説明

樹脂フィルムとその製造方法、偏光板および液晶表示装置

【課題】溶液製膜による樹脂フィルム製造時の金属支持体からのフィルムの剥離性が改善され、且つ、偏光子耐久性を改善することができる樹脂フィルムの提供。該樹脂フィルムの高歩留まりで製造設備維持コストが低い製造方法の提供。
【解決手段】下記式で表される有機酸を前記ドープ中のセルロースアセテートに対して0.1質量%〜20質量%含有することを特徴とする樹脂フィルム。
X−L−(R1n
(式中、Xは酸解離定数が5.5以下の酸性基を表し、Lは単結合または2価以上の連結基を表し、R1は水素原子、炭素数6〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアルキニル基、炭素数6〜30のアリール基または環員数6〜30の複素環基を表し、さらに置換基を有していてもよい。nはLが単結合の場合は1であり、Lが2価以上の連結基の場合は(Lの価数−1)。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムとその製造方法、前記樹脂フィルムを用いた偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置のTV用途が進行し、画面サイズの大型化に伴い高画質化と低価格化が益々求められている。また、近年では室外において使用することが増えてきており、室内における使用を想定して製造されていたときよりも過酷な環境下での液晶表示装置の耐久性が求められている。
【0003】
液晶表示装置における偏光板は、ポリビニルアルコール(PVA)とヨウ素を用いた偏光子を偏光板保護フィルムで挟みこんで耐久性を向上させることが一般に知られている。このような偏光板保護フィルムとしてはセルロースアシレートフィルムやアクリル樹脂フィルムなどをはじめ様々な樹脂フィルムが用いられており、強靭で光学的特性に優れることなどが求められてきていた。しかしながら、従来の偏光板保護フィルムは室外の過酷な環境下、特に高温高湿下での偏光子耐久性については満足のいくものではなかった。
【0004】
一方、偏光板保護フィルムに用いられる樹脂フィルムを溶液流延製膜法により製造する場合、近年の低価格化の要請に対応するために材料コストの安価な樹脂を用いる必要がある。そのため、従来は流涎時の支持体からの剥離性が悪いために剥離時にフィルム面状が悪化したり、光学的特性が不均一になったりするなどの観点から用いられていなかった安価な樹脂(例えば、低置換度セルロースアシレート)を用いて、その剥離性を改善することにより安価な樹脂フィルムを製造することが求められてきている。
【0005】
特許文献1には、(I)炭素数4〜22のアルキル基、アルケニル基またはアラルキル基を有する有機リン酸塩、(II)炭素数4〜16のアルキル基を有し、アリーレンオキシ基およびアルキレン基を介してスルホン酸基と連結している有機スルホン酸塩、(III)繰り返し単位を有するポリマー側鎖にスルホン酸基を有する有機高分子スルホン酸塩のうちの少なくとも1つをはぎとり助剤として含有するセルロースアシレートフィルム溶液を流涎する方法が記載されている。同文献によれば、このような条件を満たすはぎとり助剤を用いることで、酢化度56〜62%(総アシル置換度2.5〜2.95程度)のセルロースアシレートの剥ぎ取り抵抗値を低減できることが記載されている。同文献の実施例では酢化度61.9%(総アシル置換度2.9)のセルロースアシレートに対して、剥ぎ取り助剤として同文献の化合物6(炭素数12のアルキル基2つがリン酸基に連結している、有機リン酸ナトリウム塩)、化合物2(炭素数9のアルキル基2つがアリーレンオキシ基およびアルキレン基を介してスルホン酸基と連結している有機スルホン酸ナトリウム塩)および化合物3(繰り返し単位を有するポリマー側鎖にスルホン酸基を有する有機高分子スルホン酸ナトリウム塩)を用いている。
【0006】
特許文献2には、水溶液中での酸解離指数が1.93乃至4.50である酸あるいはそのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルム溶液を流涎する方法が記載されている。同文献によれば、このような条件を満たす有機酸または無機酸を剥離剤として用いられることが記載されている。同文献の実施例では総アシル置換度2.7〜3.0のセルロースアシレートに対して、剥離剤としてクエン酸、酒石酸、前記特許文献1に記載の化合物6(炭素数12のアルキル基と炭素数10のアルキル基がリン酸基に連結している、有機リン酸ナトリウム塩)および化合物9(炭素数16のアルキル基が、アリーレンオキシ基とアルキレン基を連結基として介してスルホン酸基に連結している、有機スルホン酸カリウム塩)を用いている。
【0007】
特許文献3には、水溶液中での酸解離指数が1.93〜4.50の酸を含むセルロースアセテートフレークを用いた偏光板保護フィルムが記載されている。同文献によれば、このような条件を満たす有機酸または無機酸を剥離剤として用いられることが記載されている。同文献の実施例では酢化度55.2〜61.3%(総アシル置換度2.5〜2.9程度)のセルロースアシレートに対して、剥離剤としてクエン酸、クエン酸塩、酢酸ナトリウム、耐熱安定剤として酢酸カルシウムおよび酢酸マグネシウムなどを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−243837号公報
【特許文献2】特開2002−179838号公報
【特許文献3】特開平10−316791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、溶液製膜による樹脂フィルム製造時の支持体からのフィルムの剥離性が改善され、且つ、偏光子耐久性を改善することができる樹脂フィルムを提供すること、および該樹脂フィルムの高歩留まりで製造設備維持コストが低い製造方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は該フィルムを用いた偏光板および液晶表示装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、剥離剤として酸性基部分の他に特定の構造の疎水性基を併せ持つ有機酸を使用することによって、溶液製膜によるフィルム製造時の支持体からのフィルムの剥離性が改善され、且つ、偏光子耐久性を改善することができる樹脂フィルムが得られることを見出すに至った。また、酸性基部分の他に特定の構造の疎水性基を併せ持つ有機酸を使用することによって、偏光子耐久性を改善することができる樹脂フィルムの溶液製膜製造時の支持体からのフィルムの剥離性が改善され、且つ、有機酸使用時の弊害である製造設備の腐食性も改善されることを見出し、高歩留まりで製造設備維持コストが低い樹脂フィルムの製造方法を見出すに至った。すなわち、上記課題は、以下の手段によって解決される。
【0011】
[1] 樹脂と、該樹脂に対して0.1質量%〜20質量%の下記一般式(1)で表される有機酸とを含有することを特徴とする樹脂フィルム。
一般式(1)
X−L−(R1n
(一般式(1)中、Xは酸解離定数が5.5以下の酸性基を表し、Lは単結合または2価以上の連結基を表し、R1は水素原子、炭素数6〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアルキニル基、炭素数6〜30のアリール基または環員数6〜30の複素環基を表し、さらに置換基を有していてもよい。nはLが単結合の場合は1であり、Lが2価以上の連結基の場合は(Lの価数−1)である。)
[2] 前記一般式(1)におけるXが、カルボキシル基、スルフォン酸基、スルフィン酸基、リン酸基、スルフォンイミド基、アスコルビン酸基を有することを特徴とする[1]に記載の樹脂フィルム。
[3] 一般式(1)におけるLが単結合、あるいは、下記群から得られるユニットまたはこれらのユニットを組み合わせて得られる2価以上の連結基であることを特徴とする[1]または[2]に記載の樹脂フィルム。
ユニット:−O−、−CO−、−N−(R2)−(但し、前記R2は炭素数1〜5のアルキル基)、−CH(OH)−、−CH2−、−CH=CH−、−SO2−。
[4] 前記一般式(1)で表される有機酸が、下記一般式(2)で表されるカルボン酸誘導体であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項の樹脂フィルム。
【化1】

