説明

樹脂組成物、及びこの樹脂組成物の製造方法

【課題】新規な生分解性の樹脂組成物及びその製造方法。
【解決手段】イタコン酸と1.4−ブタンジオールとからなるイタコン酸ユニット及びコハク酸と1.4−ブタンジオールとからなるコハク酸ユニットを有するイタコン酸・コハク酸共重合体と、環状カーボネートとの共重合によって合成される下記(式3)で表される樹脂組成物。


(式中、R〜Rは水素原子又は炭化水素基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスを原料としても生成可能なイタコン酸・コハク酸ユニットを持つポリマーにカーボネートモノマを重合させて得られる生分解性のある新規な樹脂組成物(バイオポリマ)及びこの樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油枯渇問題に注目が集まる中、「脱石油」への取組の必要性がますます増大している。上記問題を解決する手段としては、脱石油原料を用いた材料の開発・リサイクル原料の効果的な利用等の方法が挙げられる。中でも、低い環境負荷性と有用な性能及び高い生産性を併せもつ新材料の創出が重要となってきている。
【0003】
従来のポリマーは、ほとんど石油資源を原料としているが、石油資源が将来的に枯渇するのではないかということ、また石油資源を大量消費することにより、地質時代より地中に蓄えられていた二酸化炭素が大気中に放出され、さらに地球温暖化が深刻化することが懸念されている。しかしながら、二酸化炭素を大気中から取り込み成長する植物資源を原料としてポリマーが合成できれば、二酸化炭素の循環による地球温暖化を抑制できることが期待できるのみならず、資源枯渇の問題も同時に解決できる可能性がある。このため、植物資源を原料とするポリマー、すなわちバイオマス利用ポリマーに注目が集まっている。
【0004】
植物資源を原料とするポリマーとしては、コハク酸・イタコン酸などのジカルボン酸がある。このコハク酸・イタコン酸などのジカルボン酸は、微生物変換による発酵法や加水分解・脱水反応・水和反応・酸化反応等の反応工程を含む化学変換法、並びにこれらの発酵法と化学変換法の組み合わせにより合成される(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
例えば、Anaerobiospirillum属(例えば、特許文献2参照。)等の嫌気性細菌、Actinobacillus属(例えば、特許文献3参照。)、Escherichia属(例えば、特許文献4参照。)等の通性嫌気性細菌、Corynebacterium属(例えば、特許文献5参照。)などの好気性細菌、Bacillus属、Rizobium属、Brevibacterium属、Arthrobacter属に属する好気性細菌(例えば、特許文献6参照。)、Bacteroidesruminicola、Bacteroides amylophilus等の嫌気性ルーメン細菌、E.coli(例えば、非特許文献1参照。)又はE.coliの株の変異体(例えば、特許文献7、特許文献8参照。)を用いることができる。
【0006】
ポリエステルは、カルボン酸のアルコールとの反応から通常得られる。工業的に重要であるのは、脂肪族ポリエステル、すなわちコハク酸、グルタル酸又はアジピン酸及びエタンジオール、プロパンジオール又はブタンジオール、ペンタンジオール又はヘキサンジオールから製造される、全てのカルボキシル基が脂肪族又は脂環式炭素原子に結合した酸要素を有するポリエステルである。ここに記載された脂肪族ポリエステルは、一般的に、直鎖構造である。
【0007】
ポリエステルは、当業者に知られた方法、例えば特許文献9に記載された方法で製造できる。このような反応は通常、150℃〜300℃の温度において重縮合触媒、例えばアルコキシチタン化合物、アルカリ金属水酸化物及びアルコラート、有機カルボン酸の塩、アルキル錫化合物、金属化合物などの存在下で実施する。触媒は典型的には、反応体の総重量に基づき、10〜1000ppmの量で使用する。
【0008】
不飽和ポリエステルは、熱硬化性樹脂として広く使用されている。不飽和ポリエステルは、比較的高いモジュラスと高い強度を持ち、しばしば繊維強化プラスチック複合材として使われる。
【0009】
また、多くの脂肪族ポリエステル、例えばポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリカプロラクトンなどは生分解性があるポリマーとして知られている。
【0010】
