説明

樹脂加工方法及び樹脂加工装置

【課題】
所定の形状が反転した形状の表面パターンを有する金型を用いて表面パターンを転写し、複製する樹脂加工法について、
慣性力下で被加工材を装填し、表面パターンを転写し、固化させることができる方法を提供すること。
【解決手段】
所定の形状を反転した形状の表面パターンを有する金型を用いて表面パターンを転写し、複製する樹脂加工法であって、
慣性力が働かない状態で被加工材を表面パターンを有する金型に装着し、
慣性力下で流動性のある状態の被加工材を押圧して表面パターンに被加工材を倣わせ、
慣性力下で被加工材を固化させ、
慣性力が働かない状態で金型から成形品を取り出すこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂加工法、殊に、薄肉で大面積の成形品表面に微細凹凸の表面パターンやマイクロレンズなどの形状を転写する成形方法に関するものであり、液晶を用いた表示装置の照明光を画面全体に拡散照射するための導光板や、大容量のデジタル情報を記録、保存する媒体である光ディスク用基板、さらに、遺伝子情報を解明するために用いる分析用バイオチップなどの成形方法に利用することができるものである。
【背景技術】
【0002】
微細形状を転写して成形する合成樹脂の成形方法に関連する従来技術として、特開2002−289560号公報に記載されている発明(インプリント方法およびインプリント装置)、特開2003−77867号公報に記載されている発明(インプリントリソグラフィー用移動ステージ)、特開2003−157520号公報に記載されている発明(加圧方法、時期転写方法および記録媒体)などがある。
【0003】
そして、上記の特開2002−289560号公報に記載されている発明は、広い面積の鋳型パターンを均等にプレスすることを可能にし、プレス面全域において均一性の高い鋳型パターンの転写が行えるインプリント方法及びインプリント装置を提供することを課題とするもので、ウェハ5(同公報の図1参照、以下この項において同じ)上に成膜されたウェハ加工用膜6に、鋳型基板3上に形成された鋳型パターン4をプレスして、鋳型パターン4をウェハ加工用膜6に転写するインプリント方法及びインプリント装置であって、プレスする方向に対する鋳型パターン4の高さを、プレス面の中央から周縁にかけて減少させて、プレス時のプレス面におけるプレス圧力の不均一性を、前記高さの減少が無い場合に比べて低下させることを特徴とするものである。
【0004】
また、上記特開2003−77867号公報に記載されている発明は、試料側に傾斜調整機構を取り付け、移動機構により試料を移動させたときでも、モールドを試料の表面に対して均一に押圧可能とすることを課題とするもので、平らな表面をもつ定盤8(同公報の図1参照、以下この項において同じ)の略中心に支柱11を固定し、支柱11の上端面に傾斜調整機構としてのピボット12を固定し、また、定盤8の平面上を移動する移動機構10に移動ステージ6を固定し、移動ステージ6に弾性部材7を介して試料保持部材5を支持し、試料保持部材5によって表面にレジスト4を備えたシリコン基板3を保持し、ピボット12の直上にモールド2を上下動自在に配置し、モールド2の直下にモールドを転写するレジストの表面が位置するように移動機構10を移動させ、これにより、所定位置でモールドをレジストに対して押圧すると、モールドとシリコン基板3が相対的に傾斜している場合でも両者が平行になるように弾性部材7が変形し、レジストに対して均一な押圧力を与えられるようにしたものである。
【0005】
また、特開2003−157520号公報に記載されている発明は、従来とは異なる発想に基づくナノインプリント手法により、大面積に亘る均一なパターン転写を高いスループットで行うことにより得られる加工方法及びこの方法により形成される記録媒体を提供することを目的とするもので、 凹凸の表面パターンが形成された情報形成領域(120A)(同公報の図1参照、以下この項において同じ)を有する原盤(120)と、被転写基板(130)とを一対のプレス面(100)間に挟んで圧力を印加することにより、前記原盤の前記凹凸の表面パターンを前記被転写基板の表面に転写する工程を備えた加工方法であって、前記情報形成領域に対応させた形状のバッファ層(110)を、前記原盤及び前記被転写基板のいずれか一方と前記プレス面との間において前記凹凸形成領域に対応した位置に介在させた状態で、前記圧力を印加して転写することを特徴とするものである。
【0006】
