説明

樹脂組成物および成形品

【課題】耐熱性と柔軟性とを成形品に付与できる樹脂組成物、および耐熱性と柔軟性とを有する成形品を目的とする。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、熱可塑性芳香族エーテル芳香族エステル樹脂と、電離性放射線の照射により反応する架橋剤とを含有することを特徴とする。前記架橋剤は、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、エポキシアクリレートのうち、いずれか1種以上であることが好ましい。また、本発明の成形品は、前記樹脂組成物を成形し、電離性放射線が照射されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波スネアと呼ばれる医療器具が、生体の処置や治療に使用されている。高周波スネアは、高周波でワイヤーを加熱して生体内の組織を切除する高周波スネア本体と、電力線などの各種配線と、これらの配線を保護するチューブとで概略構成され、内視鏡に設けられたチャンネル管(処置具挿通用の管路。)を通じて生体内に挿入される。高周波スネアは、その使用時に前記チューブに対して高温・高荷重を掛ける。そのため、チューブの先端部は高温・高荷重によって溶融変形を生じやすい。したがって、高周波スネアに用いられるチューブには、耐熱性が要求される。さらに、該チューブを始めとして、生体内に挿入される医療用チューブには、生体内の管路や器官を傷つけないように、柔軟性が要求される。
【0003】
ところで、従来、機械的性質、電気的性質、その他物理的・化学的特性に優れ、かつ加工性が良好である樹脂として、結晶性熱可塑性ポリエステル樹脂であるポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、PBT樹脂という。)が知られている。PBT樹脂は、エンジニアリングプラスチックとして、チューブ状、シート状、その他様々な形状に成形され、自動車、電気・電子部品などの幅広い用途に使用されている。PBT樹脂は単独で成形される他、機械物性や耐熱性を改善する目的で、ガラス繊維やセラミックスウィスカなどの繊維強化材と複合化されて用いられている。この繊維強化材を配合したPBT樹脂は、耐熱性の改善が認められるものの、高周波スネア用のチューブに適用できるほどの耐熱性は得られておらず、また繊維強化材によって剛性が高くなっているため、医療用チューブとして必要な柔軟性に欠けてしまう。
【0004】
そこで、耐熱性の向上を目的として、例えば、特許文献1には、トリアリルイソシアヌレートを架橋剤として配合したPBT樹脂が開示されている。また、特許文献2には、ポリエステル樹脂などに架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート(以下、TAICという。)やトリメチロールプロパントリメタアクリレート(以下、TMPTMAという。)を配合した架橋性樹脂組成物が提案されている。TAICやTMPTMAは、3官能アリルモノマーとして知られており、樹脂組成物のベースにPBT樹脂を用いた場合、PBT樹脂に対する3次元架橋剤として作用し、PBT樹脂の耐熱性を向上させることができる。その他にも、ポリエステル樹脂を架橋させて耐熱性を向上させた例として、特許文献3が挙げられる。
【特許文献1】特公平2−8606号公報
【特許文献2】特開平10−147720号公報
【特許文献3】特開2004−203948号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3のポリエステル樹脂を用いて成形されたチューブは、いずれも曲げ剛性が高く、すなわち医療用チューブに必要な柔軟性に欠けている。
また、一般的に、熱変形温度の高い樹脂組成物は、曲げ剛性が高いため、医療用チューブに必要な柔軟性を持たせることができない。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、耐熱性と柔軟性とを有した成形品を得ることのできる樹脂組成物、および耐熱性と柔軟性とを有する成形品を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、柔軟性の性質を有する熱可塑性芳香族エステル芳香族エーテル樹脂と架橋剤とを含有した樹脂組成物に、電離性放射線を照射することによって芳香族エステルを選択的に架橋させることで、熱可塑性芳香族エステル芳香族エーテル樹脂の柔軟性を保ったまま、耐熱性を向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
