説明

標的物質の定量方法

【課題】複数種類の生物種の生体関連物質が含まれている2以上の試料中の標的物質量を定量する場合において、試料の初期品質の相違や解析操作等の影響による測定結果のバラツキを適正に補正し、試料間の標的物質量の比をより正確に求めることができる標的物質の定量方法の提供。
【解決手段】2以上の試料に含まれる標的物質をそれぞれ定量する方法であって、各試料には、標的物質とは異なる標準物質が含まれており、前記標準物質は、前記標的物質とは異なる生物種の生体関連物質であり、(a)各試料中の標準物質量を測定し、各試料中の標準物質量の比を求める工程と、(b)各試料中の標的物質量を測定する工程と、(c)工程(b)で得られた各試料中の標的物質量を、工程(a)で得られた各試料中の標準物質量の比を用いて補正する工程と、を有することを特徴とする、標的物質の定量方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類の生物種の生体関連物質が含まれている2以上の試料中の標的物質量を定量する場合において、試料間の標的物質量の比をより正確に求めることができる標的物質の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子解析は、近年の遺伝子操作技術や遺伝子組換え技術等の進歩に伴い、医療、学術研究、産業等の多くの分野において広く応用されている。遺伝子解析は、通常、試料中に、解析対象である標的遺伝子と相同的な塩基配列を有する核酸が存在するか否かを検出することにより行われるが、臨床検査における検体等のように、検体が微量である場合や試料中の核酸濃度が非常に低い場合には、解析対象となる標的塩基配列を有する核酸を増幅して解析を行うことが多い。このような核酸の増幅には、PCR(Polymerase Chain Reaction、ポリメラーゼ連鎖反応)法が最も一般的に用いられている。例えば、遺伝病、疾病感受性、癌等の診断において、異常細胞特異的なmRNA等の標的核酸をPCR増幅して検出する方法が、広く用いられている。
【0003】
特に、近年、糞便、唾液や血液等の体液、口腔粘膜や子宮粘膜等の粘膜や粘液等の生体試料中に含まれる核酸を回収し、各試料間の核酸の特徴を比較することによって、癌や、細菌(原核生物)・ウィルス・寄生虫等による感染症等の疾患を診断することが行われている。例えば、薬剤に対する応答反応として、チミジル酸シンターゼのmRNAの発現量が増大することを利用して、癌細胞における薬剤耐性の獲得の有無を調べるために、患者から採取した癌細胞に抗癌剤を投与した後、定量的PCRを行うことによりチミジル酸シンターゼのmRNAの発現量を測定し、抗癌剤投与前後における該発現量を相対的に比較する方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照。)。また、口腔癌患者と健常人の唾液からそれぞれRNAを回収し、その中のmRNAの発現プロファイルを、マイクロアレイを用いて比較することにより、口腔癌の早期発見を行う試みがなされている。その他、感染症の発見・診断を行うために、糞便等の生体試料からRNAウィルスを定量的に検出し、感染症が疑われる患者のものと健常人のものとを比較することも行われている。
【0004】
このような生体試料には、核酸、タンパク質、脂質、ビタミン類等の低分子化合物等の多種多様な生体関連物質が含まれている。このため、生体試料を用いた核酸解析においては、予め、該生体試料から核酸を回収する場合が多い。一方で、多くの生体試料には、該生体試料が採取された対象である動物以外にも、細菌やウィルスといった様々な生物及び該生物由来の生体関連物質も含まれている。このため、例えば、ヒトから採取された生体試料から、生物種ごとに分離することなく核酸を回収した場合には、ヒト由来の核酸と、細菌やウィルスのようなヒト以外の生物種由来の核酸とが混合された状態で回収される。特に、糞便や唾液、喀痰、口腔粘膜、子宮粘膜等には細菌が多く存在するため、これらの生体試料から回収された核酸には、圧倒的に細菌由来の成分が多く含まれており、ヒト由来の生体関連物質は非常に少量である場合が多い。
【0005】
核酸解析においては、他の解析・検出方法と同様に、解析対象である試料中の標的核酸の濃度(存在量)が非常に重要である。このため、ヒト由来の標的核酸が等量含まれている2の試料のうち、一方の試料には細菌由来の核酸が比較的少量含まれており、他方の試料中には非常に大量に含まれている場合には、前者の試料からは標的核酸を検出することができ、後者の試料からは検出することができない、という問題が生じてしまう。また、細菌を多く含む試料中には、細菌由来の分解酵素等も大量に存在する。このため、試料中の核酸がこれらの分解酵素の影響を受けて損なわれやすく、試料間のバラツキが大きくなりやすいという問題もある。特に、ヒト等の動物から剥離された上皮細胞や該上皮細胞由来の生体関連物質は、細菌や細菌の分解酵素等から身を守る術に乏しく、より影響を受けやすい。
【0006】
このため、大量の細菌を含む糞便等の試料のように、複数の生物種が存在し、互いに影響を及ぼしている試料では、初期試料の量、すなわち、解析に用いる試料の重量や容量を規定し、該試料の単位あたりの標的物質を測定した場合であっても、試料の採取や保管状況、解析までに要する時間、解析作業等によって影響され、試料ごとの結果のバラツキが非常に大きくなることが懸念される。特に、標的物質が分解されやすい核酸、特にRNAである場合には、試料中の分解されていないRNA分子のコピー数を揃えて解析しなければ、試料間のバラツキを抑えることは困難である。しかしながら、核酸の定量は、通常は核酸の吸光度値を元に推測されており、また吸光度値は分解の度合いを示すものではないため、単に吸光度値に基づき核酸量を規定したとしても、分解されていないRNA分子のコピー数を揃えることは困難である。
【0007】
試料中の標的物質を定量する場合に、試料ごとの結果のバラツキを抑えるために、例えば、既知濃度の物質を内部標準品として添加して測定を行うことがある。これにより、添加した内部標準品の測定値から、標的物質量を算出することができるため、測定操作による影響を排除し得るばかりではなく、標的物質の絶対量を得ることができる。しかしながら、該方法は、比較的均質な試料であって安定性の高い標的物質を定量する場合には有効であるものの、試料の採取や保管状況等による影響を排除することはできず、細菌を多く含む試料を用いた場合に信頼に足る定量結果を得ることは困難である。
