説明

樹液の濃縮方法

【課題】天然成分を残したままで果実あるいは樹木などの樹液を濃縮する方法を提供する。
【解決手段】樹木から採取した甘味成分を含有する樹液を、少なくとも一回冷却して、完全に固化させた後、最初に固化した部位から融解させて順次、融解して得られる融液を分離して採取し、偏析現象を利用して甘味成分を濃縮する。さらに、こうして得られた該濃縮樹液を、蜜蜂に採取させて蜜蜂の巣に供給し、該蜜蜂の巣内で余剰の水分を蒸発させて、甘味成分がさらに濃縮された樹液を蜂蜜として得る。
【効果】甘味成分および香味成分が損なわれることがなく、原木である樹木固有の香り、風味を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白樺、楓などの樹液を効率的に、かつ揮発成分の大部分を残したまま保存可能なまでに濃縮する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
早春期に、白樺、楓などの樹木からは、甘味成分を含んだ樹液を採取することができるので、幹に穴を開けてこの穴から滲み出てくる樹液を集めてこれを糖度66度程度まで濃縮すると、保存可能な粘稠な流動体として使用されていた。すなわち、樹木から採取された樹液中には通常は0.5重量%程度の甘味成分が含有されているが、甘味成分の含有率が低いので、このままでは甘味成分が一週間程度で腐敗して利用することができなくなるが、樹液中の糖度を細菌が生存出来ない蜂蜜などと同様の高濃度にすれば、このような腐敗を防止することができる。
【0003】
そこで、樹液中に含有される水分を除去して糖度を上げるために、樹液を加熱して水分を蒸発させる蒸発法が採用されることが一般的に行われて来た。
しかしながら、こうした蒸発法では、樹液を加熱するために樹液中に含まれている揮発性の香味成分も蒸散してしまい、樹木特有の風味が減失してしまう。
【0004】
また、加熱蒸発処理の工程で、加熱により原成分が加熱変性することがあり、純粋に天然成分を残したままで樹液を濃縮することができる新たな方法が求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような甘味成分を含有する樹液を、この樹液中に含有される香味成分を失うことなく効率よく濃縮する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の樹液の濃縮方法は、果実あるいは樹木から採取した甘味成分を含有する樹液を冷却して、固化させた後、温度を上げて固化物を表面から溶解させ、溶解液を順次、分離することで樹液成分中に含有される甘み成分を濃縮することを特徴としている。
【0007】
上記の方法は一回のみでは無く、固化物から順次、分離された液を再度、固化させ、再溶解させて得られる溶液を順次、分離することで甘味成分濃度を順次、高濃度にすることを特徴としている。
【0008】
また、本発明の樹液の濃縮方法は、樹木から採取した甘味成分を含有する樹液を、冷却して固化させ、それを溶解させて得られる溶液を順次、分離して得られる該濃縮樹液を、蜜蜂に採取させて蜜蜂の巣に供給し、該蜜蜂の巣内で余剰の水分を蒸発させて、甘味成分がさらに濃縮された樹液を蜂蜜として得ることを特徴としている。
【0009】
具体的には上記の本発明の樹脂の濃縮方法においては、上記樹液から採取した甘み成分を含有する樹脂を冷凍庫に入れて固化させ、次いで、冷凍庫の外に取り出して徐徐に溶解させながら溶解液と固化部とを分離し、最初に溶けだして来る溶液部分と次々と溶解が進むにつれて生じる溶液を分離して保存する。この作業により最初に溶解して分離された溶液中には樹液中の甘味成分が最も濃縮されているので、この部分だけを集めて再び冷凍庫で固化させ、その後、同様に外に出して溶解させながら溶液を次々と分離する。この作業を繰り返すことにより、甘味成分が次第に濃くなるので、甘味成分濃度が20%程度以上に濃縮されるまで繰り返すことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹液に含まれる甘味成分を、その樹液固有の揮発成分を損なうことなく、高濃度に濃縮することができる。
従って、本発明の方法により得られる甘味成分中には樹脂の風味を醸し出す揮発成分が高濃度で含有されており、より風味の良い甘味成分を得ることができる。
【0011】
