説明

樹脂管継手

【課題】騒音状況下にある作業現場においても、ユニオンナットが締付終了又はそれに近い状態であることの確認が行えるようにし、組付作業性や取扱い性に優れるように改善される樹脂管継手を提供する。
【解決手段】インナ筒4にチューブ3が外嵌されて拡径部3Aを生じる状態での雌ねじ8と雄ねじ5との螺合によるユニオンナット2の螺進により、拡径変化領域9がシール用押圧部10で押圧される構成の樹脂管継手において、外周フランジ1Aに正六角形の多角形外周部18が、そしてユニオンナット2の端部に櫛状リング部19がそれぞれ形成され、櫛歯24の内径rが、多角形外周部18の角部18aの径kより小さく、かつ、辺部18hの最小径t以上の値に設定され、シール用押圧部10が拡径変化領域9を押圧してシール部Sが形成されるユニオンナット2の螺進終了状態になると、櫛状リング部19が多角形外周部18に外嵌されて大なるトルク変動が伝わる締付終了認知手段Cが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造や医療・医薬品製造、食品加工、化学工業等の各種技術分野の製造工程で取り扱われる高純度液や超純水の配管にも好適であって、ポンプ、バルブ、フィルタ等の流体機器や流体移送路であるチューブの接続手段として用いられる樹脂管継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の樹脂管継手としては、特許文献1において開示されるチューブ継手が知られている。即ち、合成樹脂製のチューブ(1)を継手本体(4)の嵌合筒(5)に強制的に押し込むか、又は特許文献1の図2に示されるように、予めチューブ端部(2)を拡径させて嵌合筒(5)に嵌め込むかする。それから、予めチューブに嵌装されているユニオンナット(6)を継手本体に螺合させ、締込み操作して継手本体(4)の軸心方向に強制移動させることにより、チューブ(1)の拡径付け根部分(2a)をエッヂ部(6a)で軸心方向に強く押圧し、チューブ(1)と嵌合筒(5)との間をシールする構造である。
【0003】
上述の構造と同様なものとしては、特許文献2の図8,図9において開示された樹脂管継手も知られている。また、特許文献2の図5や特許文献3において開示されるように、インナーリングに拡径外嵌されているチューブ端を継手本体の嵌合筒に内嵌させ、ユニオンナットの締付によってチューブにおけるインナーリングへの拡径部を押圧してシールさせる構造の樹脂管継手もある。いずれにしても、チューブ端を拡径(フレア)させてユニオンナットの締付でシールさせる構造である。チューブの先端を嵌合筒部外嵌させてナット止めする前者の構造のものでは、継手本体とユニオンナットとの2部品で経済的に管継手を構成できる良さがあり、インナーリングを用いる後者の構造のものでは、確実に漏れが回避できて安定した性能が得られ、かつ、信頼性に優れる良さがある。
【0004】
ところで、これらのように種々の優れたメリットを持つ樹脂管継手の実際の施工において、ユニオンナットの締付終了時点が分り難いという慢性的な要改善項目があった。もともと、樹脂製の継手においては、その材料の特性上、ユニオンナットの回し操作に対して締付けトルクが漸増するので、金属材料のように締付トルクが急激に大きくなることによる締切り感に乏しく、感覚的に締付終了が分かり難いのである。締付が不足すると漏れのおそれがあり、締め付け過ぎると継手を損壊させるおそれがある。樹脂製であるが故にそれらの不都合が起こり易いので、正しくユニオンナットの締付を終える必要がある。
【0005】
そこで、特許文献3において、継手本体(1)に片持ち状態で軸心方向に突設させた突片(15)と、ユニオンナット(2)の軸心方向端部に隆起形成された突起(23)とが、ユニオンナット(2)の締付終了間際になると周方向で接近干渉して当接し、その際に突片(15)が発する弾かれ音により、作業者は締付終了又はそれに近づいたことを知ることが可能となる技術が開示されている。つまり、音によって作業者に締付終了状態を知らしめる音発生手段である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実登3041899号公報
