説明

樹脂チューブの製造方法

【課題】多孔質部と低気孔率部とが段差なしに連続している樹脂チューブの製造方法を提供する。
【解決手段】成形型1内に液状原料Lをほぼ満杯となるまで注入後マンドレル4を上昇させ、マンドレル4の先端を成形型1の上端よりも上方に突出させる。この状態で、液状原料L中の含酸素/窒素有機溶媒を親水性有機溶媒で抽出し、液状原料Lを固化させる。次いで脱型し、水溶性高分子化合物を水で抽出する。小径部5aを切削加工により形成した後、加熱ロール7,7間に通して大径部5bを小径部5aと同径まで塑性的に加熱圧縮変形させ、樹脂チューブ8を成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂チューブの製造方法に係り、特に多孔質部分と低気孔率部とが連続一体化された樹脂チューブの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は心機能補助装置のような血液循環装置システムと心臓や血管などの生体組織の接続に使用される送脱血管に好適な樹脂チューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人工血管として種々のものが使用されている。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の多孔質体は、柔軟性及び可撓性を有すると共に生体組織適合性に優れ、多孔質であるために、通常の縫合糸及び針を使用して生体組織と縫合することができる(特開平11−290448号)。
【0003】
また、特開2000−139967号には、人工血管本体の外周にフィラメントが螺旋状に融着されてなる人工血管が開示されている。同号の人工血管によると、柔軟性を維持しつつ、キンクや圧迫による変形を防止することができる。
【0004】
ところで、本願出願人により、熱可塑性ポリウレタン樹脂製多孔質材料が特開2003−253035号により提案されている。
【特許文献1】特開平11−290448号
【特許文献2】特開2000−139967号
【特許文献3】特開2003−253035号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、実用化されている人工心臓システムは体内埋め込み型と体外設置型などが存在する。これらシステムの構成は、循環用ポンプ、制御装置、血液回路、人工血管に大きく分けられる。ここで、システムが体内埋め込み型であっても体外設置型であっても血液回路だけはその一部もしくは全部が体内に埋め込まれた状態で使用される。このため血液回路は、
i)組織圧により潰されることないこと、
ii)距離合わせや位置合わせが可能な可撓性または変形性を持っていること、
iii)強度、耐久性に優れていることが必要であり、チタンなどの金属チューブ(カニューレ)、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などの可撓性樹脂からなる緻密質樹脂チューブが使用されている。
【0006】
一方、金属チューブや緻密質樹脂チューブは、循環用ポンプへ接続するすることは容易であるが、生体組織(心臓や血管)と縫合することは不可能である。従って、現在、緻密質樹脂チューブ(血液回路を意味する)と生体組織の接続には、上記した人工血管と呼ばれる多孔質樹脂チューブを緻密質樹脂チューブ末端へ嵌装したり、布を巻き付けて筒状に固定し、この人工血管や布を生体組織へ縫合することで行われる。
【0007】
この多孔質樹脂チューブと緻密質樹脂チューブとを接続する場合、接続部に段差があると、この段差部分で血栓が生じ易くなる。また、多孔質樹脂チューブの該段差部分に応力が集中し、耐久性が乏しくなり易い。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決し、多孔質部分と低気孔率部とが段差なしに連続している樹脂チューブの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の樹脂チューブの製造方法は、管軸方向の一部が他の部分よりも気孔率が低い低気孔率部となっている樹脂チューブを製造する方法において、小径部と、該小径部よりも外径が大きい大径部とを有しており、内径は管軸方向において等径であり、全体として多孔質となっている、熱可塑性樹脂よりなる樹脂チューブ素体を形成する工程と、該大径部を縮径方向に塑性的に加熱圧縮変形させて低気孔率部を形成する工程と、によって該樹脂チューブを製造することを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の樹脂チューブの製造方法は、請求項1において、筒軸方