説明

樹脂組成物

【課題】 本発明の目的は、耐衝撃性と透明性に優れた脂肪族系ポリエステル樹脂組成物を提供することである。
【解決手段】 脂肪族系ポリエステル樹脂組成物中の脂肪族系ポリエステル(A)とアクリル系ブロック共重合体(B)の重量比が99/1〜50/50であり、アクリル系ブロック共重合体(B)が、アクリル系重合体ブロック(a)およびメタアクリル系重合体ブロック(b)からなり、少なくとも一方の重合体ブロックに反応性官能基(c)を有することを特徴とする脂肪族系ポリエステル樹脂組成物を用いて、食品容器、シート類、ボトル、透明板、フィルム、延伸フィルム、包装材、レジ袋、緩衝材、農業用マルチフィルム、魚網、食器、ごみ袋などの樹脂加工品を作製すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性と透明性に優れた脂肪族系ポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止、循環型社会の構築に貢献する新たな資源として、植物など生物由来の樹脂であるバイオマスが注目されている。バイオマスを燃焼すると、石油由来の樹脂と同様に二酸化炭素(CO)を発生するが、植物は、成長過程で光合成によりCOを吸収しており、ライフサイクル全体でみると大気中のCOを増加させず、収支はゼロであると考えられる。このように、COの増減に影響を与えない性質のことをカーボンニュートラルと呼んでいる。このカーボンニュートラルという思想が、近年、普及し、様々な植物由来樹脂が開発されている。これらのうち溶融成形が可能な植物由来樹脂として、例えば、でんぷん、グルコース、ポリ乳酸などの脂肪族系ポリステルが知られている。
【0003】
脂肪族系ポリエステルの中でも、ポリ乳酸は、比較的コストが安く、融点もおよそ170℃と高く、溶融成形可能な植物由来樹脂として期待されている。しかし、その一方で、ポリ乳酸の特徴とする透明性が必要な容器・包材用途においては透明性だけでなく、耐衝撃性が必要とされる(例えば特許文献1)。しかしそれらを両立させることは困難なため、その改良が望まれている。
【特許文献1】特開平08−259788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、耐衝撃性と透明性に優れた脂肪族系ポリエステル樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、脂肪族系ポリエステルに特定のアクリル系ブロック共重合体をブレンドすることによって、脂肪族系ポリエステル樹脂組成物の耐衝撃性を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の第一は、脂肪族系ポリエステル樹脂組成物中の脂肪族系ポリエステル(A)とアクリル系ブロック共重合体(B)の重量比が99/1〜50/50であり、アクリル系ブロック共重合体(B)が、アクリル系重合体ブロック(a)およびメタアクリル系重合体ブロック(b)からなり、少なくとも一方の重合体ブロックに反応性官能基(c)を有することを特徴とする脂肪族系ポリエステル樹脂組成物に関する。好ましい実施態様は、反応性官能基(c)がエポキシ基であることを特徴とする上記記載の脂肪族系ポリエステル樹脂組成物に関する。より好ましくは、アクリル系ブロック共重合体(B)が、原子移動ラジカル重合により製造されたブロック共重合体であることを特徴とする上記記載の脂肪族系ポリエステル樹脂組成物、更に好ましくは、脂肪族系ポリエステル(A)が、ポリ乳酸であることを特徴とする上記記載の脂肪族系ポリエステル樹脂組成物、に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の脂肪族系ポリエステル樹脂組成物は耐衝撃性と透明性に優れることから包材用途など好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明にかかる脂肪族系ポリエステル樹脂組成物は、脂肪族系ポリエステル(A)およびアクリル系ブロック共重合体(B)からなる。但し、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、相溶でき得る材料は混合しても良い。以下に、該組成物の各成分について詳細に説明する。
【0009】
<脂肪族系ポリエステル(A)>
本発明の脂肪族系ポリステル(A)としては、特に限定されるものではなく、脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体、脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とする重合体などが挙げられる。具体的には、脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、またはポリカプロラクトンなどが挙げられ、脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とする重合体としては、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートまたはポリブチレンサクシネートなどが挙げられる。これらの脂肪族系ポリステルは少なくとも1種を用いることができる。これらの脂肪族系ポリステルの中でも、ポリ乳酸が好ましく使用される。
【0010】
ポリ乳酸としては、L−乳酸及び/又はD−乳酸を主たる構成成分とする重合体であるが、本発明の目的を損なわない範囲で、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよい。なお、プラスチックとして利用する場合には、物性面からD−乳酸の含有量は少ない方がよい。
【0011】
乳酸以外の他の共重合成分単位としては、例えば、多価カルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトンなどが挙げられ、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸などの多価カルボン酸類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ビスフェノールにエチレンオキシドを付加反応させた芳香族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの多価アルコール類、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸類、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトンなどのラクトン類などを使用することができる。これらの共重合成分は少なくとも1種を用いることができる。
