説明

樹脂溶着体及びその製造方法

【課題】接合工程の高精度な制御や溶融面に極めて高精度な寸法管理を必要としなくとも、接合部の沈み込み量が高精度に管理された樹脂溶着体及びその製造方法を提供する
【解決手段】レーザ光5に対して吸収性のある第1の樹脂部品2と、レーザ光に対して透過性のある第2の樹脂部品3とを嵌合すると共に、第1の樹脂部品側よりレーザ光5を所定の位置に照射し、第1及び第2の樹脂部品を溶着して両樹脂部品の間に接合部4を形成した樹脂溶着体において、第1または第2の樹脂部品のいずれかに、前記溶着時に他方の樹脂部品と当接して接合部4における沈み込み量を規制する突起8を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光に対して透過性を有する樹脂部品と、レーザ光に対して吸収性を有する樹脂部品を、レーザ光を用いて接合した樹脂溶着体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の波長のレーザ光に対して透過性を有する樹脂部品と、同波長のレーザ光に対して吸収性を有する樹脂部品を重ね合わせて、透過性の樹脂部品側からレーザ光ビームを照射することで両者を溶着するレーザ光溶着工法はよく知られている。
本工法の原理を簡単に説明する。
レーザ光ビームは透過性の樹脂中をほとんど吸収されずに通過し、吸収性の樹脂部品の表面付近で吸収される。吸収されたレーザ光のエネルギーは熱に変換され、吸収性の樹脂部品の表面を加熱する。吸収性の樹脂部品の表面と接した透過性部品の樹脂の表面近傍も、熱伝達により加熱される。その結果、透過性の樹脂部品と吸収性の樹脂部品の接触面において溶融層が形成され、溶着に至る。
前記の原理から明らかなように、溶着過程においては、透過性の樹脂部品と吸収性の樹脂部品との密着性が重要となる。両者の密着性が不十分な場合は、吸収性の樹脂部品から透過性の樹脂部品への熱伝達が不十分となり、接合不良に至るからである。一般的に、両樹脂部品の表面密着性を確保するために、透過性の樹脂部品と、吸収性の樹脂部品とを接合面において外部加圧により圧接した状態でレーザ光ビームの照射を行う。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−358697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の如く、溶着時には接合部に形成された溶融層に圧接の力が印加されるため、溶融部においてはレーザ光の照射を止めるか、加圧を止めるかしない限り溶融が進む。つまりは、二部品の近接が進むこととなる。二部品の間隔を所定値に維持しようとすると、二部品の間隔を精度良く検出する装置と、瞬時にレーザ光照射あるいは加圧を止める装置が必要になる。更に部品には寸法バラツキがあるため、各々の部品に対して個々に寸法を調整する必要が発生する。これらを実現しようとすると、非常に高価な設備が必要になってしまう。
【0005】
また、レーザ光溶着工法は樹脂を溶かして溶融するため熱可塑性の樹脂を使用することが一般である。この熱可塑性樹脂は一般の成形方法として溶融する事自体はなんら問題が無く、所定の圧力で金型に流し込む事で所定の形状を作り上げる。この際、所定の圧力が実現されなければ樹脂密度が落ちるため、物理強度、加水分解性など樹脂性能が低下する。レーザ光溶着は、成形の様な金型がなく溶融樹脂の形状は自由であり成形圧力がかからないため、どうしてもこの点で通常の成形物に対し強度面で弱くなりやすい。そのため、二部品間で極めて高いシール性が必要とされるものについては、接合工程の高精度な制御や溶融面に極めて高精度な寸法管理が必要となり、高価な接合方法になっていた。
【0006】
本発明は、前記のような点に鑑み、接合工程の高精度な制御や溶融面に極めて高精度な寸法管理を必要としなくとも、接合部の沈み込み量が高精度に管理された樹脂溶着体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、レーザ光に対して吸収性のある第1の樹脂部品と、レーザ光に対して透過性のある第2の樹脂部品とを嵌合すると共に、前記第1の樹脂部品側よりレーザ光を所定の位置に照射し、前記第1及び第2の樹脂部品を溶着して両樹脂部品の間に接合部を形成した樹脂溶着体において、前記第1または第2の樹脂部品のいずれかに、前記溶着時に他方の樹脂部品と当接して前記接合部における沈み込み量を規制する突起を設けたものである。
