説明

標識化胆汁酸

【課題】胆汁酸トランスポーターに対して非標識の胆汁酸と同等の親和性、反応性を有する標識化胆汁酸や、その標識化胆汁酸を用いた胆汁酸トランスポーター活性の測定方法、胆汁酸トランスポーター活性の促進物質や阻害物質のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】胆汁酸の22位、23位又は24位の側鎖炭素原子を介して発色団が結合されている新規の標識化胆汁酸又はその抱合体。発色団が、フルオレセイン誘導体、アンスロイルニトリル誘導体、ベンゾオキサジアゾール誘導体からなる群より選択される請求項1又は2記載の標識化胆汁酸又はその抱合体。胆汁酸トランスポーターが、BSEP(bile salt export pump)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側鎖が発色団で標識された胆汁酸又はその抱合体や、側鎖が発色団で標識された胆汁酸又はその抱合体を用いる胆汁酸トランスポーター活性の測定方法、胆汁酸トランスポーター活性の促進物質又は阻害物質のスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞は形質膜や小胞体,ミトコンドリアなどの細胞内小器官膜を介してイオンや栄養素の輸送ならびに老廃物や毒素の排出を行うことにより細胞機能を維持している。これらの物質輸送は、チャネル,トランスポーターと呼ばれる膜輸送タンパク質により選択的に行われている。その一つとしてABCトランスポーターが知られている。ABCタンパク質は、トランスポーター,チャネル,受容体(レギュレーター)という多様な機能に分化し、それぞれの生物で重要な生理機能を果たしており、細胞内ATP、ADPによって駆動あるいは制御されている。ATP加水分解のエネルギーをタンパク質分子の構造変化に変換し、それとカップリングすることによって薬剤を細胞の中から外へ輸送することから、薬物の体内動態プロファイル(吸収、分布、代謝、排泄、ターゲット部位での薬剤実効濃度)を規定し、ひいては薬物の全体的な薬理効果をも左右するといわれている。
【0003】
例えば、ABCトランスポーターの一種であるBSEP(bile salt export pump、ABCB11)は、肝臓におけるタウロコール酸(T−CA)等の胆汁酸排泄を司る排出型ABCトランスポーターであり(例えば、非特許文献1参照)、BSEPの機能障害が胆汁うっ滞等の肝疾患を誘起する一因と考えられている。さらに、BSEPの胆汁酸輸送活性は、副作用として肝毒性を示す各種薬剤の投与により阻害を受けることが明らかにされており、臨床のみならず、医薬品開発の初期スクリーニングにおける肝毒性マーカーとして極めて有用とされていることから、BSEPの胆汁酸輸送活性を測定することは、極めて重要である。
【0004】
従来、BSEPを含むABCトランスポーターの輸送活性の測定方法として、ABCトランスポーターが発現している膜に基質を添加した際のATPアーゼ活性を測定する方法が知られている。この方法は、輸送されるべき基質の存在によりATPがABCトランスポーターに結合し、ADPに分解されることから、ABCトランスポーターに結合した状態のADPを測定するものであるが、膜自体の持つ内因性ATPアーゼ活性によりバックグラウンドが高くなる場合がある、リン酸濃度の分解量を測定するため感度が比較低いという問題があった。
【0005】
これに代わる測定方法として、ABCトランスポーターを発現させた反転膜小胞を利用する薬物輸送実験法(ベシクル法)が開発されている。この方法では、ベシクル内に取り込まれたリガンド量から輸送活性を求めるため、トランスポーターの輸送能を直接評価することが可能である。BSEP活性測定にも同様の方法が適用されており、トレーサーとして放射性同位元素(RI)標識化胆汁酸(H−標識T−CAなど)を利用し、その放射活性よりBSEPの輸送活性を求めることができる。現在、このような測定系はキット化されて市販されており、各種薬剤によるBSEP阻害活性評価のスクリーニング法として臨床並びに医薬品開発分野において広く利用されている。また、これまでに、H−標識T−CAをトレーサーとするBSEP活性測定法により各種薬剤によるBSEP阻害作用について検討が行われており、シクロスポリンA、グリベンクラミド、プラバスタチン、リファンピシン及びT−LCAなどの薬剤がBSEPの輸送活性を阻害することが明らかにされている。
【0006】
また、BSEPの胆汁酸輸送活性については、胆汁酸常成分に対する活性を解析した報告があり、胆汁酸のBSEPに対する親和性に関しては、タウロケノデオキシコール酸(T−CDCA)が最も高く、タウロコール酸(T−CA)及びタウロデオキシコール酸(T−DCA)は同程度であり、側鎖抱合形式に関しては、グリシン抱合体に比し、タウリン抱合体が有意にBSEPにより輸送されることが報告され、BSEPの輸送能は胆汁酸の分子構造により影響を受けることが示唆されている。
【0007】
しかしながら、これまでに、BSEPに対する胎児性胆汁酸並びに異常胆汁酸の親和性・反応性等の諸性質についての報告例はなく、BSEPの基質特異性ついては未だ明らかにされていない。BSEPをはじめとする胆汁酸トランスポーターの諸性質の解析において、従来の放射性同位元素標識化胆汁酸を利用することは、放射性同位元素使用に基づく様々な制約から、一般の実験室で実施することは不可能である。そこで、より汎用性に優れる胆汁酸トランスポーター輸送活性の測定方法、輸送活性の促進物質や阻害物質のスクリーニング法の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. Biol. Chem. 1998 Apr 17;273(16):10046-50.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、放射性同位元素標識を用いることなく、胆汁酸トランスポーターに対して非標識の胆汁酸と同等の親和性、反応性を有し、汎用性に優れた標識化胆汁酸や、胆汁酸トランスポーター活性の測定方法、胆汁酸トランスポーター活性の促進物質又は阻害物質のスクリーニング方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、胆汁酸の側鎖部分に蛍光団を導入した新規の蛍光標識化胆汁酸を合成することにより、放射性標識を用いることなく、胆汁酸トランスポーターに対して非標識の胆汁酸と同等の親和性、反応性を有する標識化胆汁酸を開発し、さらに、該標識化胆汁酸が、胆汁酸トランスポーターの活性測定、胆汁酸トランスポーター活性の促進物質又は阻害物質のスクリーニングに有用であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、(1)BSEP(bile salt export pump)による輸送活性があり、22位、23位又は24位の側鎖炭素原子を介して発色団が結合されていることを特徴とする標識化胆汁酸又はその抱合体や、(2)下記式で表されることを特徴とする上記(1)記載の標識化胆汁酸又はその抱合体
