説明

標的物質の検出方法及び検出装置

【課題】検出対象の標的物質を効率的且つ高精度に検出できる方法と、そのための検出装置の提供。
【解決手段】検出対象である標的物質2と、標的物質2と特異的に結合する特異的結合部を表面に備えた磁性微粒子1とを容器4中で混合し、磁性微粒子1とは異なる極性を有する磁性体6を容器4中に添加して、磁性微粒子1を捕集し、容器4外からの磁気により、磁性体6に捕集された磁性微粒子1を容器4中で捕捉し、捕捉した磁性微粒子1に結合している標的物質2を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性物質等の標的物質の検出方法、及び該検出方法で使用する検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
天然、非天然を問わず、生理活性物質等の生体関連物質を検出する技術は、疾病のメカニズムの解明、医薬品の開発、診断等を行う上で非常に重要であり、医学、薬学の分野で日常的に汎用されている。しかし、検出対象となるこれら標的物質は、検体中での濃度が極めて低いだけでなく、検体量自体も限られるため、極めて微量な標的物質を精度良く検出することが求められる。また、検出に供する検体数が膨大となることが多く、標的物質を効率的に検出することも求められる。
【0003】
このような要望を満たす検出方法として、免疫反応を利用する方法が種々提案されている。例えば、検出対象の標的物質を、これと特異的に結合する磁性微粒子と混合して複合体を形成させた後、該複合体を形成した磁性微粒子を、容器外からの磁気により、容器中で捕捉し、洗浄した後、捕捉した磁性微粒子に結合している標的物質を検出する方法が開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−315726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の方法では、磁性微粒子の捕捉効率が低く、標的物質の検出に時間を要し、標的物質を効率的且つ高精度に検出するのが困難であるという問題点があった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、検出対象の標的物質を効率的且つ高精度に検出できる方法と、そのための検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、検出対象である標的物質と、該標的物質と特異的に結合する特異的結合部を表面に備えた磁性微粒子とを容器中で混合する混合工程と、前記磁性微粒子とは異なる極性を有する磁性体を容器中に添加して、前記磁性微粒子を捕集する捕集工程と、前記容器外からの前記磁性微粒子とは異なる極性の磁気により、前記磁性体に捕集された磁性微粒子を容器中で捕捉する捕捉工程と、捕捉した前記磁性微粒子に結合している標的物質を検出する検出工程と、を有することを特徴とする標的物質の検出方法である。
請求項2に記載の発明は、前記捕集工程において、粒径が0.3〜3mmである前記磁性体を一つ添加することを特徴とする請求項1に記載の標的物質の検出方法である。
請求項3に記載の発明は、前記混合工程において、前記標的物質が標識された標識標的物質をさらに混合することを特徴とする請求項1又は2に記載の標的物質の検出方法である。
請求項4に記載の発明は、前記混合工程において、前記標的物質と特異的に結合してこれを標識する、特異的標識物質をさらに混合することを特徴とする請求項1又は2に記載の標的物質の検出方法である。
請求項5に記載の発明は、前記捕捉工程において、電磁石で発生させた磁気により、磁性微粒子を捕捉することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の標的物質の検出方法である。
請求項6に記載の発明は、前記標識が蛍光性物質に由来することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の標的物質の検出方法である。
