説明

樹脂組成物および樹脂成形品

【課題】 衝撃吸収性、帯電防止性、難燃性、衝撃強度、および離型性の良好な樹脂成形品、ならびにこの樹脂成形品に適した樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 本発明は、ポリエステルエラストマー(A)25〜86質量%、ポリブチレンテレフタレート(B)2〜63質量%、炭素繊維(C)7〜30質量%、およびハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(d1)を含有するハロゲン系難燃剤(D)5〜66質量%を含有する樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子部品に用いられる難燃性、導電性に優れた樹脂組成物および樹脂成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンピュータなどに代表される電気電子機器の高性能化は近年とくに目覚ましく、以前にもまして非常に早い勢いで高集積化が進んでいる。最近では、コンピュータなどの記憶媒体として使用されるハードディスクの高密度・大容量化に伴い、100円玉程度のディスク面積で数ギガバイトの記憶容量を有する小型ハードディスクドライブ(小型HDD)が商品化されるにいたっている。ハードディスクの用途については、従来、パソコンの記憶媒体としての用途がおもであったが、小型化により携帯型の音楽鑑賞機器に使用されるまでになっている。
【0003】
このような用途の広がりに伴い、ハードディスクの使用される環境も変化し、これに対応するため小型HDDには樹脂製のバンパーが取り付けられるようになってきた。この樹脂製バンパーは、落下等の衝撃から内部機構部品を保護すること、および衣類などから発生する静電気から内部の電気回路の破壊を防止するために取り付けられており、樹脂製パンパーに用いられる樹脂材料には衝撃吸収性と導電性が要求される。また、樹脂製バンパーには、電気電子部品に一般に要求される難燃性も要求される。
【0004】
樹脂製バンパーに用いられる樹脂材料としては、衝撃吸収の点でポリエステルエラストマーなどのエラストマー樹脂が有効であるが、ポリエステルエラストマーは難燃性が低い。一般に、樹脂に難燃性を付与するために難燃剤を使用することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1には、ポリエステル樹脂に難燃剤として特定のハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂を添加したポリエステル樹脂組成物が記載されている。しかし、ここに記載されているような難燃剤をポリエステルエラストマーに適用したた場合、樹脂組成物の結晶性が低下し、成形の際に固化が進まず金型からの離型が困難になるという不具合が生じる。
このように従来の技術では衝撃吸収性、帯電防止性、難燃性、離型性の全てを満足させるには至っていなかった。
【特許文献1】特開2003−26904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、衝撃吸収性、帯電防止性、難燃性、衝撃強度、および離型性の良好な樹脂成形品、ならびにこの樹脂成形品に適した樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリエステルエラストマー(A)25〜86質量%、ポリブチレンテレフタレート(B)2〜63質量%、炭素繊維(C)7〜30質量%、およびハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(d1)を含有するハロゲン系難燃剤(D)5〜66質量%を含有する樹脂組成物に関するものであり、また、曲げ弾性率が3000〜7500MPa以下、シャルピー強度が60kJ/m以上、表面抵抗値が1000Ω以下、難燃性が厚さ0.8mmでV−1以上である樹脂成形品に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂成形品は、曲げ弾性率が特定の範囲であるために衝撃吸収性が良好であり、表面抵抗値が特定値以下であることから帯電防止性が良好であり、さらに衝撃強度および難燃性が良好である。従って、これらの特性が要求される電気電子用途に好適に用いることができ、特に小型HDDの樹脂バンパー用樹脂などに好適な材料である。
また、本発明の樹脂組成物は、上記の樹脂成形品を得るために好適であり、しかも成形性(離型性)に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の樹脂組成物は、ポリエステルエラストマー(A)25〜86質量%、ポリブチレンテレフタレート(B)2〜63質量%、炭素繊維(C)7〜30質量%、およびハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(d1)を含有するハロゲン系難燃剤(D)5〜66質量%を含有する。
