説明

標的遺伝子を含む種子を判定する方法

【課題】従前の判定方法と比べて、工程時間が短く、かつ作業効率に優れた標的遺伝子を含む種子を判定する方法を提供すること。
【解決手段】種子を粉砕することなしに溶媒と混合し、種子を溶媒から分離して、種子由来の核酸を含有する抽出液を得る工程;並びに
前記抽出液に含まれる核酸を、標的遺伝子の配列を含む30〜100塩基長の二本鎖核酸を増幅し得る核酸増幅反応に供して、前記種子が前記標的遺伝子を含む場合には、二本鎖核酸増幅物を得る工程
を含む、標的遺伝子を含む種子を判定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便かつ迅速に標的遺伝子を含む種子を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品検査の中でも、遺伝子検査が注目を集めている。遺伝子検査とは、特定の遺伝子(標的遺伝子)を指標として、被検食品に標的遺伝子が含まれているか否かを判定する検査である。食品の遺伝子検査は、例えば、食品偽装検査として実施されている。食品偽装検査は、食品が種子である場合、被検種子が遺伝子組換え種子であるにも関わらず非遺伝子組換え種子として市場で売買されていないか否か、又は、その逆に被検種子が非遺伝子組換え種子であるにも関わらず遺伝子組換えにより機能が付加された種子として市場で売買されていないか否かを判定することにより行なわれる。
【0003】
遺伝子組換えにより機能が付加された種子としては、例えば、特許文献1に記載の花粉症緩和米がある。花粉症緩和米の食品偽装検査をする場合、アレルゲン特異的T細胞エピトープをコードする遺伝子を標的遺伝子として、被検種子に該標的遺伝子が含まれているか否かを判定することにより検査が行なわれる。
【0004】
市場で売買されている種子は、種類が多く、かつ各種子の産地も多岐に渡ることから、食品偽装検査は、サンプリングの数、地点及び頻度を増やして網羅的に実施することが望まれている。そこで、食品偽装検査を効率よく行なうために、多くの被検種子を並行して処理できる検査方法の提供が期待されている。
【0005】
食品偽装検査に利用される、従前の標的遺伝子を含む種子の判定方法には、種子中のゲノムDNAを回収するゲノムDNA回収工程とゲノムDNA上の標的遺伝子を検出する標的遺伝子検出工程が含まれていた(非特許文献1)。
【0006】
ゲノムDNA回収工程には、種子を粉砕すること、得られた種子粉砕物を酵素処理すること、及び得られた酵素処理液からゲノムDNAを回収することが含まれる(非特許文献8)。詳しくは、ゲノムDNA回収工程には、フードミルや金槌等の種子粉砕用器具を用いて種子を粉砕し、次いで、粉砕化した種子粉末をバッファーに加えて混合し、酵素処理に適した温度及び時間で種子粉末に酵素を反応させ、次いで、酵素反応液からバッファー、アルコール、スピンカラムなどを用いて、試薬の添加、遠心及び上清の廃棄若しくは回収を繰り返しながらゲノムDNAを回収することを含む。
【0007】
標的遺伝子検出工程は、標的遺伝子に相補的なプライマーを用いて、ゲノムDNA上の標的遺伝子の一部又は全部を核酸増幅反応により増幅し、得られた核酸増幅物から標的遺伝子の存在をアガロースゲル電気泳動法で確認して行うことを含む。
【0008】
上記工程を含む従前の判定方法によれば、汎用されている装置を利用して、標的遺伝子を含む種子を判定することができた。しかし、該方法のゲノム回収工程は、粉塵が発生してコンタミネーションの危険性があること、有害な廃棄物が発生することなどの他に、種子の粉砕からゲノムDNAの回収まで2〜3時間を要し、工程時間が長大であるという問題があった。該方法の標的遺伝子検出工程もまた、核酸増幅反応に2〜3時間及び核酸増幅物の確認に1〜2時間と、合計して4〜6時間程度を要し、工程時間が長大であるという問題があった。さらに、該方法における各工程とも手動で作業しなければならず、作業効率が悪いという問題もあった。したがって、従前の判定方法は、工程時間が長大であり、かつ作業効率が悪いことから、一日に100検体程度の種子しか、標的遺伝子の有無を判定することができない方法であった。
【0009】
標的遺伝子検出工程におけるアガロースゲル電気泳動に代わる高スループットな方法として、質量分析計を利用する方法が知られている。特に、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI−TOF−MS)は、核酸の分析に広く利用されている(非特許文献2〜5)。このMALDI−TOF−MSを用いて血液試料から標的遺伝子を高感度で検出する方法として、Good assay法(非特許文献6)及びその改良法である光反応プライマー法(非特許文献7)などが開発されている。Good assay法及び光反応プライマー法は、プライマーセットを用いて標的遺伝子内の200塩基程度の配列を含む核酸を増幅する第一のPCRと、ddNTPを用いて核酸を増幅する第二のPCRを含む方法であり、これらの方法によれば、一塩基多型変異を含む標的遺伝子を検出することができる。
【特許文献1】特開2004−321079号公報
【非特許文献1】Auer, C.A. Trends Plant Sci. 8, 582-590 (2003).
【非特許文献2】Smylie, K.J. et al. Genome Res. 14, 134-141 (2006).
【非特許文献3】Sauer, S. & Gut, I.G. J. Chromatogr. B. 782, 73-87 (2002).
【非特許文献4】Krebs, K. et al. Nucleic Acids Res. 31, e37 (2003).
【非特許文献5】Stanssens, P. et al. Genome Res. 14, 126-133 (2004).
【非特許文献6】Sauer, S. et al. Nucleic Acids Res. 28, e13 (2000).
【非特許文献7】Xiaopeng Bai et al. Nucleic Acids Res. 32, No. 2, pp.535-541, (2004).
