説明

樹幹の空洞状況推定方法及びその装置並びにプログラム

【課題】
樹幹に傷をつけることなく、また、経験と勘に頼らない樹幹の空洞状況推定方法及びその装置並びにプログラムの提供を図る。
【解決手段】
マイクロフォン3で採取した樹木1の打音をウェーブレット解析し、健全な樹幹の解析結果にはない特徴量A、Bの打音を検出する。特徴量A、Bの存在から、採取した樹木1に空洞があることを検出できる。よって、経験と勘に頼らずに、樹幹の空洞状況を推定できる。また、マイクロフォン3で打音を録音装置4で採取するため、樹幹7に傷をつけることもない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,樹幹の打音を採取し解析して、その樹幹内部の空洞状況を推定する樹木の空洞状況推定方法及びその装置並びにプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
公共の場に植栽された樹木は、私たちの住環境に安らぎを与え、防災、防音など様々な使命を果たしている。しかし、それらの樹木内部に空洞や腐朽など何らかの欠陥を持つことが多い。例えば、特別強風でもない天候下で倒伏するという現象が起きている。その多くは、根株心材に腐朽菌が何らかの原因で生じた外傷から侵入し、心材部を劣化させることによる樹幹支持能力の低下が原因であると考えられている。
【0003】
心材腐朽を受けた樹木でも、心材部での支持強化が失われながらも、形成層が存在し、倒伏直前まで緑の葉を茂らせ成育旺盛に見えることがある。そのため、従来の活性度判定などの生活部に重点を置いた診断方法では、倒伏などの危険性の予測判断は行うことができなかった。
【0004】
そこで従来より、樹幹を木槌などで打ち、得られる打音を人(樹木医)が聞いて、その樹幹内部の空洞状況を推定することが行われてきた。しかしながら、樹木とは茎や根において伸長成長及び肥大成長する植物であって、その樹木を構成する細胞・組織は非常に複雑に構成されている。すなわち、樹木は生きていて成長を繰り返しており、また、その成長過程における種々の外的要因(土壌等の環境的要因)から、一本一本それぞれ外形が全く異なり、かかる外形の相違により樹幹内部構成も異なっている。そのような樹木に対し木槌などで打音を発生させても、樹木外形の相違や空洞内に水分が滞留していることもあることから、樹幹内における音の伝わり方が樹木ごとに異なるため、打音もそれぞれ異なることとなってしまい、その打音から空洞状況を推定するのは経験による熟練の技を要しても大変に難しく、さらには、一本一本樹木を木槌などで打つ作業自体、非常に効率が悪いものであった。
【0005】
かかる作業の効率化を図る目的で、従来において樹木診断機器や樹幹内観診断システムが提供されている。樹木診断機器は、樹幹に細いキリを挿入して、心材の健全度を測定する診断機器である。キリを樹幹に挿入する際にかかる抵抗値を測り、抵抗が大であれば樹木は健全と判断し、抵抗が小の場合 は腐朽しているか空洞化していると判断できる(例えば非特許文献1)。
【0006】
また、樹幹内観診断システムは、音が樹幹内部を伝わるときの速度に基づいて診断できるものである。樹幹に針状の端子を刺してそこから超音波を発生させ,樹幹から得られる反射波を受信機で観測して、その結果をコンピュータ処理して表示する技術である。実際には、反射波の周波数と強さを元にCT(Computed Tomography)を利用した技術で樹幹の断面を可視化する装置として実用化されている(例えば非特許文献2)。
【0007】
【非特許文献1】http://www.toho−leo.co.jp/header.html
【非特許文献2】http://www.environment.co.jp/picus2.html#Anchor668348
