説明

樹脂組成物、成形体及び光ファイバー

【課題】透明性に優れた塩素含有重合体を含有し、より高性能なプラスチック光ファイバーを製造することができる樹脂組成物、成形体及び光ファイバーを提供することを目的とする。
【解決手段】塩素含有重合体と、リン酸系化合物とを含有する樹脂組成物、この樹脂組成物から溶融押出法によって成形されてなる成形体及びコア部及び該コア部の外周に配置されたクラッド部からなる光ファイバーであって、前記コア部及びクラッド部の少なくとも一方が塩素含有重合体を含有し、かつ他方が、リン酸系化合物を含有して成形されてなる光ファイバー。前記塩素含有重合体が、該重合体を構成する全モノマーに対して、トリクロロエチルメタクリル酸70重量%以上を含むモノマーの重合体であるか、前記リン酸系化合物がトリフェニルホスフェートであるか、前記リン酸系化合物が、全樹脂組成物に対して0.1〜20重量%で含有されるものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、成形体及び光ファイバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂を用いた光ファイバーが知られている。このようなプラスチック製の光ファイバーは、良好な可撓性を有し、軽量で、加工性がよく、口径の大きいファイバーとして製造しやすく、低コストで製造可能であるという種々の長所を有する。
【0003】
一般に、近赤外〜赤外域(600〜1550nm)で光吸収を起こす炭素−水素結合が少ないハロゲン含有アルキル(メタ)アクリレート樹脂は、理論的には透明性に優れるはずであり、例えば、メチルα−クロロアクリレートを主成分とし、ハロゲン含有アルキル(メタ)アクリレートを一成分として含有するコア部と、このコア部よりも屈折率が低い重合体からなるクラッド部とを備えるプラスチック光ファイバーが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−147404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、透明性に優れた材料を用いて、より高性能なプラスチック光ファイバーを効率的に作製する技術の確立が求められている。
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、透明性に優れた塩素含有重合体を含有し、より高性能なプラスチック光ファイバーを製造することができる樹脂組成物、成形体及び光ファイバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般に、光ファイバーの作製方法は、プリフォーム法と溶融押出法とに大別され、工業的な実用性から、溶融押出法が好都合であることが知られているが、本発明者らは、透明性に優れた塩素含有重合体を用いた光ファイバーの効率的な製造について検討する中で、溶融押出法は、プリフォーム法よりも溶融時間が長いため、ポリマーの高温安定性が不可欠となるが、透明性を追及するために用いた塩素含有重合体では、溶融押出法の諸条件によっては、必ずしも高温安定性が得られず、熱負荷により脱塩酸反応が生じること、さらに、生じた塩酸が溶融押出法で使用される金型を腐食し、金型の寿命を低減させること、金型の表面を黒変させるため、得られた光ファイバーの伝送損失の悪化をもたらすことなどの課題があることを新たに見出した。そして、この対策として、塩素含有重合体にリン酸系化合物を併用することにより、塩素含有重合体から発生した塩酸を劇的に捕捉し得ることを突き止め、本発明の完成に至った。
【0007】
本発明は、以下の発明を有する。
(1)塩素含有重合体と、リン酸系化合物とを含有する樹脂組成物。
(2)塩素含有重合体と、リン酸系化合物とを含有する樹脂組成物からなり、溶融押出法によって成形されてなる成形体。
(3)コア部及び該コア部の外周に配置されたクラッド部からなる光ファイバーであって、前記コア部及びクラッド部の少なくとも一方が、塩素含有重合体を含有し、かつ前記コア部及びクラッド部の少なくとも一方が、リン酸系化合物を含有して成形されてなる光ファイバー。
【0008】
これら樹脂組成物、成形体及び光ファイバーにおいては、
前記塩素含有重合体が、該重合体を構成する全モノマーに対して、トリクロロエチルメタクリル酸70重量%以上を含むモノマーの重合体であることが好ましい。
前記リン酸系化合物がトリフェニルホスフェートであることが好ましい。
前記リン酸系化合物が、全樹脂組成物に対して1〜20重量%で含有されることが好ましい。
さらに、溶融押出法によって使用又は成形されるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、透明性に優れた塩素含有重合体を含有し、より高性能なプラスチック光ファイバーを製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、塩素含有重合体と、リン酸系化合物とを含有する。
塩素含有重合体は、樹脂組成物において、主たる構成成分として含まれる。ここで、「主たる構成成分」とは、樹脂組成物を構成する全成分において最も多重量の成分を指し、主たる構成成分の他に、他の重合体(モノマー/オリゴマーを含む)、後述するリン酸系化合物、添加剤等を含んでいてもよいことを意味する。
【0011】
塩素含有重合体は、加熱溶融成形に使用することができる重合体であれば、どのようなものであってもよい。例えば、アクリル系重合体、スチレン系重合体等が挙げられる。これらの構造単位は、単独で又は2種以上が組み合わせられていてもよい。
アクリル系重合体としては、アクリル酸及びメタクリル酸並びにそれらの誘導体(以下、「アクリル酸等」と記す場合がある)に、1以上の塩素原子が置換された化合物に由来する構造単位を含有する重合体が挙げられる。
スチレン系重合体としては、スチレン及びそれらの誘導体(以下、「スチレン等」と記載する場合がある)に、1以上の塩素原子が置換された化合物に由来する構造単位を有する重合体が挙げられる。