【0008】
試料間の標的物質量を比較する場合に、試料の初期品質の相違や試料の調製方法等による影響を排除し、より信頼性の高い定量結果を得るために、全ての試料にほぼ同量含まれていることが期待できる標的物質以外の物質を標準物質とし、該標準物質により測定値をノーマライズする、すなわち、該標準物質の測定値に基づき標的物質の測定値を補正することがある。標的物質が核酸であり、試料間の標的核酸量を比較する方法として、例えば、(1)標的核酸がある特定の遺伝子由来のmRNAであり、複数の試料間の標的核酸量を比較する場合に、各試料中のRNA量を、ハウスキーピング遺伝子由来のmRNA量によりノーマライズさせて解析する方法が開示されている(例えば、非特許文献2参照。)。ハウスキーピング遺伝子は、個々の生理状態とは無関係に全ての細胞で構成的に発現しており、そのmRNAは全ての細胞にほぼ同じ量で存在すると考えられる。例えば、癌組織から得られたRNAと正常組織から得られたRNAの間で、標的RNAの発現量の差を見る場合、ハウスキーピング遺伝子であるGAPDH(glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase)、beta−actin、rRNA等のヒト遺伝子由来のRNAを標準RNAとすると、各試料中の総RNA量に対する標準RNA量の比はほぼ一致すると考えられるため、癌組織から検出された標準RNAの総量と、正常組織から検出された標準RNAの総量から、各試料中の総RNA量の比を推定し、該推定に基づき検出された標的RNA量を補正することにより、より確からしい定量結果を得ることができる。その他、(2)ノーマライズに複数の標準物質を用いる方法等も開示されている(例えば、非特許文献3参照。)。
【0009】
上記(1)及び(2)の方法では、ヒトの特定の遺伝子由来の核酸を標的物質として定量する場合に、測定値をノーマライズするために、ハウスキーピング遺伝子等のヒト由来の核酸を標準物質として用いている。このように、標準物質として標的物質と同じ生物種・同じ分子種の生体関連物質を用いることにより、試料の採取や保管状況、調製方法等による影響を効果的に排除し得ると考えられる。
【非特許文献1】Kashani-Sabet, et al.、Cancer Research、1988年、第48巻、第5775〜5778ページ。
【非特許文献2】Bustin、Journal of Molecular Endocrinology、2000年、第25巻、第169〜193ページ。
【非特許文献3】Vandesompele, et al.、Genome Biology、2002年、第3巻、第7号、research0034.1〜11。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
各組織からそれぞれ採取された試料間の比較等、比較的類似した試料間での比較に用いられる場合には、上記(1)及び(2)の方法によっても、試料の初期品質の相違や解析操作等の影響による測定結果のバラツキを適正に補正し得ることが期待できる。しかしながら、試料中に元々少数しか存在していない生物種由来の標的物質を定量する場合には、標準物質を標的物質と同じ生物種の生体関連物質とした場合には、標準物質自体が検出されない場合が多いという問題がある。この場合には、そもそも標準物質として機能することはできず、例え標的物質が検出されていたとしても補正することができず、試料間の標的物質量比をより正確に反映した信頼性の高い定量結果を得ることはできない。
【0011】
例えば、ヒト口腔細胞において、癌化により特定の遺伝子(標的遺伝子)の発現量が亢進されるという知見に基づき、標的遺伝子の発現量が一定値以上である場合に陽性(癌)と判断する場合であって、標準遺伝子としてヒトハウスキーピング遺伝子を用いた場合には、唾液から直接核酸を抽出し、唾液中に含まれている標的遺伝子由来核酸量を測定したとしても、同時に測定した標準遺伝子由来核酸が検出されないことによって、標的遺伝子由来核酸量の検出結果の信頼性や定量性に問題が生じ、癌の診断ができないおそれがある。
【0012】
本発明は、複数種類の生物種の生体関連物質が含まれている2以上の試料中の標的物質量を定量する場合において、標的物質が比較的少量存在する生物種の生体関連物質である場合であっても、試料の初期品質の相違や解析操作等の影響による測定結果のバラツキを適正に補正し、試料間の標的物質量の比をより正確に求めることができる標的物質の定量方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、標的物質が試料中に比較的少量存在する生物種の生体関連物質である場合であっても、標準物質として、標的物質と同一生物種由来の生体関連物質ではなく、細菌等の該試料中に大量に存在する標的物質とは異なる生物種の生体関連物質を用いることにより、試料の初期品質の相違や解析操作等の影響による測定結果のバラツキを適正に補正し得るため、試料間の標的物質量比をより正確に反映した信頼性の高い定量結果が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は、2以上の試料に含まれる標的物質をそれぞれ定量する方法であって、各試料には、標的物質とは異なる標準物質が含まれており、前記標準物質は、前記標的物質とは異なる生物種の生体関連物質であり、(a)各試料中の標準物質量を測定し、各試料中の標準物質量の比を求める工程と、(b)各試料中の標的物質量を測定する工程と、(c)工程(b)で得られた各試料中の標的物質量を、工程(a)で得られた各試料中の標準物質量の比を用いて補正する工程と、を有することを特徴とする標的物質の定量方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の標的物質の定量方法により、大量の細菌が存在する試料に含まれている細菌以外の生物種の生体関連物質を標的物質として定量する場合のように、標的物質が試料中に比較的少量存在する生物種の生体関連物質であっても、試料間の標的物質量比をより正確に反映した信頼性の高い定量結果を得ることができる。