これまでに、医学的応用から幾つかのスクシネートポリエステルの他の報告がなされた。例えば、非特許文献2にはポリ(エチレンスクシネート/ポリ(テトラメチレングリコール)のブロックコポリエステルの製造及びその縫合糸材料としての用途が報告された。特許文献10では、コハク酸、リンゴ酸及びフマル酸と1,4−及び2,3−ブタンジオールとからの医学装置用のポリエステルの製造が開示されている。特許文献11には、コハク酸及びシュウ酸と種々の低分子量ジオールとのコポリエステルから製造された外科手術用物品が開示されている。
【0011】
非石油系のバイオマスを利用したカーボネートとしては、例えば、グリセリンの発酵によって得られる1,3−プロパンジオールなどのジオールがある。このカーボネートは、非石油系のバイオマスを利用するので環境に配慮した材料である。
【0012】
ポリブチレンサクシネートとカーボネートの共重合については、非特許文献3で取り上げられている。
【0013】
また、非特許文献4では、イタコン酸、マレイン酸ユニットを含むポリブチレンサクシネート系プレポリマーが、架橋ポリマー・生分解性ポリマーとして取り上げられている。
【0014】
【特許文献1】特開2007−92048号公報
【特許文献2】米国特許第5143833号明細書
【特許文献3】米国特許第5504004号明細書
【特許文献4】米国特許第5770435号明細書
【特許文献5】特開平11−113588号公報
【特許文献6】特開2003−235593号公報
【特許文献7】特表2000−500333号公報
【特許文献8】米国特許第6159738号明細書
【特許文献9】米国特許第2012267号明細書
【特許文献10】米国特許第4594407号明細書
【特許文献11】米国特許第4032993号明細書
【非特許文献1】J. Bacteriol., 57,147−158
【非特許文献2】J.Macromol.Sci. Chem.,A25(4),467−498
【非特許文献3】Biomacromolecules 2004,5,209.
【非特許文献4】J. Appl. Polym. Sci. 2005,95,1473.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明では、バイオマスを原料としても生成可能なイタコン酸・コハク酸ユニットからなるイタコン酸・コハク酸共重合体にカーボネートモノマを共重合して得られる新規な樹脂組成物(バイオポリマ)、及びこの樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決すべく、バイオマスを原料としても生成可能なイタコン酸、コハク酸から合成されるイタコン酸・コハク酸共重合体にカーボネートを共重合させることで、新規な下記の樹脂組成物を合成することにある。また、本発明は、環境上の問題となる鎖延長剤を使用することなく、簡便な製造方法により、高分子量化された樹脂組成物を製造する樹脂組成物の製造方法を提供する。
【0017】
即ち、上述した目的を達成する本発明に係る樹脂組成物は、イタコン酸と1.4−ブタンジオールとからなるイタコン酸ユニット及びコハク酸と1.4−ブタンジオールとからなるコハク酸ユニットを有する下記式1で表されるイタコン酸・コハク酸共重合体と、下記式2で表されるカーボネートモノマとの共重合によって合成される下記式3で表されるものである。
【0018】
【化1】

【0019】
【化2】

【0020】
【化3】

【0021】
(式2、式3中、R1〜R3は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基である。)
【0022】
また、上述した目的を達成する本発明に係る樹脂組成物の製造方法は、イタコン酸と1.4−ブタンジオールとからなるイタコン酸ユニット及びコハク酸と1.4−ブタンジオールとからなるコハク酸ユニットを有する上記式1で表されるイタコン酸・コハク酸共重合体を生成する工程と、上記式2で表されるカーボネートモノマを生成する工程と、触媒を用いて、イタコン酸・コハク酸共重合体と、カーボネートとを共重合させて、上記式3に表される樹脂組成物を生成する工程とを有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、動植物資源(バイオマス)を原料としても生成可能なイタコン酸ユニット及びコハク酸ユニットを有する式1で表されるイタコン酸・コハク酸共重合体と、式2で表されるカーボネートモノマとを共重合して合成することによって、式3で表される樹脂組成物を生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を適用した樹脂組成物及びこの樹脂組成物の製造方法について、詳細に説明する。
