説明

標的を定めた変異誘発によって改変された変異Δ8デサチュラーゼ遺伝子及び多価不飽和脂肪酸の製造におけるそれらの使用

本発明は、エイコサジエン酸[20:2ω−6、EDA]をジホモ−γ−リノレン酸[20:3、DGLA]に、および/またはエイコサトリエン酸[20:3ω−3、ETrA]をエイコサテトラエン酸[20:3ω−3、ETA]に変換する能力を有する変異Δ8デサチュラーゼ遺伝子に関する。Δ8デサチュラーゼをコードする、単離された核酸断片およびこのような断片を含んでなる組み換えコンストラクトが、これらの変異Δ8デサチュラーゼを植物および油性酵母中で使用して長鎖多価不飽和脂肪酸(PUFA)を製造する方法と共に、開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物工学の分野にある。より具体的には本発明は、変異Δ8脂肪酸デサチュラーゼをコードする核酸断片の創出、および長鎖多価不飽和脂肪酸(PUFA)の製造におけるこれらのデサチュラーゼの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
PUFAの重要性には議論の余地がない。例えば特定のPUFAは健康な細胞の重要な生物学的構成要素であり、哺乳類では新規(de novo)合成できず、その代わりに食餌中で得なくてはならず、またはリノール酸(LA、18:2 ω−6)またはα−リノレン酸(ALA、18:3 ω−3)のさらなる不飽和化および延長によって送達されなくてはならない「必須」脂肪酸としてとして見なされる。さらにPUFAは、リン脂質またはトリアシルグリセロールなどの形態であってもよい細胞の原形質膜の構成物である。PUFAは、(特に発達中の幼児の脳における)適切な発達、組織形成および修復のために必要なものであり、かつ哺乳類における重要ないくつかの生物学的に活性なエイコサノイド前駆物質(例えばプロスタサイクリン、エイコサノイド、ロイコトリエン、プロスタグランジン)である。研究により、長鎖ω−3PUFAの大量摂取は、心臓血管保護効果をもたらすことが分かっている(Dyerberg,J.ら、Amer.J.Clin Nutr.28:958〜966(1975年)、Dyerberg,J.ら、Lancet 2(8081):117〜119(1978年7月15日)、Shimokawa,H.、World Rev.Nutr.Diet、88:100〜108(2001年)、von Schacky,C.およびDyerberg,J.、World Rev.Nutr.Diet、88:90〜99(2001年))。文献により、ω−3および/またはω−6PUFAの投与によって得られる、多様な症状および疾患(例えば喘息、乾癬、湿疹、糖尿病、癌)に対する多岐にわたる健康上の利点が報告されている。
【0003】
植物、藻類、真菌、および酵母をはじめとする多様な異なる宿主が、商業的PUFA生産のための手段として調査されている。遺伝子操作は、いくつかの宿主の天然の能力を実質的に改変させて、様々な長鎖ω−3/ω−6PUFAを生成できることを実証している。例えばアラキドン酸(ARA;20:4ω−6)、エイコサペンタエン酸(EPA;20:5ω−3)、およびドコサヘキサエン酸(DHA;22:6ω−3)の生成は、全てΔ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路またはΔ6デサチュラーゼ/Δ6エロンガーゼ経路のいずれかの発現を必要とする。Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路は、例えばユーグレナ種に存在し、エイコサジエン酸[「EDA」;20:2ω−6]および/またはエイコサトリエン酸[「ETrA」;20:3ω−3]の生成によって特徴づけられる(図1)。Δ6デサチュラーゼ/Δ6エロンガーゼ経路は、藻類、コケ、真菌、線形動物、およびヒトにおいて主として見られ、γ−リノール酸[「GLA」;18:3ω−6]および/またはステアリドン酸[「STA」;18:4ω−3])の生成によって特徴づけられる(図1)。
【0004】
いくつかの用途では、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路が好まれる。しかしΔ8デサチュラーゼについては当該技術分野でよく知られておらず、組み換えΔ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路の構築では選択の余地が限られる。ここまでに、EDAからジホモ−γ−リノレン酸[20:3、DGLA]へ、およびETrAからエイコサテトラエン酸[20:4、ETA]への双方の転換能力を有する、わずかなΔ8デサチュラーゼが同定されている(ARAおよびEPAがΔ5デサチュラーゼとの反応に続いて、DGLAおよびETAからそれぞれ引き続いて合成される一方、DHA合成は追加的なC20/22エロンガーゼおよびΔ4デサチュラーゼの引き続く発現を必要とする)。
【0005】
いくつかのΔ8デサチュラーゼが知られており、部分的に特性決定されている(例えばミドリムシ(Euglena gracilis)からのΔ8デサチュラーゼを参照されたい;Wallisら、Arch.Biochem.and Biophys.、365(2):307〜316ページ(1999年5月);国際公開第2000/34439号パンフレット;米国特許第6,825,017号明細書;国際公開第2004/057001号パンフレット;国際公開第2006/012325号パンフレット;国際公開第2006/012326号パンフレット)。さらに国際公開第2005/103253号パンフレット(2005年4月22日公開)は、パブロバ・サリナ(Pavlova salina)からのΔ8デサチュラーゼのアミノ酸および核酸配列を開示する(米国特許出願公開第2005/0273885号明細書もまた参照されたい)。Sayanovaら(FEBS Lett.、580:1946〜1952頁(2006年))は、アラビドプシス(Arabidopsis)中で発現させるとC20Δ8デサチュラーゼをコードする、自由生活土壌アメーバアカントアメーバ・カステラーニ(Acanthamoeba castellanii)からのcDNAの単離および特性決定について述べている。さらに2006年4月28日に出願された同一譲受人の同時係属米国仮特許出願第60/795810号明細書は、パブロバ・ルセリ(Pavlova lutheri)(CCMP459)からのΔ8デサチュラーゼについてアミノ酸および核酸配列を開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがってPUFAを生成する組み換え経路で使用するための追加的なΔ8デサチュラーゼに対する必要性がなおも残る。出願人らは、合成的に改変された変異ミドリムシ(Euglena gracilis)Δ8デサチュラーゼを開発することで、既述の必要性を解決した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Δ8デサチュラーゼ活性を有する変異ポリペプチドをコードする新しい組み換えコンストラクト、およびPUFA、および特にω−3および/またはω−6脂肪酸を生成するための植物および酵母中でのそれらの使用に関する。
【0008】
したがって本発明は、
(a)Δ8デサチュラーゼ活性を有して、配列番号10と同一でない配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する、変異ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、または
(b)パート(a)のヌクレオチド配列の補体
を含んでなる、単離されたポリヌクレオチドを提供し、補体およびヌクレオチド配列は同数のヌクレオチドからなって100%相補的である。
【0009】
代案の実施態様では、本発明は、
(a)Δ8デサチュラーゼ活性を有して、配列番号10と同一でない配列番号198に記載のアミノ酸配列を有する、変異ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、または
(b)パート(a)のヌクレオチド配列の補体
を含んでなる、単離されたポリヌクレオチドを提供し、補体およびヌクレオチド配列は同数のヌクレオチドからなり、100%相補的である。
【0010】
本発明のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド、ならびに形質転換されて同ポリペプチドを発現する遺伝的キメラおよび宿主細胞を提供することは、本発明の一態様である。
【0011】
別の態様では本発明は、(a)本発明の酵母細胞を提供するステップと、(b)長鎖多価不飽和脂肪酸が生成する条件下で(a)の酵母細胞を成長させるステップを含んでなる、酵母細胞中で長鎖多価不飽和脂肪酸を製造する方法を提供する。
【0012】
別の態様では、本発明は本発明の酵母から得られる微生物油を提供する。
【0013】
別の実施態様では、本発明は、
a)本発明のΔ8デサチュラーゼポリペプチドをコードして、少なくとも1つの制御配列と作動的に連結する、単離されたポリヌクレオチドを含んでなる第1の組み換えDNAコンストラクト、および
b)少なくとも1つの制御配列と作動的に連結する、単離されたポリヌクレオチドを含んでなる、少なくとも1つの第2の組み換えDNAコンストラクト
を含んでなる、その乾燥細胞重量の少なくとも約25%を油として産生する油性酵母を提供し、コンストラクトは、Δ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ9エロンガーゼ、C14/16エロンガーゼ、C16/18エロンガーゼ、C18/20エロンガーゼ、およびC20/22エロンガーゼからなる群から選択されるポリペプチドをコードする。
【0014】
別の態様では本発明は、本発明の微生物油を含んでなる食物または飼料製品を提供する。
【0015】
別の実施態様では本発明は、
a)(i)Δ8デサチュラーゼポリペプチドをコードして、配列番号10と同一でない配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する組み換えコンストラクト、および
(ii)エイコサジエン酸源
を含んでなる、油性酵母を提供するステップと、
b)Δ8デサチュラーゼポリペプチドをコードする組み換えコンストラクトが発現して、エイコサジエン酸がジホモ−γ−リノール酸に変換される条件下でステップ(a)の酵母を成長させるステップと、
c)場合によりステップ(b)のジホモ−γ−リノール酸を回収するステップと
を含んでなる、ジホモ−γ−リノール酸を生成する方法を提供する。
【0016】
代案の実施態様では、本発明は
a)(i)Δ8デサチュラーゼポリペプチドをコードして、配列番号10と同一でない配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する組み換えコンストラクト、および
(ii)エイコサトリエン酸源
を含んでなる、油性酵母を提供するステップと、
b)Δ8デサチュラーゼポリペプチドをコードする組み換えコンストラクトが発現して、エイコサトリエン酸がエイコサテトラエン酸に変換される条件下で、ステップ(a)の酵母を成長させるステップと、
c)場合によりステップ(b)のエイコサテトラエン酸を回収するステップと
を含んでなる、エイコサテトラエン酸を生成する方法を提供する。
【0017】
別の実施態様では本発明は、
a)i)少なくとも1つの制御配列と作動的に連結する、本発明の単離されたポリヌクレオチドを含んでなる第1の組み換えDNAコンストラクト、および
ii)少なくとも1つの制御配列と作動的に連結する、Δ9エロンガーゼポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチドを含んでなる、少なくとも1つの第2の組み換えDNAコンストラクト
を含んでなる、酵母細胞を提供するステップと、
b)(a)の酵母細胞にリノレン酸源を提供するステップと、
c)ジホモ−γ−リノール酸が形成される条件下で(b)の酵母細胞を成長させるステップと
を含んでなる、ジホモ−γ−リノール酸を生成する方法を提供する。
【0018】
生物学的寄託
以下のプラスミドは、10801 University Boulevard,Manassas,VA 20110−2209の米国微生物系統保存機関(ATCC)に寄託され、以下の命名、登録番号、および寄託日を有する(表1)。
【0019】
表1
ATCC寄託

【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】代表的なPUFA生合成経路である。
【図2】EgD8Sの位相モデルを示す。
【図3】EgD8S(配列番号10)、アミロミセス・ルキシイ(Amylomyces rouxii)のΔ6デサチュラーゼ(配列番号13)、リゾプス・オリゼー(Rhizopus oryzae)のΔ6デサチュラーゼ(配列番号14)、大型リーシュマニア(Leishmania major)のΔ8脂肪酸デサチュラーゼ様タンパク質(GenBank登録番号CAJ09677;配列番号15)、およびモルティエラ・イザベリナ(Mortierella isabellina)のΔ6デサチュラーゼ(GenBank登録番号AAG38104;配列番号16)のアラインメントを示す。使用したアラインメント法は、「Clustal Wアラインメント法」に対応する。
【図4】EgD8S(配列番号10)、サッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)のチトクロームb5(GenBank登録番号P40312;配列番号178)、およびシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)の有望なチトクロームb51(GenBank登録番号O94391;配列番号179)のアラインメントを示す。使用したアラインメント法は、「Clustal Wアラインメント法」に対応する。
【図5】(A)pZKLeuN−29E3および(B)pY116のプラスミドマップを提供する。
【図6】(A)pKUNFmkF2、(B)pDMW287F、(C)pDMW214、および(D)pFmD8Sのプラスミドマップを提供する。
【図7】変異EgD8S−1および変異EgD8S−2Bからの断片のライゲーションによる変異EgD8S−5Bの合成を図示する。
【図8A】変異EgD8S−001および変異EgD8S−003からの断片のライゲーションによる変異EgD8S−008の合成を図示する。
【図8B】同様に、変異EgD8S−001および変異EgD8S−004からの断片のライゲーションによる変異EgD8S−009の合成を図示する。
【図9A】変異EgD8S−009および変異EgD8S−23からの断片のライゲーションによる変異EgD8S−013の合成を図示する。
【図9B】同様に、変異EgD8S−008および変異EgD8S−28からの断片のライゲーションによる変異EgD8S−015の合成を図示する。
【図10】EgD8S(配列番号10)、変異EgD8S−23(配列番号4)、変異EgD8S−013(配列番号6)、および変異EgD8S−015(配列番号8)のアラインメントを示す。使用したアラインメント法は、「Clustal Wアラインメント法」に対応する。
【図11】(A)pKo2UFm8および(B)pKO2UF8289からのプラスミドマップを提供する。
【0021】
本発明は、本明細書の一部を形成する以下の詳細な説明および添付の配列説明からより完全に理解できる。
【0022】
次の配列は、37C.F.R.§1.821〜1.825(「ヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列開示を含む特許出願の要件−配列規則」)を満たし、世界知的所有権機関(WIPO)標準ST.25(1998年)、およびEPOおよびPCTの配列表要件(規則5.2および49.5(aの2)、および実施細則第208号および附属書C)に一致する。ヌクレオチドおよびアミノ酸配列データのために使用される記号および型式は、37C.F.R.§1.822で述べられる規則に従う。
【0023】
配列一覧はここにコンパクトディスクで提供される。配列一覧を含むコンパクトディスクの内容は、37CFR1.52(e)に従って参照によって本願明細書に援用する。コンパクトディスクは三連で提出されて互いに同一である。ディスクは「コピー1−配列一覧」、「コピー2−配列一覧」、およびCRFとラベルされる。ディスクは、2006年12月6日に作成された293,000バイトのサイズを有するファイルCL3495 Seq Listing_11.27.06_ST25を含む。
【0024】
配列番号1〜17、19〜23、165、および172〜177は、表2で同定される遺伝子またはタンパク質をコーディングするORF(またはその一部)またはプラスミドである。
【0025】
表2
核酸およびタンパク質配列番号の要約

【0026】
(表2続き)

【0027】
(表2続き)

【0028】
配列番号18は、Creリコンビナーゼ酵素によって認識されるLoxP組み換え部位に対応する。
【0029】
配列番号24〜164は、変異部位M1、M2、M3などからM70までにおいて、特定の標的を定めた変異を作り出すのに使用された、70対のヌクレオチドプライマー(すなわちそれぞれ1A、1B、2A、2B、3A、3Bなどから69A、69B、70Aおよび70Bまで)に対応する。
【0030】
配列番号166〜171は、膜二鉄タンパク質のスーパーファミリーに属する膜結合脂肪酸デサチュラーゼの特色をなすHisに富むモチーフに対応する。
【0031】
配列番号187および188は、ミドリムシ(Euglena gracilis)Δ9エロンガーゼを増幅するのに使用されるプライマーoEugEL1−1およびoEugEL1−2にそれぞれ対応する。
【0032】
配列番号193は、M13F普遍的プライマーである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本明細書での用法および添付の特許請求の範囲では、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈中に明白な断りがない限り複数への言及を含む。したがって例えば「1つの植物(a plant)」への言及は複数のこのような植物、「1つの細胞(a cell)」への言及は1つ以上の細胞、および当業者に知られているその等価物を含む。
【0034】
本明細書で引用する全ての特許、特許出願、および公報は、その全体を参照によって援用する。これは具体的には以下の同一譲受人の同時係属出願を含む。米国特許出願第10/840478号明細書、米国特許出願第10/840579号明細書、および米国特許出願第10/840325号明細書(2004年5月6日出願)、米国特許出願第10/869630号明細書(2004年6月16日出願)、米国特許出願第10/882760号明細書(2004年7月1日出願)、米国特許出願第10/985254号明細書および米国特許出願第10/985691号明細書(2004年11月10日出願)、米国特許出願第10/987548号明細書(2004年11月12日出願)、米国特許出願第11/024545号明細書および米国特許出願第11/024544号明細書(2004年12月29日出願)、米国特許出願第11/166993号明細書(2005年6月24日出願)、米国特許出願第11/183664号明細書(2005年7月18日出願)、米国特許出願第11/185301号明細書(2005年7月20日出願)、米国特許出願第11/190750号明細書(2005年7月27日出願)、米国特許出願第11/198975号明細書(2005年8月8日出願)、米国特許出願第11/225354号明細書(2005年9月13日出願)、米国特許出願第11/251466号明細書(2005年10月14日出願)、米国特許出願第11/254173号明細書および米国特許出願第11/253882号明細書(2005年10月19日出願)、米国特許出願第11/264784号明細書および米国特許出願第11/264737号明細書(2005年11月1日出願)、米国特許出願第11/265761号明細書(2005年11月2日出願)、米国仮特許出願第60/739989号明細書(2005年11月23日出願)、米国仮特許出願第60/793575号明細書(2006年4月20日出願)、米国仮特許出願第60/795810号明細書(2006年4月28日出願)、米国仮特許出願第60/796637号明細書(2006年5月1日出願)および米国仮特許出願第60/801172号明細書および米国仮特許出願第60/801119号明細書(2006年5月17日出願)。
【0035】
さらに植物中におけるPUFA産生に関する同一譲受人の米国特許出願第10/776311号明細書(2004年8月26日公開)、およびアネキシンプロモーターおよび植物中での導入遺伝子発現におけるそれらの使用に関する米国特許出願第10/776889号明細書(2004年8月26日公開)は、その全体を参照によって援用する。
【0036】
本発明は、健康に良いPUFAを生成するために生化学的経路を操作するために使用してもよい、変異Δ8デサチュラーゼ酵素、および同酵素をコードする遺伝子を提供する。
【0037】
ここで開示される方法によって作られるPUFA、またはその誘導体は、食事代用物、または栄養補給剤、特に乳児用調製粉乳として、静脈内栄養補給を受ける患者のために、または栄養失調を予防しまたは治療するために使用できる。代案としては、通常の使用において受容者が所望量の食事補給を受け入れるように調合された、料理用油、脂肪またはマーガリン中に、純化されたPUFA(またはその誘導体)を組み込んでもよい。PUFAはまた、医薬または獣医学組成物の構成要素として、抗炎症薬またはコレステロール低下剤として使用されてもよい。
【0038】
定義
本開示では、いくつかの用語および略語を使用する。以下の定義が提供される。
「読み取り枠」はORFと略記される。
「ポリメラーゼ連鎖反応」はPCRと略記される。
「米国微生物系統保存機関」はATCCと略記される。
「多価不飽和脂肪酸」はPUFAと略記される。
「トリアシルグリセロール」はTAGと略記される。
【0039】
「脂肪酸」という用語は、(より長い、およびより短い鎖長の酸の双方も知られているが)約C12〜C22の様々な鎖長の長鎖脂肪族酸(アルカン酸)を指す。優勢な鎖長はC16〜C22の間である。「飽和脂肪酸」対「不飽和脂肪酸」、「一不飽和脂肪酸」対「多価不飽和脂肪酸」(または「PUFA」)、および「オメガ−6脂肪酸」(ω−6またはn−6)対「オメガ−3脂肪酸」(ω−3またはn−3)の間の区別に関する追加的詳細は、国際公開第2004/101757号パンフレットで提供されている。
【0040】
脂肪酸はここで単純な表記体系「X:Y」によって述べられており、Xは特定の脂肪酸中の炭素(C)原子数であり、Yは二重結合の数である。脂肪酸名に続く数は脂肪酸のカルボキシル末端からの二重結合の位置を示し、「c」は二重結合のcis型立体配置の接辞である[例えばパルミチン酸(16:0)、ステアリン酸(18:0)、オレイン酸(18:1、9c)、ペトロセリン酸(18:1、6c)、LA(18:2、9c、12c)、GLA(18:3、6c、9c、12c)、およびALA(18:3、9c、12c、15c)]。特に断りのない限り、18:1、18:2、および18:3は、オレイン酸、LA、およびALA脂肪酸を指す。特に断りのない限り、二重結合はcis型立体配置と仮定される。例えば18:2(9、12)中の二重結合は、cis型立体配置にあると仮定される。
【0041】
本開示においてPUFAを既述するのに使用される命名法を下の表3に示す。「略記法」と題された欄では、オメガ−参照システムが使用されて炭素数、二重結合数、およびオメガ炭素(この目的では番号1)から数えて、オメガ炭素に最も近い二重結合の位置を示唆する。表の残りは、ω−3およびω−6脂肪酸およびそれらの前駆物質の一般名、本明細書全体で使用される略語、および各化合物の化学名を要約する。
【0042】
表3
多価不飽和脂肪酸および前駆物質の命名法

