説明

標的化リポゾーム遺伝子送達

【課題】本発明は、予め選択した細胞型に対して標的化されたリポゾームを介する治療用分子の全身的送達に関して、細胞標的遺伝子の伝達およびヒト癌の遺伝子治療のための組成物および方法を提供することを目的とする。
【解決手段】細胞標的用リガンド、リポゾームおよび治療用分子の複合体を包含する、宿主動物内の標的細胞へ治療用分子を全身的に送達するためのベクターを提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本発明は、仮出願番号60/066,188(1997年11月19日出願)および60/083,175(1998年4月27日出願)に関連する。
本発明は一般的に、予め選択した細胞型に対して標的化されたリポゾーム複合体を介する治療用分子の全身的送達に関する。さらに具体的には、本発明は、細胞標的遺伝子の導入およびヒト癌の遺伝子治療のための組成物および方法を提供する。この方法では、治療用分子がリガンド/リポゾーム複合体を介して標的癌細胞に送達される。細胞増殖疾患(癌など)を処置すると、放射線や化学療法の効果が実質的に改善される。
【背景技術】
【0002】
(関連技術の記載)
癌治療の理想は、腫瘍表現型の原因である細胞経路を選択的に標的し、正常な細胞には非毒性なものであろう。現在のところ、治療の理想は、理想のままである。遺伝子治療およびアンチセンス分子を含む癌治療は実質的に有望であるが、この可能性を実現するために、取り組むべき多くの問題点がある。おそらく癌および他の疾患の高分子治療に関する問題点のなかで重要なのは、治療用分子を必要とされる体内部位へ効率的に送達することである。
【0003】
癌治療のための様々な核酸送達システム(“ベクター”)は、ウイルスおよびリポゾームを含む他のものにより評価されてきた。ヒト癌の遺伝子治療に理想的なベクターは、全身投与され得、腫瘍が体内のどこに発生しようと、特異的にかつ効率的に腫瘍細胞を標的し得るものである。ウイルス性ベクター法は、高いDNA導入効率を示すが、いくつかの領域において欠点がある。ウイルスによる方法の限界は、標的能力の欠如と、免疫原、細胞変性原または組換え原となり得る残留ウイルス性成分の存在に関係している。
【0004】
ウイルス性ベクターの主な欠点は、癌細胞特異性がないことである。腫瘍標的能力のないウイルス性ベクターは、転移性疾患に到達する能力がないので、使用上、直接局所送達に限定される。転移は大部分の癌患者にとって最大の死亡原因である。
【0005】
達成可能な高い力価および細胞親和性は、遺伝子治療および遺伝子導入送達ベクターとしてウイルスを魅力的にするが、いくつかの非常に大きい欠点がある。感染に対する新しい標的を有する新規ウイルスの製造が、文献に記載されているが、これらのベクターの問題は、ウイルスを高い力価にまで生育する必要性である。結果として、実質的な関心は、遺伝子導入および遺伝子治療における使用を含む治療用分子の送達を目的として、非ウイルス性ベクターに向けられた。
【0006】
開発が進められたのは、ヒトのインビボ治療のための遺伝子の非ウイルス性医薬製剤、特に陽イオン性リポゾーム仲介遺伝子伝達システムである。陽イオン性リポゾームは、陽性荷電した脂質二層から構成され、生じた複合体が正味陽性電荷を有するように、脂質とDNAを単に混合することにより、露出した陰性荷電のDNAに複合され得る。複合体は、比較的高いトランスフェクション効率で、細胞と容易に結合し、細胞に取り込まれる。DNA送達にとって、陽性リポゾームを多能的で魅力的にする特徴には:製造の簡単性、大量のDNAを複合する能力、DNAまたはRNAのいかなる型およびサイズにも使用できる多能性、多くの異なる型の細胞(非分裂細胞を含む)を形質移入する能力、および免疫原性または生物障害性の欠如がある。リポゾームによる方法は、遺伝子送達にとってウイルス法に優れる多くの利点を提供する。最も有意義には、リポゾームは自己複製可能な感染性物質ではないので、新種の感染性ヒト病原体となる危険性がない。さらに、陽性リポゾームは、インビボでの遺伝子送達において、安全で多少効率的であることが示された。リポゾームは感染性物質ではないので、簡単な混合で製造することができる。さらに、陽性リポゾームは、インビボでの遺伝子送達ににおいて、安全で多少効率的であることが示された。臨床試験が、現在、遺伝子送達のための陽性リポゾームを用いて進行中であり、小さな治療用分子(例えば、化学療法剤および抗真菌剤)の送達のためのリポゾームは既に市販されている。
【0007】
陽性リポゾームのひとつの不都合は、腫瘍特異性がなく、ウイルス性ベクターと比べて比較的低いトランスフェクション効率を有することである。しかしながら、リポゾームを通じて癌細胞を標的することは、リポゾームが細胞表面受容体により認識されるリガンドを有するようにリポゾームを修飾することにより達成され得る。受容体仲介エンドサイトーシスは、真核細胞における非常に効率的な内在化経路である。リポゾーム上のリガンドの存在により、細胞表面上の受容体によるリガンドの初期結合を通してDNAが細胞内に浸入することが容易になり、続いて結合複合体の内在化が起こる。一旦、内在化されると、十分なDNAがエンドサイトーシス経路から外れて、細胞核において発現される。
【0008】
現在、癌細胞の外部表面に存在する分子に関しては、実質的な基礎知識がある。表面分子は選択的にリポゾームを腫瘍細胞に標的するのに使用される。なぜならば、腫瘍細胞の外側にある分子は、正常細胞上の分子とは異なるからである。例えば、リポゾームがその表面上にタンパク質トランスフェリン(Tf)を有する場合、リポゾームは高レベルのトランスフェリン受容体を有する癌細胞を標的し得る。
【0009】
リポゾーム標的能力について種々のリガンドについて実験をした。これには、葉酸(フォレート)、DNA合成に必要なビタミンおよびトランスフェリンが含まれる。フォレート受容体およびトランスフェリン受容体の両方のレベルは、卵巣癌、口腔癌、乳癌、前立腺癌および結腸癌を含む、様々な型の癌細胞において高められることが分かっている。このような受容体の存在は、腫瘍細胞の攻撃的または増殖的状態と相互関係を示し得る。フォレート受容体はまた、癌細胞など、急速に分裂する細胞において葉酸が内在化する間、再循環することが示された。さらに、トランスフェリンおよびフォレート接合高分子およびリポゾームは、受容体仲介エンドサイトーシスによる受容体保有腫瘍細胞により特異的に採取されることがわかった。従って、フォレート受容体およびトランスフェリン受容体は、癌の予後腫瘍マーカーとしておよび悪性腫瘍細胞生長の治療における薬剤送達のための潜在的な標的として有用であると考えられている。
【0010】
放射線療法および化学療法の効果が現れないということは、多くの型の癌治療においてこれまでにない医療の必要性があることを示している。しばしば、癌が再発すると、腫瘍は放射線または化学療法剤に対する耐性を増す。これらの治療に感作をもたらす新規成分を癌治療に加えると、広範な臨床適合性が得られる。このような化学/放射線感作が達成され得る一つの方法は、標的された遺伝子治療による。
【0011】
細胞増殖の制御におけるp53の重要な役割は、細胞周期事象の調節とプログラムされた細胞死(アポトーシス)の誘発によるものであることが確立されている。ほとんどの抗癌剤が、アポトーシスを誘発することにより作用するようであり、この経路の阻害またはこの経路における変化は、薬物治療の失敗をまねき得る。従って、p53における異常と細胞毒性癌治療(化学療法および放射線療法の両方)に対する耐性の間における、直接的な関連性が示唆された。また、p53機能の喪失により、いくつかの腫瘍細胞で観察される、抗癌剤に対する交差耐性がもたらされることが示唆された。様々な研究グループによって、変異体p53の存在とマウス線維肉腫における化学療法耐性および乳癌、ヒトの胃癌および食道癌およびB細胞慢性リンパ芽球性白血病からの初代腫瘍培養における化学療法耐性とについて正の相関関係が確立されている。さらに、ある報告によると、アポトーシスによる化学療法敏感性は、変異体p53を運搬する非小細胞肺癌マウス異種移植片におけるwtp53の発現により回復した。
【0012】
多くの重要な細胞経路、特にDNA損傷に対する細胞の反応における腫瘍抑制遺伝子p53の役割は、確立された。これらの経路は、遺伝子転写、DNA修復、遺伝子の安定性、染色体分離および老衰を含むだけでなく、細胞周期事象の調節およびプログラムされた細胞死(アポトーシス)の変調も含む。p53は、DNA損傷を監視する役割からして、“ゲノムの監視者(guardian)”と名づけられた。癌細胞は遺伝子の不安定性によって特徴づけられ、p53における変異が、ほとんど全ての型のヒト癌において非常に高頻度で生じることがわかった。実際、p53遺伝子における量的または質的な変化は、全てのヒト悪性腫瘍の半分以上において何らかの役割を果たすことが示唆されている。最も一般的な型のヒトの腫瘍におけるp53変異の存在は、不十分な臨床予後と関係していることが発見されている。さらに、変異体(mt)p53は、より治癒可能な型の癌のいくつか、例えば、ウィルムス腫瘍、網膜芽腫、精巣癌、神経芽細胞腫および急性リンパ芽球性白血病などにおいて滅多に発見されない。
【0013】
多くの研究において、wtp53の発現が、インビトロおよびマウス異種移植モデルにおいて、種々の悪性腫瘍、例えば前立腺、頭部および頸部、結腸、頚部および肺の腫瘍細胞などの生長を抑制することが報告された。また、p53リポゾーム複合体が、マウスにおけるヒトグリア芽細胞腫およびヒト乳癌異種移植片の生長を部分的に阻害したことが報告された。さらに、Seung et al.は、TNF−αを発現する放射線誘発可能構築体のリポゾーム仲介腫瘍内導入を用いて、イオン化放射線にさらした後の、マウス線維肉腫異種移植片の生長が阻害されたと報告している。しかしながら、p53発現単独では、腫瘍の生長を部分的に阻害することはできるが、定着した腫瘍を長期間除去することはできない。
【0014】
wtp53欠失マウスの正常な成長とp53発現細胞における照射後G遮断の観察により、細胞調節においてwtp53が機能するのは、増殖および成長の間よりもDNA損傷またはストレス後であることが示唆される。多くの従来の抗癌治療(化学療法および放射線)はDNA損傷を誘発し、アポトーシスを誘発することにより作用するようなので、p53経路における変化が薬物の失敗を招くことが考えられる。
【0015】
wtp53機能の欠失はまた、放射線耐性の増加と関係がある。mtp53の存在およびその結果のG遮断の不存在はまた、いくつかのヒトの腫瘍および細胞系における放射線耐性の増加との相関関係があることがわかった。これらには、頭部および頸部、リンパ腫、膀胱、乳房、甲状腺、卵巣および脳の癌といった代表的なヒトの腫瘍細胞系が含まれる。
【0016】
これらの考察に基づいて、腫瘍細胞におけるwtp53機能を修復するための遺伝子治療は、p53依存性細胞周期チェックポイントおよびアポトーシス経路を再確立して、化学的/放射線耐性表現型の逆転を導くはずである。このモデルを用いると、化学療法敏感性は、アポトーシスと共に、mtp53を運搬する非小細胞肺癌マウス異種移植片におけるwtp53の発現により回復した。
【0017】
p53ヌル肺腫瘍細胞系H1299およびT98Gグリア芽細胞腫細胞を含む異種移植片の化学的敏感性、およびシスプラチンに対するWiDr結腸癌異種移植片の敏感性が証明された。ドキソルビシンまたはマイトマイシンCによる細胞死滅の増加はまた、wtp53のアデノウイルス性形質導入によりSK−Br−3乳房腫瘍細胞において見られた。しかしながら、いくつかの相反する報告からすると、p53発現と化学療法耐性の関係は、組織または細胞の型特異的要因を有する。アデノウイルス性ベクターによるwtp53のトランスフェクションはまた、卵巣および結腸−直腸の腫瘍細胞を放射線に対して敏感にすることがわかった。また、アデノウイルス仲介wtp53送達は、放射線耐性の頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)の腫瘍系における機能的アポトーシスを修復し、インビトロでこれらの細胞の放射線敏感性をもたらした。より有意義には、腫瘍内に注入されたアデノ−wtp53および放射線の組合せは、定着したSCCHN異種移植腫瘍を完全かつ長期間退縮した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、例えば、Roth et al.(米国特許第5,747,469)に開示されているような、遺伝子治療に関する治療用分子の送達のためのウイルス性ベクターの従来の使用を変える。これら現在使用されている手段は、局所送達という限定された能力しか有しない。腫瘍内送達に対する適合性からして、現存手段は、初期腫瘍塊内の全細胞に到達する上で不適切であるだけでなく、転移性疾患の部位に到達し得ないこともわかった。
【課題を解決するための手段】
【0019】
(発明の概要)
ひとつの態様で、本発明は、治療用分子の標的細胞型へのインビトロおよびインビボ送達のために、細胞標的用リガンド/リポゾーム/治療用分子の複合体を提供する。複合体は、治療用分子を標的細胞に送達するための送達担体(ベクター)として有用である。複合体は、治療用分子が治療用タンパク質をコードする核酸などであるとき、遺伝子伝達および遺伝子治療を行うためのベクターとして有用である。具体的な態様は、フォレートおよびトランスフェリン標的陽イオン性リポゾームに関し、治療用分子がフォレートまたはトランスフェリンの受容体含有の動物(ヒトを含む)癌細胞に送達される。
【0020】
別の態様で、本発明は、薬学的に許容される担体中に細胞標的用リガンド/リポゾーム/治療用分子の複合体を含む細胞標的医薬組成物を提供する。組成物は、ヒト患者への静脈内投与用に処方されるのが好ましく、治療用分子の有効な送達でもって優れた効果が得られる。複合体は、静注後に全身に分布するのに適した大きさにつくられる。
【0021】
別の態様において、本発明による治療方法は、薬学的に許容される担体中に細胞標的用リガンド/リポゾーム/治療用分子の複合体を含む細胞標的医薬組成物の治療的有効量を、その必要とする温血動物(ヒトを含む)に投与することを含む。詳細は下記するが、本発明のこの態様の重要な具体化は、wtp53コード核酸を含有するリガンド標的リポゾーム複合体を含む複合体を全身的に投与(例えば、静脈内投与)することである。
【0022】
標的リポゾーム/核酸の複合体を含有する医薬組成物の全身的投与によるヒト遺伝子治療は、本発明の重要な例である。なお、この核酸は、治療用遺伝子を適当な調節配列の制御下に含んでいる。ヒト癌の多くの形態についての遺伝子治療が、wtp53コード核酸を含有するフォレートまたはトランスフェリン標的陽イオン性リポゾームの全身的投与によりなされる。本明細書に示すデーダによると、このような複合体の優れた能力は、インビトロおよびインビボで、(wtp53遺伝子の発現により)原発性および転移性の両方の腫瘍を特異的に標的とし、放射線および/または化学療法に対して腫瘍を敏感にする。
【0023】
本発明のさらに別の態様は、リポゾーム、特にリガンド標的陽イオン性リポゾームの調製についての改善に関する。ここでは、リポゾームの直径が比較的小さく一定である。一定の小さい直径のリポゾームは、静脈内投与後に、血流中を循環し、原発腫瘍および転移腫瘍の両方を標的とする効力を発揮する。
【0024】
本発明は、必要性に対応して、高程度の標的細胞特異性および高い効率性を有しながら治療用分子を全身的に送達する。全身的に投与されると、本発明の複合体は、標的細胞がヒト癌細胞である場合、原発性および転移性の疾患の箇所に到達し、この疾患を特異的に標的とすることができる。
【0025】
このシステムの手段によって、正常な野生型の腫瘍抑制遺伝子p53が送達されると、腫瘍が放射線治療および/または化学療法に対して敏感になることを、本発明者らは実証した。このシステムの高いトランスフェクション効率がこのような高程度の敏感性を与えるので、癌の成長が阻害されるだけでなく、すでに存在する腫瘍および転移が伸張された時間的期間で完全に消失する。いくつかの事例において、この時間は疾患が治癒されたと考えられる期間である。
【0026】
このシステムの優れた効果は、リポゾーム−治療用分子の複合体のリガンド標的化に部分的に基いている。さらに、リポゾーム複合体を含む具体的な陽イオン性および中性のリピドおよびその各々の比率は、治療用分子の取込の効率が特異的な標的細胞型にとって理想的になるように様々に最適化された。リポゾームの治療用分子に対する比率も標的細胞型について最適化された。このようにリポゾーム−治療用分子の複合体を最適化すると、標的リガンドの付加とあいまって、放射線治療または化学療法と併せて投与するとき、実質的に改善された効果が得られる。当業者は、種々の治療用分子を種々の細胞型に送達するために、複合体を最適化できるであろう。
【0027】
