説明

樹脂組成物およびそれを用いた成型体並びに床材

【課題】ポリ乳酸系または脂肪族ポリエステル系樹脂(a)と核剤(b)を含んでなる樹脂組成物であって、天然資源を有効利用し、且つ、高い結晶性を有し、優れた耐熱強度を有するポリ乳酸系または脂肪族ポリエステル樹脂系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】核剤が結晶性の多糖類からなり、核剤の粒子径が500μm以下で、キチン、キトサンまたはカニ殻からなり、ポリ乳酸系または脂肪族ポリエステル系樹脂(a)100重量部に対し核剤(b)が0.1から10重量部の範囲にあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス系素材を利用し成形性に加え、耐熱性、高強度を付与させた樹脂組成物およびそれを用いた成形体並びに床材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の石油や石炭など化石資源の一方的な消費の下に発展してきた文明は、資源の枯渇、大気の二酸化炭素濃度の増加による温暖化や様々な環境汚染、廃棄物問題など、地球に過大な負荷を与えつづけている。これらの環境問題に対する解決策として、バイオマス系素材を原料とし、熱可塑性樹脂や、様々な成形品を製造する技術が開発されている。
【0003】
特に、セルロースやキチン、澱粉などの多糖類については、地球上で最も存在量の多い化合物であることに加え、多くの石化資源に比べ短期間での再生可能な資源であるという利点があるものの、その成形性に課題があり、その存在量に対して十分に利用が進んでいるとは言えない。
【0004】
一方、従来その生物分解性に着目され開発が行われてきたポリ乳酸や脂肪族ポリエステルなどのいわゆる生分解性プラスチックは、熱溶融成形が可能であるものの、十分な強度や機能が得られているとは言えず、その利用に制限があるのが現状である。
これまでも、それらの課題を解決する為に、各種添加剤の開発や、生分解性プラスチック自体の改質が行われてきた。
【0005】
例えば、核剤を添加し、より結晶化をしやすくし、耐熱性を向上させたり、様々な特性を持った樹脂をアロイしたり共重合することで、柔軟性や耐衝撃性を付与するなどの改質が行われてきた。
【0006】
また、多糖類と生分解性樹脂の複合化もこれまでにいくつか検討されてきている。たとえば植物繊維と混合し、植物繊維には軟化点がなく剛性が高い事を利用し、樹脂を強化する検討が行われてきた。或いは植物繊維や多糖類は合成生分解樹脂の生分解性を阻害しない充填材などの目的で用いられてきた。
【0007】
以下に公知の文献を記す。
【特許文献1】特開2001‐302835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、多糖類系の物質を添加して耐熱性の付与を行うには限界があり、単なる充填材としての利用が主流であった。
【0009】
本発明は以上のような従来技術の問題点を解決しようとするものであり、天然資源を有効利用し、且つ、高い結晶性を有し、優れた耐熱強度を有するポリ乳酸系または脂肪族ポリエステル樹脂系樹脂組成物を提供する事を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は係る課題に鑑みなされたもので、本発明の第1の発明は、ポリ乳酸系または脂肪族ポリエステル系樹脂(a)と核剤(b)を含んでなる樹脂組成物であって、核剤が結晶性の多糖類からなることを特徴とする樹脂組成物としたものである。
【0011】
本発明の請求項2の発明は、核剤の粒子径が500μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物としたものである。
【0012】
本発明の請求項3の発明は、核剤の粒子径が5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物としたものである。
【0013】
本発明の請求項4の発明は、核剤がキチン、キトサンまたはカニ殻からなることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物としたものである。
【0014】
本発明の請求項5の発明は、ポリ乳酸系または脂肪族ポリエステル系樹脂(a)100重量部に対し核剤(b)が0.1から10重量部の範囲にあることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の樹脂組成物としたものである。
【0015】
本発明の請求項6の発明は、請求項1〜5いずれか1項に記載の樹脂組成物を熱溶融して成形したことを特徴とする成形体としたものである。
【0016】
本発明の請求項7の発明は、請求項1〜5いずれか1項に記載の樹脂組成物を熱溶融して成形したことを特徴とする床材としたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の樹脂組成物は、再生可能な天然資源を有効に利用している。さらに、殆どの天然資源は石油由来のプラスチックより燃焼熱が低い上に、生分解性もあり土に戻すことができ、廃棄物処理の心配がない。且つ、本発明によれば、各種形状を持たせるために成形体とすることも可能で、使用期間の強度の十分な成形体を得ることができる。更に、本発明の樹脂組成物を成形し、化粧材や床材として利用する事も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸系または脂肪族ポリエステル系樹脂(a)と核剤(b)を含んでなる樹脂組成物で、核剤が結晶性の多糖類からなることを特徴とする樹脂組成物である。
【0020】