さらに、上記特開2002−337167号公報に記載されている発明は、3次元的形状を有する成形物品をも製造できるポリテトラフルオロエチレン樹脂の成形方法を提供するもので、粒状樹脂及びそれを分散させ、樹脂成分の密度より小さい密度を有する分散媒体を含んだ分散樹脂組成物を遠心力場に供給して、遠心力場に配置した成形型内に粒状樹脂を注入して成形物品を得るものである。
【特許文献1】特開2002−289560号公報
【特許文献2】特開2003−77867号公報
【特許文献3】特開2003−157520号公報
【特許文献4】特開2002−337167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(1)課題1(請求項1の発明に対応)
以上、関連する従来技術の概要を説明したが、合成樹脂を用いて表面パターンを転写複製する加工方法として、射出成形法やインプリント方法が従来用いられており、射出成形法は、本願の図1に示すように、射出成形機(図示略)を用い、可塑化された樹脂(被加工材)4を射出シリンダ5で加圧して金型1のキャビティ3に注入し、キャビティ3内の表面パターン2a(パターン担持体2)を転写した後、冷却固化させることで樹脂成形品を成形する方法である。しかし、これはキャビティ3で冷却固化させるため金型温が低いので、可塑化された溶融樹脂4は粘弾性体であるため金型内で樹脂圧力が不均一になる。このため、プレスによるインプリント方法が圧力均一状態を得やすいことから表面パターン転写に多用されている(図2参照。なお、図(a)は概略図、図(b)はプレス前の状態、図(c)はプレス途中の状態)。しかし、現状のインプリント方法は、プレスした状態でプレスダイ11から伝熱により樹脂を加熱冷却するための時間が必要であり、また、プレスの加圧精度を高くするためにプレスダイ11の移動速度を遅くし、加圧にフィードバックをかけるなど、加工時間が長くなる等の欠点があり、これを解決するためにパターン12、被加工材13の加圧面積を大きくして一回に多数個加工できる方法が用いられている。しかし、大面積について均一に加圧するには、加圧装置に高い平行精度が求められる。
【0008】
他方、特開2002−289560号公報に記載されているようにパターン12の高さを変えてプレス領域内の圧力偏在を小さくすることや、特開2003−77867号公報に記載されているようにプレスダイ11裏面の弾性体が変形することで傾き、パターン12と被加工材13が平行になるようにするなどの方法が用いられている。しかし、これらの方法を用いても、プレスダイ11移動速度、加圧を格段に早くすることができず、加工時間を短縮することが難しい。
加圧面積を小さくした場合や、高い分解能が得られる紫外線硬化樹脂をインプリントする場合のように加圧荷重が小さい場合、制御する荷重や平行度の大きさが装置の制御精度に近くなるため、細かな制御ができず均一な圧力を得ることが難しい。
【0009】
プレスによる加圧では上記の不具合があるため、プレス以外の加圧方法として回転による遠心力を用いる方法がある。回転による遠心力RFC(重力の倍数:×g)は次の(1)式に示され、回転数N(回転毎分:rpm)の二乗に比例し、または半径r(cm)に比例する(図3)。
RFC=1.119×N×r/100000・・・・・(1)

遠心力は半径一定の円運動のため表面パターンがある回転軌跡面のどの場所でも同じ圧力であり、プレスのような高精度の平行度を必要としない。また、回転数により荷重の大きさを制御することが可能である。
【0010】
遠心力を用いた成形法として特開昭54−3160号公報に記載されているものや特開2002−337167号公報に記載されているものなどがある。
しかし、特開昭54−3160号公報に記載されているようなドラム形状の回転成形では円筒形状の場合のみ可能であり、平面上の表面パターンを転写複製することは難しく、また、表面パターンから成形品の離型を行うことが困難である。特開2002−337167号公報では、遠心力により3次元形状への転写が可能であるが、転写後の固化工程を遠心力下からはずれた状態で行う必要があるため、流動性のある材料を用いた場合、転写した形状が崩れた状態となり、転写精度が低くなる。
本発明は、所定形状が反転した状態の表面パターンを有する金型を用いて表面パターンを転写し、複製する樹脂加工方法について、慣性力下で被加工材を装着し、表面パターンを転写し、固化させることができる方法を提供する。
【0011】
(2)課題2(請求項2の発明に対応)
加工する物質に与える慣性力には重力、運動体の加速減速度、等速円運動での遠心力などがある。重力は一定であるため大きさの制御が難しく、加減速時の加速度は加減速方向に直線状に運動するので、加減速装置が大きくなるなどの欠点がある。本発明は、運動体の慣性力の大きさを簡単に制御でき、慣性力発生装置を小型化できる方法を提供する。
【0012】
