説明

樹脂成形品の製造方法および装置

【課題】シンプルな方法と装置を用いて、低コストで、容易・迅速に製造可能で、小ロット品の製造にも適し、かつ図柄・デザインの位置ずれも殆ど生じない、樹脂成形品の製造方法および装置を提供する。
【解決手段】樹脂成形品1の原材料となる樹脂に乾燥を助ける溶剤を添加した液状樹脂2を、液供給ロール3を介して、外周面に微細で浅い凹所5を多数個形成した凹版形ロール4の外周面に転写し、余分な樹脂溶液を除去した状態で、少なくとも外周部が柔軟性と樹脂剥離性をもつブランケットロール7の外周面へ転写して、そこで半ば乾燥した状態の樹脂膜9とし、その樹脂膜9を、樹脂成形品の内表面または外表面に対応した外面形状11をもつ型材10の外面に転写させ、その後に、乾燥した該樹脂膜9を型材10から剥離することで樹脂成形品1とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電気器具や家具類、その他広範囲で用いられている薄肉の樹脂成形品(シート状・フィルム状のものから薄板状のものも含む)を、低コストで容易・迅速に製造できる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記のような樹脂成形品を製造する手段として、従来はインサート法とインモールド法が多く行われている。前者は一般に、金型内に予めインサート品(金属、樹脂成形品等の立体的なものもあるが、色柄・デザインを施した樹脂フィルムや布等の薄い平面的なものもある)を装填させておき、溶融樹脂を射出・注入することにより樹脂成形品を成形すると同時に、インサート品と一体化させて複合部品を得る方法をいう。このインサート法を用いた技術の特許文献として、例えば次のようなものがある。
【特許文献1】特開平6−163297号公報
【特許文献2】特開2001−179768公報
【特許文献3】特開2006−311324公報
【特許文献4】特開2007−190835公報
【0003】
後者は一般に、金型内に予め図柄・デザインを施したフィルムを挟みこんでおき、溶融樹脂を射出・注入した際に樹脂成形品の成形と同時に、フィルムの図柄・デザインをその成形品に転写させる方法をいう。このインモールド法を用いた技術の特許文献として、例えば次のようなものがある。
【特許文献5】特開平10−216299号公報
【特許文献6】特開平11−95696号公報
【特許文献7】特開2006−182411号公報
【特許文献8】特開2007−12354公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のインサート法やインモールド法は、金型内で樹脂成形品の成形と同時に図柄・デザインを施すことができるという利点があり、近時その利用が増大しつつある。しかしながら、それらには、次のような問題点がある。
【0005】
a.上記いずれの場合も、金型内へ装填するために、予め図柄・デザインを一旦フィルム面に施しておく工程が必要であるし、またそのフィルムは成形品毎に金型へ装填する必要である。これは多層・多色の図柄・デザインの場合はフィルムの枚数が一層多く必要となる場合が多い。
【0006】
そのため、製造工程数が多く複雑になっているし、製造速度をあまり高速化できない。また上記のようなフィルムを用いるので、同じ樹脂成形品を多数個製造しないとコスト高となり、小ロット品の製造には適さない製造法であった。その反面、昨今のようにフィルムの原材料である石油価格の高騰が、樹脂成形品の製造コスト高にもつながっている。
【0007】
b.他方、インサート法やインモールド法は、金型中に図柄・デザインを施したフィルムを装填して溶融樹脂を射出・注入するが、そのために図柄・デザインが樹脂成形品上て位置ずれを生じることがあり、製造の歩留り上で問題が生じていた。
【0008】
c.上記の如く製造工程数が多いとともに、製造設備も金型や溶融樹脂の射出・注入装置、またフィルムの装填装置等が必要で、大型で複雑なものとなっており、図柄・デザインの多層・多色の場合には一層大型化・複雑化し、設備費も高くなっている。
【0009】
