樹脂成形品の補修方法
【課題】インストルメントパネル1の表面の凹凸模様の傷を容易に補修できるようにする。
【解決手段】表面2に凹凸模様が形成された樹脂製インストルメントパネル1の表面2の傷を補修する方法であって、傷およびその周縁の凸部4の表面4aを研磨してなだらかな補修凹部6を形成する工程と、補修凹部6に接着剤7を充填し硬化させる工程と、硬化した接着剤7を無傷の部位における凹凸模様の凸部4の表面4aと面一に研磨する工程と、面一に研磨された部分に、凹凸模様の凸部4に対応する部分に開口11を設けた転写プレート10を載置する工程と、転写プレート10の上方から開口11を介して面一に研磨された部分にインストルメントパネル1と同色の塗料9を塗布する工程と、転写プレート10をインストルメントパネル1から取り外し、塗料9によって形成された新たな凸部の表面をその周囲の凹凸模様と馴染むように研磨する工程と、を備える。
【解決手段】表面2に凹凸模様が形成された樹脂製インストルメントパネル1の表面2の傷を補修する方法であって、傷およびその周縁の凸部4の表面4aを研磨してなだらかな補修凹部6を形成する工程と、補修凹部6に接着剤7を充填し硬化させる工程と、硬化した接着剤7を無傷の部位における凹凸模様の凸部4の表面4aと面一に研磨する工程と、面一に研磨された部分に、凹凸模様の凸部4に対応する部分に開口11を設けた転写プレート10を載置する工程と、転写プレート10の上方から開口11を介して面一に研磨された部分にインストルメントパネル1と同色の塗料9を塗布する工程と、転写プレート10をインストルメントパネル1から取り外し、塗料9によって形成された新たな凸部の表面をその周囲の凹凸模様と馴染むように研磨する工程と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂成形品の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インストルメントパネル等の樹脂成形品の表面には美感を向上させるために、表面の一部または全面に細かな凹凸状の模様である所謂「シボ」の加工が施されたものがある。この樹脂成形品のシボは、金型のキャビティを形成する面の一部または全面に細かな凹凸状のシボを形成しておき、この金型を用いて射出成形することにより、金型の凹凸状のシボ模様が樹脂成形品の表面に転写されて形成される。
このように形成されたインストルメントパネルなどの樹脂成形品に対し、部品組み付けラインにおいて速度計などの計器類、エアダクト、ハーネス類の組み付けが行われる。そして、計器類などが組み付けられたインストルメントパネルは、車体組立ラインにおいて車体に組み付けられ、完成車として出荷されユーザーの手に渡る。
【0003】
ところで、成形後のこのような過程において、組み付け時にインストルメントパネルのシボ加工面に組み付け部品との接触、打痕による傷が発生することがある。また、ユーザーの手に渡った後、荷物の積み下ろし等でインストルメントパネルのシボ面に傷が発生することがある。
【0004】
このような場合の補修方法として、例えば特許文献1に開示された方法がある。この補修方法では、微細凹凸部の不良箇所を削ってなだらかな曲線状の穴に整形し、輪郭の面取りを行い、なだらかになった面をペーパーにより更に研磨して平滑にする。次いで補修コンパウンドを前記穴部に充填する。さらに、その上から表面に前記微細凹凸と同じ微細凹凸模様が形成されたスタンプを押圧し、押圧した状態で補修コンパウンドを加熱硬化させ、スタンプの微細凹凸模様を補修コンパウンドの表面に転写する。硬化が完了すると、スタンプを外し、溶剤を染み込ませたウエスあるいはガラスパウダーなどにより補修面を優しく擦ることにより補修面の段差をなだらかにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−1125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この補修方法では、補修コンパウンドが硬化する間、作業者が補修面に対して垂直に一定圧でスタンプを押し続ける必要があり、押圧力が不足するとスタンプがずれてしまい、正確に微細凹凸模様を成形することができなくなる。また、錘を使用して押圧力を一定に保ったとしても、スタンプが振動などによりにずれると、正確に微細凹凸模様を成形することができなくなる。このようになると、再補修を行わなければならなくなったり、あるいは、廃品になるという不具合がある。