【0012】
【化1】

【0013】
[式中、R〜Rは、それぞれ同一又は異なって、水素原子、ヒドロキシ基、置換若しくは非置換のC1−C6アルキル基、置換若しくは非置換のC1−C6アルコキシ基、置換若しくは非置換のC1−C8アシルオキシ基を表し、Xは、発色団を表し、nは、0〜2のいずれかの整数を表す。]や、(3)発色団が、フルオレセイン誘導体、アンスロイルニトリル誘導体、ベンゾオキサジアゾール誘導体からなる群より選択される上記(1)又は(2)記載の標識化胆汁酸又はその抱合体や、(4)ベンゾオキサジアゾール誘導体が、4−N,N−ジメチルアミノスルホニル−7−フルオロ−2,1,3−ベンゾオキサジアゾリル(DBD−)である上記(3)記載の標識化胆汁酸又はその抱合体や、(5)タウリン抱合体であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の標識化胆汁酸又はその抱合体や、(6)N−(24−[7−(4−N,N−ジメチルアミノスルホニル−2,1,3−ベンゾオキサジアゾール)]−アミノ−3α,7α,12α−トリヒドロキシ−27−ノル−5β−コレスタン−26−オイル)−2’−アミノエタンスルホナートや、(7)N−(23−[7−(4−N,N−ジメチルアミノスルホニル−2,1,3−ベンゾオキサジアゾール)]−アミノ−3α,7α,12α−トリヒドロキシ−24−ホモ−5β−コラン−25−オイル)−2’−アミノエタンスルホナートに関する。
【0014】
また本発明は、(8)胆汁酸の22位、23位又は24位の側鎖炭素原子に活性基を導入する工程、導入した活性基に発色団を結合させる工程を含むことを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の標識化胆汁酸又はその抱合体の製造方法や、(9)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の標識化胆汁酸又はその抱合体を用いることを特徴とする胆汁酸トランスポーター活性の測定方法や、(10)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の標識化胆汁酸又はその抱合体を用いることを特徴とする胆汁酸トランスポーター活性の促進物質又は阻害物質のスクリーニング方法や、(11)胆汁酸トランスポーターが、BSEP(bile salt export pump)であることを特徴とする上記(9)又は(10)記載の方法や、(12)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の標識化胆汁酸又はその抱合体を含む、胆汁酸トランスポーター活性の測定用キットや、(13)胆汁酸トランスポーターが、BSEP(bile salt export pump)であることを特徴とする上記(12)記載のキットや、(14)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の標識化胆汁酸又はその抱合体を、胆汁酸トランスポーター活性の測定に使用する方法や、(15)胆汁酸トランスポーターが、BSEP(bile salt export pump)であることを特徴とする上記(14)記載の方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の標識化胆汁酸又はその抱合体は、胆汁酸トランスポーターに対して非標識の胆汁酸と同等の親和性及び反応性を有し、放射性同位元素を用いない汎用性の胆汁酸トレーサーとして利用することができる。また、本発明の標識化胆汁酸又はその抱合体によれば、胆汁酸トランスポーター活性の測定や、胆汁酸トランスポーター活性の促進物質又は阻害物質のスクリーニングを正確かつ簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】Tauro−homo−CA−23−DBD(A)、Tauro−nor−THCA−24−DBD(B)のh−BSEPベシクル輸送活性の経時変化を示す図である。
【図2】Tauro−homo−CA−23−DBD(A)、Tauro−nor−THCA−24−DBD(B)のh−BSEPベシクル輸送活性の基質濃度依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の標識化胆汁酸又はその抱合体としては、BSEP(bile salt export pump)による輸送活性があり、22位、23位又は24位の側鎖炭素原子を介して発色団が結合されている、発色団で標識した胆汁酸、胆汁酸誘導体、又は、これらの抱合体であれば特に制限されず、本発明において胆汁酸とは、胆汁やその排泄物に含まれるコール酸誘導体を総称していう。健常成人における体液中胆汁酸はコール酸(CA)、ケノデオキシコール酸(CDCA)の一次胆汁酸、並びにデオキシコール酸(DCA)、リトコール酸(LCA)の二次胆汁酸が主要構成成分となっており、これら胆汁酸は、側鎖カルボキシル基あるいは母核水酸基を介して各種アミノ酸(グリシン、タウリン等)抱合体、並びに硫酸抱合体として体液中に存在することが知られている。以下に、胆汁酸常成分の構造(タウリン抱合体)の構造を示す。
【0018】
【化1】

【0019】
また、胎児−新生児期には、前記の常成分の他に、1β−水酸化胆汁酸、6α−水酸化胆汁酸等のステロイド母核構造が異なる特異な胆汁酸(胎児性胆汁酸)が体液中に出現し、主要成分となることが知られている。
【0020】
【化2】

【0021】
さらに、各種肝疾患時には、胆汁酸常成分の他に、ステロイド母核構造が不飽和であるΔ−3β−ol、CA−Δ−3−oneなどの不飽和胆汁酸や、側鎖長が通常とは異なるホモCA、THCA、ノルTHCA等の特異な胆汁酸(高級胆汁酸)が体液中に出現することが知られている。
【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
したがって、本発明における胆汁酸には、胆汁酸常成分であるコール酸(CA)、ケノデオキシコール酸(CDCA)、デオキシコール酸(DCA)、リトコール酸(LCA)のほか、水酸化胆汁酸あるいは胎児性胆汁酸、不飽和胆汁酸、高級胆汁酸が含まれる。また、本発明の胆汁酸は、前記胆汁酸の誘導体、光学異性体、立体異性体であってもよく、遊離の胆汁酸、胆汁酸塩、あるいはこれらの塩であってもよい。
【0025】
また、本発明の標識化胆汁酸又はその抱合体は、下記式
【化5】

【0026】
[式中、
−R7は、それぞれ同一又は異なって、水素原子、ヒドロキシ基、置換若しくは非置換のC1−C6アルキル基、置換若しくは非置換のC1−C6アルコキシ基、置換若しくは非置換のC1−C8アシルオキシ基を表し、
Xは、発色団を表し、
nは、0〜2のいずれかの整数を表す]
で表される。