本発明の樹液の濃縮方法では、樹液を冷却固化し、ついで溶解させる操作を繰り返すことにより、甘味成分を濃縮しているが、甘味成分の濃度が高くなるにつれて一旦、固化させてから溶解させて更に甘味成分の濃縮された液を分離する効率が悪くなる傾向があるので、冷凍庫の温度を高めてゆっくりと固化させることで分離効率を高めることが出来る。こうして高度に濃縮された濃縮樹液には、甘味成分の濃度が、糖度で表すと30度以上に濃縮されて含有されており、このような濃縮樹液は、ミツバチが蜜として巣穴に運ぶようになり巣穴内に貯蔵する。この巣穴内に貯蔵された濃縮樹液は、ミツバチの巣穴内でさらに水分が蒸発して65%〜70%程度と濃厚になる。このとき、濃縮樹液中に含まれる香味成分は、ほとんど蒸散することがなく、水分が選択的に蒸発するので、ミツバチの巣穴の中でさらに濃縮された濃縮樹液中には原木の樹液中に含まれる香味成分が高濃度で含まれ、原木固有の風味のある蜜が得られる。
【0012】
また、本発明は、加熱工程を有していないので、加熱によって濃縮樹脂が着色しにくい。さらに、木材原料としての用途に乏しい白樺などの樹木に新たな用途をもたらすことができるとの効果もある。
【0013】
上記の方法は白樺の樹液にその応用が止まるものでは無い。天然には樹液を採取できる樹木はカエデ類など他にも数多くあり、それらの樹液にも同様な方法が適用出来るので、従来の単純に煮詰める方法よりも香味成分に富み、着色も抑えられた風味豊かな天然甘味料が得られる。
【0014】
さらにはブドウ、桃などの果物の絞り液についても同様に適用できる。ブドウ、桃等の絞った液は糖度が15%〜25%程度あり、これを一旦、冷凍庫で固化させてから溶解させ、最初に溶解した部分を集めると糖度が30%以上と高濃度の液が得られるので、これらを同様にミツバチに与えると、ミツバチが蜜として巣穴に運ぶようになり巣穴内に貯蔵する。この巣穴内に貯蔵された濃縮樹液は、ミツバチの巣穴内でさらに水分が蒸発して65%〜70%程度と濃厚になる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明の樹液の濃縮方法について具体的に説明する。
本発明の樹液の濃縮方法では、原木となる樹木から樹液を採取する。本発明において原木となる樹木は、甘味成分と香味成分とを含む樹液が用いられ、これらの例としては、白樺、楓、砂糖楓、紅葉、クロカエデ、アメリカハナノキ、ギンカエデ、シロスジカエデ、アメリカヤカモミジ、ノルウェーカエデ、クルミの木などを挙げることができる。また,本発明では甘味成分として、ブドウ、桃等の果物を絞った液等を用いることもできる。特に我が国では木工原料として利用価値の低い、白樺、楓、紅葉などを原木として有効に利用することができる。さらに、白樺、楓、紅葉の樹液は、独特の香味成分を含有しており、これらを濃縮した濃縮樹液は、特異的な香味を有するシロップとなり得る。
【0016】
樹液の採取には、通常は10cm以上、好ましくは20〜60cmの直径を有する樹木を使用する。これらの樹木からの樹液の採取は、通常は、2〜4月頃の早春に行うのが好適である。
【0017】
樹液は、上記のような樹木に直径0.5〜2cmの穴を穿設するか、または、幹に傷をつけて、そこから滲み出る樹液を受器に採取する。
穴を穿設して樹液を採取する場合には、樹木の直径の1/2以下の深さの穴を穿設する。穴の大きさに特に制限はないが、樹液の流出量と樹木へのダメージを勘案して通常は5〜15mm程度の直径の穴を穿設する。また、幹に傷をつけて樹液を採取する場合には、樹木の幹に1mm〜10mmの深さの傷を樹木の表面に螺旋状に形成することが好ましい。
【0018】
上記のような樹液を採取する穴あるいは溝から滲み出す樹液を受け止めるように、樹木に受器を配置する。
上記のようにして得られた樹液は、通常は、0.2〜1%程度の濃度で甘味成分を含有し、さらに少量の香味成分を含有している。このようにして採取された樹液は、甘味成分の含有率が低いために、そのままでは甘味成分が腐敗して一週間程度で濁りが発生し、使用することができなくなる。
【0019】
このような樹液を長期間保存するためには、糖度を60度以上にする必要があり、含有される水分を除去して濃縮する必要がある。一般に、メイプルシロップなどを製造する際には、上記のようにして採取した樹液を加熱して水分を蒸発させて除去する方法が採用されている。しかしながら、水分を除去するために樹液を加熱すると、この樹液中に含有される香味成分の一部も蒸散してしまい、原木の有する風味が損なわれる。さらには加熱によって成分が変化してしまい、着色して黒化してしまったり、苦味が発生してしまったりしていた。
