説明

樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体

【課題】透明性、低温特性および成形加工性に優れた樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体を提供する。
【解決手段】芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロックと共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックとを有するガラス転移温度が−45℃以上である水添ブロック共重合体(a)、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロックとイソプレン単位と1,3−ブタジエン単位とを主体とする重合体ブロックとを有するガラス転移温度が−45℃未満である水添ブロック共重合体(b)およびポリオレフィン系樹脂(c)を特定割合で配合してなる樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、低温特性及び成形加工性に優れる樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリプロピレン、ポリエチレンに代表されるポリオレフィン系樹脂は、耐熱性、剛性等に優れているため、フィルム、シート、容器等の分野で幅広く使用されている。近年、輸液バッグ等の医療分野や食品包装分野において、透明性、柔軟性、低温特性等が要望されているが、ポリオレフィン系樹脂は、透明性、柔軟性、低温特性が劣るため、これらの分野への使用が制限されることがあった。
【0003】
このような問題を解決するために、特許文献1には、ポリプロピレンに水添イソプレン系ブロック共重合体を配合した、柔軟性および透明性に優れたシート状物成型用組成物が開示されている。また、特許文献2には、ポリオレフィン系樹脂にビニル結合量の異なる2種類の水素添加ブロック共重合体を配合した、耐衝撃性、特に低温時における耐衝撃性と耐熱変形性、剛性のバランスに優れたポリオレフィン組成物が開示されている。さらに特許文献3には、ポリオレフィン系樹脂に水添ブロック共重合体を配合した、引張り伸びに優れるとともに、耐衝撃性や剛性等の物性のバランスが良好なポリオレフィン系樹脂組成物が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記の組成物は、透明性または低温特性のいずれかの性能が優れていても、その両方の性能を満足するものではなく、改良の余地があった。さらに、上記の組成物は、溶融張力(メルトテンション)が低く、インフレーション法のように溶融樹脂が延伸されながら成形される場合、バブル安定性が悪く、またTダイ成形を採用した場合にはドローダウンが激しくなることがあり、いずれも成形加工性が不十分であるという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平6−73246号公報
【特許文献2】特開平6−32947号公報
【特許文献3】特開2000−219781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかして、本発明の目的は、透明性、低温特性および成形加工性のいずれにも優れる樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、特定の水添ブロック共重合体2種とポリオレフィン系樹脂とからなる特定配合の樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体が上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)を提供するものである。
(1)水添ブロック共重合体(a)、水添ブロック共重合体(b)及びポリオレフィン系樹脂(c)からなる樹脂組成物であって、
水添ブロック共重合体(a)が、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロック(A)と、共役ジエン単位を主体とする重合体ブロック(B)とから少なくとも構成されるブロック共重合体が水素添加された水添ブロック共重合体であって、重合体ブロック(A)の含有量が水添ブロック共重合体(a)の総量に対して5〜60質量%であり、重合体ブロック(B)の水素添加率が70%以上であり、かつ該共重合体のガラス転移温度が−45℃以上であって;
水添ブロック共重合体(b)が、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロック(C)と、イソプレン単位と1,3−ブタジエン単位とを主体とする重合体ブロック(D)とから少なくとも構成されるブロック共重合体が水素添加された水添ブロック共重合体であって、重合体ブロック(C)の含有量が水添ブロック共重合体(b)の総量に対して5〜40質量%であり、重合体ブロック(D)の水素添加率が80%以上であり、かつ該共重合体のガラス転移温度が−45℃未満であって;
水添ブロック共重合体(a)と水添ブロック共重合体(b)との質量比〔(a)/(b)〕が10/90〜93/7であり、かつ水添ブロック共重合体(a)と水添ブロック共重合体(b)とポリオレフィン系樹脂(c)との質量比〔(c)/((a)+(b)+(c))〕が10/100〜90/100である樹脂組成物。
【0009】
(2)水添ブロック共重合体(a)の重合体ブロック(B)が、1,3−ブタジエン単位を主体として、又はイソプレン単位と1,3ブタジエン単位とを主体として構成されていることを特徴とする上記(1)に記載の樹脂組成物。
(3)水添ブロック共重合体(a)が、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロック(A1)及び重合体ブロック(A2)と、共役ジエン単位を主体とする重合体ブロック(B)とからなるA1−B−A2型の構造を有するブロック共重合体が水素添加された水添トリブロック共重合体であって、重合体ブロック(A1)の重量平均分子量〔Mw(A1)〕と重合体ブロック(A2)の重量平均分子量〔Mw(A2)〕との比〔Mw(A1)/Mw(A2)〕が0.10〜1.00を満足することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の樹脂組成物。
(4)ポリオレフィン系樹脂(c)の、温度230℃、荷重21.2Nにおけるメルトフローレートが0.2〜50g/10分であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂組成物からなるシート状成形体。