向を上下方向とした円筒形キャビティを有する成形型内で液状原料を固化させて円筒形固化物とし、次いでこの固化物を多孔化処理することにより樹脂チューブ原体を製造し、次いで該樹脂チューブ原体に切削加工を施すことにより前記樹脂チューブ素体を形成するようにした樹脂チューブの製造方法であって、前記成形型は、底部にマンドレル挿通孔を有した円筒形の成形型本体と、該マンドレル挿通孔に挿通されるマンドレルとを有しており、該マンドレル挿通孔にマンドレルの先端側を挿入した状態で成形型本体内に前記液状原料を注入した後、マンドレルを上昇させてマンドレルの先端を成形型本体の上端から上方へ突出させ、この状態で液状原料を固化させることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3の樹脂チューブの製造方法は、請求項2において、前記液状原料は、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、水溶性高分子材料と、分子内に酸素原子又は窒素原子を含む含酸素/窒素有機溶媒とを含むポリマードープであり、前記成形型内に前記液状原料を供給した後、液状原料を親水性有機溶媒と接触させて該液状原料中の含酸素/窒素有機溶媒を抽出することにより該液状原料を固化させて前記円筒形固化物を形成し、次いで水によって水溶性高分子材料を抽出することにより前記多孔化処理を行い、これにより前記樹脂チューブ原体を製造することを特徴とするものである。
【0012】
請求項4の樹脂チューブの製造方法は、請求項3において、前記水溶性高分子材料は、少なくとも一個のα−1,4結合及び/又はβ−1,4結合を有するオリゴ糖及び多糖並びにこれらの誘導体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の水溶性高分子化合物であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5の樹脂チューブの製造方法は、請求項4において、該ポリマードープが、熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜90重量部と、前記水溶性高分子化合物0.2〜90重量部と、前記含酸素/窒素有機溶媒0.2〜99.6重量部とを合計で100重量部含むことを特徴とするものである。
【0014】
請求項6の樹脂チューブの製造方法は、請求項5において、該ポリマードープが熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜50重量部と、前記水溶性高分子化合物0.2〜50重量部と、前記含酸素/窒素有機溶媒0.2〜99.6重量部とを含むことを特徴とするものである。
【0015】
請求項7の樹脂チューブの製造方法は、請求項4ないし6のいずれか1項において、前記親水性有機溶媒がメタノール、エタノール、プロパノール及びアセトン並びにこれらの誘導体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするものである。
【0016】
請求項8の樹脂チューブの製造方法は、請求項4ないし7のいずれか1項において、前記含酸素/窒素有機溶媒がテトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン及びそれらの単純置換体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするものである。
【0017】
請求項9の樹脂チューブの製造方法は、請求項4ないし8のいずれか1項において、前記水溶性高分子化合物がセルロースエステルであることを特徴とするものである。
【0018】
請求項10の樹脂チューブの製造方法は、請求項9において、前記水溶性高分子化合物がカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするものである。
【0019】
請求項11の樹脂チューブの製造方法は、請求項1ないし10のいずれか1項において、前記樹脂チューブ素体の前記大径部を加熱ロールによって加熱圧縮変形させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の樹脂チューブの製造方法によると、大径部と小径部とを有し、全体として多孔質となっている熱可塑性樹脂製の樹脂チューブ素体を形成し、この大径部を縮径方向に塑性的に加熱圧縮変形させて低気孔率部を形成する。得られた樹脂チューブのうち大径部に由来する部分が低気孔率部(気孔率ゼロであってもよい。)となっており、小径部に由来する部分はそのまま多孔質となっている。このようにして、低気孔率部と多孔質部とが管軸方向に配置位置を異ならせて配置され、且つ全体として一連一体となっている樹脂チューブが得られる。この樹脂チューブの内径は全体として等径である。