【特許文献2】特開平7−27274号公報
【特許文献3】特開平11−230463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記音発生手段により、管継手部分が見えなくてもユニオンナット操作による締付終了状態の音認識による確認が可能になり、一定の効果が得られるものとなった。ところが、実際の配管作業現場は静寂状況であることはまれであり、稼動中の工場内であるとか、他の工事や施工が一緒に行われる状況での作業等、得てしてある程度の騒音状況下で行われることになる。従って、樹脂製突片の弾ける音程度では作業者には聞えないことが多く、ユニオンナットの締付終了を知らせる手段、即ち、締付終了認知手段としては更なる改善の余地が残されているものであった。
【0008】
本発明の目的は、上記実情に鑑みて、騒音状況下にある作業現場においても、ユニオンナットが締付終了又はそれに近い状態であることの確認が行えるようにし、組付作業性や取扱い性に優れるように改善される樹脂管継手を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、合成樹脂製チューブ3の端部を拡径させて嵌合装着可能な嵌合筒4と、雄ねじ5とを備える合成樹脂製の継手本体1、及び、
前記雄ねじ5に螺合可能な雌ねじ8と、前記チューブ3の拡径部3Aにおける拡径変化領域9に作用可能なシール用押圧部10とを備える合成樹脂製のユニオンナット2を有し、
前記嵌合筒4に前記チューブ3が嵌合装着される状態における前記雌ねじ8を前記雄ねじ5に螺合させての前記ユニオンナット2の前記継手本体1の軸心P方向への螺進により、前記拡径変化領域9が前記シール用押圧部10で前記軸心P方向に押圧されてシール部Sが形成されるように構成されている樹脂管継手において、
前記軸心Pを中心とする多角形外周部18と、前記軸心Pを中心とする円形で、かつ、前記軸心P方向へ片持ち状に延びて前記多角形外周部18に外嵌する可撓性材製の櫛状リング部19とが、前記ユニオンナット2の軸心P方向端部と前記継手本体1とに振分けられて形成され、前記櫛状リング部19を形成する櫛歯24の内径rが、前記多角形外周部18の角部18aの径kよりは小さく、かつ、隣合う前記角部18aどうしを結ぶ辺部18hの最小径t以上の値に設定されており、
前記シール用押圧部10が前記拡径変化領域9を押圧して前記シール部Sが形成される前記ユニオンナット2の螺進終了状態又はその直前状態になると、前記櫛状リング部19が前記多角形外周部18に外嵌され始めるように設定されて成る締付終了認知手段Cが設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の樹脂管継手において、前記櫛状リング部19が、片持ち円筒部にその先端から軸心方向で基端側に延びる切欠き部20が周方向に複数形成されることで形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の樹脂管継手において、前記櫛状リング部19が前記ユニオンナット2の軸心P方向端部に形成され、前記多角形外周部18が前記継手本体1に形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の樹脂管継手において、前記多角形外周部18の角数が偶数に設定されていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4何れか一項に記載の樹脂管継手において、前記継手本体1及び前記ユニオンナット2がフッ素樹脂製であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、詳しくは実施形態の項にて説明するが、締付終了認知手段の機能により、ユニオンナットを回して締付けを進めて行くと、多角形外周部と櫛状リング部とが嵌合して回動トルクの急増と急減が繰り返され、回動トルクが大きく変動する現象が現れる。