【非特許文献8】GM quicker 2 マニュアル Ver. 1.1、ニッポンジーン、(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従前の標的遺伝子を含む種子を判定する方法は、上記した通り、ゲノム回収工程及び遺伝子検出工程において、工程時間が長大であり、かつ作業効率が悪いという問題点があった。
【0011】
さらに、従前の判定方法における標的遺伝子検出工程において、アガロースゲル電気泳動法に変えて質量分析計を用いたGood assay法や光反応プライマー法を採用する場合、同時に多数の検体を測定することが可能となり、作業効率の向上が期待できる。しかし、二度のPCRを実施しなければならないために核酸増幅反応だけで4〜5時間程度を要することから、アガロースゲル電気泳動法を採用した場合と工程時間にほとんど差がない。さらに、Good assay法や光反応プライマー法は、二度目のPCRでは通常のPCRでは用いないddNTPや光反応プライマーを用意しなければならず、アガロースゲル電気泳動法を採用した場合と比べて汎用性に欠けるという新たな問題が生じる。
【0012】
そこで、本発明者らは、従前の判定方法と比べて、工程時間が短く、かつ作業効率に優れた標的遺伝子を含む種子を判定する方法を提供することを解決すべき課題とした。さらに、本発明者らは、上記方法を用いることにより、アレルゲン特異的T細胞エピトープをコードする遺伝子を標的遺伝子として、被験種子が花粉症緩和作物か否かを従前の判定方法と比べて効率よく判定することができる方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明者らは、まず、従前の標的遺伝子を含む種子の判定方法におけるゲノムDNA回収工程の簡略化を検討した。そこで、本発明者らは、未粉砕の標的遺伝子を含む種子を水等の溶媒と混合して得た抽出液を用いて、標的遺伝子の配列を含む核酸増幅物を得ることを試みた。しかし、該抽出液を用いて通常の核酸増幅反応を実施しても、核酸増幅物はほとんど得られなかった。そこで、本発明者らは、種子の表面はアリューロン層からなり、アリューロン層にはゲノムDNAの他にDNaseなどの核酸分解性物質が含まれていることから、該抽出液中のゲノムDNAが断片化されているのではないかと考えた。この考えを基に、本発明者らは、通常の核酸増幅反応で得られる核酸増幅物の塩基長よりも短い核酸増幅反応物を得ることを試みた。その結果、本発明者らは、核酸増幅物の塩基長を100塩基長以下に設定することにより、未粉砕の標的遺伝子を含む種子を溶媒と混合して得た抽出液から標的遺伝子を含む核酸増幅物を得ることに成功した。
【0014】
次に、本発明者らは、従前の判定方法における標的遺伝子検出工程の簡略化について検討した。本発明者らは、種々検討した結果、核酸増幅反応により得られる核酸増幅物に酵素切断部位を設けて、対応する酵素で該核酸増幅物を処理することにより、一度の核酸増幅反応と酵素処理で質量分析計により標的遺伝子を検出することに成功した。
【0015】
したがって、本発明者らは、従前の判定方法の各工程を簡略化することにより、従前の判定方法と比して、工程時間を大幅に低減し、かつ作業効率に優れた標的遺伝子を含む種子を判定する方法を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明によれば、種子を粉砕することなしに溶媒と混合し、種子を溶媒から分離して、種子由来の核酸を含有する抽出液を得る工程;並びに
前記抽出液に含まれる核酸を、標的遺伝子の配列を含む30〜100塩基長の二本鎖核酸を増幅し得る核酸増幅反応に供して、前記種子が前記標的遺伝子を含む場合には、二本鎖核酸増幅物を得る工程
を含む、標的遺伝子を含む種子を判定する方法が提供される。
【0017】
本発明の好ましい態様は、前記二本鎖核酸が少なくとも1種の酵素切断部位を含む。
【0018】
本発明の好ましい態様は、前記核酸増幅反応後の溶液を、前記酵素切断部位に対応する酵素で処理して、前記種子が前記標的遺伝子を含む場合には、二本鎖核酸断片を得る工程;
前記酵素で処理した溶液を変性処理して、前記種子が前記標的遺伝子を含む場合には、一本鎖核酸断片を得る工程;並びに
前記変性処理後の溶液から、質量分析計により、前記一本鎖核酸断片を検出する工程
をさらに含む。
【0019】
本発明の好ましい態様は、前記核酸増幅反応が、前記二本鎖核酸を増幅することができる少なくとも一組のプライマーセットを用いて行われる反応である。
【0020】
本発明の好ましい態様は、前記酵素切断部位が、前記プライマーセットにおける少なくとも一方のプライマーの配列、又は該プライマーの配列と相補的な配列の中に位置する。
【0021】
本発明の好ましい態様は、前記二本鎖核酸が35〜50塩基長である。
【0022】
本発明の好ましい態様は、前記溶媒が水及び緩衝液からなる群から選ばれる溶媒である。
【0023】
本発明の好ましい態様は、前記質量分析計が、磁場偏向型質量分析計、四重極型質量分析計、イオントラップ型質量分析計、飛行時間型質量分析計、及びフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型質量分析計からなる群から選ばれる質量分析計である。
【0024】
本発明の好ましい態様は、前記飛行時間型質量分析計がマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI−TOF−MS)である。
【0025】
本発明の好ましい態様は、前記核酸増幅反応が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、リガーゼ連鎖反応(LCR)法、LAMP(Loop−Mediated Isothermal Amplification)法及びRCA(Rolling Circle Amplification)法からなる群から選ばれる方法による核酸増幅反応である。
【0026】
本発明の好ましい態様は、前記種子が、米、大麦、黒豆、小豆、とうもろこし、きび、あわ、大豆、白ごま、黒ごま、はと麦、キヌア、たかきび、ホワイトソルガム、ひえ、及びアマランサスからなる群から選ばれる作物の種子である。
【0027】