【0027】
C1−C6アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。
【0028】
C1−C6アルコキシ基としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0029】
C1−C8アシルオキシ基としては、具体的には、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、イソバレリルオキシ基またはピバロイル基等のアルカノイルオキシ基や、ベンゾイルオキシ基等のアロイルオキシ基が挙げられる。
【0030】
C1−C6アルキル基、C1−C6アルコキシ基、C1−C8アシルオキシ基の置換基としては、具体的には、C1−C6アルキル基、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲン原子等が挙げられる。C1−C6アルキル基は、前記と同義であり、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等の各原子が挙げられる。
【0031】
前記式において、R、R、R及びRは、好ましくはヒドロキシ基であり、R、R、及びRは、好ましくはα配置であるヒドロキシ基である。また、R、R及びRは、好ましくは水素原子であり、nは、好ましくは1又は2である。
【0032】
本発明の標識に用いる発色団としては、ベンゾフラザン誘導体、フルオレセイン誘導体、アンスロイルニトリル誘導体、ベンゾオキサジアゾール誘導体、スチルベン誘導体、ローダミン誘導体等の公知の蛍光発色団を用いることができる。発色団は、分子の大きさが小さく、蛍光波長が夾雑物の影響を受けにくい領域にあり、導入の容易さからアミノ基と反応性があるものが好適に用いられる。好ましくは、ベンゾフラザン誘導体であり、さらに好ましくは、ニトロベンゾオキサジアゾール(NBD)誘導体、又はジメチルアミノスルホニルベンゾオキサジアゾール(DBD)誘導体であり、特に、4−N,N−ジメチルアミノスルホニル−7−フルオロ−2,1,3−ベンゾオキサジアゾリル(DBD−)が好ましく用いられる。
【0033】
本発明の標識化胆汁酸は、グリシン、タウリン、グルクロン酸、グルタチオン又は硫酸等と結合させた抱合体とすることができる。本発明の標識化胆汁酸又はその抱合体胆汁酸は、側鎖末端のカルボキシル基を介して発色団が標識されていないため、抱合形式は、ステロイド母核部分の抱合であっても、側鎖部分の抱合であってもよい。本発明の胆汁酸の抱合体としては、抱合形式が胆汁酸の胆汁酸トランスポーターへの親和性等の生理活性に影響を与えることから、胆汁酸側鎖のタウリン抱合体が好ましい。
【0034】
本発明の標識化胆汁酸又はその抱合体胆汁酸又はその抱合体としては、特に、BSEPに対して非標識のタウロコール酸と同等の親和性、反応性を有する、N−(24−[7−(4−N,N−ジメチルアミノスルホニル−2,1,3−ベンゾオキサジアゾール)]−アミノ−3α,7α,12α−トリヒドロキシ−27−ノル−5β−コレスタン−26−オイル)−2’−アミノエタンスルホナート(Tauro−nor−THCA−24−DBD)、又は、N−(23−[7−(4−N,N−ジメチルアミノスルホニル−2,1,3−ベンゾオキサジアゾール)]−アミノ−3α,7α,12α−トリヒドロキシ−24−ホモ−5β−コラン−25−オイル)−2’−アミノエタンスルホナート(Tauro−homo−CA−23−DBD)が好ましい。
【0035】
本発明の標識化胆汁酸又はその抱合体の製造方法は、胆汁酸側鎖の22位、23位又は24位の炭素原子を発色団で標識するため、胆汁酸の側鎖の22位、23位又は24位の炭素原子に活性基を導入する工程と、導入した活性基に発色団を結合させる工程とを含む方法であれば特に制限されるものではないが、発色団と反応する活性基としては、反応の選択性・容易性等の観点からアミノ基を用いることが好ましい。
【0036】
本発明の標識化胆汁酸又はその抱合体は、例えば、以下の工程に従い製造することができる。
i)3α,7α,12α-Triformyroxy-5β-cholan-24-alや3α,7α,12α-Triformyroxy-24-nor-5β-cholan-23-al等のアルデヒド体(1)を出発原料として、ブロモ酢酸エチル等の保護基となりうるハロエステルを用いたReformatsky反応により側鎖を伸長する。
ii)得られたβケトエステル体をJone’s酸化によりオキソ体(2)とする。
iii)酢酸アンモニウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム等を用いて、Borch反応等の還元的アミノ化反応を行い、アミン体(3)とする。
iv)続いて、例えばDBD−F等のアミノ基用蛍光誘導体化試薬とアミン体(3)をカップリングさせる。
v)アルカリ加水分解により、エステルの脱保護を行い、蛍光標識誘導体(4)を得る。
さらに、vi)クロロギ酸エステル等を用い混合酸無水物法により側鎖カルボキシル基とタウリン、グリシン等のアミノ酸を縮合させ、あるいは酵素反応を用いて、蛍光標識誘導体(4)のタウリン抱合体を得ることができる。
【0037】
【化6】

【0038】
本発明の標識化胆汁酸又はその抱合体は、胆汁酸トランスポーター活性の測定に使用することができ、本発明の胆汁酸トランスポーター活性の測定に使用する方法には、胆汁酸トランスポーター活性の測定方法の他、胆汁酸トランスポーター活性の促進物質や阻害物質のスクリーニング方法が含まれる。
【0039】
本発明の胆汁酸トランスポーター活性の測定方法は、側鎖が発色団で標識されている本発明の標識化胆汁酸又はその抱合体と、所望のタンパクあるいは胆汁酸トランスポーターとを接触させ、標識化胆汁酸又はその抱合体のタンパクあるいは胆汁酸トランスポーターによる輸送又は結合の程度を、標識された発色団による発色を指標として測定する方法であれば特に制限されない。胆汁酸トランスポーターは、動物等の生体内で発現しているものでも、遺伝子工学的・生化学的手段を用いて生体膜等に人為的に発現させたものでもよい。生体膜としては細胞膜や小胞体、ミトコンドリアなどの細胞内小器官膜を挙げることができ、具体的には、大腸菌等の細菌原核細胞や、酵母、アスペルギルス等の真核細胞や、ドロソフィラS2、スポドプテラSf9等の昆虫細胞や、L細胞、CHO細胞、COS細胞、HeLa細胞、C127細胞、BALB/c3T3細胞、BHK21細胞、HEK293細胞、VERO細胞、CV−1細胞、MDCK細胞、Bowesメラノーマ細胞、アフリカツメガエル等の卵母細胞等の動植物細胞などを挙げることができる。
【0040】