【0043】
「トリアシルグリセロール」、「油」、および「TAG」という用語は、グリセロール分子とエステル化する3個の脂肪酸アシル残基から構成される中性脂質を指す(そしてこのような用語は、本開示の全体を通して区別なく使用される)。このような油は、長鎖PUFA、ならびにより短い飽和および不飽和脂肪酸、および鎖長のより長い飽和脂肪酸を含有できる。したがって「油生合成」は、一般に細胞中でのTAG合成を指す。
【0044】
「総脂質および油画分中のパーセント(%)PUFA」とは、これらの画分中の全脂肪酸に対するPUFAのパーセントを指す。「全脂質画分」または「脂質画分」という用語は、どちらも油性生物中の全脂質(すなわち中性および極性)の合計を指すので、ホスファチジルコリン(PC)画分、ホスファチジルエタノールアミン(PE)画分、およびトリアシルグリセロール(TAGまたは油)画分内に位置する脂質を含む。しかし「脂質」および「油」という用語は、本明細書全体で同義的に使用される。
【0045】
「PUFA生合成経路」という用語は、オレイン酸をLA、EDA、GLA、DGLA、ARA、ALA、STA、ETrA、ETA、EPA、DPA、およびDHAに転換する代謝過程を指す。この過程は、文献で詳しく述べられる(例えば国際公開第2006/052870号パンフレットを参照されたい)。簡単に述べると、この過程は、小胞体膜中に存在する一連の特別なデサチュラーゼおよび延長酵素(すなわち「PUFA生合成経路酵素」)による、炭素原子の添加を通じた炭素鎖延長、および二重結合付加を通じた分子不飽和化を伴う。より具体的には、「PUFA生合成経路酵素」は、Δ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ9エロンガーゼ、C14/16エロンガーゼ、C16/18エロンガーゼ、C18/20エロンガーゼおよび/またはC20/22エロンガーゼをはじめとする、PUFA生合成に関与するいずれかの酵素(および前記酵素をコードする遺伝子)を指す。
【0046】
「ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路」という用語は、適切な条件下で発現すると、ω−3およびω−6脂肪酸の片方または双方の生成を触媒する酵素をコードする一組の遺伝子を指す。典型的にω−3/ω−6脂肪酸生合成経路に関与する遺伝子は、以下の酵素のいくつかまたは全てをコードする。Δ12デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、C18/20エロンガーゼ、C20/22エロンガーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ9エロンガーゼ、およびΔ4デサチュラーゼ。代表的な経路を図1に示し、様々な中間体を経由するオレイン酸のDHAへの変換を提供して、ω−3およびω−6脂肪酸の双方が共通の原料からどのように生成できるかを実証する。経路は自然に2つの部分に別れ、1つの部分はω−3脂肪酸、別の部分はω−6脂肪酸のみを発生させる。ω−3脂肪酸のみを発生させる部分をここでω−3脂肪酸生合成経路と称する一方、ω−6脂肪酸のみを発生させる部分はここでω−6脂肪酸生合成経路と称する。
【0047】
「機能性」という用語は、ここでω−3/ω−6脂肪酸生合成経路に関する文脈で、経路中の遺伝子のいくつか(または全て)が、活性酵素を発現し、生体内触媒作用または基質変換をもたらすことを意味する。いくつかの脂肪酸生成物は、この経路の遺伝子のサブセットの発現のみを必要とするので、「ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路」または「機能性ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路」は、上の段落で挙げられた全ての遺伝子が必要とされることを暗示しないものとする。
【0048】
「デサチュラーゼ」と言う用語は、不飽和化できる、すなわち1個もしくはそれ以上の脂肪酸に二重結合を導入して、対象とする脂肪酸または前駆物質を生じさせるポリペプチドを指す。特定の脂肪酸を指すために、本明細書全体を通じたω参照システムの使用にもかかわらず、デルタシステムを使用して基質のカルボキシル末端から数えることで、デサチュラーゼの活性を示す方が都合よい。ここで特に興味深いのは、分子のカルボキシル−末端から数えて8番目および9番目の炭素原子の間で脂肪酸を不飽和化して、例えばEDAからDGLA、および/またはETrAからETAへの変換を触媒できるΔ8デサチュラーゼである。その他のデサチュラーゼとしては、1.)DGLAからARAおよび/またはETAからEPAへの変換を触媒するΔ5デサチュラーゼ、2.)LAからGLAおよび/またはALAからSTAへの変換を触媒するΔ6デサチュラーゼ、3.)DPAからDHAへの変換を触媒するΔ4デサチュラーゼ、4.)オレイン酸からLAへの変換を触媒するΔ12デサチュラーゼ、5.)LAからALAおよび/またはGLAからSTAへの変換を触媒するΔ15デサチュラーゼ、6.)ARAからEPAおよび/またはDGLAからETAへの変換を触媒するΔ17デサチュラーゼ、および7.)パルミチン酸からパルミトレイン酸(16:1)および/またはステアリン酸からオレイン酸(18:1)への変換を触媒するΔ9デサチュラーゼが挙げられる。当該技術分野では、Δ15およびΔ17デサチュラーゼはまた、時としてω−6脂肪酸をそれらのω−3対応物に転換する能力に基づいて、「オメガ−3デサチュラーゼ」、「w−3デサチュラーゼ」、および/または「ω−3デサチュラーゼ」と称される(例えばそれぞれLAからALA、およびARAからEPAへの変換)。いくつかの実施態様では、脂肪酸デサチュラーゼのための遺伝子によって適切な宿主を形質転換し、宿主の脂肪酸プロフィールに対するその影響を判定することで、特定の脂肪酸デサチュラーゼの特異性を経験的に判定することが最も望ましい。
【0049】
ここでの目的では、「EgD8」という用語は、ここで配列番号11によってコードされるミドリムシ(Euglena gracilis)から単離されたΔ8デサチュラーゼ(配列番号12)を指す。国際公開第2006/012325号パンフレットおよび国際公開第2006/012326号パンフレット[米国特許出願公開第2005−0287652−A1号明細書]で述べられているように、EgD8は「Eg5」と100%同一であり、機能的に同等である。
【0050】
同様に「EgD8S」という用語は、ここでヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化されたミドリムシ(Euglena gracilis)に由来する合成Δ8デサチュラーゼを指す(すなわち配列番号9および10)。国際公開第2006/012325号パンフレットおよび国際公開第2006/012326号パンフレットで述べられているように、EgD8Sは「D8SF」と100%同一であり、機能的に同等である。
【0051】
「変異EgD8S」という用語は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された、ミドリムシ(Euglena gracilis)に由来する合成Δ8デサチュラーゼ(すなわちEgD8S)と比較して、少なくとも1つの変異を有する本発明のΔ8デサチュラーゼを指す。「変異」はあらゆる欠失、挿入、および点変異(またはそれらの組み合わせ)を含んでもよいが、好ましい実施態様では変異EgD8Sは配列番号2で記載され、(i)配列番号2は4SからA、5KからS、12TからV、16TからK、17TからV、54AからG、55FからY、66PからQ、67SからA、108SからL、117GからA、118YからF、120LからM、121MからL、125QからH、126MからL、132VからL、133LからV、162LからV、163VからL、170GからA、171LからV、279TからL、280LからT、293LからM、346IからV、347IからL、348TからS、407AからS、408VからQ、418AからG、419GからA、および422LからQからなる群から選択される少なくとも1つの変異を含んでなり、変異は合成コドン最適化EgD8S配列(すなわち配列番号10)と比較して定義され、(ii)配列番号2は配列番号10と100%同一でない。より好ましい実施態様では、変異EgD8Sは合成コドン最適化EgD8S配列と比較して少なくとも約10〜18個の変異、より好ましくは少なくとも約19〜25個の変異、最も好ましくは合成コドン最適化EgD8S配列(すなわち配列番号10)と比較して少なくとも約26〜33個の変異を有する。別の実施態様では、変異EgD8SのΔ8デサチュラーゼ活性は、合成コドン最適化EgD8S(配列番号10)のΔ8デサチュラーゼ活性と少なくとも機能的にほぼ同等である。
【0052】
変異EgD8S配列の酵素活性および特異的選択性がEgD8Sに匹敵すれば、異なるポリペプチド配列にもかかわらず、変異EgD8SはEgD8Sと「少なくとも機能的にほぼ同等である」。したがって機能的に同等の変異EgD8S配列は、それぞれの酵素の「変換効率」を比較すると、EgD8Sに比べて実質的に低下していないΔ8デサチュラーゼ活性を有する(すなわち変異EgD8Sは、EgD8Sの酵素活性の少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約85%、最も好ましくは少なくとも約95%を有する)。より好ましい実施態様では、EgD8Sと比較すると変異EgD8Sは酵素活性および特異的選択性の増大を有する(すなわちEgD8Sの酵素活性の少なくとも約105%、より好ましくは少なくとも約115%、最も好ましくは少なくとも約125%)。
【0053】
「変換効率」および「%基質変換」という用語は、それによって特定酵素(例えばデサチュラーゼ)が基質を生成物に変換できる効率を指す。変換効率は、次の式に従って測定される。([生成物]/[基質+生成物])*100。式中、「生成物」は即時の生成物およびそれに由来する経路中の全ての生成物を含む。
【0054】
「エロンガーゼ系」という用語は、エロンガーゼ系が作用する脂肪酸基質よりも炭素2個分長い脂肪酸を生成する、脂肪酸炭素鎖延長の役割を担う4つの酵素のセットを指す。より具体的には鎖長延長過程は、CoAがアシルキャリアである脂肪酸シンターゼの協力によって起きる(Lassnerら、The Plant Cell、8:281〜292頁(1996年))。基質特異的でありまた律速でもあることが分かった第1のステップでは、マロニル−CoAが長鎖アシル−CoAと縮合してCO2およびβ−ケトアシル−CoAを生じる(アシル部分は炭素原子2個分延長されている)。引き続く反応は、β−ヒドロキシアシル−CoAへの還元、エノイル−CoAへの脱水、および延長アシル−CoAを生じる第2の還元を含む。エロンガーゼ系によって触媒される反応の例は、GLAからDGLA、STAからETA、およびEPAからDPAへの変換である。
【0055】
ここでの目的では、第1の縮合反応(すなわちマロニル−CoAからβ−ケトアシル−CoAへの変換)を触媒する酵素は、総称的に「エロンガーゼ」と称される。一般にエロンガーゼの基質選択性はいくぶん広いが、鎖長と不飽和度の双方によって差別される。したがってエロンガーゼは異なる特異性を有することができる。例えばC14/16エロンガーゼはC14基質(例えばミリスチン酸)を利用し、C16/18エロンガーゼはC16基質(例えばパルミチン酸)を利用し、C18/20エロンガーゼはC18基質(例えばGLA、STA)を利用し、C20/22エロンガーゼはC20基質(例えばEPA)を利用する。同様にしてΔ9エロンガーゼは、LAおよびALAからEDAおよびETrAへの変換をそれぞれ触媒できる(例えば国際公開第2002/077213号パンフレット)。いくつかのエロンガーゼは広い特異性を有し、したがって単一酵素がいくつかのエロンガーゼ反応を触媒できてもよいことに留意することが重要である(例えばそれによってC16/18エロンガーゼおよびC18/20エロンガーゼの双方として機能する)。
【0056】
「Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路」という用語は長鎖PUFAを生成するための生合成経路を指し、前記経路は最低限Δ9エロンガーゼおよびΔ8デサチュラーゼを含んでなり、それによってそれぞれLAおよびALAからのDGLAおよび/またはETAの生合成を可能にする。この経路は、GLAおよび/またはSTAの生合成が除外されるので、いくつかの実施態様では有利かもしれない。
【0057】
「アミノ酸」という用語は、タンパク質またはポリペプチドの基本的化学構造単位を指す。アミノ酸は、参照によって本明細書に援用するNucleic Acids Research、13:3021〜3030(1985年)およびBiochemical Journal、219(2):345〜373(1984年)で述べられているIUPAC−IYUB基準に準拠して、アミノ酸のための1文字コードまたは3文字コードのいずれかによって同定される。
【0058】
「保存的アミノ酸置換」という用語は、タンパク質の化学的または機能的性質を変化させることなしに、特定のタンパク質中のアミノ酸残基を別のアミノ酸で置換することを指す。例えば特定の部位において化学的に等価なアミノ酸の生成をもたらす(しかしコードされた折り畳みタンパク質の構造および機能特性に影響しない)遺伝子中の変更が一般的であることは、当該技術分野でよく知られている。本発明の目的で、「保存的アミノ酸置換」は次の5群の1つ内の交換として定義される。
1.小型脂肪族の非極性またはわずかに極性の残基:Ala[A]、Ser[S]、Thr[T](Pro[P]、Gly[G])
2.極性の負に帯電した残基およびそれらのアミド:Asp[D]、Asn[N]、Glu[E]、Gln[Q]
3.極性の正に帯電した残基:His[H]、Arg[R]、Lys[K]
4.大型脂肪族非極性残基:Met[M]、Leu[L]、Ile[I]、Val[V](Cys[C])および
5.大型芳香族残基:Phe[F]、Tyr[Y]、Trp[W]。
したがってわずかに疎水性のアミノ酸であるAlaは、別のより疎水性の低い残基(例えばGly)によって置換されてもよい。同様に1個の負に帯電した残基による別のもの(例えばAspによるGlu)の置換または1個の正に帯電した残基による別のもの(例えばLysによるArg)の置換をもたらす変化は、機能的に同等の生成物を生じることが予期できる。したがって保存的アミノ酸置換は、1.)置換領域内のポリペプチド主鎖構造、2.)標的部位の分子の電荷または疎水性、または3.)側鎖の大半を一般に保つ。さらに多くの場合、タンパク質分子のN−末端とC−末端部分の修正は、タンパク質活性を変更することが予期されない。
【0059】
「非保存的アミノ酸置換」という用語は、タンパク質特性に最大変化を生じることが一般に予期されるアミノ酸置換を指す。したがって例えば非保存的アミノ酸置換は、それによって1.)親水性残基が疎水性残基を置換し、それによって置換され(例えばSerまたはThrがLeu、Ile、Valを置換し、それによって置換される)、2.)CysまたはProがあらゆるその他の残基を置換し、それによって置換され、3.)電気陽性側鎖を有する残基が電気陰性残基を置換し、それによって置換され(例えばLys、ArgまたはHisがAspまたはGluを置換し、それによって置換される)、または4.)かさ高い側鎖を有する残基が側鎖を有さないものを置換し、それによって置換される(例えばPheがGlyを置換し、それによって置換される)ものである。時折、5群中の2つの間の非保存的アミノ酸置換は、コードされるタンパク質の活性に影響しない。
【0060】
「ポリヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド配列」、「核酸配列」、「核酸断片」、および「単離された核酸断片」という用語は、本明細書で同義的に使用される。ポリヌクレオチドは、場合により合成、非天然または改変ヌクレオチド塩基を含有する、一本鎖または二本鎖のRNAまたはDNAのポリマーであってもよい。DNAのポリマーの形態のポリヌクレオチドは、cDNA、ゲノムDNA、合成DNA、またはそれらの混合物の1つ以上のセグメントを含んでなってもよい。
【0061】
核酸断片は、適切な温度および溶液イオン強度条件下で、核酸断片の一本鎖形態がその他の核酸断片とアニールできる場合、cDNA、ゲノムDNA、またはRNAなどの別の核酸断片と「ハイブリダイズ可能」である。ハイブリダイゼーションおよび洗浄条件については良く知られており、Sambrook,J.、Fritsch,E.F.およびManiatis,T.「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第二版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、NY(1989年)の特に第11章およびその表11.1で例証される(参照によってその内容全体を本明細書に援用する)。温度およびイオン強度条件が、ハイブリダイゼーションの「ストリンジェンシー」を定める。ストリンジェントな条件は、(遠縁の生物からの相同的配列などの)中程度に類似の断片をスクリーニングするため、そして(近縁の生物からの機能性酵素を複製する遺伝子などの)高度に類似した断片をスクリーニングするために調節できる。ハイブリダイゼーション後の洗浄が、ストリンジェンシー条件を決定する。1つの好ましい条件のセットは、室温において6×SSC、0.5%SDSで15分間に始まり、次に45℃において2×SSC、0.5%SDSで30分間を反復し、次に50℃において0.2×SSC、0.5%SDSを30分間を2回反復する、一連の洗浄を使用する。より好ましいストリンジェントな条件のセットはより高い温度を使用し、そこでは洗浄は、最後の0.2×SSC、0.5%SDS中での2回の30分間の洗浄の温度を60℃に増大させること以外は上述したのと同一である。別の好ましい高度にストリンジェントな条件のセットは、65℃において0.1×SSC、0.1%SDS中での2回の最終洗浄を使用する。さらに別のストリンジェントな条件のセットは、例えば0.1×SSC、0.1%SDSで65℃、そして2×SSC、0.1%SDSで洗浄後、0.1×SSC、0.1%SDSでのハイブリダイゼーションを含む。
【0062】
ハイブリダイゼーションのストリンジェンシー次第で塩基間のミスマッチは可能であるが、ハイブリダイゼーションは、2つの核酸が相補的配列を含有することを必要とする。核酸がハイブリダイゼーションする適切なストリンジェンシーは、当該技術分野で良く知られた変数である核酸の長さおよび相補性の程度に左右される。2つのヌクレオチド配列間の類似性または相同性の程度が高い程、これらの配列を有する核酸ハイブリッドのTm値は大きくなる。核酸ハイブリダイゼーションの相対安定性(より高いTmに対応する)は、次の順で低下する。RNA:RNA、DNA:RNA、DNA:DNA。長さがヌクレオチド100個を超えるハイブリッドでは、Tmを計算する式が導かれている(Sambrookら、前出9.50〜9.51参照)。より短かい核酸、すなわちオリゴヌクレオチドによるハイブリダイゼーションのためにはミスマッチの配置がより重要になり、オリゴヌクレオチドの長さがその特異性を決定する(Sambrookら、前出11.7〜11.8参照)。一実施態様では、ハイブリダイズ可能な核酸の長さは少なくともヌクレオチド約10個である。ハイブリダイズ可能な核酸の好ましい最小の長さは少なくともヌクレオチド約15個、より好ましくは少なくともヌクレオチド約20個、そして最も好ましくは長さが少なくともヌクレオチド約30個である。さらに当業者は、プローブの長さなどの要因次第で、温度および洗浄液の塩濃度を必要に応じて調節してもよいことを認識する。
【0063】
アミノ酸またはヌクレオチド配列の「かなりの部分」とは、当業者による配列の手動評価によって、あるいはBLAST(「基礎的局在性配列検索ツール(Basic Local Alignment Search Tool」、Altschul,S.F.ら、J.Mol.Biol.215:403〜410(1993年))などのアルゴリズムを使用したコンピュータ自動化アラインメントおよび同定によって、遺伝子またはポリペプチドの推定上の同定を得るのに十分なポリペプチドまたは遺伝子のヌクレオチド配列のアミノ酸配列を含んでなる部分である。一般に推定的にポリペプチドまたは核酸配列が既知のタンパク質または遺伝子に相同的であると同定するためには、10個以上の隣接するアミノ酸または30個以上のヌクレオチド配列が必要である。さらにヌクレオチド配列に関して、配列依存遺伝子同定法(例えばサザンハイブリダイゼーション)および単離(例えば細菌コロニーまたはバクテリオファージプラークの原位置ハイブリダイゼーション)において、20〜30個の隣接するヌクレオチドを含んでなる遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブを使用しても良い。さらにプライマーを含んでなる特定の核酸断片を得るために、塩基12〜15個の短いオリゴヌクレオチドを増幅プライマーとしてPCRで使用しても良い。したがってヌクレオチド配列の「かなりの部分」は、配列を含んでなる核酸断片を特異的に同定、および/または単離できるようにする十分な配列を含んでなる。本明細書は、1つ以上の特定のΔ8デサチュラーゼタンパク質をコードする完全なアミノ酸およびヌクレオチド配列を教示する。当業者はここで報告される配列の恩恵を被り、当業者に既知の目的のために、今や開示された配列の全てまたはかなりの部分を使用できる。したがって本発明は、添付の配列表で報告される完全な配列、ならびに上で定義される配列のかなりの部分を含んでなる。
【0064】
「相補的」という用語は、互いにハイブリダイズできるヌクレオチド塩基間の関係について述べるために使用される。例えばDNAに関して、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。したがって本発明は、添付の配列一覧で報告されるような完全な配列に相補的な単離された核酸断片、ならびに実質的に類似した核酸配列をもまた含む。
【0065】
「相同性」、「相同的な」、「実質的に類似した」、および「実質的に相当する」という用語は、本明細書で同義的に使用される。それらは1つ以上のヌクレオチド塩基の変化が、核酸断片が遺伝子発現を仲介する能力、または特定のフェノタイプを生じる能力に影響しない核酸断片を指す。これらの用語はまた、最初の無修飾断片と比較して得られる核酸断片の機能特性を実質的に改変しない、1つ以上のヌクレオチドの欠失または挿入などの本発明の核酸断片の修飾も指す。したがって当業者は理解するように、本発明は特定の例示的配列を超えて包含するものと理解される。
【0066】
さらに当業者は、本発明によって包含される実質的に類似した核酸配列がまた、ストリンジェントな条件(例えば0.5×SSC、0.1%SDS、60℃)下で、ここで例証される配列、またはここで開示される核酸配列のいずれかと機能的に同等である、ここで開示されるヌクレオチド配列のあらゆる部分とハイブリダイズするそれらの能力によっても定義されることを認識する。
【0067】
「コドン縮重」とは、コードされるポリペプチドのアミノ酸配列に影響することなく、ヌクレオチド配列の多様性を可能にする遺伝コードの性質を指す。したがって本発明は、配列番号2、10、および12に記載の本Δ8デサチュラーゼポリペプチドをコードする、アミノ酸配列の全てまたはかなりの部分をコードするあらゆる核酸断片に関する。当業者は、特定のアミノ酸を特定化するヌクレオチドコドンの使用における、特定の宿主細胞によって示される「コドンバイアス」についてよく知っている。したがって宿主細胞中の改善された発現のために遺伝子を合成する場合、そのコドン使用頻度が、宿主細胞の好むコドン使用頻度に近くなるように遺伝子をデザインすることが望ましい。
【0068】
DNA配列に関連して「化学的に合成された」とは、構成要素ヌクレオチドが、生体外で構築されたことを意味する。DNAの手動化学合成は確立された手順を使用して達成されてもよく、あるいはいくつかの市販の機器の1つを使用して自動化学合成を実施できる。「合成遺伝子」は、当業者に公知の手順を使用して化学的に合成されるオリゴヌクレオチド構成単位からアセンブルできる。これらの構成単位をライゲーションしアニールして遺伝子セグメントを形成し、次にそれを酵素的にアセンブルして遺伝子全体を構築する。したがって遺伝子をヌクレオチド配列の最適化に基づいて、最適な遺伝子発現のために個別に調整し、宿主細胞のコドンバイアスを反映させることができる。当業者は、コドン利用が宿主によって好まれるコドンに偏っている場合の遺伝子発現成功の可能性を理解する。好ましいコドンの判定は、配列情報が利用できる宿主細胞由来の遺伝子の調査に基づくことができる。
【0069】
「遺伝子」とは特定のタンパク質を発現する核酸断片を指し、それはコード領域のみを指してもよく、またはコード配列に先行する(5’非コード配列)およびそれに続く(3’非コード配列)制御配列を含んでもよい。「天然遺伝子」とは、自然界にそれ自体の制御配列と共に見られる遺伝子を指す。「キメラ遺伝子」とは、自然界に共に見られない制御およびコード配列を含んでなる天然遺伝子でないあらゆる遺伝子を指す。したがってキメラ遺伝子は、異なる起源由来の制御配列およびコード配列、あるいは同一起源由来であるが、自然界に見られるのとは異なる様式で配列される制御配列およびコード配列を含んでなってもよい。「内在性遺伝子」とは、生物ゲノム中のその天然位置にある天然遺伝子を指す。「外来性」遺伝子とは、通常は宿主生物には見られないが、遺伝子移入によって宿主生物に導入された遺伝子を指す。外来性遺伝子は、非天然生物中に挿入された天然遺伝子、天然宿主内の新しい位置に導入された天然遺伝子、あるいはキメラ遺伝子を含んでなることができる。「導入遺伝子」とは、形質転換によってゲノム中に導入された遺伝子である。「コドン最適化遺伝子」とは、そのコドン使用頻度が宿主細胞の好むコドン使用頻度を模倣するようにデザインされた遺伝子である。
【0070】
「アレル」は、染色体上の特定遺伝子座を占有する遺伝子のいくつかの代案の形態の一つである。染色体上の特定遺伝子座に存在する全てのアレルが同じであれば、その植物はその遺伝子座において同型接合性である。染色体上の特定遺伝子座に存在するアレルが異なれば、植物はその遺伝子座において異種接合体である。
【0071】
「コード配列」とは、特定のアミノ酸配列をコードするDNA配列を指す。「適した制御配列」とは、コード配列の上流(5’非コード配列)、配列内、または下流(3’非コード配列)に位置して、転写、RNAプロセシングまたは安定性、または関連コード配列の翻訳に影響を及ぼすヌクレオチド配列を指す。制御配列は次を含んでも良い。プロモーター、翻訳リーダー配列、イントロン、ポリアデニル化認識配列、RNAプロセッシング部位、エフェクター結合部位、およびステム−ループ構造。
【0072】
「プロモーター」とは、コード配列または機能性RNAの発現を調節できるDNA配列を指す。一般にコード配列はプロモーター配列に対して3’に位置する。プロモーター配列は、近位およびより遠位の上流の要素からなってもよく、後者の要素はエンハンサーと称されることが多い。したがって「エンハンサー」はプロモーター活性を刺激できるDNA配列であり、プロモーターの生得要素であっても、またはプロモーターのレベルまたは組織特異性を増強するために挿入された異種の要素であってもよい。プロモーターは、その全体を天然遺伝子に由来してもよく、または自然界に見られる異なるプロモーターに由来する異なる要素から構成されてもよく、または合成DNAセグメントを含んでなってさえもよい。異なるプロモーターが、異なる組織または細胞型において、または発達の異なる段階で、または異なる環境または生理学的条件に応えて、遺伝子発現を誘導してもよいことは当業者によって理解される。ほとんどの場合、制御配列の正確な境界は完全に確定されていないので、いくつかのバリエーションのDNA断片が、同一プロモーター活性を有するかもしれないことがさらに認識される。ほとんどの細胞タイプにおいてほとんどの場合に遺伝子を発現させるプロモーターは、一般に「構成的プロモーター」と称される。植物細胞中で有用な様々なタイプの新しいプロモーターが絶えず発見されている。多数の例が、Okamuro,J.K.およびGoldberg,R.B.編、Biochemistry of Plants、15:1〜82頁(1989年)にある。
【0073】
「翻訳リーダー配列」とは、遺伝子およびコード配列のプロモーター配列間に位置するポリヌクレオチド配列を指す。翻訳リーダー配列は、翻訳開始配列上流の完全に処理されたmRNA中に存在する。翻訳リーダー配列は、一次転写物からmRNAへの加工、mRNA安定性または翻訳効率に影響するかもしれない。翻訳リーダー配列の例については、(Turner,R.およびFoster、G.D.、Mol.Biotechnol.、3:225〜236頁(1995年))で述べられている。
【0074】
「3’非−コード配列」、「転写ターミネーター」、および「終止配列」という用語は、コード配列下流に位置するDNA配列を指す。これとしては、mRNAプロセシングまたは遺伝子発現に影響できる調節シグナルをコードするポリアデニル化認識配列およびその他の配列が挙げられる。ポリアデニル化シグナルは、通常mRNA前駆物質の3’末端へのポリアデニル酸トラクトの付加に影響することで特徴づけられる。3’領域は、随伴コード配列の転写、RNAプロセシングまたは安定性、または翻訳に影響できる。異なる3’非コード配列の使用については、Ingelbrecht,I.L.ら(Plant Cell、1:671〜680頁(1989年))によって例証される。
【0075】
「RNA転写物」は、RNAポリメラーゼが触媒するDNA配列の転写に起因する生成物を指す。RNA転写物がDNA配列の完全な相補的コピーであれば、それは一次転写物と称される。RNA転写物は、それが一次転写物の転写後プロセッシングに由来するRNA配列であれば、成熟RNAと称される。「メッセンジャーRNA」または「mRNA」とは、イントロンがなく、細胞がタンパク質に翻訳できるRNAを指す。「cDNA」とは、mRNAテンプレートに対して相補的で、酵素逆転写酵素を使用してそれから合成されるDNAを指す。cDNAは一本鎖であることができ、またはDNAポリメラーゼIのクレノウ(Klenow)断片を使用して二本鎖形態に変換できる。「センス」RNAとは、mRNAを含んで、細胞中または生体外でタンパク質に翻訳できるRNA転写物を指す。「アンチセンスRNA」とは、標的一次転写物またはmRNAの全部または一部に相補的で標的遺伝子の発現をブロックするRNA転写物を指す(米国特許第5,107,065号明細書;国際公開第99/28508号パンフレット)。アンチセンスRNAの相補性は、特定の遺伝転写物のあらゆる部分、すなわち5’非コード配列、3’非コード配列、イントロン、またはコード配列に対するものであってもよい。「機能性RNA」とは、翻訳されなくてもよいが、なおも細胞過程に影響する、アンチセンスRNA、リボザイムRNA、またはその他のRNAを指す。「補体」および「逆補体」という用語は、ここでmRNA転写物に関して同義的に使用され、メッセージのアンチセンスRNAを定義することを意図する。
【0076】
「作動的に連結する」という用語は、一方の機能がもう一方によって制御されるような、単一核酸断片上の核酸配列の協合を指す。例えばプロモーターがそのコード配列の発現に影響できる(すなわちコード配列がプロモーターの転写制御下にある)場合、それはコード配列と作動的に連結する。コード配列は、センスまたはアンチセンス方向で制御配列と作動的に連結できる。
【0077】
「プラスミド」、「ベクター」、および「カセット」と言う用語は、細胞の中心的代謝の一部ではない遺伝子を運ぶことが多く、通常環状二本鎖DNA断片の形態である染色体外要素を指す。このような要素は、あらゆる供給源に由来する一本鎖または二本鎖DNAまたはRNAの配列、ゲノム一体化配列、直鎖または環状のファージまたはヌクレオチド配列を自律的に複製するかもしれず、そこではいくつかのヌクレオチド配列が独自の構成に結合または組み換えされ、それは選択された遺伝子産物のために、適切な3’非翻訳配列と共にプロモーター断片およびDNA配列を細胞中に導入することができる。「発現カセット」とは、外来性遺伝子を含有し、外来性遺伝子に加えて外来性宿主におけるその遺伝子の促進された発現を可能にする要素を有する特定のベクターを指す。
【0078】