【0021】
上記の樹脂チューブ素体を得るには、樹脂チューブ原体を成形し、次いで切削加工するのが好ましい。この樹脂チューブ原体を製造するには、筒軸方向を上下方向とした円筒形キャビティ内で液状原料を固化させ、次いでこの固化物を多孔化処理するのが好ましい。
【0022】
この成形型は、円筒形の成形型本体と、それに挿通されたマンドレルとを有するものが好ましい。
【0023】
上記の液状原料は、ポリマードープなどよりなり、粘性が比較的高いので、液状原料を成形型内に注入するときには、マンドレルを下げておき、液状原料を注入した後、マンドレルを上昇させるのが好ましい。これにより、キャビティ内に気泡を残留させることなく液状原料を注入することができる。
【0024】
本発明では、樹脂チューブ原体は、熱可塑性ポリウレタン樹脂の多孔質材料よりなることが好ましい。
【0025】
この熱可塑性ポリウレタン樹脂製多孔性材料よりなる樹脂チューブ原体の製造方法としては、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、水溶性高分子化合物と、分子内に酸素原子又は窒素原子を含む含酸素/窒素有機溶媒とを含むポリマードープを、親水性有機溶媒を含む凝固浴中に浸漬し、前記含酸素/窒素有機溶媒を抽出除去して前記熱可塑性ポリウレタン樹脂を凝固せしめて円筒形固化物とし、次いでこの円筒形固化物から前記水溶性高分子化合物を水によって抽出除去して多孔質とする工程を含む方法が好適である。
【0026】
この方法においては、水溶性高分子化合物として、凝固浴の親水性有機溶媒に対する溶解性が低い水溶性高分子化合物、即ち、少なくとも一個のα−1,4結合及び/又はβ−1,4結合を有するオリゴ糖及び多糖
並びにこれらの誘導体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上を用いるのが好ましい。
【0027】
このような親水性有機溶媒への溶解性の低い水溶性高分子化合物を孔形成剤として分散させたポリマードープを親水性有機溶媒中に浸漬し、熱可塑性ポリウレタン樹脂の良溶媒である含酸素/窒素有機溶媒のみを選択的に抽出除去し、かつ、この良溶媒の抜けたサイトに親水性有機溶媒を侵入させることができるため、高次構造が維持されたまま熱可塑性ポリウレタン樹脂を凝固させることができる。この含酸素/窒素有機溶媒を抽出した後、水溶性高分子化合物を抽出除去することにより、ボイドやピンホールなどの欠陥のない多孔性の樹脂チューブ原体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0029】
第1図〜第4図は実施の形態に係る樹脂チューブの製造方法の説明図である。
【0030】
この実施の形態では、まず第1図の成形型1を製造する。この実施の形態では、成形型1は、モールドロワー2及びモールドアッパー3よりなる成形型本体と、該成形型本体に挿通されたマンドレル4とからなる。
【0031】
モールドロワー2は、略々円筒形であり、上側の内腔が大径部2aとなっており、下側の内腔が小径のマンドレル挿通孔2bとなっている。このモールドロワー2は、離型性に優れたPTFEなどのフッ素樹脂製とされることが好ましいが、材料はこれに限定されない。
【0032】
モールドアッパー3は、円筒形であり、大径部2aに内嵌する外径を有している。モールドアッパー3の内径はマンドレル挿通孔2bよりも大である。このモールドアッパー3は抽出液が透過し易い紙などで構成されている。マンドレル4は、マンドレル挿通孔2bに水密的に且つ摺動可能に差し込まれる直径を有した細長い円柱形部材であり、下端にはフランジ状つまみ部4aが設けられている。マンドレル4は金属、フッ素樹脂などで構成されていることが好ましい。
【0033】
この成形型1を用いて樹脂チューブ原体を成形するには、まず、マンドレル4の先端側をマンドレル挿通孔2bに差し込み、成形型1の軸心線方向が上下方向となるように配置する。この状態で成形型1内に液状原料Lをほぼ満杯となるまで注入する。
【0034】
この液状原料は、好ましくは、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、水溶性高分子化合物と、分子内に酸素原子又は窒素原子を含む含酸素/窒素有機溶媒とを含むポリマードープである。このポリマードープの好適な組成については後述する。
【0035】
次いで、第1図の通りマンドレル4を上昇させ、マンドレル4の先端を成形型1の上端よりも上方に突出させる。なお、このマンドレル4の外周とモールドアッパー3の内周との間の円筒形スペースが成形用キャビティとなる。