(式中、sおよびtは、独立して1,2または3であり、R4は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、または、複素環基を表し、さらに置換基を有していてもよい。但しR4は前記一般式(1)におけるR1を含む。)
[5] 前記一般式(1)で表される有機酸が、多価アルコール1分子に脂肪酸1分子と多価カルボン酸1分子がエステル結合した構造を有しており、多価カルボン酸由来の無置換のカルボキシル基を少なくとも1つ有することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項の樹脂フィルム。[6] 前記樹脂としてセルロースアシレートを5〜99質量%含むことを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
[7] 前記セルロースアシレートの全アシル置換度が1.0以上2.6未満であることを特徴とする[6]に記載の樹脂フィルム。
[8] 前記樹脂としてアクリル樹脂を1〜95質量%含むことを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
[9] 一方のフィルム表面から深さ5μmの領域における前記一般式(1)で表される有機酸の濃度と、反対側のフィルム表面から深さ5μmまでの領域における前記一般式(1)で表される有機酸の濃度が、下記式(2)の関係を満たすことを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
式(2)
1.2≦(有機酸の濃度が高い側のフィルム表面における表面から深さ5μmまでの領域の有機酸の平均濃度)/(有機酸の濃度が低い側のフィルム表面における表面から深さ5μmまでの領域の有機酸の平均濃度)≦5.0
[10] 樹脂と、該樹脂に対して0.1質量%〜20質量%の下記一般式(1)で表される有機酸とを含有するドープを金属支持体上に流涎して、ドープ膜を形成する工程と、前記ドープ膜を前記金属支持体から剥ぎ取る工程とを含むことを特徴とする樹脂フィルムの製造方法。
一般式(1)
X−L−(R1n
(一般式(1)中、Xは酸解離定数が5.5以下の酸性基を表し、Lは単結合または2価以上の連結基を表し、R1は水素原子、炭素数6〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアルキニル基、炭素数6〜30のアリール基または環員数6〜30の複素環基を表し、さらに置換基を有していてもよい。nはLが単結合の場合は1であり、Lが2価以上の連結基の場合は(Lの価数−1)である。)
[11] 前記一般式(1)におけるXが、カルボキシル基、スルフォン酸基、スルフィン酸基、リン酸基、スルフォンイミド基、アスコルビン酸基を有することを特徴とする[10]に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[12] 一般式(1)におけるLが単結合または2価以上の連結基を表し、下記群から得られるユニットを組み合わせて得られる連結基であることを特徴とする[10]または[11]に記載の樹脂フィルムの製造方法。
ユニット:−O−、−CO−、−N−(R2)−(但し、前記R2は炭素数1〜5のアルキル基)、−CH(OH)−、−CH2−、−CH=CH−、−SO2−。
[13] 前記一般式(1)で表される有機酸が、多価アルコール1分子に脂肪酸1分子と多価カルボン酸1分子がエステル結合した構造を有しており、多価カルボン酸由来の無置換のカルボキシル基を少なくとも1つ有することを特徴とする[10]〜[12]のいずれか一項の樹脂フィルムの製造方法。
[14] 前記樹脂としてセルロースアシレートを5〜99質量%含むことを特徴とする[10]〜[13]のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[15] 前記セルロースアシレートの全アシル置換度が1.0以上2.6未満であることを特徴とする[14]に記載の樹脂フィルム。
[16] 前記樹脂としてアクリル樹脂を1〜95質量%含むことを特徴とする[10]〜[15]のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[17] 少なくとも2層以上のドープを前記金属支持体上に共流延し、前記一般式(1)で表される有機酸を前記金属支持体面に接する層用のドープまたは空気界面の層用のドープのいずれか一方にのみ添加することを特徴とする[10]〜[16]のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[18] [10]〜[17]のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法で製造されたことを特徴とする樹脂フィルム。
[19] [1]〜[9]および[18]のいずれか一項に記載の樹脂フィルムを含む偏光板保護フィルム。
[20] [19]に記載の偏光板保護フィルムを少なくとも1枚含むことを特徴とする偏光板。
[21] [19]の記載の偏光板保護フィルムまたは[20]に記載の偏光板を少なくとも1枚含むことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶液製膜による樹脂フィルム製造時の金属支持体からのフィルムの剥離性が改善され、且つ、偏光子耐久性を改善することができる樹脂フィルムを提供すること、および該樹脂フィルムの高歩留まりで製造設備維持コストが低い製造方法を提供することができる。さらに本発明によれば、該フィルムを用いた偏光子耐久性の高い偏光板を提供することができる。また、該フィルムを用いた偏光板を液晶表示装置に組み込むことで、高温高湿下における耐久性の改善された液晶表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の液晶表示装置の一例の概略断面図である。
【図2】共流延用ダイを用いて同時共流延により3層構造の積層セルロースアシレートフィルムを流涎するときの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明の樹脂フィルムやその製造方法、それに用いる添加剤などについて詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
[樹脂フィルム]
本発明の樹脂フィルム(以下、本発明のフィルムとも言う)は、樹脂と、該樹脂に対して0.1質量%〜20質量%の下記一般式(1)で表される有機酸とを含有することを特徴とする。
一般式(1)
X−L−(R1n
(一般式(1)中、Xは酸解離定数が5.5以下の酸性基を表し、Lは単結合または2価以上の連結基を表し、R1は水素原子、炭素数6〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアルキニル基、炭素数6〜30のアリール基または環員数6〜30の複素環基を表し、さらに置換基を有していてもよい。nはLが単結合の場合は1であり、Lが2価以上の連結基の場合は(Lの価数−1)である。)
以下、本発明のフィルムの好ましい態様を参照しつつ、本発明を具体的に説明する。
【0016】
<樹脂>
本発明のフィルムに用いられる樹脂については、特に制限はなく、公知の偏光板保護フィルム用に用いられる樹脂などを用いることができる。その中でも、本発明ではセルロースアシレートまたはアクリル樹脂が好ましい。本発明によれば、従来金属支持体からの剥ぎ取り性が悪いため、安価であっても用いられていなかった樹脂を溶液製膜することができるため、セルロースアシレートまたはアクリル樹脂の中でも安価な樹脂を用いることがより好ましい。
以下、本発明のフィルムに用いられる樹脂について説明する。
【0017】
(セルロースアシレート)
アシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができる。
【0018】
本発明のフィルムに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。本発明のフィルムは、炭素数2〜4のアシル基を置換基として有することが好ましい。2種類以上のアシル基を用いるときは、そのひとつがアセチル基であることが好ましく、炭素数2〜4のアシル基としてはプロピオニル基またはブチリル基が好ましい。これらのフィルムにより溶解性の好ましい溶液が作製でき、特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低くろ過性のよい溶液の作成が可能となる。
【0019】
まず、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートについて詳細に記載する。セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部をアシル基によりアシル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位に位置するセルロースの水酸基がアシル化している割合(各位における100%のアシル化は置換度1)の合計を意味する。
【0020】
前記セルロースアシレートの総アシル置換度は、1.0〜2.97であることが好ましく、1.0以上2.6未満であることがより好ましく、1.5〜2.6であることが特に好ましい。低置換度のセルロースアシレートは、安価な割に光学的特性に優れているが、従来の方法で溶液製膜法によって製造するとき、金属支持体からの剥離性が悪いためにあまり用いられてこなかった。本発明では、このような安価なセルロースアシレートを特に好ましく用いることができる。
【0021】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブタノイル基、tert−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、tert−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはアセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基(アシル基が炭素原子数2〜4である場合)であり、より特に好ましくはアセチル基(セルロースアシレートが、セルロースアセテートである場合)である。
【0022】
セルロ−スのアシル化において、アシル化剤としては、酸無水物や酸クロライドを用いた場合、反応溶媒である有機溶媒としては、有機酸、例えば、酢酸、メチレンクロライド等が使用される。
【0023】
触媒としては、アシル化剤が酸無水物である場合には、硫酸のようなプロトン性触媒が好ましく用いられ、アシル化剤が酸クロライド(例えば、CH3CH2COCl)である場合には、塩基性化合物が用いられる。
【0024】
最も一般的なセルロ−スの混合脂肪酸エステルの工業的合成方法は、セルロ−スをアセチル基および他のアシル基に対応する脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、吉草酸等)またはそれらの酸無水物を含む混合有機酸成分でアシル化する方法である。
【0025】
本発明に用いるセルロースアシレートは、例えば、特開平10−45804号公報に記載されている方法により合成できる。
【0026】
本発明のフィルムは、前記樹脂としてセルロースアシレートを5〜99質量%含むことが透湿度の観点から好ましく、20〜99質量%含むことがより好ましく、50〜95質量%含むことが特に好ましい。
【0027】
(アクリル樹脂)
本発明に用いられるアクリル樹脂としては、国際公開特許2009/084295号公報に記載のアクリル樹脂を用いることができる。その中でも、国際公開特許2009/084295号の[0067]−[0075]に記載の態様のアクリル樹脂を用いることが好ましい。
【0028】
本発明のフィルムは、前記樹脂としてアクリル樹脂を1〜95質量%含むことが透湿度の観点から好ましく、20〜90質量%含むことがより好ましく、30〜80質量%含むことが特に好ましい。
【0029】
本発明のフィルムは、前記樹脂としてセルロースアシレートとアクリル樹脂とを共に含むことも好ましい。その場合の好ましい態様については、以下の通りである。
本発明のフィルム中、アクリル樹脂とセルロースアシレート樹脂は、95:5〜5:95の質量比で含有されることが好ましく、さらに好ましくは90:10〜10:90であり、最も好ましくは80:20〜20:80である。
【0030】
<剥離促進剤>
(一般式(1)で表される有機酸)
本発明のフィルムは、前記一般式(1)で表される有機酸を、剥離促進剤として含む。
一般式(1)
X−L−(R1n
(式中、Xは酸解離定数が5.5以下の酸性基を表し、Lは単結合または2価以上の連結基を表し、R1は炭素数6〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアルキニル基、炭素数6〜30のアリール基または環員数6〜30の複素環基を表し、さらに置換基を有していてもよい。nはLが単結合の場合は1であり、Lが2価以上の連結基の場合は(Lの価数−1)である。)
【0031】
前記一般式(1)で表される有機酸において、酸性基である前記X部分により溶液製膜設備(ドープを流延するときの金属支持体)からの剥離性を改善することができる。剥離性が低下する機構として、流延するときの金属支持体の金属表面(例えば、ステンレスなど)と、ドープに含まれるセルロース中の極性部位(例えばOH基など)とが、直接もしくはドープ中に存在している成分(例えば、酸性基を有する化合物または不純物)を介して間接的に、水素結合の様な何らかの相互作用を生じさせて金属支持体とドープとの界面の密着力が増大する機構が想定される。この相互作用による剥離性低下機構を想定した場合、前記一般式(1)で表される有機酸はこの相互作用を低減または切断する作用を発現できると考えられる。
さらに、酸性基である前記X部分が支持体の金属表面に付着し、特定の構造の疎水性基である前記R1部分が支持体の金属表面を酸素等の酸化剤からブロックすることにより、前記R1の範囲から外れる疎水性基を有する有機酸に比べて、金属の腐食を防止することができる。
以下、本発明のフィルムに用いることができる剥離促進剤について説明する。
【0032】
一般式(1)中、Xは酸解離定数が5.5以下の酸を表し、カルボキシル基、スルフォン酸基、スルフィン酸基、リン酸基、スルフォンイミド基、アスコルビン酸基が好ましく、カルボキシル基、スルフォン酸基がさらに好ましく、カルボキシル基が最も好ましい。なお、Xがアスコルビン酸基を表す場合は、アスコルビン酸の水素原子のうち、5位、6位の位置の水素原子が外れてLと連結していることが好ましい。
本明細書中、酸解離定数としては、化学便覧、丸善株式会社刊に記載の値を採用する。
【0033】
一般式(1)中、R1は水素原子、炭素数6〜30のアルキル基(置換基を有してもよく、シクロアルキル基であってもよい)、炭素数6〜30のアルケニル基(置換基を有してもよい)、炭素数6〜30のアルキニル基(置換基を有してもよい)、炭素数6〜30のアリール基(置換基を有してもよい)、環員数6〜30の複素環基(置換基を有してもよい)を表す。置換基として、ハロゲン原子、アルキル基(好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは1〜6)、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシル基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、水酸基、アシルオキシ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、アシルアミノ基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホニル基、スルファモイル基、スルフォンアミド基、スルホリル基、カルボキシル基等が挙げられる。
1はさらに好ましくは、炭素数6〜24のアリール基、環員数6〜24の複素環基、炭素数8〜24のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基であり、最も好ましくは炭素数6〜20のアリール基、環員数6〜20の複素環基、炭素数10〜24の直鎖のアルキル基、アルケニル基である。
【0034】
一般式(1)におけるLは、単結合、あるいは、下記群から得られるユニットまたはこれらのユニットを組み合わせて得られる2価以上の連結基であることが好ましい。
ユニット:−O−、−CO−、−N(R2)−(前記R2は炭素数1〜5のアルキル基)、−CH=CH−、−CH(OH)−、−CH2−、−SO2−。
一般式(1)におけるLは、単結合、エステル基由来の連結基(−COO−、−OCO−)、またはアミド基由来の連結基(−CON(R2)−、−N(R2)CO−)を部分構造として有することが特に好ましい。
また、前記Lは、さらに置換基を有していてもよく、該置換基としては特に制限はなく前記R1が有していてもよい置換基を挙げることができるが、その中でも−OH基またはアルキル基(より好ましくはカルボキシル基で置換されたアルキル基)が好ましい。
また、前記R2はさらに置換基を有していてもよく、該置換基としては特に制限はなく前記R1が有していてもよい置換基を挙げることができるが、その中でもカルボキシル基が好ましい。
これらの中でも、前記Lはグリセリン由来の基またはイミノジ酢酸(−N(CH2COOH)(CH2COOH))由来の基を含む連結基であることがより好ましい。
前記Lとしては、具体的に以下の構造であることが好ましい。但し、以下においてp、q、rはそれぞれ1〜40の整数を表し、1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜6であることが特に好ましい。また、qは2〜4であることがより特に好ましい。
【0035】
L1: −(CH2p−CO−O−(CH2q−O−;
L2: −(CH2p−CO−O−(CH2q−(CH(OH))−(CH2r−O−;
L3: −(CH2p−CO−O−(CH2q−(CH(OCO−R3))−(CH2r−O−;
L4: −(CH2p−CO−O−(CH2q−(CH(OH))−(CH2r−O−CO−;
−(CH2p−CO−O−(CH2q−(CH(OCO−R3))−(CH2r−O−CO−;
L5:−(CH2p−N(CH2COOH)−;
L6: −(CH2p−N(CH2COOH)−(CH2q−;
L7: −(CH2p−N(CH2COOH)−(CH2q−O−;
L8: −(CH2p−N(CH2COOH)−(CH2q−CONH−;
L9: −(CH2p−N(CH2COOH)−(CH2q−CONH−(CH2r−;
L10: −(CH2p−N(CH2COOH)−CO−;
L11: −(CH2p−N(CH2COOH)−CO−CH(CH2COOH)−;
L12: −(CH2p−N(CH2COOH)−SO2−。
【0036】
なお、上記のLの具体例に含まれるR3は、前記一般式(1)における前記R1と同義である。すなわち、−(CH2p−CO−O−(CH2q−(CH(OCO−R3))−(CH2r−O−という連結基におけるR3は便宜上Lの内部に記載しているだけであり、連結基LはR3を除いた部分を意味する。つまり、この場合Lは3価である。一般式(1)で表すと、X−L−(R12、[但しLは−(CH2p−CO−O−(CH2q−(CH(OCO−))−(CH2r−O−を表す]と記載でき、すなわちこのときの連結基Lは3価の連結基となっている。
前記Lと前記Xはエステル結合またはアミド結合で結合していることが好ましく、エステル結合で結合していることがより好ましい。また、前記Xにはエステル結合やアミド結合が存在しない方が好ましい。
前記Lと前記R1はエステル結合、エーテル結合またはアミド結合で結合していることが好ましく、エステル結合またはアミド結合で結合していることがより好ましく、エステル結合で結合していることが特に好ましい。また、前記R1にはエステル結合やエーテル結合やアミド結合が存在しない方が好ましい。
【0037】
以下に本発明の一般式(1)で表される有機酸の好ましい具体例を以下に挙げる。
《脂肪酸》
ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレン酸、ウンデカン酸。
《アルキル硫酸》
ミリスチル硫酸、セチル硫酸、オレイル硫酸。
《アルキルベンゼンスルフォン酸》
ドデシルベンゼンスルフォン酸、ペンタデシルベンゼンスルフォン酸。
《アルキルナフタレンスルフォン酸》
セスキブチルナフタレンスルフォン酸、ジイソブチルナフタレンスルフォン酸。
《ジアルキルスルフォコハク酸》
ジオクチルスルフォコハク酸、ジヘキシルスルフォコハク酸、ジシクロヘキシルコハク酸、ジアミルスルフォコハク酸、ジトリデシルシクロコハク酸。
【0038】
≪一般式(2)で表される多価カルボン酸≫
前記一般式(1)で表される有機酸は、下記一般式(2)で表される多価カルボン酸であることが好ましい。
一般式(2)
【0039】
【化2】

