樹脂保持器及び深みぞ玉軸受
【課題】両分割保持器の重ね合わせ目に異物が堆積したとしてもボールと堆積異物の衝突を防止可能な樹脂保持器にする。
【解決手段】円筒形の第1分割保持器と、第1分割保持器の内側に挿入される円筒形の第2分割保持器とに内外に組み合わせた状態でボール保持用の円形のポケットを形成する切欠部44、47を円周方向に間隔をおいて設け、両分割保持器41、42を係合爪50、53及び係合凹部51、54からなる連結手段で非分離とする樹脂保持器において、前記組み合わせた状態で内外に重なった切欠部44、47同士の重ね合わせ目55が、ボール31のピッチ円径(PCD)から径方向にポケットすきまδ1より大きく偏った位置に形成されるようにした。
【解決手段】円筒形の第1分割保持器と、第1分割保持器の内側に挿入される円筒形の第2分割保持器とに内外に組み合わせた状態でボール保持用の円形のポケットを形成する切欠部44、47を円周方向に間隔をおいて設け、両分割保持器41、42を係合爪50、53及び係合凹部51、54からなる連結手段で非分離とする樹脂保持器において、前記組み合わせた状態で内外に重なった切欠部44、47同士の重ね合わせ目55が、ボール31のピッチ円径(PCD)から径方向にポケットすきまδ1より大きく偏った位置に形成されるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、合成樹脂で形成された玉軸受用の樹脂保持器、及びこれを用いた深みぞ玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用トランスミッションなどに使用する軸受として、大きなラジアル荷重及びスラスト荷重を受けることができ、かつ損失トルクを円すいころ軸受の採用時よりも低減するため、深みぞ玉軸受を用いることが好ましい。
【0003】
この用途に適した深みぞ玉軸受として、過大なスラスト荷重が負荷された際、そのスラスト荷重を受ける負荷側の肩にボールが乗り上げて、肩のエッジが損傷スラスト負荷時、ボールが肩に乗り上げることを防止するため、外輪の軌道溝および内輪の軌道溝のそれぞれ両側に形成された肩のうち、スラスト荷重を受ける側の肩を高くして、ボールの乗り上げを阻止し、軸受の耐久性の低下を抑制するようにしたものがある(特許文献1〜4)。
【0004】
この種の深みぞ玉軸受に適した保持器として、図10〜図12に示すように、円筒形の第1分割保持器81と、第1分割保持器81の内側に嵌合された円筒形の第2分割保持器82とからなり、第1分割保持器81の軸方向一側面と第2分割保持器82の軸方向他側面に、両分割保持器81、82を内外に組み合わせた状態でボール93保持用の円形のポケットを形成する切欠部83、84を円周方向に間隔をおいて設け、その組み合わせた状態で、その両分割保持器81、82を軸方向に非分離とする連結手段を設けた樹脂保持器80が提案されている。この連結手段は、第1分割保持器81の隣接する切欠部83間に形成された柱部の先端部に内向きの係合爪85を設け、第2分割保持器82の隣接する切欠部84間に形成された柱部の先端部に外向きの係合爪86を設け、第1分割保持器81の係合爪85を第2分割保持器82の外径面に形成された係合凹部87に係合し、第2分割保持器82の係合爪86を第1分割保持器の内径面に形成された係合凹部88に係合したことからなっている(特許文献2〜4)。
【0005】
特許文献2〜4の樹脂保持器を採用した深みぞ玉軸受の組立てに際しては、外輪91と内輪92間にボール93を組み込んだ後、外輪91と内輪92の一側方から軸受内部に第1分割保持器81を、第1分割保持器81の切欠部83内にボール93が収容されるように挿入し、かつ、外輪91と内輪92間の他側方から軸受内部に第2分割保持器82を、第2分割保持器82の切欠部84内にボール93が収容されるように挿入して、第1分割保持器81の軸方向の一側部内に第2分割保持器82の軸方向の他側部を嵌合して、連結手段により、その両分割保持器81、82を連結することになる。この嵌合により、連結手段が互いに係合して第1分割保持器81と第2分割保持器82は軸方向に非分離とされ、深みぞ玉軸受の組立てが完了する。このとき、径の異なる第1分割保持器81と第2分割保持器82は、両端部が軸方向(左右方向)にずれる非対称の組合せであり、組み込み時における挿入方向の後端部が外輪91の肩と内輪92の肩間に位置する組み込みであるため、内・外輪91、92の肩に干渉するようなことはない。円形のポケット内にボール93が保持された組合せ状態で両分割保持器81、82が連結手段で軸方向に非分離とされるので、大きなモーメント荷重が負荷されてボールに遅れや進みが生じても、樹脂保持器が脱落するようなことはない。トランスミッションのインプットシャフト等のトルク伝達シャフトを深みぞ玉軸受で支持する状態において、トルク伝達シャフトが回転すると、ボール93は自転しつつ公転し、その公転により、樹脂保持器80も回転し、外輪91と内輪92間に介在する潤滑油は樹脂保持器80との接触によって連れ回されることになる。このとき、第1分割保持器81と第2分割保持器82は外径が異なるため、周速に差が生じ、第1分割保持器81との接触によって連れ回される潤滑油の流れは第2分割保持器82との接触によって連れ回される潤滑油の流れより速くなり、流れの速い側に流れの遅い側の潤滑油が引き寄せられて、軸受内部にポンプ作用が生じる。そのポンプ作用により潤滑油が軸受内部を一方向に流動し、深みぞ玉軸受は強制的に潤滑されることになる。したがって、潤滑性の向上を図ることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−145795号公報(要約書)
【特許文献2】特開2011−7284号公報
【特許文献3】特開2011−7286号公報
【特許文献4】特開2011−21661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2〜4の樹脂保持器は、両分割保持器81、82を組み合わせた状態で内外に重なった切欠部83、84同士の重ね合わせ目が存在する。異物が潤滑油に運ばれて軸受内部に至る軸受使用条件下では、その異物が、ポケットを形成する切欠部83、84同士の重ね合わせ目に堆積し得る。特許文献2〜4の樹脂保持器では、ボール93と堆積異物の接触について考慮されておらず、重ね合わせ目は、ボール93のピッチ円径(PCD)と略同径上に形成されていた。ピッチ円径(PCD)と略同径上のポケット内面箇所は、軸受運転中、ボール93と円周方向に最も衝突し易いポケット内面部分になる。トランスミッションのようにギヤ摩耗などの硬い異物が堆積し得る軸受使用条件では、ボール93の進み遅れが生じたとき、切欠部83、84同士の重ね合わせ目に存在する堆積異物とボール93の衝突が短寿命の原因になり得る。
【0008】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、両分割保持器の重ね合わせ目に異物が堆積したとしてもボールと堆積異物の衝突を防止可能な樹脂保持器にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するため、この発明は、円筒形の第1分割保持器と、前記第1分割保持器の内側に挿入される円筒形の第2分割保持器とからなり、前記第1分割保持器および前記第2分割保持器のそれぞれに、これら両分割保持器を内外に組み合わせた状態でボール保持用の円形のポケットを形成する切欠部を円周方向に間隔をおいて設け、前記組み合わせた状態で、これら両分割保持器を軸方向に非分離とする連結手段を設け、前記連結手段が、前記第1分割保持器の隣接する前記切欠部間に形成された柱部の先端部に内向きの係合爪を設け、前記第2分割保持器の隣接する前記切欠部間に形成された柱部の先端部に外向きの係合爪を設け、前記第1分割保持器の前記係合爪を前記第2分割保持器の外径面に形成された係合凹部に係合し、前記第2分割保持器の前記係合爪を前記第1分割保持器の内径面に形成された係合凹部に係合したことからなる樹脂保持器において、前記組み合わせた状態で内外に重なった前記切欠部同士の重ね合わせ目が、ボールのピッチ円径から径方向にポケットすきまより大きく偏った位置に形成される構成を採用したものである。
【0010】
ボールの進み遅れ、各種誤差、樹脂保持器の遠心力による変形等を許容するため、樹脂保持器がボールに対して自由に軸方向、径方向及び円周方向の各方向に動けるようにポケットすきまが設定される。軸受運転中、樹脂保持器が径方向のポケットすきまに応じて軸受中心軸から偏心する。この偏心により、あるポケットの切欠部同士の重ね合わせ目は、外側又は内側へ径方向に変位するが、ボールのピッチ円径は変化しない。重ね合わせ目がピッチ円径に対して径方向に変位し得る大きさは、径方向のポケットすきまで決まる。したがって、ボールのピッチ円径から径方向にポケットすきまより大きく偏った位置に重ね合わせ目が形成されるようにすれば、樹脂保持器の偏心により、重ね合わせ目がピッチ円径上へ変位することはない。このため、軸受運転中、重ね合わせ目に異物が堆積したとしても、ボールと堆積異物の衝突を防止することができる。
【0011】
具体的には、前記内外に重なった切欠部同士のうち、前記重ね合わせ目を前記ピッチ円径から偏らせた側に位置する一方の切欠部の径方向肉厚を、前記重ね合わせ目と前記ピッチ円径との間の径方向偏り量だけ他方の切欠部の径方向肉厚より薄くしたことが好ましい。樹脂保持器の外径を大きくしたり、内径を小さくしたりすることなく、第1分割保持器の内径及び第2分割保持器の外径の径変更のみで切欠部同士の径方向肉厚差を付けて、重ね合わせ目を上記のように偏った位置に形成することができるので、内外輪間への保持器組み込み性を良好に保つことができる。
【0012】
前記重ね合わせ目は、前記ピッチ円径から内外いずれ側へ偏らせてもよい。
【0013】
前記重ね合わせ目が前記ピッチ円径から外側に偏った位置に形成されるようにすれば、
第1分割保持器の内径、及びこの内側に挿入する第2分割保持器の外径を大径化し、第1分割保持器の内外両側に軌道輪との間の隙間を得易い。
【0014】
逆に、前記重ね合わせ目が前記ピッチ円径から内側に偏った位置に形成されるようにすれば、第1分割保持器の内径、及びこの内側に挿入する第2分割保持器の外径を小径化し、第1分割保持器の径方向肉厚を大きくすることができるので、高速回転時に遠心力が比較的に大きく作用する第1分割保持器の剛性を確保し易い。
【0015】
第1分割保持器の切欠部の内面及び第2分割保持器の切欠部の内面形状は、円周方向のポケットすきまがピッチ円径の円周上で最小になる公知の形状を適宜に採用することができる。
【0016】