「組み換えコンストラクト」、「発現コンストラクト」、「キメラコンストラクト」、「コンストラクト」、および「組み換えDNAコンストラクト」という用語は、本明細書で同義的に使用される。組み換えコンストラクトは、例えば自然界に一緒には見られない、制御配列およびコード配列などの核酸断片の人為的組み合わせを含んでなる。例えばキメラコンストラクトは、異なる起源に由来する制御配列およびコード配列、または同一起源に由来する制御配列およびコード配列を含んでなってもよいが、自然界に見られるのとは異なる様式で配列される。このようなコンストラクトはそれ自体を使用してもよく、またはベクターと併せて使用してもよい。ベクターを使用する場合、当業者によく知られているように、ベクターの選択は宿主細胞を形質変換するのに使用される方法に左右される。例えばプラスミドベクターが使用できる。当業者は、本発明の単離された核酸断片のいずれかを含んでなる宿主細胞を成功裏に形質変換し、選択し、増殖するためにベクター上に存在しなくてはならない遺伝的要素について十分承知している。当業者はまた、異なる独立した形質転換事象が、異なるレベルおよびパターンの発現をもたらし(Jonesら、EMBO J.4:2411〜2418頁(1985年);De Almeidaら、Mol.Gen.Genetics 218:78〜86頁(1989年))、したがって所望の発現レベルおよびパターンを示す株または系統を得るために多数の事象をスクリーンしなくてはならないことを認識する。このようなスクリーニングは、特にDNAブロットのサザン分析(Southern、J.Mol.Biol.、98:503頁(1975年))、mRNA発現のノーザン分析(Kroczek、J.Chromatogr.Biomed.Appl.、618(1〜2):133〜145頁(1993年))、タンパク質発現のウエスタンおよび/またはELISA分析、PUFA生成物の表現型分析またはGC分析によって達成されてもよい。
【0079】
「発現」という用語は、ここでの用法では、本発明の核酸断片に由来するセンス(mRNA)またはアンチセンスRNAの転写および安定した蓄積を指す。発現はまた、mRNAのポリペプチドへの翻訳を指してもよい。
【0080】
「成熟」タンパク質とは、翻訳後処理ポリペプチド(すなわち一次翻訳生成物中に存在するあらゆるプレ−またはプロペプチドがそれから除去されているもの)を指す。「前駆型」タンパク質とは、mRNAの翻訳の一次生成物(すなわちプレ−およびプロペプチドがなおも存在している)を指す。プレ−およびプロペプチドは、細胞内局在化シグナルであってもよいがこれに限定されるものではない。
【0081】
「形質転換」とは、遺伝的に安定した遺伝形質をもたらす、核および細胞小器官ゲノムの双方を含む宿主生物のゲノムへの核酸断片の転移を指す。対照的に「一時的形質転換」とは、組み込みまたは安定した遺伝形質なしに遺伝子発現をもたらす、宿主生物の核、またはDNA含有細胞小器官への核酸断片の転移を指す。したがって形質転換のために使用される核酸分子は、例えば自律的に複製するプラスミドであってもよく、またはそれは宿主生物のゲノム中に組み込まれてもよい。形質転換された核酸断片を含有する宿主生物は、「遺伝子導入」または「組み換え」または「形質転換」生物と称される。
【0082】
「アンチセンス阻害」とは、標的タンパク質の発現を抑制できるアンチセンスRNA転写物の生成を指す。「共抑制」とは、同一のまたは実質的に同様の外来性または内在性遺伝子の発現を抑止できるセンスRNA転写物の生成を指す(米国特許第5,231,020号明細書)。センス方向で、内在性mRNAとの相同性を有する核酸配列の過剰発現に着目して、植物中の共抑制コンストラクトが以前デザインされており、それは過剰発現配列との相同性を有する全てのRNAの減少をもたらす(Vaucheretら、Plant J.、16:651〜659頁(1998年);Gura,Nature、404:804〜808頁(2000年))。この現象の全体的効率は低く、RNA減少の程度は大きく変動する。引き続く研究は、発現されるRNAのための潜在的「ステムループ」構造をもたらす、相補的方向のmRNAをコードする配列の全てまたは一部を組み込んだ「ヘアピン」構造の使用について述べている(国際公開第99/53050号パンフレット、国際公開第02/00904号パンフレット)。これは回収される遺伝子導入植物において、共抑制の頻度を増大させる。別の変法は、近位mRNAをコードする配列の抑制、または「サイレンシング」を誘導するための植物ウィルス配列の使用について述べている(国際公開第98/36083号パンフレット)。これらの共抑制現象のどちらも機構的に解明されていないが、遺伝的証拠はこの複雑な状況を解明し始めている(Elmayanら、Plant Cell、10:1747〜1757頁(1998年))。
【0083】
「油性」という用語は、それらのエネルギー源を脂質の形態で蓄積する傾向がある生物を指す(Weete、Fungal Lipid Biochemistryより、第2版、Plenum、1980年)。一般にこれらの微生物の細胞油またはTAG含量はS字形曲線に従い、脂質濃度は、それが後期対数増殖期または初期静止増殖期で最大に達するまで増大し、次に後期静止期および死滅相において徐々に減少する(YongmanitchaiおよびWard、Appl.Environ.Microbiol.、57:419〜25頁(1991年))。
【0084】
「油性酵母」という用語は、油を作ることができる酵母に分類される微生物を指す。油性微生物がそれらの乾燥細胞重量の約25%以上を油として蓄積することは珍しくない。油性酵母の例としては、ヤロウィア(Yarrowia)、カンジダ(Candida)、ロドトルラ(Rhodotorula)、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、トリコスポロン(Trichosporon)、およびリポマイセス(Lipomyces)属が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0085】
当該技術分野で知られている「%同一性」と言う用語は、配列を比較して判定される2つ以上のポリペプチド配列または2つ以上のポリヌクレオチド配列の関係である。当該技術分野で「同一性」は、場合によってはこのような配列ストリング間の整合によって判定される、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列間の配列関連性の程度も意味する。「同一性」および「類似性」は、1.)「計算分子生物学(Computational Molecular Biology)Lesk,A.M.編)Oxford University、NY(1988年)、2.)「Biocomputing:Informatics and Genome Projects」(Smith,D.W.編)Academic、NY(1993年)、3.)「Computer Analysis of Sequence Data」、第一部、(Griffin,A.M.、およびGriffin,H.G.編)Humania、NJ(1994年)、4.)「Sequence Analysis in Molecular Biology」von Heinje,G.編、Academic、NY(1987年)、5.)「Sequence Analysis Primer」(Gribskov,M.およびDevereux,J.編)Stockton、NY(1991年)で述べられているものをはじめとするが、これに限定されるものではない公知の方法によって容易に計算できる。同一性を判定する好ましい方法は、試験される配列間に最良の整合を与えるようにデザインされる。同一性および類似性を判定する方法は、一般に入手できるコンピュータプログラムで体系化されている。
【0086】
「Clustal Vアラインメント法」は、Clustal V(HigginsおよびSharp、CABIOS.5:151〜153頁(1989年);Higgins,D.G.ら(1992年)Comput.Appl.Biosci.8:189〜191頁に記載)と称されるアラインメント法に相当し、LASERGENEバイオインフォマティクス演算スイートのMegAlign(商標)プログラム(DNASTAR Inc.、Madison,WI)にある。配列アラインメントおよび%同一性の計算は、MegAlign(商標)プログラムを使用して実施されてもよい。配列の多重アラインメントは、特に断りのない限りデフォルトパラメーター(GAP PENALTY=10、GAP LENGTH PENALTY=10)で、Clustalアラインメント法(HigginsおよびSharp、CABIOS、5:151153頁(1989年);Higgins、D.G.ら、Comput.Appl.Biosci.、8:189〜191頁(1992年))を使用して実施される。Clustal V法を使用したペアワイズアラインメントおよびタンパク質配列の%同一性計算のためのデフォルトパラメーターは次のとおり。KTUPLE 1、GAP PENALTY=3、WINDOW=5、およびDIAGONALS SAVED=5。Clustalプログラムを使用した配列の比較後、同プログラム中の「配列距離」表を見れば「%同一性」を得ることができる。
【0087】
「Clustal Wアラインメント法」は、Clustal W(Thompsonら、Nucleic AcidsRes.22:4673〜4680頁(1994年)に記載)と称されるアラインメント法に相当し、LASERGENEバイオインフォマティクス演算スイートのMegAlign(商標)v5.07プログラム(DNASTAR Inc.、Madison,WI)にある。多重アラインメントおよびタンパク質配列の%同一性計算のためのデフォルトパラメーターは、特に断りのない限り次のとおり。GAP PENALTY=10、GAP LENGTH PENALTY=0.2、DELAY DIVERGENCE SEQS(%)=30、DNA TRANSITION WEIGHT=0.50、タンパク質重量マトリックス=Gonnetシリシーズ、およびDNA重量マトリックス=IUB。ペアワイズアラインメントおよびタンパク質配列%の同一性計算のためのデフォルトパラメーターは、特に断りのない限り次のとおり。GAP PENALTY=10、GAP LENGTH PENALTY=0.1、タンパク質重量マトリックス=Gonnet250、およびDNA重量マトリックス=IUB。
【0088】
「BLASTNアラインメント法」とは、デフォルトパラメーターを使用してヌクレオチド配列を比較するために国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)によって提供されるアルゴリズムである。
【0089】
同一または同様の機能または活性を有するポリペプチドをその他の化学種から同定するのに、多くのレベルの配列同一性が有用であることは、当業者によく理解されている。%同一性の有用な例としては、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%、または50%〜100%のあらゆる整数百分率が挙げられるが、これに限定されるものではない。実際、本発明について述べるのに、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%などの50%〜100%のあらゆる整数のアミノ酸同一性が有用であってもよい。またこの単離されたヌクレオチド断片のあらゆる全長または部分的補体も興味深い。
【0090】
「配列分析ソフトウェア」と言う用語は、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列の分析のために有用なあらゆるコンピュータアルゴリズムまたはソフトウェアプログラムを指す。「配列分析ソフトウェア」は、市販のものでも、あるいは独立して開発されても良い。典型的な配列分析ソフトウェアとしては、1.)Genetics Computer Group(GCG)(Madison,WI)からのGCGプログラム一式(Wisconsin Package Version 9.0)、2.)BLASTP、BLASTN、BLASTX(Altschulら、J.Mol.Biol.215:403〜410(1990年))、および3.)DNASTAR,Inc.(Madison、WI)からのDNASTAR、4.)Gene Codes Corporation(Ann Arbor、MI)からのSequencher、および5.)スミス−ウォーターマン・アルゴリズムを組み入れたFASTAプログラム(W.R.Pearson、Comput.Methods Genome Res.[Proc.Int.Symp.](1994年)、1992年会議、111〜20、編集者:Suhai,Sandor、Plenum、New York,NY)が挙げられるが、これに限定されるものではない。本明細書の文脈では、配列分析ソフトウェアを分析のために使用する場合、分析結果は特に断りのない限り、言及されるプログラムの「デフォルト値」に基づくものと理解される。ここでの用法では、「デフォルト値」とは、最初に初期化されるときにソフトウェアに元からロードされる、あらゆる値またはパラメータの組を意味する。
【0091】
適切な核酸断片(本発明の単離されたポリヌクレオチド)は、ここで報告されるアミノ酸配列と少なくとも約85%同一のポリペプチドをコードする。より好ましい核酸断片は、ここで報告されるアミノ酸配列と少なくとも約90%と同一のアミノ酸配列をコードするのに対し、最も好ましいのは少なくとも約95%同一のアミノ酸配列をコードする核酸断片である。同一または同様の機能または活性を有するポリペプチドをその他の化学種から同定するのに、多くのレベルの配列同一性が有用であることは、当業者によってよく理解されている。好ましい範囲は上述のとおりであるが、ここでの目的では85%〜100%のあらゆる整数百分率が有用である。
【0092】
適切な核酸断片は、上の相同性を有するだけでなく、典型的に少なくとも50個のアミノ酸、好ましくは少なくとも100個のアミノ酸、より好ましくは少なくとも150個のアミノ酸、なおもより好ましくは少なくとも200個のアミノ酸、最も好ましくは少なくとも250個のアミノ酸を有するポリペプチドをコードする。
【0093】
ここで使用される標準リコンビナントDNAおよび分子クローニング技術については当該技術分野で良く知られており、Sambrook,J.、Fritsch,E.F.、およびManiatis,T.、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」第二版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、NY(1989年)(下文においてManiatis);Silhavy,T.J.、Bennan,M.L.およびEnquist,L.W.、「Experiments with Gene Fusions」Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor、NY(1984年);およびAusubel,F.M.ら、「Current Protocols in Molecular Biology」Greene Publishing Assoc.and Wiley−Interscienceによる出版(1987年)でさらに詳しく述べられている。
【0094】
概要:ω脂肪酸およびトリアシルグリセロールの生合成
オレイン酸がω−3/ω−6脂肪酸に変換される代謝過程は、炭素原子の付加を通じた炭素鎖の延長、および二重結合の付加を通じた分子の不飽和化を伴う。これには、小胞体膜中に存在する一連の特殊不飽和化およびエロンガーゼが必要である。しかし図1に示されて後述されるように、特定のω−3/ω−6脂肪酸生成のための複数の代案経路があることが多い。
【0095】
具体的には全ての経路は、Δ12デサチュラーゼによる、オレイン酸から第1のω−6脂肪酸であるLAへの最初の変換を必要とする。次に「Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路」を使用して、ω−6脂肪酸は以下のように形成される。(1)LAがΔ9エロンガーゼによってEDAに変換される;(2)EDAがΔ8デサチュラーゼによってDGLAに変換される;(3)DGLAがΔ5デサチュラーゼによってARAに変換される。代案としては「Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路」は、以下のようにしてω−3脂肪酸の形成のために利用できる。(1)LAがΔ15デサチュラーゼによって、第1のω−3脂肪酸であるALAに変換される;(2)ALAがΔ9エロンガーゼによってETrAに変換される;(3)ETrAがΔ8デサチュラーゼによってETAに変換される;(4)ETAがΔ5デサチュラーゼによってEPAに変換される;(5)EPAがC20/22エロンガーゼによってDPAに変換される;(6)DPAがΔ4デサチュラーゼによってDHAに変換される。場合によりω−6脂肪酸がω−3脂肪酸に変換されてもよく、例えばETAおよびEPAは、Δ17デサチュラーゼ活性によってそれぞれDGLAおよびARAから生成される。
【0096】
ω−3/ω−6脂肪酸の生合成のための代案の経路は、Δ6デサチュラーゼおよびC18/20エロンガーゼ(すなわち「Δ6デサチュラーゼ/Δ6エロンガーゼ経路」)を利用する。より具体的にはLAおよびALAが、Δ6デサチュラーゼによってそれぞれGLAおよびSTAに変換されてもよく、次にC18/20エロンガーゼがGLAをDGLAに、および/またはSTAをETAに変換する。
【0097】
ω−3/ω−6脂肪酸の生成のために特定の宿主生物中で発現することが必要とされる特定の機能性は、宿主細胞(およびその天然PUFAプロフィールおよび/またはデサチュラーゼ/エロンガーゼプロフィール)、基質の可用性、およびその所望の最終産物に左右されることが考察される。例えばいくつかの実施態様では、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路によるPUFAはGLAを欠くことからΔ6デサチュラーゼ/Δ6エロンガーゼ経路の発現とは対照的に、前者経路の発現が好ましいかもしれない。
【0098】
当業者は、ω−3/ω−6脂肪酸生合成のために所望される各酵素をコードする、様々な候補遺伝子を同定できるであろう。有用なデサチュラーゼおよびエロンガーゼ配列はあらゆる供給源に由来してもよく、例えば天然供給源(細菌、藻類、真菌、植物、動物など)から単離され、半合成経路によって生成され、または新規(de novo)合成される。宿主中に導入されるデサチュラーゼおよびエロンガーゼ遺伝子の特定の供給源は重大でないが、デサチュラーゼまたはエロンガーゼ活性を有する特異的ポリペプチド選択のための考慮事項としては以下が挙げられる。1.)ポリペプチドの基質特異性、2.)ポリペプチドまたはその構成要素が律速酵素であるかどうか、3.)デサチュラーゼまたはエロンガーゼが所望のPUFA合成に必須であるかどうか、および/または4.)ポリペプチドが必要とする補助因子。発現したポリペプチドは、好ましくは宿主細胞中のその位置の生化学的環境に適合したパラメーターを有する(国際公開第2004/101757号パンフレットを参照されたい)。
【0099】
追加的実施態様では、特定の各デサチュラーゼおよび/またはエロンガーゼの変換効率を考慮することもまた有用であろう。より具体的には、各酵素が基質を生成物に変換するのに100%の効率で機能することは稀なので、宿主細胞中に生成される未精製油の最終脂質プロフィールは、典型的に所望のω−3/ω−6脂肪酸、ならびに様々な上流中間PUFAからなる様々なPUFAの混合物である。したがって、生成物の所望の最終脂質プロフィールを考慮しなければならない所望の脂肪酸生合成を最適化するのに際し、各酵素の変換効率の考慮もまた重要である。
【0100】
上のそれぞれの考慮を念頭に、公的に入手可能な文献(例えばGenBank)、特許文献、およびPUFA生成能力を有する生物の実験的分析に従って、適切なデサチュラーゼおよびエロンガーゼ活性(例えばΔ6デサチュラーゼ、C18/20エロンガーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、C14/16エロンガーゼ、C16/18エロンガーゼ、Δ9エロンガーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ4デサチュラーゼ、およびC20/22エロンガーゼ)を有する候補遺伝子を同定できる。これらの遺伝子は、特定宿主生物に導入して、生物のPUFA合成を可能にしまたは増強するのに適する。
【0101】
(飽和および不飽和脂肪酸および短鎖および長鎖脂肪酸をはじめとする)脂肪酸がひとたび生物中で合成されると、それらはトリアシルグリセリド(TAG)に組み込まれてもよい。TAG(PUFAをはじめとする脂肪酸の主要保存単位)は、以下を伴う一連の反応によって形成される。1.)リゾホスファチジン酸を生じる、アシル基転移酵素を通じた1分子のアシル−CoAのグリセロール−3−リン酸へのエステル化;2.)1,2−ジアシルグリセロールリン酸(一般にホスファチジン酸として同定される)を生じる、アシル基転移酵素を通じたアシル−CoAの第2の分子のエステル化;3.)1,2−ジアシルグリセロール(DAG)を生じる、ホスファチジン酸ホスファターゼによるリン酸の除去;および4.)TAGを形成するアシル基転移酵素の作用による第3の脂肪酸の付加。
【0102】
ミドリムシ(Euglena gracilis)Δ8デサチュラーゼの配列同定
同一譲受人の国際公開第2006/012325号パンフレットおよび国際公開第2006/012326号パンフレットは、EDAおよびEtrAを不飽和化できるミドリムシ(E.gracilis)Δ8デサチュラーゼ(ここで「Eg5」として同定され、配列番号2を割り当てられる)を開示する。本願明細書では、「EgD8」(ここでの配列番号11および12)として述べられているミドリムシ(E.gracilis)Δ8デサチュラーゼは、Eg5のヌクレオチドおよびアミノ酸配列と100%同一かつ同等である。
【0103】
当該技術分野でよく知られているように、宿主が好むコドンの使用は、ポリペプチドをコードする外来遺伝子の発現を実質的に増強できるので、コドン最適化は、代案の宿主中で酵素発現をさらに最適化する有用な手段であることができる。したがってミドリムシ(Euglena gracilis)に由来して、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された合成Δ8デサチュラーゼは、国際公開第2006/012325号パンフレットおよび国際公開第2006/012326号パンフレットでも配列番号112および113(そこでは「D8SF」と命名される)として開示されている。具体的には1263bpコード領域の207bp(16.4%)が修正され、192コドンのコドン最適化に相当する。さらに「D8SF」は、野生型Eg5のアミノ酸残基1および2の間に挿入された1個の追加的なバリンアミノ酸を有した。したがってコドン最適化されたデサチュラーゼの全長は422個のアミノ酸である。Y.リポリティカ(lipolytica)中でのコドン最適化された遺伝子(すなわち「D8SF」)の発現は、野生型遺伝子(すなわちEg5)よりも効率的なEDAからDGLAおよび/またはETrAからETAへの不飽和化を実証した。本願明細書では、「EgD8S」(ここでの配列番号9および10)として述べられているミドリムシ(E.gracilis)に由来して、Y.リポリティカ(lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された合成Δ8デサチュラーゼは、D8SFのヌクレオチドおよびアミノ酸配列と100%同一かつ同等である。
【0104】
ミドリムシ(Euglena gracilis)に由来してヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された合成Δ8デサチュラーゼ内における標的を定めた変異を操作する
配列を合成して配列をまとめる方法は、文献中で確立されている。多くの技術が文献中で一般に用いられて、天然デサチュラーゼ遺伝子の変異が得られる(このような変異は、欠失、挿入、および点変異、またはそれらの組み合わせを含んでもよい)。これは生体内で、それぞれ所望のPUFAのより長い半減期またはより高い生成速度など、宿主細胞中で機能するためのより望ましい物理的および動力学的パラメーターがある、デサチュラーゼ活性を有するポリペプチドの生成を可能にする。または必要に応じて、通例の変異誘発、得られた変異ポリペプチドの発現、およびそれらの活性の判定を通じて、対象のポリペプチド(すなわちデサチュラーゼ)の酵素活性に重要な領域を判定できる。前述の野生型(すなわち配列番号11および12)および合成のコドン最適化された(配列番号9および10)Δ8デサチュラーゼに由来する、全てのこのような変異タンパク質およびそれらをコードするヌクレオチド配列は、本発明の範囲内である。
【0105】
より具体的には本発明では、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された既知の機能性ミドリムシ(Euglena gracilis)Δ8デサチュラーゼ(すなわち「EgD8S」、配列番号9および10に記載される)中に標的を定めた変異を作ることにより、Δ8デサチュラーゼをコードする変異配列が合成的に改変される。得られた変異EgD8SのΔ8デサチュラーゼ活性に対する各変異の影響をスクリーンした。本発明を制限するものではないが、後述の方法を使用して、合成のコドン最適化されたEgD8Sと比較して、少なくとも1つのアミノ酸変異(そして約33個までのアミノ酸変異)を含んでなり、機能的に同等のΔ8デサチュラーゼ活性を有する変異EgD8S酵素(配列番号2)が、究極的に作り出された。
【0106】
位相モデルの創出および変異のための適切なアミノ酸部位の同定
デサチュラーゼの進化に基づいたΔ8デサチュラーゼの一般的特徴が、P.Sperlingら(Prostaglandins Leukot.Essent.Fatty Acids,68:73〜95頁(2003年)によって詳しく述べられている。Δ6、Δ5、およびΔ4デサチュラーゼと並んで、Δ8デサチュラーゼは、長鎖PUFA「先端」デサチュラーゼとして知られている(メチル−依存性不飽和化とは対照的に、不飽和化は脂肪酸アシル基の既存の二重結合とカルボキシル末端との間で起きる)。これらのデサチュラーゼは、3個のヒスチジンボックス[H(X)3-4H(配列番号166および167)、H(X)2-3HH(配列番号168および169)、およびH/Q(X)2-3HH(配列番号170および171)]によって特徴づけられ、それらのN−末端に電子供与体としての役割を果たす融合チトクロームb5領域を有するので、それらはチトクロームb5融合スーパーファミリーのメンバーである。チトクロームb5領域はまた、酵素活性に必要なことが示されている絶対的に保存されたヘム−結合モチーフ(すなわち「HPGG」)も含有する(J.A.Napierら、Prostaglandins Leukot.Essent.Fatty Acids,68:135〜143頁(2003年);P.Sperlingら、前出)。最後に、「先端」デサチュラーゼの結晶構造はまだ入手できないが、疎水性親水性指標は、これらのタンパク質のアミノ酸配列のほぼ30%を占める4〜6個の膜貫通らせんを明らかにする。
【0107】
上の総括に基づいて、EgD8S(配列番号10)のタンパク質配列を具体的に分析し、位相モデル(図2)の創出を可能にした。予期されたように、EgD8Sは、N−末端チトクロームb5領域(配列番号10のアミノ酸残基5〜71の間に位置する)、およびC−末端デサチュラーゼ領域(配列番号10のアミノ酸残基79〜406の間に位置する)の2つの領域を含有した。配列番号10のアミノ酸残基88〜109、113〜132、266〜283、および287〜309(図2で領域I、II、III、およびIVと標識される)において4つの膜貫通らせんが同定され、N−およびC−末端双方が膜の細胞質側に位置した。2つの追加的疎水性領域が、アミノ酸残基157〜172および223〜245に位置した。最後に、3個のヒスチジンボックスがアミノ酸残基146〜150、183〜187、および358〜362の間に位置し、保存されたヘム結合モチーフ(「HPGG」)がアミノ酸残基27〜30に位置した。
【0108】
位相モデル、EgD8Sとその他の先端デサチュラーゼとのアラインメント、およびEgD8Sのチトクロームb5領域とその他のチトクロームb5遺伝子とのアラインメントを使用し、引き続いて恐らく変異誘発に適しているとしてEgD8S内の70の部位が選択された(選択のための基準については実施例2で詳述されている)。これらの部位は実施例2の表7で詳述するように、126の個々のアミノ酸変異(すなわち57.9%の保存アミノ酸置換および42.1%の比保存アミノ酸置換)に相当する。
【0109】
EgD8S変異創出のための部位特異的変異誘発
Δ8デサチュラーゼ変異誘発のために多様なアプローチを使用してもよいが、ここでの戦略に基づき、オリゴヌクレオチドが仲介する部位特異的変異誘発を使用して、EgD8S内に特定の点変異を作り出すことが望ましい。さらに多数の部位特異的変異誘発プロトコール(例えばIshii,T.M.ら.、Methods Enzymol.、293:53〜71頁(1998年);Ling M.M.およびB.H.Robinson、Anal.Biochem.、254:157〜178頁(1997年);Braman J.(編)、Vitro Mutagenesis Protocolsより、第2版、Humania:Totowa,NJ(2002年);Kunkel T.A.ら、Methods Enzymol.、154:367〜382頁(1987年);Sawano A.およびMiyawaki,A. Nucleic Acids Res.、28:e78(2000年))が存在するが、その容易な実行と高効率に基づいてQuikChange(登録商標)部位特異的変異誘発キット(Stratagene、La Jolla,CA)を使用するために選択した。具体的にはキットは、特殊化したベクター、ユニークな制限部位、または多重形質転換を必要とせず、実質的にあらゆる二本鎖プラスミドにおいて部位特異的変異を可能にする。基本的手順は、対象の挿入断片がある超らせん二本鎖DNAベクターおよび所望の変異を含有する2つの合成オリゴヌクレオチドプライマーを利用する。DNAポリメラーゼによって、ベクターの逆ストランドにそれぞれ相補的なオリゴヌクレオチドプライマーを温度サイクル中に延長させた。オリゴヌクレオチドプライマーの組み込みによって、ねじれ型のニックを含有する変異プラスミドが生じた。温度サイクルに続いて、親DNAテンプレートを消化して、新たに合成された変異DNAを選択する手段として、(メチル化およびヘミメチル化DNAに特異的な)DpnIエンドヌクレアーゼで生成物を処理した。次に所望の変異を含有するニックのあるベクターDNAを形質転換して、大腸菌(Escherichia coli)宿主中で増殖させた。
【0110】
次に上述の技術を使用して、合成EgD8S(EgD8Sと比較して多重点変異を有するが、酵素のΔ8デサチュラーゼ活性と比較して機能等価を保つ)設計の実現可能性を試験した。具体的にはEgD8S(プラスミドコンストラクト内にキメラFBAINm::EgD8S::XPR遺伝子を含んでなる)への部位特異的変異誘発、大腸菌(E.coli)への形質変換、次にGC分析に基づくΔ8デサチュラーゼ活性のスクリーニングによって、選択された個々の点変異を導入した。
【0111】
当業者は、Δ8デサチュラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を選択するための追加的スクリーニングを思い描くことができるであろう。例えばその中で酵素を含有する調製品が適切な形態の基質脂肪酸と共にインキュベートされ、予測された脂肪酸生成物へのこの基質の変換について分析されるアッセイによって、デサチュラーゼ活性を実証してもよい。代案としてはデサチュラーゼタンパク質をコードすることが提案されているDNA配列を適切なベクターコンストラクト中に組み込むことによって、常態では特定の脂肪酸基質を不飽和化する能力を有さないタイプの細胞中で、発現させてもよい。次にデサチュラーゼをコードするDNA配列を含有するベクターで形質転換された細胞、および(例えば空ベクター単独で形質転換された)適切な対照細胞に、適切な形態の基質脂肪酸を供給することで、DNA配列によってコードされるデサチュラーゼの活性を実証する。このような実験では、予測された脂肪酸生成物が、デサチュラーゼをコードするDNA配列を含有する細胞中で検出され、対照細胞中には検出されないことで、デサチュラーゼ活性が確立される。
【0112】
上述の実験からの結果は、0%のΔ8デサチュラーゼ活性を有する完全に非機能性の変異Δ8デサチュラーゼをもたらすいくつかの変異の同定をもたらした(例えば48VからFおよび49MからLへの同時変異、または304GからFおよび305FからGへの同時変異)。これにもかかわらず試験された約75%の個々の変異は、EgD8SのΔ8デサチュラーゼ活性と比較して、変異酵素のΔ8デサチュラーゼ活性を顕著に減弱させなかった。より具体的にはΔ8デサチュラーゼ活性がEgD8S(すなわち配列番号10)と機能的に同等であり(すなわち100%)、またはそれを超える好ましい変異として、次の変異が同定された。
【0113】
表4
EgD8S中の最初の好ましい変異