(6)上記(5)に記載のシート状成形体を用いてなる医療用具または食品用包装材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記構成を採用することによって、透明性、柔軟性および成形加工性に優れる樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体を提供することができる。本発明のシート状成形体は、特に医療用具または食品用包装材料に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられる第1の成分である水添ブロック共重合体(a)は、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロック(A)と、共役ジエン単位を主体とする重合体ブロック(B)とから少なくとも構成されるブロック共重合体が水素添加された水添ブロック共重合体であって、重合体ブロック(A)の含有量が水添ブロック共重合体(a)の総量に対して5〜60質量%であること、重合体ブロック(B)の水素添加率が70%以上であること、水添ブロック共重合体(a)のガラス転移温度が−45℃以上であることが重要である。
【0012】
また、本発明に用いられる第2の成分である水添ブロック共重合体(b)は、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロック(C)と、イソプレン単位と1,3−ブタジエン単位とを主体とする重合体ブロック(D)とから少なくとも構成されるブロック共重合体が水素添加された水添ブロック共重合体であって、重合体ブロック(C)の含有量が水添ブロック共重合体(b)の総量に対して5〜40質量%であること、重合体ブロック(D)の水素添加率が80%以上であること、水添ブロック共重合体(b)のガラス転移温度が−45℃未満であることが重要である。
【0013】
上記水添ブロック共重合体(a)の重合体ブロック(A)および上記水添ブロック共重合体(b)の重合体ブロック(C)は、それぞれ芳香族ビニル化合物単位を主体として構成されており、芳香族ビニル化合物単位が80質量%以上であることが好ましく、90〜100質量%の範囲内であることがより好ましく、芳香族ビニル化合物単位のみからなることがさらに好ましい。
【0014】
水添ブロック共重合体(a)の重合体ブロック(A)および水添ブロック共重合体(b)の重合体ブロック(C)をそれぞれ構成する芳香族ビニル化合物単位を誘導する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの中でもスチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレンが好ましく用いられる。
重合体ブロック(A)および重合体ブロック(C)は、それぞれこれらの芳香族ビニル化合物から誘導される単位の1種のみで構成されていてもよいし、2種以上から構成されていてもよい。
【0015】
また、上記重合体ブロック(A)および重合体ブロック(C)は、本発明の目的および効果の妨げにならない限り、それぞれ他の重合性単量体単位、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエン等から誘導される単位を少量、好ましくはそれぞれの重合体ブロックの総量に対して20質量%以下含んでいてもよい。
【0016】
また、水添ブロック共重合体(a)の重合体ブロック(B)は、共役ジエン単位を主体として構成されており、共役ジエン単位が80質量%以上であることが好ましく、90〜100質量%の範囲内であることがより好ましく、共役ジエン単位のみからなることがさらに好ましい。
水添ブロック共重合体(a)の重合体ブロック(B)を構成する共役ジエン単位しては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等から誘導される単位が挙げられる。これらの中でも、1,3−ブタジエン単位、イソプレン単位または1,3−ブタジエン単位とイソプレン単位との混合単位が好ましく、1,3−ブタジエン単位または1,3−ブタジエン単位とイソプレン単位との混合単位がより好ましく、1,3−ブタジエン単位とイソプレン単位との混合単位であることがさらに好ましい。重合体ブロック(B)が、1,3−ブタジエン単位とイソプレン単位との混合単位から構成されていると、得られる樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体の透明性、低温特性および成形加工性が良好となる。
重合体ブロック(B)は、これらの共役ジエン単位の1種のみで構成されていても、2種以上から構成されていてもよい。
【0017】
水添ブロック共重合体(b)の重合体ブロック(D)は、イソプレン単位と1,3−ブタジエン単位との混合単位を主体として構成されており、イソプレン単位と1,3−ブタジエン単位との混合単位が80質量%以上であることが好ましく、90〜100質量%の範囲内であることがより好ましく、イソプレン単位と1,3−ブタジエン単位との混合単位のみからなることがさらに好ましい。
【0018】
上記重合体ブロック(B)および重合体ブロック(D)は、本発明の目的および効果の妨げにならない限り、それぞれ他の重合体単量体単位、例えば、前記芳香族ビニル化合物等から誘導される単位を少量、好ましくはそれぞれの重合体ブロックの総量に対して20質量%以下含んでいてもよい。
【0019】
上記イソプレン単位と1,3−ブタジエン単位との混合単位における1,3−ブタジエンとイソプレンの混合割合は、特に制限されないが、性能向上等の観点から、混合割合(1,3−ブタジエン/イソプレン)(モル比)は10/90〜90/10の範囲内であることが好ましく、30/70〜70/30であることがより好ましく、40/60〜60/40であることがさらに好ましい。また、1,3−ブタジエンとイソプレンの重合形態は特に制限されず、ブロック共重合体でも、ランダム共重合体でもよい。
【0020】
水添ブロック共重合体(a)における重合体ブロック(A)の含有量は、水添ブロック共重合体(a)の総量に対して5〜60質量%の範囲内であることが重要であり、7〜40質量%であることが好ましく、9〜30質量%であることがより好ましい。水添ブロック共重合体(a)における重合体ブロック(A)の含有量が5質量%未満の場合には、得られる樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体の力学的強度が低下する傾向があり、一方、60質量%を超える場合には、得られる樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体の透明性が低下する傾向があり好ましくない。
【0021】
また、水添ブロック共重合体(b)における重合体ブロック(C)の含有量は、水添ブロック共重合体(b)の総量に対して5〜40質量%の範囲内であることが重要であり、10〜35質量%であることが好ましく、20〜35質量%であることがより好ましい。水添ブロック共重合体(b)における重合体ブロック(C)の含有量が5質量%未満の場合には、得られる樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体の力学的強度が低下する傾向があり、一方、40質量%を超える場合には、得られる樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体の透明性が低下する傾向があり好ましくない。
【0022】
水添ブロック共重合体(a)における重合体ブロック(B)の水素添加率、すなわち重合体ブロック(B)に含有される共役ジエン単位に由来する炭素−炭素二重結合の水素添加率は70%以上であり、80%以上であることが好ましく、85〜95%の範囲内であることがより好ましい。水添ブロック共重合体(a)における重合体ブロック(B)の水素添加率が70%に満たない場合は、得られる樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体の透明性が低下する傾向がある。なお、本明細書における水素添加率とは、水素添加反応前後のブロック共重合体のヨウ素価を測定することで得られる水素添加率を意味する。
