説明

標的核酸を検出又は定量する方法

【課題】 最近提案されているマルチプレックス法によるSNPタイピング法において、従来提案していた方法での磁性ビーズによる検出鎖の1本鎖化と抽出過程を省略し、より低コストで検出できる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明者らは、鋭意研究の結果、従来のマルチプレックス法によるSNPタイピング法において、変異部分をプローブの3'端に配置することによりSNPの識別能が著しく向上することに着目した。また、アシンメトリックPCRを利用することにより、従来の検出工程よりも容易かつ低コストでSNPを検出できることに着目し、本発明を創作するに至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的核酸を検出又は定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトのSNP(Single Nucleotide Polymorphism;1塩基多型)は、数百塩基に1つ程度の頻度で見られる遺伝子多型である。これらの変異は、コーディングリージョン、ノンコーディングリージョンを問わず広くゲノム上に散在しており塩基の置換のみならず挿入(インサーション)欠失(デリション)も見られる。ヒトゲノムの大きさは30億塩基対であるから1000塩基に1カ所そのような多型があったとしても300万のSNPがあることになる。このような膨大な数のSNPの中から医学的に有用なものを見つける研究作業に適切な実験方法はなかなかなかった。疾病とSNP、薬剤感受性とSNPの関連を明らかにするにはできるだけ多い人数の患者群と、コントロール群それぞれから、できるだけ多くのSNPを解析することで信頼度高く関連を見つけることができる。この用途に、例えば信頼性が高いサンガー法でDNAシーケンサを用いてタイピングするとする。シーケンシングするとSNPの周囲の塩基配列も確定し、挿入や欠失もわかるが、SNPのある遺伝子を増幅するためのプライマーの設計が大変で、シーケンシング反応の試薬や装置が高く、手間も多くかかる。また、一度のシーケンシングでタイピングできるSNPの数はその平均間隔とシーケンシング可能な塩基長からすれば平均1カ所か2カ所程度である。このように信頼性高いサンガー法では一度に調べられるSNPの数が限られ、時間とコストがかかるために、疾病とSNPの関係を明らかにする研究では対象とする遺伝子を絞ってタイピングをせざるを得なかった。
【0003】
研究段階でこのような困難に当たっているが、将来診断に応用された場合も同様な問題が起きると考えられる。今のところ1つの薬剤や疾病の感受性と関係のあるSNPセットは先に挙げた約300万カ所のうち、多くて数百カ所、数十カ所程度であると考えられる。例えばロシュ社の提供している薬剤感受性関連蛋白であるシトクロームP450のSNPタイピング用マイクロアレイでは遺伝子CYP2D6は29カ所、CYP2C19は2カ所のアレルをタイピングできるようになっており合計31カ所を調べることができる。このように、診断には何万カ所、何千カ所をタイピングする必要はなさそうであるが、数十カ所、多くて百数十カ所程度のSNPのタイピングが必要になると考えられている。これだけのタイピングにサンガー法を適用するには数が多いので、そのほかの実験手順のよりシンプルなSSCP(Single Strand Conformation Polymorphism)法、SSP-PCR(Sequence Specific Primers −PCR)法、蛍光TaqManプローブによるリアルタイムPCR解析法、等、1本の反応チューブ内で1つのSNPのアレルが存在するか否かを調べるいわゆる「モノプレックス」の検出方法が使われることになる。しかしモノプレックス法では反応容器をSNPの数だけ準備し、それぞれに検体のゲノムDNAを入れる必要があるので同時に処理できる検体数が限られ、試薬量も検体のゲノムDNAも多く必要であった。
【0004】
これらモノプレックス法に対して、90年代後半から提案されてきたのがマルチプレックス法である。先に挙げたロシュ社のシトクロームP450蛋白質のSNP検出用マイクロアレイも、1本の反応容器で反応し検出する点ではマルチプレックス法と呼ぶことができるが、これよりもより複雑で検出の柔軟性が高い方法が提案されている。マルチプレックス法の鍵となるのは、DNAタグと呼ばれる人工配列部分であり、天然の遺伝子配列を人工の配列に変換する反応とそのためのプローブ形状、DNAタグの識別検出技術である。同一の溶液内で複数の遺伝子をを1対1対応でDNAタグに変換し検出するので、それぞれのDNAタグは独立に反応するよう互いにクロスハイブリダイゼーションせず、同一溶液で同時に反応することから融解温度(Tm)が揃うように設計されている。検出デバイスを遺伝子配列そのものをプローブでとらえるマイクロアレイと違って遺伝子との対応付けは自由で、検出段階でいつも同じDNAタグを検出すればよく、検出対象の遺伝子が変わっても同一の検出手法、検出デバイスが使えるので柔軟性がある。
【0005】
このような方法として例えば、コーネル大学のバラニーらはLDR(Ligase Detection Reaction)なるリガーゼを使ったSNP検出方法とジップコードと呼ばれる人工配列のDNAタグへの変換を組み合わせて、同一の反応液内で複数のSNPを検出する方法を開発した。これはABI社の検出キットSNPlexとして商品化されている。(特表2000-511060、特表2001-519648、特表2004-526402)また、Orchid BioScience社は1反応液中で検出反応し、マイクロプレートの底に配置したマイクロアレイで12種類のアレルを見分けるSNP-ITという方法を提供している。(特許第3175110号、特表2002-508664)現在もっとも成功を収めていると思われるIllumina社は、SNPをポリメラーゼ伸長反応とリガーゼの連結反応で検出し、バラニーと同様にジップコード配列に変換してBead Arrayなる独自のマイクロアレイと同様な検出デバイスを用いて最大約1500種類を同時に検出する方法を提供している。(特表2002-519637、特表2003-521252)さらに遺伝病検出キットを研究用途で提供しているTM Bioscience社はLuminex社の蛍光で色分けしたビーズにより検出するマルチプレックス反応キットを提供している。