故に、その大きなトルク変動が手指等を介して作業者に伝わるので、操作感覚でもってユニオンナットの締付終了状態になったことが認識できるようになる。その結果、騒音状況下にある作業現場においても、ユニオンナットが締付終了又はそれに近い状態であることの確認が行えるようにし、組付作業性や取扱い性に優れるように改善される樹脂管継手を提供することができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、軸心方向に突設される円筒部に軸心方向の切欠き部を設ける簡単な構成で櫛状リング部が形成できる利点があり、請求項3のように、軸心方向端に円筒部が形成されるユニオンナットに櫛状リング部を設ければ、継手本体に多角形外周部を、そしてユニオンナットに櫛状リング部をと合理的に締付終了認知手段を配置形成することができる。
【0016】
請求項4の発明のように、多角形外周部を四角形や六角形等の偶数多角形とすれば、対向する辺部に跨ってスパナ掛けすることが可能になり、形状を有効利用して工具を用いての回動操作や回動阻止操作が行える便利さが得られる。
【0017】
請求項5の発明によれば、継手本体及びユニオンナットを耐薬品性、耐熱性に優れるフッ素系樹脂で形成するものであり、流体が薬液であるとか化学液体であっても、或いは高温流体であっても継手構造部分が変形して漏れ易くなることがなく、良好なシール性や耐引抜力が維持できるようになる。そして、フッ素系樹脂は高温にも安定で、撥水性に優れ、摩擦係数が小さく、耐薬品性も極めて高く、電気絶縁性も高い点で好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1による樹脂管継手の構造(締付終了状態)を示す断面図
【図2】図1の樹脂管継手の平面図
【図3】櫛状リング部と多角形外周部との嵌合状態を示す軸心方向図
【図4】櫛歯が多角形外周部の角部で曲げ変形される状態を示す要部の断面図
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明による樹脂管継手の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は実施例1の樹脂管継手の構造(締付終了状態)を示す断面図、図2は図1の樹脂管継手の平面図、図3は櫛状リング部と多角形外周部との嵌合状態を示す軸心方向図、図4は櫛歯が多角形外周部の角部で曲げ変形される状態を示す要部の断面図である。
【0020】
〔実施例1〕
実施例1による樹脂管継手Aは、図1,図2に示すように、フッ素樹脂(PFA、PTFE等に代表される合成樹脂の一例)製のチューブ3をポンプ、バルブ等の流体機器や、異径又は同径のチューブに連通接続するものであり、フッ素樹脂(PFA、PTFE等に代表される合成樹脂の一例)製の継手本体1と、フッ素樹脂(PFA、PTFE等に代表される合成樹脂の一例)製ユニオンナット2と、リング体18との3部品で構成されている。尚、図1はユニオンナット2を所定量締め込んだ締付終了状態(組付状態)を示している。
【0021】
継手本体1は、図1,図2に示すように、チューブ3の端部を拡径して外嵌装着可能な一端のインナ筒(嵌合筒の一例)4と、インナ筒4の内奥側部分の外周側に拡径されたチューブ3先端の入り込みを許容すべく軸心P方向に延びる周溝mを有して被さるカバー筒部6と、台形ねじで成る雄ねじ5と、軸心Pを持つ円柱空間状の流体経路7と、外周フランジ1A等を備える筒状部材に形成されている。インナ筒4は、チューブ3を徐々に拡径させる先端先窄まり筒部4Aと、先端先窄まり筒部4Aの大径側に続いて形成される直胴筒部分4Bとを有する先細りストレート形のものとして構成されている。
【0022】