【0036】
この状態で、少なくとも成形型1を親水性有機触媒よりなる抽出液と接触させ、液液抽出により液状原料L中の含酸素/窒素有機溶媒を抽出し、液状原料Lを固化させて円筒形の固化物とする。
【0037】
この円筒形固化物を脱型し、次いでこの円筒形固化物を水と接触させて水溶性高分子化合物と、親水性有機触媒と、残留する含酸素/窒素有機溶媒を抽出することにより、第2図に示す円筒形の樹脂チューブ原体5Aが得られる。なお、水溶性高分子化合物の抽出処理は脱型前に行われてもよい。
【0038】
この樹脂チューブ原体5Aは、全体として多孔質となっているものである。この樹脂チューブ原体5Aの端側の外周面に切削加工を施し、第3図(a),(b)の通り、小径部5aを形成し、これにより、小径部5aと大径部5bとを有した樹脂チューブ素体5を得る。大径部5bは切削加工を施さなかった部分である。
【0039】
この切削加工を行うには、樹脂チューブ原体10に水を含浸させ、次いで液体窒素等の冷媒によって冷却して凍結させ、この凍結状態で切削加工するのが好ましい。また、切削加工を行う際には、樹脂チューブ原体5Aに芯棒を通し、旋盤を用いて加工を施すのが好ましい。
【0040】
次に、この樹脂チューブ素体5を乾燥した後、第4図(a),(b)の通り芯金6を樹脂チューブ素体5に通し、加熱したロール7を大径部5bに押し当てて大径部5bを縮径方向に塑性的に加熱圧縮変形させる。芯金6の直径は、樹脂チューブ素体5の内径と略同一である。
【0041】
この実施の形態では、第4図(a),(b)の通り、1対のロール7の間に樹脂チューブ素体5を通し、大径部5bを圧縮変形させる。ロール7,7間の間隔は小径部5aの外径と同一である。なお、樹脂チューブ素体5を1回ロール7,7間に通した後、樹脂チューブ素体5を周方向に回し、再度ロール7,7間に通す。
【0042】
これを適数回繰り返すことにより、大径部5bの全体を小径部5aと同径とする。その後、芯金6を引き抜く。これにより、第4図(c)に示す多孔質樹脂チューブ8が得られる。
【0043】
この多孔質樹脂チューブ8は、大径部5bに由来する部分が低気孔率部8bとなっており、小径部5aに由来する部分が多孔質部8aとなっている。この圧縮処理工程の間、樹脂チューブ素体5には芯金6が貫通されている。そのため、多孔質部8aの内周面と低気孔率部8bの内周面とは段差がなく、滑らかに連続している。
【0044】
なお、ロール7としては、軸心線方向の中央が小径であり、両端側ほど大径となるものが好適である。さらに好ましくは、軸心線方向の断面においてロール外周面が円弧形となっている鼓形のものが好適である。
【0045】
[ポリマードープの組成]
以下、上記の液状原料(ポリマードープ)の好適な組成と抽出条件等について説明する。
【0046】
ポリマードープとしては、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、孔形成剤である水溶性高分子化合物と、熱可塑性ポリウレタン樹脂の良溶媒である含酸素/窒素有機溶媒とを混合したものが好適である。具体的には、熱可塑性ポリウレタン樹脂を含酸素/窒素有機溶媒に混合して均一溶液とした後、この溶液中に水溶性高分子化合物を混合分散させるのが好ましい。
【0047】
このポリマードープの組成としては、熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜90重量部、水溶性高分子化合物0.2〜90重量部、含酸素/窒素有機溶媒0.2〜99.6重量部の範囲とすることが好ましく(ただし、熱可塑性ポリウレタン樹脂、水溶性高分子化合物及び含酸素/窒素有機溶媒の合計で100重量部とする。)、特に好ましくは、熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜50重量部、水溶性高分子化合物0.2〜50重量部、含酸素/窒素有機溶媒0.2〜99.6重量部、とりわけ好ましくは、熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜20重量部、水溶性高分子化合物0.2〜20重量部、含酸素/窒素有機溶媒60〜99.6重量部である。
【0048】
熱可塑性ポリウレタン樹脂と水溶性高分子化合物との混合割合は、好ましくは熱可塑性ポリウレタン樹脂:水溶性高分子化合物=1:0.1〜10(重量比)、特に好ましくは1:0.1〜2.0である。
【0049】