本発明の好ましい態様は、前記標的遺伝子が、アレルゲン特異的T細胞エピトープをコードする遺伝子である。
【0028】
本発明の別の側面によれば、本発明の判定方法により検出されたアレルゲン特異的T細胞エピトープをコードする遺伝子を含む種子を花粉症緩和作物であると判定する工程を含む、花粉症緩和作物の判定方法が提供される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、迅速かつ簡便に種子に含まれる標的遺伝子を検出することができる。本発明の判定方法は、増幅すべき核酸増幅物の塩基長が30〜100塩基長と短いために、核酸増幅反応が40〜50分(例えば、核酸増幅反応がPCRである場合、アニール時間;2秒、ハイブリダイズ時間;2秒、伸長時間;2秒、サイクル数;30)で完了する。さらに本発明の判定方法は、質量分析計を利用する場合、酵素処理と質量分析が20分程度で完了する。この場合、本発明の判定方法は、ゲノムDNAの回収から標的遺伝子の検出までを、60〜70分程度で実施することができる。したがって、本発明の判定方法は、4〜6時間を要した従前の方法と比べて、非常に短時間で実施することができる。
【0030】
本発明の判定方法は、種子を破砕する工程を含まないことから、抽出液の作製から核酸増幅反応まで、溶液を移し替えることなく一つの反応系内(例えば、一つのチューブ内)で実施することができる。本発明の判定方法における核酸増幅反応は、ddNTPなどの試薬や光分解プライマーなどの特殊なプライマーを使用しないことから、本願出願時に知られている種々の核酸増幅反応を利用でき、さらに種々の市販の核酸増幅反応用キットを用いて行なうことができる。したがって、本発明の判定方法は、汎用性に富む方法である。
【0031】
本発明の判定方法は、標的遺伝子の検出に質量分析計を用いる場合、核酸増幅物量が少なくても高感度で検出でき、核酸増幅反応時間の短縮や試験の小スケール化が可能となる。さらに、本発明の判定方法は、塩基配列組成によって質量電荷比が変化することから、1組又は2組以上のプライマーセットを用いることにより、1種又は2種以上の標的遺伝子を検出することも可能である。本発明の判定方法を応用することで、アレルゲン特異的T細胞エピトープをコードする遺伝子を含む花粉症緩和作物を迅速かつ簡便に判定することができる。
【0032】
さらに、本発明の判定方法は、構成が簡便であることから、自動化も期待できる。(自動化システムについては、例えば、図5を参照)。すなわち、本発明の判定方法によれば、多穴プレート、プレート撹拌機、ロボットアームを備えたオートサンプラー、サーマルサイクラー、乾燥機、MALDI−TOF−MS及びこれらを制御するコンピューターなどからなる自動化システムを構築することが可能となる。本発明の判定方法を自動化することで、多数の検体(例えば、一万以上の検体)を並行して扱うことが可能となる。さらに、本発明の判定方法を応用することにより、種子以外にも根、茎、葉、カルスなどにおける標的遺伝子を検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の判定方法は、下記(a)及び(b)の工程を少なくとも含む、標的遺伝子を含む種子を判定する方法である:
(a)種子を粉砕することなしに溶媒と混合し、種子を溶媒から分離して、種子由来の核酸を含有する抽出液を得る工程;並びに
(b)前記抽出液に含まれる核酸を、標的遺伝子の配列を含む30〜100塩基長の二本鎖核酸を増幅し得る核酸増幅反応に供して、前記種子が前記標的遺伝子を含む場合には、二本鎖核酸増幅物を得る工程。
【0034】
種子は、野菜、果物、花卉などの植物の種子を制限なく用いることができ、例えば、米、大麦、黒豆、小豆、とうもろこし、きび、あわ、大豆、白ごま、黒ごま、はと麦、キヌア、たかきび、ホワイトソルガム、ひえ、アマランサスなどの作物の種子を挙げることができ、中でも米の種子が好ましい。本発明の判定方法に用いられる種子は、種皮を有するものだけでなく、種皮を除いた胚乳、子葉、胚軸なども種子として用いることができる。例えば、米の種子を用いる場合、イネ種子だけでなく、玄米、胚芽米、精白米なども用いることができる。
【0035】
標的遺伝子は、種子の判定の標的となる遺伝子であれば特に制限されず、種子のゲノムDNAに本来存在する遺伝子でも、遺伝子組換え技術によって種子のゲノムDNAに挿入された外来遺伝子でもいずれでもよい。したがって、標的遺伝子を含む種子は、標的遺伝子をゲノムDNAに含む種子である。標的遺伝子は、1又は2以上である場合もあり得る。標的遺伝子の具体例としては、種子が特許文献1に記載の花粉症緩和米である場合、標的遺伝子はアレルゲン特異的T細胞エピトープをコードする遺伝子であることが好ましい。
【0036】
溶媒としては、核酸を変性させず、かつ核酸増幅反応を阻害しない溶媒であれば特に制限されないが、水や緩衝液などが好ましく、入手が容易という面では水が特に好ましい。水としては、化学的には化学式H2Oで表される水を意味するが、水道水や蒸留水だけでなく、生理食塩水などのその他の物質が核酸増幅反応を阻害しない程度の量を含む水も制限なく用いることができる。
【0037】
種子と溶媒との混合は、種子を粉砕することなく行われる。この混合は、種子を溶媒と接して静置することにより行うだけでなく、種子を溶媒と接した後に撹拌して行ってもよい。撹拌方法は特に制限されず、例えば、手動だけではなく、ボルテックスミキサーなどの機器を用いて行なうこともできる。撹拌条件としては、室温下で、10秒〜180秒が好ましく、20〜100秒がより好ましく、30〜60秒がさらに好ましい。撹拌条件によっては、種子と溶媒との混合時に、種子が破砕される場合もある。
【0038】
種子と溶媒とを混合すると、種子中のDNaseなどの核酸分解性物質の影響により、混合液中の種子のゲノムDNAは徐々に断片化及び分解される可能性がある。そこで、種子と溶媒とを混合する時間は、混合開始から20分以内が好ましく、10分以内がより好ましく、5分以内がさらに好ましく、3分以内がなおさらに好ましい。
【0039】
