説明

樹脂前駆体

本発明は、ポリアミン主鎖に結合したN−ハロヒドリン基と、ポリアミン主鎖に結合した3−ヒドロキシアゼチジニウム基とを含み、25〜95重量%の範囲内の固形分を有し、13C−NMRによって測定されるN−ハロヒドリン基対3−ヒドロキシアゼチジニウム基のモル比が1:2〜100:1の範囲内である、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体に関する。本発明は、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体の製造方法、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂を含む組成物の製造方法、及び紙の製造方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体、その製造、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂の製造方法、及び紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂の水溶液は、湿潤強度特性を紙に付与するために製紙で広く使用されている。この種類の樹脂は、通常、エピクロロヒドリンを、ポリアミンポリマー類、例えばポリアミノアミド類及びポリアルキレンポリアミン類と反応させることによって調製される。しかし、これらの樹脂の調製は、エピクロロヒドリンの性質及び特性、例えばその反応性及び毒性のために、問題を伴う。エピクロロヒドリンの取り扱いには、大規模で厳格な安全対策、追加の設備、及び制御装置が化学プラントにおいて必要となる。
【0003】
エピクロロヒドリンの取り扱いに関連する問題があるにもかかわらず、ポリアミン−エピクロロヒドリン樹脂は、世界中の多数の化学プラントで製造されている。この理由の1つは、樹脂溶液は不十分な安定性を示すため、保管及び長距離の輸送が困難又は実現不可能となるためである。不十分な安定性のために、樹脂の大規模な架橋及びゲル化が生じることがある。従って、典型的な湿潤紙力増強用樹脂は、保管及び輸送のために30重量%未満の乾燥含有率まで希釈され、pHは約2〜4に調整される。多くの用途では、ゲル化した樹脂は、水でさらに希釈することができず、そのため、例えば製紙における湿潤紙力増強剤に好都合に使用することができないため、役に立たない。
【0004】
従来技術には、ポリアミン−エピハロヒドリン、特にエピクロロヒドリン樹脂の多数の調製方法が記載されている。例えば、米国特許第3,891,589号明細書には、ポリアミドポリアミンをエピクロロヒドリンと反応させることによってカチオン性熱硬化性樹脂の水溶液を調製する方法が開示されている。制御された濃度範囲、反応時間及び温度、並びに分子量値で反応を行うことによって、高固形分で高い安定性が得られると記載されている。
【0005】
欧州特許出願公開第0320121号明細書には、ポリアミン−エピクロロヒドリン樹脂溶液の水溶液を安定化させる方法が記載されている。弱酸及び強酸の混合物を加え、pHを約3.0〜約4.2の範囲内に調整することによって、約15〜30重量%の間の固形分において高い安定性が得られると記載されている。
【0006】
しかし、効率的な長距離輸送のために十分に高い固形分及び安定性を有する高性能の湿潤紙力増強用樹脂の提供においては依然として問題が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3,891,589号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0320121号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的の1つは、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂の製造及び供給に関連する前述の問題を克服することである。特に、本発明の目的の1つは、高固形分で高い貯蔵安定性を有するポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体を提供することである。本発明の別の目的は、エピハロヒドリン、特にエピクロロヒドリンの取り扱いを減少できる、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一般に、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体であって、官能基として:
ポリアミン主鎖に結合したN−ハロヒドリン基と、
ポリアミン主鎖に結合した3−ヒドロキシアゼチジニウム基とを含み、
25〜95重量%の範囲内の固形分を有し、N−ハロヒドリン基対3−ヒドロキシアゼチジニウム基のモル比が1:2〜100:1の範囲内である、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体に関する。
【0010】
本発明はさらに、一般に、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体の製造方法であって、
(i)ポリアミンとエピハロヒドリンとを反応させて、官能基として:
ポリアミン主鎖に結合したN−ハロヒドリン基と、
ポリアミン主鎖に結合した3−ヒドロキシアゼチジニウム基とを含む反応生成物を得るステップと;
(ii)前記反応生成物のN−ハロヒドリン基対3−ヒドロキシアゼチジニウム基とのモル比が1:2〜100:1の範囲内に到達したときに、少なくとも1つの酸を前記反応生成物に加えるステップとを含む方法に関する。
【0011】
