説明

樹脂被覆金属顔料およびその製造方法、ならびにこれを用いた水性塗料

【課題】水性塗料の耐水性および塗膜の耐薬品性を高度に両立させることが可能な樹脂被覆金属顔料、および該樹脂被覆金属顔料を用いた水性塗料を提供する。
【解決手段】リン酸エステル成分(A)の溶液または分散液を金属顔料と接触させてリン酸エステル吸着金属顔料を調製する吸着工程と、重合成分(B)が溶解してなる重合用スラリーを調製するスラリー調製工程と、重合成分(B)を重合させることにより、リン酸エステル吸着金属顔料の表面に樹脂被覆層を形成する被覆工程とを含む樹脂被覆金属顔料の製造方法および該製造方法により得られる樹脂被覆金属顔料、ならびに該樹脂被覆金属顔料を用いた水性塗料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属やプラスティックの塗装に用いられるメタリック系塗料などに含有される樹脂被覆金属顔料に関するものであり、さらに詳しくは、水性塗料として使用した場合、優れた塗料保存安定性、特に耐水性を有し、かつ塗膜にした場合に優れた耐薬品性を示す樹脂被覆金属顔料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題についての関心の高まりから、有機溶剤を使用しない低公害型塗料として水性塗料や粉体塗料が注目を集めている。これらの塗料系においても、メタリックの美装性は従来の有機溶剤系塗料と同様に多方面の用途から要求され、金属顔料の使用は必須となっている。粉体塗装においては、静電塗装および高温焼付けの制約から、被塗装物は実質的に金属からなるものに限定されてしまう。一方、水性塗料において金属顔料を用いると、該金属顔料が塗料中の水と反応して黒変したり、水素ガスを発生したりする場合があり、塗料の保存安定性を欠くという問題が生じ易い。
【0003】
塗料の保存安定性を改善する技術としては、以下のものが例示できる。特許文献1には、飽和脂肪族基を含み不飽和脂肪族基を含まないエステル残基を有する有機リン酸エステルと、不飽和脂肪族基を含むエステル残基を有する有機リン酸エステルとの混合物を顔料成分として用いることが提案されている。また特許文献2には、アルミニウムフレークの表面をモリブデン酸被膜で被覆することが提案されている。また特許文献3には、過酸化モリブデン酸から誘導される被膜が形成され、かつアルキルアミン、アリールアミン、アルカノールアミン、アルコキシルアミンから選ばれる少なくとも一種のアミンを含有するアルミニウム顔料が提案されている。
【0004】
しかしこれらの技術により得られる金属顔料は、水性塗料としての保存安定性には優れるものの、塗膜とされた場合の耐薬品性には乏しく、その使用は実用上オーバーコートを施す場合のみに限定されてしまうため、汎用性が低いという問題がある。
【0005】
一方、コストの観点から、例えば携帯電話やパソコンなどのプラスティック塗装では、1回のコートのみでの使用が要求されるため、これらの用途については塗膜の優れた耐薬品性も要求される。この問題を解決するために、特許文献4には、トリメチロールプロパントリアクリレートおよび/またはトリメチロールプロパントリメタクリレートと少量のアクリル酸および/またはメタクリル酸との共重合体で被覆された金属粉末が提案されている。特許文献5には、ラジカル重合性不飽和カルボン酸および/またはラジカル重合性二重結合を有するリン酸モノまたはジエステルおよびラジカル重合性二重結合を3個以上有する単量体から生成した高度に三次元化した樹脂によって強固に密着して表面被覆され、かつ、耐アルカリ性が1.0以下で耐熱安定性試験で実質的に凝集しないことを特徴とする樹脂被覆金属顔料が提案されている。特許文献6には、少なくとも1個の重合性二重結合を有するオリゴマーおよびモノマーよりなる群から選ばれた少なくとも2種を反応させて得られる共重合体によって均一に被覆され、表面が微視的に平滑なアルミニウムフレークが提案されている。特許文献7には、原料アルミニウム顔料の表面が、重合性二重結合を有するモノマー、重合性二重結合1個とベンゼン環1個を有するモノマー、および(メタ)アクリル酸を重合して得られた共重合体により被覆された樹脂被覆アルミニウム顔料が提案されている。
【0006】
これらの技術によれば、有機溶剤系塗料の用途においては市場の要求が満足されるものの、水性塗料の用途においては耐水性が十分でないという問題がある。一般に耐水性を付与するための表面処理では耐薬品性が改善されない傾向があり、また耐薬品性を付与する表面処理では耐水性が改善されない傾向があるため、耐水性および耐薬品性を実用上十分な水準で両立させることは困難である。
【0007】
耐水性と耐薬品性とを兼ね備える表面処理技術としては、特許文献8に、(A)ラジカル重合性不飽和カルボン酸、および/または、ラジカル重合性二重結合を有するリン酸またはホスホン酸モノまたはジエステル、および/または、ラジカル重合性二重結合を有するカップリング剤から選ばれた少なくとも1種と、(B)ラジカル重合性二重結合を3個以上有する単量体と、(C)重合開始剤とを用い、まず、(A)を添加し金属顔料を処理した後、(B)と(C)の少なくとも一方を徐々に追加添加して重合した樹脂層を表面に形成した樹脂被覆金属顔料が提案されている。特許文献9には、物理蒸着膜破砕法により製造された金属顔料を有機溶剤に分散せしめ、次いで(A)ラジカル重合性不飽和カルボン酸、ラジカル重合性二重結合を有するリン酸またはホスホン酸のモノまたはジエステル、ラジカル重合性二重結合を有するカップリング剤から選ばれた少なくとも一種を添加し、さらに(B)ラジカル重合性二重結合を3個以上有する単量体と(C)重合開始剤とを添加し、かつその際(B)と(C)の少なくとも一方を徐々に追加添加し重合せしめて得られる樹脂被覆金属顔料が提案されている。
【0008】
しかし、上記の特許文献において、耐水性は、pH9.5に調整した塗料を用い、50℃、24時間でのガス発生量により評価しており、この条件下では、実質的に耐アルカリ性を評価していることとなるため、正当な耐水性評価はされていない。近年の水性塗料のpHは、7.5〜8.8程度とされるのが一般的であり、耐水性は少なくとも数日間でのガス発生で評価されるのが一般的である。
【0009】
すなわち、汎用性の高い低公害水性メタリック塗料のニーズはますます高まっているものの、耐水性および耐薬品性の両者を実用上十分な水準で両立させる技術はいまだ完成されていないのが現状である。
【特許文献1】特開平2−120368号公報
【特許文献2】特開平6−57171号公報
【特許文献3】国際公開第WO02/031061号パンフレット
【特許文献4】特開昭62−081460号公報
【特許文献5】特公平01−049746号公報
【特許文献6】特開昭64−040566号公報
【特許文献7】特開2005−146111号公報
【特許文献8】国際公開第WO96/038506号パンフレット
【特許文献9】特開2000−044835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の課題を解決し、水性塗料の塗料安定性、特に耐水性を向上させることを可能とし、かつ該水性塗料を塗装して形成した塗膜の耐薬品性をも実用上十分な水準で確保することを可能とする樹脂被覆金属顔料、および該樹脂被覆金属顔料を用いた汎用性の高い低公害の水性塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ラジカル重合性二重結合を有するリン酸モノおよび/またはジエステルを含むリン酸エステル成分(A)の溶液、または、リン酸エステル成分(A)が溶媒中に分散してなる分散液を、金属顔料と接触させることにより、金属顔料の表面にリン酸エステルが吸着してなるリン酸エステル吸着金属顔料を調製する吸着工程と、重合用溶媒にリン酸エステル吸着金属顔料が分散し、かつ重合用溶媒に少なくとも1個の重合性二重結合を有するモノマーおよび/またはオリゴマーからなる重合成分(B)が溶解してなる重合用スラリーを調製するスラリー調製工程と、重合成分(B)を重合させることにより、リン酸エステル吸着金属顔料の表面に樹脂被覆層を形成する被覆工程と、を含む樹脂被覆金属顔料の製造方法であって、分散液は、第1の溶媒にリン酸エステル成分(A)を溶解させて得た溶液を第2の溶媒と混合することにより得られ、重合用溶媒は、溶媒100gに対するリン酸エステル成分(A)の溶解度が25℃で10g以下の溶媒である、樹脂被覆金属顔料の製造方法に関する。
【0012】
本発明はまた、スラリー調製工程が、リン酸エステル吸着金属顔料が重合用溶媒に分散した顔料スラリーを調製する工程と、重合成分(B)を顔料スラリーと混合する工程とを含む樹脂被覆金属顔料の製造方法に関する。
【0013】
本発明はまた、吸着工程の後に、リン酸エステル吸着金属顔料に吸着したリン酸エステルを重合させる工程をさらに含む樹脂被覆金属顔料の製造方法に関する。
【0014】
本発明はまた、リン酸エステル成分(A)の溶液における溶媒として極性溶媒が使用される樹脂被覆金属顔料の製造方法に関する。
【0015】
本発明はまた、第2の溶媒および重合用溶媒として同一種の溶媒が使用される樹脂被覆金属顔料の製造方法に関する。
【0016】
本発明はまた、リン酸エステル成分(A)が、2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェートである樹脂被覆金属顔料の製造方法に関する。
【0017】
本発明はまた、樹脂被覆金属顔料の単位表面積当たりのリン含有量が0.05〜1.3mg/m2の範囲内とされる樹脂被覆金属顔料の製造方法に関する。
【0018】
本発明はまた、重合成分(B)が、少なくとも2個の重合性二重結合を有するモノマーからなる樹脂被覆金属顔料の製造方法に関する。
【0019】
本発明はさらに、金属顔料と、リン酸エステル層と、リン酸エステル層を介して金属顔料を被覆する樹脂被覆層と、を有する樹脂被覆金属顔料であって、リン酸エステル層は、ラジカル重合性二重結合を有するリン酸モノおよび/もしくはジエステル、または、リン酸モノおよび/もしくはジエステルの単独重合体または共重合体であり、樹脂被覆層は、少なくとも1個の重合性二重結合を有するモノマーおよび/またはオリゴマーの重合により得られる単独重合体または共重合体であり、かつ、樹脂被覆金属顔料の単位表面積当たりのリン含有量が0.05〜1.3mg/m2の範囲内である樹脂被覆金属顔料に関する。
【0020】
本発明はまた、リン酸エステル層が、2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェートである樹脂被覆金属顔料に関する。