本発明の重要な特性は、治療用分子を標的細胞に静脈内全身投与によって送達し得る能力に存する。静注後に特異的な細胞を効率的に標的とし、トランスフェクトせしめる能力が得られるのは、適当な標的リガンドを選択することとリポゾーム中の陽イオン性リピドの中性リピドに対する比率を最適化することとの、開示したような組み合せによる。腫瘍細胞が標的細胞である場合、リガンド−リポゾーム−治療用分子の複合体の全身的送達によって、治療用分子の転移性および原発性の腫瘍への効率的かつ特異的な送達が可能となる。
【0028】
本発明は、いかなる標的用リガンドの使用にも限定されない。リガンドは、標的細胞で異なって発現されるような受容体に対するリガンドであればよい。現在のところ好ましいリガンドは、葉酸(リポゾームのリピドにエステル化された)およびトランスフェリンであって、これらのリガンドの各々が好都合な性質を有する。
【0029】
リポゾーム複合体は、腫瘍における血管を取り囲む約20層の細胞のみを通過できる。wtp53遺伝子治療は部分的に「傍観者(bystander)」作用によって細胞の成長を制御するものと考えられる。この作用はwtp53によるアポトーシスの誘導に関連するのであろう。この「傍観者作用」は、本明細書で述べたインビボ試験の効力を説明するものであり、組み合せ治療の効力をもたらす因子であり得る。しかし、p53のこのプロセスに関与するメカニズムおよび経路については、現時点ではあまりわかっていない。仮定として、なんらかの未知のアポトーシス性信号が小胞中に含有されていて、アポトーシスで生じ、最終的に周りの細胞が食作用を受けるのではなかろうか。あるいは、このアポトーシス性信号が裂隙接合を介して伝達される。これはHSV−TK遺伝子でリン酸化ガンシクロビルの場合に考えられる。抗脈管形成性因子の導入も傍観者作用に寄与する。
【0030】
最近の報告によると、非標的p53−リポゾームの複合体がインビボでヒトのグリア細胞腫・異種移殖片の成長を部分的に阻害した。さらに、Seung ら(Cancer Res. 55, 5561-5565 (1995))によると、TNF−α含有の照射誘導構築体の市販非標的リポゾーム(リポフェクチン)を腫瘍内に導入すると、40gyイオン化照射後にネズミの線維肉腫の異種移殖片成長が阻害された。Xu ら(Human Gene Therapy 8, 177-175 (1997))によると、p53DNA16μgを非標的化リポゾーム複合体に導入すると、乳癌の異種移殖片マウス腫瘍の成長が部分的に阻害された。しかし、本発明のリガンド−指向リポゾーム−p53の複合体は、全身投与に合わせて、標的細胞特異性についての受容能力および高いトランスフェクション効率を有する。本明細書で報告された試験で初めて、腫瘍に対する通常の放射線治療および化学療法と組み合せた送達システムが用いられた。p53遺伝子治療のみでは、腫瘍を長期間完全に消失せしめるのに不充分であるが、リポゾーム仲介P53遺伝子と従来の治療(放射線および/または化学療法)との組み合せは、腫瘍の成長を阻害するだけでなく、その退縮も起す相乗作用を示す。
【0031】
本明細書に記載のインビボ試験によると、全身的LipF−p53またはLipT−p53の遺伝子治療と従来の放射線治療および/または化学療法との組み合せは、いずれか一方のみに比べて顕著に効果的である。臨床的に、大きい腫瘍では65−75Gy、顕微鏡的な疾患では45−50Gyの放射線が、頭部および頚部の癌の治療に普通用いられる。よく知られているように、高量の放射線や化学療法で有害副作用が起きるので、腫瘍の感受性からして従来の処置が低い効果量ですむと、大きい臨床上の利点となる。さらに、放射線の場合、wtp53機能が全身的に回復すると、効果を発揮する放射線処置量が低下し、再発する腫瘍に対して一層の治療が可能となる。
【0032】
wtp53またはmtp53のいずれかを含有するSCCHN細胞系から誘導された異種移殖片腫瘍を使用した報告において、注目すべきは、アデノウイルス・ベクターの腫瘍内投与によるwtp53の導入が腫瘍内p53の状態に関係しない異種移植片の発生を阻害し、アポトーシスを起こすことである。同様に、wtp53をグリア芽細胞腫(RT−2)および乳癌(MCF−7)の異種移植片(内因性wtp53を有す)にリポゾーム仲介により導入すると、これらの腫瘍の成長が部分的に阻害された。この試験から、p53遺伝子状態に関係のないwtp53遺伝子治療の広範な可能性がわかる。
【0033】
本発明に関する研究によると、リガンド−陽イオン性リポゾーム−治療用分子の複合体システムは、インビボでp53遺伝子を種々の型の腫瘍に選択的に送達して、腫瘍の放射線および化学療法に対する感受性を増加する。結果として、全身的wtp53遺伝子治療は、腫瘍−標的用の、比較的安全で効果的なリガンド標的陽イオンリポゾームシステムに仲介され、従来の放射線治療および化学療法と組み合されて、原発性腫瘍に対するだけでなく、最初の治療がうまく行かなかった癌に対しても、さらに効果的な処置を提供する。
【0034】
標的のリポゾーム送達システムは、小さいDNA分子(例えば、アンチセンス・オリゴヌクレオチド)や不活性ウイルス粒子のように大きいものを送達できる。この小さい(アンチセンス)DNA分子の送達で腫瘍細胞の化学療法剤に対する感受性も高まる。このように、本発明の標的リポゾームは治療剤の全身的送達に広く適用される。
【0035】
本発明はまた、リガンド−リポゾーム−治療剤の複合体を製造する方法にも関する。複合体がつくられるのは、トランスフェリン−リポゾームとウイルス粒子とからであり、複合体の表面上に多数のトランスフェリン分子を提供することによって、複合体が血流を通る際の安定性を増大する。さらに、治療分子がウイルス粒子であるとき、トランスフェリン・リポゾームが働いて、ウイルス抗原の遮断によりウイルスの免疫原性を低下する。
【0036】
本発明を用いると、細胞の成長、特に腫瘍細胞の成長に対する制御だけでなく、長期間の腫瘍の退縮についても顕著な作用がある。腫瘍細胞の形成および成長は、形質転換としても知られるが、細胞分裂を調節する能力を無くした細胞、すなわち癌性の細胞の形成と増殖である。多数の種々の型の形質転換細胞が、本発明の方法および組成物の標的となる。例えば、癌腫、肉腫、黒色腫および多種の固形腫瘍などである。悪性細胞成長をするすべての組織が標的となるが、頭頚部癌、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、グリア芽細胞腫、子宮頚部癌、肺癌、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、絨毛癌、黒色腫、鼻芽腫、卵巣癌、消化器癌が好適な標的である。
【0037】
さらに、本発明を用いて、治療用分子の送達に非腫瘍細胞を標的とすることもできる。正常な細胞はすべて標的となし得るが、好ましい正常細胞は、樹状細胞、血管の内皮細胞、肺細胞、乳房細胞、骨髄細胞および肝細胞である。
【0038】
全身的に送達するとき、リガンド標的化、最適化陽イオン性リポゾーム治療用分子複合体は、特異的に腫瘍細胞を標的とし、そして腫瘍細胞を放射線および/または化学療法に顕著に感作し得、その結果、実質的に、増殖阻害および腫瘍退行が生ずることを本明細書で開示する。リガンド標的化、最適化陽イオン性リポゾーム治療用分子複合体は、腫瘍内的(intratumoral)、エーロゾル的、経皮的、内視鏡的、局所的、病巣内的(intralesional)または皮下的投与のような種々の投与経路を介し送達され得る。
【0039】
本発明は、ある態様においては、全身的投与を介する、リガンド標的化、リポゾーム治療用分子複合体の、標的細胞特異的性が高く効率的な送達のための方法および組成物を提供する。治療用分子の例は、遺伝子、高分子量DNA、プラスミドDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、ペプチド、リボザイム、ペプチド核酸、化学試薬、例えば化学療法分子、またはDNA、RNA、ウイルス分子、成長因子サイトカイン、免疫修飾剤および、発現された際、免疫系を刺激もしくは抑制する抗原を提示するタンパク質を含む他のタンパク質を含むがこれらに限られない任意の巨大分子を含む。
【0040】
近年、長期間発現する遺伝子治療ベクターの効果的方法が述べられている(Cooper, et al., 1997; Westphal et al., 1998; Calos, 1996 and 1998)。これらのベクターは、開示リポゾーム送達システムの発現レベルの長期化および/または増加に有用となり得る。幾つかの自律性およびエピソームベクターシステムが、米国特許出願番号5,707,830(Calos, M.P., 13 Jan. 1998);5,674,703(Woo, S., et al., 7 Oct. 1997)および5,624,820(Cooper, M.J., 29 Apr. 1997)(何れも引用によりこの文書に加える)に記載されている。Calosは、哺乳類細胞における自律複製に有用なEpstein Barr ウイルス基礎エピソーム発現ベクターについて述べている。Wooらは、動物細胞における複製用のパピローマウイルス基礎エピソーム発現ベクターについて述べている。Cooperらは、少なくとも1つのパポーベウイルス複製オリジンおよびヒト遺伝子治療における長期エピソーム発現用のパポーベウイルスラージT抗原の変異体を含むベクターについて述べている。
【0041】
治療用分子が、p53遺伝子またはアンチセンスオリゴヌクレオチドであるとき、本発明の複合体を介する送達は、放射線または化学療法剤の何れかに対し悪性細胞または細胞群のような細胞または細胞群を感作する。細胞が複合治療を介して死滅するためである。悪性細胞は、細胞分割周期の調節能を失い、変容または癌様表現型となる細胞として定義される。悪性細胞に加えて、本発明を用い死滅し得る細胞には、例えば、良性前立腺肥大細胞のような良性細胞、過剰活性甲状腺細胞(over-active thyroid cell)、脂肪腫細胞(lipoma cell)、ならびに関節炎、狼瘡、重症性筋無力症、扁平上皮化生、形成異常などに含まれる抗体を産生するB細胞のような自己免疫疾患関連細胞を含む。
【0042】
リガンドリポゾーム治療用分子複合体は、投与前に適当な時間、無菌状態で調製され得る。治療用分子が、他の治療に対する感受性を促進するもの(化学治療または放射線治療に対する癌細胞の感受性を促進するような)である場合、当該他の治療は、複合体の投与前または後、例えば12時間ないし7日の間に実施し得る。化学治療および放射線治療、両方のような治療の組合せを、複合体の投与に加えて用い得る。
【0043】
細胞に適用するときの“接触する”または“さらす”という語は、本明細書では、治療用分子を細胞に送達するか標的細胞と直接並置し、そのため細胞と効果的に相互作用し、細胞または宿主動物に望ましい利点をもたらす過程の説明に使用する。
【0044】
本発明の複合体を、複合治療、例えばヒトの癌処置の要素として用いる場合、それらは、ヒトまたは動物の癌処置に使用する多様な治療と組合せて使用し得る。その治療には、化学治療剤の投与およびガンマ照射、X線、UV照射、マイクロ波、電子線照射などのような放射線治療が含まれる。ドクソルビシン(doxorubicin)、5-フルオロウラシル(5FU)、シスプラチン(CDDP)、ドセタクセル(docetaxel)、ゲムシタブリン(gemcitabine)、パクレタクセル(pacletaxel)、ビンブラスチン、エトポシド(VP-16)、カムプトテシア(camptothecia)、アクチノマイシン-D、ミトキサントロンおよびマイトマイシンCのような化学治療剤を本発明の複合治療に使用し得る。
【0045】
多くの有効な治療用分子タイプが、本発明の細胞標的リガンド/リポゾーム複合体と複合し得る。これらには、高分子量DNA分子(遺伝子)、プラスミドDNA分子、小オリゴヌクレオチド、RNA、リボザイム、ペプチド、免疫修飾剤、ペプチド核酸、ウイルス分子、実質的に既知の化学治療剤および薬剤のような化学試薬、成長因子、サイトカインならびに他のタンパク質を含むがこれらに限られず、そのタンパク質には、発現する際に免疫系を刺激もしくは抑制する当該抗原を生ずるものを含む。さらに、遺伝子治療に加え、本発明は免疫治療または薬剤の標的送達に使用し得る。
【0046】
診断薬もまた、開示複合体を介して標的細胞に送達され得る。多細胞生物へ投与後、インビボで検出可能な薬剤を用い得る。典型的な診断薬にはまた、電子密度分子、磁性共鳴イメージング剤および放射性薬剤を含む。イメージングに有用な放射性核種には、銅、ガリウム、インジウム、レニウムおよびテクネチウムの放射性同位体を含み、64Cu、67Cu、111In、99mTc、67Gaまたは68Gaを含む。Lowら(米国特許番号5,688,488)により開示されたイメージング剤は本発明に有用であり、その特許は引用によりこの文書に加える。
【0047】
治療用分子と複合する本発明のリガンドリポゾーム組成物には、リガンド、陽イオン性リピドおよび中性もしくはヘルパーリピド(helper lipid)が含まれ、中性リピドに対する陽イオン性リピドの割合は約1:(0.5-3)、好ましくは1:(1-2)(モル比)である。リガンドは、例えば化学的結合を介して中性リピドと結合し、陽イオン性リピドおよび中性リピドとモル比約(0.1-20):100、好ましくは(1-10):100、および更に好ましくは(2.5-5):100(リガンド-リピド:全リピド)でそれぞれ混合され得る。リガンドリポゾームを、DNAまたは他の治療用分子と混合し、複合体を形成する。リピドに対するDNAの比は、約1:(0.1-50)、好ましくは約1:(1-24)、および更に好ましくは約1:(6-16)μg/nmolの範囲である。アンチセンスオリゴヌクレオチドの場合、複合体は、リポゾームをオリゴヌクレオチドとモル比約(5-30):1 リピド:オリゴヌクレオチド、好ましくは約(10-25):1、および最も好ましくは約10:1で混合することにより形成される。
【0048】
他に、トランスフェリンの場合のように、リガンドは陽イオン性および中性リピドと簡単に混合し得る。この例では、陽イオン性リポゾームを、中性リピドに対し陽イオン性リピドのモル比、約1:(0.5-3)、好ましくは1:(1-2)で調製する。トランスフェリンを、陽イオン性リポゾームと混合し、次いで、DNAまたは他の治療用分子と混合する。DNA/リピド/Tf比は、それぞれ、約1:(0.1-50):(0.1-100)μg/nmol/μg、好ましくは約1:(5−24):(6-36)、およびより好ましくは約1:(6-12):(8-15)の範囲である。
【0049】
本発明の複合体の他の特有の特徴は、比較的小さいな大きさ(平均直径、約100nm未満、好ましくは約75nm未満、およびより好ましくは約35-75nm(50nm平均))で一様に分散することである。標的腫瘍に到達するためには、複合体は、インビボで遭遇する分解性物質に対し耐性でなければならず、また血管(毛管)壁を通過し、標的組織に到達できなければならない。本発明の複合体は、血清中に存在するエレメントによる崩壊に対し高い耐性を示す。腫瘍中で浸透し得る毛管の大きさは、通常50-75nmであり、直径約75nm未満の複合体は毛管壁を容易に通過し、標的に到達し得る。透過型電子顕微鏡により、LipF-DNAおよびLipT-DNA複合体の特有のタマネギ様重層構造が、大きさが小さく、そのため生ずる、インビトロ、特にインビボで観察される本発明の複合体の高いトランスフェクション効率において重要な役割を担うことが明らかである。
【0050】
リガンドは、標的細胞の表面と結合するが、選択的に、標的細胞において特異に発現するレセプターと結合する任意の分子であり得る。2つの特に好ましいリガンドは、フォレートおよびトランスフェリンである。陽イオン性リピドは任意の適当な陽イオン性リピドであるが、ジオレオイルトリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP)およびDDABが好ましい。中性リピドは任意の中性リピドであり得、好ましい中性リピドは、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)およびコレステロールである。
【0051】
多くのインビトロパラメーターを使用して、組成物のターゲッティングおよび送達効率を測定し得、そのため、特定の複合体が、選択された標的細胞型への望ましい治療用分子の送達を最適化し得る。これらパラメーターには、例えば、β-ガラクトシダーゼまたはルシフェラーゼ遺伝子のようなマーカー遺伝子の発現、送達タンパク質に対する標的細胞の免疫組織化学的染色、送達遺伝子のタンパク質産物の発現のウエスタンブロット分析、送達アンチセンスまたは他の阻害オリゴヌクレオチドに帰する標的遺伝子のダウン-モジュレーションならびに放射線および/または化学治療剤に対する標的細胞の感受性増大を含む。
【0052】
好ましい態様では、p53発現領域がRSVまたはCMVプロモーターのような強力な構成的プロモーター調節下にあると予想される。一般に、特に好ましいプロモーターはサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターである。