【0023】
また、水添ブロック共重合体(b)における重合体ブロック(D)の水素添加率、すなわち重合体ブロック(D)に含有されるイソプレン単位と1,3−ブタジエン単位との混合単位に由来する炭素−炭素二重結合の水素添加率は80%以上であり、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。水添ブロック共重合体(b)における重合体ブロック(D)の水素添加率が80%に満たない場合は、得られる樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体の透明性が低下する傾向がある。
【0024】
水添ブロック共重合体(a)のガラス転移温度は、−45℃以上であり、−40〜10℃の範囲内であることが好ましく、−40〜0℃であることがより好ましい。水添ブロック共重合体(a)のガラス転移温度が−45℃に満たない場合は、得られる樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体の透明性が低下するため好ましくない。なお、本明細書におけるガラス転移点とは、示差走査型熱量計(DSC)にて昇温速度10℃/分で測定したガラス転移温度を意味する。
【0025】
また、水添ブロック共重合体(b)のガラス転移温度は、−45℃未満であり、−65〜−50℃の範囲内であることが好ましく、−60〜−50℃であることがより好ましい。水添ブロック共重合体(b)のガラス転移温度が−45℃以上である場合には、得られる樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体の透明性が低下するため好ましくない。
【0026】
水添ブロック共重合体(a)は重合体ブロック(A)および重合体ブロック(B)を、水添ブロック共重合体(b)は重合体ブロック(C)および重合体ブロック(D)をそれぞれ少なくとも1種ずつ含む。水添ブロック共重合体(a)における重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)の結合様式、および水添ブロック共重合体(b)における重合体ブロック(C)と重合体ブロック(D)の結合様式は、線状、分岐状、放射状、およびこれらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。
ここで、重合体ブロック(A)または重合体ブロック(C)をXで、重合体ブロック(B)または重合体ブロック(D)をYでそれぞれ表したとき、水添ブロック共重合体(a)および水添ブロック共重合体(b)としては、例えば、X−Yで表されるジブロック共重合体、X−Y−XまたはY−X−Yで表されるトリブロック共重合体、X−Y−X−Yで表されるテトラブロック共重合体、(X−Y)nZ型共重合体(Zはカップリング残基を表し、nは2以上の整数を表す)、およびそれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、上記トリブロック共重合体が好ましく用いられるが、重合体ブロック(A)をA、重合体ブロック(B)をB、重合体ブロック(C)をC、および重合体ブロック(D)をDでそれぞれ表したとき、水添ブロック共重合体(a)としてA−B−A型と水添ブロック共重合体(b)としてC−D−C型の組み合わせで用いるのが好ましい。
【0027】
本発明における水添ブロック共重合体(a)としては、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロック(A1)および重合体ブロック(A2)と、共役ジエン単位を主体とする重合体ブロック(B)とからなるA1−B−A2型の構造を有するブロック共重合体が水素添加された水添トリブロック共重合体が好ましく用いられる。
ここで、重合体ブロック(A1)の重量平均分子量は、好ましくは150〜60,000であり、より好ましくは300〜40,000であり、重合体ブロック(A2)の重量平均分子量は、好ましくは750〜120,000であり、より好ましくは15,000〜80,000である。また、重合体ブロック(A1)の重量平均分子量を〔Mw(A1)〕で表し、重合体ブロック(A2)の重量平均分子量を〔Mw(A2)〕で表した場合、その比〔Mw(A1)/Mw(A2)〕は、得られる樹脂組成物および該樹脂組成物からなるシート状成形体の透明性および柔軟性の観点から、0.10〜1.00の範囲内であることが好ましく、特にシート状成形体の透明性および柔軟性の観点からは、0.20〜0.60であることがより好ましく、0.25〜0.50であることがさらに好ましい。なお、本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定によって求めたポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0028】
水添ブロック共重合体(a)および水添ブロック共重合体(b)の重量平均分子量は、それぞれ30,000〜300,000の範囲内であることが好ましく、50,000〜250,000であることがより好ましく、60,000〜200,000であることがさらに好ましい。水添ブロック共重合体(a)および水添ブロック共重合体(b)の重量平均分子量がそれぞれ30,000〜300,000の範囲内である場合には、得られる樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体が良好な力学的強度を示すので好ましい。
【0029】
本発明に用いる水添ブロック共重合体(a)および水添ブロック共重合体(b)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、アニオン重合法により製造することができる。
具体的には、
(i)アルキルリチウム化合物を重合開始剤として芳香族ビニル化合物、共役ジエン、芳香族ビニル化合物を逐次重合させる方法;
(ii)アルキルリチウム化合物を重合開始剤として芳香族ビニル化合物、共役ジエンを逐次重合させ、次いでカップリング剤を加えてカップリングする方法;
(iii)ジリチウム化合物を重合開始剤として共役ジエン、次いで芳香族ビニル化合物を逐次重合させる方法等が挙げられる。
【0030】
上記のアルキルリチウム化合物としては、例えばメチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、ペンチルリチウム等が挙げられる。カップリング剤としてはジクロロメタン、ジブロモメタン、ジクロロエタン、ジブロモエタン、ジブロモベンゼン等が挙げられる。また、ジリチウム化合物としてはナフタレンジリチウム、ジリチオヘキシルベンゼン等が挙げられる。
【0031】
これらのアルキルリチウム化合物、ジリチウム化合物等の重合開始剤およびカップリング剤の使用量は、目的とする水添ブロック共重合体(a)および水添ブロック共重合体(b)の所望とする重量平均分子量により適宜決定される。通常は、アルキルリチウム化合物、ジリチウム化合物等の重合開始剤は、重合に用いる芳香族ビニル化合物、1,3−ブタジエン、イソプレン等の重合性単量体の合計100質量部あたり、0.01〜0.2質量部の割合で用いられ、カップリング剤を使用する場合は前記重合性単量体の合計100質量部あたり、0.001〜0.8質量部の割合で用いられる。