*「%活性」は配列番号10に記載のEgD8SのΔ8デサチュラーゼ活性と比較した、各変異EgD8SのΔ8デサチュラーゼ活性を指す。
【0114】
本発明の有用な変異Δ8デサチュラーゼが、上述の30の変異の組み合わせに限定されるものではないことは、当業者によって理解されるであろう。例えばM3として述べられている変異部位は2つの特定のアミノ酸変異(すなわち16TからKおよび17TからV)を含むが、当業者はΔ8デサチュラーゼ活性が合成のコドン最適化されたEgD8SのΔ8デサチュラーゼ活性と少となくとも機能的にほぼ同等である変異Δ8デサチュラーゼのデザインにおいて、16TからKまたは17TからVのいずれかの単一変異が、有用性を有することを予期する。したがって実際は、表4は配列番号10のΔ8デサチュラーゼ活性と少なくとも機能的にほぼ同等であるΔ8デサチュラーゼ活性を有する変異Δ8デサチュラーゼのデザインにおいて、ここでの目的に有用な52個の単一アミノ酸変異を表す。
【0115】
上の結果に基づいて、合成のコドン最適化されたEgD8S配列内に適切な個々のアミノ酸変異を「スタック」するために、実験研究を継続した。これは1〜33の包括的なあらゆる整数(すなわち1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33)である「n」個のアミノ酸変異を有して、EgD8Sに匹敵するΔ8デサチュラーゼ活性を有する、配列番号2に記載の変異Δ8デサチュラーゼの創出をもたらす。具体的には配列番号2は、4SからA、5KからS、12TからV、16TからK、17TからV、54AからG、55FからY、66PからQ、67SからA、108SからL、117GからA、118YからF、120LからM、121MからL、125QからH、126MからL、132VからL、133LからV、162LからV、163VからL、170GからA、171LからV、279TからL、280LからT、293LからM、346IからV、347IからL、348TからS、407AからS、408VからQ、418AからG、419GからA、および422LからQからなる群から選択される少なくとも1つの変異を含んでなり、変異はEgD8Sの合成のコドン最適化配列(すなわち配列番号10)と比較して定義され、配列番号2は配列番号10と100%同一でなく、変異EgD8SはEgD8S(配列番号10)と少なくとも機能的にほぼ同等である。当業者は、上の各変異が互いにあらゆる組み合わせで使用できることを理解するであろう。そしてここで述べられるようなEgD8および/またはEgD8Sに由来する、全てのこのような変異タンパク質およびそれらをコードするヌクレオチド配列は、本発明の範囲内である。
【0116】
より好ましい実施態様では、変異EgD8SはEgD8Sの合成のコドン最適化配列と比較して、少なくとも約10〜18個の保存的および非保存的アミノ酸置換(すなわち変異)、より好ましくは少なくとも約19〜25個の保存的および非保存的アミノ酸置換、そして最も好ましくは合成のコドン最適化されたEgD8S配列(すなわち配列番号10)と比較して少なくとも約26〜33個の保存的および非保存的アミノ酸置換を有する。したがって例えば好ましい一実施態様では、変異EgD8S−23(配列番号4)は、配列番号10で記載される合成のコドン最適化されたEgD8S配列と比較して、次の24個のアミノ酸変異を含んでなる。4SからA、5KからS、12TからV、16TからK、17TからV、66PからQ、67SからA、108SからL、117GからA、118YからF、120LからM、121MからL、125QからH、126MからL、132VからL、133LからV、162LからV、163VからL、293LからM、407AからS、408VからQ、418AからG、419GからA、および422LからQ。ベクターNTI(登録商標)のAlignXプログラム(Invitrogen Corporation、Carlsbad,CA)のデフォルトパラメーターを使用した、変異EgD8S−23アミノ酸配列と配列番号10の合成のコドン最適化配列とのペアワイズアラインメントは、422個のアミノ酸の長さにわたる2つのタンパク質間の94.3%の配列同一性、および97.9%のコンセンサスを明らかにした。
【0117】
別の好ましい実施態様では、変異EgD8S−013(配列番号6)は、配列番号10で記載される合成のコドン最適化されたEgD8S配列と比較して、次の28個のアミノ酸変異を含んでなる。4SからA、5KからS、12TからV、16TからK、17TからV、54AからG、55FからY、66PからQ、67SからA、108SからL、117GからA、118YからF、120LからM、121MからL、125QからH、126MからL、132VからL、133LからV、162LからV、163VからL、170GからA、171LからV、293LからM、407AからS、408VからQ、418AからG、419GからA、および422LからQ。ベクターNTI(登録商標)のAlignXプログラムのデフォルトパラメーターを使用した、変異EgD8S−013アミノ酸配列と配列番号10の合成のコドン最適化配列とのペアワイズアラインメントは、422個のアミノ酸の長さにわたる、2つのタンパク質間の93.4%配列同一性および97.9%コンセンサスを明らかにした。
【0118】
別の好ましい実施態様では、変異EgD8S−015(配列番号8)は、配列番号10で記載される合成のコドン最適化されたEgD8S配列と比較して、次の31個のアミノ酸変異を含んでなる。4SからA、5KからS、12TからV、16TからK、17TからV、54AからG、55FからY、66PからQ、67SからA、108SからL、117GからA、118YからF、120LからM、121MからL、125QからH、126MからL、162LからV、163VからL、170GからA、171LからV、293LからM、279TからL、280LからT、346IからV、347IからL、348TからS、407AからS、408VからQ、418AからG、419GからA、および422LからQ。ベクターNTI(登録商標)のAlignXプログラムのデフォルトパラメーター使用した、変異EgD8S−015アミノ酸配列と配列番号10の合成のコドン最適化配列とのペアワイズアラインメントは、422個のアミノ酸の長さにわたる、2つのタンパク質間の92.7%配列同一性および97.4%コンセンサスを明らかにした。
【0119】
したがって一実施態様では、本発明は、
(a)Δ8デサチュラーゼ活性を有して、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する変異ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、または
(b)ヌクレオチド配列の補体
を含んでなり、補体およびヌクレオチド配列が同数のヌクレオチドからなり100%相補的であり、
(i)配列番号2が、4SからA、5KからS、12TからV、16TからK、17TからV、54AからG、55FからY、66PからQ、67SからA、108SからL、117GからA、118YからF、120LからM、121MからL、125QからH、126MからL、132VからL、133LからV、162LからV、163VからL、170GからA、171LからV、279TからL、280LからT、293LからM、346IからV、347IからL、348TからS、407AからS、408VからQ、418AからG、419GからA、および422LからQからなる群から選択される少なくとも1つの変異を含んでなり、変異が合成のコドン最適化配列EgD8S(すなわち配列番号10)と比較して定義され、
(ii)配列番号2が配列番号10と同一でない、
単離されたポリヌクレオチドに関する。
【0120】
さらなる好ましい実施態様では、上述のような配列番号2のΔ8デサチュラーゼ活性は、配列番号10のΔ8デサチュラーゼ活性と少なくとも機能的にほぼ同等である。
【0121】
EgD8(配列番号12)またはEgD8S(配列番号10)と少なくとも機能的にほぼ同等であるΔ8デサチュラーゼ活性を有する変異Δ8デサチュラーゼは、配列番号2に記載されるように発生させてもよいことが考察され、(i)配列番号2は、4SからA、5KからS、12TからV、16TからK、17TからV、54AからG、55FからY、66PからQ、67SからA、108SからL、117GからA、118YからF、120LからM、121MからL、125QからH、126MからL、132VからL、133LからV、162LからV、163VからL、170GからA、171LからV、279TからL、280LからT、293LからM、346IからV、347IからL、348TからS、407AからS、408VからQ、418AからG、419GからA、および422LからQからなる群から選択される、少なくとも1つの変異を含んでなり、変異は合成のコドン最適化配列EgD8S(すなわち配列番号10)と比較して定義され、(ii)配列番号2は配列番号10と100%同一でない。さらに本発明は、上述の特定の変異だけでなく、化学的に等価なアミノ酸の置換を可能にするものを包含することが理解される。したがって例えばアミノ酸が脂肪族の非極性アミノ酸アラニンで置換される場合、同一部位が化学的に等価なアミノ酸セリンで置換されてもよいことが予期される。
【0122】
他の実施態様では、ドメイン交換によって、新しい改善された脂肪酸デサチュラーゼの創出のために、ここで述べられるΔ8デサチュラーゼ核酸断片のいずれかを使用してもよく、Δ8デサチュラーゼ核酸断片のいずれかからの機能ドメインが代案のデサチュラーゼ遺伝子中の機能ドメインで置き換えられ、それによって新しいタンパク質が得られる。
【0123】
様々なω−3および/またはω−6脂肪酸の生成方法
適切なプロモーター制御下における、ここで述べられるΔ8デサチュラーゼをコードするキメラ遺伝子の導入は、それぞれ形質転換された宿主生物中のDGLAおよび/またはETA生成の増大をもたらすことが予期される。したがって本発明は、基質が所望の脂肪酸生成物(すなわちDGLAおよび/またはETA)に変換されるように、脂肪酸基質(すなわちEDAまたはETrA)をここで述べられるデサチュラーゼ(すなわちEgD8またはEgD8Sに由来する変異体、またはその相同体)に曝露するステップを含んでなる、PUFAの生成を誘導する方法を包含する。
【0124】
より具体的には宿主細胞(例えば油性酵母、ダイズ)中でDGLAを生成する方法を提供することが本発明の目的であり、宿主細胞は、
a.)配列番号10と100%同一でない配列番号2に記載のΔ8デサチュラーゼポリペプチドをコードする組み換えコンストラクト、および
b.)EDA源
を含んでなり、宿主細胞はΔ8デサチュラーゼが発現して、EDAがDGLAに変換されるような条件下で成長させ、DGLAは場合により回収される。
【0125】
当業者はΔ8デサチュラーゼの広い基質範囲が、ETrAからETAへの変換のための酵素の使用をさらに可能にしてもよいことを認識する。したがって本発明は、ETAを生成する方法を提供し、宿主細胞は
a.)配列番号10と100%同一でない配列番号2に記載のΔ8デサチュラーゼポリペプチドをコードする組み換えコンストラクト、および
b.)ETrA源
を含んでなり、宿主細胞はΔ8デサチュラーゼが発現して、ETrAがETAに変換されるような条件下で成長させ、ETAは場合により回収される。
【0126】
代案としては、ω−3脂肪酸の生成のために、ここで述べられる各Δ8デサチュラーゼ遺伝子およびその対応する酵素生成物を間接的に使用できる(国際公開第2004/101757号パンフレット参照)。ω−3/ω−6PUFAの間接的生成は、脂肪酸基質が、中間体ステップまたは経路中間体の手段を通じて、所望の脂肪酸生成物に間接的に変換されて起きる。したがってここで述べられるΔ8デサチュラーゼ(すなわちEgD8またはEgD8Sに由来する変異体またはその相同体)をPUFA生合成経路の酵素(例えばΔ6デサチュラーゼ、C18/20エロンガーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、C14/16エロンガーゼ、C16/18エロンガーゼ、Δ9エロンガーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ4デサチュラーゼ、C20/22エロンガーゼ)をコードする追加的遺伝子と併せて発現させ、長鎖ω−3/ω−6脂肪酸(例えばARA、EPA、DPA、およびDHA)のより高レベルの生成をもたらしてもよいことが考察された。好ましい実施態様では、本発明のΔ8デサチュラーゼは、Δ9エロンガーゼ(例えば配列番号173または配列番号176に記載のΔ9エロンガーゼ)と併せて最低限に発現される。しかし特定の発現カセット内に含まれる特定の遺伝子は、宿主細胞(およびそのPUFAプロフィールおよび/またはデサチュラーゼ/エロンガーゼプロフィール)、基質の利用可能性、および所望の最終産物に左右される。
【0127】
微生物の発現系、カセットおよびベクター、および形質転換
ここで述べられるΔ8デサチュラーゼ遺伝子および遺伝子産物(すなわちEgD8またはEgD8Sに由来する変異、またはその相同体)はまた、異種の微生物宿主細胞中で、特に油性酵母細胞(例えばヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中で生成されてもよい。
【0128】
外来タンパク質の高レベル発現を導く制御配列を含有する、微生物の発現システムおよび発現ベクターは、当業者によく知られている。これらのいずれも本配列の遺伝子生成物のいずれかを生成するためのキメラ遺伝子を構築するのに使用できる。次に形質転換を通じてこれらのキメラ遺伝子を適切な微生物に導入して、コードされた酵素の高レベル発現を提供できる。
【0129】
適切な微生物の宿主細胞の形質転換に有用なベクターまたはDNAカセットは、当該技術分野でよく知られている。コンストラクト中に存在する配列の特定の選択は、所望の発現生成物(上述)、宿主細胞の性質、および提案される形質転換細胞と非形質転換細胞とを分離する手段に左右される。しかし典型的にベクターまたはカセットは、関連遺伝子の転写および翻訳を導く配列、選択性標識、および自律性複製または染色体組み込みを可能にする配列を含有する。適切なベクターは、転写開始を制御する遺伝子の5’領域(例えばプロモーター)、および転写終結を制御するDNA断片の3’領域(すなわちターミネーター)を含んでなる。双方の制御領域が形質転換された微生物の宿主細胞の遺伝子由来であることが最も好ましいが、このような制御領域は、必ずしも生成宿主として選択された特定種に天然の遺伝子に由来しなくてよいものと理解される。
【0130】
所望の微生物の宿主細胞中で、本Δ8デサチュラーゼORFの発現を推進するのに有用な開始制御領域またはプロモーターは多数あり、当業者にはなじみが深い。選択された宿主細胞中でこれらの遺伝子の発現を導くことができる、実質的にあらゆるプロモーターが本発明に適する。微生物の宿主細胞中での発現は、一時的または安定様式で達成できる。一時的発現は、対象とする遺伝子に作動的に結合された、調節可能プロモーターの活性を誘導することで達成できる。安定発現は、対象とする遺伝子に作動的に結合された構成的プロモーターの使用によって達成できる。一例として宿主細胞が酵母菌の場合、酵母菌細胞中で機能する転写および翻訳領域は、特に宿主種から提供される(例えばヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中で使用するための好ましい転写開始調節領域については、国際公開第2004/101757号パンフレットおよび国際公開第2006/052870号パンフレットを参照されたい)。構成的または誘導的転写が所望されるかどうか、対象とするORFを発現する上でのプロモーター効率、構築の容易さなど次第で、いくつかの調節配列のいずれか1つを使用できる。
【0131】
翻訳開始コドン「ATG」周囲のヌクレオチド配列は、酵母細胞中での発現に影響することが分かっている。所望のポリペプチドが酵母中で不十分に発現される場合、外来性遺伝子のヌクレオチド配列を修正して効率的な酵母翻訳開始配列を含め、最適の遺伝子発現を得ることができる。酵母中での発現のためには、これは、内在性酵母遺伝子、好ましくは高度に発現される遺伝子に、非効率的に発現される遺伝子をインフレームで融合させることで、それを部位特異的変異誘発させて実行できる。代案としては、宿主中のコンセンサス翻訳開始配列を判定して、対象の宿主中における異種遺伝子の最適発現のために、この配列を異種遺伝子中に遺伝子操作できる。
【0132】
終結領域は、それから開始領域が得られた遺伝子からのまたは異なる遺伝子からの3’領域に由来することができる。多数の終結領域が知られており、多様な宿主中で満足に機能する(それらが由来するのと同じおよび異なる属と種のどちらで利用する場合も)。終結領域は通常、特定の特質のためでなく、むしろ便宜上から選択される。好ましくは微生物宿主が酵母細胞である場合、終結領域は酵母遺伝子(特にサッカロミセス(Saccharomyces)、分裂酵母(Schizosaccharomyces)、カンジダ(Candida)、ヤロウィア(Yarrowia)またはクリヴェロミセス(Kluyveromyces))に由来する。γ−インターフェロンおよびα−2インターフェロンをコードする哺乳類遺伝子の3’領域もまた、酵母中で機能することが知られている。終結制御領域はまた、好ましい宿主に天然である様々な遺伝子に由来してもよい。場合により終結部位は不要であってもよいが、含まれれば最も好ましい。制限は意図しないが、本願明細書の開示において有用な終結領域としては、次が挙げられる。ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)細胞外プロテアーゼ(XPR;GenBank登録番号M17741)の約100bpの3’領域;アシル−coAオキシダーゼ(Aco3:GenBank登録番号AJ001301およびNo.CAA04661;Pox3:GenBank登録番号XP_503244)ターミネーター;Pex20(GenBank登録番号AF054613)ターミネーター;Pex16(GenBank登録番号U75433)ターミネーター;Lip1(GenBank登録番号Z50020)ターミネーター;Lip2(GenBank登録番号AJ012632)ターミネーター;および3−オキソアシル−coAチオラーゼ(OCT;GenBank登録番号X69988)ターミネーター。
【0133】
当業者は認識しているように、遺伝子をクローニングベクターに単に挿入するだけでは、それが必要なレベルで成功裏に発現することは確証されない。高発現率の必要性に答えて、転写、翻訳、タンパク質安定性、酸素限界、および微生物の宿主細胞からの分泌の側面を制御するいくつかの異なる遺伝的要素を操作することで、多くの特殊化した発現ベクターが作り出されている。より具体的には、遺伝子発現を制御するように操作される分子の特徴のいくつかとして以下が挙げられる。1.)関連転写プロモーターおよびターミネーター配列の性質、2.)クローンされる遺伝子のコピー数、および遺伝子がプラスミド上にあるかまたは宿主細胞のゲノム内に組み込まれるかどうか、3.)合成された外来タンパク質の最終的細胞内位置、4.)宿主生物体中の翻訳効率およびタンパク質の正しい折りたたみ、5.)宿主細胞内のmRNAおよびクローン遺伝子タンパク質の本質的な安定性、および6.)頻度が宿主細胞の好むコドン使用頻度に近づくようなクローン遺伝子内のコドン使用。これらの各タイプの改変は、ここで述べられる変異Δ8デサチュラーゼの発現をさらに最適化する手段として、本発明中に包含される。
【0134】
ひとたび適切な微生物宿主細胞(例えば油性酵母)中での発現に適したポリペプチドをコードするDNA(例えばプロモーター、ORF、およびターミネーターを含んでなるキメラ遺伝子)が得られたら、それを宿主細胞中で自律複製できるプラスミドベクター中に入れ、またはそれを宿主細胞ゲノム中に直接組み込む。発現カセットの組み込みは宿主ゲノム内で無作為に起きることができ、または宿主遺伝子座内の遺伝子組み換えを標的とするのに十分な宿主ゲノムとの相同性領域を含有するコンストラクトの使用を通じて標的を定めることができる。コンストラクトが内在性遺伝子座を標的とする場合、全てまたはいくつかの転写および翻訳調節領域が、内在性遺伝子座によって提供できる。
【0135】
本発明では、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中で遺伝子を発現する好ましい方法は、宿主ゲノムへの線状DNAの組み込みによるものであり、特にゲノム内の複数位置への組み込みは、遺伝子の高レベル発現が所望される場合に有用であることができる[例えばUra3遺伝子座(GenBank登録番号AJ306421)、Leu2遺伝子座(GenBank登録番号AF260230)、Lys5遺伝子(GenBank登録番号M34929)、Aco2遺伝子座(GenBank登録番号AJ001300)、Pox3遺伝子座(Pox3:GenBank登録番号XP_503244;またはAco3:GenBank登録番号AJ001301)、Δ12デサチュラーゼ遺伝子座(国際公開第2004/104167号パンフレット)、Lip1遺伝子座(GenBank登録番号Z50020)および/またはLip2遺伝子座(GenBank登録番号AJ012632)中]。
【0136】
有利には、5−フルオロオロト酸(5−フルオロウラシル−6−カルボン酸一水和物;「5−FOA」)選択(下方)と組み合わせて、Ura3遺伝子を繰り返し使用して、遺伝子改変をたやすくヤロウィア(Yarrowia)ゲノムに簡便に組み込むことができる。
【0137】
2つ以上の遺伝子が別個の複製ベクターから発現される場合、各ベクターが異なる選択手段を有し、その他のコンストラクトとの相同性を欠いて、安定した発現を保ち、コンストラクト間の要素の再集合を妨げることが望ましい。全ての導入された遺伝子が、所望の生成物の合成を提供するのに必要なレベルで発現されるように、調節領域の賢明な選択、導入されたコンストラクトの選択手段および増殖法は、実験的に判定できる。
【0138】
対象の遺伝子を含んでなるコンストラクトは、あらゆる標準技術によって微生物宿主細胞に導入されてもよい。これらの技術としては、形質転換(例えば酢酸リチウム形質転換[Methods in Enzymology、194:186〜187頁(1991年)])、プロトプラスト融合、弾道衝撃、電気穿孔、微量注入、または宿主細胞に対象の遺伝子を導入するあらゆるその他の方法が挙げられる。油性酵母(すなわちヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica))に適用できるより具体的な教示としては、米国特許第4,880,741号明細書および米国特許第5,071,764号明細書およびChen,D.C.ら(Appl.Microbiol.Biotechnol.、48(2):232〜235頁(1997年))が挙げられる。
【0139】
便宜上、あらゆる方法によって操作されてDNA配列(例えば発現カセット)を取り込んだ宿主細胞は、ここで「形質転換された」または「組み換え」と称される。形質転換された宿主は発現コンストラクトの少なくとも1つのコピーを有して、遺伝子がゲノム中に組み込まれるか、増幅されるか、または複数コピーを有する染色体外要素上に存在するかどうか次第で、2つ以上を有するかもしれない。
【0140】
形質転換宿主細胞は、国際公開第2004/101757号パンフレットおよび国際公開第2006/052870号パンフレットで述べられているような様々な選択技術によって同定できる。ここで使用するのに好ましい選択方法は、カナマイシン、ハイグロマイシン、およびアミノグリコシドG418に対する抵抗性、ならびにウラシル、ロイシン、リジン、トリプトファンまたはヒスチジンを欠く培地上で成長する能力である。代案の実施態様では、酵母Ura−変異の選択のために5−FOAが使用される。化合物はオロチジン5’一リン酸脱炭酸酵素(OMP脱炭酸酵素)をコードする、機能性URA3遺伝子を有する酵母細胞に対して有毒である。したがってこの毒性に基づいて、5−FOAはUra-変異酵母株の選択および同定のために特に有用である(Bartel,P.L.およびFields,S.、Yeast 2−Hybrid System、Oxford University:New York、第7章、109〜147頁,1997年)。より具体的には天然Ura3遺伝子を最初にノックアウトして、5−FOA抵抗性に基づいて選択が起きるUra−フェノタイプを有する株を生成できる。次に複数のキメラ遺伝子および新しいUra3遺伝子のクラスターをヤロウィア(Yarrowia)ゲノムの異なる遺伝子座に組み込むことができ、それによってUra+フェノタイプを有する新しい株が生成する。引き続く組み込みは、導入されたUra3遺伝子がノックアウトされると新しいUra3−株(これもまた5−FOA選択を使用して同定される)を生じる。したがって多数回形質転換における選択マーカーとして、Ura3遺伝子(5−FOA選択と組み合わさった)を使用できる。
【0141】
形質転換に続いて、本Δ8デサチュラーゼ(場合により宿主細胞内で同時発現されるその他のPUFA酵素)に適した基質が、宿主によって天然にまたは遺伝子導入的に生成されてもよく、またはそれらは外来的に提供されてもよい。
【0142】
本遺伝子および核酸断片の発現のための微生物宿主細胞としては、広範な温度およびpH値にわたり、単純または複合糖質、脂肪酸、有機酸、油、およびアルコール、および/または炭化水素をはじめとする、多様な原材料上で、成長する宿主が挙げられる。本発明の遺伝子は、油性酵母(特にヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica))中での発現のために単離されている。転写、翻訳、およびタンパク質生合成器官は、高度に保存されているため、あらゆる細菌、酵母、藻類、卵菌類および/または真菌が、本核酸断片発現のための適切な微生物宿主であることが考察される。
【0143】
好ましい微生物宿主は油性酵母である。これらの生物は天然に油の合成および蓄積ができ、油は、約25%を超える細胞乾燥重量、より好ましくは約30%を超える細胞乾燥重量、最も好ましくは約40%を超える細胞乾燥重量を構成できる。油性酵母として典型的に同定される属としては、ヤロウィア(Yarrowia)、カンジダ(Candida)、ロドトルラ(Rhodotorula)、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、トリコスポロン(Trichosporon)、およびリポマイセス(Lipomyces)が挙げられるが、これに限定されるものではない。より具体的には例証的な油合成酵母としては、ロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)、リポマイセス・スターケイ(Lipomyces starkeyii)、L.リポフェラス(lipoferus)、カンジダ・レブカウフィ(Candida revkaufi)、C.プリケリーマ(pulcherrima)、C.トロピカリス(tropicalis)、C.ユチリス(utilis)、トリコスポロン・プランズ(Trichosporon pullans)、T.クタネウム(cutaneum)、ロドトルラ・グルチヌス(Rhodotorula glutinus)、R.グラミニス(graminis)、およびヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)(以前カンジダ・リポリチカ(Candida lipolytica)に分類された)が挙げられる。
【0144】
最も好ましいのは油性酵母ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)であり、さらなる実施態様で最も好ましいのはATCC#20362、ATCC#8862、ATCC#18944、ATCC#76982および/またはLGAMS(7)1と称されるY.リポリティカ(lipolytica)株である(Papanikolaou S.、およびAggelis G.、Bioresour.Technol.82(1):43〜9頁(2002年))。
【0145】
歴史的にY.リポリティカ(lipolytica)の様々な株が、イソクエン酸リアーゼ、リパーゼ、ポリヒドロキシアルカノアート、クエン酸;エリトリトール、2−オキソグルタル酸、γ−デカラクトン、γ−ドデカラトン、およびピルビン酸の製造および生成のために使用されている。Y.リポリティカ(lipolytica)中におけるARA、EPA、およびDHA産生を操作するのに適用できる特定の教示は、米国特許出願第11/264784号明細書(国際公開第2006/055322号パンフレット)、米国特許出願第11/265761号明細書(国際公開第2006/052870号パンフレット)、および米国特許出願第11/264737号明細書(国際公開第2006/052871号パンフレット)でそれぞれ提供される。
【0146】
その他の好ましい微生物宿主としては、油性細菌、藻類、卵菌綱(Oomycetes)、およびその他の真菌が挙げられ、この広範な微生物宿主群の中で特に興味深いのは、ω−3/ω−6脂肪酸を合成する微生物(またはこの目的のために遺伝子改変できるもの[例えばサッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)などのその他の酵母])である。したがって例えば誘導性プロモーターまたは調節プロモーターの制御下にある本Δ8デサチュラーゼ遺伝子のいずれかによる、モルティエラ・アルピナ(Mortierella alpina)(ARAの生成のために商業的に使用される)の形質転換は、増大する量のEDAを合成できる形質転換生物を生じる。M.アルピナ(alpina)の形質転換方法については、Mackenzieら(Appl.Environ.Microbiol.、66:4655頁(2000年))によって述べられている。同様にヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)微生物の形質転換方法については、米国特許第7,001,772号明細書で開示されている。
【0147】
上述の教示に基づいて、一実施態様では、本発明は、
a)(i)配列番号10と同一でない配列番号2に記載のアミノ酸配列を有して、Δ8デサチュラーゼ活性を有する変異ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、および
(ii)それぞれEDAまたはETrAのいずれかからなるデサチュラーゼ基質源
を含んでなる油性酵母を提供するステップと、
b)適切な発酵性炭素源の存在下でステップ(a)の酵母を成長させ、Δ8デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子が発現して、EDAがDGLAに変換され、またはETrAがETAに変換されるステップと、
c)場合によりステップ(b)のDGLAまたはETAをそれぞれ回収するステップと
を含んでなる、DGLAまたはETAのいずれかをそれぞれ生成する方法に向けたものである。基質供給が必要とされてもよい。
【0148】
もちろん油性酵母中で自然に産生されるPUFAは、18:2脂肪酸(すなわちLA)、および一般的ではないが18:3脂肪酸(すなわちALA)に限定されるので、本発明のより好ましい実施態様では、油性酵母は遺伝子改変されて、ここで述べられるΔ8デサチュラーゼに加えて、長鎖PUFA生合成に必要な複数の酵素を発現する(それによって例えばARA、EPA、DPA、およびDHAの生成を可能にする)。
【0149】
具体的には一実施態様では、本発明は、
a)少なくとも1つの制御配列と作動的に連結して、変異Δ8デサチュラーゼポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチドを含んでなる、第1の組み換えDNAコンストラクト、および
b)Δ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ9エロンガーゼ、C14/16エロンガーゼ、C16/18エロンガーゼ、C18/20エロンガーゼ、およびC20/22エロンガーゼからなる群から選択されるポリペプチドをコードする少なくとも1つの制御配列と作動的に連結して、単離されたポリヌクレオチドを含んでなる、少なくとも1つの追加的組み換えDNAコンストラクト
を含んでなる、油性酵母に関する。
【0150】
特に好ましい実施態様では、少なくとも1つの追加的組み換えDNAコンストラクトは、例えばイソクリシス・ガルバナ(Isochrysis galbana)から単離されおよび/またはそれに由来して、配列番号172〜174に記載のΔ9エロンガーゼ(GenBank登録番号AF390174)、またはミドリムシ(Euglena gracilis)から単離されおよび/またはそれに由来して、配列番号175〜177に記載のΔ9エロンガーゼなどのΔ9エロンガーゼ活性を有するポリペプチドをコードする。
【0151】
微生物中におけるω−3および/またはω−6脂肪酸生合成の代謝工学
生化学的経路を操作する方法は当業者によく知られており、油性酵母中、特にヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中において、ω−3および/またはω−6脂肪酸生合成を最大化するために、多数の操作が可能であることが予期される。これは直接的にPUFA生合成経路内の代謝工学、または様々なその他の代謝経路の追加的協調操作を要するかもしれない。
【0152】
PUFA生合成経路内を操作する場合、LAの生成を増大させて、増大したω−6および/またはω−3脂肪酸生成を確実にすることが望ましいかもしれない。Δ9および/またはΔ12デサチュラーゼをコードする遺伝子の導入および/または増幅が、これを達成してもよい。ω−6不飽和脂肪酸の生成を最大化するために、実質的にALAを含まない宿主微生物中における生成が有利であることが当業者にはよく知られている。したがって好ましくは宿主は、LAからALAへの変換を可能にするΔ15またはω−3タイプデサチュラーゼ活性を除去または阻害して、選択されまたは得られる。代案としてはω−3脂肪酸の生成を最大化する(そしてω−6脂肪酸の合成を最小化する)ことが望ましいかもしれない。この例ではオレイン酸からLAへの変換を可能にするΔ12デサチュラーゼ活性が除去または阻害されている宿主微生物が利用できる。引き続いてALAのω−3脂肪酸誘導体(例えばSTA、ETrA、ETA、EPA、DPA、DHA)への変換のために、適切な発現カセットが、適切な基質(例えばALA)と共に宿主に導入される。
【0153】
代案の実施態様では、エネルギーまたは炭素をめぐってω−3および/またはω−6脂肪酸生合成経路と競合する生化学的経路、または特定のPUFA最終産物の生成を妨げる天然PUFA生合成経路酵素を遺伝子中断によって排除し、またはその他の手段によって(例えばアンチセンスmRNA)下方制御してもよい。
【0154】
ARA、EPAまたはDHAを増大させる手段としてのPUFA生合成経路内の操作(およびその関連技術)に関する詳細な考察は、国際公開第2006/055322号パンフレット、国際公開第2006/052870号パンフレット、および国際公開第2006/052871号パンフレットにそれぞれ存在し、TAG生合成経路およびTAG分解経路における望ましい操作(およびその関連技術)についても同様である。
【0155】
本発明の文脈で、上述の戦略の内のいずれかによって脂肪酸生合成経路の発現を調節することは有用かもしれない。例えば本発明は、ω−3および/またはω−6脂肪酸の生成のために、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ生合成経路中の鍵酵素をコードする遺伝子を油性酵母に導入する方法を提供する。本Δ8デサチュラーゼ遺伝子をω−3および/またはω−6脂肪酸生合成経路を天然に有さない油性酵母中で発現して、これらの遺伝子の発現を連係させることは、宿主生物の代謝工学のための様々な手段を使用して、好ましいPUFA生成物の生成最大化するために特に有用である。
【0156】
PUFA産生のための微生物の発酵過程
キメラデサチュラーゼおよびエロンガーゼ遺伝子の発現が最適化され、好ましいPUFAの最大かつ最も経済的収率が生じる条件下で、形質転換された微生物宿主細胞を成長させる。一般に、最適化してもよい培地条件としては、炭素源のタイプおよび量、窒素源のタイプおよび量、炭素−対−窒素比、酸素レベル、成長温度、pH、バイオマス生産相の長さ、油蓄積相の長さ、および細胞収集時間と方法が挙げられる。対象の微生物(すなわちヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica))は、一般に複合培地(例えば酵母抽出物−ペプトン−デキストロースブロス(YPD))、または成長に必要な構成要素を欠いており、それによって所望の発現カセットの選択を強制する合成最少培地(例えば酵母窒素ベース(DIFCO Laboratories、Detroit,MI)中で成長させる。
【0157】
本発明中の発酵培地は、適切な炭素源を含有しなくてはならない。適切な炭素源については国際公開第2004/101757号パンフレットで教示される。本発明で利用される炭素源は、多種多様な炭素含有源を包含してもよいことが考察されるが、好ましい炭素源は、糖、グリセロール、および/または脂肪酸である。最も好ましいのは、10〜22個の炭素を含有するグルコースおよび/または脂肪酸である。
【0158】
窒素は無機(例えば(NH4)2SO4)または有機(例えば尿素またはグルタメート)源から供給されてもよい。適切な炭素および窒素源に加えて、発酵培地はまた、適切なミネラル、塩、補助因子、緩衝液、ビタミン、および微生物の成長およびPUFA産生に必要な酵素的経路の促進に適することが当業者に知られているその他の構成要素も含有しなくてはならない。脂質およびPUFAの合成を促進するいくつかの金属イオン(例えばMn+2、Co+2、Zn+2、Mg+2)に、特に注意が払われている(Nakahara,T.ら,Ind.Appl.Single Cell Oils、D.J.KyleおよびR.Colin編、61〜97頁(1992年))。
【0159】
本発明における好ましい増殖培地は、一般的に、酵母窒素ベース(DIFCO Laboratories、Detroit,MI)などの商業的に調製された培地である。その他の合成(defined)または合成(synthetic)増殖培地もまた使用してもよく、形質転換宿主細胞の成長に適した培地は、微生物学または発酵化学の当業者に知られている。発酵に適したpH範囲は典型的に約pH4.0〜pH8.0の間であり、初期成長条件のための範囲としてpH5.5〜pH7.5が好ましい。発酵は好気性または嫌気性条件下で実施してもよく、微好気条件が好ましい。
【0160】
代謝状態は成長と脂肪の合成/保存との間で「平衡状態」でなくてはならないので、典型的に油性酵母細胞中のPUFAの高レベルの蓄積は、二段階過程を必要とする。したがって最も好ましくは、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中におけるPUFA生成のために、二段階発酵過程が必要である。このアプローチについては国際公開第2004/101757号パンフレットで述べられており、様々な適切な発酵過程デザイン(すなわちバッチ、流加および連続)および成長中の考察事項についても同様である。
【0161】
PUFA油の精製および加工
PUFAは、宿主微生物および植物中に遊離脂肪酸として、またはアシルグリセロール、リン脂質、スルホ脂質または糖脂質などのエステル化形態として存在してもよく、当該技術分野で良く知られている多様な手段を通じて宿主細胞から抽出されてもよい。酵母脂質の抽出技術、品質分析、および合格基準の1つの総説は、Z.Jacobs(Critical Reviews in Biotechnology,12(5/6):463〜491頁(1992年))によるものであるA.SinghおよびO.Ward(Adv.Appl.Microbiol.、45:271〜312頁(1997年))による後処理プロセスに関する簡潔な概要もまた入手できる。
【0162】
一般にPUFAの純化のための手段としては、有機溶剤による抽出、超音波処理、超臨界流体抽出(例えば二酸化炭素を使用して)、鹸化、および圧搾などの物理的手段、またはそれらの組み合わせが挙げられる。追加的詳細については、国際公開第2004/101757号パンフレットの教示を参照されたい。
【0163】
好ましい実施態様の説明
本発明の1つの目的は、植物および油性酵母中でΔ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路の発現を可能にする適切なΔ8デサチュラーゼの合成である。
【0164】
同一譲受人の国際公開第2006/012325号パンフレットおよび国際公開第2006/012326[US2005−0287652]号パンフレットでは、出願人らは、ミドリムシ(Euglena gracilis)からのΔ8デサチュラーゼ(「Eg5」)の単離、およびサッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)中での発現に際しての酵素の機能特性決定について述べる。野生型Eg5配列は、さらにヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化され、「D8SF」と称される合成の機能性コドン最適化Δ8デサチュラーゼの合成がもたらされた。ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中における、D8SFとコドン最適化されたΔ9エロンガーゼ(イソクリシス・ガルバナ(Isochrysis galbanaに由来する)(GenBank登録番号390174)との同時発現に際して、6.4%のDGLA(GLAの同時合成なし)が実証された(国際公開第2006/012325号パンフレットの実施例12、および国際公開第2006/012326号パンフレット[米国特許出願公開第2005−0287652−A1号明細書])。
【0165】
本願明細書では、「D8SF」と称する(ここで「EgD8S」と称する)合成のコドン最適化されたΔ8デサチュラーゼを標的を定めた変異の対象とした。究極的に、合成のコドン最適化されたEgD8Sと比較して少なくとも1つのアミノ酸変異(そして約33個までのアミノ酸変異)を含んでなる変異EgD8S酵素(配列番号2)が作り出され、(i)少なくとも1つの変異は、4SからA、5KからS、12TからV、16TからK、17TからV、54AからG、55FからY、66PからQ、67SからA、108SからL、117GからA、118YからF、120LからM、121MからL、125QからH、126MからL、132VからL、133LからV、162LからV、163VからL、170GからA、171LからV、279TからL、280LからT、293LからM、346IからV、347IからL、348TからS、407AからS、408VからQ、418AからG、419GからA、および422LからQからなる群から選択されて、変異は配列番号10に記載の合成のコドン最適化配列と比較して定義され、(ii)配列番号2は配列番号10と同一でなく、(iii)配列番号2は配列番号10と少なくとも機能的にほぼ同等である。
【0166】
本願明細書の教示から、当業者は異種のΔ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路の発現を通じて、多様なω−3および/またはω−6PUFAの生成を可能にするために、Δ8デサチュラーゼをコードする本発明の組み換え遺伝子の商業的有用性を認識するであろう。
【実施例】
【0167】
次の実施例で本発明をさらに定義する。これらの実施例は、本発明の好ましい実施態様を示しながら、例示の手段としてのみ提供されるものと理解される。上の考察およびこれらの実施例から、当業者は本発明の本質的特性を見極めることができ、その趣旨と範囲を逸脱することなく本発明に様々な変更と修正を加えて、それを様々な使用法および条件に適応できる。したがって本明細書で示されて述べられているものに加えて、本発明の様々な修正は、当業者には前述の説明から明らかであろう。このような修正はまた、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【0168】
一般方法
実施例で使用する標準組み換えDNAおよび分子クローニング技術は、当該技術分野でよく知られており、1.)Sambrook,J.、Fritsch,E.F.およびManiatis,T.、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1989年)(Maniatis);2.)T.J.Silhavy、M.L.Bennan、およびL.W.Enquist、「Experiments with Gene Fusions」、Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1984年);および3.)Ausubel,F.M.ら、「Current Protocols in Molecular Biology」、Greene Publishing Assoc.and Wiley−Interscienceによる出版(1987年)で述べられる。
【0169】
微生物培養の維持および成長に適した材料および方法は、当該技術分野でよく知られている。以下の実施例で使用するのに適した技術については、次で述べられている。Phillipp Gerhardt、R.G.E.Murray、Ralph N.Costilow、Eugene W.Nester、Willis A.Wood、Noel R.Krieg、およびG.Briggs Phillips編、「Manual of Methods for General Bacteriology」、American Society for Microbiology、Washington,D.C.(1994年)、またはThomas,D.Brock、「Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology」、第2版、Sinauer Associates:Sunderland,MA(1989年)。微生物細胞の成長および維持のために使用される全ての試薬制限酵素および材料は、特に断りのない限り、Aldrich Chemicals(Milwaukee,WI)、DIFCO Laboratories(Detroit,MI)、GIBCO/BRL(Gaithersburg,MD)、またはSigma Chemical Company(St.Louis,MO)から得た。
【0170】
一般分子クローニングは、標準法に従って実施された(Sambrookら、前出)。オリゴヌクレオチドは、Sigma−Genosys(Spring,TX)によって合成された。DNA配列は、ベクターおよび挿入断片特異的プライマーの組み合わせを使用して、染料ターミネーター技術(米国特許第5,366,860号明細書;欧州特許第272,007号明細書)を使用して、ABI自動配列決定装置上で作り出された。配列編集はシーケンチャー(Gene Codes Corporation、Ann Arbor,MI)内で実施された。全ての配列は、双方向に少なくとも2回のカバレッジに相当する。遺伝子配列の比較は、DNASTARソフトウェア(DNAStar Inc.、Madison,WI)を使用して達成された。代案としては、遺伝的配列の操作は、Genetics Computer Group Inc.から入手できるプログラムスイート(Wisconsin Package Version 9.0、Genetics Computer Group(GCG)、Madison,WI)を使用して達成された。GCGプログラム「Pileup」をgap creationデフォルト値12、およびgap extensionデフォルト値4で使用した。GCG「Gap」または「Bestfit」プログラムをデフォルトgap creation penalty 50、およびデフォルトgap extension penalty 3で使用した。特に断りのない限り、その他の全例でGCGプログラムのデフォルトパラメーターを使用した。
【0171】
略語の意味は次のとおり。「sec」は秒を意味し、「min」は分を意味し、「hr」は時間を意味し、「d」は日を意味し、「μl」はマイクロリットルを意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「L」はリトルを意味し、「μM」はマイクロモル濃度を意味し、「mM」はミリモル濃度を意味し、「M」はモル濃度を意味し、「mmol」はミリモルを意味し、「μmole」マイクロモルを意味し、「g」はグラムを意味し、「μg」はマイクログラムを意味し、「ng」はナノグラムを意味し、「U」は単位を意味し、「bp」は塩基対を意味し、「kB」はキロ塩基を意味する。部および百分率は重量基準であり、温度は摂氏である。
【0172】
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の形質転換および培養
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#20362、#76982、および#90812株は、米国微生物系統保存機関(Rockville、MD)から購入した。Y.リポリティカ(lipolytica)株を通常YPD寒天(1%酵母抽出物、2%バクトペプトン、2%グルコース、2%寒天)上で28℃で成長させた。
【0173】
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の形質転換は、特に断りのない限りChen,D.C.ら、Appl Microbiol Biotechnol.48(2):232〜235(1997年)の方法に従って実施した。簡単に述べると、ヤロウィア(Yarrowia)をYPDプレート上に画線培養し、30℃でおよそ18時間成長させた。いくつかの大型白金耳を満たす細胞をプレートからこすり取り、平均分子量3350の2.25mLの50%PEG、pH6.0の0.125mLの2M酢酸Li、0.125mLの2M DTT、および50μgのせん断サケ精子DNAを含有する1mLの形質転換緩衝液に再懸濁した。次に約500ngの直線化プラスミドDNAを100μLの再懸濁細胞内でインキュベートし、15分間隔でボルテックス混合しながら39℃に1時間保った。細胞を選択培地プレートに蒔いて、30℃に2〜3日間保った。
【0174】
形質転換体の選択のために、最少培地(「MM」)を一般に使用した。MMの組成は次のとおりである。硫酸アンモニウムまたはアミノ酸なしの0.17%酵母窒素ベース((DIFCO Laboratories、Detroit,MI)、2%グルコース、0.1%プロリン、pH6.1。ウラシルまたはロイシン補給剤を必要に応じて最終濃度0.01%に添加した(それによってそれぞれ20g/Lの寒天を用いて調製される「MMU」または「MMLeu」選択培地がそれぞれ生じる)。
【0175】
代案としては、硫酸アンモニウムまたはアミノ酸なしの0.17%酵母窒素ベース(DIFCO Laboratories、Detroit,MI)、2%グルコース、0.1%プロリン、75mg/Lウラシル、75mg/Lウリジン、900mg/L FOA(Zymo Research Corp.、Orange,CA)、および20g/L寒天を含んでなる、5−フルオロオロト酸(「FOA」;5−フルオロウラシル−6−カルボン酸一水和物とも)選択培地上で形質転換体を選択する。
【0176】
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の脂肪酸分析
脂肪酸分析のために、Bligh,E.G.およびDyer,W.J.(Can.J.Biochem.Physiol.、37:911〜917頁(1959年))で述べられているように、遠心分離によって細胞を収集して脂質を抽出した。ナトリウムメトキシドによる脂質抽出物のエステル交換によって脂肪酸メチルエステルを調製し(Roughan,G.、およびNishida,I.、Arch.Biochem.Biophys.、276(1):38〜46頁(1990年))、引き続いて30m×0.25mm(内径)HP−INNOWAX(Hewlett−Packard)カラムを装着したHewlett−Packard 6890 GCで分析した。オーブン温度は、3.5℃/分で170℃(25分間保持)から185℃であった。
【0177】
直接塩基エステル交換のために、ヤロウィア(Yarrowia)培養物(3mL)を収集して蒸留水で1回洗浄し、真空下においてSpeed−Vac内で5〜10分間乾燥させた。ナトリウムメトキシド(100μLの1%)をサンプルに添加し、次にサンプルをボルテックスして20分間振盪した。3滴の1M NaClおよび400μLのヘキサンを添加した後、サンプルをボルテックスして遠沈した。上層を除去して、上述のようにGCによって分析した。
【0178】
実施例1
EgD8Sの位相モデルの開発
BLASTP分析は、EgD8SがN−末端チトクロームb5領域(配列番号10のアミノ酸残基5〜71の間に位置する)、およびC−末端デサチュラーゼ領域(配列番号10のアミノ酸残基79〜406の間に位置する)の2つの領域を含有することを示した。Δ8デサチュラーゼ活性に悪影響を与えることなく、EgD8Sのアミノ酸配列を変位させるために、以下の理論および分析に基づいて位相モデル(図2)を開発した。
【0179】
最初にTMHMMプログラム(「Prediction of transmembrane helices in proteins」;TMHMM Server v.2.0、Technical University of Denmark,DK−2800 Lyngby,Denmark)が、EgD8Sは4つの膜貫通らせん(アミノ酸残基113〜132、223〜245、266〜283、および287〜309)を有して、N−末端およびC−末端のどちらも膜の細胞質側に位置することを予測した。
【0180】
膜結合脂肪酸デサチュラーゼは、HX(3-4)H(配列番号166および167)、HX(2-3)HH(配列番号168および169)、および(H/Q)X(2-3)HH(配列番号170および171)の3個のHisに富むモチーフを特徴とする、膜二鉄タンパク質のスーパーファミリーに属する。これらのHisに富む残基は、膜の細胞質面に位置することが予測され、酵素活性に重要であることが示されている(Shanklin,J.ら、Biochemistry,33:12787〜12794頁(1994年);Shanklin,J.およびCahoon,E.B.、Annu.Rev.Plant Physiol.Plant Mol.Biol.,49:611〜641頁(1998年))。配列番号10中において、これらの3個のヒスチジンボックスはアミノ酸残基146〜150、183〜187、および358〜362の間に位置し、2つの追加的His残基はアミノ酸残基27および50に位置する。これらの各His残基は図2に小さな丸で示される。
【0181】
TMHMM(前出)によって予測されたモデルが変更なしに受容されれば、最初の2つのHisに富む領域(すなわちアミノ酸残基146〜150および183〜187の間に広がる領域)は細胞膜周辺腔に位置し、したがって鉄活性部位におけるそれらの関与を妨げる。
【0182】
上述の矛盾は、疎水性親水性指標プロット分析(Kyte,J.およびDoolittle,R.、J.Mol.Biol.、157:105〜132頁(1982年))が、第1の予測された膜貫通セグメント(すなわち残基113〜132)の直前の、アミノ酸残基88〜109の間に位置するもう1つの疎水性領域を予測した際に解決された。N−末端チトクローム−b5領域は細胞質空間に位置するので、疎水性領域(すなわち残基88〜109)が第1の膜貫通セグメント(すなわち図2に示す領域I)であることが予測され、一方残基113〜132に対応する予測された膜貫通セグメントは第2の膜貫通セグメントと指名された(すなわち図2に示す領域II)。その結果、最初の2つのHisに富むモチーフ(すなわちアミノ酸残基146〜150および183〜187の間に広がる領域)が細胞質側内にあるよう調節できるように、TMHMMによって当初は膜を貫通することが予測された残基223〜245の間に見られる膜貫通セグメントは、そうではなくて細胞質面にあることが予測された。
【0183】
最後に、疎水性親水性指標プロット分析はまた、第1の2つのHisに富むモチーフ間の別の疎水性領域(すなわち残基157〜172)も予測した。デサチュラーゼの基質は高度に疎水性であるので、細胞質膜の脂質二重層内へ分割する見込みが高いことが予期された。これはHisに富むモチーフからアセンブルされたデサチュラーゼ活性部位が、膜表面に(またははそのすぐそばに)にあるかもしれないことを示唆した。したがって双方の疎水性領域(すなわち残基157〜172および残基223〜245)が膜表面近くにあって、活性部位が膜の近くにあることを確実にするという仮説を立てた。
【0184】
TMHMMによって予測された最後の2つの膜貫通らせん(すなわち残基266〜283および287〜309)は、図2に示される最終位相モデル内に領域III領域IVとして含まれる。
【0185】
したがって図2に描写される位相モデルは、それぞれアミノ酸残基88〜109、113〜132、266〜283、および287〜309に相当する、域領I、II、III、およびIVと標識される4つの膜貫通領域を含む。2つの追加的疎水性領域は、アミノ酸残基157〜172および223〜245に位置する。最後に「IN」が細胞質空間に相当する一方、「OUT」は細胞膜周辺腔に相当する。
【0186】
実施例2
変異のためのアミノ酸残基を選択するための戦略
BLAST「nr」データベース(全ての非重複GenBankCDS翻訳と、三次元構造Brookhavenタンパク質データバンク、SWISS−PROTタンパク質配列データベース、EMBLおよびDDBJデータベースに由来する配列とを含んでなる)中に含まれる配列について、類似性のためのBLAST(Basic Local Alignmant Search Tool);Altschul,S.F.ら、J.Mol.Biol.、215:403〜410頁(1993年))検索を行って、EgD8S配列に近い相同体を判定した。具体的にはNCBIによって提供されるBLASTPアルゴリズム(Altschulら、J.Mol.Biol.215:403〜410頁(1990年))を使用して「nr」データベース中に含まれる全ての公的に入手可能なタンパク質配列との類似性について、EgD8S(配列番号10)を比較した。
【0187】
ミドリムシ(Euglena gracilis)から単離されたあらゆるΔ8デサチュラーゼに対する全てのヒットを無視して、BLASTP検索は、EgD8Sが次のタンパク質に対して最も相同的であることを示した。
【0188】
表6
BLASTP分析に基づくEgD8Sの相同的タンパク質

