説明

標的組込みのための線形ドナーコンストラクト

本明細書では、1つ以上の対象配列に隣接する50〜750塩基対(例えば、50〜100塩基対)のホモロジーアームを含む線形ドナー分子を開示する。ドナー分子および/またはこれらの分子を含む組成物を、細胞ゲノム中の対象の特定領域へ外来配列を標的組込みするための方法において使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲノム工学分野、特に、細胞ゲノムへの標的組込みのための線形ドナーコンストラクトに関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム生物学、特に多くのゲノム完全なヌクレオチド配列の決定における主な関心領域は、ゲノム配列への標的組込みである。相同組換えの自然現象を利用することにより、培養細胞内のゲノム配列を変化させるために多くの試みがなされてきた。例えば、Capecchi (1989) Science 244:1288−1292、米国特許第6,528,313号および同第6,528,314号を参照されたい。
【0003】
さらに、ゲノムDNAの標的切断のための様々な方法および組成物が記載されている。そのような標的切断事象は、例えば、予め決められた染色体座位で、標的変異誘発を誘導する、細胞DNA配列の標的欠失を誘導する、ならびに標的組換えおよび標的組込みを促進するために使用することができる。例えば、米国特許出願公開第20030232410号、同第20050208489号、同第20050026157号、同第20050064474号および同第20060188987号、ならびに国際公開公報第WO 2007/014275号を参照されたい。これらの開示内容は参照により、全ての目的のために、その全体が実際に組み入れられる。例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼを使用した標的組込みが長い(〜750塩基対)ホモロジーアームを有する環状(プラスミド)DNAを用いて証明されている。Moehle et al. (2007) Proc. Nat’l. Acad. Sci. USA 104(9):3055−3060を参照されたい。
【0004】
しかしながら、任意でエキソヌクレアーゼ分解に抵抗することができる、より短い、線形外来ポリヌクレオチドを含むさらなる組成物、および標的組込みのための方法におけるこれらの組成物の使用が依然として必要である。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、線形外来(ドナー)核酸、これらの核酸を含む組成物、およびこれらの線形ドナー分子を製造および使用する方法を提供する。一般に、本明細書で記載したドナー分子は対象配列に隣接する約50〜100塩基対の間の2つのホモロジーアームを有する。
【0006】
ドナー配列は、標的様式で細胞のゲノムに、例えばジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)および/またはメガヌクレアーゼを用いて組み込むことができる。外来核酸配列のゲノムへの組込みは、対象領域内のゲノム(染色体)の標的二本鎖切断により促進される。切断は好ましくは、対象領域内の配列に結合するように操作されたジンクフィンガー結合ドメインおよび切断ドメインまたは切断ハーフドメインを含む融合タンパク質の使用により対象領域に標的される。そのような切断は、切断部位またはその近くでの外来ポリヌクレオチド配列の組込みを刺激する。
【0007】
1つの態様では、対象配列に隣接する50〜100塩基対のホモロジーアームを含む線形核酸分子(ドナー分子)が提供されることが本明細書に記載されている。ある実施形態では、線形ドナー分子は安定に、それが導入された細胞内で存続する。他の実施形態では、線形ドナー分子は、例えば、1つ以上のホスホロチオエートホスホジエステル結合をドナー分子の両端の1つ以上の塩基対間に配置することにより、エキソヌクレアーゼ切断に抵抗するように修飾される。
【0008】
ドナー分子の対象配列は、機能性ポリペプチドをコードする1つ以上の配列(例えば、cDNA)を、プロモーターと共に、またはプロモーターなしで含み得る。ある実施形態では、核酸配列は、抗体、抗原、酵素、成長因子、受容体(細胞表面または核内)、ホルモン、リンホカイン、サイトカイン、レポーター、上記いずれかの機能性フラグメントおよび上記の組み合わせをコードするプロモーターレス配列を含む。組み込まれた配列の発現はその後、対象領域での内在プロモーターまたは他の調節領域により駆動される転写により確保される。他の実施形態では、「タンデム」カセットがこのように選択された部位に組み込まれ、カセットの第1の構成要素は上記のようなプロモーターレス配列を含み、転写終結配列が続き、第2の配列は自己発現カセットをコードする。追加の配列(コードまたは非コード配列)がホモロジーアーム間のドナー分子内に含まれ得、2Aペプチド、SA部位、IRESなどをコードする配列が挙げられるが、これらに限定されない。
【0009】
開示のドナー分子は、例えば、ゲノム内の特定の位置に標的されるDNA−結合ドメインおよび特定の座位に対する切断ドメイン(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)または天然のもしくは非天然のメガヌクレアーゼを含む1つ以上の融合分子を使用して、ゲノムの切断後、ゲノムの特定の位置に挿入させることができる。したがって、別の態様では、本明細書では、本明細書で記載したような外来配列を細胞ゲノムの対象領域内に組み込むための方法であって、(a)DNA−結合ドメイン(例えば、ジンクフィンガー結合ドメイン)と切断ドメインまたは切断ハーフドメインを含み、DNA−結合ドメイン(例えば、ジンクフィンガー結合ドメイン)が細胞のゲノム内の対象領域内の標的部位に結合するように操作されている融合タンパク質を細胞内で発現させることと、(b)細胞を本明細書で記載したようなドナーポリヌクレオチドと接触させることであって、標的部位への融合タンパク質の結合により、対象領域内の細胞ゲノムが切断され、これにより外来配列の対象領域内の細胞ゲノム内への組込みが得られること、を含む方法が提供される。
【0010】
ある実施形態では、方法は(a)第1のジンクフィンガー結合ドメインと第1の切断ハーフドメインを含み、第1のジンクフィンガー結合ドメインが細胞のゲノム内の対象領域内の第1の標的部位に結合するように操作されている第1の融合タンパク質を細胞内で発現させることと、(b)第2のジンクフィンガー結合ドメインと第2の切断ハーフドメインを含む第2の融合タンパク質を細胞内で発現させることであって、第2のジンクフィンガー結合ドメインが細胞のゲノム内の対象領域内の第2の標的部位に結合し、第2の標的部位は第1の標的部位とは異なり、(c)細胞を本明細書で記載したような外来ドナー分子と接触させることであって、第1の標的部位への第1の融合タンパク質の結合により、および第2の標的部位への第2の融合タンパク質の結合により、細胞ゲノムが対象領域内で切断され、これにより外来ドナー分子の対象領域内の細胞ゲノムへの組込みが得られるように切断ハーフドメインが配置させることと、を含む。
【0011】
本明細書で記載した方法のいずれにおいても、ドナーポリヌクレオチドは機能性ポリペプチドをコードする配列を含み、その配列が細胞ゲノムに挿入される。
【0012】
さらに、本明細書で記載した方法のいずれかでは、第1および第2の切断ハーフドメインは、IIS型制限エンドヌクレアーゼ、例えば、FokIまたはStsIに由来する。さらに、本明細書で記載した方法のいずれかでは、融合タンパク質の少なくとも1つは、切断ハーフドメインの二量体形成面のアミノ酸配列の変化を含み得、例えば、そのため、切断ハーフドメイン強制的ヘテロ二量体が形成される。また、本明細書で記載した方法のいずれかでは、切断ドメインは天然または非天然メガヌクレアーゼとし得る。
【0013】
本明細書で記載した方法のいずれかでは、細胞は哺乳類細胞、例えば、ヒト細胞、ラット細胞、マウス細胞もしくはウサギ細胞、または植物細胞とすることができる。さらに、細胞は昆虫、ツメガエルまたは線形動物系由来とし得る。さらに、細胞は細胞周期のG2期で停止させ得る。
【0014】
したがって、本発明の内容としては、下記実施形態が挙げられるが、これらに限定されない:
1.50〜750塩基対の間のホモロジーアームと対象配列とを含み、ホモロジーアームは対象配列に隣接する線形ドナー核酸分子。
2.ホモロジーアームの長さが50〜100塩基対の間である、1の線形ドナー核酸。
3.ホモロジーアームの塩基対の1つ以上がホスホロチオエートホスホジエステル結合で連結されている、1の線形ドナー核酸。
4.ホスホロチオエートホスホジエステル結合がドナー核酸の5’および3’末端の第1、任意で、第2結合に配置される、3の線形ドナー核酸。
5.ホモロジーアーム間に2Aペプチドをコードする配列をさらに含む、1〜4のいずれかの線形ドナー核酸。
6.ホモロジーアーム間にSA部位を含む配列をさらに含む、1〜5のいずれかの線形ドナー核酸。
7.ホモロジーアーム間にIRES配列を含む配列をさらに含む、1〜6のいずれかの線形ドナー核酸。
8.対象配列がポリペプチドをコードしない、1〜7のいずれかの線形ドナー核酸。
9. 対象配列に作動可能に結合されたプロモーター配列をさらに含む、1〜7のいずれかの線形ドナー核酸。
10.対象配列がポリペプチドをコードする、1〜7または9のいずれかの線形ドナー核酸。
11.ポリペプチドが、抗体、抗原、酵素、成長因子、受容体(細胞表面または核内)、ホルモン、リンホカイン、サイトカイン、レポーター遺伝子、選択可能なマーカー、分泌因子、エピトープタグおよびそれらの機能性フラグメントならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される、10による線形ドナー核酸。
12.配列が非コード核酸を含む、1〜7または9のいずれかの線形ドナー核酸。
13.非コード核酸がmiRNA、およびSH−RNA、またはsiRNAからなる群より選択される、請求項12記載の線形ドナー核酸。
14.(a)DNA−結合ドメインと切断ドメインまたは切断ハーフドメインを含み、DNA−結合ドメインが対象領域内の標的部位に結合するように操作されている融合タンパク質を細胞内で発現させることと、
(b)細胞を1〜11のいずれかのドナーポリヌクレオチドと接触させることと、
を含み、
標的部位への融合タンパク質の結合により、対象領域内の細胞ゲノムが切断され、これにより対象配列の細胞ゲノム内への相同性依存標的組込みが得られる、細胞のゲノム内の対象領域への対象配列の相同性依存標的組換えのための方法。
15.(a)第1のDNA−結合ドメインと第1の切断ハーフドメインを含み、第1のDNA−結合ドメインが細胞のゲノム内の対象領域内の第1の標的部位に結合するように操作されている第1の融合タンパク質を細胞内で発現させることと、
(b)第2のDNA−結合ドメインと第2の切断ハーフドメインを含む第2の融合タンパク質を細胞内で発現させることであって、第2のジンクフィンガー結合ドメインが細胞のゲノム内の対象領域内の第2の標的部位に結合し、第2の標的部位は第1の標的部位とは異なり、
(c)細胞を1〜11のいずれかによるドナー核酸を含むポリヌクレオチドと接触させることと、
を含み、
第1の標的部位への第1の融合タンパク質の結合により、および第2の標的部位への第2の融合タンパク質の結合により、細胞ゲノムが対象領域内で切断され、これによりドナー核酸の細胞ゲノムへの相同性依存組込みが得られるように切断ハーフドメインが配置される、細胞への対象配列の相同性依存標的組換えのための方法。
16.少なくとも1つのDNA−結合ドメインがジンクフィンガー結合ドメインである、14または15の方法。
17.少なくとも1つのDNA−結合ドメインがメガヌクレアーゼDNA−結合ドメインである、14〜16の方法。
18.組み込まれたドナー核酸由来の対象配列がポリペプチドを発現する、14または17の方法。
19.組み込まれたドナー由来の対象配列が非コード核酸配列を含む、14または17の方法。
20.切断ドメインがメガヌクレアーゼに由来する、14〜19の方法。
21.第1および第2の切断ハーフドメインがIIS型制限エンドヌクレアーゼに由来する、14〜19のいずれかによる方法。
22.IIS型制限エンドヌクレアーゼはFokIおよびStsIからなる群より選択される、21による方法。
23.細胞が細胞周期のG2期で停止される、14〜22のいずれかによる方法。
24.融合タンパク質の少なくとも1つが、切断ハーフドメインの二量体形成面のアミノ酸配列の変化を含む、14〜23のいずれかによる方法。
25.細胞が哺乳類細胞である、14〜24のいずれかによる方法。
26.細胞がヒト細胞である、25による方法。
27.細胞が植物細胞である、14〜24のいずれかによる方法。
28.細胞がツメガエル細胞、昆虫細胞または線形動物細胞である、14〜24のいずれかによる方法。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本明細書で記載した線形ドナーポリヌクレオチドの構築を示す概略図である。「x」はポリヌクレオチドの5’および3’末端上の第1および第2の結合としてのホスホロチオエートホスホジエステル結合を示す。
【図2】100塩基対のホモロジーアームを有する例示的な線形ドナー配列(SEQ ID NO:1)を示す。線形ドナー分子は、ヌクレオチド1〜100(小文字、下線)の左ホモロジーアーム、ヌクレオチド107〜132(小文字、太字)のスプライス受容(SA)部位、ヌクレオチド141〜212(大文字、下線なし)の口蹄疫ウイルス(FMDV)由来の2A自己プロセシング配列(2Aペプチド)をコードする配列、ヌクレオチド219〜1,215(大文字、下線)の緑色蛍光タンパク質(GFP)ポリ(A)をコードする配列、およびヌクレオチド1235〜1334(小文字、下線)の右ホモロジーアームを含む。
【図3】75塩基対のホモロジーアームを有する例示的な線形ドナー配列(SEQ ID NO:2)を示す。線形ドナー分子は、ヌクレオチド1〜75(小文字、下線)の左ホモロジーアーム、ヌクレオチド82〜107(小文字、太字)のSA部位、ヌクレオチド116〜187(大文字、下線なし)の2Aペプチドをコードする配列、ヌクレオチド194〜1,190(大文字、下線)のGFPポリ(A)をコードする配列、およびヌクレオチド1210〜1284(小文字、下線)の右ホモロジーアームを含む。
【図4】50塩基対のホモロジーアームを有する例示的な線形ドナー配列(SEQ ID NO:3)を示す。線形ドナー分子は、ヌクレオチド1〜50(小文字、下線)の左ホモロジーアーム、ヌクレオチド57〜82(小文字、太字)のSA部位、ヌクレオチド91〜162(大文字、下線なし)の2Aペプチドをコードする配列、ヌクレオチド169〜1,165(大文字、下線)のGFPポリ(A)をコードする配列、およびヌクレオチド1,185〜1,234(小文字、下線)の右ホモロジーアームを含む。
【図5】50塩基対のホモロジーアームを有する別の例示的な線形ドナー配列(SEQ ID NO:4)を示す。線形ドナー分子は、ヌクレオチド1〜50(小文字、下線)の左ホモロジーアーム、ヌクレオチド79〜594(小文字、太字)のhPGKプロモーター配列、ヌクレオチド615〜1,611(大文字、下線)のGFPポリ(A)をコードする配列、およびヌクレオチド1,639〜1,688(小文字、下線)の右ホモロジーアームを含む。
【図6】PCRアッセイ法の結果を示し、本明細書で記載した様々なドナー分子が、AAVS1標的ZFNの存在なし(レーン2〜7)で、または存在下(レーン8〜13)で、K562細胞中に導入された場合のPPP1R12C (AAVS1)座位の修飾を示す。
【図7】本明細書で記載した様々なドナー分子が、AAVS1標的ZFNの存在なし(レーン3〜7)で、または存在下(レーン9〜13)で、K562細胞中に導入された場合のPPP1R12C (AAVS1)座位の修飾を示すサザンブロットである。修飾された染色体の割合をレーン9〜13の下方で列挙する。
【図8】FACSにより評価したGFP−陽性細胞の割合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、ゲノム中の対象領域への相同性依存標的組込み(TI)に有用な外来(ドナー)ポリヌクレオチドに関する。特に、本明細書で記載したドナーポリヌクレオチドは約50〜100塩基対のホモロジーアーム(HA)を含む線形分子である。ホモロジーアームは細胞のゲノムに挿入される対象の1つ以上の配列に隣接する。これらのドナー分子は、切断ドメイン(または切断ハーフドメイン)とジンクフィンガー結合ドメイン(および/またはこれらのタンパク質をコードするポリヌクレオチド)を含む融合タンパク質(ジンクフィンガーヌクレアーゼ)と組み合わせて使用した場合、標的切断およびゲノム中の特定の対象領域への組換えに有用である。ジンクフィンガー結合ドメインは1つ以上のジンクフィンガー(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9またはそれ以上のジンクフィンガー)を含むことができ、対象の領域内のいずれかの配列に結合するように操作することができる。ZFP存在下では、記載した線形ドナーポリヌクレオチドが相同性依存法により、高い比率で切断部位に組み込まれる。
【0017】