熱可塑性ポリウレタン樹脂の良溶媒としての含酸素/窒素有機溶媒は、分子内に酸素原子又は窒素原子を含む有機溶媒であり、具体的にはテトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン及びこれらの単純置換体を使用することが可能である。これらの含酸素/窒素有機溶媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。なお、単純置換体とは、例えば、2−メチルピリジン、2−メチルテトラヒドロフラン、2−ピロリドンのように複素環にアルカン原子が導入されたものや、その逆に水素原子が導入されたものを指す。
【0050】
熱可塑性ポリウレタン樹脂、含酸素/窒素有機溶媒及び水溶性高分子化合物より調製されたポリマードープは、親水性有機溶媒を含む凝固液中に浸漬され、含酸素/窒素有機溶媒が抽出除去されることにより凝固する。
【0051】
この含酸素/窒素有機溶媒を抽出する親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール及びアセトン並びにこれらの誘導体が例示できるが、この限りではない。これらの親水性有機溶媒は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0052】
凝固浴の親水性有機溶媒の温度としては10℃以上であることが好ましい。これは孔形成剤である少なくとも一個のα−1,4結合及び/又はβ−1,4結合を有するオリゴ糖及び多糖並びにこれらの誘導体の溶解度を考慮して設定された温度であり、低温度にて溶解性が発現され易いこれらをポリマードープ中に保持させるために必要な温度である。従って、凝固浴の親水性有機溶媒の温度はより高い温度、例えば40℃以上であることがより好ましく、該親水性有機溶媒の0.1MPa(760mmHg)での沸点温度以上であること、即ち、還流状態で凝固を行うことも好ましい。
【0053】
この含酸素/窒素有機溶媒の抽出除去に当たり、ポリマードープ及び凝固浴を減圧状態にすることも可能である。これにより、凝固浴の親水性有機溶媒だけでなく熱可塑性ポリウレタン樹脂の良溶媒の沸点も下がり、該良溶媒の凝固浴への拡散を助長させる効果が得られる。
【0054】
このようにして、含酸素/窒素有機溶媒を抽出除去して熱可塑性ポリウレタン樹脂を凝固させた後は、孔形成剤の水溶性高分子化合物を抽出除去することにより、熱可塑性ポリウレタン樹脂製多孔性材料を得ることができる。この水溶性高分子化合物の抽出除去は、
水を用いて容易に行うことができる。
【0055】
このようなポリマードープの抽出処理により製造される熱可塑性ポリウレタン樹脂製多孔性材料は、平均孔径0.1〜500μm、好ましくは0.1〜200μmの幅広い平均粒径において、孔径分布がシャープでボイドやピンホール等の欠陥のない均質な高次構造材料であり、しかも、表面に緻密なスキン層がなく、内部から表層まで均質な多孔質構造が形成された高品質の熱可塑性ポリウレタン樹脂製多孔性材料である。
【0056】
[別の実施の形態]
上記実施の形態では、樹脂チューブ素体5は小径部5aと大径部5bとからなるものであるが、第5図(a)のように、小径部9aと、大径部9bと、小径部9aから大径部9bにかけて徐々に径が大きくなるテーパ部9cとを有した樹脂チューブ素体9を用いてもよい。
この樹脂チューブ素体9も、芯金6が内挿された後、ロール間距離が小径部9aの外径と同一となっている加熱ロール7,7間に複数回通されることにより、第10図の樹脂チューブ10とされる。
この樹脂チューブ10は、気孔率が大きい多孔質部10aと、気孔率が小さい低気孔率部10bと、両者の中間の気孔率を有した中間部10cとからなる。中間部10cの気孔率は、多孔質部10a側から低気孔率部10b側へ向って徐々に小さくなる。
第5図(a)では、樹脂チューブ素体9にテーパ9cを設けているが、小径部9aと大径部9bとの中間の外径を有した多段状の樹脂チューブ素体(図示略)を用いてもよい。
【0057】
本発明の方法によって製造された樹脂チューブを送脱血管として用いる場合、多孔質部の気孔率は10〜90体積%程度が好ましく、低気孔率部の気孔率は10体積%以下、特に5体積%以下(ゼロでもよい。)であることが好ましい。多孔質部は樹脂チューブの一端部に設けられることが好ましい。多孔質部の長さは5〜50mm程度が好ましい。
なお、本発明の樹脂チューブをその他の用途に用いる場合、多孔質部はチューブの長手方向の途中に設けられてもよく、多孔質部を2箇所以上設けてもよい。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0059】
実施例1
(1)ポリマードープの調製