(1)熱可塑性芳香族エーテル芳香族エステル樹脂と、電離性放射線の照射により反応する架橋剤とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
(2)前記架橋剤がトリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、エポキシアクリレートのうち、いずれか1種以上であることを特徴とする(1)に記載の樹脂組成物。
(3)(1)または(2)に記載の樹脂組成物を成形し、電離性放射線が照射されたことを特徴とする成形品。
(4)医療用チューブであることを特徴とする(3)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂組成物を用いれば、柔軟性と耐熱性とを有した成形品を得ることができる。
本発明の成形品は、耐熱性と柔軟性とを有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性芳香族エーテル芳香族エステル樹脂と、電離性放射線の照射により反応する架橋剤とを含有する。
熱可塑性芳香族エーテル芳香族エステル樹脂としては、例えば、テレフタル酸ポリエチレングリコール、テレフタル酸ポリプロピレングリコール、テレフタル酸ポリブチレングリコール、テレフタル酸ポリイソプレングリコール、ナフタレンジカルボン酸ポリエチレングリコール、テレフタル酸ポリ(ポリメチレン)グリコールから選ばれる1種以上の芳香族エーテルと、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートから選ばれる1種以上の芳香族エステルとの組合せで表わされる樹脂が挙げられる。中でも、テレフタル酸ポリエチレングリコール、テレフタル酸ポリブチレングリコール、テレフタル酸ポリ(ポリメチレン)グリコールから選ばれる1種以上の芳香族エーテルと、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートから選ばれる1種以上の芳香族エステルとの組合せで表わされる樹脂が好ましい。
熱可塑性芳香族エーテル芳香族エステル樹脂は、図1に示すように、芳香族エステル鎖1と、芳香族エーテル鎖2とから構成されている。芳香族エステル鎖1は、ハードセグメントと呼ばれる分子鎖であり、架橋を生じやすい性質を有している。芳香族エーテル鎖2は、ソフトセグメントと呼ばれる分子鎖であり、分子鎖が自由回転運動しやすく、柔軟性を有している。熱可塑性芳香族エーテル芳香族エステル樹脂は、芳香族エーテル鎖2の性質によって柔軟性を有している。
【0009】
前記架橋剤としては、例えば、各種多官能モノマーが挙げられる。その具体例としては、ジエチレングルコールなどのジアクリレート系化合物;エチレングリコールジメタクリレートなどのジメタクリレート系化合物;トリメチロールプロパントリアクリレートなどのトリアクリレート系化合物;トリメチロールプロパントリメタクリレートなどのトリメタクリレート系化合物;トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレートなどのトリアリルシアヌレート系化合物;ジアリルマレート、ジアリルフマレート、エポキシアクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、耐熱性の高い成形品を得られやすい架橋剤として、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルメタイソシアヌレート、エポキシアクリレートが特に好ましい。これら架橋剤は、単独または2種以上含有されていてもよい。架橋剤の含有量は、後述する電離性放射線の照射線量との兼ね合いで適宜変更されるが、熱可塑性芳香族エーテル芳香族エステル樹脂100質量部に対して、1〜20質量部が好ましく、3〜10質量部がより好ましい。架橋剤の含有量が1質量部未満だと、成形品に必要な耐熱性が得られにくくなる可能性がある。架橋剤の含有量が20質量部を超えると、架橋点が多くなり柔軟性が損なわれてしまうおそれがある。
【0010】
前記樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、その他の樹脂が含有されていてもよい。
また、前記樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、加水分解抑制剤、加工安定剤、無機充填剤、カーボンブラックなどの着色剤、核剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、難燃剤などの添加剤が含有されていてもよい。
【0011】