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記樹木診断機器では、樹幹に穴を開けるという作業が必要であり,結果として樹幹に傷をつけることになる。樹幹に傷をつけることは、その傷から腐朽菌が侵入して樹幹内部の空洞を新たに発生させる可能性があり、樹幹内部の空洞を検出する方法としては大きな問題があった。また、従来の樹木診断機器や樹幹内観診断システムを実際の樹幹内部の空洞検査に適用しようとすると、例えば、上記樹木診断機器ではキリを樹幹に刺した際の抵抗値から内部の空洞検査を行うには経験と勘が必要であり、さらに樹幹のどの部分を検査するかということは、測定結果を元に試行錯誤的に判断しなければならず、測定法方が明確ではなかった。一方、上記樹幹内観診断システムでは、上記樹木診断機器ほど深い穴を樹幹に開ける必要はないが、超音波を樹幹内部に伝達するために端子を樹幹に刺す必要がある。これも樹幹に傷をつける空洞検査方法である。また、得られた画像と実際の空洞状況との間には誤差が大きく、空洞を認識するためには画像を理解する経験と勘が必要であるという問題があった。
【0009】
本発明は、上述の問題を解決するものであって、樹幹に傷をつけることなく、また、経験と勘に頼らない樹幹の空洞状況推定方法及びその装置並びにプログラムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明にかかる樹幹の空洞状況推定方法は、樹幹内部の空洞を検出する方法であって、採取した樹木の打音をウェーブレット解析し、空洞のない樹幹の解析結果にはない特徴量の打音を検出するようにしたものである。
【0011】
また、本発明にかかる樹幹の空洞状況推定装置は、樹幹の打音を録音する録音装置と、その録音された打音データを入力し、ウェーブレット解析し、空洞のない樹幹の解析結果にはない特徴量の打音検出を行うコンピュータとから構成されている。
【0012】
さらに、本発明にかかる樹幹の空洞状況推定装置は、前記コンピュータが、樹幹内部における空洞の存在を表示するための出力手段を備える構成とすることできる。
【0013】
またさらに、本発明にかかる樹幹の空洞状況推定装置は、前記樹幹に密着させて取り付けるものであって一定の衝撃を与える衝撃装置と、その衝撃装置に電気信号を伝送して制御する電気信号発生装置とを設ける構成とすることもできる。
【0014】
さらにまた、本発明にかかる樹幹の空洞状況推定装置は、前記樹幹に密着させて取り付けるものであって前記樹幹内部の振動を音波として変換するすくなくとも1つ以上の振動変換装置を設ける構成を採ることもできる。
【0015】
そしてまた、本発明にかかる樹幹の空洞状況推定装置は、前記電気信号発生装置を起動させるための音波発生装置を設ける構成を採用することができる。
【0016】
さらに、本発明にかかる空洞状況推定プログラムは、樹幹の空洞状況を推定するためにコンピュータを、樹幹の打音データを入力するデータ入力手段と、入力された打音データを記録するデータ記録手段と、記録された打音データに対しウェーブレット解析を行う解析手段と、該解析手段による解析結果に基づいて空洞のない樹幹の解析結果には存在しない特徴量の打音の有無を判別する判別手段と、該判別手段による判別結果から樹幹の空洞の存否を推定する推定手段と、該推定手段による推定結果を出力する出力手段として機能させるようにしたものである。
【0017】
また、本発明にかかる空洞状況推定プログラムは、上記空洞状況推定プログラムにおいて、コンピュータを、前記推定手段による推定結果の正誤を入力する正誤入力手段と、該正誤入力手段により入力された正誤データを推定基準の1つとして記憶する記憶手段として機能させるようにしたものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる樹幹の空洞状況推定方法及びその装置並びにプログラムは、打音をウェーブレット解析し、その解析結果に基づいて空洞を調査するものである。これにより、樹幹に傷をつけることなく、また、経験と勘に頼らずに、空洞の有無を判断できる。そしてまた、心材部を劣化させることによる樹幹支持能力の低下を解消することが可能となり、さらには、樹幹支持能力の低下した樹木を事前に取り除き、倒伏による事故を未然に防止することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、樹幹の打音をウェーブレット解析することにより、一定の法則に基づき樹幹の空洞を発見可能としたことを最大の特徴とする。