また、補修コンパウンドを加熱硬化させるために熱源が必要となるという課題がある。
【0007】
そこで、この発明は、樹脂成形品表面の凹凸模様の傷を容易に補修することができる樹脂成形品の補修方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る樹脂成形品の補修方法では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、表面(例えば、後述する実施例における表面2)に凹凸模様が形成された樹脂成形品(例えば、後述する実施例におけるインストルメントパネル1)の前記表面の傷(例えば、後述する実施例における傷5)を補修する方法であって、
(イ)傷およびその周縁の凸部(例えば、後述する実施例における凸部4)の表面(例えば、後述する実施例における表面4a)を研磨してなだらかな補修凹部(例えば、後述する実施例における補修凹部6)を形成する工程と、
(ロ)前記補修凹部に接着剤(例えば、後述する実施例における接着剤7)を充填し、該接着剤の表面(例えば、後述する実施例における表面7a)を無傷の部位における前記凹凸模様の凸部の表面とほぼ同じ高さとし、該接着剤を硬化させる工程と、
(ハ)前記硬化した接着剤およびその周縁を無傷の部位における前記凹凸模様の凸部の表面とほぼ面一に研磨する工程と、
(ニ)ほぼ面一に研磨された部分に、前記凹凸模様の凸部に対応する部分に開口(例えば、後述する実施例における開口11)を設けたことにより前記凹凸模様と同様の模様が形成された転写プレート(例えば、後述する実施例における転写プレート10)を載置する工程と、
(ホ)前記転写プレートの上方から前記開口を介して前記ほぼ面一に研磨された部分に前記樹脂成形品と同色の塗料(例えば、後述する実施例における塗料9)を塗布する工程と、
(ヘ)前記転写プレートを樹脂成形品から取り外し、前記塗料によって形成された新たな凸部(例えば、後述する実施例における凸部4’)の表面(例えば、後述する実施例における表面4a’)をその周囲の凹凸模様と馴染むように研磨する工程と、
を備えることを特徴とする樹脂成形品の補修方法である。
このように構成することにより、転写プレートの上方から塗布された塗料によって新たな凸部を形成することができ、塗料が塗布されない部位によって新たな凹部を形成することができるので、傷のあった部位の上に新たな凹凸模様を形成することができる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、樹脂成形品表面の凹凸模様の傷を容易に且つ確実に補修することができる。その結果、再補修や廃品となる不具合がなくなる。また、新たに形成された凹凸模様を無傷の部位の凹凸模様に馴染ませるので、補修された部位を目立たなくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】凹凸模様の表面が無傷の樹脂成形品の断面図である。
【図2】凹凸模様の表面に傷を有する前記樹脂成形品の断面図である。
【図3】本発明に係る樹脂成形品の補修方法の手順(その1)を示す図である。
【図4】前記補修方法の手順(その2)を示す図である。
【図5】前記補修方法の手順(その3)を示す図である。
【図6】前記補修方法の手順(その4)を示す図である。
【図7】前記補修方法の手順(その5)を示す図である。
【図8】前記補修方法の手順(その6)を示す図である。
【図9】前記補修方法の手順(その7)を示す図である。
【図10】前記補修方法において使用される転写プレートの平面図である。
【図11】前記転写プレートの製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明に係る樹脂成形品の補修方法の実施例を図1から図11の図面を参照して説明する。なお、この実施例では、樹脂成形品としての車両のインストルメントパネルの表面に生じた傷を補修する場合の態様で説明する。
【0012】
図1は、樹脂成形品としてのインストルメントパネル1の断面図であり、その表面2にシボ加工が施され、凹部3と凸部4からなる模様が形成されている。図1は表面2が無傷の状態のインストルメントパネル1を示している。
図2は、このインストルメントパネル1の表面2に例えば直径3mmの円形の傷5が生じ、一部の凸部4が欠損した状態を示す。