本発明の胆汁酸トランスポーター活性の測定方法には、所望のタンパクあるいは胆汁酸トランスポーターを発現させた生体膜の反転ベシクルが、特に好適に用いられる。ベシクルを用いることにより、タンパクあるいは胆汁酸トランスポーターに輸送された標識化胆汁酸が小胞内に取り込まれるため、正確な活性測定が可能である。特に好ましいベシクルは、昆虫由来Sf9細胞の細胞膜反転ベシクルである。また、胆汁酸トランスポーター活性の測定方法においては、標識化胆汁酸と胆汁酸トランスポーターを接触させた後、輸送された標識化胆汁酸をグラスファイバーフィルター等に吸着し、吸着した標識化胆汁酸をエタノール等の溶媒で溶出後、溶媒を留去して、標識化胆汁酸を測定することができるが、特に、溶媒による抽出に代えて、輸送された標識化胆汁酸をSDS水溶液で直接捕集し、標識された発色団による発色を測定することにより、正確性を維持しながら簡便に胆汁酸トランスポーターの活性測定を行うことができる。
【0041】
本発明の胆汁酸トランスポーター活性の測定用キットとしては、上記本発明の標識化胆汁酸又はその抱合体を含むものであれば特に制限されないが、通常、上記本発明のBSEP等の胆汁酸トランスポーター活性の測定方法において用いられる胆汁酸トランスポーターを発現させた生体膜の反転ベシクル等を含むものが好ましい。すなわち、本発明の標識化胆汁酸又はその抱合体は、胆汁酸トランスポーターが発現した生体膜と組み合わせ、前記胆汁酸トランスポーター活性の測定方法に用いるためのキットとすることができる。さらにキットには、標識化胆汁酸捕集用の所定濃度のSDS溶液を組み合わせることができる。
【0042】
本発明の胆汁酸トランスポーター活性の促進物質又は阻害物質のスクリーニング方法は、被験物質の存在下、及び非存在下に、本発明の胆汁酸トランスポーター活性の測定を行う、すなわち、本発明の標識化胆汁酸と胆汁酸トランスポーターを接触させ、標識化胆汁酸の胆汁酸トランスポーターによる輸送の程度を、標識された発色団による発色を指標として測定し、被験物質の存在下における測定結果と被験物質の非存在下における測定結果を比較評価する方法であれば特に制限されない。例えば、胆汁酸トランスポーターにより輸送された標識化胆汁酸による発色が、被験物質の存在により上昇する場合は、その物質が胆汁酸トランスポーター活性の促進物質であると判断され、利胆剤等の有効成分となる胆汁酸排泄促進物質をスクリーニングすることができる。あるいは、胆汁酸トランスポーターにより輸送された標識化胆汁酸による発色が、被験物質の存在により低下する場合は、その物質が胆汁酸トランスポーター活性の阻害物質であると判断され、被験物質として用いる薬剤の候補物質等から、肝毒性を有する薬剤をスクリーニングすることができる。
【0043】
本発明において用いる胆汁酸トランスポーターとしては、例えば、NTCP、OATP、cMOAT、P−糖タンパク質(MDR1)、MDR2、MRP2、BSEP等の公知のトランスポーターを挙げることができるが、これらに制限されるものではなく、トランスポーターがヒトあるいはその他の動物のいずれに由来するものであるかは問わない。本発明において用いる胆汁酸トランスポーターは、組み合わせて用いる標識化胆汁酸との親和性、反応性が、非標識の胆汁酸と同程度であることが好ましく、BSEP(bile salt export pump)、特にヒトBSEP(h−BSEP)を好適に例示することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0045】
1.BSEPの基質特異性
(蛍光団の導入位置の決定)
BSEPの胆汁酸輸送活性を測定する際にトレーサーとして用いる蛍光標識化胆汁酸を調製した。トレーサーとして用いる蛍光標識化胆汁酸は、BSEPに対して、非標識のタウロコール酸(T−CA)と同等の親和性及び反応性を有することが必要となる。そこで、胆汁酸への蛍光団の導入位置を決定するために、BSEPの基質特異性を解析した。
【0046】
BSEPの胆汁酸輸送活性の測定を、Sf9細胞にヒトBSEPを発現させたBSEPベシクル(h−BSEPベシクル)(株式会社ジェノメンブレン製)を用いて行った。胆汁酸としては、T−CA(シグマ社製)、T−CDCA(シグマ社製)、T−DCA(シグマ社製)、T−LCA(シグマ社製)、並びに、合成した側鎖長の異なる胆汁酸、胎児性胆汁酸、不飽和胆汁酸を用いた(表1)。各種胆汁酸及びh−BSEPベシクル懸濁液(タンパク量50μg)を含む輸送用緩衝液(100mM KNO、10mM Mg(NO及び50mM sucroseを含む10mM Hepes−Tris緩衝液、pH7.4、30μL)を37℃で5分間プレインキュベートした後、10mM ATP(オリエンタル酵母社製)(20μL)又は10mM AMP(オリエンタル酵母社製)(20μL)を添加し、反応を開始した。2分間インキュベートした後、氷冷した反応停止用緩衝液(50mM sucrose、100mM KNOを含む10mM Hepes−Tris、pH7.4、0.2mL)を添加し、反応を停止した。次いで、反応液をグラスファイバーフィルター(マイクロプレートフィルター、孔計1.0μm)(ミリポア社製)を用いて吸引ろ過し、引き続き、反応停止用緩衝液(0.2mL×5回)で洗浄した。フィルター上に吸着した胆汁酸をエタノール(1.4mL)で溶出し、溶出液を減圧留去した。
【0047】
抽出した胆汁酸は、液体クロマトグラフィーエレクトロスプレーイオン化質量分析(LC−ESI−MS)法により定量した。前記減圧留去した残渣を水(0.2mL)に溶解し、内標準物質を添加した後、Oasis HLB 96ウェルプレートカートリッジに通導した。カートリッジを水(0.2mL)で洗浄後、エタノール(0.4mL)で胆汁酸を溶出した。減圧下、溶出液を留去した後、残渣をLC−MS用移動相(20μL)に溶解し、その5μLをLC−MSに注入した。液体クロマトグラフィーエレクトロスプレーイオン化質量分析(LC−ESI−MS)は、島津QP-8000型液体クロマトグラフ/質量分析計を用いて、以下の方法で行った。分離カラムにはMightysil RP-18(150mm×2.0mm I.D.、5μm)(関東化学社製)を使用した。溶離液としては、25〜45%アセトニトリル/10mM酢酸アンモニウム溶液を用い、流速は、0.2mL/minに設定してアイソクラティック溶出を行った。イオン化モードはエレクトロスプレーモード(ネガティブイオン検出モード)を使用した。ネブライザーガスには、窒素(4.5L/min)を用い、デフレクター電圧は−45Vに設定した。定量分析には、各胆汁酸の擬似分子イオン[M−1]をモニターイオンとするSelected ion monitoring法を用い、内標準法により定量した。得られたクロマトグラムから、内標準法により胆汁酸の定量を行い活性値(pmol/min/mg protein)に換算した。なお、ATP依存活性値はATP共存下における活性値からAMP共存下における活性値を差し引いて求めた。
【0048】
定量した胆汁酸の活性値を求め、各胆汁酸に対するh−BSEP輸送活性の速度論的パラメーター(Km値及びVmax値)を以下に示すミカエリス−メンテン式から算出した。
v = Vmax × s /(K + s)