【0025】
本発明を適用した樹脂組成物は、イタコン酸ユニット及びコハク酸ユニットを有する下記式1で表されるイタコン酸・コハク酸共重合体と、下記式2で表されるカーボネートモノマとの共重合によって合成されて生成する下記式3で表されるものである。
【0026】
【化4】

【0027】
【化5】

【0028】
【化6】

【0029】
(式2、式3中、R1〜R3は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基である。)
【0030】
式1で表されるイタコン酸・コハク酸共重合体は、イタコン酸ユニット及びコハク酸ユニットを有する。イタコン酸ユニットは、イタコン酸と1.4−ブタンジオールとからなり、コハク酸ユニットは、コハク酸と1.4−ブタンジオールとからなる。イタコン酸及びコハク酸は、一般に市販されている化学製品の他に、バイオマス由来のものを用いることができる。イタコン酸、コハク酸にバイオマス由来のものを用いることによって、得られる樹脂組成物は、非石油系であり、環境に配慮した材料となる。
【0031】
式1で表されるイタコン酸・コハク酸共重合体では、イタコン酸ユニットとコハク酸ユニットとが適度に含有されていることが好ましく、コハク酸ユニットの割合がイタコン酸ユニットの割合よりも多いことが好ましく、例えば7:3程度であることが好ましい。
【0032】
式2で表されるカーボネートモノマは、例えば、グリセリンの発酵によって得られる1,3−プロパンジオールである。このカーボネートは、非石油系のバイオマスを利用して生成することができるので、環境に配慮した材料である。
【0033】
式1で表されるイタコン酸・コハク酸共重合体と、式2で表されるカーボネートモノマとを共重合させることによって、式3で表される新規な樹脂組成物が得られる。
【0034】
この式3で表される樹脂組成物は、高分子量のものであり、高分子量であっても融点が高すぎず、分解温度が高いものである。このような樹脂組成物は、従来にない、新規な樹脂組成物であり、例えば、包装用のフィルムや電気電子機器等の筐体の材料として用いることができる。また、この樹脂組成物は、バイオマスを原料としても生成可能なコハク酸やイタコン酸、カーボネートモノマを用いて生成することができるため、生分解性を有し、環境負荷性が低く、環境に配慮した材料である。
【0035】
この樹脂組成物では、イタコン酸・コハク酸共重合体と、カーボネートモノマとの比を2:1以上とすることが好ましい。イタコン酸・コハク酸共重合体と、カーボネートモノマとの比を2:1以上とすることによって、重量平均分子量(Mw)が5000以上の高分子量の樹脂組成物が得られる。なお、樹脂組成物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0036】
また、この樹脂組成物は、分解温度が高く、350℃以上である。このため、この樹脂組成物を用いて金型成型する際には、熱的に安定であり、現在の成型設備を使用することができる。なお、分解温度は、示差熱重量分析(Tg−HDT)により測定することができる。
【0037】
以上のような新規な樹脂組成物は、以下のようにして製造することができる。この樹脂組成物の製造方法は、式1で表されるイタコン酸・コハク酸共重合体を生成し、式2で表されるカーボネートモノマを生成し、触媒を用いて、イタコン酸・コハク酸共重合体と、カーボネートモノマとを共重合させて、式3に表される樹脂組成物を生成することができる。
【0038】
先ず、式1で表されるイタコン酸・コハク酸共重合体を生成する。このイタコン酸・コハク酸共重合体を生成する工程では、1.4−ブタンジオール、イタコン酸、コハク酸と、スズ系やチタン系の触媒とを混合して、160℃〜180℃で、8時間〜10時間撹拌しながら、1.4−ブタンジオールとイタコン酸、1.4−ブタンジオールとコハク酸とを縮合反応させる。反応終了後、クロロホルム等の溶媒に溶解させ、アルコール溶媒にて、イタコン酸と1.4−ブタンジオールとからなるイタコン酸ユニットと、コハク酸と1.4−ブタンジオールとからなるコハク酸ユニットとが共重合されて合成された式1で表されるイタコン酸・コハク酸共重合体を沈殿させて、生成する。
【0039】
次に、式2で表されるカーボネートモノマを生成する。このカーボネートモノマを生成する工程では、ジオールと炭酸クロロエチルをテトラヒドロフラン(THF)に溶解した溶液にトリエチルアミンを0℃で30分間にわたり滴下して加えた。その後、2時間〜24時間常温で撹拌した。トリエチルアミン由来のアンモニア塩の白い沈殿をろ過して除去し、ろ液を凝縮させて得られた生成物をジエチルエーテルとTHFで3回再結晶化させ、純粋な物質(白色結晶)を得た。生成物は常温・減圧で乾燥させた。