【0021】
本発明はさらに、上記の樹脂被覆金属顔料とバインダーとを含有する水性塗料に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、たとえば水性塗料に用いた場合の保存安定性、特に耐水性と、塗膜の耐薬品性とを、実用上十分な水準で両立させることが可能な樹脂被覆金属顔料の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の樹脂被覆金属顔料の製造方法は、金属顔料の表面にラジカル重合性二重結合リン酸エステルを均一に吸着させた上で、樹脂被覆層を形成することを特徴とし、ラジカル重合性二重結合を有するリン酸モノおよび/またはジエステルを含むリン酸エステル成分(A)の溶液、または、リン酸エステル成分(A)が溶媒中に分散してなる分散液を、金属顔料と接触させることにより、金属顔料の表面にリン酸エステルが吸着してなるリン酸エステル吸着金属顔料を調製する吸着工程と、重合用溶媒にリン酸エステル吸着金属顔料が分散し、かつ重合用溶媒に少なくとも1個の重合性二重結合を有するモノマーおよび/またはオリゴマーからなる重合成分(B)が溶解してなる重合用スラリーを調製するスラリー調製工程と、重合成分(B)を重合させることにより、リン酸エステル吸着金属顔料の表面に樹脂被覆層を形成する被覆工程と、を含む。
【0024】
すなわち、本発明においては、金属顔料表面にリン酸エステルを吸着させた後、樹脂被覆層を形成する。本発明において使用されるリン酸エステルは金属顔料表面の腐食防止剤として作用し、また、本発明において使用される樹脂被覆層は、金属顔料の耐薬品性を向上させる作用を有する。よって、リン酸エステルを金属顔料表面に均一に吸着させるとともに、樹脂被覆層をリン酸エステル吸着金属顔料に均一に形成することによって、塗料とされたときに良好な耐水性を付与し、また塗膜とされたときに良好な耐薬品性を付与する樹脂被覆金属顔料が得られる。
【0025】
本発明において用いられるリン酸エステル成分(A)は、分子内のOH基の金属顔料表面への吸着作用により金属顔料表面に吸着する。また、本発明で使用されるリン酸エステル成分(A)はラジカル重合性二重結合を有し、本発明において使用される重合成分(B)は少なくとも1個の重合性二重結合を有する。よって、吸着工程において金属顔料表面に吸着したリン酸エステルは、その後の被覆工程において、重合成分(B)との間に共有結合を形成するため、リン酸エステルを介することにより、金属顔料と樹脂被覆層との強固な密着性が発現されるという効果が得られる。
【0026】
<吸着工程>
本発明の製造方法の吸着工程においては、リン酸エステル成分(A)の溶液、またはリン酸エステル成分(A)が溶媒中に分散してなる分散液を金属顔料と接触させる。ここで、分散液は、第1の溶媒にリン酸エステル成分(A)を溶解させて得た溶液を第2の溶媒と混合することにより得られる。この方法によれば、分散液中にリン酸エステル成分(A)を微分散させることができる。すなわち本発明においては、リン酸エステル成分(A)が溶解状態または微分散状態で金属顔料と接触することにより、金属顔料表面にリン酸エステルを均一に吸着させることができる。
【0027】
リン酸エステル成分(A)を溶解する溶剤を用い、該リン酸エステルを溶解状態で金属顔料と接触させ、均一に吸着させる処理方法としては、たとえば以下の方法が考えられる。金属顔料は、一般に、脂肪族炭化水素もしくは芳香族炭化水素等の溶媒を単独でまたはこれらの溶媒のうちの2種以上を混合溶媒として含むペースト状態で市販されることが多い。これらの溶媒は、ラジカル重合性二重結合を有するリン酸モノまたはジエステルを溶解しない溶媒(非溶媒)または溶解はするが溶解度が低い溶媒(貧溶媒)であることが一般的である。
【0028】
本発明においてリン酸エステル成分(A)の溶液を調製する方法としては、金属顔料ペースト中の溶媒を、あらかじめリン酸エステル成分(A)を溶解する溶剤で置換した後、リン酸エステル成分(A)を添加して混練する方法が挙げられる。ここでリン酸エステル成分(A)は、そのまま添加しても、該リン酸エステル成分(A)を溶解する溶媒で希釈してから添加しても、いずれでも良い。
【0029】
また、リン酸エステル成分(A)を溶解する溶媒で金属顔料ペーストを希釈した後、リン酸エステル成分(A)を添加し、混練または撹拌する方法も採用され得る。この場合、系中には金属顔料ペースト由来の脂肪族炭化水素もしくは芳香族炭化水素またはそれらの混合溶媒(すなわち、リン酸エステル成分(A)の貧溶媒)と、リン酸エステル成分(A)を溶解する溶媒(すなわち、リン酸エステル成分(A)の良溶媒)とが混在することになるので、その組成がリン酸エステル成分(A)を溶解できる組成になるように、添加する良溶媒の量をコントロールする必要がある。
【0030】
また、あらかじめ金属顔料ペーストをリン酸エステル成分(A)の良溶媒で置換し、その後、該良溶媒中に金属顔料ペーストを分散させスラリーとし、得られたスラリーを攪拌しながらリン酸エステル成分(A)を添加する方法も採用され得る。この方法においては、そのまま次の重合反応を行なっても、濾過してリン酸エステル吸着金属顔料をペースト状で単離し、次工程に供給しても、いずれでも良い。ただし、濾過操作を伴う場合、顔料粒子へのリン酸エステル成分(A)の飽和吸着量より該リン酸エステル成分(A)の添加量の方が多かった場合、過剰のリン酸エステル成分(A)は濾液と共に系外に排出される。
【0031】
また、金属顔料ペーストをそのままリン酸エステル成分(A)の良溶媒中に分散させスラリーとし、得られたスラリーを攪拌しながらリン酸エステル成分(A)を添加する方法も採用され得る。この方法においては、系中に金属顔料ペースト由来の貧溶媒と良溶媒が混在することになるので、その組成がリン酸エステル成分(A)を溶解する組成になるように良溶媒の量をコントロールする必要がある。このスラリーを用いて、そのまま次の重合反応を行っても、濾過してリン酸エステル吸着金属顔料をペースト状で単離しても、いずれでも良い。ただし、濾過操作を伴う場合、顔料粒子へのリン酸エステル成分(A)の飽和吸着量より該リン酸エステル成分(A)の添加量の方が多かった場合、過剰のリン酸エステル成分(A)は濾液と共に系外に排出される。
【0032】
本発明においてリン酸エステル成分(A)の分散液を用いる場合、吸着工程は下記のようにして行なわれることができる。第1の溶媒にリン酸エステル成分(A)を溶解させて得た溶液を第2の溶媒と混合して、リン酸エステル成分(A)が微分散した分散液を調製することができる。すなわち、この場合、第1の溶媒としてはリン酸エステル成分(A)の良溶媒、第2の溶媒としては、リン酸エステル成分(A)の貧溶媒またはリン酸エステル成分(A)を全く溶解しない溶媒を用いる。
【0033】
まず、あらかじめ金属顔料ペーストを第2の溶媒で置換し、その後、該第2の溶媒中に金属顔料ペーストを分散させスラリーとし、得られたスラリーを攪拌しながらリン酸エステル成分(A)の分散液またはリン酸エステル成分(A)と第1の溶媒とからなる溶液を10分以上の時間をかけてゆっくり添加する方法が採用され得る。この方法によれば、第2の溶媒中で相分離したリン酸エステル成分(A)が、金属顔料表面の全体に均一に吸着する。吸着工程の後、そのまま次の重合反応を行なっても、濾過してリン酸エステル吸着金属顔料をペースト状で単離し、次工程に供給しても、いずれでも良い。ただし、濾過操作を伴う場合、顔料粒子へのリン酸エステル成分(A)の飽和吸着量より該リン酸エステル成分(A)の添加量の方が多かった場合、過剰のリン酸エステル成分(A)は濾液と共に系外に排出される。
【0034】
また、金属顔料ペーストをそのまま第2の溶媒中に分散させスラリーとし、得られたスラリーを攪拌しながらリン酸エステル成分(A)の分散液またはリン酸エステル成分(A)と第1の溶媒とからなる溶液を10分以上の時間をかけてゆっくり添加し、相分離したリン酸エステル成分(A)を金属顔料表面に吸着させる方法も採用され得る。この方法においては、系中に金属顔料ペースト由来の貧溶媒と第2の溶媒とが混在することになるので、その組成がリン酸エステル成分(A)の微分散状態を維持し得る組成になるように、第2の溶媒の量をコントロールする必要がある。このスラリーを用いて、そのまま次の重合反応を行っても、濾過してリン酸エステル吸着金属顔料をペースト状で単離しても、いずれでも良い。ただし、濾過操作を伴う場合、顔料粒子へのリン酸エステル成分(A)の飽和吸着量より該リン酸エステル成分(A)の添加量の方が多かった場合、過剰のリン酸エステル成分(A)は濾液と共に系外に排出される。
【0035】
上記の吸着工程でリン酸エステル成分(A)を金属顔料に吸着させたペーストもしくはスラリーは、次の重合工程に移る。吸着工程で得られたペーストもしくはスラリーは、そのまま用いても良いし、いったん溶媒置換してから用いても良い。たとえばリン酸エステル成分(A)の添加量が顔料粒子への該リン酸エステル成分(A)の飽和吸着量より多い場合、得られたペーストもしくはスラリーをいったんリン酸エステル成分(A)の貧溶媒中に分散させれば、過剰量のリン酸エステル成分(A)は相分離もしくは析出して金属顔料上に吸着するので、濾過を行っても系外に排出されることはない。このような目的で溶媒置換することもあれば、次の重合プロセス上の制約から溶媒置換することもある。
【0036】
本発明においては、上記の吸着工程の後に、リン酸エステル吸着金属顔料に吸着したリン酸エステルを重合させる工程をさらに含んでも良い。この場合、金属顔料表面にリン酸エステルをより強固に吸着させることができる。なおリン酸エステル成分(A)の分散液を用いる場合、必要に応じて第1の溶媒または第2の溶媒にリン酸エステル成分(A)の微分散を促す目的で分散剤を加えても良い。
【0037】
<金属顔料>
本発明に用いる金属顔料としては、特に限定するものではないが、アルミニウム、亜鉛、銅、ブロンズ、ニッケル、チタン、ステンレスなどの金属フレークおよびそれらの合金フレークが挙げられる。これらの金属顔料の中でもアルミニウムフレークは金属光沢に優れ、安価な上に比重が小さいため扱いやすく、特に好適である。
【0038】
本発明に用いる金属顔料は、メタリック塗料用顔料として用いるためフレーク状であることが好ましく、また該金属顔料の平均粒径は、通常1〜100μm程度が好ましく、より好ましくは3〜60μmである。また該金属顔料の平均厚みは通常0.01〜5μm程度が好ましく、より好ましくは0.02〜2μmである。
