説明

樹脂塗装金属板

【課題】インサート成形や熱プレスに使用でき、かつ導電性を有する樹脂塗装金属板を提供する。
【解決手段】金属板の表面に意匠性樹脂塗膜が積層され、裏面に接着剤層が積層された樹脂塗装金属板であって、この樹脂塗装金属板が接着剤層によりプラスチック部材および/または金属部材と接合可能であり、接着剤層がガラス転移温度が30℃以上の樹脂と導電性フィラーとを含有し、100℃で測定したときの傾斜角30°のボールタックが0であり、120℃で測定したときにはボールタックが5以上である樹脂塗装金属板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に意匠性の樹脂塗膜が、裏面に接着剤層が積層された樹脂塗装金属板に関し、プラスチック部材および/または金属部材に接合して使用する樹脂塗装金属板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家電製品や情報機器には、金属と樹脂とが複合化された部材が使用されることが多い。例えば、特許文献1には、金属板にウレタン硬化型コート剤を塗布し、これを射出成形用金型内にインサートしてポリアミド系樹脂組成物を射出させて一体化した複合体部材が開示されている。
【0003】
こういったインサート成形のための類似技術は、他にも多くある。例えば特許文献2には、金属板に接着剤を塗布した後、インサート成形によって、リブ部やボス部を樹脂で形成する電子機器筐体の製造方法が記載されている。さらに特許文献3には、熱可塑性樹脂をラミネートまたはプレコートした金属板をインサート成形に用い、ラミネート層またはプレコート層上にリブやボスなどの部位を形成している。これらの技術は、いずれも、金属板に塗布される樹脂が絶縁体である。
【0004】
従って、金属板上の樹脂層を介してインサート成形で樹脂部材を形成した後、樹脂部材が形成された以外の部分を金属板と接合しても、導通させることができない。金属板と樹脂部材との複合体を家電製品や情報機器に使用する場合、電子装置の動作安定化やノイズ遮断のために導電性が必要なことがあるが、上記従来技術では、いずれも金属板に塗布される樹脂が絶縁体のため、この樹脂を除去しなければ、導電性が確保できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−67111号公報
【特許文献2】特開平7−124995号公報
【特許文献3】特開2001−315162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インサート成形に使用された樹脂塗装金属板が導電性を有していれば、インサート成形で樹脂部材が形成された部分以外の樹脂塗装金属板部分が、家電製品や情報機器の内部電子装置と通電可能となり、動作安定化に繋がる上に、抵抗溶接が可能となるため加工が容易になり、製品のコストダウンにつながる。しかし、インサート成形に使用でき、かつ導電性を有する樹脂塗装金属板は、従来は知られていなかった。
【0007】
そこで本発明では、インサート成形や熱プレスに使用でき、かつ導電性を有する樹脂塗装金属板の提供を課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、金属板の表面に意匠性樹脂塗膜が積層され、裏面に接着剤層が積層された樹脂塗装金属板であって、この樹脂塗装金属板が接着剤層によりプラスチック部材および/または金属部材と接合可能であり、接着剤層がガラス転移温度が30℃以上の樹脂と導電性フィラーとを含有し、100℃で測定したときの傾斜角30°のボールタックが0であり、120℃で測定したときにはボールタックが5以上であることを特徴とする。
【0009】
接着剤層が含有する樹脂は、ポリウレタン系樹脂、変性ポリオレフィン系樹脂およびポリエステル系樹脂のいずれかであることが好ましい。また、導電性フィラーが、ニッケル、リン化鉄および磁性粉よりなる群から選択される1種以上である態様も好ましい。この導電性フィラーは、接着剤層中、10〜40質量%含まれていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂塗装金属板は、予め接着剤層が形成されているので、インサート成形の前に接着剤を塗布する工程が不要となった。また、接着剤層がインサート成形時に金属板から剥離しないため、歩留まり良好にインサート成形することが可能となった。さらに、接着剤層が導電性を有しているので、インサート成形後に他の金属板を積層する場合に導通させることができ、溶接も可能である。従って、家電製品や情報機器のような内部に電気回路を有する製品の外装カバー等として有利に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】電気抵抗値の測定箇所を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の樹脂塗装金属板は、表面(おもてめん)に意匠性樹脂塗膜が積層され、裏面に接着剤層が積層されている。まず、本発明のポイントである接着剤層について説明する。