周溝mは、その径内側の周面である外周面は直胴筒部分4Bの外周面4bであり、その径外側の周面である外周面はカバー筒部6の内周面6aである。周溝mの奥側周面21から軸心P方向に所定長さ離れた箇所に外周フランジ1Aが形成されており、その外周フランジ1Aの略根元部位からカバー筒部6の端部の外周面に亘って雄ねじ5が形成されている。インナ筒4の先端面は、径方向で内側ほど内奥側(軸心P方向で奥側)に寄る逆テーパの角度が施される、即ち、先端ほど大径となるカット面16が形成されており、チューブ3の内周面が拡径部(フレア部)に向けて拡がり変位することに因る液溜り周部17の形状を内周側拡がり形状として、その流体が液溜り周部17に停滞し難くしてある。
【0023】
尚、カット面16は、その最大径が自然状態のチューブ3の内径と外径の略中間値となるように形成されているが、それにはこだわらない。また、フランジ1Aの軸心P方向で雄ねじ5と反対側には、軸心P方向に一定の幅を有する操作用の六角ナット部23、及びそれに続くパイプ部(接続部)25(図2,4,5を参照)が形成されている。また、継手本体1には、図1,図2に示すように、外周フランジ1Aとして形成される多角形外周部18を備えている。この多角形外周部18はユニオンナット2の櫛状リング部19(後述)とで締付終了認知手段C(後述)を構成する部分である。
【0024】
ユニオンナット2は、図1,図2に示すように、雄ねじ5に螺合可能な雌ねじ8と、チューブ3のインナ筒4に外嵌される拡径部3Aにおける拡径変化領域9の小径側端部分に作用可能なシール用周エッヂ(シール用押圧部の一例)10と、拡径変化領域9の大径側端部分に作用可能な抜止め用周エッヂ11と、拡径部3Aにおける径一定の直胴筒部分4Bに外囲される拡径ストレート部12に外嵌可能な押え内周部13と、シール用周エッヂ10に続いてチューブ3を軸心P方向の所定長さに亘って外囲するガイド筒部14と、櫛状リング部19とを備えて形成されている。尚、2Aは滑止め加工が施された外周面、2bはナット部である。
【0025】
シール用周エッヂ10は、その内径がチューブ3の外径に略等しく、その押圧面10aは軸心Pに直交する側周面とされている。抜止め用周エッヂ11は、その内周面の径がインナ筒4の最大径である直胴筒部分4Bの外周面4bよりも大径であり、かつ、チューブ3の肉厚を足した径、即ち押え内周部13の径よりは小さい値に設定されているが、そうでなく(例:外周面4bよりも小径)でも良く、拡径変化領域9の大径側部分に作用すれば良い。抜止め用周エッヂ11の押圧面11aも軸心Pに直交する側周面である。
【0026】
押え内周部13は、これと拡径ストレート部12とに径方向の隙間が無く、かつ、ユニオンナット2の締込みによる拡径部3Aの連れ回りが生じない程度に拡径ストレート部12に圧入(圧接外嵌)される値に設定されて抜止め手段Nが構成されている。これは、ユニオンナット2の締込みにより、チューブ3の抜出しを阻止すべく抜止め用周エッヂ11が拡径ストレート部12を軸心方向で食い込むように押圧するが、その押圧力によって拡径ストレート部12が径外側に膨らむように逃げ変形できないようにして、抜止め用周エッヂ11との協働による耐引抜力を高めて得るためのものである。櫛状リング部19は、継手本体1の多角形外周部19と共働して締付終了認知手段C(後述)を構成している。
【0027】
次に、チューブ3の端部をインナ筒4に外嵌挿入するには、常温下で強制的にチューブ3を押し込んで拡径させて装着するか、熱源を用いて暖めて膨張変形し易いようにしてから押し込むか、或いは拡径器(図示省略)を用いて予めチューブ端を拡径させておいてからインナ筒4に押し込むかして、図1に示すように、チューブ端3tがカバー筒部6の端壁15よりも内奥に位置する状態となるまで差し込む。インナ筒4に外嵌装着される拡径部3Aは、先端先窄まり筒部4Aの外周面4aに外嵌される拡径変化領域9と、直胴筒部分4Bの外周面4bに外嵌される拡径ストレート部12とで成る。
【0028】
