説明

模様付き結晶化ガラス物品及びその製造方法

【課題】十分な強度を有し、且つ、端面にピンホール欠陥の無い模様付き結晶化ガラス物品を提供すること。
【解決手段】複数個の結晶性ガラス小体を互いに融着させると共に結晶化させた結晶化ガラス層Aと、該結晶化ガラス層Aの端面の少なくとも一部に融着した状態で設けられ且つ結晶性ガラス板Bをその中心部まで結晶化させた結晶化ガラス層Bと、を含み、前記結晶化ガラス層Aが、主結晶としてβ−ウォラストナイトおよびディオプサイドから選択される少なくとも1種の結晶を含み、前記結晶化ガラス層Bが、主結晶としてβ−ウォラストナイトおよびディオプサイドから選択される少なくとも1種の結晶を含むと共に、その厚みが6mm以下であることを特徴とする模様付き結晶化ガラス物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の外装材、内装材や家具のトッププレート材及びオフィステーブルのトッププレート材等に用いられる模様付き結晶化ガラス物品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物の外装材、内装材や家具のトッププレート材及びオフィステーブルのトッププレート材として、様々な結晶化ガラス物品が求められている。
【0003】
この用途に使用される結晶化ガラスは、主結晶としてβ―ウォラストナイト(CaO・SiO2)や、ディオプサイド(CaO・MgO・2SiO2)を含むものが知られている。
また、上述した結晶を含む結晶化ガラス物品の製造方法としては、(1)板状のガラスを熱処理することによって表面から内部へ結晶を析出・成長させる製造方法(例えば、特許文献1参照)や、(2)いわゆる「集積法」と呼ばれる製造方法;すなわち、溶融したガラスを水冷等の急冷処理によって結晶性ガラス小体とし、この結晶性ガラス小体を耐火性レンガ等からなる型枠に集積して熱処理することにより、結晶性ガラス小体を互いに融着一体化して結晶化する製造方法(例えば、特許文献2〜8参照)が知られている。
これらの製造方法を利用して製造された結晶化ガラス物品は、天然大理石模様などの模様を有する。
【0004】
【特許文献1】特公昭51−23966号公報
【特許文献2】特公昭53−39884号公報
【特許文献3】特公昭55−29018号公報
【特許文献4】特開昭63−201037号公報
【特許文献5】特開平3−164446号公報
【特許文献6】特開平3−205323号公報
【特許文献7】特開平5−163033号公報
【特許文献8】特開平6−24768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記(1)に示す板状のガラスを熱処理して結晶化ガラス物品を製造した場合、板状ガラス中には核形成剤が含有されていないため、板状ガラスの表裏面および端面から内部へと結晶が析出し成長する。このため、例えば、厚みが8mm程度の板状の結晶化ガラス物品であれば、その中心部には結晶化しなかった厚みが2mm程度のガラスマトリックスがそのまま残ってしまい、このガラスマトリックス部分には、亀裂が発生していた。
この状態を図面を用いてより詳細に説明する。図4は、上述したような板状のガラスを熱処理して得られた結晶化ガラス物品の断面構造の一例を示す模式断面図であり、図中、100は結晶化ガラス物品、110は結晶化ガラスマトリックス、120は結晶化しなかったガラスマトリックス、130は亀裂を表している。図4に示すように、表裏面や端面から内部へと成長・結晶化した結晶化ガラスマトリックスに囲まれた領域(板状ガラス物品の中心部)に結晶化しなかったガラスマトリックスが存在しており、このガラスマトリックス120内には亀裂130が生じている。
このため、上記(1)に示す製造方法により得られた結晶化ガラス物品は、外観上、観察される亀裂が見られないものの、内部に亀裂が存在するため、強度が不十分であった。
【0006】
一方、上記(2)に示す集積法を利用して結晶化ガラス物品を製造する場合、結晶性ガラス小体を型枠内に集積する際に結晶性ガラス小体間の隙間に空気が閉じ込められることになる。このため、作製された結晶化ガラス物品の内部に気泡が発生しやすい。加えて、結晶化ガラス物品を、所望のサイズ・形状に加工するために切断すると、端面に半円形状のピンホール欠陥が沢山発生する。
このような端面にピンホール欠陥を有する模様付きの結晶化ガラス物品を、例えば家庭やオフィスで利用するテーブルのトッププレート材として利用した場合、端面部分に沢山のピンホール欠陥が存在するため美観が損なわれる。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決することを課題とする。すなわち、本発明は、十分な強度を有し、且つ、端面にピンホール欠陥の無い模様付き結晶化ガラス物品およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、本発明は、
<1>
複数個の結晶性ガラス小体を互いに融着させると共に結晶化させた結晶化ガラス層Aと、
該結晶化ガラス層Aの端面の少なくとも一部に融着した状態で設けられ且つ結晶性ガラス板Bをその中心部まで結晶化させた結晶化ガラス層Bと、を含み、
前記結晶化ガラス層Aが、主結晶としてβ−ウォラストナイトおよびディオプサイドから選択される少なくとも1種の結晶を含み、
前記結晶化ガラス層Bが、主結晶としてβ−ウォラストナイトおよびディオプサイドから選択される少なくとも1種の結晶を含むと共に、その厚みが6mm以下であることを特徴とする模様付き結晶化ガラス物品である。
【0009】
<2>
前記結晶化ガラス層Bが、前記結晶化ガラス層Aの端面全面に融着した状態で設けられていることを特徴とする<1>に記載の模様付き結晶化ガラス物品である。
【0010】
<3>
前記結晶化ガラス層Aの30度〜380度における熱膨張係数と、前記結晶化ガラス層Bの30度〜380度における熱膨張係数と、の差の絶対値が、0〜10×10-7/℃の範囲内であることを特徴とする<1>又は<2>に記載の模様付き結晶化ガラス物品である。
【0011】
<4>
複数個の結晶性ガラス小体を層状に集積した結晶性ガラス小体層と、該結晶性ガラス小体層の端面の少なくとも一部に接触させて配置された結晶性ガラス板Bとを含む部材を熱処理する熱処理工程を少なくとも含み、
前記熱処理工程において、前記結晶性ガラス小体同士および前記結晶性ガラス小体層と前記結晶性ガラス板Bとを互いに融着させると共に、前記結晶性ガラス小体および前記結晶性ガラス板Bを結晶化させることにより、
前記結晶性ガラス小体層中に、主結晶としてβ−ウォラストナイトおよびディオプサイドから選択される少なくとも1種の結晶を析出させ、且つ、前記結晶性ガラス板B中に、主結晶としてβ−ウォラストナイトおよびディオプサイドから選択される少なくとも1種の結晶を前記結晶性ガラス板Bの中心部にまで析出させることを特徴とする模様付き結晶化ガラス物品の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
以上に説明したように本発明によれば、十分な強度を有し、且つ、端面にピンホール欠陥の無い模様付き結晶化ガラス物品およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
−結晶化ガラス物品−
本発明の模様付き結晶化ガラス物品(以下、「結晶化ガラス物品」と略す場合がある)は、複数個の結晶性ガラス小体を互いに融着させると共に結晶化させた結晶化ガラス層Aと、該結晶化ガラス層Aの端面の少なくとも一部に融着した状態で設けられ且つ結晶性ガラス板Bをその中心部まで結晶化させた結晶化ガラス層Bと、を含み、前記結晶化ガラス層Aが、主結晶としてβ−ウォラストナイトおよびディオプサイドから選択される少なくとも1種の結晶を含み、前記結晶化ガラス層Bが、主結晶としてβ−ウォラストナイトおよびディオプサイドから選択される少なくとも1種の結晶を含むと共に、その厚みが6mm以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の結晶化ガラス物品は、結晶化ガラス層Aが複数個の結晶性ガラス小体を互いに融着させると共に結晶化させたものであるため、従来の集積法を用いて製造された結晶化ガラス物品と同様に、結晶化ガラス層Aは、天然大理石模様などの模様を有する。