【0053】
本発明の方法および組成物は、インビトロまたはインビボの特定細胞または細胞群のターゲッティングに適当である。標的細胞が、温血動物、例えば、頭部および頚部、胸部、前立腺、膵臓および神経膠芽細胞腫の細胞内に位置するとき、リガンドリポゾーム治療用分子複合体は動物に薬理学的に適当な形式で投与される。本明細書中において使用する“薬理学的に許容される剤形”は、動物に投与され得るリガンドリポゾーム治療用分子複合体の製剤および動物に放射する形式、即ち、例えばガンマ照射、X線、UV照射、マイクロ波、電子線照射などで動物の体の部分を照射する方法の両方について言及する。DNA損傷放射線および波の使用は放射線治療の当業者に既知である。
【0054】
本発明はまた、原発性および転移性の両方の癌の処置の、通常、治療を必要とする動物またはヒトに治療上有効なリガンドリポゾーム治療用分子(例えばp53遺伝子)複合体の組合せを投与することを含む処置の改善方法、ならびに放射線または化学療法のような治療を提供する。
【0055】
その複合体は、医薬的に許容される組成物の形式で動物に、通常、全身的に投与される。好ましい態様では、組成物は静脈経路を通して全身的に送達される。しかし、エーロゾル、腫瘍内、病巣内、経皮、内視鏡、局所または皮下のような投与の他経路も使用し得る。
【0056】
本発明の腫瘍細胞特異性および腫瘍ターゲッティング能の程度が高いと、フォレート/トランスフェリンリポゾームβ-Gal遺伝子複合体による全身的送達後のレポーター遺伝子の発現により明示された。β-ガラクトシダーゼ発現が、JSQ-3、DU145およびMDA-MB-435を含む種々のヒト腫瘍細胞の70%以下の異種移植片において示され、その一方、高い増殖性を示す腸管および骨髄を含む正常組織および器官ではトランスフェクションは証明されなかった。本発明の高効率の腫瘍ターゲッティング能は、転移、殊に僅かな細胞による微小転移(micro-metastase)においてさえ、複合体の全身的送達によって特異的にトランスフェクトさていることがわかるこれらの実験でも証明された。
【0057】
本発明の驚くべき成功は、フォレートリポゾームwtp53遺伝子またはトランスフェリンリポゾームwtp53遺伝子の何れかの全身的送達であって、放射線および化学治療の何れかと組合せる送達により、ヌードマウスモデルを使用する試験において深遠な結果が生じることを発見し、示されたことである。高い効率であるこのシステムにより、高程度の放射線に対する感作がJSQ-3およびDU145ヒト異種移植片腫瘍に生じ、癌の増殖阻害のみならず、ある実験では、事前に存在する腫瘍および転移が長期間にわたり完全に取り除かれる。幾つかの場合、この期間(1年以上、疾患なし)により、疾患が治癒したとみなされ得る。ヒト乳癌MDA-MB-435およびヒト膵臓癌PANCIヌードマウス異種移植片腫瘍もまた、フォレートリポゾームwtp53またはトランスフェリンリポゾームwtp53を、ドクソルビシン、シスプラチン、ドセタクセルまたはゲムシタブリンを含む化学治療剤と全身的投与することにより高く感作されることが示された。
【0058】
本明細書中で使用するとき、“トランスフェクション”という語は、本発明のリガンド-リポゾーム複合体を用いる、治療用分子の真核細胞への標的送達、およびレセプター仲介エンドサイトシスのような様々な方法による治療用分子の細胞への導入について述べるのに用いる。標的細胞は、複合体のリガンドにより選択され得、標的細胞の表面において特異に発現するレセプターとリガンドが結合する。
【0059】
本発明の好ましい医薬組成物は、薬理学的に許容される溶液または緩衝液内の、リガンド、陽イオン性-中性リポゾームおよび治療用分子からなる複合体を含むものである。
【0060】
また、更なる本発明の態様は、全身的投与用の治療用組成物中に製剤し得るリガンド-リポゾーム複合体による治療用分子の全身的送達において使用するキットである。本発明のキットは、適当な容器に、リガンド、リポゾームおよび治療用分子の医薬的製剤を別けて通常含める。好ましい態様では、リガンドはフォレートまたはトランスフェリンの何れかであり、リポゾームは陽イオン性および中性のリピドからなり、治療用分子は、CMVプロモーターの調節下wtp53を有する構成、またはアンチセンスオリゴヌクレオチドの何れかとなる。その3成分を無菌条件下混合し、適度な時間内、通常、調製後30分から24時間に患者に投与する。
【0061】
キットの成分は、好ましくは溶液または乾燥粉末として提供される。溶液形で提供される成分は、適当な緩衝液、浸透性調節剤、抗生物質などと共に注射用滅菌水中で製剤される。乾燥粉末として提供される成分は、注射用滅菌水のような適当な溶媒の添加により溶液に再構成し得る。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1Aおよび1Bは、p53のセンスおよびアンチセンスcDNAを有するアデノウイルスシャトルプラスミドpRSVp53、pRSVpRo、pCMVp53およびpCMVpRoを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
好ましい態様の詳細な説明
本発明は、レセプター仲介エンドサイトシスを介して、治療用分子の腫瘍標的送達用のリガンド/陽イオン性リポゾーム送達複合体の全身的投与に使用される。好ましい態様の1つにおいて、リガンド-標的リポゾームを用い、野生型(wt)p53をコードする遺伝子を含む治療用分子を送達する。治療遺伝子は腫瘍細胞を標的とし、腫瘍細胞に効果的に送達され、その結果、多くの腫瘍において欠損している正常のp53遺伝子機能が回復する。この回復は、腫瘍処置能において深遠な効果を有する。他の好ましい態様では、送達される治療用分子は、細胞成長経路の遺伝子を指示するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。これらの遺伝子のダウンモジュレーションは、放射線および化学治療剤に対し腫瘍細胞および異種移植片の感作を生ずる。また他の態様では、“治療用分子”は、未処理のウイルス性ベクター(例えば、治療用核酸を含むアデノウイルスまたはレトロウイルス分子)であり、それは、リガンド/リポゾーム複合体を介して標的細胞へ送達される。
【0064】
他の態様では、本発明は、腫瘍細胞においてwtp53機能を維持しつつ遺伝子治療を行い、化学-/放射線-耐性表現型を逆とし、結果として化学-および/または放射線治療を介する腫瘍処置能を改善する組成物または方法を提供する。
【0065】
本発明は、転移を含む腫瘍細胞を特異的に標的とする全身的送達システム(“複合体”)を提供することによる癌遺伝子治療を実施する新規および改善方法を提供し、より効果的な癌処置物理療法を生ずる。この方法は、リガンドを標的とした陽イオン性リポゾームシステムを用い、腫瘍細胞に治療用分子を送達する。ある好ましい態様では、この治療用分子はwtp53である。リポゾームDNA複合体中に細胞ターゲッティングリガンド(例えば、フォレートまたはトランスフェリンリガンド)が含まれるため、wtp53を効率的におよび特異的に腫瘍細胞にインビボでおよびインビトロで導入するリガンド付随の腫瘍ターゲッティングファセットおよびレセプター仲介エンドサイトシスに利点が生ずる。wtp53機能の回復の結果、通常の放射線および化学-治療に対する感作が増加し、そのため、その効果は増大し、および/または全用量は減少する。
【0066】
例示したリポゾーム組成物は、フォレートと結合(例えば、エステル化)するか(それはフォレートリガンドを提供するため)、または鉄飽和トランスフェリンと単に混合するか何れかである陽イオン性リピドDOTAPおよび紡錘性(fusogenic)中性リピドDOPEに基づく。リピド自身の比、およびリピド:DNA比はインビボ送達および種々の腫瘍細胞型、例えば、腺癌対扁平上皮癌を最適化する。リガンドの添加が、リポゾーム単独と比較した際、高レベルの血清存在下でさえ、腫瘍細胞へのトランスフェクション効率を事実上増加することが、インビトロの試験により示された。この方法によるwtp53のトランスフェクションにより、従来の放射線耐性SCCHN細胞系に実質的な放射線感受性がインビトロで生じた。
【0067】
このシステムのインビボ腫瘍ターゲッティング能を、3種の型の癌--SCCHN、乳癌および前立腺癌においてβ-ガラクトシダーゼレポーター遺伝子を用い評価した。これら試験により、複合体の静脈投与後、腫瘍のみが50ないし70%の効率でトランスフェクトされ、その一方、高増殖性骨髄(highly proliferative bone marrow)および腸陰窩細胞を含む正常な器官および組織では、レポーター遺伝子発現の徴候は見られなかった。リガンド-リポゾームDNA複合体の幾つかは、マクロファージ中で示された。非常に重要なことに、肺、脾臓およびリンパ節中の微小転移でさえ、高効率および特異的トランスフェクションの証明となった。
【0068】
全身的に送達されるリガンド-リポゾームwtp53複合体を、放射線に耐え得るマウス、耐性ヒトSCCHN異種移植片に投与し、その後、放射線治療し、腫瘍を完全に退行させた。前述の腫瘍部分を組織学的に試験すると、正常および瘢痕組織が残っていることのみがみられ、それは肝臓腫瘍細胞ではみられない。これは、リガンド-リポゾームp53複合体のみか、または放射線のみで処置された動物の腫瘍と対照的であった。これらの動物では、幾つかの細胞が死滅することが明らかであった。しかし、肝臓腫瘍細胞のネスト(nest)が残り、これらの動物の腫瘍が再増殖した。著しく、腫瘍の再発が、複合治療を受けた動物では、最後の処置後1年でも見られなかった。同様の結果が、放射線治療および化学治療剤で処置したヒト前立腺腫瘍異種移植片を生ずるマウスで観察され、そして、化学治療剤で処置したヒト乳癌および膵臓癌異種移植片を有するマウスで観察された。したがって、このシステムは、より効果的な形の癌治療を提供するものとみられる。
【0069】
それゆえ、本発明により、腫瘍組織全体(原発性腫瘍塊)への治療用分子の投与をしばしば不能とする、p53のような治療用分子を有するアデノウイルスベクターを局所注入するような、最近の試験的癌治療に重要な改善が示される。局所的送達もまた遠距離転位巣に到達する能力を欠く。本発明により提供される特異的ターゲッティング能もまた、利点である。広く非特異的に取り込まれる治療用分子に伴う副作用を減少するからである。
【0070】
アジュバント治療と組合せて投与するとき、および標的細胞が癌細胞であるとき、標的細胞によるリガンド-リポゾーム治療用分子複合体の取り込みは、これら細胞の増殖速度を減少するばかりか、腫瘍細胞死滅および長期の腫瘍退行を実際に増進させる。本発明の送達システムは、患者の余命を強力に伸ばす。
【0071】
本発明は、ある程度詳細に述べられているけれども、多くの代用型、修飾型および変化型が、本開示を考慮する当業者に明らかとなる。さらに、その代用型、修飾型および変化型は、本発明の本質および範囲であり、定義した請求項に含まれることを目的としている。
【0072】
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を例示するために含まれるものである。
【実施例】
【0073】
実施例1
p53発現ベクターの構成
この実施例ではp53発現ベクターの構成について記載する。使用する方法は、当業者に通常既知のものである。しかし、本発明は任意の特定の発現ベクターに限るものではない。
【0074】
p53のセンスおよびアンチセンスcDNAを有するアデノウイルスシャトルプラスミドpRSVp53、pRSVpRo、pCMVp53およびpCMVpRoを図1に示す。これらプラスミドは、1.7kb XbaI p53cDNA断片をアデノウイルスシャトルベクターにクローニングすることにより構成された。Davidsonら、Experimental Neurobiology 125,258−267(1994)は、当該シャトルベクターの調製を開示する目的で引用によりこの文書に加える。方向は、制限酵素消化により決定し、DNAサイクルシーケンシングにより確認する。プラスミドをE.coli DH5αで増やし、Qiagen Plasmid Mega/Gigaキット(Qiagen)で精製した。精製プラスミドを、A260/A280値が約1.90で分光測光法的に定量した。アガロースゲル(0.8%)電気泳動により、95%以上のプラスミドがスーパーコイルであることを確認した。
【0075】
実施例2
リガンド−リポゾーム−DNA複合体の合成
この実施例は、リガンド−リポゾーム−治療用分子複合体の製造に適当な方法の1つを記載し、ここで、治療用分子はプラスミドDNAである。無水クロロホルム中のジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)15mmolをトリエチルアミン20mmolの存在下に葉酸のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル20mmolと室温で4時間反応させた(Lee,R. J.ら,J. Biol. Chem. 269,3198−3204(1994)を参照、この文献に記載されている内容は、そのような手順を開示する目的で本明細書の一部を構成する)後、PBSで3回洗浄して、クロロホルム中のフォレート−DOPEを得た。薄層クロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール:酢酸、80:20:5)は、95%より多くのDOPE(Rf=0.65−0.70)がフォレート−DOPE(Rf=0.90−0.95)に転換されることを示した。LipF(A)を次のようにして製造した:ジオレオイルトリメチルアンモニウム−プロパン(DOTAP)5μmol、DOPE5μmol、およびフォレート−DOPE0.1μmolのクロロホルム溶液を丸底フラスコ中で一緒に混合して、クロロホルムを減圧下に蒸発させた。そのフラスコに滅菌水10mlを加えて、リピドを縣濁させた後、浴型超音波処理器にて4℃で10分間超音波処理した。LipF(A)の最終濃度は1nmol/μl 総リピドであった。無血清RPMI−1640フォレート不含有培地(Life Technologies, Inc.)中で等量のLipF(A)およびDNAを混合して、度々揺り動かしながら室温で15−30分間インキュベートすることにより、インビトロでの使用のためのLipF(A)−DNA複合体を製造した。DNA遅延アッセイ(DNA retardation assay)は、DNA1μg:LipF(A)8−10nmolの割合で、加えたDNAがほとんど全てリピドと複合することを示した。インビボでの実験の場合には、プラスミドDNA(DNAの総量/マウスに基づいて、HEPES緩衝液 pH7.4にて希釈した)をLipF(A)(水中)とDNA1μg/リピド8−12nmolの割合で混合して、度々揺り動かしながら室温で15−30分間インキュベートした。50% デキストロース溶液を加えて、最終濃度を5% デキストロースとし、倒置により混合して、沈殿の徴候(粒状物質または濁りの存在)を調べた。両方の場合において、LipF(A)−DNA複合体は、トランスフェクション効率の実質的な損失なしに、暗所にて4℃で24時間までは安定であることが見出された。
【0076】
ジオレオイルトリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)およびジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)からなる陽イオン性リポゾーム(Avanti Polar Lipids, Inc.,Alabaster,AL)を上記のようにして製造した。リポゾームの最終濃度は2nmol/ulであった。ホロトランスフェリン(Tf、鉄で飽和されている、Sigma)を5mg/mlで純水に溶解した。変更しつつも、Cheng,P. W.,Human Gene Therapy 7,275−282(1996)(この文献に記載されている内容は、リポゾームの製造を説明する目的で本明細書の一部を構成する)に記載されているようにして、インビトロでの実験用のTf−リポゾーム−DNA複合体を製造した。簡単に言えば、リポゾーム12nmolを無血清EMEM100μl中のTf18mgに加えて、度々揺り動かしながら室温で5−15分間インキュベートした。次いで、この溶液を無血清EMEM100μl中のプラスミドDNA1.2μgと混合して、度々揺り動かしながら室温で15−30分間インキュベートした。製造したTf−リポゾーム(LipT(A)と呼ぶ)−DNA複合体を、製造してから1時間以内に、インビトロでの細胞トランスフェクションに新たに使用したが、同じトランスフェクション効率で少なくとも24時間安定であることが見出された。アガロースゲル電気泳動を使用して、LipT(A)によるDNA遅延を評価した。90%より多くのDNAは、リポゾームに複合することが見出された。インビボでの試験の場合には、リポゾームおよびトランスフェリン(水中)を混合して、度々揺り動かしながら室温で5−15分間インキュベートした。次いで、この溶液をDNA(HEPES緩衝液 pH=7.4中)と混合して、度々揺り動かしながら室温で15−30分間インキュベートした。50% デキストロース溶液を加えて、最終濃度を5% デキストロースとし、倒置により混合して、沈殿の徴候(粒状物質または濁りの存在)を調べた。両方の場合において、LipT(A)−DNA複合体は、トランスフェクション効率の実質的な損失なしに、暗所にて4℃で24時間までは比較的安定であることが見出された。