つまり、図1に示すように、インナ筒4にチューブ3が外嵌装着された状態における雌ねじ8を雄ねじ5に螺合させてのユニオンナット2の締込みによる継手本体1の軸心P方向への螺進により、拡径ストレート部12に押え内周部13が外嵌され、かつ、拡径変化領域9の大径側部分におけるインナ筒4の径よりも大径となる部分が抜止め用周エッヂ11で軸心P方向に押圧され、かつ、拡径変化領域9の小径側部分がシール用周エッヂ10で軸心P方向に押圧されるように設定されている。尚、チューブ3の流体移送路3Wの径と流体経路7の径とは、円滑な流体の流れとすべく互いに同径に設定されているが、互いに異なっていても良い。
【0029】
この場合、前述したように、押え内周部13と拡径ストレート部12との径方向には隙間が無く、直胴筒部分4Bと押え内周部13との間に拡径ストレート部12が圧接挟持されているような状態になっている。また、実施例1においては、チューブ3の拡径変化領域9が先端先窄まり筒部4Aに被さる部分として形成されている。拡径変化領域9は、徐々に拡がるテーパ管の状態であり、シール用周エッヂ10と抜止め用周エッヂ11とは軸心P方向で互いに離れた位置関係にあるが、先端先窄まり筒部4Aの外周面4aの軸心Pに対する角度が急になればなる程、シール用周エッヂ10と抜止め用周エッヂ11との軸心P方向の距離は接近する。また、シール用周エッヂ10とインナ筒4の先端とは軸心P方向で少し離れているが、前記外周面4aの角度が急になればその離間距離は拡大され、緩くなればその離間距離は縮小される。
【0030】
さて、図1に示すように、樹脂管継手Aの所定の組付状態においては、シール用周エッヂ10はチューブ3の拡径変化領域9の小径側端部分を軸心P方向に押圧するので、拡径変化領域9の外周面4aの小径側端と、その箇所に接するチューブ3の内周面とが強く圧接されてシール部Sが形成される。このインナ筒4の先端箇所でのシール部Sにより、インナ筒4と拡径部3Aと間に洗浄液、薬液等の流体が入り込むことなくチューブ3と継手本体1とが良好にシールされている。
【0031】
そして、インナ筒4に圧入的に外嵌されている拡径部3Aの拡径ストレート部12が直胴筒部分4Bの外周面4bと押え内周部13とで囲まれていて、まず膨張変形できないようにホールドされており、かつ、抜止め用周エッヂ11がほぼその拡径ストレート部12に食い込むように位置している。これにより、拡径変化領域9の大径側端部分、即ち実質的に拡径ストレート部12に食い込むように押す抜止め用周エッヂ11の引掛かりによって拡径部3Aに作用する引抜力に抗することができるとともに、抜止め用周エッヂ11を基点として拡径ストレート部12が引抜力によって径方向に膨張変形できることに起因して拡径部3Aが抜き出る方向にずり動くことが牽制阻止されるようにもなる。
【0032】
拡径部3Aが軸心P方向に少しでもずり動くと、シール部Sにおけるシールポイントもずれてシール機能が不確実化するおそれがあるが、それが未然に防止されるようになる。従って、拡径部3Aが軸心P方向でインナ筒4から抜け出る方向の移動が強固に規制される抜止め手段Nが構成されており、それによって優れた耐引抜力が実現されている。その結果、継手本体1とユニオンナット2とから成るフレア型の樹脂管継手Aを、チューブがインナ筒に装着されている状態でのナット操作によって簡単に組付けできて組付性に優れるとともに、シール部Sによる優れたシール性と抜止め手段Nによる優れた耐引抜力との両立も図れる改善されたものとして実現できている。
【0033】
加えて、抜止め用周エッヂ11による拡径変化領域9の大径側部分の押圧が開始された後にシール用周エッヂ10による拡径変化領域9の小径側部分の押圧が開始される状態に設定されていること、即ち押圧時差手段により、次のような作用や効果もある。即ち、ユニオンナット2を回して締め込んで(螺進させて)ゆくと、まず、抜止め用周エッヂ11が先に拡径変化領域9(詳しくは拡径変化領域9の大径側部分)に当接し、そのときはシール用周エッヂ10は拡径変化領域9にまだ達していない。これにより、抜止め用周エッヂ11のみが拡径変化領域9の大径側部分、より詳しくは直胴筒部分4Bよりも大径となる部分を軸心P方向に押すから、ユニオンナット2の締付操作によって拡径ストレート部12をインナ筒4のより内奥側に押し込もうとする作用が生じる。