これに加えて、結晶化ガラス層Aの端面の少なくとも一部には、厚みが6mm以下の結晶化ガラス層Bが融着された状態で固定されている。この結晶化ガラス層Bは結晶性ガラス板Bをその中心部まで結晶化させたものであるが、厚みが6mm以下であるため不透明ではなく半透明である。このため、結晶化ガラス物品を結晶化ガラス層Bが設けられた側の面から見た場合、結晶化ガラス層Aに起因する模様を確認することができる。
【0015】
また、結晶性ガラス板Bを利用して形成された結晶化ガラス層Bが設けられた端面部分は、ピンホール欠陥が無い。
このため、家具やオフィイステーブルのトッププレート材等の用途に利用する場合に、本発明の結晶化ガラス物品を、結晶性ガラス板Bを利用して形成された面が人目に付く側となるように利用すれば、ピンホール欠陥が視認できないため、美観が損なわれるという問題が発生することもない。
なお、結晶化ガラス層Bは、結晶化ガラス層Aの端面全面に融着した状態で設けられていることが好ましい。この場合、端面全面でピンホール欠陥の無い結晶化ガラス物品を得ることができる。
【0016】
さらに、本発明の結晶化ガラス物品では、結晶化ガラス層Aおよび結晶化ガラス層Bから構成されるため十分な強度を有する。なお、結晶化ガラス層Bは、結晶性ガラス板Bを結晶化したものである上に、結晶化に際しては結晶性ガラス部材の表面から内部へと結晶成長する特性を有するβ−ウォラストナイトおよびディオプサイドから選択される少なくとも1種の結晶を含むものであるため、図4に例示したように、結晶化ガラス層Bの中心部には、亀裂を有するガラスマトリックスが残留し、強度が不十分になることも懸念される。しかし、結晶化ガラス層Bはその中心部まで結晶化させたものであるとともに結晶化ガラス層Aがあるため、十分な強度を得ることができる。
【0017】
ここで、結晶化ガラス層Bの厚み(但し、図1中に両矢印の範囲として例示するように、「結晶化ガラス層B(図1中では、符号6で示される部材)の厚み」とは、結晶化ガラス層A2の端面4に対して垂直な方向の厚みを意味する)は6mm以下であることが必要であり、5mm以下であることが好ましく、4mm以下であることがより好ましい。
結晶化ガラス層Bの厚みが6mmを超える場合は、結晶性ガラス板Bを結晶化させる際にその中心部まで結晶化させることができなくなり、結晶化ガラス層B中に亀裂を有するガラスマトリックスが残留するため、結晶化ガラス物品の強度が不十分となってしまう。これに加えて、結晶化ガラス層Bの厚みが6mmを超えると半透明から不透明となるため、結晶化ガラス物品を結晶化ガラス層Bが設けられた側の面から見た場合、結晶化ガラス層Aに起因する模様を確認することができなくなり、結晶化ガラス物品の審美性が乏しくなる。
一方、結晶化ガラス層Bの厚みの下限値は特に限定されるものではないが、1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましい。厚みが1mm未満の場合には、結晶性ガラス板Bを成形することが難しくなる場合がある。
【0018】
これに対して、結晶化ガラス層Aの厚みは特に限定されるものではなく、結晶性ガラス物品の厚みに応じて適宜選択できるが、0.1mm以上30mm以下であることが好ましく、3mm以上15mm以下であることがより好ましい。
また、結晶化ガラス物品の厚みも特に限定されるものではないが、結晶化ガラス物品の用途や目的に応じて適宜選択することができる。しかし、強度の確保や製造性・コスト等の実用上の観点からは8mm以上30mm以下の範囲内であることが好ましく、16mm以上25mm以下の範囲内であることがより好ましい。
【0019】
また、結晶化ガラス層Aは、主結晶としてβ−ウォラストナイトおよびディオプサイドから選択される少なくとも1種の結晶を含むことが必要である。
これは、β−ウォラストナイトやディオプサイドは、結晶化により結晶性ガラス小体中に析出する際に、結晶性ガラス小体の表面から内部に向かって析出する性質を有し、このような特性により、結晶化ガラス層Aの表面に天然大理石模様などの模様が形成できるためである。
さらに、結晶化ガラス層Bも、主結晶としてβ−ウォラストナイトおよびディオプサイドから選択される少なくとも1種の結晶を含むことが必要である。これにより結晶化ガラス層Aと結晶化ガラス層Bとの熱膨張係数差を小さくすることができるため、後述する方法により結晶化ガラス物品を作製する際に、結晶化ガラス物品の破損を防ぐことができる。
【0020】
なお、結晶化ガラス層Aの30度〜380度における熱膨張係数と、結晶化ガラス層Bの30度〜380度における熱膨張係数と、の差の絶対値(以下、「熱膨張係数差」と略す場合がある)は、0〜10×10-7/℃の範囲内であることが好ましく、0〜3×10-7/℃の範囲内であることがより好ましい。
熱膨張係数差が10×10-7/℃を超える場合には、後述する製造方法により結晶化ガラス物品の作製する際の徐冷の段階で、熱処理により結晶化すると共に互いに融着した結晶化ガラス層Aと結晶化ガラス層Bとの熱収縮量の差が大きくなり、結晶化ガラス物品が破損してしまう場合がある。また、本発明の結晶化ガラス物品が、例えばテーブルのトッププレート材として利用される場合に、テーブルのトッププレート材の近くに石油ストーブなどの高温の熱源が設置されていると、結晶化ガラス物品が破損してしまう場合がある。
【0021】
熱膨張係数は熱機械分析装置(TMA、PERKIN ELMER社製、型番:TMA7)を用いて以下の条件で測定した。 ・リファレンス:なし
・昇温速度:20℃/min
・static force:10mN
・サンプル長さ:10mm
・加熱雰囲気:N2
【0022】
なお、本発明の結晶化ガラス物品は、端面以外の部分にも模様の多様化やピンホール欠陥の防止という観点から結晶化ガラス層Bと同様の機能を有する部材(結晶化ガラス層C)を融着した状態で設けることができる。この場合、結晶化ガラス層Cは、結晶化ガラス層Aの表裏面のうちいずれか一方の面のみに融着した状態で設けられていてもよいし、結晶化ガラス層Aの表裏面の双方に融着した状態で設けられていてもよい。
なお、結晶化ガラス層Cは、結晶性ガラス板Cをその中心部まで結晶化させたものであり、主結晶としてβ−ウォラストナイトおよびディオプサイドから選択される少なくとも1種の結晶を含むと共に、その厚みが6mm以下であれば特に限定されない。また、結晶化ガラス層Cの形成に用いる結晶性ガラス板Cのガラス組成は、結晶性ガラス板Bと同一であってもよく異なっていてもよい。
【0023】
−結晶化ガラス物品の製造方法−
次に、本発明の結晶化ガラス物品の製造方法について説明する。
本発明の結晶化ガラス物品は、結晶化ガラス層Aとなりえる結晶性ガラス小体を用いて作製された結晶性ガラス板と、結晶化ガラス層Bとなりえる結晶性ガラス板とをそれぞれ準備して、前者の結晶性ガラス板の端面に後者の結晶性ガラス板を接触させた状態で加熱してこれら2種類の結晶性ガラス板を互いに融着させることにより製造することも可能であるが、実用性やコストの面からは以下に説明する製造方法を利用して作製されることが好ましい。
【0024】
すなわち、本発明の結晶化ガラス物品を製造する場合、まず、複数個の結晶性ガラス小体を層状に集積した結晶性ガラス小体層と、結晶性ガラス小体層の端面の少なくとも一部(好ましくは端面全面)に接触させて配置された結晶性ガラス板Bとを含む部材を準備する。
なお、結晶性ガラス板Cも用いる場合には、(1)複数個の結晶性ガラス小体を層状に集積した結晶性ガラス小体層と、該結晶性ガラス小体層表面に重ねて配置された結晶性ガラス板Cとを有する積層体、(2)結晶性ガラス板Cと、該結晶性ガラス板C表面に複数個の結晶性ガラス小体を層状に集積した結晶性ガラス小体層とを有する積層体、および、(3)第1の結晶性ガラス板Cと、該第1の結晶性ガラス板C表面に複数個の結晶性ガラス小体を層状に集積した結晶性ガラス小体層と、該結晶性ガラス小体層表面に重ねて配置された第2の結晶性ガラス板Cとを有する積層体、からなる群より選択される少なくともいずれかの積層体と、この積層体の端面の少なくとも一部(好ましくは端面全面)に接触させて配置された結晶性ガラス板Bとを含む部材を準備する。
【0025】