【0032】
上記のアニオン重合は、溶媒の存在下で行うのが好ましい。溶媒としては、重合開始剤に対して不活性で、重合反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に制限はない。例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、トルエン、ベンゼン、キシレン等の飽和脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素が挙げられる。また、重合反応は、上記した(i)〜(iii)のいずれの方法による場合も、通常、0〜80℃、好ましくは10〜70℃の温度で、0.5〜50時間、好ましくは1〜30時間行う。
【0033】
また、水添ブロック共重合体(a)のガラス転移温度を−45℃以上に制御するには、重合の際に共触媒としてルイス塩基を、重合に用いる単量体100質量部あたり0.5〜10質量部、好ましくは2〜7質量部添加して、水添ブロック共重合体(a)の重合体ブロック(B)を構成する共役ジエン単位の結合様式を制御することが望ましく、共役ジエン単位が1,3−ブタジエン単位、イソプレン単位または1,3−ブタジエン単位とイソプレン単位との混合単位である場合には、1,2−結合および3,4−結合の含有量を好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは55%以上に制御するのが望ましい。
また、水添ブロック共重合体(b)のガラス転移温度を−45℃未満に制御するには、上記したルイス塩基を用いないか、またはルイス塩基を用いる場合は、重合に用いる単量体100質量部あたり0.5質量部未満の量を添加して、水添ブロック共重合体(b)の重合体ブロック(D)を構成するイソプレン単位と1,3−ブタジエン単位との結合様式を制御するのが望ましく、具体的には1,2−結合および3,4−結合の含有量を好ましくは40%未満、より好ましくは35%以下、さらに好ましくは30%以下に制御するのが望ましい。
【0034】
用いることのできるルイス塩基としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチレンジアミン、N−メチルモルホリン等のアミン類等が挙げられる。これらのルイス塩基は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
ルイス塩基の添加量は、重合体ブロック(B)および重合体ブロック(D)を構成する共役ジエン単位の結合様式またはイソプレン単位と1,3−ブタジエン単位との結合様式をどの程度制御するかにより決定される。そのため、ルイス塩基の添加量に厳密な意味での制限はないが、重合開始剤として用いられるアルキルリチウム化合物またはジリチウム化合物に含有されるリチウム1グラム原子あたり通常0.1〜1,000モルの範囲内で、好ましくは1〜100モルで用いる。
【0035】
上記した方法により重合を行なった後、重合反応液に含まれるブロック共重合体を、これらブロック共重合体をメタノールなどの貧溶媒に注いで凝固させるか、または重合反応液をスチームと共に熱水中に注いで溶媒を共沸によって除去(スチームストリッピング)した後、乾燥させることにより、水素添加されていない水添ブロック共重合体(a)および水添ブロック共重合体(b)を単離することができる。
【0036】
続いて、上記で得られたブロック共重合体を水素添加反応に付すことによって、水素添加された水添ブロック共重合体(a)および水添ブロック共重合体(b)を製造することができる。水素添加反応は、ラネーニッケル;Pt、Pd、Ru、Rh、Ni等の金属をカーボン、アルミナ、珪藻土等の単体に担持させた不均一系触媒;遷移金属化合物とアルキルアルミニウム化合物、アルキルリチウム化合物等との組み合わせからなるチーグラー系触媒;メタロセン系触媒などの水素添加触媒の存在下、反応および水素添加触媒に対して不活性な溶媒に上記で得られたブロック共重合体を溶解させ、水素と反応させることにより行うことができる。
水素添加反応は、水素圧力を通常0.1〜20MPa、好ましくは0.5〜15MPa、反応温度を通常20〜250℃、好ましくは50〜150℃、反応時間を通常0.1〜100時間、好ましくは1〜50時間の範囲として行うことができる。
なお、上記で得られたブロック共重合体を含む重合反応液からブロック共重合体を単離せず、該重合反応液をそのまま水素添加反応に付すこともできる。この方法による場合、水素添加反応液をメタノールなどの貧溶媒に注いで凝固させるか、または水素添加反応液をスチームと共に熱水中に注いで溶媒を共沸によって除去(スチームストリッピング)した後、乾燥することにより、水素添加された水添ブロック共重合体(a)および水添ブロック共重合体(b)を得ることができる。
【0037】
このようにして得られた水添ブロック共重合体(a)および水添ブロック共重合体(b)を、従来公知の方法を用いてペレット化することにより、水添ブロック共重合体(a)および水添ブロック共重合体(b)のペレットを製造することができる。
ペレット化の方法としては、例えば、一軸または二軸押出機から水添ブロック共重合体(a)および/または水添ブロック共重合体(b)をストランド状に押出して、ダイ部前面に設置された回転刃により、水中で切断する方法;一軸または二軸押出機から水添ブロック共重合体(a)および/または水添ブロック共重合体(b)をストランド状に押出して、水冷または空冷した後、ストランドカッターにより切断する方法などが挙げられる。
【0038】
本発明に用いる第3の成分であるポリオレフィン系樹脂(c)としては、プロピレンの単独重合体、エチレンの単独重合体、プロピレンおよびエチレンのブロック共重合体またはランダム共重合体、プロピレンおよび/またはエチレンとα−オレフィンのブロック共重合体またはランダム共重合体などが挙げられる。
かかる共重合体におけるα−オレフィンとしては、例えば1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの炭素数20以下のα−オレフィンが挙げられる。これらのα−オレフィンは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記ポリオレフィン系樹脂(c)の中でも、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−1−ヘキセン共重合体が好ましく用いられる。
【0039】
上記ポリオレフィン系樹脂(c)の温度230℃、荷重21.2Nにおけるメルトフローレート(以下、MFRと略すことがある)としては、成形加工性の観点から、0.2〜40g/10分が好ましく、2〜30g/10分がより好ましく、3〜20g/10分がさらに好ましく、5〜10g/10分が最も好ましい。
【0040】
本発明の樹脂組成物は、水添ブロック共重合体(a)、水添ブロック共重合体(b)およびポリオレフィン系樹脂(c)からなる。