【0008】
また、本発明は、レーザ光に対して吸収性のある第1の樹脂部品と、レーザ光に対して透過性のある第2の樹脂部品とを嵌合し、前記第1の樹脂部品側よりレーザ光を所定の位置に照射すると共に前記第1及び第2の樹脂部品を互いに押圧する加圧力を印加し、前記第1及び第2の樹脂部品を溶着して両樹脂部品の間に周状の接合部を形成する樹脂溶着体の製造方法において、前記第1または第2の樹脂部品のいずれかに、前記周状の接合部より内側に形成され前記溶着時に他方の樹脂部品と当接する突起を設け、この突起により前記接合部における沈み込み量を規制すると共に、前記加圧力を前記突起の垂直軸上ないしはそれより内側の位置に印加するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂溶着体によれば、樹脂溶着体自体で接合部における沈み込み量を容易かつ正確に規制することができるので、強度面で優れた高品質の樹脂溶着体を得ることができる。
【0010】
また本発明の樹脂溶着体の製造方法によれば、樹脂溶着体の突起により接合部における沈み込み量を規制できると共に、溶着時の加圧力を安定して印加でき、接合工程における高精度な制御や溶融面に極めて高精度な寸法管理が行うことなく、高品質の樹脂溶着体を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
図1及び図2は、本発明の実施の形態1である樹脂溶着体を示す外観全体図及び部分断面図である。ここでは樹脂溶着体として有底円筒状のケースと蓋体で構成される圧力センサなどの密閉容器を例にして説明する。
密閉容器1の蓋体2はレーザ光に対して透過性を有する樹脂からなる部品であり、ケース3はレーザ光に対して吸収性を有する樹脂からなる部品である。
ケース3には、その外形に沿ってリブ6が環状に設けられ、リブ6の内側には蓋体2に環状に設けられた位置決め用のガイド7が嵌合され、リブ6と蓋体2の接触面にレーザ光5による溶着によって形成された接合部4を有している。
また、ケース3には、リブ6の内側にリブ6と並行して環状の突起8が設けられている。この突起はケース3の開口方向に対して垂直に延在し、リブ6の高さ寸法より僅かに低い寸法に設定されており、後述するリブ6の蓋体2への溶着時に蓋体2がケース3側に沈み込み過ぎるのを制限するためのストッパ機能を果す。
【0012】
前記のような密閉容器1において、接合部4は次のように形成される。即ち、蓋体2をガイド7を利用してケース3のリブ6に嵌合させ、蓋体2の裏面がリブ6の端面に当接する位置まで押し込んだ状態で、蓋体2側からレーザ光5を図示のイメージで照射する。照射されたレーザ光5は、透過性を有する蓋体2を通過して吸収性を有するケース3に設けられたリブ6の先端で吸収されて熱に変換され接合部4を一旦溶融させる。接合部4はレーザ光5の照射が止まれば再度凝固し、この箇所の溶着が実現される。
この溶着工程において、接合部4の溶融時、蓋体2はケース3側に沈み込むが、ケース3に設けられた突起8に当接しケース3側に沈み込み過ぎるのを制限される。
従って、この突起8の寸法を適正に設定することにより、レーザ光溶着による接合部4の沈み込み量を容易かつ正確に規制することができる。
【0013】
以上のようにこの実施の形態1においては、レーザ光に対して吸収性のある第1の樹脂部品と、レーザ光に対して透過性のある第2の樹脂部品とを嵌合すると共に、第1の樹脂部品側よりレーザ光を所定の位置に照射し、第1及び第2の樹脂部品を溶着して両樹脂部品の間に接合部を形成した樹脂溶着体において、第1の樹脂部品に、溶着時に第2の樹脂部品と当接して接合部における沈み込み量を規制する突起を設けることにより、溶着工程において高精度な制御や溶融面に極めて高精度な寸法管理を必要とせず、高品質の密閉容器を得ることができる。
【0014】
なお、前記の説明において、リブ6、ガイド7、突起8はいずれも環状としたが、これに制限されるものではなく、部分的に配設されていても良い。
【0015】
実施の形態2.