続いて、上記部材を熱処理する熱処理工程を少なくとも経ることにより本発明の結晶化ガラス物品を製造することができる。
なお、熱処理工程は、通常、図2に示すように、部材を内壁に離型剤を塗布した耐火物型枠内に配置して実施する。
【0026】
図2は、本発明の結晶化ガラス物品の製造方法の一例を説明するための模式断面図であり、具体的には、端面に結晶化ガラス層Bが融着された結晶化ガラス物品を作製するために、耐火物型枠内に結晶性ガラス板Bと小体層とを配置した状態を示すものである。ここで、図中、12は結晶性ガラス小体層、16は結晶性ガラス板Bを表す。
図2に示す例では、耐火物型枠10内には、結晶性ガラス小体層12と、結晶性ガラス小体層12と耐火物型枠10の側壁面との間に挟持されるように結晶性ガラス板B16とが配置されている。
【0027】
なお、本発明の結晶化ガラス物品の表裏面の少なくとも一方の面に結晶化ガラス層Cも設けたい場合は、例えば、以下の手順で耐火物型枠内に結晶性ガラス小体や結晶性ガラス板B、結晶性ガラス板Cを配置することができる。
この場合、耐火物型枠内に上述した(1)〜(3)に示す積層体を形成する。この際、耐火物型枠の側壁面と数mm程度の間隙が形成されるように配置した積層体を形成する。次に、積層体の端面部分と耐火物型枠の側壁面とに挟持されるように、積層体端面−耐火物型枠の側壁面の間隙部分に、結晶性ガラス板Bを配置する。そして、この状態で熱処理工程を実施すれば、端面に結晶化ガラス層Bが融着されると共に、結晶化ガラス物品の表裏面の少なくとも一方の面に結晶化ガラス層Cが設けられた結晶化ガラス物品を得ることができる。
また、上記以外の方法としては、耐火物型枠の側壁面に結晶性ガラス板Bを予め配置した後、積層体を形成し、その後に熱処理工程を実施してもよい。
【0028】
図3は、本発明の結晶化ガラス物品の製造方法の一例を説明するための模式断面図であり、具体的には、耐火物型枠内に積層体を配置した状態を示すものである。図3中、10は耐火物型枠、12は結晶性ガラス小体層、14、14A、14Bは結晶性ガラス板C、20A、20B、20Cは積層体を表し、16は、図2中に示したものと同様である。
図3A〜図3Cに示す例は、図2において、結晶性ガラス小体層12を積層体に置き換えたものである。
ここで上記(1)に示す積層体は、図3Aに示すように、壁面と底面に(不図示の)離型剤が塗布された耐火物型枠10内に、複数個の結晶性ガラス小体を層状に集積することにより結晶性ガラス小体層12を形成した後、その上に結晶性ガラス板C14を配置することにより得られる(図中、積層体20A)。また、上記(2)に示す積層体は、図3Bに示すように、壁面と底面に(不図示の)離型剤が塗布された耐火物型枠10内に、結晶性ガラス板14を配置した後、その上に複数個の結晶性ガラス小体を層状に集積することにより結晶性ガラス小体層12を形成することにより得られる(図中、積層体20B)。また、上記(3)に示す積層体は、図3Cに示すように、壁面と底面に(不図示の)離型剤が塗布された耐火物型枠10内に、第1の結晶性ガラス板C14Aを配置した後、その上に複数個の結晶性ガラス小体を層状に集積することにより結晶性ガラス小体層12を形成し、更にその上に第2の結晶性ガラス板C14Bを配置することにより得られる(図中、積層体20C)。
なお、いずれの場合においても、結晶性ガラス板B16は、積層体を形成後に、積層体と耐火物型枠10の側壁との間に配置してもよいし、積層体の形成前に耐火物型枠10の側壁に沿って配置しておいてもよい。
【0029】
また、熱処理工程では、積層体の熱処理は、結晶性ガラス小体同士および結晶性ガラス小体層と結晶性ガラス板Bとを互いに融着させると共に、結晶性ガラス小体および結晶性ガラス板Bを結晶化させることにより、結晶性ガラス小体層中に、主結晶としてβ−ウォラストナイトおよびディオプサイドから選択される少なくとも1種の結晶を析出させ、且つ、結晶性ガラス板B中に、主結晶としてβ−ウォラストナイトおよびディオプサイドから選択される少なくとも1種の結晶を結晶性ガラス板Bの中心部にまで析出させる条件で実施される。
【0030】
上記条件を満たすために、熱処理は、結晶性ガラス小体および結晶性ガラス板Bの双方の軟化点よりも高い温度で実施される。
なお、具体的な熱処理温度や熱処理時間は、結晶性ガラス小体や結晶性ガラス板Bの軟化点や、結晶性ガラス小体層や結晶性ガラス板Bの厚み等に応じて適宜選択される。
しかし、一般的には常温から60℃/hr〜600℃/hrの昇温速度で昇温させた後、好ましくは1030℃〜1130℃の範囲内、より好ましくは1050℃〜1100℃の範囲内の温度で、好ましくは0.5時間〜5時間程度熱処理した後、徐冷することが好ましい。
また、結晶性ガラス板Bの厚みは6mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましく、4mm以下であることが更に好ましい。結晶性ガラス板Bの厚みが6mmを超えると、熱処理した場合に結晶性ガラス板Bの中心部まで結晶化させることができず、結晶化ガラス層Bの中心部に亀裂を有するガラスマトリックスが残留してしまうことがある。
【0031】
以上に説明した熱処理工程を経て得られた結晶化ガラス物品に対しては、必要に応じて結晶化ガラス物品の厚みの調整や表面仕上げ等を目的として表面を研磨する研磨工程や、所定のサイズや形状となるように結晶化ガラス物品を切断する切断工程等を実施することができる。
【0032】
なお、結晶化ガラス物品の製造に用いられる「結晶性ガラス小体」とは、粒子状のガラスを意味し、その形状は球状、棒状等、特に限定されず、サイズも特に限定されるものではないが、平均粒径が1mm以上7mm以下程度であることが好ましい。結晶性ガラス小体の製造方法も特に限定されず、公知の方法を組み合わせて作製することもできるが、例えば、ガラスの溶融物を水冷などによって急冷する方法や、バルク状ガラスを公知の機械的粉砕方法で粉砕する方法などが利用できる。
【0033】
また、結晶化ガラス層Bはその厚みが6mm以下であれば、1枚の結晶性ガラス板Bを用いて作製されたものに限定されない。
例えば、結晶化ガラス層Bは、2枚以上の結晶性ガラス板Bを積層した状態で熱処理工程を経ることによって形成されたものであってもよく、2本以上の棒状の結晶性ガラス板Bを、結晶性ガラス小体層(又は、結晶性ガラス小体層と結晶性ガラス板Cとからなる積層体)端面に隙間なく並べた状態で熱処理工程を経ることによって形成されたものであってもよい。
同様に、結晶性ガラス層Cについても、2枚以上の結晶性ガラス板Cを用いたり、2本以上の棒状の結晶性ガラス板Cを用い、熱処理工程を経ることによって形成することもできる。
【0034】
−結晶性ガラス小体、結晶性ガラス板Bおよび結晶性ガラス板Cのガラス組成−
本発明の結晶化ガラス物品の製造に用いられる結晶性ガラス小体や結晶性ガラス板B、結晶性ガラス板Cとしては、軟化点よりも高い温度で熱処理した場合、主結晶としてβ−ウォラストナイトやディオプサイドが、表面から内部へと析出する性質を有する表面結晶化タイプのガラス組成を有するガラス材料からなるものが用いられる。
上記条件を満たすガラス組成としては、以下の(1)〜(12)に示されるガラス組成が特に好ましい。
【0035】
(1)質量百分率で、SiO2が50〜65%、Al23が3〜13%、CaOが15〜25%、ZnOが2〜10%、着色性酸化物の総量が0〜5%の割合でそれぞれ含まれるガラス組成。
本ガラス組成からなるガラス材料は、軟化点以上の温度で熱処理されることにより主結晶としてβ―ウォラストナイトを析出することができる。
なお、上記着色性酸化物は、V25、Cr23、MnO2、Fe23、CoO、NiO、CuO等のガラス中に含有されることにより無色透明なガラス材料を着色する公知の金属酸化物から選択される少なくとも1種類を意味する(以下、下記ガラス組成(2)以降の説明においても同様)。
【0036】
(2)質量百分率で、SiO2が45〜75%、Al23が1〜13%、CaOが6〜14.5%、Na2O+K2Oが1〜13%、BaOが0〜20%、ZnOが0〜18 %、BaO+ZnOが4〜24%、着色性酸化物の総量が0〜10%の割合でそれぞれ含まれるガラス組成。
本ガラス組成からなるガラス材料は、軟化点以上の温度で熱処理されることにより主結晶としてβ―ウォラストナイトを析出することができる。
【0037】