本発明は、一般に、アルカリ性物質を本発明によるポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体に加えるステップを含むポリアミン−エピハロヒドリン樹脂の製造方法にも関する。
【0012】
本発明はさらに、紙の製造方法であって、
アルカリ性物質を本発明による樹脂前駆体に加えてポリアミン−エピハロヒドリン樹脂を形成するステップと;
セルロース系繊維を含むファーニッシュ(furnish)を提供するステップと;
前記ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂を前記ファーニッシュに加えるステップと;
前記ファーニッシュから紙を形成するステップとを含む方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明によると、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体が提供され、これは、湿潤剤としての性能はごくわずかであるが、高い安定性を有し、製品の品質に影響を与えることなく高濃度での長距離輸送が可能である。他方、本発明の前駆体は、高性能ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂、好ましくはポリアミン−エピクロロヒドリン樹脂に容易に変換することができる。従って、前駆体は、エピクロロヒドリンの取り扱いに十分適応している中央製造プラントで製造することができ、次に、それらの消費者市場の近くに位置する製造プラントに移動させることができ、続いて、エピクロロヒドリンの取り扱いに必要な高度な安全装置を必要とせずに高性能製品に変換することができる。従って、多量のエピクロロヒドリンを使用する化学プラントの数を減少させることができ、それによって特に実質的に環境的及び安全性の利益が得られる。
【0014】
本発明のポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体は、官能基として、N−ハロヒドリン基及び3−ヒドロキシアゼチジニウム基を含む。N−ハロヒドリン基及び3−ヒドロキシアゼチジニウム基は、同じポリアミン主鎖又は異なるポリアミン主鎖に結合することができる。本発明の方法に使用されるエピハロヒドリンは好ましくはエピクロロヒドリンである。同様に、樹脂前駆体のN−ハロヒドリン基は好ましくはN−クロロヒドリン基である。樹脂前駆体の3−ヒドロキシアゼチジニウム基の対イオンはハロゲン化物、好ましくは塩化物、又は樹脂前駆体は好ましくは水相中に存在するため水酸化物、或いはそれらの組み合わせであってもよい。一般に、3−ヒドロキシ−アゼチジニウムに対してN−ハロヒドリン含有率が高いほど、良好な安定性が得られる。しかし、3−ヒドロキシアゼチジニウム基の含有率がより高いと、最終ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂への変換がより速くなる場合がある。好ましくは、樹脂前駆体は、N−ハロヒドリン基対アゼチジニウム基のモル比が少なくとも1:2、例えば少なくとも1:1.5、少なくとも1:1、又は少なくとも2:1であり、N−ハロヒドリン基対アゼチジニウム基のモル比は、最大100:1、例えば最大15:1、又は最大10:1、最大8:1、又は最大7:1とすることができる。
【0015】
好ましくは、樹脂前駆体は固形分が30重量%を超え、特に35〜90重量%の範囲内、又は50重量%を超え70重量%までの範囲内である。固形分が55重量%を超える、又は60重量%を超えると好都合となる場合もある。
【0016】
樹脂前駆体は、好ましくは3〜7の範囲内、例えば4〜6、又は4.5〜5.5の範囲内のpHを有する。樹脂前駆体は、比較的高いpHにおいてさえも高い安定性を有することが分かり、そのため、許容できる安定化を実現するために加えられる酸の量を減少させることができ、他の場合には粘度低下の原因となり得るポリアミン主鎖の加水分解、或いは樹脂の著しい架橋及び生成物のゲル化が防止される。本明細書におけるすべてのpH値は、樹脂前駆体の水溶液中で測定されたpHを意味する。
【0017】
従来の湿潤紙力増強用樹脂と比較すると、本発明の樹脂前駆体は、同じ固形分で測定した場合に、より低い粘度を有する。好ましくは、樹脂前駆体は、水で21重量%の固形分まで希釈し、マイクロ落球ハーケ(micro falling ball Haake)粘度計を使用して25℃で測定して、5〜50mPa:s、最も好ましくは5〜25mPa:sのブルックフィールド(Brookfield)粘度を有する。特に明記しない限り、本明細書における粘度に関するすべての値は、上記のように測定した粘度を意味する。上記範囲内のマイクロ落球による測定は、通常、ブルックフィールド粘度計に超低粘度アダプターを使用した測定から有意にずれることがない値が得られる。
【0018】
本明細書において使用される場合、用語「ポリアミン」は、少なくとも2つのアミン基を含有するあらゆる化合物を含むことを意味する。アミン基は第1級、第2級、又は第3級のアミン基、或いはそれらの混合物であってもよい。好ましくは、ポリアミンは少なくとも1つの第2級アミン基を含有する。ポリアミンは低分子量ジアミンであってもよいが、オリゴマー及びポリマーのポリアミンが好ましい。ポリアミンの重量平均分子量Mは好ましくは100〜50,000、最も好ましくは500〜10,000の範囲内である。
【0019】