塩素原子は、アクリル酸等及びスチレン等を構成する水素原子と置き換わったものでもよいが、例えば、クロロアルキル(例えば、炭素数1〜6程度)、クロロアルコキシ等のように、塩素原子を有する置換基が、アクリル酸等及びスチレン等を構成する1以上の水素原子と置き換わったものでもよい。なかでも、アクリル酸等及びスチレン等に、塩素原子、炭素数1〜3のクロロアルキル等が置換されたものが好ましい。具体的には、メチルα-クロロアクリレート、トリクロロエチル(メタ)アクリル酸、ジクロロエチル(メタ)アクリル酸、トリクロロメチル(メタ)アクリル酸、ジクロロメチル(メタ)アクリル酸、トリクロロエチルスチレン、ジクロロエチルスチレン、トリクロロスチレン、ジクロロスチレン等が挙げられる。
【0012】
塩素含有重合体は、上述した塩素原子が置換されたアクリル酸等及びスチレン等に由来する構造単位のみで構成された重合体でもよいし、これらの構造単位を与えるモノマーを、この重合体を構成する全モノマーの70重量%程度以上で用いた重合体でもよく、例えば、75〜90重量%程度、70〜95重量%程度で用いた重合体が適しており、80〜95重量%程度で用いた重合体が好ましく、80〜100重量%程度で用いた重合体がより好ましい。
なかでも、トリクロロエチルメタクリレート(以下、「TCEMA」と記す場合がある)を用いた重合体が好ましく、さらにTCEMAを70重量%程度以上で用いた重合体が好ましい。
【0013】
塩素含有重合体を構成し得る他のモノマーとしては、メチルメタクリレート(以下、「MMA」と記す場合がある)、メチルアクリレート(以下、「MA」と記す場合がある)、N−シクロヘキシルマレイミド(以下、「N−cHMI」と記す場合がある)、シクロヘキシルアクリレート(以下、「cHA」と記す場合がある)、トリクロロエチルアクリレート(以下、「TCEA」と記す場合がある)、イソボルニルアクリレート(以下、「iBoA」と記す場合がある)及びシクロヘキシルメタクリレート(以下、「cHMA」と記す場合がある)から選択される少なくとも1種のモノマーが挙げられる。
【0014】
塩素含有重合体は、上述した成分以外に、さらに他のモノマー成分を用いないことが好ましいが、意図する特性を損なわない範囲で、さらに重合性モノマー等を含有していてもよい。
重合性モノマーは、例えば、(メタ)アクリル酸エステル系化合物として、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸ペンタフルオロフェニル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸ヘキサフルオロイソプロピル、フルオロアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピル等;スチレン系化合物として、スチレン、α−メチルスチレン、フルオロスチレン、ペンタフルオロスチレン、ブロモスチレン等;ビニルエステル類として、ビニルアセテート、ビニルベンゾエート、ビニルフェニルアセテート、ビニルクロロアセテート等;マレイミド類として、マレイミド、N−メチルマレイミド、N―n−ブチルマレイミド、N―tert−ブチルマレイミド、N―イソプロピルマレイミド、N−フェニルマレイミド等;その他、フマル酸ジシクロヘキシル、アクリロニトリル、9−ビニルカルバゾール、メタクリル酸無水物等;及びこれらモノマーの重水素置換物等が例示される。
【0015】
本発明の塩素含有重合体は、当該分野で公知の方法によって製造することができる。例えば、重合体を構成するモノマーの混合物を、溶液重合、塊状重合、乳化重合又は懸濁重合等に付す方法などが挙げられる。なかでも、異物、不純物の混入を防ぐという観点から、塊状重合法が好ましい。
この際の重合温度は、特に限定されず、例えば、80〜150℃程度が適している。反応時間は、モノマーの量、種類、後述する重合開始剤、連鎖移動剤等の量、反応温度等に応じて適宜調整することができ、20〜60時間程度が適している。
【0016】
重合体を製造する際、重合開始剤及び/又は連鎖移動剤等の添加剤を使用することが好ましい。
重合開始剤としては、通常のラジカル開始剤が挙げられる。例えば、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、n−ブチル4,4,ビス(t−ブチルパーオキシ)バラレートなどのパーオキサイド系化合物;2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'―アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2'−アゾビス(2−メチルブタン)、2,2'−アゾビス(2−メチルペンタン)、2,2'−アゾビス(2,3−ジメチルブタン)、2,2'−アゾビス(2−メチルヘキサン)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルペンタン)、2,2'−アゾビス(2,3,3−トリメチルブタン)、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、3,3'−アゾビス(3−メチルペンタン)、3,3'−アゾビス(3−メチルヘキサン)、3,3'−アゾビス(3,4−ジメチルペンタン)、3,3'−アゾビス(3−エチルペンタン)、ジメチル−2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジエチル−2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジ−t−ブチル−2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などのアゾ系化合物等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
重合開始剤は、全モノマーに対して0.01〜2重量%程度で用いることが適している。
【0017】