【0012】
ポリ乳酸で高い耐熱性を得るためには、乳酸成分の光学純度が高い方が好ましく、総乳酸成分の内、L体あるいはD体の何れかが80モル%以上含まれることがより好ましく、さらには何れかが90モル%以上含まれることが好ましく、何れかが95モル%以上含まれることが特に好ましい。
【0013】
脂肪族系ポリステル(A)の製造方法としては、既知の重合方法を用いることができ、特にポリ乳酸については、乳酸からの直接重合法、ラクチドを介する開環重合法などを採用することができる。
【0014】
脂肪族系ポリステル(A)の分子量や分子量分布は、実質的に成形加工が可能であれば、特に限定されるものではなく、重量平均分子量としては、好ましくは1万以上、より好ましくは4万以上、特に好ましくは8万以上である。ここでいう重量平均分子量とは、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメタクリル酸メチル(PMMA)換算の重量平均分子量である。
【0015】
脂肪族系ポリステル(A)の融点は、特に限定されるものではなく、90℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。
【0016】
<アクリル系ブロック共重合体(B)>
本発明のアクリル系ブロック共重合体(B)とは、アクリル系重合体ブロック(a)とメタアクリル系重合体ブロック(b)とからなる重合体を意味する。アクリル系ブロック共重合体(B)は、線状ブロック共重合体であっても、分岐状(星状)ブロック共重合体であってもよく、これらの混合物であってもよい。その構造は、加工特性や機械特性などに応じて適宜選択すればよいが、コスト面や重合容易性の点から、線状ブロック共重合体であるのが好ましい。
【0017】
線状ブロック共重合体は、どのような線状ブロック構造(配列)であってもかまわないが、その物性または組成物にした場合の物性の点から、アクリル系ブロック共重合体(B)を構成するアクリル系重合体ブロック(a)(以下、重合体ブロック(a)またはブロック(a)ともいう。)およびメタアクリル系重合体ブロック(b)(以下、重合体ブロック(b)またはブロック(b)ともいう。)が、一般式:(a−b)n、一般式:b−(a−b)n、一般式:(a−b)n−a(nは1〜3の整数)で表されるブロック共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のブロック共重合体であることが好ましい。これらの中でも、加工時の取扱い容易性や、組成物にした場合の物性の点から、a−b型のジブロック共重合体、b−a−b型のトリブロック共重合体またはこれらの混合物が好ましい。
【0018】
アクリル系ブロック共重合体(B)は、脂肪族系ポリエステル(A)と反応性をもたせ、相溶性を向上させたり、耐衝撃強度を向上させるために、反応性官能基(c)(以下、単位(c)ともいう。)を有するものである。反応性官能基(c)は、ブロック(a)および/又はブロック(b)の重合体ブロックに存在していてよい。
【0019】
反応性官能基(c)としては、エポキシ基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物基およびイソシアネート基等が挙げられる。このうち、反応性官能基(c)としては、エポキシ基を含有する単位が、反応性の点から好ましい。
【0020】
単位(c)は、アクリル系重合体ブロック(a)および/又はメタアクリル系重合体ブロック(b)に、一分子当たり1個以上含まれているのが好ましい。その数が2個以上の場合には、その単位(c)が重合されている様式はランダム共重合であってもよく、ブロック共重合であってもよい。
【0021】
ブロック共重合体(B)への単位(c)の含有のさせ方をb−a−b型のトリブロック共重合体を例にとって表すと、(b/c)−a−b型、(b/c)−a−(b/c)型、c−b−a−b型、c−b−a−b−c型、b−(a/c)−b型、b−a−c−b型、b−c−a−b型などで表され、これらのいずれであってもよい。ここで(a/c)とは、ブロック(a)に単位(c)が含有されていることを表し、(b/c)とは、ブロック(b)に単位(c)が含有されていることを表し、c−a−、a−c−とは、ブロック(a)の端部に単位(c)が結合していることを表す。表現は、(a/c)、(b/c)、c−a−、a−c−などであるが、これらはいずれもブロック(a)またはブロック(b)に属する。
【0022】
アクリル系ブロック共重合体(B)の数平均分子量は、30,000〜500,000が好ましく、40,000〜400,000がより好ましく、50,000〜300,000がさらに好ましい。分子量が30,000未満であると改質剤として充分な耐衝撃性を発現することができない場合があり、500,000を超えると物性上に問題はないが、重合時間が長くなり、生産性が低下する場合がある。
【0023】
アクリル系ブロック共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)としては、1〜2であるのが好ましく、1〜1.8であるのがより好ましい。Mw/Mnが2を越えるとアクリル系ブロック共重合体(B)の耐衝撃性が悪化する場合がある。尚、本発明における数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いてクロロホルムを移動相とし、ポリスチレン換算の分子量を求めたものである。
【0024】
アクリル系ブロック共重合体(B)を構成するアクリル系重合体ブロック(a)とメタアクリル系重合体ブロック(b)との組成比は、要求される物性、組成物の加工時に要求される成形性、およびアクリル系重合体ブロック(a)とメタアクリル系重合体ブロック(b)にそれぞれ必要とされる分子量などから決めればよいが、通常はアクリル系重合体ブロック(a)が40〜95重量%(メタアクリル系重合体ブロック(b)が60〜5重量%)であるのが好ましく、50〜90重量%(メタアクリル系重合体ブロック(b)が50〜10重量%)であるのがより好ましい。アクリル系重合体ブロック(a)の割合が40重量%より少ない場合には、耐衝撃強度が低下したり、柔軟性が低下する場合があり、95重量%より多い場合には、ペレットの粘着性が高くなりすぎて脂肪族系ポリエステルとのブレンド時に取り扱い難くなる場合がある。