本明細書で記載した線形ドナー分子の利点としては、ZFNと共に使用するためのドナー粒子の迅速で、効率的な提供が挙げられる。現在、ゲノムの特定座位への標的挿入のためにジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)と組み合わせて使用されるドナー分子は、対象の導入遺伝子に隣接する長い(〜750塩基対)ホモロジーアームを含むプラスミドコンストラクトである。そのようなプラスミドドナーの構築は時間がかかり、少なくとも2週間かかる。対照的に、本明細書で記載した線形ドナー分子は、数時間以内で構築し、直ちに使用することができる。さらに、本明細書で記載した線形ドナーの使用により、プラスミドドナーの宿主細胞への安定な挿入現象が低減され、または排除される。
【0018】
概要
本明細書で開示した方法の実行、ならびに組成物の調製および使用は、別記しない限り、分子生物学、生物化学、クロマチン構造および分析、コンピュータ化学、細胞培養、組換えDNAおよび当技術分野の技術の範囲内にある関連分野における従来の技術を使用する。これらの技術は文献で十分に説明されている。例えば、Sambrook et al. MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, Second edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989 and Third edition, 2001、Ausubel et al., CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, John Wiley & Sons, New York, 1987および定期的更新、the series METHODS IN ENZYMOLOGY, Academic Press, San Diego; Wolffe, CHROMATIN STRUCTURE AND FUNCTION, Third edition, Academic Press, San Diego, 1998、METHODS IN ENZYMOLOGY, Vol. 304, “Chromatin” (P.M. Wassarman and A. P. Wolffe, eds.), Academic Press, San Diego, 1999、およびMETHODS IN MOLECULAR BIOLOGY, Vol. 119, “Chromatin Protocols” (P.B. Becker, ed.) Humana Press, Totowa, 1999を参照されたい。
【0019】
定義
「核酸」、「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」は同じ意味で使用され、線形または環状構造で、一本鎖または二本鎖形態のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマを示す。本開示のために、これらの用語は、ポリマ長さに関して制限するものと解釈すべきではない。用語は、天然ヌクレオチドの公知の類似体、ならびに塩基、糖、および/またはリン酸部分(例えば、ホスホロチオエート主鎖)において修飾されたヌクレオチドを含むことができる。一般に、特定のヌクレオチドの類似体は同じ塩基対特異性を有し、すなわち、Aの類似体はTと塩基対合する。
【0020】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマを示すために同じ意味で使用される。用語はまた、1つ以上のアミノ酸が、対応する天然アミノ酸の化学類似体または修飾誘導体であるアミノ酸ポリマにも当てはまる。
【0021】
「結合」は、配列特異的な、高分子間(例えば、タンパク質と核酸の間)の非共有結合相互作用である。相互作用が全体として配列特異的である限り、結合相互作用の構成要素が全て配列特異的である必要はない(例えば、DNA主鎖中のリン酸残基と接触する)。そのような相互作用は一般に、10-6-1以下の解離定数(Kd)により特徴づけられる。「親和性」は結合強度を示し、結合親和性の増加はKdの減少と相関する。
【0022】
「結合タンパク質」は、非共有結合により、別の分子に結合することができるタンパク質である。結合タンパク質は、例えば、DNA分子(DNA−結合タンパク質)、またはRNA分子(RNA−結合タンパク質)および/またはタンパク質分子(タンパク質−結合タンパク質)に結合することができる。タンパク質結合タンパク質の場合、それ自体に結合することができ(ホモ二量体、ホモ三量体などを形成する)、および/または異なる1つ以上のタンパク質の1つ以上の分子に結合することができる。結合タンパク質は1を超える型の結合活性を有することができる。例えば、ジンクフィンガータンパク質はDNA−結合、RNA−結合およびタンパク質−結合活性を有する。
【0023】
「ジンクフィンガーDNA結合タンパク質」(または結合ドメイン)は、配列特異的様式で1つ以上のジンクフィンガーによりDNAに結合するタンパク質、またはより大きなタンパク質内のドメインであり、ジンクフィンガーはその構造が亜鉛イオンの配位により安定化されている結合ドメイン内のアミノ酸配列領域である。ジンクフィンガーDNA結合タンパク質という用語は、しばしば、ジンクフィンガータンパク質またはZFPとして短縮される。
【0024】
ジンクフィンガー結合ドメインは、予め決められたヌクレオチド配列に結合するように「操作する」ことができる。ジンクフィンガータンパク質を操作するための方法の非制限的方法はデザインおよび選択である。デザインされたジンクフィンガータンパク質は、そのデザイン/組成が主に合理的基準から生じる天然に生じないタンパク質である。デザインのための合理的基準は、置換規則ならびに現存のZFPデザインおよび結合データの情報を保存するデータベース中の情報を処理するためのコンピュータアルゴリズムの適用を含む。例えば、米国特許第6,140,081号、同第6,453,242号、および同第6,534,261号を参照されたい。また、WO 98/53058号、WO 98/53059号、WO 98/53060号、WO 02/016536号およびWO 03/016496号も参照されたい。
【0025】
「選択した」ジンクフィンガータンパク質は、その生成がファージディスプレイ、相互作用トラップまたはハイブリッド選択などの実験的過程から主に得られる天然に見られないタンパク質である。例えば、US第5,789,538号、US第5,925,523号、US第6,007,988号、US第6,013,453号、US第6,200,759号、WO 95/19431号、WO 96/06166号、WO 98/53057号、WO 98/54311号、WO 00/27878号、WO 01/60970号、WO 01/88197号およびWO 02/099084号を参照されたい。
【0026】
「配列」という用語は、任意の長さのヌクレオチド配列を示し、DNAまたはRNAとすることができ、線形、環状または分枝とすることができ、一本鎖または二本鎖のいずれかとすることができる。「ドナー配列」という用語は、ゲノムに挿入されるヌクレオチド配列を示す。ドナー配列は任意の長さ、例えば2〜10,000ヌクレオチドの間の長さ(またはそれらの間もしくはそれ以上の任意の整数値)、好ましくは約100〜1,000ヌクレオチドの間の長さ(またはそれらの間の任意の整数値)、より好ましくは約200〜500ヌクレオチドの間の長さとすることができる。
【0027】
「相同の、同一でない配列」は、第2の配列とある程度の配列同一性を共有するが、その配列が第2の配列とは同一ではない第1の配列を示す。例えば、突然変異遺伝子の野生型配列を含むポリヌクレオチドは、突然変異遺伝子配列と相同であるが、同一ではない。ある実施形態では、2つの配列間の相同性の程度は、正常な細胞機構を用いて、それらの間での相同組換えを可能とするのに十分なものである。2つの相同の、同一ではない配列は任意の長さとすることができ、その非相同性の程度は、単一ヌクレオチドと同じくらい小さく(例えば、標的相同組換えによるゲノム点変異の補正のため)、または10以上キロベースと同じくらい大きく(例えば、染色体内の予め決められた異所部位での遺伝子の挿入のため)することができる。相同の同一でない配列を含む2つのポリヌクレオチドは同じ長さである必要はない。例えば、20〜10,000ヌクレオチドの間の外来ポリヌクレオチド(すなわち、ドナーポリヌクレオチド)またはヌクレオチド対を使用することができる。
【0028】
核酸および核酸配列同一性を決定するための技術は当技術分野において知られている。典型的には、そのような技術は、ある遺伝子のためのmRNAのヌクレオチド配列を決定すること、および/またはそれによりコードされるアミノ酸配列を決定すること、およびこれらの配列を第2のヌクレオチドまたはアミノ酸配列と比較することを含む。ゲノム配列はまた、このように決定され、比較され得る。一般に、同一性は、それぞれ、2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の正確なヌクレオチド対ヌクレオチドまたはアミノ酸対アミノ酸対応を示す。2つ以上の配列(ポリヌクレオチドまたはアミノ酸)は、その同一性%を決定することにより比較することができる。核酸配列かアミノ酸配列であるかに関わらず、2つの配列の同一性%は、2つの整列させた配列間の完全な一つの数を、より短い配列の長さで割り、100をかけたものである。核酸配列のためのおおよその整列は、Smith and Waterman, Advances in Applied Mathematics 2:482−489 (1981)の局所相同性アルゴリズムにより提供される。このアルゴリズムは、Dayhoff, Atlas of Protein Sequences and Structure, M.O. Dayhoff ed., 5 suppl. 3:353−358, National Biomedical Research Foundation, Washington, D.C., USA,より開発され、Gribskov, Nucl. Acids Res. 14(6):6745−6763 (1986)により規格化されたスコアリング行列を用いてアミノ酸配列に適用することができる。配列の同一性%を決定するためのこのアルゴリズムの例示的な実行は、「BestFit」実用的用途におけるGenetics Computer Group (Madison, WI)により提供される。この方法のデフォルトパラメータは、Wisconsin Sequence Analysis Package Program Manual, Version 8 (1995) (Genetics Computer Group, Madison, WIから入手可能)において記載されている。本開示との関連で同一性%を確立する好ましい方法は、Edinburgh大学により著作権保護され、John F. CollinsおよびShane S. Sturrokにより開発され、IntelliGenetics, Inc. (Mountain View, CA)により流通されているMPSRCHプログラムパッケージを使用するものである。この一組のパッケージから、デフォルトパラメータがスコアリング表(例えば、12のギャップ開始ペナルティ、1のギャップ伸長ペナルティ、および6のギャップ)のために使用されるSmith−Watermanアルゴリズムを使用することができる。データから生成された「一致」値は配列同一性を反映する。配列間の同一性%または類似性%を計算するための他の適したプログラムは、当技術分野において一般に知られており、例えば、別の整列プログラムは、デフォルトパラメータと共に使用されるBLASTである。例えば、BLASTNおよびBLASTPは、下記デフォルトパラメータを用いて使用することができる:遺伝暗号=標準、フィルタ=なし、鎖=両方、カットオフ=60、期待=10、行列=BLOSUM62、記述=50配列、分類=ハイスコア、データベース=非冗長、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS翻訳+Swissタンパク質+Spupdate+PIR。これらのプログラムの詳細はインターネットで見出すことができる。本明細書で記載した配列に関しては、所望の配列同一性の程度の範囲は約80%〜100%およびそれらの間の任意の整数値である。典型的には、配列間の同一性%は少なくとも70〜75%、好ましくは80〜82%、より好ましくは85−90%、さらに好ましくは92%、さらにいっそう好ましくは95%、および最も好ましくは98%の配列同一性である。
【0029】
また、ポリヌクレオチド間の配列類似性の程度は、相同領域間で安定な二本鎖を形成させる条件下での、ポリヌクレオチドのハイブリダイゼーション、続く一本鎖特異的ヌクレアーゼによる消化、ならびに消化されたフラグメントのサイズ決定により決定することができる。2つの核酸、または2つのポリペプチド配列は、配列が上記方法を用いて決定して、規定された長さの分子にわたって、少なくとも約70%〜75%、好ましくは80%〜82%、より好ましくは85%〜90%、さらにより好ましくは92%、さらにいっそう好ましくは95%、最も好ましくは98%の配列同一性を示した場合に、実質的に互いに相同である。本明細書で使用されるように、実質的に相同というのはまた、特定のDNAまたはポリペプチド配列に対し完全な同一性を示す配列を表す。実質的に相同であるDNA配列は、例えば、特定の系に対して規定されるようなストリンジェントな条件下でのサザンハイブリダイゼーション実験により識別することができる。適当なハイブリダイゼーション条件の規定は、当技術分野の技術範囲内にある。例えば、Sambrook et al., 上記、 Nucleic Acid Hybridization: A Practical Approach, editors B.D. Hames and S.J. Higgins, (1985) Oxford、Washington, DC; IRL Pressを参照されたい。
【0030】
2つの核酸フラグメントの選択的ハイブリダイゼーションは下記のように決定することができる。2つの核酸分子間の配列同一性の程度は、そのような分子間のハイブリダイゼーション事象の効率および強度に影響する。部分的に同一の核酸配列は、少なくとも部分的に、標的分子への完全に同一な配列のハイブリダイゼーションを示す。完全に同一な配列のハイブリダイゼーションの阻害は、当技術分野においてよく知られたハイブリダイゼーションアッセイ法(例えば、サザン(DNA)ブロット、ノーザン(RNA)ブロット、溶液ハイブリダイゼーション、など、Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, (1989) Cold Spring Harbor, N.Y.を参照されたい)を用いて評価することができる。そのようなアッセイ法は、様々な程度の選択性を使用して、例えば、低〜高ストリンジェンシーと変化する条件を使用して、実施することができる。低ストリンジェンシー条件を使用した場合、非特異的結合がないことは、部分的な程度の配列同一性さえ失った第2プローブ(例えば、標的分子と約30%未満の配列同一性を有するプローブ)を用いて評価することができ、そのため、非特異的結合事象が存在しないと、第2プローブは標的にハイブリダイズしない。
【0031】
ハイブリダイゼーションに基づく検出システムを使用する場合、基準核酸配列に相補的である核酸ブローブが選択され、その後、適当な条件を選択することにより、プローブと基準配列が選択的に互いにハイブリダイズし、または結合し、二本鎖分子を形成する。適度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で基準配列に選択的にハイブリダイズすることができる核酸分子は典型的には、選択された核酸プローブの配列と少なくとも約70%の配列同一性を有する、少なくとも約10〜14ヌクレオチドの長さを有する標的核酸配列の検出を可能にする条件下でハイブリダイズする。ストリンジェントハイブリダイゼーション条件は、典型的には、選択された核酸プローブの配列と約90〜95%を超える配列同一性を有する、少なくとも約10〜14ヌクレオチドの長さの標的核酸配列の検出を可能にする。プローブ/基準配列ハイブリダイゼーションに対して有用なハイブリダイゼーション条件は、プローブおよび基準配列が特定の配列同一性の程度を有する場合、当技術分野で知られているように決定することができる(例えば、Nucleic Acid Hybridization: A Practical Approach, editors B.D. Hames and S.J. Higgins, (1985) Oxford; Washington, DC; IRL Pressを参照されたい)。
【0032】
ハイブリダイゼーションのための条件は当業者にはよく知られている。ハイブリダイゼーションストリンジェンシーは、ハイブリダイゼーション条件が不適正ヌクレオチドを含むハイブリッドの形成を嫌う程度を示し、より高いストリンジェンシーは不適正ハイブリッドの許容度がより低いことと相関する。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する因子は、当業者によく知られており、温度、pH、イオン強度、および有機溶媒、例えば、ホルムアミドおよびジメチルスルホキシドの濃度が挙げられるが、これらに限定されない。当業者に知られているように、ハイブリダイゼーションストリンジェンシーはより高い温度、より低いイオン強度およびより低い溶媒濃度により増加する。
【0033】