図3は、本発明の実施の形態2である樹脂溶着体を示す部分断面図である。この実施の形態2では、蓋体2側に突起8を設け、実施の形態1の突起8と同様のストッパ機能を持たせると共に、蓋体2の嵌合用のガイド7も兼用させたものである。
この突起8は、リブ6の高さ寸法より僅かに小さい寸法に設定されており、蓋体2がケース3に嵌合した状態でリブ6とは逆の垂直方向に延在し、リブ6の蓋体2への溶着時に蓋体2がケース3側に沈み込み過ぎるのを規制する。
【0016】
以上のようにこの実施の形態2においては、レーザ光に対して吸収性のある第1の樹脂部品と、レーザ光に対して透過性のある第2の樹脂部品とを嵌合すると共に、第1の樹脂部品側よりレーザ光を所定の位置に照射し、第1及び第2の樹脂部品を溶着して両樹脂部品の間に接合部を形成した樹脂溶着体において、第2の樹脂部品に、溶着時に第1の樹脂部品と当接して接合部における沈み込み量を規制する突起を設けることにより、溶着工程における高精度な制御や溶融面に極めて高精度な寸法管理を必要とせず、高品質の密閉容器を得ることができる。
【0017】
実施の形態3.
図4は、本発明の実施の形態3である樹脂溶着体を示す部分断面図である。この実施の形態3は実施の形態1において更に高い密閉性を要求される場合における実施例であり、突起8の内側に沿って断面円形のシール部材9を環状に配置し、接合部4の溶着時に蓋体2を介してシール部材9を押圧するようにしたものである。
この場合、図5に示すように、蓋体2の加圧位置が突起8の上(図示一点鎖線上)ないしは内側にあることが重要であり、これにより、接合部4における蓋体2の沈み込みが不十分でも蓋体2に反りが発生するので、突起8が蓋体2に突き当たることになり、接合部4の状態に影響されずにシール部材9に対し所定の潰し代を付与できる。
仮に、加圧位置が突起8に対し外側にあれば、接合部4における蓋体2の沈み込みが完全でも、蓋体2の反りにより突起8が蓋体2に当らない場合が発生する。この場合は、突起8を確実に蓋体2に当てようとすると余分に接合部4における蓋体2の沈み込みが必要になってしまい、所定の条件では溶着できない場合も発生する。
なお、図6に示すように、蓋体2に段部10がある場合でも、この段部10を加圧すれば同様の効果が得られる。
【0018】
以上のようにこの実施の形態3によれば、突起8の内側に蓋体2によって押圧されるシール部材9が配置されているので、接合部4において部品の寸法バラツキあるいは溶融状態のバラツキによる撓みなどが発生しても、シール部材9は突起8の寸法のみで潰し代が決められるため、接合面状況に関わらず安定したシール性が維持される。
【0019】
また、図示のようにシール部材9を突起8の側面に当てれば、シール部材9の位置を固定するとともに突起8をシール部材挿入時のガイドとして使用することができる。これはシール部材9がOリングのような環状の部品のときには特に効果があり、製品を組み立てる上で容易になる。
【0020】
実施の形態4.