【0009】
ポリエステルエラストマー(A)としては、特に制限されないが、例えば、ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体、ポリエステル−ポリエステルブロック共重合体等が挙げられる。中でも、衝撃吸収性の面からポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体が好ましい。
ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体は、アルキレンテレフタレート単位から構成されるポリエステルセグメントをハードセグメントとし、アルキレンオキサイド単位から構成されるポリ(アルキレンオキサイド)グリコールセグメントをソフトセグメントとするブロック共重合体である。
【0010】
ハードセグメントを構成するポリエステルセグメントは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、炭素数2〜10の脂肪族グリコールを主たるジオール成分とするポリマーセグメント、または上記以外のジカルボン酸あるいはグリコールを任意の組合せで20モル%以下の範囲で共重合させたポリマーセグメントである。
ソフトセグメントを構成するポリ(アルキレンオキサイド)グリコールセグメントとしては、特に制限されないが、例えば、ポリ(エチレンオキサイド)グリコールセグメント、ポリ(プロピレンオキサイド)グリコールセグメント、ポリ(テトラメチレンオキサイド)グリコールセグメント等の単一ポリグリコール類のセグメント、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダム共重合またはブロック共重合のポリグリコール類のセグメント、20モル%以下の範囲で他の共重合成分を共重合させたポリグリコール類等のセグメントが挙げられる。これらのソフトセグメントは、単独あるいは2種以上のソフトセグメントを併用することができる。
【0011】
ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体の具体例としては、例えば、ポリテトラメチレンテレフタレート−ポリテトラメチレンオキサイドブロック共重合体、ポリテトラメチレンテレフタレート−ポリエチレンオキサイドブロック共重合体、ポリエチレンテレフタレート−ポリテトラメチレンオキサイドブロック共重合体、ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレンオキサイドブロック共重合体等が挙げられる。中でも、衝撃吸収性の面から、ポリテトラメチレンテレフタレート−ポリテトラメチレンオキサイドブロック共重合体が好ましい。
【0012】
ポリエステルエラストマー(A)の含有量は、樹脂組成物全量中、25〜86質量%である。
(A)成分の含有量が25質量%以上である場合に、衝撃吸収性が良好となる傾向にあり、また(A)成分の含有量が86質量%以下である場合に、十分な難燃性が得られる傾向にある。
(A)成分の含有量の下限値は、27質量%以上がより好ましく、30質量%以上が特に好ましい。また、(A)成分の含有量の上限値は、60質量%以下がより好ましく、55質量%以下が特に好ましい。
ポリエステルエラストマー(A)の製造法については、特に制限されず、通常用いられる直接エステル化法あるいはエステル交換法によるエステル化反応、これに続く重縮合反応により製造することができ、さらに固相重合により高分子量化することも可能である。
【0013】
本発明で使用するポリブチレンテレフタレート(B)は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体と1,4−ブタンジオールを主体とするグリコール成分との公知の重縮合反応により得られる重合体である。
具体的には、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(例えばテレフタル酸ジメチル等)を主成分とし、これとイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、p−オキシ安息香酸、セバシン酸、アジピン酸、ダイマー酸等を適宜併用してなるジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオールを主成分とし、エチレングリコールあるいはエチレンオキサイド、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等のグリコール類を適宜併用してなるグリコール成分とを重縮合してなるものである。
【0014】