(3)質量百分率で、SiO2が45〜75 %、Al23が1〜15%、CaOが8〜20%、Na2O+K2Oが1〜15%、BaOが0〜18 %、ZnOが0〜18%、BaO+ZnOが4〜25%、Fe23が2〜8%、TiO2が0.1〜7%、MnO2が0.1〜5%、CoOが0〜2%、B23が0〜3 %、As23が0〜1%、Sb23が0〜1%の割合でそれぞれ含まれるガラス組成。
本ガラス組成からなるガラス材料は、軟化点以上の温度で熱処理されることにより主結晶としてβ―ウォラストナイトを析出することができる。
【0038】
(4)質量百分率で、SiO2が48〜68%、Al23が0.5〜17%、CaOが6〜22%、Na2O+K2Oが5〜22%、MgOが0.2〜8%、BaOが0〜8%、ZnOが0〜9%、BaOとZnOとの総量が0%以上15%未満、B23が0〜6%、着色性酸化物の総量が0〜10%の割合でそれぞれ含まれるガラス組成。
本ガラス組成からなるガラス材料は、軟化点以上の温度で熱処理されることにより主結晶としてβ―ウォラストナイトを析出することができる。
【0039】
(5)質量百分率で、SiO2 が40〜75 %、Al23 が2〜15%、CaO が3〜15 %、ZnOが0〜15%、BaOが0〜20%、B23が0〜10%、Na2OとK2OとLi2Oとの総量が2〜20%、着色性酸化物の総量が0〜10%、As23 が0〜1%、Sb23が0〜1%の割合でそれぞれ含まれるガラス組成。
本ガラス組成からなるガラス材料は、軟化点以上の温度で熱処理されることにより主結晶としてβ―ウォラストナイトを析出することができる。
【0040】
(6)質量百分率で、SiO2が45〜75%、Al23が1〜25%、CaOが1〜12.5%、MgOが0.5〜12%、CaOとMgOとの総量が1.5〜13%、BaOが0〜18%、ZnOが0〜18%、Na2Oが1〜15%、K2Oが0〜7%、Li2Oが0〜5%、B23が0〜10%、P25が0〜10%、着色性酸化物の総量が0〜10%、As23が0〜1%、Sb23が0〜1%の割合でそれぞれ含まれるガラス組成。
本ガラス組成からなるガラス材料は、軟化点以上の温度で熱処理されることにより主結晶としてディオプサイドを析出することができる。
【0041】
(7)質量百分率で、SiO2が40〜75%、Al23が2〜15%、CaOが3〜20%、ZnOが0〜15%、BaOが0〜20%、B23が0〜10%、Na2OとK2OとLi2Oとの総量が2〜20%、着色性酸化物の総量が0〜10%、As23が0〜1%、Sb23が0〜1%の割合でそれぞれ含まれるガラス組成。
本ガラス組成からなるガラス材料は、軟化点以上の温度で熱処理されることにより主結晶としてβ―ウォラストナイトを析出することができる。
【0042】
(8)質量百分率で、SiO2が45〜75%、Al23が1〜25%、CaOが1〜20%、MgOが0.5〜17%、BaOが0〜18%、ZnOが0〜18%、Na2Oが1〜15%、K2Oが0〜7%、Li2Oが0〜5%、B23が0〜10%、P25が0〜10%、着色性酸化物の総量が0〜10%、As23が0〜1%、Sb23が0〜1%の割合でそれぞれ含まれるガラス組成。
本ガラス組成からなるガラス材料は、軟化点以上の温度で熱処理されることにより主結晶としてディオプサイドを析出することができる。
【0043】
(9)質量百分率で、SiO2が45〜70%、Al23が1〜13%、CaOが6〜25%、Na2OとK2OとLi2Oとの総量が0.1〜20%、BaOが0〜20%、ZnOが0〜18%、BaOとZnOとの総量が4〜24%、着色性酸化物の総量が0〜10%の割合でそれぞれ含まれるガラス組成。
本ガラス組成からなるガラス材料は、軟化点以上の温度で熱処理されることにより主結晶としてβ―ウォラストナイトを析出することができる。
【0044】
(10)質量百分率で、SiO2が45〜75%、Al23が1〜15%、CaOが6〜20%、Na2OとK2Oとの総量が1〜15 %、BaOが0〜18 %、ZnOが0〜18 %、BaOとZnOとの総量が4〜25%、NiOが0.05〜5%、CoOが0.01〜5%の割合でそれぞれ含まれるガラス組成。
本ガラス組成からなるガラス材料は、軟化点以上の温度で熱処理されることにより主結晶としてβ―ウォラストナイトを析出することができる。
【0045】
(11)質量百分率で、SiO2が50〜75%、Al23が1〜15%、CaOが6〜16.5%、Li2Oが0.1〜5 %、B23が0〜1.5%、CaOとLi2OとB23との総量が10〜17.5%、ZnOが2.5〜12%、BaOが0〜12%、Na2OとK2Oとの総量が0.1〜15%、As23が0〜1%、Sb23が0〜1%、MgOが0〜1.5%、SrOが0〜1.5%、TiO2が0〜1%、ZrO2が0〜1%、P25が0〜1%、着色性酸化物の総量が0〜10%の割合でそれぞれ含まれるガラス組成。
本ガラス組成からなるガラス材料は、軟化点以上の温度で熱処理されることにより主結晶としてβ―ウォラストナイトを析出することができる。
【0046】
(12)質量百分率で、SiO2が45〜77%、Al23が1〜25%、CaOが2〜25%、ZnOが0〜18%、BaOが0〜20%、MgOが0〜17%、Na2Oが1〜15%、K2Oが0〜7%、Li2Oが0〜5%、B23が0〜1.5%、着色性酸化物の総量が0〜10%、As23が0〜1%、Sb23が0〜1%、SrOが0〜1.5%、TiO2が0〜1%、ZrO2が0〜1%、P25が0〜1%の割合でそれぞれ含まれるガラス組成。
本ガラス組成からなるガラス材料は、軟化点以上の温度で熱処理されることにより主結晶としてβ―ウォラストナイト及び/又はディオプサイドを析出することができる。
【実施例】
【0047】
以下に本発明を実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
まず質量%でSiO2 62.0%、Al23 9.0%、CaO 9.0%、MgO 4.5%、BaO 4.6%、Na2O 5.0%、K2O 3.0%、B23 0.5%、P25 2.0%、Sb23 0.4%、CoO 0.05%の組成を有するように調合したガラス原料を1500℃で16時間溶融した。次いでこの溶融ガラスを水中で急冷して破砕し、乾燥後、分級し、粒径l〜3mmの結晶性ガラス小体を得た。この結晶性ガラス小体は、熱処理すると主結晶としてディオプサイドを析出し、30〜380℃における熱膨張係数が71×10-7/℃のグレー色の結晶化ガラスとなる結晶性ガラスである。
【0049】
また、質量%でSiO2 62.2%、Al23 5.9%、CaO 13.0%、Na2O 4.6%、K2O 2.1%、Li2O 1.0%、BaO 6.0%、ZnO 5.2%の組成を有するように調合したガラス原料を1450℃で16時間溶融した。次いでこの溶融ガラスをロールアウト法によって板状に成形し、3mmの厚みを有する結晶性ガラス板を得た。この結晶性ガラス板は、熱処理すると主結晶としてβ−ウォラストナイトを析出し、30〜380℃における熱膨張係数が69×10-7/℃の白色の結晶化ガラスとなる結晶性ガラスである。
【0050】
次に、作製した結晶性ガラス小体を離型剤を塗布した耐火物型枠に集積した。集積した結晶性ガラス小体の厚みは約18mm程度であった。次に、耐火物型枠の側壁面に沿って、厚みが3mm、高さが18mmの結晶性ガラス板を、耐火物型枠の側壁面と結晶性ガラス小体からなる層との間に押し込んで図2に示したように配置すると共に、結晶性ガラス小体からなる層の表面を平らにした。
その後、1時間に120℃の速度で昇温し、1050℃で2時間保持した後、室温まで約5時間かけて冷却することによって、複数個の結晶性ガラス小体が融着しながら結晶を析出してなる結晶化ガラス層Aの端面全面に結晶性ガラス板が融着しながら結晶を析出してなる結晶化ガラス層Bが形成された結晶化ガラス物品を得た。
【0051】
このようにして得られた結晶化ガラス物品は約16mmの厚みを有していた。次に、結晶化ガラス物品の表面および端面を軽く研磨した後、結晶化ガラス物品を、結晶化ガラス層Bが設けられた側の面から観察したところ、3mmの厚みを有する結晶化ガラス層Bは半透明の模様を形成すると共に、結晶化ガラス層Aの端面に現出した天然大理石模様が半透明の結晶化ガラス層B越しにやや霞んだ状態で確認できた。また、結晶化ガラス層Bの半透明の模様と結晶化ガラス層Aの天然大理石模様とが同時に視認できるため、微妙な立体感が表現された天然大理石様が確認できた。