本発明の判定方法においては、種子と溶媒との混合物から、種子や種子破砕物などの固形成分を除くことが好ましい。固形成分を除く方法には特に制限はなく、例えば、混合物中の固形成分を自然沈降させた後に液体成分を別の容器に移してもいいし、固形成分を例えばピンセットなどで取り出してもいいし、ろ過や遠心分離をして液体成分と固形成分を分離した後に、固形成分を除去してもよい。
【0040】
種子を溶媒と粉砕することなしに混合し、種子を溶媒から分離することにより、種子由来の核酸を含有する抽出液を得ることができる。核酸増幅反応を阻害しない程度であれば、抽出液に固形成分が混入していてもよい。
【0041】
本発明の判定方法では、上記抽出液に含まれる種子由来の核酸を鋳型に、標的遺伝子の配列を含む二本鎖核酸を増幅し得る核酸増幅反応を実施する。増幅すべき二本鎖核酸の塩基長は、抽出液から核酸増幅反応によって二本鎖核酸増幅物が得られる長さであれば特に制限されないが、30〜100塩基が好ましく、30〜60塩基がより好ましく、30〜50塩基がさらに好ましく、35〜50塩基がなおさらに好ましい。抽出液から核酸増幅反応により増幅させることができる二本鎖核酸の塩基長の一例は、図8で示されている。図8から、抽出液からPCRにより増幅させることができる二本鎖核酸の塩基長は、約55塩基までである。
【0042】
二本鎖核酸増幅物は、例えば、アガロースゲル電気泳動法や吸光光度計などの通常用いられるDNA検出法で検出することもできるが、後述する質量分析計により検出することが好ましい。このとき、種子が標的遺伝子を含む場合には、該二本鎖核酸の増幅物である二本鎖核酸増幅物を得ることができる。そこで、本発明の方法では、核酸増幅反応により二本鎖核酸増幅物が得られた種子を、標的遺伝子を含む種子であると判定する。
【0043】
本発明の判定方法において、核酸増幅反応によって増幅すべき二本鎖核酸に、1種又は2種以上の酵素切断部位を設けることが好ましい。酵素切断部位とは、対応する酵素によって切断される部位であれば特に制限されるものではないが、例えば、制限酵素によって切断される部位、及びウラシルDNAグリコシラーゼによって切断される部位などを挙げることができる。制限酵素としては、例えば、StyI、EcoRI、MluI、NcoI、ApaI、ApaLI、SpeI、BamHI、BglII、SpeI、NheI、SphI、SalI、XbaI、NdeI、PvuII、PstI、DraI、DraIII、XhoI、NotI、HindIII、HincII、KpnIなどを挙げることができ;ウラシルDNAグリコシラーゼとしては、大腸菌由来のウラシルDNAグリコシラーゼを挙げることができる。ウラシルDNAグリコシラーゼを用いる場合、核酸増幅反応においてdTTPの代わりにdUTPを用いる。
【0044】
本発明の判定方法は、増幅すべき二本鎖核酸に少なくとも1種の酵素切断部位を設けることにより、下記工程をさらに含めることが好ましい:
前記核酸増幅反応後の溶液を、前記酵素切断部位に対応する酵素で処理して、前記種子が前記標的遺伝子を含む場合には、二本鎖核酸断片を得る工程;
前記酵素で処理した溶液を変性処理して、前記種子が前記標的遺伝子を含む場合には、一本鎖核酸断片を得る工程;並びに
前記変性処理後の溶液から、質量分析計により、前記一本鎖核酸断片を検出する工程。
【0045】
核酸増幅反応後の溶液を、二本鎖核酸に設けられた酵素切断部位に対応する酵素で処理することにより、種子が標的遺伝子を含む場合には、二本鎖核酸増幅物の酵素切断断片である二本鎖核酸断片を得ることができる。
【0046】
二本鎖核酸における酵素切断部位の位置は、対応する酵素を用いて二本鎖核酸を切断することにより質量分析計により検出できる塩基長、例えば、15〜25塩基長の二本鎖核酸断片を得ることができる位置であれば特に制限されないが、例えば、核酸増幅反応が少なくとも一組のプライマーセットを用いて行われる反応である場合は、該プライマーセットにおける少なくとも一方のプライマーの配列、又は該プライマーの配列と相補的な配列の中に含めることができる。
【0047】
二本鎖核酸増幅物の回収を容易にするために、例えば、上記プライマーセットにおけるいずれか一方のプライマーの5’末端付近にビオチンを付加することができる。5’末端付近にビオチンを付加したプライマーを含むプライマーセットにより増幅された二本鎖核酸増幅物は、アビジン被覆磁気ビーズなどのアビジン被覆担体を用いて、ビオチン−アビジン相互作用により容易に回収され得る。
【0048】
酵素処理した溶液は、変性処理に供される。このとき、種子が標的遺伝子を含む場合には、二本鎖核酸断片の二本鎖は一本鎖に変性され、結果として一本鎖核酸断片が得られる。変性処理の条件は、当業者によって適宜設定することができるが、例えば、核酸増幅反応におけるアニーリングの際の温度及び時間を用いることができる。
【0049】
本発明の判定方法では、一本鎖核酸断片を検出する方法として、各種質量分析計を用いた質量分析法を用いることが好ましい。質量分析計は、質量分析に供される機器であれば特に制限されず、例えば、試料導入部、イオン源、分析部、イオン検出部、データ処理部などから構成される。質量分析計の具体例としては、磁場偏向型質量分析計、四重極型質量分析計、イオントラップ型質量分析計、飛行時間型質量分析計、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型質量分析計などを制限なく挙げることができるが、好ましくは飛行時間型質量分析計であり、より好ましくはマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI−TOF−MS)である。マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計を採用する場合、マトリックスや機器の種類には特に制限はないが、例えば、実施例で示している通り、マトリックスとして2’,4’,6’−trihydrokyacetophenone、かつ機器としてBruker社のΜLtraflex MALDI−TOF質量分析計を挙げることができる。
【0050】