ポリブチレンテレフタレート(B)の固有粘度(〔η〕)については、特に制限されないが、25℃の雰囲気で1,1,2,2−テトラクロロエタンとフェノールとの等質量混合液で測定した固有粘度が0.5〜2dl/gであることが好ましい。固有粘度が0.5dl/g以上の場合に、十分な強度の成形品が得られる傾向にあり、2dl/g以下の場合に、流動性が良好となり、充填性が十分となる傾向にある。この固有粘度の下限値は0.7dl/g以上がより好ましく、0.8dl/g以上が特に好ましい。また上限値は1.7dl/g以下がより好ましく、1.5dl/g以下が特に好ましい。
【0015】
ポリブチレンテレフタレート(B)の含有量は、樹脂組成物全量中、2〜63質量%である。
(B)成分の含有量が2質量%以上である場合に、成形時の結晶化による固化が十分となり離型性が良好となる傾向にあり、また(B)成分の含有量が63質量%以下である場合に、十分な衝撃吸収性が得られる傾向にある。
(B)成分の含有量の下限値は、3質量%以上がより好ましく、4質量%以上が特に好ましい。また、(B)成分の含有量の上限値は、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下が特に好ましい。
【0016】
本発明で使用する炭素繊維(C)は、導電性を付与する成分である。
炭素繊維(C)としては、特に制限されず、PAN系、ピッチ系、または気相成長型の炭素繊維が挙げられ、例えば、長繊維タイプや短繊維タイプのチョプドストランド、ミルドファイバーなどが挙げられる。成形時などの繊維折損を抑えるため、高強度・高伸度タイプのものが好ましく、これらの特性を得ることのできるPAN系炭素繊維が好ましい。
【0017】
炭素繊維(C)の弾性率は、特に制限されないが、成形時の繊維折損を抑える面から、195〜450GPaであることが好ましい。炭素繊維(C)の弾性率の下限値は、215GPa以上がより好ましく、上限値は390GPa以下がより好ましい。
また、炭素繊維(C)の直径については、特に制限されないが、3〜10μmであることが好ましい。炭素繊維(C)の直径の下限値は5μm以上がより好ましく、また、上限値は8μm以下がより好ましい。
【0018】
炭素繊維(C)の表面処理については、特に制限されないが、表面酸化処理等の処理を行うことが好ましい。本発明では樹脂成形品の表面抵抗値を所定値にするために炭素繊維(C)を導電フィラーとして使用しているが、炭素繊維(C)を過度に配合すると弾性率が高くなり衝撃吸収が不利になる。このため炭素繊維(C)を少なく添加して所定の表面抵抗値に達することが好ましい。
【0019】
酸化処理の方法には、通電処理による表面酸化、オゾンなどの酸化性ガス雰囲気中で酸化処理を行う方法があげられ、通電処理が好ましく用いられる。
さらにサイジング剤としてエポキシ系、ポリアミド系、ウレタン系、ポリエステル系等が挙げられる、エポキシ系を一次サイズ剤として用い、ポリアミド系あるいはウレタン系のサイジング剤を2次サイズ剤として使用することが好ましく、ポリアミド系を使用することがより好ましい。
【0020】
炭素繊維(C)の形態は、特に制限されないが、数千から数十万本の炭素繊維の束からなるストランド状または粉砕したミルド状の形態で用いられる。ストランド状の形態についても、直接導入するロービング法、あるいは所定長さにカットしたチョップドストランドを使用することが可能である。
また、炭素繊維(C)として、表面を金属でコートした炭素繊維を使用してもよい。金属コート炭素繊維として好ましいものは、ニッケルコート炭素繊維である。
【0021】
炭素繊維(C)の含有量は、樹脂組成物全量中、7〜30質量%である。(C)成分の含有量が7質量%以上である場合に、十分な導電性が得られる傾向にあり、また(C)成分の含有量が30質量%以下である場合に、十分な衝撃吸収性が得られる傾向にある。
(C)成分の含有量の下限値は、10質量%以上が好ましい。また(C)成分の含有量の上限値は、25質量%以下が好ましい。
【0022】
本発明で使用するハロゲン系難燃剤(D)は、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(d1)を含有する。
ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(d1)は、末端のエポキシ基が封鎖されている場合でも、封鎖されていない場合のどちらでもよい。
末端エポキシ基を封鎖する場合、化合物は特に限定されるものではなく、例えば、t−ブタノール等の単官能のアルコール類、酢酸などの脂肪族カルボン酸、安息香酸などの芳香族カルボン酸等の単官能性活性水素含有化合物を使用できる。
【0023】
具体的には、反応性、安定性の面から、フェノール、ナフトール、アルキルフェノール(クレゾール、ターシャリブチルフェノール等のC1−10アルキルフェノール)、ハロゲン化フェノール(トリブロモフェノール、トリクロロフェノール等)などのフェノール類を使用することが好ましい。