【0039】
金属顔料の平均粒径が1μm以上である場合、メタリック感あるいは光輝感が良好であり、平均粒径が100μm以下である場合、フレーク粒子が塗膜表面に突き出し難く、塗面の平滑性あるいは鮮映性が良好である。また、金属顔料の平均厚みが0.01μm以上である場合、強度が良好であることに加え、製造工程中の加工性にも優れる点で有利であり、平均厚みが5μm以下である場合、塗面の平滑性あるいは鮮映性が良好であることに加え、製造コストが低い点でも有利である。
【0040】
金属顔料の平均粒径は、レーザー回折法、マイクロメッシュシーブ法、コールターカウンター法などの公知の粒度分布測定法により測定された粒度分布より体積平均を算出して求められる。また平均厚みについては、金属顔料の隠蔽力と密度より算出される。
【0041】
また、本発明に用いる金属顔料の表面には、磨砕時に添加する磨砕助剤が吸着していてもよい。磨砕助剤としては、たとえばオレイン酸やステアリン酸などの脂肪酸の他、脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族アルコール、エステル化合物などが挙げられる。これらは金属顔料表面の不必要な酸化を抑制し、光沢を改善する効果を有する。磨砕助剤の吸着量は、金属顔料100質量部に対し2質量部未満であることが好ましい。2質量部未満である場合、表面光沢が低下し難い点で有利である。
【0042】
なお、本発明に用いる金属顔料に多彩な色彩を付与するため、金属顔料の表面に各種着色剤、着色顔料を付着させることができる。
【0043】
着色剤、着色顔料としては、特に限定するものではないが、たとえば、キナクリドン、ジケトピロロピロール、イソインドリノン、インダンスロン、ペリレン、ペリノン、アントラキノン、ジオキサジン、ベンゾイミダゾロン、トリフェニルメタンキノフタロン、アントラピリミジン、黄鉛、パールマイカ、透明パールマイカ、着色マイカ、干渉マイカ、フタロシアニン、ハロゲン化フタロシアニン、アゾ顔料(アゾメチン金属錯体、縮合アゾなど)酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、銅フタロシアニン、縮合多環類顔料、などが挙げられる。
【0044】
本発明に用いる金属顔料に着色顔料を付着させる方法は、特に限定されないが、分散剤で着色顔料を被覆した後、非極性溶媒中で金属顔料と攪拌混合することにより、当該金属顔料に着色顔料を付着させる方法が好ましい。
【0045】
上記の分散剤としては、安息香酸、安息香酸ビニル、サリチル酸、アントラニル酸、m−アミノ安息香酸、p−アミノ安息香酸、3−アミノ−4−メチル安息香酸、3,4−ジアミノ安息香酸、p−アミノサリチル酸、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸、ナフテン酸、3−アミノ−2−ナフトエ酸、ケイ皮酸、アミノケイ皮酸等の芳香族カルボン酸;エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,8−ジアミノナフタレン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、ステアリルプロピレンジアミン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランなどのアミノ化合物;アルミニウムもしくはチタニウムキレート化合物などが好適に使用される。
【0046】
同じく、本発明に用いる金属顔料に多彩な色彩を付与するため、金属顔料の表面に干渉膜などを形成することができる。その方法としては、特に限定はされないが、たとえば、金属顔料の個々の粒子表面に光干渉性酸化皮膜を形成するには、酸素量をコントロールした雰囲気中で金属顔料を300〜700℃程度に加熱することにより、表面に空気酸化皮膜を形成する方法、あるいは遷移金属等の酸化物の前駆体でフレーク状の金属顔料を被覆し加熱分解する方法が好ましい。
【0047】
<リン酸エステル成分(A)>
一般にリン酸もしくはリン酸モノまたはジエステルは、金属表面に吸着して吸着型金属腐食インヒビターとして作用することが知られている。本発明でリン酸エステル成分(A)として用いられる、ラジカル重合性二重結合を有するリン酸モノおよび/またはジエステルとは、吸着型金属腐食インヒビター機能とラジカル重合性とを併せ持つ物質である。本発明で得られる樹脂被覆金属顔料の特徴の一つである耐水性は、リン酸エステル成分(A)が金属顔料表面に均一に吸着して重合することにより達成できると考えられる。
【0048】
本発明において用いられるリン酸エステル成分(A)の好ましい具体例としては、2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジ−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、トリ−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジ−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、トリ−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジブチル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジオクチル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジオクチル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジオクチル−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、2−メタクリロイロキシプロピルアッシドフォスフェート、ビス(2−クロロエチル)ビニルホスホネート、ジアリルジブチルホスホノサクシネートなどが挙げられ、これらを単独でもしくは2種以上混合して用いられる。より好ましいリン酸エステル成分(A)としては、リン酸モノエステルとして2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェートが挙げられる。中でも特に2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェートは好ましく用いられる。
【0049】
なお、本発明のリン酸エステル成分(A)は、ラジカル重合性を有するリン酸モノおよび/またはジエステルのみから構成されても良いが、ラジカル重合性二重結合を有しないリン酸モノおよび/またはジエステルをさらに含んでも良い。ラジカル重合性二重結合を有しないリン酸モノおよび/またはジエステルとしては、たとえばメチルアッシドフォスフェート、エチルアッシドフォスフェート、ブチルアッシドフォスフェート、イソデシルアッシドフォスフェート、フェニルホスホン酸、2−エチルヘキシルアッシドフォスフェート、ラウリルアッシドフォスフェート、ステアリルアッシドフォスフェート、オレイルアッシドフォスフェート、ジメチルアッシドフォスフェート、ジエチルアッシドフォスフェート、ジブチルアッシドフォスフェート、ジイソデシルアッシドフォスフェート、ジ−2−エチルヘキシルアッシドフォスフェート、ジラウリルアッシドフォスフェート、ジステアリルアッシドフォスフェート、ジオレイルアッシドフォスフェート等が例示できる。
【0050】
<リン酸エステル成分(A)の溶液の溶媒>
本発明において用いられる、リン酸エステル成分(A)の溶液を調製するための溶媒としては、リン酸エステル成分(A)を溶解するものが採用され、単独溶媒でも2種以上の溶媒からなる混合溶媒でも良い。好ましい溶媒は、リン酸エステル成分(A)の組成により変化するので、用いるリン酸エステル成分(A)との組合わせにおいて最適なものを選択すれば良い。
【0051】
リン酸ユニットは強い極性を示すため、リン酸エステル成分(A)を溶解する溶媒もまた極性溶媒に限定され、ケトン、アルコール類が奨励される。極性溶媒の中でも水および塩基性溶媒は不適当である。水を用いると、金属顔料としてアルミニウム顔料などが用いられる場合、水がアルミニウムと反応してしまい水素ガスが発生する。また、塩基性溶媒を用いると、該塩基性溶媒が酸性のリン酸ユニットと塩を形成するため、リン酸エステル成分(A)が不溶化されたり、金属顔料表面にリン酸エステル成分(A)が吸着しなくなったりすることがある。
【0052】
上記の溶媒としては、たとえばSP値が9.1〜13の範囲内、さらに9.2〜10.0の範囲内の範囲内であるものが好ましく用いられる。SP値が上記の範囲内であるものは、本発明に用いられるリン酸エステル成分(A)の溶解性に特に優れるため好適である。なお本発明においてSP値とは溶解度パラメータを意味する。
【0053】
また、上記の溶媒としては、該溶媒100gに対し、リン酸エステル成分(A)が25℃において50g以上溶解するものも好ましく用いられ、さらに、該溶媒に対してリン酸エステル成分(A)が任意の比率で溶解し得るものも好ましく用いられる。この場合、リン酸エステル(A)を所望の濃度で含む溶液を調製でき、金属顔料表面に十分な量のリン酸エステルを吸着させることができる。
【0054】
好ましい溶媒としては、たとえば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、グリセリン、アリルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメトキシメチルエーテル、ジエチレングリコール、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0055】
<第1の溶媒>
第1の溶媒としては、リン酸エステル成分(A)の良溶媒となり得るものが好ましく用いられ、上述のリン酸エステル成分(A)の溶液における溶媒と同様の溶媒が好ましく用いられる。
【0056】
<第2の溶媒>
第2の溶媒としては、リン酸エステル成分(A)および上記の第1の溶媒からなる溶液と混合されることにより、該リン酸エステル成分(A)が微分散した分散液を供給できるものが用いられる。第2の溶媒は、リン酸エステル成分(A)を実質的に溶解しないことが好ましく、より具体的には、第2の溶媒100gに対するリン酸エステル成分(A)の溶解度が25℃で10g以下であることが好ましい。
【0057】