*「%同一性」は、2つのタンパク質間で同一であるアミノ酸の百分率と定義される。
**%類似性」は、2つのタンパク質間で同一であるまたは保存されているアミノ酸の百分率と定義される。
***「期待値」は、絶対的に偶然にこの大きさのデータベース検索で期待される特定スコアでのマッチ数を規定して、マッチの統計学的有意さを推定する。
【0189】
Δ8デサチュラーゼ活性に影響することなくEgD8S内で変異できるアミノ酸残基を選択するために、以下で概要を述べるように、変異の好ましい標的を同定するための基準のセットが開発された。
【0190】
1.EgD8Sデサチュラーゼ領域の好ましいアミノ酸残基標的(配列番号10のアミノ酸残基79〜406の間に位置する)は、A.ルキシイ(rouxii)(前出;「ArD6」;配列番号13)のΔ6デサチュラーゼ、R.オリゼー(oryzae)のΔ6デサチュラーゼ(前出;「RoD6」;配列番号14)、および大型リーシュマニア(Leishmania major)のΔ8脂肪酸デサチュラーゼ様タンパク質(GenBank登録番号CAJ09677;「LmD8L」;配列番号15)などの代表的なその他のデサチュラーゼ、およびモルティエラ・イザベリナ(Mortierella isabellina)のΔ6デサチュラーゼ(GenBank登録番号AAG38104;「MiD6」;配列番号16)と比較して、保存されていない。DNASTAR(商標)ソフトウェアのMegAlign(商標)プログラムのClustal W法(緩慢、正確、Gonnetオプション;Thompsonら、Nucleic Acids Res.、22:4673〜4680頁(1994年))を使用した、これらのタンパク質のアラインメントを図3に示す。これらの5つの異なるデサチュラーゼ中の非保存領域における変化は、EgD8SのΔ8デサチュラーゼ活性に影響しないと仮定された。
【0191】
2.EgD8Sのチトクロームb5領域の好ましいアミノ酸残基標的(配列番号10のアミノ酸5〜71の間に位置する)は、サッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)(GenBank登録番号P40312;「SCb5」;配列番号178)およびシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)(GenBank登録番号O94391;SPb5;配列番号179)のチトクロームb5遺伝子と比較して、保存されていない。DNASTAR(商標)ソフトウェアのMegAlign(商標)プログラムのClustal W(前出)法を使用した、EgD8SのN−末端部分(すなわち配列番号10のアミノ酸残基1〜136)と、SCb5およびSPb5とのアラインメントを図4に示す。これらの3つの異なるタンパク質の非保存領域中の変化は、EgD8Sのチトクロームb5領域の電子伝達機能に影響せず、したがってΔ8デサチュラーゼ活性に影響しないことが仮定された。
【0192】
3.好ましいアミノ酸残基標的は、膜の小胞体(ER)側に近い膜貫通らせん上にあり、またはER内腔に露出している。
【0193】
4.EgD8S酵素のN−末端またはC−末端に近い領域内の非保存的残基はより多くの変異に耐えるかもしれないので、好ましいアミノ酸残基標的はこれらの領域に近い。
【0194】
上の基準に基づいて、表7で後述するように、EgD8S(すなわち配列番号10)内の70個の標的変異部位のセット(1、2または3個のアミノ酸残基を含んでなる)を変異のために選択した。個々の126個のアミノ酸残基変異の内、53個(すなわち42.1%)は「非保存的アミノ酸置換」として同定され、一方73個(すなわち57.9%)は「保存的アミノ酸置換」として同定された。
【0195】
表7
標的を定めた変異に適する選択されたアミノ酸残基