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の検出方法で使用する標的物質の検出装置であって、標的物質、磁性微粒子及び該磁性微粒子を捕集する磁性体を収容する容器と、前記容器中に前記標的物質、磁性微粒子及び磁性体を添加する添加手段と、前記容器中の成分を混合する混合手段と、前記容器外に配置された磁気発生手段と、標的物質を検出する検出手段と、を有することを特徴とする標的物質の検出装置である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、検出対象の標的物質を効率的且つ高精度に検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
<標的物質の検出方法>
本発明に係る標的物質の検出方法は、検出対象である標的物質と、該標的物質と特異的に結合する特異的結合部を表面に備えた磁性微粒子とを容器中で混合する混合工程と、前記磁性微粒子とは異なる極性を有する磁性体を容器中に添加して、前記磁性微粒子を捕集する捕集工程と、前記容器外からの磁気により、前記磁性体に捕集された磁性微粒子を容器中で捕捉する捕捉工程と、捕捉した前記磁性微粒子に結合している標的物質を検出する検出工程と、を有することを特徴とする。
捕集工程において、磁性体により容器中で磁性微粒子を捕集しておくことで、磁性微粒子の大半を磁性体と共に短時間のうちに容器中で捕捉することができ、標的物質を効率的且つ高精度に検出することが可能となる。
以下、図面を参照しながら、本発明について詳しく説明する。図1は、本発明に係る検出方法を説明するための概略工程図である。
【0008】
[混合工程]
混合工程では、図1(a)に示すように、検出対象である標的物質2と、該標的物質2と特異的に結合する特異的結合部を表面に備えた磁性微粒子1とを容器4中へ添加し、混合する。
標的物質2は、後述する検出工程において検出可能なものであれば特に限定されない。例えば、天然由来の成分や、これら成分を化学的に修飾したもの、あるいは非天然の成分でも良く、目的に応じて適宜選択できる。ここで、「化学的に修飾する」とは、官能基を変換、付加又は除去したり、骨格を変化させる等、成分の構造を改変することを指す。
【0009】
標的物質2は、それ自体が未修飾の状態でシグナルを発生するものでも良いし、シグナルを発生し得る標識化合物で、標識されたものでも良い。検出するシグナルは、光シグナルが好ましく、蛍光、表面増強ラマン散乱光等が例示できる。
蛍光を発生する標識化合物(蛍光性物質)としては、フルオレセイン(フルオレセインイソチオシアネート(FITC)等)、ローダミン(ローダミングリーン、TAMRA等)、アクリフラビン、アレクサ(アレクサ647等)、サイバーグリーン(SYBR Green)等が例示できる。
また、表面増強ラマン散乱光を発生する標識化合物としては、ローダミン123、ローダミンB、ローダミン6G等の化学物質を、金、銀、白金、ニッケル等の金属粒子表面に固定化したもの等が例示できる。
本発明において、標的物質は、蛍光シグナルで検出することが特に好ましい。
【0010】
混合に供する標的物質2は一種類でも良いし、複数種類でも良い。複数種類である場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
さらに、標的物質が標識化合物で標識されたものである場合には、一種類の未修飾の標的物質を複数種類の標識化合物で別々に標識したものを併用しても良いし、複数種類の未修飾の標的物質を一種類の標識化合物で標識したものを併用しても良い。さらに、複数種類の未修飾の標的物質を複数種類の標識化合物で別々に標識したものを併用しても良い。
【0011】
磁性微粒子1は、標的物質2と特異的に結合する特異的結合部を表面に備えたものであり、標的物質2と特異的に結合する物質で、磁性を有する微粒子表面を修飾したものが例示できる。この場合、磁性を有する微粒子表面を修飾している前記物質の、修飾に関与していない標的物質との結合部が特異的結合部に該当する。ここで「特異的に結合する」とは、抗原−抗体反応や、核酸塩基の塩基対形成のように、高い選択性で結合を形成することを指す。例えば、抗原−抗体反応で結合を形成することにより、免疫複合体が得られる。また、「微粒子表面を修飾する」とは、共有結合、疎水結合等の分子間引力等により、微粒子表面に結合を形成することを指す。
本発明においては、標的物質2と抗原−抗体反応で特異的に結合する物質を、磁性を有する微粒子表面に共有結合させて、特異的結合部を設けることが好ましい。