【0025】
アクリル系ブロック共重合体(B)を構成するアクリル系重合体ブロック(a)とメタアクリル系重合体ブロック(b)とのガラス転移温度の関係は、アクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度をTg、メタアクリル系重合体ブロック(b)のそれをTgとした場合、下式の関係を満たすようにするのが好ましい。
Tg<Tg
【0026】
ここで、アクリル系重合体ブロック(a)やメタアクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度(Tg)は、下記Foxの式にしたがい、各重合体ブロックにおける単量体の重量比率を用いて概算値を求めることができる。
1/Tg=(W/Tg)+(W/Tg)+…+(W/Tg
+W+…+W=1
(式中、Tgは重合体ブロックのガラス転移温度を表し、Tg,Tg,…,Tgmはそれぞれ重合した単量体(ホモポリマー)のガラス転移温度を表す。また、W,W,…,Wはそれぞれ重合した単量体の重量比率を表す。)
Foxの式における、それぞれの単量体のホモポリマーのガラス転移温度は、たとえば、ポリマーハンドブック第3版(Polymer Handbook Third Edition)(ウイレィ インターサイエンス(Wiley−Interscience),1989)に記載されており、本明細書ではこの値を用いている。
【0027】
アクリル系ブロック共重合体(B)の具体例としては、たとえば後述する製造例1で製造したアクリル系ブロック共重合体が挙げられる。このようなアクリル系ブロック共重合体について、以下、さらに詳細に説明する。
【0028】
<アクリル系重合体ブロック(a)>
アクリル系ブロック共重合体(B)中のアクリル系重合体ブロック(a)は、ゴム特性を発現するためにメタアクリル系重合体ブロック(b)とのガラス転移温度の関係において、Tg<Tgを満たすようにするのが好ましい。また、アクリル系重合体ブロック(a)は、そのブロック全体において、アクリル酸エステル単位を50〜100重量%含有しているのが好ましく、60〜100重量%含有しているのが耐衝撃強度を大きくする点でより好ましい。またこれらと共重合可能な他のビニル系単量体を0〜50重量%含有しているのが好ましく、0〜25重量%を含有しているのがより好ましい。アクリル酸エステル単位の割合が50重量%未満であると、アクリル酸エステルを用いた場合の特徴である物性の耐衝撃強度が小さくなる場合がある。
【0029】
アクリル系重合体ブロック(a)の分子量は、アクリル系重合体ブロック(a)に必要とされる弾性率やゴム弾性などから決めればよい。アクリル系重合体ブロック(a)に必要とされる数平均分子量をMAとして、その範囲は、好ましくはMA>3,000、より好ましくはMA>5,000、さらに好ましくはMA>10,000、特に好ましくはMA>20,000、最も好ましくはMA>40,000である。アクリル系重合体ブロック(a)の数平均分子量MAが前記の範囲より小さいと、耐衝撃強度が低くなる場合がある。また、分子量の上限は、好ましくは500,000以下であり、さらに好ましくは300,000以下である。
【0030】
アクリル系重合体ブロック(a)を構成するアクリル酸エステルとしては、たとえばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ペンチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸n−ヘプチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸脂肪族炭化水素(たとえば炭素数が1以上18以下のアルキル)エステル;アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニルなどのアクリル酸脂環式炭化水素エステル;アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイルなどのアクリル酸芳香族炭化水素エステル;アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸アラルキルエステル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸3−メトキシブチルなどのアクリル酸とエーテル性酸素を有する官能基含有アルコールとのエステル;アクリル酸トリフルオロメチルメチル、アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、アクリル酸2−パーフルオロエチル、アクリル酸パーフルオロメチル、アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、アクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、アクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチルなどのアクリル酸フッ化アルキルエステルなどがあげられる。これらは単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのアクリル酸エステルの中でも、耐衝撃強度、コストおよび入手しやすさの点から、アクリル酸n−ブチルが好ましい。
【0031】
アクリル系重合体ブロック(a)を構成するアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体としては、たとえばメタアクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロンゲン含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド系化合物などがあげられる。
【0032】