【0013】
このような傷5を有するインストルメントパネル1の補修方法を図3から図11の図面を参照して説明する。
まず、傷5およびその周縁の凸部4の表面をサンドペーパーにより研磨し、図3に示すようになだらかな曲面からなる補修凹部6を形成する(研磨工程)。
【0014】
次に、図4に示すように、補修凹部6にα−シアノアクリレート樹脂を主成分とする接着剤7を充填して、接着剤7の表面7aがその周囲の無傷の部位の凸部4の表面4aとほぼ同じ高さ、あるいは凸部4の表面4aよりも若干膨出する程度となるようにし、次いで、図5に示すように、その上に希釈溶剤パーフロロカーボンを主成分とする硬化促進剤8をスプレーにて塗布する。この硬化促進剤8の塗布により、数秒で接着剤7が硬化する(接着剤充填・硬化工程)。
接着剤7としては、例えばヘンケルコーポレーション社製の商品名「ULTRA TAKPAK(登録商標)382」を例示することができ、硬化促進剤8としては、例えばヘンケルコーポレーション社製の商品名「TAKPAK(登録商標)7109」を例示することができる。ただし、ここに例示したものに限られるものではない。
【0015】
接着剤7が硬化した後、接着剤の表面7aおよびその周縁をサンドペーパーにより研磨し平滑にして、図6に示すように無傷の部位の凸部4の表面4aとほぼ面一する(硬化後研磨工程)。
次に、図7に示すように、転写プレート10を、研磨された接着剤7の表面7aおよび無傷の部位の凸部4の上に載置する(転写プレート載置工程)。転写プレート10は厚さ0.1mm程度の銅板からなり、図10に示すように、インストルメントパネル1の表面2に成形された凹凸模様の凸部4と同じ形状の開口11が設けられている。
【0016】
次に、転写プレート10の上から開口11を介して、前記研磨により平滑にした部分およびその周囲の無傷の部分のインストルメントパネル1の表面2に、インストルメントパネル1と同色の塗料9をスプレーガン20により50μ〜100μ程度の膜厚となるように、接着剤7の表面7aの中心から半径15mm程度の範囲に塗布する。ここで、塗料9の塗布範囲の半径は補修凹部6の直径の倍以上とするのが好ましい。
なお、本発明の補修方法が適用できる傷の大きさは、巾が3mm以下、長さが40mm以下、深さが200μ以下である。
【0017】
次に、転写プレート10を取り去り、塗料9を乾燥することにより、図8に示すように、接着剤7の表面7aおよびその周囲の無傷の部位の凸部4の上に新たな凹部3’および凸部4’が形成される。
【0018】
次に、新たに形成された凸部4’の表面4a’を目の細かいサンドペーパーで研磨して、図9に示すように周囲の無傷の部位の凸部4との段差を低減して目立たないようにし、さらにその後、研磨した箇所にぼかし剤を塗布して周囲の無傷の部位の凹凸模様との調和を図り、馴染ませる。なお、ぼかし液としては、例えば硬化剤2%、前記塗料8%、シンナー10%〜45%、リターダ45〜80%の配合比のものを用いる。リターダを塗料に混入させることにより塗膜の乾燥を遅延させる。
これにより、インストルメントパネル1の表面2の傷5の補修は完了する。
【0019】
以上の工程を含んだ実施例の樹脂成形品の補修方法によれば、樹脂成形品であるインストルメントパネル1の表面2の凹凸模様の傷を容易に且つ確実に補修することができる。その結果、再補修や廃品となる不具合がない。また、新たに形成された凹部3’と凸部4’による凹凸模様を無傷の部位の凹凸模様に馴染ませるので、補修された部位を目立たなくすることができる。
【0020】
次に、転写プレート10の製造方法を図11に従って説明する。
転写プレート10は薄膜フォトエッチングの手法により製作される。まず、図11(a)に示すように、転写プレートの素材となる0.1mm程度の厚みの約10cm四方の方形の銅板12の表面12aを酸で溶かして平滑にし、表面の面粗皮を上げる。
次に、図11(b)に示すように銅板12の表面12aに感光性の樹脂を塗布して乾燥させ、フォトレジスト13を形成する。
次に、図11(c)に示すように、銅板12の裏面12bに耐酸化剤の溶液を塗布して乾燥させ、耐酸化剤皮膜14を形成する。
【0021】