【0012】
磁性を有する微粒子は公知のもので良いが、好ましいものとして、金属を含む材質からなる微粒子の表面を高分子等でコーティングしたものが例示できる。
金属を含む材質としては、四酸化三鉄(Fe3 4 );三酸化二鉄(γ−Fe2 3 );各種フェライト;鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、クロム等の金属;コバルト、ニッケル、マンガン等を含む合金が例示できる。
また、表面をコーティングする高分子等としては、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリカプラミド、ポリエチレンテレフタレート等の疎水性重合体;ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ(2−オキシエチルアクリレート)、ポリ(2−オキシエチルメタクリレート)、ポリ(2,3−ジオキシプロピルアクリレート)、ポリ(2,3−ジオキシプロピルメタクリレート)、ポリエチレングリコールメタクリレート等の親水性重合体;2〜4種程度の前記重合体の共重合体等のラテックス;ゼラチン;リポソームが例示できる。
【0013】
標的物質2と特異的に結合する物質で磁性を有する微粒子表面を修飾する場合には、例えば、当該物質中の官能基と、前記微粒子表面中の官能基との間で、共有結合等の化学結合を形成させ、当該物質と前記微粒子とを結合させれば良い。共有結合を形成させる方法は、アミド結合を形成させる方法、エステル結合を形成させる方法等、公知の方法を適用できる。
【0014】
磁性微粒子1は、後述する捕集工程で添加する磁性体よりも小さいものが好ましい。通常は、粒径が0.1〜10μmであることが好ましく、0.5〜5μmであることがより好ましい。
磁性微粒子1の数は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
磁性微粒子一つあたりの特異的結合部の数は特に限定されず、一つでも良いし、複数でも良い。複数とした場合には、磁性微粒子の使用量が少なくても、標的物質を効率的に結合できる。
【0015】
また、標的物質が複数種類である場合には、磁性微粒子一つあたりの特異的結合部は、一種類でも良いし、これら複数種類の標的物質に対応した複数種類でも良い。
磁性微粒子一つあたりの特異的結合部を一種類とする場合には、複数種類の標的物質に対応して、特異的結合部の種類が異なる複数種類の磁性微粒子を併用すれば良い。
磁性微粒子一つあたりの特異的結合部を複数種類とする場合には、一つの磁性微粒子に全ての標的物質に対応して、複数種類の特異的結合部が備えられていても良いし、複数種類のうちの一部の標的物質に対応して、複数種類の特異的結合部が備えられた磁性微粒子を複数種類併用し、これら複数種類の磁性微粒子で、全ての標的物質を結合できるようにしても良い。
【0016】
また、磁性微粒子も、一種類でも良いし、複数種類でも良い。複数種類である場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
例えば、材質が異なる複数種類の磁性微粒子を併用しても良いし、同じ材質で形状及び/又は大きさが異なる複数種類の磁性微粒子を併用しても良い。さらに、材質と、形状及び/又は大きさがいずれも異なる複数種類の磁性微粒子を併用しても良い。
【0017】
容器4は、標的物質2の検出を妨げないものであれば、樹脂、ガラス等如何なる材質でも良く、特に光シグナルの検出に好適である点から、透光性の材質であることが好ましい。
【0018】
混合工程では、例えば、標的物質2を含有する検体と、前記磁性微粒子1とを混合すると良い。
検体としては、生体から採取した血液、尿等の体液をそのまま使用しても良いし、これら体液や組織切片等のサンプルを適宜溶媒中に分散又は溶解させたものを使用したり、これらサンプルからの抽出液等を使用しても良く、目的に応じて適宜選択すれば良い。
混合時の温度等の条件は、標的物質2と磁性微粒子1との特異的結合の形成を妨げない範囲で任意に設定できる。
【0019】
混合工程では、標的物質2と磁性微粒子1を添加することで、図1(b)に示すように、標的物質2と、磁性微粒子1中の特異的結合部とが特異的に結合して、二重複合体5を形成する。
【0020】
[捕集工程]