種子の核酸に標的遺伝子が存在する場合は、核酸増幅反応によって二本鎖核酸増幅反応物が得られる。しかし、種子の核酸に標的遺伝子が存在しない場合は、二本鎖核酸増幅物は得られない。したがって、本発明の判定方法は、種子の核酸に標的遺伝子が存在することを、変性処理後の溶液から一本鎖核酸断片を検出することによって判定することができる。一本鎖核酸断片は、質量分析計によって、質量電荷比を示すピークの存在によって確認することができる。核酸増幅反応にプライマーセットを用いる場合は、核酸増幅反応を行なわなかった系と比較して、プライマーセットの質量電荷比を示すピークの面積やピーク高さの減少を指標とすることもできる。いずれにせよ、予め得られた一本鎖核酸断片及びプライマーセットなどを質量分析にかけて、得られた質量電荷比を対照として用いる。したがって、本発明の判定方法は、一本鎖核酸断片の検出を、通常、対照と比較することにより行う。本発明の判定方法において、一本鎖核酸断片が検出された種子を、標的遺伝子を含む種子であると判定する。
【0051】
核酸増幅反応は、標的遺伝子の配列の一部を含む核酸を増幅することができる条件で実施するのであれば特に制限されないが、例えば、標的遺伝子の配列の一部を含む核酸を増幅することができる1種又は2種以上のプライマーセットを用いて行う核酸増幅反応が挙げられる。核酸増幅反応の具体例としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、リガーゼ連鎖反応(LCR)法、LAMP(Loop−Mediated Isothermal Amplification)法、RCA(Rolling Circle Amplification)法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらにこれらの核酸増幅反応は、当業者により適宜調整されて実施される。PCR法を用いた核酸増幅反応については、例えば、実施例に記載の方法が挙げられる。また、PCR法を用いる場合、本発明の判定法において、核酸増幅反応によって増幅されるべき二本鎖核酸増幅物は塩基長が30〜100塩基と短いことから、アニール時間、ハイブリダイズ時間、核酸伸長時間及びサイクル数を、通常行われるPCR法と比して短縮することができる。例えば、本発明の判定法における核酸増幅反応として実施されるPCR法は、アニール時間;2秒、ハイブリダイズ時間;2秒、伸長時間;2秒、サイクル数;30として設定することができる。
【0052】
本発明の判定方法の好ましい態様の概略を図1に示す。本発明の判定方法の好ましい態様によれば、特異領域を5’−末端でビオチン付加プライマー及び非ビオチン付加プライマーの組合せを使用して増幅し(図1a)、次いで、制限酵素又はUDGで核酸増幅物を処理し(図1b)、次いで、処理後の核酸断片をストレプトアビジン(SA)被覆磁気ビーズを用いて回収し(図1c)、次いで、核酸をアルカリ条件でアニールし、それによりssDNAが得られ(図1d)、次いで、ssDNAをMALDI−TOF−MSによって分析する(図1e)。
【0053】
本発明の別の側面によれば、標的遺伝子をアレルゲン特異的T細胞エピトープをコードする遺伝子として、本発明の判定方法により検出されたアレルゲン特異的T細胞エピトープをコードする遺伝子を含む種子を花粉症緩和作物として判定する工程を含む、花粉症緩和作物の判定方法が提供される。
【0054】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0055】
1.材料及び方法
(1)抽出液の作製
他に記載がない限り、化学物質および酵素は、和光純薬化学工業又はナカライタスクから購入された。抽出液は、米種子、玄米、白米又は粉末米種子(10mg)をエッペンドルフチューブ又は96穴ウェルPCRプレートを用いて種子粒あたり50−100μLの水で3分間ボルテックス混合し、調製した。固形成分を除くために、必要であれば、3分間遠心分離した。なお、比較のために、ゲノムDNAがGMクイッカー(ニッポンジーン)を用いて、遺伝子組換え(GM)米(Oryza sativa L.Nipponbare)から得られた。詳しくは、皮を剥いたコメ種子を乳鉢で破砕し、その0.5mg粉末を2.0mlエッペンチューブに入れ、700μlのGE1 buffer、20μlのProteinase K、2μlのα−amylase、10μlのRnase Aを加えて30秒間ボルテックスミキサーによって撹拌混合した。60℃で15分間インキュベートした後、85μlのGE2−K bufferを加えてボルテックスした。遠心(>13Kxg、5分間,RT)した後、上澄み400μlを別の1.5mlエッペンチューブへ移した。150μlのGB3 buffer、150μlのイソプロパノールを加え、10−12回激しく転倒混和した。得られた混合液をSpin columnに移し、13Kxg、60秒間、RTの条件で遠心分離し、別のエッペンチューブにカラムをセットした。次いで、50μlのTE(10mM Tris−HCl、pH 8.0+1mM EDTA)を滴下し、3分間、室温で放置した。最後に、13Kxg、60秒間、RTで遠心分離し、濾液を回収しゲノムDNAを得た。
【0056】
(2)PCR
PCRはPCRマスターミックス(Promega)又はホットゴールドスター(Eurogentec)を用いて容量当り25μLで実施された。反応は、94℃で1分間熱変性され、次いで94℃で10秒間、45℃で10秒間、及び72℃で30秒間の工程からなる熱サイクルを35回実施された。dUTPはUDGを用いてdTTPに置き換えられた。オリゴヌクレオチドプライマーは北海道システムサイエンス株式会社によって合成された(図3)。ゲル電気泳動はトリスホウ酸塩バッファーの中で20%アクリルアミドを使用して実施された。
【0057】
(3)酵素処理
5μLのPCR産物は製造者の操作手順に従って、制限酵素又はUDG(NEB)を用いて10分間インキュベートされた。2μLのストレプトアビジン被覆磁気ビーズ(タカラ)は、製造者に提供される結合バッファー中でDNA溶液と1分間再混合された。ビーズは、100μLの水で洗浄され、及び0.1M 塩化ナトリウム及び0.1M 水酸化ナトリウムを含む50μLの変性溶液に5分間加えられ、次いで100μLの水で2回洗浄された。ビーズは50μLの25% アンモニア水と混合され、及び65℃で10分間維持された。溶液は回収され、次いで真空遠心装置によって乾燥された。
【0058】
(4)質量分析