【0196】
実施例3
総脂質の約17%EDAを産生するヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y4001およびY4001U株の作成
本実施例は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#20362に由来して、それぞれ総脂質に対して17%のEDA(C20:2)を産生できる、Y4001およびY4001U株の構築について述べる。双方の株を改変して、EgD8Sの機能発現およびその変異について試験した。したがってΔ8デサチュラーゼ基質EDAを産生できる宿主株を構築することが必要であった。
【0197】
Leu−およびUra−フェノタイプを有するY4001U株の開発は、Y2224株(野生型ヤロウィア(Yarrowia)株ATCC#20362のUra3遺伝子の自立的変異からのFOA抵抗性変異)およびY4001株の構築を必要とした。
【0198】
Y2224株の作成
次のようにして様式Y2224株を単離した。YPD寒天プレート(1%酵母抽出物、2%バクトペプトン、2%グルコース、2%寒天)からのヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#20362細胞を250mg/L5−FOA(Zymo Research)を含有するMMプレート(各75mg/Lのウラシルおよびウリジン、6.7g/LのYNB、硫酸アンモニア添加、アミノ酸無添加、および20g/Lのグルコース)上に画線培養した。プレートを28℃でインキュベートして、得られたコロニーから4個を200mg/mLの5−FOAを含有するMMプレート、およびウラシルおよびウリジンを欠くMMプレート上に個別にパッチして、ウラシルUra3栄養要求性を確認した。
【0199】
総脂質の17%のEDAを産生するY4001株の作成
Y2224株のLeu2遺伝子座へのコンストラクトpZKLeuN−29E3(図5A;4つのキメラ遺伝子[Δ12デサチュラーゼ、C16/18エロンガーゼ、および2つのΔ9エロンガーゼ]を含んでなる)の組み込みを通じてY4001株を作り出し、それによってEDAの産生を可能にした。
【0200】
コンストラクトpZKLeuN−29E3は次の構成要素を含有した。
【0201】
表8
プラスミドpZKLeuN−29E3(配列番号17)の説明