(3)課題3(請求項3,4,5,6の発明に対応)
(1)式で表される遠心力は、重力の何倍の加速度がかかるかを示しており、表面パターン上にかかる力は質量×加速度であることから、表面パターン上にある物質の質量が大きいほど力が大きくなる(F=ma=m×RFC×g)。従って、加工する物質を大きくすることで力が大きくなるが、表面パターンの転写は表層のわずかな部分のみが加工に必要であり、その他の部分は成形品の大きさによって変わる。そのため、厚肉な成形品は回転数が低くても有効な遠心力を得ることができるが、薄肉な成形品では、加工する物質の質量が軽くなるため回転数を高くするか、または回転半径を大きくする必要があり、いずれにしても装置が大がかりなものとなる。
本発明は、被加工材の上に被加工材より比重の軽い物質を積層して加工する物質全体の質量を大きくするものであり、また、表面パターンを転写する被加工材の上に比重の軽い固体物質を積層し、固体物質の被加工材側の形状を船底状のテーパーを設けたものにすることで固体物質が常に遠心力方向に垂直な状態になり、表面パターンに均一な遠心力が与えられるようにするものである。
【0013】
また、固体を積層して遠心力で加圧する場合、被加工材と固体の2材料が組み合わされた成形品となるため、同一材料による成形品が得られない。
本発明は、被加工材と一体にならない流体を重ねることで質量を増やし、表面パターンを転写する被加工材に遠心力が有効に働くようにし、また、積層した物質が混在しないように被加工材上に積層する流体をその比重が被加工材の比重より軽い物質とし、また、積層する流体をその表面が被加工材に対して濡れ性が低い材料とすることで、離型時において積層した流体が容易に分離されるようにする。
【0014】
(5)課題5(請求項9,10の発明に対応)
また、流体性物質を積層して加圧した場合、1層目の被加工材表面に2層目流体が付着するため、これを除去する工程が必要になる。
本発明は、1層目と固体の間に空気層を設けることで、ドライプロセス状態で安定して表面パターンに有効な遠心力を与え、また、空気層を密封するために、上記固体の側面に密封材料を備えた構造を提供する。
【0015】
(6)課題6(請求項11,12の発明に対応)
特開昭54−3160号公報に記載されているものや特開2002−337167号公報に記載されているものはPTFE樹脂の成形法であるため、乾燥、焼成など加熱が必要であり、熱の授受に時間がかかる。また、特開2002−289560号公報に記載されているもの、特開2003−77867に記載されているもののようにプレスによるインプリント方法にも同様の問題がある。この問題に対するものとして、熱を利用して溶融固化する他に紫外線硬化樹脂を用いて加工する方法がある。しかし、特開昭54−3160号公報のものでは、紫外線硬化樹脂で形成した表面パターンを離型することが困難であり、特開2002−337167号公報のもの、特開2002−289560号公報のもの、特開2003−77867号公報のものでは型やプレスダイが紫外線が透過する材料(石英など)によるものでなければならないが、材料の剛性や、装置構成が複雑になるため実現が難しい。
本発明は、表面パターンの上層を解放した構造にして、表面パターンを転写した物質に紫外線を照射できるようにする。
【0016】
(7)課題7(請求項13,14,15,16の発明に対応)
特開昭54−3160号公報のもののようなドラム形状の回転成形では、ドラム内に加熱空気を吹き込むことで遠心力下での樹脂の乾燥、焼成(固化)を行うことができるが、この方法は円筒形状の場合のみ可能であり、平面上の表面パターンを個別に転写複製する方法では困難である。また、特開2002−337167号公報のものでは、遠心力下で乾燥、焼成ができない。高温環境内で遠心力を付与する必要があるためである。
本発明は、高周波誘導加熱を用いるので、回転する型を非接触で、回転する型の軌跡の外側に高周波誘導加熱用のコイルを配置し、型内の表面パターン部分を高透磁性材料で作ることにより、コイル近傍を通過する表面パターン部分を効果的に加熱できるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の樹脂加工方法は、次の(イ)乃至(ホ)によるものである。
(イ)所定の形状が反転した形状の表面パターンを有する金型を用いて表面パターンを転写し、複製する樹脂加工法であって、
(ロ)慣性力が働かない状態で被加工材を表面パターンを有する金型に装着し、
(ハ)慣性力下で流動性のある状態の被加工材を押圧して表面パターンに被加工材を倣わせ、
(ニ)慣性力下で被加工材を固化させ、
(ホ)慣性力が働かない状態で金型から成形品を取り出すこと。