ハイブリダイゼーションのストリンジェンシー条件に関しては、例えば、下記因子:配列の長さおよび性質、様々な配列の塩基組成、塩および他のハイブリダイゼーション溶液成分の濃度、ハイブリダイゼーション溶液中の遮断薬(例えば、硫酸デキストラン、およびポリエチレングリコール)の有無、ハイブリダイゼーション反応温度および時間パラメータ、ならびに様々な洗浄条件を変化させることにより、多くの等価な条件を使用して特定のストリンジェンシーを確立することができることが当技術分野においてよく知られている。特定のハイブリダイゼーション条件の組の選択は、当技術分野における標準法に従い選択される(例えば、Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, (1989) Cold Spring Harbor, N.Y.を参照されたい)。
【0034】
「組換え」は、2つのポリヌクレオチド間の遺伝情報の交換過程を示す。この開示のために、「相同組換え(HR)」は、例えば、細胞内の二本鎖切断の修復中に起こるそのような交換の特定の形態を示す。この過程はヌクレオチド配列相同性を必要とし、「標的」分子(すなわち、二本鎖切断を受けた1つ)の鋳型修復に対し「ドナー」分子を使用し、「非クロスオーバー遺伝子変換」または「短い領域の遺伝子変換」として様々に知られており、というのも、これにより、ドナーから標的への遺伝情報のトランスファに至るからである。いずれの特定の理論にも縛られることを望まないが、そのようなトランスファは、切断された標的とドナー間で形成されるヘテロ二本鎖DNAのミスマッチ補正、および/または標的の一部となる遺伝情報を再合成するためにドナーが使用される「合成依存鎖アニーリング」、および/または関連する過程を含むことができる。そのように特定化されたHRにより、しばしば、ドナーポリヌクレオチドの配列の一部または全てが標的ポリヌクレオチドに組み入れられるように、標的分子の配列変化が起こる。
【0035】
「切断」は、DNA分子の共有結合した主鎖の破損を示す。切断は、ホスホジエステル結合の酵素または化学加水分解を含むがこれらに限定されない様々な方法により開始させることができる。一本鎖切断および二本鎖切断の両方が可能であり、二本鎖切断は2つの異なる一本鎖切断事象の結果として起こり得る。DNA切断により、平滑末端または付着末端のいずれかを生成させることができる。ある実施形態では、融合ポリペプチドが標的二本鎖DNA切断のために使用される。
【0036】
「切断ドメイン」はDNA切断のための触媒活性を有する1つ以上のポリペプチド配列を含む。切断ドメインは、単一のポリペプチド鎖に含まれ得、または切断活性は2つ(またはそれ以上)のポリペプチドの会合により得ることができる。
【0037】
「切断ハーフドメイン」は、第2のポリペプチド(同一かまたは異なる)と共に切断活性(好ましくは、二本鎖切断活性)を有する複合体を形成するポリペプチド配列である。
【0038】
「クロマチン」は細胞ゲノムを含む核タンパク質構造である。細胞クロマチンは核酸、主にDNA、ならびにヒストンおよび非ヒストン染色体タンパク質を含むタンパク質を有する。真核生物細胞クロマチンの大部分がヌクレオソームの形態で存在し、ここで、ヌクレオソームコアはヒストンH2A、H2B、H3およびH4、それぞれ2つを含む八量体と結合したDNAの約150の塩基対を含み、リンカーDNA(生物によって様々な長さを有する)がヌクレオソームコア間に延在する。ヒストンH1の分子は一般にリンカーDNAと結合する。本開示のために、「クロマチン」という用語は、全ての型の細胞核タンパク質、原核生物および真核生物の両方を含むことを意味する。細胞クロマチンは染色体クロマチンおよびエピソームクロマチンの両方を含む。
【0039】
「染色体」は、細胞のゲノムの全てまたは一部を含むクロマチン複合体である。細胞ゲノムはしばしば、その核型により特徴づけられるが、これは細胞ゲノムを含む染色体全てを集めたものである。細胞ゲノムは1つ以上の染色体を含むことができる。
【0040】
「エピソーム」は細胞の染色体核型の一部でない核酸を含む複製核酸、核タンパク質複合体または他の構造である。エピソームの例としてはプラスミドおよびあるウイルスゲノムが挙げられる。
【0041】
「到達可能領域」は、核酸中に存在する標的部位が、標的部位を認識する外来分子により結合され得る細胞クロマチン内の部位である。いずれの特定の理論にも縛られることを望まないが、到達可能領域はヌクレオソーム構造中にパッケージされていないものであると考えられる。到達可能領域の異なる構造はしばしば、その化学および酵素プローブ、例えばヌクレアーゼに対する感受性により検出され得る。
【0042】
「標的部位」または「標的配列」は、結合のための十分な条件が存在するという条件で、結合分子が結合する核酸の一部を規定する核酸配列である。例えば、配列5’−GAATTC−3は、EcoRI制限エンドヌクレアーゼのための標的部位である。
【0043】
「外来」分子は、細胞中に普通存在しないが、1つ以上の遺伝学的手法、生物化学的手法または他の方法により細胞に導入することができる分子である。「細胞中に普通に存在する」とは、細胞の特定の発生段階および環境条件に関して決定される。したがって、例えば、筋肉の胚発生中のみに存在する分子は成人筋肉細胞に関して外来分子である。同様に、熱ショックにより誘導された分子は、熱ショックを受けていない細胞に関し外来分子である。外来分子は、例えば、任意のポリペプチドまたはそのフラグメントのコード配列、機能不全内在分子の機能バージョン、または正常に機能する内在分子の機能不全バージョンを含むことができる。外来分子はまた、内在分子と同じ型の分子であり得るが、内在分子が誘導される種とは異なる種から誘導され得る。例えば、ヒト核酸配列は、ハムスターまたはマウスを起源とする細胞株に導入し得る。
【0044】
外来分子は、特に、小分子、例えばコンビナトリアルケミストリー過程により生成されたもの、または高分子、例えば、タンパク質、核酸、炭水化物、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖、上記分子の任意の修飾誘導体、または1つもしくは複数の上記分子を含む任意の複合体とすることができる。核酸はDNAおよびRNAを含み、一本鎖または二本鎖とすることができ、線形、分枝または環状とすることができ、任意の長さとすることができる。核酸としては、二本鎖を形成することができるもの、ならびに三本鎖形成核酸が挙げられる。例えば、米国特許第5,176,996号および同第5,422,251号を参照されたい。ゲノムへの挿入のために標的とされ得る外来核酸分子はまた、「ドナー」ポリヌクレオチドと呼ばれる。タンパク質としては、DNA−結合タンパク質、転写因子、クロマチンリモデリング因子、メチル化DNA結合タンパク質、ポリメラーゼ、メチラーゼ、デメチラーゼ、アセチラーゼ、デアセチラーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、リガーゼ、トポイソメラーゼ、ギラーゼおよびヘリカーゼが挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
外来分子は、内在分子、例えば、内在タンパク質または核酸と同じ型の分子とすることができる。例えば、外来核酸は細胞に導入された感染ウイルスゲノム、プラスミドもしくはエピソーム、または普通細胞中に存在しない染色体を含むことができる。外来分子の細胞中への導入のための方法は当業者に知られており、脂質媒介トランスファ(すなわち、リポソーム、中性およびカチオン性脂質を含む)、エレクトロポレーション、直接注入、細胞融合、微粒子銃、リン酸カルシウム共沈、DEAE−デキストラン媒介トランスファおよびウイルスベクター媒介トランスファが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
対照的に、「内在」分子は、特定の環境条件下、特定の発生段階にある特定の細胞内に普通存在するものである。例えば、内在核酸は、染色体、ミトコンドリアゲノム、葉緑体ゲノム、または他の小器官のゲノム、天然エピソーム核酸を含むことができる。追加の内在分子は、タンパク質、例えば、転写因子および酵素を含むことができる。
【0047】
「融合」分子は、2つまたはそれ以上のサブユニット分子が、好ましくは共有結合により結合された分子である。サブユニット分子は同じ化学型の分子とすることができ、または異なる化学型の分子とすることができる。第1の型の融合分子の例としては、融合タンパク質(例えば、ZFP DNA−結合ドメインと切断ドメインとの間の融合物)および融合核酸(例えば、上記で記載されている融合タンパク質をコードする核酸)が挙げられるが、これらに限定されない。第2の型の融合分子の例としては、三本鎖形成核酸とポリペプチドの間の融合、副溝バインダーと核酸の間の融合が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
細胞内での融合タンパク質の発現は、融合タンパク質の細胞への送達、または融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの細胞への送達により得ることができ、この場合、ポリヌクレオチドが転写され、転写物が翻訳され、融合タンパク質が生成される。トランススプライシング、ポリペプチド切断およびポリペプチド連結もまた、細胞内でのタンパク質の発現に関与し得る。ポリヌクレオチドおよびポリペプチドの細胞への送達法は、本開示のほかの場所で提供する。
【0049】
「遺伝子」は、本開示のために、遺伝子産物(以下を参照されたい)をコードするDNA領域、ならびに遺伝子産物の産生を制御する全てのDNA領域を、そのような制御配列がコード配列および/または転写配列に隣接しているかどうかに関係なく、含む。したがって、遺伝子としては、プロモーター配列、ターミネーター、翻訳制御配列、例えばリボソーム結合部位および配列内リボソーム進入部位、エンハンサー、サイレンサー、インスレーター、境界要素、複製開始点、マトリクス付着部位および遺伝子座調節領域が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0050】
「遺伝子発現」は、遺伝子内に含まれる情報の遺伝子産物への変換を示す。遺伝子産物は、遺伝子の直接転写産物(例えば、mRNA、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、構造RNA または任意の他の型のRNA)、またはmRNAの翻訳により生成されるタンパク質とすることができる。遺伝子産物はまた、キャッピング、ポリアデニル化、メチル化およびエディティングにより修飾されたRNA、ならびに、例えば、メチル化、アセチル化、ホスホリル化、ユビキチン化、ADP−リボシル化、ミリスチル化およびグリコシル化により修飾されたタンパク質を含む。
【0051】
遺伝子発現の「調節」は、遺伝子活性の変化を示す。発現の調節としては、遺伝子活性化および遺伝子抑制が挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
「真核生物」細胞としては、真菌細胞(例えば酵母)、植物細胞、動物細胞、哺乳類細胞およびヒト細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
「植物」細胞としては、単子葉(単子葉植物)または双子葉(双子葉植物)植物が挙げられるが、これらに限定されない。単子葉植物の非制限的例としては、穀物用植物、例えば、トウモロコシ、コメ、オオムギ、カラスムギ、コムギ、モロコシ、ライムギ、サトウキビ、パイナップル、タマネギ、バナナ、およびココナッツが挙げられる。双子葉植物の非制限的例としては、タバコ、トマト、ヒマワリ、ワタ、サトウダイコン、ジャガイモ、レタス、メロン、大豆、キャノーラ(ナタネ)、およびアルファルファが挙げられる。植物細胞は植物の任意の部分および/または任意の植物発生段階に由来してもよい。
【0054】
「対象」領域は細胞クロマチンの任意の領域であり、例えば、遺伝子または遺伝子内もしくは遺伝子に隣接する非コード配列であり、この場合、外来分子に結合することが望ましい。結合は、標的DNA切断および/または標的組換えのためとすることができる。対象領域は、例えば、染色体、エピソーム、細胞小器官ゲノム(例えば、ミトコンドリア、葉緑体)、または感染ウイルスゲノム内に存在することができる。対象領域は遺伝子のコード領域内、転写される非コード領域、例えば、リーダー配列、トレーラー配列もしくはイントロン内、または非転写領域内に、コード領域の上流または下流のいずれかで、存在することができる。対象領域は長さが1〜2000のヌクレオチド対ほどの小さいもの、または任意の整数値のヌクレオチド対とすることができる。
【0055】
「作動的結合」および「作動可能に結合された」(または「作動できるように結合された」)という用語は、近位の2つ以上の構成要素(例えば配列要素)対し同じ意味で使用され、この場合、構成要素は、両方の構成要素が正常に機能し構成要素の少なくとも1つが他の構成要素の少なくとも1つにより実施される機能を媒介することができる可能性を与えるように配列される。説明のために、転写制御配列が1つ以上の転写制御因子の有無に応じてコード配列の転写レベルを制御する場合、転写制御配列、例えばプロモーターがコード配列に作動可能に結合される。転写制御配列は一般に作動可能にcisで、コード配列と結合されるが、それに直接隣接する必要はない。例えば、エンハンサーは、例え近接していなくても、コード配列に作動可能に結合された転写制御配列である。
【0056】
融合ポリペプチドに関しては、「作動可能に結合された」という用語は、構成要素の各々が他の構成要素と結合して、そのように結合されていなければ実行するのと同じ機能を実行するという事実を示すことができる。例えば、ZFP DNA−結合ドメインが切断ドメインに融合されている融合ポリペプチドに関しては、融合ポリペプチドにおいて、FP DNA−結合ドメイン部分がその標的部位および/またはその結合部位に結合することができ、一方、切断ドメインが標的部位付近でDNAを切断することができる場合、ZFP DNA−結合ドメインおよび切断ドメインが作動的結合にある。
【0057】
タンパク質、ポリペプチドまたは核酸の「機能性フラグメント」はその配列が全長タンパク質、ポリペプチドまたは核酸と同一ではないが、依然として全長タンパク質、ポリペプチドまたは核酸と同じ機能を保持するタンパク質、ポリペプチドまたは核酸である。機能性フラグメントは、対応する天然分子より多い、少ない、または同じ数の残基を有することができ、および/または1つ以上のアミノ酸またはヌクレオチド置換を含むことができる。核酸の機能(例えば、コード機能、別の核酸にハイブリダイズする能力)を決定するための方法は当技術分野においてよく知られている。同様に、タンパク質機能を決定する方法はよく知られている。例えば、ポリペプチドのDNA−結合機能は、例えば、フィルタ結合アッセイ法、電気泳動移動度シフト解析または免疫沈降アッセイ法により決定することができる。DNA切断は、ゲル電気泳動によりアッセイすることができる。上記Ausubel et al.を参照されたい。タンパク質が別のタンパク質と相互作用する能力は、例えば、免疫共沈降、ツーハイブリッドアッセイ法または相補性により、遺伝的および生物化学的の両方で決定することができる。例えば、Fields et al. (1989) Nature 340:245−246、米国特許第5,585,245号およびPCT WO 98/44350号を参照されたい。
【0058】
外来(ドナー)ポリヌクレオチド
ゲノムに挿入するためのポリヌクレオチドが本明細書で記載されており、「外来」ポリヌクレオチドまたは「ドナー」ポリヌクレオチドとも呼ばれている。対象導入遺伝子に隣接する750bpホモロジーアームを、デザインされたジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)と組み合わせて有するプラスミドドナーは、標的遺伝子変化に使用することができることが示されている。例えば、Moehle et al. (2007) Proc. Nat’l. Acad. Sci. USA 104(9):3055−3060 および米国特許公開第20050064474号を参照されたい。長いホモロジーアームを有するそのようなプラスミドドナーポリヌクレオチドの構築は時間がかかる手順であり、対象座位の〜1.5フラグメントを増幅させるPCRプライマーのデザイン、所望のフラグメントを有し、PCRにより誘発された突然変異のない単一クローンの識別(増幅、クローニングおよび配列決定による)、そのフラグメントの中心への独特なRFLPの導入(典型的には、部位特異的変異誘発による)、対象のORFのそのフラグメントへのクローニング、所望の配向でORFを有するクローンの識別(典型的には制限消化による)および標的ゲノム変化において使用するために十分な量となるまでのプラスミドの増幅を含む。最良の状況下で、この過程は約2週間を要し、環状(プラスミド)ドナーポリヌクレオチドが得られる。
【0059】
驚いたことに、本発明者らは、約50〜100塩基対の短いホモロジーアームを含む本開示の線形ドナー配列は細胞ゲノムに効果的に組み込まれ得ることを、本明細書で証明している。本明細書で記載した線形ドナー配列は構築するのに数時間しかかからない。
【0060】
ある実施形態では、本明細書で記載した線形ドナー配列は、25〜50塩基対(またはその間の任意の値、例えば、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49または50ヌクレオチド)の長さである。他の実施形態では、配列は50〜75ヌクレオチドの長さ(例えば、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74または75ヌクレオチドの長さ)である。さらに他の実施形態では、配列は75〜100ヌクレオチドの長さ(例えば、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100ヌクレオチドの長さ)である。さらに他の実施形態では、ドナーポリヌクレオチドは100〜150の間のヌクレオチド(またはその間の任意の値)の長さである。他の実施形態では、ドナーポリヌクレオチドは50〜750の間のヌクレオチド(例えば、50〜100、50〜150、50〜200、50〜250、50〜300、50〜350、50〜400、50〜450、50〜500、50〜550、50〜600、50〜650、50〜700)の長さである。