捕集工程では、前記磁性微粒子1とは異なる極性を有する磁性体を容器4中に添加して、二重複合体5を形成している磁性微粒子1を捕集する。
容器4中に添加する磁性体は、前記磁性微粒子1とは異なる極性を有するものであり、磁気により、図1(c)に示すように、標的物質2と特異的に結合した磁性微粒子1を捕集する。このようにして、容器4中に存在する磁性微粒子1を別途添加した磁性体6で捕集しておくことにより、標的物質2検出時に磁性微粒子1を短時間で捕捉でき、標的物質2を効率的且つ高精度に検出することが可能となる。なお、本発明においては、特に断りのない限り「磁性体」とは、磁性微粒子ではなく、磁性微粒子の捕集に使用するものを指すものとする。
【0021】
磁性体6としては、強磁性体が好ましく、公知のものから適宜選択して使用すれば良いが、好ましいものとして具体的には、ネオジウム磁石、フェライト磁石、アルニコ磁石、サマリウムコバルト磁石が例示できる。
【0022】
磁性体6の形状は特に限定されず、粒子状、板状、柱状等任意のものが使用できる。なかでも、磁性微粒子の捕集効率を一層向上させることができることから、粒子状であることが好ましく、略球状であることが特に好ましい。
【0023】
磁性体6は、大きさが小さ過ぎると取り扱い難くなるだけでなく、磁力が弱過ぎて磁性微粒子の捕集力が低くなってしまう。また、大き過ぎるとコストが上昇するだけでなく、磁性体6上の広い領域で磁性微粒子1が捕集されることで、単位面積当たりの検出シグナルが小さくなり、標的物質2の検出精度が低下してしまう。
このような理由から、磁性体6の粒径は0.1〜5mmであることが好ましく、0.3〜3mmであることがより好ましく、0.5〜1mmであることが特に好ましい。
【0024】
添加する磁性体6の数も特に限定されず、適宜調整すれば良いが、数が多過ぎると、磁性体6を容器4中で捕捉する時に、磁性体6に捕集されている磁性微粒子1が不定形になるなど、形状が複雑化すると、検出シグナルの焦点合わせが困難になることから、一〜三つであることが好ましく、一つ又は二つであることがより好ましく、一つであることが特に好ましい。
特に、磁性体6の粒径が上記範囲内である場合には、磁性体6の数をこのような範囲とすることで、磁性微粒子1を単純な形状で磁性体6上に捕集できる一層高い効果が得られる。
【0025】
添加する磁性体の数が複数である場合には、磁性体は一種類でも良いし、複数種類でも良い。複数種類である場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0026】
[捕捉工程]
捕捉工程では、前記容器4外からの磁気により、前記磁性体6に捕集された磁性微粒子1を容器4中で捕捉する。ここでは、磁性微粒子1とは異なる極性の磁気により、磁性微粒子1を直接捕捉する場合について説明する。
磁気により磁性微粒子1を捕捉する時は、容器4の外側、すなわち外壁面近傍又は外壁面上に、磁気発生手段7を配置することが好ましい。磁気発生手段7としては、磁性微粒子1とは異なる極性を有する強磁性体を使用しても良いし、電磁石を使用しても良い。
【0027】
磁性体6は、通常、その表面が多数の磁性微粒子1で覆われており、これら磁性微粒子1が容器4外からの磁気により、容器4中で捕捉される。そして、捕集工程で磁性微粒子1の大半が磁性体6に捕集されているので、捕捉工程では、容器4中の磁性微粒子1が磁性体6と共に短時間で効率的に捕捉される。磁性微粒子1は、磁気により捕捉されることで、図1(d)に示すように、容器4の内壁面近傍又は内壁面上に保持される。このように保持されることで、標的物質2を高精度に検出できる。
【0028】
磁気発生手段7の数は、目的に応じて適宜選択すれば良いが、通常一つで良い。
【0029】
捕捉工程では、容器4外に磁気発生手段7を配置してから、好ましくは10秒以内、より好ましくは5秒以内で、容器4中で磁性微粒子1を捕捉できる。このように、磁性微粒子1を短時間で捕捉できるので、標的物質2を効率的且つ高精度に検出できる。
【0030】
本発明においては、捕捉工程後、磁性微粒子1を捕捉した状態で洗浄を一回又は複数回行ってから、後述する検出工程を行っても良いが、洗浄することなく検出工程を行っても、精度を損なうこと標的物質2を検出できる。
【0031】
[検出工程]
検出工程では、捕捉した前記磁性微粒子1に結合している標的物質2を検出する。