【0077】
実施例3
X−Gal染色によるフォレート−リポゾームの最適化
この実施例は、頭頸部の扁平上皮癌(SCCHN)に対する本発明のフォレート 陽イオン性リポゾーム(LipF)複合体の最適化を記載する。SCCHN細胞系JSQ−3に関するトランスフェクション効率を最適化するために、プラスミドpSVbにおいてSV40プロモーターにより操作されるE.coli LacZ遺伝子をリポーターとして使用した。トランスフェクション効率をX−Gal染色細胞のパーセントに基づいて計算した。表1に示すように、複合体中のフォレートリガンドの存在は、リポーター遺伝子発現を実質的に増大させた。リガンドが結合していない陽イオン性リポゾーム(Lip(A))は、インビトロでは、JSQ−3において10%−20%のトランスフェクション効率を与えたが、LipF(A)は、60%−70%のβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を発現する細胞を与えた。トランスフェクションより前に、1mM 遊離葉酸を細胞に加えると、細胞上のフォレートレセプターをブロックすることができ、それによって、LipF(A)で観察されるトランスフェクション効率と同様に、トランスフェクション効率が20%まで減少した。これらの結果は、フォレートをリガンドとして使用することが陽イオン性リポゾームのトランスフェクション効率を増大させること、そしてこの効果がフォレートレセプターにより媒介されることを説明している。X−gal染色がβ−ガラクトシダーゼ遺伝子発現の程度を20%以上過小評価し得るという最近の報告に基づいて、リガンドを標的化するリポゾームでのトランスフェクション効率は、上述の70%を実際には上回ると考えられる。
【0078】
【表1】

24ウェルのプレートにおいてフォレート不含有培地中で培養した集密度60%のJSQ−3細胞に、pSVb1.2μgを含むトランスフェクション溶液0.5mlを5時間トランスフェクトした。さらに2日間培養した後、細胞を固定して、X−galで染色した。トランスフェクション効率を青色に染色された細胞のパーセントとして計算した。
** フォレートをトランスフェクション直前に加えた。
【0079】
実施例4
ルシフェラーゼアッセイによるLipT(A)システムの最適化
この実施例は、頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)に対する本発明のトランスフェリン 陽イオン性リポゾーム[LipT]複合体の最適化を記載する。ルシフェラーゼアッセイを使用して、LipT(A)システムをJSQ−3トランスフェクションに対して最適化した。プラスミド pCMVLucにおいてサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターにより操作されるホタルルシフェラーゼ遺伝子をリポーター遺伝子(Promega)として使用した。5×10個のJSQ−3細胞/ウェルを24ウェルのプレートに入れた。24時間後、細胞を、血清を含まないEMEMで1回洗浄し、血清または抗生物質を含まないEMEM0.3mlを各々のウェルに加えた。その細胞に、EMEM0.2ml中に様々な量のプラスミドDNAを1.0μgまで含む、新たに製造したTf−リポゾーム−pCMVLuc(LipT(A)−Luc)複合体を加えた。37℃および5% COで5時間インキュベーションした後、20% ウシ胎児血清および1μg/ml ヒドロコルチゾンを補ったEMEM0.5mlを各々のウェルに加えた。24時間後、細胞をPBSで1回洗浄し、100μl/ウェル 1X リポーター溶解緩衝液(Promega)で溶解して、発現したルシフェラーゼ活性を照度計でのルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)で測定した。各々の測定の間、照度計の読み取り値の相対的光単位(RLU)を、発現したルシフェラーゼの当量に変換するために、組換えホタルルシフェラーゼ(Promega)標準を使用した。Bio−Rad DC タンパク質アッセイキット(Bio−Rad Laboratories)を使用して、細胞ライゼートのタンパク質濃度を測定した。その結果を総タンパク質(mg)あたりのルシフェラーゼ当量(μg)として表わした。JSQ−3細胞に、LipT(A)−pCMVLuc(LipT(A)−Luc)を複合体中の様々なDNA/リピドの割合でトランスフェクトした。トランスフェリンは、陽イオン性リポゾームのトランスフェクション効率を実質的に高めた。最適条件、すなわち、1ug/10nmol/12.5ugでのDNA/リピド/Tfの割合の下、ルシフェラーゼが、12.5±1.1ug/mg 総タンパク質、または1.25% 総タンパク質で、トランスフェリンを含まないリポゾーム単独より7〜10倍多く発現した。
【0080】
実施例5
LipT(A)−pSVbによるJSQ−3細胞のインビトロでのトランスフェクション
この実施例は、実施例3に記載した定量的なβ−ガラクトシダーゼ比色アッセイを使用して、本発明のトランスフェリン−リポゾーム複合体のトランスフェクション効率の増大を説明する。精製β−ガラクトシダーゼ(Boehringer)を標準として使用した。その結果を総タンパク質(mg)あたりのβ−ガラクトシダーゼ当量のミリ単位(mU)として表わした。Tf−リポゾーム−pSVbトランスフェクションの組織化学試験の場合には、24ウェルのプレートにおける集密度60%のJSQ−3細胞に、LipT(A)を含む、またはLipT(A)を含まないpSVb1.2μgを5時間トランスフェクトした。さらに2日間培養した後、細胞を固定して、X−galで染色した。トランスフェクション効率を青色に染色された細胞のパーセンテージとして計算した。定量的なβ−ガラクトシダーゼアッセイにおいて、DNA0.5ug/LipT(A)−pSVbの10個の細胞を最適条件でトランスフェクトしたJSQ−3細胞は、血清無しで15.04±0.60mU/mg β−ガラクトシダーゼの総タンパク質、血清有りで10.95±0.15mU/mgを発現した。組織化学試験において、LipT(A)−pSVbでのトランスフェクションは、70%−80%の細胞がトランスフェクトされる結果となった。トランスフェクションの間の血清の存在は、トランスフェクション効率を僅かに減少させるが、血清有りでも、40−50%の細胞が青色に染色される一方、リガンド無しの陽イオン性リポゾームは、僅か10−20%の効率しか与えなかった。これらの結果は、Tfをリガンドとして使用すると、血清の存在下でさえも、陽イオン性リポゾームのトランスフェクション効率が実質的に増大することを説明した。
【0081】
実施例6
インビボでリガンド−リポゾーム複合体により標的化する選択的な腫瘍および転移
この実施例は、フォレートまたはトランスフェリンが複合したリポゾームの、インビボで腫瘍組織を選択的に標的化する能力を説明する。JSQ−3、MDA−MB−435、またはDU145細胞の皮下注射により、異種移植片を誘発した。2.5×10(JSQ−3)または5×10(DU145)個の細胞を4−6週齢の雌の胸腺欠損ヌード(NCr nu-nu)マウスの尾部より上の背面下部に注射した。1×10個のMDA−MB−435細胞をマウスの乳房脂肪パッドに皮下注射した。転移モデルの場合には、1×10個のJSQ−3またはMDA−MB−435細胞を該動物に尾部静脈経由で静脈内注射した。LipF(A)−pSVbまたはLipF(D)−pSVbを実施例2に記載したようにして製造した。LipF−pSVbまたはpSVbプラスミド単独(5% デキストロース中)をプラスミドDNA25μg/300μl/動物にて尾部静脈経由で静脈内注射した。DNAを注射してから2日および10日後、腫瘍、さらにはまた、マウス臓器を切除し、1mmの切片に切断し、PBSで1回洗浄して、2% ホルムアルデヒド−0.2% グルタルアルデヒドで室温にて4時間固定した。固定した腫瘍切片を各々1時間かけて4回洗浄して、0.1% NP−40(pH 8.5)を加えたX−Gal溶液で37℃にて一晩染色した。染色した腫瘍切片を包埋し、標準的な組織学的手順を使用して薄片に切断し、ヌクレアファースト赤で対比染色した。腫瘍あたり4つの切片を試験して、青色に染色された細胞により示されるβ−ガラクトシダーゼ遺伝子発現を評価した。
【0082】
LipF(A)−pSVbまたはpSVb単独をJSQ−3異種移植片を有するヌードマウスに静脈内注射した。48時間以内に、LipF(A)−pSVbを注射したグループは、インビボでのトランスフェクション効率が約40−50%である腫瘍においてリポーター遺伝子発現を示した。これとは対照的に、pSVbプラスミド単独では、1%未満の腫瘍細胞がβ−ガラクトシダーゼリポーター遺伝子に関して染色された。LipF(A)−pSVbを静脈内投与してから10日後、腫瘍における青色染色のパーセンテージおよび強度が両方とも実質的に減少し、LipF(A)が媒介する全身性トランスフェクションが一過性であることを示す。LipF(A)−pSVbを注射したマウスにおける生体臓器は、青色に染色されているクッパー細胞(肝臓)または塵埃細胞(肺)といったようなマクロファージのみを示したが、肝細胞および肺胞細胞自体は染色されないままであった。腫瘍標的化の選択性も示し、ここで、腫瘍は筋肉を侵していることが見出された。LipF(A)−pSVbを腫瘍のみにトランスフェクトしたが、筋細胞は染色されないままであった。より重要なことには、高度に増殖する骨髄および腸陰窩細胞が明らかにトランスフェクトされなかった。陰窩細胞および骨髄は両方とも、リポーター遺伝子が染色されるという何らかの証拠をほとんど(あるとしても1%未満)示さなかった。骨髄および陰窩細胞におけるLipF(A)−pSVbトランスフェクションの欠如は、標的化が非選択的な細胞増殖効果ではないことを説明するが、腫瘍細胞を標的化するらしい。これは、LipF(A)−pSVb複合体が血流を介して運ばれるので、血管の内皮細胞が最も高濃度のLipF(A)−pSVb複合体にさらされたことにはなるけれども、染色は血管の内皮細胞において明らかではないことによりさらに説明される。加えて、樹状細胞がβ−ガラクトシダーゼ染色を示すとしても、染色は脾臓でのリンパ芽球増殖中心において明らかではなかった。
【0083】
癌の再発および処置における重大な問題は転移である。LipF(A)複合体の、皮下異種移植片から摘出した腫瘍細胞を標的化する能力を試験するために、JSQ−3細胞をヌードマウスに静脈内注射した。注射してから2週間後までに、模擬転移(複数の臓器における腫瘍細胞の島)が形成された。次いで、動物にLipF−pSVbを静脈内注射して、模擬転移をβ−ガラクトシダーゼ発現に関して試験した。広範囲なX−gal染色が胸部リンパ節で見出された転移において見られた。この切片では、転移性腫瘍細胞に取り囲まれた血管(BV)が見出された。腫瘍細胞は、濃くX−gal染色される血管由来の20−25層を示したが、LipF(A)−pSVb複合体が血流を介して運ばれるので、血管の内皮細胞が最も高濃度のLipF(A)−pSVb複合体にさらされたことにはなるけれども、リポーター遺伝子発現は血管の内皮細胞において明らかではなかった。これらの結果は、LipF(A)複合体の腫瘍選択性を確かめて、転移、さらにはまた、原発腫瘍がフォレートを含むリポゾームによって標的化され得ることを説明した。
【0084】
このフォレートが関連する、リポゾームが媒介する送達システムの、SCCHN以外の癌に対する適応性の広さを評価するために、mt p53をも持つ、ヒト乳癌セルライン MDA−MB−435、Hs578T、およびヒト前立腺癌セルライン DU145が含まれる他のヒト腫瘍セルラインの異種移植片でも実験を行った。ここでまた、LipF(A)−pSVbの単回静脈内注射が腫瘍選択性を説明した。高レベルのβ−ガラクトシダーゼ発現がMDA−MB−435乳房脂肪パッド腫瘍で見られたが、隣接する正常な筋組織は染色されないままであった。リポーター遺伝子発現は、腸陰窩細胞および肝細胞が含まれる非腫瘍組織または正常な臓器では検出されなかったが、皮下乳房脂肪パッド異種移植片は、平均50−70%の青色染色を示した。MDA−MB−435細胞を静脈内注射してから2週間後、LipF(A)−pSVbを単回尾部静脈注射によって全身に送達させた。肺における僅かな模擬胸部転移でさえも、高レベルの染色を示し、隣接する正常な肺組織は、完全に染色されないままであった。
【0085】
DU145異種移植片を有するマウスにLipF(B)−pSVbの単回静脈内注射を与えた。これらのマウスにおける腫瘍は、プラスミド単独で得られた値より約50倍高い値である、少なくとも40−50%のインビボでのトランスフェクション効率を表わすリポーター遺伝子発現も示した。
【0086】
HBSSの代わりに無菌の5% デキストロース中、トランスフェリン−リポゾーム、リポゾーム−pSVb、およびpSVb DNA複合体をDNA1μg/リポゾーム10nmol/トランスフェリン12.5μgの割合で製造した。ヌードマウス腫瘍モデルを4−6週齢の雌のヌードマウスの側腹部におけるJSQ−3細胞の皮下注射により確立した。容積300ml中のTf−リポゾームと複合したpSVb DNA30μgを1ccの注射器および30Gの注射針でもって各々のマウスに尾部静脈経由で注射した。対照グループでは、リポゾーム−pSVbまたはリポゾームを含まないpSVb DNAを注射した。2日目に、LipT(A)−pSVbを注射したマウスにおける腫瘍は、約20−40%のインビボでのトランスフェクション効率を表わすリポーター遺伝子発現を示した。これとは対照的に、リポゾームを含まないpSVbプラスミド単独では、1%未満の腫瘍細胞がリポーター遺伝子発現に関して染色された。LipT(A)−pSVbを静脈内投与してから10日後、腫瘍における陽性細胞のパーセンテージおよび青色染色の強度が両方とも実質的に減少し、LipT(A)が媒介する全身性トランスフェクションは一過性であることを示した。LipT(A)−pSVbを注射したマウスにおける生体臓器は、(肺の塵埃細胞および肝臓の星細胞といったような)マクロファージのみの染色を示したが、肝細胞および肺胞細胞は染色されないままであった。樹状細胞が僅かな染色を示すとしても、染色は脾臓でのリンパ芽球増殖中心において明らかではなかった。要約すると、組織学的染色は、ヒト異種移植片が最も濃く染色されていることでもって、LipT(A)によるリポーター遺伝子の送達が選択的であることを示した。
【0087】
実施例7
LipF(A)−p53およびLipT(A)−p53をトランスフェクトしたJSQ−3細胞における外因性野生型p53タンパク質の発現
この実施例は、この特定の実施例の野生型p53において、本発明の送達システムにより接触させてトランスフェクトした細胞での外因性遺伝子の発現を説明する。インビトロおよびインビボの両方でのトランスフェクション効率を最適化したら、wt ヒトp53の1.7kb cDNAを含むp53発現プラスミド pCMVp53に、LipF(A)またはLipT(A)を複合させた(LipF(A)−p53)または(LipT(A)−p53)となる。p53遺伝子発現のDNA用量応答の場合には、2×10個のJSQ−3細胞を6ウェルのプレートの各々のウェルに入れた。24時間後、細胞を、血清および抗生物質を含まないEMEMで1回洗浄し、LipF(A)と複合したpCMVp53プラスミドDNAの量を増大させながら(0.25−8μg/10個の細胞)、LipF(A)−p53、または対照として、LipF(A)−pRoを含むトランスフェクション溶液1mlをトランスフェクトした。あるいはまた、EMEM中にプラスミドDNA4μgまで/2×10個の細胞をDNA1μg/リポゾーム10nmol/Tf15μgの割合で含むLipT(A)−p53またはLipT(A)−pRoを、細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションしてから5時間後、20% FBSおよび1μg/ml ヒドロコルチゾンを補ったEMEM1mlを加えて、もう48時間培養した。トランスフェクトした細胞を集め、RIPA緩衝液(Santa Cruz Biotechnology,Inc)に溶解し、当業者によく知られている標準的な手順を使用して、ウェスタンブロット分析を汎親和性の抗p53モノクローナル抗体 Ab−2(Santa Cruz Biotechnology,Inc.)で行った。総タンパク質40μgをレーン毎に充填した。