【0018】
本発明の樹脂加工装置は、次の(イ)乃至(ニ)によるものである。
(イ)遠心力を発生させる遠心機と、
(ロ)型に被加工材を供給する装置と、
(ハ)表面に転写する表面パターンを有する型と、
(ニ)金型内の流動状態の被加工材を固化させる手段を有すること。
【0019】
〔作用〕
複数の物質を積層して金型内に供給し、遠心力で慣性力を与え加圧し、慣性力下で固化させたのち、取り出す。
本発明に係わる成形方法は、図4に示すように、
(a)慣性力が働いていない状態で金型30内の被加工材34の上に別の物質35を積層した状態で供給し、その後、
(b)遠心機を用いて、金型30内の被加工材34に(1)式で表される遠心力36を与え、金型30の表面パターン33aに被加工材34を(2)式の遠心力Fにて押圧して表面パターン33aに被加工材34を倣わせ、その後に、
(c)慣性力下で流動性のある被加工材34に固化作用37を与えて固化させ、
(d)慣性力が働かない状態で金型30から固化した成形品を取り出す。これにより、成形品表面に凹凸の表面パターン33aが転写された成形品39が得られる。
RFC=1.119×N×r/100000・・・・・ (1)
RFC;遠心力(×g) N;回転数 r;半径
F=ma=m×RFC×g・・・・ (2)
m;質量(重量) g;重力
【0020】
なお、本発明の被加工材料としては、紫外線硬化樹脂、熱効果性樹脂、熱可塑性樹脂を用いることができる。また、被加工材を固化させる手段は紫外線硬化樹脂の場合は紫外線照射装置、熱効果性樹脂の場合は金型を加熱手段である。熱可塑性樹脂の場合は金型を自然冷却させればよい。
【発明の効果】
【0021】
(1)請求項1の発明
本発明によれば、上記樹脂に慣性力を均一に与えることができるので、キャビティ全面均一な圧力を得ることが出来る。
(2)請求項2の発明
本発明によれば、慣性力に等速円運動による遠心力を用いているので、加工装置がコンパクトであり、また圧力制御が容易である。
【0022】
(3)請求項3,4,5,6の発明
本発明によれば、固体物質が常に遠心力方向に垂直な状態で被加工材上に浮上して、均一な遠心力を与えることができるので、凹凸の表面パターンがある成形品を容易に成形することができる。
【0023】
(4)請求項7,8の発明
本発明によれば、積層した流体質量の圧力により、均一な圧力を与えることができるので、凹凸の表面パターンのある成形品を容易に成形することができる。
【0024】
(4)請求項9,10の発明
本発明によれば、1層目の圧力により均一な圧力を与えることができるとともに、1層目と固体の間に空気層を設けることで、ドライプロセス状態で凹凸の表面パターンのある厚みのある成形品を容易に成形することができる。
【0025】
(5)請求項11,12の発明
本発明によれば、表面パターンの上層が解放した構造になり、表面パターンに紫外光を照射、硬化することができるので、紫外線硬化樹脂を用いた微細な表面パターン転写ができる。
【0026】
(6)請求項13,14,15,16、17の発明
本発明によれば、高周波誘導加熱を用いるので、回転する金型内の表面パターン部分を効果的に加熱することができ、したがって、熱可塑性材料を用いてパターン転写された成形品を安価に成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
〔実施例1〕
次いで、図面を参照しながら実施例を説明する。
遠心力を付与する遠心機は、卓上型遠心機(H−103N;(株)コクサン社)バケットはMC−110を用いる。このときの回転半径は16.5cmである(図示略)。
停止状態ではバケットは開口部を上にしてぶら下がった状態にあるので、凹型31や被加工材34、別の物質35を順に積層することができる(図4(a)参照)。
凹型31はアルミ製で、外形φ30mm、高さ10mmであり、内径φ20mm、深さ5mmのキャビティ32を備えている。転写加工するために用いる表面パターン33aはパターン担持体33の表面に形成されたもので、ピッチ0.74μm、幅0.3μm、高さ0.18μmの凹凸形状であり、パターン担持体33がキャビティ32底面にセットされており、そして、バケットの開口部側に表面パターン33aの凹凸形状が向くように凹型31がセットされている。パターン担持体33と凹型31とで金型30が構成されている。
【0028】
凹型31のキャビティ32内に、離型材としてシリコーンオイル(SH200;東レダウコーニング)を塗布し、80℃で30分ベークした後、紫外線硬化樹脂41(オプトダインUV1000;ダイキン工業製)を0.15cc注入し、その上に直径19mm、高さ1mmで下半分が円錐状に加工されて円錐柱の形をしているアクリル板42を、円錐部分が紫外線硬化樹脂41に入るようにして重ねる。アクリル板42の下半分が円錐状なので、重心はアクリル板42の中心軸上において、厚みの半分より下側にあるため、アクリル板42は紫外線硬化樹脂41の上で、重力に対して常に平行な状態に自立的に浮上する(図5(a))。