メタアクリル酸エステルとしては、たとえばメタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸n−プロピル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸イソブチル、メタアクリル酸n−ペンチル、メタアクリル酸n−ヘキシル、メタアクリル酸n−ヘプチル、メタアクリル酸n−オクチル、メタアクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸ノニル、メタアクリル酸デシル、メタアクリル酸ドデシル、メタアクリル酸ステアリルなどのメタアクリル酸脂肪族炭化水素(たとえば炭素数1〜18のアルキル)エステル;メタアクリル酸シクロヘキシル、メタアクリル酸イソボルニルなどのメタアクリル酸脂環式炭化水素エステル;メタアクリル酸ベンジルなどのメタアクリル酸アラルキルエステル;メタアクリル酸フェニル、メタアクリル酸トルイルなどのメタアクリル酸芳香族炭化水素エステル;メタアクリル酸2−メトキシエチル、メタアクリル酸3−メトキシブチルなどのメタアクリル酸とエーテル性酸素を有する官能基含有アルコールとのエステル;メタアクリル酸トリフルオロメチルメチル、メタアクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、メタアクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、メタアクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、メタアクリル酸2−パーフルオロエチル、メタアクリル酸パーフルオロメチル、メタアクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、メタアクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、メタアクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、メタアクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、メタアクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチルなどのメタアクリル酸フッ化アルキルエステルなどが挙げられる。
【0033】
芳香族アルケニル化合物としては、たとえばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレンなどが挙げられる。
【0034】
シアン化ビニル化合物としては、たとえばアクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
【0035】
共役ジエン系化合物としては、たとえばブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。
【0036】
ハロゲン含有不飽和化合物としては、たとえば塩化ビニル、塩化ビニリデン、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。
【0037】
不飽和ジカルボン酸化合物としては、たとえば無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステルなどがあげられる。
【0038】
ビニルエステル化合物としては、たとえば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニルなどが挙げられる。
【0039】
マレイミド系化合物としては、たとえばマレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどが挙げられる。
【0040】
アクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体は、それぞれ単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。ビニル系単量体は、アクリル系重合体ブロック(a)に要求されるガラス転移温度、弾性率、極性、また、アクリル系ブロック共重合体(B)が組成物として使用される場合に要求される物性、脂肪族系ポリエステル(A)との相溶性などによって好ましいものを適宜選択することができる。
【0041】
アクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度は、好ましくは50℃以下、より好ましくは0℃以下である。ガラス転移温度が50℃より高いと、アクリル系ブロック共重合体(B)のゴム弾性が低下する場合がある。
【0042】
アクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度(Tg)の設定は、重合体ブロックを構成する各単量体のホモポリマーのガラス転移温度を前述のポリマーハンドブック第3版から求め、各単量体の重合比率から、前記Foxの式に従い、重合体ブロックを構成する単量体の重量割合を変化させることにより行うことができる。
【0043】
アクリル系重合体ブロック(a)の具体例としては、たとえば、後述する製造例1で製造したアクリル系ブロック共重合体に含まれるアクリル系重合体ブロックが挙げられる。
【0044】
<メタアクリル系重合体ブロック(b)>
アクリル系ブロック共重合体(B)中のメタアクリル系重合体ブロック(b)は、アクリル系重合体ブロック(a)とのガラス転移温度の関係(Tg<Tg)を満たすようにするのが好ましい。
【0045】
メタアクリル系重合体ブロック(b)の分子量は、メタアクリル系重合体ブロック(b)に必要とされる凝集力などから決めればよい。凝集力は、分子間の相互作用(極性)と絡み合いの度合いに依存するとされており、数平均分子量を増やすほど絡み合い点が増加して凝集力が増加する。すなわち、メタアクリル系重合体ブロック(b)に必要とされる数平均分子量をMBとし、メタアクリル系重合体ブロック(b)を構成する重合体の絡み合い点間分子量をMcBとしてMBの範囲を例示すると、凝集力が必要な場合には、好ましくはMB>McBである。さらに例を挙げると、さらなる凝集力が必要とされる場合には、好ましくはMB>2×McBであり、逆に、ある程度の凝集力とクリープ性を両立させたい時には、McB<MB<2×McBであるのが好ましい。絡み合い点間分子量は、ウ(Wu)らの文献(ポリマー エンジニアリング アンド サイエンス(Polym.Eng.and Sci.)、1990年、30巻、753頁)などを参照すればよい。たとえば、メタアクリル系重合体ブロック(b)がすべてメタアクリル酸メチルから構成されているとして、凝集力が必要とされる場合のメタアクリル系重合体ブロック(b)の数平均分子量は、9,200以上であることが好ましい。ただし、単位(c)がメタアクリル系重合体ブロック(b)に含有される場合には、単位(c)による凝集力が付与されるので、数平均分子量はこれより低く設定することができる。製造時の取り扱い性から、分子量の上限は好ましくは200,000以下、さらに好ましくは100,000以下である。