連鎖移動剤としては、特に限定されることなく、公知のものを用いることができる。例えば、アルキルメルカプタン類(n−ブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等)、チオフェノール類(チオフェノール、m−ブロモチオフェノール、p−ブロモチオフェノール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオール等)等が挙げられる。なかでも、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタンが好適に用いられる。また、C−H結合の水素原子が重水素原子又はフッ素原子で置換された連鎖移動剤を用いてもよい。これらは、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0018】
連鎖移動剤は、通常、適当な分子量に調整するために用いられる。各モノマーに対する連鎖移動剤の連鎖移動定数は、例えば、ポリマーハンドブック第3版(J.BRANDRUPおよびE.H.IMMERGUT編、JOHN WILEY&SON発行)「高分子合成の実験法」(大津隆行、木下雅悦共著、化学同人、昭和47年刊)等を参考にして、実験によって求めることができる。よって、連鎖移動定数を考慮して、モノマーの種類等に応じて、適宜、その種類及び添加量を調整することが好ましい。例えば、全モノマーに対して0.01〜4重量%程度が挙げられる。
【0019】
リン酸系化合物としては、リン酸系の低分子化合物又はこれら化合物中に存在する水素原子を重水素原子に置換した化合物等が挙げられる。なかでも、上述した塩素含有重合体と相溶性があるものが好ましい。相溶性の良好な化合物を用いることにより、樹脂組成物の濁りを生じさせず、高い透明性を維持することができる。
具体的には、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリス−2−エチルヘキシルホスフェート(TOP)、トリエチルホスフェート(TEP)、リン酸トリクレジル等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
リン酸系化合物は、全樹脂組成物に対して、0.1〜20重量%程度で含有されることが好ましく、さらに1〜20重量%程度、2〜15重量%程度で含有されることがより好ましい。
【0020】
本発明の樹脂組成物は、上述した組成とすることにより、用いた塩素含有重合体への熱負荷により起こる脱塩酸反応によって生じた塩酸を効果的に捕捉させることができる。
また、樹脂組成物における塩素含有重合体のガラス転移温度の低下を防止できるとともに、樹脂組成物自体の耐熱性を確保することができる。
さらに、高い透明性を得ることができ、特に、光ファイバーとして、またそのコア部材として好適に用いることができる。
特に、リン酸系化合物を用いることにより、樹脂組成物において屈折率分布を調整することができ、このような特性を求める用途に有利である。
また、樹脂組成物を用いて押出成形する場合に、その流動性を向上させることができる。
【0021】
本発明の成形体は、上述した樹脂組成物を、溶融押出法によって成形したものである。
ここでの溶融押出法は、当該分野で公知の方法のいずれであってもよい。その諸条件も、成形体の種類、特性、用途等によって適宜調整することができる。
成形体としては、特に限定されないが、高い透明性が求められる物品に有効であり、例えば、高速通信を意図する光ファイバー、光ファイバーケーブルの構成要素、光導波路等の光導性素子類、スチールカメラ用、ビデオカメラ用、望遠鏡用、眼鏡用、プラスチックコンタクトレンズ用及び太陽光集光用等のレンズ類、凹面鏡、ポリゴン等の鏡類、ペンタプリズム類等のプリズム類等の光学部材とすることができる。
【0022】
本発明の光ファイバーは、コア部及びコア部の外周に配置されたクラッド部とから構成される。ただし、本明細書においては、クラッド部の外周を被覆する被覆層を含めて光ファイバーということもある。また、本発明では、コア部及びクラッド部とは、それぞれ、光ファイバーにおける光学的な意味でのコア及びクラッドに捉われず、コアを構成する主成分となる重合体により構成される層をコア部といい、クラッドを構成する主成分となる重合体により構成される層をクラッド部という。
【0023】
本発明の光ファイバーは、塩素含有重合体と、リン酸系化合物とを含んでなるが、必ずしもこれら双方ともコア部に、または双方ともクラッド部に含まれていなくてもよい。コア部及びクラッド部の少なくとも一方に塩素含有重合体を含んでいればよく、コア部及びクラッド部の少なくとも一方に、リン酸系化合物を含んでいればよい。なかでも、塩素含有重合体とリン酸系化合物とがともにコア部又はクラッド部に含まれていることが好ましく、双方がコア部に含まれていることがより好ましい。
【0024】
光ファイバーは、通常、マルチモード光ファイバーと、シングルモード光ファイバーとに分類されるが、本発明の光ファイバーは、特に、マルチモード光ファイバーに有利である。
さらにマルチモード光ファイバーは、ステップインデックス(SI)型と屈折率分布を有するグレーデッドインデックス(GI)型とに分類されるが、本発明の光ファイバーは、GI型であることが好ましい。
ここで、屈折率分布とは、ファイバーの中心から半径方向に向かって屈折率が放物線に近い曲線で又は一定幅で段階的に変化することを意味する。なかでも、中心から半径方向に向かって屈折率が低下しているものが好ましい。このような屈折率分布をもたせることにより、通信速度を向上させることができる。
【0025】
また、ファイバーの中心から半径方向に向って、一旦屈折率が曲線的又は段階的に低下した後、曲線的又は段階的に増加してもよい。この場合、コア部とクラッド部の最外層とでは、コア部の方が、屈折率がより高いことが好ましいが、クラッド部の最外層がコア部よりも屈折率が高くなってもよい。
【0026】