【0013】
[接着剤層]
接着剤層は、導電性フィラーを有していなければならない。導電性フィラーとしては、無機または有機ポリマー粒子の表面に金属等からなる導電性層を形成した導電性層含有粒子や、金属微粒子が挙げられるが、金属微粒子の方が熱伝導率が高く、インサート成形や熱プレス等で他部材と加熱接合する(以下単に加熱接合という場合がある)際の接着強度を高めることができるため、本発明では金属微粒子を用いることが好ましい。金属微粒子としては、ニッケル、リン化鉄、磁性粉、亜鉛、アルミニウム、銀、銅等を挙げることができる。これらの中でもニッケル、リン化鉄、磁性粉が好ましい。本発明の樹脂塗装金属板に電磁波減衰性能を付与する必要性がある場合には、良好な導電性を有し、かつ、電磁波減衰性を兼備する磁性粉を用いることが好ましい。このような磁性粉には、パーマロイ(Ni−Fe系合金でNi含有量が35質量%以上のもの)やセンダスト(Si−Al−Fe系合金)がある。
【0014】
導電性フィラーは、接着剤層中の樹脂と導電性フィラーの合計を100質量%としたときに、10〜50質量%であることが好ましく、10〜40質量%がより好ましく、20〜40質量%がさらに好ましい。多すぎると接着剤層の接着性を低下させるおそれがあり、少ないと導電性が発現しないことがある。
【0015】
金属微粒子としては、平均粒子径が1〜10μmであるものを用いることが好ましい。1μmより小さいと溶接性が低下し、10μmを超えると接着剤層の好適膜厚を超えてしまい、接着面積の低下に繋がる表面凹凸の原因となるため好ましくない。より好ましい平均粒子径の範囲は、3〜8μmである。なお、平均粒子径は、電子顕微鏡写真等で観察する等、公知の方法で測定できる。
【0016】
接着剤層を構成する樹脂としては、ポリウレタン系樹脂;ポリプロピレン、塩素化ポリプロピレン等の(変性)ポリオレフィン系樹脂;共重合ポリエステル等の熱可塑性ポリエステル系樹脂;ナイロン類;スチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;クロロプレンゴム、ウレタンゴム、SBR等のゴム類;熱可塑性エラストマー類等が挙げられる。これらは公知の硬化剤で硬化させてもよい。
【0017】
これらの中でも、ポリウレタン系樹脂、変性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましい。ポリウレタン系樹脂は、熱可塑タイプ、一部熱硬化したタイプ、いずれであってもよい。
【0018】
接着剤層中の樹脂のガラス転移温度(Tg)は30℃以上でなければならない。Tgが30℃未満では、加熱接合の際に金型等に接着剤層が付着して、基材の金属板から剥離してしまう。ただし、Tgが高すぎると後述するタックの発現温度が高くなりすぎて接着性が乏しくなるため、90℃以下であることが好ましい。
【0019】
また、接着剤層はタックの発現温度が100℃超でなければならない。インサート成形の際には金型は100℃前後に加熱されるが、このときに樹脂塗装金属板と金型が接する部位があると、接着剤層が金型に付着して基材の金属板から剥離してしまうからである。タックの発現温度は、ボールタックで確認する。すなわち、接着剤層を100℃に加熱してボールタック試験を行ったときは、接着剤層上で止まるボールがなく(ボールタックが0)、120℃にした場合にはタックが発現して、ボールタックが5以上になる接着剤層とする。ボールタック試験は、JIS Z 0237に規定されている傾斜式ボールタック法で行い、傾斜角は30°とする。なお、接着剤層の加熱は、樹脂塗装金属板の下側(意匠性樹脂塗膜面側)にシリコーンラバーヒーター等を配置すれば可能である。
【0020】
タックの発現温度を100℃超にするには、前記したとおり、Tgが30℃以上の樹脂を用いる必要がある。
【0021】
接着剤層は、その他に、接着付与剤や紫外線吸収剤等の公知の添加剤を含有していても構わない。
【0022】
[意匠性樹脂塗膜]