特に好ましい封鎖剤としては、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂のハロゲン含有量を高める点から、ジブロモフェノール、トリブロモフェノール、テトラブロモフェノール、トリクロロフェノール等のモノ乃至ペンタハロゲン化フェノール類(特にブロモフェノール類)が挙げられる。
【0024】
(d1)成分の製造方法は、特に制限されないが、例えば、(1)ハロゲン化ビスフェノールとエピクロルヒドリンとを反応させてハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂を生成させ、このエポキシ樹脂と、封鎖剤としての単官能性活性水素含有化合物とを反応させることにより製造してもよく、(2)ハロゲン化ビスフェノールとエピクロルヒドリンとを反応させてハロゲン化ビスフェノールAジグリシジルエーテルを生成させ、このエポキシ樹脂とハロゲン化ビスフェノールおよび前記単官能性活性水素含有化合物とを反応させることにより製造してもよく、(3)ハロゲン化ビスフェノールとエピクロルヒドリンとを反応させてハロゲン化ビスフェノールAジグリシジルエーテルを生成させ、このエポキシ樹脂とハロゲン化ビスフェノールAとを反応させてハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂を生成させ、末端エポキシ基を封鎖する場合は、このエポキシ樹脂と前記単官能性活性水素含有化合物とを反応させることにより製造してもよい。
なお、上記(1)〜(3)の各方法においては、原料各成分の使用割合を調整することにより、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂における封鎖率、数平均分子量および平均重合度nの値を調整することができる。
【0025】
ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(d1)の数平均分子量は、特に制限されないが、500〜100000であることが好ましい。
特に、ハロゲン系難燃剤(D)として(d1)成分のみを使用する場合には、(d1)成分の数平均分子量は、15000以上であることが好ましい。ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(d1)の数平均分子量が15000以上の場合に、成形時の結晶化による固化が十分となり、離型性が良好となる傾向にある。(d1)成分の数平均分子量の下限値は、18000以上が好ましく、20000以上が特に好ましい。また、(d1)成分の数平均分子量の上限値は、70000以下であることが特に好ましい。
【0026】
ハロゲン系難燃剤(D)は、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(d1)以外にも、必要に応じて、ハロゲン化ポリアクリレート樹脂(d2)を含有することができる。特に、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(d1)の数平均分子量が15000未満の場合には、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(d1)とハロゲン化ポリアクリレート樹脂(d2)を併用することが好ましい。
【0027】
ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(d1)とハロゲン化ポリアクリレート樹脂(d2)を併用する場合には、(d1)成分の含有量は、ハロゲン系難燃剤(D)全量中3〜40質量%が好ましく、また、(d2)成分の含有量は、ハロゲン系難燃剤(D)全量中60〜97質量%が好ましい。(d1)成分が3質量%以上である場合((d2)成分が97質量%以下である場合)に、樹脂成形品の衝撃強度が良好となる傾向にある。また、(d1)成分が40質量%以下である場合((d2)成分が60質量%以上である場合)に、成形時の離型性が良好となる傾向にある。
【0028】
(d1)成分の含有量の下限値は、5質量%以上がより好ましく、7質量%以上が特に好ましい。また、(d1)成分の含有量の上限値は、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下が特に好ましい。
(d2)成分の含有量の下限値は、70質量%以上がより好ましく、75質量%以上が特に好ましい。また、(d2)成分の含有量の上限値は、95質量%以下がより好ましく、93質量%以下が特に好ましい。
【0029】
なお、ハロゲン化ポリアクリレート樹脂(d2)とは、下記一般式(1)を繰り返し単位とする化合物である。
【化1】

式(1)中、Xはハロゲンを表し、mは1〜5の整数を表す。
【0030】