【0020】
そこで、本発明では、採取した樹液を加熱するのではなく、樹液を冷凍庫で固化させ、それをゆっくりと表面から溶かしながら溶けた溶液をつぎつぎに分離する。この作業により、最初に固化物が溶解した部分には甘味成分が濃縮されているので、それらを集めて再び冷凍庫で固化させ、同様に表面から溶かしながら溶け出てくる溶液を分離すると最初に溶けだしてきた溶液部分には甘味成分が濃縮されている。
【0021】
固化物は表面から溶け出すが最初に溶けだした部分の濃度が最も高く、溶解が進むにつれて次第に濃度は低くなり、最後には原液よりも薄くなる。この現象は一般的に“偏析”と呼ばれる現象であり、水分に糖分などが混入している場合に、通常、見られる現象である。固化後、最初に溶けだした部分の糖度が最も高く、例えば全体の3〜5%程度が溶解した液の糖度は原液の10倍程度と極めて高濃度となるが、この糖度は溶解が進むにつれて次第に低くなっていく。
【0022】
この操作を少なくとも一回、好ましくは3〜5回繰り返えして行うことにより、甘味成分および香味成分の含有率の高い樹液を得ることができる。
このような操作を繰り返すことにより、濃縮樹液中の甘味成分および香味成分の含有率は徐々に高くなり、通常は2〜6回、好適には3〜4回上記操作を繰り返すことにより、濃縮樹液中の甘味成分の含有率が、糖度で表すと15度以上、好ましくは30度以上になる。そして、さらに上記操作を繰り返すことにより、糖度を50度以上にすることが可能である。
【0023】
上記のようにして好適には糖度を60度以上、好ましくは66度以上にすることにより、濃縮樹液が酸化により腐敗することはなく、長期保存が可能になるが、一方で、濃縮樹液中の甘味成分の濃度が高くなるにつれて、濃縮樹液の粘度が高くなり、冷却した際に濃縮樹液の流動性が低くなることから、上述の偏析による濃縮効果が次第に低くなってしまうので、冷凍庫の温度を上げて、固化速度を極端に遅くする必要が高くなり、実用性が低くなる欠点が生じる。
【0024】
ところで、蜜蜂は、花の蜜を採取し、これを巣内に貯蔵することにより、余剰の水分が蒸発して濃厚な蜂蜜を生成することが知られているが、蜜蜂は花蜜だけではなく、一定の濃度の甘味成分を有する液体も採取して巣に貯蔵するとの習性を有している。
【0025】
蜜蜂が花の蜜と誤認して採取して巣箱に貯蔵するためには、液体中における糖度が20度以上、好ましくは30度以上あることが必要である。
本発明において、上述のようにして一度、固化させてから表面から溶解させ、溶液を分離して甘味成分を濃縮しようとすると、糖度20度程度までは、濃縮樹液の著しい粘度増加はみられないが、糖度30度を超すと濃縮樹液の粘度が急峻に高くなり、偏析現象を利用した濃縮の作業効率が低下する。
【0026】
そこで上記の方法で濃縮した糖度30%程度の濃縮樹液をミツバチの巣箱の中に設けられた給餌器に供給するとミツバチはせっせと巣に運ぶ。
蜜蜂に採取された濃縮樹液は、蜜蜂の巣内においてさらにハチによって濃縮され数日で60度以上に濃縮され蜂蜜として長期保存される。
【0027】
このようにして保存可能となるまで濃縮された樹液は加熱工程を経ていないので、甘味成分と共に香味成分も蒸散することがなく、しかも加熱によって変成を受けることがない利点がある。
【0028】
従って、本発明の方法で製造された濃縮樹液は、原木の樹液に含有されていた甘味成分および香味成分が変成を受けることなく高濃度で含有されている。このため本発明の方法で得られた濃縮樹液は、原木の風味を有しており、しかも甘味成分および香味成分が高濃度で含有されているので、長期間安定に保存することができる。
【実施例】
【0029】
次に本発明の実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0030】
〔実施例1〕
太さ(直径)約30cmの白樺の木に、地上から約50cmの高さに、この白樺の木に直角に直径約6mm、深さ10mmの穴をあけ、この穴から滲み出す樹液を、白樺の木に受器を取り付けて採取した。
【0031】
この白樺の木から、一日で約1500mlの樹液を採取することができた。