【0046】
メタアクリル系重合体ブロック(b)を構成するメタアクリル酸エステルとしては、前記アクリル系重合体ブロック(a)を構成するアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体として例示したものが挙げられる。これらメタアクリル酸エステルは少なくとも1種使用できる。これらの中でも、コスト、入手しやすさおよび脂肪族系ポリエステルとの相溶性の点から、メタアクリル酸メチルが好ましい。
【0047】
メタアクリル系重合体ブロック(b)を構成するメタアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体としては、たとえばアクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド系化合物などが挙げられる。
【0048】
アクリル酸エステルとしては、アクリル系重合体ブロック(a)の説明で例示した構成単量体と同様の単量体が挙げられる。
【0049】
芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド系化合物としてはアクリル系重合体ブロック(a)の説明で共重合可能なビニル系単量体として例示した構成単量体と同様の単量体が挙げられる。
【0050】
メタアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体は、上記のものを少なくとも1種用いることができる。なお、メタアクリル酸メチルの重合体は、加熱により解重合するが、メタアクリル酸メチルにアクリル酸エステル、たとえばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−メトキシエチルもしくはそれらの混合物またはスチレンなどを共重合させることで、解重合を抑えることができる。
【0051】
メタアクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上である。ガラス転移温度が100℃未満の場合、高温でのゴム弾性が低下する場合がある。
【0052】
メタアクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度(Tg)の設定は、重合体ブロックを構成する各単量体のホモポリマーのガラス転移温度を前述のポリマーハンドブック第3版から求め、各単量体の重合比率により、前記Foxの式にしたがい、重合体ブロックを構成する単量体の割合を変えることにより行うことができる。
【0053】
メタアクリル系重合体ブロック(b)の具体例としては、たとえば後述する製造例1で製造したアクリル系ブロック共重合体に含まれるメタアクリル系重合体ブロックが挙げられる。
【0054】
<反応性官能基(c)>
反応性官能基(c)としては、エポキシ基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物基およびイソシアネート基等が挙げられる。反応性官能基(c)としては、反応性の高さや導入の容易性から、エポキシ基が好ましい。
【0055】
本発明において、反応性官能基(c)は、アクリル系ブロック共重合体(B)と脂肪族系ポリエステルとの反応点として作用すればよい。
【0056】
反応性官能基(c)の含有数は、これらの官能基の凝集力、反応性、アクリル系ブロック共重合体(B)の構造および組成、アクリル系ブロック共重合体(B)を構成するブロックの数、ガラス転移温度に応じて適宜設定する必要があるが、耐衝撃性を付与するために、好ましくはブロック共重合体1分子あたり平均して1.0個以上、より好ましくは2.0個以上とする。これは、1.0個より少なくなると、ブロック共重合体の2分子間反応による高分子量化や架橋による耐衝撃性向上が不十分になる傾向があるためである。
【0057】
反応性官能基(c)の導入部位は、アクリル系ブロック共重合体(B)の反応点や、アクリル系ブロック共重合体(B)を構成するブロックの凝集力やガラス転移温度、さらには必要とされる脂肪族系ポリエステル(A)の物性などに応じて適宜選択することができる。脂肪族系ポリエステル(A)の耐熱性や耐熱分解性の向上の点からは、反応性官能基(c)をメタアクリル系重合体ブロック(b)に導入するのが好ましく、脂肪族系ポリエステル(A)に柔軟性を付与する観点からは、反応性官能基(c)をアクリル系重合体ブロック(a)に反応部位として導入するのが好ましい。なお、反応点の制御などの点からは、反応性官能基(c)をアクリル系重合体ブロック(a)またはメタアクリル系重合体ブロック(b)のどちらか一方に有することが好ましい。
【0058】
反応性官能基(c)の含有量は、単位(c)と脂肪族系ポリエステル(A)との反応性、アクリル系ブロック共重合体(B)の構造および組成、アクリル系ブロック共重合体(B)を構成するブロックの数、ガラス転移温度ならびに反応性官能基(c)の含有される部位および様式によって好ましい範囲が変化するが、アクリル系ブロック共重合体(B)全体中、0.05〜20重量%が好ましく、0.1〜10重量%がより好ましい。単位(c)の含有量が0.05重量%より少ないと、アクリル系ブロック共重合体(B)と脂肪族系ポリエステル(A)との相溶性が不充分になる場合がある。一方、20重量%を超えると、凝集力が強くなりすぎるため生産性が低下する場合がある。
【0059】
<アクリル系ブロック共重合体(B)の製造方法>
アクリル系ブロック共重合体(B)の製造方法としては、特に限定されないが、制御重合を用いることが好ましい。制御重合としては、リビングアニオン重合、連鎖移動剤を用いるラジカル重合および近年開発されたリビングラジカル重合をあげることができる。リビングラジカル重合がブロック共重合体の分子量および構造制御の点ならびに反応性官能基を有する単量体を共重合できる点から好ましい。
【0060】
リビング重合とは、狭義においては、末端が常に活性を持ち続ける重合のことを示すが、一般には、末端が不活性化されたものと活性化されたものが平衡状態にある擬リビング重合も含まれ、本発明におけるリビングラジカル重合は、重合末端が活性化されたものと不活性化されたものが平衡状態で維持されるラジカル重合であり、近年様々なグループで積極的に研究がなされている。
【0061】