熱可塑性ポリウレタン樹脂(日本ミラクトラン社製,ミラクトランE980PNAT)をN−メチル−2−ピロリジノン(関東化学社製,ペプチド合成用試薬,NMP)にディゾルバー(約8,000rpm)を使用して室温下で溶解して12.5%溶液(重量/重量)を得た。このNMP溶液約1.0kgをプラネタリーミキサー(井上製作所製,2.0L仕込み,PLM−2型)に秤量して入れ、溶液中のポリウレタン樹脂と同重量相当のメチルセルロース(関東化学社,50cpグレード)を40℃で120分間混合し、その後攪拌を継続したまま10分間、20mmHg(2.7kPa)まで減圧して脱泡し、ポリマードープを得た。
【0060】
(2)成形型本体の作成
PTFE製の丸棒(長さ50mm)に5mm径の孔を貫通させ、さらに深さ30mmまで19.1mmの同心円を堀りモールドロワーを作成した。
【0061】
また、化学実験用濾紙(東洋濾紙社製,定性分析用,2番)を用いた内径15.0mmφ、外径19.0mmφ、長さ100mmの筒状の紙管を作成し、モールドアッパーとした。
【0062】
このモールドアッパーを上記モールドロワーに第1図の如く差し込んで成形型本体とした。
【0063】
このモールドロワーのマンドレル挿通孔に、第1図の如く、マンドレルとしてSUS440製の直径5mmφの芯棒の先端を差し込んだ。
【0064】
(3)ポリマードープの注入
この成形型内に、(1)で調製したポリマードープを注入した。注入後、第1図の如くマンドレルを押し込み、成形型の先端から突出させた。
【0065】
(4)抽出による樹脂チューブ原体の成形
このポリマードープを収容した成形型を、紙管が垂直となるように還流状態にあるメタノール中へ浸漬して72時間還流を継続して、紙管面から内部のNMP溶媒を抽出除去することによりポリウレタン樹脂を凝固させた。この際、メタノールは還流状態を維持したまま、随時新液と交換した。72時間後、チューブ成形治具を還流状態のメタノールから乾燥させることなく室温下のメタノール浴中に移し、浴内でチューブ成形型から内容物を取り出し、日本薬局方精製水中で72時間洗浄することによりメチルセルロース、メタノール及び残留するNMPを抽出除去した。洗浄用の水は随時新液を供給した。これを50℃下で4時間乾燥させて、内径5mm、外径15mm、長さ100mmの樹脂チューブ原体を得た。
【0066】
(5)切削加工による樹脂チューブ素体の製作
(4)で得た樹脂チューブ原体に5.1mm径の芯棒を装着し、水を含ませた後に液体窒素へ浸漬して凍結させた。随時液体窒素をポーラスチューブへ滴下して凍結状態を維持しながら旋盤加工機により、端部から3mmまでの部分を外径9mmまで切削した。切削後、水中で融解した後、軽く洗浄し、40℃オーブンで乾燥させ、内径5mm(全範囲)、外径9mm(3mm長さ)と外径15mm(10mm長さ)の樹脂チューブ素体を得た。
【0067】
(6)加熱ロールによる圧縮変形処理
(5)で得た樹脂チューブ素体に内径5mmの芯金を通した。この樹脂チューブ素体を160℃のロール間に通すことにより、樹脂チューブ素体の大径部(外径15mm)を小径部と同径の外径9mmにまで塑性的に圧縮変形させた。これによって、内径5mm、外径9mm、長さ150mmのポリウレタン樹脂製のチューブにおいて、端部から5mm長さ部分がポーラスで、そこからもう一端部までがソリッドのチューブであって、ソリッド部分とポーラス部分の境界には継ぎ目も内周面の段差もない人工心臓用の送脱血管に有用なソリッド・ポーラス一体化チューブが得られた。このチューブの多孔質部の気孔率は30体積%であり、低気孔率部の気孔率は5体積%であった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施の形態に係る樹脂チューブの製造方法の説明図である。
【図2】樹脂チューブ原体の斜視図である。
【図3】樹脂チューブ素体を示す斜視図と管軸方向の断面図である。
【図4】実施の形態に係る樹脂チューブの製造方法の説明図である。
【図5】別の実施の形態に係る樹脂チューブの製造方法の説明図である。
【符号の説明】
【0069】
1 成形型
2 モールドロワー
3 モールドアッパー
4 マンドレル
5,9 樹脂チューブ素体
5A 樹脂チューブ原体
5a,9a 小径部
5b,9b 大径部
8,10 樹脂チューブ
L 液状原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管軸方向の一部が他の部分よりも気孔率が低い低気孔率部となっている樹脂チューブを製造する方法において、
小径部と、該小径部よりも外径が大きい大径部とを有しており、内径は管軸方向において等径であり、全体として多孔質となっている、熱可塑性樹脂よりなる樹脂チューブ素体を形成する工程と、
該大径部を縮径方向に塑性的に加熱圧縮変形させて低気孔率部を形成する工程と、