(特表2004-522440、特表2004-526433)DNAタグへの変換の反応は重要であり、変換に使われる反応としてリガーゼ連結反応(OLA:Oligonucleotide Ligation Assay)や、ポリメラーゼによる1塩基伸長などがある。それぞれの方法で酵素がミスマッチハイブリッドを識別する能力を最大限生かしており、リガーゼ反応では連結するプローブの3’末端にSNPの塩基が配置されるように(Luo, J. et al., Improving the fidelity of Thermus thermophilus DNA ligase, Nucl. Acids Res. 24, 3071-78 (1996))プローブ配列が設定されている。さらに配列構造については、ABIやIlluminaの検出用核酸は2本のプローブからなり、それぞれにタグを増幅するためのプライマー配列が配置されており、プライマーの中間には検出するSNPや遺伝子の配列とDNAタグが配置されている。このため、DNAタグを増幅するときにプライマーはDNAタグの配列のみならず遺伝子配列も増幅するためにタグの増幅率がタグ毎に異なることがあった。
【0006】
これらマルチプレックス法の開発と商品化が進む中で、別の技術が遺伝子検出に変化をもたらしつつあった。その技術、DNAコンピューティングは1994年に南カリフォルニア大学のエーデルマンが最初に提案したもので、DNAの反応により電子計算機が苦手とする組み合わせ問題を解いた実験の論文であった。この論文はDNAを使って計算ができ、問題によっては電子計算機を上回る速度とはるかに少ないエネルギーで計算できることを示した。しかしそれだけでなくこの論文以降のDNA計算研究の成果は、遺伝子検査の視点から見れば誤差の少ない、すなわちクロスハイブリダイゼーションしにくい、反応性の揃った、すなわちTmの揃った人工配列を設計する技術の発展、DNAそのもので計算することから遺伝子で演算する発想につながっていった。
【0007】
DNAコンピューティング技術の遺伝子解析への応用をいち早く発想した日本の陶山らは特許文献1および2にあるように、それまでのDNAコンピューティング技術の検討の中から得られた人工配列の有用性に注目して、天然の遺伝子配列を特性の揃った人工配列に変換して検出するマルチプレックス法を提案した。さらに引き続き特開2002-181813にあるように遺伝子と対応づけられて抽出された人工配列の論理演算、すなわち遺伝子の論理演算による遺伝子解析や疾患関連SNPの組み合わせを電子計算機を使わずに見つける方法を提案した。同時期に特開2002-318992にあるようにDNAコンピュータのハイブリッドアーキテクチャと、遺伝子発現計測に応用した場合の形態、実験方法をも提案している。陶山らの提案したマルチプレックス検出用プローブは、アンカープローブ、アダプタプローブと呼ばれる2つのプローブからなり、発現計測ではアダプタプローブ側にDNAタグ配列とタグ配列を増幅するためのプライマー配列が集中して配置されており、先に挙げたマルチプレックス法のためのプローブ構造と違い、遺伝子配列をプライマー間に含まないためにDNAタグ毎の増幅特性の差がほとんどない特長をそなえている。
【0008】
これらの先駆的研究に続いてアメリカのMillsは(Gene expression profiling diagnosis through DNA molecular computation., Trends Biotechnol. vol. 20 : pp.137-40(2002))で遺伝子発現計測にDNAコンピューティング技術が使える可能性を示し、イスラエルのShapiroらは(An autonomous molecular computer for logical control of gene expression., Nature. vol. 429: pp.423-9. (2004))で、がん細胞内でDNAコンピューティングで論理演算することで診断し、診断結果に応じて遺伝子治療を行うための基礎的な実験結果を示し注目されている。
【特許文献1】特許第3103806号公報
【特許文献2】国際公開第01/025481号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
最近提案されているマルチプレックス法によるSNPタイピング法において、特開2002-318992のように、タグ核酸をPCR増幅して2重鎖の増幅産物を得て、次に検出のために変性してから検出操作に移っていた方法での磁性ビーズによる検出鎖の1本鎖化と抽出過程を省略し、より低コストで検出できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究の結果、従来のマルチプレックス法によるSNPタイピング法において、変異部分をプローブの3'端に配置することによりSNPの識別能が著しく向上することに着目した。また、アシンメトリックPCRを利用することにより、従来の検出工程よりも容易かつ低コストでSNPを検出できることに着目し、本発明を創作するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、所定の配列を有する核酸を含む試料中の標的核酸を検出又は定量する方法であって、1)前記標的核酸中の部分配列に相補的な配列を有する標識されたコモンプローブと、前記標的核酸の部分配列に相補的な配列を有し、かつタグおよびクエリプローブを備えたタグ核酸と、前記試料とを混合して、標的核酸にタグ核酸のクエリプローブ部分およびコモンプローブをハイブリダイズさせる工程と、2)前記標的核酸にハイブリダイズしたタグ核酸のクエリプローブ部分およびコモンプローブを連結させて、タグ核酸およびコモンプローブの連結分子を生成させる工程と、3)前記連結されたタグ核酸およびコモンプローブを回収する工程と、 4)回収された前記連結されたタグ核酸およびコモンプローブのタグ部分を、1本鎖の増幅産物が得られる増幅方法を使用して増幅する工程と、5)前記増幅されたタグ部分を検出する工程とを具備する方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記方法であって、上記1)の工程は、複数のタグ核酸とコモンプローブとを、試料と混合して、試料中の複数の標的核酸に同時にハイブリダイズさせる工程である方法を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、上記方法であって、1本鎖の増幅産物が得られる増幅方法は、アシンメトリックPCRである方法を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、上記方法であって、クエリプローブ部分およびコモンプローブの連結は、リガーゼによって行われる方法を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、上記方法であって、増幅されたタグ部分の検出は、DNAマイクロアレイへのハイブリダイゼーションによって行われる方法を提供する。
