説明

横延伸方法

【課題】 フィルムの横延伸をより早い時期から開始してフィルムの生産性を向上させることができる、溶液製膜によるフィルムの横延伸方法及び装置を提供する。
【解決手段】 上記課題は、揮発分が残存しているフィルムの耳端部を固定して搬送しながら乾燥及び横方向の延伸を行う方法において、まず耳端部の固定をピンで行い、その後耳端部の固定をクリップに切り替えることを特徴とする、溶液製膜法によるフィルムの横延伸方法と、その装置によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルムの横延伸方法に関するものである。

【背景技術】
【0002】
フィルムは、強度増加させたり、引裂性を付与するなどの目的で縦方向あるいは横方向に延伸が行われることがある。横方向の延伸はフィルムを搬送方向と直角の方向に引っ張るものであり、フィルムの両側端をつかんで横方向に拡げていく。この両側端をつかむ固定具には主にクリップが使用され、そのほかピン等が用いられることもある。

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
フィルムには溶融押出してこれを冷却固化していくものと、溶液状態で押出して溶剤を蒸発して固化していくものがある。後者の場合、フィルムの製造速度を上げようとすると、いきおいフィルムの乾燥の程度が低いうちから横延伸を開始することになるが、乾燥の程度の進んでいないフィルムは横延伸の際に固定部位が破断しやすいため横延伸時期をはやめることができなかった。
【0004】
本発明の目的は、フィルムの横延伸をより早い時期から開始してフィルムの生産性を向上させることができるフィルムの横延伸方法を提供することにある。