本発明は、上記従来のインサート法やインモールド法の問題点を解決することを課題としたものである。即ち、本発明の目的は、シンプルな方法と装置を用いて、低コストで、容易・迅速に製造可能で、小ロット品の製造にも適し、かつ図柄・デザインの位置ずれも殆ど生じない、樹脂成形品の製造方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
イ)本発明に係る樹脂成形品の製造方法の第1は、
樹脂成形品1の原材料となる樹脂に乾燥を助ける溶剤を添加した液状樹脂2を、
液供給ロール3を介して、外周面に微細で浅い凹所5を多数個形成した凹版形ロール4の外周面に転写し、
余分な樹脂溶液を除去した状態で、少なくとも外周部が柔軟性と樹脂剥離性をもつブランケットロール7の外周面へ転写して、そこで半ば乾燥した状態の樹脂膜9とし、
その樹脂膜9を、樹脂成形品の内表面または外表面に対応した外面形状11をもつ型材10の外面に転写させ、
その後に、乾燥した該樹脂膜9を型材10から剥離することで樹脂成形品1とするものである。
【0011】
ロ)本発明に係る樹脂成形品の製造装置の第1は、上記製造方法の第1を実施するためのものであり、
樹脂成形品1の原材料となる樹脂に乾燥を助ける溶剤を添加した液状樹脂2を入れたトレー1と、
該トレー1内に下部を浸漬した液供給ロール3と、
外周面に微細な凹所5を多数個形成してあり、該液供給ロール3に当接する如く回転する凹版形ロール4と、
該凹版形ロール4の外周面に当接して余分な樹脂溶液を除去するスクレーパー6と、
少なくとも外周部が柔軟性と樹脂溶液剥離性が良く、上記凹版形ロール4に当接する如く回転するブランケットロール7と、
該ブランケットロール7で半ば乾燥した樹脂膜9を転写される、樹脂成形品の内表面または外表面に対応した外面形状11をもつ型材10とからなるユニットAと、
その後に、乾燥した該樹脂膜9である層12を、型材10から剥離して樹脂成形品1にする剥離手段とを備えてなるものである。
【0012】
ハ)本発明に係る樹脂成形品の製造方法の第2は、
樹脂成形品1の原材料となる樹脂に乾燥を助ける溶剤を添加した液状樹脂2aを、
液供給ロール3を介して、外周面に微細で浅い凹所5を多数個形成した凹版形ロール4の外周面に転写し、
余分な樹脂溶液を除去した状態で、少なくとも外周部が柔軟性と樹脂剥離性をもつブランケットロール7の外周面へ転写して、そこで半ば乾燥した状態の樹脂膜9aとし、
その樹脂膜9aを、樹脂成形品の内表面または外表面と対応した外面形状11をもつ型材10の外面に転写させて第1層12aを形成し、
次いでその状態の第1層12a上に、上記と同様の手段で樹脂膜9bまたはインク膜を転写し重合・一体化させて第2層12bを形成し、
必要に応じてさらに上記作業を繰り返すことで多層化し、
その後に、該重合した第1層12aと第2層12b等を、型材10から剥離することで多層・多色の樹脂成形品1とするものである。
【0013】
ニ)本発明に係る樹脂成形品の製造装置の第2は、上記製造方法の第1を実施するためのものであり、
樹脂成形品1の第1層の原材料となる樹脂に乾燥を助ける溶剤を添加した液状樹脂2aが入ったトレー1と、
該トレー1内に下部を浸漬した液供給ロール3と、
外周面に微細な凹所5を多数個形成してあり、該液供給ロール3に当接する如く回転する凹版形ロール4と、
該凹版形ロール4の外周面に当接して余分な樹脂溶液を除去するスクレーパー6と、
少なくとも外周部が柔軟性と樹脂溶液剥離性が良く、上記凹版形ロール4に当接する如く回転するブランケットロール7とからなるユニットA1 と
上記ブランケットロール7から半ば乾燥した樹脂膜9aを転写される、樹脂成形品の内表面または外表面と対応した外面形状11をもつ型材10と、
上記型材10を次のユニットA2 へ送る移送手段8と、
上記ユニットIと同様の構造で、トレー1内の液2bが、第2層の原材料となる液状樹脂またはインクに乾燥を助ける溶剤を添加したものとして、上記第1層12a上に第2層12bを転写・重合させる第2ユニットA2 を有するとともに、
順次に重合した多層・多色の第1層12aと第2層12b等を、型材10から剥離する剥離手段とを備えてなるものである。
【0014】
上記構成において、製造方法の第1は単層・単色用のものであり、製造方法の第2は多層・多色(二色以上のものをいう)または厚物用のものである。