ポリ乳酸系または脂肪族ポリエステル系樹脂としては、ポリ−L−乳酸、L−乳酸とD−乳酸とのランダム共重合体などのポリ乳酸、またはそれらの誘導体が好ましい。また、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリグリコール酸、ポリコハク酸エステル、あるいは3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシバリレートなどを1種類以上含む共重合体やその誘導体なども含まれる。
【0021】
また、ここで核剤とするものは、結晶性樹脂が結晶化するのを助長する物質のことを言う。
【0022】
本発明の樹脂組成物は核剤が結晶性の多糖類からなる事を特徴としており、結晶性の多糖類としては、セルロース、キチン、キトサン、澱粉やそれらの誘導体さらにはこれらの多糖類が構成する植物繊維や木粉、カニ殻の粉末なども含まれるものとする。
【0023】
この核剤の粒子径は500μm以下、より好ましくは5μm以下であるとよい。このような粒子径であれば、脂肪族ポリエステルの結晶化が速やかに進み、また、より高い結晶
性をもつ構造となる。
【0024】
ここで、粒径の測定は、粒径が100μmよりも小さい場合には、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD‐2100(株)島津製作所)を用いて測定した。また、粒径が100μm以上の場合には、SEM写真観察により測定した。
【0025】
特に、核剤としての多糖類はキチン、キトサン、カニ殻を用いるとより好ましい。脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸と殆どの天然キチンの結晶構造であるα―キチンはX線回折による解析から、格子間距離の近い構造をもつ部分がある。これによりキチンの表面にポリ乳酸の結晶核が生成しやすいものと考えられる。
【0026】
そのため少量の添加量でも十分強度を付与することができ、ポリ乳酸系または脂肪族ポリエステル系樹脂(a)100重量部に対し核剤(b)が0.1から10重量部の範囲で効果を発揮する。より好ましくは5μm以下の細かい粒子であれば5重量部で十分効果を発揮する。また、核剤としての結晶性多糖類はこの配合の範囲に入るが、従来の充填材などとしての目的で更に添加量を増やすことも可能である。
【0027】
本発明の樹脂組成物には必要に応じてさらに、可塑剤、柔軟剤、発泡剤、充填材、耐加水分解剤、熱安定剤,酸中和剤,紫外線吸収剤,光安定剤,顔料,染料などの着色剤,充填剤,帯電防止剤,滑剤,難燃剤,ブロッキング防止剤,脱水剤,半透明化のための光散乱剤,艶調整剤等を添加することもできる。
【0028】
これらの添加剤のうち発泡剤としては、重曹−クエン酸系、アゾジカルボンアミド、N,N‘−ジニトロペタメチレンテトラミン、p,p’−オキシビス(ベンゼンスルホニルカルバジド)、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゼンスルホニルヒドラジドなどの化学発泡剤による発泡、エタン、ブタン、ペンタン、エチレン、プロピレン、石油エーテル、塩化メチル、モノクロルトリフルオロメタン、ジクイロルジフルオロメタン、ジクロルテトラフルオロエタン、炭酸ガス、窒素ガス、水などによる物理発泡、カプセル発泡剤などの発泡剤を用いることができる。
【0029】
充填材としては、タルク,クレー,ゼオライトなどの無機系充填材、木質系充填材などの有機系充填材などが挙げられる。
【0030】
耐加水分解剤としては、カルボキシル基に作用しうるものであれば特に限定されるものではなく、N,N‘−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、2,6,2’,6‘−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ポリカルボジイミドなどのカルボジイミド化合物、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物グリシジルアミン化合物、グリシジルイミド化合物、脂環式エポキシ化合物などのエポキシ化合物、その他オキサゾリン化合物、オキサジン化合物を用いることができ、さらに、これらの反応を促進する触媒も併せて添加してもよい。
【0031】
熱安定剤としてはヒンダードフェノール系,硫黄系,リン系等,酸中和剤としてはステアリン酸金属塩,ハイドロタルサイト等,紫外線吸収剤としてはベンゾトリアゾール系,ベンゾエート系,ベンゾフェノン系,トリアジン系等があり,光安定剤としてはヒンダードアミン系等がある。
【0032】
難燃剤としてはハロゲン系難燃剤,リン系難燃剤,塩素系難燃剤等があり,充填剤としては炭酸カルシウム,シリカ,酸化チタン,硫酸バリウム,酸化亜鉛,アルミナ,タルク,マイカ,珪酸マグネシウム,チタン酸カリウム,硫酸マグネシウム,水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウム,酸化鉄,カーボンブラック,金属粉等がある。
【0033】
滑剤としては炭化水素系滑剤,脂肪酸,高級アルコール系,脂肪酸アマイド系,金属石鹸系,エステル系,フッ素系等,造核剤としてはカルボン酸金属塩系,ソルビトール系,リン酸エステル金属塩系等があり,顔料としては縮合アゾ,不溶性アゾ,キナクリドン,イソインドリン,アンスラキノン,イミダゾロン,コバルト,フタロシアニン,カーボン,酸化チタン,酸化鉄,雲母等のパール顔料等があり,これらの添加剤を任意の組み合わせで用いるのが一般的である。
【0034】
本発明の樹脂組成物は、既存の手法により熱溶融成形することで成形体を製造することができる。成形法としては押出成形、射出成形、ブロー成形、熱プレス成形など、更にシートやフィルム状に成形した後の真空成形などの工程を経て成形を行うことができる。