【0061】
本明細書で記載したドナー配列は、プラスミド、細胞、または他の起源から、PCRなどの当技術分野において知られている標準技術を用いて単離し得る。また、これらは標準オリゴヌクレオチド合成技術を用いて化学的に合成し得る。典型的には、ドナーポリヌクレオチドはPCRにより、ゲノム標的に相同な50−100 bp 5’部分、および対象ORFと同一の15〜18bp部分を有するプライマーを用いて作製される(図1)。
【0062】
本明細書で記載した線形ドナーポリヌクレオチドは、線形ドナーポリヌクレオチドがエキソヌクレアーゼ分解を受けないように、末端塩基対間に1つ以上のホスホロチオエートホスホジエステル結合を含み得る。これらの結合は分子の5’および/または3’末端の2つ以上の位置に存在し得、標準技術を用いて単離または合成中に付加し得る。例えば、Ciafre et al. (1995) Nucleic Acids Res. 23(20):4134−42; Johansson et al. (2002) Vaccine 20(27−28):3379−88を参照されたい。ドナーポリヌクレオチドがプライマーを使用するPCR(図1)により単離される実施形態では、プライマー(およびドナーポリヌクレオチド)の5’末端は典型的にはホスホロチオエートホスホジエステル結合である。また、線形ドナーポリヌクレオチドは、1つ以上の5’デオキシヌクレオチド、ビオチンおよび/1つ以上のアミン基を含み得、これらはすべて、エキソヌクレアーゼ分解を減少させることが示されている。
【0063】
外来(ドナー)ポリヌクレオチドは、任意の対象配列(外来配列)を含み得る。例示的な外来配列としては、任意のポリペプチドコード配列(例えば、cDNA)、プロモーター配列、エンハンサー配列、エピトープタグ、マーカー遺伝子、切断酵素認識部位、エピトープタグおよび様々な型の発現コンストラクトが挙げられるが、これらに限定されない。マーカー遺伝子としては、抗生物質耐性(例えば、アンピシリン耐性、ネオマイシン耐性、G418耐性、ピューロマイシン耐性)を媒介するタンパク質をコードする配列、有色または蛍光もしくは発光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質、高感度緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ)、ならびに増強された細胞成長および/または遺伝子増幅(例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ)を媒介するタンパク質をコードする配列が挙げられるが、これらに限定されない。エピトープタグとしては、例えば、FLAG、His、myc、Tap、HAまたは任意の検出可能なアミノ酸配列の1つ以上のコピーが挙げられる。
【0064】
外来(ドナー)ポリヌクレオチドはまた、ポリペプチドをコードしない配列、むしろ、任意の型の非コード配列、ならびに1つ以上の調節領域(例えば、プロモーター)を含み得る。さらに、外来核酸配列は1つ以上のRNA分子(例えば、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)、抑制RNA(RNAis)、マイクロRNA(miRNA)など)を生成し得る。
【0065】
ドナー分子は細胞クロマチンに対し相同性を有する複数の不連続領域を含むことができる。例えば、相同領域は、所望の変化を含む2つ以上の領域に隣接することができる。好ましい実施形態では、外来配列は、細胞内での発現が望ましい任意のポリペプチド、例えば、限定されないが、抗体、抗原、酵素、受容体(細胞表面または核内)、ホルモン、リンホカイン、サイトカイン、レポーターポリペプチド、成長因子、および上記いずれかの機能性フラグメントをコードするポリヌクレオチドを含む。コード配列は例えば、cDNAとし得る。
【0066】
ドナー分子は、細胞により取り込まれたプラスミドの、ZFN駆動切断結果としての、線形化後の線形分子とすることができる。別の実施形態では、線形ドナー分子は細胞ゲノム中に存在することができ、この場合、ドナー分子は、ゲノムからのドナーのZFN駆動切断および放出後の相同性駆動標的組込みのために使用可能となる。
【0067】
例えば、外来配列は、遺伝疾患、例えば、限定はされないが下記遺伝子疾患:軟骨無形成症、色覚異常、酸性マルターゼ欠損症、アデノシンデアミナーゼ欠損症(OMIM No.102700)、副腎皮質ジストロフィー、アイカルディ症候群、α1アンチトリプシン欠損症、αサラセミア、アンドロゲン不応症、アペール症候群、不整脈源性右室異形成、毛細血管拡張性運動失調症、バース症候群、βサラセミア、青色ゴム乳首様母斑症候群、カナバン病、慢性肉芽腫症(CGD)、ネコ鳴き症候群、のう胞性線維症、ダーカム病、外胚葉異形成、ファンコニー貧血、進行性骨化性線維異形成症、脆弱X症候群、ガラクトース血症、ゴーシェ病、全身性ガングリオシドーシス(例えば、GM1)、ヘモクロマトーシス、β−グロブリンの第6コドンにおけるヘモグロビンC突然変異(HbC)、血友病、ハンチントン病、ハーラー症候群、低ホスファターゼ血症、クラインフェルター症候群、クラッベ病、ランガー・ギーディオン症候群、白血球粘着不全症(LAD, OMIM No. 116920)、白質ジストロフィー、QT延長症候群、マルファン症候群、メビウス症候群、ムコ多糖症(MPS)、爪膝蓋骨症候群、腎性尿崩症、神経線維腫症、ニーマン・ピック病、骨形成不全症、ポルフィリン症、プラダー・ウィリー症候群、早老症、プロテウス症候群、網膜芽細胞腫、レット症候群、ルビンシュタイン・テイビ症候群、サンフィリポ症候群、重症複合免疫不全症(SCID)、シュバックマン症候群、鎌状赤血球症(鎌状赤血球貧血)、スミス・マゲニス症候群、スティックラー症候群、テイ・サックス病、血小板減少橈骨欠損(TAR)症、トリーチャ・コリンズ症候群、トリソミー、結節性硬化症、ターナー症候群、尿素サイクル異常症、フォン・ヒッペル・リンドウ病、ワールデンブルグ症候群、ウィリアムズ症候群、ウィルソン病、ウィスコット・アルドリッチ症候群、X−連鎖リンパ球増殖症候群(XLP, OMIM No. 308240)のいずれかを有する被験体において欠如している、または機能しないポリペプチドをコードする配列を含み得る。
【0068】
標的組込みにより治療することができる追加の例示的な疾患としては、後天性免疫不全、リソソーム蓄積症(例えば、ゴーシェ病、GM1、ファブリー病およびテイ・サックス病)、ムコ多糖症(例えば、ハンター病、ハーラー病)、異常ヘモグロビン症(例えば、鎌状赤血球症、HbC、αサラセミア、βサラセミア)および血友病が挙げられる。
【0069】
ある実施形態では、外来配列は、標的組込みを受けた細胞の選択を可能にするマーカー遺伝子(上記)、および追加の機能性をコードする結合配列を含むことができる。マーカー遺伝子の非制限的な例としては、GFP、薬剤選択マーカーなどが挙げられる。
【0070】
さらに、発現には必要とされないが、外来配列はまた、転写または翻訳制御配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、インスレーター、配列内リボソーム進入部位、2Aペプチドをコードする配列および/またはポリアデニル化信号を含み得る。
【0071】
標的部位
開示した方法および組成物は、切断ドメイン(または切断ハーフドメイン)およびジンクフィンガードメインを含む融合タンパク質を含み、ここで、ジンクフィンガードメインは、細胞ゲノム内の対象領域の配列に結合することにより、切断ドメイン(または切断ハーフドメイン)の活性を配列近くに移動させ、これにより、対象領域での切断(例えば、二本鎖切断)を誘導する。本開示のほかの場所で説明したように、ジンクフィンガードメインは、事実上、任意の所望の配列に結合するように操作することができる。したがって、1つ以上のジンクフィンガー結合ドメインは対象領域内の1つ以上の配列に結合するように操作することができる。ジンクフィンガー結合ドメインおよび切断ドメインを含む融合タンパク質(または、それぞれがジンクフィンガー結合ドメインおよび切断ハーフドメインを含む2つの融合タンパク質)の、細胞内での発現は、対象領域での切断を達成する。
【0072】
ジンクフィンガードメインによる結合のための対象領域における配列の選択は(例えば、標的部位)、例えば、共に所有されている米国特許第6,453,242号(2002年9月17日)(これもまた、選択された配列に結合するようにZFPをデザインするための方法を開示する)に開示されている方法にしたがって、達成することができる。標的部位の選択のために、ヌクレオチド配列の簡単な視覚検査もまた使用できることは当業者には明らかであろう。したがって、本明細書で記載した方法では、標的部位選択のためのいずれの手段も使用することができる。
【0073】
標的部位は、一般に、複数の隣接する標的サブサイトから構成される。標的サブサイトは、個々のジンクフィンガーにより結合される配列(通常、ヌクレオチドトリプレット、または隣接するクアドルプレットと1つのヌクレオチドだけ重なり得るヌクレオチドクアドルプレットのいずれか)を示す。例えば、WO 02/077227号を参照されたい。ジンクフィンガータンパク質が最も接触する鎖が標的鎖「主認識鎖」または「主接触鎖」とデザインされた場合、いくらかのジンクフィンガータンパク質が標的鎖中の3つの塩基トリプレットおよび非標的鎖上の4番目の塩基に結合する。標的部位は一般に、少なくとも9ヌクレオチドの長さを有し、そのため、少なくとも3つのジンクフィンガーを含むジンクフィンガー結合ドメインにより結合される。しかしながら、例えば、4−フィンガー結合ドメインの12−ヌクレオチド標的部位への結合、5−フィンガー結合ドメインの15−ヌクレオチド標的部位への結合、または6−フィンガー結合ドメインの18ヌクレオチド標的部位への結合もまた可能である。以下で明らかになるように、より大きな結合ドメイン(例えば、7−、8−、9−フィンガーおよびそれ以上)のより長い標的部位への結合もまた可能である。
【0074】
標的部位は、多様な3つのヌクレオチドである必要はない。例えば、交差鎖相互作用が起こる場合(例えば、米国特許第6,453,242号およびWO 02/077227号を参照されたい)、マルチフィンガー結合ドメインの個々のジンクフィンガーのうちの1つ以上が、重なっているクアドルプレットサブサイトに結合することができる。結果として、3−フィンガータンパク質は10−ヌクレオチド配列に結合することができ、この場合、10番目のヌクレオチドは、末端フィンガーにより結合されたクアドルプレットの一部であり、4−フィンガータンパク質は13−ヌクレオチド配列に結合することができ、この場合、13番目のヌクレオチドが末端フィンガーにより結合されたクアドルプレットの一部である、など。
【0075】
マルチフィンガー結合ドメインにおける個々のジンクフィンガー間のアミノ酸リンカー配列の長さおよび性質もまた、標的配列への結合に影響する。例えば、マルチフィンガー結合ドメイン内の隣接するジンクフィンガー間にいわゆる「非標準リンカー」、「長いリンカー」または「構造化リンカー」が存在すると、それらのフィンガーは直接隣接していないサブサイトに結合できるようになる。そのようなリンカーの非制限的例は、例えば、米国特許第6,479,626号およびWO 01/53480号において記載されている。したがって、ジンクフィンガー結合ドメインに対する標的部位中の1つ以上のサブサイトが互いに、1、2、3、4、5またはそれ以上のヌクレオチドだけ分離され得る。一例にすぎないが、4−フィンガー結合ドメインは、2つの隣接3−ヌクレオチドサブサイト、1つの介在ヌクレオチド、および2つの隣接トリプレットサブサイトを順に含む、13ヌクレオチド標的部位に結合することができる。
【0076】
配列(例えば、標的部位)間の距離は、互いに最も近い配列の端から測定した2つの配列間に介在するヌクレオチドまたはヌクレオチド対の数を示す。
【0077】
切断が、2つのジンクフィンガードメイン/切断ハーフドメイン融合分子の別個の標的部位への結合に依存するある実施形態では、2つの標的部位は逆DNA鎖上に存在することができる(実施例1)。他の実施形態では、両方の標的部位は同じDNA鎖上に存在する。
【0078】
DNA結合ドメイン
本明細書で開示した方法では、任意のDNA結合ドメインを使用することができる。ある実施形態では、DNA結合ドメインはジンクフィンガータンパク質を含む。ジンクフィンガー結合ドメインは1つ以上のジンクフィンガーを含む。Miller et al. (1985) EMBO J. 4:1609−1614、Rhodes (1993) Scientific American Feb.:56−65、米国特許第6,453,242号。本明細書で記載したジンクフィンガー結合ドメインは一般に、2、3、4、5、6または実にそれ以上のジンクフィンガーを含む。
【0079】
典型的には、1つのジンクフィンガードメインは約30アミノ酸の長さである。構造研究により、各ジンクフィンガードメイン(モチーフ)は2つのβシート(2つのインバリアントなシステイン残基を含むβターンで保持)およびαへリックス(2つのインバリアントなヒスチジン残基を含む)を含み、これらは2つのシステインおよび2つのヒスチジンによる亜鉛原子の配位により特定の立体構造で保持されていることが証明されている。
【0080】
ジンクフィンガーは標準C22ジンクフィンガー(すなわち、亜鉛イオンが2つのシステインおよび2つのヒスチジン残基により配位されているもの)と、非標準ジンクフィンガー、例えば、C3Hジンクフィンガー(亜鉛イオンが3つのシステイン残基および1つのヒスチジン残基により配位されているもの)およびC4ジンクフィンガー(亜鉛イオンが4つのシステイン残基により配位されているもの)の両方を含む。WO 02/057293号も参照されたい。
【0081】
ジンクフィンガー結合ドメインは、標準技術を用いて標的部位(以上を参照されたい)に結合するように操作することができる。実施例1、共に所有されている米国特許第6,453,242号および同第6,534,261号(その中で引用されている参考文献を含む)を参照されたい。操作されたジンクフィンガー結合ドメインは、天然ジンクフィンガータンパク質に比べ、新規結合特異性を有することができる。操作方法としては、合理的デザインおよび様々な型の選択が挙げられるが、これらに限定されない。合理的デザインとしては、例えば、トリプレット(またはクアドルプレット)ヌクレオチド配列および個々のジンクフィンガーアミノ酸配列を含むデータベースの使用が挙げられ、この場合、各トリプレットまたはクアドルプレットヌクレオチド配列が、特定のトリプレットまたはクアドルプレット配列に結合するジンクフィンガーの1つ以上のアミノ酸配列と結合する。
【0082】
ファージディスプレイおよびツーハイブリッド系を含む例示的な選択方法が、米国特許第5,789,538号、同第5,925,523号、同第6,007,988号、同第6,013,453号、同第6,410,248号、同第6,140,466号、同第6,200,759号および同第6,242,568号、ならびにWO 98/37186号、WO 98/53057号、WO 00/27878号、WO 01/88197号およびGB 2,338,237号において開示されている。
【0083】
ジンクフィンガー結合ドメインに対する結合特異性の増強は、例えば、共に所有されているWO 02/077227号において記載されている。
【0084】
個々のジンクフィンガーは3つのヌクレオチド(すなわち、トリプレット)配列(または、1つのヌクレオチドのみが隣接するジンクフィンガーの4−ヌクレオチド結合部位と重なり得る4−ヌクレオチド配列)に結合するので、ジンクフィンガー結合ドメインが結合するように操作された配列(例えば、標的配列)の長さは、操作されたジンクフィンガー結合ドメイン中のジンクフィンガーの数を決定する。例えば、フィンガーモチーフが重なったサブサイトに結合していないZFPでは、6−ヌクレオチド標的配列が2−フィンガー結合ドメインにより結合され、9−ヌクレオチド標的配列が3−フィンガー結合ドメインにより結合される、など。本明細書で言及したように、標的部位における個々のジンクフィンガーの結合部位(すなわち、サブサイト)は連続である必要はなく、マルチフィンガー結合ドメイン中のジンクフィンガー間のアミノ酸配列(すなわち、フィンガー間リンカー)の長さおよび性質によって、1つ以上のヌクレオチドにより分離させることができる。
【0085】