【0015】
上記で、「樹脂成形品の内表面または外表面に対応した外面形状11をもつ型材10」とは、1)成形しようとする樹脂成形品1の内表面に対応した外面形状11をもつ金型、2)成形しようとする樹脂成形品1の外表面に対応した外面形状11をもつ金型、3)成形しようとする樹脂成形品1の内表面に対応した外面形状11をもつ既成の樹脂または他の材質の成形品、4)成形しようとする樹脂成形品1の外表面に対応した外面形状11をもつ既成の樹脂または他の材質の成形品等がこれに当たる。ここで既成の樹脂または他の材質の成形品とは、例えば本発明で製造した樹脂成形品1を装着する相手方の成形品等であってもよいし、最終試作品であってよい。
【発明の効果】
【0016】
a)本発明によれば、樹脂成形品をシンプルな方法と装置で、容易・迅速に製造することができる。
【0017】
即ち、従来のインサート法やインモールド法では、予めフィルムに図柄・デザインを施しておく工程や、そのフィルムを一成形品毎に金型内へ装填する工程が必要であった。またそのフィルムは、各成形品毎にフィルムを必要とした。そのため、製造工程数が多く、製造設備も複雑で、かつ製造速度をあまり高速化できなかった。
【0018】
これに対して本発明は上記の如く、液供給ロール3と、外周面に微細な凹所5を多数個形成してある凹版形ロール4と、スクレーパー6と、少なくとも外周部が柔軟性と樹脂溶液剥離性の良い材質としたブランケットロール7とからなる、単体または2台以上のユニットA,A1 ,A2 と、そこで半ば乾燥した状態の樹脂膜9a,9bを転写されて樹脂成形品1を形作る型材10等で構成されている。
【0019】
そのため、オフセット凹版印刷で確立した技術を応用できるのであり、予めフィルムを形成して、そこに図柄・デザインを施しておく必要がない。また、フィルムを一成形品毎に金型へ装填する手数もかからず、樹脂成形品の形成と同時に図柄・デザインも施された樹脂成形品ができ上がる。方法及び装置ともに小型でシンプルな構成にすることができるか、設備費用も大幅に低減できる。
【0020】
b)本発明によれば、大量製造は勿論のこと、小ロットの樹脂成形品を製造する場合にも対応することができる。
【0021】
即ち、従来のインサート法やインモールド法は、上記のように製造工程数が多く、また設備も複雑化し、かつ製造速度をあまり高速化できないので、多数を製造しないと製造コスト高となっていた。その反面、昨今のようにフィルムの原材料である石油価格の高騰してくると、それに起因して樹脂成形品の製造コストが高くついていた。
【0022】
これに対して本発明は、上記の如くオフセット凹版印刷で確立した技術を応用して、そこで形成した単一または複数の樹脂膜9,9a ,9b を、型材10に転写することによって、成形と同時に必要なら図柄・デザインを施した樹脂製造品1を製造している。そのため、方法及び装置ともに小型でシンプルな構成にでき、また樹脂膜の厚みや製造速度の調整も容易・迅速に行えるから、樹脂形成品の量産は勿論のこと、小ロット製造を行うことができる。
【0023】
c)本発明によれば、多色・多層化された樹脂製造品を、図柄・デザインの位置ずれをが生じることなく高精度に製造できる。
【0024】
即ち,従来のインサート法やインモールド法は、上記のように、予め図柄・デザインを施したフィルムを作成しておき、それを各製造品毎に金型内に装填して、溶融樹脂を射出・注入する工程を行っている。そのため、図柄・デザインが樹脂製造品上て位置ずれを生じることがあり、これは多色・多層のものほどその傾向にあって、製品の歩留りもあまり高くならない、という問題もあった。
【0025】
これに対して本発明は、上記の如くオフセット凹版印刷で確立した技術を応用して、そこで形成した樹脂膜91 ,92 を型枠10へ転写することで、目的である樹脂製造品1を図柄・デザインの形成と同時に一体形成するものである。そのため、図柄・デザインが位置ずれを生じることなく、多色・多層の樹脂成形品を高精度に製造できる。
【0026】
d)本発明によれば、単層・単色の樹脂製造品の製造から、多層・多色のものへの製造変更にも容易に対応することがてきる。
【0027】