好ましくは、ポリアミンはポリアミノアミドである。当分野では、ポリアミノアミドは、ポリアミドアミン、ポリアミノポリアミド、ポリアミドポリアミン、ポリアミドポリアミン、ポリアミド、塩基性ポリアミド、カチオン性ポリアミド、アミノポリアミド、アミドポリアミン、又はポリアミンアミドと呼ばれる場合もある。好ましいポリアミノアミドは、少なくとも1つのポリカルボン酸、通常はジカルボン酸と、少なくとも1つのポリアミンとの反応生成物である。ポリカルボン酸及びポリアミンは、例えば0.5:1〜1.5:1又は0.7:1〜1.4:1のモル比で使用することができる。ポリアミノアミド類の調製は、当分野で公知のあらゆる方法、例えば米国特許第5,902,862号明細書に記載の方法によって行うことができる。
【0020】
好適なポリアミン類としては以下の式を満たすポリアルキレンポリアミン類、又はそれらの混合物が挙げられる:
N−(CRH)−(CRH)−N(R)−(CRH)−(CRH)−NH (I)
式中、R〜Rは、水素又は低級アルキル、好ましくは最大Cを表し、a〜dは0〜4の整数を表す。好ましいポリアルキレンポリアミン類としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、ジプロピレントリアミン、及びそれらの混合物が挙げられる。式Iのポリアミン類は、別のポリアミン類と、又は別のアミン類の混合物と併用することができる。好ましくは、このようなアミンは以下の式II〜VIIを満たす。
【化1】

式中、R〜R14は、水素又は低級アルキル、好ましくは最大Cを表し、e〜lは0〜4の整数を表し、mは1〜5の整数を表す。
【0021】
所望であれば、ポリアミン類は、モノアミン類、すなわちアミン基(第1級、第2級、又は第3級のアミン基)を1つのみ含有する化合物と併用することができる。
【0022】
好適なポリカルボン酸類酸類としては、脂肪族で飽和又は不飽和のジカルボン酸類、並びに芳香族ジカルボン酸類が挙げられる。好ましくは、ポリカルボン酸は10個未満の炭素原子を含有する。本発明の目的では、用語「カルボン酸」は、カルボン酸誘導体、例えば無水物類、エステル類、又は半エステル類を含むことを意味する。好適なポリカルボン酸類及びその誘導体としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸が挙げられる。これらの酸の混合物を使用することもできる。好ましいポリカルボン酸はアジピン酸である。
【0023】
本発明によるポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体は、前述のように規定した固形分を有する水性組成物であってもよい。前述の前駆体に加えて、組成物は未反応エピハロヒドリンをさらに含むことができる。
【0024】
本明細書において使用される場合、「高い安定性」は、顕著な化学的変化が進行しない組成物又は化合物を意味する。従来のポリアミン−エピハロヒドリン樹脂生成物の場合、通常は大規模な架橋によって不安定性が明らかとなり、その結果激しい粘度増加及びゲル化が起こるか、或いは加水分解及び粘度低下が起こり、どちらの場合もこれによって生成物が使用できなくなる。ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂又は樹脂前駆体の安定性は、通常、同じ固形分で測定される経時による粘度変化に基づいて測定される。
【0025】
本発明によるポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体は、ゲル化や激しい粘度変化が起こることなく室温で保管することができ、例えば約1日から最長1週間まで、約3週間まで、又は約3か月以上まで、最終生成物の性能に有意な影響を与えることが全くない。固形分21重量%で測定される粘度変化が最大±20%であれば、通常は性能に対する悪影響が全くない。
【0026】
本発明による方法は、前述のポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体の調製に使用することができる。ポリアミンとエピハロヒドリン(epihalohydrine)との間の反応は、好ましくは水相中で行われ、この水相は、例えば、約30〜約90重量%、又は約35〜約70重量%の固形分を有することができる。非常に高い固形分、例えば約75重量%を超える場合は、押出機中、又は高シア(sheer)力が得られる類似の装置中で反応を行うことが適切となり得る。
【0027】
ポリアミンは、出発ポリアミン中の1モルのアミン基当たり約0.1〜約3モルのエピハロヒドリン、好ましくはアミン基1モル当たり0.5〜1.5モル、より好ましくは0.8〜1.2モルと反応させることができる。好ましくは、エピハロヒドリン対アミン基のモル比は、第2級アミン基が基準となる。最終樹脂生成物の安定性を改善するために、ポリアミンの第2級アミン基に対してモル過剰のエピハロヒドリンを使用することが好ましい場合がある。
【0028】
最初に、エピハロヒドリン及びポリアミンを、典型的には、アルカリ性pH、例えば少なくとも9、例えば9〜14の範囲内のpHで反応させる。しかし、反応が進行すると、ポリアミン−エピハロヒドリン反応生成物のpHが低下する、例えば7〜9となることがある。
【0029】
エピハロヒドリンとポリアミンとの間の反応は、種々の固有の化学反応を伴う。エピハロヒドリンと、第2級アミン基R−NH−R’を含有するポリアミンとの間で起こる反応の例としては、アミン基のエピハロヒドリンによるアルキル化によるN−ハロヒドリン基の形成、及び引き続く環化反応によるN−ハロヒドリン基から3−ヒドロキシアゼチジニウム基への変換が挙げられる。環化反応の速度は、使用される反応条件に依存する。環化反応によって、有機ハロゲンを含有する非耐電性基がカチオン性基(第4級アミン)及びハロゲン化物イオンに変換される。従って、無機ハロゲンの含有率は反応過程中に増加する。本発明によるポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体は、従来のポリアミン−エピハロヒドリン樹脂よりも、3−ヒドロキシアゼチジニウム基に対するN−ハロヒドリン基の含有率が高い。