次に、図11(d)に示すように、フォトレジスト13の上に原版であるフィルム(フォトマスク)15を貼り付ける。このフィルム15には、インストルメントパネル1の射出成形に用いられる金型の内面の凹凸模様を成形する際に用いられたCADデータを使用して、前記CADデータにより前記凹凸模様をフィルム15に正確に描画しておく。例えばインストルメントパネル1における凹凸模様の凸部4に対応する部分を光の透過面とし、凹部3に対応する部分を非透過面とするように描画する。
【0022】
次に、フィルム15の上方から紫外線光を照射し露光する。これにより、図11(e)に示すように、銅板12上に塗布されたフォトレジスト13のうち、フィルム15の透過面に対応した部分は溶け出し、非透過面に対応した部分のみが銅板12上に残留する。
次に、図11(f)に示すように、フィルム15を剥がし、銅板12を酸性溶液に浸漬することにより、フォトレジスト13が溶け出した部分に対応する銅板12の部分が腐食されて開口11が形成される。
次に、銅板12をアルカリ溶液に浸漬して中和し、残留するフォトレジスト13と耐酸化剤皮膜14を除去することにより、図11(g)に示すように転写プレート10が完成する。
【0023】
〔他の実施例〕
なお、この発明は前述した実施例に限られるものではない。
例えば、前述した実施例では、インストルメントパネルの表面の傷を補修する態様で説明したが、この発明が適用可能な樹脂成形品はインストルメントパネルに限るものではなく、コンソールボックスなど種々のものが適用対象である。
【符号の説明】
【0024】
1 インストルメントパネル(樹脂成形品)
2 表面
3 凹部
4 凸部
4a 凸部の表面
4’ 新たな凸部
4a’ 新たな凸部の表面
5 傷
6 補修凹部
7 接着剤
7a 接着剤の表面
9 塗料
10 転写プレート
11 開口
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂成形品の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インストルメントパネル等の樹脂成形品の表面には美感を向上させるために、表面の一部または全面に細かな凹凸状の模様である所謂「シボ」の加工が施されたものがある。この樹脂成形品のシボは、金型のキャビティを形成する面の一部または全面に細かな凹凸状のシボを形成しておき、この金型を用いて射出成形することにより、金型の凹凸状のシボ模様が樹脂成形品の表面に転写されて形成される。
このように形成されたインストルメントパネルなどの樹脂成形品に対し、部品組み付けラインにおいて速度計などの計器類、エアダクト、ハーネス類の組み付けが行われる。そして、計器類などが組み付けられたインストルメントパネルは、車体組立ラインにおいて車体に組み付けられ、完成車として出荷されユーザーの手に渡る。
【0003】
ところで、成形後のこのような過程において、組み付け時にインストルメントパネルのシボ加工面に組み付け部品との接触、打痕による傷が発生することがある。また、ユーザーの手に渡った後、荷物の積み下ろし等でインストルメントパネルのシボ面に傷が発生することがある。
【0004】
このような場合の補修方法として、例えば特許文献1に開示された方法がある。この補修方法では、微細凹凸部の不良箇所を削ってなだらかな曲線状の穴に整形し、輪郭の面取りを行い、なだらかになった面をペーパーにより更に研磨して平滑にする。次いで補修コンパウンドを前記穴部に充填する。さらに、その上から表面に前記微細凹凸と同じ微細凹凸模様が形成されたスタンプを押圧し、押圧した状態で補修コンパウンドを加熱硬化させ、スタンプの微細凹凸模様を補修コンパウンドの表面に転写する。硬化が完了すると、スタンプを外し、溶剤を染み込ませたウエスあるいはガラスパウダーなどにより補修面を優しく擦ることにより補修面の段差をなだらかにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−1125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この補修方法では、補修コンパウンドが硬化する間、作業者が補修面に対して垂直に一定圧でスタンプを押し続ける必要があり、押圧力が不足するとスタンプがずれてしまい、正確に微細凹凸模様を成形することができなくなる。また、錘を使用して押圧力を一定に保ったとしても、スタンプが振動などによりにずれると、正確に微細凹凸模様を成形することができなくなる。このようになると、再補修を行わなければならなくなったり、あるいは、廃品になるという不具合がある。