【0034】
上記は、抜け止め用エッヂ11による拡径変化領域9の大径側部分の押圧が開始された後にシール用周エッヂ10による拡径変化領域9の小径側部分の押圧が開始される状態について説明したが、そのような状態に限定されることはなく、抜け止め用周エッヂ11とシール用周エッヂ10とが同時にチューブ3に当接する構造でも良く、その場合においても同様の作用が生じる。
【0035】
直胴筒部分4Bに圧入外嵌される拡径ストレート部12は押え内周部13にも圧接されるが、その圧接力が比較的弱い場合には拡径部3Aをズリ動かしてインナ筒4のより内奥側に挿入させようとするから、より確実にチューブを継手本体1に差し込めるとか、それに加えて、軸心P方向に押される拡径ストレート部12が軸心P方向に動きに難いことに起因して径方向に膨張しようとして、より圧接力が高まってしっかりと挟持される作用が生じるといった好ましい効果が得られる。前記圧接力が比較的強い場合には、軸心P方向に押される拡径ストレート部12が軸心P方向にまず動けないことによって径方向に膨張しようとする強い作用が生じ、インナ筒4と押え内周部13との間で拡径ストレート部12がより一層強固に保持される効果が得られる。
【0036】
つまり、いずれせよ、シール用周エッヂ10が拡径部3Aに刺さり込み作用していない状況で抜止め用周エッヂ11が拡径部3Aを軸心P方向に押すことにより、直胴筒部分4Bと押え内周部13とによる拡径ストレート部12の圧接保持力が強化されるという効果が得られる。例えば、拡径部3Aにおける抜止め用周エッヂ11で押される部分が径外側に流動して押圧面11aと押え内周部13とで成される隅角空間部が埋まるといった具合である。このように、押圧時差手段により、チューブ3のインナ筒4に対する圧接保持力も耐引抜力も一層向上する効果が得られるようになる。
【0037】
また、図1に示すように、インナ筒4の内奥側とカバー筒部6とで形成される周溝m、及び透視可能なフッ素樹脂で形成されるユニオンナット2とにより、チューブ3が正しくインナ筒4に差し込まれている否かを目視チェック可能なインジケータ手段Bが構成されていても良い。つまり、押え内周部13の内奥側で、かつ、雌ねじ8に至るまでの間の谷状内周面22を通るラインでの目視により、拡径部3Aが見え、かつ、拡径端部3tが見えない正常状態であるならば、チューブ3がインナ筒4に正しく外嵌装備されていると判断できるからである。拡径部3Aが見え、かつ、拡径端部3tも見える差込不良状態、或いは拡径部3A自体が見えない差込不足状態であれば、チューブ3の差込がまだ規定量に達していないと判断できるのであり、この場合は前記正常状態が目視できるまでチューブ3をさらに押し込む操作を行うことになる。
【0038】
インジケータ手段Bを構成するための周溝m及びカバー筒部6の存在により、チューブ3を嵌合筒4に差し込む際におけるインジケータとしても機能する、という効果も得られる。即ち、チューブ3をフレアしての嵌合筒4への差込量が所定量になっているか否かの確認ができる。つまり、嵌合筒4に差し込まれた拡径部3Aとしての端部3tが端壁15より奥にあれば良く、その良否をチューブ3の嵌合筒4への組付時において視認判断できる手段としても機能する利点がある。
【0039】
インジケータ手段Bは、押え内周部13の内奥側で、かつ、雌ねじ8に至るまでの間の谷状内周面22通るラインでの目視で、拡径部3Aの位置をはっきりと視認し易いものとなっている。ユニオンナット2を螺進させるに連れてチューブ3の拡径部3Aはユニオンナット2に覆われて目視できなくなるが、段落番号「0031」に記載した抜け止め用周エッヂ11とシール用周エッヂ10とによる拡径ストレート部12の押込作用により、拡径ストレート部12は確実に周溝mに向かって移動させられる。
【0040】