【0030】
酸の添加によってpHを低下させることによって、N−ハロヒドリン基が3−ヒドロキシアゼチジニウム基に変換する反応の速度が大幅に低下する。従って、N−ハロヒドリンから3−ヒドロキシアゼチジニウムへの変換をクエンチすることによって、従来の樹脂よりも、高固形分での改善された安定性を有する樹脂前駆体を得ることができる。
【0031】
ポリアミン−エピハロヒドリン反応生成物のN−ハロヒドリン基対3−ヒドロキシアゼチジニウム基のモル比が前述の所望の範囲内にある場合、少なくとも1つの酸を反応生成物に、好適なpH、好ましくは3〜7、特に4〜6又は4.5〜5.5に到達するのに十分な量で加えられ、これによって反応がクエンチされる。反応をさらに進行させると、例えばN−ハロヒドリン基対3−ヒドロキシアゼチジニウム基のモル比が1:3未満となるまで反応を進行させると、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体の安定性が低下する。
【0032】
少なくとも1つの酸は有機酸及び/又は無機酸であってもよい。好ましくは酸は、ギ酸、酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、クエン酸、及びそれらの混合物からなる群より選択される有機酸である。より好ましくは酸はギ酸を含む。酸は、硫酸、リン酸、硝酸、硫酸水素ナトリウム、塩酸、及びそれらの混合物からなる群より選択される無機酸であってもよい。好ましくは無機酸は硫酸である。
【0033】
3−ヒドロキシアゼチジニウムへの変換速度を抑えることによって樹脂前駆体を安定化させることに加えて、特に酸がギ酸を含む場合、酸は、樹脂前駆体又はそれより得られた生成物が含まれる物品中の環境にやさしい殺生物剤として機能することができる。従って、環境に望ましくない殺生物剤の使用を減少させたり回避したりすることができる。
【0034】
本発明の一実施形態では、酸の添加は少なくとも2つの別々のステップで行われる。第1のステップでは、酸、例えばギ酸が、反応生成物に加えられて、例えばpHの第1の減少が実現される。第1の酸添加ステップの後で、pHは6〜7の範囲内となり得る。引き続くステップで、前述の所望の最終範囲内のpHを実現するために、別の酸、例えば硫酸を樹脂前駆体に加えることができる。酸の添加が2つの連続したステップで行われる場合、これらのステップは、あらゆる作業、例えば樹脂前駆体の希釈によって分離されてもよい。
【0035】
3−ヒドロキシアゼチジニウム基を形成する環化反応の過程中に無機ハロゲン含有率が増加するため、ポリアミン−エピハロヒドリン反応生成物のN−ハロヒドリン基対3−ヒドロキシアゼチジニウム基のモル比は、ポリアミン−エピハロヒドリン反応生成物の無機ハロゲン含有率を監視することによって好都合に推定することができる。例えば、全ハロゲンを基準にして最大50モル%の無機ハロゲン含有率を有するときに、前述の少なくとも1つの酸を反応生成物に加えることができる。「全ハロゲン」は、ポリアミン−エピハロヒドリン反応混合物中に存在する有機及び無機のハロゲンの含有率の合計として定義される。好ましくは、反応混合物の無機ハロゲン含有率が、全ハロゲン含有率を基準にして最大35モル%、最も好ましくは最大25モル%又は最大20モル%となるときに、酸が加えられる。通常無機ハロゲン含有率は、全ハロゲン含有率を基準にして少なくとも5モル%となることができる。無機ハロゲン含有率は従来方法、例えば滴定によって測定することができる。本発明によるポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体の無機ハロゲン含有率は好ましくは前述の通りであるが、保管中に増加する場合がある。
【0036】
本明細書において定義されるポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体及びポリアミン−エピハロヒドリン樹脂のN−ハロヒドリン対3−ヒドロキシアゼチジニウムのモル比は、炭素−13核磁気共鳴(13C−NMR)分光法によって測定される。
【0037】
従来方法と比較すると、本発明によるポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体の製造方法では、典型的には、有機ハロゲンを含有する副生成物の形成が減少する。例えば、エピクロロヒドリンが使用される場合、本発明による方法では、どちらも非常に望ましくないクロロプロパンジオール(CPD)及びジクロロ−プロパノール(DCP)の形成が非常に少ない。
【0038】
エピハロヒドリンとポリアミンとの間の反応は、通常、0〜60℃、好ましくは10〜45℃、最も好ましくは10〜25℃の範囲内の温度で行われる。エピハロヒドリンとポリアミンとの反応時に低い反応温度、例えば45℃未満、特に25℃未満を使用することの利点の1つは、ジクロロプロパノール(DCP)の形成が減少することである。
【0039】
本発明による方法によって得られたポリアミン−エピクロロヒドリン樹脂前駆体は、ハロゲン減少処理、例えば脱塩処理を行って、無機及び/又は有機ハロゲン、例えば塩化物イオン、CPD、及び/又はDCPの含有率をさらに低下させることができる。このハロゲン減少処理は、高固形分の組成物の処理に適したあらゆる公知の方法、例えば国際公開第2007/004972号パンフレットに記載されるような超臨界流体を使用した抽出によって行うことができる。
【0040】
