されるミクロ相分離構造を有する発色性ポリマー構造体を含む塗膜について開示されている。この塗膜は、特定のブロックコポリマーから形成される特定の特性を持つミクロ相分離構造を有する発色性ポリマー構造体、重合性モノマーおよび重合開始剤を含む塗料から形成されている(実施例1〜5)。このように特許文献5は、重合性モノマーおよび重合開始剤が含まれる塗料といった、あくまでも塗料を開示するものである点において、本発明とはその構成が異なるものである。また、このような塗料の状態は自由度が高いため、非相溶のブロックコポリマーから形成されるミクロ相分離構造が一定状態を保持することが困難となり、結果的に、得られた塗膜が構造色を発現しなかったり、部分的に所望と異なる色を発現して色にムラが生じやすいという問題もある。
【0010】
ところで、光学干渉機能を発現する他の顔料として、例えば干渉マイカ顔料またはコーティングアルミフレーク顔料などの無機顔料が挙げられる。例えば特開平10−114867号公報(特許文献6)には、還元チタンを含む青色合成マイカ上に金属酸化物を被覆したパ−ル光沢顔料が記載されている。このパ−ル光沢顔料は、合成マイカの色と干渉色との複合作用により新しい色彩を発現すると記載されている。また特開平11−49982号公報(特許文献7)には、メタリック感と干渉色を同時に発色させる新規な顔料として、アルミニウム粒子表面に陽極酸化皮膜を形成してなることを特徴とするアルミニウム顔料が記載されている。これらの無機顔料を塗料組成物中に含めることによって、干渉色を有する塗膜を得ることができる。しかしながらこれらの無機顔料を用いる場合は、塗膜にギラギラ感が生じてしまうという不具合もある。ギラギラ感が生じてしまう要因として、これらの無機顔料は、干渉色を発現する被膜(金属酸化物被膜)の下に、フレーク形状の金属顔料が存在したり、表層もしくは中間層に金属薄膜が存在することが挙げられる。干渉色を発現する被膜を通過した光は、フレーク形状の金属顔料または金属薄膜上で鏡面反射することとなる。そしてこの鏡面反射した光が、金属フレーク顔料特有のギラギラ感をもたらすこととなる。
【0011】
【特許文献1】特開2004−276492号公報
【特許文献2】特開2005−60654号公報
【特許文献3】特開2007−126646号公報
【特許文献4】特開2000−246829号公報
【特許文献5】特開2005−146023号公報
【特許文献6】特開平10−114867号公報
【特許文献7】特開平11−49982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献1〜5に記載されるように、樹脂粒子を用いた構造色を呈する積層物または構造体の調製方法は幾つか存在する。しかしながらこれらの調製方法は何れも、粒子配列を煩雑な手順を用いて固定化する工程が必要であったり(特許文献1〜3)、光学干渉機能を有する特殊な複合繊維を別途調製し、その後に顔料を調製する(特許文献4)というように、何れもその手順が煩雑である。また特許文献1〜3および特許文献5は何れも、既存の塗料組成物に加えることができる顔料形態のものは全く開示していない。
その一方で、干渉マイカ顔料またはコーティングアルミフレーク顔料などの無機顔料を用いて、これらの無機顔料を既存の塗料組成物に含めることによって干渉色を提供することもできる。しかしながらこれらの無機顔料は干渉色の発現と同時にギラギラ感が生じてしまい、樹脂粒子を用いた場合のような落ち着いた構造色を提供することはできない。
本発明は、このような従来技術の問題を解消することを目的とし、既存の塗料組成物中に加えるのみで、見る角度によって色相が変化する、高級感のある意匠性に優れた塗膜を提供することができる、構造色フレーク顔料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
平均粒子径100〜850nmの単分散の樹脂粒子であるコア部が規則的に配列したコア部配列部、および
このコア部の規則的な配列を固定する固定相、
を含む、構造色フレーク顔料であって、
この構造色フレーク顔料は、厚さが1〜30μmであり、アスペクト比が1〜250であり、および、
このコア部の屈折率と、この固定相の屈折率との屈折率差は0.01以上である、
構造色フレーク顔料、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0014】
上記コア部は架橋樹脂粒子であるのがより好ましい。
【0015】
また上記コア部は、(メタ)アクリル樹脂、スチレン(メタ)アクリル樹脂、フッ素置換(メタ)アクリル樹脂、スチレン−フッ素置換(メタ)アクリル樹脂およびスチレン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の架橋樹脂粒子であるのがより好ましい。
【0016】
また、上記構造色フレーク顔料は;
コア部およびシェル部からなるコアシェル樹脂粒子であって、このコア部は平均粒子径100〜850nmの単分散のコア部であり、このシェル部は加熱することによって固定相を形成するシェル部であり、このコア部の屈折率とこのシェル部の屈折率との屈折率差が0.01以上である、コアシェル樹脂粒子を含む溶液を;
空隙型受容層の上に塗布して規則的に配列させ;
加熱することによって、シェル部を、コア部を規則的に配列させかつ固定する固定相とし;
得られた、固定相によって規則的な配列が固定されたコア部を有する粒子充填膜を、空隙型受容層の上から回収してフレーク顔料とする;
ことによって調製された構造色フレーク顔料であるのがより好ましい。
【0017】
上記構造色フレーク顔料の1態様として、上記コアシェル樹脂粒子におけるコア部およびシェル部の質量比が、コア部/シェル部で7/3以上9/1以下であり、および
得られた構造色フレーク顔料は、固定相によって規則的な配列が固定されたコア部とコア部との間に空隙を有するものが挙げられる。
【0018】
上記構造色フレーク顔料の他の態様として、上記コアシェル樹脂粒子におけるコア部およびシェル部の質量比は、コア部/シェル部で1/9以上7/3未満であり、および
得られた構造色フレーク顔料は、規則的な配列が固定されたコア部とコア部との間に固定相が満たされており空隙を有さないものが挙げられる。
【0019】
上記コアシェル樹脂粒子は、乳化重合またはソープフリー乳化重合によって調製されるコアシェル樹脂粒子であるのがより好ましい。
【0020】
本発明はまた、
コア部およびシェル部からなるコアシェル樹脂粒子であって、このコア部は平均粒子径100〜850nmの単分散のコア部であり、このシェル部は融着工程において固定相を形成するシェル部であり、およびこのコア部の屈折率とこのシェル部の屈折率との屈折率差が0.01以上である、コアシェル樹脂粒子を調製する、コアシェル樹脂粒子調製工程、
得られたコアシェル樹脂粒子を含む溶液を、空隙型受容層の上に塗布して、コアシェル樹脂粒子を規則的に配列させる、塗布工程、
規則的に配列したコアシェル樹脂粒子を加熱して、シェル部による規則的に配列したコア部を固定する固定相を得る、融着工程、
融着工程より得られた、固定相によって配列が固定されたコア部を有する粒子充填膜を、空隙型受容層の上から回収しフレーク顔料とする、回収工程、
を包含する、構造色フレーク顔料の製造方法、も提供する。
【0021】
上記空隙型受容層は、100nm未満の空隙を有する受容層であるのがより好ましい。
【0022】
本発明はまた、上記製造方法によって得られる構造色フレーク顔料も提供する。
【0023】
本発明はさらに、上記構造色フレーク顔料を含む塗料組成物も提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の構造色フレーク顔料は、既存の塗料組成物中に加えるのみで、樹脂粒子による構造色特有の、見る角度によって色相が変化し、かつ落ち着き感があり高級感がある意匠性に優れた塗膜を提供することができる。本発明の構造色フレーク顔料は、顔料に含まれる、単分散の樹脂粒子であるコア部が規則的に配列したコア部配列部と、このコア部の配列を固定する固定相とを有することによって、コア部の規則的な配列がもたらす、光の干渉、屈折率分散、散乱、回折などといった効果が相乗的に効果を発現し、これにより構造色を呈することとなる。本発明の構造色フレーク顔料はさらに、この顔料自体の調製も、より簡便な手法によって調製することができるという利点も有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
構造色フレーク顔料
本発明の構造色フレーク顔料は、
平均粒子径100〜850nmの単分散の樹脂粒子であるコア部が規則的に配列したコア部配列部、および
このコア部の規則的な配列を固定する固定相、
を含む。この構造色フレーク顔料は、厚さが1〜30μmであり、アスペクト比が1〜250であり、そして上記コア部の屈折率と上記固定相の屈折率との屈折率差は0.01以上である。そしてこの構造色フレーク顔料は、下記するコアシェル樹脂粒子を用いることによって好適に調製することができる。この構造色フレーク顔料は、長径が10μm〜5mmの範囲であるのがより好ましい。なお本発明における「構造色フレーク顔料」とは、構造色を発現するフレーク状の着色材を意味する。
【0026】
コアシェル樹脂粒子
本発明の構造色フレーク顔料の調製において用いられる、コア部およびシェル部からなるコアシェル樹脂粒子は、
・コア部は、平均粒子径100〜850nmの単分散のコア部であり、
・シェル部は、加熱することによって固定相を形成するシェル部であり、および
・コア部の屈折率とシェル部の屈折率との屈折率差が0.01以上である、
コアシェル樹脂粒子であるという特徴を有する。
【0027】