【0029】
次に、遠心機を5000rpmで1分間、回転させる。回転半径は16.5cmであるため、5000rpmで回転させた場合(図4(b))、(1)式からアクリル板42と樹脂41の質量により1970gの荷重(遠心力による押圧力)で紫外線硬化樹脂41が表面パターン33aに押圧され、当該表面パターン33aに倣う。ここで、遠心力を用いることによる特徴として、表面パターン33aと上記樹脂41の間や同樹脂41の内部にある気泡43が遠心力36の作用で回転中心Sの方へ移動し、やがて、その外部へ排出される。また、円錐柱状のアクリル板42は、遠心力36を受け、樹脂41に対して、円錐部がくさび状に食い込んでゆくので、アクリル板42によって加圧される樹脂41は均等に側面方向に移動しようとし、その結果、自立的にキャビティ32の中心に位置する。また、遠心力36方向に対して垂直になるように浮上するという効果も得られる。また、樹脂41中の気泡43は、アクリル板42に沿って移動し、アクリル板42と凹型31との隙間から樹脂外へ排出される(図5(b))ので、これによって、樹脂41内の気泡43が完全に脱泡される。
【0030】
次に、遠心機の回転軸中心Sに設けたミラー38を用いて、回転軸方向に照射した紫外線37を90度反射させて、バケットの開口部からバケット内の凹型31内キャビティ32に照射する。紫外線37を反射するミラー38は、研磨したアルミ板であり、回転軸に対して45度の角度になるように治具で固定している。また、照射される紫外線37は高圧水銀ランプによるものであり、10J/cm2の紫外線を1分間照射する(図4(c))。これによって樹脂41が硬化し、表面パターン33aが転写される。
遠心機の回転を止めて、表面パターン33aが転写された状態で固化した成形品39を凹型31から取り出してその厚みを確認した(図4(d))ところ、成形品39の厚みは、平均1.08mm、ばらつき幅は0.013mmであった。また、表面パターン33aの転写率は98%(深さの比較による)であった。
【0031】
〔比較例1〕
実施例1と同じ構成で、平板状のアクリル板42を紫外線硬化樹脂41の上に重ねて、遠心力36で加圧し、紫外線37を照射して固化させた成形品39は、アクリル板42が凹型31内キャビティ32の一方に偏った状態で硬化しており、成形品の厚みばらつき幅は0.082mmであった。表面パターン33aの転写率は98%(深さの比較)であった。
【0032】
〔比較例2〕
万能試験機(STA−1150;オリエンテック社)の加圧シリンダ61の先端にボールジョイント62を取り付けられ、さらに直径20mm、厚み30mmのアクリル柱63が連結されていて、アクリル柱63が型30やプレスダイ65に倣って傾いても加圧力がかかるようになっている。アクリル柱63の外周にはリング型ライトガイド64を取り付けることで、紫外光66をアクリル柱63内に照射できるようにしている(図10参照)。
そして、実施例1と同じ構成で積層した紫外線硬化樹脂41とアクリル板42をアクリル柱63とプレスダイ65で挟み、実施例1と同じ2kg重の荷重をかけ、その後、リング状ライトガイド64からアクリル柱63を経て凹型内キャビティ32に紫外光66を1分間照射した。このときの紫外光66は高圧水銀ランプで、10J/cmの強度のものである。
成形された成形品39は、アクリル板42が傾いた状態で硬化しており、成形品厚みのばらつき幅は0.106mmであった。表面パターン33aの転写率は平均96%(深さの比較)であったが、面内で最大4%の転写ばらつきがあった。また、一部に気泡43が残留していたため、パターンを転写できない部分が残っていた。
【0033】
〔実施例2〕
実施例2は遠心力を付与する遠心機として、卓上型遠心機(H−103N;(株)コクサン社)、バケットはMF−110を用いている。このときの回転半径は16.0cmであった(図示略)。停止状態では、バケットは開口部を上にしてぶら下がる状態にあるため、凹型31や被加工材34、別の物質35を積層することができる(図4(a))。