(式中、sおよびtは、独立して1,2または3であり、R4は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、または、複素環基を表し、さらに置換基を有していてもよい。但しR4は前記一般式(1)におけるR1を含む。)
【0040】
sおよびtは、より好ましくは、それぞれ独立して1または2であり、さらに好ましくは1である。
【0041】
4は、より好ましくは、炭素数1〜30のアルキル基(置換基を有してもよく、シクロアルキル基であってもよい)、炭素数6〜30のアリールスルホニル基(置換基を有してもよい)、アシル基(置換基を有してもよい)であり、炭素数1〜30のアルキル基であることがより好ましく、さらに好ましくは、炭素数1〜24のアルキル基(置換基を有してもよい)であり、特に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基である。
4が表す基の置換基としては、アルキル基、ハロゲン原子、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシル基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、水酸基、アシルオキシ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、アシルアミノ基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホニル基、スルファモイル基、スルフォンアミド基、カルボキシル基等が挙げられる。R4が表す基の置換基として、より好ましくは、アルキル基、アシル基、アリール基、カルバモイル基、であり、さらに好ましくは、アリール基、カルバモイル基である。
4が表す基の置換基は、さらに置換基を有していてもよく、該置換基の好ましい範囲は前記R4が表す基の置換基の好ましい範囲と同様である。
また、R4として最も好ましいのは、アリール基を置換基として有する炭素数1〜24のアルキル基、または、カルバモイル基を置換基として有する炭素数1〜24のアルキル基であり、該カルバモイル基はアリール基で置換されていることが好ましい。さらに該アリール基は炭素数1〜10のアルキル基で置換されていることが好ましく、炭素数1〜8のアルキル基で置換されていることが最も好ましい。
【0042】
前記一般式(2)で表されるカルボン酸誘導体の具体例としては、例えば式(3)で表されるN−(2,6−ジエチルフェニルカルバモイルメチル)イミノジ酢酸;
【化3】