0.15M クエン酸2アンモニウム中に溶解されたDNAは、ターゲット(アンカーチップ、Bruker Daltonics)上に滴下され、及び50% アセトニトリル中に同容量の100mg/ml 2’,4’,6’−トリヒドロキシアセトフェノンが加えられた。必要ならば、1μLの50% アセトニトリルが、再結晶のための乾燥試料上に滴下された。スペクトルは、マトリックスとして2’,4’,6’−trihydrokyacetophenoneを用いて、陽イオンモードにおけるBrukerのΜLtraflex MALDI−TOF質量分析計によって記録され、及び直線的に検出された。
【0059】
(5)プライマーの設定
増幅用領域はソフトウェアPrimer3(http://primer3.sourceforge.net/)を使って標的遺伝子上で選択された。作製したプライマーを図3に示した。図3の下線部の配列はPCR用のプライマー配列であり、一方のプライマーには、5’−末端にビオチンが付加されている。影部の配列は、制限酵素の認識部位であり、傍線部は切断部位である。小文字のtは、ビオチンが付加されたプライマーの3’−末端に一番近い位置にあるチジミン残基を示し、dUTPがPCRのために使用された場合は、Uと取り替えられた。プロラミン遺伝子の増幅については、プロラミン−R、プロラミン−R97およびプロラミン−R288のいずれかのプライマーとプロラミンLとの組み合わせによるプライマーセットが使用された。プライマーセットA、BおよびCは、アレルゲン特異的T細胞エピトープの挿入DNAに由来する。UDG又は制限酵素による消化はより短い核酸分子をそれぞれ生産する。これらの分析では、プライマーのうちの1つは5’−末端でビオチン付加されている。さらに、制限酵素部位及び/又は切断部位が、増幅DNA上で新たに作成されている。ヌクレオチドTは、UDG分解用のビオチン付加されたプライマーの3’−末端近くに配置される場合もある。増幅後、制限酵素又はUDGは、DNA溶液に加えられ、配列に基づいて切断された(図1)。DNAは、ストレプトアビジン被覆磁気ビーズを用いて5’−末端のビオチンによって回収された。二本鎖DNAは、アルカリ条件下で変性され、及び一本鎖(ssDNA)になった。アンモニア溶液はビオチンとストレプトアビジンの間の結合を分離するために加えられた。ssDNAは凍結乾燥によってMALDI−TOF−MSに集められた。
【0060】
2.結果
(1)プロラミン遺伝子の検出
米種子タンパク質の1つであるプロラミン遺伝子を標的遺伝子として、標的遺伝子検出試験がなされた。精製ゲノムDNAを有するPCRは、プロラミン−R、プロラミン−R97およびプロラミン−R188のいずれかとプロラミンLとの組み合わせを使用して実施され、それぞれ40bp、52bpおよび246bpの核酸が生成された(図3)。それらはゲル上の予想される位置でバンドを示した(データなし)。
【0061】
図2は、GM米におけるプロラミン遺伝子及びエピトープ遺伝子の増幅結果、並びに電気泳動及びMALDI−TOF−MSによる検出結果を示す。より詳しくは、(a)は、ゲノムDNA(G)及び粗抽出物(C)の鋳型を用いた、プロラミン−Lおよびプロラミン−Rのプライマーセットによる246bpのPCR産物の電気泳動結果を示す。(b)は、玄米および白米からのゲノムDNA(G)および粗抽出物の鋳型を用いた、プロラミン−Lおよびプロラミン−R97のプライマーセットによる52bpの増幅結果を示す。なお、鋳型の量は25μL反応容量のうち、1〜7μLに段階的に増加している。(c)は、電気泳動による正常米およびGM米の中に挿入された遺伝子の検出結果を示す。(d)はUDGによる消化処理後のMALDI−TOF−MSを用いたGM米及び非GM米における導入遺伝子の検出結果を示す(矢印)。(e)は、MnlIによる消化処理後のMALDI−TOF−MSを用いたGM米及び非GM米における導入遺伝子の検出結果を示す(矢印)。
【0062】
図2から、246bpのバンドは、抽出液中の標的遺伝子を鋳型によっては観察されなかった(図2a)。白米から得られた52bpのバンドは、粗抽出物の量を1μLから7μLに段階的に増加させることによって消失した(図2b)。このことから、より短いPCR産物をさらに詳しい分析に使用するのであれば、種子の粉砕及びDNA抽出を省略して実施できるかもしれないと本願発明者らは考えた。手作業の電気泳動は、短いPCR産物に適用することが可能であったが、それらはすべて約40−50bpで観察された。スループットを増加するためにMALDI−TOF−MSを用いたさらなる自動分析について、制限酵素又はUDGが生産物の小型化のために使用された。
【0063】
(7)アレルゲン特異的T細胞エピトープの検出
アレルゲン特異的T細胞エピトープの遺伝子組換え遺伝子を含むGM米の分析において、3種類のプライマーセット(図3)が用意され、PCRを用いて明確なバンドを得た(図2c)。
【0064】
MnlIは、プライマーセットCのPCR産物に適用された。PCR反応に残ったプライマーは、正常米及びGM米の両方で、m/z 6,544のピークで観察された(図2d)。プライマーC−Rに認識部位があり、プライマーC−Lに切断部位があった。したがって、2塩基のみより短いssDNAが生じたものと予想された。MnlIを用いた反応の後、ピークは、GM米のm/z 5,915のピークとして観察された(図2d)。
【0065】
UDGはプライマーセットAのPCR産物に対して適用された。m/z 7,066のピークは、プライマーA−Rの2塩基だけ長く、UDGによる処理後に観察された(図2e)。
【0066】
酵素反応によって得られたピーク高さは、未反応プライマーのピークより小さかった(図2d及びe)。生産物のピークを増加させることができる改良点は、開始時のプライマー量の減少又はサイクル数の増加だった。PCR反応の時間延長及び他の事象は、スループットを劣悪化させる。各反応における2秒間の熱サイクルされたPCR反応はまたMALDI−TOF−MS分析における複数のピークを示した。しかしながら、PCR時間の合計はそれほど変更されなかった。コストパフォーマンスのために、PCR用反応容量を20μL以下にし、かつビーズを1μLに減少することも可能だった。ビーズに由来する副産物ピークは、低い範囲で観察されたが、アルカリ変性の後の不完全な洗浄はより高い範囲で追加的な不利なピークをもたらした。アンモニア溶液は、20μL以上で、10分より長いインキュベーションが好ましい。なぜなら、ビオチンの解離が5分間では不完全であり、及び時々緊密なシーリングにもかかわらず溶液を消失させたからである(データなし)。
