説明

樹脂コンベヤベルト

【課題】 非付着性、耐磨耗性、及び、汚染性に優れる樹脂コンベヤベルトを提供すること。
【解決手段】 熱可塑性樹脂層と、接着処理された芯体帆布とが積層された樹脂コンベヤベルトであって、前記熱可塑性樹脂層が、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂と、当該熱可塑性ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して1重量部以上10重量部以下の多相構造型のグラフト共重合体とからなり、上記多相構造型のグラフト共重合体が脂肪酸アミドを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂コンベヤベルトに関し、特にパン生地、饅頭、チョコレート等の食品を搬送するのに好適な食品用樹脂コンベヤベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱可塑性樹脂と、芯体帆布とが積層された、軽搬送用の樹脂コンベヤベルトは知られている。
【0003】
パン生地、饅頭、チョコレート等未包装の食品を搬送するために用いられているコンベヤベルトのカバー材として、食品が表面に付着せず、人体に有害な成分を含まず、かつ、柔軟な弾性体である非付着性のポリウレタン樹脂が使用されている。
【0004】
しかしながら、非付着性のポリウレタン樹脂を用いた場合、非付着性は優れているが、次のような問題点があった。
【0005】
(1)チョコレート、飴、ジャム等を搬送すると、コンベヤベルトにチョコレート、飴、ジャム等の色が付着し、洗浄されても落ちない場合があった。
【0006】
(2)ポリウレタン樹脂は窒素原子を有しているために、コンベヤベルトが廃棄処理される際に、燃焼させると、条件によっては、シアンガス等が発生する可能性があった。
【0007】
そこで、非付着性で、コンベヤベルトにチョコレート、飴、ジャム等の色が付き難く、燃焼されてもシアンガスが発生しないコンベヤベルトのカバー材として、ポリオレフィン系樹脂が提案されている。
【0008】
なお、本発明は、発明者独自の着想により完成されたもので、先行技術文献として記載すべきものはない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂では、柔軟性を有しておらず、コンベヤベルトのカバー材として用いた場合、小プーリ径で使用できず、クラックが発生し易いという問題があった。
【0010】
柔軟性を付与するために、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂にエチレンプロピレンゴムを配合したものが提案されているが、食品を搬送するには食品衛生に関する法律等(例えば、厚生省告示第370号等)に関する問題があった。
【0011】
さらに、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂にエチレンプロピレンゴムを配合したものは、さらに耐摩耗性や非付着性が悪くなる傾向があり、コンベヤベルトのカバー材として用いた場合、コンベヤベルトの寿命が短くなるという問題点があった。
【0012】
また、耐磨耗性を向上させるために、フッ素系潤滑材や低分子量のワックスを配合することがあるが、フッ素系潤滑材や低分子量のワックスは、ブリードやブルーム等を発生し易く、食品に混入することがあった。
【0013】
そこで、本発明の目的は、非付着性、耐磨耗性、及び、汚染性に優れる樹脂コンベヤベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂層と、接着処理された芯体帆布とが積層された樹脂コンベヤベルトであって、前記熱可塑性樹脂層が、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂と、当該熱可塑性ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して1重量部以上10重量部以下の多相構造型のグラフト共重合体とからなり、上記多相構造型のグラフト共重合体が脂肪酸アミドを含有することを特徴とする。
【0015】
本発明の樹脂コンベヤベルトによれば、フッ素系潤滑材や低分子量のワックスを用いないで、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂と多相構造型のグラフト共重合体と脂肪酸アミドとの相溶性が良好であるので、ブリードやブリーム等を発生させずに、汚染性を向上させるとともに、耐磨耗性を向上させることができる。
【0016】
また、脂肪酸アミドを用いているので、パン生地、チョコレート及びその包装品等の食品を付着させない非付着性にも優れている。
【0017】
このとき、多層構造型のグラフト共重合体が1重量部未満であると、所望の非付着性、耐摩耗性及び汚染性が得られない。また、10重量部を超えると、押出成形時にサージング現象を起こし、押出成形が出来なくなってしまう。
【0018】
また、本発明は、前記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂が、エチレン−オクテン共重合体であることが好ましい。
【0019】
エチレン−オクテン共重合体は、柔軟性を有するので、樹脂コンベヤベルトとして用いられても破損することがなく、小プーリ径にも用いられることができる。さらに、柔軟性を付与されるために、エチレンプロピレンゴムが混合されていないので、食品衛生に関する法律等に関する問題がなく、樹脂コンベヤベルトとして用いられる際、食品を搬送させるのに適している。
【0020】
さらに、本発明は、前記芯体帆布は、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維からなる群より選択されるがポリエステル繊維が望ましい。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明の樹脂コンベヤベルトによれば、フッ素系潤滑材や低分子量のワックスを用いないで、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂と多相構造型のグラフト共重合体と脂肪酸アミドとの相溶性が良好であるので、ブリードやブリーム等を発生させずに、汚染性を向上させるとともに、耐磨耗性を向上させることができる。