【0043】
式(4)で表されるN−ベンジルイミノジ酢酸;
【化4】

【0044】
式(5)〜(12);
【化5】

【0045】
式(13)で表されるラウラミノジ酢酸;
【化6】

【0046】
式(14)〜(22);
【化7】

で表される化合物が挙げられる。
【0047】
《多価有機酸の一部誘導体》
前記一般式(1)で表される有機酸は、多価有機酸の一部誘導体であることが好ましい。本明細書中、多価有機酸の一部誘導体とは、多価アルコール1分子に脂肪酸1分子と多価有機酸がエステル結合した構造を有しており、多価カルボン酸由来の無置換の酸性基を少なくとも1つ有する化合物のことを言う。なお、本明細書中、脂肪酸とは、脂肪族モノカルボン酸を意味する。すなわち、本明細書中における脂肪酸は、いわゆる高級脂肪酸に限定されるものではなく、酢酸やプロピオン酸などの炭素数12以下の低級脂肪酸も含まれる。
前記多価有機酸の一部誘導体は、多価カルボン酸の一部誘導体であることが好ましい。すなわち、前記一般式(1)で表される有機酸は、多価アルコール1分子に脂肪酸1分子と多価カルボン酸1分子がエステル結合した構造を有しており、多価カルボン酸由来の無置換のカルボキシル基を少なくとも1つ有することが好ましい。前記多価カルボン酸の一部誘導体に用いられる多価カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、コハク酸、クエン酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸が好ましい。
【0048】
前記多価有機酸の一部誘導体に用いられる前記多価アルコールとしては、アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール、グリセリン等を挙げることができる。その中でも、グリセリンが好ましく、本発明の一般式(1)で表される有機酸はいわゆる有機酸グリセリドであることが好ましい。
【0049】
本発明の一般式(1)で表される有機酸としては、有機酸の酸性基Xが、グリセリン由来の基を含む連結基Lを介して、疎水性部R1と結合している有機酸グリセリド(グリセリン脂肪酸有機酸エステル)が好ましい。ここで、本明細書中における有機酸グリセリドとは、グリセリンの3個の水酸基のうち1個または2個が脂肪酸とエステル結合を作っており、残りの水酸基のうち1個または2個が多価有機酸とエステル結合を作っており、該多価有機酸由来の酸性基を有する構造の化合物のことを言う。
その中でも、有機酸モノグリセリドまたは有機酸ジグリセリドがより好ましく、有機酸モノグリセリドがより特に好ましい。本明細書中における有機酸モノグリセリドとは、グリセリンの3個の水酸基のうち1個が脂肪酸とエステル結合を作っており、残りの水酸基のうち1個または2個が多価有機酸とエステル結合を作っており、該多価有機酸由来の酸性基を有する構造の化合物のことを言う。本明細書中における有機酸ジグリセリドとは、グリセリンの3個の水酸基のうち2個が脂肪酸とエステル結合を作っており、残りの水酸基1個が多価有機酸とエステル結合を作っており、該多価有機酸由来の酸性基を有する構造の化合物のことを言う。
前記有機酸モノグリセリドの中でも、グリセリンの3個の水酸基のうち1個が脂肪酸とエステル結合を作っており、残りの水酸基のうち1個が無置換の水酸基であり、残りの水酸基1個が多価有機酸とエステル結合を作っており、該多価有機酸由来の酸性基を有する構造の化合物であることがより特に好ましい。前記有機酸モノグリセリドの脂肪酸とエステル結合している水酸基は非対称の位置(いわゆるαモノグリセリドの位置)であることが好ましく、前記有機酸モノグリセリドの多価有機酸とエステル結合している水酸基は同様に非対称の位置(いわゆるαモノグリセリドの位置)であることが好ましい。すなわち、前記有機酸モノグリセリドの中でも、無置換の水酸基を有し、かつ脂肪酸とエステル結合している水酸基の直結する炭素原子と、多価有機酸とエステル結合している水酸基の直結する炭素原子とが隣り合わない構造の化合物であることが好ましい。
【0050】
前記有機酸モノグリセリドの中でも、多価カルボン酸のモノグリセリドがより特に好ましい。前記多価カルボン酸のモノグリセリドとは、多価カルボン酸のうち、少なくとも1つが無置換のカルボキシル基を有し、その他のカルボキシル基がモノグリセリドで置換されている有機酸のことを言う。すなわち、グリセリン1分子に脂肪酸1分子と多価カルボン酸1分子が結合したカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドが特に好ましい。
【0051】
前記多価カルボン酸のモノグリセリドに用いられる前記多価カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、コハク酸、クエン酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸が好ましい。
前記多価カルボン酸のモノグリセリドに用いられる前記脂肪酸は限定されないが、炭素数8〜22の飽和または不飽和の脂肪酸が好ましく、具体的には、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸等があげられる。
【0052】
以下に、本発明の製造方法に使用することができるカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドについて詳しく説明する。
【0053】
本発明で使用することができるカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドは、一般的には、特開平4−218597号公報、特許第3823524号公報等に記載されている方法に従って、多価有機酸の無水物と脂肪酸モノグリセリドを反応させることにより得られる。
反応は、通常、無溶媒条件下で行われ、例えば無水コハク酸と炭素数18の脂肪酸モノグリセリドの反応では、温度120℃前後においえて90分程度で反応が完了する。かくして得られた有機酸モノグリセリドは、通常、有機酸、未反応モノグリセリド、ジグリセリド、及びその他オリゴマーを含む混合物となっている。本発明においては、このような混合物のまま使用してもよい。
前記カルボキシル基含有有機酸モノグリセリドの純度を高めたい場合は、上記のような混合物中のカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドを蒸留等により精製すればよく、また、純度の高いカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドとしては、蒸留モノグリセリドとして市販されているものを使用できる。前記カルボキシル基含有有機酸モノグリセリドの市販品としては、例えば、理研ビタミン(株)社製ポエムK−37V(グリセリンクエン酸オレイン酸エステル)、花王社製ステップSS(グリセリンステアリン酸/パルミチン酸コハク酸エステル)等があげられる。
本発明のフィルムに含まれる前記一般式(1)で表される有機酸の添加量は、前記樹脂に対して0.1質量%〜20質量%の割合であり、0.5質量%〜10質量%であることが特に好ましく、0.6質量%〜5質量%であることがより特に好ましく、1.5質量%〜5質量%であることがより特に好ましい。
添加量が0.1%以上であれば偏光子耐久性改良効果および剥離性改良効果が十分となる。また、20質量%以下の添加量であれば、高温高湿経時において有機酸がブリードアウトし難く、偏光板の直交透過率が上昇しにくく、好ましい。
本発明のフィルムに含まれる前記一般式(1)で表される有機酸の濃度は、フィルム100gあたり0.2〜40mmolであることが好ましく、0.5〜5mmolであることがより好ましく、0.6〜4.5mmolであることが特に好ましく、0.8〜4.0mmolであることがより特に好ましい。
【0054】
本発明のフィルムは、前記一般式(1)で表される有機酸の分布については特に制限はない。
本発明のフィルムは、一方のフィルム表面から深さ5μmの領域における前記一般式(1)で表される有機酸の濃度と、反対側のフィルム表面から深さ5μmまでの領域における前記一般式(1)で表される有機酸の濃度が、下記式(2)の関係を満たすことが、前記樹脂の分子量の低下を改善する観点から、好ましい。
式(2)
1.2≦(有機酸の濃度が高い側のフィルム表面における表面から深さ5μmまでの領域の有機酸の平均濃度)/(有機酸の濃度が低い側のフィルム表面における表面から深さ5μmまでの領域の有機酸の平均濃度)≦5.0
前記不等式(2)の下限値は、1.5であることがより好ましく、2.0であることが特に好ましい。前記不等式(2)の上限値は、4.5であることがより好ましく、4.0であることが特に好ましい。
【0055】
(その他の剥離促進剤)
前記一般式(1)で表される有機酸に加え、本発明のフィルムに公知の剥離促進剤を添加してもよい。前記公知の剥離促進剤としては、例えば特開2006−45497号公報の段落番号0048〜0069に記載の化合物を好ましく用いることができる。
【0056】
前記剥離促進剤は、有機酸、多価カルボン酸エステル、界面活性剤またはキレート剤であることが好ましい。
多価カルボン酸エステルとしては、特開2006−45497号公報の段落番号0049に記載の化合物を好ましく用いることができる。
前記界面活性剤としては、特開2006−45497号公報の段落番号0050〜0051に記載の化合物を好ましく用いることができる。
キレート剤は、鉄イオンなど金属イオンやカルシウムイオンなどのアルカリ土類金属イオンなどの多価イオンを配位(キレート)できる化合物であり、前記キレート剤としては、特公平6−8956号、特開平11−190892号、特開2000−18038号、特開2010−158640号、特開2006−328203、特開2005―68246、特開2006−306969の公報または明細書に記載の化合物を用いることができる。
本発明のフィルムに含まれる全ての剥離促進剤の合計添加量は、前記樹脂に対して0.001質量%(10ppm)〜20質量%(200000ppm)の割合が好ましく、0.005質量%(50ppm)〜15質量%(150000ppm)であることがより好ましく、0.01質量%(100ppm)〜10質量%(100000ppm)であることが特に好ましく、0.03質量%(300ppm)〜10質量%(100000ppm)であることが特により好ましく、0.1質量%(1000ppm)〜5質量%(50000ppm)であることがさらにより特に好ましい。
【0057】
<その他の添加剤>
本発明のフィルム中には、前記剥離促進剤以外の添加剤として、重縮合ポリマー、レターデーション調整剤(レターデーション発現剤およびレターデーション低減剤);フタル酸エステル、リン酸エステルなどの可塑剤;紫外線吸収剤;酸化防止剤;マット剤などの添加剤を加えることもできる。
【0058】
(重縮合ポリマー)
本発明のフィルムは、重縮合ポリマーを含むことが、ヘイズ低減の観点から好ましい。
【0059】
前記重縮合ポリマーとしては、セルロースアシレートフィルムの添加剤として公知の高分子量添加剤を広く採用することができる。添加剤の含量は、セルロース系樹脂に対して、1〜35質量%であることが好ましく、4〜30質量%であることがより好ましく10〜25質量%であることがさらに好ましい。
【0060】
本発明のフィルムに重縮合ポリマーとして用いられる高分子量添加剤は、その化合物中に繰り返し単位を有するものであり、数平均分子量が700〜10000のものが好ましい。高分子量添加剤は、溶液流延法において、溶媒の揮発速度を速める機能や、残留溶媒量を低減する機能も有する。さらに、機械的性質向上、柔軟性付与、耐吸水性付与、水分透過率低減等のフィルム改質の観点で、有用な効果を示す。
【0061】
ここで、本発明における重縮合ポリマーである高分子量添加剤の数平均分子量は、より好ましくは数平均分子量700〜8000であり、さらに好ましくは数平均分子量700〜5000であり、特に好ましくは数平均分子量1000〜5000である。
以下、本発明に用いられる重縮合ポリマーである高分子量添加剤について、その具体例を挙げながら詳細に説明するが、重縮合ポリマーである高分子量添加剤がこれらのものに限定されるわけでないことは言うまでもない。
また、前記重縮合ポリマーは、非リン酸エステル系のエステル系化合物であることが好ましい。但し、前記「非リン酸エステル系のエステル系化合物」は、リン酸エステルを含まず、エステル系である、化合物を意味する。
【0062】
重縮合ポリマーである高分子系添加剤としては、ポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)、ポリエステル系成分と他の成分の共重合体などが挙げられ、脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)とアクリル系ポリマーの共重合体およびポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)とスチレン系ポリマーの共重合体が好ましく、少なくとも共重合成分の1つとして芳香族環を含有するポリエステル化合物であることがより好ましい。
【0063】
前記脂肪族ポリエステル系ポリマーとしては、炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸と、炭素数2〜12の脂肪族ジオール、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールから選ばれる少なくとも1種類以上のジオールとの反応によって得られるものであり、かつ反応物の両末端は反応物のままでもよいが、さらにモノカルボン酸類やモノアルコール類またはフェノール類を反応させて、所謂末端の封止を実施してもよい。この末端封止は、特にフリーなカルボン酸類を含有させないために実施されることが、保存性などの点で有効である。本発明のポリエステル系ポリマーに使用されるジカルボン酸は、炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸残基または炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸残基であることが好ましい。
【0064】
本発明で好ましく用いられる炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。
【0065】
これらの中でも好ましい脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸である。特に好ましくは、脂肪族ジカルボン酸成分としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸である。
【0066】
前記高分子量添加剤に利用されるジオールは、例えば、炭素数2〜20の脂肪族ジオール、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールから選ばれるものである。
【0067】
炭素原子2〜20の脂肪族ジオールとしては、アルキルジオールおよび脂環式ジオール類を挙げることができ、例えば、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
【0068】
好ましい脂肪族ジオールとしては、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールであり、特に好ましくはエタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールである。
【0069】
炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールとしては、好ましくは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエチレンエーテルグリコールおよびポリプロピレンエーテルグリコールならびにこれらの組み合わせが挙げられる。その平均重合度は、特に限定されないが好ましくは2〜20であり、より好ましくは2〜10であり、さらには2〜5であり、特に好ましくは2〜4である。これらの例としては、典型的に有用な市販のポリエーテルグリコール類としては、カーボワックス(Carbowax)レジン、プルロニックス(Pluronics)レジンおよびニアックス(Niax)レジンが挙げられる。
【0070】
本発明においては、特に末端がアルキル基あるいは芳香族基で封止された高分子量添加剤であることが好ましい。これは、末端を疎水性官能基で保護することにより、高温高湿での経時劣化に対して有効であり、エステル基の加水分解を遅延させる役割を示すことが要因となっている。
前記高分子量添加剤添加剤の両末端がカルボン酸やOH基とならないように、モノアルコール残基やモノカルボン酸残基で保護することが好ましい。
この場合、モノアルコールとしては炭素数1〜30の置換、無置換のモノアルコールが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、tert−ノニルアルコール、デカノール、ドデカノール、ドデカヘキサノール、ドデカオクタノール、アリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族アルコール、ベンジルアルコール、3−フェニルプロパノールなどの置換アルコールなどが挙げられる。
【0071】
好ましく使用され得る末端封止用アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、オレイルアルコール、ベンジルアルコールであり、特にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソブタノール、シクロヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、ベンジルアルコールである。
【0072】
また、モノカルボン酸残基で封止する場合は、モノカルボン酸残基として使用されるモノカルボン酸は、炭素数1〜30の置換、無置換のモノカルボン酸が好ましい。これらは、脂肪族モノカルボン酸でも芳香族環含有カルボン酸でもよい。好ましい脂肪族モノカルボン酸について記述すると、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸が挙げられ、芳香族環含有モノカルボン酸としては、例えば安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、p−tert−アミル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上を使用することができる。
【0073】
かかる前記高分子量添加剤の合成は、常法により上記脂肪族ジカルボン酸とジオールおよび/または末端封止用のモノカルボン酸またはモノアルコール、とのポリエステル化反応またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。これらのポリエステル系添加剤については、村井孝一編者「添加剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0074】
前記芳香族ポリエステル系ポリマーは、前記ポリエステルポリマーに芳香環を有するモノマーを共重合することによって得られる。芳香環を有するモノマーとしては、炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸、炭素数6〜20の芳香族ジオールから選ばれる少なくとも1種類以上のモノマーである。
炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸等がある。これらの中でも好ましい芳香族ジカルボン酸としてはフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、である。
【0075】
炭素数6〜20の芳香族ジオールとしては、特に限定されないがビスフェノールA、1,2−ヒドロキシベンゼン、1,3−ヒドロキシベンゼン、1,4−ヒドロキシベンゼン、1,4−ベンゼンジメタノールが挙げられ、好ましくはビスフェノールA、1,4−ヒドロキシベンゼン、1,4−ベンゼンジメタノールである。
【0076】
本発明では、芳香族ポリエステル系ポリマーは前述のポリエステルに芳香族ジカルボン酸または芳香族ジオールのそれぞれの少なくとも一種類を組み合わせて用いられるが、その組み合わせは特に限定されるものではなく、それぞれの成分を数種類組み合わせても問題ない。本発明においては、前述のように、特に末端がアルキル基あるいは芳香族基で封止された高分子量添加剤であることが好ましく、封止には前述の方法を使用することができる。
【0077】
(レターデーション低減剤)
本発明ではレターデーション低減剤として、リン酸系であるエステル系の化合物や、セルロースアシレートフィルムの添加剤として公知の非リン酸エステル系の化合物以外の化合物を広く採用することができる。
【0078】
高分子系レターデーション低減剤としては、リン酸系であるポリエステル系ポリマー、スチレン系ポリマーおよびアクリル系ポリマーおよびこれら等の共重合体から選択され、アクリル系ポリマーおよびスチレン系ポリマーが好ましい。また、スチレン系ポリマー、アクリル系ポリマーといった、負の固有複屈折を有するポリマーを少なくとも一種含まれることが好ましい。
【0079】
非リン酸エステル系の化合物以外の化合物である低分子量レターデーション低減剤としては、以下を挙げることができる。これらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば20℃以下と20℃以上の紫外線吸収材料の混合や、同様に劣化防止剤の混合などである。さらにまた、赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号公報に記載されている。またその添加する時期はセルロースアシレート溶液(ドープ)作製工程において何れで添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。さらにまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。
【0080】
非リン酸エステル系の化合物以外の化合物である低分子量レターデーション低減剤としては、特に限定されないが、詳細は特開2007−272177号公報の[0066]〜[0085]に記載されている。
【0081】
特開2007−272177号公報の[0066]〜[0085]に一般式(1)として記載される化合物は、以下の方法にて作成することができる。
該公報一般式(1)の化合物は、スルホニルクロリド誘導体とアミン誘導体との縮合反応により得ることができる。
【0082】
特開2007−272177号公報一般式(2)に記載の化合物は、縮合剤(例えばジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)など)を用いた、カルボン酸類とアミン類との脱水縮合反応、またはカルボン酸クロリド誘導体とアミン誘導体との置換反応などにより得ることができる。
【0083】
前記レターデーション低減剤は、Rth低減剤であることが好適なNzファクターを実現する観点からより好ましい。前記レターデーション低減剤のうち、Rth低減剤としては、アクリル系ポリマーおよびスチレン系ポリマー、特開2007−272177号公報の一般式(3)〜(7)の低分子化合物などを挙げることができ、その中でもアクリル系ポリマーおよびスチレン系ポリマーが好ましく、アクリル系ポリマーがより好ましい。
【0084】
レターデーション低減剤は、セルロース系樹脂に対し、0.01〜30質量%の割合で添加することが好ましく、0.1〜20質量%の割合で添加することがより好ましく、0.1〜10質量%の割合で添加することが特に好ましい。
上記添加量を30質量%以下とすることにより、セルロース系樹脂との相溶性を向上させることができ、白化を抑制させることができる。2種類以上のレターデーション低減剤を用いる場合、その合計量が、上記範囲内であることが好ましい。
【0085】
(レターデーション発現剤)
本発明のフィルムは、レターデーション値を発現するために、前記低置換度層に少なくとも1種のレターデーション発現剤を含有することが好ましい。前記レターデーション発現剤としては、特に制限はないが、棒状または円盤状化合物からなるものや、前記非リン酸エステル系の化合物のうちレターデーション発現性を示す化合物を挙げることができる。上記棒状または円盤状化合物としては、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物をレターデーション発現剤として好ましく用いることができる。
棒状化合物からなるレターデーション発現剤の添加量は、セルロースアシレートを含むポリマー成分100質量部に対して0.1〜30質量部であることが好ましく、0.5〜20質量部であることがさらに好ましい。前記レターデーション発現剤中に含まれる円盤状化合物が、前記セルロースアシレート100質量部に対して3質量部未満であることが好ましく、2質量部未満であることがより好ましく、1質量部未満であることが特に好ましい。
円盤状化合物はRthレターデーション発現性において棒状化合物よりも優れているため、特に大きなRthレターデーションを必要とする場合には好ましく使用される。2種類以上のレターデーション発現剤を併用してもよい。
レターデーション発現剤は、250〜400nmの波長領域に最大吸収を有することが好ましく、可視領域に実質的に吸収を有していないことが好ましい。
【0086】
レターデーション発現剤の詳細は公開技報2001−1745の49頁に記載されている。
【0087】
(可塑剤)
本発明に用いられる可塑剤としては、セルロースアシレートの可塑剤として知られる多くの化合物も有用に使用することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPおよびDPPが特に好ましい。
【0088】
(劣化防止剤)
本発明においてはセルロースアシレート溶液に公知の劣化(酸化)防止剤、例えば、2、6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、4、4'−チオビス−(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1、1'−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2、2'−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2、5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などのフェノール系あるいはヒドロキノン系酸化防止剤を添加することができる。さらに、トリス(4−メトキシ−3、5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2、4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2、6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、ビス(2、4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどのリン系酸化防止剤をすることが好ましい。劣化防止剤の添加量は、セルロース系樹脂100質量部に対して、0.05〜5.0質量部を添加する。
【0089】
(紫外線吸収剤)
本発明においてはセルロースアシレート溶液に、偏光板または液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。ヒンダードフェノール系化合物の例としては、2、6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N、N'−ヘキサメチレンビス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1、3、5−トリメチル−2、4、6−トリス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。ベンゾトリアゾール系化合物の例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2、2−メチレンビス(4−(1、1、3、3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、(2、4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3、5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1、3、5−トリアジン、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N、N'−ヘキサメチレンビス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1、3、5−トリメチル−2、4、6−トリス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2(2'−ヒドロキシ−3'、5'−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、(2(2'−ヒドロキシ−3'、5'−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2、6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕などが挙げられる。これらの紫外線防止剤の添加量は、光学フィルム全体中に質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
【0090】
(マット剤)
本発明のフィルムは、前記高置換度層の少なくとも一層がマット剤を含有することが、フィルムすべり性、および安定製造の観点から好ましい。前記マット剤は、無機化合物のマット剤であっても、有機化合物のマット剤であってもよい。
前記無機化合物のマット剤の好ましい具体例としては、ケイ素を含む無機化合物(例えば、二酸化ケイ素、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなど)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化バリウム、酸化ジルコニウム、酸化ストロングチウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化スズ・アンチモン、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン及びリン酸カルシウム等が好ましく、更に好ましくはケイ素を含む無機化合物や酸化ジルコニウムであるが、セルロースアシレートフィルムの濁度を低減できるので、二酸化ケイ素が特に好ましく用いられる。前記二酸化ケイ素の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R974、R812、200、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。前記酸化ジルコニウムの微粒子としては、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名で市販されているものが使用できる。
前記有機化合物のマット剤の好ましい具体例としては、例えば、シリコーン樹脂、弗素樹脂及びアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、中でも、シリコーン樹脂が好ましく用いられる。シリコーン樹脂の中でも、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、トスパール105、トスパール108、トスパール120、トスパール145、トスパール3120及びトスパール240(以上東芝シリコーン(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。
【0091】
これらのマット剤をセルロースアシレート溶液へ添加する場合は、特にその方法に限定されずいずれの方法でも所望のセルロースアシレート溶液を得ることができれば問題ない。例えば、セルロースアシレートと溶媒を混合する段階で添加物を含有させてもよいし、セルロースアシレートと溶媒で混合溶液を作製した後に、添加物を添加してもよい。更にはドープを流延する直前に添加混合してもよく、所謂直前添加方法でありその混合はスクリュー式混練をオンラインで設置して用いられる。具体的には、インラインミキサーのような静的混合機が好ましく、また、インラインミキサーとしては、例えば、スタチックミキサーSWJ(東レ静止型管内混合器Hi−Mixer)(東レエンジニアリング製)のようなものが好ましい。なお、インライン添加に関しては、濃度ムラ、粒子の凝集等をなくすために、特開2003-053752号公報には、セルロースアシレートフィルムの製造方法において、主原料ドープに異なる組成の添加液を混合する添加ノズル先端とインラインミキサーの始端部の距離Lが、主原料配管内径dの5倍以下とする事で、濃度ムラ、マット粒子等の凝集をなくす発明が記載されている。さらに好ましい態様として、主原料ドープと異なる組成の添加液供給ノズルの先端開口部とインラインミキサーの始端部との間の距離(L)が、供給ノズル先端開口部の内径(d)の10倍以下とし、インラインミキサーが、静的無攪拌型管内混合器または動的攪拌型管内混合器であることが記載されている。さらに具体的には、セルロースアシレートフィルム主原料ドープ/インライン添加液の流量比は、10/1〜500/1、好ましくは50/1〜200/1であることが開示されている。さらに、添加剤ブリードアウトが少なく、かつ層間の剥離現象もなく、しかも滑り性が良好で透明性に優れた位相差フィルムを目的とした発明の特開2003-014933号にも、添加剤を添加する方法として、溶解釜中に添加してもよいし、溶解釜〜共流延ダイまでの間で添加剤や添加剤を溶解または分散した溶液を、送液中のドープに添加してもよいが、後者の場合は混合性を高めるため、スタチックミキサー等の混合手段を設けることが好ましいことが記載されている。
【0092】
本発明のフィルムにおいて、前記マット剤は、多量に添加しなければフィルムのヘイズが大きくならず、実際にLCDに使用した場合、コントラストの低下、輝点の発生等の不都合が生じにくい。また、少なすぎなければ上記のキシミ、耐擦傷性を実現することができる。これらの観点から0.01〜5.0重量%の割合で含めることが好ましく、0.03〜3.0重量%の割合で含めることがより好ましく、0.05〜1.0重量%の割合で含めることが特に好ましい。
【0093】
(フィルムの層構造)
本発明のフィルムは、単層であっても、2層以上の積層体であってもよい。
本発明のフィルムが2層以上の積層体である場合は、2層構造または3層構造であることがより好ましく、3層構造であることが好ましい。3層構造の場合は、本発明のフィルムが溶液製膜で製造する際に前記金属支持体と接する層(以下、支持体面や、スキンB層とも言う)と、前記金属支持体とは逆側の空気界面の層(以下、空気面や、スキンA層とも言う)と、その間に挟まれた1層のコア層を有することが好ましい。すなわち、本発明のフィルムはスキンB層/コア層/スキンA層の3層構造であることが好ましい。
【0094】
本発明のフィルムがセルロースアシレートを含む場合は、各層中におけるセルロースアシレートのアシル基置換度は均一であっても、複数のセルロースアシレートを一つの層に混在させてもよいが、各層中におけるセルロースアシレートのアシル基置換度は全て一定であることが光学特性の調整の観点から好ましい。また、本発明のフィルムが3層構造であるとき、両面の表面層に含まれるセルロースアシレートは同じアシル置換度のセルロースアシレートを用いることが、製造コストの観点から好ましい。
【0095】
(ヘイズ)
本発明のフィルムは、ヘイズが0.20%未満であることが好ましく、0.15%未満であることがより好ましく、0.10%未満であることが特に好ましい。ヘイズを0.2%未満とすることにより、液晶表示装置に組み込んだ際のコントラスト比を改善することができる。また、フィルムの透明性がより高くなり、光学フィルムとしてより用いやすくなるという利点もある。
【0096】
(膜厚)
本発明のフィルムは前記低置換度層の平均膜厚が30〜100μmであることが好ましく、30〜80μmであることがより好ましく、30〜70μmであることがさらに好ましい。30μm以上とすることにより、ウェブ状のフィルムを作製する際のハンドリング性が向上し好ましい。また、70μm以下とすることにより、湿度変化に対応しやすく、光学特性を維持しやすい。
また、本発明のフィルムが3層以上の積層構造を有する場合、前記コア層の膜厚は30〜70μmであることが好ましく、30〜60μmであることがより好ましく、30〜50μmであることが特に好ましい。本発明のフィルムが3層以上の積層構造を有する場合、フィルム両面の表面層(スキンA層およびスキンB層)の膜厚がともに0.5〜20μmであることがより好ましく、0.5〜10μmであることが特に好ましく、0.5〜3μmであることがより特に好ましい。
【0097】
(フィルム幅)
本発明のフィルムは、フィルム幅が700〜3000mmであることが好ましく、1000〜2800mmであることがより好ましく、1500〜2500mmであることが特に好ましい。
また、本発明のフィルムは、フィルム幅が700〜3000mmであり、かつΔReが10nm以下であることが好ましい。
【0098】
[樹脂フィルムの製造方法]
本発明の樹脂フィルムの製造方法(以下、本発明の製造方法とも言う)は、樹脂と、該樹脂に対して0.001質量%〜20質量%の下記一般式(1)で表される有機酸とを含有するドープを金属支持体上に流涎してドープ膜を形成する工程と、前記ドープ膜を前記金属支持体から剥ぎ取る工程とを含むことを特徴とする。
一般式(1)
X−L−(R1n
(一般式(1)中、Xは酸解離定数が5.5以下の酸性基を表し、Lは単結合または2価以上の連結基を表し、R1は水素原子、炭素数6〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアルキニル基、炭素数6〜30のアリール基または環員数6〜30の複素環基を表し、さらに置換基を有していてもよい。nはLが単結合の場合は1であり、Lが2価以上の連結基の場合は(Lの価数−1)である。)
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0099】
前記樹脂フィルムは、ソルベントキャスト法により製造される。ソルベントキャスト法を利用した本発明の樹脂フィルムの製造例については、米国特許第2,336,310号、同2,367,603号、同2,492,078号、同2,492,977号、同2,492,978号、同2,607,704号、同2,739,069号及び同2,739,070号の各明細書、英国特許第640731号及び同736892号の各明細書、並びに特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号及び同62−115035号等の公報を参考にすることができる。また、前記本発明の樹脂フィルムは、延伸処理を施されていてもよい。延伸処理の方法及び条件については、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号等の各公報を参考にすることができる。
【0100】
[流延方法]
溶液の流延方法としては、調製されたドープを加圧ダイから金属支持体上に均一に押し出す方法、一旦金属支持体上に流延されたドープをブレードで膜厚を調節するドクターブレードによる方法、逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、加圧ダイによる方法が好ましい。加圧ダイにはコートハンガータイプやTダイタイプ等があるが、いずれも好ましく用いることができる。またここで挙げた方法以外にも、従来知られているセルローストリアセテート溶液を流延製膜する種々の方法で実施することができ、用いる溶媒の沸点等の違いを考慮して各条件を設定することにより、それぞれの公報に記載の内容と同様の効果が得られる。
【0101】
〔共流延〕
本発明のフィルムの形成においては共流延法、逐次流延法、塗布法などの積層流延法を用いることが好ましく、特に同時共流延法を用いることが、安定製造および生産コスト低減の観点から特に好ましい。
共流延法および逐次流延法により製造する場合には、先ず、各層用のセルロースアセテート溶液(ドープ)を調製する。共流延法(重層同時流延)は、流延用支持体(バンドまたはドラム)の上に、各層(3層あるいはそれ以上でも良い)各々の流延用ドープを別のスリットなどから同時に押出す流延用ギーサからドープを押出して、各層同時に流延し、適当な時期に支持体から剥ぎ取って、乾燥しフィルムを成形する流延法である。図2に、共流延ギーサ3を用い、流延用支持体4の上に表層用ドープ1とコア層用ドープ2を3層同時に押出して流延する状態を断面図で示した。
【0102】
逐次流延法は、流延用支持体の上に先ず第1層用の流延用ドープを流延用ギーサから押出して、流延し、乾燥あるいは乾燥することなく、その上に第2層用の流延用ドープを流延用ギーサから押出して流延する要領で、必要なら第3層以上まで逐次ドープを流延・積層して、適当な時期に支持体から剥ぎ取って、乾燥しフィルムを成形する流延法である。塗布法は、一般的には、コア層のフィルムを溶液製膜法によりフィルムに成形し、表層に塗布する塗布液を調製し、適当な塗布機を用いて、片面ずつまたは両面同時にフィルムに塗布液を塗布・乾燥して積層構造のフィルムを成形する方法である。
【0103】
本発明の樹脂フィルムは前記一般式(1)で表される有機酸を片方のフィルム表面側に偏在させることが、剥離性改良ならびに偏光子耐久性改良の点から好ましい。前記一般式(1)で表される有機酸を片方のフィルム表面側に偏在させる方法としては、積層流延法において、特定の層の流延液にのみ、前記一般式(1)で表される有機酸を添加する方法を好ましく用いることができる。
すなわち、前記一般式(1)で表される有機酸を片方のフィルム表面側に偏在させる場合、本発明の製造方法は、少なくとも2層以上のドープを前記金属支持体上に共流延し、前記一般式(1)で表される有機酸を前記金属支持体面に接する層用のドープまたは空気界面の層用のドープのいずれか一方にのみ添加することが好ましい。
【0104】
本発明のフィルムを製造するのに使用される、エンドレスに走行する金属支持体としては、表面がクロムメッキによって鏡面仕上げされたドラムや表面研磨によって鏡面仕上げされたステンレスベルト(バンドといってもよい)が用いられる。使用される加圧ダイは、金属支持体の上方に1基又は2基以上の設置でもよい。好ましくは1基又は2基である。2基以上設置する場合には、流延するドープ量をそれぞれのダイに種々な割合にわけてもよく、複数の精密定量ギアポンプからそれぞれの割合でダイにドープを送液してもよい。流延に用いられるドープ(樹脂溶液)の温度は−10〜55℃が好ましく、より好ましくは25〜50℃である。その場合、工程のすべての溶液温度が同一でもよく、又は工程の各所で異なっていてもよい。異なる場合は、流延直前で所望の温度であればよい。
また、前記金属支持体の材質については特に制限はないが、SUS製(例えば、SUS 316)であることがより好ましい。
【0105】
(延伸処理)
本発明の製造方法では、製膜されたフィルムを延伸する工程を含むことが好ましい。前述の通り、本発明のフィルムは光学性能も改善されていることが好ましいが、延伸処理によってこのような光学性能を付与することが可能となり、さらに本発明の樹脂フィルムに所望のレターデーションを付与することが可能である。本発明の樹脂フィルムの延伸方向はフィルム搬送方向と搬送方向に直交する方向(巾方向)のいずれでも好ましいが、フィルム搬送方向に直交する方向(幅方向)であることが、後に続く該フィルムを用いた偏光板加工プロセスの観点から特に好ましい。
【0106】
幅方向に延伸する方法は、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号などの各公報に記載されている。長手方向の延伸の場合、例えば、フィルムの搬送ローラーの速度を調節して、フィルムの剥ぎ取り速度よりもフィルムの巻き取り速度の方を速くするとフィルムは延伸される。幅方向の延伸の場合、フィルムの巾をテンターで保持しながら搬送して、テンターの巾を徐々に広げることによってもフィルムを延伸できる。フィルムの乾燥後に、延伸機を用いて延伸すること(好ましくはロング延伸機を用いる一軸延伸)もできる。
【0107】
本発明のフィルムの延伸倍率は、5%以上200%以下が好ましく、10%以上100%以下がさらに好ましく、20%以上50%以下が特に好ましい。
【0108】
本発明の樹脂フィルムを偏光子の保護膜として使用する場合には、偏光板を斜めから見たときの光漏れを抑制するため、偏光子の透過軸と本発明の樹脂フィルムの面内の遅相軸を平行に配置する必要がある。連続的に製造されるロールフィルム状の偏光子の透過軸は、一般的に、ロールフィルムの幅方向に平行であるので、前記ロールフィルム状の偏光子とロールフィルム状の本発明の樹脂フィルムからなる保護膜を連続的に貼り合せるためには、ロールフィルム状の保護膜の面内遅相軸は、フィルムの幅方向に平行であることが必要となる。従って幅方向により多く延伸することが好ましい。また延伸処理は、製膜工程の途中で行ってもよいし、製膜して巻き取った原反を延伸処理してもよいが、本発明の製造方法では残留溶媒を含んだ状態で延伸を行うため、製膜工程の途中で延伸することが好ましい。
【0109】
(乾燥)
本発明の製造方法では、本発明の樹脂フィルムを乾燥する工程と、乾燥後の本発明の樹脂フィルムをTg−10℃以上の温度で延伸する工程とを含むことが、レターデーション発現性の観点から好ましい。
【0110】
本発明の樹脂フィルムの製造に係わる、金属支持体上におけるドープの乾燥は、一般的には、金属支持体(ドラム又はベルト)の表面側、つまり金属支持体上にあるウェブの表面から熱風を当てる方法、ドラム又はベルトの裏面から熱風を当てる方法、温度コントロールした液体をベルトやドラムのドープ流延面の反対側である裏面から接触させて、伝熱によりドラム又はベルトを加熱し表面温度をコントロールする裏面液体伝熱方法などがあるが、裏面液体伝熱方式が好ましい。流延される前の金属支持体の表面温度は、ドープに用いられている溶媒の沸点以下であれば何度でもよい。しかし乾燥を促進するためには、また金属支持体上での流動性を失わせるためには、使用される溶媒の内の最も沸点の低い溶媒の沸点より1〜10℃低い温度に設定することが好ましい。なお流延ドープを冷却して乾燥することなく剥ぎ取る場合はこの限りではない。
【0111】
(剥離)
本発明の製造方法は、前記ドープ膜を前記金属支持体から剥ぎ取る工程を含む。本発明の製造方法における剥離の方法については特に制限はなく、公知の方法を用いた場合に剥離性を改善することができる。
【0112】
フィルム厚さの調整は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節すればよい。
【0113】
以上のようにして得られた、本発明の樹脂フィルムの長さは、1ロール当たり100〜10000mで巻き取るのが好ましく、より好ましくは500〜7000mであり、さらに好ましくは1000〜6000mである。巻き取る際、少なくとも片端にナーリングを付与するのが好ましく、ナーリングの幅は3mm〜50mmが好ましく、より好ましくは5mm〜30mm、高さは0.5〜500μmが好ましく、より好ましくは1〜200μmである。これは片押しであっても両押しであってもよい。
【0114】
一般的に、大画面表示装置において、斜め方向のコントラストの低下及び色味付きが顕著となるので、本発明のフィルムは、特に大画面液晶表示装置に用いるのに適している。大画面用液晶表示装置用の光学補償フィルムとして用いる場合は、例えば、フィルム幅を1470mm以上として成形するのが好ましい。また、本発明のフィルムには、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様のフィルムのみならず、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様のフィルムも含まれる。後者の態様の光学補償フィルムは、その状態で保管・搬送等され、実際に液晶表示装置に組み込む際や偏光子等と貼り合わされる際に、所望の大きさに切断されて用いられる。また、同様に長尺状に作製されたポリビニルアルコールフィルム等からなる偏光子等と、長尺状のまま貼り合わされた後に、実際に液晶表示装置に組み込む際に、所望の大きさに切断されて用いられる。ロール状に巻き上げられた光学補償フィルムの一態様としては、ロール長が2500m以上のロール状に巻き上げられた態様が挙げられる。
【0115】
[偏光板]
また、本発明は、本発明のフィルムを少なくとも一枚用いることを特徴とする偏光板にも関する。
本発明の偏光板は、偏光子と、該偏光子の片面に本発明のフィルムを有することが好ましい。本発明の光学補償フィルムと同様、本発明の偏光板の態様は、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様の偏光板のみならず、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様(例えば、ロール長2500m以上や3900m以上の態様)の偏光板も含まれる。大画面液晶表示装置用とするためには、上記した通り、偏光板の幅は1470mm以上とすることが好ましい。
本発明の偏光板の具体的な構成については、特に制限はなく公知の構成を採用できるが、例えば、特開2008−262161号公報の図6に記載の構成を採用することができる。
【0116】
[液晶表示装置]
本発明は本発明の偏光板を有する液晶表示装置にも関する。
本発明の液晶表示装置は液晶セルと該液晶セルの両側に配置された一対の偏光板を有する液晶表示装置であって、前記偏光板の少なくとも一方が本発明の偏光板であることを特徴とするIPS、OCBまたはVAモードの液晶表示装置であることが好ましい。
本発明の液晶表示装置の具体的な構成としては特に制限はなく公知の構成を採用できるが、例えば図1に記載の構成とした例を採用することができる。また、特開2008−262161号公報の図2に記載の構成も好ましく採用することができる。
【実施例】
【0117】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0118】
[実施例101]
〔偏光板保護フィルムの作製〕
(セルロースアシレート溶液の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液1を調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースアシレート溶液1の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
アセチル置換度2.45、重合度370のセルロースアセテート
100.0質量部
重量平均分子量1200の重縮合ポリエステルA 17.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 402.0質量部
メタノール(第2溶媒) 60.0質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0119】
【化8】