ハロゲン化ポリアクリレート樹脂(d2)は、難燃性の観点から、式(1)中のXが臭素でm=5であるペンタブロモフェニルポリアクリレートであることが好ましい。
ハロゲン化ポリアクリレート樹脂(d2)の数平均分子量は、特に制限されないが、500〜100万が好ましい。ハロゲン化ポリアクリレート樹脂(d2)の数平均分子量が500以上の場合に熱安定性が良好となる傾向になり、100万以下の場合に、樹脂組成物の流動性が良好となり成形加工性が良好となる傾向にある。ハロゲン化ポリアクリレート樹脂(d2)の数平均分子量の下限値は、700以上がより好ましく、1000以上が好ましく、5000以上が特に好ましい。またこの上限値は、50万以下がより好ましく、10万以下がさらに好ましく、5万以下が特に好ましい。
【0031】
ハロゲン系難燃剤(D)の含有量は、樹脂組成物全量中、5〜66質量%である。(D)成分の含有量が5質量%以上である場合に、十分な難燃性が得られる傾向にあり、また(D)成分の含有量が66質量%以下である場合に、十分な導電性、離型性が得られる傾向にある。(D)成分の含有量の下限値は、10質量%以上が好ましい。また(D)成分の含有量の上限値は、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましい。
【0032】
本発明の樹脂組成物は、上述した(A)〜(D)成分を基本成分として含有するものであるが、必要に応じて、その他の熱可塑性樹脂(ただし、(A)成分、(B)成分および(D)成分を除く)、導電性フィラー(ただし、炭素繊維(C)を除く)、難燃助剤、各種フィラー、金属酸化物およびセラミックス等の粒状物、流動改質剤、離型剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤等の添加剤を加えることができる。
【0033】
その他の熱可塑性樹脂としては、特に制限されないが、(A)成分および(B)成分以外の熱可塑性ポリエステル樹脂が挙げられる。例えば、テレフタル酸とエチレングリコールとの重縮合物であるポリエチレンテレフタレート、2,6−ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールとの重縮合物であるポリエチレンナフタレート、2,6−ナフタレンジカルボン酸と1,4−ブタンジオールとの重縮合物であるポリブチレンナフタレート等が挙げられる。
さらには、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、p−オキシ安息香酸、セバシン酸、アジピン酸、ダイマー酸等を適宜併用してなるジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体成分と、1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、エチレンオキサイド、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等のグリコール類を適宜併用してなるグリコール成分との重縮合物も挙げられる。
【0034】
(A)成分および(B)成分以外の熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量は、特に制限されないが、樹脂組成物全量中、30質量%以下であることが好ましい。
【0035】
熱可塑性ポリエステル樹脂以外にも、例えば、耐摩耗性の付与あるいは燃焼時のドリッピングを防止する目的でフッ素含有重合体を含有させてもよい。
フッ素含有重合体としては、特に制限されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFEと略す)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、トリフルオロクロロエチレン−エチレン共重合体、ポリトリフルオロクロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル樹脂等をあげることができる。これらの中では、耐摩耗性、耐ドリップ性付与の面から、特にポリテトラフルオロエチレン系重合体が好ましい。
【0036】
これらのフッ素含有重合体は、市販品を使用することができ、耐摩耗性を目的としたポリテトラフルオロエチレン系重合体としては、三幸ファインマテリアル社製のSG−1000、SG−500、SA−60、ダイキン工業社製のルブロンL−5、三井デュポンフロロケミカル社製のゾニールMP1300、旭硝子社製G-169J等を挙げることができ、また耐ドリッピング性を目的としたポリテトラフルオロエチレン系重合体としては、三菱レイヨン社製 メタブレンA3000、A3800、旭アイシーアイフロロポリマーズ社製アフロンPTFE CD−1を挙げることができる。これらは1種を用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