【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討の結果、溶剤を蒸発して固化していくタイプのフィルムの延伸時期をはやめるとフィルム及びその環境の温度がまだ高いためクリップが熱せられてフィルムのつかみ部を発泡させたり、切断に至る場合など、不安定な搬送状態を招くこと、これに対し、ピン方式は、フィルムに接するピン部の熱容量が小さいため、事前の冷却が容易で、高揮発分領域での搬送に適していることを見出した。そして、さらに、このピン方式は、揮発分が低くなる領域で延伸する場合、延伸力が大きく、ピン部で裂ける欠点を有するが、一方、クリップ方式は、面で固定するため、固定されたフィルムは、裂けにくく高延伸が可能であることを見出した。
【0006】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものであり、
揮発分が残存しているフィルムの耳端部を固定して搬送しながら乾燥及び横方向の延伸を行う方法において、まず耳端部の固定をピンで行い、その後耳端部の固定をクリップに切り替えることを特徴とする、溶液製膜法によるフィルムの横延伸方法を提供するものである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明が適用される延伸フィルム製造装置の概略構成を図1に示す。
この装置は、単層又は2層以上を同時に押し出す重層ダイ1と、ダイから押し出された溶液フィルムを固化するまで支持する支持体2と、固化して支持体2から剥ぎ取られたフィルム5を搬送しながら縦方向(搬送方向)に延伸する縦延伸装置3と、この縦方向に延伸されたフィルム5を横方向に延伸する横延伸装置4よりなっている。
【0008】
フィルムは、横延伸装置4内でフィルムの両耳端部を固定具でつかまれて横方向に引っ張られ、図4に示すように、横方向に拡げられる。本発明では、この固定具に前半ではピンを用い、後半ではクリップを用いる。このピン及びクリップはフィルムの横延伸装置に用いられている通常のものでよい。このピンとクリップによる固定状態を模式的に図2、図3に示す。図2はフィルム5の耳端部をピン6で固定している状態を示し、クリップ7は離脱状態にある。8はこれらの固定部ガイドである。図3はフィルムの耳端部をピン6とクリップ7で固定している状態を示す。
【0009】
本発明の方法で使用される横延伸装置4にはフィルム5を上流側ではピン6で固定し、下流側ではクリップ7で固定しうるよう固定具が配置されている。この切替位置はフィルムの製造条件等によって前後に移動するので横延伸装置の中間部はピンとクリップのどちらでも固定しうるようにしておくことが好ましい。横延伸装置内の固定具の全てをピン又はクリップのどちらでも固定しうるようにしておくことも可能である。また、横延伸装置4を図5に示すように2基以上用いることもできる。その場合、上流側の横延伸装置41にはピン固定式のものを用い、下流側ではクリップ固定式のものを用いる。
【0010】
また、図6に示すように、耳端部をピンで固定した搬送とクリップで固定した搬送の間で縦延伸できるようにすることもできる。この縦延伸には複数のロールを用いた公知の縦延伸機を用いることができる。さらに、図7に示すように、ピンやクリップで固定して横延伸している間に縦延伸も同時に行わせることもできる。その場合、延伸装置には縦横同時延伸装置43を用い、その固定具に上流側にはピンを下流側にはクリップを配置する。
【0011】
図8に示すように、耳端部をピンで固定した搬送とクリップで固定した搬送の間でフィルムをエアー浮上させて無接触状態で搬送を行うこともできる。それによって、その間のロール接触等によるフィルムの変形を防止することができる。
【0012】
延伸の際に耳端部を固定する固定部のフィルム固定開始時表面温度を、フィルムのゲル化温度+15℃より低い温度にすることが好ましい。また、延伸開始時のフィルムは、乾量基準揮発分30〜300wt%の領域がよく、搬送方向の直角方向の延伸量は1〜300%範囲が適当である。フィルムの固定をピンからクリップに切り替える時点、好ましくはフィルムの乾量基準揮発分が200重量%未満、より好ましくは120〜200重量%のときである。この切り替え時にはピンとクリップの両方で固定させることが好ましく、両方で固定している状態がしばらく続く場合には上記の切り替える時点はピンが離脱したときである。
【0013】
フィルムを縦延伸し、その際耳端部を固定する場合にも、フィルムの乾量基準揮発分は30〜300wt%の範囲がよく、搬送方向の延伸量も1〜300%の範囲で延伸するのがよい。
【0014】
本発明の方法は、搬送方向の延伸と横方向の延伸を2回以上行う場合にも適用されることはいうまでもない。
【0015】
フィルムの厚みtは、20〜500μmが好ましく、30〜300μmがより好ましく、35〜200μmが最も好ましいが、これに限定されるものではない。
【0016】
本発明の方法におけるポリマー溶液に用いることができるポリマーとしては、セルロースエステル、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、アラミド樹脂などを含む。セルロースエステルとしては、セルロースの低級脂肪酸エステル(例、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレートおよびセルロースアセテートプロピオネート)が代表的である。低級脂肪酸は、炭素原子数6以下の脂肪酸を意味する。セルロースアセテートには、セルローストリアセテート(TAC)やセルロースジアセテート(DAC)が含まれる。
【0017】
揮発分となる上記ポリマーの溶剤としては、低級脂肪族炭化水素の塩化物や低級脂肪族アルコールが一般に使用される。低級脂肪族炭化水素の塩化物の例としては、メチレンクロライドを挙げることができる。低級脂肪族アルコールの例には、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコールおよびn−ブタノールが含まれる。その他の溶剤の例としては、ハロゲン化炭化水素を実質的に含まない、アセトン、炭素原子数4から12までのケトンとしては例えばメチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びメチルシクロヘキサノンが含まれ、炭素原子数3から12までのエステルとしては例えばギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル及び2−エトキシ−エチルアセテート等が含まれ、炭素原子数1から6までのアルコールとしては例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソ−プロパノール、1−ブタノール、t−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、2−メトキシエタノール及び2−ブトキシエタノール等が含まれ、炭素原子数が3から12までのエーテルとしては例えばジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトール等が含まれ、また炭素原子数が5から8までの環状炭化水素類としてはシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びシクロオクタン等が含まれる。
【0018】
溶剤としては、メチレンクロライドが特に好ましい。メチレンクロライドに他の溶剤を混合して用いてもよい。ただし、メチレンクロライドの混合率は70重量%以上であることが好ましい。特に好ましい混合率は、メチレンクロライドが75乃至93重量%、そして他の溶剤が7乃至25重量%である。溶剤はセルロースエステルフィルムの形成において除去する。溶剤の残留量は一般に5重量%未満である。残留量は、1重量%未満であることが好ましく、0.5重量%未満であることがさらに好ましい。
【0019】
また、可塑剤や紫外線吸収剤、劣化防止剤などの添加剤を加えてもよい。
【0020】
本発明で横延伸して製造されるフィルムの用途は特に限定されないが、例えば偏光板保護フィルム、光学補償フィルム等である。