第2の溶媒のSP値は、リン酸エステル成分(A)を溶解する第1の溶媒のSP値の組合せや使用比率にもよるが、7.2〜9.0の範囲内、さらに7.3〜8.8の範囲内であることが好ましい。SP値が7.2〜9.0の範囲内である場合、リン酸エステル成分(A)を溶解する第1の溶媒との相溶性が良好であり、リン酸エステル成分(A)の分散液中での分散サイズが微細になるため、金属顔料の表面にリン酸エステルを均一に吸着させることができる。
【0058】
また、第1の溶媒と第2の溶媒との組合せとしては、25℃において、混合溶媒中で占める第1の溶媒の割合が2質量%以上である場合、リン酸エステル成分(A)の分散粒子が微細になるため好ましい。該割合が2質量%未満である場合、該分散粒子のサイズが大きくなり、顔料の凝集が発生し易くなる傾向がある。該割合はさらに10質量%以上であることが好ましい。なお上記の割合は100質量%未満とされることができ、混合溶媒中でリン酸エステル成分(A)が微分散する組成とされれば良い。
【0059】
<リン酸エステル成分(A)の使用量>
リン酸エステル成分(A)の使用量は、使用する金属顔料との比率によって決定するので、ここでは金属顔料の単位質量当たりの使用量について述べる。リン酸エステル成分(A)の使用量は、使用する金属顔料についての、リン酸エステルの飽和吸着量の0.2〜3.0倍の範囲内が好ましく、さらに1.0〜2.0倍がより好ましい。0.2倍以上である場合、リン酸エステルの寄与による耐水性向上効果が良好であり、3.0倍以下である場合、リン酸エステル吸着金属顔料の分散不良が生じ難いため、顔料の凝集による色調低下が発生し難い。飽和吸着量は金属顔料の種類、比表面積、吸着させるリン酸エステル成分(A)の種類、吸着温度などで変わるので、一概に規定できないが、一般的には金属顔料の質量に対して0.5〜5質量%程度の範囲内にあると考えられる。
【0060】
リン酸エステルの飽和吸着量は、簡易的に以下の方法で測定可能である。リン酸エステルを良好に溶解する溶媒(a)で、金属顔料ペーストの溶媒を置換する。予想飽和吸着量に対し過剰のリン酸エステルを溶媒(a)に溶解させ、そこに溶媒(a)で置換した金属顔料を分散させスラリーとする。該スラリーを攪拌しながら金属顔料にリン酸エステルを吸着させる。スラリーを濾過し、残渣(すなわち金属顔料)を溶媒(a)で十分に洗浄する。これを乾燥した粉末化サンプルについて、たとえば下記の方法によりリン含有量を測定する。
【0061】
粉末化サンプル約1gをプラスティック容器に採取し精秤し、6N HCl水溶液15mlおよび13N HNO3水溶液2mlを加え、粉末化サンプルの金属分を完全に溶解させる。これを濾過し、濾液は50mlメスフラスコに注ぎ込み、装置内壁および残渣付着分も純水にて洗い込む。これを50mlに定容し、ICP(島津製作所製ICPS−8000)にて、測定波長178nmでリン濃度を測定し、リン量に換算する。一方、残渣は、濾紙ごとガラスビーカーに入れ、6N硝酸約10mlと60質量%過塩素酸約5mlとを加え、200℃のサンドバス上にて固形分が完全に溶解し、液が透明になるまで加熱する。その際、硝酸が蒸発していくため、逐次硝酸を添加していく。その後、加熱を継続すると液分がなくなり、白煙を生じる。白煙が出なくなったところで冷却し、6N HCl水溶液10mlを添加し、加温して内容物を完全に溶解させる。この液を50mlメスフラスコにて定容し、上述と同様にICPを用いてリン濃度を測定し、リン量を算出する。濾液および残渣のリン量を合計し、粉末化サンプルの秤量値からリン含有量を算出する。
【0062】
上記の吸着工程においては、金属顔料の100質量部に対して、リン酸エステル成分(A)の0.3〜10質量部、さらに1〜6質量部、さらに2〜5質量部が接触するように、金属顔料とリン酸エステル成分(A)の溶液または分散液との量比、該溶液中または該分散液中のリン酸エステル成分(A)の含有量等を調整することが好ましい。金属顔料100質量部と接触するリン酸エステル成分(A)の量が0.3質量部以上である場合、金属顔料表面に十分量のリン酸エステルを吸着させることができ、10質量部以下である場合、リン酸エステル成分(A)の過剰供給が防止され、製造コストの無駄な上昇が避けられるとともに、リン酸エステル吸着金属顔料の凝集が防止される。
【0063】
本発明の樹脂被覆金属顔料においては、該樹脂被覆金属顔料の単位表面積当たりのリン含有量が0.05〜1.3mg/mの範囲内とされることが好ましい。リン含有量が0.05mg/m以上である場合、塗料としたときの耐水性が良好に発揮され、1.3mg/m以下である場合、製造コストの無駄な上昇が防止されるとともに、リン酸エステル吸着金属顔料の凝集が防止される。
【0064】
なお、本発明において金属顔料の表面にリン酸エステルが均一に吸着していることは、たとえば顕微赤外分光法等の赤外分光法、等により確認することができる。
【0065】
<重合成分(B)>
本発明で用いる重合成分(B)としては、少なくとも1個の重合性二重結合を有するモノマーおよび/またはオリゴマーが用いられ、さらに、少なくとも1個の重合性二重結合を有するモノマーおよび/またはオリゴマーから選択される少なくとも2種を組み合わせて用いることが、重合に伴う凝集防止、樹脂被膜の平滑性向上(すなわち緻密化)、およびそれに伴う耐アルカリ性の向上という観点から好ましい。具体的には、たとえば、特開昭64−40566号公報に開示されるモノマーおよびオリゴマーが奨励される。本発明においては、重合成分(B)により構成される樹脂被膜を金属顔料の表面に形成させることにより、樹脂被覆金属顔料を含む塗料を用いて塗膜を形成したときの優れた耐薬品性が発現されるものと考えられる。
【0066】
重合成分(B)の好ましい例としては、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルとして、例えばイソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシ−ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ−トリエチレングリコールアクリレート、メトキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、イソオクチルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコールアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリテトラエチレングリコールジアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、n−ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、n−ステアリルメタクリレート、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、テトラヒドロフリフラルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸、2−メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、イソステアリルメタクリレート、メトキシトリエチレングリコールメタクリレート、n−ブトキシエチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレートなど、そのほかにもスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、イソプレン、クロロプレン、塩化ビニリデン、アクリルアミド、メチルビニルケトン、フェニルビニルケトン、メチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、ポリブタジエン、エポキシ化ポリブタジエン、シクロヘキセンビニルモノオキサイド、ジビニルベンゼンモノオキサイド、などのうち少なくとも1種、より好ましくは少なくとも2種が挙げられるが、これらに限定されるものではない。中でも、重合成分(B)として、重合性二重結合を2個以上有するモノマーおよび/またはオリゴマーを使用した場合には、3次元架橋した樹脂を含む樹脂被覆層が形成され、耐薬品性がいっそう向上する点で有利である。
【0067】
<被覆工程>
本発明においては、リン酸エステル成分(A)を金属顔料に均一に吸着させる吸着工程の後に、重合成分(B)を加え、ラジカル開始剤などを用いて重合成分(B)のモノマーおよび/またはオリゴマーを重合し、金属顔料の表面に樹脂被覆層を形成する。このとき、金属顔料に吸着させたリン酸エステル成分(A)をラジカル開始剤などであらかじめ重合させて金属顔料の表面にリン酸エステルからなる吸着層を形成させた後、系内に重合成分(B)を加え、さらにラジカル開始剤などで重合させて重合成分(B)の重合体からなる樹脂被覆層を形成させることができる。また、リン酸エステルを吸着させた金属顔料に重合成分(B)を加え、しかる後ラジカル開始剤などでリン酸エステル成分(A)と重合成分(B)とを同時に重合させ、樹脂被覆層を形成させても良い。リン酸エステル成分(A)と重合成分(B)とを同時に重合させた場合、リン酸エステル成分(A)が有するラジカル重合性二重結合と、重合成分(B)が有する重合性二重結合とにより、リン酸エステル成分(A)と重合成分(B)との間の共有結合による共重合体が形成されるため、金属顔料の表面に、より均一で強固な吸着層および樹脂被覆層が形成される。これにより、塗料の耐水性および塗膜の耐薬品性が良好なものとなる。なお、本発明における被覆工程の方法については、特開昭64−40566号公報に開示される方法が適用できるが、これに限定されない。
【0068】
被覆工程においては、重合成分(B)を重合させる際に重合用溶媒を用いる。該重合用溶媒としては、吸着工程において金属顔料表面に吸着させたリン酸エステルを溶解させないものを用い、具体的には、重合用溶媒100gに対する該リン酸エステル成分(A)の溶解度が25℃で10g以下であるものを用いる。
【0069】
重合用溶媒の好ましい具体例としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ミネラルスピリット等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素類、クロルベンゼン、トリクロルベンゼン、パークロルエチレン、トリクロルエチレン等のハロゲン化炭化水素類、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチル−n−プロピルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、テトラハイドロフラン、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル等のエーテル類を例示できる。