例えば、前記第1分割保持器の切欠部の内面及び前記第2分割保持器の切欠部の内面を、前記ボールに沿う球状に形成することができる。球状に代えて特許文献2、4のように円筒状にすることも可能だが、比較的に、球状の方が径方向のポケットすきまを小さくし易いので、前記重ね合わせ目と前記ピッチ円径との間の径差を径方向のポケットすきまより大きくし易い利点がある。
【0017】
前記連結手段を構成する前記係合爪と係合凹部の係合箇所を、円周方向等配で3箇所以上に設けると、両分割保持器を全周に亘って結合し易くなる。
【0018】
この発明においても、前記第1分割保持器及び前記第2分割保持器は、ポリアミド樹脂(PA)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンスルファイド樹脂(PPS)のいずれかを適宜に用いて成形することができる。
【0019】
前記第1分割保持器及び前記第2分割保持器のうち、少なくとも一方の分割保持器に、自己の前記切欠部よりも径方向に突出した鍔を設けてもよい。鍔により、軌道輪と当該分割保持器との間の径方向隙間を狭められるので、保持器内部に流入するオイル量を減らし、公転するボールや切欠部がオイルを攪拌する攪拌抵抗を減少させることができる。ひいては、軸受回転の低トルク化に寄与する。
【0020】
前記鍔を、前記一方の分割保持器と組み合わせた相手側の分割保持器の前記切欠部と軸方向に対面するように円周方向に亘って設け、前記鍔の反切欠部側の軸方向側面を、円周方向に亘る平坦面とすることが好ましい。従来品のように、軸受外部から内外輪間へ流入したオイルと早期に接触する内外輪の肩部間から軸方向に、切欠部や柱部による軸方向の凹凸が円周方向に繰り返し露出していると、回転する樹脂保持器の軸方向側面がオイルを攪拌する攪拌抵抗を大きくする一因となる。相手側の分割保持器と軸方向に対面する鍔にすれば、前記軸方向の凹凸が内外輪の肩部間から軸方向に露出する量を円周方向に亘って鍔で減らすことができる。その上で、鍔の反切欠部側の軸方向側面を円周方向に亘る平坦面とすれば、内外輪の肩部間から軸方向に露出する樹脂保持器の軸方向側面部分において、軸方向の凹凸が円周方向に繰り返さない部分を増やし、攪拌抵抗を減少させることができる。
【0021】
前記内外に重なった切欠部同士のうち、前記重ね合わせ目を前記ピッチ円径から偏らせた側に位置する一方の切欠部の径方向肉厚を他方の切欠部の径方向肉厚より薄くする場合、前記鍔を、前記一方の切欠部をもつ前記一方の分割保持器に前記ピッチ円径を越える突出高さで設けることが好ましい。一方の切欠部の径方向肉厚を薄くしつつ、鍔により、保持器内部へのオイル流入量を減少させることができる。
【0022】
前記鍔を、前記一方の分割保持器の軸方向端部に設けることも好ましい。ボール、切欠部から鍔を最も遠ざけることができ、ボール表面でのオイル流動性が鍔で低下することを避けることができる。
【0023】
この発明に係る樹脂保持器は、外輪の軌道溝および内輪の軌道溝のそれぞれ両側に位置する合計4つの肩のうち、外輪軌道溝の一側の肩および内輪軌道溝の他側の肩の高さが、外輪軌道溝の他側の肩および内輪軌道溝の一側の肩の高さより高い深みぞ玉軸受に採用することができ、これにより、大きなスラスト荷重を受ける軸受使用条件下でのボールの肩乗り上げを阻止して短寿命化を防ぎ、大きなモーメント荷重を受ける軸受使用条件下でも樹脂保持器の脱落を防ぎ、両分割保持器の潤滑油連れ回しによるポンプ作用で潤滑性をよくしつつ、潤滑油に含まれた異物が重ね合わせ目に堆積する軸受使用条件化でも短寿命化を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0024】
上述のように、この発明は、上記構成の採用により、両分割保持器の重ね合わせ目に異物が堆積したとしても、ボールと最も衝突し易いポケット内面箇所から外れた箇所で堆積が生じるので、ボールと堆積異物の衝突を防止可能な樹脂保持器にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明に係る第1実施形態の樹脂保持器を採用した深みぞ玉軸受の縦断正面図
【図2】(a)は図1に示す樹脂保持器の一部分を示す右側面図、(b)は図1の重ね合わせ目付近の拡大縦断側面図
【図3】図1に示す樹脂保持器の一部分を示す左側面図
【図4】第1分割保持器と第2分割保持器の一部分を示す平面図
【図5】第1実施形態の変更例を示す縦断正面図
【図6】図5に示す樹脂保持器の一部分を示す右側面図
【図7】図5に示す樹脂保持器の一部分を示す左側面図
【図8】この発明に係る第2実施形態の樹脂保持器を採用した深みぞ玉軸受の縦断正面図
【図9】この発明に係る第3実施形態の樹脂保持器を採用した深みぞ玉軸受の縦断正面図
【図10】従来例の縦断正面図
【図11】従来例の右側面図
【図12】従来例の左側面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明に係る実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1に示すように、この深みぞ玉軸受は、外輪11の内径面に形成された軌道溝12と、内輪21の外径面に設けられた軌道溝22間にボール31を組み込み、そのボール31を樹脂保持器40で保持している。
【0027】
ここで、外輪11の軌道溝12の両側に形成された一対の肩13a、13bのうち、軌道溝12の一側方に位置する肩13aの高さを標準型深みぞ玉軸受の外輪の肩の高さより高くし、他側方に位置する肩13bを標準型深みぞ玉軸受の外輪の肩の高さと同じ高さとしている。また、内輪21の軌道溝22の両側に形成された一対の肩23a、23bのうち、軌道溝22の他側方に位置する肩23bの高さを標準型深みぞ玉軸受の内輪の肩の高さより高くし、一側方に位置する肩23aの高さを標準型深みぞ玉軸受の内輪の肩の高さと同じ高さとしている。
【0028】
外輪11および内輪21は、標準型深みぞ玉軸受の外輪および内輪と同一の構成からなるものを用いるようにしてもよく、また、外輪11の他側方に位置する肩13bおよび内輪21の一側方に位置する肩23aの肩高さを標準型深みぞ玉軸受の肩の高さより低くしてもよい。なお、標準型深みぞ玉軸受とは、外輪の一対の肩の高さおよび内輪の一対の肩の高さが同じ高さとされている軸受のことをいう。
【0029】
図1〜図3に示すように、樹脂保持器40は、第1分割保持器41と、その第1分割保持器41の内側に挿入された第2分割保持器42とからなる。
【0030】
図4に示すように、第1分割保持器41は、環状体43の軸方向一側面に、環状体43を刳り抜く平面形状が2分の1円を超える大きさの切欠部44を円周方向に等間隔で形成した、全体が合成樹脂の成形品からなっている。軸方向とは、軸受中心軸に平行な方向のことをいい、円周方向とは、軸受中心軸回りの方向のことをいう。なお、径方向は、軸受中心軸に直角な方向のこという。樹脂保持器40の中心軸は、軸受中心軸と同軸に設定されている。
【0031】
切欠部44は、円周方向に対向一対のポケット爪45を有している。各対向一対のポケット爪45も、円周方向に等間隔に形成している。対向一対のポケット爪45は、切欠部44のうち、前記平面形状が2分の1円を超える大きさとするための突端部を成している。
【0032】
ここで、環状体43の内径は、図2、3に示すように、ボール31のピッチ円径(PCD)より大径になっている。環状体43の外径は、外輪11の高い肩13aの内径と低い肩13bの内径の範囲内とされて、外輪11の高さの低い肩13b側から軸受内に挿入可能とされている。
【0033】
切欠部44の内面は、ボール31の外周に沿う球状とされている。
【0034】
一方、第2分割保持器42は、環状体46の軸方向他側面に、環状体46を刳り抜く平面形状が2分の1円を超える大きさの切欠部47を円周方向に等間隔で形成した、全体が合成樹脂の成形品からなっている。
【0035】
切欠部47は、円周方向に対向一対のポケット爪48を有している。各対向一対のポケット爪48も、円周方向に等間隔に形成している。対向一対のポケット爪48は、切欠部47のうち、前記平面形状が2分の1円を超える大きさとするための突端部を成している。
【0036】
環状体46の外径は、図2、3に示すように、ボール31のピッチ円径(PCD)より大径になっている。環状体46の内径は、内輪21の高い肩23bの外径と低い肩23aの外径の範囲内とされている。第2分割保持器42は、高さの低い肩23a側から軸受内に挿入可能とされ、かつ、第1分割保持器41の内側に嵌合可能とされている。
【0037】
切欠部47の内面は、ボール31の外周に沿う球状とされている。
【0038】
図1、図4に示すように、第1分割保持器41の切欠部44と第2分割保持器42の切欠部47の円周方向の等配ピッチが同じなので、第1分割保持器41の軸方向一側部内に、第2分割保持器42の軸方向他側部を同軸に挿入する両分割保持器41、42の嵌合によって、同じ円周方向位置の切欠部44、47のポケット爪45、48同士が内外に重なり、これら切欠部44、47の球状内面により、軸受中心軸と同軸の任意の円筒断面において平面形状が円形のポケットを形成することができる。このように円形のポケットを形成する両分割保持器41、42組み合わせ状態において、その第1分割保持器41と第2分割保持器42を軸方向に非分離とする連結手段が樹脂保持器40に設けられている。
【0039】
その連結手段は、第1分割保持器41の隣接する切欠部44間に形成された柱部49の先端部に内向きの係合爪50を設け、かつ、環状体43の内径面に係合爪50と同一軸線上に溝状の係合凹部51を形成し、第2分割保持器42の隣接する切欠部47間に形成された柱部52の先端部に外向きの係合爪53を設け、かつ、環状体46の外径面に係合爪53と同一軸線上に係合凹部54を形成し、第1分割保持器41の係合爪50と第2分割保持器42の係合凹部54の係合、および、第2分割保持器42の係合爪53と第1分割保持器41の係合凹部51の係合によって、第1分割保持器41と第2分割保持器42とを軸方向に非分離とする構成とされている。
【0040】
係合爪50、53及び係合凹部51、54は、前記の隣接間の全箇所にあり、最も強固な非分離化が図られている。係合爪50、53及び係合凹部51、54は、円周方向等配の3箇所以上であれば、全周に亘って非分離にするための結合力を及ぼすことができる。
【0041】
第1分割保持器41および第2分割保持器42を成形する樹脂は、深みぞ玉軸受を潤滑する潤滑油に触れるため、耐油性に優れた合成樹脂を用いるようにする。そのような合成樹脂として、ポリアミド樹脂(PA)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)を挙げることができる。ポリアミド樹脂として、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド66(PA66)を採用することができる。これらの樹脂は、潤滑油の種類に応じて適切なものを選択して使用すればよい。