【0067】
米からのDNA抽出は、いくつかの条件で試験された。それらの中で、農薬の検査のために使用された玄米は、図3に記載のプライマーを用いて核酸増幅した後、電気泳動及びMALDI−TOF−MSの両方において最良の結果を示した。MALDI−TOF−MSによる分析物質を定量することは困難であるが、DNAは4種類の類似した化合物から成り、ssDNAはほとんど同じイオン化効率を持っている。非GM米に混ざったGM米の品質評価のための方法は調査中である。
【0068】
上記と同様にして、割れ目をつけた大豆およびトウモロコシ種子に由来する粗抽出物を使用して図3に記載のプライマーを用いてPCRを行い、標的遺伝子を検出した(図4の矢印)。図4において、GはSSIIb遺伝子、UDG処理、トウモロコシ粉末GA21を、HはP35S遺伝子、UDG処理、トウモロコシ粉末GA21を、IはGA21遺伝子、UDG処理、トウモロコシ粉末GA21をそれぞれ示す。トウモロコシ粉末GA21とはGA21(遺伝子組み換えトウモロコシが42.9g/kgだけ非組み換えトウモロコシに入ったものの粉末、市販品)を購入して実験に用いたものであった。SSIIbは非組み換えトウモロコシにも存在した。G−Iの実験は上がUDG切断、下がプライマーのみのものを示す。これらの結果から、大豆及びトウモウロコシの種子においても、イネの茎葉(芽生え、幼苗)およびカルスと同様に標的遺伝子の判定が可能であった(図4)。
【0069】
<参考例>
1.PCRに及ぼすDNA濃度の影響評価
(1)精製DNA
DNA精製キットで得たゲノムDNAを、エタノール沈澱によって濃縮した。濃縮後のDNA濃度は282.3 ug/mlであった。サイクル数やプライマー量などの条件は実施例に記載の条件を用いた。PCR時の各チューブ(分子量マーカーの次のレーン)に存在するDNA量を表1に示した。
【表1】

【0070】
PCR後のエチジウムブロマイドで染色した電気泳動結果を図6Aとした。図6Aから最右レーンは非常に多くのテンプレートが存在した。テンプレート量が増加するとPCRが阻害される傾向にあった。テンプレート量が4μLを超えるとバンドが薄くなった。PCRが阻害されると推測されるテンプレート濃度は1200 ug/チューブであった。
【0071】
(2)粗抽出DNA
粗抽出液(白米より抽出)をテンプレートにしてPCRを行った。DNA濃度は、クロロホルム抽出を2回行って原液(29.1 ug/ml)の濃度を算出した。PCRのサイクル数やプライマー量などの条件は実施例に記載の条件を用いた。PCRに使用したテンプレート量とチューブ内に存在するDNA量を表2とした。
【表2】

【0072】
PCR後のエチジウムブロマイドで染色した電気泳動結果を図6Bとした。図6Bから、テンプレート量が増加するとPCRが阻害される傾向にあった。テンプレート量が5μLを超えるとバンドが非常に薄くなった。PCRが阻害されると推測されるテンプレート濃度は150ug/チューブであった。
【0073】
2.PCR阻害要因の評価
デンプン、ショ糖、グルコース、及びSDSの全長40bpのPCRに及ぼす影響を評価した(図7)。図7において、レーンは左から、分子マーカー、添加物なし、デンプン、デンプン、ショ糖、ショ糖、グルコース、グルコース、SDSを示す。各濃度は以下の通りである:デンプン(40%w/v)、ショ糖(40%)、グルコース(40%)、およびSDS(10%)のストック液。PCRは、テンプレートは0.8μLを含む全量20μLで行った。各化合物の容積は、デンプン5.2μL、デンプン2.6μL、ショ糖5.2μL、ショ糖2.6μL、グルコース5.2μL、グルコース2.6μL、SDS2.0μLである。プライマーは配列表の配列番号29と30を用いた。結果としてSDS以外の化合物に大きなPCR阻害影響が見られなかった。pHを測定すると、胚乳抽出物はpH6.4だった。pHが阻害要因の可能性であるかもしれなく、フィチン酸等の有機酸が多数含まれることによりPCRが阻害される可能性もある。
【0074】
3.PCR可能塩基長の評価
テンプレートとしてイネ種子粉末から抽出した粗抽出液(116mg/ 232μL 水)を使用した。このうち、20μLのPCRスケールで6μLをテンプレートとして用いた。プライマーの組み合わせは下記の通りで、想定される産物長は、39、45、55、65、75 bpである。
1. 配列番号29と配列番号30;産物長 39 bp
2. 配列番号29と配列番号31;産物長 45 bp
3. 配列番号29と配列番号32;産物長 55 bp
4. 配列番号29と配列番号33;産物長 65 bp
5. 配列番号29と配列番号34;産物長 75 bp
【0075】
5μLのPCR産物をアクリルアミドゲルに泳動した。電気泳動後、エチジウムブロマイドで染色し、写真撮影した(図8)。レーンの1〜5は上記プライマーセットに対応する。産物長が増加するにつれて、バンドが薄くなる傾向にあった。特に、レーン4及び5は、バンドがほとんど認められなかった。一般に同じモル数が存在する場合、分子量の大きいバンドが濃く染色されることを考えると、産物長が長くなるにつれてPCRが増幅され難い傾向にあることがわかった。精製したDNAをテンプレートにしてPCRを行った場合は、産物長が65〜75 bpでも問題なく増幅された。よって、イネ粗抽出液を用いた場合、伸長塩基数が長くなると、PCRは阻害される傾向にあることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の判定方法によれば、非遺伝子組換え作物から遺伝子組換え作物を判定することに利用できる。すなわち、本発明の判定方法によれば、ブランド栽培品種作物における遺伝子組換え作物やウイルス感染作物を検出することができ、人類や家畜動物の食の安全に資することができる。さらに、各種作物の遺伝子の多型(突然変異、品種間差異、個体差など)を検出することができることから、本発明の判定方法を用いることで、作物の品種改良を効率よく確認することができるようになる。