このような光ファイバーとして、コア部又はクラッド部に、上述した塩素含有重合体を構成する構造単位を含んでいればよいが、特に、コア部を形成する重合体が、主成分としてトリクロロエチルメタクリレート(以下、「TCEMA」と記す場合がある)を含んで形成されていることが適している。また、TCEMAと、任意成分としてMMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAから選択される少なくとも1種のモノマーを含んで形成されるものが好ましい。
【0027】
コア部は、重合体を構成する全モノマーにおいてTCEMAが70重量%以上用いられた重合体を主たる構成成分として形成することが適している。
TCEMA70重量%以上を含むモノマー由来の重合体は、TCEMAのみ用いられた重合体であってもよいし、全モノマーにおいてTCEMAが95重量%以下で用いられた重合体であってもよい。特に、コア部におけるTCEMAは、全モノマーにおいて80〜95重量%、80〜100重量%、さらに100重量%で含有されることが好ましい。
TCEMAを70重量%以上の割合で用いた重合体を、主たる構成成分としてコア部を形成する場合には、透明性に優れ、通信距離を伸ばすことができる。
【0028】
任意成分であるMMAを用いる場合には、MMAは30重量%以下で用いることが適しており、20重量%以下で含有されていることが好ましい。この範囲とする場合には、コア部の屈折率を適度に調節することができ、透明性、可撓性を維持しながら通信速度を向上させることができる。
【0029】
任意成分であるMA、cHA、TCEA、iBoA又はcHMAを用いる場合には、これら成分はそれぞれ10重量%以下で用いることが適しており、8重量%以下が好ましい。
MAをこの範囲とする場合には、コア部の屈折率を適度に調節することができ、透明性、可撓性を維持しながら通信速度を向上させることができる。
cHA、TCEA及びcHMAをこの範囲とする場合には、透明性、可撓性に優れた光ファイバーとして使用することができる。
iBoAをこの範囲とする場合には、コア部のガラス転移温度を上げることができ、透明性、可撓性を維持しながら耐熱性に優れた光ファイバーとして使用することができる。
【0030】
任意成分であるN−cHMIを用いる場合には、N−cHMIを20重量%以下で用いることが適しており、15重量%以下で含有されていることが好ましい。この範囲とする場合には、コア部のガラス転移温度を上げることができ、透明性、可撓性を維持しながら耐熱性に優れた光ファイバーとして使用することができる。
【0031】
任意成分であるMMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAから選択される少なくとも2種を含むモノマーを用いる場合には、これらの総量が、全モノマーにおいて30重量%以下で用いることが適しており、20重量%以下で用いることが好ましい。
コア部は、重合体成分としては、実質的にTCEMAが70重量%以上用いられた重合体のみで形成されることが好ましい。
【0032】
クラッド部を形成する重合体は、MMAを含んで形成されていることが適している。特に、MMAと、任意成分としてTCEMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAから選択される少なくとも1種のモノマーとを含んで形成されているものが適しており、MMAとこれら任意成分とを由来とする重合体を主たる構成成分とするものが好ましい。
クラッド部は、MMAを、全モノマーにおいて20重量%以上用いた重合体によって形成することが適している。クラッド部は、MMAのみ用いられた重合体によって形成されていてもよいし、全モノマーにおいてMMAが95重量%以下で用いられた重合体によって形成されていてもよい。特に、クラッド部におけるMMAは、全モノマーにおいて30〜95重量%、30〜100重量%で含有されることが好ましい。
MMAを20重量%以上の割合で用いた重合体を、主たる構成成分としてクラッド部を形成する場合には、可撓性に優れ、コア部よりも屈折率を適度に低減させることができ、曲げ損失を抑え、かつ通信速度を向上させることができる。
【0033】
任意成分であるTCEMAを用いる場合には、TCEMAは80重量%以下で用いることが適しており、70重量%以下で含有されていることが好ましい。この範囲とする場合には、クラッド部の屈折率を適度に調節することができると同時に、ガラス転移温度を上げることができ、透明性、可撓性を維持しながら高速通信性、耐熱性に優れた光ファイバーとして使用することができる。
【0034】
任意成分であるMA、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAを用いる場合には、これら成分は10重量%以下で用いることが適しており、8重量%以下が好ましい。
MA、cHA、TCEA及びcHMAをこの範囲とする場合には、クラッド部の屈折率を適度に調節することができ、透明性、可撓性を維持しながら高速通信性に優れた光ファイバーとして使用することができる。
iBoAをこの範囲とする場合には、クラッド部の屈折率を適度に調節することができると同時に、クラッド部のガラス転移温度を上げることができ、透明性、可撓性を維持しながら高速通信性、耐熱性に優れた光ファイバーとして使用することができる。
【0035】
任意成分であるN−cHMIを用いる場合には、N−cHMIを20重量%以下で用いることが適しており、15重量%以下で含有されていることが好ましい。この範囲とする場合には、クラッド部の屈折率を適度に調節することができると同時に、クラッド部のガラス転移温度を上げることができ、透明性、可撓性を維持しながら高速通信性、耐熱性に優れた光ファイバーとして使用することができる。
【0036】
任意成分であるTCEMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAから選択される少なくとも2種を含むモノマーを用いる場合には、これらの総量が、全モノマーにおいて80重量%以下で用いることが適している。