【0042】
この深みぞ玉軸受の組立てに際しては、外輪11の内側に内輪21を挿入し、その内輪21の軌道溝22と外輪11の軌道溝12間に所要数のボール31を組み込む。このとき、内輪21を外輪11に対して径方向にオフセットして、内輪21の外径面の一部を外輪11の内径面の一部に当接し、その当接部位から円周方向に180度ずれた位置に三日月形の空間を形成し、その空間の一側方から内部にボール31を組み込むようにする。
【0043】
なお、そのボール31の組み込みに際して、外輪11のスラスト負荷側の肩13aや内輪21の肩23bの高さH1が必要以上に高い場合には、ボール31の組み込みを阻害することになるが、実施の形態では、ボール31の球径に対する肩の高さH1の比率H1/球径が、0.50を超えることのない高さとして、外輪11と内輪21間にボール31を確実に組み込むことを可能としている。
【0044】
ボール31の組み込み後、内輪21の中心を外輪11の中心に一致させてボール31を周方向に等間隔に配置し、外輪11の高さの低い肩13bの一側方から外輪11と内輪21間に第1分割保持器41を、その第1分割保持器41に形成された切欠部44内にボール31が嵌り込むようにして挿入する。また、内輪21の高さが低い肩23aの一側方から外輪11と内輪21間に第2分割保持器42を、その第2分割保持器42に形成された切欠部47内にボール31が嵌り込むように挿入して、第1分割保持器41の軸方向一側部内に第2分割保持器42の軸方向他側部を嵌合する。
【0045】
上記のように、第1分割保持器41内に第2分割保持器42を嵌合することにより、図1および図4に示すように、各分割保持器41、42に形成された係合爪50、53が相手方の分割保持器に設けられた係合凹部54、51に係合することになり、深みぞ玉軸受の組立てが完了する。このように、外輪11の軌道溝12と内輪21の軌道溝22間にボール31を組み込んだ後、外輪11と内輪12間の両側方から内部に第1分割保持器41と第2分割保持器42とを挿入して、第1分割保持器41内に第2分割保持器42を嵌合する簡単な作業によって深みぞ玉軸受を組み立てることができる。
【0046】
この深みぞ玉軸受の組立てにより、樹脂保持器40が軸受内部に組み込まれた状態になる。このとき、図1に示すように、ポケットを形成する切欠部44、47同士は、ポケット爪45の軸方向最先端を幅一端とし、ポケット爪48の軸方向最先端を幅他端とした幅領域において内外に重なった状態になる。この切欠部44、47同士の重ね合わせ目55は、ピッチ円径(PCD)から径方向に偏った位置に形成される。切欠部44の内径、切欠部47の外径は、図1、図4に示すように、第1分割保持器41の環状体43の内径面、第2分割保持器42の環状体46の外径面に存在する嵌め合い面と同一面を成すように成形されている。このため、重ね合わせ目55の径方向幅は嵌め合いの程度である。
【0047】
図示例の重ね合わせ目55は、ピッチ円径(PCD)から径方向にポケットすきまδ1より大きく偏った位置に形成される。径方向のポケットすきまδ1は、ボール31と樹脂保持器40との間のすきまであって、ボール中心をピッチ円径(PCD)上、かつポケットの円周方向長さ中央に置いたボール31が、ポケット内で樹脂保持器40に対して径方向に外側へ自由に動くことができる径方向の長さに相当する。重ね合わせ目55とピッチ円径(PCD)との間の径方向偏り量d1は、ポケットすきまδ1より大きい。すなわち、樹脂保持器40が軸受中心軸と同心のとき、重ね合わせ目55は、ピッチ円径(PCD)から径方向にポケットすきまδ1より大きく離れた位置にある。図1〜図3は、このときを図示している。
【0048】
樹脂保持器40が転動体案内方式なので、ある1箇所のポケットの重ね合わせ目55が、樹脂保持器40の偏心に伴って最も内側まで変位する径方向の変位量は、相対的には、重ね合わせ目55が偏った側に確保されたポケットすきまδ1に相当する。樹脂保持器40の偏心により、ある1箇所のポケットの重ね合わせ目55が最も内側まで変位したとしても、前記同軸時の重ね合わせ目55とピッチ円径(PCD)の径方向位置関係を決める径方向偏り量d1>径方向のポケットすきまδ1の設定により、重ね合わせ目55は、ピッチ円径(PCD)の外側に位置することになる。したがって、軸受運転中、重ね合わせ目55に異物が堆積したとしても(図2(b)中に黒塗り潰しで堆積異物を概念的に示す)、ボール31と堆積異物の衝突を防止することができる。なお、ある1箇所のポケットの重ね合わせ目55が樹脂保持器40の偏心に伴って外側へ変位することは、ボール31と堆積異物の衝突防止に有利な挙動といえる。
【0049】
前記径方向偏り量d1は、内外に重なった切欠部44、47同士のうち、重ね合わせ目55をピッチ円径(PCD)から偏らせた側に位置する一方の切欠部44の径方向肉厚t1を、径方向偏り量d1だけ他方の切欠部47の径方向肉厚t2よりも薄くすることで設けられている。このため、樹脂保持器40の内外径は、ピッチ円径(PCD)上に重ね合わせ目を形成した従来品の樹脂保持器から変更する必要がない。径方向偏り量d1は、薄くする方の第1分割保持器41又は第2分割保持器42の剛性を所要に確保できる限り、軸受運転中、ボール31と接触可能な樹脂保持器40の表面領域に堆積異物が入り込むことのないよう、径方向のポケットすきまδ1より十分に大きく設定すればよい。
【0050】
重ね合わせ目55がピッチ円径(PCD)から外側に偏った位置に形成されるので、第1分割保持器41の内径、及びこの内側に挿入する第2分割保持器42の外径を大径化し、特に軸受他端側(図1中の軸受右端側)で第1分割保持器41の内外両側に外輪11、内輪21との間の径方向隙間を得易い。
【0051】
図5〜図7に、重ね合わせ目55がピッチ円径(PCD)から内側に偏った位置に形成される変更例を示す。この変更例では、第1分割保持器41の内径、及びこの内側に挿入する第2分割保持器42の外径を小径化し、図1〜図3との比較から明らかなように、第1分割保持器41の径方向肉厚を大きくすることができる。したがって、高速回転時に遠心力が比較的に大きく作用する第1分割保持器41の剛性を確保し易い。
【0052】
この深みぞ玉軸受を用いて、例えば、トランスミッションのインプットシャフト等のトルク伝達シャフトを支持し、その支持状態において、トルク伝達シャフトが回転し、外輪11と内輪21が相対回転すると、ボール31は自転しつつ公転し、その公転により、樹脂保持器40も回転し、外輪11と内輪21間に潤滑油が介在されていると、その潤滑油は樹脂保持器40との接触によって連れ回されることになる。第1分割保持器41と第2分割保持器42は外径が異なるため、周速に差が生じ、第1分割保持器41との接触によって連れ回される潤滑油の流れは第2分割保持器42との接触によって連れ回される潤滑油の流れより速くなり、流れの速い側に流れの遅い側の潤滑油が引き寄せられて、軸受内部にポンプ作用が生じるので、深みぞ玉軸受の潤滑性の向上を図ることができる。
【0053】
この深みぞ玉軸受においては、第1分割保持器41の切欠部44及び第2分割保持器42の切欠部47の開口端にボール31を抱き込む対向一対のポケット爪45、48を設け、第1分割保持器41のポケット爪45と第2分割保持器42のポケット爪48を相反する方向に向く組合せとし、その組合せ状態において、係合爪50、53を係合凹部54、51に係合して第1分割保持器41と第2分割保持器42を軸方向に非分離としているため、大きなモーメント荷重が負荷されてボール31に遅れや進みが生じても、樹脂保持器40が脱落するようなことはない。
【0054】
なお、この樹脂保持器40においても、特許文献2〜4に開示したように、係合爪50、53と係合凹部54、51間に形成される円周方向隙間をボール31と切欠部44、47間に形成される円周方向のポケットすきまより大きくしておくことにより、大きなモーメント荷重が負荷されてボール31に遅れ進みが生じ、第1分割保持器41と第2分割保持器42とが相対的に回転しても、係合爪50、53が係合凹部54、51の円周方向で対向する側面に当接することを無くし、係合爪50、53の損傷防止を図るようにしてもよい。また、係合爪50、53と係合凹部54、51間に形成される軸方向隙間をボール31と切欠部44、47間に形成される軸方向のポケットすきまより大きくしておくことにより、第1分割保持器41と第2分割保持器42に離反する方向の軸方向力が作用した際に、対向一対のポケット爪45、48の内面がボール31の外周面に当接して、係合爪50、53が係合凹部54、51の軸方向端面に当接するというようなことを無くし、係合爪50、53の損傷防止を図るようにしてもよい。
【0055】
この発明に係る第2実施形態を図8に基いて説明する。以下、第1実施形態との相違点を述べるに留め、同一の構成要素の説明を省略する。図8と図1を比較すれば明らかなように、第2実施形態は、図1例において、第1分割保持器41に、切欠部44よりも径方向に突出した鍔61、62を円周方向に亘って設け、第2分割保持器42の切欠部47よりも径方向に突出した鍔71、72を円周方向に亘って設けた点で相違するものである。
【0056】
第1分割保持器41の外径側の鍔61は、円周方向に亘って切欠部44に対し同高さで突出して外輪11の肩13bとの間の径方向隙間を狭めている。鍔61の突出高さは、外輪11の肩13a内径より大径であって、樹脂保持器40と外輪11を同軸にしたとき、肩13bとの間の径方向隙間が樹脂保持器40の偏心限界を決める径方向のポケットすきまより大きな隙間となるように設定している。
【0057】
第1分割保持器41の内径側の鍔62は、円周方向に亘って切欠部44に対し同高さで突出して内輪21の肩23bとの間の径方向隙間を狭めている。鍔62の突出高さは、組み合わせ相手側の第2分割保持器42の切欠部47と軸方向に対面し、PCDを超え、樹脂保持器40と内輪21を同軸にしたとき、肩23bとの間の径方向隙間が前記径方向のポケットすきまより大きな隙間となるように設定している。
【0058】
鍔61、62は、第1分割保持器41の軸方向端部に設けられている。鍔61、62の反切欠部44側の軸方向側面は、樹脂保持器40の幅を定める片方の幅面63に含まれている。幅面63は、軸方向に直角な平面に沿い、かつ円周方向に亘る平坦面とされている。
【0059】
両つば61、62により、第1分割保持器41と外輪11、内輪21との間の径方向隙間を狭め、樹脂保持器40の図中右側から保持器内部に流入するオイル量を減らし、公転するボール31や切欠部44、47がオイルを攪拌する攪拌抵抗を減少させることができる。
【0060】