【実施例】
【0021】
次の条件で実験を行った。
[フィルム処方]
固 形 分:23wt%(セルローストリアセテート、トリフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート)
溶液組成:ジクロロメタン/メタノール/n−ブタノール=82/16/2
【0022】
上記のフィルムを乾燥厚み80μmで製膜し、揮発分含量を変えて、ピン方式とクリップ方式で横延伸し、フィルムの状態を調べた結果を表1に示す。尚、延伸量は30%とした。
【0023】
【表1】



【0024】
本発明により横延伸フィルムの生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明が適用される延伸フィルム製造装置の構成の概略を示す図である。
【図2】横延伸フィルムの耳端部をピンで固定している状態を模式的に示した図である。
【図3】横延伸フィルムの耳端部をピンとクリップで固定している状態を模式的に示した図である。
【図4】横延伸されているフィルムの平面図である。
【図5】本発明が適用される別の延伸フィルム製造装置の構成の概略を示す図である。
【図6】本発明が適用される別の延伸フィルム製造装置の構成の概略を示す図である。
【図7】本発明が適用される別の延伸フィルム製造装置の構成の概略を示す図である。
【図8】本発明が適用される別の延伸フィルム製造装置の構成の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1…ダイ
2…支持体
3…縦延伸装置
4,41,42…横延伸装置
5…フィルム
6…ピン
7…クリップ
8…固定部ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発分が残存しているフィルムの耳端部を固定して搬送しながら乾燥及び横方向の延伸を行う方法において、まず耳端部の固定をピンで行い、その後耳端部の固定をクリップに切り替えることを特徴とする、溶液製膜法によるフィルムの横延伸方法
【請求項2】
耳端部の固定をピンからクリップに切り替える時点がフィルムの乾量基準揮発分が200重量%未満になってからである、請求項1記載のフィルムの横延伸方法
【請求項3】
耳端部をピンで固定して行われる搬送とクリップで固定して行われる搬送の間に複数のロールを設け、該ロールによってフィルムの縦延伸も行う、請求項2記載のフィルムの横延伸方法
【請求項4】
耳端部をピンで固定して行われる搬送とクリップで固定して行われる搬送の間でフィルムをエアー浮上させて無接触で搬送させる、請求項2記載のフィルムの横延伸方法
【請求項5】
耳端部をピン又はクリップで固定して横延伸している際に縦延伸も同時に行う請求項1、2、3又は4記載のフィルムの横延伸方法
【請求項6】
フィルムの乾量基準揮発分が120wt%以上で延伸量を1〜300wt%の横延伸することを特徴とする、請求項1、2、3、4又は5記載のフィルムの横延伸方法
【請求項7】
フィルムがセルロースエステル、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂又はアラミド樹脂よりなるものである請求項1、2、3、4、5又は6記載のフィルムの横延伸方法
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の方法を用いた偏光板保護フィルムの製造方法
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の方法を用いた光学補償フィルムの製造方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−201140(P2008−201140A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140249(P2008−140249)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【分割の表示】特願2001−149854(P2001−149854)の分割
【原出願日】平成13年5月18日(2001.5.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】