即ち、従来のインサート法やインモールド法は、上記の如く予め図柄・デザインを施したフィルムを作成しておき、それを各製造品毎に金型内に装填して、溶融樹脂を射出・注入する工程を行っていた。そのため、製造工程数も多く設備も複雑であり、上記のような製造変更が容易でなかった。
【0028】
これに対して本発明では、上記の如くオフセット凹版印刷で確立した技術を応用して、そこで形成した単一または複数の樹脂膜9,9a ,9b を型材10に転写することで、目的とする樹脂成形品1を、図柄・デザインの形成と同時に製造している。そのため、オフセット印刷システムのユニットA,A1 ,A2 を追加または減少させることで、容易・迅速に単層・単色のものから多層・多色のものの製造へ、またはその逆への製造変更を行うことができ、需要に応じて臨機応変な対応ができる。
【0029】
e)本発明によれば、樹脂成形品の厚みの大きいものから小さいものまで、正確に所望の厚みのものを容易・迅速に製造できる。
【0030】
即ち、従来のインサート法やインモールド法では、樹脂成形品の厚みを変えるのにフィルムや金型の変更、その他の作業等が必要で手間を要した。しかし本発明では凹版形ロール4を、その凹所5の深さが異なるものに交換するだけでよく、またそれに伴って乾燥速度を変えることにより、容易・迅速に樹脂成形品1の厚み小さいもの(例えば厚さ1μ程度のもの)から大きいもの(例えば厚さ5mm程度のもの)まで製造できる。
【0031】
f)なお、本発明によれば、ユニットA,A1 ,A2 で各ロール4,6を横幅や外径寸法の異なるものと交換することで、大・小多品種の樹脂成形品の製造に対応可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
上記本発明における製造装置は、製造する樹脂成形品1が図柄・デザインを単層・単色とするものでは、上記の如く、トレー1と、液供給ロール3と、凹版形ロール4と、スクレーパー6と、ブランケットロール7等からなる1台のユニットAを用意すればよい(例えば図1参照)。
【0033】
また、多層や多色、あるいは厚めの樹脂成形品1の製造にも備えられるように、上記ユ
ニットAと同じ構成のユニットA1 ,A2 を別途用意しておき(例えば図2参照)、単
機でまた必要に応じて複数機を組み合わせ作動できるようにしておくことが望ましい。ユニットA,A1 ,A2 の数は、樹脂成形品1の層や色の数、厚みにより変えればよい。
【0034】
また上記各ロール3,4,7は、多品種の樹脂成形品の製造に対応できるように、幅や外径寸法の異なるものと交換可能にしておくのがよく、上記凹版形ロール4は、外周面の微細な凹所5も深度やパターンの異なるものと交換可能としておくことが望ましい。
【0035】
樹脂成形品1の原材料となる樹脂2,2aは、該樹脂成形品の用途等により選択して決まるが、各ロール3,4,7や型材10との間で剥離性・離型性のよいものが望ましく、例えばウレタン、アクリル、ビニル、ポリエステル系の樹脂やそれらと他との共重合体等を液状としたものを用いるのがよい。多色で多層のものとするには、例えばスクリーン印刷用インクやグラビアオフセット用インク等を用いればよい。
【0036】
それらに添加する溶剤としては、例えば芳香族炭化水素、またはハロゲン化炭化水素系のもので、例えばメチルエチンレンケトン、アセトン、トルエンまたはキシレン等を用いることが望ましい。ここで溶剤を添加するのは、液状樹脂やインク等が液供給ロール3を介して凹版形ロール4へ転写され、その後ブランケットロール7へ転写された状態時に、なかば乾燥するようにするためである。
【0037】
上記凹版形ロール4の外周面に形成した微細で浅い凹所5は、該ロール4の外周面のほぼ全面にわたり等間隔状に多数個を設けるものとし、その形状は例えば微細な小凹所でもよいし、また微細間隔でメッシュ状や細凹溝等でもよい。また、通常はその幅・深さとともにミクロン単位で形成し、その形成手段は例えばレーザー加工やエッチッグによればよい。
【0038】
この凹版形ロール4外周面の微細で浅い凹所5を形成してあるのは、上記凹版形ロール4の外周面をスクレーパー6で掻く際に、一部でいわゆる「底掻き」が生じて樹脂膜の一部に欠損部分が発生したり、逆に部分的に僅かに厚くなって「モアレ」等が発生するのを防止して、全体的に均一な膜厚を形成するためである。