水添ブロック共重合体(a)、水添ブロック共重合体(b)およびポリオレフィン系樹脂(c)の配合割合は、水添ブロック共重合体(a)と水添ブロック共重合体(b)との質量比〔(a)/(b)〕が10/90〜93/7の範囲であることが必要であり、15/85〜85/15であることが好ましく、17/83〜83/17であるのがより好ましい。水添ブロック共重合体(a)と水添ブロック共重合体(b)の配合割合において、水添共重合体(a)の含有量が10質量%未満の場合には、得られる樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体の透明性が不十分となり、一方、93質量%を超えると、得られる樹脂組成物からなるシート状成形体がロール等に対し膠着を起こす場合があり好ましくない。さらに、得られる樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体の透明性を重視する観点から、水添ブロック共重合体(a)と水添ブロック共重合体(b)との質量比〔(a)/(b)〕は50/50〜93/7の範囲であることが好ましく、55/45〜90/10であるのがより好ましく、60/40〜85/15であるのがさらに好ましい。
【0041】
本発明においては上記質量比〔(a)/(b)〕を満足すると同時に、水添ブロック共重合体(a)と水添ブロック共重合体(b)とポリオレフィン系樹脂(c)との質量比〔(c)/((a)+(b)+(c))が10/100〜90/100の範囲内であることが必要であり、20/100〜80/100であるのが好ましく、30/100〜60/100であるのがより好ましい。水添ブロック共重合体(a)、水添ブロック共重合体(b)およびポリオレフィン系樹脂(c)の合計量に対するポリオレフィン系樹脂(c)の含有量が10質量%未満の場合は、得られる樹脂組成物からなるシート状成形体が膠着を起こしやすい傾向となり、一方、90質量%を超えると、得られる樹脂組成物からなるシート状成形体同士の密着性が不十分となり好ましくない。
【0042】
本発明に用いる樹脂組成物は、本発明の主旨を損なわない範囲で他のポリマーを含有してもよい。かかるポリマーとしては、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴム、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体の金属イオン架橋樹脂(アイオノマー)、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー等のアセタール系樹脂、ポリメチルメタアクリレート系樹脂等のアクリル系樹脂等が挙げられる。
【0043】
本発明に用いる樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で必要に応じてゴム用軟化剤を含有してもよい。かかるゴム用軟化剤としては、例えば、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系、流動パラフィン系などの炭化水素系オイル、シリコンオイルの他、液状ポリイソプレン、液状ポリブタジエン、液状ポリイソブチレン等を用いてもよい。
【0044】
また、上記樹脂組成物には、本発明の目的および効果を妨げない範囲で、粘着付与樹脂、無機フィラーを添加することもできる。
粘着付与樹脂としては、例えばロジン系樹脂、テルペンフェノール樹脂、テルペン樹脂、芳香族炭化水素変性テルペン樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環式系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、フェノール系樹脂、キシレン樹脂等が挙げられる。粘着付与樹脂を添加する場合の配合量は、得られる樹脂組成物およぎそれからなるシート状成形体の透明性、膠着防止性の観点から、水添ブロック共重合体(a)、水添ブロック共重合体(b)およびポリオレフィン系樹脂(c)の合計量100質量部あたり、50質量部以下であるのが好ましく、30質量部以下であるのがより好ましい。
【0045】
無機フィラーとしては、例えばタルク、クレー、マイカ、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等が挙げられる。本発明の樹脂組成物は、透明性の観点から無機フィラーを含まないのが好ましいが、所望の性能を向上させる観点から無機フィラーを添加する場合には、その配合量は、得られる樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体の透明性の観点から、水添ブロック共重合体(a)、水添ブロック共重合体(b)およびポリオレフィン系樹脂(c)の合計量100質量部あたり、3質量部以下であるのが好ましく、2質量部以下であるのがより好ましい。
【0046】
また、本発明に用いる樹脂組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、必要に応じて他の添加剤、例えば、加工熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、撥水剤、防水剤、親水性付与剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、電磁波シールド性付与剤、透光性調整剤、蛍光剤、摺動性付与剤、透明性付与剤、アンチブロッキング剤、金属不活性化剤、防菌剤等をさらに添加してもよい。
加工熱安定剤としては、例えばリン系加工熱安定剤、ラクトン系加工熱安定剤、ヒドロキシル系加工熱安定剤等が挙げられる。これらの中でも、ラクトン系加工熱安定剤が好ましく、その含有量は、得られる樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体の透明性の観点から、水添ブロック共重合体(a)、水添ブロック共重合体(b)およびポリオレフィン系樹脂(c)の合計量100質量部あたり、3質量部以下であるのが好ましく、2質量部以下であるのがより好ましい。
【0047】
上記樹脂組成物は、水添ブロック共重合体(a)、水添ブロック共重合体(b)、ポリオレフィン系樹脂(c)および必要に応じて加えられる他の成分を、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー、コニカルブレンダーなどの混合機を用いて混合することによって、またはその混合後、一軸押出機、二軸押出機、ニーダー等により溶融混練することによって製造することができる。得られた樹脂組成物は、シート状に成形し易くするために、ペレット化するのが好ましい。混練時の溶融温度は、適宜設定することができるが、通常150〜300℃の範囲内であり、好ましくは180〜250℃である。
【0048】
本発明のシート状成形体は、上記樹脂組成物からなり、以下に述べる方法により、所望の形状に成形される。本発明のシート状成形体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、押出し成形法としてTダイ法、インフレーション法等を採用することができ、インフレーション成形として通常の空冷インフレーション成形、空冷2段インフレーション成形、高速インフレーション成形、水冷インフレーション成形などを採用できる。または、ダイレクトブロー、インジェクションブローなどのブロー成形法、プレス成形法を採用することもできる。