【0120】
(マット剤溶液2の調製)
下記の組成物を分散機に投入し、攪拌して各成分を溶解し、マット剤溶液2を調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
マット剤溶液2の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
平均粒子サイズ20nmのシリカ粒子(AEROSIL R972、
日本アエロジル(株)製) 2.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 75.0質量部
メタノール(第2溶媒) 12.7質量部
前記セルロースアシレート溶液1 10.3質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0121】
(有機酸溶液3の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、有機酸溶液3を調製した。
【0122】
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
有機酸溶液3の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
理研ビタミン製ポエムK−37V 20.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 67.2質量部
メタノール(第2溶媒) 10.0質量部
前記セルロースアシレート溶液1 12.8質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0123】
上記マット剤溶液2の1.3質量部と、有機酸溶液3の3.1質量部をそれぞれ濾過後にインラインミキサーを用いて混合し、さらにセルロースアシレート溶液1を95.6質量部加えて、インラインミキサーを用いて混合した。混合した溶液を、バンド流延機を用いて流延し、100℃で残留溶媒含量40%まで乾燥した後、フィルムを剥ぎ取った。剥ぎ取ったフィルムは、さらに150℃の雰囲気温度でテンター延伸装置を用いて搬送方向と垂直方向に30%の拡幅率で延伸した。140℃でさらに延伸後のフィルム20分乾燥させた。製造されたフィルムの膜厚は55μmであった。
【0124】
〔偏光板保護フィルムの鹸化処理〕
作製した実施例101の偏光板保護フィルムを、2.3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に、55℃で3分間浸漬した。室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.05mol/Lの硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。このようにして、実施例101の偏光板保護フィルムについて表面の鹸化処理を行った。
【0125】
〔偏光板の作製〕
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光子を作製した。
鹸化処理した実施例101の偏光板保護フィルムを、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の片側に貼り付けた。市販のセルローストリアセテートフィルム(フジタックTD80UF、富士フイルム(株)製)に同様の鹸化処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、作成した実施例101の偏光板保護フィルムを貼り付けてある側とは反対側の偏光子の面に鹸化処理後のセルローストリアセテートフィルムを貼り付けた。
この際、偏光子の透過軸と作成した実施例101の偏光板保護フィルムの遅相軸とは平行になるように配置した。また、偏光子の透過軸と市販のセルローストリアセテートフィルムの遅相軸とは、直交するように配置した。
このようにして実施例101の偏光板を作製した。
【0126】
[実施例102〜113、実施例115〜123、比較例201〜205]
〔実施例102〜113、115〜123および比較例201〜205の偏光板保護フィルムの作製〕
実施例101においてセルロースアシレートの置換度、重縮合ポリエステルAの添加量、有機酸の種類および添加量、フィルム厚みを下記表1および表2に記載したとおりに変更した以外は同様にして、実施例102〜113および比較例201〜205の偏光板保護フィルムを製造した。
なお、下記表1および表2中、有機酸の添加量は、セルロースアシレート樹脂100質量部に対する質量部を表す。表1および表2中、グリセリンステアリン酸/パルミチン酸コハク酸エステルとあるのは、花王社製ステップSSを表す。また、オレイン酸、ウンデカン酸、クエン酸および吉草酸はいずれも東京化成製のものを用いた。また、比較例201で用いたクエン酸は特許4136054号に記載の例示化合物であり、同文献の化合物の効果を追試したものである。
【0127】
〔アクリル樹脂を用いたフィルムの作成〕
[実施例114]
(ドープ組成)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
アクリル樹脂含有ドープの組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
アクリル樹脂ダイヤナールBR85(三菱レイヨン(株)製) 68質量部
CAP482−20(アシル基総置換度2.75、
アセチル基置換度0.19、プロピオニル置換度2.56、
数平均分子量20,000 イーストマンケミカル(株)製) 30質量部
クエン酸モノグリセリド ポエムK37V(理研ビタミン社製) 2質量部
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 40質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0128】
(アクリル樹脂含有フィルムの製造)
上記で作製したドープ液を、温度22℃で、2m幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステレンスバンド支持体上で、残留溶剤量が100%になるまで溶媒を蒸発させ、支持体から剥ぎ取った。
剥離したアクリル樹脂含有フィルムを35℃で溶媒を蒸発させ、1.6m幅にスリットし、その後、テンターで幅方向に1.1倍に延伸しながら、135℃の乾燥温度で乾燥させた。テンターで、延伸後130℃で5分間緩和を行った後、120℃、130℃の乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ、1.5m幅にスリットし、フィルム両端に幅10mm高さ5μmのナーリング加工を施し、初期張力220N/m、終張力110N/mで内径6インチに巻き取り、アクリル樹脂含有フィルムを得た。ステンレスバンド支持体上の回転速度とテンターの運転速度から算出されるMD方向の延伸倍率は1.1倍であった。これを、実施例114の偏光板保護フィルムとした。
【0129】
〔レターデーション〕
本明細書におけるRe(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは550nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(31)及び式(32)よりRthを算出することもできる。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0130】
式(31)
【数1】