マルチフィンガージンクフィンガー結合ドメインでは、隣接するジンクフィンガーは、約5アミノ酸のアミノ酸リンカー配列(いわゆる「標準」)フィンガー間リンカー)により、または1つもしくは複数の非標準リンカーにより分離させることができる。例えば、共に所有されている米国特許第6,453,242号および同第6,534,261号を参照されたい。3を超えるフィンガーを含む、操作ジンクフィンガー結合ドメインでは、より長い(「非標準」)フィンガー間リンカーのあるジンクフィンガー間への挿入が、結合ドメインによる結合の親和性および/または特異性を増加させ得るので好ましい可能性がある。例えば、米国特許第6,479,626号およびWO 01/5348号を参照されたい。したがって、マルチフィンガージンクフィンガー結合ドメインはまた、非標準フィンガー間リンカーの存在および位置に関して特徴付けることができる。例えば、3つのフィンガー(2つの標準フィンガー間リンカーにより連結されている)、1つの長いリンカーおよび3つの追加のフィンガー(2つの標準フィンガー間リンカーにより連結されている)を含む6−フィンガージンクフィンガー結合ドメインは、2 x3構造で示される。同様に、2つのフィンガー(その間に標準リンカーを有する)、1つの長いリンカーおよび2つの追加のフィンガー(標準リンカーにより連結されている)を含む結合ドメインは2x2タンパク質で示される。3つの2−フィンガーユニット(それらの各々において、2つのフィンガーが標準リンカーにより連結されている)および、各2−フィンガーユニットが1つの長いリンカーにより隣接する2つのフィンガーにより連結されているタンパク質は3x2タンパク質と呼ばれる。
【0086】
マルチフィンガー結合ドメイン中の2つの隣接するフィンガー間に1つの長い、または非標準フィンガー間リンカーが存在すると、しばしば、2つのフィンガーは、標的配列内の直接隣接していないサブサイトに結合できるようになる。したがって、標的サイト内のサブサイト間に1つ以上のヌクレオチドのギャップが存在できる、すなわち、標的部位はジンクフィンガーが接触していない1つ以上のヌクレオチドを含むことができる。例えば、2x2ジンクフィンガー結合ドメインは、1つのヌクレオチドにより分離された2つの6−ヌクレオチド配列に結合することができる、すなわち、13−ヌクレオチド標的サイトに結合する。Moore et al. (2001a) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:1432−1436、Moore et al. (2001b) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:1437−1441およびWO 01/53480号もまた参照されたい。
【0087】
前に言及したように、標的サブサイトは単一ジンクフィンガーにより結合される3−または4−ヌクレオチド配列である。ある目的のために、2−フィンガーユニットは結合分子と示される。結合分子は、例えば、特定の6−ヌクレオチド標的配列に結合するマルチフィンガータンパク質(一般に3フィンガー)との関係で2つの隣接するフィンガーを選択することによりに得ることができる。また、個々のジンクフィンガーの集合により分子を構築することができる。WO 98/53057号およびWO 01/53480号もまた、参照されたい。
【0088】
また、DNA−結合ドメインは、ヌクレアーゼから誘導され得る。例えば、I−SceI、I−CeuI、PI−PspI、PI−Sce、I−SceIV、I−CsmI、I−PanI、I−SceII、I−PpoI、I−SceIII、I−CreI、I−TevI、I−TevIIおよびI−TevIIIなどのホーミングエンドヌクレアーゼおよびメガヌクレアーゼの認識配列は知られている。米国特許第5,420,032号、米国特許第6,833,252号、 Belfort et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3379-3388、 Dujon et al. (1989) Gene 82:115-118、Perler et al. (1994) Nucleic Acids Res. 22, 1125-1127、Jasin (1996) Trends Genet. 12:224-228、Gimble et al. (1996) J. Mol. Biol. 263:163-180、Argast et al. (1998) J. Mol. Biol. 280:345-353 およびNew England Biolabsカタログもまた、参照されたい。さらに、ホーミングエンドヌクレアーゼおよびメガヌクレアーゼのDNA−結合特異性は、非天然標的部位に結合するように操作することができる。例えば、Chevalier et al. (2002) Molec. Cell 10:895−905、Epinat et al. (2003) Nucleic Acids Res. 31:2952−2962、 Ashworth et al. (2006) Nature 441:656−659、Paques et al. (2007) Current Gene Therapy 7:49−66、米国特許公開第20070117128号を参照されたい。
【0089】
切断ドメイン
本明細書で開示した融合タンパク質の切断ドメイン部分は、任意のエンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼから得ることができる。切断ドメインを誘導することができる例示的なエンドヌクレアーゼとしては、制限エンドヌクレアーゼおよびホーミングエンドヌクレアーゼが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、2002−2003 Catalogue, New England Biolabs, Beverly, MA、およびBelfort et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3379−3388を参照されたい。DNAを切断する追加の酵素が知られている(例えば、S1 ヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼ、膵臓DNase I、小球菌ヌクレアーゼ、酵母HOエンドヌクレアーゼ、Linn et al. (eds.) Nucleases, Cold Spring Harbor Laboratory Press,1993も参照されたい)。I−SceI、I−CeuI、PI−PspI、PI−Sce、I−SceIV、I−CsmI、I−PanI、I−SceII、I−PpoI、I−SceIII、I−CreI、I−TevI、I−TevIIおよびI−TevIIIなどのホーミングエンドヌクレアーゼおよびメガヌクレアーゼの非制限的例が知られている。米国特許第5,420,032号、米国特許第6,833,252号、Belfort et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3379-3388、 Dujon et al. (1989) Gene 82:115-118、Perler et al. (1994) Nucleic Acids Res. 22, 1125-1127、Jasin (1996) Trends Genet. 12:224-228; Gimble et al. (1996) J. Mol. Biol. 263:163-180、Argast et al. (1998) J. Mol. Biol. 280:345-353 およびNew England Biolabsカタログもまた、参照されたい。これらの酵素(またはそれらの機能性フラグメント)の1つ以上を切断ドメインおよび切断ハーフドメインの起源として使用することができる。
【0090】
制限エンドヌクレアーゼ(制限酵素)は、多くの種に存在し、DNAに配列特異的結合し(認識部位で)、結合部位またはその近くでDNAを切断することができる。ある制限酵素(例えば、IIS型)は認識部位から離れた部位でDNAを切断し、分離可能な結合および切断ドメインを有する。例えば、IIS型酵素Fok Iは、1つの鎖上の認識部位から9ヌクレオチドで、およびもう一方の認識部位から13ヌクレオチドで、DNAの二本鎖切断を触媒する。例えば、米国特許第5,356,802号、同第5,436,150号および同第5,487,994号、ならびに Li et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:4275−4279、Li et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2764−2768、Kim et al. (1994a) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:883−887、Kim et al. (1994b) J. Biol. Chem. 269:31,978−31,982を参照されたい。したがって、1つの実施形態では、融合タンパク質は、少なくとも1つのIIS型制限酵素由来の切断ドメイン(または切断ハーフドメイン)および1つ以上のジンクフィンガー結合ドメインを含み、操作されていても、またはされていなくてもよい。
【0091】
その切断ドメインが結合ドメインから分離可能である、例示的なIIS型制限酵素はFok Iである。この特定の酵素は二量体として活性である。Bitinaite et al. (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 10,570−10,575。したがって、本開示のために、開示した融合タンパク質中で使用されるFok I酵素の部分は、切断ハーフドメインであると考えられる。したがって、ジンクフィンガー−Fok I融合物を使用する細胞配列の標的二本鎖切断および/または標的置換では、各々がFok I切断ハーフドメインを含む2つの融合タンパク質を使用して、触媒活性切断ドメインを再構成することができる。また、ジンクフィンガー結合ドメインおよび2つのFok I切断ハーフドメインを含む単一ポリペプチド分子を使用することもできる。ジンクフィンガー−Fok I融合物を用いた標的切断および標的配列変化のためのパラメータは本開示の他の場所で提供する。
【0092】
切断ドメインまたは切断ハーフドメインは、切断活性を保持する、または多量体を形成し(例えば、二量体化し)機能性切断ドメインを形成する能力を保持するタンパク質の任意の部分とすることができる。
【0093】
例示的なIIS型制限酵素は共に所有されている国際公開公報第WO 2007/014275号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0094】
切断特異性を増強させるために、切断ドメインはまた、修飾し得る。ある実施形態では、切断ハーフドメインのホモ二量体化を最小に抑え、または阻止する切断ハーフドメインの変異体が使用される。そのような修飾切断ハーフドメインの非制限的例は、全体が参照により本明細書に組み入れられるWO 2007/014275号に詳細に記載されている。実施例もまた参照されたい。ある実施形態では、切断ドメインは、ホモ二量体化を最小に抑え、または阻止する、当業者に知られており、例えば、参照により全体が本明細書に組み入れられる米国特許公開第20050064474号および同第20060188987号に記載されている、操作された切断ハーフドメイン(二量体化ドメイン変異体とも呼ばれる)を含む。Fok Iの446、447、479、483、484、486、487、490、491、496、498、499、500、531、534、537および538位のアミノ酸残基は全て、Fok I切断ハーフドメインの二量体化に影響するための標的である。
【0095】
Fok Iの追加の操作された切断ハーフドメインは強制的ヘテロ二量体を形成し、これもまた、本明細書で記載したZFN中で使用することができる。第1の切断ハーフドメインは、Fok Iの490および538位のアミノ酸残基で突然変異を含み、第2の切断ハーフドメインは、486および499位のアミノ酸残基で突然変異を含む。
【0096】
ある実施形態では、切断ドメインは2つの切断ハーフドメインを含み、それらの両方が、結合ドメイン、第1の切断ハーフドメインおよび第2の切断ハーフドメインを含む単一ポリペプチドの一部である。切断ハーフドメインは、それらがDNAを切断するように機能する限り、同じアミノ酸配列または異なるアミノ酸配列を有することができる。
【0097】
一般に、融合タンパク質が切断ハーフドメインを含む場合、切断には2つの融合タンパク質が必要とされる。また、2つの切断ハーフドメインを含む単一タンパク質を使用することができる。2つの切断ハーフドメインは、同じエンドヌクレアーゼ(またはその機能性フラグメント)から誘導することができ、または各切断ハーフドメインは異なるエンドヌクレアーゼ(またはその機能性フラグメント)から誘導することができる。さらに別の実施形態では、2つの切断ハーフドメインが使用され、この場合、ハーフドメインの1つは酵素的に不活性であり、そのため、一本鎖ニックが標的部位で導入される(例えば、共に所有されている米国特許仮出願第61/189,800号を参照されたい)。さらに、2つの融合タンパク質のための標的部位は好ましくは、互いに対し、2つの融合タンパク質のそれらの個々の標的部位への結合により、切断ハーフドメインが例えば、二量体化により、機能性切断ドメインを形成することができる互いに対する空間配向で配置されるように、配置される。したがって、ある実施形態では、標的部位の近い端が、5〜8ヌクレオチドだけ、または15〜18ヌクレオチドだけ分離される。しかしながら、任意の整数のヌクレオチドまたはヌクレオチド対が、2つの標的部位間に介在することができる(例えば、2〜50またはそれ以上のヌクレオチド)。一般に、切断点は標的部位間に存在する。
【0098】
DNA−結合ドメイン−切断ドメイン融合物
融合タンパク質(および融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド)のデザインおよび構築のための方法が当業者に公知である。例えば、ジンクフィンガータンパク質(およびこれをコードするポリヌクレオチド)を含む融合タンパク質のデザインおよび構築のための方法が、共に所有されている米国特許第6,453,242号および同第6,534,261号、ならびに国際公開公報第WO 2007/014275号において記載されている。ある実施形態では、そのような融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドが構築される。これらのポリヌクレオチドは、ベクターに挿入することができ、ベクターは細胞に導入することができる(ポリヌクレオチドの細胞への導入のためのベクターおよび方法に関するさらなる開示については以下を参照されたい)。
【0099】
本明細書で記載した方法のある実施形態では、融合タンパク質は、ジンクフィンガー結合ドメインおよびFok I制限酵素由来の切断ハーフドメインを含み、2つのそのような融合タンパク質が細胞内で発現される。2つの融合タンパク質の細胞内での発現は、2つのタンパク質の細胞への送達、1つのタンパク質およびタンパク質の1つをコードする1つの核酸の細胞への送達、2つの核酸(各々がタンパク質の1つをコードする)の細胞への送達、または両方のタンパク質をコードする単一の核酸の細胞への送達により得ることができる。別の実施形態では、融合タンパク質は2つの切断ハーフドメインおよびジンクフィンガー結合ドメインを含む単一ポリペプチド鎖を含む。この場合、単一融合タンパク質が細胞内で発現され、理論に縛られることは望まないが、切断ハーフドメインの分子内二量体の形成の結果、DNAを切断すると考えられる。
【0100】
それぞれがジンクフィンガー結合ドメインおよび切断ハーフドメインを含む2つの融合タンパク質は細胞内で発現され、機能切断ドメインが再構成され、DNAが標的部位近くで切断されるように並置された標的部位に結合し得る。1つの実施形態では、切断は2つのジンクフィンガー結合ドメインの標的部位間で起こる。ジンクフィンガー結合ドメインおよび/または切断ドメインのうちの1つまたは両方を操作することができる。
【0101】
融合タンパク質(例えば、ZFP−Fok I融合物)の構成要素は、ジンクフィンガードメインが融合タンパク質のアミノ末端に最も近く、切断ハーフドメインがカルボキシ末端に最も近くなるように配列され得る。機能性ヌクレアーゼを形成するための切断ハーフドメインの二量体化は、融合タンパク質の逆DNA鎖上の部位への結合により引き起こされ、結合部位の5’末端は互いに近接する。
【0102】
また、融合タンパク質(例えば、ZFP−Fok I融合物)の構成要素は、切断ハーフドメインが融合タンパク質のアミノ末端に最も近く、ジンクフィンガードメインがカルボキシ末端に最も近くなるように配列され得る。これらの実施形態では、機能性ヌクレアーゼを形成するための切断ハーフドメインの二量体化は、融合タンパク質の逆DNA鎖上の部位への結合により引き起こされ、結合部位の3’末端は互いに近接する。
【0103】
さらに別の実施形態では、第1の融合タンパク質は、融合タンパク質のアミノ末端に最も近い切断ハーフドメインと、カルボキシ末端に最も近いジンクフィンガードメインを含み、第2の融合タンパク質は、ジンクフィンガードメインが融合タンパク質のアミノ末端に最も近く、切断ハーフドメインがカルボキシ末端に最も近くなるように配列される。これらの実施形態では、両方の融合タンパク質が同じDNA鎖に結合し、カルボキシ末端に最も近いジンクフィンガードメインを含む第1の融合タンパク質の結合部位は、アミノ末端に最も近いジンクフィンガーを含む第2の融合タンパク質の結合部位の5’側に配置されている。
【0104】
2つの融合タンパク質は、同じまたは逆の極性の対象領域で結合することができ、それらの結合部位(すなわり、標的部位)は任意の数のヌクレオチド、例えば0〜200ヌクレオチドまたはそれらの間の任意の整数値のヌクレオチドにより分離することができる。ある実施形態では、各々がジンクフィンガー結合ドメインと切断ハーフドメインを含む、2つの融合タンパク質に対する結合部位は、他の結合部位に最も近い各結合部位の端から測定して、5〜18の間のヌクレオチド離して、例えば、5〜8ヌクレオチド離して、または15〜18ヌクレオチド離して、または6ヌクレオチド離して、または16ヌクレオチド離して配置することができ、切断は結合部位間で起こる。