【0049】
成形方法としては、上述した各種成形方法を適用できるが、これらの中でも、本発明のシート状成形体は、バブル安定性及びドローダウンの抑制に優れるため、インフレーション成形法、Tダイ成形法が特に好ましい。これらの方法により上記組成物をシート状に成形することにより、本発明のシート状成形体を得ることができる。一般に厚みが0.005mm以上0.2mm未満であるシート状成形体をフィルムといい、厚みが0.2mm以上50mm以下であるシート状成形体をシートという。本発明のシート状成形体は、上記フィルム、シートを包含する。本発明のシート状成形体の厚みは、特に限定されないが、成形加工性、柔軟性等の観点から、0.005mm〜0.5mmの範囲内であることが好ましく、0.01mm〜0.3mmであることがより好ましい。
【0050】
本発明の樹脂組成物は、成形加工性、特に溶融張力に優れるため、インフレーション法のような溶融樹脂が延伸されながら成形される成形方法に好適である。溶融張力に優れると、バブル安定性が良くなり、またドローダウンが抑制されるため、シート状成形体の生産性が向上する。
【0051】
本発明のシート状成形体は、単層で用いることもできるが、本発明の主旨を損なわない範囲で他のポリマーを積層して多層フィルムとしてもよい。かかるポリマーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン・プロピレン共重合ゴム(EPM)、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合ゴム(EPDM)などのオレフィン系重合体;ポリエステルエラストマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系重合体;ポリアミド6、ポリアミド6・6、ポリアミド6・10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6・12などのポリアミド系樹脂;ポリアクリル酸メチルやポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系樹脂;ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマーなどのポリオキシメチレン系樹脂;スチレン単独重合体、アクリロニトリル・スチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂などのスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;スチレン・ブタジエン共重合体ゴム、スチレン・イソプレン共重合体ゴムなどのスチレン系エラストマーおよびその水素添加物またはその変性物;天然ゴム;合成イソプレンゴム、液状ポリイソプレンゴムおよびその水素添加物または変性物;クロロプレンゴム;アクリルゴム;ブチルゴム;アクリロニトリル・ブタジエンゴム;エピクロロヒドリンゴム;シリコーンゴム;フッ素ゴム;クロロスルホン化ポリエチレン;ウレタンゴム;ポリウレタン系エラストマー;ポリアミド系エラストマー;ポリエステル系エラストマー;軟質塩化ビニル樹脂などを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上のブレンドを、単層または層毎に種類が異なっていてもよい多層で積層して用いることができる。
【0052】
他の材料との積層化にあっては、多層Tダイ法、多層インフレーション法、押出しラミネーション法などの共押出し成形法、ウエットラミネーション、ドライラミネーション、プレス成形などの一般的な多層シートまたはフィルム成形法、コインジェクションブローなどの多層インジェクションブロー、多層ダイレクトブローなどのブロー成形法を採用することができる。また成形された多層積層体は、未延伸のまま、あるいは一軸、二軸延伸して用いることもできる。
【0053】
本発明のシート状成形体は、後述の実施例で示すとおり、透明性、低温特性及び成形加工安定性に優れており、特に用途を制限せずに用いることができる。この特性を活かして、各種衣料類の包装、各種食品の包装、日用雑貨包装、工業資材包装、各種ゴム製品、樹脂製品、皮革製品等のラミネート、紙おむつ等に用いられる伸縮テープ、ダイシングフィルム等の工業用品、建材や鋼板の保護に用いられるプロテクトフィルム、粘着フィルムの基材、食肉鮮魚用トレー、青果物パック、冷凍食品容器等のシート用品、テレビ、ステレオ、掃除機等の家電用品用途、バンパー部品、ボディーパネル、サイドシールなどの自動車内外装部品用途、道路舗装材、防水、遮水シート、土木パッキン、日用品、レジャー用品、玩具、工業用品、ファニチャー用品、筆記用具、透明ポケット、ホルダー、ファイル背表紙等の文具、医療用具等の幅広い用途に好適に用いることができる。これらの中でも、本発明のシート状成形体は、透明性、低温特性及び成形加工安定性などの特性を活かして、各種食品の包装用、輸液バッグ、血液バッグ、人工肛門および人工膀胱で使用する補装具等の医療器具に特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、参考例および実施例中の各種測定値は以下の方法により求めた。
【0055】
1)水添ブロック共重合体のガラス転移温度
セイコー電子工業社製 示差走査型熱量計 DSC200を用い、10℃/分の昇温速度にて、測定曲線の変曲点の温度を読みとり、水添ブロック共重合体のガラス転移温度とした。
【0056】
2)ブロック共重合体のスチレン含有量、1,2−結合および3,4−結合の含有量
H−NMRスペクトル測定により算出して、ブロック共重合体のスチレン含有量、1,2−結合および3,4−結合の含有量を求めた。
【0057】
3)ブロック共重合体の水素添加率
水素添加反応前後のブロック共重合体のヨウ素価を測定し、その比よりブロック共重合体の水素添加率を算出した。
【0058】
4)透明性
実施例および比較例で得られた厚み約200μmのフィルムを用いて、ASTM D−1003に準拠し、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所製「HR−100」)を用いてヘイズ値(%)を測定し、透明性の指標とした。ヘイズ値が小さいほど透明性に優れていることを示す。ヘイズの値としては、10%以下が好ましく、7%以下がより好ましい。
【0059】
5)低温特性
実施例および比較例で得られた樹脂組成物を用いて、アイゾット試験片を220℃でプレス成形し、ノッチ付き試験片を得た。試験方法は、JIS K7110に準拠し、−40℃雰囲気下で、アイゾット衝撃試験機を使用し測定を行った。低温特性としては、50J/m以上が好ましく、試験片が破壊しない(ノットブレーク(NB))がより好ましい。
【0060】
6)成形加工性
実施例および比較例で得られた樹脂組成物より、東洋精機製「CAPIROGRAPH 1B」を使用して、オリフィス径1.0mmφ、オリフィス長10mm、巻取り速度15m/分にて溶融張力(メルトテンション:mN)を測定して、成形加工性の指標とした。成形加工性としては、10mN以上が好ましく、15mNがより好ましく、20mN以上がさらに好ましい。
【0061】
参考例1