そしてこのようなコアシェル樹脂粒子を含む溶液を、空隙型受容層の上に塗布して、コアシェル樹脂粒子を規則的に配列させ、次いで加熱することによって、コアシェル樹脂粒子のシェル部が融着または流動化することとなり、これにより、シェル部は、規則的に配列したコア部を固定する固定相となる。こうして得られた、固定相によって規則的な配列が固定されたコア部を有する粒子充填膜を、空隙型受容層から回収してフレーク顔料とすることによって、上記構造色フレーク顔料が得られることとなる。
【0028】
コアシェル樹脂粒子を構成するコア部は、平均粒子径100〜850nmである、単分散の樹脂粒子である。コア部を形成する樹脂粒子として、例えば、(メタ)アクリル樹脂、フッ素置換(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、セルロース樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、およびこれらの共重合体などが挙げられる。
【0029】
本発明において、樹脂粒子は、ソープフリー乳化重合または通常の乳化重合によって調製することができる、(メタ)アクリル樹脂、フッ素置換(メタ)アクリル樹脂、スチレン(メタ)アクリル樹脂、スチレン−フッ素置換(メタ)アクリル樹脂またはスチレン樹脂であるのがより好ましい。これらの有機樹脂粒子はまた、優れた透明度を有するという特徴もある。
【0030】
本発明におけるコアシェル樹脂粒子は、コア部およびシェル部をソープフリー乳化重合または通常の乳化重合によって一体的に調製することができるという利点がある。本発明において用いられるコアシェル樹脂粒子は、上記のように非常に簡便な操作によって調製することができる。このため、2種以上のポリマー成分をそれぞれ0.02〜0.3μm程の層として交互積層して透明光輝材を調製するといった従来技術と比較して、非常に簡便な操作によって調製することができるという利点がある。
【0031】
コア部である樹脂粒子を製造するために用いられるモノマーとして、樹脂粒子の構成に応じた通常当業者に公知のモノマーを用いることができる。例えば樹脂粒子が(メタ)アクリル樹脂、フッ素置換(メタ)アクリル樹脂、スチレン(メタ)アクリル樹脂、スチレン−フッ素置換(メタ)アクリル樹脂またはスチレン樹脂である場合に用いることができるモノマーの例として、
(メタ)アクリル系モノマーである、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドおよびジアセトンアクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類並びにグリシジル(メタ)アクリレートなど;
スチレン系モノマーである、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、トリエチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、ヘプチルスチレンおよびオクチルスチレンなどのアルキルスチレン;フロロスチレン、クロルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、クロルメチルスチレンなどのハロゲン化スチレン;ニトロスチレン、アセチルスチレン、メトキシスチレンなど;
(メタ)アクリル系モノマーおよびスチレン系モノマー以外の他のモノマーである、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのケイ素含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n−酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、パーサティック酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、p−t−ブチル安息香酸ビニル、サリチル酸ビニルなどのビニルエステル類;塩化ビニリデン、クロロヘキサンカルボン酸ビニルなど;
官能基を有するモノマーである、(メタ)アクリル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ビシクロ[2、2、1]ヘプト−2−エン−5、6−ジカルボン酸などの不飽和カルボン酸、およびこれらの誘導体である、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2、2、1]ヘプト−2−エン−5、6−ジカルボン酸無水物、さらには水酸基(OH;ヒドロキシル基)を有するモノマーである、1、1、1−トリヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1、1、1−トリスヒドロキシメチルメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1、1、1−トリスヒドロキシメチルプロパントリ(メタ)アクリレート、ヒドロキシビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテルなどのヒドロキシアルキルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなど;
(メタ)アクリル酸の部分または完全フッ素置換(メタ)アクリレートモノマーである、トリフルオロメチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチル(メタ)アクリレート、2−パ−フルオロエチル−2−パ−フルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、ジパ−フルオロメチルメチル(メタ)アクリレートなどのフッ素置換(メタ)アクリレートなど;
フッ素置換系オレフィンモノマーである、フルオロエチレン、ビニリデンフルオリド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ−2、2−ジメチル−1、3−ジオキソールなどのフロオロオレフィンなど;
が挙げられる。
【0032】
コア部の調製においてはさらに、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、グリセロールジアクリレート、グリセロールアリロキシジメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパンジアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパンジメタクリレートなどの多価アルコールの重合性不飽和モノカルボン酸エステル;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、ジアリルテレフタレート、ジアリルフタレートなどの多塩基酸の重合性不飽和アルコールエステル;ジビニルベンゼンなどの2個以上のビニル基で置換された芳香族化合物などといった、1分子中2以上の重合性基を有する架橋性モノマーを用いて調製し架橋させるのが好ましい。架橋性モノマーを用いて架橋させることによって、得られる有機樹脂粒子を架橋樹脂粒子とすることができる。これにより、加熱によって変形も流動も生じ難くすることができ、構造色をより安定な状態で発現させることができる。本発明においては、上記モノマーを単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明におけるコアシェル樹脂粒子のコア部における「加熱によって変形も流動も生じ難い」という性質は、シェル部の性質と区別される性質である。より詳しくは、コア部の形状が、下記する融着工程におけるコアシェル樹脂粒子の加熱において、その形状が基本的に維持されることを意味する。なおここでいう「加熱」とは、融着工程におけるコアシェル樹脂粒子の加熱における温度範囲を意味し、好ましくは35〜140℃、より好ましくは50〜100℃ほどの温度範囲である。また「変形も流動も生じ難い」とは、融着工程の前のコア部の形状と、融着工程の後のコア部の形状とを対比した体積歪み変形率として0〜10%であることをいう。
【0034】
本発明におけるコアシェル樹脂粒子のコア部は、単分散であり、平均粒子径100〜850nmである。コア部が単分散であって、平均粒子径100〜850nmであることによって、コア部が規則的に配列した際に、光の干渉、散乱、回折などといった光学現象によって、構造色を呈することとなる。なおこのコア部の平均粒子径の範囲に依存して、発現する構造色の色が変化することとなる。コアシェル樹脂粒子のコア部の平均粒子径は140〜850nmであるのがより好ましく、160〜330nmであるのがさらに好ましい。
【0035】
本明細書中において、「コア部が単分散である」とは、粒子径が同一またはほぼ同一である粒子であり、粒子径の変動係数が30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下の、粒子径の分布が非常に小さいことを意味する。粒径のばらつきが大きいと、構造色塗膜としての光学特性が得られなかったり、構造色としての発色が弱くなったりする傾向にある。なお、変動係数は、(粒子径の標準偏差)÷(平均粒子径)×100(%)で表される。なお、本明細書における平均粒子径および変動係数は、得られた粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)観察の写真より観察される粒子の直径から計算で求めたものである。
【0036】