【0088】
p53遺伝子発現の時間経過に関して、2×10個のJSQ−3細胞に、LipT(A)と複合したpCMVp53またはpCMVpRo2μgをトランスフェクトした。トランスフェクションしてから5日目まで、細胞を24時間毎に集めて、ウェスタンブロット分析に使用した。
【0089】
p53遺伝子発現に対する放射線効果を調べるために、JSQ−3細胞にLipT(A)−p53またはLipT(A)−pRo(DNA2μg/2×10個の細胞)を2日間トランスフェクトした後、トリプシン処理して、137Cs g線をJ. L. Shepard and Associates Mark I 照射装置にて6Gyまでの段階的用量で照射した。照射した細胞を再び入れて、さらに2および4日間培養した後、ウェスタンブロット分析用に集めた。
【0090】
インビトロでJSQ−3細胞にトランスフェクションした後、ウェスタンブロット分析は、LipF(A)−p53でのトランスフェクションが外因性wtp53のDNA用量および時間依存的発現を生ずることを説明した。対照として用いるために、LipF(A)を、wt p53を逆方向で持つプラスミド pCMVpRoにも複合させた(LipF(A)−pRo)。LipF(A)−pRoをトランスフェクトしたJSQ−3細胞におけるp53発現は、トランスフェクトしていない細胞における発現と同様であった。wtp53発現は、LipF(A)−p53をトランスフェクションしてから24時間後に明らかとなり、48時間でピークに達して、トランスフェクションしてから120時間後には無視できるほどになり、この遺伝子送達システムの一過性を再び説明した。この一過性発現は、wtp53の蓄積なしに、反復注射を可能とするので有利である。
【0091】
ウェスタンブロット分析を使用して、LipT(A)をトランスフェクトしたwtp53がJSQ−3細胞において発現されていることを説明した。LipT(A)と複合したp53発現プラスミド pCMVp53(LipT(A)−p53)の用量を増加しながらのトランスフェクションは、DNA用量依存的wtp53発現を生ずるが、外因性p53発現は、CMVプロモーターの下にwtp53 cDNAを逆方向で持つ、LipT(A)−pRoをトランスフェクトしたJSQ−3細胞において明らかではなかった。wtp53発現は、LipT(A)−p53をトランスフェクションしてから24時間後に開始され、2日目でピークに達した後、減少した。極微量の外因性p53がトランスフェクションしてから5日間残り、LipT(A)が媒介するwtp53発現は一過性であることを示した。
【0092】
JSQ−3細胞を、LipT(A)−p53またはLipF(A)−p53をトランスフェクションしてから48時間後(wtp53発現のピーク)に照射した場合、外因性wtp53発現がγ照射用量により実質的に増大し、4日目、すなわち、トランスフェクションしてから6日目までは安定であった。これらの結果は、γ照射が外因性wtp53を高め得るおよび/または安定化し得ることを説明し、外因性p53が、放射線照射により安定化することが知られている正常な外因性wtp53と似た方法で作用することを提唱した。
【0093】
実施例8
インビトロでの放射線に対するJSQ−3の増感
変異型のp53の存在は、幾つかのヒト腫瘍およびセルラインにおける放射線耐性の増大と関連のあることを示した(8,10)。従って、この実施例は、LipF(A)が媒介するトランスフェクションによる、放射線生存に対するwtp53の置換効果を試験した。LipF(A)が媒介するp53トランスフェクションは、JSQ−3細胞をDNA用量依存的方法で放射線に対して増感することができた。最適トランスフェクション条件、すなわち、10個の細胞あたり3μgのプラスミドDNAでは、D10値が、トランスフェクトしていない細胞において見出される非常に耐性なレベル(6.65±0.43Gy)から4.33±0.06Gy(p<0.01)まで実質的に減少した。これは、放射線死滅に対する約6−10倍の増感を示す。4.33GyのD10値(4μg/10個の細胞)は、放射線感受性ヒト線維芽細胞セルライン H500のD10値(D10=4.50±0.05Gy)と似ており、放射線感受性であるとみなされる範囲である。pCMVp53プラスミド単独にしろ、またはLipF(A)−pRoにしろ、D10値(p>0.05)に基づいて、実質的な増感効果を有していなかった。生存という点から、この2Gyより大きい減少は、電離放射線の死滅効果に対する感受性の劇的な増大を表わす。臨床的には、この感受性の変化は、従来の放射線用量により、耐性腫瘍を治療できるようにし得る。
【0094】
実施例9
p53トランスフェクションおよびγ照射により誘発されるアポトーシス
この実施例は、本発明の最適化トランスフェリン−リポゾーム複合体を使用してのwtp53の再導入が、機能的なp53依存的アポトーシス経路を回復させることができることを説明した。JSQ−3細胞にLipT(A)−p53またはLipT(A)−pRo(DNA1〜3μg/2×10個の細胞)をトランスフェクトして、付着した細胞および浮遊する細胞を両方とも、アポトーシス細胞のパーセント分析用に3日間毎日集めた。放射線により誘発するアポトーシスの場合には、細胞を2日間トランスフェクトした後、トリプシン処理して、上記の実施例8に記載したようにして照射した。4日後、再び入れた細胞をアポトーシス細胞のパーセント分析用に集めた。集めた細胞を製造業者のプロトコルによりAnnexin V−FITCキット(Trevigen,Inc.,Gaithersburg,MD)で染色した。Annexin V−FITCは、アポトーシス細胞に存在するホスファチジルセリンに特異的に結合する。FACStar サイトメーター(Becton & Dickinson)を使用して、染色した細胞を分析した。
【0095】
アポトーシスの誘発に対するwtp53回復の効果を試験するために、JSQ−3細胞にLipT(A)−p53またはLipT(A)−pRoをトランスフェクトした。アポトーシスの明らかな誘発は、LipT(A)が媒介するwtp53回復において用量依存的方法で観察された。アポトーシス細胞のパーセンテージは、ウェスタンブロット分析により示されるように、細胞におけるwtp53の発現レベルと関連のあるトランスフェクションの2日目でピークに達した。アポトーシスの誘発に対する照射効果を試験するために、トランスフェクトした細胞を様々な用量のγ照射で処理した。2〜4日後、細胞をAnnexin V−FITCで染色し、FACStar(Becton & Dickinson)を使用して、フローサイトメトリーにより分析した。γ照射は、照射してから4日後に、LipT(A)−p53をトランスフェクトした細胞においてのみ、18.7%(0Gy)から38.7%(4Gy)および46.4%(6Gy)までのアポトーシス細胞のパーセントの実質的な増大を誘発した。トランスフェクトしていない(UT)細胞およびLipT(A)単独またはLipT(A)−pRoで処理した細胞において、増大は観察されなかった。その増大は、放射線用量依存的であって、ウェスタンブロットデータに見出されるwtp53発現レベルと関連があり、アポトーシスの放射線増強が細胞におけるwtpレベルに比例することを説明した。すなわち、発現するwtp53が多ければ多いほど、より多くのアポトーシスが誘発された。
【0096】
実施例10
LipF(A)−p53の全身送達による放射線に対するJSQ−3異種移植片腫瘍の増感
この実施例では、癌の処置方法として全身に送達させたフォレート−リポゾーム−治療用分子の使用を説明する。この特定の実施例において、治療用分子は、正常なヒト野生型p53遺伝子(pCMVp53)である。
【0097】
上部気道消化管(aerodigestive tract)の扁平上皮癌は、療法における最近の改良にもかかわらず、著しい罹患率および死亡率を生ずる。初期段階の疾患(第I期または第II期)にある患者は、一般的には、手術または放射線療法のいずれかで処置するが、進行した疾患(第III期または第IV期)を患っているより多くの患者は、一般的には、手術後に放射線で処置する。これにもかかわらず、進行した段階の疾患を処置した患者の半分またはそれ以上は、元の疾患部位または遠位の転移で再発して、最終的には死亡する。恐らく、これらの臨床的不全の重要な部分は、腫瘍細胞のサブセットにおける放射線耐性から生ずる。従って、頭部および頸部の腫瘍を放射線療法に対して増感するのに有効な方法の開発は、この疾患の処置に対して十分な効果を有するべきである。
【0098】
変異体(mt)型の腫瘍サプレッサー遺伝子 p53は、様々な種類の悪性腫瘍に関する不十分な臨床的予後での多くの試験に関連した。p53は、頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)の発生および進行にも関与し得る。様々な検出方法を使用することにより、p53遺伝子および/またはその発現における異常を33%−100%のSCCHN組織において同定した。mt p53の存在は、SCCHNにおいて、腫瘍の頻度の増大およびより急速な再発も示し得る。野生型(wt) p53は、正常な増殖および発生の間よりはむしろ、DNA損傷またはストレス後の細胞サイクルの調節において機能することを示した。mt p53の存在は、幾つかのヒト腫瘍および細胞系における放射線耐性(RR)の増大と関連があることも見出されたことから、そして高いパーセンテージの頭部および頸部の腫瘍は、放射線療法を失敗させるので、大多数のSCCHNにおいて見出される機能的wtp53の欠乏と、この観察されるRRとの間には、原因および効果の関係があると考えられる。従って、wtp53の置換は、従来の放射線療法に対するこれらの腫瘍の増感を生じ得る。
【0099】
2.5×10 JSQ−3細胞を、4−6週齢の雌無胸腺ヌードマウス(Ncr nu/nu)の尾の上部の背下部に皮下的に注射した。腫瘍が適当なサイズに到達した時、LipF(A)-p53、pCMVp53またはLipF(A)-pRoのi.v.注射を、8μg DNA/400μl 5%デキストロース/マウスで1週間に2回、全5回注射した。最初のi.v.注射48時間後、動物を鉛拘束により固定し、腫瘍領域のみの照射を可能にし、137Csイオン化照射投与の最初の2.5Gyの分画用量を適用した。その後、動物に2.5Gyを48時間毎に合計25Gyまで投与した。比較のために、非トランスフェクトのグループおよびLipF(A)-p53を投与され、照射を受けなかったマウスのグループを使用した。
【0100】
約25−40mmのJSQ−3腫瘍を担持する無胸腺ヌードマウスに、尾静脈を介して、LipF(A)-p53を1週間に2回(全5回注射)注射し、腫瘍領域のみをγ−照射の分画用量に曝した(合計25Gy)。トランスフェクトp53タンパク質が腫瘍で発現されているかを測定するために、非トランスフェクト、LipF(A)-p53およびLipF(A)-pRoグループからの一つの腫瘍を一連の実験の間に切除した(3回の注射および12.5Gyの後)。高レベルの外因性p53タンパク質が、LipF(A)p53処置腫瘍において明白であり、フォレート−カチオン性リポゾーム複合体がwtp53遺伝子を全身的に腫瘍に送達できたことを確認する。照射単独での処置は、非トランスフェクト動物における腫瘍で限られた効果のみを有した。イオン化照射と組合わせた、pCMVp53プラスミドDMAまたはLipF(A)-pRoのi.v.注射は、最初に腫瘍生育の幾分かの阻害を誘導した。しかし、臨床的環境と類似して、これらの腫瘍は、非トランスフェクト動物の様に、照射処置の停止後に再生育を始めた。LipF(A)-p53単独での処置はi.v.注射の期間およびその終了後でさえ腫瘍生育を阻害することができるが、これらの腫瘍は、最後のi.v.注射後2週間内に再び大きさが増加し始めた。対照的に、LipF(A)-p53と照射の組合わせを受けた腫瘍の75%が完全に退行し、照射処置後130日目でさえ、再発の徴候が示されなかった。更に、残りの25%は実験の期間中にわたり最初の腫瘍容量の10%より小さく静止している、最小の残余腫瘍のみ示された。本残余塊の組織学的試験により、増殖性腫瘍細胞が存在しない、成熟瘢痕であることが示された。
【0101】
現在処置の停止後1年以上であり、コントロール動物は全て死亡したか、腫瘍での苦しみのために人道的に安楽死させた。しかし、組合わせ処置を受けた動物において、腫瘍再生育の徴候はまだ示されない。
【0102】
同様な結果が、最初の腫瘍容量が25から65mmの間である他の独立した実験でも得られた。ここでまた、照射後約1年で、組合わせ処置を受けた動物において、腫瘍再生育は明らかでない。
【0103】
これは、リポゾーム−p53複合体の全身的送達により介在される全腫瘍退行の最初の証拠である。全身性LipF(A)-p53遺伝子治療および慣用の放射線治療の組合わせは、いずれかの処置単独よりも顕著により有効であったことを示すインビボ実験がある。
【0104】
実施例11
LipT(A)-p53の全身的送達による、JSQ−3異種移植片の放射への感作
本実施例において、我々は癌処置の方法としての、全身送達されたトランスフェリン−リポゾーム−治療用分子の使用を説明する。この具体的実施例において、治療用分子は正常ヒト野生型p53遺伝子(pCMVp53)である。
【0105】
2.5×10 JSQ−3細胞を、4−6週齢の雌無胸腺ヌードマウス(Ncr nu/nu)の尾の上部の背下部に皮下的に注射した。7−10日後、腫瘍は、注射部位で約40−50mmに生育した。新たに調製した、300ml 5%デキストロース中に8μg DNAを含むLipT(A)-p53またはLipT(A)-pRoをマウス当りに静脈内に、尾静脈を介して1週間に2回、合計5回注射で投与した。最初のi.v.注射48時間後、動物を鉛拘束により固定し、腫瘍領域のみがγ−放射線照射に曝されるようにし、137Csの最初の分画用量の2.5Gyイオン化照射を適用した。その後、動物に48時間毎に、合計25Gyまで、2.5Gyを適用した。比較のために、非トランスフェクトグループおよび、LipT(A)-p53注射され、照射を受けていないマウスのグループをコントロールとして使用した。腫瘍サイズを盲検的方法により1週間内に測定した。
【0106】
二つの独立したSCCHN(JSQ−3)異種移植片腫瘍の実験を行い、同様な結果であった。最初に、約25−40mmの皮下JSQ−3腫瘍を担持するマウスに、尾静脈を介して、LipT(A)-p53を1週間に2回(合計5回注射)投与し、腫瘍領域のみをγ放射線照射の分画量(合計25Gy)に曝した。腫瘍生育における短時間照射効果は、コントロールLipT(A)-CMVpRoを使用してトランスフェクトした細胞で明白であった。照射無しでLipT(A)-CMVp53を投与された動物で僅かな腫瘍生育阻害のみしかなかった。対照的に、LipT(A)-CMVp53と照射の組合わせを投与された腫瘍の全てで実質的に完全な抑制が示され、照射処置後153日でさえ、再発の徴候はなかった。この時点までに、コントロールグループの腫瘍担持動物は死亡するか、腫瘍での苦しみのために、人道的に安楽死させた。しかし、組合わせ処置グループ(p53と放射)では、照射後1年でまだ腫瘍再生育の徴候はなかった。LipF(A)-p53と照射の組合わせで処置した動物の場合、処置1ヶ月後までに、組合わせ処置を受けた動物の元の腫瘍の部位で、残った組織に瘢痕組織およびわずかに浸潤されたランゲルハンス細胞のみが存在した。同様の結果が、第2のインビボ実験で観察された。
【0107】
実施例12
第2の癌モデルにおける組合わせ治療の効果
この実施例は、リポゾーム介在、腫瘍標的p53遺伝子治療と慣用の放射線療法のこの新規組合わせの効果がSCCHNのみに限定されず、それにより、このシステムの臨床適用が拡大されることを説明する。フォレート標的、リポゾーム介在p53遺伝子治療と照射の、ヒト前立腺細胞系DU145におけるインビボの効果を評価した。この腺癌細胞系は、前立腺の拡散した転移癌を有する患者の脳内の損傷から由来し、mtp53を運搬すると報告されている。我々は、この細胞系がγ照射殺戮(D10=5.8±0.22Gy)に耐性であり、この疾病のアジュバント治療の主要な形の一つであることを発見した。先のインビトロでの実験は、中性脂質DOPEのコレステロールへの置換がこの独立した腫瘍細胞型でのトランスフェクション効果の増加をもたらし得ることが示された。ルシフェラーゼ活性を基にして、我々は、DU145細胞で、LipF(D)がLipF(A)と比較して4倍以上の増加をもたらすことを発見した。従って、約70mmのDU145細胞を担持するマウスに、尾静脈を介してLipF(D)-p53を約5日毎(合計5回注射)に注射し、腫瘍をγ−照射の分画量(合計25Gy)に曝した。この実験において、非フォレート標的リポゾーム−p53組成物(Lip(D)-p53)をコントロールしても使用した。これらの前立腺腫瘍での結果は、SCCHN腫瘍のものと殆ど類似であった。照射単独、LipF(D)-pRoと照射および非標的Lip(D)-p53と照射は、処置の間に、腫瘍生育への幾分かの阻害作用を有した。しかし、これらの腫瘍は全て処置を終えたら急速にサイズが大きくなった。比較して、LipF(D)-p53と照射の組合わせは、また処置後64日目である84日目でさえ、腫瘍の長期抑制をもたらした。63日目のコントロールグループの腫瘍容量における観察された低下は、腫瘍のため、グループの動物が損失したためであった。約100mmの腫瘍での第2の実験は、全処置終了後47日でさえ、再生育が観察されない同様の結果をもたらした。