【0070】
被覆工程においては、重合開始剤を用いることが好ましく、特に、一般にラジカル発生剤として知られているラジカル開始剤を用いることができる。重合開始剤の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、などのパーオキサイド類、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)のようなアゾ化合物などが挙げられる。
【0071】
ここで、重合開始剤の配合量は、仕込みの重合成分(B)100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、特に0.5質量部以上であることがより好ましい。また、この配合量は、10質量部以下であることが好ましく、特に8質量部以下であることがより好ましい。重合開始剤の配合量が0.1質量部以上である場合、重合反応を確実に進行させ、予定する量の樹脂被膜を容易に形成することができる点で好ましい。また配合量が10質量部以下である場合、重合の急激な進行を防止し、生成する重合体を確実に金属顔料粒子へ吸着させることができ、遊離のポリマー粒子の生成による系全体の粘性の急激な上昇や凝固を防止できる点で好ましい。
【0072】
そして、上記の被覆工程において、重合反応の温度は使用する重合開始剤の種類によって規定される。重合開始剤の半減期は温度によって一義的に決まり、重合開始剤の半減期が5分以上になるような温度が好ましく、特に15分以上になる温度がより好ましい。
【0073】
またこの温度は、重合開始剤の半減期が20時間以下になるような温度が好ましく、特に10時間以下になるような温度がより好ましい。たとえばAIBNを重合開始剤として用いる場合、半減期は60、70、80、90℃でそれぞれ22、5、1.2、0.3時間であり、70〜90℃がより好ましい温度範囲となる。重合開始剤の半減期が20時間以下になるような温度で重合反応が行なわれる場合、重合反応がなかなか進まないという問題が生じ難い点で好ましく、重合開始剤の半減期が5分以上になるような温度で重合反応が行なわれる場合、重合反応の急激な進行が防止され、生成する重合体が金属顔料粒子に確実に吸着し、遊離のポリマー粒子の生成による系全体の粘性の急激な上昇や凝固が防止される点で好ましい。
【0074】
なお、被覆工程においては、重合収率を高めるため、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で重合反応を行なうのが有利である。
【0075】
本発明はまた、金属顔料と、リン酸エステル層と、該リン酸エステル層を介して該金属顔料を被覆する樹脂被覆層と、を有する樹脂被覆金属顔料であって、リン酸エステル層は、ラジカル重合性二重結合を有するリン酸モノおよび/またはジエステルを含むリン酸エステル、もしくは、リン酸モノおよび/またはジエステルの単独重合体または共重合体であり、樹脂被覆層は、少なくとも1個の重合性二重結合を有するモノマーおよび/またはオリゴマーの重合により得られる単独重合体または共重合体であり、かつ、樹脂被覆金属顔料の単位表面積当たりのリン含有量が0.05〜1.3mg/mの範囲内である樹脂被覆金属顔料に関する。
【0076】
金属顔料表面に上記のリン酸エステル層が形成され、さらに樹脂被覆層が形成されていることにより、上記の樹脂被覆金属顔料は、塗料とされたときには良好な耐水性を付与し、また塗膜とされたときには良好な耐薬品性を付与する。
【0077】
上記のリン酸エステル層は、たとえば前述した吸着工程のような方法で形成することができ、また樹脂被覆層は、たとえば前述した被覆工程のような方法で形成することができる。
【0078】
上記の樹脂被覆層は、3次元架橋した樹脂を含むことが好ましい。この場合、塗膜により良好な耐薬品性を付与することができる。なお樹脂被覆層に3次元架橋した樹脂が含まれることは、たとえば、種々の溶媒種による溶解抽出試験等の方法により確認できる。
【0079】
<塗料>
本発明の樹脂被覆金属顔料は、公知、慣用の水性塗料に配合して使用することができる。水性塗料としては、前述した樹脂被覆金属顔料とバインダーとを含有する水性塗料が好ましく例示できる。これらの塗料は、1液性ばかりでなく、2液以上を混合して用いるものであっても良く、反応を伴うものであっても良い。本発明の樹脂被覆金属顔料を含有する水性塗料は、目的の色相に合わせて、他の顔料、染料を含むことができる。ただし、顔料は本発明の顔料によるメタリック感を損なわない範囲で使用することが望ましい。バインダーとしては、一般的に使用されるバインダーであれば特に限定はないが、エマルジョンバインダーが好ましく例示できる。エマルジョンバインダーとしては天然あるいは合成の各種のポリマー、オリゴマー、プレポリマー等を使用することが可能である。これらの塗料においては、必要に応じて各種の添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、界面活性剤、安定剤、防錆剤、可塑剤、顔料湿潤剤、顔料分散剤、流動調整剤、レベリング剤、防かび剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。
【0080】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0081】
<樹脂被覆量の評価>
樹脂被覆金属顔料のペースト約20gを、ノルマルへキサン約100gに分散させ、濾過した。残渣をノルマルヘキサンにてフィルター上で十分に洗浄した後、バットに広げ、80℃にて1晩乾燥させ粉末化サンプルを得た。500mlプラスティック容器に該粉末化サンプル約1gを入れて精秤した(このときの精秤値をaとした)。上記のプラスティック容器に混酸(濃塩酸:濃硝酸:水=1:1:2(体積比))約100mlを添加し、ガラス棒で撹拌することにより粉末化サンプルの金属分を溶解させた。その後、あらかじめ精秤したガラス繊維フィルター(このときの精秤値をbとした)で上記プラスティック容器の内容物を濾過した。残渣を純水にて該ガラス繊維濾紙上で十分に洗浄した後、濾過し、ガラス繊維フィルターと残渣とを、あらかじめ精秤した別のプラスティック容器(このときの精秤値をcとする)に移し、ガラス繊維フィルター側壁に付着した残渣を純水で全てプラスティック容器に洗い出した。プラスティック容器の内容物を105℃のオーブンで1晩乾燥させた後、精秤し(このときの精秤値をdとする)、以下の式、
(金属分100gに対する樹脂被覆量)(g)=(d−b−c)/(a−(d−b−c))×100
から、金属分100gに対する樹脂被覆量(g)を算出した。
【0082】
<比表面積>
樹脂被覆金属顔料または樹脂被覆されていない金属顔料の比表面積は、MOUNTECH社製全自動比表面積計Macsorb HM model−1208を用いて測定した。上記で調製した粉末化サンプルを、専用測定容器に約80%充填し、精秤した。測定器に秤量値を入力し、樹脂被覆金属顔料の場合は、250℃、30min、樹脂被覆されていない金属顔料の場合は、350℃、30minで脱気し、窒素30体積%、ヘリウム70体積%の混合ガスで測定した。
【0083】
<リン含有量>
上記で調製した粉末化サンプル約1gをプラスティック容器に採取し精秤した。6N HCl水溶液15mlおよび13N HNO3水溶液2mlを加え、粉末化サンプルの金属分を完全に溶解させた。これを濾過し、濾液は50mlメスフラスコに注ぎ込み、装置内壁および残渣付着分も純水にて洗い込んだ。これを50mlに定容し、ICP(島津製作所製ICPS−8000)にて、測定波長178nmでリン濃度を測定し、リン量に換算した。一方、残渣は、濾紙ごとガラスビーカーに入れ、6N硝酸約10mlと60質量%過塩素酸約5mlとを加え、200℃のサンドバス上にて固形分が完全に溶解し、液が透明になるまで加熱した。その際、硝酸が蒸発していくため、逐次硝酸を添加していった。その後、加熱を継続したところ液分がなくなり、白煙を生じた。白煙が出なくなったところで冷却し、6N HCl水溶液10mlを添加し、加温して内容物を完全に溶解させた。この液を50mlメスフラスコにて定容し、上述と同様にICPを用いてリン濃度を測定し、リン量を算出した。濾液および残渣のリン量を合計し、粉末化サンプルの秤量値からリン含有量を算出した。
【0084】
<耐アルカリ性>
樹脂被覆金属顔料を、一定温度とした、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル:0.1N KOH水溶液=1:1(体積比)の混合溶媒からなるアルカリ液に撹拌しながら分散させ、アルカリに侵食されて発生する水素ガス量を経時的に測定した。測定結果につき、横軸をLog(経過時間)、縦軸をガス発生量としてプロットし、ガス発生速度が安定した領域の直線部をガス発生量ゼロに外挿し、ガス発生開始時間LogTとした。ガス発生開始時間は金属顔料の粒度に依存するため、これを補正するために、原料である金属顔料のガス発生開始時間を測定し(これをLogT’とする)、下記の式、
LogT−LogT’=Log(T/T’)=ΔLogT
として、耐アルカリ性を評価した。すなわち、ΔLogTが大きい程耐アルカリ性が優れる。以下に具体的な方法について説明する。
【0085】
上記のアルカリ液に添加するサンプルの量は、金属分で0.09gとした。本測定においては、経時的に発生する水素ガス量を測定するので、サンプルの添加は瞬間的に行ない、添加直後に瞬間的に系を閉鎖して、発生するガスを捕集する必要がある。そこでサンプルをプロピレングリコールモノメチルエーテルに分散させたスラリーとし、このスラリーをマイクロピペットで1ml添加することとし、この1mlの添加スラリー中にサンプルが金属分で0.09g含まれるように、スラリー濃度を調整した。サンプルスラリーは以下のように調製した。プラスティック容器に前述と同様にして調製した粉末化サンプル約1gを採取し精秤した。サンプルはあらかじめ金属分100gに対する樹脂被覆量を測定しておいた。ここでサンプルの金属分がアルミニウムであり、アルミニウム100gに対する樹脂被覆量を(A)gとした場合、希釈倍率が秤量値の(1050/(100+A))倍の値になるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルを加え、撹拌し、均一に分散させた。このスラリー1ml中にはアルミニウムが0.09g含有される。