によって該樹脂チューブを製造することを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
筒軸方向を上下方向とした円筒形キャビティを有する成形型内で液状原料を固化させて円筒形固化物とし、次いでこの固化物を多孔化処理することにより樹脂チューブ原体を製造し、次いで該樹脂チューブ原体に切削加工を施すことにより前記樹脂チューブ素体を形成するようにした樹脂チューブの製造方法であって、
前記成形型は、底部にマンドレル挿通孔を有した円筒形の成形型本体と、該マンドレル挿通孔に挿通されるマンドレルとを有しており、
該マンドレル挿通孔にマンドレルの先端側を挿入した状態で成形型本体内に前記液状原料を注入した後、マンドレルを上昇させてマンドレルの先端を成形型本体の上端から上方へ突出させ、この状態で液状原料を固化させることを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記液状原料は、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、水溶性高分子材料と、分子内に酸素原子又は窒素原子を含む含酸素/窒素有機溶媒とを含むポリマードープであり、
前記成形型内に前記液状原料を供給した後、液状原料を親水性有機溶媒と接触させて該液状原料中の含酸素/窒素有機溶媒を抽出することにより該液状原料を固化させて前記円筒形固化物を形成し、
次いで水によって水溶性高分子材料を抽出することにより前記多孔化処理を行い、これにより前記樹脂チューブ原体を製造することを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項4】
請求項3において、前記水溶性高分子材料は、少なくとも一個のα−1,4結合及び/又はβ−1,4結合を有するオリゴ糖及び多糖並びにこれらの誘導体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の水溶性高分子化合物であることを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項5】
請求項4において、該ポリマードープが、熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜90重量部と、前記水溶性高分子化合物0.2〜90重量部と、前記含酸素/窒素有機溶媒0.2〜99.6重量部とを合計で100重量部含むことを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項6】
請求項5において、該ポリマードープが熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜50重量部と、前記水溶性高分子化合物0.2〜50重量部と、前記含酸素/窒素有機溶媒0.2〜99.6重量部とを含むことを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれか1項において、前記親水性有機溶媒がメタノール、エタノール、プロパノール及びアセトン並びにこれらの誘導体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項8】
請求項4ないし7のいずれか1項において、前記含酸素/窒素有機溶媒がテトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン及びそれらの単純置換体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項9】
請求項4ないし8のいずれか1項において、前記水溶性高分子化合物がセルロースエステルであることを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項10】
請求項9において、前記水溶性高分子化合物がカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする樹脂チューブの製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項において、前記樹脂チューブ素体の前記大径部を加熱ロールによって加熱圧縮変形させることを特徴とする樹脂チューブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−112577(P2009−112577A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289793(P2007−289793)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】