軸受外部から内外輪間へ流入したオイルと早期に接触する肩部13b、23b間において、第2分割保持器42の軸方向他側面に形成された切欠部47等の先端部は、鍔62により軸方向から覆い隠される。このため、切欠部47等による軸方向の凹凸が肩部13b、23b間から軸方向に露出する量は、円周方向に亘って鍔62で減らされている。鍔62の反切欠部44側の軸方向側面等を含む幅面63は、円周方向に亘る平坦面となっているので、肩部13b、23b間から軸方向に露出する樹脂保持器40の軸方向側面部分において、軸方向の凹凸が円周方向に繰り返さない部分を増やし、攪拌抵抗を減少させることができる。
【0061】
なお、鍔61、62の切欠部44側の軸方向側面も、軸方向に直角な平面に沿い、かつ円周方向に亘る平坦面とされている。これは、鍔61、62を超えたオイルを鍔61、62が攪拌する攪拌抵抗を抑制するためである。鍔61、62により保持器内部へのオイル流入量が減少するので、鍔61、62の切欠部44側の軸方向側面に軸方向の凹凸を許容することも可能である。
【0062】
鍔62がピッチ円径(PCD)を越える突出高さで設けられているので、ピッチ円径(PCD)から偏らせた側に位置する切欠部44の径方向肉厚を第2分割保持器42の切欠部47より薄くしつつ、鍔62により、保持器内部へのオイル流入量を減少させることができる。
【0063】
第2分割保持器42の外径側の鍔71は、円周方向に亘って切欠部47に対し同高さで突出して外輪11の肩13aとの間の径方向隙間を狭めている。鍔71の突出高さは、組み合わせ相手側の第1分割保持器41の切欠部44と軸方向に対面し、樹脂保持器40と外輪11を同軸にしたとき、肩13aとの間の径方向隙間が前記径方向のポケットすきまより大きな隙間となるように設定している。
【0064】
第2分割保持器42の内径側の鍔72は、円周方向に亘って切欠部47に対し同高さで突出して内輪21の肩23aとの間の径方向隙間を狭めている。鍔72の突出高さは、内輪21の肩23b外径より小径であって、樹脂保持器40と内輪21を同軸にしたとき、肩23aとの間の径方向隙間を、前記径方向のポケットすきまより大きな隙間となるように設定している。
【0065】
鍔71、72は、第2分割保持器42の軸方向端部に設けられている。鍔71、72の反切欠部47側の軸方向側面は、樹脂保持器40の幅を定める残方の幅面73に含まれている。幅面73は、軸方向に直角な平面に沿い、かつ円周方向に亘る平坦面とされている。なお、鍔71、72の切欠部47側の軸方向側面も、上記鍔61、62と同じ目的で、軸方向に直角な平面に沿い、かつ円周方向に亘る平坦面とされている。
【0066】
両つば71、72により、第2分割保持器42と外輪11、内輪21との間の径方向隙間を狭め、樹脂保持器40の図中左側から保持器内部に流入するオイル量を減らし、公転するボール31や切欠部44、47がオイルを攪拌する攪拌抵抗を減少させることができる。
【0067】
軸受外部から内外輪間へ流入したオイルと早期に接触する肩部13a、23a間において、第1分割保持器41の軸方向一側面に形成された切欠部44等の先端部は、鍔71により軸方向から覆い隠される。このため、切欠部44等による軸方向の凹凸が肩部13a、23a間から軸方向に露出する量は、円周方向に亘って鍔71で減らされている。鍔71の反切欠部47側の軸方向側面等を含む幅面73は、円周方向に亘る平坦面となっているので、肩部13a、23a間から軸方向に露出する樹脂保持器40の軸方向側面部分において、軸方向の凹凸が円周方向に繰り返さない部分を増やし、攪拌抵抗を減少させることができる。
【0068】
鍔61、62を第1分割保持器41の軸方向端部、鍔71、72を第2分割保持器42の軸方向端部に設けたので、ボール31、切欠部44、47から鍔61、62、71、72を軸方向に最も遠ざけることができ、ボール31表面でのオイル流動性が鍔61、62、71、72で低下することを避けることができる。
【0069】
鍔61、62、71、72を両分割保持器41、42に設ける必要はなく、適宜に省略することが可能である。鍔62を省略すると、内輪21の肩23bと第1分割保持器41との間に大きな径方向隙間が生じる。このため、少なくとも、保持器内部へのオイル流入量を減少させるのに最も効果的な鍔62を採用することが好ましい。また、鍔62、71を省略すると、第2分割保持器42の軸方向他側面の凹凸、第1分割保持器41の軸方向他側面の凹凸が、肩13b、23b間、肩13a、23a間から軸方向に露出する量が増大するので、鍔62、71の少なくとも一方を採用することが好ましく、両方を採用することがより好ましい。
【0070】
省略例として、第3実施形態を図9に示す。図9と図5を比較すれば明らかなように、第3実施形態は、図5例において、両分割保持器41、42に鍔61、71、72を設けたものである。第3実施形態は、第2分割保持器42の切欠部47の径方向肉厚を比較的に薄肉に設けたものなので、鍔71が保持器内部へのオイル流入量を減少させるのに最も効果的なものとなっている。第1分割保持器41の鍔62は、切欠部44の径方向肉厚増大に伴い、第2分割保持器42の軸方向他側面の凹凸が肩13b、23b間から軸方向に露出する量が減り、また、樹脂保持器40の軸方向両側面における凹凸の内輪21との間の径方向隙間を確保するため、省略されている。
【0071】
切欠部44、47は平面形状が円弧状とされたものを例示したが、これに限定されるものではなく、特許文献2〜4で開示したもののように、第1分割保持器41と第2分割保持器42の嵌合状態において円筒状のポケットを形成する平面U字形とされたものであってもよい。この発明の技術的範囲は、上述の各実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載に基く技術的思想の範囲内での全ての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0072】
11 外輪
12、22 軌道溝
21 内輪
13a、13b、23a、23b 肩
31 ボール
40 樹脂保持器
41 第1分割保持器
42 第2分割保持器
43、46 環状体
44、47 切欠部
45、48 ポケット爪
49、52 柱部
50、53 係合爪
51、54 係合凹部
55 重ね合わせ目
61、62、71、72 鍔
63、73 樹脂保持器の幅面(反切欠部側の軸方向側面)
H1 高さ
PCD ピッチ円径
d1 径方向偏り量
δ1 ポケットすきま
t1、t2 径方向肉厚
【技術分野】
【0001】
この発明は、合成樹脂で形成された玉軸受用の樹脂保持器、及びこれを用いた深みぞ玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用トランスミッションなどに使用する軸受として、大きなラジアル荷重及びスラスト荷重を受けることができ、かつ損失トルクを円すいころ軸受の採用時よりも低減するため、深みぞ玉軸受を用いることが好ましい。
【0003】
この用途に適した深みぞ玉軸受として、過大なスラスト荷重が負荷された際、そのスラスト荷重を受ける負荷側の肩にボールが乗り上げて、肩のエッジが損傷スラスト負荷時、ボールが肩に乗り上げることを防止するため、外輪の軌道溝および内輪の軌道溝のそれぞれ両側に形成された肩のうち、スラスト荷重を受ける側の肩を高くして、ボールの乗り上げを阻止し、軸受の耐久性の低下を抑制するようにしたものがある(特許文献1〜4)。
【0004】
この種の深みぞ玉軸受に適した保持器として、図10〜図12に示すように、円筒形の第1分割保持器81と、第1分割保持器81の内側に嵌合された円筒形の第2分割保持器82とからなり、第1分割保持器81の軸方向一側面と第2分割保持器82の軸方向他側面に、両分割保持器81、82を内外に組み合わせた状態でボール93保持用の円形のポケットを形成する切欠部83、84を円周方向に間隔をおいて設け、その組み合わせた状態で、その両分割保持器81、82を軸方向に非分離とする連結手段を設けた樹脂保持器80が提案されている。この連結手段は、第1分割保持器81の隣接する切欠部83間に形成された柱部の先端部に内向きの係合爪85を設け、第2分割保持器82の隣接する切欠部84間に形成された柱部の先端部に外向きの係合爪86を設け、第1分割保持器81の係合爪85を第2分割保持器82の外径面に形成された係合凹部87に係合し、第2分割保持器82の係合爪86を第1分割保持器の内径面に形成された係合凹部88に係合したことからなっている(特許文献2〜4)。
【0005】
特許文献2〜4の樹脂保持器を採用した深みぞ玉軸受の組立てに際しては、外輪91と内輪92間にボール93を組み込んだ後、外輪91と内輪92の一側方から軸受内部に第1分割保持器81を、第1分割保持器81の切欠部83内にボール93が収容されるように挿入し、かつ、外輪91と内輪92間の他側方から軸受内部に第2分割保持器82を、第2分割保持器82の切欠部84内にボール93が収容されるように挿入して、第1分割保持器81の軸方向の一側部内に第2分割保持器82の軸方向の他側部を嵌合して、連結手段により、その両分割保持器81、82を連結することになる。この嵌合により、連結手段が互いに係合して第1分割保持器81と第2分割保持器82は軸方向に非分離とされ、深みぞ玉軸受の組立てが完了する。このとき、径の異なる第1分割保持器81と第2分割保持器82は、両端部が軸方向(左右方向)にずれる非対称の組合せであり、組み込み時における挿入方向の後端部が外輪91の肩と内輪92の肩間に位置する組み込みであるため、内・外輪91、92の肩に干渉するようなことはない。円形のポケット内にボール93が保持された組合せ状態で両分割保持器81、82が連結手段で軸方向に非分離とされるので、大きなモーメント荷重が負荷されてボールに遅れや進みが生じても、樹脂保持器が脱落するようなことはない。トランスミッションのインプットシャフト等のトルク伝達シャフトを深みぞ玉軸受で支持する状態において、トルク伝達シャフトが回転すると、ボール93は自転しつつ公転し、その公転により、樹脂保持器80も回転し、外輪91と内輪92間に介在する潤滑油は樹脂保持器80との接触によって連れ回されることになる。このとき、第1分割保持器81と第2分割保持器82は外径が異なるため、周速に差が生じ、第1分割保持器81との接触によって連れ回される潤滑油の流れは第2分割保持器82との接触によって連れ回される潤滑油の流れより速くなり、流れの速い側に流れの遅い側の潤滑油が引き寄せられて、軸受内部にポンプ作用が生じる。そのポンプ作用により潤滑油が軸受内部を一方向に流動し、深みぞ玉軸受は強制的に潤滑されることになる。したがって、潤滑性の向上を図ることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−145795号公報(要約書)
【特許文献2】特開2011−7284号公報
【特許文献3】特開2011−7286号公報