【0039】
なお、上記ブランケットロール7は、凹版形ロール4との当接で液を均等に転写され、また次への剥離がスムーズに行われるように、少なくとも外周部を例えばシリコン樹脂のような柔軟性と樹脂剥離性の良い材質で形成してある。また上記型材10は、平面状のものに限らず、凸状、凹状その他の形状のものでもよいことは勿論である(例えば図1,図2参照)。
【実施例1】
【0040】
まず図1は、本発明に係る樹脂成形品製造方法の実施に用いる装置の内で、単層・単色の樹脂成形品用の装置の実施例を示す。
【0041】
1はトレーを示し、その中には樹脂成形品の原材料となる樹脂の液2で、乾燥し易いように溶剤を添加したものが入っている。ここではウレタン樹脂を液状としたものを用いており、また乾燥を助ける溶剤としてここではハロゲン化炭化水素を添加している。なお、図示は省略するが、トレー1内へは下部のポンプにより一定量が補充されるようにしてある。
【0042】
3は液供給ロールを示し、下部がトレー1内の上記液状樹脂2中に浸漬されており、後記凹版形ロール4に当接しながら回転することで、上記液状樹脂2を凹版形ロール4へ転写するようにしてある。
【0043】
凹版形ロール4は、上記の如く液供給ロール3の外周面と当接しながら回転するが、ここではSKD(耐磨不変形用の合金工具鋼)製で、外径約100mm、横幅約150mmのものとし、その外周の全面にわたって、液状樹脂が入り込み得る微細な凹所5を多数個形成してある。その凹所5は、ここではレーザー加工により、内径約50μの微細丸穴を約50μの間隔で、深さ約10μで多数個形成してある。
【0044】
なお、該凹版形ロール4は、微細凹所5の大きさ、間隔、深さ等が異なる凹版形ロール4を何種類が用意しておき、製造する樹脂フィルムの原材料の種類、用途、膜厚の違い等に対応して交換可能としてある。
【0045】
6はスクレーパーを示し、上記凹版形ロール4の外周面の横幅に対応する横幅の板材であり、ここではセラミック製で、回転する上記凹版形ロール4の外周面に当接して、そこに付着した余分な液状樹脂を掻き落とすようにしてある。
【0046】
7はブランケットロールを示し、上記凹版形ロール4の外周面に当接しながら回転するが、アルミ合金製の芯材の外周部に、上記凹版形ロール4外周面に均等に当接する柔軟性と、次の受けロール8外周面へ樹脂膜9が転写され易いように剥離性を有しており、ここでは環状のシリコンゴムを套装してある。該ロール7の大きさは、ここでは外径約100mmで、シリコンゴム層の厚みは約20mm、横幅約150mmのものにしてある。
【0047】
10は、樹脂膜9を転写されて樹脂成形品1を形作る型材であり、ここでは成形しようとする樹脂成形品1の内表面に対応した外面形状11をもつ成形品を用いている。その材質は、ここでは樹脂剥離性・剥型性に優れたシリコン樹脂製としてある。なおこの型材10としては、金型を用いてもよく、また連続的に製造するために同じ形状のものを少なくとも数個は用意しておく。
【0048】
なお、図示は省略したが、各ローラー3,4,7,8,10の駆動は、モーターとタイミングベルトにより同期して回転するようにしてある。12は上記型材10を順次にブランケットロール7の下方へ移送する搬送チエンを示す。剥離手段としては、機械的に行うものでもよいし、手動で行ってもよい。
【0049】
上記製造装置を用いての製造方法の実施状態は、次のようになる。
モーター、タイミングベルトを介して各ロール3,4,7,8,10が回転すると、トレー1内の液状のビニル樹脂2が、下部を浸漬した液供給ロール3により、それと当接しながら回転する凹版形ロール4の外周面に転写される。
【0050】
次に該凹版形ロール4の外周面がスクレーパー6で掻かれると、図3で示すように、該凹版形ロール4の外周面に、薄膜厚の樹脂膜9が形成される。この際、該凹版形ロール4の外周面に微細で浅い凹所5が多数個形成してあり、液状樹脂2は各凹所5内にも入り込んでいるから、スクレーパー6で外周面が掻かれても、その端縁は各凹所5の周辺部に当接するだけであるから、いわゆる「底掻き」により外周面の一部の樹脂膜が欠損するようなことはない。