標的物質と同一生物種の生体関連物質ではなく、異なる生物種由来の生体関連物質を標準物質とすることにより、標準物質が検出されない等の標準物質が機能できない事態の発生を防止しつつ、試料の採取から保存、試料からの生体関連物質の抽出等の一連の工程の影響を加味し、ノーマライズすることができる。このため、本発明の標的物質の定量方法は、糞便試料中の哺乳細胞由来の核酸を定量する場合等、標的物質が、共存する生物種に比べて圧倒的に少量しか試料中に存在していない生物種の生体関連物質であり、試料中に検出限界ギリギリの量しか含まれていない場合に、特に有効である。従来は、試料中に検出限界量程度しか含まれていない標的物質の量を試料間で比較する場合には、該生体試料から生物種ごとに分離して生体関連物質を回収する等の、標的物質を濃縮する工程が必要とされたが、本発明の標的物質の定量方法を用いることにより、信頼性の高い各試料の標的物質量比を、より簡便に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の標的物質の定量方法は、2以上の試料に含まれる標的物質をそれぞれ定量する方法であって、各試料には、標的物質とは異なる標準物質が含まれており、前記標準物質は、前記標的物質とは異なる生物種の生体関連物質であり、(a)各試料中の標準物質量を測定し、各試料中の標準物質量の比を求める工程と、(b)各試料中の標的物質量を測定する工程と、(c)工程(b)で得られた各試料中の標的物質量を、工程(a)で得られた各試料中の標準物質量の比を用いて補正する工程と、を有することを特徴とする。以下、より詳細に説明する。
【0017】
本発明において試料とは、生物種の異なる2以上の生体関連物質を含むものである。生物から採取された試料(生体試料)であってもよく、培養細胞等から調製された試料であってもよい。本発明の標的物質の定量方法の対象となる試料としては、臨床検体等の生体試料であることが好ましい。生体試料が採取される生物は、特に限定されるものではないが、真核生物であることが好ましく、動物であることがより好ましく、哺乳類であることがさらに好ましく、ヒトであることが特に好ましい。該生体試料として、例えば、糞便、唾液や血液等の体液、喀痰、口腔粘膜や子宮粘膜等の粘膜や粘液等がある。特に、該生体試料を採取された生物以外の種類の生物の生体関連物質、例えば原核生物やウィルス等の微生物の生体関連物質を含む生体試料であることが好ましく、真正細菌等の原核生物の生体関連物質をより多く含む生体試料であることが特に好ましい。このような細菌等を多く含む生体試料として、例えば、糞便、唾液、喀痰、口腔粘膜、子宮粘膜等がある。
【0018】
本発明において生体関連物質とは、生体に関連する物質であり、具体的には、核酸、タンパク質、ビタミン類やホルモン類等の低分子化合物、糖類、脂質類等である。核酸は、DNAであってもよく、RNAであってもよい。タンパク質は、アミノ酸のみからなるタンパク質であってもよく、糖タンパク質やリポタンパク質等のアミノ酸以外の物質を含むものであってもよい。
【0019】
本発明において標的物質とは、試料中に含まれている量を定量する対象である。本発明における標的物質としては、各試料に比較的少量含まれている生物種の生体関連物質であることが好ましい。このような生体関連物質は、試料中に大量に存在する生体関連物質よりも、試料の初期品質の相違や試料の調製方法等による影響を受けやすいため、本発明の標的物質の定量方法により好適である。特に、本発明における標的物質としては、試料に比較的少量含まれている生物種の、DNAやRNA等の核酸であることが好ましい。
【0020】
本発明において標準物質とは、各試料中の標的物質量の測定値を補正するための標準とする物質であり、試料中に含まれている標的物質とは異なる生物種の生体関連物質である。標準物質は、各試料に比較的大量に含まれている生物種の生体関連物質であることが好ましい。各試料に一定の割合以上含まれている生物種の生体関連物質であれば、試料の採取等の条件による初期試料の品質のバラツキを抑えられること、及び、各試料にほぼ確実に検出限界量以上含まれていること等が、期待できるためである。すなわち、各試料には、前記標的物質よりも、前記標準物質が多く含まれていることが好ましい。
【0021】
標準物質と標的物質とは、生物種が異なっていればよく、同種類の生体関連物質であってもよく、異なる種類の生体関連物質であってもよい。例えば、標的物質がRNAである場合に、標準物質はRNAであってもよく、DNAであってもよく、タンパク質であってもよい。
【0022】
生物種ごとに区別した解析が比較的容易であること、解析手法が汎用されていること等から、本発明における標準物質としては、核酸であることが好ましい。このような標準物質として、例えば、各試料に比較的大量に含まれている生物種のrRNA、rDNA、リボゾーム関連タンパク質やRNAポリメラーゼ、ハウスキーピング遺伝子等のmRNAやDNA等がある。標的物質の種類や量に応じて、適当な発現量を有する遺伝子のmRNAを標準物質として用いることにより、より適正にノーマライズし得ることが期待できる。このため、標準物質としては、低発現の遺伝子から高発現の遺伝子まで、様々な発現量を有する遺伝子のmRNAを揃えておくことが好ましい。
【0023】
標準物質として用いる生体関連物質は、一種類であってもよく、複数種類であってもよい。例えば、一遺伝子のmRNAやDNAを用いてもよく、複数種類の遺伝子のmRNAやDNAを用いてもよい。より具体的には、ある特定の細菌の16S rRNAを用いてもよく、ある特定の細菌の16S rRNAとRNAポリメラーゼ遺伝子のmRNAとを組み合わせて用いてもよい。複数種類の生体関連物質を標準物質として用いる場合には、用いる複数種類の生体関連物質が、互いに生物種の異なるホモログ遺伝子であることがより好ましい。例えば、複数種類の細菌の16S rRNAを標準物質として用いることができる。
【0024】
また、標準物質として複数種類の生体関連物質を用いる場合、複数種類の生体関連物質を一括で定量した結果を補正に用いてもよく、それぞれの生体関連物質の定量結果の平均を補正に用いてもよい。より具体的には、複数種類の細菌の16S rRNAの総量を標準物質量としてもよく、ある特定の細菌の16S rRNA量とRNAポリメラーゼ遺伝子のmRNA量の平均値を標準物質量としてもよい。
【0025】