コアシェル樹脂粒子を構成するシェル部は、加熱により融着するかまたは流動性を持つ樹脂によって構成される。このシェル部は、コアシェル樹脂粒子を含む溶液を塗装した後の加熱により、シェル部を構成する樹脂の融着が生じるかまたはシェル部を構成する樹脂の流動性が生じ、そして加熱後は固定相となり、コア部の配列を固定する固定相が形成されることとなるという性質を有する。
【0037】
シェル部を構成する樹脂は、加熱により融着するかまたは流動性を持つものであれば特に制限なく用いることができる。シェル部を構成する樹脂として、好ましくは、アクリル樹脂が挙げられる。アクリル樹脂である場合に用いることができるモノマーとして、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル類;グリシルジ(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレートなどのグリシジルエステル類;エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、アリルアルコール、(メタ)アクリル酸などの重合性モノマーが挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なおシェル部を構成する樹脂は非架橋であっても架橋していてもよく、例えばシェル部の調製においては、必要に応じて、上記コア部の調製において述べた架橋性モノマーを用いることができる。また、互いに架橋反応する官能基を有するモノマーをシェル部の調製において用いることによって、シェル部の融着時に架橋反応を生じさせ、強靱な固定相を形成することもできる。例えば互いに架橋反応する官能基を有するモノマーとして、グリシジル(メタ)アクリレートなどのグリシジルエステル類と、(メタ)アクリル酸などのカルボキシル基含有モノマーとを、シェル部の調製に用いることによって、シェル部にグリシジル基とカルボキシル基とを有するコアシェル樹脂粒子を調製することができる。また、グリシジル(メタ)アクリレートなどのグリシジルエステル類をシェル部の調製に用いることによって得られる、シェル部にグリシジル基を有するコアシェル樹脂粒子と、(メタ)アクリル酸などのカルボキシル基含有モノマーをシェル部の調製に用いることによって得られる、シェル部にカルボキシル基を有するコアシェル樹脂粒子とを混合することによって、シェル部の融着時に架橋反応を生じる2種類のコアシェル樹脂粒子の混合物を調製することができる。あるいは、例えば互いに架橋反応する官能基を有するモノマーとして、(メタ)アクリル酸などのカルボキシル基含有モノマーをシェル部の調製に用いることによって、シェル部にカルボキシル基を有するコアシェル樹脂粒子を調製することができる。この場合においてカルボキシル基は、自己会合による二量化および/または脱水縮合により、カルボキシル基同士が架橋反応することとなる。このように、互いに架橋反応する官能基を有するモノマーをシェル部の調製において用いることによって、得られる構造色フレーク顔料の耐溶剤性などをさらに向上させることができる。
【0038】
シェル部を構成する樹脂は、コア部を構成する樹脂と比較してTgが低くなる。シェル部を構成する樹脂のTgは、0〜90℃であるのがより好ましい。また、本発明の塗料組成物における、シェル部を構成する樹脂の最低造膜温度(MFT)は、30〜90℃であるのがより好ましい。シェル部を構成する樹脂の物性が上記範囲であることによって、良好な融着性が確保されることとなる。ここでMFTの測定は、温度勾配をつけたプレート上の塗料組成物を塗布し乾燥後に連続膜となっている最低温度を読み取る、当業者に一般に用いられる装置を用いて測定できる。
【0039】
なおMFTは、粒子同士が融着するために必要な最低温度である。一般にMFT以下で塗膜を形成する場合は、粒子同士の融着が起こらず均一な塗膜が得られない。シェル部を構成する樹脂のTgは、基本的にその樹脂の組成に依存する。一方で、塗料組成物における、シェル部を構成する樹脂のMFTは、Tgに大きく影響されTgと近い値となることが多い一方で、塗料組成物中における成膜助剤(例えばテキサノール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトールなど)の有無、重合度などによって変化する。また、シェル部を構成する樹脂のTgを低くすると、低温での塗膜形成は可能になるものの、融着工程の前に、コアシェル樹脂粒子同士の融着が起こり、樹脂粒子が規則的に配列せず、構造色を発現しにくくなるという不具合が生じるおそれがある。また、膜が柔らかくなりすぎて膜強度が低下する、または塗膜表面が粘着性を帯びるなどの不具合が生じるおそれがある。このため、Tgは可能な範囲で高く設定し、一方でMFTは可能な範囲で低く設定することが好ましい。例えば、シェル部の重合の際に連鎖移動剤を加えたり、または重合開始剤をさらに加えたりすることによって、シェル部のTgをある程度高く保ちつつ、MFTを低く設定することができる。より詳しくは、MFTは、例えばエマルションの分子量を減少させて調整することができる。分子量の調整は当業者の周知の方法により行うことができ、開始剤の添加量および反応温度を調整したり、連鎖移動剤をモノマーに添加することによって、分子量を減少させ、これにより成膜助剤などを多く用いることなくMFTを低く設定することができる。なお、塗料組成物に、造膜助剤と呼ばれる溶媒(例えばテキサノール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトールなど)を少量添加して、MFTを低下させて造膜性を向上させることもできる。
【0040】
本発明で用いられる上記コア部およびシェル部からなるコアシェル樹脂粒子は、さらにコア部の屈折率とシェル部の屈折率との屈折率差は0.01以上であるという特徴を有する。コア部の屈折率とシェル部の屈折率との屈折率差が0.01未満である場合は、構造色塗膜の特徴である屈折率が周期的に変化するナノ構造体とは言い難い状態になってしまい、例えば可視の領域においては構造色が発揮されず、透明な膜になってしまう。屈折率差の上限値は特に限定されるものではないが、現在までに知られている物質の屈折率は最大で2.7ぐらいであり、基準となる空気(または真空)の屈折率が1.0であることから、屈折率差の上限値は約1.7となると考えられる。この屈折率差は0.03〜1.0であるのがより好ましい。屈折率の測定は、例えばアッベ式屈折率計を用いて測定することができる。
【0041】
なお本発明におけるコアシェル樹脂粒子においては、コア部の屈折率>シェル部の屈折率であってもよく、コア部の屈折率<シェル部の屈折率であってもよい。コア部の屈折率およびシェル部の屈折率の調整は、粒子成分および調製に用いるモノマーを選択することによって好適な値に調整することができる。コア部の屈折率<シェル部の屈折率であって屈折率差を0.01以上に調製する方法として、例えば、コア部をフッ素置換(メタ)アクリル樹脂としシェル部を(メタ)アクリル樹脂とする手法、コア部をスチレン−フッ素置換(メタ)アクリル樹脂としシェル部を(メタ)アクリル樹脂とする手法などが挙げられる。また、コア部の屈折率>シェル部の屈折率であって屈折率差を0.01以上に調製する方法として、例えば、コア部をスチレンアクリル樹脂としシェル部を(メタ)アクリル樹脂とする手法、コア部をスチレン樹脂としシェル部を(メタ)アクリル樹脂とする手法などが挙げられる。
【0042】
コアシェル樹脂粒子におけるコア部およびシェル部の質量比は、コア部/シェル部=9/1〜1/9であるのが好ましい。ここで、コア部およびシェル部の質量比:コア部/シェル部で7/3以上9/1以下であるコアシェル樹脂粒子を用いる場合は、得られる構造色フレーク顔料は、固定相によって規則的な配列が固定されたコア部とコア部との間に空隙を有するフレーク顔料となる。このような空隙を有するフレーク顔料を例えば塗料組成物に用いる場合は、空隙に塗料組成物が浸透することとなり、構造色フレーク顔料は塗膜との一体感が高くなる。その結果、構造色フレーク顔料の輪郭部による散乱光が抑制され、鮮明な構造色の発現が期待できる。
【0043】
なお、本発明の構造色フレーク顔料が加えられる対象が例えば既存の塗料組成物である場合は、コア部の屈折率は、例えば、構造色フレーク顔料が用いられる塗料組成物の屈折率に応じて適宜選択することができる。例えば、用いられる塗料組成物がフッ素系の塗料組成物などの低屈折率塗膜を提供する塗料組成物である場合は、コア部の屈折率を高い値に設定することによって、得られる塗膜において良好な構造色が発現することとなる。また用いられる塗料組成物が中〜高屈折率塗膜を提供する塗料組成物である場合は、コア部の屈折率を低い値に設定することによって、得られる塗膜において良好な構造色が発現することとなる。このように本発明の構造色フレーク顔料は、用いられる態様に応じて、屈折率を適宜選択することができる。
【0044】
一方、コア部およびシェル部の質量比において、コア部/シェル部で1/9以上7/3未満であるコアシェル樹脂粒子を用いる場合は、得られる構造色フレーク顔料は、規則的な配列が固定されたコア部とコア部との間に固定相が満たされており空隙を有さないフレーク顔料となる。このような空隙を有さないフレーク顔料は、塗料組成物への添加に加えて、例えば構造色を発現する材料として用いることができる。例えば、熱可塑性プラスチック成型品の製造工程において直接投入したり、例えば化粧品などの光輝性成分としてそのまま用いることなどで用いることもできる。
【0045】
なお本発明において用いられるコアシェル樹脂粒子は、一般的に非染色粒子である。本発明の構造色フレーク顔料における発色は、コア部の規則的な配列による、光の干渉、回折などといった光学現象によって生じているため、発色発現において染料等による粒子の染色の必要はないためである。なお本発明においては、得られる構造色フレーク顔料の用途に応じてコアシェル樹脂粒子を必要に応じて染色することを排除するものではない。