【0202】
(表8続き)

【0203】
一般方法に従ってプラスミドpZKLeuN−29E3をAscI/SphIで消化し、次にY.リポリティカ(lipolytica)Y2224株(すなわちATCC#20362 Ura3−)の形質転換のために使用した。形質転換体細胞をMMLeu培地プレート上に播種して、30℃に2〜3日間保った。コロニーを拾ってMMおよびMMLeu選択プレート上に画線培養した。MMLeuプレート上で成長できたが、MMプレート上で成長できなかったコロニーをLeu−株として選択した。次にLeu−株の単一コロニーを30℃の液体MMLeuに接種して、250rpm/分で2日間振盪した。細胞を遠心分離によって収集して脂質を抽出し、エステル交換によって脂肪酸メチルエステルを調製し、引き続いてHewlett−Packard 6890 GCで分析した。
【0204】
GC分析からは、EDAの存在がpZKLeuN−29E3の4つのキメラ遺伝子を含有する形質転換体中に示されたが、ヤロウィア(Yarrowia)Y2224対照株中には示されなかった。選択された36個のLeu−株の大部分は、総脂質の約12〜16.9%のEDAを産生した。総脂質の約17.4%、17%、および17.5%のEDAを産生する3つの株(すなわち#11、#30、および#34株)があり、それぞれY4001、Y4002、およびY4003株と称された。
【0205】
総脂質の17%のEDAを産生するY4001U株(Leu−、Ura−)の作成
Y4001株中で、プラスミドpY116中のCreリコンビナーゼ酵素の一時的発現を通じてY4001U株を作り出し(図5B)、Leu−およびUra−フェノタイプを生成した。コンストラクトpY116は、次の構成要素を含有した。
【0206】
表9
プラスミドpY116(配列番号180)の説明

【0207】
一般方法に従って、プラスミドpY116を新たに成長させたY4001細胞の形質転換のために使用した。280μg/mLのスルホニル尿素を含有するMMUプレート上に形質転換体細胞を播種して、30℃に3〜4日間保った。4個のコロニーを拾って、30℃の3mLの液体YPD培地に接種して250rpm/分で1日間振盪した。液体MMU培地で培養物を1:50,000に希釈し、新しいYPDプレート上に100μLを播種して30℃に2日間保った。コロニーを拾ってMMLeuおよびMMLeu+Ura選択プレート上に画線培養した。MMLeu+Uraプレート上で成長できたが、MMLeuプレート上で成長できなかったコロニーを選択し、GCによって分析してC20:2(EDA)の存在を確認した。Leu−およびUra−フェノタイプを有する1つの株は、総脂質の約17%EDAを産生しY4001Uと称された。
【0208】
実施例4
自己複製型プラスミドpFmD8Sの作成
本実施例は、キメラFBAINm::EgD8S::XPR遺伝子を含んでなるプラスミドpFmD8Sの構築について述べる。プラスミドpKUNFmkF2、pDMW287F、およびpDMW214からの断片を使用して、三元ライゲーションによってプラスミドpFmD8S(配列番号20;図6D)を構築した。1〜3コピーがヤロウィア(Yarrowia)中に存在する、自己複製型プラスミドであるプラスミドpFmD8Sは、以下の実施例5〜10で述べられているようにEgD8Sの機能発現(およびその変異)を試験するのに利用された。
【0209】
プラスミドpKUNFmkF2
pKUNFmkF2(配列番号21;図6A;国際公開第2006/012326号パンフレット)は、キメラFBAINm::F.D12::Lip2遺伝子を含んでなるコンストラクトである(「FBAINmK」はヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)FBAINmプロモーターであり[国際公開第2005/049805号パンフレット]、「F.D12」はフザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)Δ12デサチュラーゼであり[国際公開第2005/047485号パンフレット]、「Lip2」はヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Lip2ターミネーター配列(GenBank登録番号AJ012632)である)。
【0210】
プラスミドpDMW287F
pDMW287F(配列番号22;図6B;国際公開第2006/012326号パンフレット)は、野生型ミドリムシ(Euglena gracilis)に由来して、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された、合成Δ8デサチュラーゼを含んでなるコンストラクトである(EgD8Sは図中で「D8SF」として同定される)。デサチュラーゼ遺伝子は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)FBAINプロモーター(国際公開第2005/049805号パンフレット;図中で「FBA1+イントロン」として同定される)、およびヤロウィア(Yarrowia)Pex16遺伝子(GenBank登録番号U75433)のPex16ターミネーター配列で挟まれる。
【0211】
プラスミドpDMW214
pDMW214(配列番号23;図6C;国際公開第2005/049805号パンフレット)は、大腸菌(E.coli)およびヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の双方の中で複製できるシャトルプラスミドである。それは次の構成要素を含んだ。
【0212】
表10
プラスミドpDMW214(配列番号23)説明

【0213】
プラスミドpFmD8Sの最終構築
プラスミドpKUNFmkF2(図6A;FBAINmプロモーターを含んでなる)のPmeI/NcoI断片、およびプラスミドpDMW287F(図6B;合成Δ8デサチュラーゼ遺伝子EgD8Sを含んでなる)のNcoI/NotI断片を一方向性に使用して、pDMW214(図6C)のPmeI/NotI断片を置き換えた。これはキメラFBAINm::EgD8S::XPR2遺伝子を含んでなるpFmD8S(配列番号20;図6D)の発生をもたらした。したがってpFmD8Sの構成要素は、下の表11で述べらるとおりである。
【0214】
表11
プラスミドpFmD8S(配列番号20)の構成要素

【0215】
実施例5
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中においてΔ8デサチュラーゼ活性を機能的に分析する迅速スクリーニングの開発
部位特異的変異誘発(QuikChange(登録商標)キット、Stratagene、La Jolla,CA)により、pFmD8S(実施例4)をテンプレートとして、および40対のオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、EgD8S(配列番号10)内の標的に定めたアミノ酸残基を個々に変異させ、40セットの変異を作り出した。M1変異(すなわち配列番号10内の4SからA、5KからS)の創出が、プライマー1Aおよび1B(それぞれ配列番号24および25)などを必要とするように、特定の変異を実施例2の表7に記載されたものから選択し、プライマーペアを配列番号24〜164に記載のオリゴヌクレオチドから選択した。各変異からのプラスミドを大腸菌(E.coli)XL2Blue細胞(Stratagene)に形質変換した。40の各形質転換から4個のコロニーを拾って、液体培地中において37℃で一晩個々に成長させた。プラスミド(すなわち全部で160個)をこれらの培養物から単離して、個々に配列決定して変異を確認した。
【0216】
一般方法で述べられているように、プラスミドpFmD8Sおよび単離された変異プラスミドをY4001株に個々に形質変換した(実施例3)。形質転換体をMMプレート上で選択した。30℃で2日間の成長後、形質転換体を各プレートからこすり取って脂質を抽出し、エステル交換によって脂肪酸メチルエステルを調製し、引き続いてHewlett−Packard 6890 GCで分析した。
【0217】
GC分析は、プラスミドpFmD8Sがある形質転換体によって、総脂質の約7%のDGLAおよび12%のEDAが生成されたことを示した。EgD8Sが形質転換体中でEDAをDGLAに変換する平均変換効率は、36.8%であった。変換効率を次の式に従って測定した。([生成物]/[基質+生成物])*100。式中、「生成物」は即時の生成物、および経路中のそれに由来する全ての生成物を含む。
【0218】
EgD8S内に変異を保有する形質転換体のGC分析は、40個の変異の内30個がΔ8デサチュラーゼ活性に影響しないことを示した(プラスミドpFmD8Sを保有する形質転換体中の合成のコドン最適化されたEgD8SΔ8デサチュラーゼ活性と比較して)。これらの結果は、ここで述べられるスクリーニング手順(すなわちpFmD8Sを親プラスミドとして、Y4001株を宿主として)を使用して、EgD8S変異体を迅速にスクリーンして、どの変異がΔ8デサチュラーゼ活性に悪影響を与えるのか同定できることを示唆した。
【0219】
これらの結果に基づき、上述の方法を使用して、実施例2の表7に記載された残る30個の変異を合成した(効率のためにいくつかの変異を組み合わせて導入した)。表12は、合成のコドン最適化EgD8S(配列番号10)のΔ8デサチュラーゼ活性と比較して、各変異EgD8SにもたらされるΔ8デサチュラーゼ活性の%として、各変異部位(すなわちM1〜M70)に起因するΔ8デサチュラーゼ活性を述べている。下の表に示されるように、Δ8デサチュラーゼ活性は0%〜125%の範囲である。
【0220】
表12
変異Δ8デサチュラーゼ活性

【0221】

【0222】

【0223】

【0224】

【0225】

*所望の変異が成功裏に生じなかった場合、またはGCデータが欠如している場合にN/Aと報告される。
【0226】
実施例6
コンストラクトpFmD8S内のEgD8Sの部位特異的変異誘発によるpFmD8S−1、pFmD8S−001、pFmD8S−2A、pFmD8S−2B、pFmD8S−3A、pFmD8S−3B、pFmD8S−003、pFmD8S−4、pFmD8S−004、pFmD8S−005、およびpFmD8S−006コンストラクトの作成
EgD8S(配列番号9および10)に多重選択的変異を導入するための継続的部位特異的変異誘発連続ラウンドによって、一連のプラスミドを作り出した。合成のコドン最適化されたEgD8Sを含んでなるpFmD8S(実施例4)を表13、14、16、および17で開始テンプレートとして使用する一方、それから作り出された変異(すなわち配列番号10と比較して117GからAおよび118YからFへの変異を含んでなるpFmD8S−M45)を表15の開始テンプレートとして使用した。変異EgD8S配列を含んでなる得られたプラスミド、ならびにこれらの変異を作り出すのに使用されたプライマーに関する詳細は、下の表13、14、15、16、および17で述べられる。
【0227】
「導入変異部位」と題された欄は、実施例2の表7に列挙されるような、変異について選択された特定のアミノ酸部位を指す。「EgD8S(配列番号10)と比較した得られたプラスミド中の総変異」と題された欄では、太字で強調表示されたアミノ酸変異は、指定された部位特異的変異誘発のラウンドにおいて、テンプレート中に存在しない新たに導入された変異に相当する。括弧内に示される数は、EgD8S(配列番号10)と比較した、得られたプラスミド中の総変異数に相当する。
【0228】
表13
pFmD8S−1およびpFmD8S−001コンストラクトの作成

【0229】
表14
pFmD8S−2AおよびpFmD8S−003コンストラクトの作成

【0230】
表15
pFmD8S−2BおよびpFmD8S−004コンストラクトの作成

【0231】
表16
pFmD8S−3A、pFmD8S−3BおよびpFmD8S−005コンストラクトの作成

【0232】
表17
pFmD8S−4およびpFmD8S−006コンストラクトの作成

【0233】
各変異誘発ラウンド後、DNA配列決定によって得られたプラスミド中の変異を確認した。さらにプラスミドをY4001株(実施例3)に形質変換して、実施例5で述べられている方法に基づいて活性をアッセイすることで、各変異プラスミド内の各変異EgD8SのΔ8デサチュラーゼ活性と、pFmD8S内の合成のコドン最適化されたEgD8SのΔ8デサチュラーゼ活性とを比較した。これらの機能性分析に基づいて、表11、12、13、14、および15で作り出された得られたプラスミド内の変異EgD8S遺伝子の全ての24の変異は、Δ8デサチュラーゼ活性に影響しないことが実証された(すなわちpFmD8S−M3、pFmD8S−M3,1、pFmD8S−M3,1,2、pFmD8S−1、pFmD8S−001、pFmD8S−M45、pFmD8S−M45,21、pFmD8S−M45,21,16、pFmD8S−2A、pFmD8S−003、pFmD8S−M45,46、pFmD8S−M45,46,16,21、pFmD8S−2B、pFmD8S−004、pFmD8S−M49、pFmD8S−M49,26、pFmD8S−3A、pFmD8S−3B、pFmD8S−005、pFmD8S−M51、pFmD8S−M51,15、pFmD8S−M51,15,14、pFmD8S−4、およびpFmD8S−006)。
【0234】
実施例7
複数親プラスミドの消化およびライゲーションによる複合コンストラクトpFmD8S−5Bの作成
プラスミドpFmD8S−5Bは、EgD8Sの前半内に16個の変異アミノ酸を含有した。このプラスミドは三元ライゲーションによって作り出され、pFmD8S−1からの318bpのNcoI/BglII断片(7個のアミノ酸変異を含有して、M1、M2、M3、およびM8に相当する)、およびpFmD8S−2B(9個のアミノ酸変異を含有して、M16、M18、M21、M45およびM46に相当する)からの954bpのBglII/NotI断片を使用して、pFmD8SのNcoI/NotI断片を置き換えた(実施例4;図6D)。DNA配列は、pFmD8S−5Bが予期された16個のアミノ酸変異をEgD8S内に含有することを確認した。
【0235】
プラスミドpFmD8S−5Bの合成を図7に概略図として示す(図8および9でも同様の形式を使用する)。明確さのために、その中に各変異EgD8Sが包含されるpFmD8Sベクター主鎖は図中に含まれない。その代わり変異EgD8Sに対応する1272個の塩基のみが示される(Δ8デサチュラーゼのコード配列はヌクレオチド塩基2〜1270に対応する)。したがって図7の「変異EgD8S−1」と標識される変異EgD8S断片は、プラスミドpFmD8S−1内に見られる変異EgD8Sに対応し、図7の「変異EgD8S−2B」と標識される変異EgD8S断片は、プラスミドpFmD8S−2B内に見られる変異EgD8Sに対応する。
【0236】
同様に、各変異EgD8S遺伝子に隣接するNcoIおよびNotI制限酵素部位は、図に含まれない。NcoIヌクレオチド認識配列(「CCATGG」)は変異EgD8Sの−2〜+4領域に対応し、「ATG」翻訳開始コドンの「A」位置は+1と称される。NotIヌクレオチド認識配列の一部として認識される最初のヌクレオチドは変異EgD8Sヌクレオチド+1271であり、変異EgD8Sの「TAA」停止コドンは+1269〜+1270に位置する。
【0237】
変異部位は各変異EgD8S上で標識される。星印で示される変異部位が単一アミノ酸変異に相当する(すなわちM2*は、12TからVへの変異に相当する)一方、星印を欠くものは2つの個々のアミノ酸変異に相当する(すなわちM1は4SからAへ、および5KからSへの変異に相当する)。2つの星印で示される変異部位は、三重アミノ酸変異に対応する(すなわちM51**は変異346IからV、347IからLおよび348TからSに相当する)。
【0238】
各プラスミドをY4001株に形質変換し(実施例3)、実施例5で述べられている方法に基づいて活性をアッセイすることで、pFmD8S−5B内の変異EgD8S−5BのΔ8デサチュラーゼ活性と、pFmD8S内の合成のコドン最適化されたEgD8SのΔ8デサチュラーゼ活性とを比較した。この分析に基づいて、pFmD8S−5B中の変異EgD8S−5B内の16個のアミノ酸変異(すなわち4SからA、5KからS、12TからV、16TからK、17TからV、66PからQ、67SからA、108SからL、120LからM、121MからL、125QからH、126MからL、117GからA、118YからF、132VからL、および133LからV、変異部位M1、M2、M3、M8、M16、M18、M21、M45、およびM46に相当する)はΔ8デサチュラーゼ活性に影響を与えないと判定された。
【0239】
実施例8
コンストラクトpFmD8S−5B内の変異EgD8S−5Bの追加的部位特異的変異誘発によるpFmD8S−12、pFmD8S−13、pFmD8S−23、およびpFmD8S−28コンストラクトの作成
pFmD8S−5B(実施例7)を開始テンプレートとして使用して、変異EgD8S−5Bに多重選択的変異を導入するための継続的部位特異的変異誘発連続ラウンドによって、追加的な一連のプラスミドを作り出した。変異EgD8S配列を含んでなる得られたプラスミド、ならびにこれらの変異を作り出すのに使用されたプライマーに関する詳細は、下の表18で述べられる。表18の形式および欄の題名は、上の実施例6で定義されるのと同じである。
【0240】
表18
pFmD8S−12、pFmD8S−13、pFmD8S−23、およびpFmD8S−28コンストラクトの作成

【0241】
(表18続き)

【0242】
各変異誘発ラウンド後、DNA配列決定によって得られたプラスミド中の変異を確認した。さらにプラスミドをY4001株(実施例3)に形質変換して、実施例5で述べられている方法に基づいて活性をアッセイすることで、各変異プラスミド内の各変異EgD8SのΔ8デサチュラーゼ活性と、pFmD8S内の合成のコドン最適化されたEgD8SのΔ8デサチュラーゼ活性とを比較した。これらの機能性分析に基づいて、pFmD8S−12内の変異EgD8S−12中の20個の変異、pFmD8S−13内の変異EgD8S−13中の23個の変異、pFmD8S−23内の変異EgD8S−23中の24個の変異、およびpFmD8S−28内の変異EgD8S−28中の33個の変異は、Δ8デサチュラーゼ活性に影響しないことが実証された。
【0243】
実施例9
複数親プラスミドの消化およびライゲーションによる複合コンストラクトpFmD8S−008、pFmD8S−009、pFmD8S−013、およびpFmD8S−015の作成
プラスミドpFmD8S−008およびpFmD8S−009は、EgD8Sの前半内にそれぞれ20および22個の変異アミノ酸を含有した。これらのプラスミドは、それぞれ図8Aおよび8Bに示すように三元ライゲーションによって作り出された(図の形式は実施例7の図7で述べられているのと同じである)。具体的にはpFmD8S−001からの318bpのNcoI/BglII断片(変異EgD8S−001中に9個のアミノ酸変異を含有して、M1、M2、M3、M8およびM38に相当する)、およびpFmD8S−003(変異EgD8S−003内に11個のアミノ酸変異含有して、M16、M18、M21、M45、M68、およびM69に相当する)またはpFmD8S−004(変異EgD8S−004中に13個のアミノ酸変異を含有して、M16、M18、M21、M45、M46、M68、およびM69に相当する)のいずれかからの954bpのBglII/NotI断片を使用して、pFmD8SのNcoI/NotI断片を置き換え(実施例4;図6D)、pFmD8S−008内の変異EgD8S−008、およびpFmD8S−009内の変異EgD8S−009をそれぞれ作り出した。DNA配列は、予期されたように、変異EgD8S−008が20個のアミノ酸変異、および変異EgD8S−009が22個のアミノ酸変異を含有することを確認した。
【0244】
図9Aおよび9B(図の形式は実施例7の図7で述べられているのと同じである)に示すように、同様の三元ライゲーション戦略を使用して、変異EgD8S−013および変異EgD8S−015内にそれぞれ28個と31個のアミノ酸変異を含有するプラスミドpFmD8S−013およびpFmD8S−015を作り出した。pFmD8S−009(変異EgD8S−009内に22個のアミノ酸変異を含有する)またはpFmD8S−008(変異EgD8S−008内に20個のアミノ酸変異を含有する)いずれかからの639bpのNcoI/XhoI断片と、pFmD8S−23(実施例8、変異EgD8S−23内に6個のアミノ酸変異を含有して、M12、M15、M26、およびM70に相当する)またはpFmD8S−28(実施例8、変異EgD8S−28内に11個のアミノ酸変異を含有して、M12、M15、M26、M51B、M63、およびM70に相当する)のいずれかからの633bpのXhoI/NotI断片とを使用して、pFmD8SのNcoI/NotI断片を置き換え(実施例4;図6D)、それぞれpFmD8S−013およびpFmD8S−015を作り出した。DNA配列は、変異EgD8S−013および変異EgD8S−015が、それぞれ28個のアミノ酸変異および31個のアミノ酸変異を含有することを確認した。
【0245】
これらのプラスミドをY4001株(実施例3)に形質変換して、実施例5で述べられている方法に基づいて活性をアッセイすることで、pFmD8S−008内の変異EgD8S−008、pFmD8S−009内の変異EgD8S−009、pFmD8S−013内の変異EgD8S−013、およびpFmD8S−015内の変異EgD8S−015のΔ8デサチュラーゼ活性と、pFmD8S内の合成のコドン最適化されたEgD8SのΔ8デサチュラーゼ活性とを比較した。これらの機能性分析に基づいて、pFmD8S−008内の変異EgD8S−008中の20個の変異(すなわち4SからA、5KからS、12TからV、16TからK、17TからV、66PからQ、67SからA、108SからL、120LからM、121MからL、125QからH、126MからL、54AからG、55FからY、117GからA、118YからF、162LからV、163VからL、170GからA、および171LからV、変異部位M1、M2、M3、M8、M16、M18、M21、M38、M45、M68、およびM69に相当する)、pFmD8S−009内の変異EgD8S−009中の22個の変異(すなわち4SからA、5KからS、12TからV、16TからK、17TからV、66PからQ、67SからA、108SからL、120LからM、121MからL、125QからH、126MからL、54AからG、55FからY、117GからA、118YからF、132VからL、133LからV、162LからV、163VからL、170GからA、および171LからV、変異部位M1、M2、M3、M8、M16、M18、M21、M38、M45、M46、M68、およびM69に相当する)、pFmD8S−013内の変異EgD8S−013中の28個の変異(すなわち4SからA、5KからS、12TからV、16TからK、17TからV、66PからQ、67SからA、407AからS、408VからQ、422LからQ、108SからL、120LからM、121MからL、125QからH、126MからL、293LからM、54AからG、55FからY、117GからA、118YからF、132VからL、133LからV、162LからV、163VからL、170GからA、171LからV、418AからG、および419GからA、変異部位M1、M2、M3、M8、M12、M15、M16、M18、M21、M26、M38、M45、M46、M68、M69、M70に相当する)、またはpFmD8S−015内の変異EgD8S−015中の31個の変異(すなわち4SからA、5KからS、12TからV、16TからK、17TからV、66PからQ、67SからA、407AからS、408VからQ、422LからQ、108SからL、120LからM、121MからL、125QからH、126MからL、293LからM、54AからG、55FからY、117GからA、118YからF、346IからV、347IからL、348TからS、279TからL、280LからT、162LからV、163VからL、170GからA、171LからV、418AからG、および419GからA、変異部位M1、M2、M3、M8、M12、M15、M16、M18、M21、M26、M38、M45、M51B、M63、M68、M69、M70に相当する)によって、Δ8デサチュラーゼ活性が影響されないことが実証された。
【0246】
図10は、EgD8S(配列番号10)、変異EgD8S−23(配列番号4;実施例8)、変異EgD8S−013(配列番号6;実施例9)、および変異EgD8S−015(配列番号8;実施例9)のアラインメントを示す。使用したアラインメント法は、「Clustal Wアラインメント法」に対応する。
【0247】
実施例10
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ゲノムへの組み込みに際しての合成のコドン最適化されたEgD8Sおよびその変異体間のΔ8デサチュラーゼ活性の比較
この実施例は、pFmD8S−23、pFmD8S−013、およびpFmD8S−015内に含まれるEgD8Sとその変異体のΔ8デサチュラーゼ活性の定量分析について述べている。この比較は、EgD8S(またはその変異体)を含んでなる各キメラ遺伝子をpKO2UFkF2ベクター主鎖に挿入することを要した。(プラスミドの組み込みはゲノムのその他の部位へのランダム組み込みを通じることもできるが)具体的にはpKO2UFkF2は、この遺伝子座への組み込みを標的とするようにデザインされた、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Δ12デサチュラーゼ遺伝子の5’および3’部分を含んでなった。したがってヤロウィア(Yarrowia)ゲノム(すなわち1コピー)中における合成のコドン最適化されたEgD8S、変異EgD8S−023、変異EgD8S−013、および変異EgD8S−015を含有するキメラ遺伝子の活性は、プラスミド発現に際して(すなわち1〜3コピーとしてpFmD8中での発現を通じて)得られ前の実施例で報告されたΔ8デサチュラーゼ活性レベルとは対照的に、ヤロウィア(Yarrowia)ゲノムへの組み込みに際してより適正に比較できた。
【0248】
pKO2UFkF2の構成要素は、下の表19で述べらるとおりである。
【0249】
表19
プラスミドpKO2UFkF2(配列番号165)の構成要素