【0131】
ここで、上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。dはフィルム厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d ・・・式(32)
なおこの際、パラメータとして平均屈折率nが必要になるが、これはアッベ屈折計((株)アタゴ社製の「アッベ屈折計2−T」)により測定した値を用いた。
本発明の樹脂フィルムは、Reが0〜200nmであることが好ましく、0〜150nmであることがより好ましく、0〜100nmであることが特に好ましい。
本発明の樹脂フィルムは、Rthが−10〜400nmであることが好ましく、−10〜350nmであることがより好ましく、−10〜300nmであることが特に好ましい。
【0132】
〔偏光板保護フィルムの鹸化処理と偏光板の作製〕
実施例102〜114の偏光板保護フィルムおよび比較例201〜205の偏光板保護フィルムについても、それぞれ実施例101と同様にしてけん化処理および偏光板作製を行い、各実施例および比較例の偏光板を作製した。
【0133】
(偏光板耐久性の評価)
上記で作製した各実施例および比較例の偏光板について、波長410nmにおける偏光子の直交透過率を本明細書に記載した方法で測定した。
その後、60℃、相対湿度95%の環境下で300時間保存した後について同様の手法で直交透過率を測定した。経時前後の直交透過率の変化を求め、これを偏光子耐久性として下記表1および表2にその結果を記載した。なお、調湿なしの環境下での相対湿度は、0%〜20%の範囲であった。
【0134】
(有機酸の腐食性評価)
オートクレーブ中に、実施例1で作製した有機酸溶液20gを秤量し、そのなかに幅2cm×長さ3cm切り出した厚み0.5cmのSUS316の試験片を浸漬した。オートクレーブを密閉し、90℃で72時間経時させたのちに、オートクレーブのふたを開け、SUS316の試験片の腐食およびこれに起因する有機酸溶液の変化を観察し、以下の基準により評価した。
1:試験片表面の平滑性に変化がなく、有機酸溶液は無色透明。
2:試験片表面の平滑性の変化は小さいが、有機酸溶液は黄色に着色。
3:試験片表面がざらざらしており、有機酸溶液は茶褐色で濁りあり。
【0135】
(剥離性評価)
実施例101で作製した、インライン混合後のドープ液を、平滑なステンレススチール板(支持体)上に厚み1mm程度に流延した後、室温で4分放置し、支持体からの剥離性を以下の基準で評価した。
1:引き剥がし抵抗がなく、円滑に剥離でき、フィルム表面が平滑である。
2:引き剥がし時に抵抗があるが、円滑に剥離でき、フィルム表面が平滑である。
3:引き剥がし抵抗が大きく、円滑に剥離できない。
またはステンレススチール上にフィルムからの剥離物が付着する。
表1および表2に評価結果を示す。
なお、下記表1および表2中、b)はセルロースアシレート100質量部に対する酸添加量(mmol)を表し、c)は該セルロースアシレートが米国特許2009/0096962号公報の方法により調製したことを表す。
【0136】
【表1】