凹型31はアルミ製で、外径30mm、高さ20mmの中に内径20mm、深さ10mmのキャビティ32を備えている。転写するために用いた表面パターン33aはピッチ0.74μm、幅0.3μm、高さ0.18μmの凹凸形状で、パターン担持体33がキャビティ32の底面にセットされており、バケットの開口部側に表面パターン33aが向くように凹型31をセットしている。その後、凹型31のキャビティ32内に、離型材としてシリコーンオイル(SH200;東レダウコーニング)を塗布し、80℃で30分ベークした後、紫外線硬化樹脂41(オプトダインUV1000;ダイキン工業製)を1cc注入し、その上にシリコーンオイル44(SH200;東レダウコーニング)を10cc、シリコーンオイル44と紫外線硬化樹脂41が混ざらないように型側面に沿って静かに流し込んで供給する(図6(a)参照)。
【0034】
次に、遠心機を4000rpmで1分間、回転させる。この場合の回転半径は16.0cmであるため、4000rpmで回転させた場合(図4(b))、(1)式からシリコーンオイル44、樹脂41の質量による27460gの荷重(遠心力による押圧力)で樹脂41が表面パターン33aに押圧され、表面パターン33aに倣う。シリコーンオイル44と紫外線硬化樹脂41は比重が0.93と1.36と異なるため、遠心力を受けることで、シリコーンオイル44と紫外線硬化樹脂41は積層状に分離し、紫外線硬化樹脂41は表面パターン33aと接し、当該表面パターン33aに倣う。ここで、遠心力36を用いる特徴として、表面パターン33aと樹脂41の間にある気泡43が遠心力36を受けることで回転中心側へ移動する脱泡作用が得られる。そして、樹脂41中の気泡は、樹脂41シリコーンオイル44を通って外へ排出された(図5(b))。
【0035】
次に、遠心機の回転軸中心に設けたミラー38を用いて、回転軸方向に照射した紫外線を90度反射させて、バケットの開口部からバケット内の凹型内キャビティに照射する。紫外線を反射するミラーは、研磨したアルミ板を用い、回転軸に対して45度の角度になるように治具で固定している。また、硬化に用いた紫外線は高圧水銀ランプを使用して、10J/cm2の紫外線を1分間照射した(図4(c))。
遠心機の回転を止めて、紫外線照射により表面パターン33aを転写、固化した成形品を、金型30から取り出して(図4(d))、成形品の厚みを測定したところ、当該厚みは、平均3.18mm、ばらつき幅で0.024mmであった。また、表面パターンの転写率は98%(深さの比較)であった。
【0036】
〔実施例3〕
実施例3は遠心力を付与する遠心機として、卓上型遠心機(H−103N;(株)コクサン社)、バケットはMF−110を用いている。このときの回転半径は16.0cmである(図示略)。停止状態では、バケットは開口部を上にしてぶら下がる状態にあるため、凹型31や被加工材34、別の物質35を順次積層することができる(図4(a))。
凹型31は外径30mm、高さ30mmのアルミ製でその中に内径20mm、深さ20mmのキャビティ32を備えている。転写すべき表面パターン33aはピッチ0.74μm、幅0.3μm、高さ0.18μmの凹凸形状であり、当該表面パターンの担持体33がキャビティ32底面にセットされている。そして、バケットの開口部側に表面パターン33aが向くように凹型31をセットする。凹型31のキャビティ32内に、離型材としてシリコーンオイル(SH200;東レダウコーニング)を塗布し、80℃で30分ベークした後、紫外線硬化樹脂41(オプトダインUV1000;ダイキン工業製)を1cc注入した。直径19mm、厚さ10mm石英ガラス板46を用意し、これを、前記凹型31のキャビティ32部に蓋をするように嵌め込む。この石英ガラス板46の外周側面の溝にOリング47を嵌めて装着している。このOリング47はその外径が20.6mmであるので、凹型31の内面に圧接して石英ガラス板46と凹型31間をシールしていて、石英ガラス板46と紫外線硬化樹脂41との間に間に介在している厚さ12mmの空気層45を密封している(図7(a))。
【0037】
次に、遠心機を4000rpmで1分間、回転させる。この場合の回転半径は16.0cmであるため、4000rpmで回転させた場合(図4(b))、(1)式から石英ガラス46の質量による6303g/cmの圧力が空気層45にかかる。均一に加圧された空気層45により紫外線硬化樹脂41は6303g/cmの圧力で押圧され、表面パターン33aに倣う。このとき、空気層45はボイルの法則に従って厚さ0.42mmまで圧縮されるが、石英ガラス46が紫外線硬化樹脂41に接することはない。また、回転初期では石英ガラス46はキャビティ32内に移動しないため、上記樹脂41には遠心力だけが働いた状態になるため同樹脂41内の気泡43は脱泡される。その後、遠心力により石英ガラス46にかかる荷重が所定の大きさ以上に達すると、石英ガラス45は、キャビティ32内を移動して空気層45を圧縮する(図7(b))。
【0038】