本発明の標的物質の定量方法は、まず、工程(a)として、各試料中の標準物質量を測定し、各試料中の標準物質量の比を求める。各試料中の標準物質量の比は、例えば、一の試料中の標準物質量を1.0とした場合の、他の試料中の標準物質量の比をそれぞれ算出することにより求めることができる。このようにして得られた各試料中の標準物質量の比を、本願明細書においては、補正係数という。
【0026】
各試料中の標準物質量は、該標準物質と同一種類の生体関連物質の定量に通常用いられている方法により定量することができる。このような定量方法として、例えば、定量的核酸増幅法、ハイブリダイゼーション法、免疫凝集法、ELISA法、吸光度測定法等がある。定量対象である標準物質が核酸である場合には、試料中に微量に存在する核酸を容易に検出し定量することが可能であるため、定量的核酸増幅法を用いて測定することが好ましい。該定量的核酸増幅法として、例えば、リアルタイムPCR等の定量的PCR法等がある。また、特異的な検出が比較的簡便に行えることから、プローブ等を用いたハイブリダイゼーション法を用いることも好ましい。このような方法として、例えば、Taq Man PCR法、マイクロアレイ法、ノーザンブロット法、ドットブロット法等があり、なかでもTaq Man PCR法を用いることが好ましい。標準物質がRNAである場合には、逆転写反応により得られたcDNAに対して定量的PCRを行うことができる。
【0027】
また、標準物質として、複数種類の細菌のそれぞれの16S rRNA量の総和を標準物質量とする場合には、各細菌の16S rRNAごとに特異的なプライマーを用いて、個別にPCRを行い、各細菌の16S rRNA量をそれぞれ定量した後に総和量を算出してもよく、マルチプレックスPCRを行うことにより、各細菌の16S rRNA量をまとめて定量してもよい。その他、各細菌の16S rRNAに共通するプライマーを用いて、一のPCRを行うことにより、各細菌の16S rRNAを同時に増幅してまとめて定量してもよい。
【0028】
次に工程(b)として、各試料中の標的物質量を測定する。各試料中の標的物質量は、標準物質量の測定法において挙げられた方法を用いて測定することができる。
【0029】
その後、工程(c)として、工程(b)で得られた各試料中の標的物質量を、工程(a)で得られた各試料中の標準物質量の比を用いて補正する。具体的には、工程(b)で得られた各試料中の標的物質量を、工程(a)で算出した補正係数で除する。該補正係数を用いて補正することにより、試料間の標的物質量比をより正確に反映した信頼性の高い定量結果が得られる。
【0030】
図1は、本発明の標的物質の定量方法の対象となる試料の一態様の模式図である。(a)と(b)は、それぞれヒトの同一の糞便から等重量ずつ異なる部位から採取した試料の模式図である。図中、○は細菌の核酸、△はヒト大腸剥離細胞の核酸、●は食物残渣や分解された核酸等のデブリスを表している。試料(a)には、細菌の核酸が20、ヒトの核酸が2、デブリスが0、それぞれ存在しており、試料(b)には、細菌の核酸が5、ヒトの核酸が1、デブリスが多数、それぞれ存在している。従来法通りに、ヒトの核酸量を、重量当たりの量を定量した場合には、試料(b)には試料(a)の1/2倍量のヒトの核酸が存在しているという結果となる。一方で、細菌のrRNA遺伝子を標準物質として定量した場合には、試料(a)中の細菌の核酸量を1.0とした場合の試料(b)の補正係数は0.25であり、該補正係数を用いて補正すると、試料(b)中のヒトの核酸量は4となり、試料(b)には試料(a)の2倍量のヒトの核酸が存在しているという結果が得られる。このように、本発明の標的物質の定量方法を用いることにより、試料の採取から解析までの一連の操作の影響による試料間のバラツキを防止して、試料間の標的物質量比をより正確に反映した信頼性の高い定量結果を得ることができる。
【0031】
糞便中に含まれているヒト等の真核生物の細胞や生体関連物質として、主に、大腸剥離細胞等の消化管上皮細胞からの剥離細胞及びこれらの細胞の生体関連物質等がある。このような糞便中に含まれているヒト細胞やヒトの生体関連物質等を検出・定量し、健常者由来の試料と比較等することにより、大腸癌や炎症性大腸疾患等の診断を行うことが試みられている。また、糞便中のウィルスやウィルスの生体関連物質等を検出・定量し、健常者由来の試料と比較等することにより、感染症等の診断も試みられている。その他、糞便中に含まれている真核生物として寄生虫等があり、これらを同様に検出・定量し、健常者由来の試料と比較等することにより、寄生虫の有無の判定をすることも可能である。一方で、糞便は、その半分以上は細菌から構成されていると言われるほど大量の細菌を含んでおり、真核生物やウィルスの細胞や生体関連物質等はごく少量しか含まれてはいない。そこで、糞便を試料とし、標準物質を原核生物の生体関連物質として、本発明の定量方法を用いて標的物質である真核生物やウィルスの生体関連物質を定量することにより、試料間の標的物質量比をより正確に反映した信頼性の高い定量結果を得ることができる。特に、標的物質がヒトの生体関連物質であり、標準物質が真正細菌の生体関連物質であることがより好ましい。
【0032】
例えば、糞便中に多く存在する、大腸菌、大腸菌群、腸球菌、乳酸菌等の腸内細菌の全種類又はその大部分が共通して有する遺伝子(ホモログ遺伝子)又はその一部を標準物質とすることにより、糞便中の大多数の細菌の核酸を、全体的にノーマライズすることが可能である。また、特定の一種類又は数種類の細菌の遺伝子を標準物質として、ノーマライズしてもよい。その他、試料からDNAとRNAを一括で回収し、そのうちの一部で、定量的RT−PCR等の標的RNAの定量検出を行い、残りの一部に存在するDNAを標準物質としてノーマライズすることもできる。DNAを標準物質として用いる場合、遺伝子のコピー数は数個から数十個になるため、標的物質が低発現のmRNAである場合等のノーマライズに好適に用いることができる。
【0033】