【0052】
なお、結晶化ガラス層Bが半透明の模様を呈しているのは、結晶化ガラス層Bの表面から内部側へと結晶が成長するためである。また、結晶化ガラス層Aの天然大理石模様と、上記結晶性ガラス小体のみを用いてほぼ同様の熱処理条件にて集積法により作製した結晶化ガラス物品の天然大理石模様とを比較したところ、殆ど同じ模様であった。これに加えて、結晶化ガラス層Aおよび結晶化ガラス層Bを各々別々にX線回折により測定した結果、結晶化ガラス層Aには主結晶としてディオプサイドが析出しており、結晶化ガラス層Bには主結晶としてβ−ウォラストナイトが析出していた。
さらに、結晶化ガラス層Bの断面を肉眼で観察したところ、亀裂は発生していなかった。さらに断面を結晶化ガラス層Bの厚み方向に対して走査型電子顕微鏡で観察したところ、厚み方向全てにおいて結晶が析出していることが確認され、結晶化ガラス層Bはその中心部まで結晶化していることが判った。
【0053】
(実施例2)
まず質量%でSiO2 62.0%、Al23 9.0%、CaO 9.0%、MgO 4.5%、BaO 4.6%、Na2O 5.0%、K2O 3.0%、B23 0.5%、P25 2.0%、Sb23 0.4%、CoO 0.05%の組成を有するように調合したガラス原料を1500℃で16時間溶融した。次いでこの溶融ガラスを水中で急冷して破砕し、乾燥後、分級し、粒径l〜3mmの結晶性ガラス小体を得た。この結晶性ガラス小体は、熱処理すると主結晶としてディオプサイドを析出し、30〜380℃における熱膨張係数が71×10-7/℃のグレー色の結晶化ガラスとなる結晶性ガラスである。
【0054】
また、質量%でSiO2 62.2%、Al23 5.9%、CaO 13.0%、Na2O 4.6%、K2O 2.1%、Li2O 1.0%、BaO 6.0%、ZnO 5.2%の組成を有するように調合したガラス原料を1450℃で16時間溶融した。次いでこの溶融ガラスをロールアウト法によって板状に成形し、2mmの厚みを有する結晶性ガラス板を得た。この結晶性ガラス板は、熱処理すると主結晶としてβ−ウォラストナイトを析出し、30〜380℃における熱膨張係数が69×10-7/℃の白色の結晶化ガラスとなる結晶性ガラスである。
【0055】
次に、作製した結晶性ガラス小体を離型剤を塗布した耐火物型枠に集積する。集積した結晶性ガラス小体の厚みは約18mm程度であった。次に、耐火物型枠の側壁面に沿って、厚みが2mm、高さが18mmの結晶性ガラス板をその厚み方向に3枚重ねた状態で、耐火物型枠の側壁面と結晶性ガラス小体からなる層との間に押し込んで図2に示したように配置すると共に、結晶性ガラス小体からなる層の表面を平らにした(但し、本実施例において、図2中の符号16で示される部材は、3枚の結晶性ガラス板を厚み方向に積層した部材を意味する)。
その後、1時間に300℃の速度で昇温し、1050℃で1時間保持した後、室温まで約5時間かけて冷却することによって、複数個の結晶性ガラス小体が融着しながら結晶を析出してなる結晶化ガラス層Aの端面全面に結晶性ガラス板が融着しながら結晶を析出してなる結晶化ガラス層Bが形成された結晶化ガラス物品を得た。
【0056】
このようにして得られた結晶化ガラス物品は約16mmの厚みを有していた。次に、結晶化ガラス物品の表面および端面を軽く研磨した後、結晶化ガラス物品を、結晶化ガラス層Bが設けられた側の面から観察したところ、6mmの厚みを有する結晶化ガラス層Bは半透明の模様を形成すると共に、結晶化ガラス層Aの端面に現出した天然大理石模様が半透明の結晶化ガラス層B越しにやや霞んだ状態で確認できた。また、結晶化ガラス層Bの半透明の模様と結晶化ガラス層Aの天然大理石模様とが同時に視認できるため、微妙な立体感が表現された天然大理石様が確認できた。
【0057】
なお、結晶化ガラス層Bが半透明の模様を呈しているのは、結晶化ガラス層Bの表面から内部側へと結晶が成長するためである。また、結晶化ガラス層Aの天然大理石模様と、上記結晶性ガラス小体のみを用いてほぼ同様の熱処理条件にて集積法により作製した結晶化ガラス物品の天然大理石模様とを比較したところ、殆ど同じ模様であった。これに加えて、結晶化ガラス層Aおよび結晶化ガラス層Bを各々別々にX線回折により測定した結果、結晶化ガラス層Aには主結晶としてディオプサイドが析出しており、結晶化ガラス層Bには主結晶としてβ−ウォラストナイトが析出していた。
さらに、結晶化ガラス層Bの断面を肉眼で観察したところ、亀裂は発生していなかった。さらに断面を結晶化ガラス層Bの厚み方向に対して走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、厚み方向全てにおいて結晶が析出していることが確認され、結晶化ガラス層Bはその中心部まで結晶化していることが判った。
【0058】
(実施例3)
まず質量%でSiO2 62.0%、Al23 9.0%、CaO 9.0%、MgO 4.5%、BaO 4.6%、Na2O 5.0%、K2O 3.0%、B23 0.5%、P25 2.0%、Sb23 0.4%、CoO 0.05%の組成を有するように調合したガラス原料を1500℃で16時間溶融した。次いでこの溶融ガラスを水中で急冷して破砕し、乾燥後、分級し、粒径l〜3mmの結晶性ガラス小体を得た。この結晶性ガラス小体は、熱処理すると主結晶としてディオプサイドを析出し、30〜380℃における熱膨張係数が71×10-7/℃のグレー色の結晶化ガラスとなる結晶性ガラスである。
【0059】
また、質量%でSiO2 62.2%、Al23 5.9%、CaO 13.0%、Na2O 4.6%、K2O 2.1%、Li2O 1.0%、BaO 6.0%、ZnO 5.2%の組成を有するように調合したガラス原料を1450℃で16時間溶融した。次いでこの溶融ガラスをロールアウト法によって板状に成形し、3mmの厚みを有する結晶性ガラス板を得た。この結晶性ガラス板は、熱処理すると主結晶としてβ−ウォラストナイトを析出し、30〜380℃における熱膨張係数が69×10-7/℃の白色の結晶化ガラスとなる結晶性ガラスである。
なお、ロールアウト法によって得られた結晶性ガラス板は、結晶化ガラス層Bの形成の他に、結晶化ガラス層Cの形成にも利用するため、各々の層のサイズに合わせて切断し、形状の異なる2種類の結晶性ガラス板を得た。
【0060】
次に、作製した結晶性ガラス小体を離型剤を塗布した耐火物型枠内に層状となるように集積した。集積した結晶性ガラス小体の厚みは約14mm程度であった。集積した結晶性ガラス小体からなる層の表面を平らにすると共に、結晶性ガラス小体からなる層の表面を完全に覆うようにして作製した結晶性ガラス板を配置した。なお、この結晶性ガラス板は、耐火物型枠よりも一回り小さいサイズのものを用い、結晶性ガラス板の4辺各々と、耐火物型枠の側壁面との距離が3mmとなるように結晶性ガラス小体からなる層上に配置した。
続いて、結晶性ガラス小体層と結晶性ガラス板とを積層してなる積層体と、耐火物型枠の側壁面との間に、厚みが3mmの結晶性ガラス板を板厚方向が耐火物型枠の底面と平行となるように押し込んで、図3Aに示すように、積層体の端面と耐火物型枠の側壁面との間に結晶性ガラス板を配置した。なお、この結晶性ガラス板は、積層体の端面全周に密接するように配置した。
その後、1時間に120℃の速度で昇温し、1050℃で2時間保持した後、室温まで約5時間かけて冷却することによって、複数個の結晶性ガラス小体が融着しながら結晶を析出してなる結晶化ガラス層Aの上に結晶性ガラス板Cが融着しながら結晶を析出してなる結晶化ガラス層Cが形成されると共に、結晶化ガラス層Aおよび結晶化ガラス層Cからなる積層体部分の端面全周に結晶性ガラス板Bが融着しながら結晶を析出してなる結晶化ガラス層Bが形成された結晶化ガラス物品を得た。
【0061】
このようにして得られた結晶化ガラス物品は約16mmの厚みを有していた。次に、結晶化ガラス物品の表面および端面を軽く研磨した後、結晶化ガラス物品を、結晶化ガラス層Bが設けられた側の面から観察したところ、3mmの厚みを有する結晶化ガラス層Bは半透明の模様を形成すると共に、結晶化ガラス層Aの端面に現出した天然大理石模様が半透明の結晶化ガラス層B越しにやや霞んだ状態で確認できた。また、結晶化ガラス層Bの半透明の模様と結晶化ガラス層Aの天然大理石模様とが同時に視認できるため、微妙な立体感が表現された天然大理石様が確認できた。