クラッド部は、重合体成分としては、MMAと、任意成分としてTCEMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAから選択される少なくとも1種のモノマーによって形成された重合体のみで形成されることが好ましい。
なお、コア部及びクラッド部を構成する構成成分は、同一組成、つまり、構成モノマー種及びその割合が同一であってもよいが、異なる組成であることが好ましい。
【0037】
本発明の光ファイバーは、リン酸系化合物を含有するが、このリン酸化合物は、例えば、ドーパントとしての機能をも有するものが好ましい。この場合、ドーパントの機能を兼用してもよいし、リン酸系化合物に加えてさらにドーパントを添加してもよい。ドーパントとしての機能を有するリン酸化合物は、コア部、クラッド部又はその双方に含有されていてもよい。
このようなリン酸化合物を又はリン酸化合物とドーパントとを含有させることにより、光ファイバーにおけるコア部及び/又はクラッド部の屈折率を変化させ、屈折率分布をもたせることができる。なかでも、中心から半径方向に向かって屈折率が低下しているものが好ましい。このような屈折率分布をもたせることにより、通信速度を向上させることができる。特に、屈折率分布をもたせるために、コア部においてドーパントの濃度分布を調整することが有効である。なお、クラッド部には、ドーパントが含有されていてもよい。
また、光ファイバーの透明性、耐熱性、可撓性を維持しながら、曲げ損失を抑え、かつ通信速度を向上させることができる。
【0038】
リン酸系化合物及び/又はドーパントは、コア部及び/又はクラッド部の主たる構成成分である重合体と相溶性があり、これら重合体の屈折率よりも高い又は低い屈折率をもつ化合物であることが適している。相溶性の良好な化合物を用いることにより、コア部の濁りを生じさせず、散乱損失を極力抑え、通信できる距離を増大させることができる。
高い屈折率をもつ化合物をリン酸系化合物及び/又はドーパントとする場合は、中心から半径方向に向かってドーパント濃度が低下するように濃度分布を調整することにより、中心から半径方向に向かって屈折率が低下する屈折率分布をもたせることができる。
低い屈折率をもつ化合物をリン酸系化合物及び/又はドーパントとする場合は、中心から半径方向に向かってドーパント濃度が上昇するように濃度分布を調整することにより、中心から半径方向に向かって屈折率が低下する屈折率分布をもたせることができる。
また、リン酸系化合物及び/又はドーパントを配合する際に、二種類以上の屈折率の異なる化合物を配合してもよい。この二種類以上の化合物の中に、コア部及び/又はクラッド部の主たる構成成分である重合体の屈折率と比較して、高屈折率の化合物及び低屈折率の化合物が含まれることが好ましい。このような高屈折率の化合物及び低屈折率の化合物を併用することにより、高屈折率の化合物のみ又は低屈折率の化合物のみを配合した場合と比較して、これと同じ屈折率差を得るために配合させるリン酸系化合物及び/又はドーパントの添加量を相対的に少なくすることができる。このため、ガラス転移点が相対的に高くなり、これによって得られる光ファイバーの耐熱性を向上させることができる。
【0039】
リン酸化合物の候補としては、上述したとおりである。
ドーパントの候補としては、低分子化合物又はこれら化合物中に存在する水素原子を重水素原子に置換した化合物等が挙げられる。高い屈折率をもつ低分子化合物としては、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリス−2−エチルヘキシルホスフェート(TOP)、リン酸トリクレジル等のリン酸化合物;ジフェニルスルホン(DPSO)及びジフェニルスルホン誘導体(例えば、4,4'−ジクロロジフェニルスルホン、3,3',4,4'−テトラクロロジフェニルスルホン等の塩化ジフェニルスルホン)、ジフェニルスルフィド(DPS)、ジフェニルスルホキシド、ジベンゾチオフェン、ジチアン誘導体等の硫黄化合物;安息香酸ベンジル;フタル酸ベンジルn−ブチル;フタル酸ジフェニル;ビフェニル;ジフェニルメタン等が挙げられる。低い屈折率をもつ低分子化合物としては、TOP等が挙げられる。なかでも、リン酸化合物が好ましい。
これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
特に、DPSO、DPS、TPP、TOPが好ましい。DPSO、DPS及びTPPの屈折率は1.563と高く、TOPの屈折率は1.442と低く、かつ、TCEMAを主成分とするモノマーの重合体を主たる構成成分とするコア部との相溶性に優れるので、透明性、耐熱性を維持しながら通信速度を向上させることができる。
また、DPS、TPP、TOPがより好ましい。DPSは光ファイバー製造時の熱負荷によるTCEMAを主成分とするモノマーの重合体の熱分解を抑制する効果があり、TPP、TOPは熱負荷により脱離した塩酸を捕捉することができる。
後述の溶融押出ドーパント拡散法で製造する場合、押出に用いるコア部材に高屈折率ドーパントを含有させる及び/又は押出に用いるクラッド部材に低屈折率ドーパントを含有させることにより、中心から半径方向に向かって屈折率が低下する屈折率分布をもたせることができる。
【0041】
コア部材に含有させるドーパント量は、コア部を構成する重合体の組成、意図する屈折率、用いるクラッド部を構成する重合体の屈折率、用いるドーパントの種類等によって適宜調整することができる。例えば、コア部を構成する重合体100重量部に対して0.1〜25重量部程度、さらに1〜20重量部程度、2〜15重量部程度などが挙げられる。
また、クラッド部材に含有させるドーパント量は、クラッド部を構成する重合体の組成、意図する屈折率、用いるコア部を構成する重合体の屈折率、用いるドーパントの種類等によって適宜調整することができ、例えば、クラッド部を構成する重合体100重量部に対して0〜25重量部程度、さらに0〜20重量部程度、0〜15重量部程度などが挙げられる。