【0035】
また、本発明の樹脂組成物を溶融成形した成形物は十分な強度を保持しており、床材などの化粧材としても利用することができる。
【0036】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【実施例1】
【0037】
ポリ乳酸(三井化学:レイシアH−400)100重量部と,核剤としてキチンを凍結粉砕した粉末(平均粒径2μm)を1重量部用い、ラボプラストミル混練器により180℃でペレット化した。
【実施例2】
【0038】
ポリ乳酸(三井化学:レイシアH−400)100重量部と,核剤としてキチンを凍結粉砕した粉末(平均粒径2μm)を5重量部用い、ラボプラストミル混練器により180℃でペレット化した。
【実施例3】
【0039】
ポリ乳酸(三井化学:レイシアH−400)100重量部と,核剤としてカニ殻(平均粒径500μm)を1重量部用い、ラボプラストミル混練器により180℃でペレット化した。
【実施例4】
【0040】
ポリ乳酸(三井化学:レイシアH−400)100重量部と,核剤としてセルロース(平均粒径2μm)を1重量部用い、ラボプラストミル混練器により180℃でペレット化した。
【実施例5】
【0041】
本例は比較のための例1である。
【0042】
ポリ乳酸(三井化学:レイシアH−400)をラボプラストミル混練器により180℃でペレット化した。
【0043】
<結晶化速度の比較>
実施例1から4の樹脂組成物と比較例1の樹脂組成物をそれぞれ約10mgずつ精秤し、DSC(示差走査熱量分析装置:セイコーインスツルメンツ製DSC6100)にて10℃/分で185℃まで昇温して10分間保持した後、130℃まで急冷、保持した時の結晶化時間を比較した。この結果を図1に示した。図で、横軸は時間(min.)、縦軸はDCS(ミクロンW)を示す。また、曲線1は、実施例2を、曲線2は、実施例1を、曲線3は、実施例4を、曲線4は、実施例3を、曲線5は、実施例5(比較例1)を、それぞれ示す。
【0044】
図1より、比較例1のポリ乳酸より結晶性の多糖類を添加したものはピークトップの位置が早い段階にあり、また、ピークが鋭い。更に、ピーク面積も比較的大きい。
【0045】
この結果より、実施例1から4の結晶性多糖類を結晶核剤として添加したものは結晶化に要する時間が短く、また、結晶化の際の発熱エネルギーも大きいことから、高い規則性を有する結晶化が速やかに進行したことがわかった。
【0046】
次に、5℃/分で185℃まで昇温して10分間保持した後、3℃/分で0℃まで徐冷した時の冷却過程における結晶化温度を比較した。
【0047】
【表1】

表1に示した結果より、結晶性多糖類を核剤として含む樹脂は、結晶化のはじまる 温度が高く、成形時の短い時間でも結晶化が進行し易い傾向にあることがわかった。これは、ポリ乳酸の成形性を大きく向上できる効果的な手法である。
【実施例6】
【0048】
ポリ乳酸(三井化学:レイシアH−400)100重量部と,核剤としてキチンを凍結粉砕した粉末(平均粒径2μm)を5重量部用いた。木質系充填剤として木材をカッターミルで破断し,これをボールミルにより粉砕して微粉状にした平均粒径100μmの木質系充填材50重量部と,LA−1:ポリカルボジイミド(日清紡)3重量部とを2軸押出混練機によって混合し,ペレット化して,木質樹脂組成物を作製した。この木質樹脂組成物100重量部に対して,重曹−クエン酸系発泡剤を2重量部添加し,1軸押出機により押出成形を実施した。最終形状としては幅200mm,厚さ6mmの断面長方形状に成形し,発泡倍率1.4倍の木質樹脂発泡成形体を作製した。
【0049】
<性能比較>
実施例6において良好な木質樹脂発泡成形体を得ることができた。また、作成した木質樹脂発泡成形体の耐衝撃強度を測定,比較したところ,ほぼ同程度であり,本発明により環境負荷の小さく,かつ,必要物性を満たす床材を容易に成形できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例の樹脂組成物を示差走査熱量分析した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系または脂肪族ポリエステル系樹脂(a)と核剤(b)を含んでなる樹脂組成物であって、核剤が結晶性の多糖類からなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
核剤の粒子径が500μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
核剤の粒子径が5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
核剤がキチン、キトサンまたはカニ殻からなることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ポリ乳酸系または脂肪族ポリエステル系樹脂(a)100重量部に対し核剤(b)が0.1から10重量部の範囲にあることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の樹脂組成物を熱溶融して成形したことを特徴とする成形体。
【請求項7】
請求項1〜5いずれか1項に記載の樹脂組成物を熱溶融して成形したことを特徴とする床材。

【図1】
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【公開番号】特開2008−81588(P2008−81588A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262466(P2006−262466)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】