以下、本発明にかかる樹幹の空洞状況推定方法及びその装置並びにプログラムを、図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は、本発明にかかる樹幹の空洞状況推定方法を示すフローチャートである。該樹幹の空洞状況推定方法は、樹幹内部の空洞を検出する方法であって、採取した樹幹の打音をウェーブレット解析し、空洞のない樹幹の解析結果にはない特徴量の打音を検出することにより行われる。
【0021】
まず初めに、樹幹の打音を採取することとなる(ステップS1)。かかる打音の採取方法については、特に限定はなく、人的に樹木1を木槌2で打つことで採取する方法や、機械的に衝撃装置10を用いる方法等が考え得る。採取された打音は、ウェーブレット解析を行うべく、直接あるいはICレコーダ等の録音装置4を介して、コンピュータ5に入力される(ステップS2)。
【0022】
次に、コンピュータ5に入力された打音は、ウェーブレット解析する前段階として、無音部分やノイズを含む部分を切り落とす編集処理が行われ(ステップS3)、その後に打音のウェーブレット解析が行われる(ステップS4)。ウェーブレット解析とは、Morletによって1980年代に提案された解析手法であり、対象となる音波などがウェーブレットと呼ぶ特定の周波数の波形をどの程度強く含むかを求める手法である。本発明におけるウェーブレット解析の時系列データf(x)の連続ウェーブレット変換式は、以下の数1及び数2で定義される。
【0023】
【数1】

【0024】
【数2】

【0025】
上記数2を数1に代入した式が本発明におけるウェーブレット解析で使用する式となる。尚、上記数1及び数2における記号の説明については、以下の表1の通りとなる。
【0026】
【表1】

【0027】
そして次に、ウェーブレット解析によって、ある特定の周波数をどの程度強く含むかを特徴量として該特徴量を検出し、空洞状況を推定するための所定の推定基準と対応させる処理を行うことで、樹幹の空洞状況の推定を行う(ステップS5)。
【0028】
ステップS5で推定により得られた空洞状況は、コンピュータ5のディスプレイ8に出力表示される(ステップS6)。かかる出力表示は、例えば、図2に示すような、空洞6の有無を印した樹幹7の図を示す形で行う。
【0029】
ウェーブレット解析の結果は、例えば、図3の画像によって表示することができる。ステップS5の処理を図3に基づいて具体的に説明する。図3は、ウェーブレット解析の結果を視覚で理解できるように、出力手段としてのディスプレイ8に表示したものである。
【0030】
図3に示すディスプレイ8の上側は、ウェーブレット解析の対象となった打音の波形9である。縦軸を振幅、横軸を時刻として表示したものである。中心線が振幅ゼロの値で、音波は振幅ゼロを境界として,その上下に曲線として表示される。
【0031】
図3に示すディスプレイ8の下側は、ウェーブレット解析の結果であり、縦軸は周波数(Hz)の値、横軸は時刻(秒)である。かかるディスプレイ8において、上側の打音の信号に対応して、ある時刻に音波がどの周波数成分をどの程度の強さで含むかを表している。周波数成分が含まれる強さは、図3では領域P、Q、R、S、Tの順に対応する周波数成分が含まれる強さが高いことを示している。なお、上記領域は最も強い打音を100と定め、P領域が100乃至87.5の範囲、Q領域が87.5乃至62.5の範囲、R領域が62.5乃至37.5の範囲、S領域が37.5乃至12.5の範囲、T領域が12.5以下である。
【0032】
図3に示すウェーブレット解析の結果から、同図中の矩形内の表示結果を特徴量A、Bとし、樹幹7内部の空洞状況が判明している樹幹7の打音の解析結果と比較して、推定したい樹幹7の空洞状況を求める。樹幹7内部の空洞状況が判明している樹幹の打音の解析結果では、健全な樹木では、上記特徴量A、Bの打音は見当たらなかった。また、図3の解析結果にかかる樹幹7には、空洞6の存在が認められた(図2)。