【0137】
【表2】

【0138】
表1および表2の結果から、本発明の偏光板保護フィルムを用いた偏光板は、高温高湿経時後偏光子の劣化がおきにくく好ましい。また、本発明の有機酸を含む樹脂フィルムは剥ぎ取り性が良好であり、かつSUSを腐食しにくく、生産性の点で好ましいことがわかった。
なお、実施例114の樹脂フィルムおよび偏光板からも、同様の傾向を読み取ることができた。
【0139】
[実施例301]
〔液晶表示装置の作製〕
市販の液晶テレビ(SONY(株)のブラビアJ5000)の2枚の偏光板をはがし、視認者側およびバックライト側に本発明の偏光板として、実施例101の偏光板保護フィルムを用いた本発明の偏光板を、実施例101の偏光板保護フィルムがそれぞれ液晶セル側となるように、粘着剤を介して、観察者側およびバックライト側に一枚ずつ貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸が上下方向に、そして、バックライト側の偏光板の透過軸が左右方向になるように、クロスニコル配置とした。このようにして作製した本発明の液晶表示装置は市販の液晶テレビに対して、環境湿度を変えても斜めから観察した場合のコントラスト変化および色味変化が小さく、かつ高温高湿下で長時間使用してもコントラストの低下が小さく好ましかった。
【0140】
[実施例401]
(セルロースアシレートの調製)
特開平10−45804号公報、同08−231761号公報に記載の方法で、セルロースアシレートを合成し、その置換度を測定した。具体的には、触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、アシル置換基の原料となるカルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。この時、カルボン酸の種類、量を調整することでアシル基の種類、置換度を調整した。またアシル化後に40℃で熟成を行った。さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。
【0141】
(低置換度層用セルロースアシレート溶液C01の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して、各成分を溶解し、固形分濃度が22質量%のセルロースアシレート溶液を調製した。なお、セルロースアシレート溶液の粘度は60Pa・sであった。
・セルロースアセテート(置換度2.45) 100.0質量部
・重縮合ポリエステルD 19.0質量部
・理研ビタミン製ポエムK−37V 3.0質量部
・メチレンクロライド 365.5質量部
・メタノール 54.6質量部
【0142】
なお、重縮合ポリエステルDはテレフタル酸/コハク酸/プロピレンクリコール/エチレングリコール共重合体(共重合比[モル%]=27.5/22.5/25/25)である。
【0143】
(高置換度層用セルロースアシレート溶液S01の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して、各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液を調製した。各セルロースアシレート溶液の固形分濃度が下記表3に記載の値となるように溶剤(メチレンクロライドおよびメタノール)の量は適宜調整した。
・セルロースアセテート(置換度2.79) 100.0質量部
・重縮合ポリエステルD 19.0質量部
・シリカ微粒子 R972(日本エアロジル製) 0.15質量部
・メチレンクロライド 395.0質量部
・メタノール 59.0質量部
得られた高置換度層用セルロースアシレート溶液S01の固形分濃度は20.0質量%、粘度を30Pa・sであった。
【0144】
(偏光板保護フィルム401の作成)
前記低置換度層用セルロースアシレート溶液C01を膜厚56μmになるように、また前記高置換度層用セルロースアシレート溶液S01を膜厚が各2μmのスキンA層(空気界面側の最外層)およびスキンB層(金属支持体側の最外層)になるように、それぞれ流延した。得られたウェブ(フィルム)をバンドから剥離し、クリップに挟み、フィルム全体の質量に対する残留溶媒量が20〜5%の状態のときにテンターを用いて140℃で1.08倍横延伸した。その後にフィルムからクリップを外して130℃で20分間乾燥させた後、更にテンターを用いて180℃で1.2倍再度横延伸し、本発明の偏光板保護フィルム401を作製した。
なお、残留溶媒量は下記の式にしたがって求めた。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを測定したウェブを120℃で2時間乾燥させた時の質量である。
【0145】
[実施例402]
(低置換度層用セルロースアシレート溶液C02の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して、各成分を溶解し、固形分濃度が22質量%のセルロースアシレート溶液を調製した。なお、セルロースアシレート溶液の粘度は60Pa・sであった。
・セルロースアセテート(置換度2.45) 100.0質量部
・重縮合ポリエステルD 19.0質量部
・理研ビタミン製ポエムK−37V 3.0質量部
・I−2 2.0質量部
・メチレンクロライド 365.5質量部
・メタノール 54.6質量部
【0146】
なお、化合物I−2は下記の構造の化合物である。
【化9】

【0147】
(高置換度層用セルロースアシレート溶液S02の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して、各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液を調製した。各セルロースアシレート溶液の固形分濃度が下記表3に記載の値となるように溶剤(メチレンクロライドおよびメタノール)の量は適宜調整した。
・セルロースアセテート(置換度2.79) 100.0質量部
・重縮合ポリエステルD 11.0質量部
・シリカ微粒子 R972(日本エアロジル製) 0.15質量部
・メチレンクロライド 395.0質量部
・メタノール 59.0質量部
得られた高置換度層用セルロースアシレート溶液S02の固形分濃度は19.7質量%、粘度は40Pa・sであった。
【0148】
(セルロースアシレート試料の作成)
前記低置換度層用セルロースアシレート溶液C02を膜厚56μmになるように、前記高置換度層用セルロースアシレート溶液S02を膜厚が各2μmのスキンA層およびスキンB層になるように、それぞれ流延した。得られたウェブ(フィルム)をバンドから剥離し、クリップに挟み、フィルム全体の質量に対する残留溶媒量が20〜5%の状態のときにテンターを用いて140℃で1.08倍横延伸した。その後にフィルムからクリップを外して130℃で20分間乾燥させた後、更にテンターを用いて180℃で1.2倍再度横延伸し、本発明の偏光板保護フィルム402を作製した。
なお、残留溶媒量は下記の式にしたがって求めた。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを測定したウェブを120℃で2時間乾燥させた時の質量である。
【0149】
[実施例403]
実施例402において、低置換度層用セルロースアシレート溶液に加える化合物I−2を化合物I−1に変更した以外は実施例と同様にして本発明の偏光板保護フィルム403を作製した。
なお、化合物I−1は下記の構造の化合物である。
【化10】

【0150】
[実施例501〜503]
〔液晶表示装置の作製〕
このようにして作製した実施例401〜403の偏光板保護フィルムを実施例101と同様にして、けん化処理を行った後、実施例101と同様にして偏光板を作製した。さらに、実施例301と同様にして市販の液晶テレビの偏光板保護フィルムを実施例401〜403の偏光板保護フィルムにはりかえて、実施例501〜503の液晶表示装置を作製した。実施例501〜503の液晶表示装置は市販の液晶テレビに対して、環境湿度を変えても斜めから観察した場合のコントラスト変化および色味変化が小さく、かつ高温高湿下で長時間使用してもコントラストの低下が小さく好ましかった。
【0151】
[実施例601]
〔偏光板保護フィルムの作製〕
<支持体面表層用ドープ601液の調製>
(セルロースアシレート溶液の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液1を調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースアシレート溶液1の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
アセチル置換度2.45、重合度370のセルロースアセテート
100.0質量部
重量平均分子量1200の重縮合ポリエステルG 17.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 402.0質量部
メタノール(第2溶媒) 60.0質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0152】
【化11】