本発明によるポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体は、恐らくは3−ヒドロキシアゼチジニウム基の含有率が低く、樹脂の分子量が比較的小さいために、湿潤強度特性はむしろ低い。従って、本発明による樹脂前駆体の3−ヒドロキシアゼチジニウム含有率を増加させることによって、その湿潤強度活性を向上させることができる。このことは、反応をさらに進行させるために、N−ハロヒドリンから3−ヒドロキシアゼチジニウムへの変換の反応速度を増加させることによって行うことができる。
【0041】
従って本発明のさらなる一態様は、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂の製造方法であって、アルカリ性物質を前述のポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体に加えるステップを含む方法に関する。ほとんどの場合、好ましくはポリアミン−エピハロヒドリン樹脂を含む水性組成物が得られる。
【0042】
このアルカリ性物質は、無機塩基及び有機塩基の両方を含めた当分野で従来使用されているあらゆるアルカリ性物質、例えばアルカリ金属水酸化物類、炭酸塩類、及び重炭酸塩類、アルカリ土類金属水酸化物類、トリアルキルアミン類、水酸化テトラアルキルアンモニウム類、アンモニア、有機アミン類、アルカリ金属硫化物類、アルカリ土類硫化物類、アルカリ金属アルコキシド類、アルカリ土類アルコキシド類、並びにアルカリ金属リン酸塩類、例えばリン酸ナトリウム及びリン酸カリウムであってもよい。好ましいアルカリ性物質は水酸化ナトリウムである。
【0043】
この方法は、前記樹脂前駆体を40〜90℃、好ましくは50〜80℃又は55〜75℃の範囲内の温度に加熱するステップを、アルカリ性物質を加えるステップの前及び/又は後に含むこともできる。例えば、アルカリ性物質を加えた後に、樹脂前駆体を、2〜5℃/10分の速度で所望の温度に到達するまで加熱することができる。
【0044】
ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体のpHを増加させるステップ、及び場合により樹脂前駆体を加熱するステップによって、N−ハロヒドリンから3−ヒドロキシアゼチジニウムへの変換速度が増加する。このようにポリアミンとエピハロヒドリンとの間の反応を再開することによって、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体よりも改善された湿潤強度を有するポリアミン−エピハロヒドリン樹脂が得られる。
【0045】
本発明による変換方法は、アルカリ性物質を加える前に、樹脂前駆体を、好ましくは水で、所望の固形分まで、例えば約12.5〜約35重量%まで希釈するステップを含むことができる。アルカリ性物質は、好ましくは、前駆体のpHに依存して、5.5〜10、好ましくは5.5〜9の範囲内の値に調整する量で加えられる。
【0046】
典型的には、例えば粘度、N−ハロヒドリン基対3−ヒドロキシアゼチジニウム基のモル比、又は分子量を監視することによって、樹脂が所望の性質を有するまで、上記所定の条件において樹脂前駆体を反応させることができる。21重量%の固形分で測定される所望の粘度は、好ましくは40を超え250mPa・sまで、又は50〜200mPa・sである。所望の分子量Mは、好ましくは約50,000〜約1,000,000以上、例えば約100,000〜約1,000,000である。ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂のN−ハロヒドリン基対3−ヒドロキシアゼチジニウム基の所望のモル比は好ましくは低く、例えば0:1〜0.5:1、例えば0:1〜0.3:1、0:1〜0.2:1、又は0:1〜0.1:1とすることができる。場合により、無機ハロゲン含有率を監視することによって反応の程度を制御することも可能であり、この無機ハロゲン含有率は、樹脂の全ハロゲン含有率を基準にして好ましくは少なくとも50モル%、又は少なくとも60モル%、特に少なくとも70モル%である。
【0047】
前述のようにアルカリ性物質を使用してポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体をポリアミン−エピハロヒドリン樹脂に変換する方法は、灰物質、例えば硫酸ナトリウム(NaSO)、塩化ナトリウム(NaCl)、又はそれらの混合物が樹脂生成物中に形成されることがある。灰物質は、例えば樹脂生成物の約1〜約4重量%を構成し得る。どのような灰物質が形成されるかは、樹脂前駆体の調製及びその樹脂生成物への変換でどのような酸及び塩基が使用されたかに依存し得る。形成される灰物質の厳密な量は、加えられる酸及び塩基のそれぞれの量及び/又はpHに依存し得る。灰物質の量は、樹脂生成物の固形分によって決定されることもある。
【0048】
ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体を高性能ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂に変換した後、酸を加えることによって樹脂を安定化させることができる。加えられる酸は、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体の生成に関して前述したものであってもよい。例えば、所望の粘度が、アルカリ性物質の添加及び場合により加熱の後に達成されたときに、酸を加えることができ、場合により冷却することができる。従って、最終樹脂生成物のpHは、2〜5、好ましくは2.5〜3.5の範囲内の値まで下げることができる。
【0049】
変換後の最終樹脂生成物中への酸の添加は、樹脂がすぐに使用されない場合に特に好ましい。
【0050】
ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂を酸により安定化させた後、通常は組成物が得られ、その固形分はその意図する使用に適した値、好ましくは約15〜約30重量%、又は約20〜約25重量%に調整することができる。