v:輸送の初速度 (pmol/min/mg protein)
s:胆汁酸濃度 (μM)
:the Michaelis-Menten定数(μM)
max:輸送の最大速度 (pmol/min/mg protein)
値及びVmax値は、KaleidaGraph (Synergy Software、Reading、PA)を利用し、非線形回帰によって求めた。その結果を表1に示した。
【0049】
【表1】

【0050】
胆汁酸常成分については、Km値は、T−LCA<T−CDCA<T−CA<T−DCAの順に低い値を示し、BSEPに対する親和性が、ステロイド母核上の水酸基の数及び位置により影響を受けることが推測された。また、側鎖構造の異なるT−homo−CA、T−nor−THCA、及びT−THCAについては、いずれもBSEPによる輸送活性が認められ、Km値はT−CAと同程度の値を示した。一方、胎児性胆汁酸については、6α−水酸化胆汁酸(T−CA−6α−ol及びT−CDCA−6α−ol)のBSEPによる輸送活性は認められたが、他の胆汁酸では輸送活性がほとんど認められず、6α−水酸化胆汁酸を除いた胎児性胆汁酸はBSEPの基質とならないものと推測された。さらに、ステロイド母核構造の異なる不飽和胆汁酸についても同様に輸送活性は認められず、BSEPの基質にはならないものと推測された。以上の結果と胆汁酸常成分に対するBSEPの胆汁酸輸送活性を解析した報告とを勘案し、BSEPと胆汁酸との親和性は、胆汁酸の母核構造により大きく影響を受けるが、側鎖長の相違による影響は母核構造に比し少ないとの予測をした。また、グリシン抱合体又はタウリン抱合体等に例示される胆汁酸の側鎖抱合形式が親和性に影響を与えることも知られている。以上の知見に基づき、胆汁酸への蛍光団の導入位置としては、BSEPに対する親和性への影響が小さい胆汁酸側鎖部分が最適であるとの結論を得た。
【0051】
2.蛍光標識化胆汁酸の合成
前記の結果に基づき、胆汁酸の側鎖部分への蛍光団導入を行った。胆汁酸分析に利用可能な蛍光標識化試薬としては、フルオレセイン誘導体、アンスロイルニトリル誘導体、ベンゾオキサジアゾール誘導体等の多種類の試薬が市販されている。これらを用いることにより、fmolからpmolの胆汁酸の検出が可能であり、十分な感度のBSEP輸送活性測定ができると考えられた。そこで、胆汁酸への蛍光標識化試薬としては、分子サイズが比較的小さく、蛍光波長が比較的長波長側である570nm付近にあるため夾雑物の影響を受けにくく、さらに、検出感度にも優れたベンゾオキサジアゾール誘導体を以下の標識化化合物の合成に用いた。
【0052】
一般に、胆汁酸の蛍光標識化にはステロイド母核に存在する水酸基又は側鎖カルボキシル基を介して蛍光団を導入する方法が採用されている。しかしながら、胆汁酸の側鎖部分には、蛍光団を導入できる活性官能基は存在していないため、まず側鎖部分に活性基としてアミノ基を導入し、その後蛍光標識化試薬として4-(N,N-Dimethylaminosulfonyl)-7-fluoro-2,1,3-benzoxadiazole(DBD−F)を用いて、蛍光標識化胆汁酸を合成した。
【0053】
標識化胆汁酸として、N-(24-[7-(4-N, N-dimethylaminosulfonyl-2,1,3-benzoxadiazole)-]-amino- 3α,7α,12α-trihydroxy-27-nor-5β-cholestan-26-oyl)-2’-aminoethanesulfonate(Tauro−nor−THCA−24−DBD)を以下の方法に従い合成した。合成した各化合物の物性解析には、以下の手段を用いた。融点は、三田村融点測定装置を用いて測定し、未補正の値を示した。赤外吸収スペクトルは、JASCO FT / IR-300赤外分光光度計を用いて測定し、吸収波長はcm−1で示した。核磁気共鳴スペクトルは、日本電子 JNM-ECA500 (500MHz)核磁気共鳴装置、内標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を使用して測定し、化学シフト及び結合定数は、それぞれδ(ppm)及びHzで示した(略号:s=singlet、bs=broad singlet、d=doublet、t=triplet、q=qualtet、m=multiplet)。質量スペクトルは、マイクロマスAuto Spec 3000型質量分析装置を用いた。
【0054】
[Ethyl 3α,7α,12α-triformyroxy-24-oxo-27-nor-5β-cholestan-26-oate (2)の合成]
合成したアルデヒド体、3α,7α,12α-Triformyroxy-5β-cholan-24-al(1) (3.1g、6.5mmol)を無水ベンゼン(10mL)に溶解し、亜鉛(2.3g、36mmol)、ブロモ酢酸エチル(2.7g、16mmol)及び触媒量のヨウ素を加えた後、20分間加熱還流した。反応液を氷冷し、ジエチルエーテルを加え、15%硫酸で酸性とした後、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を2mol/L塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム溶液、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=3/2)により精製し、エチルエステル体(1.5g、2.7mmol)を無色結晶として得た。エチルエステル体(1.9g、3.4mmol)をアセトン(8mL)に溶解し、氷冷下、Jone’s試薬(2.5mL)を加え撹拌した。反応液に水を加え、析出した結晶をろ取し、酢酸エチルに溶解した。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=2/1)により精製し、エステル体(2)(1.3g、2.3mmol)を無晶形粉末として得た。
【0055】
mp: 142.5-144.0℃.1H-NMR (CDCl3):0.75(3H、s、18-CH3)、0.82(3H、d、J=6.2 Hz、 21-CH3)、 0.95 (3H、 s、 19-CH3)、 1.28 (3H、 t、 J=7.2 Hz、 -COOCH2CH3)、 3.43 (2H、 s、 25-CH2)、 4.17 (2H、 q、 J=7.2 Hz、 -COOCH2CH3)、 4.72 (1H、 m、 3-H)、 5.07 (1H、 bs、 7-H)、 5.26 (1H、 bs、 12-H)、8.02、 8.11、 8.16 (each 1H、 s、 -CHO). IR (nujol): 1720、 1750 cm-1、 HR-EI-MS m/z: 562.3144 (Calcdfor C31H46O9: 562.3142). EI-MS m/z: 562 (M+、 3 %)、 470 (100 %)、 340 (70 %)、 299 (83 %)、 253 (61 %).