【0153】
(マット剤溶液2の調製)
下記の組成物を分散機に投入し、攪拌して各成分を溶解し、マット剤溶液2を調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
マット剤溶液2の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
平均粒子サイズ20nmのシリカ粒子(AEROSIL R972、
日本アエロジル(株)製) 2.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 75.0質量部
メタノール(第2溶媒) 12.7質量部
前記セルロースアシレート溶液1 10.3質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0154】
(有機酸溶液3の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、有機酸溶液3を調製した。
【0155】
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
有機酸溶液3の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
理研ビタミン製ポエムK−37V 20.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 67.2質量部
メタノール(第2溶媒) 10.0質量部
前記セルロースアシレート溶液1 12.8質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0156】
上記マット剤溶液2の1.3質量部と、有機酸溶液3の2.5質量部をそれぞれ濾過後にインラインミキサーを用いて混合し、さらにセルロースアシレート溶液1を96.2質量部加えて、インラインミキサーを用いて混合し、支持体面側表層用溶液601を調製した。
【0157】
<基層用ドープ601の調製>
セルロースアシレート溶液1を基層ドープとして用いた。
【0158】
<空気面側表層用ドープ601の調製>
上記マット剤溶液2の1.3質量部とセルロースアシレート溶液1を98.7質量部加えて、インラインミキサーを用いて混合し、空気面側表層用溶液601を調製した。
【0159】
(流延)
上述の支持体面側表層用ドープ601、基層用ドープ601、空気側表層用ドープ601を支持体上にこの順に積層して流延した。得られたウェブをバンドから剥離した。剥離したフィルム中に残存する揮発分はフィルムの固形分に対して、40質量%であった。剥離したフィルムを150℃の条件でテンターを用いて延伸倍率30%で横延伸した後にクリップを外して135℃で20分間乾燥させ、延伸後の膜厚が、基層が54μm、支持体面側表層および空気面側表層がそれぞれ3μmになるように、偏光板保護フィルム601を作製した。それぞれの組成は下記表3に示した。
【0160】
[実施例602〜607、611、613、615、702、703、比較例701および704]
〔実施例602〜607、611、613、615、702、703、比較例701および704の偏光板保護フィルムの作製〕
実施例601においてセルロースアシレートの置換度、有機酸の種類および添加量、フィルム厚みを下記表3に記載したとおりに変更した以外は同様にして、実施例602〜607、611、613、615、702、703、比較例701および704の偏光板保護フィルムを製造した。
なお、下記表3中、有機酸の添加量a)は、セルロースアシレート樹脂100質量部に対する添加量(質量部)を表す。有機酸の添加量b)は、セルロースアシレート樹脂100質量部に対する添加量(mmol)を表す。また、比較例701で用いたクエン酸は特許4136054号に記載の例示化合物であり、同文献の化合物の効果を追試したものである。
【0161】
[実施例608]
〔偏光板保護フィルムの作製〕
<空気面表層用ドープ608液の調製
(セルロースアシレート溶液の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液11を調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースアシレート溶液11の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
アセチル置換度2.85、重合度430のセルロースアセテート
100.0質量部
スクロースベンゾエート(アルドリッチ社製) 9.0質量部
スクロースアセテートイソブチレート
(イーストマンケミカル社製) 3.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 316.0質量部
メタノール(第2溶媒) 80.0質量部
n−ブタノール(第3溶媒) 4.0質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0162】
(マット剤溶液12の調製)
下記の組成物を分散機に投入し、攪拌して各成分を溶解し、マット剤溶液12を調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
マット剤溶液12の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
平均粒子サイズ20nmのシリカ粒子(AEROSIL R972、
日本アエロジル(株)製) 2.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 69.3質量部
メタノール(第2溶媒) 17.5質量部
n−ブタノール(第3溶媒) 0.9質量部
前記セルロースアシレート溶液11 0.9質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0163】
(有機酸溶液13の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、有機酸溶液13を調製した。
【0164】
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
有機酸溶液13の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
理研ビタミン製ポエムK−37V 20.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 61.0質量部
メタノール(第2溶媒) 15.5質量部
前記セルロースアシレート溶液11 0.8質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0165】
上記マット剤溶液12の1.3質量部と、有機酸溶液13の5.0質量部をそれぞれ濾過後にインラインミキサーを用いて混合し、さらにセルロースアシレート溶液11を93.7質量部加えて、インラインミキサーを用いて混合し、空気面側表層用溶液608を調製した。
【0166】
<基層用ドープ608の調製>
セルロースアシレート溶液11を基層ドープとして用いた。
【0167】
<支持体面側表層用ドープ608の調製>
上記マット剤溶液12の1.3質量部とセルロースアシレート溶液11を98.7質量部加えて、インラインミキサーを用いて混合し、支持体面側表層用溶液608を調製した。
【0168】
(流延)
上述の支持体面側表層用ドープ608、基層用ドープ608、空気側表層用ドープ608をドラム支持体上にこの順に積層して流延した。得られたウェブをドラムから剥離した。剥離したフィルム中に残存する揮発分はフィルムの固形分に対して、80質量%であった。剥離したフィルムをピンテンターで把持しながら100℃の条件で10分間乾燥した後、ピンテンターから外して140℃で20分間乾燥させた。
【0169】
[実施例609、610、612、614、616および比較例705〜707]
〔実施例609、610、612、614、616および比較例705〜707の偏光板保護フィルムの作製〕
実施例608において有機酸の種類および添加量、フィルム厚みを下記表3に記載したとおりに変更した以外は同様にして、実施例609、610、612、614、616および比較例705〜707の偏光板保護フィルムを製造した。
なお、下記表3中、有機酸の添加量は、セルロースアシレート樹脂100質量部に対する質量部を表す。
【0170】
(有機酸のフィルム中での偏在比の測定)
本発明の一般式(1)で表される有機酸の偏在比Aは以下の方法により測定した。
フィルムをフィルム面に対して1°の角度で斜めに切削し、生成したフィルム断面を飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF−SIMS)でマッピング測定した。ポジ測定における分子+H+イオンの、支持体面側表面から深さ5μm以内に相当する部分のピーク強度の平均値と、空気面側表面から5μmの分子+H+イオンのピーク強度の平均値を測定し、以下の式により有機酸の偏在比Aを算出した。
有機酸の偏在比A=(有機酸濃度が高い側のピーク強度の平均値)/(有機酸濃度が低い側のピーク強度の平均値)
【0171】
(セルロースアシレートの重量平均分子量の測定)
各実施例および比較例で作製したセルロースアシレートフィルムについて下記の条件で高速液体クロマトグラフィーを行い、セルロースアシレートの重量平均分子量を測定した。
溶媒 :テトラヒドロフラン(実施例601〜607、611、613、615および実施例701〜704のフィルム)、あるいはメチレンクロライド(実施例608〜610、612、614、616および実施例705〜707のフィルム)
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3 本接続して使用した。)カラム温度:25℃試料温度: 0.1質量%検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)流量 : 1.0ml/1min校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株) 製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。
さらに、前記セルロースアシレートフィルムを3cm×12cmに切り出し、80℃相対湿度90%の環境下に150時間放置した後、前記方法により分子量分布を測定し、以下の式によりMw変化率を算出した。
Mw変化率=(80℃相対湿度90%150時間放置後のフィルム中のセルロースアシレートの重量平均分子量)/(経時前のセルロースアシレートの重量平均分子量)×100%
【0172】
〔偏光板保護フィルムの鹸化処理〕
作製した実施例601の偏光板保護フィルムを、2.3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に、55℃で3分間浸漬した。室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.05mol/Lの硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。このようにして、実施例601の偏光板保護フィルムについて表面の鹸化処理を行った。
【0173】
〔偏光板の作製〕
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光子を作製した。
鹸化処理した実施例601の偏光板保護フィルムを、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の片側に貼り付けた。市販のセルローストリアセテートフィルム(フジタックTD80UF、富士フイルム(株)製)に同様の鹸化処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、作成した実施例601の偏光板保護フィルムを貼り付けてある側とは反対側の偏光子の面に鹸化処理後のセルローストリアセテートフィルムを貼り付けた。
この際、偏光子の透過軸と作成した実施例601の偏光板保護フィルムの遅相軸とは平行になるように配置した。また、偏光子の透過軸と市販のセルローストリアセテートフィルムの遅相軸とは、直交するように配置した。
このようにして実施例601の偏光板を作製した。
【0174】
〔偏光板保護フィルムの鹸化処理と偏光板の作製〕
実施例602〜616、702および703の偏光板保護フィルム並びに比較例701および704〜707の偏光板保護フィルムについても、それぞれ実施601と同様にしてけん化処理および偏光板作製を行い、各実施例および比較例の偏光板を作製した。
【0175】
(偏光板耐久性の評価)
上記で作製した各実施例および比較例の偏光板について、波長410nmにおける偏光子の直交透過率を本明細書に記載した方法で測定した。
その後、60℃、相対湿度95%の環境下で300時間保存した後について同様の手法で直交透過率を測定した。経時前後の直交透過率の変化を求め、これを偏光子耐久性として下記表3にその結果を記載した。なお、調湿なしの環境下での相対湿度は、0%〜20%の範囲であった。
【0176】
(剥離性評価)
上記で作製した各実施例および比較例の偏光板について、実施例101と同様に、剥離性評価を行った。その結果を下記表3に示す。
【0177】
(有機酸の腐食性評価)
上記で作製した各実施例および比較例の偏光板について、実施例101と同様に、有機酸の腐食性評価を行った。その結果を下記表3に示す。
【0178】
【表3】

【0179】
【化12】

【0180】
【化13】

【0181】
【化14】

【0182】
【化15】

【0183】
【化16】

【0184】
上記表3の結果から、本発明の偏光板保護フィルムを用いた偏光板は、高温高湿経時後偏光子の劣化がおきにくく好ましいことがわかった。また、本発明の樹脂フィルムは高温高湿下で保存しても樹脂の分子量が低下しにくく好ましいことがわかった。また、本発明の有機酸を含む樹脂フィルムは剥ぎ取り性が良好であり、かつSUSを腐食しにくく、生産性の点で好ましいことがわかった。
【符号の説明】
【0185】
11 偏光子
12 偏光子
13 液晶セル
14 各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルム
15 各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、該樹脂に対して0.1質量%〜20質量%の下記一般式(1)で表される有機酸とを含有することを特徴とする樹脂フィルム。
一般式(1)
X−L−(R1n
(一般式(1)中、Xは酸解離定数が5.5以下の酸性基を表し、Lは単結合または2価以上の連結基を表し、R1は水素原子、炭素数6〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアルキニル基、炭素数6〜30のアリール基または環員数6〜30の複素環基を表し、さらに置換基を有していてもよい。nはLが単結合の場合は1であり、Lが2価以上の連結基の場合は(Lの価数−1)である。)
【請求項2】
前記一般式(1)におけるXが、カルボキシル基、スルフォン酸基、スルフィン酸基、リン酸基、スルフォンイミド基、アスコルビン酸基を有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
一般式(1)におけるLが単結合、あるいは、下記群から得られるユニットまたはこれらのユニットを組み合わせて得られる2価以上の連結基であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂フィルム。
ユニット:−O−、−CO−、−N−(R2)−(但し、前記R2は炭素数1〜5のアルキル基)、−CH(OH)−、−CH2−、−CH=CH−、−SO2−。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される有機酸が、下記一般式(2)で表されるカルボン酸誘導体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項の樹脂フィルム。
一般式(2)
【化1】

(式中、sおよびtは、独立して1,2または3であり、R4は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、または、複素環基を表し、さらに置換基を有していてもよい。但しR4は前記一般式(1)におけるR1を含む。)
【請求項5】
前記一般式(1)で表される有機酸が、多価アルコール1分子に脂肪酸1分子と多価カルボン酸1分子がエステル結合した構造を有しており、多価カルボン酸由来の無置換のカルボキシル基を少なくとも1つ有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項の樹脂フィルム。
【請求項6】
前記樹脂としてセルロースアシレートを5〜99質量%含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
【請求項7】
前記セルロースアシレートの全アシル置換度が1.0以上2.6未満であることを特徴とする請求項6に記載の樹脂フィルム。
【請求項8】
前記樹脂としてアクリル樹脂を1〜95質量%含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
【請求項9】
一方のフィルム表面から深さ5μmの領域における前記一般式(1)で表される有機酸の濃度と、反対側のフィルム表面から深さ5μmまでの領域における前記一般式(1)で表される有機酸の濃度が、下記式(2)の関係を満たすことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂フィルム。
式(2)
1.2≦(有機酸の濃度が高い側のフィルム表面における表面から深さ5μmまでの領域の有機酸の平均濃度)/(有機酸の濃度が低い側のフィルム表面における表面から深さ5μmまでの領域の有機酸の平均濃度)≦5.0
【請求項10】
樹脂と、該樹脂に対して0.1質量%〜20質量%の下記一般式(1)で表される有機酸とを含有するドープを金属支持体上に流涎してドープ膜を形成する工程と、
前記ドープ膜を前記金属支持体から剥ぎ取る工程とを含むことを特徴とする樹脂フィルムの製造方法。
一般式(1)
X−L−(R1n
(一般式(1)中、Xは酸解離定数が5.5以下の酸性基を表し、Lは単結合または2価以上の連結基を表し、R1は水素原子、炭素数6〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアルキニル基、炭素数6〜30のアリール基または環員数6〜30の複素環基を表し、さらに置換基を有していてもよい。nはLが単結合の場合は1であり、Lが2価以上の連結基の場合は(Lの価数−1)である。)
【請求項11】
前記一般式(1)におけるXが、カルボキシル基、スルフォン酸基、スルフィン酸基、リン酸基、スルフォンイミド基、アスコルビン酸基を有することを特徴とする請求項10に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項12】
一般式(1)におけるLが単結合または2価以上の連結基を表し、下記群から得られるユニットを組み合わせて得られる連結基であることを特徴とする請求項10または11に記載の樹脂フィルムの製造方法。
ユニット:−O−、−CO−、−N−(R2)−(但し、前記R2は炭素数1〜5のアルキル基)、−CH(OH)−、−CH2−、−CH=CH−、−SO2−。
【請求項13】
前記一般式(1)で表される有機酸が、多価アルコール1分子に脂肪酸1分子と多価カルボン酸1分子がエステル結合した構造を有しており、多価カルボン酸由来の無置換のカルボキシル基を少なくとも1つ有することを特徴とする請求項10〜12のいずれか一項の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記樹脂としてセルロースアシレートを5〜99質量%含むことを特徴とする請求項10〜13のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記セルロースアシレートの全アシル置換度が1.0以上2.6未満であることを特徴とする請求項14に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項16】
前記樹脂としてアクリル樹脂を1〜95質量%含むことを特徴とする請求項10〜15のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項17】
少なくとも2層以上のドープを前記金属支持体上に共流延し、
前記一般式(1)で表される有機酸を前記金属支持体面に接する層用のドープまたは空気界面の層用のドープのいずれか一方にのみ添加することを特徴とする請求項10〜16のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項18】
請求項10〜17のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法で製造されたことを特徴とする樹脂フィルム。
【請求項19】
請求項1〜9および18のいずれか一項に記載の樹脂フィルムを含む偏光板保護フィルム。
【請求項20】
請求項19に記載の偏光板保護フィルムを少なくとも1枚含むことを特徴とする偏光板。
【請求項21】
請求項19に記載の偏光板保護フィルムまたは請求項20に記載の偏光板を少なくとも1枚含むことを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−72348(P2012−72348A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44043(P2011−44043)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】