【0033】
次に、ステップS5における空洞状況の推定基準について説明する。空洞状況の推定は、上記特徴量に基づいて行う。上記解析結果から、特徴量が、最も強い打音が発生する時刻から50分の1秒乃至50分の2秒の時間帯にあり、その打音の強さが37.5以上で、かつ、200Hz乃至1200Hzの周波数の打音である場合は、「空洞あり」と推定する。上記時間帯において2つの特徴量が異なる周波数帯に存在する場合は、一番上の周波数帯で判別する。また、上記以外であっても、特徴量が、最も強い打音が発生する時刻から50分の1秒経過時に87.5以上で、かつ、1050Hz以上の周波数を有する打音である場合は、「空洞あり」と推定する。また、これに該当しない場合でも、特徴量が、50分の2秒経過時において37.5以上で、かつ、680Hz以上の周波数帯にある場合は、「空洞あり」と推定する。一方、上記のいずれにも該当しないときは、「空洞なし」と推定する。
【0034】
次に、上記樹幹の空洞状況推定方法を実施するための装置について説明する。図4は、本発明にかかる樹幹の空洞状況推定装置の構成を示す概略図である。該樹幹の空洞状況推定装置は、樹幹の打音を録音する録音装置4と、その録音された打音データを入力し、ウェーブレット解析し、空洞のない樹幹の解析結果にはない特徴量の打音を検出するコンピュータ5とから構成される。
【0035】
録音装置4には、打音を採取するマイクロフォン3が接続されている。樹木1を木槌2で打つことで樹幹7の打音を発生させ、その打音はマイクロフォン3で集音して録音装置4に録音される。かかるマイクロフォン3並びに録音装置4は、一の樹木1に対して少なくとも1セット以上録音された打音データはコンピュータ5に入力され、ウェーブレット解析が行われるとともに、空洞のない樹幹の解析結果にはない特徴量の打音検出が行われる。該コンピュータ5には、打音データをウェーブレット解析して最終的に樹幹7の空洞状況を推定するためのプログラムが組み込まれているほか、打音変換ソフトや打音転送ソフト等、その他本発明に必要なアプリケーションソフトがインストールされている。
【0036】
なお、上記マイクロフォン3並びに録音装置4は、一の樹木1に対して少なくとも一以上設ければよく、一の樹木1に対して複数設けることも可能である。複数設けることで、後述する振動変換装置12を複数設けた場合の効果と同様の効果を奏する。
【0037】
また、前記コンピュータ5が、樹幹7の空洞状況の推定結果に基づき、樹幹内部における空洞の存否を表示するための出力手段を備える構成を採ることも可能である。かかる出力手段による表示例としては、図2に示すような、空洞6の有無を印した樹幹7の図を示す形で行われる。
【0038】
樹幹の打音を採取するに際し、図5に示すように、木槌2に代えて衝撃装置10を用いても良い。該衝撃装置10は、樹幹7の表面に密着させて取り付けるものであって、電気信号発生装置11から一定の電気的信号を送ることで、樹幹7の表面に対して該衝撃装置10が一定の衝撃を与えるものである。かかる構成とすることにより、人が木槌2で樹幹7を叩く場合の衝撃のばらつきは生ぜず、常に一定の大きさの衝撃を樹幹7に与えることが可能となり、空洞状況推定の精度を上げることが可能になる。
【0039】
また、図6に示すように、マイクロフォン3に代えて、振動変換装置12を録音装置4に接続させる態様も考え得る。該振動変換装置12は、樹幹7の表面に密着させて取り付けるものであって、樹幹7の打音を録音する際に、樹幹内部の振動を音波として変換するものである。該振動変換装置12は、樹幹7の表面に少なくとも一以上設けられ、該振動変換装置12により変換された音波は、各振動変換装置12に対応する一以上の録音装置4に録音される。
【0040】