意匠性樹脂塗膜は、公知の顔料によって着色された樹脂塗膜である。樹脂としては、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等が好ましい。これらは硬化剤で硬化させることが好ましい。本発明の樹脂塗装金属板はプレス成形される場合が多いので、加工性に優れたポリエステル系樹脂が好ましい。ポリエステル系樹脂の場合はメラミン樹脂等で硬化することができる。硬化剤は、樹脂と硬化剤の合計を100質量%としたときに、0.5〜30質量%(より好ましくは5〜25質量%)となるように、配合することが好ましい。
【0023】
顔料としては、二酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の無機顔料や、アゾ系、フタロシアニン系等の有機顔料が挙げられる。
【0024】
意匠性樹脂塗膜の膜厚は、厚すぎると加工性が低下するので、5〜50μm程度が好ましく、10〜30μmがより好ましい。
【0025】
[金属板]
本発明で用いることのできる金属板としては、抵抗溶接が可能であれば特に限定されず、鋼板または非鉄金属の金属板、これらに単一金属または各種合金のめっきを施しためっき金属板等が含まれる。具体的には、例えば、熱延鋼板、冷延鋼板、ステンレス鋼板等の鋼板;溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気Zn−Ni合金めっき鋼板等のめっき鋼板;アルミニウム、チタン、亜鉛等の非鉄金属板またはこれらにめっきが施されためっき非鉄金属板等が挙げられる。これらに、表面処理として、例えば、リン酸塩処理、クロメート処理、酸洗処理、アルカリ処理、電解還元処理、シランカップリング処理、無機シリケート処理等が施されていてもよい。
【0026】
[製造方法]
本発明の樹脂塗装金属板を製造するには、意匠性樹脂塗膜用組成物、接着剤層用組成物を調製し、これらを金属板に塗布・乾燥する方法を採用するのが好ましい。意匠性樹脂塗膜用組成物は、樹脂、顔料、必要により添加される硬化剤や添加剤等を、有機溶剤等で希釈して塗工に適した粘度にしたものを用いる。また、接着剤層用組成物は、樹脂、導電性フィラー、必要により添加される硬化剤や添加剤等を、有機溶剤等で希釈したものを用いる。
【0027】
有機溶剤としては特に限定されないが、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類;シクロヘキサン等の脂環族炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類等;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等が挙げられる。これらは混合して用いてもよい。
【0028】
上記意匠性樹脂塗膜用組成物には、艶消し剤、防錆剤、沈降防止剤、ワックス等、樹脂塗装金属板分野で用いられる各種公知の添加剤を添加してもよい。上記接着剤層用組成物には、導電性接着剤分野で知られている公知の添加剤や防錆剤等を添加してもよい。
【0029】
上記各組成物を金属板に塗布する方法は特に限定されず、バーコーター法、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法等が採用可能である。意匠性樹脂塗膜用組成物と、接着剤層用組成物は、どちらを先に金属板に塗布しても構わず、両方を一度に塗布しても構わない。意匠性樹脂塗膜の方が接着剤層よりも耐熱性に優れるように分子設計され、熱履歴を2回受けても影響が小さいので、意匠性樹脂塗膜用組成物を先に金属板に塗布することが好ましい。
【0030】
塗布後には、加熱乾燥を行う。加熱温度は特に限定されず、硬化剤が含まれている場合には、硬化温度で焼付ければよい。
【0031】
[加熱接合]
本発明の樹脂塗装金属板は、インサート成形や熱プレスによって、プラスチック部材と接合させることができる。なお、本発明の樹脂塗装金属板は、100℃ではタックが発現せず、120℃以上ではタックが発現するように構成されているので、加熱接合は接着剤層が120℃以上になるような条件で行う。樹脂塗装金属板を所定の寸法にカットした後、通常、曲げ加工を行い、射出成形用金型内に意匠性樹脂塗膜面を金型に当接させて配設し、射出成形を行うと、インサート成形品が得られる。射出成形に用いるプラスチックの素材としては、射出成形分野で公知の熱可塑性樹脂であればいずれも使用可能である。また、加熱したホットプレス上に意匠性樹脂塗膜面をホットプレスに当接させて配設し、プラスチック部材を載せて、上から加圧することでも、プラスチック部材と接合することができる。このとき、カット後の樹脂塗装金属板の全面にプラスチック部材を接合しない場合には、プラスチック部材が接合されていない部分に、他のプラスチック部材や金属板を接合することが可能である。
【実施例】
【0032】