次に、遠心機の回転軸中心に設けたミラーを用いて、回転軸方向に照射した紫外線を90度反射させて、バケットの開口部からバケット内の凹型内キャビティに照射した。紫外線を反射するミラーは、研磨したアルミ板を用い、回転軸に対して45度の角度になるように治具で固定している。また、硬化に用いた紫外線は高圧水銀ランプを使用して、10J/cmの紫外線を1分間照射した(図4(c))。
遠心機の回転を止めて、表面パターン33aを転写し、紫外線37照射により固化した成形品39を、金型30から取り出して(図4(d))その厚みを測定したところ、当該厚みは、平均3.04mm、ばらつき幅が0.014mmであった。また、表面パターン33aの転写率は98%(深さの比較)であった。
本発明は、図8(a)に示すように、遠心記の回転軸上に設けたミラー38により紫外光37の照射経路を90度曲げているが、図8(b)に示すように、光ファイバー48により紫外光37を90度曲げて誘導して、これを紫外線硬化樹脂41に照射することもできる。
【0039】
〔実施例4〕
以上の実施例1,2,3は紫外線硬化樹脂41を用い、紫外光37を照射することで同樹脂を硬化させるものであるが、この実施例4は、熱可塑性樹脂を用い、表面パターン33aを加熱する加熱手段を備えているものであり、図9に示すように、凹型31の底面と隣接するように高周波誘導コイル51を設置して高周波誘導加熱にてパターン担持体33を加熱するものである。この場合は、図9に示すようにキャビティ32に装着したパターン担持体33に透磁性の高い材料を用いることでパターン担持体33を直接電気的に加熱することができる。そして透磁性の高い材料として、鉄、ニッケル、18−0ステンレスなど磁石のつきやすい材料が特によい。さらに、キャビティ32の底面のパターン担持体33の背面に断熱層52を設けることで加熱効果を促進させることができる。また、断熱層52は、透磁性材料で熱伝導率が低ければ所期の機能を奏するが、無機材料ではビスマス、有機材料ではポリイミドが特に熱伝導率、加工性が優れているので、好ましい。
【0040】
この実施例4では、たとえば、凹型31のキャビティ32内に熱可塑性樹脂のペレットまたはタブレットを供給し、バケットを回転しながら高周波誘導加熱コイル51に高周波電流を通電する。そうすると、バケット内の凹型31の底部に高周波電界からの誘導電流が生じ、この電流は高周波電界内にあるものの表層に集中して流れるため、凹型31の底部や凹型31内キャビティ32にあるパターン担持体33が効果的に加熱される。パターン担持体33によって加熱されて溶融した熱可塑性樹脂は、遠心力により、表面パターン33aに均一に押圧されて、同表面パターン33aに倣う。その後、高周波電流をOFFして、パターン担持体33による加熱を停止すると、樹脂は冷却されて固化する。加熱溶融された樹脂にかかる荷重(遠心力による押圧力)は均一であるから、成形品の厚みは均一に成る。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】は従来例1(インプリント法による従来の転写複製法)を模式的に示す断面図である。
【図2】(a)は上記従来例のプレス装置の概略斜視図、(b)はプレス開始前の状態を示す断面図、(c)はプレス途中の状態を示す断面図である。
【図3】は遠心力の大きさと回転半径rとの関係を説明するための参考図である。
【図4】は本発明の方法の手順を説明するための図面である。
【図5】は実施例1の説明図であり、(a)は停止状態の凹型31の断面図、(b)は回転状態の凹型31の断面図である。
【図6】は 実施例2の説明図であり、(a)は停止状態の凹型31の断面図、(b)は回転状態の凹型31の断面図である。
【図7】は、実施例3の説明図であり、(a)は停止状態の凹型31の断面図、(b)は回転状態の凹型31の断面図である。
【図8】(a)は反射ミラーによる紫外線照射の一例を示す模式図であり、(b)は光ファイバーによる紫外線照射の一例を示す模式図である。
【図9】は実施例4の説明図である。
【図10】は、比較例2の説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1,30:金型
3,32:キャビティ
4,34:被加工樹脂
2,33:パターン坦持体
2a、33a:表面パターン
31:凹型
35:別の物質
36:遠心力
37:紫外線
38:ミラー
39:成型品
41:紫外線硬化樹脂
42:アクリル板
43:気泡
44:シリコーンオイル
S:回転軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の形状が反転した形状の表面パターンを有する金型を用いて表面パターンを転写し、複製する樹脂加工法において、