前記樹脂組成物は、熱可塑性芳香族エーテル芳香族エステル樹脂と、架橋剤と、必要に応じて含有されるその他の添加剤とを混練することで得られる。混練方法としては、熱可塑性芳香族エーテル芳香族エステル樹脂を溶融でき、かつ各成分を均一に混練できれば特に限定されず、公知の混練方法を用いることができる。また、連続式・バッチ式いずれを選択しても構わない。
【0012】
本発明の樹脂組成物に電離性放射線を照射することで、図2に示すように、隣接する芳香族エステル鎖1の間に、架橋剤からなる架橋部分3が形成されて、芳香族エステル鎖1が架橋される。一方、芳香族エーテル鎖2は、芳香族エステル鎖1に比べて架橋に多くの反応エネルギーを必要とするので、電離性放射線の照射によっても架橋されにくい。すなわち、本発明の樹脂組成物に電離性放射線を照射することで、芳香族エステル鎖1の架橋に必要な反応エネルギーと、芳香族エーテル鎖2の架橋に必要な反応エネルギーとの差によって、芳香族エステル鎖1を選択的に架橋することができる。
【0013】
芳香族エステル鎖1は、架橋が生じることで拘束される。これにより、芳香族エステル鎖1同士が凝集し、耐熱性を発揮する。また、芳香族エーテル鎖2は架橋されにくいので、その分子鎖は拘束されずに自由回転運動でき、柔軟性を保っている。したがって、本発明の樹脂組成物を所望の形状に成形し、電離性放射線を照射することで、柔軟性と耐熱性とを有した成形品を得ることができる。
【0014】
本発明で用いられる電離性放射線としては、電子線、加速電子線、γ線、X線、α線、β線、紫外線などが挙げられるが、線源の簡便さ、被照射物に対する透過力、架橋処理の効率などといった工業的利用の観点から、加速電子線、γ線が好ましい。なお、電離性放射線に加速電子線を用いる場合、その電圧は、被照射物(前記樹脂組成物からなる成形品)の厚みによって適宜調整されるが、100〜10000kVが好ましい。加速電圧を高くすると、加速電子線が被照射物のより内部にまで到達しやすくなる。
【0015】
芳香族エステル鎖1のみを架橋させ、芳香族エーテル鎖2を架橋させないようにするには、芳香族エステル鎖1が反応し、かつ芳香族エーテル鎖2が反応しない範囲に、電離性放射線の照射線量を調整するのが好ましい。
【0016】
電離性放射線の照射線量は、例えば電子線の場合、10〜500kGyが好ましく、50〜300kGyがより好ましい。照射線量が10kGy未満では、芳香族エステル鎖1の架橋部位が少なく、耐熱性が低下する傾向がある。照射線量が500kGyを超えると、熱可塑性芳香族エーテル芳香族エステル樹脂の分子鎖に切断が生じやすくなり、成形品の物理特性が低下する傾向があるだけでなく、芳香族エーテル鎖2にも架橋が生じやすくなる。芳香族エステル鎖1だけでなく、芳香族エーテル鎖2に架橋が生じて拘束されてしまうと、得られる成形品の柔軟性が失われてしまう。なお、例えば、PBT樹脂、PET樹脂などのエステル樹脂では、前記電離性放射線の照射によって大部分のエステル鎖が反応し、柔軟性が失われてしまう。
【0017】
また、別の例として、熱可塑性芳香族エーテル芳香族エステル樹脂の芳香族エーテルを、脂肪族エーテルに置き換えた可塑性脂肪族エーテル芳香族エステル樹脂は、ソフトセグメントである脂肪族エーテル鎖と、ハードセグメントである芳香族エステル鎖との反応エネルギーの差が少ないため、前記電離性放射線の照射によって、芳香族エステル鎖のみを選択的に架橋させることができない。したがって、熱可塑性脂肪族エーテル芳香族エステル樹脂では、図3に示すように、芳香族エステル鎖1だけでなく、脂肪族エーテル鎖4においても架橋が生じて架橋部分3を形成するため、得られる成形品の柔軟性が失われてしまう。
【0018】
なお、本発明の樹脂組成物からなる成形品を成形する方法は特に指定されず、公知の押出成形機、射出成形機、圧縮成形機などを適宜用いて成形することができる。なお、押出成形機の場合、該成形機に備えられるスクリューの形状・本数・サイズなどは、混合物の溶融、成形がしやすいように適宜選定される。
【0019】
本発明の樹脂組成物を用いた成形品は、電離性放射線の照射によって芳香族エステル鎖のみ架橋され、芳香族エーテル鎖が架橋されていない。これにより、該成形品は、芳香族エーテル鎖の性質によって柔軟性を保ちつつ、芳香族エステル鎖の架橋によって耐熱性を有することができる。
【0020】
本発明の成形品として、例えばチューブを作製した場合、該チューブは柔軟性と耐熱性を有しているので、高周波スネア用チューブなど、柔軟性と耐熱性が要求される医療用チューブに好適に用いることができる。また、このチューブは医療用チューブに限定されず、例えば柔軟性と耐熱性が要求されるコネクタなどのチューブとしても適用可能である。また、チューブの外径、内径、長さは、使用用途により適宜選択することができる。
さらに本発明の成形品は、チューブに留まらず、柔軟性と耐熱性が要求される成形品に広く適用できる。そのような成形品としては、例えば、フレキシブルシート、棒状製品などが挙げられる。