【0022】
また、脂肪酸アミドを用いているので、パン生地、チョコレート及びその包装品等の食品を付着させない非付着性にも優れている。
【0023】
このとき、多層構造型のグラフト共重合体が1重量部未満であると、所望の非付着性、耐摩耗性及び汚染性が得られない。また、10重量部を超えると、押出成形時にサージング現象を起こし、押出成形が出来なくなってしまう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の食品用樹脂コンベヤベルトの実施形態の一例の一部を示す斜視図である。
【0025】
食品用樹脂コンベヤベルト1は、熱可塑性樹脂層2と、芯体帆布3とが積層されたものであるとともに、プーリ4により支持されている。そして、食品用樹脂コンベヤベルト1は、熱可塑性樹脂層2を外側にしながら、プーリ4の周りを回ることになる。
【0026】
したがって、外側の熱可塑性樹脂層2が、食品を搬送する搬送面となる。
【0027】
また、芯体帆布3は、食品用樹脂コンベヤベルト1に加わる重力や駆動力を支持するように、機械的強度を付与するものである。
【0028】
上記食品用樹脂コンベヤベルトは、その用途に応じて複数層で構成するものであってもよい。また、上記芯体帆布は、2層以上配設してもよい。
【0029】
上記熱可塑性樹脂の表面には、凹凸形状が形成されていてもよい。
【0030】
上記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン−オクテン共重合体が好ましい。
【0031】
上記脂肪酸アミドとしては、特に限定されず、例えば、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘミン酸アミド等の飽和脂肪族アミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ブラシジン酸アミド、エライジン酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド等のビス脂肪酸アミド等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上を併用されてもよい。
【0032】
上記芯体帆布としては、例えば、繊維からなるフィラメントを引き揃え、又は、撚り合せて500〜2000デシックスのコードをもって、平織、マット織、綾織又は朱子織にて織製されたもの等が挙げられる。
【0033】
本発明の食品用樹脂コンベヤベルトは、例えば、以下のようにして製造することができる。熱可塑性ポリオレフィン系樹脂、グラフト共重合体、脂肪酸アミド、及び、必要に応じて、顔料等のその他の添加剤等を混合し、混練りして樹脂組成物を得る。得られた樹脂組成物を、例えば、押出機に投入し、約200℃の温度で溶融し、接着剤を含浸付着させた芯体帆布とラミネートし、本発明の食品用樹脂コンベヤベルトを得る。
【0034】
本発明の食品用樹脂コンベヤベルトは、パン生地;饅頭;チョコレート、飴、ジャム等の菓子;食肉;魚貝;惣菜等の食品及びその包装品を搬送するのに好適であり、加工食品工場等において好適に使用される。
【0035】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲において種々の変更が可能である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきものではないことはもちろんである。
【0037】
(実施例1)
エチレン−オクテン共重合体(商品名:エンゲージ8440、デュポン ダウ エラストマー ジャパン株式会社製)100重量部、グラフト共重合体と脂肪酸アミドとの混合物(商品名:ノフアロイKA532、日本油脂株式会社製)1重量部、顔料(商品名:PE−RM−SSC 2009(K)ホワイト、大日精化工業株式会社製)5重量部を混練し、30mm押出機でペレットとした。得られたペレットを、押出機に投入し、約200℃の成形温度にて溶融し、接着処理された芯体帆布とラミネートし、実施例1に係る食品用樹脂コンベヤベルトを得た。
【0038】
(実施例2)
グラフト共重合体と脂肪酸アミドとの混合物(商品名:ノフアロイKA532)1重量部に代えて、グラフト共重合体と脂肪酸アミドとの混合物(商品名:ノフアロイKA532)3重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る食品用樹脂コンベヤベルトを得た。
【0039】
(実施例3)
グラフト共重合体と脂肪酸アミドとの混合物(商品名:ノフアロイKA532)1重量部に代えて、グラフト共重合体と脂肪酸アミドとの混合物(商品名:ノフアロイKA532)5重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る食品用樹脂コンベヤベルトを得た。
【0040】
(実施例4)
グラフト共重合体と脂肪酸アミドとの混合物(商品名:ノフアロイKA532)1重量部に代えて、グラフト共重合体と脂肪酸アミドとの混合物(商品名:ノフアロイKA532)10重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係る食品用樹脂コンベヤベルトを得た。
【0041】
(比較例1)
グラフト共重合体と脂肪酸アミドとの混合物(商品名:ノフアロイKA532)1重量部に代えて、グラフト共重合体と脂肪酸アミドとの混合物(商品名:ノフアロイKA532)0.8重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る食品用樹脂コンベヤベルトを得た。
【0042】
(比較例2)
グラフト共重合体と脂肪酸アミドとの混合物(商品名:ノフアロイKA532)1重量部に代えて、グラフト共重合体と脂肪酸アミドとの混合物(商品名:ノフアロイKA532)12重量部を使用した以外は、実施例1と同様にしたが、サージング現象を起こし食品用樹脂コンベヤベルトを得ることができなかった。
【0043】
(比較例3)