唾液や口腔粘膜に含まれているヒト等の真核生物の細胞や生体関連物質として、主に、口腔内の上皮細胞からの剥離細胞及びこれらの細胞の生体関連物質等がある。また、喀痰に含まれている真核生物の細胞等として、主に、口腔や気管内の上皮細胞からの剥離細胞及びこれらの細胞の生体関連物質等があり、子宮粘膜に含まれている真核生物の細胞等として、主に、子宮内膜の上皮細胞からの剥離細胞及びこれらの細胞の生体関連物質等がある。これらの生体試料中の真核細胞等を検出・定量することにより、各組織の癌や炎症等の疾患の診断をすることができる。また、口腔や気管、子宮は生体外部と直接接する組織であり、これらの生体試料中にウィルスが含まれているか否かにより、ウィルス感染の有無を診断することもできる。一方で、これらの生体試料中には、通常、糞便と同様に細菌が大量に存在している。このため、唾液、喀痰、口腔粘膜、子宮粘膜等を試料とし、これらの試料中の標的物質である真核生物やウィルスの生体関連物質の量を、標準物質を原核生物の生体関連物質として、本発明の定量方法を用いて定量することにより、試料間の標的物質量比をより正確に反映した信頼性の高い定量結果を得ることができる。標準物質として用いる原核生物の生体関連物質は、真正細菌の16S rRNAやハウスキーピング遺伝子等であることが好ましい。その他、標準物質として、原核生物以外の真核生物を用いてもよい。
【0034】
本発明の定量方法は、糞便等の原核生物を多く含む生体試料中の癌等の疾患マーカーを定量する場合に、特に有効である。標準物質を原核生物の生体関連物質として、本発明の定量方法を用いてノーマライズすることにより、健常者由来の試料と患者由来の試料のそれぞれに含まれている疾患マーカー(標的物質)量の比をより正確に求めることができるため、疾患の診断の信頼性を向上し得ることが期待できる。特に、標的物質を癌マーカーとし、標準物質を原核生物の生体関連物質として、本発明の定量方法を用いて癌マーカーを定量することが好ましい。癌診断においては、他の疾患にも増して高い正確性が要求されるが、本発明の定量方法により定量された癌マーカー量に基づき診断することにより、癌診断の精度(特異度)を改善し得ることが期待できる。なお、癌マーカーとは、癌検出の指標となり得る生体関連物質であれば特に限定されるものではなく、公知の癌マーカーを用いることができる。
【0035】
このように、試料中の標的物質量を、標的物質とは異なる生物種の生体関連物質を標準物質として補正するという考え方は、標的物質が核酸以外の生体関連物質である場合、例えば、タンパク質が標的物質である場合にも何ら変わりはない。したがって、本発明の定量方法は、タンパク質の発現解析等にも応用することができる。例えば、糞便中の癌細胞由来のタンパク質を検出する場合、糞便中の細菌のリボゾームタンパク質を標準物質とし、CEAやCA19−9、CD44等の定量を行うことができる。なお、タンパク質の検出や定量は、公知の方法を適宜用いることができる。例えば、糞便中の癌細胞由来のタンパク質の検出は、国際公開第1996/008514号パンフレット等で開示されているヒト結腸癌腫関連抗原に対するモノクローナル抗体を用いて検出することもできる。
【実施例】
【0036】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、培養細胞であるMKN45細胞は、常法により培養した。
【0037】
[実施例1]
細菌の16S rRNA遺伝子のmRNAを標準物質として、糞便中に含まれているヒトGAPDH遺伝子のmRNAを定量した。
<標準物質の定量と補正係数の算出>
同一試料を小分けし、糞便試料中の細菌由来核酸を、様々な細菌種の16S rRNA遺伝子に共通する塩基配列を有するプライマーを用いた定量的PCRを行い、細菌16S rRNA遺伝子のコピー数を測定した。具体的には、配列番号1の塩基配列を有する16S rRNA用フォワードプライマー1と、配列番号2の塩基配列を有する16S rRNA用リバースプライマー1を用いて定量的PCRを行った。
まず、健常人の糞便を、採便後速やかに5mLチューブに約1gずつ分取し、液体窒素を用いて凍結させ、−80℃で保存した。糞便は一人由来のものを10個分に分取した。その後、グアニジン塩とフェノールを添加し、ホモジナイザーを用いてホモジナイズした後、クロロホルムとエタノールを用いて全RNAを抽出した。該RNAから逆転写反応によりcDNAを合成し、該cDNAを鋳型としてリアルタイムPCRを行うことにより、細菌16S rRNA遺伝子のコピー数(mRNA量)を定量した。具体的には、抽出したRNAの一部をリバースクリプトII(登録商標)(反応液量20μL、和光純薬)とランダムプライマーを用いて逆転写し、約20μLのcDNA溶液を得た。さらに、1μLの該cDNA溶液に、12.5μLの2×TaqMan PCR master mix (Perkin−Elmer Applied Biosystems社製)を添加し、16S rRNA用フォワードプライマー1と、16S rRNA用リバースプライマー1をそれぞれ最終濃度が900nmolとなるように添加し、最終容量が25μLとなるようにPCR溶液を調製した。該PCR溶液に対して、ABI Prism 7700 Sequence Detection System(Perkin−Elmer Applied Biosystems社製)によるSYBR green PCR解析を行った。PCRの熱サイクルは、95℃10分間の変性サイクルの後、95℃30秒間、55℃30秒間、72℃30秒間を45サイクルの条件で行った。定量は、濃度既知のスタンダードプラスミドによる希釈系列を鋳型として得られた蛍光強度の結果に基づいて行った。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の左欄は、リアルタイムPCRの結果得られた各試料中(糞便約1g中)の細菌16S rRNAのコピー数を、右欄は、試料1−1中の細菌16S rRNAのコピー数を1.0として算出した各試料中の細菌16S rRNAのコピー数の比(補正係数)をそれぞれ示したものである。試料1−1〜10は、同一の糞便から等量採取した試料であるにもかかわらず、1gの糞便中のrRNA量は、最大で2.3倍の開きが見られた。
【0040】
<標的物質の定量と補正>
16S rRNA用フォワードプライマー1と16S rRNA用リバースプライマー1に代えて、配列番号3の塩基配列を有するヒトGAPDH用フォワードプライマーと配列番号4の塩基配列を有するヒトGAPDH用リバースプライマーを用いた以外は、全て細菌16S rRNAのコピー数の算出と同様にして、ヒトGAPDHのコピー数を算出した。得られたヒトGAPDHのコピー数を、表1記載の補正係数で除することにより、補正後のヒトGAPDHのコピー数を算出した。
【0041】
【表2】

【0042】