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン80L、重合開始剤としてsec−ブチルリチウム(10%、シクロヘキサン溶液)0.12L、ルイス塩基としてテトラヒドロフラン0.3Lを仕込み、50℃に昇温した後、スチレン0.39Lを加えて3時間重合させ、引き続いてイソプレン6.8Lおよびブタジエン7.5Lの混合液を加えて4時間重合を行い、さらにスチレン1.18Lを加えて3時間重合を行った。得られた重合反応液をメタノール80L中に注ぎ、析出した固体を濾別して50℃で20時間乾燥することにより、1,2−結合および3,4−結合の含有量が65%のポリスチレン−ポリイソプレン/ポリブタジエン−ポリスチレントリブロック共重合体を得た。続いて、得られたポリスチレン−ポリイソプレン/ポリブタジエン−ポリスチレントリブロック共重合体10kgをシクロヘキサン200Lに溶解し、水素添加触媒としてパラジウムカーボン(パラジウム担持量:5質量%)を該共重合体に対して5質量%添加し、水素圧力2MPa、150℃の条件で10時間反応を行った。放冷、放圧後、濾過によりパラジウムカーボンを除去し、濾液を濃縮し、さらに真空乾燥することにより、ポリスチレン−ポリイソプレン/ポリブタジエン−ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物(以下、これを水添共重合体(1)と略称する)を得た。水添共重合体(1)の〔Mw(A1)/Mw(A2)〕は0.30、ガラス転移温度は−30℃、スチレン含有量は13質量%、水素添加率は85%、重量平均分子量は130,000であった。
【0062】
参考例2
参考例1において、重合開始剤としてsec−ブチルリチウム(10%、シクロヘキサン溶液)0.12L、ルイス塩基としてテトラヒドロフラン0.3Lを仕込み、重合させるモノマーとしてスチレン0.75L、イソプレン6.0Lおよびブタジエン7.0Lの混合溶液、スチレン0.75Lを逐次添加して重合させた以外は参考例1と同様の方法で重合反応および水素添加反応を行い、1,2−結合および3,4−結合の含有量が65%のポリスチレン−ポリイソプレン/ポリブタジエン−ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物9kg(以下、これを水添共重合体(2)と略称する)を得た。水添共重合体(2)の〔Mw(A1)/Mw(A2)〕は1.00、ガラス転移温度は−30℃、スチレン含有量は14質量%、水素添加率は86%、重量平均分子量は130,000であった。
【0063】
参考例3
参考例1において、重合開始剤としてsec−ブチルリチウム(10%、シクロヘキサン溶液)0.07L、ルイス塩基としてテトラヒドロフラン0.3Lを仕込み、重合させるモノマーとしてスチレン0.08L、ブダジエン17.2L、スチレン0.08Lを逐次添加して重合させた以外は参考例1と同様の方法で重合反応および水素添加反応を行い、1,2−結合および3,4−結合の含有量が65%のポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物11kg(以下、これを水添共重合体(3)と略称する)を得た。水添共重合体(3)の〔Mw(A1)/Mw(A2)〕は1.00、ガラス転移温度は−45℃、スチレン含有量は12質量%、水素添加率は85%、重量平均分子量は190,000であった。
【0064】
参考例4
参考例1において、重合開始剤としてsec−ブチルリチウム(10%、シクロヘキサン溶液)0.13L、ルイス塩基としてテトラヒドロフラン0.2Lを仕込み、重合させるモノマーとしてスチレン1.60L、イソプレン16.0L、スチレン1.60Lを逐次添加して重合させた以外は参考例1と同様の方法で重合反応および水素添加反応を行い、1,2−結合および3,4−結合の含有量が75%のポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物13kg(以下、これを水添共重合体(4)と略称する)を得た。水添共重合体(4)の〔Mw(A1)/Mw(A2)〕は1.00、ガラス転移温度は−15℃、スチレン含有量は21質量%、水素添加率は85%、重量平均分子量は130,000であった。
【0065】
参考例5
参考例1において、重合開始剤としてsec−ブチルリチウム(10%、シクロヘキサン溶液)0.18L、重合させるモノマーとしてスチレン2.20L、イソプレン6.6Lおよびブタジエン7.5Lの混合液、スチレン2.20Lを逐次添加して重合させた以外は参考例1と同様の方法で重合反応および水素添加反応を行い、1,2−結合および3,4−結合の含有量が5%のポリスチレン−ポリイソプレン/ポリブタジエン−ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物13kg(以下、これを水添共重合体(5)と略称する)を得た。水添共重合体(5)の〔Mw(A1)/Mw(A2)〕は1.00、ガラス転移温度は−55℃、スチレン含有量は30質量%、水素添加率は98%、重量平均分子量は100,000であった。
【0066】
参考例6
参考例1において、重合開始剤としてsec−ブチルリチウム(10%、シクロヘキサン溶液)0.27Lを仕込み50℃昇温後、重合させるモノマーとしてスチレン2.40Lを添加し重合させた後、ルイス塩基としてテトラヒドロフラン0.145Lを仕込み、ブタジエン17.20L、スチレン2.40Lを逐次添加して重合させた以外は参考例1と同様の方法で重合反応および水素添加反応を行い、1,2−結合および3,4−結合の含有量が42%のポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物15kg(以下、これを水添共重合体(6)と略称する)を得た。水添共重合体(6)の〔Mw(A1)/Mw(A2)〕は1.00、ガラス転移温度は−55℃、スチレン含有量は30質量%、水素添加率は96%、重量平均分子量は80,000であった。
【0067】
参考例7
参考例1において、重合開始剤としてsec−ブチルリチウム(10%、シクロヘキサン溶液)0.17L、重合させるモノマーとしてスチレン1.40L、イソプレン18.0L、スチレン1.40Lを逐次添加して重合させた以外は参考例1と同様の方法で重合反応および水素添加反応を行い、1,2−結合および3,4−結合の含有量が5%のポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物14kg(以下、これを水添共重合体(7)と略称する)を得た。水添共重合体(7)の〔Mw(A1)/Mw(A2)〕は1.00、ガラス転移温度は−58℃、スチレン含有量は17質量%、水素添加率は95%、重量平均分子量は80,000であった。
【0068】
参考例8
参考例1において、重合開始剤としてsec−ブチルリチウム(10%、シクロヘキサン溶液)0.27Lを仕込み50℃昇温後、重合させるモノマーとしてスチレン2.40Lを添加し重合させた後、ルイス塩基としてテトラヒドロフラン0.06Lを仕込みブタジエン17.20L、スチレン2.40Lを逐次添加して重合させた以外は参考例1と同様の方法で重合反応および水素添加反応を行い、1,2−結合および3,4−結合の含有量が35%のポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物15kg(以下、これを水添共重合体(8)と略称する)を得た。水添共重合体(8)の〔Mw(A1)/Mw(A2)〕は1.00、ガラス転移温度は−60℃、スチレン含有量は30質量%、水素添加率は96%、重量平均分子量は80,000であった。