その例としては、ポリスルフィドなどの連鎖移動剤を用いるもの、コバルトポルフィリン錯体(Journal of American Chemical Society,1994年,第116巻,7943頁)やニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いるもの(Macromolecules,1994年,第27巻,7228頁)、有機ハロゲン化物などを開始剤とし遷移金属錯体を触媒とする原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)などをあげることができる。本発明において、これらのうちどの方法を使用するかは特に制約はないが、制御の容易さなどから原子移動ラジカル重合が好ましい。
【0062】
原子移動ラジカル重合は、有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤、周期律表第8族、9族、10族、または11族元素を中心金属とする金属錯体を触媒として重合される(例えば、Matyjaszewskiら,Journal of American Chemical Society,1995,117,5614、Macromolecules,1995年,第28巻,7901頁、Science,1996年,第272巻,866頁、またはSawamotoら, Macromolecules,1995年,第28巻,1721頁)。
【0063】
これらの方法によると一般的に非常に重合速度が高く、ラジカル同士のカップリングなどの停止反応が起こりやすいラジカル重合でありながら、重合がリビング的に進行し、分子量分布の狭いMw/Mn=1.1〜1.5程度の重合体が得られ、分子量はモノマーと開始剤の仕込み時の比率によって自由にコントロールすることができる。
【0064】
原子移動ラジカル重合法において、開始剤として用いられる有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物としては、一官能性、二官能性、または、多官能性の化合物を使用できる。これらは目的に応じて使い分けることができる。ジブロック共重合体を製造する場合は、一官能性化合物が好ましい。a−b−a型のトリブロック共重合体、b−a−b型のトリブロック共重合体を製造する場合は二官能性化合物を使用することが好ましい。分岐状ブロック共重合体を製造する場合は多官能性化合物を使用することが好ましい。
【0065】
一官能性化合物としては、たとえば、以下の化学式で示される化合物などをあげることができる。
−CH
−CHX−CH
−C(CH
R2−CHX−COOR3
R2−C(CH)X−COOR3
R2−CHX−CO−R3
R2−C(CH)X−CO−R3
R2−C−SO
(式中、C5はフェニル基を表し、Cはフェニレン基を表す。フェニレン基は、オルト置換、メタ置換およびパラ置換のいずれでもよい。R2は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、または炭素数7〜20のアラルキル基を表す。Xは塩素、臭素またはヨウ素を表す。R3は炭素数1〜20の一価の有機基を表す。)
【0066】
二官能性化合物としては、たとえば、以下の化学式で示される化合物などをあげることができる。
X−CH−C−CH−X
X−CH(CH)−C−CH(CH)−X
X−C(CH−C−C(CH−X
X−CH(COOR)−(CHn−CH(COOR)−X
X−C(CH)(COOR)−(CHn−C(CH)(COOR)−X
X−CH(COR)−(CHn−CH(COR)−X
X−C(CH)(COR)−(CH)n−C(CH)(COR)−X
X−CH−CO−CH−X
X−CH(CH)−CO−CH(CH)−X
X−C(CH−CO−C(CH
X−CH(C)−CO−CH(C)−X
X−CH−COO−(CH)n−OCO−CH−X
X−CH(CH)−COO−(CH)n−OCO−CH(CH)−X
X−C(CH−COO−(CH)n−OCO−C(CH−X
X−CH−CO−CO−CH−X
X−CH(CH)−CO−CO−CH(CH)−X
X−C(CH−CO−CO−C(CH−X
X−CH−COO−C−OCO−CH−X
X−CH(CH)−COO−C−OCO−CH(CH)−X
X−C(CH−COO−C−OCO−C(CH−X
X−SO−C−SO−X
(式中、R4は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアラルキル基を表す。Cはフェニレン基を表す。フェニレン基は、オルト置換、メタ置換およびパラ置換のいずれでもよい。Cはフェニル基を表す。nは0〜20の整数を表す。Xは塩素、臭素またはヨウ素を表す。)
【0067】
多官能性化合物としては、たとえば、以下の化学式で示される化合物などをあげることができる。
(CHX)
(CH(CH)−X)
(C(CH−X)
(OCO−CHX)
(OCO−CH(CH)−X)
(OCO−C(CH−X)
(SOX)
(式中、Cは三置換フェニル基を表す。三置換フェニル基は、置換基の位置は1位〜6位のいずれでもよい。Xは塩素、臭素またはヨウ素を表す。)
【0068】
これらの開始剤として用いうる有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物は、ハロゲンが結合している炭素がカルボニル基、フェニル基などと結合しており、炭素−ハロゲン結合が活性化されて重合が開始する。使用する開始剤の量は、必要とするブロック共重合体の分子量に合わせて、単量体との比から決定すればよい。すなわち、開始剤1分子あたり、何分子の単量体を使用するかによって、ブロック共重合体の分子量を制御することができる。
【0069】
原子移動ラジカル重合の触媒として用いられる遷移金属錯体としてはとくに限定はないが、好ましいものとして、1価および0価の銅、2価のルテニウム、2価の鉄または2価のニッケルの錯体をあげることができる。これらの中でも、コストや反応制御の点から銅の錯体が好ましい。
【0070】
1価の銅化合物としては、たとえば、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、過塩素酸第一銅などをあげることができる。銅化合物を用いる場合、触媒活性を高めるために、2,2’−ビピリジルおよびその誘導体、1,10−フェナントロリンおよびその誘導体、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチル(2−アミノエチル)アミンなどのポリアミンなどを配位子として添加することもできる。また、2価の塩化ルテニウムのトリストリフェニルホスフィン錯体(RuCl(PPh)も触媒として使用する事ができる。
【0071】