検出方法は、標的物質2のシグナルの種類に応じて選定すれば良い。例えば、図1(e)に示すように、励起光8を標的物質2に照射して、その結果生じた光シグナル8’を検出する方法が挙げられる。標的物質2が蛍光性物質又は蛍光性物質で標識された物質である場合には、標的物質2又は蛍光性物質に励起光を照射して、蛍光シグナルを検出すれば良い。
検出工程においては、磁性微粒子1が容器4の内壁面近傍又は内壁面上に保持されていることで、磁性微粒子1に特異的に結合している標的物質2を短時間で高精度に検出できる。
【0032】
本発明では、混合工程において、標的物質が標識された標識標的物質をさらに混合すること、すなわち、標的物質と標識標的物質とを併用することにより、競合法で標的物質を検出しても良い。ここで「標識標的物質」とは、混合工程で述べた、標識化合物で標識された標的物質と同様である。競合法を適用する場合には、前記標識標的物質を併用すること以外は、図1で説明した方法と同様の方法で検出を行えば良い。ただし検出工程では、磁性微粒子の特異的結合部に結合している標識標的物質のシグナルを検出することで、標的物質を間接的に検出することになる。
【0033】
また、混合工程において、標的物質と特異的に結合してこれを標識する、特異的標識物質をさらに混合することにより、サンドイッチ法で標的物質を検出しても良い。この時使用する特異的標識物質としては、標的物質と特異的に結合する物質が、標識化合物で標識されたものが例示できる。ここで、「標的物質と特異的に結合する物質」、「標識化合物」とは、いずれも先に説明したものと同様である。
【0034】
サンドイッチ法で標的物質を検出する場合の、本発明に係る検出方法を説明するための概略工程図を、図2に示す。図2中、符号3が特異的標識物質である。なお、図2中、図1で示したものと同様の構成には、同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0035】
まず、図2(a)に示すように、磁性微粒子1、標的物質2及び特異的標識物質3を添加し、混合することにより、図2(b)に示すように、これらが結合した三重複合体5’を形成させる。
次いで、図2(c)に示すように、磁性体6を容器4中に添加して、三重複合体5’を形成している磁性微粒子1を捕集する。
次いで、図2(d)に示すように、容器4外に磁気発生手段7を配置して、磁性体6に捕集された磁性微粒子1を容器中で捕捉する。
次いで、図2(e)に示すように、磁性微粒子1に結合している標的物質2を検出する。検出方法としては、励起光8を特異的標識物質3に照射して、その結果生じた光シグナル8’を検出する方法が例示できる。
このように、サンドイッチ法を適用する場合には、前記特異的標識物質を併用すること以外は、図1で説明した方法と同様の方法で検出を行えば良い。
【0036】
ここまでは、捕捉工程において、磁性微粒子をこれとは異なる極性の磁気により直接捕捉する例について説明したが、本発明においては、捕集工程において磁性微粒子を捕集した磁性体とは異なる(すなわち、磁性微粒子と同じ)極性の磁気により、該磁性体を捕捉することで、間接的に磁性微粒子を捕捉するようにしても良い。この場合は、容器外からの磁気の極性が異なること以外は、図1で説明した方法と同様の方法で検出を行えば良い。
【0037】
本発明によれば、捕集工程において、容器中の磁性微粒子を別途添加した磁性体で予め捕集しておくことで、捕捉工程において、磁性微粒子を短時間で捕捉でき、検出工程において、標的物質を効率的且つ高精度に検出できる。これにより、精度を損なうことなく、大量のサンプルも短時間で解析できる。また、検出工程の前に、洗浄操作を行わなくても、標的物質を高精度に検出できる。
【0038】
<標的物質の検出装置>
本発明に係る標的物質の検出装置は、上記本発明の検出方法で使用する標的物質の検出装置であって、標的物質、磁性微粒子及び該磁性微粒子を捕集する磁性体を収容する容器と、前記容器中に前記標的物質、磁性微粒子及び磁性体を添加する添加手段と、前記容器中の成分を混合する混合手段と、前記容器外に配置された磁気発生手段と、標的物質を検出する検出手段と、を有することを特徴とする。図3は、本発明に係る検出装置を例示する概略構成図である。
【0039】