図7は、樹幹7表面に上記振動変換装置12を複数設けた場合の樹幹7の断面図を示している。衝撃装置10を使用して与えられた衝撃が振動として樹幹7内部を伝播して、それぞれの振動を音波として変換する複数の振動変換装置12に到達する。その際に、衝撃装置10から複数の振動変換装置12へのそれぞれへの距離が異なることから、振動がそれぞれへ到達するまでの時間が異なる。さらに、樹幹内部の空洞6と非空洞部分13で振動が伝播する速度が異なることから、先の時間差にプラスして、この振動伝播速度の相違が加わる。コンピュータ5は、この振動が伝播される時間差を利用して、空洞の個数や大きさ、位置を推定することが可能となる。
【0041】
また、図8に示すように、上記電気信号発生装置11を起動させるための音波発生装置14を設けた構成も考え得る。該音波発生装置14は、樹幹7の表面に衝撃を与える衝撃装置10と、それに衝撃に対応する電気信号を与える電気信号発生装置11とによって樹幹7に衝撃を与えて、それによる振動を一以上の録音装置4で録音する際に、樹幹7の表面に衝撃を与える衝撃装置10と一以上の録音装置4とを同期をとって動作させる場合に有効である。すなわち、該音波発生装置14を設けることにより、まず音波発生装置14が所定の音波を発生させ、続いてそれを受信してからある一定時間後に衝撃に対応する電気信号を与える電気信号発生装置11が起動して、実際に樹幹7の表面に衝撃を与える衝撃装置10を使用して樹幹7に衝撃を与え、さらに一定時間後に一以上の録音装置4が樹幹7の振動を音波に変換して録音するといった一連の処理を行うこととなる。
【0042】
なお、上記音波発生装置14が発生させる音波、該音波を受信して電気信号発生装置11が起動するまでの時間、そして一以上の録音装置4が起動するまでの時間については、それぞれ任意の値に設定することが可能である。
【0043】
次に、上記樹幹7の空洞状況推定方法並びにその装置を実行するためのプログラムを、図面に基づいて説明する。
【0044】
図9は、本発明にかかる空洞状況推定プログラムの第一の実施形態を示すフローチャートである。該空洞状況推定プログラムは、樹幹7の空洞状況を推定するためにコンピュータ5を、樹幹7の打音データを入力するデータ入力手段(ステップ1)と、入力された打音データを記録するデータ記録手段(ステップ2)と、記録された打音データに対しウェーブレット解析を行う解析手段(ステップ3)と、該解析手段による解析結果に基づいて空洞のない樹幹7の解析結果には存在しない特徴量の打音の有無を判別する判別手段(ステップ4)と、該判別手段による判別結果から樹幹7の空洞の存否を推定する推定手段(ステップ5)と、該推定手段による推定結果を出力する出力手段(ステップ6)として機能させるものである。
【0045】
上記第一の実施形態にかかる空洞状況推定プログラムを実行するコンピュータ5について、まず、採取した樹幹の打音データが、データ入力手段によりコンピュータ5に取り込まれ(ステップ1)、かかるデータ入力手段により取り込まれた打音データは、記録手段によりコンピュータ5内のハードウェアに記録される(ステップ2)。
【0046】
次に、上記記録手段によって記録された打音データに対して、解析手段によりウェーブレット解析が行われることとなるが、その前段階として、打音データにおける無音部分やノイズを含む部分を切り落とす編集処理が行われ、その後に打音データのウェーブレット解析が行われる(ステップ3)。
【0047】
その後、上記解析手段による解析結果に基づいて、判別手段によって空洞のない樹幹の解析結果には存在しない特徴量の打音の有無が判別され(ステップ4)、該判別手段による判別結果から、推定手段によって樹幹7の空洞の存否が推定されることとなる(ステップ5)。このとき、ステップ4において特徴量が無と判別された場合には、ステップ5において即座に「空洞なし」と推定され、逆に特徴量が有と判別された場合には、ステップ5において、所定の推定基準に基づき、「空洞あり」あるいは「空洞なし」といった、樹幹7の空洞の存否推定が行われる。
【0048】
最後に、上記推定手段による「空洞あり」あるいは「空洞なし」の推定結果は、出力手段によりコンピュータ5のディスプレイ8上に出力表示され(ステップ6)、本発明にかかる空洞状況推定プログラムを実行するコンピュータ5の一連の処理は終了する。