【0040】
次に、得られた式1で表されるイタコン酸・コハク酸共重合体と、式2で表されるカーボネートモノマと、スズ系やチタン系の触媒とを混合し、190℃〜210℃で、2時間撹拌し、反応させた後、クロロホルム等の溶媒で溶解させ、アルコール溶媒にて、式1で表されるイタコン酸・コハク酸共重合体と、式2で表されるカーボネートモノマとを共重合させて、式3で示される樹脂組成物を沈殿させて、生成する。
【0041】
得られた樹脂組成物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量を測定でき、核磁気共鳴(NMR)により、式3に示すものであることを特定できる。この樹脂組成物は、GPCで重量平均分子量を測定すると重量平均分子量が5000以上であり、示差熱重量分析(Tg−HDT)により分解温度を測定すると分解温度が350℃以上である。
【0042】
この樹脂組成物の製造方法では、環境上の問題となる鎖延長剤を使用することなく、簡便な製造方法により、高分子量化された、分解温度が高い新規な樹脂組成物を生成することができる。また、この樹脂組成物の製造方法では、動植物資源を原料としても生成可能なイタコン酸、コハク酸、カーボネートを用いることによって、生分解性を有し、環境に配慮した樹脂組成物を生成することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を適用した樹脂組成物及びこの樹脂組成物の製造方法について、具体的に実施例及び比較例を挙げて説明する。
【0044】
先ず、コハク酸ユニット及びイタコン酸ユニットを有する式1で表されるイタコン酸・コハク酸共重合体、式3で表される樹脂組成物、ポリカーボネートの評価項目について説明する。評価項目は、分子量(Mw、Mn)、分解温度(Td)、融点(Tm)、核磁気共鳴(NMR)である。
【0045】
(1)分子量(Mw、Mn)
分子量は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。重合度(PD)は、質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)から求めた。標準サンプルは、ポリスチレンを用いた。濃度が0.15重量%となるように、試料をクロロホルムに溶解させ、二時間攪拌した後、この溶液を直径(φ)0.25μmのフィルタを通して評価サンプルとした。
【0046】
(2)分解温度(Td)
イタコン酸・コハク酸共重合体、ポリカーボネート、樹脂組成物の試料(〜5mg)を採取して石英セルに入れ、示差熱重量分析(Tg−HDT)を用いて窒素雰囲気下、常温から500℃まで、20℃/分にて温度変化させ、分解温度(Td)を測定した。
【0047】
(3)融点(T
イタコン酸・コハク酸共重合体、ポリカーボネート、樹脂組成物の試料(〜5mg)を採取してアルミパンに入れ、示差走査熱量測定(DSC)を用いて窒素雰囲気下、室温から昇温速度20℃/分にて温度変化させながら、結晶融解による吸熱ピーク、熱曲線から融点(Tm)を求めた。なお、これらの方法は、Thermal Characterization of Polymeric Material{Edith A. Turi編,Academic Press(New Yourk, New York)によって1981年に発行}により詳細に記載されている。
【0048】
(4)NMR(核磁気共鳴)
イタコン酸・コハク酸共重合体、ポリカーボネート、樹脂組成物の試料を溶媒(CDCl)に完全に溶かし、共鳴周波数400MHzでプロトン(1H)スペクトルを測定した。
【0049】
次に、実施例及び比較例で用いるイタコン酸・コハク酸共重合体、ポリカーボネートの作製方法について説明する。
【0050】
なお、すず系の触媒を用いて作製したイタコン酸・コハク酸共重合体を比較例1とし、チタン系触媒を用いて作製したイタコン酸・コハク酸共重合体を比較例2とし、ポリカーボネートを比較例3とした。
【0051】
(a)イタコン酸・コハク酸共重合体(PBSI)
[比較例1]