【特許文献4】特開2011−21661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2〜4の樹脂保持器は、両分割保持器81、82を組み合わせた状態で内外に重なった切欠部83、84同士の重ね合わせ目が存在する。異物が潤滑油に運ばれて軸受内部に至る軸受使用条件下では、その異物が、ポケットを形成する切欠部83、84同士の重ね合わせ目に堆積し得る。特許文献2〜4の樹脂保持器では、ボール93と堆積異物の接触について考慮されておらず、重ね合わせ目は、ボール93のピッチ円径(PCD)と略同径上に形成されていた。ピッチ円径(PCD)と略同径上のポケット内面箇所は、軸受運転中、ボール93と円周方向に最も衝突し易いポケット内面部分になる。トランスミッションのようにギヤ摩耗などの硬い異物が堆積し得る軸受使用条件では、ボール93の進み遅れが生じたとき、切欠部83、84同士の重ね合わせ目に存在する堆積異物とボール93の衝突が短寿命の原因になり得る。
【0008】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、両分割保持器の重ね合わせ目に異物が堆積したとしてもボールと堆積異物の衝突を防止可能な樹脂保持器にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するため、この発明は、円筒形の第1分割保持器と、前記第1分割保持器の内側に挿入される円筒形の第2分割保持器とからなり、前記第1分割保持器および前記第2分割保持器のそれぞれに、これら両分割保持器を内外に組み合わせた状態でボール保持用の円形のポケットを形成する切欠部を円周方向に間隔をおいて設け、前記組み合わせた状態で、これら両分割保持器を軸方向に非分離とする連結手段を設け、前記連結手段が、前記第1分割保持器の隣接する前記切欠部間に形成された柱部の先端部に内向きの係合爪を設け、前記第2分割保持器の隣接する前記切欠部間に形成された柱部の先端部に外向きの係合爪を設け、前記第1分割保持器の前記係合爪を前記第2分割保持器の外径面に形成された係合凹部に係合し、前記第2分割保持器の前記係合爪を前記第1分割保持器の内径面に形成された係合凹部に係合したことからなる樹脂保持器において、前記組み合わせた状態で内外に重なった前記切欠部同士の重ね合わせ目が、ボールのピッチ円径から径方向にポケットすきまより大きく偏った位置に形成される構成を採用したものである。
【0010】
ボールの進み遅れ、各種誤差、樹脂保持器の遠心力による変形等を許容するため、樹脂保持器がボールに対して自由に軸方向、径方向及び円周方向の各方向に動けるようにポケットすきまが設定される。軸受運転中、樹脂保持器が径方向のポケットすきまに応じて軸受中心軸から偏心する。この偏心により、あるポケットの切欠部同士の重ね合わせ目は、外側又は内側へ径方向に変位するが、ボールのピッチ円径は変化しない。重ね合わせ目がピッチ円径に対して径方向に変位し得る大きさは、径方向のポケットすきまで決まる。したがって、ボールのピッチ円径から径方向にポケットすきまより大きく偏った位置に重ね合わせ目が形成されるようにすれば、樹脂保持器の偏心により、重ね合わせ目がピッチ円径上へ変位することはない。このため、軸受運転中、重ね合わせ目に異物が堆積したとしても、ボールと堆積異物の衝突を防止することができる。
【0011】
具体的には、前記内外に重なった切欠部同士のうち、前記重ね合わせ目を前記ピッチ円径から偏らせた側に位置する一方の切欠部の径方向肉厚を、前記重ね合わせ目と前記ピッチ円径との間の径方向偏り量だけ他方の切欠部の径方向肉厚より薄くしたことが好ましい。樹脂保持器の外径を大きくしたり、内径を小さくしたりすることなく、第1分割保持器の内径及び第2分割保持器の外径の径変更のみで切欠部同士の径方向肉厚差を付けて、重ね合わせ目を上記のように偏った位置に形成することができるので、内外輪間への保持器組み込み性を良好に保つことができる。
【0012】
前記重ね合わせ目は、前記ピッチ円径から内外いずれ側へ偏らせてもよい。
【0013】
前記重ね合わせ目が前記ピッチ円径から外側に偏った位置に形成されるようにすれば、
第1分割保持器の内径、及びこの内側に挿入する第2分割保持器の外径を大径化し、第1分割保持器の内外両側に軌道輪との間の隙間を得易い。
【0014】
逆に、前記重ね合わせ目が前記ピッチ円径から内側に偏った位置に形成されるようにすれば、第1分割保持器の内径、及びこの内側に挿入する第2分割保持器の外径を小径化し、第1分割保持器の径方向肉厚を大きくすることができるので、高速回転時に遠心力が比較的に大きく作用する第1分割保持器の剛性を確保し易い。
【0015】
第1分割保持器の切欠部の内面及び第2分割保持器の切欠部の内面形状は、円周方向のポケットすきまがピッチ円径の円周上で最小になる公知の形状を適宜に採用することができる。
【0016】
例えば、前記第1分割保持器の切欠部の内面及び前記第2分割保持器の切欠部の内面を、前記ボールに沿う球状に形成することができる。球状に代えて特許文献2、4のように円筒状にすることも可能だが、比較的に、球状の方が径方向のポケットすきまを小さくし易いので、前記重ね合わせ目と前記ピッチ円径との間の径差を径方向のポケットすきまより大きくし易い利点がある。
【0017】
前記連結手段を構成する前記係合爪と係合凹部の係合箇所を、円周方向等配で3箇所以上に設けると、両分割保持器を全周に亘って結合し易くなる。
【0018】
この発明においても、前記第1分割保持器及び前記第2分割保持器は、ポリアミド樹脂(PA)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンスルファイド樹脂(PPS)のいずれかを適宜に用いて成形することができる。
【0019】
前記第1分割保持器及び前記第2分割保持器のうち、少なくとも一方の分割保持器に、自己の前記切欠部よりも径方向に突出した鍔を設けてもよい。鍔により、軌道輪と当該分割保持器との間の径方向隙間を狭められるので、保持器内部に流入するオイル量を減らし、公転するボールや切欠部がオイルを攪拌する攪拌抵抗を減少させることができる。ひいては、軸受回転の低トルク化に寄与する。
【0020】
前記鍔を、前記一方の分割保持器と組み合わせた相手側の分割保持器の前記切欠部と軸方向に対面するように円周方向に亘って設け、前記鍔の反切欠部側の軸方向側面を、円周方向に亘る平坦面とすることが好ましい。従来品のように、軸受外部から内外輪間へ流入したオイルと早期に接触する内外輪の肩部間から軸方向に、切欠部や柱部による軸方向の凹凸が円周方向に繰り返し露出していると、回転する樹脂保持器の軸方向側面がオイルを攪拌する攪拌抵抗を大きくする一因となる。相手側の分割保持器と軸方向に対面する鍔にすれば、前記軸方向の凹凸が内外輪の肩部間から軸方向に露出する量を円周方向に亘って鍔で減らすことができる。その上で、鍔の反切欠部側の軸方向側面を円周方向に亘る平坦面とすれば、内外輪の肩部間から軸方向に露出する樹脂保持器の軸方向側面部分において、軸方向の凹凸が円周方向に繰り返さない部分を増やし、攪拌抵抗を減少させることができる。
【0021】
前記内外に重なった切欠部同士のうち、前記重ね合わせ目を前記ピッチ円径から偏らせた側に位置する一方の切欠部の径方向肉厚を他方の切欠部の径方向肉厚より薄くする場合、前記鍔を、前記一方の切欠部をもつ前記一方の分割保持器に前記ピッチ円径を越える突出高さで設けることが好ましい。一方の切欠部の径方向肉厚を薄くしつつ、鍔により、保持器内部へのオイル流入量を減少させることができる。
【0022】
前記鍔を、前記一方の分割保持器の軸方向端部に設けることも好ましい。ボール、切欠部から鍔を最も遠ざけることができ、ボール表面でのオイル流動性が鍔で低下することを避けることができる。
【0023】
この発明に係る樹脂保持器は、外輪の軌道溝および内輪の軌道溝のそれぞれ両側に位置する合計4つの肩のうち、外輪軌道溝の一側の肩および内輪軌道溝の他側の肩の高さが、外輪軌道溝の他側の肩および内輪軌道溝の一側の肩の高さより高い深みぞ玉軸受に採用することができ、これにより、大きなスラスト荷重を受ける軸受使用条件下でのボールの肩乗り上げを阻止して短寿命化を防ぎ、大きなモーメント荷重を受ける軸受使用条件下でも樹脂保持器の脱落を防ぎ、両分割保持器の潤滑油連れ回しによるポンプ作用で潤滑性をよくしつつ、潤滑油に含まれた異物が重ね合わせ目に堆積する軸受使用条件化でも短寿命化を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0024】
上述のように、この発明は、上記構成の採用により、両分割保持器の重ね合わせ目に異物が堆積したとしても、ボールと最も衝突し易いポケット内面箇所から外れた箇所で堆積が生じるので、ボールと堆積異物の衝突を防止可能な樹脂保持器にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明に係る第1実施形態の樹脂保持器を採用した深みぞ玉軸受の縦断正面図
【図2】(a)は図1に示す樹脂保持器の一部分を示す右側面図、(b)は図1の重ね合わせ目付近の拡大縦断側面図
【図3】図1に示す樹脂保持器の一部分を示す左側面図
【図4】第1分割保持器と第2分割保持器の一部分を示す平面図
【図5】第1実施形態の変更例を示す縦断正面図
【図6】図5に示す樹脂保持器の一部分を示す右側面図
【図7】図5に示す樹脂保持器の一部分を示す左側面図
【図8】この発明に係る第2実施形態の樹脂保持器を採用した深みぞ玉軸受の縦断正面図
【図9】この発明に係る第3実施形態の樹脂保持器を採用した深みぞ玉軸受の縦断正面図
【図10】従来例の縦断正面図
【図11】従来例の右側面図
【図12】従来例の左側面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明に係る実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1に示すように、この深みぞ玉軸受は、外輪11の内径面に形成された軌道溝12と、内輪21の外径面に設けられた軌道溝22間にボール31を組み込み、そのボール31を樹脂保持器40で保持している。
【0027】
ここで、外輪11の軌道溝12の両側に形成された一対の肩13a、13bのうち、軌道溝12の一側方に位置する肩13aの高さを標準型深みぞ玉軸受の外輪の肩の高さより高くし、他側方に位置する肩13bを標準型深みぞ玉軸受の外輪の肩の高さと同じ高さとしている。また、内輪21の軌道溝22の両側に形成された一対の肩23a、23bのうち、軌道溝22の他側方に位置する肩23bの高さを標準型深みぞ玉軸受の内輪の肩の高さより高くし、一側方に位置する肩23aの高さを標準型深みぞ玉軸受の内輪の肩の高さと同じ高さとしている。
【0028】
外輪11および内輪21は、標準型深みぞ玉軸受の外輪および内輪と同一の構成からなるものを用いるようにしてもよく、また、外輪11の他側方に位置する肩13bおよび内輪21の一側方に位置する肩23aの肩高さを標準型深みぞ玉軸受の肩の高さより低くしてもよい。なお、標準型深みぞ玉軸受とは、外輪の一対の肩の高さおよび内輪の一対の肩の高さが同じ高さとされている軸受のことをいう。