上記と同様にして採取した白樺の樹液について糖度(アタゴポケット糖度計PAL-Jを使用)を測定したところ、この白樺の樹液の原液の糖度は0.5(Brix %)であった。
【0032】
こうして採取した白樺の樹液原液(温度:30℃)を、容量2000mlのプラスチック容器50本に、1900mlずつ入れて、温度−15℃に設定した冷凍庫にいれ凍結させた。一昼夜で完全に全体が固化したので、冷凍庫から取り出した後、室温に放置した。2時間程度、放置後、容器内部の固化物の表面が溶けだしたので、溶液を分離した。この濃縮樹液1の分量は10.1リットルであり、糖度は3.5(Brix %)であり、樹液原液よりも糖分が濃縮されていた。残った固化物はそのまま放置し、さらに2時間後に溶けだした溶液を分離したところ、分量は12.5リットル、糖度は1.5(Brix %)であった。同様に順次、溶けだした液を分離し、糖度を測定したところ、次第に低くなり、最終的に残った液の糖度は0.2(Brix %)であった。
【0033】
次に、上記操作で分離して得られたBrix糖度3.5%の液、1.5Brix糖度の液、1.1Brix糖度の液、Brix糖度0.8%の液をそれぞれ個別に同様にプラスチック容器に1900mlずつ入れ、冷凍庫に保存した後、一昼夜して完全に固化していることを確認できたので、冷凍庫から取り出し、同様に室温で溶けだしてくる液を分離して糖度を測定した。いずれの場合にも固化物が最初に溶けだしてきた溶液の糖度はその容器の最初の糖度よりも高い糖度を示し、濃縮効果が表れていた。溶解が進むにつれて糖度が低くなる傾向も全く同様であった。最も高い糖度(3.5 Brix%)液を固化させて最初に溶解させた部分の糖度は15 Brix%であった。
この液を再度、プラスチック容器に入れ、冷凍庫で固化させた後、室温で溶かした最初の液の糖度は25 Brix%であった。
【0034】
〔実施例2〕
上記実施例1で製造された濃縮樹液(1)(容量:1000ml :糖度25 Brix %)を、蜜蜂が採取可能なように巣箱の中に設置した給餌器に入れ、様子を観察したところ蜜蜂が集まり、濃縮樹液(1)を採取して蜜蜂の巣に搬送した。
【0035】
供給した濃縮樹液(1)1000mlは丸一日で全てが蜜蜂に採取され巣枠に運ばれた。翌日、再び同じ濃縮樹液(2)(容量1000ml :糖度25 Brix %)を、同様に蜜蜂が採取可能なように巣箱の中に設置した給餌器に入れ、様子を観察したところやはり蜜蜂が集まり、濃縮樹液(2)を採取して蜜蜂の巣に搬送した。さらに二日後、再度、濃縮樹液(3)(容量 1000ml :糖度25 Brix %)を同様に蜜蜂が採取可能なように巣箱の中に設置した給餌器に入れ、様子を観察したところやはり蜜蜂が集まり、濃縮樹液(3)を採取して蜜蜂の巣に搬送した。
【0036】
一週間後、蜜蜂の巣枠を取り出して蜂蜜を採取した。
得られた蜂蜜は白樺の香りを有していた。
この蜂蜜の糖度を測定したところ、66 Brix%であり、供給した濃縮樹液(1)〜(3)中に含有されていた水分が選択的に除去されて、樹液が好適に濃縮されたことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実あるいは樹木から採取した甘味成分を含有する樹液を冷却して、固化させた後、温度を上げて固化物を表面から溶解させ、溶解液を順次、分離することで樹液成分中に含有される甘み成分を濃縮することを特徴とする樹液の濃縮方法。
【請求項2】
上記操作を濃縮樹液の糖度が15度以上になるまで繰り返すことを特徴とする請求項第1項記載の樹液の濃縮方法。
【請求項3】
果実あるいは樹木から採取した甘味成分を含有する樹液を、少なくとも一回冷却して固化してから表面から融解させ、最初に固化した部分から順次、融解させることにより偏析を用いて濃縮した濃縮樹液を蜜蜂に採取させて蜜蜂の巣に供給し、該蜜蜂の巣内で余剰の水分を蒸発させて、甘味成分がさらに濃縮された樹液を蜂蜜として得ることを特徴とする樹液の濃縮方法。

【公開番号】特開2011−55742(P2011−55742A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207028(P2009−207028)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(509252472)株式会社クリスタルファーム (1)
【Fターム(参考)】