表2の左欄は、リアルタイムPCRの結果得られた各試料中(糞便約1g中)のヒトGAPDHのコピー数、中欄は表1記載の補正係数を、右欄は、補正後のヒトGAPDHのコピー数(左欄記載のコピー数を中欄記載の補正係数で除したもの)をそれぞれ示したものである。補正前の各試料中のヒトGAPDH量(表2左欄記載のGAPDHのコピー数)のバラツキは1.20〜2.90×10であったのに対し、補正後のバラツキは1.18〜1.32×10と最大で1.12倍の開きであり、より各試料間のバラツキが少なくなった。
これらの結果から、本発明の定量方法を用いることにより、試料間の標的物質量比をより正確に反映した信頼性の高い定量結果が得られることが明らかである。
【0043】
[実施例2]
細菌の16S rRNA遺伝子のmRNAを標準物質として、糞便中に含まれているヒトGAPDH遺伝子のmRNAを定量した。
<標準物質の定量と補正係数の算出>
健常人5名の糞便試料中の細菌由来核酸を、様々な細菌種の16S rRNA遺伝子に共通する塩基配列を有するプライマーを用いた定量的PCRを行い、細菌16S rRNA遺伝子のコピー数を測定した。具体的には、配列番号5の塩基配列を有する16S rRNA用フォワードプライマー2と、配列番号6の塩基配列を有する16S rRNA用リバースプライマー2、及び、5’末端が6−FAM、3’末端がTAMRAでそれぞれ標識された16S rRNA用TaqManプローブを用いて、TaqMan PCRによる定量的PCRを行った。
まず、健常人の糞便を、採便後速やかに5mLチューブに約1gずつ分取し、液体窒素を用いて凍結させ、−80℃で保存した。糞便は5名からそれぞれ分取した。その後、実施例1と同様にcDNA溶液を調製した後、1μLの各cDNA溶液に、12.5μLの2×TaqMan PCR master mix (Perkin−Elmer Applied Biosystems社製)を添加し、16S rRNA用フォワードプライマー2と、16S rRNA用リバースプライマー2をそれぞれ最終濃度が200nMとなるように、また、16S rRNA用TaqManプローブを最終濃度が100nMとなるように、それぞれ添加し、最終容量が25μLとなるようにPCR溶液を調製した。調製したPCR溶液を用いて、TaqMan PCRを行い、各PCR溶液の6−FAMの蛍光強度を解析することにより、細菌16S rRNAのコピー数を算出した。
【0044】
【表3】

【0045】
表3の左欄は、リアルタイムPCRの結果得られた各試料中(糞便約1g中)の細菌16S rRNAのコピー数を、右欄は、実施例1の試料1−1中の細菌16S rRNAのコピー数を1.0として算出した各試料中の細菌16S rRNAのコピー数の比(補正係数)をそれぞれ示したものである。試料2−1〜5の約1gの糞便中のrRNA量は、最大で3.9倍の開きが見られた。
【0046】
<標的物質の定量と補正>
実施例1と同様にして、試料2−1〜5の各試料中のヒトGAPDHのコピー数を算出した。得られたヒトGAPDHのコピー数を、表3記載の補正係数で除することにより、補正後のヒトGAPDHのコピー数を算出した。
【0047】
【表4】

【0048】
表4の左欄は、リアルタイムPCRの結果得られた各試料中(糞便約1g中)のヒトGAPDHのコピー数、中欄は表3記載の補正係数を、右欄は、補正後のヒトGAPDHのコピー数(左欄記載のコピー数を中欄記載の補正係数で除したもの)をそれぞれ示したものである。補正前の各試料中のヒトGAPDH量(表4左欄記載のGAPDHのコピー数)のバラツキは1.90〜8.50×10であったのに対し、補正後のバラツキは0.91〜1.76×10と最大で1.9倍の開きであり、同一被験者由来の試料間の比較である実施例1の結果に比べるとバラツキは大きかったが、補正をすることにより、より各試料間のバラツキは少なくなった。
これらの結果から、本発明の定量方法を用いることにより、試料間の標的物質量比をより正確に反映した信頼性の高い定量結果が得られることが明らかである。
【0049】
[実施例3]
細菌の16S rRNA遺伝子のmRNAを標準物質として、採取後一定期間経過した唾液中に含まれているヒトGAPDH遺伝子のmRNAを定量した。
<標準物質の定量と補正係数の算出>
同一試料を小分けし、採取後の時間経過の異なる唾液試料中の細菌由来核酸を、様々な細菌種の16S rRNA遺伝子に共通する塩基配列を有するプライマーを用いた定量的PCRを行い、細菌16S rRNA遺伝子のコピー数を測定した。
まず、健常人の唾液を、採取後速やかに5mLチューブに約1mLずつ分取した。唾液は一人由来のものを3個分(試料3−1〜3)に分取した。それぞれの唾液試料に、cox−2遺伝子を高発現しているヒト胃癌由来細胞株MKN45細胞を6×10cells添加して混合し、試料3−1は直ちに、試料3−2は室温で3時間静置した後、試料3−3は室温で8時間静置した後、それぞれRNeasy midi kit(Qiagen社製)を用い、全RNAを抽出した。その後、該RNAの一部を用いて実施例1と同様にcDNA溶液を調製した後、リアルタイムPCRを行い、細菌16S rRNAのコピー数を算出した。
【0050】
【表5】

【0051】
表5の左欄は、リアルタイムPCRの結果得られた各試料中(唾液約1mL中)の細菌16S rRNAのコピー数を、右欄は、実施例3の試料3−1中の細菌16S rRNAのコピー数を1.0として算出した各試料中の細菌16S rRNAのコピー数の比(補正係数)をそれぞれ示したものである。試料3−1〜3の約1mLの唾液中のrRNA量は、最大で2.3倍の開きが見られた。なお、同一の唾液から等量採取した試料であるにもかかわらず、試料3−3に含まれる16S rRNAのコピー数が、試料3−1や3−2よりも顕著に少なかったのは、採取後室温で静置されている間に核酸の分解が進行したためと考えられる。
【0052】
<標的物質の定量と補正>
実施例1と同様にして、試料3−1〜3の各試料中のヒトGAPDHのコピー数を算出した。得られたヒトGAPDHのコピー数を、表5記載の補正係数で除することにより、補正後のヒトGAPDHのコピー数を算出した。
【0053】
【表6】

【0054】