ルテニウム化合物を触媒として用いる場合は、活性化剤としてアルミニウムアルコキシド類を添加することもできる。さらに、2価の鉄のビストリフェニルホスフィン錯体(FeCl(PPh)、2価のニッケルのビストリフェニルホスフィン錯体(NiCl(PPh)、および、2価のニッケルのビストリブチルホスフィン錯体(NiBr(PBu)も触媒として使用できる。使用する触媒、配位子および活性化剤の量は、特に限定されないが、使用する開始剤、単量体および溶媒の量と必要とする反応速度の関係から適宜決定することができる。
【0072】
原子移動ラジカル重合は、無溶媒(塊状重合)または各種溶媒中で行なうことができる。溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素系溶媒、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノールなどのアルコール系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒などをあげることができ、これらは少なくとも1種を混合して用いることができる。また、溶媒を使用する場合、その使用量は、系全体の粘度と必要とする反応速度(即ち、撹拌効率)の関係から適宜決定することができる。
【0073】
また、原子移動ラジカル重合は、室温〜200℃で行うのが好ましく、50〜150℃の範囲で行うのがより好ましい。原子移動ラジカル重合温度が室温より低いと粘度が高くなり過ぎて反応速度が遅くなる場合があり、200℃を超えると安価な重合溶媒を使用できない場合がある。
【0074】
原子移動ラジカル重合により、ブロック共重合体を製造する方法としては、単量体を逐次添加する方法、あらかじめ合成した重合体を高分子開始剤として次のブロックを重合する方法、別々に重合した重合体を反応により結合する方法などをあげることができる。これらの方法は、目的に応じて使い分けることができる。製造工程の簡便性の点から、単量体の逐次添加による方法が好ましい。
【0075】
本発明の製造方法により製造する成形体には、成形体の耐衝撃性と透明性を損なわない限り、耐熱性の向上、機械物性の向上、耐ブロッキング性、柔軟性、耐候性、難燃性の向上などの諸物性を改善するために無機添加剤、各種エラストマー、可塑剤、顔料、安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、離型剤、滑剤、染料、抗菌剤を添加することもできる。
【0076】
<脂肪族系ポリエステル樹脂組成物>
本発明の脂肪族系ポリエステル樹脂組成物は、脂肪族系ポリエステル(A)、アクリル系ブロック共重合体(B)を含む。脂肪族系ポリエステル(A)とアクリル系ブロック共重合体(B)の重量比は、特に限定されるものではないが、99/1〜50/50であることが好ましく、さらに、99/1〜60/40であることがより好ましく、特に99/1〜70/30であることが最も好ましい。上記範囲内にあることで、耐衝撃性と透明性の良い成形体を得ることができる。
【0077】
本発明においては、脂肪族系ポリエステル(A)中にアクリル系ブロック共重合体(B)が細かく分散し、分散状態が良好なものほど耐衝撃性を向上させる効果が大きい。
【0078】
これらの脂肪族系ポリエステル樹脂組成物は、実際に成形加工する前に脂肪族系ポリエステル(A)、アクリル系ブロック共重合体(B)をそれぞれ計量し、成形加工機に投入しても良いが、ハンドリング、混練の均一性などの観点から、成形加工前にペレット化しておいても良い。以下に、そのペレット化について説明する。
【0079】
本発明の脂肪族系ポリエステル樹脂組成物をペレット化する方法は、特に限定はないが、バンバリーミキサー、ロールミル、ニーダー、単軸または多軸の押出機などの公知の装置を用い、適当な温度で加熱しながら機械的に混練することで、ペレット状に賦形することができる。混練時の温度は、使用する脂肪族系ポリエステル(A)、アクリル系ブロック共重合体(B)の溶融温度などに応じて調整すればよく、たとえば180〜280℃で溶融混練することによりペレット化することができる。
【0080】
<添加剤>
必要に応じて次のような添加剤を配合してもよい。添加剤としては、安定剤、滑剤、難燃剤、顔料、無機フィラー、有機フィラー、離型剤、帯電防止剤、抗菌抗カビ剤、可塑剤などが挙げられる。これらの添加剤は、組成物が使用される用途などに応じて、適宜最適なものを選択すればよい。耐衝撃性と透明性を損なわない限り、例えば、有機フィラーとして、コア・シェル型のモディファイヤー(カネカ製カネエースFMなど)を適種適量配合しても良い。
【0081】
本発明の脂肪族系ポリエステル樹脂組成物は、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形、発泡成形、射出成形、インジェクションブローなどの任意の成形加工法によって成形加工することができる。これらの内、包材用途ではカレンダー成形、真空成形などが好ましい。
【0082】
本発明の脂肪族系ポリエステル樹脂組成物の具体的な用途は食品容器、シート類、ボトル、透明板、フィルム、延伸フィルム、包装材、レジ袋、緩衝材、農業用マルチフィルム、魚網、食器、ごみ袋などが挙げられる。
【実施例】
【0083】
つぎに、本発明の組成物を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下における、BA、MMAおよびGMAは、それぞれアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸メチルおよびメタアクリル酸グリシジルを意味する。また、重合体の分子量は、以下に示すGPC分析装置を使用し、クロロホルムを移動相とし、ポリスチレンゲルカラムを使用したGPC測定を行なって求めたポリスチレン換算の分子量である。
【0084】
<分子量測定法>
アクリル系ブロック共重合体の分子量は、GPC分析装置(システム:ウオーターズ(Waters)社製のGPCシステム、カラム:昭和電工(株)製のShodex K−804(ポリスチレンゲル))で測定した。クロロホルムを移動相とし、ポリスチレン換算の分子量を求めた。
【0085】
<6員環酸無水物基変換分析>
アクリル系ブロック共重合体の6員環酸無水物基変換反応の確認は、赤外スペクトル分析((株)島津製作所製、FTIR−8100を使用)および核磁気共鳴分析(BRUKER社製、AM400を使用)により行なった。核磁気共鳴分析用溶剤として、カルボン酸エステル構造のブロック体は、6員環酸無水物型構造のブロック体とともに、重クロロホルムを測定溶剤として分析を行なった。