還流冷却器、マグネット撹拌子、温度計を備えた円底フラスコに1.4−ブタンジオール(50mmol)とコハク酸(35mmol)(和光純薬工業株式会社製 商品名こはく酸(和光特級))、イタコン酸(15mmol)(和光純薬工業株式会社製 商品名いたこん酸(和光特級))を入れ、さらに0.05質量%の2−エチルヘキサン酸すず(II)を触媒として加え、160℃に加熱したオイルバスの中で5時間撹拌、縮合反応をおこなった。その後、オイルバスの温度を180℃まで上昇させ4時間反応を続けた。反応終了後、生成物を室温まで冷まし、クロロホルムに溶解した後、冷やした多量のメタノールで沈殿させた。沈殿物をメタノールで洗浄し、常温・減圧で乾燥させた。
【0052】
得られた生成物は、白いパウダーであり、構造はNMRによって確認された。1H−NMR(CDCl)の測定結果を図1に示す。図1に示すように、δ6.366(−C=CH),5.720(−C=CH),4.109(−OCH),3.314(−C−CH−C=O),2.567(O=CCHCHC=O),1.681(−CHCHCHCH−)にピークが現われていることから、図2に示す式1−1のイタコン酸・コハク酸共重合体が生成されていることが分かる。
【0053】
[比較例2]
還流冷却器、マグネット撹拌子、温度計を備えた円底フラスコに1.4−ブタンジオール(50mmol)とコハク酸(35mmol)(和光純薬工業株式会社製 商品名こはく酸(和光特級))、イタコン酸(15mmol)(和光純薬工業株式会社製 商品名いたこん酸(和光特級))を入れ、さらに0.05質量%のチタン(IV)テトラブトキシドモノマを触媒として加え、160℃に加熱したオイルバスの中で5時間撹拌、縮合反応をおこなった。その後、オイルバスの温度を180℃まで上昇させ4時間反応を続けた。反応終了後、生成物を室温まで冷まし、クロロホルムに溶解した後、冷やした多量メタノールで沈殿させた。沈殿物をメタノールで洗浄し、常温・減圧で乾燥させた。
【0054】
生成物は、薄い黄色がかったパウダーで、構造はNMRによって確認された。1H−NMR(CDCl)の測定結果を図3に示す。図3に示すように、δ6.355(−C=CH),5.701(−C=CH),4.098(−OCH),3.323(−C−CH−C=O),2.605(O=CCHCHC=O),1.687(−CHCHCHCH−)にピークが現われていることから、図2に示す式1−2のイタコン酸・コハク酸共重合体が生成されていることが分かる。
【0055】
(b)ポリカーボネートの合成
[比較例3]
まず、カーボネートモノマを生成し、得られたカーボネートモノマを用いてポリカーボネートを生成した。
【0056】
まず、カーボネートモノマは、2,2ジメチル−1,3−プロパノ−ルと炭酸クロロエチルをテトラヒドロフラン(THF)に溶解した溶液にトリエチルアミンを0℃で30分間にわたり滴下して加えた。その後、2時間常温で撹拌した。トリエチルアミン由来のアンモニア塩の白い沈殿をろ過して除去し、ろ液を凝縮させ得られた生成物をジエチルエーテルとTHFで3回再結晶化させ、純粋な物質(白色結晶)を得た。生成物は常温・減圧で乾燥させた。
【0057】
生成物の構造は、NMRによって確認された。1H−NMR(CDCl)の測定結果は、図4に示すように、δ4.077(−OCH−),1.108(−CH)にピークが現われていることから、図5に示す式2のカーボネートモノマが生成されていることが分かる。
【0058】
得られたカーボネートモノマを乾燥させて、よく乾燥させたカーボネートモノマを撹拌子・温度計を備えたフラスコに入れ、1.2−エチルヘキサン酸すず(II)を触媒として加え、200℃に加熱したオイルバスの中で30分間撹拌し反応させた。反応終了後、生成物を室温まで冷却し、クロロホルムに溶解した後、冷やした多量のメタノールで沈殿させた。沈殿物をメタノールで洗浄し、常温・減圧で乾燥させた。
【0059】
生成物は、白色のパウダーで、構造はNMRによって確認された。1H−NMR(CDCl)の測定結果を図6に示す。図6に示すように、1H−NMR(CDCl)δ3.900(−OCH−),0.979(−CH)にピークが現われていることから、図7に示す下記式2−1のポリカーボネートが生成されていることが分かる。
【0060】
以上のようにして作製したイタコン酸・コハク酸共重合体を用いて、実施例1乃至実施例6の樹脂組成物を作製した。
【0061】
(c)イタコン酸・コハク酸の共重合体とカーボネートの重合
[実施例1]
比較例1において作製したよく乾燥させたイタコン酸・コハク酸共重合体(PBSI)(0.5mmol)と、比較例3で作製したカーボネートモノマと同様にして作製したカーボネートモノマ(0.25mmol)を撹拌子・温度計を備えたフラスコに入れ、10μlの2−エチルヘキサン酸すず(II)を触媒として加え、200℃に加熱したオイルバスの中で2時間撹拌し反応させた。反応終了後、生成物を室温まで冷却し、クロロホルムに溶解した後、冷やした多量のメタノールで沈殿させた。沈殿物をメタノールで洗浄し、常温・減圧で乾燥させた。