【0049】
図10は、本発明にかかる空洞状況推定プログラムの第二の実施形態を示すフローチャートである。該プログラムは、上記第一の実施形態にかかる空洞状況推定プログラムにおいて、コンピュータ5を、さらに推定手段(ステップ5)による推定結果の正誤を入力する正誤入力手段(ステップ7)と、該正誤入力手段により入力された正誤データを推定基準の1つとして記憶する記憶手段(ステップ8)として機能させるものである。
【0050】
上記第二の実施形態にかかる空洞状況推定プログラムについて、コンピュータ5が実行するステップ1からステップ6までの一連の処理については、第一の実施形態と同様である。該第二の実施形態にかかる空洞状況推定プログラムでは、コンピュータ5を、ステップ6の処理が終了した後に、さらにステップ5による推定結果の正誤が、正誤入力手段によりコンピュータ5に入力される(ステップ7)。かかる入力方法については、実際に樹幹7の空洞の存否が推定結果と一致したか否かに基づいて、単純に「正解」か「不正解」かをコンピュータ5へ人的に入力することにより行われる。かかる正誤入力手段により入力された正誤データは、ステップ5の推定手段における推定基準の1つとして使用すべく、記憶手段によりコンピュータ5内のハードウェアに記憶される(ステップ8)。
【0051】
上記第二の実施形態にかかる空洞状況推定プログラムは、一般にニューラルネットワークといわれる学習アルゴリズムの1つを活用したものであり、コンピュータ5が今までの樹幹7の空洞状況の推定結果を学習し、その学習に基づいて以後の推定を行うものである。すなわち、打音データをウェーブレット解析(ステップ3)して特徴量の有が判別(ステップ4)された場合に、所定の推定基準に基づいて樹幹7の空洞の存否推定(ステップ5)が行われるが、かかる推定基準に、これまでコンピュータ5が学習し記録している以前の推定結果に対する正誤データも含まれる。その結果として推定された樹幹7の空洞存否の推定結果について、実際の樹幹7の空洞存否との正誤をコンピュータ5に入力し記録することで、かかる正誤データも推定基準となる。かかる推定結果の正誤についてコンピュータ5に繰り返し学習させることにより、推定結果と実際の樹幹7の空洞存否とが一致する確立を飛躍的に向上させることが可能となる。
【実験例1】
【0052】
次に、上記構成からなる樹幹の空洞状況推定方法及びその装置並びにプログラムの効果を確かめるために、本発明にかかる樹幹の空洞状況推定装置を構成して、実験を行った。実際に樹木医による「空洞あり・なし」の診断結果が得られている23本の樹幹に対して、それぞれ約100回の打音、すなわち合計2142の打音を採取した。採取した打音をウェーブレット解析し、「空洞あり・なし」の判定結果を樹木医のそれと比較した。なお、上記樹幹の空洞状況推定装置として、マイクロフォン3に「パックエレクトレットコンデンサーマイクロホン;ECM−MS957」、ICレコーダ4に「ソニー社製;IC RECORDER ICD−ST25」を使用し、パソコン5はOSとしてWindows(登録商標)が搭載されたものを使用した。
【0053】
その結果、2142の打音中、1787打音に対して「空洞あり・なし」の判定結果が樹木医のそれと一致した。樹木医の判定結果を正解とすると、正解と一致する的中率は83%であった。これは非常に高い効果である。また,樹幹23本の1本1本に対する約100回の打音に対する的中率は,最低53%、最高99%であった。なお、的中率が53%のものがあるのは、本実施例では、人が木槌で樹幹を叩いたことによる衝撃のばらつきがあること、録音時のノイズ、樹幹の種類、サイズなど樹幹の物理的条件を考慮していないことにより,推定精度の点では発明の一部を実施した例で不十分な点が多いためである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明にかかる樹幹の空洞状況推定方法を示すフローチャートである。
【図2】推定結果の樹幹を示す断面図である。
【図3】ウェーブレット解析の解析結果のディスプレイ表示例を示す説明図である。