【0016】
さらに、本発明は、上記方法であって、タグ部分の増幅は、蛍光により識別可能なビーズに固定されたプローブを使用して行い、かつ前記増幅されたタグ部分の検出は、該ビーズの蛍光を検出することによって行われる方法を提供する。
【0017】
さらに、本発明は、上記方法であって、タグ核酸の一部または全てが相補的な配列を有する核酸と共に2本鎖を形成する方法を提供する。
【0018】
さらに、本発明は、上記方法であって、所定の配列を有する核酸を含む試料は、マルチプレックスPCRによりゲノムDNAを増幅した断片を標的核酸として含む方法を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、上記方法であって、ゲノムDNAを増幅した断片は、さらに変性されたDNAである方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図1を参照しながら、本発明の方法の一態様を説明する。
【0021】
本解析方法には以下のような分子が必要である。従って、本解析に先駆けて、以下の分子を調製する。当該調製はそれ自身公知の方法により行うことが可能である。
【0022】
溶液に含まれる標的核酸を検出するために図1に示す2つのプローブを準備する。一方は、標的核酸の一部分の配列(部分配列)に相補的な配列を含み且つ3’端にビオチンなどで標識したオリゴヌクレオチドのコモンプローブである。上記コモンプローブの標識は、ビオチンだけでなく、ビオチンや抗体など、特定の物質と特異的に結合し得る任意の物質であってもよい(たとえば、ビオチンであれば、ストレプトアビジンと特異的に結合できる)。
【0023】
他方のオリゴヌクレオチドは、人工的に設計されたSD、D1_iおよびEDなる塩基配列からなるタグを5’端側に有し、標的核酸の一部分の配列に相補的であり且つ上記コモンプローブの標的に相補的な配列に隣接するような配列を有するクエリプローブを3’端側に含む。該プローブは、本明細書においてタグ核酸と呼ぶ。また、上記人工的に設計した塩基配列は、当該相補的な配列よりも5’末端側に配置される。また、上記コモンプローブの標的cDNAに相補的な配列の5’端はリン酸化されている。また、上記タグ核酸のタグ部分およびクエリプローブ部分は、その一部または全てが2本鎖になったオリゴヌクレオチドであってもよい。このとき、2本鎖のオリゴヌクレオチドを構成するもう一方の鎖は、SD、D1_iおよびEDの配列に相補的な配列をもつオリゴヌクレオチドである。上記タグ核酸のクエリプローブ部分およびコモンプローブは、溶液中に存在するまたは存在しないことを検出したい標的遺伝子のそれぞれについて任意に設計することができる。またこのとき、D1_iの配列は標的ごとに異なる配列になるように設計し、SDおよびEDはすべてのタグ核酸で共通する配列になるように設計する。これらの人工的な配列は、任意に設計可能であるので、所望するTm値を設定することが可能である。従って、安定に且つミスハイブリダイゼーションの少ない反応を行うことが可能である。たとえば、上記人工的な配列として、正規直交化配列を使用することが好ましい。正規直交化配列とは、核酸分子の配列であって、そのTm値が均一であるもの、即ちTm値が一定範囲内に揃うように設計された配列であって、核酸分子自身が分子内(intramolecular)で構造化して、相補的な配列とのハイブリッド形成を阻害することのない配列であり、尚且つこれに相補的な塩基配列以外とは安定したハイブリッドを形成しない塩基配列を意味する。すなわち、1つの正規直交化配列群に含まれる配列は、所望の組み合わせ以外の配列間および自己配列内において反応が生じ難いか、または反応が生じない。また、正規直交化配列は、PCRにおいて増幅させると、たとえば上述のクロスハイブリダイゼーションのような問題に影響されずに、当該正規直交化配列を有する核酸分子の初期量に応じた量の核酸分子が定量的に増幅される性質を有している。上記のような正規直交化配列は、H. Yshida and A. Suyama, "Solution to 3-SAT by breadth first search", DIMACS Vol.54 9-20(2000)および特願2003-108126に詳細が記載されている。これらの文献に記載の方法を使用して正規直交化配列を設計することができる。簡単には、予め無作為に塩基配列を複数作出することと、それらの融解温度の平均値を求めることと、その平均値の±t℃で制限される閾値を基に候補配列を得ることと、独立して反応する配列であるか否かを指標に得られた候補配列から正規直交化配列群を得ることを具備する方法によって作製することができる。
【0024】
また、上記タグ核酸のSD、D1_iおよびEDの長さは、それぞれの反応、つまりPCRやアシンメトリックPCR、サイクルエロンゲーション、ハイブリダイゼーション反応で反応を実施するアニーリング温度付近にTmをもつ塩基組成、長さを選べばよい。望ましくは15塩基から35塩基程度で、合成しても精製コストがかかりにくいような長さがよい。また、最適反応温度としては40℃以上で、PCRに一般的に使用される耐熱菌のポリメラーゼの至適温度の72℃以下がよい。
【0025】
上記核酸に加えて、SD配列と同じ配列を有するプライマー1と、5’端に標識をしたED配列に相補的な配列を有するプライマーが必要である。ここで「相補的な配列」とは、適切な条件下において、所定の標的核酸のみに特異的にハイブリダイズし得る配列を意味する。
【0026】