また、結晶化ガラス物品を、3mmの厚みを有する結晶化ガラス層Cが設けられた側の面から観察した場合も、結晶化ガラス層Bが設けられた側の面から観察した場合と同様の模様が確認された。
【0062】
なお、結晶化ガラス層Bや結晶化ガラス層Cが半透明の模様を呈しているのは、結晶化ガラス層Bや結晶化ガラス層Cの表面から内部側へと結晶が成長するためである。また、結晶化ガラス層Aの天然大理石模様と、上記結晶性ガラス小体のみを用いてほぼ同様の熱処理条件にて集積法により作製した結晶化ガラス物品の天然大理石模様とを比較したところ、殆ど同じ模様であった。これに加えて、結晶化ガラス層A、結晶化ガラス層Bおよびや結晶化ガラス層Cを各々別々にX線回折により測定した結果、結晶化ガラス層Aには主結晶としてディオプサイドが析出しており、結晶化ガラス層Bおよび結晶化ガラス層Cには主結晶としてβ−ウォラストナイトが析出していた。
さらに、結晶化ガラス層Bの断面を肉眼で観察したところ、亀裂は発生していなかった。さらに断面を結晶化ガラス層Bの厚み方向に対して走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、厚み方向全てにおいて結晶が析出していることが確認され、結晶化ガラス層Bはその中心部まで結晶化していることが判った。この結果は、結晶化ガラス層Cについても同様であった。
【0063】
(実施例4)
まず質量%でSiO2 62.2%、Al23 5.9%、CaO 13.0%、Na2O 4.5%、K2O 2.1%、Li2O 1.0%、BaO 6.0%、ZnO 5.2%、NiO 0.1%の組成を有するように調合したガラス原料を1450℃で16時間溶融した。次いでこの溶融ガラスを水中で急冷して破砕し、乾燥した後、分級し、粒径3〜7mmの結晶性ガラス小体を得た。この結晶性ガラス小体は、熱処理すると主結晶としてβ−ウォラストナイトを析出し、30〜380℃における熱膨張係数が69×10-7/℃であるベージュ色の結晶化ガラスとなる結晶性ガラスである。
【0064】
また質量%でSiO2 62.2%、Al23 5.9%、CaO 13.0%、Na2O 4.5%、K2O 2.1%、Li2O 1.0%、BaO 6.0%、ZnO 5.2%、NiO 0.1%の組成を有するように調合したガラス原料を1450℃で16時間溶融し、次いでこの溶融ガラスをロールアウト法によって板状に成形し、2mmの厚みを有する結晶性ガラス板を得た。この結晶性ガラス板は、熱処理すると主結晶としてβ−ウォラストナイトを析出し、30〜380℃における熱膨張係数が69×10-7/℃であるベージュ色の結晶化ガラスとなる結晶性ガラスである。
なお、ロールアウト法によって得られた結晶性ガラス板は、結晶化ガラス層Bの形成の他に、結晶化ガラス層Cの形成にも利用するため、各々の層のサイズに合わせて切断し、形状の異なる2種類の結晶性ガラス板を得た。
【0065】
次に、作製した結晶性ガラス板を離型剤を塗布した耐火物型枠内に敷いた後、結晶性ガラス板の表面を完全に覆うようにして作製した結晶性ガラス小体を層状となるように集積した。この結晶性ガラス小体からなる層の厚みは約14mm程度であった。さらに、結晶性ガラス小体からなる層の表面を平らにすると共に、結晶性ガラス小体からなる層の表面を完全に覆うようにして作製した結晶性ガラス板を配置した。これにより、結晶性ガラス小体からなる層が2枚の結晶性ガラス板により挟まれた状態とした。
なお、上記2枚の結晶性ガラス板は、耐火物型枠よりも一回り小さいサイズのものを用い、結晶性ガラス板の4辺各々と、耐火物型枠の側壁面との距離が2mmとなるように結晶性ガラス小体からなる層上下面にそれぞれ配置した。
続いて、結晶性ガラス小体層と結晶性ガラス板とを積層してなる積層体と、耐火物型枠の側壁面との間に、厚みが2mmの結晶性ガラス板を板厚方向が耐火物型枠の底面と平行となるように押し込んで、図3Cに示すように、積層体の端面と耐火物型枠の側壁面との間に結晶性ガラス板を配置した。なお、この結晶性ガラス板は、積層体の端面全周に密接するように配置した。
その後、1時間に120℃の速度で昇温し、1050℃で2時間保持した後、室温まで約5時間かけて冷却することによって、結晶性ガラス板が融着しながら結晶を析出してなる第1の結晶化ガラス層Cの上に複数個の結晶性ガラス小体が融着しながら結晶を析出してなる結晶化ガラス層Aが形成され、この結晶化ガラス層Aの上に結晶性ガラス板が融着しながら結晶を析出してなる第2の結晶化ガラス層Cが形成され、更に、結晶化ガラス層Aの両面に第1および第2の結晶化ガラス層Cが設けられてなる積層体部分の端面全周に結晶性ガラス板Bが融着しながら結晶を析出してなる結晶化ガラス層Bが形成された結晶化ガラス物品を得た。
【0066】
このようにして得られた結晶化ガラス物品は約17mmの厚みを有していた。次に、結晶化ガラス物品の両面および端面を軽く研磨した後、結晶化ガラス物品を、結晶化ガラス層Bが設けられた側の面から観察したところ、2mmの厚みを有する結晶化ガラス層Bは半透明の模様を形成すると共に、結晶化ガラス層Aの端面に現出した天然大理石模様が半透明の結晶化ガラス層B越しにやや霞んだ状態で確認できた。また、結晶化ガラス層Bの半透明の模様と結晶化ガラス層Aの天然大理石模様とが同時に視認できるため、微妙な立体感が表現された天然大理石様が確認できた。
また、結晶化ガラス物品を、2mmの厚みを有する結晶化ガラス層Cが設けられた側の面から観察した場合も、結晶化ガラス層Bが設けられた側の面から観察した場合と同様の模様が確認された。但し、結晶化ガラス層C越しに結晶化ガラス層Bを観察した場合には、結晶化ガラス層Cと結晶化ガラス層Bとの界面部分に縞模様が観察された。
【0067】
なお、結晶化ガラス層Bや結晶化ガラス層Cが半透明の模様を呈しているのは、結晶化ガラス層Bや結晶化ガラス層Cの表面から内部側へと結晶が成長するためである。また、結晶化ガラス層Aの天然大理石模様と、上記結晶性ガラス小体のみを用いてほぼ同様の熱処理条件にて集積法により作製した結晶化ガラス物品の天然大理石模様とを比較したところ、殆ど同じ模様であった。これに加えて、結晶化ガラス層A、結晶化ガラス層Bおよびや結晶化ガラス層Cを各々別々にX線回折により測定した結果、結晶化ガラス層A、結晶化ガラス層Bおよび結晶化ガラス層Cには主結晶としてβ−ウォラストナイトが析出していた。
さらに、結晶化ガラス層Bの断面を肉眼で観察したところ、亀裂は発生していなかった。さらに断面を結晶化ガラス層Bの厚み方向に対して走査型電子顕微鏡で観察したところ、厚み方向全てにおいて結晶が析出していることが確認され、結晶化ガラス層Bはその中心部まで結晶化していることが判った。この結果は、結晶化ガラス層Cについても同様であった。
【0068】
(実施例5)
まず質量%でSiO2 62.0%、Al23 9.0%、CaO 9.0%、MgO 4.5%、BaO 4.6%、Na2O 5.0%、K2O 3.0%、B23 0.5%、P25 2.0%、Sb23 0.4%、CoO 0.05%の組成を有するように調合したガラス原料を1500℃で16時間溶融した。次いでこの溶融ガラスを水中で急冷して破砕し、乾燥後、分級し、粒径l〜3mmの結晶性ガラス小体を得た。この結晶性ガラス小体は、熱処理すると主結晶としてディオプサイドを析出し、30〜380℃における熱膨張係数が71×10-7/℃のグレー色の結晶化ガラスとなる結晶性ガラスである。
【0069】
また、質量%でSiO2 62.2%、Al23 5.9%、CaO 13.0%、Na2O 4.6%、K2O 2.1%、Li2O 1.0%、BaO 6.0%、ZnO 5.2%の組成を有するように調合したガラス原料を1450℃で16時間溶融した。次いでこの溶融ガラスをロールアウト法によって板状に成形し、3mmの厚みを有する結晶性ガラス板を得た。この結晶性ガラス板は、熱処理すると主結晶としてβ−ウォラストナイトを析出し、30〜380℃における熱膨張係数が69×10-7/℃の白色の結晶化ガラスとなる結晶性ガラスである。
なお、この結晶性ガラス板は、幅が9mmとなるように切断して棒状に加工した。