【0108】
実施例13
JSQ−3のシスプラチン(CDDP)へのインビトロでの化学増感
照射に加えて、化学療法はSCCHNの処置に、より一般的に使用されるようになっている。機能的wtp53の欠失が化学療法への反応の欠失に関連しているため、本実験において、我々はSCCHN細胞系JSQ−3の化学療法剤への感作におけるリガンド促進リポゾーム介在wtp53遺伝子の効果を試験した。1×10細胞を96ウェルプレートのウェル当りに蒔いた。24時間後、細胞をLipT(A)-p53でトランスフェクトした。トランスフェクション2日後、抗腫瘍薬を漸増濃度(トリプリケートで)で添加した。4−6日後、XTT細胞増殖アッセイを行い、50%生育阻害をする医薬濃度であるIC50値を計算した。わずか0.2μgのLipT(A)に複合したwtp53 DNAでの処置により、アジュバント化学療法で頻繁に用いられる二つの医薬であるCDDPおよび5−FUの療法に対するJSQ−3細胞の実質的な感作が示された。LipT(A)複合体単独、または逆配向でwtp53を担持するLipT(A)(LipT(A)-pRo)でのトランスフェクションがCDDPに対する幾分かの感作をもたらしたが、非トランスフェクト細胞の24倍のレベルの感作が、LipT(A)-p53形質導入細胞で明白であった。更に、化学療法剤5−FUに対するJSQ−3の15.4倍の感作がまたLipT(A)-p53複合体でのトランスフェクション後に観察された。
【0109】
実施例14
アポトーシスの促進された誘導により示される、p53介在化学増感
本実施例は、化学療法剤誘導アポトーシスにおけるリガンド−リポゾーム介在wtp53回復の効果を試験する。JSQ−3細胞を6ウェルプレートに蒔き、LipT(A)-p53、LipT(A)-pVec(p53遺伝子無しのベクター)またはLipT(A)単独で、1または2μg DNA/2×10細胞でトランスフェクトした。24時間後、化学療法剤を各組のプレートに、各細胞系のIC50に近い濃度で添加した。更に1日のインキュベーション後、接着および浮遊の両方の細胞を集め、製造者のプロトコールにしたがって、AnnexinV-FITCキット(Trevigan, Inc., Gaithersgurg, MD)を使用して、アポトーシス細胞に提示されたホスファチジルセリンに特異的に結合するAnnexinV-FITCで、染色した。染色細胞をFACStarフローサイトメーターで分析した(Becton and Dickinson)。
【0110】
アポトーシスのp53 DNA用量依存的誘導が、本発明のLipT介在wtp53複合体で処理した細胞で観察された。更に、化学療法剤(CDDP、タキソテール、5−FU)のIC50値に近い用量での添加が、LipT(A)-p53トランスフェクト細胞の集団でのみアポトーシス細胞の割合の実質的な増加を誘導したが、非トランスフェクト(UT)およびLipT(A)のみまたはLipT(A)-pVecトランスフェクト細胞では誘導されなかった。増加は、p53 DNA用量依存的であり、ウェスタンブロットで観察されたwtp53発現レベルと相関し、アポトーシスの化学療法剤誘導促進は、細胞でwtp53レベルに比例し、即ち、wtp53がより発現されると、よりアポトーシスが誘導されることを証明した。LipT(A)-p53と医薬の組合わせの後観察されたアポトーシスの増加は、実質的に化学療法剤単独(UTと医薬)とp53トランスフェクション単独(p53医薬無し)の合計より実質的に多く、p53遺伝子治療を化学療法剤と組合わせた時の相乗効果を示す。
【0111】
実施例15
リガンド−リポゾーム−p53によるMDA−MB−435のシスプラチンまたはドキソルビシンに対するインビトロでの化学増感
乳癌の処置において、腫瘍の実質的な部分およびその転移癌のアジュバント化学療法への反応の欠失は大きな懸念である。この実施例において、我々は、現在使用されている化学療法剤に対する乳癌細胞の感作のための、本発明の送達系の能力を試験した。
【0112】
ヒト乳癌細胞系MDA−MB−435を使用した。使用したリガンド−リポゾーム複合体は、乳癌で見られる異なる組織学的細胞系である頭頸部扁平上皮細胞のために最適化された組成物であった。LipT(A)-p53でのトランスフェクションは、非トランスフェクション細胞と比較して、MDA−MB−435細胞におけるドキソルビシンの効果を4倍、およびCDDPの効果を殆ど12倍増加させた。SCCHN細胞で見られるように、LipT(A)-pRo複合体での感作が幾分かあった。ここでまた、乳房癌にはまだ最適されていないが、LipT(A)-p53でのトランスフェクションによる乳癌細胞の化学増感が証明された。
【0113】
殆どの乳癌の組織学的細胞型であるアデノカルシノーマのために最適化された組成物であるLipF(C)を使用して、より著しい結果が観察された。上記のように、IC50値をXTTアッセイにより測定した。LipF(C)-p53でのトランスフェクションは、非トランスフェクト細胞と比較して、MDA−MB−435細胞におけるドキソルビシンの効果を73.6倍に増加し、タキソールの効果を31.6倍に増加させた。SCCHN細胞で見られるように、またLipT(C)-pRo複合体での感作が幾分かあった。これらの結果は、トランスフェリンおよびフォレート標的リポゾーム−p53複合体でのトランスフェクションによる乳癌細胞の化学増感を証明する。
【0114】
実施例16
LipF−p53遺伝子治療による、インビボでの乳癌細胞の化学増感
本実施例は、全身的に送達された本発明のリガンド−リポゾーム−治療用分子複合体が、癌細胞に対するインビボでの治療薬剤の効果を有効にする能力を示す。約100mmの皮下乳脂肪パッドMDA−MB−435腫瘍を担持するマウスに、LipF(C)-p53を、尾静脈を介して3−4日毎に、合計8回の注射でi.v.注射した。ドキソルビシン(Dxr)(10mg/kg)を、i.v.で毎週、4週間注射した。LipF(C)-p53とDxrの組合わせは、腫瘍の生育を実質的に阻害した。第2の実験において、二つの別々のリポゾーム組成物(LipF(E)およびLipF(C))を使用した。両方、Dxrとの組合わせで効果が証明され、LipF(C)-p53組成物がLipF(E)-p53よりも優れていた。
【0115】
実施例17
異なる癌細胞系におけるリガンド−リポゾームトランスフェクションの最適化
本実施例において、我々は、種々のヒトおよび齧歯類癌細胞へのトランスフェクション効率を最適化するための、リガンド−標的カチオン性リポゾームのパネルを調製して、更にリガンド−カチオン性リポゾームシステムを研究した。
【0116】
カチオン性リポゾームは下記のように調製した:
LipA DOTAP/DOPE 1:1モル比
LipB DDAB/DOPE 1:1モル比
LipC DDAB/DOPE 1:2モル比
LipD DOTAP/Chol 1:1モル比
LipE DDAB/Chol 1:1モル比
LipG DOTAP/DOPE/Chol 2:1:1モル比
LipH DDAB/DOPE/Chol 2:1:1モル比
【0117】
1.フォレートシリーズ:上記の製剤の各々と1%−5%フォレート−DOPEまたはフォレート−DSPE。
2.トランスフェリンシリーズ:上記の製剤の各々を、培地または緩衝液中ホロ−トランスフェリンと混合し、次いで培地または緩衝液中レポーター遺伝子プラスミドDNAと混合し、複合体を形成させた。
プラスミドpCMVLucにおけるホタルルシフェラーゼ遺伝子またはプラスミドpCMVbにおけるE. coliβ−ガラクトシダーゼ遺伝子をレポーター遺伝子として使用した。
【0118】
DNA−リポゾーム複合体の調製
種々のDNA−リポゾーム−フォレート複合体を、ポリプロピレン試験管中、TE緩衝液(10mM トリス−HCl、1mM EDTA、pH8.0)中の等量の無血清培地とレポーター遺伝子プラスミドDNA、および滅菌水(2μmol/ml全脂質)中の等量の無血清培地とフォレート−リポゾーム(LipA-F、LipB-F、LipC-F、LipD-F、LipE-F、LipG-F、LipH-F)の混合により調製した。10−15分室温の後、二つの溶液を混同し、15−30分室温で、頻繁にゆすりながらインキュベートした。最適化におけるDNA対脂質比率は、1:0.1から1:50μg/nmolの範囲であった。
【0119】
種々のDNA−リポゾーム−トランスフェリン複合体を、Tf(鉄飽和、Sigma、水中4−5mg/ml、0.22mmフィルターで濾過)の無血清培地への添加により調製した。5−15分後、カチオン性リポゾーム(LipA、LipB、LipC、LipD、LipE、LipG、LipH)を添加し、混合した。5−15分、室温で頻繁にゆすりながらインキュベーションした後、レポーター遺伝子プラスミドDNAを含む等量の培地を添加し、混合し、頻繁にゆすりながら15−30分、室温でインキュベートした。最適化におけるDNA/脂質/Tf比は、1/(0.1−50)/(0.1−100)μg/nmol/μgであった。
【0120】
細胞系:
最適化を、以下の細胞系で行った。
頭頸部のヒト扁平細胞癌:JSQ−3、HN17B、HN22a、HN−38、SCC−25
ヒト乳癌:MDA−MB−231、MDA−MB−435、MDA−MB−453、MCF−7
ヒト前立腺癌:DU145、LNCaP、Ln−30、P4−20。
ヒト卵巣癌:SKOV−3、PA−1
ヒト膵臓癌:PNAC−1
ヒト大腸癌:SW480、LS174T、SK−CO−1
ヒト神経グリア芽細胞腫:U−87
ヒト子宮頸部癌:HTB−34、ME180
ヒト肺癌;CALU−3
ヒト胃癌:Hs746T
ヒト脂肪肉腫:SW872
ヒトメラノーマ:SK−MEL−31
ヒト絨毛膜癌腫:JEG−3
ヒト横紋筋肉腫:Hs729T
ヒト網膜芽腫:Y79
ヒト正常乳上皮:Hs578Bst
ヒト内皮:HUV−EC−C
マウスメラノーマ:B16/F10
ラット前立腺癌:PA−III、AT.61
ラット脳癌:RT−2
【0121】
ルシフェラーゼアッセイによる最適化:
5×10細胞/ウェルを24ウェルプレートに蒔いた。24時間後、細胞を一度血清無しの培地で洗浄し、血清無しの0.3ml培地および抗生物質を各ウェルに添加した。新たに調製した、異なる量のプラスミドDNA(0.2ml中1.0μgまで)培地を含むLipT-pCMVLucまたはLipF-pCMVLuc複合体を細胞に添加した。5時間、37℃および5%COでインキュベーション後、20%ウシ胎児血清添加培地0.5mlを各ウェルに添加した。24時間後、細胞を一度PBSで洗浄し、100μl/ウェル1×レポーター溶解緩衝液(Promega)で溶解させ、発現したルシフェラーゼ活性を、ルミノメーターでルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)で測定した。細胞溶解物のタンパク質濃度を、Bio-Rad DCタンパク質アッセイキット(Bio-Rad Laboratories)を使用して測定した。結果は、全タンパク質のμg当りの相対的光単位(RLU)として示した。
【0122】
β−ガラクトシダーゼ比色アッセイによる最適化:
1×10細胞を、96ウェルプレートの各ウェルに、または5×10細胞/ウェルを24ウェルプレートに蒔いた。24時間後、細胞を1度血清または抗生物質の無い培地で洗浄し、種々の量のLipT-pCMVb、LipF-pCMVbまたはoCMVb単独含有100μlトランスフェクション溶液を各ウェルに添加した。5時間、37℃の後、20%ウシ胎児血清含有培地の等量を各ウェルに添加した。48時間後、細胞を1度PBSで洗浄し、1×レポーター溶解緩衝液(Promega)で溶解した。細胞溶解物を、1mM MgClおよび450μM β−メルカプトエタノールを含む、20mMトリス(pH7.5)中の150μM O−ニトロフェニル−β−ガラクトピラノシド100μlで、37℃で0.5時間処理した。反応を1M NaCOの150μl/ウェルでの添加により停止させた。吸光度を405nmで測定した。精製β−ガラクトシダーゼ(Boehringer)を標準として使用した。結果は、全タンパク質μg当りのβ−ガラクトシダーゼ等量のミリ単位として示した。
【0123】
組織学的染色:
リガンド−リポゾーム-pCMVbトランスフェクションの組織学的研究のために、60%コンフルエンス(24ウェルプレートで)の細胞を、上記のように5時間トランスフェクトした。更に培養2日後、細胞を固定しX−galで染色した。トランスフェクション効率を青色染色細胞の割合として計算した。
【0124】
異なる細胞系での異なるリポゾーム組成物のトランスフェクション効率:
表2に示すように、LipT(A)およびLipT(D)は、JSQ−3細胞に関して最大のトランスフェクション効率を示し、他のリポゾーム製剤の3−8倍より効率的であった。LipT(D)はMDA-MB-435およびDU145の両方で最も有効であった。1/12/15(DNA μg/Lip nmol/Tf μg)またはそれ以上の比率で、LipT(D)はJSQ−3に対して高い、およびLipT(A)はMDA−MB−435細胞に対して高い効率であったが、細胞毒性が明白となった。より重要なことに、インビボ実験のためのTf−Lip−DNA複合体の調製の時、この比率またはそれ以上(脂質)では、沈殿の傾向があり、複合体の溶液が濁る傾向があり(即ち、低比率で調製した溶液ほど透明ではない)、安定でない。したがって、LipTの好ましい比率は1/10/12.5(DNA μg/Lip nmol/Tf μg)である。
【0125】
表2:
【表2】

* ×10 RLU/mgタンパク質
** DNA μg/Lip nmol/Tf μgの比率
【0126】
トランスフェリンと同様に、LipF(A)およびLipF(C)はJSQ−3細胞に対して最良の結果を提供し、他のリポゾーム製剤よりも2から8倍より有効であった(表3)。興味深いことに、フォレート−リポゾームはTf−リポゾームと比較して、MDA−MB−435およびDU145細胞で、および他の細胞系で同様に効果の全く異なるパターンとなる。LipF(C)は、MDA−MB−435で最良の結果を提供し、LipF(E)はDU145で最良の結果を提供した(表3)。低い効率の同様の結果が、DOTMA/DOPE1:1および1:2モル比のリポゾームでトランスフェクトしたある癌細胞系で得られた。
【0127】
表3:
【表3】

* ×10 RLU/mgタンパク質
** 比率:DNA μg/Lip nmol
【0128】
表4は、本発明に記載のリガンド−リポゾーム系を使用してインビトロで試験したある細胞系のための好ましいリガンド−リポゾーム製剤を示す。インビトロトランスフェクションの最適組成物が必ずしもインビボトランスフェクションに最適でないことは注意すべきである。しかし、インビトロで好ましい組成物が、インビボで好ましい組成物を導く良い出発点となる傾向がある。したがって、ヌードマウス異種移植片モデルを使用したインビボ最適化は、本発明に記載のように、インビボ全身的遺伝子治療の開始前に必要である。
【0129】
表4:
【表4】

【0130】
リガンド−リポゾームのトランスフェクション効率における血清の効果
LipT(D)は、血清無しでヒト神経グリア芽細胞腫で最大レベルのトランスフェクション効率を有した。しかし、10%血清存在下で、そのトランスフェクション効率は実質的に減少し、一方LipT(A)がこの細胞系で血清存在下で最も有効であった。ヒト膵臓癌細胞系PANC−1において、血清は、あるリポゾーム組成物でトランスフェクションを促進するように見え、LipT(H)で最大レベルの効率を示した。ここでまた我々は異なる細胞系で異なるトランスフェクション効率パターン、およびトランスフェクション効率における血清の異なる効果を観察した。インビボトランスフェクションの目的で、血清効果は最適化において考慮すべきである。
【0131】
実施例18
インビトロTf−またはフォレート−リポゾーム−介在Wtp53遺伝子治療による、他の細胞系の化学増感
この実施例は、トランスフェリン結合またはフォレート結合リポゾームでのトランスフェクションが実施例17に記載のものである、細胞系で行ったインビトロp53介在化学増感実験(XTTアッセイ)の部分を要約する。以下の表に示すデータは、LipT−およびLipF-介在p53遺伝子トランスフェクションの両方が、化学療法剤に対してこれらの腫瘍細胞を感作できることを証明する。化学増感効果は使用したリポゾームおよびp53 DNA量に依存する。VIN=ビンブラスチン;DXR=ドキソルビシン;CDDP=シスプラチン。感作倍率は、個々のIC50から計算する。DNA用量=ウェル当りに適用したDNAのμg(96ウェルプレート中約1×10細胞/ウェル)。