上記ED配列に相補的な配列を有するプライマーの標識物質は、好ましくは蛍光物質、発光物質、32P等の放射性物質、高吸収性物質、高光反射性物質、高電位性物質、磁性物質、及び色素であるが、これらに限定されない。特に蛍光物質、放射性物質、及び色素は好ましい標的物質である。より具体的には、Cy3、Cy5、FITCのような蛍光色素や量子ドット、化学発光検出で使われるDIG(ジゴキシゲニン)やビオチンなどが標識として考えられる。
【0027】
本方法の第1工程では、標的核酸の存在を検出又は定量すべき試料と、タグ核酸およびコモンプローブを混合して、標的核酸にタグ核酸のクエリプローブ部分およびコモンプローブをハイブリダイズさせる工程である。
【0028】
本明細書において、「核酸」には、cDNA、ゲノムDNA、合成DNA、mRNA、全RNA、hnRNA、合成RNAを含む全てのDNA及びRNAを意味するものとする。検出又は定量すべき前記標的核酸は、任意の配列を有する任意の核酸であり得るが、遺伝病の原因遺伝子、癌関連遺伝子、又はウイルス由来の核酸など疾病のマーカーとなり得る核酸は、とりわけ好ましい標的核酸である。それ故、前記試料には、血液、尿、唾液等の体液が含まれるが、体液以外の任意の試料を使用し得る。試料が固体であれば、酵素処理、界面活性剤又は有機溶媒の添加等の適切な方法で液体に溶解させればよい。上記の他にも、本方法の実施に当たって標的核酸は、随意に変更することができる。例えば細胞を株化して大量培養したり、抹消血を多めに取得したりすることで本方法に必要なヒトゲノムDNAを大量に調製することにより、直接ゲノムDNAから検出反応を始めることができる。また、これに代わって、少量のゲノムDNAを取得し、アマーシャムバイオサイエンス社の試薬キットGenomiPhiのようなWGA法(Whole Genome Amplification )で、非特異的にゲノムDNAを増幅した試料から検出反応を始めてもよい。また、PCR法や、マルチプレックスPCR法、アシンメトリックPCR法のようなプライマーを用いて特定の配列を増幅したものから検出反応を始めてもよい。特に、本発明の方法をSNP特異的配列を検出するために使用する場合、標的核酸は、ゲノムDNAなどであることが想定されるが、この場合は、予め標的のSNPを含む領域をPCRなどで増幅しておいてもよい。そのほかの酵素的に増幅する方法によりそれぞれ得られた試料は、2重鎖試料の場合は、95℃まで加熱してから4℃に急冷して1本鎖化したり、塩濃度のきわめて低い溶液中で95℃まで加熱し断片化する、また、超音波で断片化する、制限酵素で切断する等の1本鎖化、断片化操作を加えてから検出操作してもよい。
【0029】
また、本発明の方法を、SNP特異的配列を検出するために使用する場合、上記タグ核酸のクエリー部分の3'末端は、検出したいSNP配列となるように、またコモンプローブの5'末端は、該SNP配列に隣接するように、タグ核酸およびコモンプローブを設計すればよい。
【0030】
タグ核酸およびコモンプローブを対応する標的核酸にハイブリダイズさせるには、標的核酸が一本鎖ならば、別段の処理を行わずに、標的核酸を含む試料と両プローブ群を混合すればよい。標的核酸が二本鎖である場合には、例えば90℃程度の高温で数分間静置して、相補的結合を解離させた後に、両プローブ群を添加し、例えば50℃程度の温度で2〜3時間静置することにより、ハイブリダイズを行えばよい。勿論、ハイブリダイゼーションの条件、すなわち使用する緩衝液の種類、温度条件、時間等は標的核酸の種類に応じて適宜選択し得ることは、当業者であれば自明であろう。
【0031】
本方法の第2工程では、対応する各標的核酸にハイブリダイズしたタグ核酸のクエリプローブ部分およびコモンプローブを連結する工程である。ハイブリダイゼーションを行うと、クエリプローブ部分およびコモンプローブは、対応する標的核酸に結合するので、リガーゼ等を作用させてライゲーション反応をおこなうことにより、連結部を介してクエリプローブ部分およびコモンプローブを連結させることが可能となる。
【0032】
両プローブ群の連結するために使用し得る好適なリガーゼには、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)のTaqDNAリガーゼが含まれるが、これに限定されず、標的核酸の種類に応じて任意のDNAリガーゼ又はRNAリガーゼを使用し得る。また、酵素的な手法に変えて、化学的な手法で両プローブ群を連結してもよい。
【0033】
第3の工程では、連結されたタグ核酸およびコモンプローブを回収する。たとえば、コモンプローブをビオチンで標識した場合、ストレプトアビジンを表面に結合した磁気ビーズを使用することにより、コモンプローブのビオチン標識を介して連結オリゴヌクレオチドを抽出することができる。このとき、ライゲーション反応において未反応のコモンプローブもビーズに捕獲されるが、以後の反応には関係しない。また、上記回収には、固相担体を用いる方法が極めて好ましいが、固相化すべき固相担体には、上記磁気ビーズの他、ストレプトアビジンを表面に固定したマルチタイタープレートにより溶液から分離してもよい。また、コモンプローブの標識を変えることにより、その標識をとらえる固相表面に吸着し、回収してもよい。シリコンやガラス等の基板、その他の粒子が含まれるが、これらに限定されない。特に、SNPの検出に本発明の方法を使用した場合、使用したクエリプローブ部分の3'末端が、標的配列のSNP部分の配列に相補的であれば、連結オリゴヌクレオチドが回収されるが、相補的ではない場合は、コモンプローブのみが回収されることとなる。
【0034】
第4の工程では、対応する標的核酸から、連結されたタグ核酸およびコモンプローブを解離させる。この操作によって、最初の溶液に標的核酸が存在していれば、それに対応するD1_i配列を含んだオリゴヌクレオチドが抽出される。標的核酸と連結オリゴヌクレオチドの解離は、化学的変性及び熱的変性を含む変性処理によって達成される。たとえば、化学的変性によって連結されたオリゴヌクレオチドを解離させる場合には、アルカリ変性などの当業者に周知の処理を行えばよい。熱的変性により連結オリゴヌクレオチドを解離させる場合には、生理的条件下では、85℃以上、好ましくは90℃以上の温度にすればよいが、当業者であれば、適切な解離方法を選択し得るであろう。
【0035】