【0051】
本変換方法により得られたポリアミン−エピクロロヒドリン樹脂は、ハロゲン減少処理、例えば脱塩素を行うこともできる。あらゆる公知の方法、例えば国際公開第92/22601号パンフレットに記載されるイオン交換、欧州特許第0666242号明細書に記載される電気透析、酵素処理、又は国際公開第2007/004972号パンフレットに記載される超臨界流体による抽出を使用することができる。
【0052】
本変換方法は、本発明による前述のポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体の長時間の保管後又は長距離の輸送後でさえも、最終生成物の性能に有意な悪影響を与えることなく行うことができる。さらに、前駆体の変換は、高度な製造設備や、エピハロヒドリンの取り扱いのために必要とされる厳格な安全対策を必要としない。
【0053】
前述のポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体の変換によって得られるポリアミン−エピハロヒドリン樹脂は、製紙用添加剤、例えば湿潤紙力増強剤、保持剤、アニオントラッシュキャッチャー、クレーピング剤などとしての使用に好適である。カルボキシル化ポリマー又は樹脂、例えばラテックス、接着剤に見られるようなものの架橋剤として、並びに乳化剤又は分散剤として使用することもできる。
【0054】
本発明のさらなる一態様は、紙の製造方法であって、アルカリ性物質を前述の樹脂前駆体に加えて、前述のポリアミン−エピハロヒドリン樹脂を形成するステップと;セルロース系繊維を含むファーニッシュを提供するステップと;前記ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂を前記ファーニッシュに加えるステップと;前記ファーニッシュから紙を形成するステップとを含む方法に関する。樹脂前駆体、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂、アルカリ性物質、及びプロセス条件は、一般に前述の通りであってもよい。紙は、例えば、ティッシュペーパー物品中に使用される紙であってもよい。
【0055】
実施例
以下の実施例で使用したすべてのポリアミンは、ジエチレントリアミンとアジピン酸との反応によって生成されたポリアミノアミドであり、約1,000〜5,000の分子量Mを有した。50重量%超の固形分におけるすべての粘度は、25℃において、ブルックフィールドRVDV−II+粘度計にRV−スピンドル3及び4を使用して60及び80rpmで測定したブルックフィールド粘度を意味する。約21重量%の固形分における他の粘度測定は、ハーケ・タイプ(Haake Type)001−1926のマイクロ落球粘度計で25℃で測定したものを意味する。市販の湿潤紙力増強用樹脂Eka WS 320(商標)を基準として使用した。特に明記しない限り、すべての部数、%値は重量部及び重量パーセントを意味する。
【実施例1】
【0056】
この実施例は、ポリアミン−エピクロロヒドリン樹脂前駆体P1の調製を示す。
【0057】
61.6重量%の固形分を有するポリアミノアミド水溶液561gに、165gのエピクロロヒドリンを、二重ジャケット反応器中で撹拌しながら20℃で50分間かけて加えた。20℃で21時間の撹拌後、反応混合物を65重量%固形分まで水で希釈し、pHをギ酸(9.6ml、85重量%)及び硫酸(115ml、30重量%)でpH5.3に調整した。得られた樹脂前駆体をP1と命名し、これは61.76重量%の固形分を有した。P1のサンプルを8℃で8日間、並びに25℃及び40℃で20日間保管した。粘度及び無機塩素の変化を監視した。結果を以下の表1に示す。
【表1】

【0058】
40℃における保管の20日後でさえも、21重量%に希釈後の粘度は依然として十分満足できるものであり、これより化学的変化に対して高い安定性が示されたことが分かる。
【実施例2】
【0059】
この実施例は、P1からポリアミノアミド−エピクロロヒドリン樹脂P2a及びP2bへの変換を示す。
【0060】
(a)25℃で20日保管した実施例1の267gの樹脂前駆体P1を水で固形分21重量%まで希釈した。次に、この樹脂前駆体を、二重ジャケット反応器中で撹拌しながら3℃/10分の速度で約60℃の温度まで加熱した。50重量%苛性溶液9mlを樹脂前駆体に加えて、pHを約7.4まで増加させた。25℃において80〜100mPa・sの粘度に到達してから、約27mlの30重量%HSO溶液を加えて反応をクエンチし、同時に反応混合物を20℃まで冷却し、水で固形分を20重量%に調整した。最終的なpHは2.8であった。この生成物をP2aと命名した。
【0061】
(b)8℃で8日間保管した実施例1の278gの樹脂前駆体P1を水で固形分21重量%まで希釈した。次に、この樹脂前駆体を、3℃/10分の速度で約60℃の温度まで加熱した。50重量%苛性溶液約9.0mlを樹脂前駆体に加えて、pHを約7.5まで増加させた。25℃において80〜100mPa・sの粘度に到達してから、約30mlの30重量%HSO溶液を加えて反応をクエンチした。得られた樹脂生成物を20℃まで冷却し、水で固形分を20重量%に調整した。最終的なpHは2.8であった。この生成物をP2bと命名した。
【実施例3】
【0062】
この実施例は、ポリアミン−エピクロロヒドリン樹脂前駆体P3の調製を示す。
【0063】