【0132】
【表5】

【0133】
実施例19
インビボにおける、DU 145異種移植組織の増殖に対する、全身的に送達されたLipF p53および化学治療法の組合せの効果
化学治療法は、前立腺癌の治療において、より一般的に使用されるようになっている。機能性wtp53の欠損は、化学治療法への反応欠如と関連している。この実施例は、インビボにおける前立腺腫瘍異種移植組織の増殖に対するリガンド−リポゾーム−p53および化学療法の組合せの効果を検証している。
【0134】
約100mm3の皮下性DU 145異種移植組織の腫瘍を持つマウスに、尾静脈から、標的リガンド(LipF(B)-p53)としてフォレートを使用して、リガンド−リポゾーム−p53複合体を注入した。このリポゾーム複合体を、10mg/kgの用量で化学治療剤のドセタキセル(docetaxel)と共に、2回/週間(合計5回注入)投与した。LipF(B)-p53複合体単独またはドセタキソール単独を用いる該動物体への治療は、腫瘍増殖への実質的な影響は、全く示されない。しかし、ドセタキセルを加えた全身的に送達されたLipF(B)-p53の組合わせを用いる治療は、実質的な腫瘍の退行を促した。使用した該複合体は、前立腺腫瘍細胞に対して完全に最適化されていないが、これらの知見は、全身的に送達される標的リポゾームが、腫瘍にwtp53を送達し、従来の治療法に対する感受性をもたらす能力を強く支持するものである。
【0135】
実施例20
インビボにおける、PANC-1異種移植組織の増殖に対する、全身的に送達されたLipFp53および化学治療法の組合せの効果
この実施例は、インビボにおける膵臓癌異種移植組織の増殖に対するリガンド−リポゾーム−p53および化学治療法の組合せの効果を示す。膵臓癌細胞系PANC-1の異種移植組織腫瘍を、無胸腺ヌードマウスに1×10細胞よりも多い皮下接種によって誘導した。この腫瘍が、約500-1000 mm3の腫瘍に達したときに、該腫瘍を摘出し、小片に切断(<1mm)した。これら新しく調製した腫瘍小片(PBSに懸濁される)を無胸腺ヌードマウスの脇腹に皮下に接種した(14gの針を使用する)。該腫瘍が、体積平均100mmに達したときに治療を開始した。該動物は、静脈注射によってLipF(B)-p53を受けた。このリポゾーム複合体を、2回/1週間、全7回まで注入投与した。また、化学治療剤のゲムシタビン(gemcitabine)を、1週間に2回、60mg/kgまたは120mg/kgの用量で静脈注射で投与した。全部で13回のゲムシタビン注射薬を投与した。また、1群の動物は、LipF(B)-p53およびゲムシタビンの静脈投与に加えて、1週間に2回(全6回)、腫瘍内にLipF(B)-p53の注入を受けた。治療を受けなかった、またはゲムシタビン単独、LipF(B)-p53単独またはp53(LipF(B)-Vec)を含まないpCMVベクターと複合化したLipF(B)の動物対照群を、54日までに腫瘍の重苦によって安楽死させた。対照的に、LipF(B)-p53およびゲムシタビンの組合せを受ける動物の3つめの群は、治療終了後さらに12日間であっても、それら腫瘍の実質的な増殖阻害を示した。これは、特にi.v.およびi.t.注入を共に受けたグループにおいて特に明白であった。そのために、もう1度、別の腫瘍モデルを使用して、全身的に送達されたリガンドリポゾーム治療分子および化学治療剤の組合せは、現在利用されている治療法以上に実質的に効果的であることが明らかにされた。
【0136】
実施例21
インビトロおよびインビボにおけるリガンド標的、リポゾーム介在アンチセンスオリゴヌクレオチドによる腫瘍細胞の化学的感作
この実施例は、本発明の全身的に投与されたリガンド−リポゾーム治療分子送達系の治療分子として少さいオリゴヌクレオチドを送達する能力を示した。さらに、この実施例は、全身的に投与された小さいオリゴヌクレオチドのリガンド−リポゾーム−デリバリー(送達物)が、接触された腫瘍細胞を化学治療剤に対して感作させる能力を示している。
【0137】
様々な腫瘍細胞タイプに対するフォレート−リポゾーム(LipF)組成物の最適化:
SCCHN細胞系に対して誘導され、上に記述したリガンド−リポゾーム複合体によって開始し、さらに、腫瘍細胞にアンチセンスHER−2(AS-HER-2)オリゴヌクレオチドを送達するために最適化されたリガンド−リポゾーム組成物を開発した。AS−HER−2オリゴヌクレオチドは、HER-2遺伝子の開始コドン付近の配列に相補な15-特定部分であった〔Pirollo et al., BBRC 230, 196-201(1997)〕。
【0138】
オリゴヌクレオチドによるリポゾームの飽和:
複合的に新規フォレート−リポゾーム(LipF)組成物を、複合体中の陽イオン性および中性リピドを変化させることによって製造した。また、ヘルパーリピドは、いくつかの組成物を包含する。中性リピドに対する陽イオンリピドの比もまた変化させた。32PラベルしたAS−HER−2オリゴヌクレオチドを使用して、我々は、多様な組成物に対するオリゴヌクレオチドの最適な結合を与えるリポゾームに対するオリゴヌクレオチドの比を決定した。これらの研究を以下の表に示した。比較はLipF組成物BおよびCリポゾームAに対する間でなされた。これは、SCCHNに対して最適化したLipF組成物である。
【0139】
【表6】

【0140】
それらは、3つの組成物の間のオリゴヌクレオチドの結合において、明らかな違いがある。それにもかかわらず、25:1のリポゾーム:オリゴヌクレオチドの比において、3つ全てで完全飽和を達成した。しかし、毒性の実質的な量は、この比において顕著であった。また、異なるリポゾーム組成物に対して、最適比が劇的に異なっているということは、これらのデータから明らかである。
【0141】
様々なLipF組成物を用いる腫瘍細胞系によるAS-HER-2オリゴヌクレオチドの取込み:
トランスフェクションの実験を、LipF組成物および、ヒト胸部癌細胞系MDA-MB−435、SCCHN 細胞系JSQ−3、前立腺癌細胞系DU 145および膵臓腫瘍細胞系PANC1を用いて行い、各LipF組成物のトランスフェクション効率を決定した。用いたものは、オリゴヌクレオチドの最も効率的な結合を有することが明らかである4つの組成物(B-Eとした)であった。これらの試験において初めに使用したリポゾーム:オリゴヌクレオチドの2つのモル比は、10:1および25:1であり、それら(上記参照)は、最も高いオリゴヌクレオチドの結合レベルを有することが明らかになった。しかし、25:1の比は、細胞に毒性があるということがわかった。そのため、該実験の残った部分は、10:1(リポゾーム:オリゴヌクレオチド)の比を用いて行った。32Pラベル化したAS−HER−2を用いるトランスフェクションを、SCCHNに対するLipF(A)-p53のために前記のように行った。しかし、37℃、20時間インキュベーション後、この培養液を除去し、細胞をPBSで5回洗浄した。この培養液および洗浄液を合わせて、取込まれていないラベル体の量を確認した。細胞に取込まれた32Pラベル化したアンチ−HER−2オリゴヌクレオチドの量を、組み込まれていないオリゴヌクレオチドと該細胞中の32Pレベルを比較することによって測定した。これらの研究において、LipF(A)は、SCCHNに対して本来的に最適化された組成物であった。以下の表に示されるように、LipF組成物Bは、MDA−MB-435胸部癌細胞においてトランスフェクション効率の最も高いレベルを与え、一方で、LipF組成物Eは、DU 145およびPANC I両方に対して良好であった。そのため、LipF組成物B〔LipF(B)〕を、以下に記載のようにMDA-MB-435と一緒に研究の残部に使用した。
【0142】
【表7】

オリゴヌクレオチド濃度は2μMであった。
リポゾーム:オリゴヌクレオチドの分子割合は10:1であった。
【0143】
LipF(B)-AS-HER-2のインビトロおよび血中の安定性
本研究の目的はアンチセンスオリゴヌクレオチド用の全身送達システムを開発することであるので、LipF(B)-AS-HER-2複合体の血清中での安定性を測定することは重要であった。従って、複合体を50%血清に加え、37℃でインキュベートした。0−24時間の間の様々な時間でサンプルを取り出し、32P標識化オリゴヌクレオチドと分解(%)をPAGEでアッセイした。LipF(B)と24時間複合化したときは、AS-HER-2オリゴヌクレオチドの分解は検出できなかった。対照的に50%を超える遊離オリゴヌクレオチドが6時間程で分解し、24時間までに事実上完全に分解した。
【0144】
セッティングをインビトロの状況と同様にし、マウス血液中での安定性を試験した。24時間後でさえ、75%を超える複合化オリゴヌクレオチドがそのままで残っていた。従って、葉酸標的部送達システムは、腫瘍細胞に有効な到達をさせるよう、充分な期間オリゴヌクレオチドを保護すると結論される。
【0145】
LipF-AS-HER-2による癌細胞のインビトロ化学増感
MDA-MB-435、JSQ-3、DU145およびU87(ヒトグリア芽細胞腫)細胞を化学療法剤に感作させる、LipF(B)で送達されるAS-HER-2の能力を評価した。XTT細胞を使用する増殖アッセイで感受性を測定した。LipF(B)-AS-HER-2のトランスフェクションは、435細胞に対するドセタキセルの殺細胞効果を実質的に強める。LipF(B)介在AS-HER-2で処置した細胞と、LipF(B)対照オリゴヌクレオチド(SC)で処置した細胞との比較は、435細胞のタキソテールに対する感作において30倍より大きい増加を示した。対照的に、市販のリポフェクチン(Life Technologies, Inc.)を使用してAS-HER-2でトランスフェクションした後は、2.5倍レベルのみの感作であった。LipF(B)-AS-HER-2によるJSQ-3細胞の処置は、ドセタキセルの効果をほぼ25倍まで増加させた。そのうえ、トランスフェリン-標的リポゾームA(LipT(A))と複合化したAS-HER-2で処置すると、JSQ-3細胞に対するシスプラチン(CDDP)の効果も同様に17倍を超えて増加した。LipF(B)-AS-HER-2で処置したあと、DU145細胞のドセタキセルに対する感作の2倍増加がみられた。ヒトグリア芽細胞腫細胞株U87は、LipF(B)-AS-HER-2で処置した後、化学感受性においてゲムシタビン(gemcitabine)薬に対して8倍を超える増加を示した。
【0146】
標的リポゾーム複合体をアンチセンス遺伝子治療送達用ベクターとして使用することをさらに証明するために、抗RASオリゴヌクレオチド(AS-RAS、遺伝子の開始コドンに近い配列に相補的な11量体配列)を保有するLipF(B)の、PANC I膵癌細胞をドセタキセルに感作する能力を調べた。ここでも、LipF(B)-AS-RAS処置によって、薬剤感受性で70倍を超える増加がおこった。このデータは、LipF(B)介在アンチセンス遺伝子治療はあらかじめヒト癌細胞に抵抗する化学療法剤の有効性の実質的な増加をもたらし得ることを示した。
【0147】
インビトロ試験
先在するMDA-MB-435異種移植片腫瘍をインビボで化学療法剤ドセタキセルに対して標的にしおよび感作する、LipF(B)-AS-HER-2の能力を、腫瘍の縮小と成長抑制のアッセイで調べた。約70mm3のMDA-MB-435乳腺脂肪パッド異種移植腫瘍を保有する雌無胸腺症(Ncr nu/nu)マウスに、尾静脈からLipF(B)-AS-HER-2(オリゴヌクレオチド約0.6mM含む)を1日おきに計11回静脈投与した。11回のドセタキセル静脈内投与の全量(1日おきに約20mg/kg/投与)を、動物体に投与した。LipF(B)-AS-HER-2およびドセタキセルの併用を受けた動物体について、著しい腫瘍の成長抑制がみられた。対照的に、AS-HER-2のみを受けたマウスではわずかな成長抑制しかみられなかった。そのうえ、ドセタキセル効果はあったが、処置終了後に腫瘍がすばやく大きくなりはじめた。従って、AS-HER-2の場合の全身送達のアンチセンスオリゴヌクレオチドの標的リポゾーム送達は、明らかに腫瘍を化学療法剤に感作でき、処置後約3週間で腫瘍成長を強力に抑制する。
【0148】
実施例22
トランスフェリンリポゾームによるアデノウイルスの標的化
遺伝子転移の有効性および特異性を改良することは、遺伝子治療の新しい戦略の開発において依然として重要な目的である。アデノウイルス(Ad)は非常に効率的なベクターであるが、腫瘍標的特異性に欠け、実質的な免疫原性を有するという制限がある。カチオン脂質はアデノウイルスと非共有結合複合体を形成し、遺伝子転移効率を高めることが報告されている。しかしカチオン脂質自体は未だ標的特異性が欠けている。
【0149】
本実施態様で、本発明のリガンド-リポゾームベクターもアデノウイルス粒子と複合体を形成し、それゆえ遺伝子転移効率を高め、さらには標的特異性を高めることを証明した。そのうえ、治療分子が無処置アデノウイルス粒子の場合、本発明のリガンド-リポゾーム-治療分子送達システムの使用は、有効な腫瘍細胞標的化および治療アデノウイルスの全身投与を可能にし、遺伝子治療への他の新規なアプローチを可能にする。
【0150】
トランスフェリン-リポゾーム-アデノウイルス複合体の調製
CMVプロモーター下方にE. coli β-ガラクトシダーゼ遺伝子LacZを含む複製欠損アデノウイルス血清型5(Ad5LacZ)を、研究に使用した。3%スクロースを含むPBS(pH7.4)中、1.1×1012粒子(pt)/mlまたは(pfu)/mlユニットを形成する5.5×103プラークのAd5LacZを、この試験に使用した。Holoトランスフェリン(Tf、鉄飽和、Sigma)を水に4-5mg/mlで溶かし、0.22mmフィルターで濾過した。Tfをまず10mM HEPES緩衝液(pH7.4)に0.5mg/mlまで希釈し、次いで異なる量のTfをマイクロ遠心管および混合ウェル中のHEPES緩衝液 50μlに加えた。室温で5-10分間インキュベートした後、0.1nmol/μl Lip(A)(分子割合 DOTAP:DOPE 1:1)を試験管に加え、脂質/Tf割合を1nmol/1-10μgの範囲にする。溶液をよく混合して、室温で5-10分間インキュベートする。1×106-1×107ptアデノウイルスを各試験管に加え、カチオン脂質/アデノウイルス割合を1×103から1×107脂質分子/ptの範囲にする。サンプルを室温で10-15分間インキュベートし、それぞれに血清を含まないEMEM 150μlを加える。
【0151】
インビトロアデノウイルス形質導入
5×104 JSQ-3細胞/ウェルを、24ウェルプレートで培養した。24時間後、細胞を、血清を含まないEMEMで一度洗浄し、血清を含まないEMEM 0.3mlまたは抗生物質を各ウェルに加えた。EMEM 200μl中にAd5LacZまたはTf-Ad5LacZ複合体を異なる濃度で含むものを、全く同様に各ウェルに加えた。ウイルス対細胞の割合は20から2000までのウイルス性粒子/細胞(pt/細胞)の範囲であった。37℃、5% CO2下で時々揺らしながら4時間インキュベートした後、20%血清を含むEMEM 0.5mlを加えた。2日間培養した後、PBSで細胞を一度洗浄し、IXレポーター溶解緩衝液(Promega)に溶かした。細胞溶解物を遠心分離し、96ウェルプレートに全く同一に移し、150μM o-ニトロフェニル-β-ガラクトピラノサイド 100μl(1mM MgCl2と450μM β-メルカプトエタノールを含む)を含む20mM トリス(pH7.5)中で37℃、30分間インキュベートした。1M Na2CO3 150μl/ウェルを加え、反応を止めた。ELISAプレートリーダーを使用して405nmで吸光度を測定した。精製したβ-ガラクトシダーゼ(Boehringer)を使用して標準カーブを作成した。得られた結果を、全タンパク質のmg単位当量のβ-ガラクトシダーゼのミリユニット(mU)として表示した。
【0152】
組織化学染色
LipT-Ad5LacZ形質導入の組織化学研究用に、24ウェルプレート中で60% コンフルエント細胞を、上述と同様にトランスフェクション溶液を使用して5時間トランスフェクトした。さらに2日間培養した後、細胞を固定してX-galで染色した。トランスフェクション効率を青色染色細胞のパーセンテージとして算出した。
【0153】
500pt/細胞または2.5MOI(感染の多様性またはpfu/細胞)のウイルス性投与で、レセプター遺伝子産物β-ガラクトシダーゼの10mU/μgたんぱく質をAd5LacZ単独で発現した。トランスフェリン-リポゾーム複合化ウイルス(LipT-Ad5LacZ)は、1×104カチオン脂質分子/ptの割合で、23.5mU/μgたんぱく質のレセプター遺伝子発現を産出した。1×105脂質分子/ptでLipT-Ad5LacZは30.7mU/μg発現を産出し、一方1×106分子/ptでLipT-Ad5LacZは30.8mU/μg発現を産出した。これは、遺伝子形質導入物のときはAd5LacZ単独のときよりそれぞれ2.4、3.07および3.08倍増加していることを示している。飽和値は見たところ1×105脂質分子/ptである。