続いて、第5の工程では、1本鎖の増幅産物が得られる増幅方法を使用して、解離した連結オリゴヌクレオチドのタグ部分をテンプレートとした増幅反応を行う。たとえば、1本鎖の増幅産物が得られる増幅方法として、アシンメトリックPCRによる増幅を行えばよい。たとえば、SD配列と相同なプライマーと、ED配列に相補的なプライマーを使用し、この連結オリゴヌクレオチドをテンプレートとしてPCR増幅反応を行う。このとき、過剰に加えたプライマーの5'’端には、適切な標識物質(たとえばFITCなどの蛍光標識)で標識しておくことが好ましい。上記増幅により、試料中に標的核酸が存在していた場合には、D1_i配列が増幅されることとなる。
【0036】
また、上記の他に、1本鎖の増幅産物が得られる増幅方法として、十分な量のゲノムDNAまたはゲノムDNA増幅物から検出操作をした場合、検出用標識をつけた側のプライマーのみを入れ、PCR増幅と同様の酵素、溶液、熱サイクリングでサイクルシーケンシング法と同様に1本鎖のタグ相補鎖を合成する反応にしてもよい。この方法は、発明者らによりサイクルエロンゲーション(Cycled Elongation )法と呼ばれている。該方法による増幅によっても1本鎖の標識タグを精製させることができるであろう。
【0037】
次いで、第6の工程では、増幅されたタグ部分を検出する。検出は、当該技術分野において既知のいずれの方法を使用して行ってもよく、たとえば上記増幅反応で1本鎖の標識タグ核酸を合成した場合、反応が終わった時点で検出反応に入ってもよい。すなわち、以上の増幅操作において、一方のプライマーの5'’端をFITCなどの適切な標識物質で標識したプライマーを使用した場合、増幅産物には標識物質が連結されることとなるので、標識物質に応じた適切な方法により増幅産物を検出又は定量できる。たとえば、増幅産物に含まれるD1_i配列に相補的なプローブを固定したDNAマイクロアレイへのハイブリダイゼーションなどを使用することにより、増幅産物を検出することができるであろう。また、上記増幅工程において、プローブのいずれか一方を蛍光により識別可能なビーズに固定したプローブを使用することにより、該ビーズの蛍光を検出することによって、増幅産物を検出することもできる。このような検出は、当業者であれば任意の方法を使用して行うことができるであろう。
【0038】
また、2重鎖の標識タグを増幅した場合は、検出反応までに1本鎖への変性操作が必要であろう。これは、次の方法によって実現できる。例えば、検出しない側のタグ鎖を合成するためのプライマーの5’端にビオチンを標識しておく。こうすれば上記増幅反応でのPCR増幅後、ビオチンで被覆した磁気ビーズや、多穴プレートのウェルにてビオチン化2重鎖タグ核酸を溶液から分離することができる。分離した2重鎖は、低い塩濃度のバッファ中で95℃に加熱したり、NaOH水溶液などのアルカリにより変性して標識したタグ核酸を1本鎖化して溶液中に分離させてもよい。
【0039】
また、一本鎖化された増幅産物の検出反応では、上記のように増幅反応以降に得られた複数のタグ核酸部分をそのタグ核酸部分の配列ごとに定量することもできる。このための検出には、例えばスライドグラス上に微小なプローブスポットを固定したDNAマイクロアレイや、Luminex社の蛍光で識別可能なビーズ、Illumina社のファイバ端にビーズを吸着したビーズアレイなどの使用が考えられる。また、特開平11-75812にあるキャピラリアレイなども溶液中にある多種のタグをプローブを用いて検出するのに好適な検出デバイスである。これら検出デバイス上に増幅反応もしくは増幅反応後の変性過程を経た1本鎖標識タグをハイブリダイズさせ、繊条によって非特異ハイブリッドをのぞいた後、タグに施した標識を検出する操作、例えば化学発光反応や、蛍光色素の標識ならばマイクロアレイスキャナや、CCDカメラによる画像検出、フローサイトメーターによる蛍光ビーズの検出などが考えられる。これらの検出データから、対応する標識タグの量を算出し、それに応じてSNPのどちらのアリルのホモ接合なのか、ヘテロ接合なのかをソフトウェアで判断したり、さらにタイピング結果として電子にファイル化したり、データ記録媒体に記録したり、グラフ化して表示したり、紙に印刷することもできる。
【0040】
上記の通り、本発明の方法におけるタグ核酸とコモンプローブのライゲーションは、これらが標的核酸とハイブリダイズしなければ起こらないので、増幅産物を検出又は定量することによって間接的に各標的核酸を検出又は定量し得ることになる。
【0041】
また、上記工程のいずれにおいても、適宜洗浄工程をさらに含んでいてもよい。
【0042】
さらに、上記所定の配列を有する核酸を含む試料は、マルチプレックスPCRによりゲノムDNAを増幅した断片を標的核酸として含む試料であってもよい。すなわち、少量のゲノムDNAからあらかじめSNPを含むようにプライマーを設計し、そのプライマーでPCR増幅したものを検体として検出操作をすることもできる。該操作を行うことにより、SNPの周囲配列のみが増幅されるので、類似配列を間違って検出することが減る。また、検出に必要なゲノムDNAが少なくて済むであろう。また、上記試料に含まれる核酸は、さらに熱変性などを行って1本鎖としておいてもよい。
【0043】
ライゲーション反応を利用してSNPを検出する際に、使用するプローブの3’端にSNP塩基を配置することによって、リガーゼによる塩基対ミスマッチの識別能があがることが知られている。上記方法では、クエリプローブ部分の3’端にSNP塩基を配置することによって、塩基対ミスマッチの識別能があがり、より正確なタイピングが可能になると考えられる。
【0044】
また、本発明に使用したアシンメトリックPCRでは、1本鎖の増幅産物が得られる。したがって、本発明の方法のように、従来のPCR増幅ではなくアシンメトリックPCRによる増幅反応を利用することにより、1本鎖の標識済みタグが生成させることができる。アシンメトリックPCRは、従来のPCRよりも反応時間がかからず、従来法でおこなっていた磁気ビーズによる1本鎖化過程が不要になりコストがかからなくなる。また、線形な増幅が可能になり、アレルの存在比を間違いなく検出することができ、ホモ接合、ヘテロ接合の識別がより容易になる。
【0045】