【0062】
生成物は、白色のパウダーで、構造はNMRによって確認された。1H−NMR(CDCl)の測定結果を図8に示す。図8に示すように、δ6.305(−C=CH),5.703(−C=CH),4.170(−OCH),3.850(−OCH−),3.317(−C−CH−C=O),2.605(O=CCHCHC=O),1.681(−CHCHCHCH−),0.961(−CH)にピークが現われていることから、図9に示す式3−1の樹脂組成物、即ち、上記式3に示す新規な樹脂組成物が生成されていることが分かる。
【0063】
[実施例2]
比較例1において作製したよく乾燥させたイタコン酸・コハク酸共重合体(PBSI)(0.5mmol)と、比較例3で作製したカーボネートモノマと同様にして作製したカーボネート(0.1mmol)を撹拌子・温度計を備えたフラスコに入れ、10μlの2−エチルヘキサン酸すず(II)を触媒として加え、200℃に加熱したオイルバスの中で2時間撹拌し反応させた。反応終了後、生成物を室温まで冷却し、クロロホルムに溶解した後、冷やした多量のメタノールで沈殿させた。沈殿物をメタノールで洗浄し、常温・減圧で乾燥させた。
【0064】
生成物は白色のパウダーで、構造はNMRによって確認された。1H−NMR(CDCl)の測定結果を図10に示す。図10に示すように、δ6.302(−C=CH),5.701(−C=CH),4.168(−OCH),3.841(−OCH−),3.315(−C−CH−C=O),2.603(O=CCHCHC=O),1.685(−CHCHCHCH−),0.959(−CH)にピークが現われていることから、図9に示す式3−2の樹脂組成物が生成されていることが分かる。
【0065】
[実施例3]
比較例2において作製したよく乾燥させたイタコン酸・コハク酸共重合体(PBSI)(0.5mmol)と、比較例3で作製したカーボネートモノマと同様にして作製したカーボネート(0.25mmol)を撹拌子・温度計を備えたフラスコに入れ、10μlのチタン(IV)テトラブトキシドモノマを触媒として加え、200℃に加熱したオイルバスの中で2時間撹拌し反応させた。反応終了後、生成物を室温まで冷却し、クロロホルムに溶解した後、冷やした多量のメタノールで沈殿させた。沈殿物をメタノールで洗浄し、常温・減圧で乾燥させた。
【0066】
生成物は薄いクリーム色のパウダーで、構造はNMRによって確認された。1H−NMR(CDCl)の測定結果を図11に示す。図11に示すように、δ6.303(−C=CH),5.702(−C=CH),4.168(−OCH),3.850(−OCH−),3.315(−C−CH−C=O),2.604(O=CCHCHC=O),1.679(−CHCHCHCH−),0.961(−CH)にピークが現われていることから、図9に示す式3−3の樹脂組成物が生成されていることが分かる。
【0067】
[実施例4]
比較例2において作製したよく乾燥させたイタコン酸・コハク酸共重合体(PBSI)(0.5mmol)と、比較例3で作製したカーボネートモノマと同様にして作製したカーボネート(0.1mmol)を撹拌子・温度計を備えたフラスコに入れ、10μlのチタン(IV)テトラブトキシドモノマを触媒として加え、200℃に加熱したオイルバスの中で2時間撹拌し反応させた。反応終了後、生成物を室温まで冷却し、クロロホルムに溶解した後、冷やした多量のメタノールで沈殿させた。沈殿物をメタノールで洗浄し、常温・減圧で乾燥させた。
【0068】
生成物は、薄いクリーム色のパウダー、構造はNMRによって確認された。1H−NMR(CDCl)の測定結果を図12に示す。図12に示すように、δ6.303(−C=CH),5.702(−C=CH),4.169(−OCH),3.857(−OCH−),3.315(−C−CH−C=O),2.605(O=CCHCHC=O),1.687(−CHCHCHCH−),0.961(−CH)にピークが現われていることから、図9に示す式3−4の樹脂組成物が生成されていることが分かる。
【0069】
[実施例5]
比較例1において作製したよく乾燥させたイタコン酸・コハク酸共重合体(PBSI)(0.5mmol)と、比較例3で作製したカーボネートモノマと同様にして作製したカーボネート(0.167mmol)を撹拌子・温度計を備えたフラスコに入れ、10μlの2−エチルヘキサン酸すず(II)を触媒として加え、200℃に加熱したオイルバスの中で2時間撹拌し反応させた。反応終了後、生成物を室温まで冷却し、クロロホルムに溶解した後、冷やした多量のメタノールで沈殿させた。沈殿物をメタノールで洗浄し、常温・減圧で乾燥させた。