図3に示すように、検出装置9は、容器4、添加手段10、混合手段11、磁気発生手段7及び検出手段12を備えるが、これらは、容器4を除いてコンピュータ13と電気的に接続され、コンピュータ13により、その動作が自動で制御可能とされていることが好ましい。また、容器4を保持及び移動させる保持手段(図示略)を別途設け、これをコンピュータ13と電気的に接続して、検出装置9への容器4の設置等を自動で制御できるようにしても良い。このようにすることで、大量のサンプルも自動で正確且つ効率的に解析でき、大幅なコストダウンが実現できる。さらに、検出結果の表示や、解析に利用するためのモニター14を備えることで、一連の操作を効率的に行うことができる。
【0040】
添加手段10としては、例えば、液体サンプルの分注が可能なシリンジ、ピペットや、固体を保持及び添加できる公知のものを単独で又は複数を組み合わせて使用すれば良い。
混合手段11は、液体を混合できるものであれば特に限定されず、振動撹拌機、超音波振動機等の加振手段等、公知のものから適宜選択すれば良い。混合に供するサンプル量が微量ではない場合には、モーター付き撹拌翼や撹拌子等の撹拌手段を使用しても良い。
磁気発生手段7は、先に説明したものと同様であり、所望の極性の磁気を発生できるものであれば、如何なるものでも良い。
検出手段12は、検出するシグナルの種類に応じて、適宜選択すれば良い。例えば、検出したシグナルを撮像する撮像手段を並設又は兼ねるものであれば、シグナルの検出及び記録を同時に行うことができ、好適である。撮像手段又は撮像手段を兼ねる検出手段としては、デジタルカメラが好適である。
【0041】
容器4、添加手段10、混合手段11、磁気発生手段7及び検出手段12の数は、目的に応じて適宜選定すれば良く、これらを複数備えることで、複数のサンプルを同時に処理できるようにすれば、大量のサンプルを短時間で効率的に処理できる。
【実施例】
【0042】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
(参考例1)
マイクロチューブ内へ、磁性微粒子を含む溶液を50μL添加した後、さらに粒径0.5mmの磁性体を一つ添加し、次いで、マイクロチューブ側面の外壁面上に、磁性微粒子とは異なる極性の磁性体を配置して、磁性微粒子を捕捉した。その結果、配置後5秒の段階で、マイクロチューブ内のほぼすべての磁性微粒子が、直径5mmの磁性体と共に捕捉され、マイクロチューブ内の溶液は透明となっていた。また、捕捉された磁性微粒子は、小さな塊状となっており、高密度に捕捉できていることが確認できた。この時の磁性微粒子の捕捉状態の概略図を図4(a)に示す。
【0043】
(参考例2)
マイクロチューブ内へ磁性体を添加しなかったこと以外は、参考例1と同様に、磁性微粒子を捕捉した。その結果、マイクロチューブ内では、当初一部の磁性微粒子が、マイクロチューブの外壁面上に配置した磁性体によって捕捉されたものの、大部分の磁性微粒子は捕捉されることなく溶液中に分散した状態であった。また、捕捉された磁性微粒子は、マイクロチューブの内壁面上で平面状に広がった状態であり、密度が低いことが確認できた。外壁面上に磁性体を配置してから5秒後の、磁性微粒子の捕捉状態の概略図を図4(b)に示す。その後、磁性微粒子はほぼすべて捕捉されたが、溶液が透明となるまでに30秒を要した。
このように、参考例1では、参考例2よりも、磁性微粒子を短時間で効率良く捕捉できた。
【0044】
(実施例1)
以下の手順により、競合法を適用して標的物質を検出した。
FITC Protein Labeling Kit:Thermo scientificを使用して、FITC標識TSH抗原を作製した。
次いで、マイクロチューブに、THS抗原を含むサンプル(Olympus OSR201010 TSH Reagent Control)100μL、TSH抗体修飾磁性微粒子を含有する液体(Olympus OSR201010 TSH Reagent R1)50μL及びFITC標識TSH抗原を含む溶液50μLを添加し、ボルテックス(登録商標)撹拌を行った。
次いで、粒径1mmの磁石粒子一つをマイクロチューブ内に添加し、マイクロチューブ側面の外壁面上に5秒間、前記磁性微粒子とは異なる極性の磁石を配置して、磁石粒子に捕集された磁性微粒子をマイクロチューブの内壁面上又はその近傍で保持し、捕捉された磁性微粒子にレーザー(波長495nm)をフォーカスして1秒間照射して、蛍光を検出するようにフォーカスされた分光器によって、波長520nmの蛍光を検出した。この時の磁性微粒子の捕捉状態は、参考例1と同様であった。