【0046】
コアシェル樹脂粒子の調製
本発明において用いられるコアシェル樹脂粒子は、その構成に従い当業者に知られた方法によって調製することができる。調製方法は、乳化重合またはソープフリー乳化重合であるのが好ましい。これらの重合方法は、粒子の平均粒子径を単分散および好適範囲に調節することができるからである。さらには、乳化重合またはソープフリー乳化重合の二段重合によって、コアシェル樹脂粒子のコア部およびシェル部をワンポットで調製することができるという利点がある。例えば、ソープフリー乳化重合による二段重合によってコアシェル樹脂粒子を調製する方法の具体例は以下の通りである。まず窒素を充填させた反応容器に蒸留水を仕込み、必要に応じて加熱、攪拌しながら、コア部を形成する重合性モノマー組成物を加え、モノマー組成物を蒸留水に十分に分散させる。次に攪拌を続けながら重合開始剤を添加して重合させる。重合の進行に従って粒子(コア部)が形成される。重合温度は重合開始剤を使用した場合には、一般に60〜90℃に設定される。次いで、シェル部を形成する重合性モノマー組成物を加えて、再び重合させることによって、コアシェル樹脂粒子が得られることとなる。このようにモノマー組成を変更して2段階重合を行うことによって、上記特徴を備えたコア部およびシェル部からなるコアシェル樹脂粒子をより容易に調製することができる。
【0047】
乳化重合によってコアシェル樹脂粒子を調製する場合は、上記製法において、乳化剤を用いて重合することにより行われる。使用し得る乳化剤の例としては、ドデシルベンゼン硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カルシウム、ドデシルアンモニウムクロライド、ドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルピリジニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルポリオキシエチレンエーテル、ヘキサデシルポリオキシエチレンエーテル、ラウリルポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンモノオレアートポリオキシエチレンエーテル等が挙げられる。乳化剤は、目的とする粒子の大きさに応じて、当業者に知られた手法により最適使用量が決定される。
【0048】
重合反応で用いられる重合開始剤としては、公知の重合開始剤を使用できる。例えば、ベンゾインペルオキシド、クメンハイドロペルオキシド、パラメンタンハイドロペルオキシド、ラウロイルペルオキシドなどの有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキシ二硫酸アンモニウム等のペルオキソ硫酸塩、過酸化水素−硫酸鉄や過硫酸カリウム−亜硫酸ナトリウム等のレドックス系触媒が挙げられる。重合開始剤は、モノマー組成物全量に対して0.01〜10質量%、中でも0.05〜5質量%の範囲で使用することが好ましい。また、シェル部作成時においては、必要に応じて重合性モノマー組成物と同時に連鎖移動剤を添加して分子量をより低く設定することもできる。連鎖移動剤としては、塩化銅(II)、3−クロロベンゼンチオール、アクロレインオキシム、チオグリコール酸オクチルなどが挙げられる。
【0049】
構造色フレーク顔料
本発明の構造色フレーク顔料は、上記コアシェル樹脂粒子を用いて好適に調製することができる。上記のコアシェル樹脂粒子を含む溶液を、空隙型受容層の上に塗布して、コア部を規則的に配列させ、次いで加熱することによって、コアシェル樹脂粒子のシェル部が融着または流動化することとなり、これによりシェル部は、規則的に配列したコア部を固定する固定相となる。こうして得られた、固定相によって規則的な配列が固定されたコア部を有する粒子充填膜を、空隙型受容層から回収してフレーク顔料とすることによって、構造色フレーク顔料が得られることとなる。
【0050】
本発明の構造色フレーク顔料は、上記コアシェル樹脂粒子におけるコア部が規則的に配列した構造を有することを特徴とする。なお本明細書における、コア部の「規則的配列」とは、以下の通り定義することができる。
構造色フレーク顔料内に存在する結晶粒界内の領域、すなわち、面欠陥で囲まれた微小領域において、構造色フレーク顔料を構成するコア部(すなわち樹脂粒状物)の平均粒子径がDである場合において、構造色フレーク顔料の表面と平行な面であり、かつ、点欠陥(格子空孔)の数が全ての格子が樹脂粒状物で埋められた場合の50%未満である層に存在する樹脂粒状物の中心面を基準面とした場合、構造色フレーク顔料中に存在する各基準面であって、各々膜の厚み方向の上下に0.5×D以内に中心がある樹脂粒状物に対して、この基準面に対して膜の厚み方向の上下に0.3×D以内に中心がある樹脂粒状物が、50%以上である配列をいう。但し、点欠陥(格子空孔)によって生じた空間の幅は、1.3×D以下であることを条件とする。
【0051】
上記条件はより具体的には、次の条件を満たすことを定めるものである。すなわち、構造色フレーク顔料の表面と平行な面で、格子欠陥が50%未満の面に存在する樹脂粒状物の中心面を基準面とすることによって、基準面において樹脂粒状物が50%以上並んでいること、そしてその並び方は構造色フレーク顔料の表面と平行な状態であること、が定められることとなる。
そして、この基準面において規則的な配列を構成しているかどうか判定される樹脂粒状物は、膜厚方向の上下に0.5×D以内に中心がある樹脂粒状物のみとなる。ここで0.5×Dを超えた位置に中心がある樹脂粒状物は、この基準面ではなく、直上または直下の基準面を構成する樹脂粒状物となる。
そして、上記により基準面における樹脂粒状物の配列を評価する。ここで、中心の位置が膜厚方向の上下に0.3×D以内の範囲に収まる場合を合格基準とした場合において、この合格基準を満たす樹脂粒状物の個数が、基準面の樹脂粒状物の個数に対して50%以上である場合を、基準面において樹脂粒状物が規則的に配列している状態とする。
そして本発明においては、構造色フレーク顔料に存在する結晶粒界内の領域、すなわち、面欠陥で囲まれた微小領域における全ての基準面のうち50%が上記条件を満たす場合を、コア部が「規則的に配列」している状態としている。
ここで、点欠陥(格子空孔)によって生じた空間の幅は1.3D×以下であることを条件とすることによって、樹脂粒状物が充填状態に配列していない状態、例えば樹脂粒状物が点在するような状態、は排除されることとなる。
【0052】
コアシェル樹脂粒子を含む溶液の調製に用いることができる溶媒として、コアシェル樹脂粒子を安定に分散することができる溶媒を特に制限することなく用いることができる。溶媒として好ましくは水を用いる。必要に応じて、アルコール類(例えば、メチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール)、エーテル類(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ケトン類(例えば、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセチルアセトン)、エステル類(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)といった水混和性有機溶媒などを、水と併せて用いてもよい。コアシェル樹脂粒子を含む溶液中におけるコアシェル樹脂粒子の固形分含有量は特に制限されるものではないが、一般に5〜35質量%であるのが好ましい。コアシェル樹脂粒子を含む溶液として、コアシェル樹脂粒子の調製によって得られたコアシェル樹脂粒子を含むエマルションをそのままコアシェル樹脂粒子を含む溶液として用いるのが、より好ましい。
【0053】
こうして調製された、コアシェル樹脂粒子を含む溶液を、空隙型受容層の上に塗装する。以下、本発明の構造色フレーク顔料の調製に用いられる空隙型受容層について記載する。
【0054】
空隙型受容層
空隙型受容層として、基材上に100nm未満の空隙が設けられた層が好ましく用いられる。基材は特に制限されるものではないが、例えば、耐熱性、寸法安定性、剛性などを備えた合成樹脂より形成される基材が好ましい。このような基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイミドなどから形成されたシートまたはフィルムを挙げることができる。基材シートまたはフィルムの厚みは、通常25〜250μmの範囲が好ましく、75〜150μmであるのがより好ましい。
【0055】
空隙型受容層は、主として無機微粒子およびこの無機微粒子を結着するバインダーから構成される。無機微粒子としては、各種固体微粒子を用いることができ、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、気相法シリカ、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、リトポン、ゼオライト、水酸化マグネシウムなどの無機微粒子を挙げることができる。
【0056】
上記無機微粒子は、一次粒子の状態で受容層中に存在してもよく、または二次凝集粒子の状態で受容層中に存在してもよい。
【0057】