エチレン−オクテン共重合体(商品名:エンゲージ8440)、グラフト共重合体と脂肪酸アミドとの混合物(商品名:ノフアロイKA532)に代えて、オレフィン系熱可塑性エラストマとして「商品名:サントプレーン201−80、エーイーエス・ジャパン株式会社製」を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係る食品用樹脂コンベヤベルトを得た。
【0044】
(比較例4)
エチレン−オクテン共重合体(商品名:エンゲージ8440)、グラフト共重合体と脂肪酸アミドとの混合物(商品名:ノフアロイKA532)に代えて、ポリウレタン樹脂(商品名:エラストラン、BASFジャパン(株)製)を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例4に係る食品用樹脂コンベヤベルトを得た。
【0045】
<評価方法>
(耐摩耗性)
JIS K 7204に従い、テーバー摩耗試験を用い、重さ1000gの荷重を載せ、H22の摩耗輪により1000回摩耗させた後、摩耗量を測定した。その結果を表1に示す。
【0046】
(非付着性(テープ))
テープ(商品名:エバーセルOPPテープ830EV、積水化学工業株式会社製;幅50mm)を表面に貼り付け、5kg/cm2の圧力で5分間プレスした。その後、テープを剥離するときの強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0047】
(非付着性(クロワッサン))
市販のクロワッサン用パン生地の素を水を加えて混練した後、食品用樹脂コンベヤベルト上に2時間放置した。その後、食品用樹脂コンベヤベルトを裏返して剥離するか観察し、剥離しなかったときは直径50mm(φ50)、30mm(φ30)、25mm(φ25)、20mm(φ20)のプーリを順に用いて、どのプーリで剥離するか観察した。その結果を表1に示す。
【0048】
(非付着性(チョコレート))
市販のミルクチョコレートを溶かした後、食品用樹脂コンベヤベルト上で固化させた。その後、食品用樹脂コンベヤベルトを裏返して剥離するか観察し、剥離しなかったときは直径50mm(φ50)、30mm(φ30)、25mm(φ25)、20mm(φ20)のプーリを順に用いて、どのプーリで剥離するか観察した。その結果を表1に示す。
【0049】
(非付着性(餅))
市販の切り餅を電子レンジで柔らかくした後、食品用樹脂コンベヤベルト上に手で押さえつけた。その後、食品用樹脂コンベヤベルトを裏返して剥離するか観察し、剥離しなかったときは直径50mm(φ50)、30mm(φ30)、25mm(φ25)、20mm(φ20)のプーリを順に用いて、どのプーリで剥離するか観察した。その結果を表1に示す。
【0050】
(非付着性(飴))
市販の飴を40℃のお湯で表面が溶け出すように柔らかくした後、食品用樹脂コンベヤベルト上で固化させた。その後、食品用樹脂コンベヤベルトを裏返して剥離するか観察し、剥離しなかったときは直径50mm(φ50)、30mm(φ30)、25mm(φ25)、20mm(φ20)のプーリを順に用いて、どのプーリで剥離するか観察した。その結果を表1に示す。
【0051】
(汚染性)
上記市販の飴を40℃のお湯で表面が溶け出す様に柔らかくした後食品用樹脂コンベヤベルト表面に置いた24時間後、飴を取り除き、表面を洗浄した。これを20回繰り返した後、表面を目視にて観察し、下記評価基準で評価した。その結果を表1に示した。
○:飴の色の付着がほとんど見られない。
△:飴の色の付着がやや目立つ。
×:飴の色の付着が大きく目立つ。
【0052】
【表1】

【0053】
表1から明らかなように、実施例1〜4に係る食品用樹脂コンベヤベルトは、非付着性、耐磨耗性、及び、汚染性に優れるものであった。
【0054】
一方、比較例1に係る食品用樹脂コンベヤベルトは、グラフト共重合体と脂肪酸アミドとが1重量部以上で含有していないので、非付着性、耐磨耗性を低下させた。また、比較例2に係る食品用樹脂コンベヤベルトは、グラフト共重合体と脂肪酸アミドとが10重量部以下で含有していないので、成形できなかった。
【0055】
そして、比較例3に係る食品用樹脂コンベヤベルトは、非付着性、耐磨耗性を低下させるとともに、エチレンプロピレンゴムを混合しているため、食品衛生に関する法律により問題があった。
【0056】
さらに、比較例4に係る食品用樹脂コンベヤベルトは、非付着性、汚染性を低下させるとともに、窒素原子を混合しているため、廃棄処理される際に問題があった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の食品用樹脂コンベヤベルトの実施形態の一例の一部を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0058】
1 食品用樹脂コンベヤベルト
2 熱可塑性樹脂層
3 芯体帆布
4 プーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂層と、接着処理された芯体帆布とが積層された樹脂コンベヤベルトであって、
前記熱可塑性樹脂層が、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂と、
当該熱可塑性ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して1重量部以上10重量部以下の多相構造型のグラフト共重合体とからなり、
上記多相構造型のグラフト共重合体が脂肪酸アミドを含有することを特徴とする樹脂コンベヤベルト。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂が、エチレン−オクテン共重合体である請求項1に記載の樹脂コンベヤベルト。



【図1】
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【公開番号】特開2006−8378(P2006−8378A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191215(P2004−191215)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】