【0045】
(比較例1)
磁石粒子をマイクロチューブ内に添加せず、磁性微粒子を磁石粒子で捕集することなく捕捉したこと以外は、実施例1と同様に、波長520nmの蛍光を検出した。この時の磁性微粒子の捕捉状態は、参考例2と同様であった。
【0046】
比較例1の蛍光強度を1とした時の実施例1の蛍光強度比を算出したところ、1.34となった。これは、本発明により、磁性微粒子の捕捉効率が向上し、5秒という短時間でも、磁性体と共に捕捉された磁性微粒子の数が多くなったことが理由であると考えられた。
【0047】
(実施例2)
以下の手順により、サンドイッチ法を適用して標的物質を検出した。
FITC Protein Labeling Kit:Thermo scientificを使用して、FITC標識抗TSHポリクローナル抗体を作製した。
次いで、マイクロチューブにTSH抗原を含むサンプル(Olympus OSR201010 TSH Reagent Control)100μL及びTSH抗体修飾磁性微粒子を含有する液体(Olympus OSR201010 TSH Reagent R1)50μLを添加して反応させた。さらに、FITC標識抗TSHポリクローナル抗体を含む溶液50μLを添加し、ボルテックス(登録商標)撹拌を行った。
次いで、粒径1mmの磁性微粒子一つをマイクロチューブ内に添加し、マイクロチューブ側面の外壁面上に5秒間、前記磁性微粒子とは異なる極性の磁石を配置して、磁石粒子に捕集された磁性微粒子をマイクロチューブの内壁面上又はその近傍で保持し、捕捉された磁性微粒子にレーザー(波長495nm)をフォーカスして1秒間照射して、蛍光を検出するようにフォーカスされた分光器によって、波長520nmの蛍光を検出した。この時の磁性微粒子の捕捉状態は、参考例1と同様であった。
【0048】
(比較例2)
磁石粒子をマイクロチューブ内に添加せず、磁性微粒子を磁石粒子で捕集することなく捕捉したこと以外は、実施例2と同様に、波長520nmの蛍光を検出した。この時の磁性微粒子の捕捉状態は、参考例2と同様であった。
【0049】
比較例2の蛍光強度を1とした時の実施例2の蛍光強度比を算出したところ、1.28となった。これは、本発明により、磁性微粒子の捕捉効率が向上し、5秒という短時間でも、磁性体と共に捕捉された磁性微粒子の数が多くなったことが理由であると考えられた。
【0050】
(製造例1)
以下の手順により、TSH抗体修飾磁性微粒子を作製した。
ダイナビーズ(Invitrogen、粒径1μm)MyOneTM Immunoassay(Cat.no.304)をMES緩衝液(30mM MES,pH6.0)で洗浄した。次いで、EDC溶液(2.5mg/ml EDC in dHO)を添加して、室温で10分間混和しながら保温した。次いで、TSH抗体溶液(2mg/ml)を添加し、3時間室温で保温しながら混和することで、TSH抗体修飾磁性微粒子を得た。次いで、0.01%Tween−20を添加して、PBSにより洗浄し、得られたTSH抗体修飾磁性微粒子をPBS溶液中で保存した。
【0051】
(実施例3)
以下の手順により、サンドイッチ法を適用して標的物質を検出した。
FITC Protein Labeling Kit:Thermo scientificを使用して、FITC標識抗TSHポリクローナル抗体を作製した。
次いで、マイクロチューブに、TSH抗原を含むサンプル(Olympus OSR201010 TSH Reagent Control)100μL、及び製造例1で作製したTSH抗体修飾磁性微粒子を含有する液体50μLを添加して、反応させた。さらに、FITC標識抗TSHポリクローナル抗体を含む溶液50μLを添加し、ボルテックス(登録商標)撹拌を行った。
次いで、粒径1mmの磁性微粒子一つをマイクロチューブ内に添加し、マイクロチューブ側面の外壁面上に5秒間、前記磁性微粒子とは異なる極性の磁石を配置して、磁石粒子に捕集された磁性微粒子をマイクロチューブの内壁面上又はその近傍で保持し、捕捉された磁性微粒子にレーザー(波長495nm)をフォーカスして1秒間照射して、蛍光を検出するようにフォーカスされた分光器によって、波長520nmの蛍光を検出した。この時の磁性微粒子の捕捉状態は、参考例1と同様であった。