上記無機微粒子の形状は、特に制限されるものではなく、球状、棒状、針状、平板状、繊維状、数珠状の物であってもよい。空隙の大きさを調整する方法の一例として、例えば、上記無機微粒子が球状である場合は、その平均粒子径を選択することによって調整することができる。この場合は無機微粒子の平均粒子径が100nm以下であるのが好ましい。平均粒子径が100nm以下である無機粒子を用いることによって、得られる受容層の空隙の大きさを1以上100nm未満の範囲に良好に調整することが容易となる。平均粒子径の下限は特に限定されないが粒子の製造上の観点から概ね3nm以上であり、10nm以上であるのが好ましい。特に好ましい無機微粒子は、その平均粒子径が20〜100nmである。無機微粒子の平均粒子径は、粒子そのものあるいは空隙層の断面や表面を電子顕微鏡で観察し、多数個の任意の粒子の粒子径を求めてその単純平均値(個数平均)として求められる。ここで個々の粒子径はその投影面積に等しい円を仮定した時の直径で表したものである。
【0058】
より好ましい無機微粒子として、例えば、気相法で合成されたシリカ、コロイダルシリカ、またはカチオン表面処理された気相法シリカなどのシリカ、およびアルミナ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイトなどが挙げられる。これらの無機微粒子は、受容層の調製が容易であるという利点がある。
【0059】
無機微粒子を結着するバインダーとしては、各種バインダーを用いることができ、例えば、ゼラチン(酸処理ゼラチンが好ましい)、ポリビニルピロリドン(平均分子量約20万以上が好ましい)、プルラン、ポリビニルアルコールまたはその誘導体、ポリエチレングリコール(平均分子量が10万以上が好ましい)、ヒドロキシエチルセルロース、デキストラン、デキストリン、水溶性ポリビニルブチラールなどを挙げることができる、これらの親水性バインダーは単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。特に好ましいバインダーは、ポリビニルアルコールまたはその誘導体である。
【0060】
好ましく用いられるポリビニルアルコールまたはその誘導体は、平均重合度が300〜5000の範囲であり、特に平均分子量が2000〜5000のものがより好ましい。また、ポリビニルアルコールまたはその誘導体のケン化度は70〜100%のものが好ましく、80〜100%のものが特に好ましい。
【0061】
受容層におけるバインダーの含有量は、無機微粒子を結着することができる量であるが、受容層が空隙を有することを確保するため、できるだけ少量であるのが好ましい。受容層における無機微粒子およびバインダーの含有量の比率は、それらの種類によって変化しうるものの、質量比で通常2:1〜20:1であるのが好ましく、5:1〜20:1であるのがより好ましい。受容層における無機微粒子の含有量は、無機微粒子の種類、空隙率、バインダーの種類などによって変化しうるものの、一般には基材1m当たり3〜30gであるのが好ましく、5〜25gであるのがより好ましい。空隙型受容層が有する空隙の大きさは、1〜100nmであるのが好ましく、1〜70nmであるのがより好ましい。
【0062】
空隙型受容層は、当業者に知られた手順によって調製することができる。具体的には、最初に各成分を分散または溶解させた塗布液を調製する。この塗布液の調製は、例えば無機微粒子の水性分散液を調製し、次にこの分散液を超音波ホモジナイザーなどを用いて分散・撹拌処理を行い、次いでバインダー成分を加え、さらに必要に応じて固形分濃度を調節することによって、調製することができる。
【0063】
次に、基材の表面に受容層を設ける。基材の表面に塗布液を塗工する手段は、特に限定されるものではなく、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、バーコーター、コンマコーターなどを用いて塗工することができる。塗布液を塗工した後、熱風などを用いて乾燥する。受容層の乾燥後の厚さは、通常5〜50μmであり、好ましくは20〜40μmである。
【0064】
構造色フレーク顔料の調製
本発明の構造色フレーク顔料は、下記工程:
上記コアシェル樹脂粒子を含む溶液を、空隙型受容層の上に塗布して、コアシェル樹脂粒子を規則的に配列させる、塗布工程、
規則的に配列したコアシェル樹脂粒子を加熱して、シェル部による規則的に配列したコア部を固定する固定相を得る、融着工程、
融着工程より得られた、固定相によって配列が固定されたコア部を有する粒子充填膜を、空隙型受容層の上から回収しフレーク顔料とする、回収工程、
によって、調製することができる。図5は、本発明の構造色フレーク顔料の製造工程の概略を示す、概略説明図である。
【0065】
コアシェル樹脂粒子を含む溶液を空隙型受容層の上に塗装する塗布方法として、例えばスプレー塗装、ハケ塗装、バーコーター塗装、スピンコーター塗装といった、通常用いられる種々の塗装方法によって塗布することができる。この塗布における膜厚は、乾燥塗膜の厚さが1〜30μm程となるように塗布する。そしてコアシェル樹脂粒子を含む溶液を空隙型受容層上に塗布すること(塗布工程)によって、溶液中の溶媒のみが、毛細管現象により受容層の空隙へ浸透することとなる。こうして、空隙型受容層の上には、コアシェル樹脂粒子が濾過されたように、粒子が充填した状態となって残存することとなる。コアシェル樹脂粒子を含む溶液が空隙型受容層の上に塗装された場合における空隙型受容層の作用を示す概略説明図を図6に示す。また、この塗布工程において、コアシェル樹脂粒子を含む溶液を塗布した後に、溶媒を揮発させる乾燥処理をさらに行ってもよい。乾燥処理をさらに行うことによって、溶液中の溶媒を取り除くことを促進することができ、そしてコアシェル樹脂粒子を含む塗布膜を体積収縮させることができ、これによりコアシェル樹脂粒子を規則的に配列させることができる。この乾燥処理の温度および時間は適宜設定することができる。
【0066】
コアシェル樹脂粒子を規則的に配列させる方法としては、本発明のように空隙型受容層上に塗装する方法以外にも幾つかの方法が考えられる。その1つとして、例えば、2枚のスライドガラスおよびこれらのスライドガラスを等間隔に保持するギャップを有する流体セル中に、コアシェル樹脂粒子を含む溶液を入れて溶媒を蒸発させる方法が挙げられる。この方法によっても、コアシェル樹脂粒子を規則的に配列させることができる。しかしながらこの方法においては、溶媒の蒸発箇所が制限されているため、溶媒の除去に長時間(例えば7〜10日)を有するという欠点がある。この方法はまた、流体セルの大きさのみしか樹脂膜を形成することができないため、大量生産が非常に困難であるという問題もある。
【0067】
コアシェル樹脂粒子を規則的に配列させる他の方法としてはさらに、例えばコアシェル樹脂粒子の溶液においてコアシェル樹脂粒子を平板状のキャピラリーセル内で流動させることによって、樹脂粒子を配列させる方法が挙げられる。しかしながらこの方法は、樹脂粒子自体を流動させる方法であり、キャピラリーセル内での配列であるため、大量生産が非常に困難であるという問題もある。
【0068】
他の方法として、コアシェル樹脂粒子を含む溶液をキャスト中に流し込み、溶媒を留去する方法も挙げられる。しかしながらこの方法は、キャスト中で溶媒留去を行うため、3相境界を有した状態での溶媒留去となり、端部が厚くなり、得られる粒子充填膜の厚さが不均一となってしまう。そしてこの方法もまた、溶媒の除去にある程度の時間(例えば1〜3日)を有するという欠点がある。
【0069】
これに対して本発明の方法においては、コアシェル樹脂粒子を含む溶液を、空隙型受容層の上に塗装することを特徴とする。これにより、溶液中の溶媒のみが毛細管現象により受容層の空隙へ浸透することとなり、溶媒が非常に早く浸透することとなる。本発明の方法における粒子充填膜の形成時間は、例えば室温で約1〜数時間であり、さらに送風機などを用いることによって数分程度まで短縮することが可能である。このように本発明の方法は、構造色フレーク顔料の大量生産に非常に適した方法である。そしてこの方法においてはさらに、溶液中の溶媒のみが毛細管現象により受容層の空隙へ非常に速く浸透することにより、コアシェル樹脂粒子が最密充填するように力が加わることとなる。より詳しくは、溶媒の浸透速度が非常に速いため、受容層上に残存することとなるコアシェル樹脂粒子が受容層方向へ最密充填するように力が加わることとなる。これにより、規則的に配列したコアシェル樹脂粒子を非常に短時間で得ることができるという利点がある。本発明の方法はさらに、空隙型受容層の上に溶液を塗装するという、系が開放した状態における操作であるため、大量生産が容易であるという利点もある。
【0070】
なお本発明において、例えばコア部およびシェル部の質量比が、コア部/シェル部で7/3以上9/1以下である場合は、コアシェル樹脂粒子を含む溶液を空隙型受容層の上に塗装した後、塗布時の溶媒の浸透による除去および蒸発に伴ってコアシェル樹脂粒子の粒子間距離が縮まり、粒子充填膜の体積収縮が起き、これによりおよそ10〜300μmほどの大きさに区分するような、マッドクラック様のクラックが生じることがある。このようなクラックの発生は、後の回収工程を容易なものとするという利点がある。すなわち、クラックが発生することによって、塗装後のコアシェル樹脂粒子の粒子充填膜が、フレーク顔料としての形態に自ら近づくこととなる。
【0071】
こうして得られた規則的に配列したコアシェル樹脂粒子の粒子充填膜を加熱することによって、シェル部が融着し、これにより規則的に配列したコア部を固定する固定相が得られることとなる(融着工程)。この融着工程における加熱は、シェル部の最低造膜温度より高い温度であり、例えば35〜140℃であり、より好ましくは50〜100℃である。加熱時間は温度などの種々の条件によって変化しうるものの、例えば1分〜3時間であるのが好ましく、1〜60分であるのがより好ましい。コアシェル樹脂粒子を加熱することによって、コア部は変形も流動も生じ難い一方で、シェル部は融着することとなる。こうして融着したシェル部は、コア部を固定する固定相となり、規則的に配列したコア部を固定することとなる。なおこの融着工程で得られる固定相は、コアシェル樹脂粒子のシェル部によって構成されるものであるため、得られた固定相の屈折率は、シェル部の屈折率と同値となる。