フッ素含有重合体の含有量は、特に制限されないが、樹脂組成物全量中、0.1〜15質量%であることが好ましい。
【0037】
導電性フィラー(ただし、炭素繊維(C)を除く)としては、特に制限されず、カーボン系導電性フィラー、金属系導電性フィラーがあげられる。
カーボン系導電性フィラーとしてはカーボンブラックやカーボンナノチューブ、燐片状黒鉛があげられるが、成形品の摩耗性の点から、樹脂組成物全量中、0.1〜10質量%以下であることが好ましい。
金属系導電性フィラーとしては銅、スズ、真鍮、ステンレス、鉄、アルミニウムなどの粉末や繊維状充填剤が挙げられる。またこれらの中ではスズ系の低融点金属あるいは銅や黄銅の繊維あるいは粉体を併用することが好ましい。
金属系導電性フィラーは、成形品の軽量性の観点から、樹脂組成物全量中、1〜30質量%であることが好ましい。
【0038】
難燃助剤としては、特に制限されないが、臭素系難燃剤との併用により難燃効果を上げるアンチモン化合物、燃焼時のドリッピング(滴下)を防止するフッ素含有重合体が挙げられ、これらを併用することが好ましい。アンチモン化合物としては三酸化アンチモンや五酸化アンチモン等の酸化アンチモン化合物やアンチモン酸ナトリウム、アンチモン酸マグネシウムなどのアンチモン酸金属塩、アンチモン酸アンモニウム等のアンチモン酸塩などがあり、中でも三酸化アンチモンを使用することが好ましい。
アンチモン化合物の含有量は、特に制限されないが、樹脂組成物全量中、1〜30質量%であることが好ましい。アンチモン化合物の含有量の下限値は、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上が特に好ましい。また、この上限値は、20重量%以下がより好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
【0039】
各種フィラー、金属酸化物及びセラミックス等の粒状物、流動改質剤、離型剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤等の添加剤の含有量は、特に制限されないが、樹脂組成物全量中、0.1〜30質量%であることが好ましい。
【0040】
本発明の樹脂組成物の結晶化温度は、特に制限されないが、DSCによる降温時結晶化ピークのピーク温度が170℃以上であることが好ましい。この温度が170℃以上である場合に、成形時の結晶化による固化が十分となり、離型性が良好となる傾向にある。
本発明の樹脂組成物および樹脂成形品のDSCによる降温時結晶化ピークのピーク温度の下限値は172℃以上であることが好ましく、175℃以上であることが特に好ましい。
また、本発明の樹脂組成物および樹脂成形品のDSCによる降温時結晶化ピークのピーク温度の上限値は、特に制限されないが、215℃以下であることが好ましく、210℃以上であることが特に好ましい。
【0041】
本発明の樹脂組成物の製造方法については、特に制限されず、従来の熱可塑性樹脂組成物の製造方法として一般に用いられる設備と方法により製造することができる。その内でも、溶融混練法が好ましい。溶融混練に用いる装置としては、特に制限されず、例えば、押出し機、バンバリーミキサー、ローラー、ニーダー等を挙げることができる。
押出機については、単軸押出機、二軸押出機があるが、短時間で混練を行うために二軸押出機であることが好ましい。
また、押出機への炭素繊維の投入方法としては、特に制限されないが、混練による繊維長の低下を抑制することができることから、スクリューの中間から添加するサイドフィード法が好ましい。
【0042】
次に、本発明の樹脂成形品について説明する。
本発明の樹脂成形品は、曲げ弾性率が3000〜7500MPa以下である。なお、本発明において、曲げ弾性率とは、ISO178により測定したものである。
樹脂成形品の曲げ弾性率が3000〜7500MPaである場合に、変形による衝撃吸収が十分となり、本発明の樹脂成形品を小型HDDのバンパーに用いても、内部の機構部品が破壊されない傾向にある。衝撃吸収は材料の変形により発現するため、変形の少ない硬い材料(弾性率の高い材料)では衝撃吸収がほとんどなく、柔らかい材料(弾性率の低い材料)で衝撃吸収が良好となるからである。
樹脂成形品の曲げ弾性率の上限値は、7300MPa以下が好ましく、7000MPa以下が特に好ましい。また、この曲げ弾性率の下限値は、3500MPa以上が好ましく、4000MPa以上であることが特に好ましい。
【0043】
本発明の樹脂成形品は、シャルピー強度が60kJ/m以上である。なお、本発明において、シャルピー強度とは、ISO179により測定したノッチなしでの強度である。
樹脂成形品のシャルピー強度が60kJ/m以上である場合に、衝撃吸収が十分となり、本発明の樹脂成形品を小型HDDのバンパーに用いても、着脱時に破損しない傾向にある。