【0070】
次に、作製した結晶性ガラス小体を離型剤を塗布した耐火物型枠に集積した。集積した結晶性ガラス小体の厚みは約18mm程度であった。次に、耐火物型枠の側壁面に沿って、厚みが3mm、高さ(幅)が9mmの棒状の結晶性ガラス板を、耐火物型枠の側壁面と結晶性ガラス小体からなる層との間に2本押し込んで図2に示したように配置すると共に、結晶性ガラス小体からなる層の表面を平らにした(但し、本実施例において、図2中の符号16で示される部材は、2本の棒状の結晶性ガラス板が、結晶性ガラス小体層の厚み方向に積層した部材を意味する)。
その後、1時間に120℃の速度で昇温し、1050℃で2時間保持した後、室温まで約5時間かけて冷却することによって、複数個の結晶性ガラス小体が融着しながら結晶を析出してなる結晶化ガラス層Aの端面全面に結晶性ガラス板が融着しながら結晶を析出してなる結晶化ガラス層Bが形成された結晶化ガラス物品を得た。
【0071】
このようにして得られた結晶化ガラス物品は約16mmの厚みを有していた。次に、結晶化ガラス物品の表面および端面を軽く研磨した後、結晶化ガラス物品を、結晶化ガラス層Bが設けられた側の面から観察したところ、3mmの厚みを有する結晶化ガラス層Bは半透明の模様を形成すると共に、結晶化ガラス層Aの端面に現出した天然大理石模様が半透明の結晶化ガラス層B越しにやや霞んだ状態で確認できた。また、結晶化ガラス層Bの半透明の模様と結晶化ガラス層Aの天然大理石模様とが同時に視認できるため、微妙な立体感が表現された天然大理石様が確認できた。
【0072】
なお、結晶化ガラス層Bが半透明の模様を呈しているのは、結晶化ガラス層Bの表面から内部側へと結晶が成長するためである。また、結晶化ガラス層Aの天然大理石模様と、上記結晶性ガラス小体のみを用いてほぼ同様の熱処理条件にて集積法により作製した結晶化ガラス物品の天然大理石模様とを比較したところ、殆ど同じ模様であった。これに加えて、結晶化ガラス層Aおよび結晶化ガラス層Bを各々別々にX線回折により測定した結果、結晶化ガラス層Aには主結晶としてディオプサイドが析出しており、結晶化ガラス層Bには主結晶としてβ−ウォラストナイトが析出していた。
さらに、結晶化ガラス層Bの断面を肉眼で観察したところ、亀裂は発生していなかった。さらに断面を結晶化ガラス層Bの厚み方向に対して走査型電子顕微鏡で観察したところ、厚み方向全てにおいて結晶が析出していることが確認され、結晶化ガラス層Bはその中心部まで結晶化していることが判った。
【0073】
(比較例1)
まず質量%でSiO2 65.1%、Al23 6.6%、CaO 12.0%、Na2O 3.3%、K2O 2.3%、BaO 4.1%、ZnO 6.6%の組成を有するように調合したガラス原料を1500℃で16時間溶融した。次いでこの溶融ガラスを水中で急冷して破砕し、乾燥後、分級し、粒径1〜3mmの結晶性ガラス小体を得た。この結晶性ガラス小体は、熱処理すると主結晶としてβ−ウォラストナイトを析出し、30〜380℃における熱膨張係数が65×10-7/℃の白色の結晶化ガラスとなる結晶性ガラスである。
【0074】
また、質量%でSiO2 51.0%、Al23 19.0%、MgO 4.7%、ZnO 4.1%、TiO2 2.2%、ZrO2 1.5%、B23 6.0%、Na2O 8.5%、K2O 2.8%、CaO 0.2%の組成を有するように調合したガラス原料を1500℃で16時間溶融した。次いでこの溶融ガラスをロールアウト法によって板状に成形し、3mmの厚みを有する結晶性ガラス板を得た。この結晶性ガラス板は、熱処理すると主結晶としてフォルステライト(2MgO・SiO2)を析出し、30〜380℃における熱膨張係数が67×10-7/℃の白色の結晶化ガラスとなる結晶性ガラスである。
【0075】
次に、作製した結晶性ガラス小体を離型剤を塗布した耐火物型枠に集積した。集積した結晶性ガラス小体の厚みは約18mm程度であった。次に、耐火物型枠の側壁面に沿って、厚みが3mm、高さが18mmの結晶性ガラス板を、耐火物型枠の側壁面と結晶性ガラス小体からなる層との間に押し込んで図2に示したように配置すると共に、結晶性ガラス小体からなる層の表面を平らにした。
その後、1時間に120℃の速度で昇温し、1100℃で2時間保持した後、室温まで約5時間かけて冷却することによって、複数個の結晶性ガラス小体が融着しながら結晶を析出してなる結晶化ガラス層Aの端面に結晶性ガラス板Bが融着しながら結晶を析出してなる結晶化ガラス層Bが形成された結晶化ガラス物品を得た。
【0076】
このようにして得られた結晶化ガラス物品は約16mmの厚みを有していた。次に、結晶化ガラス物品の表面及び端面を軽く研磨した後、結晶化ガラス物品を、結晶化ガラス層Bが設けられた側の面から観察したところ、3mmの厚みを有する結晶化ガラス層Bは白色を呈しており、結晶化ガラス層B越しに結晶化ガラス層Aの存在すら確認することができなかった。
なお、結晶化ガラス層Bが失透して白色を呈しているのは、熱処理した際に結晶性ガラス板Bの表面から内部側へと結晶が成長するのではなく、結晶性ガラス板B中の位置を問わず同時に結晶が成長するためである。また、上記結晶性ガラス小体のみを用いてほぼ同様の熱処理条件にて集積法により作製した結晶化ガラス物品を観察すると天然大理石模様が現出していた。このことから、結晶化ガラス層Bが、透明または半透明であったならば、天然大理石模様が確認できたものと推定される。
また、結晶化ガラス層Aと結晶化ガラス層Bとを各々別々にX線回折により測定した結果、結晶化ガラス層Aには主結晶としてβ−ウォラストナイトが析出しており、結晶化ガラス層Bには主結晶としてフォルステライトが析出していた。
【0077】
(比較例2)
まず質量%でSiO2 65.1%、Al23 6.6%、CaO 12.0%、Na2O 3.3%、K2O 2.3%、BaO 4.1%、ZnO 6.6%の組成を有するように調合したガラス原料を1500℃で16時間溶融した。次いでこの溶融ガラスを水中で急冷して破砕し、乾燥後、分級し、粒径1〜3mmの結晶性ガラス小体を得た。この結晶性ガラス小体は、熱処理すると主結晶としてβ−ウォラストナイトを析出し、30〜380℃における熱膨張係数が65×10-7/℃の白色の結晶化ガラスとなる結晶性ガラスである。
【0078】
また、質量%でSiO2 51.0%、Al23 19.0%、MgO 4.7%、ZnO 4.1%、TiO2 2.2%、ZrO2 1.5%、B23 6.0%、Na2O 8.5%、K2O 2.8%、CaO 0.2%の組成を有するように調合したガラス原料を1500℃で16時間溶融した。次いでこの溶融ガラスをロールアウト法によって板状に成形し、2mmの厚みを有する結晶性ガラス板を得た。この結晶性ガラス板は、熱処理すると主結晶としてフォルステライト(2MgO・SiO2)を析出し、30〜380℃における熱膨張係数が67×10-7/℃の白色の結晶化ガラスとなる結晶性ガラスである。
なお、ロールアウト法によって得られた結晶性ガラス板は、結晶化ガラス層Bの形成の他に、結晶化ガラス層Cの形成にも利用するため、各々の層のサイズに合わせて切断し、形状の異なる2種類の結晶性ガラス板を得た。
【0079】
次に、作製した結晶性ガラス板を離型剤を塗布した耐火物型枠内に敷いた後、結晶性ガラス板の表面を完全に覆うようにして作製した結晶性ガラス小体を層状となるように集積した。この結晶性ガラス小体からなる層の厚みは約14mm程度であった。さらに、結晶性ガラス小体からなる層の表面を平らにすると共に、結晶性ガラス小体からなる層の表面を完全に覆うようにして作製した結晶性ガラス板を配置した。これにより、結晶性ガラス小体からなる層が2枚の結晶性ガラス板により挟まれた状態とした。
なお、上記2枚の結晶性ガラス板は、耐火物型枠よりも一回り小さいサイズのものを用い、結晶性ガラス板の4辺各々と、耐火物型枠の側壁面との距離が2mmとなるように結晶性ガラス小体からなる層上下面にそれぞれ配置した。
続いて、結晶性ガラス小体層と結晶性ガラス板とを積層してなる積層体と、耐火物型枠の側壁面との間に、厚みが2mmの結晶性ガラス板を板厚方向が耐火物型枠の底面と平行となるように押し込んで、図3Cに示すように、積層体の端面と耐火物型枠の側壁面との間に結晶性ガラス板を配置した。なお、この結晶性ガラス板は、積層体の端面全周に密接するように配置した。