慣性力が働かない状態で被加工材を表面パターンを有する金型のキャビティに装填し、
慣性力下で流動性のある状態の被加工材を押圧して表面パターンに被加工材を倣わせ、
慣性力下で被加工材を固化させ、
慣性力が働かない状態で金型から成形品を取り出す樹脂加工方法。
【請求項2】
慣性力に等速円運動による遠心力を用いる請求項1の樹脂加工方法。
【請求項3】
慣性力下で流動性のある状態の被加工材を押圧して表面パターンに被加工材を倣わせる樹脂加工方法であって、
被加工材の上に他の物質を積層した状態で被加工材を加圧する請求項1の樹脂加工方法。
【請求項4】
慣性力下で流動性のある状態の被加工材を押圧して表面パターンに被加工材を倣わせる樹脂加工方法であって、
2層目以降の物質の比重が1層目の被加工材の比重に対して小さいものを用いる請求項3の樹脂加工方法。
【請求項5】
被加工材の上に表面パターンを有する上記金型のキャビティと略同じ平面形状の固体を重ね、
重ねた固体が慣性力により1層目の被加工材を加圧する請求項3の樹脂加工方法。
【請求項6】
被加工材の上に重ねた固体の中心を慣性力が働く方向と平行に切断した面の形状が、型の中心線部がもっとも厚く、型の縁部分がもっとも薄くなるように、固体の被加工材との接触面がテーパー形状になっている請求項3の樹脂加工方法。
【請求項7】
慣性力下で流動性のある状態の被加工材を押圧して表面パターンに被加工材を倣わせる樹脂加工方法であって、
被加工材の上に液状の物質を積み重ねた状態で金型に装着し、
層状に重なった2層目以降の物質が慣性力により1層目の被加工材を押圧するようになっている請求項3の樹脂加工方法。
【請求項8】
2層目以降の物質の表面性が1層目の被加工材の樹脂の表面性に対してぬれ性が低い(撥水,溌油)材料を用いる請求項7の樹脂加工方法。
【請求項9】
慣性力下で流動性のある状態の被加工材を押圧して表面パターンに被加工材を倣わせる樹脂方法であって、
被加工材の上に気体層を設け、当該気体層の上に気体密封部材を設けて当該密封部材と被加工材の間で気体を密封し、
上記気体層を介して上記密封部材で1層目の被加工材を押圧する請求項3の樹脂加工方法。
【請求項10】
上記気体層の上に設ける密封部材が、上記金型のキャビティと略同じ平面形状の固体物の側面に気体を密閉できるシール部材を設けた構造である請求項9の樹脂加工方法。
【請求項11】
請求項1の樹脂加工方法を実施するための樹脂加工装置であって、
所定の表面パターンを転写する被加工材が紫外線硬化樹脂であり、
上記紫外線硬化樹脂に紫外線を照射するために、遠心力を付与する装置の回転軸上に反射鏡を配置してあり、
回転軸の上方に紫外線光源が配置されてあり、
上記紫外線光源からの紫外線を上記反射鏡で反射させ、
上記反射光を上記紫外線硬化樹脂に照射するようになっており、
回転による慣性力下で紫外線を照射して上記樹脂を固化させるようになっている樹脂加工装置。
【請求項12】
請求項11の樹脂加工装置において、
遠心力を付与する装置の回転軸上に紫外線光源を設け、回転軸と同一軸上に光ファイバーを設け、光ファイバの一方の端部を曲げて表面パターンに向けてあり、
回転軸の上方の光源からの紫外線を光ファイバで誘導して上記樹脂に照射して、
回転による慣性力下において上記樹脂を紫外線固化させる樹脂加工装置。
【請求項13】
回転する金型を高周波誘導加熱して当該金型内の被加工材を加熱溶融させて、表面パターンに倣わせる請求項1の樹脂加工方法。
【請求項14】
被加工材を金型の表面パターンに倣わせ、回転する金型を高周波誘導加熱して当該金型内の被加工材を加熱硬化させる請求項1の樹脂加工方法。
【請求項15】
請求項13または請求校14の樹脂加工方法を実施するための樹脂加工装置において、
回転する金型が高周波誘導加熱コイルを備えており、金型の高周波誘導加熱によって、金型内にある表面パターン部を加熱することを特徴とする樹脂加工装置。
【請求項16】
請求項13または請求校14の樹脂加工方法を実施するための樹脂加工装置において、
その金型キャビティ表面が高透磁率材料で形成されていることを特徴とする樹脂加工装置。
【請求項17】
熱硬化性樹脂を金型の表面パターンに倣わせ、回転する金型を高周波誘導加熱して当該金型内の被加工材を加熱硬化させる請求項1の樹脂加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−160688(P2007−160688A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359447(P2005−359447)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】