特に、リン酸化合物を用いる場合には、全樹脂組成物に対して0.1〜20重量%程度、好ましくは0.1〜15重量%程度が挙げられる。なかでも、TOPを用いる場合には、0〜25重量%程度、好ましくは0〜20重量%程度、より好ましくは0〜15重量%程度などが挙げられる。
ドーパント量をこの範囲とすることにより、コア部の屈折率分布を好適に調整することができ、光ファイバーのTgの低下を防止することができるとともに、光ファイバーの透明性、耐熱性、可撓性を維持しながら曲げ損失を抑え、かつ通信速度を向上させることができる。さらに後述の溶融押出ドーパント拡散法で光ファイバーを製造する場合、コア部材及び/又はクラッド部材の押出時の流動性を向上させることができる。
【0042】
コア部及び/又はクラッド部を構成する重合体は、上述したTCEMA、MMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMA以外に、他のモノマー成分を用いないことが好ましいが、得られる光ファイバーの特性を損なわない範囲で、さらに上述した重合性モノマー等を含有していてもよい。
【0043】
コア部及び/又はクラッド部を構成する重合体は、重量平均分子量が、5〜30万程度の範囲のものが適しており、10〜25万程度のものが好ましい。適当な可撓性、透明性等を確保するためである。なお、コア部とクラッド部においては、例えば、粘度調整等のために、分子量が異なっていてもよい。重量平均分子量は、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定されたポリスチレン換算の値を指す。
【0044】
本発明の光ファイバーを構成する樹脂組成物には、光ファイバーとしての透明性、耐熱性等の性能を損なわない範囲で、必要に応じて、配合剤、例えば、熱安定化助剤、加工助剤、耐熱向上剤、酸化防止剤、光安定剤等の添加剤を配合してもよい。これらは、それぞれ、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
耐熱向上剤としては、例えば、α−メチルスチレン系、N−フェニルマレイミド系等が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系抗酸化剤等が挙げられる。
光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系の光安定剤等が挙げられる。
これらの配合物とモノマー又は重合体とを混合する方法は、例えば、ホットブレンド法、コールドブレンド法、溶液混合法等が挙げられる。
【0046】
本発明の光ファイバーを製造する方法としては、当該分野で公知の方法を利用することができる。
光ファイバーの製造方法の一態様としては、例えば、1層または2層以上のコア部の外周に1層または2層以上のクラッド部を形成するために、界面ゲル重合法、回転重合、溶融押出ドーパント拡散法、複合溶融紡糸およびロッドインチューブ法等を利用することができる。
本発明の光ファイバーの製造方法では、プリフォームを形成し、延伸、線引き等を行ってもよいし、直接ファイバーを形成してもよい。
【0047】
具体的には、2台以上の溶融押出機と2層以上の多層ダイ及び多層用紡糸ノズルを用いて、コア部及びクラッド部を形成する溶融押出法が挙げられる。
つまり、コア部及びクラッド部を構成する重合体等を、それぞれ加熱溶融させ、個々の流路から多層ダイ及び多層用紡糸ノズルへ注入する。このダイ及びノズルでコア部を押出成形すると同時に、その外周に1層又は2層以上の同心円状のクラッド部を押出し、溶着一体化させることでファイバー又はプリフォームを形成することができる。
【0048】
なお、光ファイバーにおいてGI型の屈折率分布、特に、少なくともコア部に屈折率分布をつけるには、例えば、WO93/08488号に記載されたように、モノマー組成比を一定にして、ドーパントを加えて、重合体の界面でモノマーを塊状重合させ、その反応によってドーパントの濃度分布を付与する界面ゲル重合、または、その界面ゲル重合の反応機構を回転重合法で行う回転ゲル重合法及び屈折率の異なるモノマー仕込み組成比率を漸進的に変化させ、つまり、前層の重合率を制御(重合率を低く)し、より高屈折率になる次層を重合し、クラッド部との界面から中心部まで、屈折率分布が漸進的に増加するように、回転重合を行う方法、ロッド状のコア部と中空状のクラッド部を嵌め合い、加熱処理を行うことにより、コア部外周面とクラッド部内周面を溶着一体化させると同時に、予めコア部に配合されたドーパントを周辺部方向に及び/または予めクラッドに配合されたドーパントを中心部に向かって拡散させ、ドーパントの濃度分布を付与するロッドインチューブ法などの方法が例示される。
【0049】
また、2台以上の溶融押出機と2層以上の多層ダイ及び多層用紡糸ノズルを用いて、コア部及びクラッド部を形成した後、引続いて設けられた熱処理ゾーンで、予めコア部に配合されたドーパントを周辺部方向に及び/または予めクラッドに配合されたドーパントを中心部に向かって拡散させ、ドーパントの濃度分布を付与する溶融押出ドーパント拡散法、2台以上の溶融押出機にそれぞれドーパント量を変えた重合体等を導入して、多層構造でコア部および/またはクラッド部を押出成形する方法等が例示される。
【0050】
SI型及びマルチステップ型の屈折率分布をつける場合には、ドーパントを含まないコア部及びクラッド部を構成する重合体等を、2台以上の溶融押出機と2層以上の多層ダイ及び多層用紡糸ノズルを用いて溶融押出することが適している。
【0051】
上述した方法等によって光ファイバーのプリフォームを形成した場合、このプリフォームを溶融延伸することにより、プラスチック光ファイバーを作製することができる。延伸は、例えば、プリフォームを、加熱炉等の内部を通過させることによって加熱し、溶融させた後、延伸紡糸する方法が例示される。加熱温度は、プリフォームの材質等に応じて適宜決定することができ、例えば、180〜250℃程度が例示される。延伸条件(延伸温度等)は、得られたプリフォームの径、所望の光ファイバーの径及び用いた材料等を考慮して、適宜調整することができる。
【0052】