図7は、本発明の実施の形態4を示す樹脂溶着体の一例であり、実施の形態3と同様の密閉容器1を構成するもので、蓋体1がケース2に嵌合しているがレーザ光溶着前の加圧していない状態の部分断面図である。
図中のL1は蓋体1のガイド7とケース3のリブ6との嵌合代に相当する重なり寸法、L2はリブ6の高さ寸法、L3はリブ6の端面と蓋体2の底面との間の離間寸法、L4は突起8の端面と蓋体2の底面との間の離間寸法であり、L1,L2,L3,L4の各寸法がL1>0,L2>L4>L3の関係になるように設定されている。
この寸法関係により、溶着までの各部品の嵌合の脱落がなく、容易な組み立て性と安定したシール性を維持することできる。
特に、L4−L3>0.1mm、即ち接合部4の溶着時における沈み込み量を0.1mm以上になるように設定した場合には、図8に示すように3000サイクルのサーマルショックに対しても接合部の破壊がなく、十分なサーマルショック耐性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態1に係わる樹脂溶着体の外観全体図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係わる樹脂溶着体の部分断面図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係わる樹脂溶着体の部分断面図である。
【図4】本発明の実施の形態3に係わる樹脂溶着体の部分断面図である。
【図5】本発明の実施の形態3における樹脂溶着体の溶着時の加圧状況を示す部分断面図である。
【図6】本発明の実施の形態3における他の樹脂溶着体の溶着時における加圧状況を示す部分断面図である。
【図7】本発明の実施の形態4における溶着前の樹脂溶着体の部分断面図である。
【図8】本発明の実施の形態4における樹脂溶着体のサーマルショック耐性を示す特性図である。
【符号の説明】
【0022】
1 密閉容器
2 蓋体
3 ケース
4 接合部
5 レーザ光
6 リブ
7 ガイド
8 突起
9 シール部材
10 段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光に対して吸収性のある第1の樹脂部品と、レーザ光に対して透過性のある第2の樹脂部品とを嵌合すると共に、前記第1の樹脂部品側よりレーザ光を所定の位置に照射し、前記第1及び第2の樹脂部品を溶着して両樹脂部品の間に接合部を形成した樹脂溶着体において、
前記第1または第2の樹脂部品のいずれかに、前記溶着時に他方の樹脂部品と当接して前記接合部における沈み込み量を規制する突起を設けたことを特徴とする樹脂溶着体。
【請求項2】
前記接合部は周状に形成されると共に、前記突起は前記接合部の内側に位置し、更に前記突起の内側に前記接合部を封止するシール部材が配置されていることを特徴とする請求項1記載の樹脂溶着体。
【請求項3】
前記シール部材は前記突起をガイドとして挿入され、前記蓋体によって押圧されていることを特徴とする請求項2記載の樹脂溶着体。
【請求項4】
レーザ光に対して吸収性のある第1の樹脂部品と、レーザ光に対して透過性のある第2の樹脂部品とを嵌合し、前記第1の樹脂部品側よりレーザ光を所定の位置に照射すると共に、前記第1及び第2の樹脂部品を互いに押圧する加圧力を印加し、前記第1及び第2の樹脂部品を溶着して両樹脂部品の間に周状の接合部を形成する樹脂溶着体の製造方法において、
前記第1または第2の樹脂部品のいずれかに、前記周状の接合部より内側に形成され前記溶着時に他方の樹脂部品と当接する突起を設け、この突起により前記接合部における沈み込み量を規制すると共に、
前記加圧力を前記突起の上ないしはそれより内側の位置に印加することを特徴とする樹脂溶着体の製造方法。
【請求項5】
前記突起の内側に前記蓋体によって押圧され、前記接合部を封止するシール部材を配置すると共に、前記第1及び第2の樹脂部品を押圧、溶着する前に、両樹脂部品が所定の嵌合状態を保つように前記シール部材の厚さ、及び両樹脂部品の嵌合代を設定したことを特徴とする請求項4記載の樹脂溶着体の製造方法。
【請求項6】
前記突起により前記接合部における沈み込み量を0.1mm以上に規制することを特徴とする請求項4または5記載の樹脂溶着体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−265163(P2008−265163A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111985(P2007−111985)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】