【0154】
1000pt/細胞(または5MOI)の投与量で、Ad5LacZ単独発現のレポーター遺伝子のレベルと比べて、104脂質/ptのLipT-Ad5LacZはレポーター遺伝子発現で2.6倍増加し、105脂質/ptのLipT-Ad5LacZは2.8倍増加し、106脂質/ptのLipT-Ad5LacZでは3.8倍高い値であることを証明した。トランスフェリンを含まないリポゾーム複合体は限られた増強のみであった。従って、LipT-Ad5LacZ複合体の至適比率は約10-1000カチオン脂質/Tf分子で約104-107カチオン脂質/ptであり、好ましくは約15-50カチオン脂質/Tf分子で約106カチオン脂質/ptである。脂質/pt割合が高すぎるときは、沈殿化が起こり得る。
組織化学染色は、Ad5LacZ単独では20−30%の形質導入率であったが、106脂質/ptのトランスフェリン-リポゾーム複合体アデノウイルスLipT-Ad5LacZは70−90%の形質導入率であったことを示した。。
【0155】
他のリポゾーム組成をアデノウイルスと複合化する能力について試験した。LipT(B)(DDAB/DOPE、1:1分子割合)およびLipT(D) (DOTAP/Chol、1:1分子割合)は、ヒト前立腺癌細胞株DU145中へのアデノウイルス遺伝子形質導入の増強を示した。
【0156】
本発明のリガンド-リポゾーム送達システムを、ヒトwt p53遺伝子 1.7kbを含む複製欠損アデノウイルス血清型5(LipT(D)-Adp53)と複合化した。LipT(D)-Adp53複合体を、DU145前立腺癌異種移植腫瘍を持つヌードマウスに静脈投与した。腫瘍のウェスタン分析(投与72時間経過後に行なった)は、腫瘍組織内で外因性ヒトwt p53タンパク質の存在を示す追加バンドの存在を証明した。処置した動物体の標準組織(例えば肝臓、胚または脾臓)では追加の外因性wt p53配列は確認されなかった。これらのデータは、本発明のリガンド-リポゾーム-治療分子送達システムが、以下の全身投与で、腫瘍組織に対して特異的にアデノウイルスの“治療分子”としての送達が可能である。
【0157】
上記結果は、トランスフェリン-カチオンリポゾームはアデノウイルスと複合化でき、アデノウイルス遺伝子形質導入を実質的に増幅することを証明した。リガンド-リポゾーム-アデノウイルス複合体の投与は、ヒト遺伝子治療の新規アプローチである。
【0158】
実施例23
トランスフェリン-リポゾーム-標的レトロウイルス遺伝子形質導入
レトロウイルスベクターは、臨床試験で最もよく使用されている遺伝子治療ベクターのひとつである。レトロウイルスベクターは、アデノウイルスベクターと同様に、腫瘍特異性に欠け、顕著な免疫原性を示すので、限られている。本実施態様で、本発明のリガンド-リポゾームはアデノウイルスのように、レトロウイルス粒子と複合体を形成でき、その結果、遺伝子伝達効率とさらに有意なことに標的特異性を高めることを証明した。さらに、本発明のリガンド-リポゾーム-治療分子送達システムの使用は、治療分子が無処置レトロウイルス粒子の場合、有効腫瘍細胞標的化および遺伝子治療用のレトロウイルスベクターの全身投与を可能にする。
【0159】
E. coli LacZ遺伝子、RvLacZを1×1010粒子(pt)/ml(3×107形質転換ユニット(TU)/mlを含む)で含む複製欠損レトロウイルスを、本研究で使用した。Holoトランスフェリン(Tf、Sigma)を水に4-5mg/ml溶かし、0.22mmフィルターで濾過した。LipT-RvLacZ複合体を、上述の実施例21のLipT-Ad5LacZの場合と同様に調製した。略記すると、Tfをまず10mM HEPES緩衝液(pH7.4)に0.5mg/mlまで希釈した。異なる量のTfを、マイクロ遠心管および混合ウェル中のHEPES緩衝液 50μlに加えた。室温で5-10分間インキュベートした後、カチオンリポゾーム Lip(A)(分子割合 DOTAP:DOPE 1:1)を加えた。溶液をよく混合して、室温で5-10分間インキュベートした。1×106-1×107ptレトロウイルスを各試験管に加え、カチオン脂質/レトロウイルス割合を1×103から1×107脂質分子/ptの範囲にした。サンプルを室温で10-15分間インキュベートし、それぞれに血清を含まないEMEM 150μlを加えた。インビトロレトロウイルス形質導入を実施例21で述べたとおり行なった。ウイルス対細胞の割合は100から2000ウイルス粒子/細胞(pt/細胞)の範囲であった。
【0160】
1000pt/細胞または3MOIの投与量で(感染の重複度またはTU/細胞)、105脂質/ptのLipT-RvLacZはレポーター遺伝子発現と比べて1.5倍増加を示した。106脂質/ptのLipT-RvLacZは、RvLacZのみと比較して発現レベルが2.3倍増加した。トランスフェリンを含まないリポゾーム複合体は限られた増強のみ示した。従って、LipT-RvLacZ複合体の光学割合は、約10-1000カチオン脂質/Tf分子で約104-107カチオン脂質/ptを示し、好ましくは約10-50カチオン脂質/Tf分子で約106カチオン脂質/ptである。脂質/pt割合が高すぎるときは、沈殿化が起こり得る。
組織化学染色は、RvLacZ単独では20−30%の形質導入率であったが、トランスフェリン-リポゾーム複合体レトロウイルス LipT-RvLacZは60−80%の形質導入率であったことを示した。
【0161】
上述の結果は、トランスフェリン-カチオンリポゾームはレトロウイルスと複合化し、レトロウイルス遺伝子形質導入を実質的に強めることを証明した。
【0162】
実施例24
リガンド−リポゾーム−DNA複合体の電子顕微鏡分析
リポゾームは、電子顕微鏡(EM)、例えば、ネガティブ染色を使用する透過率電子顕微鏡(TEM)で、または走査電子顕微鏡(SEM)で観察できる。EMは、リポゾーム複合体の構造及びサイズ分布を明らかとすることができる。EMは、リポゾーム調製の品質コントロールにも使用できる。
【0163】
この実施例では、本願発明のリガンド−リポゾーム−医療用分子について観察される安定性と有効性を説明するものと思われる、新規かつ独特のトランスフェリン−リポゾーム構造を実例により示す。
【0164】
本発明によれば、リガンド−カチオン性リポゾームは、ネガティブ染色を用いて透過率電子顕微鏡下に観察される。この研究では、フォームバー(Formvar)及び炭素被覆した銅グリッド(Electron Microscopy Sciences, Fort Washington, PA)を使用した。リガンド−リポゾーム−pCMVp53複合体は、実施例2及び17に記載したようにして調製する。リポゾーム複合体の1滴をグリッド上に置く。5分後、余分の液をグリッドの端部で濾紙を用いて毛細管作用により除去する。次いで、4%酢酸ウラニウムの1滴をグリッドに添加し、ネガティブ染色する。5分後、余分の液を上記と同様にして除去する。グリッドを室温で15分間空気乾燥させてから、TEMの試料チャンバー内に入れる。この研究では、JOEL 1200EX、または、JOEL 100Sを製造者の指定どおりに使用した。10−50k、60kVoltのマグニチュードで写真撮影した。グリッド上のリポゾーム試料は、調製し、新たに染色してから1時間以内に観察した。
【0165】
多数の文献により、カチオン性リポゾーム−DNA複合体は種々の構造と100nmないし1000nmの範囲に広がるサイズを有すると報告されている。本発明の研究では、予想外に、本発明により調製されるリガンド−リポゾーム−DNA複合体がずっと小さいサイズのものであり、かつ、はるかに均一なサイズ分布のものであることを観察した。特に、LipT(A)−p53複合体は、直径約30−100nmの範囲のサイズ、好ましくは35−65nm(平均約50nm)のものである。カチオン性リポゾームLip(A)それ自体は、15−40nm、平均25nmのサイズのものであることから、トランスフェリンをLip(A)との複合体にしたとき、そのサイズは見掛け上変らなかった。しかしながら、リポゾーム壁または膜が厚くなっていることは観察され、トランスフェリンがリポゾーム膜上に複合体化したことが示された。拡大写真では、LipT(A)−DNA複合体のコアにおける不規則なまたは非中心性の玉葱様構造が観察された。この構造形成の中間段階、例えば、LipT(A)によるDNA鎖縮合の中間段階が同様に観察される。LipT(A)をDNAと混合させるためのインキュベーション時間を15分から5分に短縮すると、この中間段階がより多く観察される。
【0166】
TEM観察に基づけば、LipT−DNA複合体の独特の構造が、インビトロで、および、殊にインビボで観察される高効率遺伝子トランスフェクションにおいて重要な役割を果たしていると思われる。この非中心性の玉葱様コア構造は、LipT−DNA複合体形成中に下記段階を経由して形成されるものであろう。
【0167】
段階1.幾つかの(4−8またはそれ以上の)Tf−リポゾームが各DNA分子に接触し、電子的相互作用によりDNA鎖に結合する。
段階2.結合した各Tf−リポゾームがDNA鎖を包蔵あるいは凝縮させ、DNA鎖に沿って個別の薄板状構造を形成する。
段階3.これらの薄板状構造が凝縮して一つの薄板状コア構造を生成する。この固形コア構造は、4−8個のTf−リポゾームを合計したより小さなサイズのものである。
段階4.最終の凝縮中に、薄板状相から逆六方晶相への相移行が起こり、不規則なまたは非中心性の玉葱様構造を生じる。
【0168】
逆六方晶(HII)相は、薄板状(LII)相よりも、トランスフェクションにおいて実質的に一層有効であると信じられ、DNAの遊離および送達に相関していると思われている(Koltover, I. Science 281:78.1998)。Sternberg, B.(Biochim Biophys Acta 1998; 1375:23-35)は、凍結−破砕電子顕微鏡観察を用いて、トランスフェクション活性がインビボで最強であるDDAB/Cholカチオン性リポゾーム−DNA複合体における「マップ−ピン(map-pin)」構造を記載している。インビトロの高活性は、六角形の脂質沈殿と相関しているが、この報告者によれば、この高インビボ活性は、小さくて(100−300nm)安定化した複合体と相関するものと信じられている。
【0169】
文献上、リガンド−カチオン性リポゾーム−DNA複合体についての限外構造分析は全く見当たらない。本発明では、トランスフェリンまたはその他のリガンドの存在下において、LIIがHIIへ移行し易くなり、生成する不規則なまたは非中心性の玉葱様コア構造が、このリガンドによって安定化されるものと信じられる。薄板状から逆六方晶相への移行メカニズムについては、Koltoverにより示唆されていること以外に、このリガンドが重要な役割を果たしているものと思われる。リポゾーム表面に結合しているTf、またはリポゾーム表面に連結している葉酸塩(folate)が、相移行を助長または加速し、有効性が高度な非中心性玉葱様コア構造を生じるものと思われる。
【0170】
本明細書中に開示した製造条件では、LipT(A)−DNA複合体の95%以上が不規則なまたは非中心性の玉葱様コア構造を有する。この移行ではない場合は、段階3−4における凝縮した薄板状構造は、規則的なまたは中心性の玉葱様コア構造を好適に形成し、安定化するであろう。このLIIからHIIへの移行およびTf安定化は、インビボの遺伝子トランスフェクション効率が予想外に高いことを説明しているものと思われる。
【0171】
この複合体化が4段階のプロセスであることから、複合体形成に際し、各混合段階の中間でよく振り混ぜながら十分な時間インキュベートし、完全に非中心性のコア構造を形成させることが重要である。本明細書中に開示した製造操作では、インキュベーション時間は、各混合後約5−15分間とするべきであり、DNAとの混合後は約10−30分間、好ましくは約15−30分間とするべきである。
【0172】
本発明によるリポゾームの他の独特な性質は、それらの均一に分布した小サイズにある(直径が約100nm以下、好ましくは約75nm以下、さらに好ましくは約35−65nm(平均50nm)の直径)。インビボで標的腫瘍に到達するには、このリポゾームは、まず血漿に対して抵抗性であらねばならず、さらに血管(毛細管)壁を通過しなければならない。本発明の複合体は、血漿による分解に対して高い抵抗性を示す。腫瘍中の毛細管での浸透可能なサイズは、通常約50−75nmであり;それ故、この複合体は、毛細管壁を通過して標的に到達することができる。
【0173】
LipF(B)−DNA複合体のTEM構造は、LipT(A)−DNAのそれと類似であり、この複合体は、直径が30−100nm、好ましくは35−75nm(平均50nm)の範囲のサイズのものである。独特の不規則なまたは非中心性玉葱様のコア構造がこれにも観察される。薄板状から逆六方晶状への相移行も、類似の4段階プロセスで生じ得るが、これはインビボの遺伝子トランスフェクション効率が予想外に高いことを説明する。
【0174】
実施例25
リガンド−カチオン性リポゾームの安定性
安定性は、リポゾーム医薬品では重要な問題である。リポゾーム溶液は、製造後長時間安定でなければならず、出荷や貯蔵中にそれらの生物学的/医薬的活性を実質的に損失させることなく医療用薬剤として有用でなければならない。本発明のリガンド−リポゾーム−医療用分子複合体の将来的な臨床使用の観点から、このリガンド−リポゾームとリガンド−リポゾーム−DNA複合体の安定性を調べた。
【0175】
Lip(A)は水中で調製し、窒素中暗所に4℃で、最長6ヶ月に達する多様な時間貯蔵する。分析の当日、貯蔵してあったリポゾーム類を使用して、また新製Lip(A)の場合も同様にして、LipT(A)−pCMVb複合体を製造する。次いで、この複合体を使用し、実施例5に記載したようなトランスフェクション分析法を使用してJSQ−3細胞をトランスフェクトする。遺伝子導入発現レベルでの観察では、多様な期間貯蔵してあったLip(A)製剤と、新たに調製したLip(A)との間で、見分けられるような相違は全くなかった。別の実験では、12ヶ月間貯蔵してあったLip(A)製剤が、なお>90%のトランスフェクション活性を保持していた。このトランスフェリン溶液(5mg/ml水中)、および、10mMトリス−HCl(1mMEDTA、pH8.0)中のpCMVbプラスミドDNA(0.5−1.0μg/ml)は、それぞれ別に調製した。葉酸塩−リポゾーム複合体が同じ程度の安定性を有することが分かった。
【0176】
このリポゾーム類、Tf、およびプラスミドDNAは、それら自体個別的には全て貯蔵中安定である。しかし、それらを互いに混合してLipT−DNA複合体を形成させると、この複合体は時間の経過に対し不安定となる。例えば、このLipT−DNA複合体は僅かの日数しか安定でない。3日目には僅か50%のトランスフェクション活性しか残っていない。LipF−DNAでは、調製24時間後には60%のトランスフェクション活性しか残っておらず、3日後には実際上活性が完全に失われている。
【0177】
これらの観察に基づき明らかとなるように、本発明のリガンド−リポゾーム−医療用分子複合体の各成分は、キット形態で提供し得る利点がある。これらの各成分は、使用当日に、順次、まずTfをリポゾームに加え、続いてDNA溶液を加え(各混合操作の中間には、10−15分間インキュベートする)、次いでデキストロース5%を加え、互いに混合すればよい。この複合体は、それを調製した後は、実施に際してできる限り速やかに、好ましくは24時間以内に投与されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞標的用リガンド、リポゾームおよび治療用分子の複合体を包含する、宿主動物内の標的細胞へ治療用分子を全身的に送達するためのベクター。

【図1】
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【公開番号】特開2010−263920(P2010−263920A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184261(P2010−184261)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【分割の表示】特願2000−520754(P2000−520754)の分割
【原出願日】平成10年11月19日(1998.11.19)
【出願人】(594140915)ジョージタウン・ユニバーシティ (11)
【氏名又は名称原語表記】GEORGETOWN UNIVERSITY
【Fターム(参考)】