樹脂成形品のシャルピー強度の下限値は、65kJ/m以上が好ましく、70kJ/m以上が特に好ましい。また、このシャルピー強度の上限は、破壊しない(NB)ことが好ましい。
【0044】
本発明の樹脂成形品は、表面抵抗値が1000Ω以下である。なお、本発明において表面抵抗値とは、プローブ型端子を使用し2点間抵抗値を測定したものである。
樹脂成形品の表面抵抗値が1000Ωより高い場合には、外部からの電流をアースすることが不十分であり、本発明の樹脂成形品を小型HDDのバンパーに用いた場合には、HDDの内部の電子回路がショートする。樹脂成形品の表面抵抗値の上限値は900Ω以下であることが好ましく、700Ω以下であることが特に好ましい。
また、樹脂成形品の表面抵抗値の下限値は、特に制限されないが、1Ω以上であることが好ましく、10Ω以上であることが特に好ましい。
【0045】
本発明の樹脂成形品は、難燃性が、厚さ0.8mmでV−1以上である。なお、難燃性は、アンダーライターズ・ラボラトリーズのサブジェクト94(UL94)の方法に準じて測定したものである。難燃性のレベルは、V−0であることが特に好ましい。
【0046】
このような物性を有する樹脂成形品は、前述したポリエステルエラストマー(A)25〜86質量%、ポリブチレンテレフタレート(B)2〜63質量%、炭素繊維(C)7〜30質量%、およびハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(d1)を含有するハロゲン系難燃剤(D)5〜66質量%を含有する樹脂組成物を成形することによって製造することができる。
樹脂組成物の成形方法は、特に制限されない。例えば、射出成形、押出成形による棒状、中空状、シート状への成形、真空成形、ブロー成形などが挙げられ、これらの成形方法によって樹脂成形品を得ることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(1)樹脂組成物および樹脂成形品の評価方法
(1−1)DSCによる降温時結晶化ピーク温度
セイコーインスツル社製示差走査型熱量計DSC SSC/5200を用いて測定した。樹脂組成物を、窒素気流中において25℃から10℃/分で昇温して 280℃で5分間保持した後、10℃/分で降温して降温時結晶化ピーク温度を求めた。
【0048】
(1−2)曲げ弾性率
ISO178に準拠して曲げ試験を行い、曲げ弾性率を求めた。
(1−3)シャルピー強度
ISO179に準拠してノッチなしでのシャルピー強度試験を行い、シャルピー強度を求めた。
(1−4)表面抵抗値
曲げ試験に使用したISOダンベル型の試験片について、プローブ型端子を使用し2点間での表面抵抗値を測定した。(アドバンテスト社製高抵抗率計を使用し、ダンベルの中央部を流動方向に沿って測定)
【0049】
(1−5)難燃試験(UL−94)
アンダーライターズ・ラボラトリーズのサブジェクト94(UL94)の方法に準じ、5本の試験片(厚み:0.8mm)を用いて、難燃性および樹脂組成物の燃焼に伴う滴下特性について試験し、燃焼レベルを評価した。
【表1】

(1−6)離型性
上記(1−5)で作成する厚み0.8mmの試験片を作成する際に、金型からはがれやすいかどうかにより評価した。
○:突き出しピンにより剥離する。
×:突き出しピンにより剥離しない。
(1−7)落下衝撃テスト
1インチHDDの樹脂バンパー形状に成形し、樹脂バンパーに絶縁シートを貼り付けて小型HDDに組み込んだ。この小型HDDを2mの高さからコンクリート床に落下させ、データを正常に読み出せるかどうかにより評価した。
○:データを読み出せる。
×:データを読み出せない。
【0050】
(1−8)脱着テスト
上記(1−7)と同様の方法で作製した小型HDDについて、挿入と引抜きを100回繰り返し、バンパーに破損があるか無いかにより評価した。
○:バンパーに破損なし。
×:バンパーに破損あり。
(1−9)電気衝撃テスト
上記(1−7)と同様の方法で作製した小型HDDをアースした金属板上に置き、8.5kVに帯電したものを160回(表裏の4つ角についてそれぞれ20回ずつ)接触させて、データを正常に読み出せるかどうかにより評価した。
○:データを読み出せる。
×:データを読み出せない。
【0051】
(2)実施例において使用した原料
(2−1)ポリエステルエラストマー(A)
A−1 ペルプレンGP300(東洋紡績社製 ポリエーテル系ポリエステルエラストマー)
A−2 ペルプレンGP500(東洋紡績社製 ポリエーテル系ポリエステルエラストマー)
(2−2)ポリブチレンテレフタレート(B)
ノバデュラン5008(三菱エンジニアリングプラスチックス社製 PBT 固有粘度〔η〕が0.9dl/g)
【0052】
(2−3)炭素繊維(C)
C−1(TR06UB3E 三菱レイヨン社製 チョップド炭素繊維。繊維径7μm、一次サイズ剤 エポキシ系、二次サイズ剤 ポリウレタン系、引張り弾性率235GPa、繊維長6mm、収束本数12000本、体積固有抵抗値1.5×10-3Ωcm。)