表6の左欄は、リアルタイムPCRの結果得られた各試料中(唾液約1mL中)のヒトGAPDHのコピー数、中欄は表5記載の補正係数を、右欄は、補正後のヒトGAPDHのコピー数(左欄記載のコピー数を中欄記載の補正係数で除したもの)をそれぞれ示したものである。補正前の各試料中のヒトGAPDH量(表6左欄記載のGAPDHのコピー数)のバラツキは2.30〜5.10×10であったのに対し、補正後のバラツキは5.10〜5.51×10と最大で1.05倍の開きであり、より各試料間のバラツキは少なくなった。
これらの結果から、本発明の定量方法を用いることにより、試料中の細菌による分解の影響等が抑えられ、試料間の標的物質量比をより正確に反映した信頼性の高い定量結果が得られることが明らかである。
【0055】
[実施例4]
大腸癌患者由来の糞便中には、cox−2遺伝子のmRNA等が、健常者由来の糞便中よりも多く存在していることが報告されている。これは、大腸癌患者において、cox−2遺伝子が高発現するためと考えられている。そこで、健常人の糞便に対し、cox−2遺伝子を高発現しているヒト胃癌由来細胞株MKN45細胞を6×10cells添加して混合させたものを、擬似大腸癌患者糞便とし、細菌の16S rRNA遺伝子のmRNAを標準物質として、擬似大腸癌患者糞便中に含まれているヒトcox−2遺伝子のmRNAを定量した。
<標準物質の定量と補正係数の算出>
健常人由来の糞便を、10mLチューブに約1gずつ3本、0.25gずつ3本に分取し、1gのものには、MKN45細胞を1×10、1×10、1×10cellsずつ、0.25gのものには、2、2×10、2×10cellsずつ、それぞれ添加して混合した後、液体窒素を用いて凍結させ、−80℃で保存した。その後、実施例1と同様にcDNA溶液を調製した後、リアルタイムPCRを行い、細菌16S rRNAのコピー数を算出した。
【0056】
【表7】

【0057】
表7の左欄は、リアルタイムPCRの結果得られた各試料中の細菌16S rRNAのコピー数を、右欄は、実施例1の試料1−1中の細菌16S rRNAのコピー数を1.0として算出した各試料中の細菌16S rRNAのコピー数の比(補正係数)をそれぞれ示したものである。
【0058】
<標的物質の定量と補正>
16S rRNA用フォワードプライマー1と16S rRNA用リバースプライマー1に代えて、配列番号8の塩基配列を有するヒトcox−2用フォワードプライマーと配列番号9の塩基配列を有するヒトcox−2用リバースプライマーを用いた以外は、実施例1における細菌16S rRNAのコピー数の算出と同様にして、ヒトcox−2のコピー数を算出した。一試料あたりのヒトcox−2のコピー数が1×10以上である場合に、大腸癌陽性と判定した。また、得られたヒトcox−2のコピー数を、表7記載の補正係数で除することにより、補正後のヒトcox−2のコピー数を算出し、各試料が大腸癌陽性か陰性かの判定を行った。
【0059】
【表8】

【0060】
表8の左から2列目はリアルタイムPCRの結果得られた各試料中のヒトcox−2のコピー数を、左から3列目はリアルタイムPCRの結果得られたコピー数に基づいて大腸癌の判定を行った結果を、左から4列目は表7記載の補正係数を、左から5列目は補正後のヒトcox−2のコピー数(左から2列目記載のコピー数を左から4列目記載の補正係数で除したもの)を、左から5列目は補正後のコピー数に基づいて大腸癌の判定を行った結果を、それぞれ示したものである。
補正前の各試料中のヒトcox−2のコピー数に基づいて大腸癌の判定を行ったところ、試料4−5は陰性と判定されたが、補正後の各試料中のヒトcox−2のコピー数に基づいて行うと、試料4−5は陽性と判定することができた。
【0061】
[実施例5]
大腸菌のgus AのゲノムDNAを標準物質として、糞便中に含まれているヒトGAPDH遺伝子のmRNAを定量した。大腸菌gus AのゲノムDNA量は、配列番号10の塩基配列を有するgus A用フォワードプライマーと、配列番号11の塩基配列を有するgus A用リバースプライマーを用いて定量的PCRを行うことにより定量した。
<標準物質の定量と補正係数の算出>
同一健常人由来の便を、5mLチューブに3g採取し、MKN45細胞を3×10cells添加して混合したものから、0.5gと1gをそれぞれ5mLチューブに分取し、液体窒素を用いて凍結させ、−80℃で保存した。その後、DNAとRNAを同時に抽出する方法で核酸を回収した。具体的には、各試料をグアニジンチオシアネートの存在下でホモジナイザーを用いてホモジナイズした後、1mLのフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(25:24:1、pH8.0)を添加してvortexを用いて攪拌した。その後、4℃で16,000×g、10分間の遠心分離処理をし、得られた水層を分取後、等量のクロロホルム/イソアミルアルコール(24:1)を添加し、4℃で16,000×g、5分間の遠心分離処理をし、得られた水層をさらに分取した。その後、得られた水層に0.6倍量のイソプロパノールと1/10倍量の3M酢酸ナトリウム溶液を添加して攪拌した後、4℃で16,000×g、10分間の遠心分離処理をすることにより、全核酸を含むペレットを得た。該ペレットに対して500μLの70%(vol/vol)エタノールでリンスし、風乾後、50μLのRNase free Tris−EDTA buffer(pH 7.4)に溶解させることにより、約50μLの全核酸溶液を得た。
【0062】
5μLの該全核酸溶液に、12.5μLの2×TaqMan PCR master mix (Perkin−Elmer Applied Biosystems社製)を添加し、gus A用フォワードプライマーと、gus A用リバースプライマーをそれぞれ最終濃度が900nmolとなるように添加し、最終容量が25μLとなるようにPCR溶液を調製した。該PCR溶液に対して、実施例1と同様にしてSYBR green PCR解析を行い、大腸菌gus AゲノムDNA量を測定した。
【0063】
【表9】

【0064】
表9の左欄は、リアルタイムPCRの結果得られた各試料中の大腸菌gus AゲノムDNAのコピー数を、右欄は、試料5−1中の大腸菌gus AゲノムDNAのコピー数を1.0として算出した各試料中の大腸菌gus AゲノムDNAのコピー数の比(補正係数)をそれぞれ示したものである。
【0065】
<標的物質の定量と補正>