【0086】
(ガス発生量の測定方法)
図1は、水素ガス発生量の測定に用いた装置の概要を示す図である。スクリューキャップ12で密閉された容量100mlのガラス製スクリュー瓶を反応槽11とする。スクリューキャップ12にはテフロン(登録商標)製の2方コック13が取付けられ、マイクロピペットのチップ先端が差し込めるようになっている。系全体は、スターラー付きドライバス14で恒温(40℃)に保たれ、反応液はスターラーチップにより常時撹拌されている。サンプル投入と同時に2方コック13を閉鎖し、系を閉鎖系とする。反応槽より発生した水素ガスは、テフロン(登録商標)チューブ15を通って水槽17に達し、水槽中の水を押し上げる。押し上げられた水はテフロン(登録商標)チューブ18を通ってメスシリンダー19に注がれるので、メスシリンダー中の水の体積を測定することにより、発生した水素ガスの量を測定できる。
【0087】
(ガス発生量の測定)
図1に示す装置を用いて、ガス発生量を測定した。反応槽11に、0.1N KOH水溶液50mlと、プロピレングリコールモノメチルエーテル50mlとをホールピペットで充填し、スターラーチップを入れてスターラー付きドライバス14にセットした。2方コック13から熱電対を差込み、内温が40±0.5℃になったことを確認した後、金属顔料として、東洋アルミニウム株式会社製「7610N」を用い、上述の方法で調製したスラリーの1mlを、マイクロピペットにて反応槽11に投入した。投入終了と同時に2方コック13を閉鎖し、ストップウォッチをスタートさせ、経過時間とガス発生量とを記録した。
【0088】
図2は、図1に示す装置で測定されたLog(経過時間)(秒)とガス発生量との関係を示す図である。ここで経過時間は底が60の対数で表されている。たとえば、Log(経過時間)=1であれば1分、Log(経過時間)=2であれば1時間である。ガス発生速度が安定した領域では、横軸がLog(経過時間)、縦軸がガス発生量であるプロットはほぼ直線上に並ぶため、直線部をガス発生量ゼロに外挿した点(すなわちX軸との交点)をガス発生開始時間LogTとした。図2は、同一サンプルを用い、添加するスラリーの濃度を変えることによりサンプル添加量を変えた例について示している。ガス発生速度はサンプル添加量に依存するが、直線部をガス発生量ゼロに外挿した点LogTはサンプル添加量に依存しない。よって、サンプル添加量は、アルミニウム分で0.09gを大きく外れない限り、データには影響を与えないことが分かる。繰り返し再現性を確認した結果、本測定法でのLogTの誤差は、±0.02程度であることが分かった。
【0089】
LogTの値は金属顔料の粒度に依存する。金属顔料粒度が小さいと一般に比表面積は大きくなり、アルカリとの接触面積が増加し、ガス発生開始時間が短くなる傾向にある。樹脂被覆による耐アルカリ性の向上効果を確認するためには、金属顔料の粒度による効果を補正しなければならない。そこで、各実施例および各比較例においては、原料であるアルミニウム顔料のガス発生開始時間を測定し(これをLogT’とする)、下記の式、
LogT−LogT’=Log(T/T’)=ΔLogT
により耐アルカリ性を評価した。すなわち、ΔLogTが大きい程耐アルカリ性が優れる。ΔLogTが0.1以上である場合を良、0.1未満である場合を不良と評価した。
【0090】
<耐水性>
各実施例および各比較例のサンプルペーストを用いて水性塗料を調製し、この水性塗料200gをガラス容器に充填し、40℃の循環恒温水槽に静置して、発生する水素ガス量を測定した。恒温水槽浸漬2日後のガス発生量で耐水性を評価し、恒温水槽浸漬2日後のガス発生量が5ml未満である場合を良、5ml以上である場合を不良と評価した。
【0091】
(水性塗料の調製)
樹脂被覆金属顔料の量が7.5gに相当する顔料ペースト(X)gをプラスティック容器に採取し、ブチルセルソルブ(15−(X))gを添加し、均一になるようにガラス棒でよくかき混ぜた。さらに、N−メチルピロリドン8.0g、純水28.0gを順次添加し、そのたびに同様にかき混ぜ均一化した。このスラリーに、アクリル系水性エマルジョン(三井化学株式会社製E−208)140gを添加し、撹拌分散機にて10分間撹拌し、均一化して水性塗料とした。この水性塗料のpHは7.56であった。
【0092】
<塗板の作製方法>
調製した水性塗料をプラスティック塗板にスプレー塗装した。得られたスプレー塗板を約5分間常温で乾燥し、さらに該スプレー塗板を60℃で20分間焼き付けることにより塗装塗板を得た。この時、塗膜の厚みが10〜20μmになるように塗装を行なった。
【0093】
以下に各実施例および各比較例について説明する。金属顔料のペーストとしては、全て工業製品をミネラルスピリットで洗浄したものを用いた。すなわち、金属顔料のペーストをフィルター上で吸引濾過しながら、該ペースト中に含まれるものと同様のミネラルスピリットで2回洗浄した。その後、ニーダーミキサーにて混練して均一化させた後、不揮発成分量を測定し、不揮発成分量が元の製品と同じになるようにミネラルスピリットを添加し、再度混練して、不揮発成分を調整、確認した。
【0094】
<実施例1>
金属顔料としてアルミニウム顔料を含むアルミニウムペースト(東洋アルミニウム株式会社製7640NS 不揮発分65.1質量%、平均粒径16μm、比表面積5.5m2/g)420gをメチルエチルケトン(以下MEKと記載)640gに分散させて濾過した。得られた濾過ペーストに、さらにMEK400gを加え、ペーストに含まれる溶媒を全てMEKに置換した。得られたペースト440.7gをニーダーミキサーに充填し、10分間混練して均一化させ、ペースト10gを抜出して不揮発成分の量を測定したところ、不揮発成分は60.0質量%であった。ニーダーミキサーには258.4gのアルミニウム顔料が充填されていることになる。
【0095】
2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート(共栄社化学株式会社製、商品名:ライトエステルP−1M)5.17gをMEK46.5gに溶解させ、上記のペーストを混練している中にゆっくり添加し、添加後さらに5分間混練を継続し、吸着工程を完了した。不揮発成分量を測定した結果、この2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェートが吸着したリン酸エステル吸着金属顔料のペーストに含まれる不揮発成分は53.6質量%であった。すなわち、アルミニウム顔料に対するリン酸エステルの添加量は2.0質量%であり、アルミニウム顔料の単位表面積当たりに換算すると、3.7mg/m2となる。
【0096】
1リットルのセパラブルフラスコに上記のリン酸エステル吸着金属顔料のペースト139.9gおよびミネラルスピリット370.0gを加え、窒素ガスを導入しながら撹拌し、系の温度を80℃まで昇温させた。次に、トリメチロールプロパントリメタクリレート(共栄社化学株式会社製ライトエステルTMP)7.5gを添加し、スラリー調製工程を完了した。ここに、アゾビスイソブチロニトリル(試薬)0.75gをMEK8.5gに溶解させた溶液を添加し、80℃にて5時間重合し、樹脂被覆を行なった(被覆工程)。重合終了後、常温まで冷却、濾過し、ミネラルスピリットにて十分に洗浄し、均一に混練して、樹脂被覆金属顔料として樹脂被覆アルミニウム顔料を含むペーストを得た。このペーストの不揮発成分量は48.3質量%で、アルミニウム分100gに対する被覆樹脂量は11.3gであった。このペーストを粉末化させた樹脂被覆アルミニウム顔料は、リンの定量分析の結果、0.29質量%のリンを含有していた。比表面積測定から樹脂被覆アルミニウム顔料の比表面積は8.2m2/gであり、単位表面積当たりに換算すると、0.36mg/m2のリンを含有していることとなる。
【0097】
<実施例2>
金属顔料としてアルミニウム顔料を含むアルミニウムペースト(東洋アルミニウム株式会社製1440YL、不揮発分71.0質量%、平均粒径31μm、比表面積1.7m2/g)420gをMEK640gに分散させて濾過し、その濾過ペーストに、さらにMEK400gを加え、ペーストに含まれる溶媒を全てMEKに置換した。得られたペースト455.8gをニーダーミキサーに充填し、10分間混練して均一化させ、不揮発成分を測定したところ、不揮発成分は64.6質量%であった。ニーダーミキサーには288.0gのアルミニウム顔料が充填されていることになる。
【0098】
実施例1と同じ2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート1.78gをMEK16.0gに溶解させ、上記のペーストを混練している中にゆっくり添加し、添加後さらに5分間混練を継続し、吸着工程を完了した。不揮発成分を測定した結果、この2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェートを吸着させたリン酸エステル吸着金属顔料のペーストにおける不揮発成分は61.5質量%であった。アルミニウムに対するリン酸エステルの添加量は0.6質量%であり、アルミニウム顔料の単位表面積当たりに換算すると3.6mg/m2となる。
【0099】
1リットルのセパラブルフラスコに上記のリン酸エステル吸着金属顔料のペースト121.9gおよびミネラルスピリット370.1gを加え、窒素ガスを導入しながら撹拌し、系の温度を80℃まで昇温させた。次に、トリメチロールプロパントリメタクリレート2.3gを添加し、スラリー調製工程を完了した。ここに、アゾビスイソブチロニトリル(試薬)0.75gをMEK19.1gに溶解させた溶液を添加し、80℃にて5時間重合し、樹脂被覆を行なった(被覆工程)。重合終了後、常温まで冷却、濾過し、ミネラルスピリットにて十分に洗浄し、均一に混練して、樹脂被覆金属顔料としての樹脂被覆アルミニウム顔料を含むペーストを得た。このペーストの不揮発成分は77.3質量%で、アルミニウム分100gに対する被覆樹脂量は3.8gであった。このペーストを粉末化させた樹脂被覆アルミニウム顔料は、リンの定量分析の結果、0.10質量%のリンを含有していた。比表面積測定から樹脂被覆アルミニウム顔料の比表面積は2.0m2/gであり、単位表面積当たりに換算すると、0.49mg/m2のリンを含有している。
【0100】
<実施例3>