【0105】
DNAが切断される部位は一般に、2つの融合タンパク質のための結合部位間に存在する。DNAの二本鎖切断は、しばしば、1、2、3、4、5、6またはそれ以上のヌクレオチドによりオフセットされた2つの一本鎖切断、または「ニック」に起因する(例えば、天然Fok Iによる二本鎖DNAの切断は4ヌクレオチドだけオフセットされた一本鎖切断に起因する)。したがって、切断は必ずしも、各DNA鎖上の正反対の部位で起こらない。さらに、融合タンパク質の構造および標的部位間の距離は、切断が1つのヌクレオチド対の付近で起こるか、切断が複数の部位で起こるかに影響し得る。しかしながら、標的組込みでは、ある範囲のヌクレオチド内の切断で一般に十分であり、特定の塩基対間の切断は必要とされない。
【0106】
開示した融合タンパク質では、ジンクフィンガードメインと切断ドメイン(または切断ハーフドメイン)の間のアミノ酸配列は、「ZC」リンカーと示される。ZCリンカーは上記フィンガー間リンカーとは識別されるべきである。ZCリンカーは例えば、WO 2007/014275号において詳細に説明されている。
【0107】
以下で詳細に説明されているように、融合タンパク質(ZFN)、またはこれをコードするポリヌクレオチドは、細胞内に導入される。細胞内に導入される、または細胞内で発現されるとすぐに、融合タンパク質はPPP1R12Cの標的配列に結合し、この遺伝子座位内で切断する。
【0108】
標的組込み
開示した方法および組成物を使用し、細胞クロマチン内のDNAを切断することができ、これは本明細書で記載されるように外来配列(ドナーポリヌクレオチド)の標的組込みを促進する。「組込み」により、物理的挿入(例えば、宿主細胞のゲノム内への)および、さらに、核酸複製過程によるドナー配列の宿主細胞ゲノムへのコピーによる組込みの両方が意味される。
【0109】
標的組込みでは、1つ以上のジンクフィンガー結合ドメインが、予め決められた切断部位またはその付近の標的部位に結合するように操作され、操作されたジンクフィンガー結合ドメインおよび切断ドメインを含む融合タンパク質が細胞内で発現される。融合タンパク質のジンクフィンガー部分が標的部位へ結合すると、DNAは、好ましくは二本鎖切断により、標的部位付近で切断ドメインにより切断される。二本鎖切断の存在は、相同組換えによる本明細書で記載した外来配列の組込みを促進する。
【0110】
本明細書で開示されるように、外来配列の標的組込みを使用して、タンパク質発現のための細胞および細胞株を生成させることができる。例えば、共に所有されている米国特許出願公開第2006/0063231号(その開示は、全ての目的のために、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。ゲノムに組み入れられた外来配列によりコードされる1つ以上のタンパク質の最適発現のために、染色体組込み部位は、好ましくは広範囲の細胞型および発生状態において、組込み配列の高レベルの転写と適合すべきである。しかしながら、組み込まれた配列の転写は、とりわけ、組込み部位のゲノムのクロマチン構造のために、組込み部位によって変動することが観察されている。したがって、組み込まれた配列の高レベルの転写を支持するゲノム標的部位が望ましい。ある実施形態では、外来配列の組込みが、1つ以上の細胞遺伝子(例えば、癌遺伝子)の異所性活性化とならないこともまた望ましい。他方、プロモーターおよび/またはエンハンサー配列の組込みの場合、異所性発現は望ましい可能性がある。
【0111】
外来(ドナー配列)は、融合タンパク質の発現前に、発現と同時に、または発現後に導入することができる。
【0112】
追加のZFP−機能性ドメイン融合物を含むがそれに限定されない標的組換えのレベルを増強し得る方法および組成物もまた提供される。WO 2007/014275号を参照されたい。
【0113】
ジンクフィンガー/ヌクレアーゼ融合分子およびドナーDNA分子を含む細胞内での、標的組換えの効率のさらなる増加が、相同性駆動修復過程が最大活性にある場合、細胞周期のG2期で細胞をブロックすることにより達成される。そのような停止は多くの様式で達成し得る。例えば、細胞は、G2期の細胞を停止させるために細胞周期進行に影響する、例えば、薬物、化合物、および/または小分子により処理することができる。この型の例示的な分子としては、微小管重合に影響する化合物(例えば、ビンブラスチン、ノコダゾール、タキs−ル)、DNAと相互作用する化合物(例えば、cis−ジアミン白金(II)ジクロリド、シスプラチン、ドキソルビシン)および/またはDNA合成に影響する化合物(例えば、チミジン、ヒドロキシ尿素、L−ミモシン、エトポシド、5−フルオロウラシル)が挙げられるが、これらに限定されない。ゲノムDNAを細胞組換え機構に、より到達可能にするようにクロマチン構造を変化させるヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤(例えば、酪酸ナトリウム、トリコスタチンA)の使用により、組換え効率の更なる増加が達成される。
【0114】
細胞周期停止のための別の方法としては、例えば、タンパク質をコードするcDNAを細胞内に導入することによる、細胞内に、タンパク質をコードする遺伝子の発現を活性化する操作ZFPを導入することによる、CDK細胞周期キナーゼの活性を阻害するタンパク質の過発現が挙げられる。細胞周期停止はまた、サイクリンおよびCDKの活性を、例えば、RNAi法を用いて阻害することにより(例えば、米国特許第6,506,559号)、または、細胞周期進行に関与する1つ以上の遺伝子、例えばサイクリンおよび/またはCDK遺伝子の発現を抑制する操作ZFPを細胞内に導入することにより、達成される。遺伝子発現を制御するための操作ジンクフィンガータンパク質の合成のための方法に対しては、例えば、共に所有されている米国特許第6,534,261号を参照されたい。
【0115】
また、ある場合には、標的切断はドナーポリヌクレオチド(好ましくは、SまたはG2期)なしで実施され、組換えが相同染色体間で起こる。
【0116】
送達
本明細書で記載した核酸(例えば、ZFNおよび/またはドナー配列をコードするポリヌクレオチド)は、任意の適した方法を用いて細胞内に導入し得る。
【0117】
植物細胞では、DNAコンストラクトは、様々な従来技術により所望の植物宿主に(例えば、そのゲノムに)導入し得る。そのような技術の再考のために、例えば、Weissbach & Weissbach Methods for Plant Molecular Biology (1988, Academic Press, N.Y.) Section VIII, pp. 421−463、およびGrierson & Corey, Plant Molecular Biology (1988, 2d Ed.), Blackie, London, Ch. 7−9を参照されたい。
【0118】
例えば、DNAコンストラクトは、植物細胞プロトプラストのエレクトロポレーションおよびマイクロインジェクションなどの技術を使用して植物細胞のゲノムDNAに直接導入することができ、またはDNAコンストラクトは、DNA微粒子銃などの遺伝子銃法を使用して植物組織に直接導入することができる(例えば、Klein et al (1987) Nature 327:70−73を参照されたい)。また、DNAコンストラクトは適したT−DNA隣接領域と結合させ、従来のアグロバクテリウム・ツメファシエンス宿主ベクターに導入し得る。武装解除およびバイナリベクターの使用を含むアグロバクテリウム・ツメファシエンス−媒介形質転換技術は、科学文献においてよく記載されている。例えば、Horsch et al (1984) Science 233:496−498、および Fraley et al (1983) Proc. Nat’l. Acad. Sci. USA 80:4803を参照されたい。
【0119】
さらに、遺伝子導入は、非アグロバクテリウム細菌またはウイルス、例えば、リゾビウム sp. NGR234、シノリゾビウム・メリロティ、メソリゾビウム・ロティ、ジャガイモウィルスX、カリフラワーモザイクウイルスおよびキャッサバ葉脈モザイクウィルスおよび/またはタバコモザイクウイルスを用いて達成し得る。例えば、Chung et al. (2006) Trends Plant Sci. 11(1):1−4を参照されたい。
【0120】
アグロバクテリウム・ツメファシエンス宿主の病原性機能は、細胞をバイナリT DNAベクタを用いて細菌により(Bevan (1984) Nuc. Acid Res. 12:8711−8721)、または共培養手順により(Horsch et al (1985) Science 227:1229−1231)、感染させた場合、コンストラクトおよび隣接マーカーの植物細胞DNAへの挿入を駆動する。一般に、双子葉類植物を操作するのに、アグロバクテリウム形質転換系が使用される(Bevan et al (1982) Ann. Rev. Genet 16:357-384、Rogers et al (1986) Methods Enzymol. 118:627-641)。アグロバクテリウム形質転換系はまた、DNAを単子葉植物および植物細胞に形質転換、ならびにトランスファするために使用し得る。米国特許第5, 591,616号、Hernalsteen et al (1984) EMBO J 3:3039-3041、Hooykass-Van Slogteren et al (1984) Nature 311:763-764、Grimsley et al (1987) Nature 325:1677−179、Boulton et al (1989) Plant Mol. Biol. 12:31-40.、およびGould et al (1991) Plant Physiol. 95:426−434を参照されたい。
【0121】
別の遺伝子導入および形質転換法としては、ネイキッドDNAのカルシウム−、ポリエチレングリコール(PEG)−またはエレクトロポレーション−媒介取り込みによるプロトプラスト形質転換(Paszkowski et al. (1984) EMBO J 3:2717-2722, Potrykus et al. (1985) Molec. Gen. Genet. 199:169-177、Fromm et al. (1985) Proc. Nat. Acad. Sci. USA 82:5824-5828、およびShimamoto (1989) Nature 338:274−276を参照されたい)および植物組織のエレクトロポレーション(D’Halluin et al. (1992) Plant Cell 4:1495-1505)が挙げられるが、これらに限定されない。植物細胞形質転換のための別の方法としては、マイクロインジェクション、炭化ケイ素媒介DNA取り込み(Kaeppler et al. (1990) Plant Cell Reporter 9:415-418)、および微粒子銃(Klein et al. (1988) Proc. Nat. Acad. Sci. USA 85:4305−4309およびGordon-Kamm et al. (1990) Plant Cell 2:603−618を参照されたい)が挙げられる。
【0122】
同様に、融合タンパク質(ZFN)は、ポリペプチドおよび/またはポリヌクレオチドとして導入させることができる。例えば、各々が上記ポリペプチドのうちの1つをコードする配列を含む2つのポリヌクレオチドを細胞に導入することができ、ポリペプチドが発現され、各々がその標的配列に結合した場合、切断が標的配列またはその付近で起こる。また、両方の融合ポリペプチドをコードする配列を含む単一のポリヌクレオチドが細胞に導入される。ポリヌクレオチドはDNA、RNAまたは任意の修飾形態もしくはDNAおよび/またはRNAの類似体とすることができる。
【0123】
ある実施形態では、1つ以上のZFPまたはZFP融合タンパク質は、複製および/または発現のための原核生物または真核生物細胞中への形質転換のためのベクター内にクローン化させることができる。ベクターは原核生物ベクター、例えば、プラスミド、またはシャトルベクター、昆虫ベクター、あるいは真核生物ベクターとすることができる。本明細書で記載した配列(ZFN)をコードする核酸もまた、植物細胞、動物細胞、好ましくは哺乳類細胞またはヒト細胞、真菌細胞、細菌細胞、または原生動物細胞に投与するために、例えば、Sambrook et al.,上記および米国特許出願公開第20030232410号、同第20050208489号、同第20050026157号、同第20050064474号および同第20060188987号、ならびに国際公開公報第WO 2007/014275号に記載されている標準技術を用いて、発現ベクターにクローン化させることができる。
【0124】
ある実施形態では、ZFNおよびドナー配列はインビボまたはエクスビボで遺伝子治療用途のために送達される。ポリヌクレオチドを細胞に送達するための非ウイルスベクター送達系としては、DNAプラスミド、ネイキッド核酸、および送達ビヒクル、例えばリポソームまたはポロキサマーと複合体化された核酸が挙げられる。ZFNの送達のためのウイルスベクター送達系としては、DNAおよびRNAウイルスが挙げられ、これらは細胞に送達された後エピソームまたは組込みゲノムのいずれかを有する。遺伝子治療手順の再考のために、Anderson, Science 256:808−813 (1992)、Nabel & Felgner, TIBTECH 11:211−217 (1993)、 Mitani & Caskey, TIBTECH 11:162−166 (1993)、Dillon, TIBTECH 11:167−175 (1993)、 Miller, Nature 357:455−460 (1992)、Van Brunt, Biotechnology 6(10):1149−1154 (1988)、Vigne, Restorative Neurology and Neuroscience 8:35−36 (1995)、Kremer & Perricaudet, British Medical Bulletin 51(1):31−44 (1995)、Haddada et al., in Current Topics in Microbiology and Immunology Doerfler and Bohm (eds.) (1995)、およびYu et al., Gene Therapy 1:13−26 (1994)を参照されたい。
【0125】
インビボまたはエクスビボでの核酸の非ウイルス送達の方法としては、エレクトロポレーション、リポフェクション(米国特許第5,049,386号および同第4,946,787号、ならびに市販試薬、例えば、Transfectam(商標)およびLipofectin(商標)を参照されたい)、マイクロインジェクション、遺伝子銃、ビロソーム、リポソーム(例えば、Crystal, Science 270:404−410 (1995)、Blaese et al., Cancer Gene Ther. 2:291−297 (1995)、Behr et al., Bioconjugate Chem. 5:382−389 (1994)、Remy et al., Bioconjugate Chem. 5:647−654 (1994)、 Gao et al., Gene Therapy 2:710−722 (1995)、Ahmad et al., Cancer Res. 52:4817−4820 (1992)、米国特許第4,186,183号、同第4,217,344号、同第4,235,871号、同第4,261,975号、同第4,485,054号、同第4,501,728号、同第4,774,085号、同第4,837,028号および同第4,946,787号を参照されたい)、免疫リポソーム、ポリカチオンまたは脂質:核酸コンジュゲート、ネイキッドDNA、人工ビリオン、ウイルスベクター系(例えば、ZFPを含むタンパク質を送達するための、WO 2007/014275号に記載されているようなレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ−関連、ワクシニアおよびヘルペスシンプレックスウイルスベクター)およびDNAの薬剤増強取り込みが挙げられる。例えば、Sonitron 2000系(Rich−Mar)を使用するソノポレーションもまた、核酸の送達のために使用することができる。
【0126】
追加の例示的な核酸送達系としては、Amaxa Biosystems (Cologne, Germany)、Maxcyte, Inc. (Rockville, Maryland)およびBTX Molecular Delivery Systems(Holliston, MA)により提供されるものが挙げられる。
【0127】