【0029】
図1〜図3に示すように、樹脂保持器40は、第1分割保持器41と、その第1分割保持器41の内側に挿入された第2分割保持器42とからなる。
【0030】
図4に示すように、第1分割保持器41は、環状体43の軸方向一側面に、環状体43を刳り抜く平面形状が2分の1円を超える大きさの切欠部44を円周方向に等間隔で形成した、全体が合成樹脂の成形品からなっている。軸方向とは、軸受中心軸に平行な方向のことをいい、円周方向とは、軸受中心軸回りの方向のことをいう。なお、径方向は、軸受中心軸に直角な方向のこという。樹脂保持器40の中心軸は、軸受中心軸と同軸に設定されている。
【0031】
切欠部44は、円周方向に対向一対のポケット爪45を有している。各対向一対のポケット爪45も、円周方向に等間隔に形成している。対向一対のポケット爪45は、切欠部44のうち、前記平面形状が2分の1円を超える大きさとするための突端部を成している。
【0032】
ここで、環状体43の内径は、図2、3に示すように、ボール31のピッチ円径(PCD)より大径になっている。環状体43の外径は、外輪11の高い肩13aの内径と低い肩13bの内径の範囲内とされて、外輪11の高さの低い肩13b側から軸受内に挿入可能とされている。
【0033】
切欠部44の内面は、ボール31の外周に沿う球状とされている。
【0034】
一方、第2分割保持器42は、環状体46の軸方向他側面に、環状体46を刳り抜く平面形状が2分の1円を超える大きさの切欠部47を円周方向に等間隔で形成した、全体が合成樹脂の成形品からなっている。
【0035】
切欠部47は、円周方向に対向一対のポケット爪48を有している。各対向一対のポケット爪48も、円周方向に等間隔に形成している。対向一対のポケット爪48は、切欠部47のうち、前記平面形状が2分の1円を超える大きさとするための突端部を成している。
【0036】
環状体46の外径は、図2、3に示すように、ボール31のピッチ円径(PCD)より大径になっている。環状体46の内径は、内輪21の高い肩23bの外径と低い肩23aの外径の範囲内とされている。第2分割保持器42は、高さの低い肩23a側から軸受内に挿入可能とされ、かつ、第1分割保持器41の内側に嵌合可能とされている。
【0037】
切欠部47の内面は、ボール31の外周に沿う球状とされている。
【0038】
図1、図4に示すように、第1分割保持器41の切欠部44と第2分割保持器42の切欠部47の円周方向の等配ピッチが同じなので、第1分割保持器41の軸方向一側部内に、第2分割保持器42の軸方向他側部を同軸に挿入する両分割保持器41、42の嵌合によって、同じ円周方向位置の切欠部44、47のポケット爪45、48同士が内外に重なり、これら切欠部44、47の球状内面により、軸受中心軸と同軸の任意の円筒断面において平面形状が円形のポケットを形成することができる。このように円形のポケットを形成する両分割保持器41、42組み合わせ状態において、その第1分割保持器41と第2分割保持器42を軸方向に非分離とする連結手段が樹脂保持器40に設けられている。
【0039】
その連結手段は、第1分割保持器41の隣接する切欠部44間に形成された柱部49の先端部に内向きの係合爪50を設け、かつ、環状体43の内径面に係合爪50と同一軸線上に溝状の係合凹部51を形成し、第2分割保持器42の隣接する切欠部47間に形成された柱部52の先端部に外向きの係合爪53を設け、かつ、環状体46の外径面に係合爪53と同一軸線上に係合凹部54を形成し、第1分割保持器41の係合爪50と第2分割保持器42の係合凹部54の係合、および、第2分割保持器42の係合爪53と第1分割保持器41の係合凹部51の係合によって、第1分割保持器41と第2分割保持器42とを軸方向に非分離とする構成とされている。
【0040】
係合爪50、53及び係合凹部51、54は、前記の隣接間の全箇所にあり、最も強固な非分離化が図られている。係合爪50、53及び係合凹部51、54は、円周方向等配の3箇所以上であれば、全周に亘って非分離にするための結合力を及ぼすことができる。
【0041】
第1分割保持器41および第2分割保持器42を成形する樹脂は、深みぞ玉軸受を潤滑する潤滑油に触れるため、耐油性に優れた合成樹脂を用いるようにする。そのような合成樹脂として、ポリアミド樹脂(PA)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)を挙げることができる。ポリアミド樹脂として、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド66(PA66)を採用することができる。これらの樹脂は、潤滑油の種類に応じて適切なものを選択して使用すればよい。
【0042】
この深みぞ玉軸受の組立てに際しては、外輪11の内側に内輪21を挿入し、その内輪21の軌道溝22と外輪11の軌道溝12間に所要数のボール31を組み込む。このとき、内輪21を外輪11に対して径方向にオフセットして、内輪21の外径面の一部を外輪11の内径面の一部に当接し、その当接部位から円周方向に180度ずれた位置に三日月形の空間を形成し、その空間の一側方から内部にボール31を組み込むようにする。
【0043】
なお、そのボール31の組み込みに際して、外輪11のスラスト負荷側の肩13aや内輪21の肩23bの高さH1が必要以上に高い場合には、ボール31の組み込みを阻害することになるが、実施の形態では、ボール31の球径に対する肩の高さH1の比率H1/球径が、0.50を超えることのない高さとして、外輪11と内輪21間にボール31を確実に組み込むことを可能としている。
【0044】
ボール31の組み込み後、内輪21の中心を外輪11の中心に一致させてボール31を周方向に等間隔に配置し、外輪11の高さの低い肩13bの一側方から外輪11と内輪21間に第1分割保持器41を、その第1分割保持器41に形成された切欠部44内にボール31が嵌り込むようにして挿入する。また、内輪21の高さが低い肩23aの一側方から外輪11と内輪21間に第2分割保持器42を、その第2分割保持器42に形成された切欠部47内にボール31が嵌り込むように挿入して、第1分割保持器41の軸方向一側部内に第2分割保持器42の軸方向他側部を嵌合する。
【0045】
上記のように、第1分割保持器41内に第2分割保持器42を嵌合することにより、図1および図4に示すように、各分割保持器41、42に形成された係合爪50、53が相手方の分割保持器に設けられた係合凹部54、51に係合することになり、深みぞ玉軸受の組立てが完了する。このように、外輪11の軌道溝12と内輪21の軌道溝22間にボール31を組み込んだ後、外輪11と内輪12間の両側方から内部に第1分割保持器41と第2分割保持器42とを挿入して、第1分割保持器41内に第2分割保持器42を嵌合する簡単な作業によって深みぞ玉軸受を組み立てることができる。
【0046】
この深みぞ玉軸受の組立てにより、樹脂保持器40が軸受内部に組み込まれた状態になる。このとき、図1に示すように、ポケットを形成する切欠部44、47同士は、ポケット爪45の軸方向最先端を幅一端とし、ポケット爪48の軸方向最先端を幅他端とした幅領域において内外に重なった状態になる。この切欠部44、47同士の重ね合わせ目55は、ピッチ円径(PCD)から径方向に偏った位置に形成される。切欠部44の内径、切欠部47の外径は、図1、図4に示すように、第1分割保持器41の環状体43の内径面、第2分割保持器42の環状体46の外径面に存在する嵌め合い面と同一面を成すように成形されている。このため、重ね合わせ目55の径方向幅は嵌め合いの程度である。
【0047】
図示例の重ね合わせ目55は、ピッチ円径(PCD)から径方向にポケットすきまδ1より大きく偏った位置に形成される。径方向のポケットすきまδ1は、ボール31と樹脂保持器40との間のすきまであって、ボール中心をピッチ円径(PCD)上、かつポケットの円周方向長さ中央に置いたボール31が、ポケット内で樹脂保持器40に対して径方向に外側へ自由に動くことができる径方向の長さに相当する。重ね合わせ目55とピッチ円径(PCD)との間の径方向偏り量d1は、ポケットすきまδ1より大きい。すなわち、樹脂保持器40が軸受中心軸と同心のとき、重ね合わせ目55は、ピッチ円径(PCD)から径方向にポケットすきまδ1より大きく離れた位置にある。図1〜図3は、このときを図示している。
【0048】
樹脂保持器40が転動体案内方式なので、ある1箇所のポケットの重ね合わせ目55が、樹脂保持器40の偏心に伴って最も内側まで変位する径方向の変位量は、相対的には、重ね合わせ目55が偏った側に確保されたポケットすきまδ1に相当する。樹脂保持器40の偏心により、ある1箇所のポケットの重ね合わせ目55が最も内側まで変位したとしても、前記同軸時の重ね合わせ目55とピッチ円径(PCD)の径方向位置関係を決める径方向偏り量d1>径方向のポケットすきまδ1の設定により、重ね合わせ目55は、ピッチ円径(PCD)の外側に位置することになる。したがって、軸受運転中、重ね合わせ目55に異物が堆積したとしても(図2(b)中に黒塗り潰しで堆積異物を概念的に示す)、ボール31と堆積異物の衝突を防止することができる。なお、ある1箇所のポケットの重ね合わせ目55が樹脂保持器40の偏心に伴って外側へ変位することは、ボール31と堆積異物の衝突防止に有利な挙動といえる。
【0049】
前記径方向偏り量d1は、内外に重なった切欠部44、47同士のうち、重ね合わせ目55をピッチ円径(PCD)から偏らせた側に位置する一方の切欠部44の径方向肉厚t1を、径方向偏り量d1だけ他方の切欠部47の径方向肉厚t2よりも薄くすることで設けられている。このため、樹脂保持器40の内外径は、ピッチ円径(PCD)上に重ね合わせ目を形成した従来品の樹脂保持器から変更する必要がない。径方向偏り量d1は、薄くする方の第1分割保持器41又は第2分割保持器42の剛性を所要に確保できる限り、軸受運転中、ボール31と接触可能な樹脂保持器40の表面領域に堆積異物が入り込むことのないよう、径方向のポケットすきまδ1より十分に大きく設定すればよい。
【0050】
重ね合わせ目55がピッチ円径(PCD)から外側に偏った位置に形成されるので、第1分割保持器41の内径、及びこの内側に挿入する第2分割保持器42の外径を大径化し、特に軸受他端側(図1中の軸受右端側)で第1分割保持器41の内外両側に外輪11、内輪21との間の径方向隙間を得易い。
【0051】
図5〜図7に、重ね合わせ目55がピッチ円径(PCD)から内側に偏った位置に形成される変更例を示す。この変更例では、第1分割保持器41の内径、及びこの内側に挿入する第2分割保持器42の外径を小径化し、図1〜図3との比較から明らかなように、第1分割保持器41の径方向肉厚を大きくすることができる。したがって、高速回転時に遠心力が比較的に大きく作用する第1分割保持器41の剛性を確保し易い。