金属顔料としてアルミニウム顔料を含むアルミニウムペースト(東洋アルミニウム株式会社製5680NS、不揮発分70.8質量%、平均粒径8.7μm、比表面積10.4m2/g)420gをMEK640gに分散させて濾過し、その濾過ペーストに、さらにMEK400gを加え、ペーストに含まれる溶媒を全てMEKに置換した。得られたペースト449.5gをニーダーミキサーに充填し、10分間混練して均一化させ、不揮発成分を測定したところ、不揮発成分は64.1質量%であった。ニーダーミキサーには281.7gのアルミニウム顔料が充填されていることになる。
【0101】
実施例1と同じ2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート10.7gをMEK60.3gに溶解させ、ペーストを混練している中にゆっくり添加し、添加後さらに5分間混練を継続し、吸着工程を完了した。不揮発成分を測定した結果、2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェートを吸着させたリン酸エステル吸着金属顔料のペーストにおける不揮発成分は57.0質量%であった。アルミニウムに対するリン酸エステルの添加量は3.8質量%であり、単位表面積当たりに換算すると3.6mg/m2になる。
【0102】
1リットルのセパラブルフラスコに上記のリン酸エステル吸着金属顔料のペースト131.5gおよびミネラルスピリット370.0gを加え、窒素ガスを導入しながら撹拌し、系の温度を80℃まで昇温させた。次に、トリメチロールプロパントリメタクリレート14.2gを添加し、スラリー調製工程を完了した。ここに、アゾビスイソブチロニトリル(試薬)0.75gをMEK13.8gに溶解させた溶液を添加し、80℃にて5時間重合し樹脂被覆を行なった(被覆工程)。重合終了後、常温まで冷却、濾過し、ミネラルスピリットにて十分に洗浄し、均一に混練して、樹脂被覆金属顔料として樹脂被覆アルミニウム顔料を含むペーストを得た。このペーストの不揮発成分は45.7質量%で、アルミニウム分100gに対する被覆樹脂量は25.2gであった。このペーストを粉末化させた樹脂被覆アルミニウム顔料は、リンの定量分析の結果0.48質量%のリンを含有していた。比表面積測定から樹脂被覆アルミニウム顔料の比表面積は15.0m2/gであり、単位表面積当たりに換算すると0.32mg/m2のリンを含有している。
【0103】
<実施例4>
実施例1と同じアルミニウムペースト420gをMEK640gに分散させて濾過し、その濾過ペーストに、さらにMEK400gを加え、ペーストに含まれる溶媒をすべてMEKに置換した。得られたペースト454.0gをニーダーミキサーに充填し、10分間混練して均一化させ、不揮発成分を測定したところ、不揮発成分は59.5質量%であった。ニーダーミキサーには264.2gのアルミニウム顔料が充填されていることになる。
【0104】
実施例1と同じ2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート1.3gをMEK11.9gに溶解させ、ペーストを混練している中にゆっくり添加し、添加後さらに5分間混練を継続し、吸着工程を完了した。不揮発成分を測定した結果、この2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェートを吸着させたリン酸エステル吸着金属顔料のペーストの不揮発成分は56.7質量%であった。アルミニウムに対するリン酸エステルの添加量は0.5質量%であり、単位表面積当たりに換算すると0.9mg/m2になる。
【0105】
1リットルのセパラブルフラスコに上記のリン酸エステル吸着金属顔料のペースト132.2gおよびミネラルスピリット370.2gを加え、窒素ガスを導入しながら撹拌し、系の温度を80℃まで昇温させた。次にトリメチロールプロパントリメタクリレート7.5gを添加し、スラリー調製工程を完了した。ここにアゾビスイソブチロニトリル(試薬)0.75gをMEK8.7gに溶解させた溶液を添加し、80℃にて5時間重合し、樹脂被覆を行なった(被覆工程)。重合完了後、常温まで冷却、濾過し、ミネラルスピリットにて十分に洗浄し、均一に混練して、樹脂被覆金属顔料として樹脂被覆アルミニウム顔料を含むペーストを得た。このペーストの不揮発成分は55.7質量%で、アルミニウム分100gに対する被覆樹脂量は11.0gであった。このペーストを粉末化させた樹脂被覆アルミニウム顔料は、リンの定量分析の結果0.06質量%のリンを含有していた。比表面積測定から樹脂被覆アルミニウム顔料の比表面積は7.0m2/gであり、単位表面積当たりに換算すると0.09mg/m2のリンを含有している。
【0106】
<実施例5>
実施例1と同じアルミニウムペースト400gをシクロヘキサノン640gに分散させ濾過し、その濾過ペーストに、さらにシクロヘキサノン400gを加え、ペーストに含まれる溶媒をすべてシクロヘキサノンに置換した。得られたペースト410.0gをニーダーミキサーに充填し、10分間混練して均一化させ、不揮発成分を測定したところ、不揮発成分は54.2質量%であった。ニーダーミキサーには216.8gのアルミニウム顔料が充填されていることになる。
【0107】
実施例1と同じ2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート4.3gをシクロヘキサノン10.9gに溶解させ、ペーストを混練している中にゆっくり添加し、添加後さらに5分間混練を継続し、吸着工程を完了した。アルミニウムに対するリン酸エステルの添加量は2.0gであり、単位表面積当たりに換算すると3.6mg/m2になる。
【0108】
2リットルのステンレスビーカーにミネラルスピリット500gを入れ、プロペラ式撹拌機で激しく撹拌した中に、上記で調製したペーストを投入し、分散させた。得られたスラリーを濾過し、さらにミネラルスピリット200gを添加し、ペーストに含まれる溶媒を再度ミネラルスピリットに置換した。不揮発成分を測定した結果、この2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェートを吸着させたリン酸エステル吸着金属顔料のペーストの不揮発成分は60.5質量%であった。
【0109】
1リットルのセパラブルフラスコに上記のリン酸エステル吸着金属顔料のペースト123.9gおよびミネラルスピリット388.0gを加え、窒素ガスを導入しながら撹拌し、系の温度を80℃まで昇温させた。次いで、ミネラルスピリットで50質量%に希釈したエポキシ化ポリブタジエン(旭電化工業株式会社製 商品名:アデカサイザーBF−1000)6.1g、トリメチロールプロパントリアクリレート(ダイセル・ユー・シー・ビー株式会社製 商品名:TMPTA−N)3.5g、ジビニルベンゼン(三共化成工業株式会社製 商品名:DVB−570)1.0gおよびアゾビスイソブチロニトリル(試薬)0.75gを添加し、80℃で6時間重合し樹脂被覆を行なった(被覆工程)。
【0110】
重合終了後、常温まで冷却、濾過し、ミネラルスピリットにて十分に洗浄し、均一に混練して、樹脂被覆金属顔料として樹脂被覆アルミニウム顔料を含むペーストを得た。このペーストの不揮発成分は52.4質量%で、アルミニウム分100gに対する被覆樹脂量は10.2gであった。このペーストを粉末化させた樹脂被覆アルミニウム顔料は、リンの定量分析の結果0.17質量%のリンを含有していた。比表面積測定から樹脂被覆アルミニウム顔料の比表面積は7.0m2/gであり、単位表面積当たり0.24mg/m2のリンを含有している。
【0111】
<実施例6>
1リットルのセパラブルフラスコに実施例1と同じアルミニウムペースト115.2gおよびミネラルスピリット356.0gを加え、窒素ガスを導入しながら撹拌し、アルミニウム顔料を均一に分散させた。実施例1と同じ2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート1.5gをMEK36.5gに溶解させた溶液を、滴下ロートを用い、撹拌されているスラリーに20分かけてゆっくりと滴下した。この時点でスラリー中に2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェートが微分散していることを確認した。さらにこのスラリーについて40分間撹拌を継続し、アルミニウム顔料にリン酸エステルを吸着させた。系の温度を80℃まで昇温させ、トリメチロールプロパントリメタクリレート7.5gを添加し、次にアゾビスイソブチロニトリル(試薬)0.75gをMEK7.6gに溶解させた溶液を添加し、80℃にて5時間重合し樹脂被覆を行なった。
【0112】
重合終了後、常温まで冷却、濾過し、ミネラルスピリットにて十分に洗浄し、均一に混練して、樹脂被覆金属顔料として樹脂被覆アルミニウム顔料を含むペーストを得た。このペーストの不揮発成分は58.4質量%で、アルミニウム分100gに対する被覆樹脂量は11.7gであった。このペーストを粉末化させた樹脂被覆アルミニウム顔料は、リンの定量分析の結果0.27質量%のリンを含有していた。比表面積測定から樹脂被覆アルミニウム顔料の比表面積は7.6m2/gであり、単位表面積当たりに換算すると0.35mg/m2のリンを含有している。
【0113】
<比較例1>
本比較例は、特公平01−049746号公報の実施例1に準じた方法で行なったものである。本比較例においては、金属顔料に対するリン酸エステルの吸着を行なわず、樹脂被覆のみを行なった。1リットルのセパラブルフラスコに実施例1と同じアルミニウムペースト115.2gおよびミネラルスピリット440.0gを加え、窒素ガスを導入しながら撹拌し、系の温度を80℃まで昇温させた。次いで、アクリル酸(大阪有機化学工業株式会社製)0.38gを添加し80℃で30分間撹拌を継続した。アルミニウムに対するアクリル酸の添加量は0.5質量%であり、単位表面積当たりに換算すると0.9mg/m2になる。次に、トリメチロールプロパントリメタクリレート7.5gとアゾビスイソブチロニトリル(試薬)0.75gとを添加し、80℃にて5時間重合した。
【0114】
重合終了後、常温まで冷却、濾過し、ミネラルスピリットにて十分に洗浄し、均一に混練して、樹脂被覆アルミニウム顔料を含むペーストを得た。このペーストの不揮発成分は52.6質量%で、アルミニウム分100gに対する被覆樹脂量は11.5gであった。
【0115】
<比較例2>