従って、谷状内周面22から拡径部3Aが見え、チューブ差込状態の正常状態を視認できるインジケータ手段Bの目視確認機能によって、ユニオンナット2を締め付け操作した後のチューブ3の理想的な組付状態を保証できるものであり、剛性が高くシール性能に優れる樹脂管継手Aが提供できている。
【0041】
次に、締付終了認知手段Cについて説明する。この樹脂管継手Aは、チューブ3を差し込んでユニオンナット2で締付固定するという組付作業状態におけるユニオンナット2の締付終了(又は終了が近づいたこと)を操作感覚でもって認識可能な締付終了認知手段Cが設けられている。即ち、ユニオンナット2を回して締付けていくうちに、ユニオンナット2を回すトルクが急に大きくなったり急に小さくなったりする明確なトルク変動を、又はそれが繰り返されることを手指を通して作業者が感じたら締付終了となるように設定されている。つまり、明確なトルク変動を感じるという操作感覚が確認できれば完了を知覚できる、という具合に締付終了認知手段Cとして機能する。
【0042】
図2,図3に示すように、軸心Pを中心とする多角形外周部18と、軸心Pを中心とする円形で、かつ、軸心P方向へ片持ち状に延びて多角形外周部18に外嵌する可撓性材製の櫛状リング部19とが、ユニオンナット2の軸心P方向端部と継手本体1とに振分けられて形成されている。具体的には、継手本体1の外周フランジ1Aが軸心P方向視で正六角形を呈する多角形外周部18に形成されており、ユニオンナット2の螺進方向方向の下手側(外周フランジ側)の端部に櫛状リング部19が形成されている。
【0043】
櫛状リング部18は、図1〜図3に示すように、櫛状リング部が、片持ち円筒部にその先端から軸心P方向で基端側に延びる切欠き部20が周方向に6箇所(複数の一例)形成されることで形成されており、それら周方向で隣合う切欠き部20,20の間が櫛歯24に形成されている。即ち、櫛歯24は軸心P方向で略円弧を為しており、その内径rは多角形外周部18の角部18aの径kよりは小さく、かつ、隣合う角部どうし18a,18aを結ぶ辺部18hの最小径t以上の値に設定(t≦r<k)されている。因みに、実施例1においては、角部18aの径kは櫛状リング部18の外径と同値であるが、これには限られない。
【0044】
図3は、6箇所の角部18aが丁度それぞに対応した6箇所の切欠き部20の周方向中間に位置する空負荷状態を示している。その空負荷状態からユニオンナット2を回動操作すると、図4に示すように、6箇所の櫛歯24のそれぞれが辺部18hに当接して強制的に径外側に折り曲げられて弾性変形することにより、角部18aに乗り上げ、やり過ごし移動することが可能になる。櫛歯24が角部18aを乗り越える状態、即ち乗越え状態では、ユニオンナット2を回すためのトルクに加えて、6箇所の櫛歯24を強制的に弾性変形させることによる負荷が加わる。
【0045】
従って、ユニオンナット2を締付方向に回動操作するときには、空負荷状態から乗越え状態に移行する際のトルク増加が締付トルクの増加に加わるので、急に大きな回動トルクが必要になる。そして、櫛歯24が角部18aをやり過ごして乗越え状態から空負荷状態に移行する際のトルク減少が締付トルクの増加に加わるので、急に回動トルクが軽くなったように感覚になる。つまり、ユニオンナット2を締付方向に回動していき、櫛状リング部18が多角形外周部18(外周フランジ1A)に到達すると、それ以降は櫛歯24の角部18aの乗越えに伴って比較的大なるトルク変動が生じるようになる。
【0046】
そして、シール用周エッヂ10が拡径変化領域9を押圧してシール部Sが形成されるユニオンナット2の螺進終了状態又はその直前状態になると、櫛状リング部18が多角形外周部19に外嵌され始めるように、即ち締付終了認知手段Cが機能し始めるように設定されている。故に、ユニオンナット2を回し操作している作業者は、ユニオンナット2を回す回動トルクが急増し、かつ、すぐに急減するトルク変動を手指を通して感じたら、ユニオンナット2の締付終了状態或いはそろそろ締付終了状態であり、その段階で回し操作を止めることになる。
【0047】