例えば、ZFP融合タンパク質の一過性発現が好ましいある実施形態では、アデノウイルスに基づく系を使用することができる。アデノウイルスに基づくベクターは多くの細胞型で非常に高い形質導入効率を可能にし、細胞分裂を必要としない。そのようなベクターを用いると、高い力価および高レベルの発現が得られる。このベクターは比較的単純な系で、大量に製造させることができる。例えば、核酸およびペプチドのインビトロ産生において、ならびにインビボおよびエクスビボ遺伝子治療手順のために、細胞に標的核酸を形質導入させるのにアデノ関連ウイルス(「AAV」)ベクターもまた使用される(例えば、West et al., Virology 160:38−47 (1987)、米国特許第4,797,368号、WO 93/24641号、Kotin, Human Gene Therapy 5:793−801 (1994)、Muzyczka, J. Clin. Invest. 94:1351 (1994)を参照されたい)。組換えAAVベクターの構築は多くの出版物、例えば、米国特許第5,173,414号、Tratschin et al., Mol. Cell. Biol. 5:3251−3260 (1985)、Tratschin, et al., Mol. Cell. Biol. 4:2072−2081 (1984)、Hermonat & Muzyczka, PNAS 81:6466−6470 (1984)、および Samulski et al., J. Virol. 63:03822−3828 (1989)において記載されている。
【0128】
少なくとも6のウイルスベクターアプローチが現在、臨床試験における遺伝子導入のために有効であり、この場合、形質導入剤を作成するためにヘルパー細胞株に挿入された遺伝子による欠陥ベクターの相補性が関連するアプローチが使用される。
【0129】
pLASNおよびMFG−Sは、臨床試験において使用されているレトロウイルスベクターの例である(Dunbar et al., Blood 85:3048−305 (1995)、Kohn et al., Nat. Med. 1:1017−102 (1995)、Malech et al., PNAS 94:22 12133−12138 (1997))。PA317/pLASNは遺伝子治療臨床試験で使用された最初の治療ベクターであった((Blaese et al., Science 270:475−480 (1995))。50%以上の形質導入効率がMFG−Sパッケージベクターに対して観察されている(Ellem et al., Immunol Immunother. 44(1):10−20 (1997)、Dranoff et al., Hum. Gene Ther. 1:111−2 (1997))。
【0130】
組換えアデノ関連ウイルスベクター(rAAV)は、欠陥および非病原性パルボウイルスアデノ関連2型ウイルスに基づく有望な代替遺伝子送達系である。ベクターは全て、導入遺伝子発現カセットに隣接するAAV 145bp末端逆位配列のみを保持するプラスミドから誘導される。形質導入された細胞のゲノムへの組込みによる効率的な遺伝子導入および安定な導入遺伝子送達がこのベクター系の重要な特徴である(Wagner et al., Lancet 351:9117 1702−3 (1998), Kearns et al., Gene Ther. 9:748−55 (1996))。
【0131】
複製欠陥組換えアデノウイルスベクター(Ad)は、高力価で生成させることができ、容易に多くの異なる細胞型に感染させることができる。ほとんどのアデノウイルスベクターは、導入遺伝子がAd E1a、E1b、および/またはE3遺伝子にとって代わるように操作され、その後、複製欠陥ベクターはヒト293細胞で増殖され、トランスで欠失遺伝子機能が供給される。Adベクターは、肝臓、腎臓および筋肉で見られるものなどの非分裂分化細胞を含む複数の型の組織にインビボで形質導入することができる。従来のAdベクターは大きな運搬能力を有する。臨床試験におけるAdベクターの使用の例は、筋内注射を用いた抗腫瘍免疫化のためのポリヌクレオチド療法を含んだ(Sterman et al., Hum. Gene Ther. 7:1083−9 (1998))。臨床試験における遺伝子導入のためのアデノウイルスベクターの使用の別の例としては、Rosenecker et al., Infection 24:1 5−10 (1996)、Sterman et al., Hum. Gene Ther. 9:7 1083−1089 (1998)、Welsh et al., Hum. Gene Ther. 2:205−18 (1995)、Alvarez et al., Hum. Gene Ther. 5:597−613 (1997)、Topf et al., Gene Ther. 5:507−513 (1998)、Sterman et al., Hum. Gene Ther. 7:1083−1089 (1998)が挙げられる。
【0132】
パッケージング細胞を使用して、宿主細胞に感染することができるウイルス粒子を形成させる。そのような細胞は、アデノウイルスをパッケージする293細胞、およびレトロウイルスをパッケージするψ2細胞またはA317を含む。遺伝子治療において使用されるウイルスベクターは通常、核酸ベクターをウイルス粒子にパッケージする産生細胞株により生成される。ベクターは典型的には、パッケージングおよびその後の宿主(妥当な場合)への組込みのために必要とされる最小ウイルス配列を含み、他のウイルス配列は、発現されるタンパク質をコードする発現カセットにより置換される。欠損したウイルス機能はトランスでパッケージング細胞株により供給される。例えば、遺伝子治療で使用されるAAVベクターは典型的には、パッケージングおよび宿主ゲノムへの組込みに必要とされるAAVゲノム由来の末端逆位配列(ITR)しか有さない。ウイルスDNAは、他のAAV遺伝子、すなわち、repおよびcapをコードするが、ITR配列が欠損しているヘルパープラスミドを含む細胞株にパッケージされる。細胞株はまた、ヘルパーとしてアデノウイルスで感染される。ヘルパーウイルスはAAVベクターの複製およびヘルパープラスミド由来のAAV遺伝子の発現を促進する。ヘルパープラスミドはITR配列の欠如のために、相当量ではパッケージされない。アデノウイルスによる汚染は、例えば、アデノウイルスがAAVよりも感受性である熱処理により低減させることができる。
【0133】
多くの遺伝子治療用途では、ポリヌクレオチド(例えば、ZFN−コード配列)が高い程度の特異性で特定の組織型に送達されることが望ましい。したがって、ウイルスベクターは、ウイルスの外表面にウイルスコートタンパク質を有する融合タンパク質としてリガンドを発現させることにより、ある細胞型に対する特異性を有するように修飾することができる。リガンドは、対象の細胞型上に存在することが知られている受容体に対する親和性を有するように選択される。例えば、Han et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:9747−9751 (1995)は、モロニーマウス白血病ウイルスはgp70に融合させたヒトヘレグレンを発現するように修飾することができ、組換えウイルスはヒト上皮増殖因子受容体を発現するあるヒト乳癌細胞に感染することを報告した。この原理は、標的細胞が受容体を発現し、ウイルスが細胞表面受容体のためのリガンドを含む融合タンパク質を発現する他のウイルス−標的細胞対まで拡張することができる。例えば、糸状ファージは、実際に任意に選択した細胞受容体に対し特異的結合親和性を有する抗体フラグメント(例えば、FABまたはFv)を示すように操作することができる。上記説明は主にウイルスベクターに当てはまるが、同じ原理が非ウイルスベクターに適用され得る。そのようなベクターは、特定の標的細胞による取り込みを優先する特異的な取り込み配列を含むように操作することができる。
【0134】
遺伝子治療ベクターは、以下で記載するように、個々の患者に投与することにより、典型的には全身投与(例えば、静脈内、腹腔内、筋内、皮下、または頭蓋内注入)または局所投与により、インビボで送達させることができる。また、ベクターはエクスビボで細胞に、および個々の患者から外植させた細胞(例えば、リンパ球、骨髄液、組織生検)または普遍的ドナー造血幹細胞に送達させることができ、続いて、通常、ベクターが組み入れられた細胞を選択した後、患者に細胞を再移植することができる。
【0135】
診断、研究、または遺伝子治療のためのエクスビボ細胞トランスフェクション(例えば、トランスフェクトされた細胞の宿主生物への再注入を介する)は当業者によく知られている。好ましい実施形態では、細胞は被験体生物から単離され、ZFP核酸(遺伝子またはcDNA)および外来配列によりトランスフェクトされ、被験体生物(例えば、患者)に再び注入して戻される。エクスビボトランスフェクションに適した様々な細胞型が当業者によく知られている(例えば、Freshney et al., Culture of Animal Cells, A Manual of Basic Technique (3rd ed. 1994)および患者から細胞を単離し、培養する方法の考察のために本明細書で引用された参考文献を参照されたい)。
【0136】
1つの実施形態では、細胞トランスフェクションおよび遺伝子治療のために、幹細胞をエクスビボ手順で使用する。幹細胞を使用する利点は、それらをインビトロで他の細胞型に分化させることができる、またはそれらが骨髄内に生着する哺乳類(例えば細胞のドナ−)に導入することができることである。CD34+細胞をインビトロで臨床的に重要な免疫細胞型に、GM−CSF、IFN−γおよびTNF−αなどのサイトカインを使用して分化させるための方法が知られている(Inaba et al., J. Exp. Med. 176:1693−1702 (1992)を参照されたい)。
【0137】
幹細胞は公知の方法を用いて形質導入および分化のために単離される。例えば、幹細胞は、不要な細胞、例えば、CD4+およびCD8+(T細胞)、CD45+(panB 細胞)、GR−1(顆粒球)、およびIad(分化抗原提示細胞)に結合する抗体を用いて骨髄細胞をパニングすることにより骨髄細胞から単離される(Inaba et al., J. Exp. Med. 176:1693−1702 (1992)を参照されたい)。
【0138】
1つの実施形態では、使用する細胞は卵母細胞である。
【0139】
他の実施形態では、モデル生物に由来する細胞を使用し得る。これらとしては、ツメガエル由来の細胞、昆虫細胞(例えば、ショウジョウバエ)および線形動物細胞が挙げられる。
【0140】
本明細書で記載した核酸を含むベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、ルポソーム、など)もまた、細胞のインビボ形質導入のために、直接、生物に投与することができる。また、ネイキッドDNAを投与することができる。投与は、分子を導入して血液または組織細胞と最終的に接触させるために普通使用される経路のいずれかによるものであり、注射、注入、局所投与およびエレクトロポレーションが挙げられるが、これらに限定されない。そのような核酸を投与する適した方法は有効であり、当業者によく知られており、特定の組成物を投与するために1つ以上の経路を使用することができるが、1つの特定の経路がしばしば、別の経路よりも、より速効型の、より効果的な反応を提供することができる。
【0141】
DNAを造血幹細胞に導入するための方法が、米国特許第5,928,638号において開示されている。導入遺伝子の造血幹細胞、例えば、CD34+細胞への導入のために有用なベクターとしてはアデノウイルス35型が挙げられる。
【0142】
導入遺伝子の免疫細胞(例えば、T−細胞)への導入のために適したベクターとしては非組込みレンチウイルスベクターが挙げられる。例えば、Ory et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:11382−11388、Dull et al. (1998) J. Virol. 72:8463−8471、Zuffery et al. (1998) J. Virol. 72:9873−9880、Follenzi et al. (2000) Nature Genetics 25:217−222を参照されたい。
【0143】
薬学的に許容される担体は、一部、投与される特定の組成物により、ならびに組成物を投与するために使用される特定の方法により決定される。したがって、下記で記載するように、有効な薬学的組成物の広範囲にわたる適した製剤が存在する(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 17th ed., 1989を参照されたい)。
【0144】
上記のように、1つ以上のZFN融合タンパク質はまた、例えば、WO 2007/014275号において記載されている方法を用いてポリペプチドとして細胞内に導入することができる。タンパク質送達ビヒクルの非制限的例としては、「膜移行ポリペプチド」が挙げられ、例えば、ペプチドは膜移行担体、毒素分子、リポソームおよびリポソーム誘導体、例えば、免疫リポソーム(標的リポソームを含む)として機能する能力を有する両親媒性または疎水性アミノ酸部分配列を有する。
【0145】
ZFPおよびZFPをコードする発現ベクターは、例えば、癌、虚血、糖尿病性網膜症、黄斑変性症、関節リウマチ、乾癬、HIV感染、鎌状赤血球貧血、アルツハイマー病、筋ジストロフィー、神経変性症、血管病、のう胞性線維症、脳卒中などの治療または予防用途のために、PPP1R12C座位への標的切断組込みのために、直接患者に投与することができる。
【0146】
治療的有効量の投与は、ZFPを導入して治療すべき組織と最終的に接触させるために普通使用される経路のいずれかによる。ZFPは任意の適した様式で、好ましくは、薬学的に許容される担体と共に投与される。そのようなモジュレーターを投与する適した方法が使用でき、当業者によく知られおり、特定の組成物を投与するために1つを超える経路を使用することができるが、1つの特定の経路はしばしば、別の経路よりも、より速効性で、より効果的な反応を提供することができる。
【0147】
薬学的に許容される担体は、一部、投与される特定の組成物により、ならびに組成物を投与するための特定の方法により決定される。したがって、有効な薬学的組成物の広範囲にわたる適した製剤が存在する(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 17th ed. 1985)を参照されたい)。
【0148】
ZFPは、単独でまたは他の適した成分と組み合わせて、吸入により投与されるエアロゾル製剤(すなわち、「噴霧」させることができる)とすることができる。エアロゾル製剤は、許容される加圧推進剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素など中に入れることができる。
【0149】
例えば、静脈内、筋内、皮内および皮下経路による非経口投与に適した製剤としては、酸化防止剤、緩衝剤、静菌薬、および製剤を対象レシピエントの血液と等張にする溶質を含むことができる水性および非水性等張滅菌注射液、ならびに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤および保存剤を含むことができる水性および非水性滅菌懸濁液が挙げられる。開示した組成物は、例えば、静脈内注射により、経口で、局所的に、腹腔内に、膀胱内に、または髄腔内に投与することができる。化合物の製剤は、単位用量または複数回用量密閉容器内、例えば、アンプルおよびバイアル内で提供することができる。注射液および懸濁液は、前に記載した種類の滅菌粉末、顆粒、および錠剤から調製することができる。
【0150】
上記植物細胞形質転換技術のいずれかにより生成させた形質転換植物細胞は、形質転換された遺伝子型およびこのように所望の表現型を有する植物全体を再生するように培養させることができる。そのような再生技術は、組織培養成長培地中のある植物ホルモンの処置に依存しており、典型的には、所望のヌクレオチド配列と共に導入された殺生物剤および/または除草剤マーカーに依存している。培養プロトプラストからの植物再生はEvans, et al., ”Protoplasts Isolation and Culture” in Handbook of Plant Cell Culture, pp. 124-176, Macmillian Publishing Company, New York, 1983、およびBinding, Regeneration of Plants, Plant Protoplasts, pp. 21−73, CRC Press, Boca Raton, 1985において記載されている。再生はまた、植物カルス、外植片、器官、花粉、胚またはその部分から得ることができる。そのような再生技術は、Klee et al (1987) Ann. Rev. of Plant Phys. 38:467−486において一般的に記載されている。
【0151】
植物細胞に導入された核酸を使用して、本質的に全ての植物に所望の形質を与えることができる。様々な植物および植物細胞系を、本開示の核酸コンストラクトおよび上記様々な形質転換法を用いて、本明細書で記載した所望の生理学的および農学的特徴に対し操作することができる。好ましい実施形態では、操作のための標的植物および植物細胞としては、単子葉植物および双子葉植物、例えば、作物、例えば穀類作物(例えば、コムギ、トウモロコシ、コメ、アワ、オオムギ)、果実作物(例えば、トマト、リンゴ、セイヨウナシ、イチゴ、オレンジ)、飼料(例えば、アルファルファ)、根菜作物(例えば、にんじん、ジャガイモ、サトウダイコン、ヤムイモ)、葉菜作物(例えば、レタス、ほうれん草)、顕花植物(例えば、ペチュニア、バラ、キク)、針葉樹およびマツ(例えば、モミ、トウヒ)、ファイトレメディエーションにおいて使用される植物(例えば、重金属蓄積植物)、油料作物(例えば、ヒマワリ、菜種)および実験目的のために使用される植物(例えば、シロイヌナズナ)が挙げられるが、これらに限定されない。したがって、開示した方法および組成物は、広範囲にわたる植物で使用され、アスパラガス属、カラスムギ属、アブラナ属、柑橘類、スイカ属、トウガラシ属、カボチャ属、ニンジン属、ムカシヨモギ属、ダイズ属、ワタ属、オオムギ属、アキノノゲシ属、ドクムギ属、トマト属、リンゴ属、キャッサバ属、タバコ属、ショカツサイ属、オリザ属、ワニナシ属、インゲンマメ属、エンドウ属、ナシ属、ダイコン属、ライムギ属、ナス属、モロコシ属、コムギ属、ブドウ属、ササゲ属、およびトウモロコシ属が挙げられるが、これらに限定されない。