【0069】
実施例1〜9および比較例1〜10
参考例1〜8で得られた水添ブロック共重合体と下記ポリオレフィン系樹脂(PP(1)およびPP(2))を表1または表2に示した配合割合でペレットブレンドしたものを、口径40mm単軸押出機を用いて180〜240℃で溶融混練して、樹脂組成物よりなるペレットを得た。得られたペレットを用いて成形加工性を評価すると共に、このペレットをプレス成形し、得られた試験片から低温特性を評価した。また、これらペレットを単軸押出機、Tダイを用いて200〜230℃で押出し成形することにより(冷却ロール:25℃設定)、厚み200μmのシート状成形体を作製した。得られたシート状成形体ついて、透明性を評価した。得られた結果を表1および表2に示す。
PP(1):プロピレン−エチレンランダム共重合体[「F327」(商品名)、プライムポリマー製、MFR=7g/10分(230℃、21.2N)、融点145℃]
PP(2):プロピレン−エチレンランダム共重合体[「F329RA」(商品名)、プライムポリマー製、MFR=25g/10分(230℃、21.2N)、融点135℃]
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
表1および表2の結果より、実施例1〜8で得られた樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体は、透明性、低温特性および成形加工性のいずれにも優れることが分かる。
これに対して、比較例1〜10の結果は次のとおりであった。
(1)水添ブロック共重合体(b)を含まない比較例1〜3で得られた樹脂組成物は、低温特性に劣ることが分かる。
(2)水添ブロック共重合体(b)の替わりに、共役ジエン重合体ブロックが1,3−ブタジエン単位単独から構成される水添共重合体(6)またはイソプレン単位単独から構成される水添共重合体(7)を用いた比較例4および5で得られた樹脂組成物は、透明性および成形加工性に劣ることが分かる。
(3)水添ブロック共重合体(a)も水添ブロック共重合体(b)も含まない比較例6で得られた樹脂組成物は、透明性に劣ることが分かる。
【0073】
(4)比較例7で得られた樹脂組成物は、水添ブロック共重合体(a)と水添ブロック共重合体(b)との質量比〔(a)/(b)〕の値が大きいために、低温特性に劣ることが分かる。
(5)比較例8で得られた樹脂組成物は、水添ブロック共重合体(a)と水添ブロック共重合体(b)とポリオレフィン系樹脂(c)との質量比〔(c)/((a)+(b)+(c))〕の値が小さいため、透明性に劣ることが分かる。
(6)比較例9で得られた樹脂組成物(特許文献1および2の組成物に対応)は、水添ブロック共重合体(a)を含まないため、透明性、低温特性および成形加工性に劣ることが分かる。
(7)比較例10で得られた樹脂組成物(特許文献3の組成物に対応)は、水添ブロック共重合体(b)を含まず、共役ジエンブロックが1,3−ブタジエン単位単独から構成される水添共重合体(8)を用いているため、透明性に劣ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の樹脂組成物およびそれからなるシート状成形体は、透明性、低温特性および成形加工性のいずれにも優れる。この特性を活かして、本発明のシート状成形体は、輸液バッグ、血液バッグ、人工肛門および人工膀胱で使用する補装具等の医療用具や、食品包装フィルム、食肉鮮魚用トレー、青果物パック、冷凍食品容器等の食品包装材料に好適に用いることができる。また、医療用途および食品包装用途の他にも、透明性および低温特性が要求される分野において幅広く使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水添ブロック共重合体(a)、水添ブロック共重合体(b)及びポリオレフィン系樹脂(c)からなる樹脂組成物であって、
水添ブロック共重合体(a)が、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロック(A)と、共役ジエン単位を主体とする重合体ブロック(B)とから少なくとも構成されるブロック共重合体が水素添加された水添ブロック共重合体であって、重合体ブロック(A)の含有量が水添ブロック共重合体(a)の総量に対して5〜60質量%であり、重合体ブロック(B)の水素添加率が70%以上であり、かつ該共重合体のガラス転移温度が−45℃以上であって;
水添ブロック共重合体(b)が、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロック(C)と、イソプレン単位と1,3−ブタジエン単位とを主体とする重合体ブロック(D)とから少なくとも構成されるブロック共重合体が水素添加された水添ブロック共重合体であって、重合体ブロック(C)の含有量が水添ブロック共重合体(b)の総量に対して5〜40質量%であり、重合体ブロック(D)の水素添加率が80%以上であり、かつ該共重合体のガラス転移温度が−45℃未満であって;
水添ブロック共重合体(a)と水添ブロック共重合体(b)との質量比〔(a)/(b)〕が10/90〜93/7であり、かつ水添ブロック共重合体(a)と水添ブロック共重合体(b)とポリオレフィン系樹脂(c)との質量比〔(c)/((a)+(b)+(c))〕が10/100〜90/100である樹脂組成物。
【請求項2】
水添ブロック共重合体(a)の重合体ブロック(B)が、1,3−ブタジエン単位を主体として、又はイソプレン単位と1,3ブタジエン単位とを主体として構成されていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
水添ブロック共重合体(a)が、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロック(A1)及び重合体ブロック(A2)と、共役ジエン単位を主体とする重合体ブロック(B)とからなるA1−B−A2型の構造を有するブロック共重合体が水素添加された水添トリブロック共重合体であって、重合体ブロック(A1)の重量平均分子量〔Mw(A1)〕と重合体ブロック(A2)の重量平均分子量〔Mw(A2)〕との比〔Mw(A1)/Mw(A2)〕が0.10〜1.00を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
ポリオレフィン系樹脂(c)の、温度230℃、荷重21.2Nにおけるメルトフローレートが0.2〜50g/10分であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなるシート状成形体。
【請求項6】
請求項5に記載のシート状成形体を用いてなる医療用具または食品用包装材料。

【公開番号】特開2010−106200(P2010−106200A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281828(P2008−281828)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】