【0072】
次いで、融着工程より得られた、固定相によって配列が固定されたコア部を有する粒子充填膜を、空隙型受容層から回収することによって、フレーク顔料が得られることとなる(回収工程)。この回収工程においては、へらまたはスクレーパー(例えば、樹脂スクレーパー、ゴムスクレーパー、メタルスクレーパーまたはモータスクレーパーなど)などを用いて、手動によってまたは装置により機械的に、空隙型受容層から粒子充填膜を掻き取り、回収する。ここで、融着工程の前に、コアシェル樹脂粒子の粒子充填膜にマッドクラック様のひびが入っていた場合は、この回収工程で回収することによって、粒子充填膜は10〜300μmほどの大きさのフレーク形状となる。この場合は、特別な粉砕操作を必要とすることなく、粒子充填膜を単に回収するのみで、フレーク形状の樹脂が回収されることとなる。一方、粒子充填膜にマッドクラック様のひびが生じていなかった場合、または顔料の大きさを小さくしたい場合は、この段階で粉砕操作を行うことによって、所望の大きさを有するフレーク形状とすることができる。なお、回収されたフレーク形状の樹脂は、必要に応じて、ふるいなどを用いた分級操作を行い、サイズを揃えてもよい。
【0073】
得られる構造色フレーク顔料は、厚さが1〜30μmであり、アスペクト比が1〜250である。ここで構造色フレーク顔料の厚さは、塗装工程において塗装された塗膜の乾燥塗膜の厚さと同範囲となる。構造色フレーク顔料の厚さの好ましい範囲は、構造色フレーク顔料が用いられる対象によって変化しうるものであるが、一般に1〜25μmであるのがより好ましく、1〜15μmであるのがさらに好ましい。また構造色フレーク顔料の長径は10μm〜5mmの範囲であるのが好ましい。なおアスペクト比は1〜250であれば特に制限されるものではないが、構造色発色に寄与する構造色フレーク顔料の配列性の点から2〜30であるのがより好ましく、3〜20であるのがより好ましい。なおアスペクト比は、フレーク顔料の平均粒子径(D50、メジアン径)および平均厚み(t)を用いて、アスペクト比=D50/tより算出される。フレーク顔料の平均粒子径(D50)および平均厚み(t)は、得られたフレーク顔料の走査型電子顕微鏡(SEM)観察の写真より観察される顔料の粒子径および厚みを測定して計算で求めたものである。
【0074】
こうして、本発明の構造色フレーク顔料が得られることとなる。得られた構造色フレーク顔料は、既存する任意の塗料組成物に加えることができる。既存の塗料組成物に本発明の構造色フレーク顔料を加えるのみで、その塗料組成物が発現する種々の塗膜物性を損なうことなく、見る角度によって色相が変化する意匠性に優れた塗膜を提供することができる。本発明の構造色フレーク顔料は、樹脂成分によって構成されるという特徴を有する。そのため本発明の構造色フレーク顔料は、塗料組成物に含まれるバインダー樹脂と近い比重を有するという利点がある。これにより本発明の構造色フレーク顔料は、塗料組成物中における分散安定性に優れるという優れた利点もある。
【0075】
本発明の構造色フレーク顔料が含まれる塗料組成物は、例えば、自動車車体、自動車内装品、家電製品、携帯電話などの情報端末機、建築構造物、汎用品、文具品、インテリア、二輪車車体、玩具、スポーツ用品などの様々な物品の塗装に用いることができる。本発明の構造色フレーク顔料はさらに、既存する任意の塗料組成物の他にも、熱可塑性プラスチック成型品の製造工程において直接投入したり、例えば化粧品などの光輝性成分としてそのまま用いるなどといった方法によっても用いることができる。
【0076】
本発明の構造色フレーク顔料は、単分散の樹脂粒子であるコア部が規則的に配列した構造を有することによって、構造色を発現するものである。このため、干渉マイカ顔料またはコーティングアルミフレーク顔料などの無機顔料のような、鏡面反射を生じさせる金属顔料部を有していない。このため、本発明の構造色フレーク顔料を用いる場合は、金属フレーク顔料特有のギラギラ感を伴わないという利点を有する。本発明の構造色フレーク顔料を用いることによって、落ち着き感そして高級感のある塗膜を形成することができる。
【0077】
本発明の構造色フレーク顔料は、単分散の樹脂粒子であるコア部が規則的に配列した構造を有するものである。このような構造の調製に関しては、バインダー樹脂を含む溶液中にフィラー粒子として単分散粒子を混合分散して得られた塗料組成物を塗膜化することによって、同じ組成の塗膜が得られると考えることも可能である。しかしながら、一般的に用いられる顔料粒子には一次粒径および二次粒径が存在するように、塗料組成物中においてフィラー粒子同士の凝集を100%完全に防止して、バインダー樹脂中に分散させることは、実質的に不可能である。加えて、溶媒が蒸発する成膜時においては、塗膜中におけるフィラー粒子濃度の上昇により、フィラー粒子の凝集および沈降分離などの不均一化がどうしても発生してしまう。そのため、単分散粒子であるフィラー粒子およびバインダー樹脂を単に含む塗料組成物を調製し、これを単に塗装するのみによってフィラー粒子を規則的に配列させることは不可能であった。つまりこのような塗料組成物を単に塗装し、得られた塗膜を磨砕などすることによって、構造色フレーク顔料を調製することは不可能であった。
【0078】
これに対して本発明において用いられるコアシェル樹脂粒子は、コア部からなる粒子をシェル部である樹脂成分が被覆したコアシェル樹脂粒子が用いられている。このため、溶液中においても、粒子充填膜中においても、コア部の凝集は生じ得ない。また、コア部1個に対するシェル部である樹脂成分量が一定に割り当てられているので、どのような単位体積においてもコア部(粒子)および樹脂成分の体積比は一定である。そしてこのようなコアシェル樹脂粒子から粒子充填膜が形成されるため、シェル部によって形成された塗膜中にコア部が規則的に配列することとなる。本発明においてはこのように、塗膜または粒子のどちらか一方が偏って多いまたは少ないといった不均一な状態の部分は膜中に存在し得ないのである。そして本発明においてはさらに、このようなコアシェル樹脂粒子を含む溶液を空隙型受容層上に塗装することによって、簡便かつ短時間で構造色フレーク顔料を調製することが可能となっている。そしてこうして得られた構造色フレーク顔料の発色は、色素ではなく構造による物理的発色であるため、耐退色性に優れているという利点もある。
【0079】
本発明の構造色フレーク顔料によって得られる構造色塗膜は、粒状のコア部(すなわちコア粒子)が規則正しく配列した結晶構造を有しているため、光の波長によって干渉や散乱などの光学物理的現象が起こり、いわゆる「構造色」または「構造発色」現象によって発色する。本発明においては、構造色フレーク顔料中に含まれるコア部の平均粒子径の範囲を100〜850nmの範囲で適宜設計することにより、様々な色域(紫〜緑〜赤)にわたる色相を発現させることができる。例えばコア部の平均粒子径が200nm程の場合は青っぽく見える。一方、コア部の平均粒子径が300nm程である場合は同じ位置で赤っぽく見える。そして「構造色」あるいは「構造発色」は、見る角度によって色相が変化するという特徴がある。そのため、正面から見て緑であっても、45°の角度から見ると青く見えるような現象も存在する。このように本発明の構造色フレーク顔料は、意匠的価値が非常に高い顔料である。
【実施例】
【0080】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0081】
実施例1 構造色フレーク顔料(1)の調製
コアシェル樹脂粒子(1)の調製
1リットルの丸底コルベンに純水800質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.06質量部を仕込み、攪拌しながら80℃に加温した。次いでメチルメタクリレート10質量部と過硫酸カリウム2質量部を仕込んで30分間エージングしてシード粒子を合成した、次いでトリフルオロエチルメタクリレート140質量部およびエチレングリコールジメタクリレート10質量部を150分かけて滴下し、終了後60分間エージングした。その後、メチルメタクリレート20質量部、ブチルアクリレート10質量部およびメタクリル酸10質量部を80分かけて滴下した。その後、150分間エージングして冷却し、コアシェル樹脂粒子のエマルジョン水溶液(固形分濃度20質量%)を得た。乾燥させた樹脂粒子を電子顕微鏡で観察した結果、コアシェル樹脂粒子の平均粒子径は0.189μmで単分散であった。また、配合から計算したコア部の直径は0.177μmであり、シェル部の厚さは0.006μmであった。得られた樹脂粒子のコア部の屈折率は1.44であり、シェル部の屈折率は1.48であった。また、得られた樹脂粒子のシェル部のガラス転移温度は配合から64.5℃と計算できた。またMFTを、RHOPOINT社製MFFT−Bar.90で測定したところ、70℃であった。
【0082】
構造色フレーク顔料(1)の調製
得られたコアシェル樹脂粒子(1)のエマルション水溶液(固形分濃度20質量%)を、空隙型受容層を有するPETフィルム上に、アプリケータ(50μm)を用いて、乾燥膜厚が10μmとなるように塗装した。用いた空隙型受容層は、平均粒子径80nmであるシリカ無機微粒子からなる、空隙の大きさ(直径)が60nm程、厚さ25μmの受容層であった。