【0056】
[Ethyl 24-amino-3α,7α,12α-triformyroxy-27-nor-5β-cholestan-26-oate(3)の合成]
エステル体(2)(150mg、0.27mmol)をエタノール(2mL)に溶解し、酢酸アンモニウム(208mg、2.7mmol)及びモレキュラシーブスA4(200mg)を加え、45℃で5時間撹拌した。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム溶液(5mL)を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧下留去した。得られた残渣をエタノールに溶解し、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(20mg、0.27mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム溶液(5mL)を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)により精製し、アミノ体(3)(80mg、0.14mmol)を無色無晶形粉末として得た。
【0057】
1H-NMR (CDCl3) : 0.73 (3H、s、 18-CH3)、 0.84 (3H、 d、 J=6.2 Hz、21-CH3)、 0.93 (3H、 s、 19-CH3)、 1.25 (3H、 t、 J=7.4 Hz、 -COOCH2CH3)、 3.09 (1H、 m、 24-CH)、 4.13 (2H、 q、 J=7.2 Hz、 -COOCH2CH3)、 4.71 (1H、 m、 3-H)、 5.06 (1H、 bs、 7-H)、 5.26 (1H、 bs、 12-H)、 8.01、 8.10、 8.15 (each 1H、 s、-CHO). IR (nujol): 1720、 3400 cm-1、 HR-EI-MS m/z: 563.3441 (Calcd for C31H46O9: 563.3458). EI-MS m/z: 563 (M+、 3 %)、 518 (13 %)、476 (10 %)、 253 (4 %)、 116 (100 %). ESI-MS m/z: 564 ([M+1]+、 100 %)
【0058】
[24-[7-(4-N,N-dimethylaminosulfonyl-2,1,3-benzoxadiazole)-]-amino- 3α,7α,12α-trihydroxy-27-nor-5β-cholestanoic acid(4)の合成]
アミノ体(3)(60mg、0.11mmol)をアセトニトリル(2mL)に溶解し、トリエチルアミン(11mg、0.11mmol)、及び4-(N,N-Dimethylaminosulfonyl)-7-fluoro-2,1,3-benzoxadiazole(DBD−F)(東京化成工業社製)(29mg、0.12mmol)を加え、50℃で1時間撹拌した。減圧下、溶媒を留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=3:2)により精製し、DBD誘導体(58mg、0.07mmol)を黄色無晶形粉末として得た。
【0059】
1H-NMR (CDCl3) : 0.73 (3H、s、 18-CH3)、 0.86 (3H、 d、 J=6.2 Hz、 21-CH3)、 0.93 (3H、 s、 19-CH3)、 1.25 (3H、 t、 J=7.2 Hz、 -COOCH2CH3)、 2.65 (2H、 m、 25-CH2)、 4.02 (1H、 m、 24-CH)、 4.15 (2H、 q、 J=7.2 Hz、 -COOCH2CH3)、 4.70 (1H、 m、 3-H)、 5.05 (1H、 bs、 7-H)、 5.25 (1H、 bs、 12-H)、6.18 (1H、 d、 J=8.0、 CH=CNH)、 7.88 (1H、 d、 J=8.0、 CH=C-SO2(CH3)2、 8.01、 8.10、 8.14 (each 1H、 s、 -CHO). EI-MS m/z: 788 (M+、 100 %)、 651 (9 %)、 563 (12 %)、 341 (77 %)、 253 (21 %)、 116 (100 %).
【0060】
前記DBD誘導体(58mg、0.07mmol)をメタノールに溶解し1mol/L KOH(0.4mL)を加え、30分間加熱還流した。減圧下、溶媒を留去した。残渣を水に溶解し2mol/L塩酸で酸性とした後、クロロホルムで抽出した。有機層を水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去し、カルボン酸(4)(44mg、0.06mmol)を黄色無晶形粉末として得た。
【0061】
EI-MS m/z: 676(M+、 2 %)、 616 (3 %)、 253 (13 %)、 147 (100 %) .
ESI-MS m/z: 675 ([M-1]、 100 %)
【0062】
[N-(24-[7-(4-N,N-dimethylaminosulfonyl-2,1,3-benzoxadiazole)-]-amino- 3α,7α,12α-trihydroxy-27-nor-5β-cholestan-26-oyl)-2’-aminoethanesulfonate(Tauro-nor-THCA-24-DBD)(5)の合成]
カルボン酸(4)(44mg、0.06mmol)を無水テトラヒドロフラン(2mL)に溶解し、氷冷した後、トリエチルアミン(9mg、0.09mmol)及びクロルギ酸エチル(9mg、0.09mmol)を加え、20分間撹拌した。次いで、タウリン(20mg、0.16mmol)の水溶液を加え30分間撹拌した。溶媒を減圧下留去した後、残渣をODSカラムクロマトグラフィー(48%エタノール)により精製し、Tauro−nor−THCA−24−DBD(5)(45mg、0.05mmol)を黄色無晶形粉末として得た。
【0063】
ESI-MS m/z: 782 ([M-1]、 100 %)
【0064】
合成したTauro−nor−THCA−24−DBDの構造は、各種機器データにより確認した。また、励起スペクトル、蛍光スペクトルを測定したところ、励起極大波長は440nm、蛍光極大波長570nmであった。さらに、nor−CAを出発原料として、側鎖長がTauro−nor−THCA−24−DBDよりメチレン基が1個短いTauro−homo−CA−23−DBDを同様の方法で合成した。蛍光検出プレートリーダーを用いて、これら蛍光標識体の検出限界を求めたところ、60fmol/well(0.3pmol/ml)と極めて高感度であり、BSEP活性測定に十分な測定感度を示した。これらの合成した蛍光標識化胆汁酸2種類を以下の試験に供した。
【0065】
3.蛍光標識化胆汁酸のBSEPベシクルによる輸送活性
h−BSEPベシクルを用いて、合成した蛍光標識化胆汁酸2種類の輸送活性を解析した。
【0066】