【0021】
本発明の熱可塑性芳香族エーテル芳香族エステル樹脂と、電離性放射線の照射により反応する架橋剤とを含有することを特徴とする樹脂組成物を用いれば、柔軟性と耐熱性とを有した成形品を得ることができる。
本発明の成形品は、前記樹脂組成物を成形し、電離性放射線が照射されたものであり、耐熱性と柔軟性とを有している。
【実施例】
【0022】
次に、実施例を用いて、本発明をさらに詳しく説明する。なお、各実施例、各比較例では、以下の測定方法を用いて評価を行った(実施例9および比較例7の耐熱性評価を除く)。
<耐熱性の測定>
耐熱性評価装置として熱荷重試験機を使用し、以下の手順で熱荷重試験を行い、耐熱性を評価した。
1.各実施例、各比較例で作製した試料(シート)の長手方向の両端を、耐熱性評価装置の保持部分に固定した。
2.230℃に加熱した銅製の加熱体(幅40mm、長さ60mm厚さ0.3mm)を、前記シートの下方に配置された上下方向に可動自在な治具に固定するとともに、この加熱体の下部に所望の質量の錘を接続し、加熱体がサンプルに接触しないように、前記加熱体を押し下げた状態で加熱体を保持した。
3.加熱体から錘を外して、加熱体の保持を解除し、前記加熱体を0.1kgf/1.8mmで試料に接触させ、試料の溶融・切断に掛かる時間を測定した(最長30秒間)。耐熱性に優れていたものを○、耐熱性が確保されていたものを△とし、耐熱性を有さないものを×とした。
【0023】
<曲げ強さ変化の測定>
曲げ強さ試験法JIS K7171に準じて、電子線照射前のシートの曲げ強さ、および電子線照射後のシートの曲げ強さを測定し、曲げ強さの変化率を計算した。
【0024】
(実施例1)
熱可塑性芳香族エーテル芳香族エステル樹脂として、テレフタル酸ポリ(ポリメチレン)グリコール−ポリブチレンテレフタレート(融点220℃)を用い、その100質量部に対し、架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート(TAIC)を3質量部添加し、2軸押出式の混練装置で溶融混合して樹脂組成物のペレットを得た。次いで、このペレットを押出成形機に投入し、シート形状に成形して、幅6mm、長さ50mm、厚み0.3mmの前記樹脂組成物からなる試料(シート)を得た。次いで、このシートに対して電子線照射前の曲げ強さの測定を行った。次いで、加速電圧800kVの電子線を照射線量100kGyで照射して、実施例1のシートを作製した。次いで、実施例1のシートに対して、電子線照射後の曲げ強さの測定を行って、曲げ強さの変化率を計算し、さらに耐熱性の測定を行った。結果を表1に示す。
【0025】
(実施例2〜8、比較例1〜6)
表1に示すような樹脂の種類、架橋剤の種類、架橋剤の配合量、電子線の照射線量に設定した以外は実施例1と同様の方法によって、実施例2〜8、比較例1〜6のシートを作製し、耐熱性の測定および曲げ強さ変化の測定を行った。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

実施例中の略語は、以下の化合物を示す。
PBT:ポリブチレンテレフタレート樹脂
TAIC:トリアリルイソシアヌレート
TMAIC:トリメタアリルイソシアヌレート
【0027】
表1に示すように、実施例1〜8は、いずれも耐熱性が確保されており、中でも、実施例2〜8はシートの切断が無く、耐熱性に優れていた。また、実施例1では電子線の照射前と照射後における曲げ強さの変化が無く、実施例2〜8では曲げ強さの変化が少なく、電子線の照射後においても柔軟性を保っていることが確認された。
【0028】
一方、架橋剤の配合および電子線の照射を無しにした比較例1では、柔軟性を有していたが耐熱性に劣っていた。比較例1が耐熱性に劣っていた原因として、比較例1は架橋剤を含有せず、かつ電子線照射を行わなかったので、熱可塑性芳香族エーテル芳香族エステル樹脂に架橋が生じないからと推察された。
架橋剤の配合を行わなかった比較例2では、柔軟性を有していたが、耐熱性に劣っていた。比較例2が耐熱性に劣っていた原因として、比較例2は架橋剤を含まなかったので、電子線を照射しても、熱可塑性芳香族エーテル芳香族エステル樹脂中に架橋が生じないからと推察された。
【0029】
PBT樹脂を樹脂に用いた比較例3、4では、耐熱性は満足していたが、電子線の照射によって曲げ強さが大きく上昇し、柔軟性が失われてしまった。比較例3、4の柔軟性が失われてしまった原因として、比較例3、4に使用したPBT樹脂などのエステル樹脂は、電子線の照射によって分子鎖の大部分に架橋が生じてしまうためと推察された。
【0030】