また、本発明に使用したサイクルエロンゲーション法では、相補鎖合成により、1本鎖の標識タグを得られる。本発明の方法のように、従来のPCR増幅ではなくサイクルエロンゲーション法による増幅反応を利用することにより、従来法でおこなっていた磁気ビーズによる1本鎖化過程が不要になりコストがかからなくなる。また、線形な増幅が可能になり、アレルの存在比を間違いなく検出することができ、ホモ接合、ヘテロ接合の識別がより容易になる。
【0046】
本発明には次の実施の形態が考えられる。
【0047】
本発明の検出方法の用途、場所には次のものが考えられる。例えばヒト遺伝子型と疾患の関連性の解明、薬剤感受性の検出、遺伝子制御領域の蛋白結合性の変化の検出、対象生物をヒトから別の生物に変えての遺伝子多型の分子生物学的な解析などの研究用途がある。これら研究は大学、企業等の研究所、研究室で行われるであろう。また、遺伝子と特定の疾患との関連性、罹患リスクや、薬剤感受性が明らかにされた時点で、病院の検査センターでの治療方法を選択するための検査や人間ドックでの予防のための診断、副作用の小さい抗ガン剤の選択のための薬剤感受性検査等、医療用に使えると考えられる。
【0048】
本発明の方法を実現するための形態としては、ユーザー自ら方法を実施するための研究用、診断用遺伝子多型検出試薬キットおよび自動的に処理する自動反応装置による実施、ユーザーや被検者に代わっての受託研究、検査センターでの診断等の実施が考えられる。
【0049】
以下、本発明の方法を使用してSNPタイピングを行った実施例を示す。
【実施例】
【0050】
本発明の方法によるタイピングは次の手順でおこなった。
【0051】
(1) プローブ、プライマー配列設計
(2) ゲノムDNAの増幅
(3) エンコード反応(コモンプローブ、タグ核酸、および標的核酸を混合してハイブリダイズさせること、タグ核酸およびコモンプローブの連結オリゴヌクレオチドを作製すること、並びに連結オリゴヌクレオチドを回収することを含む)
(4) 増幅反応
(5) 検出
以下、実施内容を説明する。
【0052】
検出対象とするSNPの塩基配列は、東大医科学研究所の整備した日本人のSNPのデータベースJSNP(http://snp.ims.u-tokyo.ac.jp/index_ja.html)から得た。それぞれのアクセション番号は、IMS-JST164838(SNP#3), IMS-JST058048(SNP#4), IMS-JST005689(SNP#5), IMS-JST054229(SNP#6), IMS-JST001164(SNP#7), IMS-JST017558(SNP#8), IMS-JST175404(SNP#9), IMS-JST054214(SNP#10), IMS-JST011815(SNP#11), IMS-JST156026(SNP#12)であり、合計10個の SNPである(表1)。以後、名前が長いために()内の略番号で記すことにする。検出した試料は(財)ヒューマンサイエンス振興財団のヒューマンサイエンス研究資源バンクが頒布(http://www.jhsf.or.jp/bank/psc.html)しているヒト抹消血細胞を株化したものから抽出したヒトゲノムDNAである。購入した試料はPSCDA0503, PSCDA0328, PSCDA0719, PSCDA0785, PSCDA0415, PSCDA0716, PSCDA0693, PSCDA0117なる番号であった。以降それぞれ数字部分の503, 328, 719, 785, 415, 716, 693, 117で呼ぶことにする。
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
表2は、試料のサンガー法によるシーケンシング結果であり、このシーケンシングにはアプライド・バイオシステムズ社のPRISM 3100Genetic Analyzerを用い、三井情報開発のシーケンサー出力波形解析ソフトウェア波平を使用して各SNPのアレルを決定した。
【0055】
以下、それぞれのゲノム試料を処理した方法について具体的に記す。
【0056】
実施例の検出では最初に、ゲノムDNA 5ngから標的のSNPを含む領域をマルチプレックスPCRにて増幅した。この操作は次の手順でおこなった。
【0057】
このPCR反応に用いる溶液にはマスターミックスとして50回分の反応液を作成した。液の組成は次のとおりであり、プライマー配列は表3のとおりである。
【表3】

【0058】
反応液には、Invitrogen社の製品であるAccuPrime Super Mix IIを用いた。プライマー配列は米国DNA ソフトウェア社のVisual OMPを用いて設計した。
AccuPrime SuperMix II (Invitrogen社製) 500μl
フォワードプライマー 10種 (各50 μM) 各2μl
リバースプライマー 10種 (各50 μM) 各2μl
合計 540μl
このマスターミックス10.8 μlにゲノムDNA 5 ngを加え、さらに20 μlになるまで超純水を加えて、反応液が完成する。反応のための熱サイクルは次のとおりである。サーマルサイクラーにはMJリサーチ社のPTC-200を用いた。
【0059】
1.プレ加熱 94℃ 2分
2. 変性 94℃ 30秒
3. 伸長 68℃ 6分 [2, 3を40サイクル]
4. 最終加熱 68℃ 10分
5. 保存 4℃ 温度固定
以上により標的SNPを含むゲノムのPCR産物が得られた。
【0060】
次にエンコード反応をおこなった。エンコード反応は、コモンプローブ、タグ核酸、および標的核酸を混合してハイブリダイズさせること、タグ核酸およびコモンプローブの連結オリゴヌクレオチドを作製すること、並びに連結オリゴヌクレオチドを回収することを含む。
【0061】
反応50回分のマスターミックスの組成は次のとおりである。リガーゼにNew England Biolab社のTaq リガーゼを用いたので、付属の10×バッファを使用した。コモンプローブ、タグ核酸の配列は表4および表5のとおりである。
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
タグ配列は各23塩基の長さであり、プライマー配列1(SD)、各アレルを識別するための配列(D1_i)、プライマー配列2(ED)の順に5’端から配置した。タグ核酸の配列は、正規直交化配列である。
【0064】
コモンプローブ(100nM) 10種 各5μl
タグ核酸(100nM) 20種 各5μl