また、補修コンパウンドを加熱硬化させるために熱源が必要となるという課題がある。
【0007】
そこで、この発明は、樹脂成形品表面の凹凸模様の傷を容易に補修することができる樹脂成形品の補修方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る樹脂成形品の補修方法では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、表面(例えば、後述する実施例における表面2)に凹凸模様が形成された樹脂成形品(例えば、後述する実施例におけるインストルメントパネル1)の前記表面の傷(例えば、後述する実施例における傷5)を補修する方法であって、
(イ)傷およびその周縁の凸部(例えば、後述する実施例における凸部4)の表面(例えば、後述する実施例における表面4a)を研磨してなだらかな補修凹部(例えば、後述する実施例における補修凹部6)を形成する工程と、
(ロ)前記補修凹部に接着剤(例えば、後述する実施例における接着剤7)を充填し、該接着剤の表面(例えば、後述する実施例における表面7a)を無傷の部位における前記凹凸模様の凸部の表面とほぼ同じ高さとし、該接着剤を硬化させる工程と、
(ハ)前記硬化した接着剤およびその周縁を無傷の部位における前記凹凸模様の凸部の表面とほぼ面一に研磨する工程と、
(ニ)ほぼ面一に研磨された部分に、前記凹凸模様の凸部に対応する部分に開口(例えば、後述する実施例における開口11)を設けたことにより前記凹凸模様と同様の模様が形成された転写プレート(例えば、後述する実施例における転写プレート10)を載置する工程と、
(ホ)前記転写プレートの上方から前記開口を介して前記ほぼ面一に研磨された部分に前記樹脂成形品と同色の塗料(例えば、後述する実施例における塗料9)を塗布する工程と、
(ヘ)前記転写プレートを樹脂成形品から取り外し、前記塗料によって形成された新たな凸部(例えば、後述する実施例における凸部4’)の表面(例えば、後述する実施例における表面4a’)をその周囲の凹凸模様と馴染むように研磨する工程と、
を備えることを特徴とする樹脂成形品の補修方法である。
このように構成することにより、転写プレートの上方から塗布された塗料によって新たな凸部を形成することができ、塗料が塗布されない部位によって新たな凹部を形成することができるので、傷のあった部位の上に新たな凹凸模様を形成することができる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、樹脂成形品表面の凹凸模様の傷を容易に且つ確実に補修することができる。その結果、再補修や廃品となる不具合がなくなる。また、新たに形成された凹凸模様を無傷の部位の凹凸模様に馴染ませるので、補修された部位を目立たなくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】凹凸模様の表面が無傷の樹脂成形品の断面図である。
【図2】凹凸模様の表面に傷を有する前記樹脂成形品の断面図である。
【図3】本発明に係る樹脂成形品の補修方法の手順(その1)を示す図である。
【図4】前記補修方法の手順(その2)を示す図である。
【図5】前記補修方法の手順(その3)を示す図である。
【図6】前記補修方法の手順(その4)を示す図である。
【図7】前記補修方法の手順(その5)を示す図である。
【図8】前記補修方法の手順(その6)を示す図である。
【図9】前記補修方法の手順(その7)を示す図である。
【図10】前記補修方法において使用される転写プレートの平面図である。
【図11】前記転写プレートの製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明に係る樹脂成形品の補修方法の実施例を図1から図11の図面を参照して説明する。なお、この実施例では、樹脂成形品としての車両のインストルメントパネルの表面に生じた傷を補修する場合の態様で説明する。
【0012】
図1は、樹脂成形品としてのインストルメントパネル1の断面図であり、その表面2にシボ加工が施され、凹部3と凸部4からなる模様が形成されている。図1は表面2が無傷の状態のインストルメントパネル1を示している。
図2は、このインストルメントパネル1の表面2に例えば直径3mmの円形の傷5が生じ、一部の凸部4が欠損した状態を示す。
【0013】