【0070】
生成物は、白色のパウダーで、構造はNMRによって確認された。1H−NMR(CDCl)の測定結果を図13に示す。図13に示すように、δ6.324(−C=CH),5.724(−C=CH),4.191(−OCH),3.696(−OCH−),3.336(−C−CH−C=O),2.626(O=CCHCHC=O),1.708(−CHCHCHCH−),0.982(−CH)にピークが現われていることから、図9に示す式3−5の樹脂組成物が生成されていることが分かる。
【0071】
[実施例6]
比較例1において作製したよく乾燥させたイタコン酸・コハク酸共重合体(PBSI)(0.5mmol)と、比較例3で作製したカーボネートモノマと同様にして作製したカーボネート(0.125mmol)を撹拌子・温度計を備えたフラスコに入れ、10μlの2−エチルヘキサン酸すず(II)を触媒として加え、200℃に加熱したオイルバスの中で2時間撹拌し反応させた。反応終了後、生成物を室温まで冷却し、クロロホルムに溶解した後、冷やした多量のメタノールで沈殿させた。沈殿物をメタノールで洗浄し、常温・減圧で乾燥させた。
【0072】
生成物は、白色のパウダーで、構造はNMRによって確認された。1H−NMR(CDCl)の測定結果を図14に示す。図14に示すように、δ6.326(−C=CH),5.726(−C=CH),4.190(−OCH),3.696(−OCH−),3.338(−C−CH−C=O),2.626(O=CCHCHC=O),1.708(−CHCHCHCH−),0.979(−CH)にピークが現われていることから、図9に示す式3−6の樹脂組成物が生成されていることが分かる。
【0073】
以下に、実施例1乃至実施例6及び比較例1乃至比較例3の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、重合度(PD)を測定した結果を表1に示し、融点(Tm)、分解温度(Td)について表2に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
表1に示す結果から、イタコン酸・コハク酸共重合体のみからなる比較例1及び比較例2よりも、イタコン酸・コハク酸共重合体とカーボネートとの共重合体である実施例1乃至実施例6の樹脂組成物の方が、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、重合度(PD)が高くなっていることが分かる。
【0077】
また、実施例1乃至実施例6の中でも、触媒として2−エチルヘキサン酸すず(II)を用いた場合において、イタコン酸・コハク酸共重合体:カーボネートが2:1である実施例1と比べて、イタコン酸・コハク酸共重合体:カーボネートが5:1である実施例2、イタコン酸・コハク酸共重合体:カーボネートが3:1である実施例5、イタコン酸・コハク酸共重合体:カーボネートが4:1である実施例6の方が重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、重合度(PD)が高くなっている。また、触媒としてチタン(IV)テトラブトキシドモノマを用いた場合においても、イタコン酸・コハク酸共重合体:カーボネートが2:1である実施例3と比べて、イタコン酸・コハク酸共重合体:カーボネートが5:1である実施例4の方が重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、重合度(PD)が高くなっている。これにより、樹脂組成物を作製する際に、イタコン酸・コハク酸共重合体の含有量がカーボネートの含有量よりもより多い方が高分子量の樹脂組成物が得られることが分かる。
【0078】
また、実施例1乃至実施例6の中でも、樹脂組成物を生成する際の触媒に、2−エチルヘキサン酸すず(II)を用いた実施例1、実施例2、実施例5、実施例6よりもチタン(IV)テトラブトキシドモノマを用いた実施例3及び実施例4の方が、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、重合度(PD)が高くなっている。これにより、樹脂組成物を生成する際に、触媒としてチタン(IV)テトラブトキシドモノマを用いた方が、より高分子量の樹脂組成物が得られることが分かる。
【0079】
また、表2に示す結果から、カーボネートのみからなる比較例3と比べて、実施例1乃至実施例6の樹脂組成物では、高分子量であっても、融点は高くならず、分解温度は高くなっていることが分かる。
【0080】