また、任意の段階で、熱処理を行ってもよい。この熱処理によって、リン酸化合物及び/又はドーパントを光ファイバー又はプリフォームの周辺部又は中心部に向かって拡散させることができる。この際の条件(例えば、温度、時間、圧力、雰囲気組成等)は、任意に調節することが好ましい。
【0053】
本発明の光ファイバーは、そのままの形態で適用することができる。また、上述したように、その外周を1つ又は複数の樹脂層、繊維層、金属線等の被覆材で被覆することにより及び/又は複数のファイバーを束ねることにより、光ファイバーケーブル等の種々の用途に適用することができる。
【0054】
本発明の光ファイバーは、コア部及びクラッド部の外周に、プラスチックの被覆材(以下、「オーバークラッド材」と記すことがある)が被覆されたものであってもよい。
プラスチックの被覆材は、機械強度特性に優れ、且つクラッド部と十分な密着性が得られるものであれば、どのようなもので形成してもよいが、光ファイバーケーブル等に必要な、強度、難燃性、柔軟性、耐薬品性、耐熱性等を満足するものを選択することが好ましい。特に、クラッド部の外周をポリカーボネートで被覆することにより、透明性、耐熱性を維持しながら可撓性に優れた光ファイバーとして使用することができる。
【0055】
この被覆材は、例えば、塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体等を主成分とするものなどが挙げられる。また、これら樹脂に上述した添加剤を添加した組成物を用いたものであってもよい。
繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維が挙げられる。
金属線としては、ステンレス線、亜鉛合金線、銅線などが挙げられる。
なかでも、ポリカーボネートを主成分とするプラスチックで形成されていることが適しており、耐薬品性、流動性に優れる点で、ポリエステルと複合された変性ポリカーボネートが好ましい。
被覆材による被覆層の厚みは、特に限定されないが、50μm以上500μm以下が適している。この範囲とすることにより、可撓性に優れ、且つ柔軟性等の光ファイバーに必要な物性を満足できる。
【0056】
光ファイバーの外周に樹脂を被覆する方法としては、特に限定されず、光ファイバー成形後に表層に被覆押出する方法等が挙げられる。
また、光ファイバーを用いたケーブルは、端部に接続用光プラグを用いてジャック部に確実に固定することが好ましい。プラグおよびジャックにより構成されるコネクタとしては、PN型、SMA型、SMI型、F05型、MU型、FC型、SC型などの市販の各種コネクタを利用することが可能である。
光ファイバーを用いたケーブルの端部に接続用プラグは用いず、メディアコンバーター等の接続機器側にOptoLock(商品名、Firecomms社製)等のプラグレスコネクタを取り付け、切り放したケーブルを差し込んで接続することも可能である。
以下、本発明の樹脂組成物、成形体、つまり光ファイバーの実施態様を詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0057】
実施例1〜6:樹脂組成物
精製したTCEMAと、TPP、TOP又はTEPとを、重量比でTCEMA:TPP(又はTOP、TEP)=100:4又は8の割合で混合した。
さらに、全重量中の濃度がそれぞれ0.03重量%及び0.2重量%となるように、重合開始剤としてジt−ブチルパーオキサイド及び連鎖移動剤としてn−ラウリルメルカプタンを添加した。
その後、細孔径0.2μmのメンブレンフィルタにより濾過を行った。
この混合液を、超音波を与えながら減圧脱気し、ガラス製重合容器に入れ、重合容器の温度を120℃に維持しながら、40時間かけてモノマーを重合した。
【0058】
得られた重合体から、ロッド(外径30mm)を得た。
得られたロッドから2.5gの加熱試験用試験片を切り出した。
試験片をガラス製容器に入れ、容器内を窒素置換した後密閉し、容器を220℃に設定した空気循環式オーブン内で2時間加熱した。容器を空冷して加熱後のポリマーを取り出し、30mlのテトラヒドロフランに一旦溶解させ、300mlのメタノールへ投入して再沈殿を行った。
その後、沈殿物をろ過して取り除き、溶液のpHを測定した。
測定には通常用いられるpHメータを使用した。
【0059】
比較例として、重合体を製造する際に、TPP、TOP及びTEPのいずれも混合しなかったこと以外は同様にロッドを作成し、試験片を切り出し、実施例と同様に評価した。
これらの結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1の結果から、塩素含有重合体にリン酸化合物を併用させることにより、熱負荷により起こる脱塩酸反応に起因する塩酸を効果的に捕捉することができることが確認された。
【0062】
実施例7
押出成形用樹脂ロッドの作成
精製したTCEMAとTPPとを重量比でTCEMA:TPP=100:4の割合で混合した。さらに、全重量中の濃度がそれぞれ0.03重量%及び0.2重量%となるように、重合開始剤としてジt−ブチルパーオキサイド及び連鎖移動剤としてn−ラウリルメルカプタンを添加した。その後、細孔径0.2μmのメンブレンフィルタにより濾過を行った。
この混合液を、超音波を与えながら減圧脱気した。
その後、ガラス製重合容器に入れ、重合容器の温度を120℃に維持しながら、40時間かけてモノマーを重合した。
得られた重合体から、コア部材ロッド(外径30mm)を得た。
【0063】
また、精製したPMMAに、全重量中の濃度がそれぞれ0.02重量%および0.2重量%となるように重合開始剤としてジt−ブチルパーオキサイドおよび連鎖移動剤としてn−ラウリルメルカプタンを添加した。その後、細孔径0.2μmのメンブレンフィルタにより濾過を行った。この混合液を、超音波を与えながら減圧脱気した後、重合容器に入れ、重合容器の温度を120℃に維持しながら、40時間かけてモノマーを重合した。
クラッド部材ロッド(外径30mm)を得た。
【0064】
光ファイバーの作成
溶融押出ドーパント拡散法を利用して、光ファイバーを作成した。