このような傷5を有するインストルメントパネル1の補修方法を図3から図11の図面を参照して説明する。
まず、傷5およびその周縁の凸部4の表面をサンドペーパーにより研磨し、図3に示すようになだらかな曲面からなる補修凹部6を形成する(研磨工程)。
【0014】
次に、図4に示すように、補修凹部6にα−シアノアクリレート樹脂を主成分とする接着剤7を充填して、接着剤7の表面7aがその周囲の無傷の部位の凸部4の表面4aとほぼ同じ高さ、あるいは凸部4の表面4aよりも若干膨出する程度となるようにし、次いで、図5に示すように、その上に希釈溶剤パーフロロカーボンを主成分とする硬化促進剤8をスプレーにて塗布する。この硬化促進剤8の塗布により、数秒で接着剤7が硬化する(接着剤充填・硬化工程)。
接着剤7としては、例えばヘンケルコーポレーション社製の商品名「ULTRA TAKPAK(登録商標)382」を例示することができ、硬化促進剤8としては、例えばヘンケルコーポレーション社製の商品名「TAKPAK(登録商標)7109」を例示することができる。ただし、ここに例示したものに限られるものではない。
【0015】
接着剤7が硬化した後、接着剤の表面7aおよびその周縁をサンドペーパーにより研磨し平滑にして、図6に示すように無傷の部位の凸部4の表面4aとほぼ面一する(硬化後研磨工程)。
次に、図7に示すように、転写プレート10を、研磨された接着剤7の表面7aおよび無傷の部位の凸部4の上に載置する(転写プレート載置工程)。転写プレート10は厚さ0.1mm程度の銅板からなり、図10に示すように、インストルメントパネル1の表面2に成形された凹凸模様の凸部4と同じ形状の開口11が設けられている。
【0016】
次に、転写プレート10の上から開口11を介して、前記研磨により平滑にした部分およびその周囲の無傷の部分のインストルメントパネル1の表面2に、インストルメントパネル1と同色の塗料9をスプレーガン20により50μ〜100μ程度の膜厚となるように、接着剤7の表面7aの中心から半径15mm程度の範囲に塗布する。ここで、塗料9の塗布範囲の半径は補修凹部6の直径の倍以上とするのが好ましい。
なお、本発明の補修方法が適用できる傷の大きさは、巾が3mm以下、長さが40mm以下、深さが200μ以下である。
【0017】
次に、転写プレート10を取り去り、塗料9を乾燥することにより、図8に示すように、接着剤7の表面7aおよびその周囲の無傷の部位の凸部4の上に新たな凹部3’および凸部4’が形成される。
【0018】
次に、新たに形成された凸部4’の表面4a’を目の細かいサンドペーパーで研磨して、図9に示すように周囲の無傷の部位の凸部4との段差を低減して目立たないようにし、さらにその後、研磨した箇所にぼかし剤を塗布して周囲の無傷の部位の凹凸模様との調和を図り、馴染ませる。なお、ぼかし液としては、例えば硬化剤2%、前記塗料8%、シンナー10%〜45%、リターダ45〜80%の配合比のものを用いる。リターダを塗料に混入させることにより塗膜の乾燥を遅延させる。
これにより、インストルメントパネル1の表面2の傷5の補修は完了する。
【0019】
以上の工程を含んだ実施例の樹脂成形品の補修方法によれば、樹脂成形品であるインストルメントパネル1の表面2の凹凸模様の傷を容易に且つ確実に補修することができる。その結果、再補修や廃品となる不具合がない。また、新たに形成された凹部3’と凸部4’による凹凸模様を無傷の部位の凹凸模様に馴染ませるので、補修された部位を目立たなくすることができる。
【0020】
次に、転写プレート10の製造方法を図11に従って説明する。
転写プレート10は薄膜フォトエッチングの手法により製作される。まず、図11(a)に示すように、転写プレートの素材となる0.1mm程度の厚みの約10cm四方の方形の銅板12の表面12aを酸で溶かして平滑にし、表面の面粗皮を上げる。
次に、図11(b)に示すように銅板12の表面12aに感光性の樹脂を塗布して乾燥させ、フォトレジスト13を形成する。
次に、図11(c)に示すように、銅板12の裏面12bに耐酸化剤の溶液を塗布して乾燥させ、耐酸化剤皮膜14を形成する。
【0021】
次に、図11(d)に示すように、フォトレジスト13の上に原版であるフィルム(フォトマスク)15を貼り付ける。このフィルム15には、インストルメントパネル1の射出成形に用いられる金型の内面の凹凸模様を成形する際に用いられたCADデータを使用して、前記CADデータにより前記凹凸模様をフィルム15に正確に描画しておく。例えばインストルメントパネル1における凹凸模様の凸部4に対応する部分を光の透過面とし、凹部3に対応する部分を非透過面とするように描画する。