55重量%の濃度を有する653.36gのポリアミノアミド水溶液が入れられた二重ジャケット反応器に、反応混合物を撹拌しながら20℃において、172.05gのエピクロロヒドリンを30分間かけて加えた。この反応混合物を、連続撹拌下で20℃において20時間反応させた。この混合物のpHは約8.6であった。撹拌下で、12.5gのギ酸(85重量%)及び160.5gの硫酸(30重量%)を反応混合物に加えてpHを調整した。この結果得られたポリアミノアミド−エピクロロヒドリン樹脂前駆体は、5.5のpH、約1040mPa・sの粘度、及び60.7重量%の固形分を有した。この生成物をP3と命名した。
【実施例4】
【0064】
この実施例は、P3からポリアミノアミド−エピクロロヒドリン樹脂P4への変換を示す。
【0065】
室温で9日間保管し、4.7のpH、60.7重量%の固形分、及び約1100mPa・sの粘度を有する実施例3の214.7gの樹脂前駆体P3を使用した。この樹脂前駆体に、20℃の温度で撹拌しながら405.5gの水を加えて、21重量%の固形分及び約4.5のpHを得た。次に、24.8gの50重量%水酸化ナトリウム溶液を加えた。得られた反応混合物の撹拌を続け、60℃の温度に到達するまで3℃/10分の速度で加熱した。反応混合物を60℃で70分間維持すると、その時点で粘度は約80〜90mPa・sに到達し、次に26.9gの30重量%硫酸を素早く加え、冷却を開始した。最終生成物のpHは2.8であり、有効含有率(ポリアミン−エピクロロヒドリンの含有率)は17.6重量%であり、灰分は3.6重量%であり、粘度は105mPa・sであった。この樹脂生成物をP4と命名した。
【0066】
P4を11日間保管した後、実施例7の湿潤強度性能試験に使用した。
【実施例5】
【0067】
この実施例は、ポリアミン−エピクロロヒドリン樹脂前駆体P5の調製を示す。
【0068】
55重量%の濃度を有する361.27gのポリアミノアミド水溶液を入れた二重ジャケット反応器に、反応混合物を撹拌しながら20℃で、95.13gのエピクロロヒドリンを30分かけて加えた。この反応混合物を、連続撹拌下20℃で20時間反応させた。反応混合物のpHは約8.6であった。撹拌下で、6.9gのギ酸(85重量%)及び79.6gの硫酸(30重量%)を反応混合物に加えてpHを調整した。得られたポリアミノアミド−エピクロロヒドリン樹脂前駆体は、5.5のpH、約1000mPa・sの粘度、及び60.7重量%の固形分を有した。この樹脂前駆体をP5と命名した。P5を室温で7日間保管した後、実施例7の湿潤強度性能試験に使用した。
【実施例6】
【0069】
この実施例は、P5からポリアミノアミド−エピクロロヒドリン樹脂P6への変換を示す。
【0070】
室温で2時間保管し、60.7重量%の固形分を有する202.7gのP5(実施例5)を使用した。この樹脂前駆体に、20℃の温度で381.8gの水を加えて、21重量%の固形分及び約5.2のpHを得た。次に、21.7gの50重量%水酸化ナトリウム水溶液を撹拌しながら加えると、pHが9.1まで増加した。この反応混合物を撹拌し、60℃の温度まで3℃/10分の速度で加熱した。この反応混合物を60℃で約35分間維持すると、その時点で粘度が約90mPa・sに到達した。34.2gの硫酸溶液(30重量%)を素早く加えることで反応をクエンチし、冷却を開始した。最終生成物のpHは2.65であり、有効含有率(ポリアミン−エピクロロヒドリン含有率)は18.3重量%であり、灰分は3.2重量%であり、粘度は130mPa・sであった。この生成物をP6と命名した。
【0071】
P6を7日間保管した後、実施例7の湿潤強度性能試験に使用した。
【実施例7】
【0072】
ポリアミン−エピクロロヒドリン樹脂前駆体及びそれより製造したポリアミン−エピクロロヒドリン樹脂を含有する紙シートを作製し、湿潤強度性能の試験を行った。市販の湿潤紙力増強用樹脂(Eka WS 320(商標)、エカ・ケミカルズ(Eka Chemicals)、スウェーデン)を含有する紙シートを基準として使用した。
【0073】
約70g/mの試験シートをパイロット抄紙機(速度2m/分、生産能力2kg/h)で作製した。
【0074】
紙ファーニッシュは、ショッパー−リグラー(Schopper-Riegler)ろ水度が35°SRまで叩解され、装置のチェスト中1.5%のコンシステンシーを有する、40% 漂白ユーカリ硫酸塩、40% 漂白カバノキ硫酸塩、及び20% 漂白マツ硫酸塩の40/40/20からなった。紙料を希釈した後、樹脂及びポリアミン−エピクロロヒドリン樹脂前駆体を抄紙機中に供給した。試験するそれぞれの樹脂又は樹脂前駆体を、それぞれ0.6、0.9、及び1.2%の有効含有率(固形分から不活性種、例えば無機塩を除去したもの)で繊維ファーニッシュに加えた。
【0075】
紙料温度は30℃であった。ヘッドボックスにおける紙料コンシステンシーは0.3%であり、すべての製品のpHは依然として7.2〜7.5の範囲内であり、濃度は調整しなかった。乾燥セクションのシリンダーの温度は70/80/95/110℃に調整した。
【0076】
最終的な紙を100℃で30分間で硬化させ、次に23℃及び相対湿度50%で2時間コンディショニングした後に湿潤強度試験を行った。紙のストリップを23℃の蒸留水に5分間浸し、ALWETHRON TH1(登録商標)流体力学試験機(ゴッケル・アンド・カンパニー(Gockel & Co.GmbH)、ドイツ)上で破断長さを測定した。
【0077】
試験結果を表2にまとめている。湿潤強度効果は、kmの単位の湿潤破断長さで表される。本発明による樹脂前駆体から製造した樹脂の湿潤強度性能は、有効含有率を基準にして、市販製品(Eka WS 320(商標))と同等であることを示している。
【表2】

【実施例8】
【0078】
この実施例は、P3のクロロヒドリン及びアゼチジニウムの含有率の測定を示す。
【0079】