C−2(TR06NEB3E 三菱レイヨン社製 チョップド炭素繊維。繊維径7μm、一次サイズ剤 エポキシ系、二次サイズ剤 ポリアミド系、引張り弾性率235GPa、繊維長6mm、収束本数12000本、体積固有抵抗値1.5×10-3Ωcm。)
【0053】
(2−4)難燃剤(D)
d1−1 SR−T20000(坂本薬品工業社製 ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂 数平均分子量30000 両末端エポキシタイプ )
d1−2 SR−T104N(坂本薬品工業社製 ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂 数平均分子量1000 トリブロモフェノールによる50%末端封鎖タイプ )
d2−1 FR−1025(ブロモケム・ファーイースト社製 ペンタブロモフェニルポリアクリレート 数平均分子量8000)
D’−1 FG−7500(帝人化成社製 テトラブロモビスフェノールAのカーボネートオリゴマー)
【0054】
(2−5)その他の成分
カーボンブラック(C’):コンダクテクス975(コロンビヤン・カーボン日本社製 導電タイプカーボンブラック)
耐摩耗性付与剤:エースフロンSG−1000(三幸ファインマテリアル社製微粉砕PTFE: 懸濁重合により製造したPTFEを焼成し、放射線処理後に粉砕したもの)
難燃助剤:パトックスM(日本精鉱社製 三酸価アンチモン)
ドリッピング防止剤:メタブレンA3800(三菱レイヨン社製 PTFE含有重合体)
フィラー:ミクロンホワイト#5000A(林化成社製タルク)
抗酸化剤:アデカスタブAO-60(旭電化工業社製 ヒンダードフェノール系抗酸化剤)、アデカスタブ2112(旭電化工業社製 チオエーテル系抗酸化剤)
離型剤:LICOWAX−OP(クラリアントジャパン社製 離型剤 モンタン酸の部分ケン化エステル)
【0055】
実施例1〜8および比較例1〜11
二軸押出機(池貝製作所製PCM−30)を用いて、表1〜2に示す炭素繊維以外の成分を樹脂フィーダーから供給し、炭素繊維をサイドフィーダーから供給して、押出機のシリンダー温度260℃(樹脂温度290℃)で溶融混練してポリエステルエラストマー(A)、ポリブチレンテレフタレート(B)、炭素繊維(C)、ハロゲン系難燃剤(D)、およびその他の成分を含有する樹脂組成物のペレットを得た。なお、ここで押出機の中間に設けられたベント口より減圧し水分を除去した。
次いでこのペレットを150℃で2時間の熱風による乾燥をし、射出成形機(三菱重工製75T射出成形機)を用いて、樹脂温度260℃、金型温度80℃の温度条件で各種試験片を成形した。樹脂組成物および成形品の評価結果を表2〜3に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の成形品は、衝撃吸収性、導電性、および難燃性が要求される磁気ヘッド、IC、ハードディスクなどの電気電子分野に使用することが可能であり、中でも小型ハードディスクドライブの樹脂バンパーとして好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルエラストマー(A)25〜86質量%、ポリブチレンテレフタレート(B)2〜63質量%、炭素繊維(C)7〜30質量%、およびハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(d1)を含有するハロゲン系難燃剤(D)5〜66質量%を含有する樹脂組成物。
【請求項2】
ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(d1)の数平均分子量が15000以上である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ハロゲン系難燃剤(D)が、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(d1)3〜40質量%、ハロゲン化ポリアクリレート樹脂(d2)60〜97質量%からなる請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項4】
曲げ弾性率が3000〜7500MPa以下、シャルピー強度が60kJ/m以上、表面抵抗値が1000Ω以下、難燃性が厚さ0.8mmでV−1以上である樹脂成形品。

【公開番号】特開2007−284561(P2007−284561A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113423(P2006−113423)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】