コアシェル樹脂粒子のエマルション水溶液を受容層に塗装し粒子充填膜を形成した後、室温で1時間放置し、コアシェル樹脂粒子を最密充填状態とした。室温で1時間放置した後の粒子充填膜には、30〜200μm程のほぼ同じ大きさに分割するマッドクラック様のひびが入っていた。室温で1時間放置した後の粒子充填膜のレーザー顕微鏡像(オリンパス社製走査共焦点レーザー顕微鏡OLS1100、共焦点解析)を、図7に示す。
次いで、得られた粒子充填膜を、受容層と共に70℃のオーブンに入れて1時間加熱した。オーブンから取り出し、ゴム製のスクレーパーを用いて粒子充填膜を受容層から掻き取り、フレーク状物を回収した。回収されたフレーク状物は、30〜200μmの大きさであった。回収されたフレーク状物のレーザー顕微鏡像(共焦点解析)を、図8に示す。
回収されたフレーク状物を、ふるいを用いて分級して、(i)粒子径53μm未満、(ii)粒子径53〜100μm、(iii)粒子径100μmを超えるもの、の3種に分類した。(ii)の粒子径が53〜100μmのものを、構造色フレーク顔料(1)とした。
得られた構造色フレーク顔料は、コア部およびシェル部の質量比がコア部/シェル部=8/2のコアシェル樹脂粒子から得られたものであり、固定相によって規則的な配列が固定されたコア部とコア部との間に空隙を有するものであった。
また、得られた構造色フレーク顔料を、トルエンとキシレンとを質量比で1/1に混合した有機溶媒中に23℃で1ヶ月間浸漬し、その後有機溶媒から引き上げて、構造色フレーク顔料をレーザー顕微鏡にて観察したところ、形状その他の変形などは見られなかった。
【0083】
得られた構造色フレーク顔料のSEM画像を図1、2および3に示す。これらのSEM画像から、得られた構造色フレーク顔料において、コア部が規則的に配列していることが確認できる。また得られた構造色フレーク顔料のマイクロスコープ画像を図4に示す。
【0084】
実施例2 構造色フレーク顔料(2)の調製
コアシェル樹脂粒子(2)を、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを0.06質量部から0.03質量部に変更したこと以外は、実施例1のコアシェル樹脂粒子(1)の調製と同様にして調製した。得られたコアシェル樹脂粒子(2)の平均粒子径は、0.245μmで単分散であった。また、配合から計算したコア部の直径は0.229μmであり、シェル部の厚さは0.008μmであった。得られた樹脂粒子のコア部の屈折率は1.44であり、シェル部の屈折率は1.48であった。また、得られた樹脂粒子のシェル部のガラス転移温度は配合から64.5℃と計算できた。またMFTを、RHOPOINT社製MFFT−Bar.90で測定したところ、70℃であった。
【0085】
こうして得られたコアシェル樹脂粒子(2)を用いて、実施例1と同様にして構造色フレーク顔料(2)を調製した。得られた構造色フレーク顔料は、コア部およびシェル部の質量比がコア部/シェル部=8/2のコアシェル樹脂粒子から得られたものであり、固定相によって規則的な配列が固定されたコア部とコア部との間に空隙を有するものであった。
また、得られた構造色フレーク顔料を、トルエンとキシレンとを質量比で1/1に混合した有機溶媒中に23℃で1ヶ月間浸漬し、その後有機溶媒から引き上げて、構造色フレーク顔料をレーザー顕微鏡にて観察したところ、形状その他の変形などは見られなかった。
【0086】
実施例3 構造色フレーク顔料(3)の調製
コアシェル樹脂粒子(3)を、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを0.06質量部から0.015質量部に変更したこと以外は、実施例1のコアシェル樹脂粒子(1)の調製と同様にして調製した。得られたコアシェル樹脂粒子(3)の平均粒子径は、0.255μmで単分散であった。また、配合から計算したコア部の直径は0.229μmであり、シェル部の厚さは0.009μmであった。得られた樹脂粒子のコア部の屈折率は1.44であり、シェル部の屈折率は1.48であった。また、得られたコアシェル樹脂粒子のシェル部のガラス転移温度は配合から64.5℃と計算できた。またMFTを、RHOPOINT社製MFFT−Bar.90で測定したところ、70℃であった。
【0087】
こうして得られたコアシェル樹脂粒子(3)を用いて、実施例1と同様にして構造色フレーク顔料(3)を調製した。得られた構造色フレーク顔料は、コア部およびシェル部の質量比がコア部/シェル部=8/2のコアシェル樹脂粒子から得られたものであり、固定相によって規則的な配列が固定されたコア部とコア部との間に空隙を有するものであった。
また、得られた構造色フレーク顔料を、トルエンとキシレンとを質量比で1/1に混合した有機溶媒中に23℃で1ヶ月間浸漬し、その後有機溶媒から引き上げて、構造色フレーク顔料をレーザー顕微鏡にて観察したところ、形状その他の変形などは見られなかった。
【0088】
実施例4 構造色フレーク顔料(4)の調製
コアシェル樹脂粒子(4)の調製
2リットルの丸底コルベンに、純水1080質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.06質量部を仕込み、攪拌しながら80℃に加温した。次いでメチルメタクリレート10質量部と過硫酸カリウム2質量部を仕込んで30分間エージングしてシード粒子を合成した。次いでトリフルオロエチルメタクリレート140質量部およびエチレングリコールジメタクリレート10質量部を150分かけて滴下し、終了後60分間エージングした。その後、メチルメタクリレート54質量部、ブチルアクリレート27質量部およびメタクリル酸27質量部を220分かけて滴下した。その後、150分間エージングして冷却し、コアシェル樹脂粒子(4)のエマルジョン水溶液(固形分濃度20質量%)を得た。乾燥させた樹脂粒子を電子顕微鏡で観察した結果、コアシェル樹脂粒子の平均粒子径は0.21μmで単分散であった。また、配合から計算したコア部の直径は0.177μmであり、シェル部の厚さは0.015μmであった。得られたコアシェル樹脂粒子のコア部の屈折率は1.44であり、シェル部の屈折率は1.48であった。また、得られたコアシェル樹脂粒子のシェル部のガラス転移温度は配合から64.5℃と計算できた。またMFTを、RHOPOINT社製MFFT−Bar.90で測定したところ、70℃であった。
【0089】
こうして得られたコアシェル樹脂粒子(4)を用いて、実施例1と同様にして構造色フレーク顔料(4)を調製した。
得られた構造色フレーク顔料は、コア部およびシェル部の質量比がコア部/シェル部=6/4のコアシェル樹脂粒子から得られたものであり、コア部とコア部との間に固定相が満たされており空隙を有さないものであった。
また、得られた構造色フレーク顔料を、トルエンとキシレンとを質量比で1/1に混合した有機溶媒中に23℃で1ヶ月間浸漬し、その後有機溶媒から引き上げて、構造色フレーク顔料をレーザー顕微鏡にて観察したところ、形状その他の変形などは見られなかった。
【0090】
実施例5 構造色フレーク顔料(5)の調製
コアシェル樹脂粒子(5)を、メチルメタクリレート20質量部、ブチルアクリレート10質量部、メタクリル酸10質量部から、メチルメタクリレート30質量部、ブチルアクリレート10質量部に変更したこと以外は、実施例1のコアシェル樹脂粒子(1)の調製と同様にして調製した。得られたコアシェル樹脂粒子(5)の平均粒子径は0.190μmであり単分散であった。また、配合から計算したコア部の直径は0.177μmであり、シェル部の厚さは0.006μmであった。得られたコアシェル樹脂粒子のコア部の屈折率は1.44であり、シェル部の屈折率は1.48であった。また、得られたコアシェル樹脂粒子のシェル部のガラス転移温度は、配合から46.9℃と計算できた。またMFTを、RHOPOINT社製MFFT−Bar.90で測定したところ、50℃であった。
【0091】
こうして得られたコアシェル樹脂粒子(5)を用いて、シェル部の融着工程における加熱温度を50℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして構造色フレーク顔料(5)を調製した。得られた構造色フレーク顔料(5)は、コア部およびシェル部の質量比が、コア部/シェル部=8/2のコアシェル樹脂粒子から得られたものであり、固定相によって規則的な配列が固定されたコア部とコア部との間に空隙を有するものであった。
また、得られた構造色フレーク顔料(5)を、トルエンとキシレンとを質量比で1/1に混合した有機溶剤中に23℃で1日間浸漬し、その後に混合有機溶媒中から引き上げて、構造色フレーク顔料をレーザー顕微鏡で観察したところ、形状その他の変形などは見られなかったが、1ヶ月間浸漬して同様に観察したところ、形状の変化が確認された。
【0092】
比較例1
実施例1のコアシェル樹脂粒子の調製により得られたコアシェル樹脂粒子(1)を、フリーズドライで乾燥させ、樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子は、規則的な配列を有さない凝集体および単分散状態が混合した、コアシェル樹脂粒子であった。
【0093】
比較例2
干渉マイカ顔料(メルク社製、Iriodin 7225 Ultra Brue)を用いた。
【0094】
比較例3
光輝材である、帝人ファイバー社製のMORPHOTONE BM40C75を用いた。
【0095】
上記実施例および比較例の顔料およびコアシェル樹脂粒子を用いて塗料組成物を調製し、評価を行った。
【0096】