【0051】
また仮に、スクレーパー6の掻き取りにより樹脂膜9の一部に欠損部分が生じたとしても、その欠損部分は各凹所5内に入り込んでいる液状樹脂2がそれを補充・修復することになる。そのため、スクレーパー6による掻き取りを経た後の凹版形ロール4外周面の樹脂膜9は全体的に極めて均一な膜厚になり、不均一な膜厚の場合に生じる「モアレ」もここでは生じず、ここでは約5μ程度の膜厚の樹脂膜9が形成される。
【0052】
その凹版形ロール4外周面の樹脂膜9は、徐々に外周面から乾燥を始めながら(上記図3参照)、外周面の部分が薄い樹脂膜9として図4で示す如く、次のブランケットロール7の外周面へ転写される。この際、ブランケットロール7の外周部は、上記のように柔軟性を有するシリコン材で形成してあるので、その回転に伴って凹版形ロール4と密着し易く、樹脂膜9の転写は正確・確実に行われる。
【0053】
ブランケットロール7外周面に転写された樹脂膜9は、そこに付着して回転している間に、溶剤として添加したメチルエチレンケトンの作用により自然乾燥が促進される。そして該樹脂膜9は、ブランケットロール7に当接しながら下方を通過する型材10の外表面に当接する。
【0054】
これで、ブランケットロール7外周面の樹脂膜9は型材10の外面形状11に沿いながら転写されるが(上記図1参照)、ブランケットロール7の外周部は、上記のように柔軟性を有するとともに剥離性・離形性のよいシリコン材で形成してあるので、樹脂膜9の型材10外面への転写は正確・確実に行われる。
【0055】
その後、型材10の外面で乾燥した樹脂膜9を剥離・離形することにより、製造しようとした単層・単色の樹脂成形品1が形成されることになる(上記図1参照)。なお、同一形状の複数の型材10を用意しておき、移送手段8で順次にブランケットロール7の下方へ送り、上記と同じ工程を経ることで、同じ形状の樹脂成形品1が連続的に形成されていく。
【実施例2】
【0056】
次に、図2は2層・2色の樹脂成形品を製造する方法および装置の実施例を示が、上記実施例1で示したもの即ち単層・単色用のものとの相違点を中心に述べる。
【0057】
装置としては、上記単層用の装置であるトレー1からブランケットロール7までの構造と同じ構造のものを第1ユニットA1 とし、それに加えて同じ構造のものを第2ユニットA2 として設けてあり、かつ、第1ユニットA1 を経て樹脂膜9aを転写された型枠10を、続いて第2ユニッA2 へ送る移送手段としての搬送チエン8を設けてある。
【0058】
上記第1のユニットA1 でのトレー1内には、ここでは液状樹脂2aとしてポリエステル樹脂を液状としたものに、溶剤としてアセトンを添加したものが入れてある。それを、上記単層・単色の場合と同様に、液供給ロール3を介して凹版形ロール4の外周面へ転写させ、スクレーパー6で余分なものを除去する。ここで形成された膜状の液状樹脂2は、その外周面から徐々に乾燥されながら、その外周部分がブランケットロール7の外周面へ転写して(上記図4参照)、樹脂膜9aが形成される。
【0059】
このブランケットロール7に形成される樹脂膜9aは、上記と同様に凹版形ロール4外周面に多数個形成してある微細で浅い凹所5や、ブランケットロール7外周部が柔軟性と剥離性のよいシリコン製としてあるため、均一な樹脂膜9aに形成される。
【0060】
上記ブランケットロール7外周面に転写された樹脂膜9aは、そこに付着して回転している間に、溶剤として添加したメチルエチレンケトンの作用により自然乾燥が促進されるが、該樹脂膜9aはブランケットロール7に当接して下方を通過する型材10の外面にも当接している。
【0061】
そのため、該樹脂膜9aはブランケットロール7外周面から型材10の外面へ、その外面形状11に沿うようにへ転写される(上記図2参照)。この際、ブランケットロール7の外周部が、上記のにように柔軟性を有するとともに剥離性・離形性のよいシリコン材で形成してあるので、ここでも該樹脂膜9aの型材10外面への転写は、正確・確実に行われて第1層12aとなる。
【0062】