【0022】
次に、フィルム15の上方から紫外線光を照射し露光する。これにより、図11(e)に示すように、銅板12上に塗布されたフォトレジスト13のうち、フィルム15の透過面に対応した部分は溶け出し、非透過面に対応した部分のみが銅板12上に残留する。
次に、図11(f)に示すように、フィルム15を剥がし、銅板12を酸性溶液に浸漬することにより、フォトレジスト13が溶け出した部分に対応する銅板12の部分が腐食されて開口11が形成される。
次に、銅板12をアルカリ溶液に浸漬して中和し、残留するフォトレジスト13と耐酸化剤皮膜14を除去することにより、図11(g)に示すように転写プレート10が完成する。
【0023】
〔他の実施例〕
なお、この発明は前述した実施例に限られるものではない。
例えば、前述した実施例では、インストルメントパネルの表面の傷を補修する態様で説明したが、この発明が適用可能な樹脂成形品はインストルメントパネルに限るものではなく、コンソールボックスなど種々のものが適用対象である。
【符号の説明】
【0024】
1 インストルメントパネル(樹脂成形品)
2 表面
3 凹部
4 凸部
4a 凸部の表面
4’ 新たな凸部
4a’ 新たな凸部の表面
5 傷
6 補修凹部
7 接着剤
7a 接着剤の表面
9 塗料
10 転写プレート
11 開口
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸模様が形成された樹脂成形品の前記表面の傷を補修する方法であって、
傷およびその周縁の凸部の表面を研磨してなだらかな補修凹部を形成する工程と、
前記補修凹部に接着剤を充填し、該接着剤の表面を無傷の部位における前記凹凸模様の凸部の表面とほぼ同じ高さとし、該接着剤を硬化させる工程と、
前記硬化した接着剤およびその周縁を無傷の部位における前記凹凸模様の凸部の表面とほぼ面一に研磨する工程と、
ほぼ面一に研磨された部分に、前記凹凸模様の凸部に対応する部分に開口を設けたことにより前記凹凸模様と同様の模様が形成された転写プレートを載置する工程と、
前記転写プレートの上方から前記開口を介して前記ほぼ面一に研磨された部分に前記樹脂成形品と同色の塗料を塗布する工程と、
前記転写プレートを樹脂成形品から取り外し、前記塗料によって形成された新たな凸部の表面をその周囲の凹凸模様と馴染むように研磨する工程と、
を備えることを特徴とする樹脂成形品の補修方法。
【請求項1】
表面に凹凸模様が形成された樹脂成形品の前記表面の傷を補修する方法であって、
傷およびその周縁の凸部の表面を研磨してなだらかな補修凹部を形成する工程と、
前記補修凹部に接着剤を充填し、該接着剤の表面を無傷の部位における前記凹凸模様の凸部の表面とほぼ同じ高さとし、該接着剤を硬化させる工程と、
前記硬化した接着剤およびその周縁を無傷の部位における前記凹凸模様の凸部の表面とほぼ面一に研磨する工程と、
ほぼ面一に研磨された部分に、前記凹凸模様の凸部に対応する部分に開口を設けたことにより前記凹凸模様と同様の模様が形成された転写プレートを載置する工程と、
前記転写プレートの上方から前記開口を介して前記ほぼ面一に研磨された部分に前記樹脂成形品と同色の塗料を塗布する工程と、
前記転写プレートを樹脂成形品から取り外し、前記塗料によって形成された新たな凸部の表面をその周囲の凹凸模様と馴染むように研磨する工程と、
を備えることを特徴とする樹脂成形品の補修方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−155434(P2010−155434A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291(P2009−291)
【出願日】平成21年1月5日(2009.1.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月5日(2009.1.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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