ポリアミン−エピクロロヒドリン樹脂前駆体P3のサンプルを、調製から1日後、9日後、15日後、及び23日後に13C−NMRによって分析した。サンプルは、分析を行っていない間は暗所で室温(約23℃)において保管した。表3は、ポリアミンの調製に使用したアジピン酸の量に対するN−クロロヒドリン及び3−ヒドロキシアゼチジニウムのモル%含有率を示している。未反応エピクロロヒドリンの量は無視できたため、「クロロヒドリン」はN−クロロヒドリンを意味する。「アゼチジニウム」は3−ヒドロキシアゼチジニウムを意味する。
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体であって、官能基として:
ポリアミン主鎖に結合したN−ハロヒドリン基と、
ポリアミン主鎖に結合した3−ヒドロキシアゼチジニウム基とを含み、
25〜95重量%の範囲内の固形分を有し、13C−NMRによって測定されるN−ハロヒドリン基対3−ヒドロキシアゼチジニウム基のモル比が1:2〜100:1の範囲内である、樹脂前駆体。
【請求項2】
N−ハロヒドリン基対アゼチジニウム基の前記モル比が1:1〜15:1の範囲内である、請求項1に記載の樹脂前駆体。
【請求項3】
N−ハロヒドリン基対アゼチジニウム基の前記モル比が2:1〜7:1の範囲内である、請求項2に記載の樹脂前駆体。
【請求項4】
前記固形分が35〜90重量%の範囲内である、請求項1から3のいずれか一項に記載の樹脂前駆体。
【請求項5】
前記固形分が50重量%を超え70重量%までの範囲内である、請求項4に記載の樹脂前駆体。
【請求項6】
3〜7の範囲内のpHを有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の樹脂前駆体。
【請求項7】
4〜6の範囲内のpHを有する、請求項6に記載の樹脂前駆体。
【請求項8】
4.5〜5.5の範囲内のpHを有する、請求項7に記載の樹脂前駆体。
【請求項9】
前記N−ハロヒドリン基がN−クロロヒドリン基である、請求項1から8のいずれか一項に記載の樹脂前駆体。
【請求項10】
前記3−ヒドロキシアゼチジニウム基が、塩化物、水酸化物、又はそれらの組み合わせである対イオンを有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の樹脂前駆体。
【請求項11】
ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体の製造方法であって:
(i)ポリアミンとエピハロヒドリンとを反応させて、官能基として:
ポリアミン主鎖に結合したN−ハロヒドリン基と、
ポリアミン主鎖に結合した3−ヒドロキシアゼチジニウム基とを含む反応生成物を得るステップと;
(ii)前記反応生成物のN−ハロヒドリン基対3−ヒドロキシアゼチジニウム基のモル比が1:3〜100:1に到達したときに、少なくとも1つの酸を前記反応生成物に加えるステップとを含む、方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの酸が前記反応生成物に、pH3〜7に到達するのに十分な量で加えられる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂の製造方法であって、アルカリ性物質を、請求項1から10のいずれか一項に記載のポリアミン−エピハロヒドリン樹脂前駆体に加えるステップを含む、方法。
【請求項14】
アルカリ性物質を加える前記ステップの前及び/又は後に、前記樹脂前駆体を40〜90℃の範囲内の温度に加熱するステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
形成された前記ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂を、酸を加えて2〜5のpHを達成することによって安定化するステップをさらに含み、酸の添加は、アルカリ性物質を前記樹脂前駆体に加えた後、及び場合により前記樹脂前駆体を加熱した後に行われる、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
13C−NMRによって測定されるN−ハロヒドリン基対3−ヒドロキシアゼチジニウム基のモル比が0:1〜0.2:1の範囲内であるポリアミン−エピハロヒドリン樹脂が製造される、請求項13から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
紙の製造方法であって、
アルカリ性物質を請求項1から10のいずれか一項に記載の樹脂前駆体に加えて、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂を含む組成物を形成するステップと;
セルロース系繊維を含むファーニッシュを提供するステップと;
ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂を含む前記組成物を前記ファーニッシュに加えるステップと;
前記ファーニッシュから紙を形成するステップとを含む、方法。

【公表番号】特表2011−526633(P2011−526633A)
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515410(P2011−515410)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【国際出願番号】PCT/EP2009/058114
【国際公開番号】WO2010/000696
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(390009612)アクゾ ノーベル ナムローゼ フェンノートシャップ (132)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel N.V.
【Fターム(参考)】