【0052】
(比較例3)
磁石粒子をマイクロチューブ内に添加せず、磁性微粒子を磁石粒子で捕集することなく捕捉したこと以外は、実施例3と同様に、波長520nmの蛍光を検出した。この時の磁性微粒子の捕捉状態は、参考例2と同様であった。
【0053】
比較例3の蛍光強度を1とした時の実施例3の蛍光強度比を算出したところ、1.28となった。これは、本発明により、磁性微粒子の捕捉効率が向上し、5秒という短時間でも、磁性体と共に捕捉された磁性微粒子の数が多くなったことが理由であると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、医薬品の開発や診断等、医学及び薬学の分野で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る検出方法を説明するための概略工程図である。
【図2】サンドイッチ法を適用した場合の、本発明に係る検出方法を説明するための概略工程図である。
【図3】本発明に係る検出装置を例示する概略構成図である。
【図4】磁性体配置後5秒における磁性微粒子の捕捉状態の概略図であり、(a)参考例1での、(b)参考例2での図である。
【符号の説明】
【0056】
1,・・・磁性微粒子,2・・・標的物質、3・・・特異的標識物質、4・・・容器、5・・・二重複合体、5’・・・三重複合体、6・・・磁性体、7・・・磁気発生手段、8・・・励起光、8’・・・光シグナル、9・・・検出装置、10・・・添加手段、11・・・混合手段、12・・・検出手段、13・・・コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象である標的物質と、該標的物質と特異的に結合する特異的結合部を表面に備えた磁性微粒子とを容器中で混合する混合工程と、
前記磁性微粒子とは異なる極性を有する磁性体を容器中に添加して、前記磁性微粒子を捕集する捕集工程と、
前記容器外からの磁気により、前記磁性体に捕集された磁性微粒子を容器中で捕捉する捕捉工程と、
捕捉した前記磁性微粒子に結合している標的物質を検出する検出工程と、
を有することを特徴とする標的物質の検出方法。
【請求項2】
前記捕集工程において、粒径が0.3〜3mmである前記磁性体を一つ添加することを特徴とする請求項1に記載の標的物質の検出方法。
【請求項3】
前記混合工程において、前記標的物質が標識された標識標的物質をさらに混合することを特徴とする請求項1又は2に記載の標的物質の検出方法。
【請求項4】
前記混合工程において、前記標的物質と特異的に結合してこれを標識する、特異的標識物質をさらに混合することを特徴とする請求項1又は2に記載の標的物質の検出方法。
【請求項5】
前記捕捉工程において、電磁石で発生させた磁気により、磁性微粒子を捕捉することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の標的物質の検出方法。
【請求項6】
前記標識が蛍光性物質に由来することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の標的物質の検出方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の検出方法で使用する標的物質の検出装置であって、
標的物質、磁性微粒子及び該磁性微粒子を捕集する磁性体を収容する容器と、前記容器中に前記標的物質、磁性微粒子及び磁性体を添加する添加手段と、前記容器中の成分を混合する混合手段と、前記容器外に配置された磁気発生手段と、標的物質を検出する検出手段と、を有することを特徴とする標的物質の検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−133777(P2010−133777A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308592(P2008−308592)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(510005889)ベックマン・コールター・インコーポレーテッド (174)
【Fターム(参考)】