10×Taq DNA リガーゼ 反応バッファ 150μl
合計 300μl
最初のゲノムのPCR産物は2重鎖なのでそのままではリガーゼ反応に適さない。よって、変性をおこなう。PCR反応液を冷凍保存して一度酵素活性をなくしたあとの溶液を次の手順で変性した。最初95℃で5分間加熱し、変性させた。変性後、ただちに氷中に入れ、変性したDNAの鎖が分子内構造をとることで再会合しにくい状態にした。
【0065】
これをもとに次の組成のエンコード反応液を作製した。用いたTaq リガーゼはNew England Biolab社製である。超純水はミリポア社のMilli-Q Synthesisにより作製した。
【0066】
ゲノムPCR産物 1μl
エンコード マスターミックス 6μl
Taq DNA リガーゼ 0.5μl
超純水 22.5μl
合計 30μl
このエンコード反応液を次の温度で反応させた。加熱に用いたのはサーマルサイクラー、PTC-200である。
【0067】
1. リガーゼ反応 58℃ 15分
2. 保存 4℃ 温度固定
これによりエンコード反応のうち、リガーゼによる連結反応を終わる。次に、ストレプトアビジン磁気ビーズに、ビオチン化コモンプローブおよび、連結されたタグ核酸とコモンプローブをとらえる操作をおこなった。溶液組成は次のとおりである。
【0068】
エンコード産物 30μl
2×B&Wバッフー 16.5μl
ストレプトアビジン磁気ビーズ 1μl
ストレプトアビジンで表面をコートした磁気ビーズは、Dynal社のM-280磁気ビーズで、このビーズの説明書に従い、次の組成の溶液をB&Wバッファとして用いた。
【0069】
Tris-HCl(pH 7.5) 10 mM
EDTA 1 mM
NaCl 0.2 M
ストレプトアビジン磁気ビーズ(以降磁気ビーズと呼ぶ)は、出荷された防腐剤を含む原液から1μlをとり、原液をB&Wで置換して再び1μlにしたものである。このようにして作製した溶液を磁気ビーズが溶液によく分散するようにして室温下で、15分間振盪する。
【0070】
振盪が終了したら、磁気ビーズの洗浄をおこなう。洗浄は次の手順でおこなった。
【0071】
1.磁石にて磁気ビーズを凝集させ、B&Wバッファをのぞく。
【0072】
2.室温下で100μlの1×B&Wバッファに再分散し、ピペッティングした後、磁石で磁気ビーズを凝集させB&Wバッファをのぞく洗浄操作を2回おこなう。
【0073】
3.室温下で0.2NのNaOH水溶液100μlに再分散し4分間振盪機で振盪する。
【0074】
4.磁石で磁気ビーズを凝集させNaOH水溶液をのぞく。
【0075】
5.室温下で100μlのTEで、2の要領で2回洗浄する。
【0076】
この洗浄操作で、非特異的に付着したDNAがのぞかれた磁気ビーズが得られた。これをエンコード済み磁気ビーズと呼ぶ。
【0077】
次に、増幅反応でアシンメトリックPCRをおこない、タグの増幅と標識をおこなった。これもまた50回分のマスターミックス溶液を作製し、組成は次のとおりである。用いたプライマーは表6の通りである。
【表6】

【0078】
プライマー1はSDに相当する配列であり、プライマー2は、EDに相当する配列であり、Cy5-cEDとは、EDの相補鎖に相当する配列を有し5’端に蛍光色素Cy5を標識したものである。今回の実施例ではSD:Cy5-cEDの量比は1:5になっているが、1:10でもよく、アシンメトリックPCRとして蛍光標識した鎖が1本鎖の状態で得られるならば濃度比は適当に選んでよい。ポリメラーゼにタカラバイオ社のEx Taqを用いたため、作製に用いる10倍濃度バッファとdNTP混合物はキットに付属のものを用いた。なお10倍濃度バッファにはマグネシウムイオンを20mM含むタイプを使用した。プライマーは超純水で希釈した。ここで、もしサイクルエロンゲーションを行う場合は、片方の検出用標識のないプライマーの量を0とすればよい。
【0079】
プライマーSD(10 μM) 12.5μl
プライマーCy5-cED(10 μM) 62.5μl
10×Ex Taq バッファー 250μl
dNTP混合物 200μl
超純水 62.5μl
合計 587.5μl
以上のマスターミックスを用いて、次の反応液を作製した。
【0080】
アシンメトリックPCRマスターミックス 11.75μl
超純水 37.75μl
Ex Taq ポリメラーゼ 0.5μl
合計 50μl
溶液をのぞいたエンコード済み磁気ビーズにこの反応液を混ぜて、ビーズを分散させた。反応の熱サイクルは次のとおりである。サーマルサイクラーにはPTC-200を用いた。もしサイクルエロンゲーション法を用いるならば、サイクル数は30〜40サイクルが好ましい。
【0081】
1. 変性 94℃ 1分
2. 変性 94℃ 30秒
3. アニーリング 65℃ 1分
4. 伸長 72℃ 1分 [2〜4を15サイクル]
5. 冷却 4℃ 温度固定
以上により増幅反応が完了した。ここで得られたものを標識PCR産物と呼ぶことにする。
【0082】
最後に検出反応をおこなった。検出には、キャピラリアレイ(特開平11-75812)を用いた。キャピラリアレイはDNAマイクロアレイに似たハイブリダイゼーションで核酸を検出するデバイスであり、溝状の流路に沿ってプローブがスポットされている。今回使ったキャピラリアレイは1本の溝の中にタグ検出用のプローブが10点固定してあるもので、溝の容量は25μlであった。キャピラリはシリコンゴムの板に形成されており、プローブを直線状にスポットしたスライドガラスにシリコンゴムの粘着性を利用して貼り付けるものである。この溝の両端には溝の反対側の面に貫通する穴があけてあり、溝のある面をスライドガラス側に貼り付けても、それら貫通穴から試料液を注入・抜き取り出来るようになっている。プローブ固定用ガラススライドにはタカラバイオ社が発売するハッブルスライドを用い、プローブのスポッティングには日立ソフトウェアエンジニアリング社のSP-BIOを用いた。プローブDNAの配列は表7にあるとおりで、増幅反応で得られるタグの識別用配列に相補的な配列を使用した。
【表7】

【0083】
事前にシリコンゴムはスライドガラスのスポットに合うように貼り付け、50℃に温めておいた。
【0084】
標識PCR産物をこのキャピラリアレイにハイブリダイゼーションさせた。アシンメトリックPCR溶液中には磁気ビーズが残留しているので、これを吸わないように磁気ビーズを集めて上清をとった。