【図4】本発明の樹幹の空洞状況推定装置の構成を示す概略説明図である。
【図5】本発明の樹幹の空洞状況推定装置の構成を示す概略説明図である。
【図6】本発明の樹幹の空洞状況推定装置の構成を示す概略説明図である。
【図7】本発明の樹幹の空洞状況推定装置の構成を示す概略説明図である。
【図8】本発明の樹幹の空洞状況推定装置の構成を示す概略説明図である。
【図9】本発明にかかる空洞状況推定プログラムの第一の実施形態を示すフローチャートである。
【図10】本発明にかかる空洞状況推定プログラムの第二の実施形態を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0055】
1 樹木
2 木槌
3 マイクロフフォン
4 録音装置
5 コンピュータ
6 空洞
7 樹幹
8 ディスプレイ
9 波形
10 衝撃装置
11 電気信号発生装置
12 振動変換装置
13 非空洞部分
14 音波発生装置
A、B 特徴量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹幹内部の空洞を検出する方法であって、採取した樹幹の打音をウェーブレット解析し、空洞のない樹幹の解析結果にはない特徴量の打音を検出することを特徴とする樹幹の空洞状況推定方法。
【請求項2】
樹幹の打音を録音する録音装置と、その録音された打音データを入力し、ウェーブレット解析し、空洞のない樹幹の解析結果にはない特徴量の打音検出を行うコンピュータとからなることを特徴とする樹幹の空洞状況推定装置。
【請求項3】
前記コンピュータが、樹幹内部における空洞の存否を表示するための出力手段を備えることを特徴とする請求項2に記載の樹幹の空洞状況推定装置。
【請求項4】
前記樹幹に密着させて取り付けるものであって、一定の衝撃を与える衝撃装置と、その衝撃装置に電気信号を伝送して制御する電気信号発生装置とを設けたことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の樹幹の空洞状況推定装置。
【請求項5】
前記樹幹に密着させて取り付けるものであって、前記樹幹内部の振動を音波として変換する少なくとも一以上の振動変換装置を設けたことを特徴とする請求項2から請求項4のいずれかに記載の樹幹の空洞状況推定装置。
【請求項6】
前記電気信号発生装置を起動させるための音波発生装置を設けたことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の樹幹の空洞状況推定装置。
【請求項7】
樹幹の空洞状況を推定するためにコンピュータを、樹幹の打音データを入力するデータ入力手段と、入力された打音データを記録するデータ記録手段と、記録された打音データに対しウェーブレット解析を行う解析手段と、該解析手段による解析結果に基づいて空洞のない樹幹の解析結果には存在しない特徴量の打音の有無を判別する判別手段と、該判別手段による判別結果から樹幹の空洞の存否を推定する推定手段と、該推定手段による推定結果を出力する出力手段として機能させることを特徴とする空洞状況推定プログラム。
【請求項8】
前記空洞状況推定プログラムにおいて、コンピュータを、前記推定手段による推定結果の正誤を入力する正誤入力手段と、該正誤入力手段により入力された正誤データを推定基準の1つとして記憶する記憶手段として機能させることを特徴とする請求項7に記載の空洞状況推定プログラム。

【図1】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−64672(P2007−64672A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247872(P2005−247872)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(595155613)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】