5μLの該全核酸溶液をリバースクリプトII(登録商標)(反応液量20μL、和光純薬)とランダムプライマーを用いて逆転写し、約20μLのcDNA溶液を得た。さらに、1μLの該cDNA溶液を鋳型とした以外は全て実施例1と同様にして、ヒトGAPDHのコピー数を算出した。得られたヒトGAPDHのコピー数を、表9記載の補正係数で除することにより、補正後のヒトGAPDHのコピー数を算出した。
【0066】
【表10】

【0067】
表10の左欄はリアルタイムPCRの結果得られた各試料中のヒトGAPDHのコピー数、中欄は表9記載の補正係数を、右欄は補正後のヒトGAPDHのコピー数(左欄記載のコピー数を中欄記載の補正係数で除したもの)を、それぞれ示したものである。補正を行うことにより、初期便量の差を補正し、等量のGAPDHを検出することができた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の標的物質の定量方法により、標的物質が試料中に比較的少量存在する生物種の生体関連物質であっても、試料間の標的物質量比をより正確に反映した信頼性の高い定量結果を得ることができるため、本発明の標的物質の定量方法は、医療診断のための臨床検査の分野において特に有用であり、遺伝学、分子生物学、生化学等の分野でも利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の標的物質の定量方法の対象となる試料の一態様の模式図である。図1(a)と1(b)は、それぞれヒトの同一の糞便から等重量ずつ異なる部位から採取した試料である。図中、○は細菌の核酸、△はヒト大腸剥離細胞の核酸、●は食物残渣や分解された核酸等のデブリスを表している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の試料に含まれる標的物質をそれぞれ定量する方法であって、
各試料には、標的物質とは異なる標準物質が含まれており、
前記標準物質は、前記標的物質とは異なる生物種の生体関連物質であり、
(a)各試料中の標準物質量を測定し、各試料中の標準物質量の比を求める工程と、
(b)各試料中の標的物質量を測定する工程と、
(c)工程(b)で得られた各試料中の標的物質量を、工程(a)で得られた各試料中の標準物質量の比を用いて補正する工程と、
を有することを特徴とする、標的物質の定量方法。
【請求項2】
各試料には、前記標的物質よりも前記標準物質が多く含まれていることを特徴とする、請求項1記載の標的物質の定量方法。
【請求項3】
前記試料が、糞便、唾液、喀痰、口腔粘膜、及び子宮粘膜からなる群より選択される試料であることを特徴とする、請求項1又は2記載の標的物質の定量方法。
【請求項4】
前記標的物質が核酸であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか記載の標的物質の定量方法。
【請求項5】
前記標準物質が核酸であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか記載の標的物質の定量方法。
【請求項6】
前記標準物質として、複数種類の生体関連物質を用いることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか記載の標的物質の定量方法。
【請求項7】
前記複数種類の生体関連物質が、互いに生物種の異なるホモログ遺伝子であることを特徴とする、請求項6記載の標的物質の定量方法。
【請求項8】
前記試料が糞便であり、前記標的物質が真核生物の生体関連物質であり、前記標準物質が原核生物の生体関連物質であることを特徴とする、請求項4〜7のいずれか記載の標的物質の定量方法。
【請求項9】
前記真核生物がヒトであり、前記原核生物が真正細菌であることを特徴とする、請求項8記載の標的物質の定量方法。
【請求項10】
前記試料が糞便であり、前記標的物質がウィルスの生体関連物質であり、前記標準物質が原核生物の生体関連物質であることを特徴とする、請求項4〜7のいずれか記載の標的物質の定量方法。
【請求項11】
前記試料が唾液であり、前記標的物質が真核生物の生体関連物質であり、前記標準物質が原核生物の生体関連物質であることを特徴とする、請求項4〜7のいずれか記載の標的物質の定量方法。
【請求項12】
前記試料が唾液であり、前記標的物質がウィルスの生体関連物質であり、前記標準物質が原核生物の生体関連物質であることを特徴とする、請求項4〜7のいずれか記載の標的物質の定量方法。
【請求項13】
前記試料が粘膜であり、前記標的物質が真核生物の生体関連物質であり、前記標準物質が原核生物の生体関連物質であることを特徴とする、請求項4〜7のいずれか記載の標的物質の定量方法。
【請求項14】
前記試料が粘膜であり、前記標的物質がウィルスの生体関連物質であり、前記標準物質が原核生物の生体関連物質であることを特徴とする、請求項4〜7のいずれか記載の標的物質の定量方法。
【請求項15】
前記標的物質が癌マーカーであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか記載の標的物質の定量方法。
【請求項16】
前記工程(a)における前記標準物質量の測定と、前記工程(b)における前記標的物質量の測定とが、定量的核酸増幅法を用いた測定であることを特徴とする、請求項5〜15のいずれか記載の標的物質の定量方法。
【請求項17】
前記定量的核酸増幅法が、定量的PCR(Polymerase Chain Reaction)であることを特徴とする、請求項16記載の標的物質の定量方法。
【請求項18】
前記工程(a)における前記標準物質量の測定と、前記工程(b)における前記標的物質量の測定とが、ハイブリダイゼーション法を用いた測定であることを特徴とする、請求項1〜17のいずれか記載の標的物質の定量方法。
【請求項19】
請求項15〜18のいずれか記載の標的物質の定量方法を用いて定量した結果に基づき、癌を診断する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−165401(P2009−165401A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6761(P2008−6761)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】