合成した蛍光標識化胆汁酸(Tauro−homo−CA−23−DBD及びTauro−nor−THCA−24−DBD)を基質とするh−BSEP輸送活性の経時変化を検討した。ATP依存輸送活性は、BSEPベシクル又は対照のコントロールベシクルと各蛍光標識化胆汁酸をATP又はAMP存在下、0〜5分間インキュベートし、ベシクル内に取り込まれた胆汁酸をエタノールで抽出して、胆汁酸量をLC−ESI−MS法により定量して求めた。蛍光標識化胆汁酸濃度は、Tauro−homo−CA−23−DBDについては、2.5μMとし、Tauro−nor−THCA−24−DBDについては、4.7μMとした。その結果を図1に示した。いずれの蛍光標識化胆汁酸を基質とした場合でも、BSEPベシクルによるATP依存輸送活性は、コントロールベシクルによる場合に比べて明らかに高い値を示した。また、BSEPベシクルによるATP依存輸送活性は、Tauro−homo−CA−23−DBD及びTauro−nor−THCA−24−DBDのいずれにおいても経時的に上昇した。
【0067】
次に、合成した蛍光標識化胆汁酸(Tauro−homo−CA−23−DBD及びTauro−nor−THCA−24−DBD)を基質とするh−BSEP輸送活性の蛍光標識化胆汁酸に対する濃度依存性を検討した。その結果を図2に示した。いずれの蛍光標識化胆汁酸を基質とした場合でも、ATP依存輸送活性は基質濃度依存的に上昇するとともに飽和性を示した。
【0068】
h−BSEP輸送活性の基質濃度依存性の測定結果から、各蛍光標識化胆汁酸に対するh−BSEPベシクルのKm値、及びVmax値をミカエリス−メンテン式を用いて算出した。その結果を表2に示した。
【0069】
【表2】

【0070】
Tauro−homo−CA−23−DBD、Tauro−nor−THCA−24−DBDに対するh−BSEPのKm値は、それぞれ21.6μM、23.1μMを示し、h−BSEPに対する親和性は、いずれもT−CA(Km値=19.0μM)に対してと同程度であった。さらに、基質の利用効率を示すパラメーターとしてVmax/Km値を算出した。Tauro−nor−THCA−24−DBDでは、27.8を示し、T−CA(Vmax/Km値=22.9)と同程度であった。一方、Tauro−homo−CA−23−DBDでは、36.3を示し、T−CAの約1.6倍の高値であった。
【0071】
以上の結果より、Tauro−homo−CA−23−DBD及びTauro−nor−THCA−24−DBDは、いずれもBSEPベシクルの基質となることが明らかとなった。また、Tauro−homo−CA−23−DBDでは、基質利用率(Vmax/Km値)が、T−CAに比し高値を示すものの、BSEPに対する親和性については、いずれの蛍光標識化胆汁酸も、非標識のT−CAとほぼ一致しており、側鎖部分への蛍光団導入によるBSEPベシクルの親和性への影響は認められなかった。すなわち、胆汁酸とBSEPとの親和性に影響を与えることがない、胆汁酸への蛍光団の導入位置として、胆汁酸側鎖部分を選択することの有効性が示され、Tauro−homo−CA−23−DBD及びTauro−nor−THCA−24−DBDの2種の合成した蛍光標識化胆汁酸が、いずれもBSEPの輸送能評価の指標として有用であることが示された。
【0072】
4.蛍光標識化胆汁酸をトレーサーとするBSEP輸送活性測定
汎用性に優れるBSEP阻害活性評価法を確立するため、合成した蛍光標識化胆汁酸をトレーサーとして用いて、BSEP阻害活性を有する各種薬剤の存在下、BSEP輸送活性を測定した。
【0073】
4−1.蛍光標識化胆汁酸のトレーサーとして有用性
合成した蛍光標識化胆汁酸のトレーサーとしての有用性を確認するために、公知のBSEP阻害剤によるBSEP輸送阻害活性を測定・評価した。トレーサーとしては、合成したTauro−homo−CA−23−DBD(1.4μM)を用い、対照として、従来用いられている放射性同位元素標識化胆汁酸であるH−標識タウロコール酸(H−標識T−CA)(1.4μM)を用いた。また、BSEP阻害剤としては、シクロスポリンA(シグマ社製)(100μM)、グリベンクラミド(シグマ社製)(100μM)、プラバスタチン(シグマ社製)(500μM)、リファンピシン(シグマ社製)(500μM)、及びタウロリトコール酸(100μM)を、陰性対照としてテトラエチルアンモニウム(シグマ社製)(500μM)を各濃度で用いた。Tauro−homo−CA−23−DBD(1.4μM)及びh−BSEPベシクル懸濁液(蛋白量50μg)を、各阻害剤の共存下又は非共存下、2分間インキュベートした後、氷冷した反応停止用緩衝液(50mM sucrose、100mM KNO及び100mM T−CAを含む10mM Hepes−Tris、pH7.4、0.2mL)を添加し反応を停止した。次いで、反応液をグラスファイバーフィルター(マイクロプレートフィルター、孔計1.0μm)を用い吸引ろ過し、引き続き、反応停止用緩衝液(0.2mL×5回)で洗浄した。フィルター上に吸着した胆汁酸をエタノール(1.4mL)で溶出し、溶出液を減圧留去した。得られた残渣をジメチルスルホキシド(0.4mL)に溶解し、その0.2mLを96穴マイクロプレートのウェルに分注し、プレートリーダーで蛍光強度を測定し、検量線から胆汁酸量を求め活性値(pmol/min/mg protein)に換算した。ATP共存下における活性値からAMP共存下における活性値を差し引いて得られた値をATP依存輸送活性値とした。BSEPベシクル輸送活性への各阻害剤の阻害効果は、阻害剤非共存下でのTauro−homo−CA−23−DBDのATP依存輸送活性値を100%(コントロール)とする相対値(輸送率)として求めた。その結果を表3に示した。
【0074】
【表3】

【0075】
Tauro−homo−CA−23−DBDを用いた場合のATP依存輸送活性値は、テトラエチルアンモニウムを除く各阻害剤の共存下において、コントロールに比し低値を示した。また、各阻害剤共存下における輸送率は、Tauro−homo−CA−23−DBDを用いた場合と、H−標識T−CAを用いた場合とでほぼ同様の値を示した。これらの結果より、Tauro−homo−CA−23−DBDは、BSEP阻害活性評価のトレーサーとして十分に機能することが判明し、本発明の蛍光標識化胆汁酸を用いた活性測定方法が、各種薬剤のBSEP阻害活性を評価する方法へ適用可能であることが確認された。
【0076】
4−2.BSEP阻害活性評価法の開発
上記のBSEP活性測定方法では、輸送されたトレーサーの測定は、BSEPベシクル内に取り込まれたトレーサーをエタノールで抽出した後、減圧下溶媒を留去して行っているため、前処理操作が煩雑であり、抽出溶媒の留去に長時間を要している。そこで、より簡便に用いることができる簡略化された測定系からなるBSEP阻害活性の評価方法を検討した。
【0077】
トレーサーとしては、Tauro−nor−THCA−DBDを用いて測定を行った。5.0μMのTauro−nor−THCA−DBDとBSEPベシクルとをATP又はAMP共存下インキュベートした後、ベシクル内に取り込まれたトレーサーを抽出した。抽出以降の工程としては、トレーサーをエタノールで抽出し、減圧下溶媒留去した後、DMSOに溶解して、蛍光強度を測定した方法(Method1)、トレーサーを10%SDS水溶液(100μL)で抽出し、溶出液をマイクロプレートに直接捕集した後、そのままプレートリーダーを用いて蛍光強度を測定した方法(Method2)、のそれぞれを行い、各BSEPの輸送活性を測定した。その結果を表4に示した。