本比較例は、国際公開第WO02/031061号パンフレットの実施例3に準じた方法で行なったものである。本比較例においては、金属顔料に対する樹脂被覆を行なわず、リン酸エステルの吸着のみを行なった。実施例1と同じアルミニウムペースト1000gをニーダーミキサーに充填し、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン20gを添加し、5分間混練した。過酸化水素30質量%を含む過酸化水素水100gに、金属モリブデン粉末8gを少しずつ加えて反応させ、得られた溶液をイソプロピルアルコール175gに溶解させ、この溶液を先のペーストに添加し、さらに60℃で1時間混練した。オレイルアッシドフォスフェート10gをジプロピレングリコールモノメチルエーテル100gに溶解させた溶液を添加し、さらに室温で30分間混練した。このペーストの不揮発成分を測定した結果、不揮発分は63.2質量%であった。
【0116】
<比較例3>
本比較例は、特公平01−049746号公報の実施例10に準じた方法で行なったものである。1リットルのセパラブルフラスコに実施例1と同じアルミニウムペースト115.2gおよびミネラルスピリット399.8gを加え、窒素ガスを導入しながら撹拌し、系の温度を80℃まで昇温させた。次いで、実施例1と同じ2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート0.39gを添加し、80℃で30分間撹拌を継続した。アルミニウムに対するリン酸エステルの添加量は0.5質量%であり、単位表面積当たりに換算すると0.9mg/m2になる。次にトリメチロールプロパントリメタクリレート(共栄社化学株式会社製ライトエステルTMP)7.5gと、アゾビスイソブチロニトリル(試薬)0.75gを添加し、80℃にて5時間重合した。
【0117】
重合終了後、常温まで冷却、濾過し、スラリーを観察すると、約1mm前後の粒子塊が混在していたので、このスラリーを目開き150μmのスクリーンを用い湿式でふるい、粒子塊を分離した。粒子塊はその後へキサンで洗浄し、一晩風乾した。得られた粒子塊は0.48gであった。スクリーンを通過したスラリーを濾過し、ミネラルスピリットにて十分に洗浄し、均一に混練して、樹脂被覆アルミニウム顔料を含むペーストを得た。このペーストの不揮発成分は50.0質量%で、アルミニウム分100gに対する被覆樹脂量は11.3gであった。このペーストを粉末化させた樹脂被覆アルミニウム顔料および粒子塊のリン量を定量分析した結果、樹脂被覆アルミニウム顔料からリンは検出されず、粒子塊からは12.82質量%のリンを検出した。
【0118】
なお、比較例3の実験に先立ち、予備試験として、1リットルのセパラブルフラスコにてミネラルスピリット440gに2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート0.36gを添加し、窒素ガスを導入しながら、80℃にて30分間撹拌した。この系において2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェートは全くミネラルスピリットに溶解せず、相分離していた。
【0119】
【表1】

【0120】
【表2】

【0121】
注1:7640NSは、東洋アルミニウム株式会社製(不揮発分65.1質量%、平均粒径16μm、比表面積5.5m2/g)である。
注2:1440YLは、東洋アルミニウム株式会社製(不揮発分71.0質量%、平均粒径31μm、比表面積1.7m2/g)である。
注3:5680NSは、東洋アルミニウム株式会社製(不揮発分70.8質量%、平均粒径8.7μm、比表面積10.4m2/g)である。
注4:MPは、共栄社化学株式会社製の2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート(商品名:ライトエステルP−1M)である。
注5:AAは、大阪有機化学工業株式会社製のアクリル酸である。
【0122】
表1および表2に示す結果より、比較例1においては、金属顔料にアクリル酸を吸着させた後、樹脂被覆層を形成しており、耐アルカリ性、耐水性ともに十分な性能を有していない。比較例2においては、耐水性付与を目的とした表面処理を行なっているが、リン酸エステルの吸着、および樹脂被覆層の形成がともに行なわれておらず、耐アルカリ性において十分な性能を有していない。比較例3においては、金属顔料にリン酸エステルを接触させた後、樹脂被覆層を形成するための被覆処理を行なっているが、リン酸エステルの貧溶媒であるミネラルスピリット中に直接該リン酸エステルを添加しているため、リン酸エステルが溶解状態または微分散状態で金属顔料に接触されておらず、耐アルカリ性、耐水性ともに十分な性能を有していない。
【0123】
一方、実施例1〜6の樹脂被覆金属顔料を用いた場合においては、水性塗料の耐水性および塗膜の耐薬品性が良好な水準で両立できていることが分かる。
【0124】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明によれば、保存安定性、特に耐水性が向上された水性塗料、および耐薬品性が向上された塗膜を得るための樹脂被覆金属顔料の提供が可能となる。本発明の樹脂被覆金属顔料を水性塗料を用いることにより、特に1コートのみの塗膜とされた場合にも良好な耐薬品性を有する塗膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】水素ガス発生量の測定に用いた装置の概要を示す図である。
【図2】図1に示す装置で測定されたLog(経過時間)(秒)とガス発生量との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0127】
11 反応槽、12 スクリューキャップ、13 2方コック、14 スターラー付きドライバス、15,18 テフロン(登録商標)チューブ、17 水槽、19 メスシリンダー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性二重結合を有するリン酸モノおよび/またはジエステルを含むリン酸エステル成分(A)の溶液、または、前記リン酸エステル成分(A)が溶媒中に分散してなる分散液を、金属顔料と接触させることにより、前記金属顔料の表面にリン酸エステルが吸着してなるリン酸エステル吸着金属顔料を調製する吸着工程と、
重合用溶媒に前記リン酸エステル吸着金属顔料が分散し、かつ前記重合用溶媒に少なくとも1個の重合性二重結合を有するモノマーおよび/またはオリゴマーからなる重合成分(B)が溶解してなる重合用スラリーを調製するスラリー調製工程と、
前記重合成分(B)を重合させることにより、前記リン酸エステル吸着金属顔料の表面に樹脂被覆層を形成する被覆工程と、
を含む樹脂被覆金属顔料の製造方法であって、
前記分散液は、第1の溶媒に前記リン酸エステル成分(A)を溶解させて得た溶液を第2の溶媒と混合することにより得られ、
前記重合用溶媒は、溶媒100gに対する前記リン酸エステル成分(A)の溶解度が25℃で10g以下の溶媒である、樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【請求項2】
前記スラリー調製工程は、
前記リン酸エステル吸着金属顔料が前記重合用溶媒に分散した顔料スラリーを調製する工程と、
前記重合成分(B)を前記顔料スラリーと混合する工程と、
を含む、請求項1に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【請求項3】
前記吸着工程の後に、前記リン酸エステル吸着金属顔料に吸着したリン酸エステルを重合させる工程をさらに含む、請求項1に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【請求項4】
前記リン酸エステル成分(A)の溶液における溶媒として極性溶媒が使用される、請求項1に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【請求項5】
前記第2の溶媒および前記重合用溶媒として同一種の溶媒が使用される、請求項1に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【請求項6】
前記リン酸エステル成分(A)が、2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェートである、請求項1に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂被覆金属顔料の単位表面積当たりのリン含有量が0.05〜1.3mg/m2の範囲内とされる、請求項1に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【請求項8】
前記重合成分(B)が、少なくとも2個の重合性二重結合を有するモノマーからなる、請求項1に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【請求項9】
金属顔料と、リン酸エステル層と、前記リン酸エステル層を介して前記金属顔料を被覆する樹脂被覆層と、を有する樹脂被覆金属顔料であって、
前記リン酸エステル層は、ラジカル重合性二重結合を有するリン酸モノおよび/もしくはジエステルを含むリン酸エステル、または、リン酸モノおよび/もしくはジエステルの単独重合体または共重合体であり、
前記樹脂被覆層は、少なくとも1個の重合性二重結合を有するモノマーおよび/またはオリゴマーの重合により得られる単独重合体または共重合体であり、かつ、
前記樹脂被覆金属顔料の単位表面積当たりのリン含有量が0.05〜1.3mg/m2の範囲内である、樹脂被覆金属顔料。
【請求項10】
前記リン酸エステル層が、2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェートから得られる単独重合体または共重合体からなる、請求項9に記載の樹脂被覆金属顔料。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法により得られる樹脂被覆金属顔料、または、請求項9もしくは10に記載の樹脂被覆金属顔料と、バインダーと、を含有する水性塗料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−119671(P2007−119671A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316087(P2005−316087)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】