熱可塑性脂肪族エーテル芳香族エステル樹脂としてポリエチレングリコール−ポリブチレンテレフタレートを樹脂に用いた比較例5では、耐熱性に劣り、かつ曲げ強さも大きく上昇し、柔軟性も失われてしまった。比較例5の電子線の照射線量を上げた比較例6では、耐熱性は満足していたが、曲げ強さが上昇してしまい、柔軟性が失われてしまった。比較例5、6の柔軟性が失われてしまった原因としては、比較例5、6で用いた熱可塑性脂肪族エーテル芳香族エステル樹脂では、ソフトセグメントである脂肪族エーテル鎖と、ハードセグメントである芳香族エステル鎖との電離性放射線に対する反応性の差が少ないため、芳香族エステル鎖を選択的に架橋させることができず、芳香族エステル鎖と脂肪族エーテル鎖とで架橋が生じてしまうためと推察された。
【0031】
次に、以下に示す実施例9および比較例7において、チューブ状の成形品を作製し、曲げ強さの変化の評価、および該成形品を高周波スネアに装着して耐熱性を評価した。
(実施例9)
熱可塑性芳香族エーテル芳香族エステル樹脂として、テレフタル酸ポリ(ポリメチレン)グリコール−ポリブチレンテレフタレート(融点220℃)を用い、その100質量部に対し架橋剤としてトリアリルイソシアヌレートを5質量部添加し、2軸押出式の混練装置で溶融混合して樹脂組成物のペレットを得た。次いで、このペレットを単軸押出成形機に投入し、チューブ形状に成形して、外径2.25mm、内径1.45mm、長さ2350mmの前記樹脂組成物からなるチューブを得た。次いで、このチューブに対して電子線照射前の曲げ強さの測定を行った。次いで、このチューブに加速電圧800kVの電子線を照射線量300kGyで照射し、実施例9のチューブを作製した。次いで、実施例9のチューブに対して、電子線照射後の曲げ強さの測定を行って、曲げ強さの変化率を計算したところ、電子線の照射前後の曲げ強さの変化は+0.7%と少ない値を示したため、柔軟性を保っていることが確認された。
【0032】
次いで、実施例9のチューブを高周波スネア用のチューブとして使用し、高周波スネアを加熱させて、該チューブの耐熱性を評価した。その結果、実施例9のチューブは、高周波スネアの加熱(加熱時の温度は240℃)開始から150秒経過しても溶融変形や切断を生じることがなく、耐熱性を有していることが確認された。したがって、実施例9のチューブは、柔軟性と耐熱性を必要とする医療用チューブとして使用可能であることが分かった。
【0033】
(比較例7)
架橋剤の添加と電子線の照射を行わなかった以外は実施例9と同様にして比較例7のチューブを作製し、実施例9と同様の方法で、曲げ強さの変化および耐熱性を評価した。その結果、比較例7のチューブは、その曲げ強さの変化は全くなかったが、高周波スネアの通電・緊縛開始から10秒で溶融して切断してしまい、十分な耐熱性を有していなかった。なお、比較例7のチューブの切断時の高周波スネアの温度は、実施例9と同じく240℃であった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】熱可塑性芳香族エーテル芳香族エステル樹脂における芳香族エーテル鎖と芳香族エステル鎖とが結合している状態を示す図である。
【図2】熱可塑性芳香族エーテル芳香族エステル樹脂における芳香族エステル鎖が選択的に架橋されていることを示す図である。
【図3】熱可塑性脂肪族エーテル芳香族エステル樹脂における脂肪族エーテル鎖および芳香族エステル樹脂が架橋されていることを示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 芳香族エステル鎖
2 芳香族エーテル鎖
3 架橋部分
4 脂肪族エーテル鎖

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性芳香族エーテル芳香族エステル樹脂と、電離性放射線の照射により反応する架橋剤とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記架橋剤がトリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、エポキシアクリレートのうち、いずれか1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂組成物を成形し、電離性放射線が照射されたことを特徴とする成形品。
【請求項4】
医療用チューブであることを特徴とする請求項3に記載の成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−121004(P2010−121004A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294555(P2008−294555)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】