【0078】
【表4】

【0079】
ATP共存下及びAMP共存下での活性値、並びにATP依存輸送活性値のいずれについても、トレーサーの抽出方法を簡略化した方法(Method2)と、エタノールで抽出し減圧下溶媒留去した方法(Method1)との間では、よく符号する測定結果を得ることができた。トレーサーの抽出方法を簡略化した方法(Method2)では、測定値のバラツキが若干大きく認められるものの、前処理操作の煩雑さが著しく改善され、より簡便にBSEP輸送活性を測定することが可能であることが判明した。
【0080】
トレーサーの抽出方法を簡略化した方法(Method2)を用いて、4−1と同様にして、公知のBSEP阻害剤によるBSEP輸送阻害活性を測定・評価した。トレーサーとしては、Tauro−nor−THCA−24−DBD(1.4μM)を用いた。BSEP阻害剤としては、シクロスポリンA(100μM)、グリベンクラミド(100μM)、プラバスタチン(500μM)、リファンピシン(500μM)、及びタウロリトコール酸(100μM)を、陰性対照としてテトラエチルアンモニウム(500μM)を各濃度で用いた。Tauro−nor−THCA−24−DBD(1.4μM)及びh−BSEPベシクル懸濁液(蛋白量50μg)を5分間インキュベートした後、氷冷した反応停止用緩衝液(50mM sucrose、100mM KNO及び100mM T−CAを含む10mM Hepes−Tris、pH7.4、0.2mL)を添加し反応を停止した。次いで、反応液をグラスファイバーフィルター(マイクロプレートフィルター、孔計1.0μm)を用いて吸引ろ過し、引き続き、反応停止用緩衝液(0.2mL×5回)で洗浄した。フィルター上に吸着した胆汁酸を10%SDS溶液(50μL×2回)で溶出し、溶出液を96穴マイクロプレートに直接捕集し、プレートリーダーで蛍光強度を測定し、検量線から胆汁酸量を求め活性値(pmol/min/mg protein)に換算した。なお、はATP共存下における活性値からAMP共存下における活性値を差し引いて得られた値をATP依存活性値とした。その結果を表5に示した。
【0081】
【表5】

【0082】
各阻害剤共存下における輸送率は、トレーサーの抽出方法を簡略化した方法(Method2)を用いた場合であっても、従来法のH−標識T−CAを用いた場合とほぼ同様の値を示した。以上の結果から、本発明の活性測定方法は、簡便性に優れ、BSEP阻害活性を正しく評価することができる方法として適用できることが明らかとなった。さらに、本発明の測定方法は、従来不可能であった一般実験室での阻害物質のスクリーニングの実施を可能とするものであり、汎用性に優れることから、臨床、医薬品開発のみならず基礎研究分野においてもその利用価値は高く、BSEPの機能解明の一助として極めて有用な知見を提供するものといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BSEP(bile salt export pump)による輸送活性があり、22位、23位又は24位の側鎖炭素原子を介して発色団が結合されていることを特徴とする標識化胆汁酸又はその抱合体。
【請求項2】
下記式で表されることを特徴とする請求項1記載の標識化胆汁酸又はその抱合体。
【化1】


[式中、
−Rは、それぞれ同一又は異なって、水素原子、ヒドロキシ基、置換若しくは非置換のC1−C6アルキル基、置換若しくは非置換のC1−C6アルコキシ基、置換若しくは非置換のC1−C8アシルオキシ基を表し、
Xは、発色団を表し、
nは、0〜2のいずれかの整数を表す。]
【請求項3】
発色団が、フルオレセイン誘導体、アンスロイルニトリル誘導体、ベンゾオキサジアゾール誘導体からなる群より選択される請求項1又は2記載の標識化胆汁酸又はその抱合体。
【請求項4】
ベンゾオキサジアゾール誘導体が、4−N,N−ジメチルアミノスルホニル−7−フルオロ−2,1,3−ベンゾオキサジアゾリル(DBD−)である請求項3記載の標識化胆汁酸又はその抱合体。
【請求項5】
タウリン抱合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の標識化胆汁酸又はその抱合体。
【請求項6】
N−(24−[7−(4−N,N−ジメチルアミノスルホニル−2,1,3−ベンゾオキサジアゾール)]−アミノ−3α,7α,12α−トリヒドロキシ−27−ノル−5β−コレスタン−26−オイル)−2’−アミノエタンスルホナート。
【請求項7】
N−(23−[7−(4−N,N−ジメチルアミノスルホニル−2,1,3−ベンゾオキサジアゾール)]−アミノ−3α,7α,12α−トリヒドロキシ−24−ホモ−5β−コラン−25−オイル)−2’−アミノエタンスルホナート。
【請求項8】
胆汁酸の22位、23位又は24位の側鎖炭素原子に活性基を導入する工程、導入した活性基に発色団を結合させる工程を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の標識化胆汁酸又はその抱合体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の標識化胆汁酸又はその抱合体を用いることを特徴とする胆汁酸トランスポーター活性の測定方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の標識化胆汁酸又はその抱合体を用いることを特徴とする胆汁酸トランスポーター活性の促進物質又は阻害物質のスクリーニング方法。
【請求項11】
胆汁酸トランスポーターが、BSEP(bile salt export pump)であることを特徴とする請求項9又は10記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれかに記載の標識化胆汁酸又はその抱合体を含む、胆汁酸トランスポーター活性の測定用キット。
【請求項13】
胆汁酸トランスポーターが、BSEP(bile salt export pump)であることを特徴とする請求項12記載のキット。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれかに記載の標識化胆汁酸又はその抱合体を、胆汁酸トランスポーター活性の測定に使用する方法。
【請求項15】
胆汁酸トランスポーターが、BSEP(bile salt export pump)であることを特徴とする請求項14記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−261871(P2010−261871A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114022(P2009−114022)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(502133066)株式会社ジェノメンブレン (7)
【出願人】(505116781)学校法人東日本学園・北海道医療大学 (13)
【Fターム(参考)】