【0052】
この深みぞ玉軸受を用いて、例えば、トランスミッションのインプットシャフト等のトルク伝達シャフトを支持し、その支持状態において、トルク伝達シャフトが回転し、外輪11と内輪21が相対回転すると、ボール31は自転しつつ公転し、その公転により、樹脂保持器40も回転し、外輪11と内輪21間に潤滑油が介在されていると、その潤滑油は樹脂保持器40との接触によって連れ回されることになる。第1分割保持器41と第2分割保持器42は外径が異なるため、周速に差が生じ、第1分割保持器41との接触によって連れ回される潤滑油の流れは第2分割保持器42との接触によって連れ回される潤滑油の流れより速くなり、流れの速い側に流れの遅い側の潤滑油が引き寄せられて、軸受内部にポンプ作用が生じるので、深みぞ玉軸受の潤滑性の向上を図ることができる。
【0053】
この深みぞ玉軸受においては、第1分割保持器41の切欠部44及び第2分割保持器42の切欠部47の開口端にボール31を抱き込む対向一対のポケット爪45、48を設け、第1分割保持器41のポケット爪45と第2分割保持器42のポケット爪48を相反する方向に向く組合せとし、その組合せ状態において、係合爪50、53を係合凹部54、51に係合して第1分割保持器41と第2分割保持器42を軸方向に非分離としているため、大きなモーメント荷重が負荷されてボール31に遅れや進みが生じても、樹脂保持器40が脱落するようなことはない。
【0054】
なお、この樹脂保持器40においても、特許文献2〜4に開示したように、係合爪50、53と係合凹部54、51間に形成される円周方向隙間をボール31と切欠部44、47間に形成される円周方向のポケットすきまより大きくしておくことにより、大きなモーメント荷重が負荷されてボール31に遅れ進みが生じ、第1分割保持器41と第2分割保持器42とが相対的に回転しても、係合爪50、53が係合凹部54、51の円周方向で対向する側面に当接することを無くし、係合爪50、53の損傷防止を図るようにしてもよい。また、係合爪50、53と係合凹部54、51間に形成される軸方向隙間をボール31と切欠部44、47間に形成される軸方向のポケットすきまより大きくしておくことにより、第1分割保持器41と第2分割保持器42に離反する方向の軸方向力が作用した際に、対向一対のポケット爪45、48の内面がボール31の外周面に当接して、係合爪50、53が係合凹部54、51の軸方向端面に当接するというようなことを無くし、係合爪50、53の損傷防止を図るようにしてもよい。
【0055】
この発明に係る第2実施形態を図8に基いて説明する。以下、第1実施形態との相違点を述べるに留め、同一の構成要素の説明を省略する。図8と図1を比較すれば明らかなように、第2実施形態は、図1例において、第1分割保持器41に、切欠部44よりも径方向に突出した鍔61、62を円周方向に亘って設け、第2分割保持器42の切欠部47よりも径方向に突出した鍔71、72を円周方向に亘って設けた点で相違するものである。
【0056】
第1分割保持器41の外径側の鍔61は、円周方向に亘って切欠部44に対し同高さで突出して外輪11の肩13bとの間の径方向隙間を狭めている。鍔61の突出高さは、外輪11の肩13a内径より大径であって、樹脂保持器40と外輪11を同軸にしたとき、肩13bとの間の径方向隙間が樹脂保持器40の偏心限界を決める径方向のポケットすきまより大きな隙間となるように設定している。
【0057】
第1分割保持器41の内径側の鍔62は、円周方向に亘って切欠部44に対し同高さで突出して内輪21の肩23bとの間の径方向隙間を狭めている。鍔62の突出高さは、組み合わせ相手側の第2分割保持器42の切欠部47と軸方向に対面し、PCDを超え、樹脂保持器40と内輪21を同軸にしたとき、肩23bとの間の径方向隙間が前記径方向のポケットすきまより大きな隙間となるように設定している。
【0058】
鍔61、62は、第1分割保持器41の軸方向端部に設けられている。鍔61、62の反切欠部44側の軸方向側面は、樹脂保持器40の幅を定める片方の幅面63に含まれている。幅面63は、軸方向に直角な平面に沿い、かつ円周方向に亘る平坦面とされている。
【0059】
両つば61、62により、第1分割保持器41と外輪11、内輪21との間の径方向隙間を狭め、樹脂保持器40の図中右側から保持器内部に流入するオイル量を減らし、公転するボール31や切欠部44、47がオイルを攪拌する攪拌抵抗を減少させることができる。
【0060】
軸受外部から内外輪間へ流入したオイルと早期に接触する肩部13b、23b間において、第2分割保持器42の軸方向他側面に形成された切欠部47等の先端部は、鍔62により軸方向から覆い隠される。このため、切欠部47等による軸方向の凹凸が肩部13b、23b間から軸方向に露出する量は、円周方向に亘って鍔62で減らされている。鍔62の反切欠部44側の軸方向側面等を含む幅面63は、円周方向に亘る平坦面となっているので、肩部13b、23b間から軸方向に露出する樹脂保持器40の軸方向側面部分において、軸方向の凹凸が円周方向に繰り返さない部分を増やし、攪拌抵抗を減少させることができる。
【0061】
なお、鍔61、62の切欠部44側の軸方向側面も、軸方向に直角な平面に沿い、かつ円周方向に亘る平坦面とされている。これは、鍔61、62を超えたオイルを鍔61、62が攪拌する攪拌抵抗を抑制するためである。鍔61、62により保持器内部へのオイル流入量が減少するので、鍔61、62の切欠部44側の軸方向側面に軸方向の凹凸を許容することも可能である。
【0062】
鍔62がピッチ円径(PCD)を越える突出高さで設けられているので、ピッチ円径(PCD)から偏らせた側に位置する切欠部44の径方向肉厚を第2分割保持器42の切欠部47より薄くしつつ、鍔62により、保持器内部へのオイル流入量を減少させることができる。
【0063】
第2分割保持器42の外径側の鍔71は、円周方向に亘って切欠部47に対し同高さで突出して外輪11の肩13aとの間の径方向隙間を狭めている。鍔71の突出高さは、組み合わせ相手側の第1分割保持器41の切欠部44と軸方向に対面し、樹脂保持器40と外輪11を同軸にしたとき、肩13aとの間の径方向隙間が前記径方向のポケットすきまより大きな隙間となるように設定している。
【0064】
第2分割保持器42の内径側の鍔72は、円周方向に亘って切欠部47に対し同高さで突出して内輪21の肩23aとの間の径方向隙間を狭めている。鍔72の突出高さは、内輪21の肩23b外径より小径であって、樹脂保持器40と内輪21を同軸にしたとき、肩23aとの間の径方向隙間を、前記径方向のポケットすきまより大きな隙間となるように設定している。
【0065】
鍔71、72は、第2分割保持器42の軸方向端部に設けられている。鍔71、72の反切欠部47側の軸方向側面は、樹脂保持器40の幅を定める残方の幅面73に含まれている。幅面73は、軸方向に直角な平面に沿い、かつ円周方向に亘る平坦面とされている。なお、鍔71、72の切欠部47側の軸方向側面も、上記鍔61、62と同じ目的で、軸方向に直角な平面に沿い、かつ円周方向に亘る平坦面とされている。
【0066】
両つば71、72により、第2分割保持器42と外輪11、内輪21との間の径方向隙間を狭め、樹脂保持器40の図中左側から保持器内部に流入するオイル量を減らし、公転するボール31や切欠部44、47がオイルを攪拌する攪拌抵抗を減少させることができる。
【0067】
軸受外部から内外輪間へ流入したオイルと早期に接触する肩部13a、23a間において、第1分割保持器41の軸方向一側面に形成された切欠部44等の先端部は、鍔71により軸方向から覆い隠される。このため、切欠部44等による軸方向の凹凸が肩部13a、23a間から軸方向に露出する量は、円周方向に亘って鍔71で減らされている。鍔71の反切欠部47側の軸方向側面等を含む幅面73は、円周方向に亘る平坦面となっているので、肩部13a、23a間から軸方向に露出する樹脂保持器40の軸方向側面部分において、軸方向の凹凸が円周方向に繰り返さない部分を増やし、攪拌抵抗を減少させることができる。
【0068】
鍔61、62を第1分割保持器41の軸方向端部、鍔71、72を第2分割保持器42の軸方向端部に設けたので、ボール31、切欠部44、47から鍔61、62、71、72を軸方向に最も遠ざけることができ、ボール31表面でのオイル流動性が鍔61、62、71、72で低下することを避けることができる。
【0069】
鍔61、62、71、72を両分割保持器41、42に設ける必要はなく、適宜に省略することが可能である。鍔62を省略すると、内輪21の肩23bと第1分割保持器41との間に大きな径方向隙間が生じる。このため、少なくとも、保持器内部へのオイル流入量を減少させるのに最も効果的な鍔62を採用することが好ましい。また、鍔62、71を省略すると、第2分割保持器42の軸方向他側面の凹凸、第1分割保持器41の軸方向他側面の凹凸が、肩13b、23b間、肩13a、23a間から軸方向に露出する量が増大するので、鍔62、71の少なくとも一方を採用することが好ましく、両方を採用することがより好ましい。
【0070】
省略例として、第3実施形態を図9に示す。図9と図5を比較すれば明らかなように、第3実施形態は、図5例において、両分割保持器41、42に鍔61、71、72を設けたものである。第3実施形態は、第2分割保持器42の切欠部47の径方向肉厚を比較的に薄肉に設けたものなので、鍔71が保持器内部へのオイル流入量を減少させるのに最も効果的なものとなっている。第1分割保持器41の鍔62は、切欠部44の径方向肉厚増大に伴い、第2分割保持器42の軸方向他側面の凹凸が肩13b、23b間から軸方向に露出する量が減り、また、樹脂保持器40の軸方向両側面における凹凸の内輪21との間の径方向隙間を確保するため、省略されている。
【0071】
切欠部44、47は平面形状が円弧状とされたものを例示したが、これに限定されるものではなく、特許文献2〜4で開示したもののように、第1分割保持器41と第2分割保持器42の嵌合状態において円筒状のポケットを形成する平面U字形とされたものであってもよい。この発明の技術的範囲は、上述の各実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載に基く技術的思想の範囲内での全ての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0072】
11 外輪
12、22 軌道溝
21 内輪
13a、13b、23a、23b 肩
31 ボール
40 樹脂保持器
41 第1分割保持器
42 第2分割保持器
43、46 環状体
44、47 切欠部