つまり、ユニオンナット2を締付方向に回し操作していくうちに、トルクの急増急減が現れる又は繰り返し現れることの操作感覚により、締付終了状態になったことが認識できるものであり、多角形外周部18と櫛状リング部19とが嵌合して相対回動し始めることによるトルク変動を感じたらユニオンナット2の回し操作を止めれば良い、という具合に締付終了認知手段Cとして機能する。尚、外周フランジ1Aが偶数である正六角形の多角形外周部18に形成されていることから、軸心Pに関して180度離れる一対の対向面にスパナ掛けが可能であり、継手本体1の回し操作や回動阻止操作が工具を使って良好に行える利点がある。
【0048】
〔別実施例〕
多角形外周部18は、正八角形や十角形等、正六角形以外でも可能である。多角形外周部18と櫛歯リング部19とが嵌合して回動することでトルク変動が生じることが締付終了認知手段Cの必要条件であるから、櫛歯リング部19の櫛歯24の数は、多角形外周部18の角数の倍数に設定するのが望ましい。また、櫛歯24は、ユニオンナット2の端部から軸心P方向に突出する複数の棒状のものでも可能である。さらに、図示は省略するが、ユニオンナット2の端部を正六角形等の多角形外周部に形成し、かつ、外周フランジ1Aから軸心P方向に伸びる櫛歯を設けて成る櫛歯リング部を形成する構成の締付終了認知手段Cも可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 継手本体
2 ユニオンナット
3 チューブ
3A 拡径部
4 嵌合筒
5 雄ねじ
8 雌ねじ
9 拡径変化領域
10 シール用押圧部
18 多角形外周部
18a 角部
18h 辺部
19 櫛状リング部
20 切欠き部
24 櫛歯
C 締付終了認知手段
P 軸心
S シール部
k 角部の径
r 櫛歯の内径
t 辺部の最小径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製チューブの端部を拡径させて嵌合装着可能な嵌合筒と、雄ねじとを備える合成樹脂製の継手本体、及び、
前記雄ねじに螺合可能な雌ねじと、前記チューブの拡径部における拡径変化領域に作用可能なシール用押圧部とを備える合成樹脂製のユニオンナットを有し、
前記嵌合筒に前記チューブが嵌合装着される状態における前記雌ねじを前記雄ねじに螺合させての前記ユニオンナットの前記継手本体の軸心方向への螺進により、前記拡径変化領域が前記シール用押圧部で前記軸心方向に押圧されてシール部が形成されるように構成されている樹脂管継手であって、
前記軸心を中心とする多角形外周部と、前記軸心を中心とする円形で、かつ、前記軸心方向へ片持ち状に延びて前記多角形外周部に外嵌する可撓性材製の櫛状リング部とが、前記ユニオンナットの軸心方向端部と前記継手本体とに振分けられて形成され、前記櫛状リング部を形成する櫛歯の内径が、前記多角形外周部の角部の径よりは小さく、かつ、隣合う前記角部どうしを結ぶ辺部の最小径以上の値に設定されており、
前記シール用押圧部が前記拡径変化領域を押圧して前記シール部が形成される前記ユニオンナットの螺進終了状態又はその直前状態になると、前記櫛状リング部が前記多角形外周部に外嵌され始めるように設定されて成る締付終了認知手段が設けられている樹脂管継手。
【請求項2】
前記櫛状リング部が、片持ち円筒部にその先端から軸心方向で基端側に延びる切欠き部が周方向に複数形成されることで形成されている請求項1に記載の樹脂管継手。
【請求項3】
前記櫛状リング部が前記ユニオンナットの軸心方向端部に形成され、前記多角形外周部が前記継手本体に形成されている請求項1又は2に記載の樹脂管継手。
【請求項4】
前記多角形外周部の角数が偶数に設定されている請求項1〜3の何れか一項に記載の樹脂管継手。
【請求項5】
前記継手本体及び前記ユニオンナットがフッ素樹脂製である請求項1〜4何れか一項に記載の樹脂管継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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