続いて、該樹脂膜9aは型材10外面に転写されたままの状態で、第2ユニットA2 へ移る。該第2ユニットA2 のトレー1内には、ここではスクリーン印刷用インクに溶剤としてアセトンを添加した液2bが入っているが、上記単層・単色の場合と同様に、液供給ロール3を介して凹版形ロール4へ転写され、この液2bはスクレーパー6で余分なインクを除去された後に、インク膜9bとなってブランケットロール7へ転写される。
【0063】
この際も上記単層フィルムの実施例と同様に、凹版形ロール4外周面に多数個形成した微細で浅い凹所5や、ブランケットロール7の柔軟性と剥離性のよい外周部が、ブランケットロール7外周面へ均一なインク膜9bを形成するのに役立っている。
【0064】
そしてこの第2ユニットA2 では、上記と同様にブランケットロール7に転写されているインク膜9bが、上記型材10外面に第1層12aとして形成された樹脂膜9a上に転写されて第2層12bとなる。この両膜9a,9b、換言すれば第1層12aと第2層12bが重合され一体的になる。
【0065】
この重合された両膜9a,9bが乾燥した後に、型材10から剥離・離形することにより、二層・二色の樹脂成形品1が形成されることになる(上記図2参照)。ここでも、上記単層・単色の実施例の場合と同様に、同一形状の複数の型材10を用意しておき、順次に第1・第2ユニットA1 ,A2 へ送ることで、二層・二色の樹脂成形品1が連続的に形成されていく。ここでは厚さ約8μの樹脂成形品1が形成された。
【0066】
なお、上記は二層・二色の樹脂成形品の製造例であるため、第1ユニットA1 と第2ユニットA2 とで構成したが、より多層・多色の樹脂成形品のものを製造するには、ユニット数を増設すればよい。
【0067】
また第2の実施例は、ベースとしての樹脂膜9a上に色柄のインク膜9bを多層化した例であるが、異なる種類の樹脂材料を用いた樹脂膜を重合・多層化してもよいことは上記のとおりである。またインク膜を先に形成して、それに樹脂膜を重合し多層化することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明で単層フィルムを製造する場合の装置を示す側面図である。
【図2】本発明で多層フィルムを製造する場合の装置を示す側面図である。
【図3】図1において、多層フィルムの製造における凹版形ロールでの樹脂膜形成状態を示す一部の拡大断面図である。
【図4】図1において、多層フィルムの製造における凹版形ロールからブランケットロールへの転写状態を示す一部の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0069】
A1 −第1ユニット
A2 −第2ユニット
1−トレー
2−液状樹脂
2a−液状樹脂
2b−インク液
3−液供給ロール
4−凹版形ロール
5−凹所
6−スクレーパー
7−ブランケットロール
8−移送手段
9−樹脂膜
9a−樹脂膜
9b−インク膜
10−型材
11−外面形状
12−層
12a−第1層
12b−第2層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形品1の原材料となる樹脂に乾燥を助ける溶剤を添加した液状樹脂2を、
液供給ロール3を介して、外周面に微細で浅い凹所5を多数個形成した凹版形ロール4の外周面に転写し、
余分な樹脂溶液を除去した状態で、少なくとも外周部が柔軟性と樹脂剥離性をもつブランケットロール7の外周面へ転写して、そこで半ば乾燥した状態の樹脂膜9とし、
その樹脂膜9を、樹脂成形品の内表面または外表面に対応した外面形状11をもつ型材10の外面に転写させ、
その後に、乾燥した該樹脂膜9である層12を型材10から剥離することで樹脂成形品1とする、樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
樹脂成形品1の原材料となる樹脂に乾燥を助ける溶剤を添加した液状樹脂2を入れたトレー1と、
該トレー1内に下部を浸漬した液供給ロール3と、
外周面に微細な凹所5を多数個形成してあり、該液供給ロール3に当接する如く回転する凹版形ロール4と、
該凹版形ロール4の外周面に当接して余分な樹脂溶液を除去するスクレーパー6と、
少なくとも外周部が柔軟性と樹脂溶液剥離性が良く、上記凹版形ロール4に当接する如く回転するブランケットロール7と、