リン酸亜鉛処理鋼板に、日本ペイント(株)製カチオン電着塗料の「パワートップU−80」を塗装し、160℃で30分間焼き付けた。その上に日本ペイント(株)製中塗り塗料の「オルガP−2」を塗装し、140℃で20分間焼き付けて、中塗り塗膜が形成された被塗物を作成した。次いで、上塗りベース塗料組成物(naxアドミラ480スーパーブラック:日本ペイント社製)を、下記条件:
希釈溶媒;EEP(エトキシエチルプロピオネート)/S−150(エクソン社製芳香族系炭化水素溶剤)=1/1、30秒/No.4フォードカップ/20℃(上塗りベース塗料組成物):
で塗装し、試験用塗装板を作製した。
【0097】
上記実施例1〜5および比較例1〜3の顔料およびコアシェル樹脂粒子を、PWC([(含有顔料質量%)/(全塗料固形分質量%)]×100)=20質量%となるように、クリヤー塗料組成物(日本ペイント(株)社製、281e補正用クリヤーとnaxアドミラ901バインダー(いすれも日本ペイント社製)とが質量比5:1となるように混合したクリヤー塗料組成物)中に配合し、ディスパーで撹拌した。得られた塗料組成物を、塗料固形分濃度=20質量%に調整し、乾燥膜厚が25μmとなるように、上記試験用塗装板にスプレー塗装を行った。
【0098】
表面を研磨した後、ニッペスーパーフロン(日本ペイント(株)社製、フッ素系塗料組成物)を、乾燥膜厚が70μmとなるように塗装し、塗装物を得た。
【0099】
実施例1〜5の構造色フレーク顔料を用いて得られた塗装物は、見る角度によって色相が変化する、意匠性に優れるものであった。なお実施例1〜3の構造色フレーク顔料を用いて得られた塗装物の写真を、物件提出書として提出する。
【0100】
一方、比較例1の樹脂粒子を含む塗料組成物をスプレー塗装して得られた塗膜は、半透明の白濁した塗膜であって、構造色を呈しない塗膜であった。
比較例2の干渉マイカ顔料を用いて得れた塗装物および比較例3のモルフォトーンを用いて得られた塗装物は、被塗物に対する光源入射角および観察者による塗装物を見る角度(受光角)による色相の変化は乏しいものであった。
なお、実施例1〜5および比較例2、3の顔料を用いた場合における評価結果を下記表にまとめる。
【0101】
【表1】

【0102】
上記表中の評価項目は以下の通りである。
・サイズ:実施例1〜5の構造色フレーク顔料の幅および長さに関しては、分級時に用いた篩の目の大きさを示す。厚さは電子顕微鏡写真で撮影した画像における厚さを測定し算出した平均値を示す。
比較例2の干渉マイカおよび比較例3のMORPHOTONE BM40C75は、カタログに記載された数値を示す。

・色:目視観察における、光源の入射角および塗膜を眺める観者の塗装板に対する視認角度(受光角)を変えた場合における色相の変化。

・角度依存性:(株)村上色彩技術研究所 変角分光測色システムGCMS−4型(変角分光高度計GSP−2型)を用いた、入射角45°における受光角−65°、−30°、0°、20°、35°で測定した場合における色相の変化の度合い。

・Δλ:角度依存性の測定条件における、波長対反射率の分光曲線において、ピークトップの波長の変化幅(最大波長−最小波長)を示す。

・色変化:Δλにおけるピークトップの波長に関して、以下の基準に基づき評価した。
連続的に変化・・ピークトップの波長が、角度変化に伴って変化する。
2色性・・・・・ピークトップの波長が、角度変化に伴って不連続に色変化する。
なし・・・・・・ピークトップの波長が変化しない。

・粒子観:塗装板を目視した場合において、粒状の輝点が感じられるか否かで評価。

・感触:塗装板を目視した場合における観者の塗膜外観に対する印象。

・メタル感:目視評価において、金属感を感じるか否か。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の構造色フレーク顔料は、既存の塗料組成物中に加えるのみで、樹脂粒子による構造色特有の、見る角度によって色相が変化し、かつ落ち着き感があり高級感がある意匠性に優れた塗膜を提供することができる。本発明の構造色フレーク顔料はさらに、より簡便な手法によって調製することができるという利点も有している。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】実施例1より得られた構造色フレーク顔料のSEM画像(撮影時の倍率10000倍、拡大斜視画像)である。
【図2】実施例1より得られた構造色フレーク顔料のSEM画像(撮影時の倍率5000倍、斜視画像)である。
【図3】実施例1より得られた構造色フレーク顔料のSEM画像(撮影時の倍率10000倍、断面画像)である。
【図4】実施例1より得られた構造色フレーク顔料のマイクロスコープ画像(撮影時の倍率200倍)である。
【図5】本発明の構造色フレーク顔料の製造工程の概略を示す、概略説明図である。
【図6】コアシェル樹脂粒子を含む溶液が空隙型受容層の上に塗装された場合における空隙型受容層の作用を示す概略説明図である。
【図7】実施例1における、コアシェル樹脂粒子を含む溶液を塗装後1時間経過した後の粒子充填膜のレーザー顕微鏡像(共焦点解析、撮影時の倍率1000倍)である。
【図8】実施例1における、回収されたフレーク状物のレーザー顕微鏡像(共焦点解析、撮影時の倍率1000倍)である。
【図9】特許文献1〜3における積層体形成の概略説明図である。
【図10】特許文献4で用いられている透明光輝材および発色構造体の概略説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径100〜850nmの単分散の樹脂粒子であるコア部が規則的に配列したコア部配列部、および
該コア部の規則的な配列を固定する固定相、
を含む、構造色フレーク顔料であって、
該構造色フレーク顔料は、厚さが1〜30μmであり、アスペクト比が1〜250であり、および、
該コア部の屈折率と、該固定相の屈折率との屈折率差は0.01以上である、
構造色フレーク顔料。
【請求項2】
前記コア部は架橋樹脂粒子である、請求項1記載の構造色フレーク顔料。
【請求項3】
前記コア部は、(メタ)アクリル樹脂、スチレン(メタ)アクリル樹脂、フッ素置換(メタ)アクリル樹脂、スチレン−フッ素置換(メタ)アクリル樹脂およびスチレン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の架橋樹脂粒子である、請求項1または2記載の構造色フレーク顔料。
【請求項4】
前記構造色フレーク顔料は;
コア部およびシェル部からなるコアシェル樹脂粒子であって、該コア部は平均粒子径100〜850nmの単分散のコア部であり、該シェル部は加熱することによって固定相を形成するシェル部であり、該コア部の屈折率と該シェル部の屈折率との屈折率差が0.01以上である、コアシェル樹脂粒子を含む溶液を;
空隙型受容層の上に塗布して規則的に配列させ;
加熱することによって、シェル部を、コア部を規則的に配列させかつ固定する固定相とし;
得られた、固定相によって規則的な配列が固定されたコア部を有する粒子充填膜を、空隙型受容層の上から回収してフレーク顔料とする;
ことによって調製された、構造色フレーク顔料である;
請求項1〜3いずれかに記載の構造色フレーク顔料。
【請求項5】
前記コアシェル樹脂粒子におけるコア部およびシェル部の質量比が、コア部/シェル部で7/3以上9/1以下であり、および
得られた構造色フレーク顔料は、固定相によって規則的な配列が固定されたコア部とコア部との間に空隙を有する、
請求項1〜4いずれかに記載の構造色フレーク顔料。
【請求項6】
前記コアシェル樹脂粒子におけるコア部およびシェル部の質量比は、コア部/シェル部で1/9以上7/3未満であり、および
得られた構造色フレーク顔料は、規則的な配列が固定されたコア部とコア部との間に固定相が満たされており空隙を有さない、
請求項1〜4いずれかに記載の構造色フレーク顔料。
【請求項7】
前記コアシェル樹脂粒子は、乳化重合またはソープフリー乳化重合によって調製されるコアシェル樹脂粒子である、請求項1〜6いずれかに記載の構造色フレーク顔料。
【請求項8】
コア部およびシェル部からなるコアシェル樹脂粒子であって、該コア部は平均粒子径100〜850nmの単分散のコア部であり、該シェル部は融着工程において固定相を形成するシェル部であり、および該コア部の屈折率と該シェル部の屈折率との屈折率差が0.01以上である、コアシェル樹脂粒子を調製する、コアシェル樹脂粒子調製工程、
得られたコアシェル樹脂粒子を含む溶液を、空隙型受容層の上に塗布して、コアシェル樹脂粒子を規則的に配列させる、塗布工程、
規則的に配列したコアシェル樹脂粒子を加熱して、シェル部による規則的に配列したコア部を固定する固定相を得る、融着工程、
融着工程より得られた、固定相によって配列が固定されたコア部を有する粒子充填膜を、空隙型受容層の上から回収しフレーク顔料とする、回収工程、
を包含する、構造色フレーク顔料の製造方法。
【請求項9】
前記空隙型受容層は、100nm未満の空隙を有する受容層である、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
請求項8または9記載の製造方法によって得られる構造色フレーク顔料。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか、または請求項10に記載の構造色フレーク顔料を含む塗料組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−24289(P2010−24289A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185038(P2008−185038)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】