【0250】
最初にpFmD8SからのSwaI/NotI断片(キメラFBAINm::EgD8S遺伝子を含んでなり、EgD8Sは図6D中で「D8−補正」として同定される)を使用して、pKO2UFkF2のSwaI/NotI断片(キメラFBAINm::F.D12遺伝子を含んでなる)を置き換えて、コンストラクトpKO2UFm8(図11A)を作り出した。同一方法を使用して、pKO2UFkF2のSwaI/NotI断片をpFmD8S−23、pFmD8S−013、およびpFmD8S−015のSwaI/NotI断片でそれぞれ置き換え、それによってコンストラクトpKO2UFm8−23、pKO2UFm8−013、およびpKO2UFm8−015をそれぞれ作り出した。したがって合成のコドン最適化されたEgD8S、変異EgD8S−023、変異EgD8S−013、および変異EgD8S−015は、それぞれFBAINmプロモーターおよびPex20ターミネーターの制御下にある。
【0251】
一般方法に従って、プラスミドpKO2UFm8、pKO2UFm8−23、pKO2UFm8−013、およびpKO2UFm8−015をAscI/SphIで消化し、次に個々にY4001株の形質転換のために使用した。形質転換に続いて、細胞をMMプレート上に播種して、30℃に2〜3日間保った。
【0252】
各形質転換から合計6つの形質転換体を拾って、MMプレート上に再度画線培養した。ひとたび成長したら、これらの株を30℃の液体MMに個々に接種して、250rpm/分で振盪しながら1日間成長させた。細胞を遠心分離によって収集し、脂質を抽出してエステル交換により脂肪酸メチルエステルを調製し、引き続いてHewlett−Packard 6890 GCで分析した。各Δ8デサチュラーゼのΔ8デサチュラーゼ活性を下の表20に示す。変換効率は、実施例5で述べられているように計算した。
【0253】
表20
EgD8S中Δ8デサチュラーゼ活性のおよびその変異

【0254】
特定の各変異EgD8Sについて観察される異なる変換効率は、ヤロウィア(Yarrowia)ゲノム中における、各遺伝子組み込みのそれぞれの位置に基づく、「位置効果」に起因してもよい。いずれにせよ結果は、変異EgD8S−23(配列番号4)、変異EgD8S−013(配列番号6)、および変異EgD8S−015(配列番号8)を含んでなる形質転換体のいくつかが、合成のコドン最適化EgD8S(配列番号10)と比較して、少なくとも機能的に同等の(または増大した)Δ8デサチュラーゼ活性を有することを実証した。
【0255】
実施例11
総脂質の約10〜13.6%のDGLAを産生するヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y4031、Y4032、およびY4033株の作成
本実施例は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y4001U(実施例3)に由来して、総脂質に対して10〜3.6%のDGLA(C20:3)を産生できる、Y4031、Y4032、およびY4033株の構築について述べる。これらの株は改変されて、本発明の変異Δ8デサチュラーゼと、Δ9エロンガーゼとの発現を通じて、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路を発現した。
【0256】
より具体的にはコンストラクトpKO2UF8289(図11B;配列番号181)を作り出して、Y4001U株中のヤロウィア(Yarrowia)ゲノムのΔ12遺伝子座に、4つのキメラ遺伝子(1つのΔ12デサチュラーゼ、変異EgD8−23の2つのコピー、および1つのΔ9エロンガーゼを含んでなる)のクラスターを組み込んだ。コンストラクトpKO2UF8289は次の構成要素を含有した。
【0257】
表21
プラスミドpKO2UF8289(配列番号181)の説明

【0258】
(表21続き)

【0259】
一般方法に従って、プラスミドpKO2UF8289をAscI/SphIで消化し、次にY.リポリティカ(lipolytica)Y4001U株の形質転換(実施例3)のために使用した。形質転換体細胞をMMLeu培養プレート上に播種して、30℃に2〜3日間保った。コロニーを拾ってMMLeu選択プレート上に30℃で2日間画線培養した。次にこれらの細胞を30℃の液体MMLeuに接種して、250rpm/分で2日間振盪した。遠心分離によって細胞を収集して脂質を抽出し、脂肪酸メチルエステルをエステル交換によって調製し、引き続いてHewlett−Packard 6890 GCで分析した。
【0260】
GC分析は、pKO2UF8289の4つのキメラ遺伝子を含有する形質転換体中に、DGLAの存在を示したが、ヤロウィア(Yarrowia)Y4001U対照株中には示さなかった。選択された12株のほとんどが、総脂質の約4〜8%DGLAを産生する。総脂質の約11.3%、10%、および13.6%のDGLAを産生する3つの株(すなわち#7、#8、および#12株)があり、それらをそれぞれY4031、Y4031、およびY4033株と称した。
【0261】
実施例12
ミドリムシ(Euglena gracilis)からのΔ9エロンガーゼの同定
米国仮特許出願第60/739989号明細書で開示されている本実施例は、ミドリムシ(Euglena gracilis)(配列番号175および176)からのΔ9エロンガーゼの単離について述べている。
【0262】
ミドリムシ(Euglena gracilis)の成長条件、脂質プロフィールおよびmRNA単離
ミドリムシ(Euglena gracilis)は、ミシガン州立大学(East Lansing,MI)のRichard Triemer博士の研究室から得られた。500mLガラス瓶内の250mLのミドリムシ(Euglena gracilis)(Eg)培地に、10mLの活発に成長する培養物から1mLのアリコートを移した。Eg培地は、970mLの水中で、1gの酢酸ナトリウム、1gのビーフエキス(U126−01、DIFCO Laboratories、Detroit,MI)、2gのバクト(登録商標)トリプトン(0123−17−3、Difco Laboratories)、2gのバクト(登録商標)酵母抽出物(0127−17−9、Difco Laboratories)を合わせて作成した。濾過滅菌後、30mLの土壌水上清(15−3790、Carolina Biological Supply Company、Burlington,NC)を無菌的に添加して、最終Eg培地を得た。ミドリムシ(Euglena gracilis)培養を23℃において16時間の明期、8時間の暗期のサイクルで撹拌せずに2週間にわたり成長させた。
【0263】
2週間後、脂質分析のために10mLの培養を取り除いて1,800×gで5分間遠心分離した。ペレットを水で1回洗浄し、再度遠心分離した。得られたペレットを真空下で5分間乾燥させ、100μLの水酸化トリメチルスルホニウム(TMSH)に再懸濁して、室温で振盪しながら15分間インキュベートした。その後0.5mLのヘキサンを添加して、バイアルを室温で振盪しながら15分間インキュベートした。Omegawax 320溶融石英キャピラリーカラム(Supelco Inc.、カタログ番号24152)を装着したHewlett−Packard 6890ガスクロマトグラフを使用して、脂肪酸メチルエステル(5μLヘキサン層からの注入)を分離し定量化した。220℃を2.7分間保持し、20℃/分で240℃に増大させ、次にさらに2.3分間保持するように、オーブン温度をプログラムした。キャリアガスはWhatman水素発生装置によって供給された。滞留時間を標準市販メチルエステル(Nu−Chek Prep,Inc.カタログ番号U−99−A)のそれと比較した。
【0264】
残る2週間培養(240mL)を1,800×gで10分間遠心分離してペレット化した。水で1回洗浄し、再度遠心分離した。RNA STAT−60(商標)試薬(TEL−TEST,Inc.、Friendswood,TX)を使用して、提供された製造業者のプロトコール(5mLの試薬を使用して、RNAを0.5mLの水に溶解する)に従って、得られたペレットから全RNAを抽出した。このようにして、1mgの総RNA(2mg/mL)がペレットから得られた。mRNA精製キット(Amersham Biosciences、Piscataway,NJ)を使用して、提供された製造業者のプロトコールに従って1mgの総RNAからmRNAを単離した。このようにして、85μgのmRNAが得られた。
【0265】
ミドリムシ(Euglena gracilis)cDNA合成、ライブラリーの構築および配列決定
Cloneminer(商標)cDNAライブラリー構築キット(カタログ番号18249−029、Invitrogen Corporation、Carlsbad,CA)を使用して、提供される製造業者のプロトコール(バージョンB、25−0608)をに従って、cDNAライブラリーを作り出した。非放射性標識法を使用して、ビオチン−attB2−オリゴ(dT)プライマーを使用して(上述の)3.2μgのmRNAからcDNAを合成した。第1および第2のストランド合成後に、attB1アダプターを付加し、ライゲートしてカラムクロマトグラフィーを用いてcDNAをサイズ分画した。画分7および8からのDNA(サイズ範囲約800〜1500bp)を濃縮し、pDONR(商標)222に遺伝子組み換えして、大腸菌(E.coli)ElectroMAX(商標)DH10B(商標)T1ファージ−抵抗性細胞(Invitrogen Corporation)に形質変換した。ミドリムシ(Euglena gracilis)ライブラリーをeeg1cと命名した。
【0266】
配列決定のために、最初にクローンを384−ウェル凍結培地プレート内で成長/凍結された保存グリセロール培養物から回収し、無菌384ピンレプリケーター(Genetix、Boston,MA)を用いて、LB+75μg/mLカナマイシン(複製プレート)を含有する384−ウェルマイクロタイタープレート内に複製した。次にTempliphi DNA配列決定テンプレート増幅キット法(Amersham Biosciences)を使用して、製造業者のプロトコールに従ってプラスミドを単離した。簡単に述べるとTempliphi法は、等温ローリングサークル増幅によって、バクテリオファージφ29DNAポリメラーゼを使用して、環状一本鎖または二本鎖DNAを増幅する(Deanら、Genome Res.、11:1095〜1099頁(2001年);Nelsonら、Biotechniques,32:S44〜S47頁(2002年))。37℃で20時間成長させた後、複製プレートからの細胞を5μLの希釈緩衝液に添加して95℃で3分間変性させ、部分的に細胞を溶解して、変性テンプレートを放出する。次にTempliphiプレミックス(5μL)を各サンプルに添加して、得られた反応混合物を30℃で16時間、次に65℃で10分間インキュベートして、φ29DNAポリメラーゼ活性を不活性化した。増幅サンプルを蒸留水中で1:3に希釈した後に、PicoGreen(登録商標)dsDNA定量化試薬(分子プローブ)を用いて、DNA定量化を実施した。
【0267】
次に増幅産物を95℃で10分間変性させ、M13F汎用プライマー(配列番号193)、およびABI BigDyeバージョン3.1 Prism配列決定キットを使用して、384−ウェルプレート内で末端配列決定した。配列決定反応のために、100〜200ngのテンプレートおよび6.4pmolのプライマーを使用して、次の反応条件を25回繰り返した。96℃で10秒間、50℃で5秒間、および60℃で4分間。エタノールベースのクリーンアップ後、Perkin−Elmer ABI 3730xl自動化配列決定装置上で、サイクル配列決定反応生成物を分解して検出した。
【0268】
ミドリムシ(Euglena gracilis)cDNAライブラリーeeg1cからの長鎖多価不飽和脂肪酸エロンガーゼ相同体の同定
BLAST「nr」データベース(全ての非重複GenBankCDS翻訳と、三次元構造Brookhavenタンパク質データバンク、SWISS−PROTタンパク質配列データベースの最新メジャーリリース、EMBLおよびDDBJデータベースに由来する配列とを含んでなる)に含まれる配列について、類似性のためのBLAST(Basic Local Alignmant Search Tool);Altschulら、J.Mol.Biol.215:403−410頁(1993年))検索を行って、長鎖多価不飽和脂肪酸エロンガーゼ相同体(LC−PUFA ELO相同体またはΔ9エロンガーゼ)をコードするcDNAクローンを同定した。国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)によって提供されるBLASTNアルゴリズムを使用して、「nr」データベース中に含まれる全ての公的に入手可能なDNA配列との類似性について、上から得られたミドリムシ(Euglena gracilis)のcDNA配列を分析した。DNA配列を全ての読み枠内で翻訳し、NCBIによって提供されるBLASTXアルゴリズム(GishおよびStates、Nat.Genet.、3:266〜272頁(1993年))を使用して、「nr」データベース中に含まれる全ての公的に入手可能なタンパク質配列との類似性について比較した。便宜上、BLASTによって計算される、cDNA配列と検索されたデータベース中に含まれる配列との単なる偶然によるマッチを観察するP−値(確率)は、ここで「pLog」値として報告され、報告されたP−値の対数の負数に相当する。したがってpLog値が大きいほど、cDNA配列とBLAST「hit」が相同的なタンパク質に相当する可能性が大きくなる。
【0269】
クローンeeg1c.pk001.n5.fからのヌクレオチド配列を使用したBLASTX検索は、cDNAによってコードされるタンパク質と、イソクリシス・ガルバナ(Isochrysis galbana)からの長鎖PUFAエロンガーゼ(配列番号173)(GenBank登録番号AAL37626(GI17226123)、遺伝子座AAL37626、CDSAF390174;Qiら、FEBS Lett.510(3):159〜165頁(2002年))との類似性を明らかにした。クローンeeg1c.pk001.n5.fからのcDNA挿入断片の一部の配列を配列番号194に示す(cDNA挿入断片の5’末端)。上述のようにして、しかしpoly(A)tail−プライムドWobbleTオリゴヌクレオチドを使用して、eeg1c.pk001.n5.1のcDNA挿入断片の3’末端から追加的配列を得た。簡単に述べると、WobbleTプライマーは、cDNAクローンの3’末端の配列決定に使用される、21merのpoly(T)A、poly(T)C、およびpoly(T)Gの等モル混合物である。
【0270】
3’末端配列を配列番号195に示す。Sequencher(商標)(バージョン4.2、Gene Codes Corporation、Ann Arbor,MI)を使用して、5’および3’配列の双方をアラインメントし、得られたcDNA配列を配列番号196(1201bp)に示す。eeg1c.pk001.n5.f中のcDNAからのコード配列の配列決定、および対応する推定されたアミノ酸配列をそれぞれ配列番号175(777bp)および配列番号176(258アミノ酸)に示す。
【0271】
配列番号176に記載のアミノ酸配列をBLASTPによって評価し、イソクリシス・ガルバナ(Isochrysis galbana)配列(配列番号173)に対して38.70(E値2e−39)のpLog値を得た。ミドリムシ(Euglena gracilis)Δ9エロンガーゼは、Jotun Hein法を使用して、イソクリシス・ガルバナ(Isochrysis galbana)Δ9エロンガーゼ配列と39.4%同一である。Jotun Hein法(Hein,J.J.、Meth.Enz.、183:626〜645頁(1990年))によって実施された配列%同一性計算は、ペアワイズアラインメントのためのデフォルトパラメーター(KTUPLE=2)で、LASERGENE(商標)バイオインフォマティクス演算スイートのMegAlign(商標)v6.1プログラム(DNASTAR(商標)Inc.、Madison,WI)を使用して行った。ミドリムシ(Euglena gracilis)Δ9エロンガーゼは、Clustal V法を使用して、イソクリシス・ガルバナ(Isochrysis galbana)Δ9エロンガーゼ配列と31.8%同一である。Clustal V法(Higgins,D.G.およびSharp,P.M.、Comput.Appl.Biosci.、5:151〜153頁(1989年);Higginsら、Comput.Appl.Biosci.、8:189〜191頁(1992年))によって実施した配列%同一性計算は、ペアワイズアラインメントのためのデフォルトパラメーターで(KTUPLE=1、GAP PENALTY=3、WINDOW=5およびDIAGONALS SAVED=5およびGAP LENGTH PENALTY=10)、LASERGENEバイオインフォマティクス演算スイートのMegAlign(商標)v6.1プログラム(DNASTAR Inc.、Madison,WI)を使用して行った。BLASTスコアおよび確率は、ここで配列番号175として述べられている核酸断片が、ミドリムシ(Euglena gracilis)Δ9エロンガーゼ全体をコードすることを示唆する。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)Δ8デサチュラーゼ活性を有して、配列番号10と同一でない配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する、変異ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、または
(b)パート(a)のヌクレオチド配列の補体
を含んでなり、補体およびヌクレオチド配列が同数のヌクレオチドからなって100%相補的である、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項2】
ヌクレオチド配列が配列番号1を含んでなり、配列番号1が配列番号9と同一でない、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項3】
(a)Δ8デサチュラーゼ活性を有して、配列番号10と同一でない配列番号198に記載のアミノ酸配列を有する、変異ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、または
(b)パート(a)のヌクレオチド配列の補体
を含んでなり、補体およびヌクレオチド配列が同数のヌクレオチドからなって100%相補的である、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項4】
ヌクレオチド配列が、配列番号9と同一でない配列番号197を含んでなる、請求項3に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項5】
Δ8デサチュラーゼ活性を有する、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド。
【請求項6】
Δ8デサチュラーゼ活性を有する、請求項3に記載の単離されたポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド。
【請求項7】
Δ8デサチュラーゼ活性が、配列番号10に記載のポリペプチドのΔ8デサチュラーゼ活性と少なくとも機能的にほぼ同等である、請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項8】
Δ8デサチュラーゼ活性が、配列番号10に記載のポリペプチドのΔ8デサチュラーゼ活性と少なくとも機能的にほぼ同等である、請求項6に記載のポリペプチド。
【請求項9】
少なくとも1つの制御配列と作動的に連結する、請求項1または3のいずれか一項に記載の単離されたポリヌクレオチドを含んでなる組み換えコンストラクト。
【請求項10】
請求項1または請求項3のいずれかに記載の単離されたポリヌクレオチドを含んでなる細胞。
【請求項11】
前記細胞が酵母である、請求項10に記載の細胞。
【請求項12】
酵母が、その乾燥細胞重量の少なくとも約25%を油として産生する油性酵母である、請求項11に記載の細胞。
【請求項13】
油性酵母が、ヤロウィア(Yarrowia)、カンジダ(Candida)、ロドトルラ(Rhodotorula)、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、トリコスポロン(Trichosporon)、およびリポマイセス(Lipomyces)からなる群から選択される、請求項12に記載の細胞。
【請求項14】
(a)請求項10に記載の酵母細胞を提供するステップと、
(b)長鎖多価不飽和脂肪酸が生成される条件下で(a)の酵母細胞を成長させるステップと
を含んでなる、酵母細胞中で長鎖多価不飽和脂肪酸を製造する方法。
【請求項15】
酵母が、その乾燥細胞重量の少なくとも約25%を油として産生する油性酵母である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
酵母がヤロウィア(Yarrowia)種である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項12に記載の酵母から得られる微生物油。
【請求項18】
a)請求項1または請求項3に記載のΔ8デサチュラーゼポリペプチドをコードして、少なくとも1つの制御配列と作動的に連結する、単離されたポリヌクレオチドを含んでなる第1の組み換えDNAコンストラクト、および
b)少なくとも1つの制御配列と作動的に連結する単離されたポリヌクレオチドを含んでなり、ポリペプチドをコードするコンストラクトが、Δ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ9エロンガーゼ、C14/16エロンガーゼ、C16/18エロンガーゼ、C18/20エロンガーゼ、およびC20/22エロンガーゼからなる群から選択される、少なくとも1つの第2の組み換えDNAコンストラクト
を含んでなる、その乾燥細胞重量の少なくとも約25%を油として産生する油性酵母。
【請求項19】
ヤロウィア(Yarrowia)、カンジダ(Candida)、ロドトルラ(Rhodotorula)、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、トリコスポロン(Trichosporon)、およびリポマイセス(Lipomyces)からなる群から選択される、請求項18に記載の酵母。
【請求項20】
酵母細胞がヤロウィア(Yarrowia)種であり、油がアラキドン酸、エイコサジエン酸、エイコサペンタエン酸、エイコサテトラエン酸、エイコサトリエン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、ドコサペンタエン酸、およびドコサヘキサエン酸からなる群から選択される長鎖多価不飽和脂肪酸を含んでなる、請求項19に記載の酵母。
【請求項21】
第1の組み換えDNAコンストラクトが、Δ8デサチュラーゼポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでなり、配列番号2および配列番号198からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項18に記載の油性酵母。
【請求項22】
a)(i)Δ8デサチュラーゼポリペプチドをコードして、配列番号10と同一でない配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する組み換えコンストラクト、および
(ii)エイコサジエン酸源
を含んでなる、油性酵母を提供するステップと、
b)Δ8デサチュラーゼポリペプチドをコードする組み換えコンストラクトが発現して、エイコサジエン酸がジホモ−γ−リノール酸に変換される条件下で、ステップ(a)の酵母を成長させるステップと、
c)場合によりステップ(b)のジホモ−γ−リノール酸を回収するステップと
を含んでなる、ジホモ−γ−リノール酸を生成する方法。
【請求項23】
a)(i)Δ8デサチュラーゼポリペプチドをコードして、配列番号10と同一でない配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する組み換えコンストラクト、および
(ii)エイコサトリエン酸源
を含んでなる、油性酵母を提供するステップと、
b)Δ8デサチュラーゼポリペプチドをコードする組み換えコンストラクトが発現して、エイコサトリエン酸がエイコサテトラエン酸に変換される条件下で、ステップ(a)の酵母を成長させるステップと、
c)場合によりステップ(b)のエイコサテトラエン酸を回収するステップと
を含んでなる、エイコサテトラエン酸を生成する方法。
【請求項24】
a)i)少なくとも1つの制御配列と作動的に連結する請求項1または請求項3のいずれかに記載の単離されたポリヌクレオチドを含んでなる第1の組み換えDNAコンストラクト、および
ii)少なくとも1つの制御配列と作動的に連結するΔ9エロンガーゼポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチドを含んでなる少なくとも1つの第2の組み換えDNAコンストラクト
を含んでなる、酵母細胞を提供するステップと、
b)(a)の酵母細胞にリノレン酸源を提供するステップと、
c)ジホモ−γ−リノール酸が形成される条件下で(b)の酵母細胞を成長させるステップと
を含んでなる、ジホモ−γ−リノール酸を生成する方法。

【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【公表番号】特表2010−512146(P2010−512146A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540294(P2009−540294)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/025001
【国際公開番号】WO2008/073271
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】