以下実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更実施は本発明に含まれる。なお以下特にことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。
【0033】
実験No.1
〔金属板〕
原板には、板厚0.6mmの電気亜鉛めっき鋼板(EG)を用いた。めっきは金属板の両面に行い、付着量は片面20g/m2ずつとした。また、めっき鋼板には、日本パーカライジング社製の「CTE−213」を用いた下地処理を付着量100mg/m2となるように行った。
【0034】
〔意匠性樹脂塗膜の積層〕
東洋紡績社製のポリエステル樹脂「バイロン(登録商標)296」100質量部に、メラミン樹脂(「スミマール(登録商標)M−40ST」:住友化学社製:キシレン溶液;固形分80%)を20質量部と、二酸化チタン(「JR−603」;テイカ社製;平均粒子径0.28μm)を10質量部と、適量のキシレン・シクロヘキサノン(質量比50:50)を添加してよく混合し、意匠性樹脂塗膜用組成物を調製した。
【0035】
この意匠性樹脂塗膜用組成物を、塗膜厚が20μmとなるようにバーコーターで上記鋼板の片面に塗布し、60秒間、焼き付け炉で焼き付けた。到達板温は230℃であった。意匠性樹脂塗膜が積層された塗装鋼板を作製した。
【0036】
〔接着剤層の積層〕
塩素化ポリプロピレン樹脂(「ハマタイト(登録商標)Y−6360」;横浜ゴム社製;固形分8%;Tg80℃)に、Fe−Ni合金磁性粉(三菱製鋼製パーマロイ;78Ni−1Mo−FP;平均粒子径7.6μm;表ではFe−Niと省略)、ニッケル粉(日興リカ社製「CNS−10」;平均粒子径6.3μm)、またはリン化鉄粉(福田金属箔工業社製の「P−Fe−350」を平均粒径が7.0μmとなるように粉砕機で粉砕したもの;表ではFePと省略)を導電性フィラーとして表1に示した濃度となるように添加し、接着剤層用組成物を調製した。
【0037】
この接着剤層用組成物を、塗膜厚が10μmとなるようにバーコーターで、上記意匠性塗膜積層鋼板の反対面に塗布し、60秒間、焼き付け炉で焼き付けた。到達板温は230℃であった。樹脂塗装鋼板が得られた。
【0038】
〔ボールタック〕
JIS Z 0237に規定されている傾斜式ボールタック法で行い、傾斜角は30°とした。接着剤層の加熱は、樹脂塗装金属板の下側(意匠性樹脂塗膜面側)にシリコーンラバーヒーター等を配置して行った。100℃と120℃で測定し、結果を表1に示した。
【0039】
〔破断強度〕
樹脂塗装鋼板を20mm×100mmの短冊状に切断し、180℃に加熱したホットプレス上に、意匠性樹脂塗膜がホットプレスに接するように載置して5分放置した。同じく20mm×100mmの短冊状に切断したポリプロピレンシート(厚さ1mm)を、重ね合わせ部分が20mm×20mmとなるように、加熱された樹脂塗装鋼板上に置き、加圧力1MPaで30秒間プレスして、テストピースを作製した。得られたテストピースを、雰囲気温度23℃の環境中で、10mm/minの引張速度で引張り、破断強度を求めた。結果を表1に示した。
【0040】
〔電気抵抗値〕
図1に示したように、樹脂塗装鋼板とポリプロピレンシートが重なっていない部分に、電気亜鉛めっき鋼板(20mm×40mm)を重ね、A点とB点の電気抵抗値をテスターで測定した。結果を表1に示した。
【0041】
【表1】

【0042】
表1から明らかなように、本発明実施例は、100℃ではボールタックがゼロであったが、120℃では5以上を示していた。破断強度は、大体同程度であった。また、本発明実施例は、接着剤層が導電性フィラーを含有しているので、電気抵抗値が低い。導電性フィラーを接着剤層に配合していない比較例1では、測定できないレベルの電気抵抗であった。
【0043】
実験No.2
表2に示した構成の接着剤層に変えた以外は、実験No.1と同様にして樹脂塗装鋼板を作製した。表2中、「バイロン(登録商標)」は、東洋紡績社製の有機溶剤可溶型非晶性ポリエステル樹脂である。また、導電性フィラーの「UBS」とは、ユニチカ社製の銀めっきガラスビーズ(「UBS−0010LAg」;平均粒子径6.1μm)である。評価結果を表2に併記した。なお、破断強度試験は、ポリプロピレンシートに変えてポリエチレンテレフタレートシート(厚さ1mm)を用いた以外は、上記と同様にして行った。また、Tgは、以下の方法で求めた値である。
【0044】
〔Tg〕
JIS K7121に基づき、示差走査熱量計(Thermo Plis DSC8230;リガク社製)を用いて測定した。具体的には、接着剤層を採取し、示差走査熱量計にセットして、−100℃まで冷却し、安定したところで、20℃/分で180℃まで昇温し、得られたDSC曲線から、Tgを求めた。