得られたコア部材ロッドとクラッド部材ロッドを、別々の押出成形機とそれらに連結された2層金型とを用いて、コア部、クラッド部の積層複層状を形成し、さらに加熱流路(220℃)に一定時間通して、コア部に含有されるドーパントをクラッド部に拡散させた。金型出口より吐出される溶融樹脂を引き取り、コア部径、クラッド部径が、それぞれ、200μm、280μmであるGI型プラスチック光ファイバーを得た。
この溶融押出時において、2層金型内のコア樹脂・クラッド樹脂それぞれの流路の黒化状態を目視により観察した。
作成したファイバーについて、損失測定を行った。カットバック法を用いて665nmでの伝送損失を測定した。
これらの結果を表2に示す。
【0065】
板材の作成
同様に作成したコア部材ロッドを用いて、溶融押出成形にて板材を作成した。具体的には、コア樹脂を溶融させ、板材成形用ダイに流し込み、厚さ3mmになるよう引取りを行った。このとき、ダイ温度は240℃にて成形を行った。得られた板材のイエローインデックスを、色差計(東京電色製)を用いて測定した。結果を表2に示す。
【0066】
また、クラッド部材ロッドを表2に記載の組成に変更する以外は実施例7と同様に、さらに、コア部材ロッドとクラッド部材ロッドとを表2に記載の組成に変更する以外は実施例7と同様に、それぞれ実施例7〜9及び比較例1〜3の光ファイバー、板材を作成した。これらの評価結果も表2に示す。
【0067】
実施例10
押出成形用ロッドの作成
TCEMA及びMαCAの精製モノマーを、重量比でTCEMA:MαCA =80:20の割合で混合した。混合モノマーにTPPを重量比で(混合モノマー):TPP=100:4の割合で混合した。さらに、重合開始剤アゾイソブチロニトリル0.01モル%、連鎖移動剤n−ドデシルメルカプタン0.3モル%を加え、重合容器に入れ、重合容器の温度を50℃で5時間、次いで1時間に10℃の割合で昇温し、140℃で2時間保持してモノマーを重合した。
クラッド部材は、実施例7と同様に作成した。
作成したロッドを使用し、実施例7と同様に光ファイバー、板材を成形し、評価した。
【0068】
実施例11
表2に示す組成に変更する以外は、実施例10と同様にして、光ファイバー、板材を成形し、評価した。
これらの結果を表2に示す。
【表2】

【0069】
表2によれば、塩素含有重合体にリン酸化合物を併用することにより、透明性が高く、伝送損失が低下しない、性能の高い光ファイバーを得ることができた。
また、溶融押出法によっても、塩素含有重合体への熱負荷による脱塩酸反応による塩酸の発生を低減させることができ、その結果、金型を腐食、つまり、流路の表面の黒変を有効に防止することができることが確認された。これにより、金型寿命の低下を低減させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、高速通信を意図する光ファイバー、光ファイバーケーブルの構成要素として有用であり、さらに、形状を変化させることにより、光導波路等の光導性素子類、スチールカメラ用、ビデオカメラ用、望遠鏡用、眼鏡用、プラスチックコンタクトレンズ用、太陽光集光用等のレンズ類、凹面鏡、ポリゴン等の鏡類、ペンタプリズム類等のプリズム類等の光学部材として応用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有重合体と、リン酸系化合物とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記塩素含有重合体が、該重合体を構成する全モノマーに対して、トリクロロエチルメタクリル酸70重量%以上を含むモノマーの重合体である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記リン酸系化合物がトリフェニルホスフェートである請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記リン酸系化合物が、全樹脂組成物に対して0.1〜20重量%で含有される請求項1〜3のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
塩素含有重合体と、リン酸系化合物とを含有する樹脂組成物からなり、溶融押出法によって成形されてなる成形体。
【請求項6】
前記塩素含有重合体が、該重合体を構成する全モノマーに対して、トリクロロエチルメタクリル酸70重量%以上を含むモノマーの重合体である請求項5に記載の成形体。
【請求項7】
前記リン酸系化合物がトリフェニルホスフェートである請求項5又は6に記載の成形体。
【請求項8】
前記リン酸系化合物が、全樹脂組成物に対して0.1〜20重量%で含有される請求項5〜7のいずれか1つに記載の成形体。
【請求項9】
コア部及び該コア部の外周に配置されたクラッド部からなる光ファイバーであって、
前記コア部及びクラッド部の少なくとも一方が、塩素含有重合体を含有し、かつ
前記コア部及びクラッド部の少なくとも一方が、リン酸系化合物を含有して成形されてなることを特徴とする光ファイバー。
【請求項10】
前記光ファイバーが溶融押出法によって成形されてなる請求項9に記載の光ファイバー。
【請求項11】
前記塩素含有重合体が、該重合体を構成する全モノマーに対して、トリクロロエチルメタクリル酸70重量%以上を含むモノマーの重合体である請求項9又は10に記載の光ファイバー。
【請求項12】
前記リン酸系化合物がトリフェニルホスフェートである請求項9〜11のいずれか1つに2に記載の光ファイバー。
【請求項13】
前記リン酸系化合物が、全樹脂組成物に対して0.1〜20重量%で含有される請求項9〜12のいずれか1つに記載の光ファイバー。

【公開番号】特開2012−140559(P2012−140559A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−911(P2011−911)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】