以上のように、イタコン酸・コハク酸共重合体とカーボネートとの共重合によって得られた新規な樹脂組成物は、高分子量で、融点が高くなりすぎず、分解温度が高く、有用な樹脂であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】比較例1のイタコン酸・コハク酸共重合体の1H−NMR(CDCl)の測定結果である。
【図2】比較例1、比較例2、比較例3のイタコン酸・コハク酸共重合体の1H−NMR(CDCl)のピークと化学式との関係を示す図である。
【図3】比較例2のイタコン酸・コハク酸共重合体の1H−NMR(CDCl)の測定結果である。
【図4】カーボネートモノマの1H−NMR(CDCl)の測定結果である。
【図5】カーボネートモノマの1H−NMR(CDCl)のピークと化学式との関係を示す図である。
【図6】比較例3のポリカーボネートの1H−NMR(CDCl)の測定結果である。
【図7】比較例3のポリカーボネートの1H−NMR(CDCl)のピークと化学式との関係を示す図である。
【図8】実施例1の樹脂組成物の1H−NMR(CDCl)の測定結果である。
【図9】実施例1乃至実施例6の樹脂組成物の1H−NMR(CDCl)のピークと化学式との関係を示す図である。
【図10】実施例2の樹脂組成物の1H−NMR(CDCl)の測定結果である。
【図11】実施例3の樹脂組成物の1H−NMR(CDCl)の測定結果である。
【図12】実施例4の樹脂組成物の1H−NMR(CDCl)の測定結果である。
【図13】実施例5の樹脂組成物の1H−NMR(CDCl)の測定結果である。
【図14】実施例6の樹脂組成物の1H−NMR(CDCl)の測定結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イタコン酸と1.4−ブタンジオールとからなるイタコン酸ユニット及びコハク酸と1.4−ブタンジオールとからなるコハク酸ユニットを有する下記式1で表されるイタコン酸・コハク酸共重合体と、下記式2で表されるカーボネートモノマとの共重合によって合成される下記式3で表される樹脂組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

(式2、式3中、R1〜R3は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基である。)
【請求項2】
上記式3中の上記イタコン酸・コハク酸共重合体と上記カーボネートモノマとの比が、2:1以上である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
上記式1中の上記コハク酸ユニットの割合が、上記イタコン酸ユニットの割合よりも多い請求項2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
イタコン酸と1.4−ブタンジオールとからなるイタコン酸ユニット及びコハク酸と1.4−ブタンジオールとからなるコハク酸ユニットを有する下記式1で表されるイタコン酸・コハク酸共重合体を生成する工程と、
下記式2で表されるカーボネートモノマを生成する工程と、
触媒を用いて、上記イタコン酸・コハク酸共重合体と、上記カーボネートモノマとを共重合させて、下記式3に表される樹脂組成物を生成する工程とを有する樹脂組成物の製造方法。
【化4】

【化5】

【化6】

(式2、式3中、R1〜R3は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基である。)
【請求項5】
上記樹脂組成物を生成する工程では、上記式3中の上記イタコン酸・コハク酸共重合体と上記カーボネートモノマとの比を2:1以上とする請求項4記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
上記イタコン酸・コハク酸共重合体を生成する工程では、コハク酸ユニットの割合を、イタコン酸ユニットの割合よりも多くする請求項5記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
上記触媒は、チタン系又はすず系である請求項4記載の樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−18766(P2010−18766A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183248(P2008−183248)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】