該ブランケットロール7で半ば乾燥した樹脂膜9を転写される、樹脂成形品の内表面または外表面に対応した外面形状11をもつ型材10とからなるユニットAと、
その後に、乾燥した該樹脂膜9である層12を、型材10から剥離して樹脂成形品1にする剥離手段とを備えてなる、樹脂成形品の製造装置。
【請求項3】
樹脂成形品1の原材料となる樹脂に乾燥を助ける溶剤を添加した液状樹脂2aを、
液供給ロール3を介して、外周面に微細で浅い凹所5を多数個形成した凹版形ロール4の外周面に転写し、
余分な樹脂溶液を除去した状態で、少なくとも外周部が柔軟性と樹脂剥離性をもつブランケットロール7の外周面へ転写して、そこで半ば乾燥した状態の樹脂膜9aとし、
その樹脂膜9aを、樹脂成形品の内表面または外表面と対応した外面形状11をもつ型材10の外面に転写させて第1層12aを形成し、
次いでその状態の第1層12a上に、上記と同様の手段で樹脂膜9bまたはインク膜を転写し重合・一体化させて第2層12bを形成し、
必要に応じてさらに上記作業を繰り返すことで多層化し、
その後に、該重合した第1層12aと第2層12b等を、型材10から剥離することで多層・多色の樹脂成形品1とする、樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
樹脂成形品1の第1層の原材料となる樹脂に乾燥を助ける溶剤を添加した液状樹脂2aが入ったトレー1と、
該トレー1内に下部を浸漬した液供給ロール3と、
外周面に微細な凹所5を多数個形成してあり、該液供給ロール3に当接する如く回転する凹版形ロール4と、
該凹版形ロール4の外周面に当接して余分な樹脂溶液を除去するスクレーパー6と、
少なくとも外周部が柔軟性と樹脂溶液剥離性が良く、上記凹版形ロール4に当接する如く回転するブランケットロール7とからなるユニットA1 と
上記ブランケットロール7から半ば乾燥した樹脂膜9aを転写される、樹脂成形品の内表面または外表面と対応した外面形状11をもつ型材10と、
上記型材10を次のユニットA2 へ送る移送手段8と、
上記ユニットIと同様の構造で、トレー1内の液2bが、第2層の原材料となる液状樹脂またはインクに乾燥を助ける溶剤を添加したものとして、上記第1層12a上に第2層12bを転写・重合させる第2ユニットA2 を有するとともに、
順次に重合した多層・多色の第1層12aと第2層12b等を、型材10から剥離する剥離手段とを備えてなる、樹脂成形品の製造装置。
【請求項5】
型材10が、成形しようとする樹脂成形品1の内表面に対応した外面形状11をもつ金型、または成形しようとする樹脂成形品1の外表面に対応した外面形状11をもつ金型、または成形しようとする樹脂成形品1の内表面に対応した外面形状11をもつ既成の樹脂または他の材質の成形品、または成形しようとする樹脂成形品1の外表面に対応した外面形状11をもつ既成の樹脂または他の材質の成形品であるようにした、請求項1または3に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
型材10が、成形しようとする樹脂成形品1の内表面に対応した外面形状11をもつ金型、または成形しようとする樹脂成形品1の外表面に対応した外面形状11をもつ金型、または成形しようとする樹脂成形品1の内表面に対応した外面形状11をもつ既成の樹脂または他の材質の成形品、または成形しようとする樹脂成形品1の外表面に対応した外面形状11をもつ既成の樹脂または他の材質の成形品であるようにした、請求項2または4に記載の樹脂成形品の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−72946(P2009−72946A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241964(P2007−241964)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(391022094)鷹羽産業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】