【0085】
標識PCR産物 50μl
20×SSC 25μl
10% SDS 2μl
超純水 23μl
合計 100μl
このハイブリダイゼーション溶液を事前に50℃に温めておき、同様に温めておいたキャピラリアレイに25μl注入して50℃で30分間ハイブリダイゼーションした。ハイブリダイゼーション溶液が蒸発しないように超純水で湿らせたペーパータオルを敷いたタッパウェアに入れてハイブリダイゼーションをおこなった。続いて、洗いは次の手順でおこなった。
【0086】
1.ピペットでハイブリダイゼーション液を抜き取る。
【0087】
2.乾燥を防ぐためただちに1×SSCと0.2%SDSを成分とするウォッシング液を20μl注入する。
【0088】
3.スライドガラスからシリコンゴム製の溝を外す。
【0089】
4.スライドガラスを1×SSCと0.2%SDSを成分とするウォッシング液中にて室温下で5分振盪する。
【0090】
5.続いて0.1×SSCにて室温下で10分スライドガラスを振盪洗浄する。
【0091】
6.エアスプレーまたは、遠心機にてスライドガラスを乾燥させる。
【0092】
以上の手順でハイブリダイゼーション反応を終了した。つづいてマイクロアレイスキャナによって蛍光検出をおこなった。スキャナとしてはAxon社のGenePix 4000を使用し、Cy5検出波長にて検出した。レーザー出力は100%で、PMTゲインは750であった。取得した蛍光イメージは装置に付属のソフトウェアで解析し、各アレルの溶液中の存在量を検出した。この数値結果が表8にあるとおりで、各SNPについてすべての8試料のタイピング結果をアレイ検出強度の散布図で示したのが図3〜5である。
【表8】

【0093】
なお、719番試料のSNP#7のTアレルの強度がキャピラリスポットの形状が悪かったためにバックグラウンドがシグナルを上回り蛍光検出値がマイナスと計算されたが、わずかなマイナスの値(-2)だったため散布図を描きやすくするため検出値を0とした。
【0094】
以上の実験により得られたデータを、タイピング基準に従ってタイピングした。タイピングは、あるアレルの強度が対立するアレルの強度の、3倍以上になっている場合をそのアレルのホモ、それ以外をヘテロと判定した。この結果、試料719番のSNP#4以外は、タイピング結果が全くサンガー法によるものと一致しており、正答率は、80分の79、すなわち98.75%であった。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の方法の一態様を示す概略図。
【図2】本発明の方法の一態様を示す概略図。
【図3】本発明の方法を使用して各SNPについてのタイピング結果を示すアレイ検出強度の散布図。
【図4】本発明の方法を使用して各SNPについてのタイピング結果を示すアレイ検出強度の散布図。
【図5】本発明の方法を使用して各SNPについてのタイピング結果を示すアレイ検出強度の散布図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の配列を有する核酸を含む試料中の標的核酸を検出又は定量する方法であって、
1)前記標的核酸中の部分配列に相補的な配列を有する標識されたコモンプローブと、前記標的核酸の部分配列に相補的な配列を有し、かつタグおよびクエリプローブを備えたタグ核酸と、前記試料とを混合して、標的核酸にタグ核酸のクエリプローブ部分およびコモンプローブをハイブリダイズさせる工程と、
2)前記標的核酸にハイブリダイズしたタグ核酸のクエリプローブ部分およびコモンプローブを連結させて、タグ核酸およびコモンプローブの連結分子を生成させる工程と、
3)前記連結されたタグ核酸およびコモンプローブを回収する工程と、
4)回収された前記連結されたタグ核酸およびコモンプローブのタグ部分を、1本鎖の増幅産物が得られる増幅方法を使用して増幅する工程と、
5)前記増幅されたタグ部分を検出する工程と、
を具備する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記1)の工程は、複数のタグ核酸とコモンプローブとを、前記試料と混合して、前記試料中の複数の標的核酸に同時にハイブリダイズさせる工程である方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記1本鎖の増幅産物が得られる増幅方法は、アシンメトリックPCRである方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記クエリプローブ部分およびコモンプローブの連結は、リガーゼによって行われる方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記増幅されたタグ部分の検出は、DNAマイクロアレイへのハイブリダイゼーションによって行われる方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、前記タグ部分の増幅は、蛍光により識別可能なビーズに固定されたプローブを使用して行い、かつ前記増幅されたタグ部分の検出は、該ビーズの蛍光を検出することによって行われる方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、前記タグ核酸中のクエリプローブ部分の一部または全てが相補的な配列を有する核酸と共に2本鎖を形成する方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、前記所定の配列を有する核酸を含む試料は、マルチプレックスPCRによりゲノムDNAを増幅した断片を標的核酸として含む方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、前記ゲノムDNAを増幅した断片は、さらに変性されたDNAである方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−101844(P2006−101844A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296784(P2004−296784)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】