【0077】
さらに、本発明の判定方法によれば、標的遺伝子を国内産作物に特有な遺伝子とすることにより、該作物について国内産か否かを簡便に判定することが可能となり、食品の偽装の防止や作物の値付けに利用でき、産業の発達に大いに貢献し得る。さらに、本発明の判定方法によれば、遺伝子組換え作物の花粉の飛散性調査など、多地点の同種の作物をサンプリングし、簡便かつ短時間で飛散性調査を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、本発明の判定方法の概略図を示す。
【図2】図2は、GM米におけるプロラミン遺伝子及びエピトープ遺伝子の増幅結果、並びに電気泳動及びMALDI−TOF−MSによる検出結果を示す。
【図3−1】図3−1は、実施例及び参考例で用いたプライマーセットを示す。
【図3−2】図3−2は、実施例及び参考例で用いたプライマーセットを示す。
【図3−3】図3−3は、実施例及び参考例で用いたプライマーセットを示す。
【図4】図4は、本発明の判定方法において、トウモロコシ中のSSIIb遺伝子、P35S遺伝子及びGA21遺伝子を標的遺伝子として検出した結果を示す。
【図5】図5は、本発明の検出及び判定方法の自動化の概略図を示す。
【図6】図6は、精製イネゲノムDNAをテンプレートにPCRした時の泳動像(A)及びコメ(白米)の粗抽出液をテンプレートにPCRした時の泳動像(B)を示す。
【図7】図7は、デンプン、ショ糖、グルコース、及びSDSの全長40塩基対のPCRに及ぼす影響を評価した電気泳動結果を示す。
【図8】図8は、コメ粗抽出液における標的遺伝子のPCR可能塩基長の評価結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種子を粉砕することなしに溶媒と混合し、種子を溶媒から分離して、種子由来の核酸を含有する抽出液を得る工程;並びに
前記抽出液に含まれる核酸を、標的遺伝子の配列を含む30〜100塩基長の二本鎖核酸を増幅し得る核酸増幅反応に供して、前記種子が前記標的遺伝子を含む場合には、二本鎖核酸増幅物を得る工程
を含む、標的遺伝子を含む種子を判定する方法。
【請求項2】
前記二本鎖核酸が少なくとも1種の酵素切断部位を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記核酸増幅反応後の溶液を、前記酵素切断部位に対応する酵素で処理して、前記種子が前記標的遺伝子を含む場合には、二本鎖核酸断片を得る工程;
前記酵素で処理した溶液を変性処理して、前記種子が前記標的遺伝子を含む場合には、一本鎖核酸断片を得る工程;並びに
前記変性処理後の溶液から、質量分析計により、前記一本鎖核酸断片を検出する工程
をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記核酸増幅反応が前記二本鎖核酸を増幅することができる少なくとも一組のプライマーセットを用いて行われる反応であり;
前記酵素切断部位が前記プライマーセットにおける少なくとも一方のプライマーの配列、又は該プライマーの配列と相補的な配列の中に位置する、
請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記二本鎖核酸が35〜50塩基長である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記溶媒が水及び緩衝液からなる群から選ばれる溶媒である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記質量分析計が、磁場偏向型質量分析計、四重極型質量分析計、イオントラップ型質量分析計、飛行時間型質量分析計、及びフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型質量分析計からなる群から選ばれる質量分析計である、請求項3〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記飛行時間型質量分析計がマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI−TOF−MS)である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記核酸増幅反応が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、リガーゼ連鎖反応(LCR)法、LAMP(Loop−Mediated Isothermal Amplification)法及びRCA(Rolling Circle Amplification)法からなる群から選ばれる方法による核酸増幅反応である請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記種子が、米、大麦、黒豆、小豆、とうもろこし、きび、あわ、大豆、白ごま、黒ごま、はと麦、キヌア、たかきび、ホワイトソルガム、ひえ、及びアマランサスからなる群から選ばれる作物の種子である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記標的遺伝子が、アレルゲン特異的T細胞エピトープをコードする遺伝子である請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法により検出されたアレルゲン特異的T細胞エピトープをコードする遺伝子を含む種子を花粉症緩和作物であると判定する工程
を含む、花粉症緩和作物を判定する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−35482(P2010−35482A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201934(P2008−201934)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度農林水産技術会議事務局「遺伝子組換え作物の安全・信頼の確保のための管理技術の開発」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】