45、48 ポケット爪
49、52 柱部
50、53 係合爪
51、54 係合凹部
55 重ね合わせ目
61、62、71、72 鍔
63、73 樹脂保持器の幅面(反切欠部側の軸方向側面)
H1 高さ
PCD ピッチ円径
d1 径方向偏り量
δ1 ポケットすきま
t1、t2 径方向肉厚
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形の第1分割保持器(41)と、前記第1分割保持器(41)の内側に挿入される円筒形の第2分割保持器(42)とからなり、
前記第1分割保持器(41)及び前記第2分割保持器(42)のそれぞれに、これら両分割保持器(41、42)を内外に組み合わせた状態でボール保持用の円形のポケットを形成する切欠部(44、47)を円周方向に間隔をおいて設け、前記組み合わせた状態で、これら両分割保持器(41、42)を軸方向に非分離とする連結手段を設け、
前記連結手段が、前記第1分割保持器(41)の隣接する前記切欠部(44)間に形成された柱部(49)の先端部に内向きの係合爪(50)を設け、前記第2分割保持器(42)の隣接する前記切欠部(47)間に形成された柱部(52)の先端部に外向きの係合爪(53)を設け、前記第1分割保持器(41)の前記係合爪(50)を前記第2分割保持器(42)の外径面に形成された係合凹部(54)に係合し、前記第2分割保持器(42)の前記係合爪(53)を前記第1分割保持器(41)の内径面に形成された係合凹部(51)に係合したことからなる樹脂保持器において、
前記組み合わせた状態で内外に重なった前記切欠部(44、47)同士の重ね合わせ目(55)が、ボール(31)のピッチ円径(PCD)から径方向にポケットすきま(δ1)より大きく偏った位置に形成されることを特徴とする樹脂保持器。
【請求項2】
前記内外に重なった切欠部(44、47)同士のうち、前記重ね合わせ目(55)を前記ピッチ円径(PCD)から偏らせた側に位置する一方の切欠部の径方向肉厚(t1)を、前記重ね合わせ目(55)と前記ピッチ円径(PCD)との間の径方向偏り量(d1)だけ他方の切欠部の径方向肉厚(t2)より薄くした請求項1に記載の樹脂保持器。
【請求項3】
前記重ね合わせ目(55)が、前記ピッチ円径(PCD)から外側に偏った位置に形成される請求項2に記載の樹脂保持器。
【請求項4】
前記重ね合わせ目(55)が、前記ピッチ円径(PCD)から内側に偏った位置に形成される請求項2に記載の樹脂保持器。
【請求項5】
前記第1分割保持器(41)の切欠部(44)の内面及び前記第2分割保持器(42)の切欠部(47)の内面を、前記ボール(31)に沿う球状に形成した請求項1から4のいずれか1項に記載の樹脂保持器。
【請求項6】
前記係合爪(50、53)と係合凹部(54、51)の係合箇所を円周方向等配で3箇所以上に設けた請求項1から5のいずれか1項に記載の樹脂保持器。
【請求項7】
前記第1分割保持器(41)及び前記第2分割保持器(42)をポリアミド樹脂(PA)で成形した請求項1から6のいずれか1項に記載の樹脂保持器。
【請求項8】
前記第1分割保持器(41)及び前記第2分割保持器(42)をポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)で成形した請求項1から6のいずれか1項に記載の樹脂保持器。
【請求項9】
前記第1分割保持器(41)及び前記第2分割保持器(42)をポリフェニレンスルファイド樹脂(PPS)で成形した請求項1から6のいずれか1項に記載の樹脂保持器。
【請求項10】
前記第1分割保持器(41)及び前記第2分割保持器(42)のうち、少なくとも一方の分割保持器(41、42)に、自己の前記切欠部(44、47)よりも径方向に突出した鍔(61、62、71、72)を設けた請求項1から9のいずれか1項に記載の樹脂保持器。
【請求項11】
前記鍔(62、71)を、前記一方の分割保持器(41、42)と組み合わせた相手側の分割保持器(42、41)の前記切欠部(47、44)と軸方向に対面するように円周方向に亘って設け、前記鍔(62、71)の反切欠部(44、47)側の軸方向側面(63、73)を、円周方向に亘る平坦面とした請求項10に記載の樹脂保持器。
【請求項12】
前記内外に重なった切欠部(44、47)同士のうち、前記重ね合わせ目(55)を前記ピッチ円径(PCD)から偏らせた側に位置する一方の切欠部の径方向肉厚(t1)を他方の切欠部の径方向肉厚(t2)より薄くし、
前記鍔(62、71)を、前記一方の切欠部(44、47)をもつ前記一方の分割保持器(41、42)に前記ピッチ円径(PCD)を越える突出高さで設けた請求項11に記載の樹脂保持器。
【請求項13】
前記鍔(61、62、71、72)を、前記一方の分割保持器(41、42)の軸方向端部に設けた請求項10から12のいずれか1項に記載の樹脂保持器。
【請求項14】
外輪(11)の軌道溝(12)及び内輪(21)の軌道溝(22)のそれぞれ両側に位置する合計4つの肩(13a、13b、23a、23b)のうち、外輪軌道溝(12)の一側の肩(13a)及び内輪軌道溝(22)の他側の肩(23b)の高さ(H1)が、外輪軌道溝(12)の他側の肩(13b)及び内輪軌道溝(22)の一側の肩(23a)の高さより高い深みぞ玉軸受において、
請求項1から13のいずれか1項に記載の樹脂保持器(40)を備えることを特徴とする深みぞ玉軸受。
【請求項1】
円筒形の第1分割保持器(41)と、前記第1分割保持器(41)の内側に挿入される円筒形の第2分割保持器(42)とからなり、
前記第1分割保持器(41)及び前記第2分割保持器(42)のそれぞれに、これら両分割保持器(41、42)を内外に組み合わせた状態でボール保持用の円形のポケットを形成する切欠部(44、47)を円周方向に間隔をおいて設け、前記組み合わせた状態で、これら両分割保持器(41、42)を軸方向に非分離とする連結手段を設け、
前記連結手段が、前記第1分割保持器(41)の隣接する前記切欠部(44)間に形成された柱部(49)の先端部に内向きの係合爪(50)を設け、前記第2分割保持器(42)の隣接する前記切欠部(47)間に形成された柱部(52)の先端部に外向きの係合爪(53)を設け、前記第1分割保持器(41)の前記係合爪(50)を前記第2分割保持器(42)の外径面に形成された係合凹部(54)に係合し、前記第2分割保持器(42)の前記係合爪(53)を前記第1分割保持器(41)の内径面に形成された係合凹部(51)に係合したことからなる樹脂保持器において、
前記組み合わせた状態で内外に重なった前記切欠部(44、47)同士の重ね合わせ目(55)が、ボール(31)のピッチ円径(PCD)から径方向にポケットすきま(δ1)より大きく偏った位置に形成されることを特徴とする樹脂保持器。
【請求項2】
前記内外に重なった切欠部(44、47)同士のうち、前記重ね合わせ目(55)を前記ピッチ円径(PCD)から偏らせた側に位置する一方の切欠部の径方向肉厚(t1)を、前記重ね合わせ目(55)と前記ピッチ円径(PCD)との間の径方向偏り量(d1)だけ他方の切欠部の径方向肉厚(t2)より薄くした請求項1に記載の樹脂保持器。
【請求項3】
前記重ね合わせ目(55)が、前記ピッチ円径(PCD)から外側に偏った位置に形成される請求項2に記載の樹脂保持器。
【請求項4】
前記重ね合わせ目(55)が、前記ピッチ円径(PCD)から内側に偏った位置に形成される請求項2に記載の樹脂保持器。
【請求項5】
前記第1分割保持器(41)の切欠部(44)の内面及び前記第2分割保持器(42)の切欠部(47)の内面を、前記ボール(31)に沿う球状に形成した請求項1から4のいずれか1項に記載の樹脂保持器。
【請求項6】
前記係合爪(50、53)と係合凹部(54、51)の係合箇所を円周方向等配で3箇所以上に設けた請求項1から5のいずれか1項に記載の樹脂保持器。
【請求項7】
前記第1分割保持器(41)及び前記第2分割保持器(42)をポリアミド樹脂(PA)で成形した請求項1から6のいずれか1項に記載の樹脂保持器。
【請求項8】
前記第1分割保持器(41)及び前記第2分割保持器(42)をポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)で成形した請求項1から6のいずれか1項に記載の樹脂保持器。
【請求項9】
前記第1分割保持器(41)及び前記第2分割保持器(42)をポリフェニレンスルファイド樹脂(PPS)で成形した請求項1から6のいずれか1項に記載の樹脂保持器。
【請求項10】
前記第1分割保持器(41)及び前記第2分割保持器(42)のうち、少なくとも一方の分割保持器(41、42)に、自己の前記切欠部(44、47)よりも径方向に突出した鍔(61、62、71、72)を設けた請求項1から9のいずれか1項に記載の樹脂保持器。
【請求項11】
前記鍔(62、71)を、前記一方の分割保持器(41、42)と組み合わせた相手側の分割保持器(42、41)の前記切欠部(47、44)と軸方向に対面するように円周方向に亘って設け、前記鍔(62、71)の反切欠部(44、47)側の軸方向側面(63、73)を、円周方向に亘る平坦面とした請求項10に記載の樹脂保持器。
【請求項12】
前記内外に重なった切欠部(44、47)同士のうち、前記重ね合わせ目(55)を前記ピッチ円径(PCD)から偏らせた側に位置する一方の切欠部の径方向肉厚(t1)を他方の切欠部の径方向肉厚(t2)より薄くし、
前記鍔(62、71)を、前記一方の切欠部(44、47)をもつ前記一方の分割保持器(41、42)に前記ピッチ円径(PCD)を越える突出高さで設けた請求項11に記載の樹脂保持器。
【請求項13】
前記鍔(61、62、71、72)を、前記一方の分割保持器(41、42)の軸方向端部に設けた請求項10から12のいずれか1項に記載の樹脂保持器。
【請求項14】
外輪(11)の軌道溝(12)及び内輪(21)の軌道溝(22)のそれぞれ両側に位置する合計4つの肩(13a、13b、23a、23b)のうち、外輪軌道溝(12)の一側の肩(13a)及び内輪軌道溝(22)の他側の肩(23b)の高さ(H1)が、外輪軌道溝(12)の他側の肩(13b)及び内輪軌道溝(22)の一側の肩(23a)の高さより高い深みぞ玉軸受において、
請求項1から13のいずれか1項に記載の樹脂保持器(40)を備えることを特徴とする深みぞ玉軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−96434(P2013−96434A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237003(P2011−237003)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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