【0086】
<耐衝撃性評価>
JIS K7110に準拠し、23℃、ノッチ有りのアイゾット強度を測定した。
【0087】
<透明性評価>
JIS K7136に準拠し、日本電色工業(株)社製NDH−300Aで23℃のHaze値を測定した。
【0088】
(製造例1) アクリル系ブロック共重合体の製造
(MMA−co−GMA−co−BA)−b−(BA)−b−(MMA−co−GMA−co−BA)(MMA/GMA/BA=89.9/3.9/6.2mol%、BA/(MMA−co−GMA−co−BA)=78.8/21.2重量%)型アクリル系ブロック共重合体を以下のように製造した。なお(MMA−co−GMA−co−BA)は、MMAとGMAとBAからなる重合体ブロックを意味し、(MMA−co−GMA−co−BA)−b−(BA)−b−(MMA−co−GMA−co−BA)は、(MMA−co−GMA−co−BA)重合体ブロックと、BA重合体ブロックがこの順に配列したブロック共重合体を意味する。
【0089】
加熱冷却可能な5L攪拌機付反応機の重合容器内を窒素置換したのち、臭化銅を9.08g(0.063mol)量りとり、アセトニトリル(窒素バブリングしたもの)を106.6ml加えた。2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル:5.7g(0.016mol)、BA:953.7g(7.441mol)の重合を行ない、85℃で加熱攪拌し、配位子ジエチレントリアミン1.3ml(0.0063mol)を加えて重合を開始した。BAの転化率が98.7%の時点でGMA:12.6g(0.088mol)、MMA:224.2g(2.239mol)、塩化銅:6.27g(0.063mol)、およびトルエン(窒素バブリングしたもの):628mlを加えた。MMAの転化率が77.7%、GMAの転化率が85.9%の時点で反応を終了させた。反応溶液をトルエン1265gで希釈し、p−トルエンスルホン酸一水和物14.44gを加えて室温で3時間撹拌したのち、バッグフィルター(HAYWARD社製)を用いて固体を除去した。得られたポリマー溶液に吸着剤(商品名キョーワード500SH;協和化学(株)製)を16.7g加えて室温でさらに3時間撹拌し、バッグフィルターを用い吸着剤を濾過して無色透明のポリマー溶液を得た。この溶液を乾燥させて溶剤および残存モノマーを除き、目的のアクリル系ブロック共重合体(NAB)を得た。得られたブロック共重合体のGPC分析を行なったところ、数平均分子量(Mn)が95319、分子量分布(Mw/Mn)が1.47であった。
【0090】
(実施例1)
ポリ乳酸(重量平均分子量20万、D−乳酸単位1モル%、融点175℃のポリ−L−乳酸)100重量部と製造例1で得られたアクリル系ブロック共重合体(NAB)10重量部とを、均一分散されるようにハンドブレンドにて十分に混合した。その後、これをベント付き2軸押出し機TEX30HSS−25.5PW−2V(日本製鋼所製)で溶融混練した。混練条件は、吐出量:8kg/Hr、回転数:100rpm、ホッパー設置部分側シリンダー部バレルをC1、ダイヘッド側バレルをC7としたとき、各バレル温度をC1〜C3:180℃、C4:180℃、C5:200℃、C6:200℃、C7:220℃、ダイヘッド部を220℃とした。押出されたストランドは射出成形しやすいようにペレタイザー「SCF‐100」(いすず化工機(株)製)でペレットを得た。
【0091】
型締め圧力80トンの射出成形機「IS−80EPN」(東芝機械社製)にてシリンダー温度220℃、射出速度10%、冷却時間20秒、金型温度40℃で射出成形し、IZOD強度測定用ダンベルを得、IZOD強度を測定した。また得られたペレットをプレス成形機にて1mm厚みのシートを成形し、濁度を測定した。結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
(比較例1)
ポリ乳酸(重量平均分子量20万、D−乳酸単位1モル%、融点175℃のポリ−L−乳酸)のペレットを型締め圧力80トンの射出成形機「IS−80EPN」(東芝機械社製)にてシリンダー温度220℃、射出速度10%、冷却時間20秒、金型温度40℃で射出成形し、IZOD強度測定用ダンベルを得、IZOD強度を測定した。またそのペレットをプレス成形機にて1mm厚みのシートを成形し、濁度を測定した。結果を表1に示す。
【0094】
表1の結果から明らかのように、実施例1で示した脂肪族系ポリエステルであるポリ乳酸とアクリル系ブロック共重合体との組成物からなる成形体は、比較例1に示した脂肪族系ポリエステルであるポリ乳酸単独だけの成形体に比べ良好な透明性を維持しながら、耐衝撃性が非常に良好であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族系ポリエステル樹脂組成物中の脂肪族系ポリエステル(A)とアクリル系ブロック共重合体(B)の重量比が99/1〜50/50であり、アクリル系ブロック共重合体(B)が、アクリル系重合体ブロック(a)およびメタアクリル系重合体ブロック(b)からなり、少なくとも一方の重合体ブロックに反応性官能基(c)を有することを特徴とする脂肪族系ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
反応性官能基(c)がエポキシ基であることを特徴とする請求項1に記載の脂肪族系ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
アクリル系ブロック共重合体(B)が、原子移動ラジカル重合により製造されたブロック共重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の脂肪族系ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
脂肪族系ポリエステル(A)が、ポリ乳酸であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の脂肪族系ポリエステル樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−106254(P2008−106254A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249119(P2007−249119)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】