その後、1時間に120℃の速度で昇温し、1050℃で2時間保持した後、室温まで約5時間かけて冷却することによって、結晶性ガラス板が融着しながら結晶を析出してなる第1の結晶化ガラス層Cの上に複数個の結晶性ガラス小体が融着しながら結晶を析出してなる結晶化ガラス層Aが形成され、この結晶化ガラス層Aの上に結晶性ガラス板が融着しながら結晶を析出してなる第2の結晶化ガラス層Cが形成され、更に、結晶化ガラス層Aの両面に第1および第2の結晶化ガラス層Cが設けられてなる積層体部分の端面全周に結晶性ガラス板Bが融着しながら結晶を析出してなる結晶化ガラス層Bが形成された結晶化ガラス物品を得た。
【0080】
このようにして得られた結晶化ガラス物品は約17mmの厚みを有していた。次に、結晶化ガラス物品の両面および端面を軽く研磨した後、結晶化ガラス物品を、結晶化ガラス層Bや結晶化ガラス層Cが設けられた側の面から観察したところ、2mmの厚みを有する結晶化ガラス層Bおよび結晶化ガラス層Cは白色を呈しており、結晶化ガラス層Bおよび結晶化ガラス層C越しに結晶化ガラス層Aの存在すら確認することができなかった。
なお、結晶化ガラス層Bや結晶化ガラス層Cが白色を呈しているのは、熱処理した際に結晶性ガラス板Bや結晶性ガラス板Cの表面から内部側へと結晶が成長するのではなく、結晶性ガラス板Bや結晶性ガラス板C中の位置を問わず同時に結晶が成長するためである。また、上記結晶性ガラス小体のみを用いてほぼ同様の熱処理条件にて集積法により作製した結晶化ガラス物品を観察すると天然大理石模様が現出していた。このことから、結晶化ガラス層Bや結晶性ガラス層Cが、透明または半透明であったならば、天然大理石模様が確認できたものと推定される。
また、結晶化ガラス層A、結晶化ガラス層Bおよび結晶化ガラス層Cを各々別々にX線回折により測定した結果、結晶化ガラス層Aには主結晶としてβ−ウォラストナイトが析出しており、結晶化ガラス層Bおよび結晶化ガラス層Cには主結晶としてフォルステライトが析出していた。
【0081】
(比較例3)
実施例1で用いた結晶性ガラス小体を離型剤を塗布した耐火物型枠内に層状となるように集積した。集積した結晶性ガラス小体の厚みは約18mm程度であった。集積した結晶性ガラス小体からなる層の表面を平らにした。
その後、1時間に240℃の速度で昇温し、1100℃で1時間保持した後、室温まで約5時間かけて冷却することによって、複数個の結晶性ガラス小体が融着しながら結晶を析出してなる結晶化ガラス層のみからなる結晶化ガラス物品を得た。
【0082】
このようにして得られた結晶化ガラス物品は約16mmの厚みを有していた。次に、結晶化ガラス物品を所定の形状に切断し、続いて表面を鏡面となるまで研磨した後、結晶化ガラス物品の表面を観察したところ、天然大理石模様が現出していた。しかし、結晶化ガラス物品の端面を観察すると、端面全周に直径が0.1mm〜1mm程度のピンホール欠陥が観察された。なお、ピンホール欠陥は、結晶化ガラス物品の鏡面研磨処理した表面にも観察された。
【0083】
(比較例4)
まず質量%でSiO2 62.2%、Al23 5.9%、CaO 13.0%、Na2O 4.6%、K2O 2.1%、Li2O 1.0%、BaO 6.0%、ZnO 5.2%の組成を有するように調合したガラス原料を1450℃で16時間溶融した。次いでこの溶融ガラスをロールアウト法によって板状に成形し、10mmの厚みを有する結晶性ガラス板を得た。この結晶性ガラス板は、熱処理すると主結晶としてβ−ウォラストナイトを析出し、30〜380℃における熱膨張係数が69×10-7/℃の白色の結晶化ガラスとなる結晶性ガラスである。
【0084】
次に、作製した結晶性ガラス板を離型剤を塗布した耐火物型枠内に敷いた後、1時間に240℃の速度で昇温し、1100℃で1時間保持した後、室温まで約5時間かけて冷却することによって、結晶性ガラス板が結晶化してなる結晶化ガラス物品を得た。
このようにして得られた結晶化ガラス物品は約10mmの厚みを有していた。次に、結晶化ガラス物品の両面および端面を軽く研磨した後、結晶化ガラス物品の表面や端面を観察したところ、天然大理石様が確認できた。また、結晶化ガラス物品をX線回折により測定した結果、主結晶としてβ−ウォラストナイトが析出していた。
【0085】
しかし、結晶化ガラス物品を切断して断面を肉眼で観察したところ、厚み方向中央部に結晶性ガラスが残っていて亀裂が発生していた。さらに断面を厚み方向に対して走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面から内部側へ約3mmまでは結晶が析出していたが、厚み方向中央部の部分(厚み約4mmの部分)には結晶が析出しておらず、結晶化していないことが判った。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】結晶化ガラス層Bの厚み方向を説明するための模式断面図である。
【図2】本発明の結晶化ガラス物品の製造方法の一例を説明するための模式断面図である。
【図3】本発明の結晶化ガラス物品の製造方法の他の例を説明するための模式断面図である。
【図4】板状の結晶性ガラスを熱処理して得られた結晶化ガラス物品の断面構造の一例を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0087】
2 結晶化ガラス層A
4 端面
6 結晶化ガラス層B
10 耐火物型枠
12 結晶性ガラス小体層
14、14A、14B 結晶性ガラス板C
16 結晶性ガラス板B
20A、20B、20C 積層体
100 結晶化ガラス物品
110 結晶化ガラスマトリックス
120 結晶化しなかったガラスマトリックス
130 亀裂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の結晶性ガラス小体を互いに融着させると共に結晶化させた結晶化ガラス層Aと、
該結晶化ガラス層Aの端面の少なくとも一部に融着した状態で設けられ且つ結晶性ガラス板Bをその中心部まで結晶化させた結晶化ガラス層Bと、を含み、
前記結晶化ガラス層Aが、主結晶としてβ−ウォラストナイトおよびディオプサイドから選択される少なくとも1種の結晶を含み、
前記結晶化ガラス層Bが、主結晶としてβ−ウォラストナイトおよびディオプサイドから選択される少なくとも1種の結晶を含むと共に、その厚みが6mm以下であることを特徴とする模様付き結晶化ガラス物品。
【請求項2】
前記結晶化ガラス層Bが、前記結晶化ガラス層Aの端面全面に融着した状態で設けられていることを特徴とする請求項1に記載の模様付き結晶化ガラス物品。
【請求項3】
前記結晶化ガラス層Aの30度〜380度における熱膨張係数と、前記結晶化ガラス層Bの30度〜380度における熱膨張係数と、の差の絶対値が、0〜10×10-7/℃の範囲内であることを特徴とする請求項1又は2に記載の模様付き結晶化ガラス物品。
【請求項4】
複数個の結晶性ガラス小体を層状に集積した結晶性ガラス小体層と、該結晶性ガラス小体層の端面の少なくとも一部に接触させて配置された結晶性ガラス板Bとを含む部材を熱処理する熱処理工程を少なくとも含み、
前記熱処理工程において、前記結晶性ガラス小体同士および前記結晶性ガラス小体層と前記結晶性ガラス板Bとを互いに融着させると共に、前記結晶性ガラス小体および前記結晶性ガラス板Bを結晶化させることにより、
前記結晶性ガラス小体層中に、主結晶としてβ−ウォラストナイトおよびディオプサイドから選択される少なくとも1種の結晶を析出させ、且つ、前記結晶性ガラス板B中に、主結晶としてβ−ウォラストナイトおよびディオプサイドから選択される少なくとも1種の結晶を前記結晶性ガラス板Bの中心部にまで析出させることを特徴とする模様付き結晶化ガラス物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−23866(P2009−23866A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187655(P2007−187655)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(505327516)建權玻璃開発股▲はん▼有限公司 (5)
【出願人】(505327491)
【Fターム(参考)】