【0152】
当業者であれば、発現カセットが安定にトランスジェニック植物に組み入れられ、作動可能であることが確認された後、性的交雑により他の植物に導入可能であることを認識するであろう。交雑させる種によって、多くの標準繁殖技術のいずれかを使用することができる。
【0153】
形質転換した植物細胞、カルス、組織または植物は、形質転換DNA上に存在するマーカー遺伝子によりコードされる形質に対し、操作した植物材料を選択し、またはスクリーニングすることにより識別し、単離し得る。例えば、選択は、操作した植物材料を、形質転換遺伝子コンストラクトが耐性を与える阻害量の抗生物質または除草剤を含む培地上で成長させることにより実施し得る。さらに、形質転換植物および植物細胞はまた、組み換え核酸コンストラクト上に存在し得る任意の視認可能なマーカー遺伝子(例えば、β−グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、BまたはC1遺伝子)の活性のスクリーニングにより識別し得る。そのような選択およびスクリーニング法は当業者によく知られている。
【0154】
挿入された遺伝子コンストラクトを含む植物または植物細胞形質転換体を識別するために、物理的方法および生物化学的方法もまた使用し得る。これらの方法としては、1)組換えDNAインサートの構造を検出、決定するためのサザン解析またはPCR増幅、2)遺伝子コンストラクトのRNA転写物を検出、調査するためのノーザンブロット、S1 Rnase保護、プライマー伸長法または逆転写PCR増幅、3)遺伝子産物が遺伝子コンストラクトによりコードされる場合の、酵素またはリボザイム活性を検出するための酵素アッセイ法、4)遺伝子コンストラクト産物がタンパク質である場合の、タンパク質ゲル電気泳動、ウエスタンブロット技術、免疫沈降、または酵素結合免疫測定法が挙げられるが、これらに限定されない。別の技術、例えば、インサイチューハイブリダイゼーション、酵素染色、および免疫染色もまた、特定の植物器官および組織における組換えコンストラクトの存在または発現を検出するために使用し得る。これらのアッセイ法を全て実施するための方法は当業者によく知られている。
【0155】
本開示はまた、上記トランスジェニック植物の種子を含み、種子は導入遺伝子または遺伝子コンストラクトを有する。本開示はさらに、上記トランスジェニック植物の子孫、クローン、細胞株または細胞を含み、ここで、前記子孫、クローン、細胞株または細胞は導入遺伝子または遺伝子コンストラクトを有する。
【実施例】
【0156】
実施例1:線形ドナーコンストラクトのデザイン
対象タンパク質をコードする配列に隣接する50、75または100塩基対のホモロジーアームを有する線形ドナーコンストラクトを、下記のようにデザインし、構築した。ドナーコンストラクトは、PPP1R12C座位(AAVS1またはp84部位とも呼ばれる)内、または内在IL2Rγ座位内に含まれるホモロジーアームを含んだ。PPP1R12C座位の説明については、2007年4月26日に出願された米国特許仮出願第60/926,322号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0157】
ドナーコンストラクトはPCRにより、ゲノム標的(PPP1R12CまたはIL2Rγ)に相同な50、75または100塩基対を有するプライマーを用いて調製した。これらのPCRに対して使用した鋳型は、ゲノム標的に相同で、GFPコンストラクトに隣接する2つの長い(約750bp)フラグメントを含むプラスミド分子であった(GFPコンストラクトは、AAVS1に対してはセクション0139で、IL2Rγに対してはセクション0140で説明されている)。さらに、プライマーは、線形ドナーをエキソヌクレアーゼ分解から保護するために、プライマーの5’末端の第1および第2ホスホジエステル結合でホスホロチオエートホスホジエステル結合を含むように構築した。ホスホロチオエートホスホジエステル結合は、標準技術を用いて、例えば、Ciafre et al. (1995) Nucleic Acids Res. 23(20):4134−42およびJohansson et al. (2002) Vaccine 20(27−28):3379−88に記載されるように導入した。
【0158】
また、ドナーコンストラクトは、PCRにより図1で概略が示されているように、調製することができる。簡単に言うと、ドナーはPCRにより、ゲノム標的(PPP1R12CまたはL2Rγ)に相同な50、75または100塩基対5’部分および対象の翻訳領域(ORF)と同一な15〜30塩基対部分を有するプライマーを用いて作製することができる。さらに、プライマーは線形ドナーをエキソヌクレアーゼ分解から保護するために、プライマーの5’末端の第1および第2ホスホジエステル結合でホスホロチオエートホスホジエステル結合を含むように構築することができる。ホスホロチオエートホスホジエステル結合は、標準技術を用いて、例えば、Ciafre et al. (1995) Nucleic Acids Res. 23(20):4134−42およびJohansson et al. (2002) Vaccine 20(27−28):3379−88に記載されるように導入することができる。
【0159】
PPP1R12Cに対する50、75または100塩基対ホモロジーアームを含むコンストラクトのためのPCRプライマーを表1に示し、IL2Rγに対する50塩基対ホモロジーアームを含むコンストラクトのためのPCRプライマーを表2に示す。
【表1】

【表2】

【0160】
複数のPCR反応を、各ドナーコンストラクトに対し実行させた。AAVS1およびIL2RγドナーPCRのための条件は、95°C、3分→30×[95°C、30秒;72°C、2分]→72°C、5分→4℃で保持であった。反応物をプールし、コンストラクトをQiaQuick(商標)PCR精製キット(Qiagen)を用いて精製し、図2〜5で示したコンストラクトを得た。
【0161】
図2、3および4は、PPP1R12C(AAVS1)に標的されたドナー分子を示す。特に、図2はAAVS1に標的され、100塩基対のホモロジーアームを有し、AAVS1 100bp HAドナーと呼ばれる線形ドナー分子(SEQ ID NO:1)を示す。AAVS1 100bp HAの左ホモロジーアームがヌクレオチド1〜100(小文字、下線)まで延在し、SA部位がヌクレオチド107〜132(小文字、太字)まで延在し、2Aペプチドをコードする配列がヌクレオチド141〜212(大文字、下線なし)であり、緑色蛍光タンパク質(GFP)ポリ(A)をコードする配列がヌクレオチド219〜1,215(大文字、下線)まで延在し、右ホモロジーアームがヌクレオチド1235〜1334(小文字、下線)まで延在する。
【0162】
図3は75塩基対のホモロジーアームを有し、AAVS1 75bp HAと呼ばれる線形ドナー分子(SEQ ID NO:2)を示す。このコンストラクトでは、左ホモロジーアームがヌクレオチド1〜75(小文字、下線)まで延在し、SA部位がヌクレオチド82〜107(小文字、太字)まで延在し、2Aペプチドをコードする配列がヌクレオチド116〜187(大文字、下線なし)まで延在し、GFPポリ(A)をコードする配列がヌクレオチド194〜1,190(大文字、下線)まで配列し、右ホモロジーアームがヌクレオチド1210〜1284(小文字、下線)まで延在する。
【0163】
図4は、50塩基対のホモロジーアームを有し、AAVS1 50bp HAと呼ばれる線形ドナー配列(SEQ ID NO:3)を示す。AAVS1 50bp HAはヌクレオチド1〜50(小文字、下線)の左ホモロジーアーム、ヌクレオチド57〜82(小文字、太字)のSA部位、ヌクレオチド91〜162(大文字、下線なし)の2Aペプチドをコードする配列、ヌクレオチド169〜1,165(大文字、下線)のGFPポリ(A)をコードする配列、およびヌクレオチド1,185〜1,234(小文字、下線)の右ホモロジーアームを含む。
【0164】
IL2Rγに対するドナー分子の配列を図5に示す(SEQ ID NO:4)。この分子は、ヌクレオチド1〜50(小文字、下線)の50塩基対のホモロジーアーム(左ホモロジーアーム)および1,639〜1,688(小文字、下線)の右ホモロジーアームを含む。IL2Rγ 50bp HAドナー分子はまた、ヌクレオチド79〜594(小文字、太字)のhPGKプロモーター配列およびヌクレオチド615〜1,611(大文字、下線)のGFPポリ(A)をコードする配列を含む。
【0165】
実施例2:線形ドナーコンストラクトの標的組込み
短い(50〜100塩基対)ホモロジーアームを有する線形ドナーコンストラクトの標的組込みを評価するために、2007年4月26日に出願された米国特許仮出願第60/926,322号に記載され、表3(大文字で示されるDNA標的部位、小文字で示される非接触ヌクレオチド)に示されているような、線形ドナーおよびジンクフィンガータンパク質ヌクレアーゼ(ZFN)を含む一対の融合タンパク質を、表4に示すように、Amaxa(商標)Nucleofectionキットを用いてK562細胞にトランスフェクトさせた。
【表3】

【表4】

【0166】
SA−2A−GFP−pAドナーは、PPP1R12Cの60318104〜60319750位に対応する、米国特許仮出願第60/926,322号に記載された1,647 bp環状ドナーフラグメントを示す。
【0167】
トランスフェクション48時間後、標的組込み(TI)率を、Moehle et al. (2007) Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 104:3055−3060に記載されているように、放射標識PCRアッセイ法およびサザンブロッティングによりアッセイした。
【0168】
PCRおよびサザンブロッティングの結果をそれぞれ、図6および7に示す。それぞれのレーンの最上部には試料番号(表4、左欄)が示されており、修飾された染色体の割合が各レーンの下方に列挙されている。
【0169】
さらに、トランスフェクション1週間後、GFP−陽性細胞の割合を、これもまたMoehle et al. (2007)に記載されているように、FACSによりアッセイした。
【0170】
結果が表5および図8に示されており、線形ドナー配列のGFP ORFがゲノムに組み入れられたことが確認される。
【表5】

【0171】
したがって、これらの結果は、短いホモロジーアーム(〜50〜100bp)を有する線形ドナーコンストラクトを使用して、対象のポリペプチドをコードする配列を特定のゲノム位置に効率的にトランスファさせることができることを証明する。本明細書で記載した線形ドナーコンストラクトは、PCRにより、プラスミド鋳型を用い迅速に生成され、ホスホロチオエート修飾を用いてエキソヌクレアーゼ分解から保護することができる。
【0172】
本明細書で言及した全ての特許、特許出願および出版物は、全ての目的のために、参照におり、その全体が本明細書に組み入れられる。
【0173】
理解を明確にするために、開示は図および実施例に詳細に説明してきたが、本開示の精神または範囲から逸脱しなければ様々な変更および改変が可能であることは当業者には明らかであろう。したがって、前記説明および実施例は制限するものと解釈すべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50〜750塩基対の間のホモロジーアームと対象配列とを含み、ホモロジーアームは前記対象配列に隣接する線形ドナー核酸分子。
【請求項2】
前記ホモロジーアームの長さが50〜100塩基対の間である、請求項1記載の線形ドナー核酸。
【請求項3】
前記ホモロジーアームの塩基対の1つ以上がホスホロチオエートホスホジエステル結合で連結されている、請求項1記載の線形ドナー核酸。
【請求項4】
前記ホスホロチオエートホスホジエステル結合が前記ドナー核酸の5’および3’末端の第1および、任意で、第2結合に配置される、請求項3記載の線形ドナー核酸。
【請求項5】
前記ホモロジーアーム間に2Aペプチドをコードする配列、SA部位を含む配列およびIRES配列を含む配列からなる群より選択される配列をさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の線形ドナー核酸。
【請求項6】
前記対象配列がポリペプチドをコードしない、請求項1〜5のいずれかに記載の線形ドナー核酸。
【請求項7】
前記対象配列がポリペプチドをコードする、請求項1〜5のいずれかに記載の線形ドナー核酸。
【請求項8】
前記対象配列に作動可能に結合されたプロモーター配列をさらに含む、請求項7記載の線形ドナー核酸。
【請求項9】
前記ポリペプチドが、抗体、抗原、酵素、成長因子、細胞表面受容体、核内受容体、ホルモン、リンホカイン、サイトカイン、レポーター遺伝子、選択可能なマーカー、分泌因子、エピトープタグおよびそれらの機能性フラグメントならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項7または8に記載の線形ドナー核酸。
【請求項10】
前記配列が非コード核酸を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の線形ドナー核酸。
【請求項11】
前記非コード核酸がmiRNA、およびSH−RNA、またはsiRNAからなる群より選択される、請求項10記載の線形ドナー核酸。
【請求項12】
(a)DNA−結合ドメインと切断ドメインまたは切断ハーフドメインを含み、DNA−結合ドメインが対象領域内の標的部位に結合するように操作されている融合タンパク質を細胞内で発現させることと、
(b)前記細胞を請求項1〜11のいずれかに記載のドナーポリヌクレオチドと接触させることと、
を含み、
前記標的部位への前記融合タンパク質の結合により、前記対象領域内の細胞ゲノムが切断され、これにより前記対象配列の前記細胞ゲノム内への相同性依存標的組込みが得られる、細胞のゲノム内の対象領域への対象配列の相同性依存標的組換えのための方法。
【請求項13】
(a)第1のDNA−結合ドメインと第1の切断ハーフドメインを含み、前記第1のDNA−結合ドメインが細胞のゲノム内の対象領域内の第1の標的部位に結合するように操作されている第1の融合タンパク質を細胞内で発現させることと、
(b)第2のDNA−ドメインと第2の切断ハーフドメインを含む第2の融合タンパク質を細胞内で発現させることであって、前記第2のジンクフィンガー結合ドメインが細胞のゲノム内の対象領域内の第2の標的部位に結合し、前記第2の標的部位は前記第1の標的部位とは異なる、工程と、
(c)前記細胞を請求項1〜11のいずれかに記載のドナー核酸を含むポリヌクレオチドと接触させることと、
を含み、
前記第1の標的部位への前記第1の融合タンパク質の結合により、および前記第2の標的部位への前記第2の融合タンパク質の結合により、細胞ゲノムが前記対象領域内で切断され、これにより前記ドナー核酸の前記細胞ゲノムへの相同性依存組込みが得られるように前記切断ハーフドメインが配置される、細胞への対象配列の相同性依存標的組換えのための方法。
【請求項14】
少なくとも1つのDNA−結合ドメインがジンクフィンガー結合ドメインまたはメガヌクレアーゼDNA−結合ドメインである、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記切断配列がメガヌクレアーゼまたはIIS型制限エンドヌクレアーゼに由来する、請求項12〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記IIS型制限エンドヌクレアーゼがFokIおよびStsIからなる群より選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記融合タンパク質の少なくとも1つが、前記切断ハーフドメインの二量体形成面のアミノ酸配列の変化を含む、請求項12〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記細胞が哺乳類細胞および植物細胞からなる群より選択される、請求項12〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記哺乳類細胞がヒト細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞が細胞周期のG2期で停止される、請求項12〜19のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−518555(P2011−518555A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505005(P2011−505005)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/002292
【国際公開番号】WO2009/131632
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(508241200)サンガモ バイオサイエンシーズ, インコーポレイテッド (28)
【Fターム(参考)】