【0045】
【表2】

【0046】
Tgの低いポリエステルを用いた比較例は、100℃で既にボールタック値が高く、インサート成形等の加熱接合を行ったときに金型付着などのトラブルを起こす可能性が大であることが確認できた。また、銀めっきガラスビーズを用いた例は、いずれの樹脂を用いた場合においても、他の導電性フィラーに比べて破断強度が低いが、他の導電性フィラーに比べてガラスビーズは熱伝導率が低く、圧着時に接着剤層が充分軟化できず、接着面積が確保できなかったためではないかと考えられる。
【0047】
実験No.3
比較例2〜4,6〜8と、実施例10〜12について、金型付着の有無を想定した鋼板付着性試験を行った。結果を表3に示した。
【0048】
〔鋼板付着性〕
破断強度試験と同サイズの試験片を切り出し、100℃に加熱したホットプレス上に、意匠性樹脂塗膜がホットプレスに接するように載置して5分放置した。同じく20mm×100mmの短冊状に切断した亜鉛めっき鋼板(厚さ1mm)を、重ね合わせ部分が20mm×20mmとなるように、加熱された樹脂塗装鋼板上に置き、加圧力1MPaで30秒間プレスした後、常温まで放冷した。その後、上に重ねた鋼板と、樹脂塗装鋼板の接着剤層とが付着しているか否かを調べた。
【0049】
【表3】

【0050】
表3から明らかなように、金型付着が想定された比較例は、いずれも鋼板に付着してしまったが、実施例の接着剤層は、100℃ではタックが発現しないため、鋼板には付着しなかった。
【0051】
実験No.4
接着剤層の構成を表4に示したように変更した。この実験では、接着剤層が凝集破壊して、その上に載置したフィルムと共に鋼板から剥離してしまうかどうかを下記方法で検討した。結果を表4に示した。
【0052】
〔フィルム付着性〕
破断強度試験と同サイズの試験片を切り出し、120℃に加熱したホットプレス上に、意匠性樹脂塗膜がホットプレスに接するように載置して5分放置した。次に30mm×150mmのポリエステルフィルム(厚さ25μm;ユニチカ社製;エンブレット(登録商標)標準タイプ)を接着剤層の上に載せ、120℃に加熱したホットプレス上型で加圧力1MPaで30秒間プレスした。その後、直ぐに、上に重ねたポリエステルフィルムをピンセットで挟んで持ち上げ、フィルムと接着剤層と鋼板との接着状態を確認した。
【0053】
【表4】

【0054】
比較例は、ポリエステルフィルムが接着剤層の凝集破壊によって鋼板から剥離してしまったが、実施例ではいずれも美麗な接合状態であった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の樹脂塗装金属板は、適温での接着性に優れているので、金型付着等のトラブルを起こすことなく、インサート成形や熱プレスが可能である。また、抵抗加熱溶接が可能なレベルの導電性を示す。従って、家電製品や情報機器等の外装カバー等に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の表面に意匠性樹脂塗膜が積層され、裏面に接着剤層が積層された樹脂塗装金属板であって、
上記樹脂塗装金属板は、上記接着剤層により、プラスチック部材および/または金属部材と接合可能であり、
上記接着剤層は、ガラス転移温度が30℃以上の樹脂と導電性フィラーとを含有し、100℃で測定したときの傾斜角30°のボールタックが0であり、120℃で測定したときにはボールタックが5以上であることを特徴とする樹脂塗装金属板。
【請求項2】
上記接着剤層が含有する樹脂は、ポリウレタン系樹脂、変性ポリオレフィン系樹脂およびポリエステル系樹脂のいずれかである請求項1に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項3】
上記導電性フィラーが、ニッケル、リン化鉄および磁性粉よりなる群から選択される1種以上である請求項1または2に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項4】
上記導電性フィラーが、接着剤層中、10〜40質量%含まれている請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。

【図1】
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【公開番号】特開2011−201119(P2011−201119A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70201(P2010−70201)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】